説明

周期構造およびその形成方法

【課題】周期性の高い周期構造を形成すること。
【解決手段】本発明は、被加工物40を連続発振レーザ光52および54に対し相対的に走査させた状態において、前記連続発振レーザ光52および54を、前記被加工物40のアブレーションが生じるエネルギー密度以下のエネルギー密度で、前記被加工物40の表面に照射することにより、前記被加工物40の表面に周期的な凹凸構造58を形成するステップを含む周期構造の形成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期構造およびその形成方法に関し、例えばレーザ光を照射することにより形成される周期構造およびその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な周期を有する周期構造は、DLC(Diamond Like Carbon)等のコーティング膜に適用することにより、切削機や加工機械の摺動性を向上させることができる。また、このような周期構造は、光の干渉による発色を利用した構造色の発現や無反射板などの光学素子への適用も可能である。さらに、周期構造の液体に対する撥水性の発現により、液体の流路を形成するために用いることも可能である。
【0003】
微細な周期構造を形成する方法として、半導体装置の製造プロセスであるフォトリソグラフィを用いる方法、ナノインプリントを用いる方法等がある。しかしながら、これらの方法は、クリーンルーム等の特殊な環境下で行なわれる。また、これらの方法を行なうためには、複雑な装置を複数用いることになる。
【0004】
特許文献1には、フェムト秒レーザを用い、周期構造を形成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−211400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、レーザ光を照射することにより微細な周期構造が形成することができれば、クリーンルームといった特殊な環境や多くの装置を用いることなく、周期構造を形成することができる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、周期性に乏しい。また、レーザ光の走査速度が遅く、周期構造を形成するのに時間を要する。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、周期性の高い周期構造を形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被加工物を連続発振レーザ光に対し相対的に走査させた状態において、前記連続発振レーザ光を、前記被加工物のアブレーションが生じるエネルギー密度以下のエネルギー密度で、前記被加工物の表面に照射することにより、前記被加工物の表面に周期的な凹凸構造を形成するステップを含むことを特徴とする周期構造の形成方法である。本発明によれば、周期性の高い周期構造を形成することができる。
【0010】
上記構成において、前記連続発振レーザ光のエネルギー密度は、前記被加工物の表面が溶融するエネルギー密度以上である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記連続発振レーザ光は、波長が異なる複数のレーザ光である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記凹凸構造の周期は、前記複数のレーザ光のうち最も長い波長以下かつ最も短い波長以上である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記凹凸構造の周期は、前記複数のレーザ光のエネルギー密度を相対的に変化させることにより制御される構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記凹凸構造の周期の方向は、前記連続発振レーザの偏光方向である構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記連続発振レーザの偏光方向は、前記走査の方向と同じである構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記凹凸構造の周期は、前記連続発振レーザ光の波長に略等しい構成とすることができる。
【0017】
本発明は、上記周期構造の形成方法により製造された周期構造である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、周期性の高い周期構造を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施例1の周期構造の製造方法に用いたレーザ装置を示すブロック図である。
