周波数掃引式テラヘルツスペクトル測定装置
【課題】 周波数掃引機構の温度変化や部材磨耗及び回転角制御方式などによる周波数変動があるため、広帯域・高精度・高速のテラヘルツスペクトル測定に当たっては精度上の問題がある。また、高速の周波数掃引が必要になる場合は、該周波数掃引機構による回転角制御に時間がかかり過ぎる。
【解決手段】参照光を、テラヘルツ光の強度補正する手段とガスセルの吸収スペクトルから基準周波数を採る手段に用いて測定スペクトルの周波数をリアルタイムに校正する。
これに拠って、所定の周波数の区間を円滑なアナログ駆動機構などを用いて回転角を連続的且つ高速掃引する。
【解決手段】参照光を、テラヘルツ光の強度補正する手段とガスセルの吸収スペクトルから基準周波数を採る手段に用いて測定スペクトルの周波数をリアルタイムに校正する。
これに拠って、所定の周波数の区間を円滑なアナログ駆動機構などを用いて回転角を連続的且つ高速掃引する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレントなテラヘルツ波を掃引して採るスペクトル測定装置の周波数校正方法及び手段に関わる。
【背景技術】
【0002】
一般に、スペクトル測定における周波数校正は、光源の輝線スペクトル、ガスセルの吸収スペクトルあるいは周波数掃引機構の基準位置センサなどを用いて行われる。
しかしながら、テラヘルツ波が未踏領域の電磁波だったためにテラヘルツスペクトル測定における周波数校正法は未開発であり、特に、広帯域・高精度・高速測定における従来の周波数校正法及び手段は必ずしも適当ではない。
【特許文献1】新実験化学講座 基礎技術3光〔1〕p194〜p198
【特許文献2】特願2004−16889
【特許文献3】特開2000−136965
【特許文献3】特開2004−108808
【特許文献4】J.Phys.D:Appl.Phys.36(2003)pp.2958−2961
【特許文献5】The Japan Academy,Ser.B,Vol.82,No9(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在は、テラヘルツスペクトルの周波数校正において、既存のテラヘルツ光源が一般化していないため所望のテラヘルツ輝線スペクトルを得ることは困難である。
また、周波数掃引機構の基準位置に対応させて周波数掃引する場合は、該周波数掃引機構の温度変化や部材磨耗、位置センサ感度、及び、PID回転角制御方式などによる周波数変動があるため、広帯域・高精度・高速のテラヘルツスペクトル測定に当たっては精度上の問題がある。
更に、化学反応の追跡や移動物体のテラヘルツスペクトル測定など高速の周波数掃引が必要になる場合は、該周波数掃引機構による回折格子などの回転角制御に時間がかかり過ぎる。
本発明の目的は、上記の欠点を除くために、テラヘルツ光の強度補正手段と所望の吸収スペクトルを有するガスセル・周波数掃引機構・周波数掃引方法・周波数校正方法を用いて、広帯域・高精度・高速の周波数掃引式テラヘルツスペクトル測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1記載の発明は、測定試料のテラヘルツスペクトルを周波数校正する場合において、試料に周波数掃引して照射するテラヘルツ光から参照光を分岐して、
該テラヘルツ光の強度補正する手段と、水蒸気等ガスの種類・気圧・温度等が設定された1式以上のガスセルの吸収スペクトルから基準周波数を採る手段に用いて、該周波数校正していることを特徴とする。
【0005】
この発明によると、試料に照射されるテラヘルツ光の強度が周波数掃引に伴って変動したとしても強度補正されるのでスペクトル測定への影響が避けられる。
また、ガスセルの有する基準周波数測定が該テラヘルツスペクトル測定と同時に行われるので、テラヘルツスペクトルの周波数校正が正確である。
ガスセルの代わりにスペクトルの半値幅は大きいが、液体セル、固体セルを適宜利用することも可能である。
【0006】
請求項2記載の発明は、校正する1周波数を、校正曲線の制御点区間すなわち2つの該基準周波数の間、あるいは、複数の該基準周波数に隣接させていることを特徴とする。
【0007】
