説明

吸音構造体

【課題】薄型化と、低音域の吸音特性の向上の両立を図ることが可能な吸音構造体を提供する。
【解決手段】貯蔵弾性率E’が0.01GPaを超1GPa未満の範囲であり、密度が0.5(g/cm)超2(g/cm)未満の範囲であり、厚みが0.3mm超3mm未満の範囲であり、内部摩擦(tanδ)が0.001超1未満の範囲である振動膜2と、振動膜2の裏面側に隣接する空気室3とが備えられ、振動膜2の表面側から音による空気振動が印加された際に、400Hz以下の周波数帯域においてランダム入射吸音率が0.4以上の吸音ピークを示す吸音構造体1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音構造体に関するものであり、特に、薄型でなおかつ低音域の吸音特性に優れた吸音構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、吸音材として、グラスウール等の多孔質材料からなる多孔質型の吸音材が知られている(例えば、非特許文献1)。多孔質型の吸音材は、周波数が低くなるにつれて吸音率が低下する傾向がある。従って、例えば400Hz程度の低周波帯域の音を効率良く吸音させるためには、200〜400mm程度の厚みが必要になる。
【0003】
また、別のタイプの吸音材として、振動板と振動板の背後に設けた背後空気層からなる板振動型の吸音材が知られている(例えば非特許文献2)。一般に、板振動型の吸音材は、振動板が弾性をもって振動する場合に、下記の式(1)のようにバネマスのバネマス系の項(ρ/ρtL)と屈曲系の項(バネマス系の項の後に直列に加えられている項)とが加算される。このため、上記式で得られる共周波数は、バネマス系の共振周波数より高いものとなり、吸音のピークとなる周波数を低く設定することが難しい場合がある。例えば、振動板を含めた吸音材全体の厚みが薄くなると、振動板の板振動によって共振周波数がより高くなる。従って、振動板が弾性を持つ場合に低周波帯域の音を効率良く吸音させるには、背後空気層の厚みを更に大きくする必要がある。
【0004】
【数1】

【0005】
式(1)において、空気の密度をρ[kg/m]、音速をc[m/s]、振動体の密度をρ[kg/m]、振動体の厚さをt[m]、空気層の厚さをL[m] 、振動体の形状が長方形で一辺の長さをa[m]、もう一辺の長さをb[m]、振動体のヤング率をE[Pa]、振動体のポアソン比をσ[−]、p,qはモード次数で正の整数(通常1次モードでp=q=1)としている。
【0006】
このように、従来の多孔質型または板振動型の吸音材を用いて、400Hz以下の低音域の音を効率良く吸音するには、吸音材の厚みをある程度大きくする必要がある。このような事情から、吸音材の設置場所の制約が少ないコンサートホール等のような巨大空間を有する設備には、従来の吸音材が何ら支障なく用いられてきた。
【非特許文献1】前川純一,建築・環境音響学,共立出版,p.83−84
【非特許文献2】前川純一,建築・環境音響学,共立出版,p.85−86
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで吸音材は、コンサートホールのような巨大な音響空間を有する設備のみならず、ピアノ防音室、会議室、ホームシアター、移動車両の居室といった小規模な音響空間を有する設備にも利用が広がっている。このような小空間は、容積が数立方メートル程度のものが含まれ、吸音材の設置場所に制約が生じる。例えば、吸音材の設置場所として、10〜30mm程度の狭幅の空間しか確保できない場合がある。このような狭い空間に多孔質型の吸音材を設置した場合は、吸音材の厚みとの関係で、1000Hz以上の高音域の音しか有効に吸音できない問題がある。
【0008】
更に、吸音材を設計するにあたっては、従来、評価指標として主に垂直入射吸音率が用いられているが、実際の吸音材の使用に際しては音がランダムな方向から入射するのが普通であることから、吸音材の設計に際して、垂直入射吸音率による評価だけでは不十分な場合があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、薄型化と、低音域の吸音特性の向上の両立を図るとともに、ランダム入射吸音率を向上することが可能な吸音構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような吸音体構造体においては、バネマス系による共振周波数と、振動体の弾性による弾性振動による屈曲系の共振周波数との関連性は十分に解明されておらず、低音域で高い吸音力を発揮する膜吸音体の構造が確立されていないのが実情である。
そこで、発明者達は鋭意実験を行った結果、振動板の貯蔵弾性率E’、密度、厚み、内部損失が所定の範囲にある場合に、30mm以下の空気室厚みにおいて、上記の式(1)で計算される共振周波数よりも低い周波数で共振し、吸音率が高くなることをみいだした。
そこで、上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
【0011】
本発明の吸音構造体は、貯蔵弾性率E’が0.01GPa超1.0GPa未満の範囲であり、密度が0.5(g/cm)超2.0(g/cm)未満の範囲であり、厚みが0.3mm超3.0mm未満の範囲であり、内部摩擦(tanδ)が0.001超1.0未満の範囲である振動膜と、前記振動膜の裏面側に隣接する空気室とが備えられ、前記振動膜の表面側から音による空気振動が印加された際に、400Hz以下の周波数帯域においてランダム入射吸音率が0.4以上の吸音ピークを示すことを特徴とする。
また、本発明の吸音構造体においては、前記空気室が複数備えられていることが好ましい。
