品質評価方法及び品質評価装置
【課題】水中に存在する岩盤又は岩石の品質評価を簡易に行うことができる品質評価方法及び品質評価装置を提供する。
【解決手段】水中の自然由来の岩盤Rの品質を評価する品質評価方法であって、海底に存在する岩盤Rに、加速度センサー11bと球面形状の打撃面11dとを有するハンマー11の打撃面11dを衝突させ、加速度センサー11bで得られる加速度データを取得する加速度データ取得工程と、加速度データに基づき、Hertzの弾性接触論を用いて岩盤Rの変形特性をコンピュータ23に演算させる変形特性演算工程と、変形特性演算工程で得られた変形特性に基づいて、コンピュータ23が岩盤Rの品質を判定する品質判定工程と、を備える。
【解決手段】水中の自然由来の岩盤Rの品質を評価する品質評価方法であって、海底に存在する岩盤Rに、加速度センサー11bと球面形状の打撃面11dとを有するハンマー11の打撃面11dを衝突させ、加速度センサー11bで得られる加速度データを取得する加速度データ取得工程と、加速度データに基づき、Hertzの弾性接触論を用いて岩盤Rの変形特性をコンピュータ23に演算させる変形特性演算工程と、変形特性演算工程で得られた変形特性に基づいて、コンピュータ23が岩盤Rの品質を判定する品質判定工程と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の自然由来の岩盤又は岩石の品質を評価する品質評価方法及び品質評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、建設事業において、自然由来の岩盤又は岩石が様々な用途に使用されている。例えば、自然由来の岩盤は、各種の構造物の荷重を支える基礎の支持層として重要な役割を果たしている。基礎の形式にはいくつかあるが、特に直接基礎あるいはケーソン基礎においては、基礎からの荷重を支持するために、これに適した強度や堅さ等を持つ適正な岩盤が必要である。このため、岩盤の強度や硬さ等について、建設中にJIS等で定められた方法による調査や試験を適宜実施する必要がある。このような調査方法及び試験方法としては、下記非特許文献1に記載のものが知られている。すなわち、非特許文献1に記載のような判定基準に従い、岩盤又は岩石の目視判定、岩石用ハンマーによる打撃音、及び周辺の地形や地質的組成に関する知識に基づいて、地質エンジニアが岩盤又は岩石の良否を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−150946号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】(財)日本ダム協会編,「フィルダムの施工」,pp.239,表3.5.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この方法には熟練した地質エンジニアが必要であると共に、判定に個人差が生じる可能性がある。また、例えば、港湾における岸壁等の建設工事等では、判定対象の岩盤や岩石が海底にある場合もある。この場合、それらの良否の判定のために、岩石等を水上まで運送することが考えられるが、手間が大きく迅速性にも欠ける。また、地質エンジニアが潜水し海底で岩盤又は岩石の目視判定を行うことも考えられるが、潜水士としての高いスキルと地質エンジニアとしての高いスキルを併せ持つ技術者は希少であるので、この場合も簡易性に欠ける。
【0006】
このような問題に鑑み、本発明は、水中に存在する岩盤又は岩石の品質評価を簡易に行うことができる品質評価方法及び品質評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、岩盤又は岩石の品質は変形係数に基づいて判定することができ、変形係数の測定には、Hertzの弾性接触論を利用できることに着目した。すなわち、Hertzの弾性接触論によれば、対象の岩盤又は岩石にハンマーを衝突させ、衝突時のハンマーの加速度波形に基づいて岩盤又は岩石の変形特性を知ることができる。