説明

含酸素化合物の製造方法

【課題】装置を腐食させるおそれのある塩酸を使用することなくアダマンタン骨格を有す化合物を効率的に酸化する。また、水素化副反応を抑制して芳香族化合物を効率的に酸化する。
【解決手段】白金/チタニア触媒等の、新周期律表の4族〜10族から選択された元素を含む触媒であって還元処理された触媒と水素の共存下、炭化水素化合物を分子状酸素を含む酸化剤を用いて酸化して含酸素化合物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素または空気による直接部分酸化が困難であった特定の炭化水素化合物を簡便に酸化して含酸素化合物を得る方法を提供する。前記炭化水素化合物を部分酸化して得られる含酸素化合物であるアルコール類、ケトン類、フェノール類は種々の化成品中間原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
アダマンタンはダイヤモンド構造単位と同じ構造を持つ、対称性の高いカゴ型化合物として知られている。化学物質としては、(1)分子の歪みエネルギーが少なく、熱安定性に優れ、(2)炭素密度が大きいため脂溶性が大きく、(3)昇華性があるにもかかわらず、臭いが少ないなどの特徴を有しており、1980年代から医薬品分野においてパーキンソン氏病治療薬、インフルエンザ治療薬原料として注目されていた。近年アダマンタン誘導体は、その耐熱性や透明性などの特性が、半導体製造用フォトレジスト、磁気記録媒体、光ファイバー、光学レンズ、光ディスク基板原料などの光学材料や、耐熱性プラスティック、塗料、接着剤などの機能性材料、化粧品などの分野で注目され、用途が増大しつつある。また、医薬分野においても抗癌剤、脳機能改善、神経性疾患、抗ウイルス剤原料としての需要が増大してきている。
【0003】
また、芳香環にヒドロキシル基を有するフェノール類のうち、最も代表的な化合物であるフェノールは、全世界で90%以上がクメン法により製造されている。クメン法フェノール製造プロセスは、クメンの合成、クメンの液相自動酸化、クメンヒドロペルオキシドの分解の三工程からなり、三工程の何れも選択率90%以上で進行し、ハロゲンなどの副原料を多量に必要としない利点がある(例えば特許文献1〜4参照)。その一方で、フェノールと等モルのアセトンを副生し、多段プロセスによる多量のエネルギー消費及び膨大な設備費を要する欠点がある。このクメン法に代わるものとしては、ベンゼンからクロルベンゼンを経るラシッヒ法、トルエンから安息香酸を経るトルエン酸化法などのプロセスがあり工業化されているが、これらの方法にも装置の腐食、多段工程による設備費の増加、固体やスラリーを扱うための煩雑さ等の問題がある。この様に、フェノール類製造の既存プロセスには多くの問題点があるため、対応する芳香族化合物を直接酸化して、目的とするフェノール類を一段で得ようとする試みがなされてきた。
【0004】
炭化水素化合物を酸化してアルコール類やケトン類及びフェノール類に変換する技術は、炭素資源の有効活用の観点から工業的にも非常に重要である。この酸化反応に用いられる酸化剤としては、空気、酸素、過酸化水素、次亜塩素酸塩、オゾンなどが挙げられるが、コスト面から空気が最も好ましい。しかし、アダマンタン等の飽和炭化水素(アルカン)やベンゼン等の芳香環は、オレフィンなどに比べ反応性が低いために空気または酸素による部分酸化は容易ではない。
【0005】
まず、アルカン酸化の場合、n-ブタン酸化による無水マレイン酸製造のように工業化に成功した反応はごく一部である。例えばプロパンの場合は、高温で脱水素を行い反応性の高いプロピレンを製造してからアクリル酸に酸化し、シクロヘキサンの場合は硝酸を酸化剤とすることでシクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを製造する。アダマンタンの場合は、硫酸酸化による2-アダマンタノンの製造と臭素化・加水分解によるアダマンタノール、1,3-アダマンタンジオールの製造が行われている。一般にアルカンのC-H結合は400〜500℃で活性化できるため、先の例のうちプロパンについては高温条件下におけるアクリル酸への直接酸化も盛んに検討されているが、シクロヘキサンについては発火点が245℃と極めて低いために安全性に問題があり、アダマンタンは分解し易いため高温での反応は容易でない。