説明

吸音率計測装置、音響特性計測装置、方法、及びプログラム

【課題】精度を悪化させることなく一度の計測で広い周波数帯域の吸音率を計測する。
【解決手段】吸音率計測装置10では、音源供給部34から音響信号を供給することによりスピーカ50の音源により管内音場を励振させる。音圧取得部32は、このときの測定点Aと測定点Bの2点の音圧を取得する。取得した音圧の履歴を用いて、相関関係演算部26は、測定点Aと測定点Bの2点間の時間に関する相関関数CA,B(τ)を求める。波束抽出部28は、相関関数CA,B(τ)から、遅延時間(時間ラグ)τが小さい方から数えた第1波束と次の第2波束を抽出する。そして、吸音率演算部30では、第1波束と第2波束を用いて、音圧反射率を求めた後に、その音圧反射率を用いて吸音率αを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響管を用いて吸音率を計測する吸音率計測装置、音響管を用いて音響特性を計測する音響特性計測装置、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
音響材料の音響特性の計測に関するものとして、インピーダンス管を用いる試験による定在波比法や伝達関数法が知られている(例えば、特許文献1及び非特許文献1を参照)。 これらの方法では管の一端に音響材料を、もう一端に音源としてスピーカを設置した装置を用いる。定在波比法では管内の音圧定在波の分布を測定し、定在波の形状から入射波と反射波を同定し音圧反射率を計測する。計測対象とする周波数毎に管内の音圧を多点測定するため、手間がかかるという特徴がある。
【0003】
伝達関数法は、管内の2箇所に設置したマイクロホン間の伝達関数から音響材料への入射波と反射波を計算し、両者の比より音響特性を得る方法である。周波数分析器を援用することで広い周波数帯域の測定が一度にできるメリットがある。定在波比法に比べて測定箇所が2点と少なく、一度の試行で広い周波数帯域にわたって同時に計測できるメリットがある。この簡便さから現在のインピーダンス管による音響特性計測手法の主流となっている。一方で、マイクロホン間の距離と半波長の整数倍が一致する特定の周波数では原理的に測定できず、またその周波数に近い帯域では測定精度が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−100372号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本工業標準調査会、“音響管による吸音率及びインピーダンスの測定 JIS A 1405−1”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は係る事実を考慮し、精度を悪化させることなく一度の計測で広い周波数帯域の音響特性例えば吸音率を計測することができる吸音率計測装置、方法、プログラム、及び音響特性計測装置、方法、プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の吸音率計測装置は、一端に音源から伝播される音を導入する音導入部を設けかつ、他端に測定対象物を設けると共に、前記音導入部と前記測定対象物の間に、音圧を測定するための第1センサ及び第2センサを離間して設けた音響管を用いて、測定対象物の吸音率を計測する吸音率計測装置において、前記第1センサ及び第2センサにより測定される時間についての音圧特性に基づいて、前記第1センサ及び第2センサ間の時間についての相関関係を求める相関関係演算手段と、求めた相関関係について、遅延時間が最小の第1波束を示す第1相関関係と、前記第1波束に対して測定対象物による反射特性が付与されかつ前記最小の遅延時間の次に最小の遅延時間の第2波束を示す第2相関関係と、を抽出する抽出手段と、抽出した前記第1相関関係及び前記第2相関関係の各々を周波領域表現へ変換し、変換された第1周波領域特性と第2周波領域特性との周波領域に関する比から音圧反射率特性を求め、求めた音圧反射率特性に基づいて、測定対象物の吸音率を求める吸音率演算手段と、を備える。
【0008】
前記吸音率計測装置では、前記吸音率演算手段は、次式により音圧反射率特性を求めることができる。
【0009】
【数1】

【0010】
ただし、fは周波数、Fτ[]は遅延時間τに関するフーリエ変換、tは時間間隔、δはディラックのδ関数を表し、C1、C2は、第1波束C1、第2波束C2のフーリエ変換である。
【0011】
前記吸音率計測装置では、前記吸音率演算手段は、次式により吸音率を求めることができる。
【0012】
【数2】

【0013】
前記吸音率計測装置では、前記音導入部に導入される音の出力特性及び音響管の音響特性を除去するための予め定めたフィルタを、前記相関関係演算手段と前記抽出手段との間に介在させることができる。
【0014】
前記吸音率計測装置では、前記フィルタは、次式により定めることができる。
【0015】
【数3】

