説明

咳の治療のためのテオブロミン

本発明は、咳の治療のための、吸入経路を介して送達される活性薬剤としてのテオブロミンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テオブロミン、および咳の治療におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
咳は、防御反射である。持続的な咳は苦痛であり得る。大衆薬が利用可能であるが、それらの効果は疑わしいものである。
【0003】
特許文献1は、経口投与される咳の治療用のテオブロミンの使用を開示している。これには、その血漿中濃度と直接相関する経口テオブロミンの鎮咳作用が示されている。
【0004】
非特許文献1には、テオブロミンが感覚神経の作用を阻害して咳を抑えることが開示されている。モルモットでのクエン酸による咳の誘発、およびヒトでのカプサイシンによる咳の誘発における経口投与後、ならびに単離されたモルモットの迷走神経標品の浸漬後の効果を示すデータが提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第98/42322号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Usmani et al., FASEB J. express article 10. 1096
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、咳の治療における、テオブロミンの吸入による使用に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも部分的に、クエン酸咳誘発モデルにおいて、経口投与量の1/3で吸入したテオブロミンで同等の鎮咳効果を示したデータに基づくものである。吸入経路を介する場合、テオブロミンは驚くほど強力であり、経口によるPK/PD関係には従わず、このことは、テオブロミンが肺において著しい局所的効果を有することを示している。その結果、吸入経路を介することで、同等の経口効果に対してより少ない薬物が投与されることになり、従って、副作用および薬物負担が軽減される。鎮静作用などの副作用を最小限に抑えることができる。
【0009】
テオブロミンは、発生する可能性のある全身性合併症への懸念がほとんどなく、広範囲に及ぶ種々の呼吸器薬との組み合わせ、または共投与によって用いることができる。テオブロミンは、全身性副作用(例:頻拍)への懸念なしに、継続ベースで投与することができる。テオブロミンは、1日1回ベースで投与することができる。
【0010】
本発明は、従って、咳の治療のために、吸入経路を介して送達される活性薬剤としてのテオブロミンである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、賦形薬(i.t.)、コデイン(25mg kg-1、i.p.)、またはテオブロミン(3〜30mg/kg、i.t.、もしくは30mg/kg、p.o.)による、クエン酸曝露に対してt−30分での前処理後、クエン酸(1M)への10分間の曝露、および5分間の回復時間の過程でのモルモットの咳の総回数を示すグラフである。各棒グラフは平均を表し、各縦棒は平均値の標準誤差を表す。テオブロミンまたはコデインの存在下における咳総回数の変化を、平均値を比較するためのANOVA、続いてダネット検定を用いて、賦形薬処理の動物と比較した。
【図2】図2は、賦形薬(i.t.)、コデイン(25mg kg-1、i.p.)、またはテオブロミン(3〜30mg/kg、i.t.、もしくは30mg/kg、p.o.)による、クエン酸曝露に対してt−30分での前処理後、クエン酸(1M)への10分間の曝露、および5分間の回復時間の過程でのモルモットの咳の開始を示すグラフである。各棒グラフは平均を表し、各縦棒は平均値の標準誤差を表す。テオブロミンまたはコデインの存在下における咳総回数の変化を、平均値を比較するためのANOVA、続いてダネット検定を用いて、偽薬投与動物(sham dosed animals)と比較した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
活性薬剤は、適切ないかなる形態のものを選択してもよい。これらには、塩、プロドラッグ、および活性代謝物が挙げられる。
【0013】