また、アルカンの脱水素によりオレフィンを簡便に製造できれば反応性の高いオレフィン酸化のプロセスを構築できる可能性があり、プロパンについては現実に実施されている。しかし、シクロヘキサンについてはベンゼンへの脱水素が進行しやすく、またアダマンタンは分解しやすいために、これらの原料からオレフィンを経由して反応を行うことは困難である。そこで、シクロヘキサンやアダマンタン等の脂環式アルカンを原料とする工業プロセスでは、やむなく反応性の高い硝酸や硫酸や臭素が用いられることが多いが、このような現状を鑑みるに、分子状酸素を酸化剤とするプロセスが構築できればその影響は大きい。
【0006】
1-アダマンタノールを選択的に製造する技術としては、ブロモアダマンタンを加水分解する方法、次亜塩素酸を酸化剤として塩化ルテニウム触媒により酸化する方法(例えば特許文献5参照)、オゾン酸化法(例えば特許文献6及び7参照)、N-ヒドロキシフタルイミド(NHPI)を主触媒として酸素または空気を酸化剤とする方法(例えば特許文献8〜10参照)などが公知である。また、1,3-アダマンタンジオールは、ジブロモアダマンタンを加水分解する方法(例えば特許文献11参照)または1-アダマンタノールの逐次酸化によって得ることができ、上記の特許文献において主生成物の一つとして明記されている。2-アダマンタノンについては硫酸酸化法(例えば特許文献12参照)が公知であり、2-アダマンタノールは2-アダマンタノンを還元して得る方法が知られている。ただし、臭素化・加水分解法では反応剤として臭素を用いるために原料費が高く、また装置の腐食防止と反応物の漏洩防止のために建設費も高額である。塩化ルテニウム法では触媒が高価であるために回収・再生が不可欠であり、かつアダマンタンの塩素化合物が副生する問題がある。オゾン酸化法では猛毒のオゾンを使用するため安全性に問題がある。また、NHPI法では反応により触媒であるNHPI自体が分解する点が問題であり、更にNHPI及びその分解生成物を反応液から分離する必要がある。硫酸酸化法については、硫酸を反応溶媒として用いるので、反応中はSO2が発生し、反応後はその全量を中和するため処理コストの負担が大きく環境負荷も高い。この他、t-ブチルハイドロパーオキサイドを酸化剤として種々の金属錯体を触媒とする方法(例えば非特許文献1参照)や、過酸化水素を酸化剤として鉄化合物などを触媒とする方法(例えば非特許文献2参照)も提案されているが、酸化剤が高価で、反応の制御が困難であり、工業化は難しいと思われる。
【0007】
近年ではPt/TiO2をZSM-5等の固体酸に担持した触媒系又はPt/TiO2/SiO2及び塩酸から成る触媒系を用いてアダマンタンを水素共存下で酸素酸化することにより2-アダマンタノン等を得る技術が公開された(例えば特許文献13参照)。これは、硫酸酸化法以外で2-アダマンタノンを製造できる技術であり、反応条件も穏和で酸化剤として分子状酸素が使用可能な方法である。しかし、活性発現のために塩酸又は固体酸を使用していたため、塩酸の場合は装置の腐食が、固体酸の場合は触媒費の増加が問題であった。従って、このPt/TiO2を活性点とする触媒系による水素共存下での酸素酸化反応において、酸の添加なしで高活性な触媒を開発できれば工業的に非常に有益であると考えられる。
【0008】
次に、ベンゼンを一段で酸化してフェノールを製造する上での問題点は、ベンゼンの反応し難さと、フェノールの反応しやすさである。ベンゼンは共鳴安定化効果により炭化水素の中で最も安定で化学的反応性に乏しいものの一つであり、反応させるためには高温などの過酷な条件を必要とする。一方、生成したフェノールは水酸基の電子供与性効果によりベンゼン環の電子密度が増加することで酸化され易くなり、容易にレゾルシノール、カテコール、ヒドロキノン等への逐次酸化や、酸化重合によるタール生成が進行する。このためフェノールの一段合成を達成するためには、ベンゼンに対して高い反応性を有する一方で、フェノールに対して低い反応性を有する活性酸素種、例えば求核的な性質を持つ酸素アニオン種が必要となる。しかし、このような活性酸素種を、最も安定な酸素分子から選択的に発生させることは、極めて困難と言える。このような活性酸素種を発生させやすい酸化剤として、第一に過安息香酸やヨードソベンゼン等の特殊な酸化剤が挙げられるが、これらは非常に高価であり大規模化学プロセス用原料としては適さない。これより安価な亜酸化窒素や過酸化水素を酸化剤に用いる方法についても検討されてきたが、最も安価な空気を酸化剤とするプロセスの開発が強く求められている。