また、本発明の吸音構造体においては、前記空気室が単数であってもよい。
また、本発明の吸音構造体においては、前記空気室の厚みが10mm以上30mm以下の範囲であることが好ましい。
【0012】
上記の吸音構造体によれば、貯蔵弾性率E’、密度、厚み及び内部摩擦(tanδ)が所定の範囲にある振動膜と空気室とが備えられ、かつ400Hz以下の周波数帯域において吸音率が0.4以上の吸音ピークを発現するように構成されているので、空気室の厚みを薄くしても低音域の吸音率を十分に向上できる。
また上記の吸音構造体によれば、空気室が複数備えられるので、吸音構造体の大面積化が容易になり、建築材料としても利用できる。
また上記の吸音構造体によれば、空気室の数が単数なので、吸音構造体の小面積化が容易になり、設置面積が小さい箇所や設置面が複雑な形状になっている箇所にも、容易に取り付けることが出来る。
また、空気室が複数のものと単数のものを組み合わせて用いることで、設置面がより複雑な形状になっている箇所にも、容易に取り付け可能となる。
更に、空気室の厚みが10〜30mmの範囲なので、小規模な音響空間を有する設備の吸音構造体として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の吸音構造体によれば、薄型化と、低音域の吸音特性の向上の両立を図るとともに、ランダム入射吸音率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
「第1の実施形態」
以下、本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の吸音構造体を示す分解斜視図であり、図2は、図1に示す吸音構造体の断面模式図である。
【0015】
図1及び図2に示す吸音構造体1は、振動膜2と、振動膜2の裏面2a側に隣接する空気室3とが備えられて概略構成されている。図1及び図2に示す吸音構造体1は、1枚の振動膜2に対して1つの空気室3が備えられている。この吸音構造体1は、振動膜2の表面2b側から音による空気振動が印加された際に、400Hz以下の低音域に吸音ピークが発現するように構成されている。
【0016】
「振動膜」
振動膜2は、ポリプロピレン系樹脂とゴム成分とを含むポリマーブレンド膜、ポリエチレン系樹脂とゴム成分とを含むポリマーブレンド膜またはポリオレフィン系樹脂層とゴム層とが積層された積層膜のいずれかを用いることが好ましい。以下、各膜の構成について説明する。
【0017】
(ポリプロピレン系樹脂とゴム成分とを含むポリマーブレンド膜)
ポリプロピレン系樹脂とゴム成分とを含むポリマーブレンド膜は、ポリプロピレン系樹脂とゴム成分とをポリマーブレンドすることによって製造された膜である。ポリプロピレン系樹脂としては、貯蔵弾性率E’が0.2GPa〜1.4GPaの範囲のものを用いることが好ましく、0.4GPa〜0.8GPaの範囲のものを用いることがより好ましい。ポリプロピレン系樹脂の貯蔵弾性率E’がこの範囲から外れると、振動膜2の貯蔵弾性率E’等の物性が所望の範囲から外れてしまうので好ましくない。このようなポリプロピレン樹脂としては、例えば、日本ポリプロ株式会社製のBC8を例示できる。このBC8の貯蔵弾性率E’は0.65GPaである。
【0018】
また、ゴム成分としては、貯蔵弾性率E’が0.01GPa〜0.1GPaの範囲のものが好ましく、0.02GPa〜0.08GPaの範囲のものがより好ましい。ゴム成分の貯蔵弾性率E’がこの範囲から外れると、振動膜2の貯蔵弾性率E’等の物性が所望の範囲から外れてしまうので好ましくない。このようなゴム成分として例えば、ダウ・ケミカル日本株式会社製のENR7270とクラレ株式会社製のハイブラー5127を併用したものを用いることができる。また、例示したゴム成分に更に他のゴム成分を追加して用いても良い。なお、ENR7270の貯蔵弾性率E’は0.024GPaであり、ハイブラー5127の貯蔵弾性率E’は0.066GPaである。
【0019】
ポリプロピレン系樹脂とゴム成分との配合比(ポリプロピレン系樹脂:ゴム成分)は、質量比で20:80〜50:50の範囲が好ましく、30:70〜40:60の範囲がより好ましい。配合比がこの範囲から外れると、振動膜2の貯蔵弾性率E’等の物性が所望の範囲から外れてしまうので好ましくない。
【0020】
また、ポリプロピレン系樹脂とゴム成分の他に、フィラーとして、無機フィラーを配合することができる。無機フィラーの例としては、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。無機フィラーを配合する場合、その配合量は特に限定されず、振動膜2の密度G、貯蔵弾性率E’、およびtanδの良好な範囲が得られる範囲であればよい。機械強度の点からは、振動膜2の構成材料中80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
【0021】
また、ポリプロピレン系樹脂とゴム成分の他に、振動膜2の物性に影響を及ぼさない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、紫外線防止剤、帯電防止剤を添加することができる。
【0022】
このポリマーブレンド膜は、内部摩擦(tanδ)が比較的大きくなるため、吸音構造体に適用した場合に、吸音ピークが比較的ブロードになる。
【0023】
(ポリエチレン系樹脂とゴム成分とを含むポリマーブレンド膜)