この発明によると、例えば、該1周波数校正は、該ガスセルで採った複数の該基準周波数を制御点とする3次のスプライン関数などで設定した校正曲線を用いて行うが、制御点が水蒸気などテラヘルツ吸収スペクトルの多いガスセルから適宜用意され、校正される周波数の極近い両隣り、あるいは、近くに複数隣接してあるので補間がより正確になる。
また、周波数掃引における機械的・光学的な材料品質の誤差や経時変化、あるいは、位置制御特性・温度特性などの変化があっても、該基準周波数が試料のテラヘルツスペクトル測定と同期して校正曲線上に設定されるので高精度の周波数校正が可能である。
【0008】
請求項3記載の発明は、周波数掃引において、周波数を設定する回折格子などの回転角制御をしないで、所定の周波数の区間を円滑なアナログ駆動機構などを用いて連続且つ高速に回転角掃引していることを特徴とする。
【0009】
この発明によると、例えば、デジタル制御による正確な回転角の位置決めが不要になり、ボイスコイルモータ、圧電アクチュエータ、バネなどの器材を備えた円滑な周波数掃引機構による周波数掃引に同期して測定試料やガスセルのスペクトルが測定されるので、テラヘルツスペクトルを採る時間が大幅に短縮され、且つ、高精度・小型・低価格のテラヘルツスペクトル測定装置が実現できる。
例えば、ボールねじやリニアモータなどのアナログ伝導機構が、ステッピングモータやデジタル電源などにより機構的・電気的な離散値で駆動されている場合でも、量子化レベルを多く取れば、即ち、該掃引周波数のサンプリング間隔より充分細かい周波数駆動手段になっていれば本発明は同様に適用できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、周波数掃引における機械的・光学的な材料品質の誤差や経時変化、あるいは、測定環境により位置制御特性・温度特性などに変化があっても、高品質のテラヘルツスペクトル測定ができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
テラヘルツスペクトル測定において、テラヘルツ光の強度補正する手段と、ガスセルの吸収スペクトルから基準周波数を採る手段を適用するが、以下の実施例で説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の請求項1に関する1実施例で、周波数掃引式テラヘルツスペクトル測定装置の概略図であって、符号は図3と同様である。
【0013】
この例では、YAGレーザ光源Y1、Y2から波長1064nmの赤外光がクロムフォルステライト結晶に照射されると、赤外レーザ光源Cr1、Cr2から図示していない回折格子で波長選択され尖鋭化した赤外レーザ光I1、I2が出射する。
例えば、Cr1から波長1217.734nm、周波数246.1884THzのI1、Cr2から波長1222.701nm、周波数245.1884THzのI2を出射させ、光混合器Bで角度整合を取ってGaP結晶に入射させると、差周波数である1THzのテラヘルツ光T1が所定の方向に出てくる。
このように、赤外レーザ光I1と赤外レーザ光I2との差周波数がテラヘルツ光T1の周波数を決定するので、例えば、I1の波長を固定してI2の波長を前記赤外レーザ光源Cr2の中に設置している回折格子の回転角を回転機構Rで変え、上記と同様にGaP結晶に入射させると、I1とI2差周波数のテラヘルツ光がGaP結晶から所定の方向に出てくる。
尚、I1とI2の位相相整合は、YAGレーザ光源Y1、Y2の図示していないQスイッチのタイミング調整でなされる。
【0014】
テラヘルツ光T1はビームスプリッターH1で参照光T2と測定用テラヘルツ光T3に分岐され、更に、参照光T2はビームスプリッターH2、H3、H4を用いて、夫々のテラヘルツ光T4、T5、T6、及び強度補正用テラヘルツ光T0に分岐され、水蒸気ガスセルC1、一酸化炭素ガスセルC2、フロンガスセルC3を透過してテラヘルツセンサS2〜S4とS0へ入る。
【0015】
従って、ガスセルC1、C2、C3のガス吸収特性はテラヘルツセンサS2〜S4で感知され、下記する(図2)の様なスペクトルを呈するので、これを用いて各々の基準周波数を採ることができる。