【0009】
生体内では常温常圧で酵素(モノオキシゲナーゼ)により空気中の酸素を活性化し、炭化水素を酸化する反応が進行する。これは酸素分子の1つの酸素原子を水に還元して安定化し、その安定化エネルギーを利用してもう一方の酸素原子から活性酸素種を生成する反応である。この酸素分子の還元的活性化過程を通常の触媒系で応用するために、水素、CO、アルデヒド等の還元剤を共存させた酸化が検討されてきた。工業的には最も安価な水素を用いて機能する触媒系が好ましく、このような系によるベンゼン酸化としては特許文献14及び15の方法が挙げられる。
特許文献14はPt/ZrO2及びV化合物を触媒とし、活性発現のため水素とジケトンの添加が必要である。通常の空気酸化法に比べて高い選択率でフェノールが得られる利点を有するが、高転化率では逐次酸化が進行する傾向がある。また、工業的に容易に反応物と触媒を分離するためには、固体触媒を使用でき触媒活性成分の溶出がないことが極めて望ましいが、バナジウム化合物が極めて溶出し易い点も問題である。更に、工業的にはジケトン等の比較的高価な添加物を使用せずに操業できることが望ましい。
これに対し特許文献15は、Pt/TiO2をZSM-5等の固体酸に担持した触媒系を用いベンゼンを水素共存下で酸素酸化する技術を開示するが、この方法では、添加物は不要で触媒活性成分(Ti、Pt)の溶出もないが、長時間の反応を行うと副反応としてベンゼンの水素化が進行する点が問題であった。従って、このPt/TiO2を活性点とする触媒系による水素共存下での酸素酸化反応において、ベンゼンの水素化を抑制してフェノールを製造できれば、工業的に非常に有益であると考えられる。
【0010】
【特許文献1】特開2000-290207号公報
【特許文献2】特開2002-371020号公報
【特許文献3】特開2004-137159号公報
【特許文献4】特開2005-002075号公報
【特許文献5】特開2004-51497号公報
【特許文献6】特開2004-189610号公報
【特許文献7】特開2004-26778号公報
【特許文献8】特開平9-327626号公報
【特許文献9】特開平10-309469号公報
【特許文献10】特開平10-316601号公報
【特許文献11】特開2000-327604号公報
【特許文献12】特開平11-189564号公報
【特許文献13】特開2004-104880号公報
【特許文献14】特開平7-179383号公報
【特許文献15】特開2008-13476号公報
【非特許文献1】J.Chem.Soc.Dalton Trans.,21,1995,3537-3542
【非特許文献2】Chem.Pharm.Bull.,31,4,1983,1166-1171
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、アダマンタン骨格を有する化合物を水素共存下で酸素酸化して含酸素化合物を製造する方法であって、装置を腐食させる塩酸等の添加が不要な高活性触媒を使用した方法を提供することを目的とする。また本発明は、ベンゼン等の芳香族化合物を水素共存下で酸化してフェノール等の含酸素化合物を製造する方法であって、副反応である原料化合物の水素化反応を抑制可能な触媒を使用した方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、前記課題を解決すべく検討し、以下の本発明(1)〜(6)を完成した。
(1)化学式(1)のアダマンタン骨格を有する化合物または化学式(2)若しくは(3)の芳香族化合物を、周期律表の4族〜10族から選択された一種以上の元素を含みかつ還元処理された触媒と水素の共存下、分子状酸素を含む酸化剤を用いて酸化することを特徴とする含酸素化合物の製造方法。
【0013】
【化1】