次に、ポリエチレン系樹脂とゴム成分とを含むポリマーブレンド膜は、ポリエチレン系樹脂とゴム成分とをポリマーブレンドすることによって製造された膜である。ポリエチレン系樹脂としては、貯蔵弾性率E’が0.1GPa〜0.8GPaの範囲のものが好ましく、0.2GPa〜0.6GPaの範囲のものがより好ましい。ポリエチレン系樹脂の貯蔵弾性率E’がこの範囲から外れると、振動膜2の貯蔵弾性率E’等の物性が所望の範囲から外れてしまうので好ましくない。ポリエチレン系樹脂としては例えば、日本ポリエチレン株式会社製のUF240を用いることができる。このUF240の貯蔵弾性率E’は0.37GPaである。
【0024】
また、ゴム成分としては、貯蔵弾性率E’が0.01GPa〜0.08GPaの範囲のものが好ましく、0.02GPa〜0.06GPaの範囲のものがより好ましい。ゴム成分の貯蔵弾性率E’がこの範囲から外れると、振動膜2の貯蔵弾性率E’等の物性が所望の範囲から外れてしまうので好ましくない。ゴム成分として例えば、ダウ・ケミカル日本株式会社製のENR7270を用いることができる。例示したゴム成分は、1種のみ用いても良く、2種以上のゴム成分を用いても良い。
【0025】
ポリエチレン系樹脂とゴム成分との配合比(ポリエチレン系樹脂:ゴム成分)は、質量比で60:40〜85:15の範囲が好ましく、70:30〜80:20の範囲がより好ましい。配合比がこの範囲から外れると、振動膜2の貯蔵弾性率E’等の物性が所望の範囲から外れてしまうので好ましくない。
【0026】
ポリプロピレン系樹脂とゴム成分の他に、フィラーとして、無機フィラーを配合することができる。無機フィラーの例としては、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。無機フィラーを配合する場合、その配合量は特に限定されず、振動膜2の密度G、貯蔵弾性率E’、およびtanδの良好な範囲が得られる範囲であればよい。機械強度の点からは、振動膜2の構成材料中80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
【0027】
また、ポリエチレン系樹脂とゴム成分の他に、振動膜2の物性に影響を及ぼさない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、紫外線防止剤、帯電防止剤を添加することができる。
【0028】
このポリマーブレンド膜は、内部摩擦(tanδ)が比較的小さくなるため、吸音構造体に適用した場合に、吸音ピークが比較的シャープになる。
【0029】
(ポリオレフィン系樹脂層とゴム層とが積層された積層膜)
ポリオレフィン系樹脂層とゴム層とからなる積層膜は、ポリオレフィン系樹脂層とゴム層とを相互に積層させた膜である。ポリオレフィン系樹脂層としては、貯蔵弾性率E’が0.2GPa〜1.0GPaの範囲のものが好ましく、0.3GPa〜0.8GPaの範囲のものがより好ましい。ポリオレフィン系樹脂の貯蔵弾性率E’がこの範囲から外れると、振動膜2の貯蔵弾性率E’等の物性が所望の範囲から外れてしまうので好ましくない。更に、ポリオレフィン系樹脂層の厚みは、0.5mm〜1.2mmの範囲が好ましく、0.5mm〜1.0mmの範囲がより好ましい。ポリオレフィン系樹脂層の厚みがこの範囲から外れると、振動膜の貯蔵弾性率E’等の物性が所望の範囲から外れてしまうので好ましくない。ポリオレフィン系樹脂層として例えば、日本ポリエチレン株式会社製のUF240と日本ポリエチレン社製HY540を併用して用いることが好ましい。これら混合物の貯蔵弾性率E’は、0.5GPa程度になる。
【0030】
また、ゴム層としては、貯蔵弾性率E’が0.02GPa〜0.1GPaの範囲のものが好ましく、0.03GPa〜0.08GPaの範囲のものがより好ましい。ゴム層の貯蔵弾性率E’がこの範囲から外れると、振動膜2の貯蔵弾性率E’等の物性が所望の範囲から外れてしまうので好ましくない。更に、ゴム層の厚みは、0.05mm〜0.5mmの範囲が好ましく、0.1mm〜0.3mmの範囲がより好ましい。ゴム層の厚みがこの範囲から外れると、振動膜2の貯蔵弾性率E’等の物性が所望の範囲から外れてしまうので好ましくない。ゴム層としては例えば、クラレ株式会社製のハイブラー5127を例示できる。
【0031】
ポリオレフィン系樹脂層とゴム層との膜厚比(ポリオレフィン系樹脂層:ゴム層)は、60:40〜90:10の範囲が好ましく、70:30〜80:20の範囲がより好ましい。膜厚比がこの範囲から外れると、振動膜2の貯蔵弾性率E’等の物性が所望の範囲から外れてしまうので好ましくない。
【0032】
また、ポリオレフィン系樹脂とゴム成分の他に、振動膜2の物性に影響を及ぼさない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、充填剤、難燃剤、紫外線防止剤、帯電防止剤を添加することができる。
【0033】
この積層膜を吸音構造体に用いた場合には、同組成のポリマーブレンド膜に比べて、吸音特性が良好になる。
【0034】
次に、振動膜2の貯蔵弾性率E’は、0.01GPa超1.0GPa未満の範囲が好ましく、0.1GPa超0.8GPa未満の範囲がより好ましい。貯蔵弾性率E’がこの範囲から外れると、400Hz以下の周波数帯域において0.4以上の吸音率を有する吸音ピークが発現されないので好ましくない。
【0035】
また、振動膜2の密度は、0.5(g/cm)超2.0(g/cm)未満の範囲が好ましく、0.8(g/cm)超1.5(g/cm)未満の範囲がより好ましい。密度が0.5(g/cm)以下では振動膜2の強度が不足するので好ましくなく、密度が2.0(g/cm)以上では振動膜2を含む吸音構造体の軽量化が困難になるので好ましくない。
【0036】