【0016】
ただし、Sが音源の周波数特性を表し、εは定数を表す。
【0017】
【数4】

【0018】
ただし、fは周波数、Fτ[]は遅延時間τに関するフーリエ変換、aはフィルタ通過周波数幅を決める定数、ωはフィルタ通過周波数帯の中心角周波数を表し、tは時間である。
【0019】
他発明の吸音率計測方法は、一端に音源から伝播される音を導入する音導入部を設けかつ、他端に測定対象物を設けると共に、前記音導入部と前記測定対象物の間に、音圧を測定するための第1センサ及び第2センサを離間して設けた音響管を用いて、測定対象物の吸音率を計測する吸音率計測方法であって、前記第1センサ及び第2センサにより測定される時間についての音圧特性に基づいて、前記第1センサ及び第2センサ間の時間についての相関関係を求める相関関係演算工程と、求めた相関関係について、遅延時間が最小の第1波束を示す第1相関関係と、前記第1波束に対して測定対象物による反射特性が付与されかつ前記最小の遅延時間の次に最小の遅延時間の第2波束を示す第2相関関係と、を抽出する抽出工程と、抽出した前記第1相関関係及び前記第2相関関係の各々を周波領域表現へ変換し、変換された第1周波領域特性と第2周波領域特性との周波領域に関する比から音圧反射率特性を求め、求めた音圧反射率特性に基づいて、測定対象物の吸音率を求める吸音率演算工程と、を含んでいる。
【0020】
他発明の吸音率計測プログラムは、一端に音源から伝播される音を導入する音導入部を設けかつ、他端に測定対象物を設けると共に、前記音導入部と前記測定対象物の間に、音圧を測定するための第1センサ及び第2センサを離間して設けた音響管を用いて、コンピュータにより測定対象物の吸音率を計測する吸音率計測プログラムであって、前記第1センサ及び第2センサにより測定される時間についての音圧特性に基づいて、前記第1センサ及び第2センサ間の時間についての相関関係を求める相関関係演算ステップと、求めた相関関係について、遅延時間が最小の第1波束を示す第1相関関係と、前記第1波束に対して測定対象物による反射特性が付与されかつ前記最小の遅延時間の次に最小の遅延時間の第2波束を示す第2相関関係と、を抽出する抽出ステップと、抽出した前記第1相関関係及び前記第2相関関係の各々を周波領域表現へ変換し、変換された第1周波領域特性と第2周波領域特性との周波領域に関する比から音圧反射率特性を求め、求めた音圧反射率特性に基づいて、測定対象物の吸音率を求める吸音率演算ステップと、を含んでいる。
【0021】
他発明の音響特性計測装置は、一端に音源から伝播される音を導入する音導入部を設けかつ、他端に測定対象物を設けると共に、前記音導入部と前記測定対象物の間に、音圧を測定するための第1センサ及び第2センサを離間して設けた音響管を用いて、測定対象物の音響特性を計測する音響特性計測装置において、前記第1センサ及び第2センサにより測定される時間についての音圧特性に基づいて、前記第1センサ及び第2センサ間の時間についての相関関係を求める相関関係演算手段と、求めた相関関係について、遅延時間が最小の第1波束を示す第1相関関係と、前記第1波束に対して測定対象物による反射特性が付与されかつ前記最小の遅延時間の次に最小の遅延時間の第2波束を示す第2相関関係と、を抽出する抽出手段と、抽出した前記第1相関関係及び前記第2相関関係の各々を周波領域表現へ変換し、変換された第1周波領域特性と第2周波領域特性との周波領域に関する比から音圧反射率特性を求め、求めた音圧反射率特性を、測定対象物の音響特性として求める、または求めた音圧反射率特性に基づいて吸音率または音響インピーダンスを求めて前記音圧反射率特性、前記吸音率、及び前記音響インピーダンスの少なくとも1つを測定対象物の音響特性として求める音響特性演算手段と、を備えている。
【0022】
前記音響特性計測装置では、前記音響特性演算手段は、次式により吸音率αを求めることができる。
【0023】
【数5】

【0024】
ただし、Rは音圧反射率特性を表す。
【0025】
前記音響特性計測装置では、前記音響特性演算手段は、次式により音響インピーダンスZを求めることができる。
【0026】
【数6】

【0027】
ただし、ρは媒質の密度を表し、cは音速を表す。
【0028】
前記音響特性計測装置では、前記音導入部に導入される音の出力特性及び音響管の音響特性を除去するために、次式で定めたフィルタを、前記相関関係演算手段と前記抽出手段との間に介在させることができる。
【0029】
【数7】