【図2】図2(a)は、被加工物の表面の模式図、図2(b)は、被加工物の断面模式図である。
【図3】図3(a)は、凹凸構造の上面からのSEM像を模式化した図、図3(b)は、凹凸構造の断面を斜めから視たSEM像を模式化した図である。
【図4】図4は、第1レーザ光のエネルギー密度に対する周期Lを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は、実施例1の周期構造の製造方法に用いたレーザ装置を示すブロック図である。図1に示すように、レーザ装置100は、主に第1レーザ装置10、第1光学系12、第2レーザ装置20、第2光学系22、ダイクロイックミラー30、結像光学系32および駆動系36を備えている。第1レーザ装置10は、連続発振レーザ光である第1レーザ光14を出射する。第1光学系12は、第1レーザ光14の強度分布および径を整形する。第2レーザ装置20は、第1レーザ光14とは波長の異なる連続発振レーザ光である第2レーザ光24を出射する。第2光学系22は、第2レーザ光24の強度分布および径を整形する。
【0022】
ダイクロイックミラー30は、第1レーザ光14を反射し、かつ第2レーザ光24を透過させる。これにより、第1レーザ光14と第2レーザ光24とを合成する。結像光学系32は、結像レンズであり、被加工物40上に第1レーザ光14および第2レーザ光24を集光し照射する。被加工物40はステージ34上に配置されている。ステージ34と、第1および第2レーザ光14および24と、は駆動系36により相対的に走査される。
【0023】
実施例1においては、第1レーザ装置10はYVOレーザの第2高調波を出射する。第1レーザ光14の波長は約532nmである。第2レーザ装置20は半導体レーザであり、第2レーザ光24の波長は約797nmである。駆動系36は、ステージ34に対し、第1および第2レーザ光14および24を300m/分または360m/分の速度で走査する。被加工物40としては、リン(P)をイオン注入した単結晶シリコン基板を用いる。リンの注入条件は、注入エネルギーが200keV、ドーズ量が1×1013cmである。
【0024】
図2(a)は、被加工物の表面の模式図、図2(b)は、被加工物の断面模式図である。図2(a)に示すように、被加工物40の表面に第1レーザ光52および第2レーザ光54が照射されている。第1レーザ光52は、32J/cmのエネルギー密度であり、第2レーザ光54は、32J/cmのエネルギー密度であり、第1レーザ光52および第2レーザ光54は、被加工物40に対し、約360m/分の速度で走査方向50に走査されている。第1レーザ光52および第2レーザ光54の偏光方向56は走査方向50とほぼ一致している。第1レーザ光52および第2レーザ光54が照射された被加工物40の表面には周期方向59に、周期的な凹凸構造58が形成される。凹凸構造58の幅Wは約6μmである。
【0025】
図2(b)に示すように、凹凸構造58は、平坦部60に周期Lの突起62が形成される。平坦部60の長さであるトレンチ長Tは、約200nm程度である。突起62の高さHは、約20nm程度である。凹凸構造58をSEM(Scanning Electron Microscope)を用い観察した。
【0026】
図3(a)は、凹凸構造の上面からのSEM像を模式化した図、図3(b)は、凹凸構造の断面を斜めから視たSEM像を模式化した図である。図3(a)に示すように、凹凸構造58は、走査方向50に交差するように形成されている。走査方向50と突起62の延伸方向とはほぼ直交している。図3(b)に示すように、平坦部60に周期的に突起62が形成されている。
【0027】
第2レーザ光54のエネルギー密度を32J/cmと固定し、第1レーザ光52のエネルギー密度を24J/cmから36J/cmまで変化させ、凹凸構造58を作製した。被加工物40に対する第1レーザ光52および第2レーザ光54の走査速度は、約300m/分である。表1は、第2レーザ光54のエネルギー密度に対する周期L、高さH、トレンチ長Tおよび凹凸構造58の幅Wを示した表である。
【表1】

【0028】
図4は、第1レーザ光52のエネルギー密度に対する周期Lを示す図である。図4および表1のように、第2レーザ光54のエネルギー密度が小さい場合は、周期Lは約770nmであり、第2レーザ光54のエネルギー密度を大きくすると周期Lは約530nmとなる。さらに、突起62の高さHは、第1レーザ光52のエネルギー密度が大きくなると高くなる。トレンチ長Tは、第1レーザ光52のエネルギー密度が大きくなると長くなる。凹凸構造58の幅Wは、第1レーザ光52のエネルギー密度が大きくなると広くなる。
【0029】