また、振動膜2の厚みは、0.3mm超3.0mm未満の範囲が好ましく、0.7mm超1.5mm未満の範囲がより好ましい。厚みが0.3mm以下では振動膜2の強度が不足するので好ましくなく、厚みが3.0mm以上では振動膜2を含む吸音構造体の軽量化が困難になるので好ましくない。
【0037】
また、振動膜2の内部摩擦(tanδ)は、0.001超1.0未満の範囲が好ましく、0.01超0.5未満の範囲がより好ましい。内部摩擦(tanδ)が0.001以下では、振動膜2の振動が減衰しにくく、また、内部摩擦(tanδ)が1.0以上では振動膜2が振動する際の振幅が小さくなり、いずれの場合も十分な吸音率が得られないので好ましくない。
【0038】
「空気室」
図1及び図2に示すように、空気室3は、筐体3cに設けられている。筐体3cは、背面部3aと、背面部3aの外周部から突出する壁面部3bとから構成されている。空気室3は、振動膜2の裏面2aと、裏面2aに対向して配置された背面部3aと、背面部3aの周縁部から振動膜2側に向けて立設された壁面部3bとによって区画されている。また、空気室3は、壁面部3bによって平面視略矩形状に成形されている。空気室3の平面視形状は、正方形でも良く、長方形でも良い。また、壁面部3bと振動膜2の裏面2aとは相互に密着されており、これにより空気室3が密閉状態になっている。また、振動膜2と壁面部3bとが密着されることで、振動膜2の外周部が壁面部3bによって拘束される形になる。
【0039】
図2(a)に示すように、壁面部3bと振動膜2の裏面2aとは相互に溶着されていてもよい。また、図2(b)に示すように、壁面部3bと振動膜2の裏面2aとが接着材4によって接合されていてもよい。接着材4としては、エポキシ系接着剤等からなる接着剤層や、両面に粘着層を有する両面粘着シート等が用いられる。
【0040】
壁面部3b及び背面部3aは、金属、木材、樹脂、繊維強化樹脂、セラミックス、これらの複合材など、様々な材質で構成することができる。また、壁面部3b及び背面部3aは、同一の材質でもよいし異なる材質でもよい。更に、壁面部3bのみまたは壁面部3b及び背面部3aの両方を、振動膜2と同じ材質で構成してもよい。
【0041】
また、壁面部3b及び背面部3aを、金属または樹脂などによって一体に成形して筐体3cを構成してもよい。また、壁面部3b及び背面部3aがそれぞれ樹脂からなる場合は、これらを相互に熱融着させて一体化して筐体3cとしてもよい。また、壁面部3b及び背面部3aがそれぞれ金属からなる場合は、これらを相互に溶接、ロウ付けまたはハンダ付けさせて筐体3cとしてもよい。
【0042】
空気室3の厚みdは、10mm以上30mm以下の範囲が好ましい。空気室3の厚みdが10mm未満だと、吸音ピークの周波数が400Hzよりも高音域側にシフトするので好ましくない。また、30mmを超えると、振動膜2の貯蔵弾性率E’等に関連する影響が小さくなり、共振周波数が上記式(1)で計算される周波数よりも低くなるという本願の効果が期待できず、共振周波数が上記式(1)の第1項に支配されるようになるため好ましくない。また、30mmを超えると、吸音構造体としての厚みが厚くなり、実用性が劣ってしまうので好ましくない。
【0043】
また、空気室3を平面視したときの一辺長mは、50mm以上240mm以下の範囲が好ましい。一辺長mが50mm未満または240mmを超えると、音による空気振動が印加された際に、400Hz以下の周波数帯域において吸音ピークが発現するように、振動膜2を振動させることが困難になるので好ましくない。また、空気室3のより好ましい一辺長mは、振動膜2の材質及び厚みにもよるが、70mm以上240mm以下の範囲がよく、更に好ましくは80mm以上100mm以下がよい。一辺長mがこの範囲であれば、400Hz以下におけるランダム入射吸音率のピーク値を高めることができる。
【0044】
なお、空気室3が平面視略長方形の場合には、長辺及び短辺の長さがそれぞれ、上記一辺長mの範囲内にあればよい。
【0045】
なお、図1〜図2に示す吸音構造体1は、空気室3を構成する背面部3aと壁面部3bを一体に成形した例であるが、この背面部3aに代えて、たとえば建築物を構成する壁面、床面または天井面を用いてもよい。すなわち、建築物を構成する壁面、床面または天井面に、壁面部3bを接着剤等で密着させるとともに、壁面部3bに振動膜2を貼り合わせることによって吸音構造体1を構成してもよい。これにより、建築物の躯体自体を吸音構造体1の一部として利用できる。
【0046】
本実施形態の吸音構造体1においては、振動膜2の表面側から音による空気振動が印加されると、振動膜2が振動し、このときの振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて吸音される。このとき、400Hz以下の周波数帯域において、ランダム入射吸音率が0.4以上の吸音ピークが発現する。従って本実施形態の吸音構造体1によれば、400Hz以下の低音域におけるランダム入射吸音率を高めることができる。また、空気室3の厚みが30mm以下なので、小規模な音響空間を有する設備の吸音構造体として好適に用いることができる。
また本実施形態の吸音構造体1によれば、振動膜2に対して空気室3の数が1つなので、吸音構造体1の小面積化が容易になり、設置面積が小さい箇所や設置面が複雑な形状になっている箇所にも、容易に取り付けることが出来る。
【0047】
「第2の実施形態」
次に、本発明の第2の実施形態を図面を参照して説明する。図3は、本実施形態の吸音構造体を示す分解斜視図であり、図4は、図3に示す吸音構造体の拡大断面模式図であり、図5は、図3及び図4の吸音構造体の内部構造を示す拡大平面模式図である。
【0048】