〔但し、nは整数で、化学式(1)においては0〜9、化学式(2)においては0〜5、化学式(3)においては0〜9である。また、Xはメチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ニトロ基、スルホン基、及びハロゲンから選ばれる置換基であり、n≧2の場合、各置換基は同種でも異種でも良い。〕
【0014】
(2)触媒として、周期律表の4族〜7族のチタン、コバルト、バナジウム、クロム及びマンガンの中から選ばれた金属の酸化物を担体とし、その上に周期律表の8族〜10族のパラジウム、白金、ロジウム及びニッケルの中から選ばれた一種以上の金属が担持された触媒を用いる前記(1)記載の方法。
(3)触媒としてチタンの酸化物を担体としその上に白金が担持された触媒を用いる前記(1)または(2)に記載の方法。
(4)化学式(1)の化合物がアダマンタンであり、化学式(2)の芳香族化合物がベンゼンであり、含酸素化合物がアルコール類、ケトン類またはフェノール類である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)アルコール類が1-アダマンタノール、2-アダマンタノールであり、ケトン類が2-アダマンタノンであり、フェノール類がフェノール、ナフトールである前記(4)に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、装置を腐食させるおそれのある酸を使用することなく、アダマンタン骨格を有する化合物の酸化反応を効率的に行うことができる。また本発明によれば、ベンゼン等の芳香族化合物を酸化してフェノール等の含酸素化合物を製造する際に、副反応である水素化反応を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明で使用される触媒について説明する。
周期律表の4族〜10族の元素としては、チタン、コバルト、バナジウム、クロム、マンガン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム及び白金を挙げることができる。触媒中においてこれらの元素は酸化物や単体の形で存在する。
好ましい触媒としては、周期律表の4〜7族の金属元素の酸化物を担体とし、その上に周期律表の8〜10族の貴金属を担持した触媒が挙げられる。
【0017】
周期律表の4〜7族の金属酸化物としては、チタン、コバルト、バナジウム、クロム及びマンガンの酸化物およびこれらの複合酸化物または混合酸化物を挙げることができる。これらのうち、特にチタン酸化物が好ましい。これらの金属酸化物は市販品として入手できる。また、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、無機錯塩、有機酸塩、アルコキサイド等の各種の無機化合物又は有機化合物から合成することもできる。例えばチタン酸化物を合成する場合の原料として、蓚酸チタニルアンモニウム、チタニルビスアセチルアセトナート、チタンテトライソプロポキサイド等を用いることができる。
【0018】
金属酸化物の担体に担持される周期律表の8〜10族の貴金属としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金およびこれらの混合物を挙げることができる。これらのうち、特にパラジウムと白金が好ましく、白金がより好ましい。これら貴金属の原料としては、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、無機錯塩、有機酸塩等の各種の無機化合物又は有機化合物を用いることができる。白金の原料としては、ジニトロジアンミン白金(II)、ジクロロジアンミン白金(II)、テトラアンミンジクロロ白金(II)等の無機錯塩、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物等の白金化合物が挙げられる。
【0019】
担体に担持される貴金属の量が多いと、反応速度が大きくなる傾向があるが原料コストの上昇を招くことになり、逆に少ないと反応速度が遅くなり、工業プロセス上経済性が失われる。この観点から、貴金属の担持量は、全触媒質量に対し、金属として通常0.01〜20質量%であり、好ましくは0.1〜10質量%である。さらに0.1〜1質量%が好ましい。尚、白金とパラジウムなどの様に二種類以上の成分を担持する場合、担持量はその合計を意味する。