このとき、ガスセルC1、C2、C3は、ガス容器G1〜G3から所定のガス種類・ガス圧が供給されており、恒温槽w1〜w3で厳密に温度制御されている。
【0016】
センサS0は、テラヘルツ光T1がYAGレーザ光源Y1、Y2、クロムフォルステライトレーザ光源Cr1、Cr2、テラヘルツ光源GaP、光学系部品等が経時変化や周波数特性で出力変動するので強度補正に用いている。
【0017】
回折格子の回転角を回転機構Rで変えてテラヘルツ光T3の周波数を掃引すると、夫々の周波数に対して測定試料Xを透過したテラヘルツ光TsがテラヘルツセンサS1で感知されテラヘルツスペクトルが計測される。
【0018】
以上の説明の様に、本発明によるテラヘルツスペクトル測定は、参照光を用いて強度補正とガスセルの吸収スペクトルに基づいた周波数校正の測定が同時にできるので、測定系の機械的・光学的な材料品質の誤差や経時変化、あるいは、測定環境によって位置制御特性・温度特性などに変化があっても正確にできる。
【実施例2】
【0019】
図2は、本発明の請求項2に関する実施例で、テラヘルツスペクトル測定の周波数校正についての説明図である。
横軸はガスセルの吸収スペクトルの周波数Fで、縦軸は光吸収率δでありガスセルをδ1〜δ3、試料はδxで示し、ガスセルC1〜C3のスペクトル図はt1〜t3、測定試料Xのスペクトル図はtXで示している。
ここで、F1〜F10がガスセル、FXが測定試料に現れたテラヘルツ吸収スペクトルで、FXはF1〜F10を用いて正確に周波数校正されるものである。
周波数校正の手順については、(図3)で説明する。
【0020】
図3は、本発明の請求項2に関する実施例で、周波数校正の手順について説明している。、横軸はテラヘルツ周波数掃引機構の掃引周波数fを示し、縦軸がガスセルの吸収スペクトルの周波数Fある。
例えば、周波数掃引機構の掃引周波数fがテラヘルツ光T1の周波数掃引を来たし、図3(1)に表した関係でガスセルの吸収スペクトルFを得ている場合、測定試料におけるテラヘルツ吸収スペクトルの周波数Fxは、図3(1)のfとFの関係から算出した校正曲線図LのfXを用いて正確に測定できるというものである。
校正曲線は所定の区間を複数個のfとFの関係を用いたスプライン関数で設定して使用することも可能である。
【0021】
図4は、本発明の請求項3に関する実施例で、試料の反射スペクトル測定における周波数の高速掃引を説明するものである。
前述した様に、周波数掃引機構を用いて測定試料に照射するテラヘルツ光の周波数は、基準周波数であるガスセルの吸収スペクトルによって同時に校正され測定されることになるので、周波数を掃引する回折格子などの回転機構においては、円滑な動作機構であれば、高速掃引でもヒステリシス特性のある掃引で高精度のスペクトル測定が可能である。
例えば、周波数幅のある赤外線レーザ光Cr2が回折格子Grに入射すると、回折条件を満たした特定周波数の赤外光I2が矢印の方向に出射するが、回折条件の変更すなわち周波数掃引は回転機構Rの図示しないバネ軸受けを中心とする回転で行われる。
回転角およびその掃引速度は、梃子の支点であるバネ軸受けSp1の反対側に位置する部材Si、バネ材Sp、ボールねじScなどの伝達機構を介したサーボモータの高速回転によって連続して設定される。
従来は、回転機構Rの回転角を正確に設定して赤外光I2の周波数精度を上げていたので、角度制御に時間がかかり、また、使用する部材の制約や測定環境の整備が大変であった。
【0022】
図において、符合は図1に同様であり、テラヘルツ光源GaPに同時に照射して差周波数のテラヘルツ光を発生させる別の赤外光I1は省略している。
GaPから出射されたテラヘルツ光T1は、ハーフミラーH1を通して測定試料Xに照射され、その反射光TsをセンサS1で感知して図4(1)のスペクトル図が測定される。
一方、参照光T2は図1と同様であり、ガスセルC1による周波数校正は、例えば、図4(2)を用いて図3と同様の処理で行われる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