図3〜5に示す吸音構造体11は、振動膜2と、振動膜2の裏面2a側に隣接する空気室13とが備えられて概略構成されている。図1及び図2に示す吸音構造体1は、1枚の振動膜2に対して複数の空気室13が備えられている。この吸音構造体11は、振動膜2の表面2b側から音による空気振動が印加された際に、400Hz以下の低音域に吸音ピークが発現するように構成されている。
【0049】
「振動膜」
本実施形態の吸音構造体11の振動膜2は、第1の実施形態の振動膜2と同様のものを用いることが出来る。
【0050】
「空気室」
次に、本実施形態の空気室13は、図4及び図5に示すように、振動膜2の裏面2aと、裏面2aに対向配置された背面部13aと、背面部13aの周縁部から振動膜2側に向けて立設された壁面部13bとによって区画形成されている。壁面部13bと、振動膜2の裏面2a及び背面部13aとはそれぞれ、相互に密着されており、これにより空気室13が密閉状態になっている。また、本実施形態の吸音構造体11においては、図3〜図5に示すように、1つの振動膜2に対して、複数の空気室13がマトリックス状に配列されており、各空気室13同士が相互に密閉状態のままで分離されている。
【0051】
振動膜2と壁面部13bは、第1の実施形態の場合と同様に、相互に融着されていても良く、接着材を介して接合されていても良い。
【0052】
空気室13についてより具体的に説明すると、空気室13は、振動膜2と、振動膜2の裏面2a側に配置された格子状の壁面部13bと、壁面部13bの振動膜2側とは反対側に配置された背面部13aとが一体化されることによって区画形成されている。壁面部13bと背面部13aとによって筐体13cが構成されている。
【0053】
壁面部13bは、空気室3の壁面を構成する格子状の部材であって、この壁面部13bには、マトリックス状に配列された平面視略矩形状の開口部14aが備えられている。また背面部13aは、空気室13の背面を構成する板状の部材である。壁面部13bの複数の開口部14aが、振動膜2と背面部13aとに挟まれて密閉されることによって、複数の空気室13が形成されている。各空気室13は、壁面部13bによって相互に分離されており、各空気室13同士の間では空気の流通が遮断されている。
【0054】
壁面部13b及び背面部13aは、金属、木材、樹脂、繊維強化樹脂、セラミックス、これらの複合材など、様々な材質で構成することができる。また、壁面部13b及び背面部13aは、同一の材質でもよいし異なる材質でもよい。更に、壁面部13bのみまたは壁面部13b及び背面部13aの両方を、振動膜2と同じ材質で構成してもよい。
また、壁面部13b、背面部13a及び振動膜2はそれぞれ、接着剤、両面粘着テープを介して密着させればよい。また、壁面部13b及び背面部13aが樹脂からなる場合は、これらを相互に熱融着させてもよい。また、壁面部13b及び背面部13aが金属からなる場合は、これらを相互に溶接、ロウ付けまたはハンダ付けさせてもよい。更に、壁面部13b及び背面部13aを、金属または樹脂などによって一体に成形してもよい。
【0055】
空気室13の厚みdは、第1の実施形態と同様に、10mm以上30mm以下の範囲が好ましい。空気室13の厚みdが10mm未満だと、吸音ピークの周波数が400Hzよりも高音域側にシフトするので好ましくない。また、30mmを超えると、振動膜2の貯蔵弾性率E’等に関連する影響が小さくなり、共振周波数が上記式(1)で計算される周波数よりも低くなるという本願の効果が期待できず、共振周波数が上記式(1)の第1項に支配されるようになるため好ましくない。また、30mmを超えると、吸音構造体としての厚みが厚くなり、実用性が劣ってしまうので好ましくない。
【0056】
また、空気室13を平面視したときの一辺長mは、第1の実施形態と同様に、50mm以上240mm以下の範囲が好ましく、70mm以上240mm以下の範囲がより好ましく、80mm以上100mm以下が更に好ましい。一辺長mが50mm未満または240mmを超えると、音による空気振動が印加された際に、400Hz以下の周波数帯域において吸音ピークが発現するように、振動膜2を振動させることが困難になるので好ましくない。
【0057】
なお、空気室13が平面視略長方形の場合には、長辺及び短辺の長さがそれぞれ、上記一辺長mの範囲内にあればよい。
【0058】
また、図3〜図5に示す吸音構造体11においては、第1の実施形態の場合と同様に、背面部13aに代えて、たとえば建築物を構成する壁面、床面または天井面を用いてもよい。すなわち、建築物を構成する壁面、床面または天井面に、壁面部13bを接着剤等で密着させるとともに、壁面部13bに振動膜2を貼り合わせることによって吸音構造体11を構成してもよい。これにより、建築物の躯体自体を吸音構造体11の一部として利用できる。
【0059】
以上説明したように、上記の吸音構造体11においては、第1の実施形態と同様に、振動膜2の表面側から音による空気振動が印加されると、振動膜2が振動し、このときの振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて吸音される。このとき、400Hz以下の周波数帯域において、ランダム入射吸音率が0.4以上の吸音ピークが発現する。従って本実施形態の吸音構造体11によれば、400Hz以下の低音域におけるランダム入射吸音率を高めることができる。また、空気室13の厚みが30mm以下なので、小規模な音響空間を有する設備の吸音構造体として好適に用いることができる。
また本実施形態の吸音構造体11によれば、振動膜2に対して空気室13の数が複数なので、吸音構造体11の大面積化が容易になり、建築材料としても利用できる。
【0060】