【0030】
ただし、Sが音源の周波数特性を表し、εは定数を表す。
【0031】
【数8】

【0032】
ただし、fは周波数、Fτ[]は遅延時間τに関するフーリエ変換、aはフィルタ通過周波数幅を決める定数、ωはフィルタ通過周波数帯の中心角周波数を表し、tは時間である。
【0033】
他発明の音響特性計測方法は、一端に音源から伝播される音を導入する音導入部を設けかつ、他端に測定対象物を設けると共に、前記音導入部と前記測定対象物の間に、音圧を測定するための第1センサ及び第2センサを離間して設けた音響管を用いて、測定対象物の音響特性を計測する音響特性計測方法であって、前記第1センサ及び第2センサにより測定される時間についての音圧特性に基づいて、前記第1センサ及び第2センサ間の時間についての相関関係を求める相関関係演算工程と、求めた相関関係について、遅延時間が最小の第1波束を示す第1相関関係と、前記第1波束に対して測定対象物による反射特性が付与されかつ前記最小の遅延時間の次に最小の遅延時間の第2波束を示す第2相関関係と、を抽出する抽出工程と、抽出した前記第1相関関係及び前記第2相関関係の各々を周波領域表現へ変換し、変換された第1周波領域特性と第2周波領域特性との周波領域に関する比から音圧反射率特性を求め、求めた音圧反射率特性を、測定対象物の音響特性として求める、または求めた音圧反射率特性に基づいて吸音率または音響インピーダンスを求めて前記音圧反射率特性、前記吸音率、及び前記音響インピーダンスの少なくとも1つを測定対象物の音響特性として求める音響特性演算工程と、を含んでいる。
【0034】
他発明の音響特性計測プログラムは、一端に音源から伝播される音を導入する音導入部を設けかつ、他端に測定対象物を設けると共に、前記音導入部と前記測定対象物の間に、音圧を測定するための第1センサ及び第2センサを離間して設けた音響管を用いて、コンピュータにより測定対象物の音響特性を計測する音響特性計測プログラムであって、前記第1センサ及び第2センサにより測定される時間についての音圧特性に基づいて、前記第1センサ及び第2センサ間の時間についての相関関係を求める相関関係演算ステップと、求めた相関関係について、遅延時間が最小の第1波束を示す第1相関関係と、前記第1波束に対して測定対象物による反射特性が付与されかつ前記最小の遅延時間の次に最小の遅延時間の第2波束を示す第2相関関係と、を抽出する抽出ステップと、抽出した前記第1相関関係及び前記第2相関関係の各々を周波領域表現へ変換し、変換された第1周波領域特性と第2周波領域特性との周波領域に関する比から音圧反射率特性を求め、求めた音圧反射率特性を、測定対象物の音響特性として求める、または求めた音圧反射率特性に基づいて吸音率または音響インピーダンスを求めて前記音圧反射率特性、前記吸音率、及び前記音響インピーダンスの少なくとも1つを測定対象物の音響特性として求める音響特性演算ステップと、を含んでいる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、一度の計測により、特定周波数での計測精度の低下が発生することなく、広い周波数帯域の吸音率を求めることができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施の形態に係る吸音率計測装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施の形態に係り、一様な周波数特性の音源を用いたときの典型的な相関関数を示す波形図である。
【図3】本発明の第1実施の形態に係る処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1実施の形態に係る吸音率を求める過程における相関関数の試験結果を示す線図であり、(A)は測定点の音圧時刻歴による相関関数の計算結果、(B)はその相関関数にスピーカの応答の逆二乗特性をフィルタリングしたときの波形を示したものである。
【図5】本発明の第1実施の形態に係る吸音率を求める過程における各種演算の試験結果を示す線図であり、(A)は、第1波束と第2波束、(B)は各波束のフーリエ変換結果、(C)は音圧反射率を示した。
【図6】本発明の第2実施の形態に係る音響インピーダンス計測装置の一例を示す概略構成図である。
【図7】本発明の第3実施の形態に係る音圧反射率計測装置の一例を示す概略構成図である。
【図8】本発明の第4実施の形態に係る音響特性計測装置の一例を示す概略構成図である。
【図9】本発明の第4実施の形態に係る処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。本実施形態は、音場の時間に関する相関関数にインパルス応答(伝達特性)が含まれているという点に着目し、相関関数を求めて信号処理にかけることで音響材料などの測定対象物の音響特性(例えば吸音率)を求めるものである。
【0038】
<第1実施形態>
本実施の形態では、音響特性として吸音率を計測する吸音率計測装置について説明する。
【0039】
図1には、測定対象物の吸音率を計測するために用いられる音響管42が示されている。音響管42は、所謂伝達関数法や2マイクロフォン法で知られる吸音率測定のための筒形状のものであり、その一端に測定対象物40が取り付けられ、他端にスピーカ50が取り付けられている。本実施形態では、音響管42として、全長2.5[m]のアルミ製インピーダンス管を用いている。また、測定対象物40は、吸音板などの音響材料や、建築材料など吸音率を計測するための物品が挙げられる。本実施形態では、測定対象物40として、グラスウール(厚さ50[mm], 密度48[kg/m])を用い、空気層無しとした剛壁密着状態で測定対象物40を音響管42内に設置した場合を説明する。