そして、本発明者らは、岩盤又は岩石とハンマーとを水中で衝突させた場合にも、Hertzの弾性接触論が成立することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の品質評価方法は、水中の自然由来の岩盤又は岩石の品質を評価する品質評価方法であって、水中に存在する岩石又は岩盤に加速度センサーと球面形状の衝突面とを有するハンマーの衝突面を衝突させ、加速度センサーでハンマーの加速度データを取得する加速度データ取得工程と、加速度データに基づきHertzの弾性接触論を用いて岩盤又は岩石の変形特性を演算装置に演算させる変形特性演算工程と、変形特性演算工程で得られた変形特性に基づいて岩盤又は岩石の品質を判定する品質判定工程と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
この品質評価方法では、対象の岩盤又は岩石にハンマーを衝突させたときの加速度データに基づき、Hertzの弾性接触論を用いた演算により岩盤又は岩石の変形特性を算出する。そして、変形特性に基づいて、岩盤又は岩石の品質が判定される。従って、この品質評価方法によれば、例えば海底などの水中の現場において、加速度データを収集すべく、ダイバーにハンマーを岩盤又は岩石に衝突させるといった簡易な動作を行わせればよい。つまり、地質エンジニアと潜水士のスキルを併せ持つ希少な技術者を必要とせず、水中の現場において、岩盤又は岩石の品質評価を簡易に行うことができる。
【0010】
具体的には、品質判定工程では、岩盤又は岩石の変形特性と岩盤等級との対応を表す所定の対応テーブルに基づいて、岩盤又は岩石の工学的分類を行い、岩盤又は岩石の岩盤等級を品質に関する情報として得ることとしてもよい。対象の岩盤又は岩石を岩盤等級に従って工学的に分類することにより、構造物基礎の支持層としての岩盤又は岩石の使用可否を評価することができる。
【0011】
また、品質判定工程では、岩盤又は岩石の変形特性と吸水率との相関関係を表す所定の吸水率相関関係に基づいて、岩盤又は岩石の吸水率を品質に関する情報として得ることとしてもよい。また、品質判定工程では、岩盤又は岩石の変形特性と密度との相関関係を表す所定の密度相関関係に基づいて、岩盤又は岩石の密度を品質に関する情報として得ることとしてもよい。
【0012】
本発明者らは、岩盤又は岩石の吸水率や密度は、当該岩盤又は岩石の変形特性と相関関係があることを見出した。そこで、岩盤又は岩石の変形特性に基づいて吸水率や密度を得ることができる。対象の岩盤又は岩石について、吸水率や密度を得ることにより、当該岩盤又は岩石の用途の判断材料とすることができる。
【0013】
本発明の品質評価装置は、水中の自然由来の岩盤又は岩石の品質を評価する品質評価装置であって、加速度センサーと球面形状の衝突面とを有するハンマーと、ハンマーの衝突面を水中に存在する岩盤又は岩石に衝突させたときに加速度センサーで得られる加速度データを取得する加速度データ取得手段と、加速度データに基づきHertzの弾性接触論を用いて岩盤又は岩石の変形特性を演算する変形特性演算手段と、変形特性演算手段で得られた変形特性に基づいて岩盤又は岩石の品質を判定する品質判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
この品質評価装置では、対象の岩盤又は岩石にハンマーを衝突させたときの加速度データに基づき、Hertzの弾性接触論を用いた演算により岩盤又は岩石の変形特性を算出する。そして、変形特性に基づいて、岩盤又は岩石の品質が判定される。従って、この品質評価装置によれば、例えば海底などの水中の現場においては、加速度データを収集すべく、ダイバーにハンマーを岩盤又は岩石に衝突させるといった簡易な動作を行わせればよい。つまり、地質エンジニアと潜水士のスキルを併せ持つ希少な技術者を必要とせず、水中の現場において、岩盤又は岩石の品質評価を簡易に行うことができる。
【0015】
また、本発明の品質評価装置は、ハンマーを少なくとも含み、水中で移動可能であり、加速度データに関する情報を取得する水中移動部と、水中移動部で取得された情報に基づいて水上で所定の情報処理を行う水上処理部とを備えてもよい。この構成によれば、品質評価装置のうち水中の岩盤又は岩石の近傍で情報を収集する水中移動部と、その情報を水上で処理する水上処理部とを分けることができる。
【0016】