なお、上記の空気室3、13の一辺長mはあくまで例示であり、振動膜2の表面2b側から音による空気振動が印加されたときに400Hz以下の周波数帯域において吸音ピークが発現するように、振動膜2が空気室3、13に取り付けられていれば、一辺長mはどのような範囲でもよい。
【0061】
また、上記の実施形態における吸音構造体1、11は平板状であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、吸音構造体1、11を凹面状、凸面状、凸球面状、凹球面状のいずれかの形状にしてもよい。
【0062】
また、上記の吸音構造体1は、様々な分野に適用することができる。例えば、上記の吸音構造体1、11は、厚みを従来よりも薄くできることから、自動車や電車などの車両の車内に設置することで、車内の音響環境の改善を図ることができる。
また、電器製品の内部に設置することで、電器製品から発する騒音を低減することが可能になり、電器製品の静音化を図ることができる。
更に、スピーカー、楽器、電子楽器等にも適用することができ、これら楽器等の製品における低音域の音響特性を改善することもできる。
更にまた、上述のように、建築物の躯体に対して壁面部を密着させるとともに振動膜を貼り合わせて、吸音構造体を構成できるので、リスニングルーム、防音室などの設計にも有利である。
【実施例】
【0063】
以下の実施例により、本発明を更に詳細に説明する。
以下の実施例では、各種の吸音構造体を評価するにあたって、ランダム入射吸音率を評価指標として用いた。ランダム入射吸音率は、残響室法吸音率とも呼ばれるもので、JIS A 1409に準じた方法により、残響室内で音を出して急に止めた際の、残響音の減衰時間から算出したものである。本実施例では、図6に示すように、容積(V)64m、表面積(S)100m、V/S=0.64の残響室20内の床面20aのほぼ中央に、試験例の吸音構造体21を複数個敷き詰めて吸音面積が1mになるように設置し、吸音構造体21の周囲には20mm厚のアクリル板からなる高さ800mmの拡散板枠22を設置した。そして、音源23を、吸音構造体21から離れた位置に配置した。このようにして、吸音構造体21の表面21aに対して、ランダムな方向から音(音による空気振動)が入射するようにした。なお、吸音率の測定は、1/3オクターブで測定した。
【0064】
「実験例1」
ポリオレフィン系樹脂層とゴム層とが積層された積層膜からなる振動膜を用意した。また、長辺長さが45〜486mm、短辺長さが40〜318mm、深さ(空気室の厚み)が5〜30mmの開口部を有する筐体を用意した。筐体の材質は、桂またはABS樹脂とした。また、筐体の肉厚(壁面部及び底面部の厚み)は3〜9mmとした。筐体の開口部に振動膜を接着剤によって接合し、開口部を振動膜で密閉して空気室として、図1に示すような、試験例1〜20の吸音構造体を製造した。振動膜は、貯蔵弾性率E’が0.63GPaで厚みが0.6mmのポリエチレン樹脂層(ポリオレフィン系樹脂層、UF240(70wt%)とHY540(30wt%)との混合物)と、貯蔵弾性率E’が0.07GPaで厚みが0.2mmのSIS樹脂層(スチレン・イソプレン・スチレン樹脂、ゴム層、ハイブラー5127)との積層膜を用いた。振動膜の物性を表1に示す。
【0065】
振動膜の貯蔵弾性率E’およびtanδは、JIS K7244−4(引張振動)に準処する測定方法により、DMS装置として、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、粘弾性スペクトロメータEXSTAR6000 DMS、形式DMS6100を用い、サンプルサイズを長さ40mm、幅10mm、厚さ1mmとし、測定条件をスパン間距離20mm、歪振幅6μm、測定周波数20Hzとして得られる値(単位:Pa)である。測定温度は、特に断りがない限り25℃である。
tanδ(損失正接)は、貯蔵弾性率(E’)に対する損失弾性率(E”)の比(E”/E’)の絶対値で表される値である。これは、実検例2〜4においても同様である。
【0066】
試験例1〜20の吸音構造体について、ランダム入射吸音率を測定した。結果を表1に示す。また、試験例2及び3の吸音率曲線を図7に示し、試験例4及び5の吸音率曲線を図8に示し、試験例14及び15の吸音率曲線を図9に示す。図7〜図9は、ランダム入射吸音率の周波数依存性を示すグラフである。
また、表1には、試験例1〜20の吸音構造体について、上記の式(1)による共振周波数の計算値を併せて示す。
【0067】
表1に示すように、試験例1〜13の吸音構造体においては、250〜400Hzの周波数帯域に、ランダム入射吸音率が0.41〜0.93程度の吸音ピークが確認された。また、図7に示すように、試験例2及び3では、315Hzと400Hzとにそれぞれ、単独の吸音ピークが観察された。更に図8に示すように、試験例4及び5では、315Hzに吸音率が最大となる吸音ピークが観察されるとともに、500Hz付近にも吸音ピークが観察された。
【0068】
一方、表1に示すように、試験例14〜20の吸音構造体においては、500〜1000Hzの周波数帯域に、ランダム入射吸音率が0.57〜0.75程度の吸音ピークが確認された。
また、図9に示すように、試験例14及び15では、630Hzと800Hzにそれぞれ、単独の吸音ピークが観察された。また、試験例14及び15では、400Hz以下の周波数帯域における最大の吸音率が0.2程度と低めであった。
【0069】
試験例14、15及び19は、開口部の長辺長さが試験例1〜13に比べて大きく、また、試験例19は空気室の厚みが小さいために、低音域の吸音特性が低下したと考えられる。また、試験例16〜18は、開口部の長辺長さ及び短辺長さが試験例1〜13に比べて小さいために、低音域の吸音特性が低下したと考えられる。更に、試験例20は、空気室の厚みが小さいために、低音域の吸音特性が低下したと考えられる。
