説明

吸音体

【課題】低周波領域の騒音を効果的に吸収することができ、一工程で安価に製造することができる吸音体を提供する。
【解決手段】本発明の吸音体1aは、多孔質材料から成る多孔質体層2aと、多孔質体層2aの前面側(音源側)に積層するように載置される吸音層3aとを備えている。
多孔質体層2aは、密度が32kg/m(32K)で厚さが50mmのグラスウールで形成されている。
吸音層3aは、面密度が0.5kg/mで厚さが4mmのグラスウールで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音体に係り、特に低周波領域の騒音を効果的に吸収することができ、また、一工程で安価に製造することができる吸音体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の吸音材として、空気の粘性抵抗を利用し、音波のエネルギーを熱エネルギーに変換して吸音する多孔質吸音構造体に、さらに密度が異なる繊維集合体を積層した第1、第2の吸音材が知られている。(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
第1の吸音材は、発泡体層と、この発泡体層の背面側に積層される汎用のグラスウールで形成されている多孔質体層とを備えており、発泡体層は、分子量500〜5000の第1のジオール、分子量500以下の第2のジオール、無機充填材、発泡剤としての水、およびイソシアネートの各成分を含有する発泡体で形成されている。また、第2の吸音材は、発泡体層と、発泡体層の前面側に積層される第1の多孔質体層と、発泡体層の背面側に積層される第2の多孔質体層とを備えており、発泡体層は、分子量500〜5000の第1のジオール、分子量500以下の第2のジオール、無機充填材、発泡剤としての水、およびイソシアネートの各成分を原料成分としている。
【0004】
しかしながら、第1の吸音材によれば、高密度部分が付加質量、低密度部分がバネの役割を担う、いわゆる動吸振機を構成させて、特に低周波数帯域の吸音率を向上させることができるものの、多孔質体層を構成するグラスウールは、100Hz以下の低周波領域では吸音効果が弱くなり、また、発泡体層と多孔質体層とが一体成型され、この一体成型に際して発泡体層の前面側に表面皮膜が形成されるため、製品の自由度を向上させることができないという難点があった。すなわち、発泡体層と多孔質体層との一体成形の際に表面皮膜が同時に形成されるため、所要の吸音特性を発揮させるためには、発泡体層の前面側や多孔質体層の背面側を変更しなければならないという難点があった。
【0005】
また、第2の吸音材によれば、150Hz以下の低周波領域のみならず150Hzを超える高周波領域の広帯域の騒音を効果的に吸収することができるものの、特に、100Hz周辺の低周波領域の騒音を効果的に吸収することができないという難点があった。
【0006】
このため、本出願人は、先に、多孔質体層(グラスウール)とシリコーンゴムから成る吸音皮膜とを積層した膜状吸音材を開発し、出願している(特願2005−77593号)。
【0007】
このような構成の吸音材によれば、吸音特性の波形が山形状を呈しており、特定の周波数(160Hz程度以下)の吸音に優れているものの、多孔質体層(グラスウール)の前面側に、多孔質体層と異なる材質の吸音皮膜(シリコーンゴム)を積層するため、すなわち吸音材の積層材料が異なるため、吸音材を一工程で製造することができないという難点があり、また、これらの複数の積層材料の維持管理が煩雑である上、コスト的にも割高になるという難点があった。
【0008】
【特許文献1】特開2003−316364号公報
【特許文献2】特開2005−249902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、低周波領域の騒音を効果的に吸収することができる吸音体であって、一工程で安価に製造することができる吸音体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様である吸音体は、多孔質材料から成る多孔質体層と、多孔質体層の前面側に載置される吸音層とを備え、吸音層は、高密度で柔軟性を有する材料で形成されているものである。
【0011】