表1に示すように、第1レーザ光52のエネルギー密度が24J/cmの場合、凹凸構造58は形成されなかった。被加工物40(シリコン)の溶融状態を有限要素法で計算した。その結果、第1レーザ光52のエネルギー密度が26J/cm以上場合、被加工物40の表面が6μ秒以上溶融していることがわかった。このように、凹凸構造58が形成されるためには、被加工物40の表面が一定時間以上溶融していることが好ましいことがわかった。
【0030】
図2(a)のように、凹凸構造58の周期方向59が偏光方向56とほぼ一致している。また、図4のように、周期Lは、第1レーザ光52のエネルギー密度を大きくすると、第1レーザ光52の波長とほぼ一致し、第2レーザ光54のエネルギー密度を大きくすると、第2レーザ光54の波長とほぼ一致する。これらのことから、被加工物40の表面が溶融した状態で、被加工物40の表面に偏光方向56に平行に生成されたレーザ光の定在波に関連し、周期的な凹凸構造58が形成されるものと推測される。
【0031】
以上の推測から、連続発振レーザ光は、1つの波長のレーザ光でもよい。また、連続発振レーザ光は、波長が異なる複数のレーザ光でもよい。被加工物40を連続発振レーザ光に対し相対的に走査させた状態において、連続発振レーザ光を被加工物の表面に照射する。このとき、レーザ光52および54のエネルギー密度が被加工物40のアブレーションが生じるエネルギー密度より大きい場合、アブレーションが生じてしまうため、凹凸構造58は形成されない。よって、連続発振レーザ光を、被加工物40のアブレーションが生じるエネルギー密度以下のエネルギー密度で、被加工物40の表面に照射する。これにより、被加工物40の表面に周期的な凹凸構造58を形成することができる。
【0032】
また、連続発振レーザ光のエネルギー密度が被加工物40が溶融するエネルギー密度より小さい場合であっても、原子の再配列が生じ、周期性を有する凹凸構造が形成される場合もある。しかしながら、より確実に周期性を有する凹凸構造58を形成するためには、レーザ光52および54のエネルギー密度が被加工物40の表面が溶融するエネルギー密度以上であることが好ましい。なお、連続発振レーザ光が複数のレーザ光の場合、被加工物40のアブレーションが生じるエネルギー密度、および被加工物40の表面が溶融するエネルギー密度は、複数のレーザ光の総計のエネルギー密度である。
【0033】
図3(a)および図3(b)のように、形成された凹凸構造58は、周期がほぼレーザ光の波長となるため周期性が高い。一方、特許文献1の方法では、繊維状の凹凸構造しか形成することができず、図3(a)および図3(b)のように、周期性が高い凹凸構造を形成することができない。また、被加工物40をレーザ光52および54に対し相対的に高速に走査できるため、凹凸構造58を高速に形成することができる。さらに、半導体装置の製造プロセスやナノインプリントを用いる方法に比べ、簡単に凹凸構造58を形成することができる。例えば、大気中において凹凸構造58を形成することができる。
【0034】
なお、被加工物40のレーザ光52および54に対する走査は、被加工物40を固定しレーザ光52および54を走査してもよい。また、レーザ光52および54を固定し被加工物40を走査してもよい。さらに、レーザ光52および54と被加工物40とを異なる方向に走査してもよい。走査速度も任意に設定することができる。
【0035】
また、実施例1のように、連続発振レーザ光として、波長が異なる複数のレーザ光を用いることが好ましい。これにより、例えば、第2レーザ光54を照射することにより被加工物40の表面の温度を高め、さらに第1レーザ光52を照射することにより、被加工物40の表面を溶融させ、第1レーザ光52の波長の周期を有する凹凸構造58を形成することができる。
【0036】
さらに、図4のように、複数のレーザ光52および54を用いた場合、凹凸構造58の周期は、複数のレーザ光52および54のうち最も長い波長以下かつ最も短い波長以上とすることができる。このとき、凹凸構造58の周期Lを、複数のレーザ光52および54のエネルギー密度を相対的に変化させることに制御することができる。なお、単純には、凹凸構造58の周期Lは、複数のレーザ光52および54のエネルギー密度の比により制御することができる。しかしながら、厳密には、凹凸構造58の周期Lと複数のレーザ光52および54のエネルギー密度の比とは、線形的には変化しない。
【0037】
実施例1のように、凹凸構造58の周期方向59は、連続発振レーザ光52および54の偏光方向56である。このため、連続発振レーザ光52および54の偏光方向56は、走査方向50とほぼ同じとすることにより、走査方向50に連続して周期的な凹凸構造58を形成することができる。なお、偏光方向56と走査方向50とを交差させることもできる。例えば、偏光方向56と走査方向50とを斜めに交差させることにより、走査方向50に対し斜めの凹凸構造58を形成することができる。