【0070】
以上のように、試験例1〜13の吸音構造体は、試験例14〜20の吸音構造体に比べて、400Hz以下の低音領域において、0.41以上の吸音ピークが発現されており、低音域の吸音特性に優れていることがわかる。
また、試験例1〜13の吸音構造体の吸音ピークのピーク周波数は、上記の式(1)による計算値に比べて低くなっており、振動板が弾性をもって振動する板振動型の吸音材とは異なる機構で吸音しているものと考えられ、計算値よりも低周波帯域での吸音特性に優れることがわかる。
【0071】
【表1】

【0072】
「実験例2」
ポリエチレン系樹脂とゴム成分とを含むポリマーブレンド膜からなる振動膜を用意した。また、長辺長さが80〜486mm、短辺長さが80〜318mm、深さ(空気室の厚み)が10〜15mmの開口部を有する筐体を用意した。筐体の材質は、桂またはABS樹脂とした。また、筐体の肉厚(壁面部及び底面部の厚み)は3〜9mmとした。筐体の開口部に振動膜を接着剤によって接合し、開口部を振動膜で密閉して空気室として、図1に示すような、試験例21〜27の吸音構造体を製造した。振動膜は、貯蔵弾性率E’が0.4GPaのLLDPE樹脂層(ポリエチレン系樹脂)と、貯蔵弾性率E’が0.02GPaのエチレン−ブテン共重合体層(ゴム成分)と無機フィラー(硫酸バリウム)とのポリマーブレンド膜を用いた。混合比は質量比で、ポリエチレン系樹脂:ゴム成分:無機フィラー=50:20:30であった。振動膜の物性を表2に示す。
【0073】
試験例21〜27の吸音構造体について、ランダム入射吸音率を測定した。結果を表2に示す。
また、表2には、試験例21〜27の吸音構造体について、上記の式(1)による共振周波数の計算値を併せて示す。
【0074】
表2に示すように、試験例21〜25の吸音構造体においては、250〜400Hzの周波数帯域に、ランダム入射吸音率が0.41〜0.72程度の吸音ピークが確認された。
【0075】
一方、表2に示すように、試験例26〜27の吸音構造体においては、500〜630Hzの周波数帯域に、ランダム入射吸音率が0.60〜0.70程度の吸音ピークが確認された。
試験例26及び27は、開口部の長辺長さ及び短辺長さが試験例21〜25に比べて大きいために、低音域の吸音特性が低下したと考えられる。
【0076】
以上のように、試験例21〜25の吸音構造体は、試験例26〜27の吸音構造体に比べて、400Hz以下の低音領域において0.41以上の吸音ピークが発現されており、低音域の吸音特性に優れていることがわかる。
また、試験例21〜25の吸音構造体の吸音ピークのピーク周波数は、上記の式(1)による計算値に比べて低くなっており、振動板が弾性をもって振動する板振動型の吸音材とは異なる機構で吸音しているものと考えられ、計算値よりも低周波帯域での吸音特性に優れることがわかる。
【0077】
【表2】

【0078】
「実験例3」
ポリプロピレン系樹脂とゴム成分とを含むポリマーブレンド膜からなる振動膜を用意した。また、長辺長さが45〜486mm、短辺長さが40〜318mm、深さ(空気室の厚み)が5〜30mmの開口部を有する筐体を用意した。筐体の材質は、桂、PP樹脂またはABS樹脂とした。また、筐体の肉厚(壁面部及び底面部の厚み)は1〜9mmとした。筐体の開口部に振動膜を接着剤によって接合し、開口部を振動膜で密閉して空気室として、試験例28〜48の吸音構造体を製造した。振動膜は、貯蔵弾性率E’が0.65GPaのポリプロピレン系樹脂と、貯蔵弾性率E’が0.02GPaのエチレン−ブテン共重合体(ゴム成分1)と貯蔵弾性率E’が0.07GPaのSIS樹脂(ゴム成分2)と無機フィラー(硫酸バリウム)のポリマーブレンド膜を用いた。混合比は質量比で、ポリプロピレン系樹脂:ゴム成分1:ゴム成分2:無機フィラー=25:35:10:30であった。振動膜の物性を表3に示す。
【0079】
試験例28〜48の吸音構造体について、ランダム入射吸音率を測定した。結果を表3に示す。また、試験例28及び29の吸音率曲線を図10に示し、試験例30及び32の吸音率曲線を図11に示し、試験例42及び43の吸音率曲線を図12に示す。図10〜図12は、ランダム入射吸音率の周波数依存性を示すグラフである。
また、表3には、試験例28〜48の吸音構造体について、上記の式(1)による共振周波数の計算値を併せて示す。
【0080】
表3に示すように、試験例28〜41の吸音構造体においては、250〜400Hzの周波数帯域に、ランダム入射吸音率が0.42〜0.78程度の吸音ピークが確認された。また、図10に示すように、試験例28及び29では、250Hzにそれぞれ、単独の吸音ピークが観察された。更に図11に示すように、試験例30及び32では、250Hzと315Hzとにそれぞれ、単独の吸音ピークが観察された。
【0081】
一方、表3に示すように、試験例42〜48の吸音構造体においては、400〜630Hzの周波数帯域に、ランダム入射吸音率が0.3〜0.74程度の吸音ピークが確認された。
また、図12に示すように、試験例42及び43では、500Hzにそれぞれ、単独の吸音ピークが観察された。また、試験例42及び43では、400Hz以下の周波数帯域における最大の吸音率が0.3程度と低めであった。
【0082】
試験例42及び47は、開口部の長辺長さ及び短辺長さが試験例28〜41に比べて大きく、また、試験例47は空気室の厚みが小さいために、低音域の吸音特性が低下したと考えられる。また、試験例43は、開口部の長辺長さが試験例28〜41に比べて大きいために、低音域の吸音特性が低下したと考えられる。更に、試験例44〜46は、開口部の長辺長さ及び短辺長さが試験例28〜41に比べて小さいために、低音域の吸音特性が低下したと考えられる。更に、試験例48は、空気室の厚みが小さいために、低音域の吸音特性が低下したと考えられる。