本発明の第2の態様である吸音体は、多孔質材料から成る多孔質体層と、多孔質体層の前面側に所定の空隙を介して多孔質体層に固定される吸音層とを備え、吸音層は、高密度で柔軟性を有する材料で形成されているものである。
【0012】
本発明の第3の態様は、第1の態様または第2の態様である吸音体において、多孔質体層および吸音層は、共にシリカを含有する材料または同一の材料で形成されているものである。
【0013】
本発明の第4の態様は、第1の態様乃至第3の態様の何れかの態様である吸音体において、多孔質体層および吸音層は、シリカまたはグラスウールから成るものである。
【0014】
本発明の第5の態様は、第1の態様乃至第4の態様の何れかの態様である吸音体において、吸音層の面密度は、多孔質体層の面密度よりも大きくされているものである。
【0015】
本発明の第6の態様は、第1の態様乃至第5の態様の何れかの態様である吸音体において、吸音層の面密度は、300〜1200g/mとされているものである。
【0016】
本発明の第7の態様は、第1の態様乃至第6の態様の何れかの態様である吸音体において、吸音層の厚さは、多孔質体層の厚さよりも薄くされているものである。
【0017】
本発明の第8の態様は、第1の態様乃至第7の態様の何れかの態様である吸音体において、吸音層の厚さは、1〜10mmとされているものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の態様乃至第8の態様の吸音体によれば、膜振動を起こす基材部分としての多孔質材料から成る多孔質体層の前面(音源側)に、皮膜としての所定の面密度を有する吸音層が載置されていることから、共鳴周波数で皮膜としての吸音層が振動することで、当該周波数の音波のエネルギーを吸収し吸音することができる。また、例えば多孔質体層および吸音層が実質的に同一の材料で形成されているため、一工程で吸音体を製造することができ、ひいては安価な吸音体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の吸音体の好ましい実施の形態例について、図面を参照して説明する。
[実施例1]
図1は本発明の第1の実施例における吸音体の断面図を示している。同図において、本発明の吸音体1aは、多孔質材料から成る多孔質体層2aと、多孔質体層2aの前面側(音源側)に積層するように載置される吸音層3aとを備えている。ここで、吸音層3aの背面側に多孔質体層2aを積層するのは、吸音層3a部分が付加質量、すなわち錘の役割として作用し、多孔質体層2aがバネ、すなわち空気バネの役割として作用し、膜振動による吸音を行わせるためである。
【0020】
多孔質体層2aは、難燃性を有する材料、具体的にはボード状若しくはフェルト状のグラスウール若しくはセラミック繊維によるフェルト材料(シリカ)で形成されている。多孔質体層2aは、より具体的には密度が32kg/m(32K)のグラスウールで形成されている。多孔質体層2aは、厚さが1〜50mmのもので形成することが好ましい。ここで、厚さを1〜50mmとしたのは、厚さが1mm未満では多孔質体層2aの骨格部分の振動による吸音効果が低下し、厚さが50mmを超えると板材としての振動が減少し、吸音効果が低下するからである。なお、吸音体としての強度とスペースファクターとを考慮すると、厚さが10〜25mmのものが好適する。
【0021】
このような構成の多孔質体層2aにおいては、低周波数領域から高周波数領域までの広範囲に亘って吸音特性が優れており、また固体伝搬音や振動の低減にも効果的な制振性を発揮する。
【0022】
吸音層3aは、高密度で柔軟性を有する材料、具体的にはマット状のグラスウール若しくはセラミック繊維によるフェルト材料(シリカ)で形成されている。吸音層3aは、より具体的には多孔質体層2aの形成材料と実質的に同一の材料、例えば多孔質体層2aがグラスウールで形成されている場合は吸音層3aもグラスウール若しくはシリカを含有する材料で形成されている。
【0023】
吸音層3aの面密度は、多孔質体層2aの面密度よりも大きくすることが好ましい。具体的には、多孔質体層2aの密度は、32kg/mであるのに対して、吸音層3aの面密度は300〜1200g/mとされている。ここで、吸音層3aとして、多孔質体層2aの面密度よりも大きいものを使用するのは、多孔質体層2aと吸音層3aとの界面で音響エネルギーを吸収させるためである。また、吸音層2aの面密度を300〜1200g/mとしたのは、面密度が300g/m未満では音の透過が大きく膜状吸音機構が働かず、面密度が1200g/mを超えると音の反射量が大きくなりすぎるからである。