本発明においては、触媒としてチタンの酸化物を担体としその上に白金が担持された触媒が特に好ましい。
【0020】
本発明の触媒は、前述の原料を用いて公知の方法、例えば、含浸法、沈殿法、混練法、沈着法等で調製することができる。これらのうち、調製の容易さ等から含浸法がより好ましい。含浸法では、貴金属を含む溶液中に担体が浸漬され、溶媒としては、水、硝酸水溶液、塩酸水溶液、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酢酸、ベンゼン、アルコール、アセトン等を用いることができる。次いで、担体から溶媒を公知の方法で除いた後、通常、酸素含有ガスあるいは不活性ガス雰囲気下において、300〜1000℃で焼成することによって触媒を製造することができる。
【0021】
本発明の方法において、この触媒は、還元処理される。還元処理は、前記焼成に続いて300〜700℃程度の温度で行うことができ、また、本発明の酸化反応の直前に行うこともできる。
還元処理は、通常の方法、例えばギ酸ナトリウム、ホルムアルデヒドやヒドラジン等の溶液中で行なう湿式還元法、または、水素や一酸化炭素等を窒素やヘリウム等の不活性ガスで希釈した還元性ガスを用いて気相で行なう乾式還元法を採用することができるが、乾式還元法がより好ましい。乾式還元法の場合、還元処理温度は300℃以上700℃以下が好ましい。
還元処理によりベンゼン等の芳香族化合物の酸化においては水素化が抑制され、アダマンタン骨格を有する化合物の酸化においては後述の溶媒による被毒吸着が防止される。
【0022】
本発明の酸化反応において使用される触媒の量は、反応形式によって異なる。固定床連続流通式で行なう場合には反応速度や熱収支により決定される為、一概に規定することは難しい。また、懸濁床の回分式、半回分式または連続流通式で反応を行なう場合には、反応溶液に対して0.001〜30質量%、好ましくは0.01〜20質量%である。この上限値は反応液の攪拌を円滑に行うこと、及び反応後の触媒の回収効率を考慮して決定される。
【0023】
以下、本発明の酸化反応において使用される原料について説明する。
酸化反応の原料としては、化学式(1)〜(3)のものが使用される。これらの化学式においてXは、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ニトロ基、スルホン基、及びハロゲンから選ばれる置換基であり、n≧2の場合、各置換基は同種でも異種でも良い。
化学式(1)においてnは0〜9の整数であるが好ましくは0〜5、更に好ましくは0〜2である。また化学式(2)においてnは0〜5の整数であるが、好ましくは0〜3、更に好ましくは0〜1である。また化学式(3)においてnは0〜9の整数であるが、好ましくは0〜4、更に好ましくは0〜1である。また、Xは化学式(1)において好ましくはメチル基、ヒドロキシル基、ハロゲンから選ばれ、化学式(2)及び(3)において好ましくはトリフルオロメチル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、スルホン基、及びハロゲンから選ばれる置換基である。
化学式(1)のアダマンタン骨格を有する化合物の具体例として、アダマンタン、ジメチルアダマンタン、トリフルオロメチルアダマンタン、エチルアダマンタン、アダマンタノール、ニトロアダマンタン、アダマンタンカルボン酸、アダマンタンスルホン酸、フルオロメチルアダマンタン、クロロアダマンタンなどを挙げることができる。
化学式(2)の芳香族化合物の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ベンゼンスルホン酸、フルオロベンゼン、クロロベンゼンなどを挙げることができる。
化学式(3)の芳香族化合物の具体例としては、ナフタレン、ナフトール、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、フルオロナフタレン、クロロナフタレンなどを挙げることができる。
