説明

吸湿部材の塗布装置及び有機ELパネルの製造方法

【課題】 粘性の高い吸湿部材であっても薄く、かつ均一的に封止基板に塗布することが可能であり、また、塗布工程における歩留まりを向上させることが可能な吸湿部材の塗布装置及び有機ELパネルの製造方法を提供する。
【解決手段】 基板6に粘性を有する吸湿部材7を塗布する吸湿部材7の塗布装置10であって、吸湿部材7を基板6に吐出可能とする吐出口12aを有するニードル部12と、ニードル部12内に気体を注入する気体注入部12bと、を少なくとも備えてなる。吐出口12aより前記気体を吐出する。前記気体は、低露点ガスである。気体注入部12bは、吸湿部材7の逆流を防止する弁部12cを有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に吸湿部材を塗布する吸湿部材の塗布装置及びこの塗布装置を用いた有機EL(エレクトロルミネッセンス)パネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自発光素子として少なくとも発光層を有する有機層を一対の電極で挟持した有機EL素子が知られている。かかる有機EL素子を用いた有機ELパネルは、支持基板上に形成された有機EL素子を例えば凹形状の封止基板によって気密的に覆うとともに、前記封止基板の前記有機EL素子との対向面に水分を吸湿する吸湿部材を配設することが知られており、例えば、特許文献1に開示されている。かかる構成により、前記有機EL素子が水分や酸素と反応してダークフレームと称される非発光部が発生・成長して前記有機EL素子の発光寿命が損なわれることを抑制している。
【0003】
前記吸湿部材は、例えばフッ素系オイルからなる不活性液体中に固体の吸着剤を所定の割合で混合することによって得られるクリーム状の吸湿部材を前記封止基板の前記有機EL素子との対向面に薄く均一的に塗布されている。このような前記吸湿部材を塗布する塗布装置としては、特許文献1に開示されるように、粘性を有する吸湿部材をディスペンスポンプによって送り出し、ニードル部に設けられた吐出口から吐出しながら前記ニードル部を前記封止基板の前記対向面に対して平行移動させて、前記吸湿部材を前記対向面に前記有機EL素子に当接しないように薄く均一的に塗布するものである。
【特許文献1】特開2003−163076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記吸湿部材は、有機ELパネルの使用状況による液だれや分離を防止するため、フッ素系オイルからなる不活性液体中に所定量の吸着剤と樹脂微粒子とを混合して粘性の高いクリーム状に形成され、前記封止基板の前記対向面に塗布されるものである。しかしながら、粘性が高い吸湿部材を用いた場合、前記ニードル部を前記対向面に塗布された前記吸湿部材から切り離す際に、前記吸湿部材が前記ニードル部によって引っ張られることで前記吸湿部材の厚さが部分的に著しく変化し、他の個所よりも厚い個所が生じる。この部分的に厚い個所は前記有機EL素子に接触することで電極を損傷させる等によって製品寿命を短くするおそれがあり、前記吸湿部材の塗布工程において歩留まりが低下するという問題点があった。
【0005】
本発明は、前述した問題点に着目し、粘性の高い吸湿部材であっても薄くかつ均一的に封止基板に塗布することが可能であり、塗布工程における歩留まりを向上させることが可能な吸湿部材の塗布装置及び有機ELパネルの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の吸湿部材の塗布装置は、前記課題を解決するため、基板に粘性を有する吸湿部材を塗布する吸湿部材の塗布装置であって、前記吸湿部材を前記基板に吐出可能とする吐出口を有するニードル部と、前記ニードル部内に気体を注入する気体注入部と、を少なくとも備えてなることを特徴とする。
【0007】
また、前記吐出口より前記気体を吐出することを特徴とする。
【0008】
また、前記気体は、低露点ガスであることを特徴とする。
【0009】
また、前記気体注入部は、前記吸湿部材の逆流を防止する弁部を有してなることを特徴とする。
【0010】
本発明の有機ELパネルの製造方法は、前記課題を解決するために、少なくとも発光層を含む有機層を一対の電極により狭持してなる有機EL素子を透光性の支持基板上に配設し、封止基板の前記有機EL素子との対向面に粘性を有する吸湿部材を塗布し、前記有機EL素子を封止基板によって気密的に収納してなる有機ELパネルの製造方法であって、前記封止基板の前記対向面に対して前記吸湿部材を吐出するニードル部の吐出口を接近配置させ、前記吸湿部材を供給しながら前記ニードル部を前記対向面に対して略平行に所定距離移動させ、前記ニードル部内に気体を注入して前記吸湿部材を切断し、その後前記ニードル部を前記対向面から離すことを特徴とする。
【0011】
また、前記吐出口より前記気体を吐出することを特徴とする。
【0012】