また、本発明の品質評価装置は、水上処理部の位置情報をGPSにより取得するGPS装置と、水上処理部に対する水中移動部の相対位置情報を取得する相対位置情報取得部と、GPS装置で得られる位置情報と相対位置情報とに基づいて、水中移動部の絶対位置情報を取得する絶対位置情報取得部と、ハンマーと岩盤又は岩石とが衝突した時に、絶対位置情報と加速度データに関する情報とを関連付けて保存する情報保存部と、を備えてもよい。この構成によれば、水中移動部の絶対位置から推定される岩盤又は岩石の絶対位置と、加速度データに関する情報から得られる岩盤又は岩石の品質とを関連付けることができる。
【0017】
また、ハンマーの打撃部は球体をなし、ハンマーの質量は10kg未満であることとしてもよい。打撃部の質量が10kg未満であれば、持ち運びや取り扱いが容易である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水中に存在する岩盤又は岩石の品質評価を簡易に行うことができる品質評価方法及び品質評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の品質評価装置の第1実施形態の構成を示す図である。
【図2】図1の品質評価装置の使用形態を示す図である。
【図3】図1の品質評価装置のコンピュータの構成を示す図である。
【図4】本発明の品質評価方法の第1実施形態を示すフローチャートである。
【図5】本発明者らが行った試験の結果を示すグラフである。
【図6】本発明の品質評価方法を用いた海底掘削工事の一例を示すフローチャートである。
【図7】再掘削深度決定のための調査の手法を示す図である。
【図8】図7の打撃器具の先端部を示す断面図である。
【図9】第2実施形態の品質評価装置のコンピュータの構成を示す図である。
【図10】(a)は、岩石の弾性係数と吸水率との相関関係を示すグラフの一例であり、(b)は、岩石の弾性係数と絶乾密度との相関関係を示すグラフの一例である。
【図11】本発明の品質評価方法の第2実施形態を示すフローチャートである。
【図12】本発明の品質評価装置の第3実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る岩盤又は岩石の品質評価方法及び品質評価装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
(第1実施形態)
図1に、本実施形態の品質評価装置1を示す。品質評価装置1は、水中に存在する自然由来の岩盤又は岩石の品質評価を行うための装置である。水中の自然由来の岩盤には、例えば海底の岩盤などが含まれ、水中の自然由来の岩石には、例えば海底の岩盤を掘削して発生する岩石(掘削ズリ)などが含まれる。
【0022】
図2に、品質評価装置1の使用形態の一例を示す。図に示すように、品質評価装置1は、ケーソン基礎Cの支持層とするための海底の岩盤Rの調査に用いられる。図2に示す領域では、海底を掘削して現れる岩盤Rの上に基礎捨石層101が設けられ、更に基礎捨石層101の上にケーソン基礎Cが載置され、ケーソン基礎Cの上部が海面H上に露出する。ケーソン基礎Cは、波のエネルギーを反射する直立堤として機能する。ケーソン基礎Cの施工方法は公知のものであるので、詳細な説明を省略する。岩盤Rの掘削工事中において、本実施形態の品質評価装置1及び品質評価方法を用いた岩盤Rの品質評価が行われ、岩盤Rがケーソン基礎Cの支持層として使用可能であるか否かが調査される。具体的には、図2に示されるように、ダイバーDが、品質評価装置1の一部である水中移動部1aを持って海底に潜り、岩盤R上でデータ収集の作業を行う。品質評価装置1の他の部分である水上処理部1bは、船Bに搭載されており、水中移動部1aと水上処理部1bとは、ケーブル12で接続されている。詳細は後述するが、水上処理部1bは水中移動部1aで収集されたデータに基づく所定の情報処理を行う。
【0023】
図1に示すとおり、品質評価装置1は、金属製のハンマー11と、チャージアンプ13と、チャージアンプ13用の直流電源装置15と、ターミナルパネル19と、AD変換器21と、コンピュータ(演算装置)23と、音響測深装置(相対位置情報取得部)25と、GPS装置27と、を備えている。このうち、ハンマー11は、上記の水中移動部1aに属し、チャージアンプ13、直流電源装置15、ターミナルパネル19、AD変換器21、コンピュータ23、音響測深装置25、及びGPS装置27は、上記の水上処理部1bに属する。