テオブロミンは、吸入経路を介して投与される。吸入による送達に適する装置および製剤は、通常、1もしくは複数の活性薬剤の粒子を含み、一般的には当業者に公知である。1つの態様では、この組成物は、液体噴霧剤中のエアロゾルとしての送達用に調製してよく、例えば、加圧式またはその他の定量吸入器(MDI)で用いられる。PMDIでの使用に適する噴霧剤は、当業者に公知であり、CFC−12、HFA−134a、HFA−227、HCFC−22(ジフルオロクロロメタン)、HFA−152(ジフルオロエタンおよびイソブタン)が挙げられる。さらなる別の選択肢は、ネブライザーおよびエアロゾル送達システムである。
【0014】
別の態様では、本発明の組成物は、乾燥粉末吸入器(DPI)を用いて送達するための乾燥粉末の形態である。乾燥粉末吸入器は公知である。この吸入器に用いるための乾燥粉末は、通常、空気動力学的質量中位径が30μm未満であり、好ましくは20μm未満、より好ましくは10μm未満である。空気動力学径が5〜0.5μmの範囲であるマイクロ粒子は、一般的に、呼吸器の細気管支に沈着し、一方、空気動力学径が2〜0.05μmの範囲であるより小さい粒子は、肺胞に沈着するものと考えられる。
【0015】
DPIは、受動乾燥粉末吸入器であってよく、これは、肺への粒子の導入を患者の吸気に依存するものである。能動吸入器は、患者への粉末送達のためのメカニズムを必要とするものであり、これもまた用いてよい。
【0016】
微粒子組成物は、生理学的有効量で製剤化されることは理解されるであろう。すなわち、単位剤形で送達される場合、所望される反応を得るために十分な量の活性薬剤が存在する必要がある。この粒子は、主として乾燥粉末吸入器での送達を意図していることから、単位用量が、一回の吸入動作で患者に送達される所定量の粒子を含むことは理解されるであろう。単なる指針としてであるが、単一の単位用量は、およそ1mg〜15mg、好ましくは、5mg〜10mgの粒子である。
【0017】
投与の頻度は、当業者が選択してよい。それは、例えば、1日に1回もしくは2回、週1回、または連続であってよい。
【0018】
マイクロ粒子はまた、送達および放出を補助するための追加の賦形剤と共に製剤化してもよい。例えば、乾燥粉末製剤に関して、マイクロ粒子を、乾燥粉末吸入器から肺への流れを補助する追加の大型のキャリア粒子と共に製剤化してよい。大型のキャリア粒子は公知であり、90μm超の空気動力学的質量中位径を有するラクトース粒子が挙げられる。
別の選択肢として、またはこれに加えて、マイクロ粒子をキャリア物質中に分散させてもよい。例えば、マイクロ粒子をポリサッカリドマトリックス中に分散させて、組成物全体を肺への直接送達用のマイクロ粒子として製剤化してもよい。ポリサッカリドは、活性成分の即時放出に対するさらなるバリアとして作用する。このことにより、放出制御プロセスをさらに補助することができる。適切なキャリア物質は、当業者にとって明らかであり、ポリサッカリドを含む、薬学的に許容される不溶性または溶解性物質のいずれをも挙げられる。適切なポリサッカリドの例は、キサンタンガム(xantham gum)である。
【0019】
組成物はまた、別々の成分として、すなわち別々のマイクロ粒子として、またはマイクロ粒子中の活性薬剤と組み合わせて、追加の治療薬を含んでもよい。
【0020】
また、呼吸器疾患の治療に用いられる任意の適切な薬学的に有効な薬物をも、本発明の薬剤/組成物と共に共投与してよい。例えば、サルブタモール、サルメテロール、およびホルモテロールを例とするβ2−アゴニストを共投与用に製剤化してよい。追加の抗ムス
カリン化合物もまた、共投与してよい。例えば、イプラトロピウム(例:臭化イプラトロピウム)またはチオトロピウムを投与してよい。
【0021】
ステロイドを含む追加の治療薬も共投与してよい。適切なステロイドの例としては、ベクロメタゾン、ジプロピオネート、およびフルチカゾンが挙げられる。共投与に適するその他の適切な治療薬としては、粘液溶解薬、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害薬、ロイコトリエン、抗生物質、抗感染症薬、抗悪性腫瘍薬、ペプチド、ニコチン、PDE4−阻害薬、エラスターゼ阻害薬、およびクロモグリク酸ナトリウムが挙げられる。
【0022】
テオブロミンを気管支拡張薬と組み合わせて用いることが特に好ましい。適切なそのような薬剤は、β−アゴニスト、抗ムスカリン薬、およびPDE阻害薬である。