【0040】
測定対象物40とスピーカ50との間には、管内の音圧を検出するための第1マイクロフォン44と第2マイクロフォン46が離間して取り付けられている。第1マイクロフォン44は、測定対象物40から距離Lの位置に取り付けられている。第2マイクロフォン46は測定対象物40から距離Mの位置に取り付けられている。これら第1マイクロフォン44が取り付けられた測定点A及び第2マイクロフォン46が取り付けられた測定点Bの2点により、音響管42の内部の音圧を検出する。
【0041】
なお、本実施形態では、典型的な音源としてスピーカ50を音響管42の他端に取り付ける場合を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば音を発する他の音源でもよい。また、本実施形態では、吸音率計測のために音響管42内に音を供給すればよいので、音響管42の他端を開放し、音を取り入れるための開放空間としてもよい。この場合、音源は音響管42の外部に存在することになるが、開放されている音を取り入れるための開放空間を音源と見なすことができる。
【0042】
この音響管42に取り付けられた第1マイクロフォン44と第2マイクロフォン46で検出した音圧が電気信号として吸音率計測装置10に入力されるようになっている。
【0043】
吸音率計測装置10は、CPU12,ROM14,RAM16が入出力ポート(以下、I/Oという)18に接続され、コマンドやデータが授受可能なコンピュータ構成とされている。このI/O18には、各種データやプログラムが格納されたメモリ20が接続されている。また、I/O18には、コマンドやデータ入力のためのキーボードなどの入力装置22、及びコマンドやデータを表示するための表示装置24が接続されている。なお、メモリ20には、後述する数式データや係数データ、および以下に説明する処理プログラムが記憶されている。
【0044】
なお、図示は省略したが、I/O18に、記録媒体としてのフレキシブルディスクなどが挿抜可能な図示しないリードライトユニットを接続することができる。なお、後述する処理ルーチンや内部で利用するデータ等は、図示しないリードライトユニットを用いてフレキシブルディスクに対して読み書き可能である。また、ハードディスク装置等の大容量記憶装置(図示省略)を接続し、フレキシブルディスクに記録された処理プログラムを大容量記憶装置(図示省略)へ格納(インストール)して実行するようにしてもよい。また、記録媒体としては、任意の磁気的なものや光学的なものとしての記録媒体がある。例えば、CD−ROM,MD,MO,DVD等のディスクやDAT等の磁気テープがあり、これらを用いるときには、上記リードライトユニットに代えてまたはさらにCD−ROM装置、MD装置、MO装置、DVD装置、DAT装置等を用いればよい。また、ICカードなどの記録媒体も利用可能である。
【0045】
I/O18には、相関関係演算部26,波束抽出部28,吸音率演算部30、音圧取得部32,及び音源供給部34が接続されている。
【0046】
相関関係演算部26は、音響管42における音圧についての測定点Aと測定点Bとの2点間の時間に関する相関関数を演算する処理部である。波束抽出部28は、相関関係演算部26で求めた相関関係について、遅延時間が最小の第1波束を示す第1相関関係と、その第1波束に対して測定対象物による反射特性が付与されかつ最小の遅延時間の次に最小の遅延時間の第2波束を示す第2相関関係と、を抽出することによって、第1波束と第2波束を抽出する処理部である。吸音率演算部30は、波束抽出部28で抽出した第1波束と第2波束から音圧反射率を求め、その音圧反射率から吸音率を演算する処理部である。
【0047】
音圧取得部32は、第1マイクロフォン44及び第2マイクロフォン46に接続されており、第1マイクロフォン44及び第2マイクロフォン46で測定した音圧が入力されるようになっている。また、音源供給部34は、スピーカ50へ音源として再生させるための音源信号を供給するための処理部である。
【0048】
なお、本実施形態では、音源供給部34を吸音率計測装置10が備える場合を説明するが、本発明はこれに限定されない。すなわち、吸音率計測装置10は、第1マイクロフォン44及び第2マイクロフォン46の2点で検出した音圧に基づき、吸音率を求めることができればよい。このため、音源を再生するための装置は別個に独立して構成してもよい。また、上記のように、音響管42の他端を開放し、音を取り入れるための開放空間とする場合には、音源供給部34及びスピーカ50は不要である。
【0049】
・吸音率演算の原理及び概要
次に、吸音率計測装置10における吸音率演算の原理を説明する。
本発明者は、音場の時間に関する相関関数にインパルス応答(伝達特性)が含まれているという点に着目し、相関関数を求めて信号処理して測定対象物の吸音率を求めることができるという知見を得た。
【0050】
まず、スピーカ50の音源により管内音場を励振させて、測定点Aと測定点Bの2点間の時間に関する相関関数を求める。具体的には、スピーカにより音源を再生させ音響管42内部の音圧波形を第1マイクロフォン44及び第2マイクロフォン46の2点で測定する。このときの測定点Aと測定点Bの音圧時刻歴をp(t),p(t)と表すと測定点Aと測定点Bの2点間の時間に関する相関関数CA,B(τ)は次の(1)式で表すことができる。
【0051】
【数9】