【0024】
以下、本発明の酸化反応について説明する。
本発明の酸化反応は液相で行なわれる。原料が液体であるジメチルアダマンタンやベンゼン等の場合はそれ自体を溶媒として用いることができ、また、他の適当な溶媒を用いることもできる。
原料がアダマンタン骨格を有する化合物の場合、溶媒としてはベンゼン、クロロベンゼン、tert-ブチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸などの有機酸が挙げられ、これらのいずれか一種あるいは二種以上を混合して使用することもできる。原料が固体であるアダマンタン等の酸化に用いる溶媒としては特に酢酸が好ましいが、更にクロロベンゼン等を併用すると原料の溶解を促進し生産性を向上させることができる。
アダマンタン骨格を有する化合物の酸化においては、必要により水などの添加剤を用いることができる。添加量は通常は反応条件において溶媒に均一に混和可能な量を上限とするが、必要により過剰量を用いることもできる。添加剤は触媒反応の制御又は反応後の分離・精製を円滑に行うために添加するものであり、酸化・還元に安定であることが望ましい。
【0025】
原料が芳香族化合物の場合、溶媒としてはペンタン、シクロヘキサンなどの飽和炭化水素類、アセトニトリルなどのニトリル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸などの有機酸が挙げられ、これらのいずれか一種あるいは二種以上を混合して使用することもできる。これらの中でも酢酸が好ましい。
【0026】
本発明の酸化反応において使用される分子状酸素を含む酸化剤としては、酸素ガス、空気、これらを不活性ガスで希釈したガス等が挙げられる。また、水素は通常、水素ガスとして反応系に供給される。反応系に供給される酸素および水素ガスは、窒素、へリウム、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガスで希釈されていても構わない。また、酸素および水素ガスの供給方法としては、酸素と水素を含む混合ガスを反応系に供給し、原料である炭化水素と反応させるか、または、含酸素ガスと含水素ガスを交互に反応系に供給し、原料と反応させる方法がとられる。
上記の酸素を含むガス(または空気)の供給量は、反応方法や反応条件により変化するが、通常、触媒単位質量(g)当りの酸素供給量は0.01ml/min〜1000ml/minで行なわれる。生産性を考慮すると多い方がよく、ガスの転化率と経済性を考慮すると少ない方がよい。酸素と水素の割合には特に制限はなく任意に変えることができるが、水素/酸素(モル比)は、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.5〜5である。
【0027】
本発明の酸化反応において、反応温度及び圧力は、反応が液相で進行すれば特に制限されない。反応速度を速くする為に反応温度を高くする場合、必要により加圧下で行なうことができる。実用的な温度範囲としては常温〜100℃である。反応温度が常温より低いと、原料化合物の転化率が低くなり、一方、反応温度を100℃より高くすると、触媒活性が低下する場合がある。また、圧力は通常、常圧〜20MPaであるが、好ましくは常圧〜5MPaである。
本発明の酸化反応においては、反応方法に特に制限はなく、原料化合物、触媒、必要により溶媒及び添加剤、酸素を含むガス、水素を一度に反応装置に仕込む回分式、反応装置に酸素を含むガス及び/又は水素を連続的に吹込む半回分式、原料化合物、酸素を含むガス、水素等を連続的に供給すると共に未反応ガス及び、反応液を連続的に抜出す固定床または懸濁床の連続式のいずれでも実施できる。
【0028】
用いられる溶媒の種類によっては反応器の気相部分で分子状酸素を含むガスと溶媒蒸気が混合し、爆発組成となる可能性がある。工業的生産における安全確保のためには爆発範囲外で運転することが極めて望ましく、本反応系においては例えば以下のような手段で対処可能である。ハロゲン化炭化水素等の不燃性溶媒を用いる方法、反応温度を高めて溶媒蒸気圧を増加させることで爆発範囲の上限側で運転する方法、逆に、反応温度を下げて溶媒蒸気圧を減少させ爆発範囲の下限側で運転する方法、反応ガスを窒素等の不活性ガスで希釈し爆発範囲を外す方法等を採用できる。更には、反応器の液相中に高濃度の酸素を含むガスを供給して高効率の酸化を行うと共に、気相部分には独立して窒素等の不活性ガスを供給し気相酸素濃度を低下させる方法も採用できる。