【0024】
次に、吸音層3aの厚さは、多孔質体層2aの厚さよりも薄くすることが好ましい。具体的には、多孔質体層2aの厚さは、10〜50mmであるのに対して、吸音層3aの厚さは1〜10mmとされている。ここで、吸音層の厚さを多孔質体層の厚さよりも薄くするのは10mm以上では膜振動しなくなるからである。また、吸音層の厚さを1〜10mmとしたのは、厚さが1mm未満では面密度が十分にとれないからであり、厚さがが10mmを超えると膜振動しなくなるからである。
【0025】
図2は、本発明の実施例における吸音体の吸音特性を比較例と共に示した説明図である。同図において、横軸は周波数[Hz]、縦軸は残響室法吸音率、L1は、厚さが50mmで密度が32kg/mのグラスウールから成る従来の吸音体(以下「比較例という。)、L2は、厚さが50mmで密度が32kg/mのグラスウールから成る多孔質体層2aの音源側に厚さが4mmで密度が0.5kg/mのグラスウールから成る吸音層3aを積層して成る本発明の吸音体(以下「実施例」という。)におけるそれぞれの吸音特性を示している。
【0026】
同図より、実施例においては、L2で示すように、100〜2500Hzの周波数帯域において比較例(L1)よりも吸音性能が改善しており、特に250〜400Hzの周波数帯域における比較例(L1)と実施例(L2)とを対比すると、0.2〜0.25程度の吸音率が改善していることが判る。
【0027】
以上のように、本発明の吸音体1aによれば、不燃性でかつ柔軟性がある上、特に250〜400Hz程度の低周波領域の騒音を効果に吸収することができ、また、多孔質材料から成る多孔質体層の前面側に多孔質体層の形成材料と実質的に同一の材料から成る吸音層を積層するものであることから、一工程で安価に製造することができる。さらに、多孔質体層および吸音層を同一の材料で形成した場合には、これらの形成材料の維持管理が簡単になる。
[実施例2]
図3は、本発明の第2の実施例における吸音体1bの断面図を示している。なお、同図において、図1と共通する部分には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0028】
図3において、この実施例における吸音体1bおいては、多孔質体層2aの前面側(音源側)に吸音層3aが所定の空隙4を介して積層するようにして固定されている。このような構成の吸音体1bは、多孔質体層2aの前面側(音源側)に例えば直径が1mm程度の線条のアクリル樹脂から成る接着部材5が15〜30mmの間隔で長手方向に沿って平行に接着され、この上に吸音層3aを積層するように載置することで多孔質体層2aと吸音層3aとが一体化されるとともに、多孔質体層2aと吸音層3aとの界面に所定の空隙4が形成されることになる。ここで、多孔質体層2aと吸音層3aとの間に空隙4を設けたのは、多孔質体層2aと吸音層3aとの界面で音響エネルギーを吸収させるためである。また、線条の接着部材5の接着間隔を15〜30mmとしたのは、15mm未満では吸音率が低下し、30mmを超えると密着性が悪くなるからである。
【0029】
このような構成の吸音体1bにおいても、実施例1の吸音体と同様の作用効果を奏する上、多孔質体層2aと吸音層3aとが一体化されることで、製品形態の自由度が向上し、現場における施工を簡単に行なうことができる。
[実施例3]
図4は、本発明の第3の実施例における吸音体1cの断面図を示している。なお、同図において、図1と共通する部分には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0030】
図4において、この実施例における吸音体1cおいては、図1に示す吸音体1aの音源側に、すなわち吸音層3aの音源側に多孔質体層2aと同一の形成材料(グラスウール)から成る他の多孔質体層2bが積層されている。
【0031】
この実施例においても、実施例1の吸音体と同様の作用効果を奏する上、吸音体1aの音源側にグラスウールから成る他の多孔質体層2bが更に積層されることで、実施例1の吸音体よりも吸音特性をより一層向上させることができる。
[実施例4]
図5は、本発明の第4の実施例における吸音体1dの断面図を示している。なお、同図において、図4と共通する部分には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0032】