【0023】
本発明に従う組成物は、従来の製剤化技術を用いて作製することができる。特に、スプレードライを用いて、放出制御特性を与える物質中に分散または懸濁させた活性薬剤を含むマイクロ粒子を作製することができる。
【0024】
ジェットミリングを例とするミリングプロセスも、治療組成物の製剤化に用いることができる。ミリングによる微粒子の製造は、従来の技術を用いて実施することができる。本明細書で用いる「ミリング」という用語は、活性物質の粒子に十分な力を適用して粒子を微粒子へと破壊または粉砕するいずれの機械的プロセスをも意味する。様々なミリング装置および条件が、本発明の組成物の作製における使用に適している。ミリングの強度および持続時間を例とする、必要とされる度合いの力を提供するのに適するミリング条件の選択は、当業者の能力の範囲内である。好ましい方法はボールミリングである。別の選択肢として、高圧ホモジナイザーを用いてもよく、この場合、粒子を含有する流体が高圧でバルブを押し通されることによって高せん断力および乱流の条件が作り出される。粒子へのせん断力、粒子と機械表面またはその他の粒子との衝突、および流体の加速によるキャビテーションのすべてが、粒子の破砕に寄与し得るものである。適切なホモジナイザーとしては、EmulsiFlex高圧ホモジナイザー、Niro Soavi高圧ホモジナイザー、およびMicrofluidics Microfluidiserが挙げられる。ミリングプロセスを用いることで、上記で示した空気動力学的質量中位径を有するマイクロ粒子を得ることができる。活性薬剤が吸湿性である場合、上述のように、ミリングは疎水性物質と共に行ってよい。
【0025】
必要とされる場合、ミリング工程で作製されたマイクロ粒子を、次に追加の賦形剤と共に製剤化してよい。これは、スプレードライプロセス、例えば共スプレードライによって実施することができる。本態様では、粒子は溶媒中に懸濁され、追加の賦形剤の溶液また
は懸濁液と共に共スプレードライされる。好ましい追加の賦形剤としては、ポリサッカリドが挙げられる。薬学的に有効な追加の賦形剤も用いてよい。
【0026】
本発明に従う治療は、患者の性別、年齢、もしくは病状、および1もしくは2つ以上の並行療法が行われているかどうか、などの種々の因子に応じて、一般的に知られている方法で行うことができる。
【0027】
1つの単位用量中の活性成分の量は、例えば0.02〜250mg、好ましくは、2mg未満、最も好ましくは約1mgもしくはそれ未満であってよい。100μg未満を例とする、これらよりも多いまたは少ない用量を与えてもよい。粒子中の活性薬剤は、例えば20重量%超、好ましくは40重量%超、より好ましくは60重量%超で存在してよい。
【0028】
好ましい態様では、テオブロミンの1日用量は、1〜3000mgである。より好ましくは、50〜1500mgまたは400〜1000mgである。テオブロミンと第二の活性薬剤との組み合わせによる相乗効果により、テオブロミンの用量を低減し得ることは理解されるであろう。これは、当業者には公知である。
【実施例】
【0029】
以下の実施例により、本発明の基礎となる根拠を提供する。
【0030】
本実施例の目的は、気管内投与(i.t.)または経口投与(p.o.)されたテオブロミン(3〜30mg/kg)の刺激物誘発咳反応に対する鎮咳活性を、ポジティブコントロールであるコデイン(25mg/kg、i.p.)と比較して評価することである。
【0031】
動物
研究全体を通して、オスのダンキンハートレイモルモット(350〜550g、ハーランUK社(Harlan UK Ltd)より提供)を用いた。
【0032】
プロトコル
36匹のモルモットを、盲検コード(blinding code)により6つの処理群(表1参照
)の1つに無作為に振り分けた。盲検コードは、すべての動物の咳の記録が終わってから、実験者に明らかにした。
【0033】
モルモットには、テオブロミンまたは賦形薬の気管内投与、テオブロミンの経口投与、およびコデインの腹腔内(intra-peronteneally)投与を行った。前処理はすべて、クエ
ン酸曝露前のt−30分に投与した。
【0034】
個々のモルモットを、クエン酸曝露前のt−10分に、2L/分の気流の曝露室に入れ、順化させた。
【0035】
t=0分に、超音波ネブライザーによって発生させた噴霧速度0.6mL/分のクエン酸エアロゾル(1M)に10分間曝露させることで咳反応を誘発した。