また、前記気体は、低露点ガスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、基板に吸湿部材を塗布する吸湿部材の塗布装置及びこの塗布装置を用いた有機ELパネルの製造方法に関し、粘性の高い吸湿部材であっても薄く、かつ均一的に封止基板に塗布することができ、また塗布工程における歩留まりを向上させることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図1及び図2を用いて有機ELパネルの構造について説明する。有機ELパネル1は、支持基板2と、第一電極3と、有機層4と、第二電極5と、封止基板6と、吸湿部材7と、を備えている。
【0016】
支持基板2は、長方形形状からなり、透光性のガラス基板によって形成されている。
【0017】
第一電極3は、有機層4に正孔を注入する陽極となるものであり、支持基板1上にインジウム錫酸化物(ITO)やインジウム亜鉛酸化物(IZO)あるいは酸化亜鉛(ZnO)等の透光性導電材料をスパッタリング法等の手段によって層状に形成してなり、フォトエッチング等の手段によって所定の形状にパターニングされる。
【0018】
有機層4は、少なくとも正孔及び電子の再結合によって光を発する発光層を有するものであれば良いが、本発明の実施形態においては正孔注入層,正孔輸送層,発光層及び電子輸送層を順次積層して形成してなるものである。
【0019】
第二電極5は、有機層4に電子を注入する陰極となるものであり、有機層4上に例えばAl等の低抵抗の導電材料を蒸着法等の手段によって層状に形成してなる反射電極である。
【0020】
以上のように、支持基板2上に前述した第一電極3と有機層4と第二電極5とを順次積層し積層体を形成することによって有機EL素子が設けられる。
【0021】
封止基板6は、ガラス材料から構成されるもので、本実施形態においては凹形状となるように形成される。封止基板6は、前記有機EL素子との対向面6aに吸湿部材7が塗布されている。また、封止基板6は、周辺部6bが紫外線硬化型の接着剤8を介して支持基板2と接着固定され、前記有機EL素子を気密的に収納する収納空間を構成する。
【0022】
吸湿部材7は、支持基板2上に配設された封止基板6の前記有機EL素子との対向面6aに配設され、前記収納空間内及び前記有機EL素子に含まれる水分を吸着するものである。吸湿部材7としては、たとえば活性アルミナ,モレキュラーシーブス,酸化カルシウム及び酸化バリウムなどの物理的あるいは化学的に水分を吸着する吸着剤と、耐熱温度が150℃以上で含水率が0.5%以下のシリコーンゴムからなりその平均粒径が5μm程度の球体からなる樹脂微粒子と、をフッ素系オイルからなる不活性液体中に混合してなるものが用いられ、吸着剤が流動しない程度の粘性(例えば50,000cp)を有するクリーム状部材であることが好ましい。吸湿部材7は、封止基板6を支持基板2上に配設した際に対向面6aに塗布される吸湿部材7が前記有機EL素子に当接しないように薄く均一的に形成される。
【0023】
次に、封止基板6に吸湿部材7を塗布する塗布装置10と、有機ELパネル1の製造方法における吸湿部材7の塗布工程と、について図2から図5を用いて説明する。塗布装置10は、図2に示すように吸湿部材供給機構(ディスペンスポンプ)11を備える。
【0024】
吸湿部材供給機構11は、ニードル部12を備え、封止基板6の対向面6aに吸湿部材7を所定量吐出するものである。また、吸湿部材供給機構11は、図示しないアクチュエータやサーボモータなどから構成されるX−Y−Z移動手段によって横(X),縦(Y)及び高さ(Z)方向に移動できるように構成されている。
【0025】
ニードル部12は、吸湿部材供給機構11から供給される吸湿部材7を封止基板6に向けて吐出する吐出口12aと、ニードル部12内に気体を注入する気体注入部12bと、気体注入部12bの先端部に設けられニードル部12内に向けて回動可能に支持される弁部12cと、を有する。
【0026】
上述した構成からなる塗布装置10は、まず、吸湿部材供給機構11を前記X−Y−Z移動手段によって封止基板6の前記有機EL素子との対向面6a側に下降させ、ニードル部12と対向面6aとの距離が所定間隔となるようにニードル部12の吐出口12aを近接配置させる(図2参照)。次に、ニードル部12内への吸湿部材7の供給動作を開始して吐出口12aから吸湿部材7を吐出させ、さらに、吸湿部材7の供給動作を維持したままニードル部12を前記X−Y−Z移動手段によって封止基板6の対向面6aに対して一定の高さを確保(間隔を維持)しつつ、かつ一定速度にて所定距離平行移動させる(図3参照)。次に、ニードル部12が所定距離移動すると、図示しないエアーポンプ等の気体供給機構から気体注入部12bに前記気体を導入し、気体注入部12bから前記気体をニードル部12内に注入する(図4参照)。ニードル部12内に前記気体が注入されると、前記気体によってニードル部12内の吸湿部材7が切断される。また、注入される前記気体によって弁部12cがニードル部12b内に向かって回動されニードル部12b内を塞ぎ、吐出口12a側に向けて更なる吸湿部材7が供給されて後に気体注入部12bに吸湿部材7が逆流するのを防止する。なお、前記気体の注入とともに吸湿部材7の供給動作を停止させることが望ましい。前記気体は、吸湿部材7の機能を阻害しないよう窒素やドライエアー等の低露点ガスを用いるのが好適である。また、前記気体の注入タイミングは、吸湿部材7の塗布量やニードル部12bの移動速度、あるいは塗布面積等の種々の塗布条件によって適宜決定される。そして、前記気体を注入しながらさらに所定距離移動させてニードル部12に残留する吸湿部材7を塗布した後にニードル部12bを停止させ、その後前記X−Y−Z移動手段によって吸湿部材供給機構11を上昇させてニードル部12を封止基板6の対向面6aから引き離す(図5参照)。なお、ニードル部12b内に注入された前記気体は吐出口12aから吐出される。