水蒸気など卑近なガスセルの吸収スペクトルを基準周波数に用いて、また、簡便なアナログ周波数掃引機構などを用いることによって、高速・高精度のテラヘルツスペクトルが採れるので、製造工程や野外での計測など、広い分野での利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】装置の構成概要を説明した図である。
【図2】ガスセルの吸収スペクトルについて説明した図である。
【図3】スペクトルの校正について説明した図である。
【図4】周波数の高速掃引機構について説明した図である。
【符号の説明】
【0025】
Y1、Y2 YAGレーザ光源
Cr1、Cr2 赤外レーザ光源
I1、I2 赤外レーザ光
B 混合器
GaP テラヘルツ光源
T0〜T6、Ts テラヘルツ光
R 回転機構
H1〜H4 ビームスプリッター
C1 水蒸気ガスセル
C2 一酸化炭素ガスセル
C3 フロンガスセル
S0〜S4 テラヘルツセンサ
G1〜G3 ガス容器
w1〜w3 恒温槽
X 測定試料
δ、δ1〜δ3、δX 光吸収率
t1〜t3、tX スペクトル図
F、F1〜F10、FX 吸収スペクトルの周波数
f、fX 掃引周波数
Gr 回折格子
L 校正曲線
Sp1 バネ軸受け
Sp バネ材
Si 部材
Sc ボールねじ
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレントなテラヘルツ波を掃引して採るスペクトル測定装置の周波数校正方法及び手段に関わる。
【背景技術】
【0002】
一般に、スペクトル測定における周波数校正は、光源の輝線スペクトル、ガスセルの吸収スペクトルあるいは周波数掃引機構の基準位置センサなどを用いて行われる。
しかしながら、テラヘルツ波が未踏領域の電磁波だったためにテラヘルツスペクトル測定における周波数校正法は未開発であり、特に、広帯域・高精度・高速測定における従来の周波数校正法及び手段は必ずしも適当ではない。
【特許文献1】新実験化学講座 基礎技術3光〔1〕p194〜p198
【特許文献2】特願2004−16889
【特許文献3】特開2000−136965
【特許文献3】特開2004−108808
【特許文献4】J.Phys.D:Appl.Phys.36(2003)pp.2958−2961
【特許文献5】The Japan Academy,Ser.B,Vol.82,No9(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在は、テラヘルツスペクトルの周波数校正において、既存のテラヘルツ光源が一般化していないため所望のテラヘルツ輝線スペクトルを得ることは困難である。
また、周波数掃引機構の基準位置に対応させて周波数掃引する場合は、該周波数掃引機構の温度変化や部材磨耗、位置センサ感度、及び、PID回転角制御方式などによる周波数変動があるため、広帯域・高精度・高速のテラヘルツスペクトル測定に当たっては精度上の問題がある。
更に、化学反応の追跡や移動物体のテラヘルツスペクトル測定など高速の周波数掃引が必要になる場合は、該周波数掃引機構による回折格子などの回転角制御に時間がかかり過ぎる。
本発明の目的は、上記の欠点を除くために、テラヘルツ光の強度補正手段と所望の吸収スペクトルを有するガスセル・周波数掃引機構・周波数掃引方法・周波数校正方法を用いて、広帯域・高精度・高速の周波数掃引式テラヘルツスペクトル測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1記載の発明は、測定試料のテラヘルツスペクトルを周波数校正する場合において、試料に周波数掃引して照射するテラヘルツ光から参照光を分岐して、
該テラヘルツ光の強度補正する手段と、水蒸気等ガスの種類・気圧・温度等が設定された1式以上のガスセルの吸収スペクトルから基準周波数を採る手段に用いて、該周波数校正していることを特徴とする。
【0005】
この発明によると、試料に照射されるテラヘルツ光の強度が周波数掃引に伴って変動したとしても強度補正されるのでスペクトル測定への影響が避けられる。
また、ガスセルの有する基準周波数測定が該テラヘルツスペクトル測定と同時に行われるので、テラヘルツスペクトルの周波数校正が正確である。
ガスセルの代わりにスペクトルの半値幅は大きいが、液体セル、固体セルを適宜利用することも可能である。