【0029】
本発明の酸化反応によって製造される含酸素化合物としては、アルコール類、ケトン類及びフェノール類等が挙げられる。即ち、化学式(1)のアダマンタン骨格を有する化合物からは、1-アダマンタノール、2-アダマンタノール等のアルコール類や、2-アダマンタノン等のケトン類が製造される。化学式(2)の芳香族化合物からは、フェノール等のフェノール類が製造される。また、化学式(3)の芳香族化合物からは、ナフトール等のフェノール類が製造される。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
TiO2(触媒学会参照触媒JRC-TIO-4)4gを秤量し、200mlビーカーに入れた。これに塩化第一白金酸6水和物[H2PtCl4・6H2O](1.78g)を蒸留水20mlに溶かした溶液を加え、よく攪拌しながら加熱し蒸発乾固した。更に充分乾燥した後、マッフル炉を用いて空気流通下で150℃で2時間、ついで300℃で4時間焼成した。冷却後、固定床流通反応管に充填し、水素を40ml/minで流しながら150℃で0.5時間、300℃で0.5時間、450℃で0.5時間、600℃で1時間還元処理を行った。冷却後、反応管から取り出して0.8質量%Pt/TiO2触媒を得た。
この触媒50mgを攪拌機、温度計及びジムロート冷却器付きの100mlの3つ口丸底フラスコに入れ、アダマンタン0.136g(1mmol)、及び溶媒として酢酸20mlを仕込み、水素分圧96kPa、酸素分圧5kPaの混合ガスを20ml/minの流量で液中に吹込みながら、40℃で1時間反応させた。酸化条件を表1に示し、反応の結果を表2に示した。
【0031】
比較例1
SiO2(触媒学会参照触媒JRC-SIO-9)6gを秤量し、300mlのビーカーに入れた。これにチタンビスアセチルアセトナート[TiO(acac)2](0.2362g、0.902mmol)を塩化メチレン(50ml)に溶かした溶液を添加した。よく攪拌しながら加熱し蒸発乾固し、更に充分乾燥した後、マッフル炉を用いて150℃で2時間、ついで300℃で4時間焼成し、1.2質量%TiO2/SiO2の触媒を得た。次に、200mlのビーカーにイオン交換水100ml及び前述の触媒5.5967gを入れ、加熱攪拌しながら塩化第一白金酸6水和物(0.1461g、0.282mmol)を蒸留水50mlに溶かした溶液をビュレットで滴下した。よく攪拌しながら加熱し蒸発乾固し、更に充分乾燥した後、マッフル炉を用いて150℃で2時間、ついで300℃で4時間焼成し、1質量%PtOx/1.2質量%TiO2/SiO2の触媒を得た。
上記触媒0.1g及び塩酸(37%、0.345g、HCl3.5mmol)を用いた以外は実施例1と同様に酸化反応を行い、表2の結果を得た。
【0032】
比較例2
H-USY10(触媒化成(株)製)を120℃のオーブンで一晩乾燥させた後、めのう乳鉢に10gを入れ、乳棒で摺り混ぜながら、30%硫酸チタン溶液(広島和光純薬工業(株)製)5.32gを滴下し吸収させた。更に充分乾燥した後、マッフル炉を用いて150℃で2時間、ついで500℃で4時間焼成し、5質量%TiO2/HUSY10の触媒を得た。次に塩化第二白金酸6水和物[H2PtCl6・6H2O](0.225g)を蒸留水4gに溶解させた。上記触媒10gをめのう乳鉢に入れ、かき混ぜながら上記の塩化第二白金酸水溶液を滴下し吸収させた。更に充分乾燥した後、マッフル炉を用いて150℃で2時間、ついで300℃で4時間焼成し、0.8質量%PtOx/5質量%TiO2/HUSY10の触媒を得た。
上記触媒0.5gを用いた以外は実施例1と同様に操作し、表2の結果を得た。
比較例3
塩酸を添加しなかった以外は比較例1と同様に操作し、表2の結果を得た。
【0033】
実施例2
実施例1と同様に調製した触媒を用い、表1の条件でベンゼン4ml(45mmol)の酸化反応を
行った。生成液をガスクロマトグラム(キャピラリーカラム:DB-1)にて分析し、表3の結果を得た。