【0052】
但し、τは遅延時間(時間ラグ)を表すパラメータである。Tは時間に関する相関関数の計算に使用する信号時間幅である。
【0053】
ここで、音源として再生出力の周波数特性が一様となるノイズ(所謂ホワイトノイズ)を用いると、その相関関数は典型的には図2に示す波形となる。相関関数は、遅延時間(時間ラグ)τが小さい方から順に第1波束、第2波束、第3波束、・・・、と続く。
【0054】
ところで、上記相関関係を考慮する場合、遅延時間(時間ラグ)τが小さい方から数えた一つ目の第1波束と二つ目の第2波束について考えればよい。このことは、時間に関する相関関係を想定した場合、時間が逆行する負の遅延時間を考慮する必要がない(負領域排除)ためである。また、管内を伝達する音で測定対象物とスピーカ50による再帰反射による波束を考えると、遅延時間に相違があるものの、管内で伝達される音の経路は、遅延時間(時間ラグ)τが小さい方から数えた一つ目の第1波束Cと二つ目の第2波束Cの関係を繰り返すことに相当する。従って、遅延時間(時間ラグ)τが小さい方から数えた一つ目の第1波束と二つ目の第2波束について考えればよい。この遅延時間(時間ラグ)τが小さい方から数えた一つ目の第1波束Cと二つ目の第2波束Cは次式の関係にある。
【0055】
【数10】

【0056】
但し、Rは音響材料の反射インパルス応答で音圧反射率の逆フーリエ変換に一致する。t[s]は測定位置Aから音響材料までの距離L[m]の2倍を管内の音速c[m/s]で割った値(2L/c)である。
【0057】
この(2)式は、第2マイクロフォン46の測定点Bの位置を通過し無反射で第1マイクロフォン44の測定点Aの位置へ伝播した音に対応する相関関数が第1波束Cに対応し、第2マイクロフォン46の測定点Bの位置を通り音響管42の一端の測定対象物40(音響材料等)で反射した後に第1マイクロフォン44の測定点Aの位置へ伝播した音の相関関数が第2波束Cに対応する。すなわち、これら第1波束と第2波束の関係は、無反射でマイクロフォンの測定点の位置へ伝播した音の関係と、一端の測定対象物40(音響材料等)で反射した後にマイクロフォンの測定点の位置へ伝播した音の関係に対応する。
【0058】
このことは、(2)式によれば第2波束Cから第1波束Cを逆畳込みした波形を、時間間隔tだけ引き戻すと反射インパルス応答Rを求めることができることに相当する。本実施形態では、この逆畳込みを周波数軸上で実行する。具体的には、(2)式の両辺をフーリエ変換して整理すると、次の(3)式に示すように反射インパルス応答のフーリエ変換である音圧反射率R(ハット)を得ることができる。
【0059】
【数11】

【0060】
但し、fは周波数[Hz]、Fτ[ ]はτに関するフーリエ変換、δはディラックのデルタ関数を表わす。C(ハット)、C(ハット)はそれぞれ第1波束及び第2波束のフーリエ変換である。
【0061】
なお、ここでは、音圧反射率として、(3)式に示す反射インパルス応答のフーリエ変換による場合を説明したが、本発明はこれに限定されず、(3)式以外の反射インパルス応答による計算により求めるようにしてもよい。例えば、ARMAモデル化に代表される線形予測法が挙げられる。すなわち、第1波束Cがモデルへの入力、第2波束Cは第1波束Cに起因する出力と考えて、伝達パラメータの最適化を行えばよい。
【0062】
このようにして求めた音圧反射率を用いて次の(4)式により吸音率αを求めることができる。
【0063】
【数12】

【0064】
以上のことから、吸音率計測装置10では、音源供給部34から音響信号を供給することによりスピーカ50による音源により管内音場を励振させる。音圧取得部32は、このときの測定点Aと測定点Bの2点の音圧を取得する。取得した音圧の履歴により、相関関係演算部26は、測定点Aと測定点Bの2点間の時間に関する相関関数CA,B(τ)を求める。波束抽出部28は、相関関数CA,B(τ)から、遅延時間(時間ラグ)τが小さい方から数えた第1波束と次の第2波束を抽出する。そして、吸音率演算部30は、第1波束と第2波束を用いて、音圧反射率を求めた後に、その音圧反射率を用いて吸音率αを求める。
【0065】
・フィルタ
ところで、(3)式で示した音圧反射率を求めるためには、全体の時間に関する相関関数CA,B(τ)から第1波束Cと第2波束Cを切り出す必要がある。ところが、音源出力の特性や管内の音響特性によっては、図2に示す各波束が独立したような明確な波束が得られず、第1波束Cと第2波束Cが時間波形上で重なり、第1波束Cと第2波束Cの切り出しが困難となる場合がある。この場合、波束の切り出し(抽出)を容易にするためのフィルタを予め作成しておき、そのフィルタによって相関関数CA,B(τ)をフィルタリングすることで、波束が収縮され、波束の切り出しが容易になる。
【0066】
一例として、音源としてスピーカを使用した場合には、フィルタとしては音源の周波数応答の逆二乗特性を有するものを用いることで、波束を十分に収縮できる場合がある。例えば、次の(5)式で表すフィルタを用いて相関関数CA,B(τ)にフィルタリングすることで、波束を収縮させることができる。
【0067】
【数13】