【0083】
以上のように、試験例28〜41の吸音構造体は、試験例42〜48の吸音構造体に比べて、400Hz以下の低音領域において、0.42以上の吸音ピークが発現されており、低音域の吸音特性に優れていることがわかる。
また、試験例28〜41の吸音構造体の吸音ピークのピーク周波数は、上記の式(1)による計算値に比べて低くなっており、振動板が弾性をもって振動する板振動型の吸音材とは異なる機構で吸音しているものと考えられ、計算値よりも低周波帯域での吸音特性に優れることがわかる。
【0084】
【表3】

【0085】
「実験例4」
ポリエチレン膜からなる振動膜と、天然ゴムからなる振動膜とをそれぞれ用意した。また、長辺長さが156mm、短辺長さが155mm、深さ(空気室の厚み)が20mmの開口部を有する筐体を用意した。筐体の材質は、桂とした。また、筐体の肉厚(壁面部及び底面部の厚み)は9mmとした。筐体の開口部に各振動膜を接着剤によって接合し、開口部を振動膜で密閉して空気室として、試験例49〜50の吸音構造体を製造した。振動膜の物性を表4に示す。
【0086】
試験例49〜50の吸音構造体について、ランダム入射吸音率を測定した。結果を表4に示す。
また、表4には、試験例49〜50の吸音構造体について、上記の式(1)による共振周波数の計算値を併せて示す。
【0087】
表4に示すように、試験例49〜50の吸音構造体においては、500Hzの周波数帯域に、ランダム入射吸音率が0.53〜0.6程度の吸音ピークが確認された。
試験例49は、振動膜の貯蔵弾性率E’が1.1GPaと高すぎたために、低音域の吸音特性が低下したと考えられる。試験例50は、振動膜の貯蔵弾性率E’が0.01GPaと低いために、低音域の吸音特性が低下したと考えられる。
【0088】
以上のように、振動膜の貯蔵弾性率E’が0.01GPa超1.0GPa未満の範囲から外れると、低音域の吸音特性が低下することがわかる。
また、試験例49〜50の吸音構造体の吸音ピークのピーク周波数は、上記の式(1)による計算値に良く一致しており、振動板が弾性をもって振動する板振動型の吸音材であることがわかる。
【0089】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態である吸音構造体を示す分解斜視図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施形態である吸音構造体を示す拡大断面模式図である。
【図3】図3は、本発明の第2の実施形態である吸音構造体を示す分解斜視図である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施形態である吸音構造体を示す拡大断面模式図である。
【図5】図5は、本発明の第2の実施形態である吸音構造体の内部構造を示す拡大平面模式図である。
【図6】図6は、実施例におけるランダム入射吸音率の測定室を示す模式図である。
【図7】図7は、試験例2及び3の周波数とランダム入射吸音率との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、試験例4及び5の周波数とランダム入射吸音率との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、試験例14及び15の周波数とランダム入射吸音率との関係を示すグラフである。
【図10】図10は、試験例28及び29の周波数とランダム入射吸音率との関係を示すグラフである。
【図11】図11は、試験例30及び32の周波数とランダム入射吸音率との関係を示すグラフである。
【図12】図12は、試験例42及び43の周波数とランダム入射吸音率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0091】
1、11…吸音構造体、2…振動膜、2a…裏面、2b…表面、3、13…空気室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯蔵弾性率E’が0.01GPa超1.0GPa未満の範囲であり、密度が0.5(g/cm)超2.0(g/cm)未満の範囲であり、厚みが0.3mm超3.0mm未満の範囲であり、内部摩擦(tanδ)が0.001超1.0未満の範囲である振動膜と、前記振動膜の裏面側に隣接する空気室とが備えられ、前記振動膜の表面側から音による空気振動が印加された際に、400Hz以下の周波数帯域においてランダム入射吸音率が0.4以上の吸音ピークを示すことを特徴とする吸音構造体。
【請求項2】
前記空気室が複数備えられていることを特徴とする請求項1に記載の吸音構造体。
【請求項3】
前記空気室が単数であることを特徴とする請求項1に記載の吸音構造体。
【請求項4】
前記空気室の厚みが10mm以上30mm以下の範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の吸音構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−97137(P2010−97137A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270039(P2008−270039)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】