【0034】
比較例4
H-ZSM-5(Si/Al=45)0.950gを秤量し、200mlビーカーに入れた。これにチタニルビスアセチルアセトナート 0.1642gを塩化メチレン40mlに溶かした溶液を加え、よく攪拌しながら加熱し蒸発乾固した。充分乾燥した後、マッフル炉を用いて空気流通下で150℃で2時間、ついで600℃で4時間焼成し、5質量%TiO2/H-ZSM-5を得た。次いで、200mlのビーカーにイオン交換水150ml及び上記のTiO2/H-ZSM-5を入れ、加熱攪拌しながら塩化第一白金酸6水和物 (21.4mg)を蒸留水5mlに溶かした溶液をビュレットで滴下した。よく攪拌しながら加熱し蒸発乾固し、更に充分乾燥した後、マッフル炉を用いて150℃で2時間、次いで300℃で4時間焼成し、0.8質量%PtOx/5.0質量%TiO2/H-ZSM-5の触媒を得た。
上記の触媒50mgを用いた以外は実施例2と同様に酸化反応を行い、表3の結果を得た。
【0035】
比較例5
実施例1と同様に操作して触媒原料を焼成し、還元処理を行なわなずに0.8質量%PtOx/TiO2の触媒を得た。この触媒50mgを用いて、実施例2と同様に酸化反応を行い、表3の結果を得た。
【0036】
実施例1と還元処理をしない比較例2及び3と較べると、実施例1の転化率は非常に高い値を示した。また、塩酸を使用し、装置の腐食問題を有する比較例1に対して、実施例1の転化率は約2倍であった。
実施例2の転化率は比較例4の場合と同程度であるが、比較例4と較べるとベンゼンの水素化反応によるシクロヘキサンの生成が抑制されていることが分かる。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により製造される1-アダマンタノール、2-アダマンタノンは電子材料の原料や医農薬等の各種化学品の中間体として有用性が高い。また、フェノールはフェノール樹脂、ビスフェノール類、アルキルフェノール類およびアニリンの中間体等として非常に重要である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)のアダマンタン骨格を有する化合物または化学式(2)若しくは(3)の芳香族化合物を、周期律表の4族〜10族から選択された一種以上の元素を含みかつ還元処理された触媒と水素の共存下、分子状酸素を含む酸化剤を用いて酸化することを特徴とする含酸素化合物の製造方法。
【化1】

〔但し、nは整数で、化学式(1)においては0〜9、化学式(2)においては0〜5、化学式(3)においては0〜9である。また、Xはメチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ニトロ基、スルホン基、及びハロゲンから選ばれる置換基であり、n≧2の場合、各置換基は同種でも異種でも良い。〕
【請求項2】
触媒として、周期律表の4族〜7族のチタン、コバルト、バナジウム、クロム及びマンガンの中から選ばれた金属の酸化物を担体とし、その上に周期律表の8族〜10族のパラジウム、白金、ロジウム及びニッケルの中から選ばれた一種以上の金属が担持された触媒を用いる請求項1記載の方法。
【請求項3】
触媒としてチタンの酸化物を担体としその上に白金が担持された触媒を用いる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
化学式(1)の化合物がアダマンタンであり、化学式(2)の芳香族化合物がベンゼンであり、含酸素化合物がアルコール類、ケトン類またはフェノール類である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
アルコール類が1-アダマンタノール、2-アダマンタノールであり、ケトン類が2-アダマンタノンであり、フェノール類がフェノール、ナフトールである請求項4に記載の方法。

【公開番号】特開2010−64972(P2010−64972A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231349(P2008−231349)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】