【0068】
但し、S(ハット)は音源の周波数特性(インパルス応答のフーリエ変換)、G(ハット)は次の(6)式へ表したガボールフィルタ(ガウシアンフィルタ)である。
【0069】
【数14】

【0070】
なお、本実施形態では、ガボールフィルタのパラメータは音響管の上限周波数4,000[Hz]以下を透過させるように設計した(具体的にはa=√2π・4,000≒10,023、ω=0)。また、またεはS(ハット)が略0での発散(ゼロ割)を回避するために導入した定数である。この場合、S(ハット)の4乗を周波数の関数としてみたときの最大値の10−8倍とした。これにより、音源の周波数依存性が取り除かれ、かつガボールフィルタにより波束を小さくできる。
【0071】
このことから、上記吸音率計測装置10の波束抽出部28では、相関関数CA,B(τ)から、遅延時間(時間ラグ)τが小さい方から数えた第1波束と次の第2波束を抽出するにあたり、相関関数CA,B(τ)に上述のフィルタリング処理を施す。これによって、第1波束と第2波束を容易に抽出できる。
【0072】
・吸音率計測装置の動作処理
図3は、吸音率計測装置10において実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。本処理は、例えば、吸音率計測装置10の使用者が入力装置22を操作してメモリ20に記憶された吸音率計測プログラムが起動された場合等に実行される。なお、メモリ20に記憶されたプログラムを実行することに限定されるものではなく、フレキシブルディスクなどの記録媒体に格納されたプログラムを読み取って実行してもよい。
【0073】
まず、ステップ102では、吸音率計測装置10における吸音率計測処理の初期設定を実行する。この初期設定には、再生する音源の指定値(本実施形態ではホワイトノイズを示す値)、音響管42に取り付けた第1マイクロフォン44及び第2マイクロフォン46の位置関係の値(本実施形態では、L=0.61m,M=1.36m)等がある。次のステップ104では、音源を再生する。この処理は、ホワイトノイズがスピーカ50で再生されるように音響信号を音源供給部34からスピーカ50へ供給することであり、この処理によって音響管の管内音場が励振される。
【0074】
次に、ステップ106では、測定点A,Bの音圧測定を行う。この処理は、第1マイクロフォン44及び第2マイクロフォン46からの信号を取得する処理であり、音圧取得部32において実行される、測定点Aと測定点Bの2点の音圧を取得する処理である。次のステップ108では、測定点A,Bの音圧時刻歴P(t),P(t)の記録を行う。この処理は、ステップ106で取得した測定点Aと測定点Bの2点の音圧を時系列的に記録する処理である。この処理は、音圧取得部32において、取得した測定点Aと測定点Bの2点の音圧を一定間隔でサンプリングした音圧をデジタル信号に変換して時系列的に音圧特性として記録するようにすればよい。
【0075】
次のステップ110では、測定点Aと測定点Bの2点間の時間に関する相関関数CA,B(τ)の演算を行う。この処理は、上述のように(1)式により測定点Aと測定点Bの2点間の時間に関する相関関数CA,B(τ)を求める処理である。具体的には、相関関係演算部26において実行され、ステップ108で記録した音圧時刻歴を用い、(1)式により測定点Aと測定点Bの2点間の時間に関する相関関数CA,B(τ)を求めるものである。
【0076】
次のステップ112では、音源の周波数依存性除去を行う。この処理は、上述のように、(3)式で示した音圧反射率を求めるために、相関関数CA,B(τ)から第1波束Cと第2波束Cを切り出す(抽出する)ことを容易にするための処理である。具体的には、(5)式によるフィルタによって相関関数CA,B(τ)をフィルタリングすることである。このフィルタリングによって、第1波束Cと第2波束Cが収縮され、第1波束Cと第2波束Cの抽出(切り出し)が容易になる。このフィルタリング処理は、波束抽出部28において後述する第1波束と第2波束の抽出処理前に実行されるようにしてもよく、また独立した処理部として構成してもよい。
【0077】
次のステップ114では、第1波束と第2波束を抽出する。この処理は、波束抽出部28において実行され、ステップ112でフィルタリングした相関関数CA,B(τ)から、第1波束と第2波束を抽出する処理であり、具体的には相関関数CA,B(τ)から、遅延時間(時間ラグ)τが小さい方から数えた第1波束と次の第2波束を抽出する処理である。この場合、上述のフィルタリングにより、第1波束と第2波束は各々独立したものとなるので、抽出(切り出し)は容易である。
【0078】
次のステップ116では、抽出した第1波束Cと第2波束Cの後処理を行う。この処理は、後の演算を容易にするための処理、すなわち実データを数値的にフーリエ変換するための窓関数を用いた処理である。具体的には、本実施形態では、第1波束Cと第2波束Cの各々の抽出後に、DCカット、ローパスフィルタリングとハミング窓による窓掛けを行う処理である。この窓掛け処理を含む第1波束Cと第2波束Cの後処理は、波束抽出部28において実行されるようにしてもよく、また独立した処理部として構成してもよい。
【0079】
次のステップ118では、音圧反射率特性の導出を行う。この処理は、吸音率演算部30において実行され、第1波束Cと第2波束Cを用いて、上記(3)式により音圧反射率を求める処理である。次のステップ120では、上記ステップ118で求めた音圧反射率を用いて吸音率の演算を行う。この処理は、吸音率演算部30において実行され、上記(4)式により吸音率αを求める処理である。
【0080】
以上のようにして求めた吸音率を、次のステップ122で出力する。この吸音率の出力は、ステップ120で求めた吸音率を図化して表示するようにしてもよく、数値化して数値データとして出力してもよい。
【0081】
以上の処理により計測した吸音率を求める過程の試験結果を図4及び図5に示した。音圧測定時には、上記のようにホワイトノイズを発生させて管内音場を励振させ音圧の時刻歴を吸音率計測装置10に記録し、測定終了後に相関関数を計算した。図4(A)は、測定点A,Bの音圧時刻歴P(t),P(t)を用いて、(1)式に基づく時間に関する相関関数を計算した結果を示したものである。図4(B)は、時間に関する相関関数(図4(A))に対して、事前測定により準備したスピーカ50の応答の逆二乗特性をフィルタリングした波形を示したものである。音源の出力特性の除去により波束が収束し、この後の第1波束Cと第2波束Cの切り出しが容易になることが理解できる。
【0082】
次に、図5(A)には、切り出した第1波束Cと第2波束Cを示し、図5(B)には各波束のフーリエ変換結果を示し、図5(C)には(3)式により計算された音圧反射率を示した。なお、図5(C)には伝達関数法で得られた音圧反射率も同時に示した。本実施形態の測定及び演算と、従来の伝達関数法による結果は、多くの周波数帯域で音圧反射率は略一致している。
【0083】
また、伝達関数法では3500[Hz]周辺でピーク性の異常な値が見られるが、これは伝達関数法で計測する際のマイクロフォン間の距離0.05[m]が半波長に一致する場合に原理的に測定できない周波数のためである。一方、図5(C)から理解されるように、本実施形態では、従来の伝達関数法で計測した場合のような異常値は見られない。
【0084】
以上説明したように、本実施の形態では、定在波比法や伝達関数に基づく、インピーダンス管を用いた吸音率測定が可能となる。また、定在波比法と異なり一度の試行で広い周波数帯域の測定が可能であるとともに、伝達関数法に見られる特定周波数での計測精度の低下が発生しない。
【0085】
<第2実施形態>
本実施の形態は、音響特性として音響インピーダンスを計測する音響インピーダンス計測装置に本発明を適用したものである。なお、本実施形態は、上記実施形態と同様の構成のため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0086】
図6には、本実施形態にかかる音響インピーダンス計測装置10Aが示されている。図1に示す吸音率計測装置10と異なる構成は、吸音率演算部30に代えて音響インピーダンス演算部36を備えたことである。音響インピーダンス演算部36は、音圧反射率Rを用いて次の(7)式により音響インピーダンスZを求める処理部である。すなわち、吸音率αに代えて、音響インピーダンスZを求める。
【0087】
【数15】