【0006】
請求項2記載の発明は、校正する1周波数を、校正曲線の制御点区間すなわち2つの該基準周波数の間、あるいは、複数の該基準周波数に隣接させていることを特徴とする。
【0007】
この発明によると、例えば、該1周波数校正は、該ガスセルで採った複数の該基準周波数を制御点とする3次のスプライン関数などで設定した校正曲線を用いて行うが、制御点が水蒸気などテラヘルツ吸収スペクトルの多いガスセルから適宜用意され、校正される周波数の極近い両隣り、あるいは、近くに複数隣接してあるので補間がより正確になる。
また、周波数掃引における機械的・光学的な材料品質の誤差や経時変化、あるいは、位置制御特性・温度特性などの変化があっても、該基準周波数が試料のテラヘルツスペクトル測定と同期して校正曲線上に設定されるので高精度の周波数校正が可能である。
【0008】
請求項3記載の発明は、周波数掃引において、周波数を設定する回折格子などの回転角制御をしないで、所定の周波数の区間を円滑なアナログ駆動機構などを用いて連続且つ高速に回転角掃引していることを特徴とする。
【0009】
この発明によると、例えば、デジタル制御による正確な回転角の位置決めが不要になり、ボイスコイルモータ、圧電アクチュエータ、バネなどの器材を備えた円滑な周波数掃引機構による周波数掃引に同期して測定試料やガスセルのスペクトルが測定されるので、テラヘルツスペクトルを採る時間が大幅に短縮され、且つ、高精度・小型・低価格のテラヘルツスペクトル測定装置が実現できる。
例えば、ボールねじやリニアモータなどのアナログ伝導機構が、ステッピングモータやデジタル電源などにより機構的・電気的な離散値で駆動されている場合でも、量子化レベルを多く取れば、即ち、該掃引周波数のサンプリング間隔より充分細かい周波数駆動手段になっていれば本発明は同様に適用できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、周波数掃引における機械的・光学的な材料品質の誤差や経時変化、あるいは、測定環境により位置制御特性・温度特性などに変化があっても、高品質のテラヘルツスペクトル測定ができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
テラヘルツスペクトル測定において、テラヘルツ光の強度補正する手段と、ガスセルの吸収スペクトルから基準周波数を採る手段を適用するが、以下の実施例で説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の請求項1に関する1実施例で、周波数掃引式テラヘルツスペクトル測定装置の概略図であって、符号は図3と同様である。
【0013】
この例では、YAGレーザ光源Y1、Y2から波長1064nmの赤外光がクロムフォルステライト結晶に照射されると、赤外レーザ光源Cr1、Cr2から図示していない回折格子で波長選択され尖鋭化した赤外レーザ光I1、I2が出射する。
例えば、Cr1から波長1217.734nm、周波数246.1884THzのI1、Cr2から波長1222.701nm、周波数245.1884THzのI2を出射させ、光混合器Bで角度整合を取ってGaP結晶に入射させると、差周波数である1THzのテラヘルツ光T1が所定の方向に出てくる。
このように、赤外レーザ光I1と赤外レーザ光I2との差周波数がテラヘルツ光T1の周波数を決定するので、例えば、I1の波長を固定してI2の波長を前記赤外レーザ光源Cr2の中に設置している回折格子の回転角を回転機構Rで変え、上記と同様にGaP結晶に入射させると、I1とI2差周波数のテラヘルツ光がGaP結晶から所定の方向に出てくる。
尚、I1とI2の位相相整合は、YAGレーザ光源Y1、Y2の図示していないQスイッチのタイミング調整でなされる。
【0014】
テラヘルツ光T1はビームスプリッターH1で参照光T2と測定用テラヘルツ光T3に分岐され、更に、参照光T2はビームスプリッターH2、H3、H4を用いて、夫々のテラヘルツ光T4、T5、T6、及び強度補正用テラヘルツ光T0に分岐され、水蒸気ガスセルC1、一酸化炭素ガスセルC2、フロンガスセルC3を透過してテラヘルツセンサS2〜S4とS0へ入る。
【0015】