【0024】
ハンマー11は、ユーザが把持するための棒状の把手部11cと、把手部11cの先端に取り付けられた球体形状の打撃部11aと、打撃部11aの上方に取り付けられた一軸の加速度センサー11bと、を有している。ハンマー11は、品質評価対象である岩盤Rを打撃するためのものである。ダイバーDは、把手部11cを把持して打撃部11aを岩盤Rに衝突させる。打撃部11aの表面のうち下部は、実際に岩盤Rに衝突する球面形状の打撃面(衝突面)11dを構成する。ハンマー11は、例えば海中で使用されるものであるので、錆防止のためにステンレス製であることが好ましい。
【0025】
ハンマー11の質量は、海底における持ち運びや取り扱いを容易にする観点から、10kg未満であることが好ましい。打撃部11aの直径は例えば5cm程度である。なお、後述する打球探査法を実行するためには、打撃部11a全体を球形とすることは必須ではなく、少なくとも打撃面11dが球面形状をなすようにすればよい。
【0026】
加速度センサー11bは、打撃面11dと岩盤Rとの衝突方向における加速度を計測する。ユーザがハンマー11で岩盤Rを打撃したとき、加速度センサー11bは、打撃面11dと岩石との衝突により発生する衝撃波形を加速度波形(加速度データ)として検知する。そして、検知された加速度波形は、加速度信号として、ケーブル12を介して、船B上の水上処理部1bに送信される。水上処理部1bでは、加速度信号がチャージアンプ13に入力され、更にターミナルパネル19、及びAD変換器21を介して、コンピュータ23に送信される。チャージアンプ13は、加速度センサー11bからの加速度信号を増幅し、ターミナルパネル19は、増幅された信号に含まれるノイズ成分を除去し、AD変換器21は、ノイズ除去後の信号をAD変換する機能を有する。
【0027】
コンピュータ23としては、所定の品質評価プログラムを格納した市販のパーソナルコンピュータを用いることができる。コンピュータ23は、上記品質評価プログラムを実行することにより、加速度センサー11bから得られる加速度信号に基づく演算を行い、岩盤Rの評価結果を出力する。コンピュータ23としては、持ち運びや取り扱いを容易にする観点から小型・軽量であることが好ましいので、ラップトップ型コンピュータを採用することが好ましい。
【0028】
GPS(Global Positioning System)装置27は、GPS衛星から受信した電波に基づいて水上処理部1bの現在位置(絶対位置)を算出し、現在位置情報をコンピュータ23に送信する。音響測深装置(相対位置情報取得部)25は、音波を海底に向けて出射し、その反射波を分析して海底のダイバーDの位置或いは水中移動部1aの位置を測定する。音響測深装置25で得られる測定データは、水上処理部1bに対する水中移動部1aの3次元の相対位置を示し、当該相対位置情報はコンピュータ23に送信される。このような機能をもつGPS装置27や音響測深装置25は公知であるので、更なる詳細な説明を省略する。
【0029】
図3に示すように、コンピュータ23は、情報記憶部30と演算部40と情報蓄積部(情報保存部)50と、ディスプレイ60とを有している。情報記憶部30には、岩盤等級テーブル(対応テーブル)31と、使用基準33とが格納されている。岩盤等級テーブル31は、下表1に例示するように、岩盤の変形係数(応力と歪みとの比例定数)と岩盤等級との対応関係を示す情報であり、例えば、下記文献に記載されている周知のテーブルが採用される。なお、表1には岩盤の静弾性係数と岩盤等級との対応関係も併せて示されている。変形係数及び静弾性係数は、ともに岩盤又は岩石の変形特性を表す評価指標である。ただし、載荷等の外力によって岩盤が変形するに際し、変形係数が岩盤中に内在する亀裂の閉口に伴う変位を考慮するのに対して、静弾性係数ではそれを考慮しないという差異がある。つまり、変形係数は亀裂を内在する岩盤の変形特性を表す評価指標であり、静弾性係数は岩盤の基質及び亀裂を内在しない岩石の変形特性を表す評価指標であるといえる。
【表1】
〔文献〕菊地宏吉ら、「ダム基礎岩盤の耐荷性に関する地質工学的総合評価」、応用地質、日本応用地質学会、1984年、特別号、p.103−118.