【0088】
なお、図3の処理ルーチンでは、ステップ120の吸音率の演算に代えて、音響インピーダンスZを求める処理を実行するようにする。
【0089】
以上のことから、音響インピーダンス計測装置10Aでは、音源供給部34から音響信号を供給することによりスピーカ50による音源により管内音場を励振させ、音圧取得部32が測定点Aと測定点Bの2点の音圧を取得する。取得した音圧の履歴により、相関関係演算部26は、測定点Aと測定点Bの2点間の時間に関する相関関数CA,B(τ)を求める。波束抽出部28は、相関関数CA,B(τ)から、遅延時間(時間ラグ)τが小さい方から数えた第1波束と次の第2波束を抽出する。そして、音響インピーダンス演算部36は、第1波束と第2波束を用いて、音圧反射率を求めた後に、その音圧反射率を用いて音響インピーダンスZを求める。
【0090】
このように、本実施の形態では、上記実施形態と同様に、定在波比法や伝達関数に基づく、インピーダンス管を用いた音響インピーダンスZの測定が可能となる。また、定在波比法と異なり一度の試行で広い周波数帯域の測定が可能であるとともに、伝達関数法に見られる特定周波数での計測精度の低下が発生しない。
【0091】
<第3実施形態>
本実施の形態は、音響特性として、吸音率αや音響インピーダンスZの元となる音圧反射率を求める音圧反射率計測装置に本発明を適用したものである。なお、本実施形態は、上記実施形態と同様の構成のため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0092】
図7には、本実施形態にかかる音圧反射率計測装置10Bが示されている。図1に示す吸音率計測装置10と異なる構成は、吸音率演算部30に代えて音圧反射率演算部37を備えたことである。音圧反射率演算部37は、上述の(3)式による音圧反射率を求める処理部である。すなわち、吸音率αに代えて、音圧反射率のみを求めればよい。
【0093】
なお、図3の処理ルーチンでは、ステップ120の吸音率の演算処理は不要である。すなわち、ステップ118の次にステップ122の処理が連続するようにすればよい。
【0094】
本実施形態の音圧反射率計測装置10Bは、音源供給部34から音響信号を供給することによりスピーカ50による音源により管内音場を励振させ、音圧取得部32が測定点Aと測定点Bの2点の音圧を取得する。取得した音圧の履歴により、相関関係演算部26は、測定点Aと測定点Bの2点間の時間に関する相関関数CA,B(τ)を求める。波束抽出部28は、相関関数CA,B(τ)から、遅延時間(時間ラグ)τが小さい方から数えた第1波束と次の第2波束を抽出する。そして、音響インピーダンス演算部36は、第1波束と第2波束を用いて、音圧反射率を求めた後に、その音圧反射率を出力する。
【0095】
このように、本実施の形態では、音圧反射率を求めることができるので、吸音率や音響インピーダンスを簡単な計算によって求めることができる。また上記実施形態と同様に、定在波比法や伝達関数に基づくインピーダンス管を用いた吸音率や音響インピーダンスの測定に対する元となる数値データを提供することが可能となる。また、定在波比法と異なり一度の試行で広い周波数帯域の測定が可能であるとともに、伝達関数法に見られる特定周波数での計測精度の低下が発生しない。
【0096】
<第4実施形態>
本実施の形態は、上記実施形態を組み合わせることにより、音響特性として吸音率、音響インピーダンス及び音圧反射率の少なくとも1つを計測する音響特性計測装置に本発明を適用したものである。なお、本実施形態は、上記実施形態と同様の構成のため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0097】
図8には、本実施形態にかかる音響特性計測装置10Cが示されている。図1に示す吸音率計測装置10と異なる構成は、吸音率演算部30に代えて音響特性演算部38を備えたことである。音響特性演算部38は、吸音率演算部30、音響インピーダンス演算部36、及び音圧反射率演算部37を備えている。また、これら吸音率演算部30、音響インピーダンス演算部36、及び音圧反射率演算部37は、切替器39に接続されており、吸音率演算部30、音響インピーダンス演算部36、及び音圧反射率演算部37の何れかを利用可能に構成されている。従って、音響特性演算部38は、吸音率α、音響インピーダンスZ、及び音圧反射率の何れも求めることができる。
【0098】
なお、本実施形態の処理ルーチンは、図3のステップ118からステップ122の処理に代えて、ステップ118とステップ122の間に、音響特性の選択及び該当する音響特性を求めるステップ130〜ステップ136の処理を追加した図9の処理を実行するようにする。
【0099】
詳細には、ステップ118で音圧反射率特性を導出した後、ステップ130へ進む。ステップ130では、音響特性として吸音率、音響インピーダンス及び音圧反射率の少なくとも1つが選択されているか否かを判断する。この選択は、予め入力装置22により選択さらたものを読み取ってもよく、ステップ130で利用者に選択させるようにしてもよい。吸音率、音響インピーダンス及び音圧反射率の何れか1つが選択されている場合、ステップ132へ進み、該当する音響特性を演算し、ステップ122へ進み、演算結果を出力する。また、吸音率、音響インピーダンス及び音圧反射率の複数が選択されている場合、ステップ134へ進み、該当する複数の音響特性を演算し、ステップ122へ進み、演算結果を出力する。さらに、吸音率、音響インピーダンス及び音圧反射率の全てが選択されている場合、ステップ136へ進み、全ての音響特性を演算し、ステップ122へ進み、演算結果を出力する。なお、ステップ132、134、136の処理で音圧反射率を求める場合、音圧反射率はステップ118で導出済みのため、演算を省略することができる。
【0100】
このように、本実施形態では、音響特性として吸音率、音響インピーダンス及び音圧反射率の少なくとも1つを求めることができる。従って、入手を希望する音響特性を容易に選択肢、提供することが可能となる。
【0101】
以上説明したように、上記各実施の形態では、定在波比法や伝達関数に基づいて、インピーダンス管を用いた各種の音響材料測定が可能となる。また、定在波比法と異なり一度の試行で広い周波数帯域の測定が可能であるとともに、伝達関数法に見られる特定周波数での計測精度の低下が発生しない結果を得ることができる。
【符号の説明】
【0102】
α…吸音率
Z…音響インピーダンス
10…吸音率計測装置
10A…音響インピーダンス計測装置
10B…音圧反射率計測装置
10C…音響特性計測装置
12…CPU
14…ROM
16…RAM
18…I/O
20…メモリ
22…入力装置
24…表示装置
26…相関関係演算部
28…波束抽出部
30…吸音率演算部
32…音圧取得部
34…音源供給部
36…音響インピーダンス演算部
37…音圧反射率演算部
38…音響特性演算部
40…測定対象物
42…音響管
44…第1マイクロフォン
46…第2マイクロフォン
50…スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に音源から伝播される音を導入する音導入部を設けかつ、他端に測定対象物を設けると共に、前記音導入部と前記測定対象物の間に、音圧を測定するための第1センサ及び第2センサを離間して設けた音響管を用いて、測定対象物の吸音率を計測する吸音率計測装置において、
前記第1センサ及び第2センサにより測定される時間についての音圧特性に基づいて、前記第1センサ及び第2センサ間の時間についての相関関係を求める相関関係演算手段と、
求めた相関関係について、遅延時間が最小の第1波束を示す第1相関関係と、前記第1波束に対して測定対象物による反射特性が付与されかつ前記最小の遅延時間の次に最小の遅延時間の第2波束を示す第2相関関係と、を抽出する抽出手段と、
抽出した前記第1相関関係及び前記第2相関関係の各々を周波領域表現へ変換し、変換された第1周波領域特性と第2周波領域特性との周波領域に関する比から音圧反射率特性を求め、求めた音圧反射率特性に基づいて、測定対象物の吸音率を求める吸音率演算手段と、
を備えた吸音率計測装置。
【請求項2】
前記吸音率演算手段は、次式により音圧反射率特性を求めることを特徴とする請求項1に記載の吸音率計測装置。
【数1】