従って、ガスセルC1、C2、C3のガス吸収特性はテラヘルツセンサS2〜S4で感知され、下記する(図2)の様なスペクトルを呈するので、これを用いて各々の基準周波数を採ることができる。
このとき、ガスセルC1、C2、C3は、ガス容器G1〜G3から所定のガス種類・ガス圧が供給されており、恒温槽w1〜w3で厳密に温度制御されている。
【0016】
センサS0は、テラヘルツ光T1がYAGレーザ光源Y1、Y2、クロムフォルステライトレーザ光源Cr1、Cr2、テラヘルツ光源GaP、光学系部品等が経時変化や周波数特性で出力変動するので強度補正に用いている。
【0017】
回折格子の回転角を回転機構Rで変えてテラヘルツ光T3の周波数を掃引すると、夫々の周波数に対して測定試料Xを透過したテラヘルツ光TsがテラヘルツセンサS1で感知されテラヘルツスペクトルが計測される。
【0018】
以上の説明の様に、本発明によるテラヘルツスペクトル測定は、参照光を用いて強度補正とガスセルの吸収スペクトルに基づいた周波数校正の測定が同時にできるので、測定系の機械的・光学的な材料品質の誤差や経時変化、あるいは、測定環境によって位置制御特性・温度特性などに変化があっても正確にできる。
【実施例2】
【0019】
図2は、本発明の請求項2に関する実施例で、テラヘルツスペクトル測定の周波数校正についての説明図である。
横軸はガスセルの吸収スペクトルの周波数Fで、縦軸は光吸収率δでありガスセルをδ1〜δ3、試料はδxで示し、ガスセルC1〜C3のスペクトル図はt1〜t3、測定試料Xのスペクトル図はtXで示している。
ここで、F1〜F10がガスセル、FXが測定試料に現れたテラヘルツ吸収スペクトルで、FXはF1〜F10を用いて正確に周波数校正されるものである。
周波数校正の手順については、(図3)で説明する。
【0020】
図3は、本発明の請求項2に関する実施例で、周波数校正の手順について説明している。、横軸はテラヘルツ周波数掃引機構の掃引周波数fを示し、縦軸がガスセルの吸収スペクトルの周波数Fある。
例えば、周波数掃引機構の掃引周波数fがテラヘルツ光T1の周波数掃引を来たし、図3(1)に表した関係でガスセルの吸収スペクトルFを得ている場合、測定試料におけるテラヘルツ吸収スペクトルの周波数Fxは、図3(1)のfとFの関係から算出した校正曲線図LのfXを用いて正確に測定できるというものである。
校正曲線は所定の区間を複数個のfとFの関係を用いたスプライン関数で設定して使用することも可能である。
【0021】
図4は、本発明の請求項3に関する実施例で、試料の反射スペクトル測定における周波数の高速掃引を説明するものである。
前述した様に、周波数掃引機構を用いて測定試料に照射するテラヘルツ光の周波数は、基準周波数であるガスセルの吸収スペクトルによって同時に校正され測定されることになるので、周波数を掃引する回折格子などの回転機構においては、円滑な動作機構であれば、高速掃引でもヒステリシス特性のある掃引で高精度のスペクトル測定が可能である。
例えば、周波数幅のある赤外線レーザ光Cr2が回折格子Grに入射すると、回折条件を満たした特定周波数の赤外光I2が矢印の方向に出射するが、回折条件の変更すなわち周波数掃引は回転機構Rの図示しないバネ軸受けを中心とする回転で行われる。
回転角およびその掃引速度は、梃子の支点であるバネ軸受けSp1の反対側に位置する部材Si、バネ材Sp、ボールねじScなどの伝達機構を介したサーボモータの高速回転によって連続して設定される。
従来は、回転機構Rの回転角を正確に設定して赤外光I2の周波数精度を上げていたので、角度制御に時間がかかり、また、使用する部材の制約や測定環境の整備が大変であった。
【0022】
図において、符合は図1に同様であり、テラヘルツ光源GaPに同時に照射して差周波数のテラヘルツ光を発生させる別の赤外光I1は省略している。
GaPから出射されたテラヘルツ光T1は、ハーフミラーH1を通して測定試料Xに照射され、その反射光TsをセンサS1で感知して図4(1)のスペクトル図が測定される。
一方、参照光T2は図1と同様であり、ガスセルC1による周波数校正は、例えば、図4(2)を用いて図3と同様の処理で行われる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