【0030】
使用基準33は、岩盤Rがケーソン基礎Cの支持層として使用可能であるための等級を示す情報である。例えば、「ケーソン基礎Cの支持層として使用可能な岩盤は、岩盤等級がB級またはCH級のもの」といった情報が、使用基準33として情報記憶部30に格納される。この使用基準33は、例えば、特記仕様書や施工計画書に基づいて設定され、ユーザによるコンピュータ23のキー操作等により事前に入力される。情報記憶部30及び情報蓄積部50は、例えば、コンピュータ23に内蔵された記憶装置の記憶領域である。
【0031】
演算部40は、変形係数算出部(加速度データ取得手段、変形特性演算手段)41と、等級判定部(品質判定手段)43と、使用可否判定部45と、評価位置算出部(絶対位置情報取得部)47と、を備えている。変形係数算出部41と、等級判定部43と、使用可否判定部45と、評価位置算出部47とは、コンピュータ23のCPU、RAM等のハードウェア上に所定の品質評価プログラムを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで通信モジュール、入力装置、出力装置等を動作させるとともに、RAMや補助記憶装置におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことでソフトウエア的に実現される構成要素である。
【0032】
変形係数算出部41は、加速度センサー11bから得られる加速度信号に基づき、Hertzの弾性接触論を用いて、岩盤Rの変形係数を算出する。Hertzの弾性接触論によれば、球体を弾性体表面に衝突させたときの球体と弾性体平面との接触時間Tcは、次式(1)で表される。
【数1】
【0033】
但し、
E1:球体の弾性係数
μ1:球体のポアソン比
R :球体の半径
M :球体の質量
E2:弾性体の弾性係数
μ2:弾性体のポアソン比
V0:衝突速度
である。
【0034】
特許文献1では、以上のようなHertzの弾性接触論を、コンクリート構造物の剛性の測定に利用することが開示されている。本実施形態では、岩盤Rの変形係数を測定する場合にHertzの弾性接触論を適用する。すなわち、本実施形態では、上記のHertzの弾性接触論において、上記球体にハンマー11の打撃部11aを当てはめ、上記弾性体に岩盤Rを当てはめる。この場合、式(1)において、E1,μ1,R,Mは既知である。また、岩盤Rのポアソン比μ2としては、一般的な岩石のポアソン比として0.2程度の値を用いればよい。更に、Tc及びV0は、加速度信号で表される衝撃波形(加速度データ)から算出することができる。従って、加速度信号が得られれば、式(1)に基づいて、未知量である岩盤Rの弾性係数E2を算出することができる。なお、ここでは、打撃の対象が岩盤Rであるので、E2は岩盤Rの応力と歪みとの比例定数である「変形係数」を示すことになる。
【0035】
等級判定部43は、変形係数算出部41で得られた岩盤Rの変形係数E2に基づいて、岩盤Rの工学的分類を行う。岩盤の工学的分類とは、例えば前述の表1に従って、対象の岩盤の岩盤等級を決定することを言う。即ち、等級判定部43は、情報記憶部30に格納された岩盤等級テーブル31を読み出し、上記変形係数E2の値に対応する岩盤等級を、岩盤Rの等級として求める。
【0036】