【0038】
実施例1においては、第1レーザ光52の波長が532nm、第2レーザ光54の波長が797nmの光を用いたが、形成する凹凸構造58の周期により、レーザ光の波長を適宜選択することができる。また、複数のレーザ光52および54を照射する際に、図2(a)のように被加工物40の同じ位置に同時に複数のレーザ光52および54を照射する例を説明したが、被加工物40の同じ位置に時間差を設け複数のレーザ光52および54を照射してもよい。例えば、被加工物40上のある位置に第2レーザ光54を照射し、第2レーザ光54の効果が残っている間(例えば被加工物40の温度が下がる前)に第1レーザ光52を同じある位置に照射してもよい。
【0039】
さらに、被加工物40の例としてシリコン基板を例に説明したが、シリコン以外の半導体、ステンレス等の金属、セラミックス等の無機化合物または有機化合物等を用いることもできる。
【0040】
以上、発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 第1レーザ装置
14、52 第1レーザ光
20 第2レーザ装置
24、54 第2レーザ光
40 被加工物
50 走査方向
56 偏光方向
58 凹凸構造
59 周期方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を連続発振レーザ光に対し相対的に走査させた状態において、前記連続発振レーザ光を、前記被加工物のアブレーションが生じるエネルギー密度以下のエネルギー密度で、前記被加工物の表面に照射することにより、前記被加工物の表面に周期的な凹凸構造を形成するステップを含むことを特徴とする周期構造の形成方法。
【請求項2】
前記連続発振レーザ光のエネルギー密度は、前記被加工物の表面が溶融するエネルギー密度以上であることを特徴とする請求項1記載の周期構造の形成方法。
【請求項3】
前記連続発振レーザ光は、波長が異なる複数のレーザ光であることを特徴とする請求項1または2記載の周期構造の形成方法。
【請求項4】
前記凹凸構造の周期は、前記複数のレーザ光のうち最も長い波長以下かつ最も短い波長以上であることを特徴とする請求項3記載の周期構造の形成方法。
【請求項5】
前記凹凸構造の周期は、前記複数のレーザ光のエネルギー密度を相対的に変化させることにより制御されることを特徴とする請求項4記載の周期構造の形成方法。
【請求項6】
前記凹凸構造の周期の方向は、前記連続発振レーザの偏光方向であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の周期構造の形成方法。
【請求項7】
前記連続発振レーザの偏光方向は、前記走査の方向と同じであることを特徴とする請求項6記載の周期構造の形成方法。
【請求項8】
前記凹凸構造の周期は、前記連続発振レーザ光の波長に略等しいことを特徴とする請求項1記載の周期構造の形成方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項記載の周期構造の形成方法により製造されたことを特徴とする周期構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−63446(P2013−63446A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202149(P2011−202149)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名1 NANOTECHNOLOGY Volume 22,Number 17 175307 ホームページのアドレス stacks.iop.org/Nano/22/175307 発行所 イギリス物理機構 発行日 平成23年3月16日 刊行物名2 O Plus E 2011年7月号 Vol.33,No.7 発行所 アドコム・メディア株式会社 発行日 平成23年6月25日 刊行物名3 第72回応用物理学会学術講演会 講演予稿集ホームページのアドレス http://www.gakkai−web.net/gakkai/jsap/pro/ 発行所 公益社団法人 応用物理学会 発行日 平成23年8月16日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 博覧会名 第22回マイクロマシン展/MEMS展 主催者名 一般財団法人マイクロマシンセンター 公開日 平成23年7月13日から15日
【出願人】(000192903)神奈川県 (65)
【出願人】(303006916)フェトン株式会社 (13)
【Fターム(参考)】