【0036】
10分間のクエン酸曝露および曝露後のさらなる5分間全体を通して咳をカウントした。
【0037】
【表1】

【0038】
結果
賦形薬処理モルモットで記録されたクエン酸誘発咳反応の平均回数は、26±4回であり、最初の咳の発生時間の平均は71±26秒であった。この反応レベルは、コデイン処理動物では5±1回の咳まで有意に低減され、最初の咳の発生は337±51秒まで有意に延長された。同様に、テオブロミンによる前処理(30mg/kg、p.o.)もまた、クエン酸誘発咳の回数を有意に低下させたが(12±2回)、最初の咳の発生は、賦形薬コントロール動物で見られた時間を超えて有意に延長されることはなかった。テオブロミンの局所投与(i.t.)も、咳の総回数に対して有意な用量依存的効果を有し、30mg/kgの用量のテオブロミンにおいて、咳の回数を6±1回まで低減した。実に、30mg/kg(p.o.)のテオブロミンで見られたものと類似の効果が、10mg/kg(i.t.)の用量でのテオブロミンで引き起こされた(それぞれ、12±2回の咳と比較して10.33±2回)。また、気管内投与されたテオブロミンの濃度の増加に伴って、最初の咳の発生時間が延長されたことも明らかであり、30mg/kgの用量で210±22秒まで有意に延長された(図1および2を参照)。
【0039】
観察事項
テオブロミン(3〜30mg/kg、i.t.)およびテオブロミン(30mg/kg)の投与によって、動物の行動および健康状態に明らかな変化が引き起こされることはなかった。コデイン(25mg/kg、i.p.)で処理した動物は、曝露室内にいる間の動きの低下に表されるように、僅かな鎮静作用の徴候を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
咳の治療のための、吸入経路を介して送達される活性薬剤としてのテオブロミン。
【請求項2】
送達が、定量吸入器を用いて実施される、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
送達が、乾燥粉末送達装置を用いて実施される、請求項1に記載の薬剤。
【請求項4】
送達が、ネブライザーを用いて実施される、請求項1に記載の薬剤。
【請求項5】
毎日投与される、先の請求項のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項6】
週1回投与される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項7】
テオブロミンの粒子を含み、乾燥粉末として吸入に適するように製剤化される、組成物。
【請求項8】
少なくとも50%の微細粒子画分(5mM未満)を有する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
テオブロミン、噴霧剤、溶媒、および水を含む溶液製剤である、pMDIによる吸入に適した組成物。
【請求項10】
前記テオブロミンが、最大10μmまでの質量中位径を持つ粒子の形態である、請求項7〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
咳の治療のための、請求項7〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
テオブロミンの投与量範囲が、1日あたり1〜3000mgの間である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の薬剤、または請求項7〜11のいずれか一項に記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2012−530121(P2012−530121A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515564(P2012−515564)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【国際出願番号】PCT/GB2010/050997
【国際公開番号】WO2010/146394
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(510179526)バイオコピア リミテッド (10)
【氏名又は名称原語表記】Biocopea Limited
【Fターム(参考)】