【0027】
かかる吸湿部材7の塗布装置10及びこれを用いた有機ELパネル1の製造方法は、ニードル部12の上昇位置において既に吸湿部材7が切断されているため、ニードル部12の上昇によって封止基板6の厚さ方向に引っ張られることがなく、吸湿部材7が部分的に著しく厚くなることを防止することが可能となるため、盛り上がりを抑制しつつ吸湿部材7を均一的でかつ薄く形成することができる。また、吸湿部材7を切断するためにニードル部12を吸湿部材7の塗布終了位置からさらに空走りさせる必要がなく、封止基板6の対向面6a全体に吸湿部材7を塗布することができ、特に小型の有機ELパネルにおいて十分な吸湿性能を確保することができる。
【0028】
また、ニードル部12b内に注入された前記気体を吸湿部材7と同様に吐出口12aから吐出することにより、ニードル部12の構造を複雑化させずに前記気体を外部に吐出することができる。なお、吐出口12aから吐出される前記気体を封止基板6に塗布された吸湿部材7に吹きつけ、さらに吸湿部材7を薄型化させても良い。
【0029】
また、気体注入部12bに吸湿部材7の逆流を防止する弁部12cを設けることによって、吸湿部材7が気体注入部12bに入り込むことによってその後の吸湿部材7の塗布量にバラツキが生じることがなく、吸湿部材7の塗布を連続的に行う場合であっても塗布動作の精度を保つことができる。
【0030】
なお、本実施形態において塗布装置10は、前記気体の注入を吸湿部材7の塗布終了位置手前で開始しその後塗布終了まで継続するものであったが、塗布装置10は、ニードル部12の移動中に間欠的に前記気体を注入するものであってもよい。
【0031】
また、本実施形態における封止基板6は凹部形状をなすものであったが、平板状の封止基板を用いるものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態における有機ELパネルの要部断面図である。
【図2】同上実施形態の塗布装置を示す図である。
【図3】同上実施形態における吸湿部材の塗布工程を示す図である。
【図4】同上実施形態における吸湿部材の塗布工程を示す図である。
【図5】同上実施形態における吸湿部材の塗布工程を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 有機ELパネル
2 支持基板
3 第一電極
4 有機層
5 第二電極
6 封止基板
6a 対向面
6b 周辺部
7 吸湿部材
8 接着剤
10 塗布装置
11 吸湿部材供給機構
12 ニードル部
12a 吐出口
12b 気体注入部
12c 弁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に粘性を有する吸湿部材を塗布する吸湿部材の塗布装置であって、
前記吸湿部材を前記基板に吐出可能とする吐出口を有するニードル部と、前記ニードル部内に気体を注入する気体注入部と、を少なくとも備えてなることを特徴とする吸湿部材の塗布装置。
【請求項2】
前記吐出口より前記気体を吐出することを特徴とする請求項1に記載の吸湿部材の塗布装置。
【請求項3】
前記気体は、低露点ガスであることを特徴とする請求項1に記載の吸湿部材の塗布装置。
【請求項4】
前記気体注入部は、前記吸湿部材の逆流を防止する弁部を有してなることを特徴とする請求項1に記載の吸湿部材の塗布装置。
【請求項5】
少なくとも発光層を含む有機層を一対の電極により狭持してなる有機EL素子を透光性の支持基板上に配設し、封止基板の前記有機EL素子との対向面に粘性を有する吸湿部材を塗布し、前記有機EL素子を封止基板によって気密的に収納してなる有機ELパネルの製造方法であって、
前記封止基板の前記対向面に対して前記吸湿部材を吐出するニードル部の吐出口を接近配置させ、前記吸湿部材を供給しながら前記ニードル部を前記対向面に対して略平行に所定距離移動させ、前記ニードル部内に気体を注入して前記吸湿部材を切断し、その後前記ニードル部を前記対向面から離すことを特徴とする有機ELパネルの製造方法。
【請求項6】
前記吐出口より前記気体を吐出することを特徴とする請求項5に記載の有機ELパネルの製造方法。
【請求項7】
前記気体は、低露点ガスであることを特徴とする請求項5に記載の有機ELパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−80061(P2010−80061A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243467(P2008−243467)
【出願日】平成20年9月23日(2008.9.23)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】