ただし、fは周波数、Fτ[]は遅延時間τに関するフーリエ変換、tは時間間隔、δはディラックのδ関数を表し、C1、C2は、第1波束C1、第2波束C2のフーリエ変換である。
【請求項3】
前記吸音率演算手段は、次式により吸音率αを求めることを特徴とする請求項2に記載の吸音率計測装置。
【数2】

【請求項4】
前記音導入部に導入される音の出力特性及び音響管の音響特性を除去するための予め定めたフィルタを、前記相関関係演算手段と前記抽出手段との間に介在させることを特徴とすることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の吸音率計測装置。
【請求項5】
前記フィルタは、次式により定めることを特徴とする請求項4に記載の吸音率計測装置。
【数3】



ただし、Sが音源の周波数特性を表し、εは定数を表す。
【数4】


ただし、fは周波数、Fτ[]は遅延時間τに関するフーリエ変換、aはフィルタ通過周波数幅を決める定数、ωはフィルタ通過周波数帯の中心角周波数を表し、tは時間である。
【請求項6】
一端に音源から伝播される音を導入する音導入部を設けかつ、他端に測定対象物を設けると共に、前記音導入部と前記測定対象物の間に、音圧を測定するための第1センサ及び第2センサを離間して設けた音響管を用いて、測定対象物の吸音率を計測する吸音率計測方法であって、
前記第1センサ及び第2センサにより測定される時間についての音圧特性に基づいて、前記第1センサ及び第2センサ間の時間についての相関関係を求める相関関係演算工程と、
求めた相関関係について、遅延時間が最小の第1波束を示す第1相関関係と、前記第1波束に対して測定対象物による反射特性が付与されかつ前記最小の遅延時間の次に最小の遅延時間の第2波束を示す第2相関関係と、を抽出する抽出工程と、
抽出した前記第1相関関係及び前記第2相関関係の各々を周波領域表現へ変換し、変換された第1周波領域特性と第2周波領域特性との周波領域に関する比から音圧反射率特性を求め、求めた音圧反射率特性に基づいて、測定対象物の吸音率を求める吸音率演算工程と、
を含む吸音率計測方法。
【請求項7】
一端に音源から伝播される音を導入する音導入部を設けかつ、他端に測定対象物を設けると共に、前記音導入部と前記測定対象物の間に、音圧を測定するための第1センサ及び第2センサを離間して設けた音響管を用いて、コンピュータにより測定対象物の吸音率を計測する吸音率計測プログラムであって、
前記第1センサ及び第2センサにより測定される時間についての音圧特性に基づいて、前記第1センサ及び第2センサ間の時間についての相関関係を求める相関関係演算ステップと、
求めた相関関係について、遅延時間が最小の第1波束を示す第1相関関係と、前記第1波束に対して測定対象物による反射特性が付与されかつ前記最小の遅延時間の次に最小の遅延時間の第2波束を示す第2相関関係と、を抽出する抽出ステップと、
抽出した前記第1相関関係及び前記第2相関関係の各々を周波領域表現へ変換し、変換された第1周波領域特性と第2周波領域特性との周波領域に関する比から音圧反射率特性を求め、求めた音圧反射率特性に基づいて、測定対象物の吸音率を求める吸音率演算ステップと、
を含む吸音率計測プログラム。
【請求項8】
一端に音源から伝播される音を導入する音導入部を設けかつ、他端に測定対象物を設けると共に、前記音導入部と前記測定対象物の間に、音圧を測定するための第1センサ及び第2センサを離間して設けた音響管を用いて、測定対象物の音響特性を計測する音響特性計測装置において、
前記第1センサ及び第2センサにより測定される時間についての音圧特性に基づいて、前記第1センサ及び第2センサ間の時間についての相関関係を求める相関関係演算手段と、
求めた相関関係について、遅延時間が最小の第1波束を示す第1相関関係と、前記第1波束に対して測定対象物による反射特性が付与されかつ前記最小の遅延時間の次に最小の遅延時間の第2波束を示す第2相関関係と、を抽出する抽出手段と、
抽出した前記第1相関関係及び前記第2相関関係の各々を周波領域表現へ変換し、変換された第1周波領域特性と第2周波領域特性との周波領域に関する比から音圧反射率特性を求め、求めた音圧反射率特性を、測定対象物の音響特性として求める、または求めた音圧反射率特性に基づいて吸音率または音響インピーダンスを求めて前記音圧反射率特性、前記吸音率、及び前記音響インピーダンスの少なくとも1つを測定対象物の音響特性として求める音響特性演算手段と、
を備えた音響特性計測装置。
【請求項9】
前記音響特性演算手段は、次式により吸音率αを求めることを特徴とする請求項8に記載の音響特性計測装置。
【数5】


ただし、Rは音圧反射率特性を表す。
【請求項10】
前記音響特性演算手段は、次式により音響インピーダンスZを求めることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の音響特性計測装置。
【数6】


ただし、ρは媒質の密度を表し、cは音速を表す。
【請求項11】
前記音導入部に導入される音の出力特性及び音響管の音響特性を除去するために、次式で定めたフィルタを、前記相関関係演算手段と前記抽出手段との間に介在させることを特徴とする請求項8〜請求項10の何れか1項に記載の音響特性計測装置。
【数7】



ただし、Sが音源の周波数特性を表し、εは定数を表す。
【数8】


ただし、fは周波数、Fτ[]は遅延時間τに関するフーリエ変換、aはフィルタ通過周波数幅を決める定数、ωはフィルタ通過周波数帯の中心角周波数を表し、tは時間である。
【請求項12】
一端に音源から伝播される音を導入する音導入部を設けかつ、他端に測定対象物を設けると共に、前記音導入部と前記測定対象物の間に、音圧を測定するための第1センサ及び第2センサを離間して設けた音響管を用いて、測定対象物の音響特性を計測する音響特性計測方法であって、
前記第1センサ及び第2センサにより測定される時間についての音圧特性に基づいて、前記第1センサ及び第2センサ間の時間についての相関関係を求める相関関係演算工程と、
求めた相関関係について、遅延時間が最小の第1波束を示す第1相関関係と、前記第1波束に対して測定対象物による反射特性が付与されかつ前記最小の遅延時間の次に最小の遅延時間の第2波束を示す第2相関関係と、を抽出する抽出工程と、
抽出した前記第1相関関係及び前記第2相関関係の各々を周波領域表現へ変換し、変換された第1周波領域特性と第2周波領域特性との周波領域に関する比から音圧反射率特性を求め、求めた音圧反射率特性を、測定対象物の音響特性として求める、または求めた音圧反射率特性に基づいて吸音率または音響インピーダンスを求めて前記音圧反射率特性、前記吸音率、及び前記音響インピーダンスの少なくとも1つを測定対象物の音響特性として求める音響特性演算工程と、
を含む音響特性計測方法。
【請求項13】
一端に音源から伝播される音を導入する音導入部を設けかつ、他端に測定対象物を設けると共に、前記音導入部と前記測定対象物の間に、音圧を測定するための第1センサ及び第2センサを離間して設けた音響管を用いて、コンピュータにより測定対象物の音響特性を計測する音響特性計測プログラムであって、
前記第1センサ及び第2センサにより測定される時間についての音圧特性に基づいて、前記第1センサ及び第2センサ間の時間についての相関関係を求める相関関係演算ステップと、
求めた相関関係について、遅延時間が最小の第1波束を示す第1相関関係と、前記第1波束に対して測定対象物による反射特性が付与されかつ前記最小の遅延時間の次に最小の遅延時間の第2波束を示す第2相関関係と、を抽出する抽出ステップと、
抽出した前記第1相関関係及び前記第2相関関係の各々を周波領域表現へ変換し、変換された第1周波領域特性と第2周波領域特性との周波領域に関する比から音圧反射率特性を求め、求めた音圧反射率特性を、測定対象物の音響特性として求める、または求めた音圧反射率特性に基づいて吸音率または音響インピーダンスを求めて前記音圧反射率特性、前記吸音率、及び前記音響インピーダンスの少なくとも1つを測定対象物の音響特性として求める音響特性演算ステップと、
を含む音響特性計測プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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