図5において、この実施例における吸音体1dおいては、図4に示す吸音体1cの音源側に、すなわち他の多孔質体層2bの音源側に多孔質体層2a、2bと同一の形成材料(グラスウール)から成る他の吸音層3bが積層されている。
【0033】
この実施例においても、実施例3の吸音体と同様の作用効果を奏する上、吸音体1cの音源側にグラスウールから成る他の吸音層3bが更に積層されることで、実施例3の吸音体よりも吸音特性をより一層向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
前述の実施例においては、図面に示した特定の実施の形態をもって本発明を説明しているが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、次のように構成してもよい。
【0035】
第1に、前述の実施例においては、吸音層をグラスウールで形成した場合について述べているが、シリカを含有する材料、具体的にはセラミック繊維によるフェルト材料(シリカ)で形成してもよい。
【0036】
第2に、前述の実施例においては、グラスウールから成る多孔質体層の音源側にグラスウールから成る吸音層を配置したものについて述べているが、シリカを含有する材料から成る多孔質体層の音源側にシリカを含有する材料から成る吸音層を配置したもの、グラスウールから成る多孔質体層の音源側にシリカを含有する材料から成る吸音層を配置したもの、またはシリカを含有する材料から成る多孔質体層の音源側にグラスウールから成る吸音層を配置したものを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施例における吸音体の断面図。
【図2】本発明の第1の実施例における吸音体の吸音特性を示す説明図。
【図3】本発明の第2の実施例における吸音体の断面図。
【図4】本発明の第3の実施例における吸音体の断面図。
【図5】本発明の第4の実施例における吸音体の断面図。
【符号の説明】
【0038】
1a、1b、1c、1d・・・吸音体
2a・・・多孔質体層
2b・・・他の多孔質体層
3a・・・吸音層
3b・・・他の吸音層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料から成る多孔質体層と、前記多孔質体層の前面側に載置される吸音層とを備え、
前記吸音層は、高密度で柔軟性を有する材料で形成されていることを特徴とする吸音体。
【請求項2】
多孔質材料から成る多孔質体層と、前記多孔質体層の前面側に所定の空隙を介して前記多孔質体層に固定される吸音層とを備え、
前記吸音層は、高密度で柔軟性を有する材料で形成されていることを特徴とする吸音体。
【請求項3】
前記多孔質体層および前記吸音層は、共にシリカを含有する材料または同一の材料で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の吸音体。
【請求項4】
前記多孔質体層および前記吸音層は、シリカまたはグラスウールから成ることを特徴とする請求項1乃至請求項3何れか1項記載の吸音体。
【請求項5】
前記吸音層の面密度は、前記多孔質体層の面密度よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項4何れか1項記載の吸音体。
【請求項6】
前記吸音層の面密度は、300〜1200g/mであることを特徴とする請求項1乃至請求項5何れか1項記載の吸音体。
【請求項7】
前記吸音層の厚さは、前記多孔質体層の厚さよりも薄いことを特徴とする請求項1乃至請求項6何れか1項記載の吸音体。
【請求項8】
前記吸音層の厚さは、1〜10mmであることを特徴とする請求項1乃至請求項7何れか1項記載の吸音体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−203542(P2008−203542A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39663(P2007−39663)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(306013119)昭和電線デバイステクノロジー株式会社 (118)
【Fターム(参考)】