水蒸気など卑近なガスセルの吸収スペクトルを基準周波数に用いて、また、簡便なアナログ周波数掃引機構などを用いることによって、高速・高精度のテラヘルツスペクトルが採れるので、製造工程や野外での計測など、広い分野での利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】装置の構成概要を説明した図である。
【図2】ガスセルの吸収スペクトルについて説明した図である。
【図3】スペクトルの校正について説明した図である。
【図4】周波数の高速掃引機構について説明した図である。
【符号の説明】
【0025】
Y1、Y2 YAGレーザ光源
Cr1、Cr2 赤外レーザ光源
I1、I2 赤外レーザ光
B 混合器
GaP テラヘルツ光源
T0〜T6、Ts テラヘルツ光
R 回転機構
H1〜H4 ビームスプリッター
C1 水蒸気ガスセル
C2 一酸化炭素ガスセル
C3 フロンガスセル
S0〜S4 テラヘルツセンサ
G1〜G3 ガス容器
w1〜w3 恒温槽
X 測定試料
δ、δ1〜δ3、δX 光吸収率
t1〜t3、tX スペクトル図
F、F1〜F10、FX 吸収スペクトルの周波数
f、fX 掃引周波数
Gr 回折格子
L 校正曲線
Sp1 バネ軸受け
Sp バネ材
Si 部材
Sc ボールねじ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料のテラヘルツスペクトルを周波数校正する場合において、
試料に周波数掃引して照射するテラヘルツ光から参照光を分岐して、該テラヘルツ光の強度補正する手段と水蒸気等ガスの種類・気圧・温度等が設定された1式以上のガスセルの吸収スペクトルから基準周波数を採る手段に用いて、該周波数校正していることを特徴とする周波数掃引式テラヘルツスペクトル測定装置。
【請求項2】
校正する1周波数を、校正曲線の制御点区間すなわち2つの該基準周波数の間、あるいは、複数の該基準周波数に隣接させていることを特徴とする請求項1記載の周波数掃引式テラヘルツスペクトル測定装置。
【請求項3】
周波数掃引において、周波数を設定する回折格子などの回転角制御をしないで、所定の周波数の区間を円滑なアナログ駆動機構などを用いて連続且つ高速に回転角掃引していることを特徴とする請求項1、請求項2記載の周波数掃引式テラヘルツスペクトル測定装置。
【請求項1】
測定試料のテラヘルツスペクトルを周波数校正する場合において、
試料に周波数掃引して照射するテラヘルツ光から参照光を分岐して、該テラヘルツ光の強度補正する手段と水蒸気等ガスの種類・気圧・温度等が設定された1式以上のガスセルの吸収スペクトルから基準周波数を採る手段に用いて、該周波数校正していることを特徴とする周波数掃引式テラヘルツスペクトル測定装置。
【請求項2】
校正する1周波数を、校正曲線の制御点区間すなわち2つの該基準周波数の間、あるいは、複数の該基準周波数に隣接させていることを特徴とする請求項1記載の周波数掃引式テラヘルツスペクトル測定装置。
【請求項3】
周波数掃引において、周波数を設定する回折格子などの回転角制御をしないで、所定の周波数の区間を円滑なアナログ駆動機構などを用いて連続且つ高速に回転角掃引していることを特徴とする請求項1、請求項2記載の周波数掃引式テラヘルツスペクトル測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2008−268162(P2008−268162A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134766(P2007−134766)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(506060708)株式会社テラヘルツ研究所 (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(506060708)株式会社テラヘルツ研究所 (10)
【Fターム(参考)】
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