評価位置算出部47は、打撃により評価した岩盤Rの箇所の絶対位置(以下「評価位置」)を算出する。具体的には、評価位置算出部47は、GPS装置27で得られた水上処理部1bの絶対位置情報と、音響測深装置25で得られた水中移動部1aの相対位置情報と、に基づいて、水中移動部1aの絶対位置を算出する。このような水中移動部1aの絶対位置の算出を、岩盤Rの打撃時(打撃の直前又は打撃の直後を含む)に行うことにより、打撃により評価した岩盤Rの場所の絶対位置を取得することができる。
【0037】
使用可否判定部45は、等級判定部43で得られた岩盤Rの等級と、情報記憶部30から読み出した使用基準33との比較を行う。そして、岩盤Rの等級が使用基準33を満たす場合には、岩盤Rがケーソン基礎Cの支持層として使用可能であると判定する。一方、岩盤Rの等級が使用基準33を満たさない場合には、岩盤Rがケーソン基礎Cの支持層として使用不可能であると判定する。
【0038】
その後、使用可否判定部45は、判定結果(岩盤Rの使用の可否)を、例えば、岩盤Rの等級と一緒に、コンピュータ23のディスプレイ60に表示する。更に、使用可否判定部45は、岩盤Rの使用の可否と岩盤等級と、評価位置算出部47から得られる評価位置情報と、を関連付けて情報蓄積部50に蓄積する。
【0039】
更に、使用可否判定部45は、情報蓄積部50に蓄積されている前回の評価に係る岩盤の等級と、今回の評価に係る岩盤Rの等級とを比較することで、岩盤の品質変動の有無を判定してもよい。
【0040】
続いて、上述の品質評価装置1を用いて行う岩盤Rの品質評価方法について、図4を参照し説明する。
【0041】
〔対応テーブル準備工程〕
岩盤の変形係数と岩盤等級との対応関係を示す岩盤等級テーブル31を、コンピュータ23の情報記憶部30に保存する(S101)。具体的には、例えば前述の表1が電子データとして情報記憶部30に保存される。
【0042】
〔打球探査工程〕
まず、海底において岩盤Rの評価位置を選定する(S103)。次に、打球探査法によって岩盤Rの変形係数を算出する。具体的には、ダイバーDは、選定した岩盤Rの場所をハンマー11の打撃面11dで打撃する。打撃時にハンマー11に発生する加速度が加速度センサー11bで検知され、加速度信号がコンピュータ23に入力され、演算部40の変形係数算出部41に入力される(加速度データ取得工程)。そして、変形係数算出部41が、加速度信号に基づいて、前述の式(1)より、岩盤Rの変形係数を算出する(S105:変形特性演算工程)。
【0043】
〔等級判定工程〕
続いて、等級判定部43は上記打球探査工程による変形係数算出値と、岩盤等級テーブル31とに基づいて、岩盤Rの等級を判定する(S107)。具体的には、等級判定部43は、情報記憶部30から岩盤等級テーブル31を読み出し、上記変形係数算出値に対応する岩盤等級を、岩盤Rの等級として求める(品質判定工程)。
【0044】
〔使用可否判定工程〕
続いて、使用可否判定部45は、求められた岩盤Rの等級と使用基準33とを比較して岩盤Rの使用可否を判定する。具体的には、使用可否判定部45は、情報記憶部30から使用基準33を読み出し、岩盤Rの等級と比較し(S109)、岩盤Rの等級が使用基準33を満足する場合には、岩盤Rは使用可能と判定し(S111)、岩盤Rの等級が使用基準33を満足しない場合には、岩盤Rは使用不可能と判定する(S113)。その後、使用可否判定部45は、判定結果(岩盤Rの使用の可否)を、例えば、岩盤Rの等級と一緒に、コンピュータ23のディスプレイ60に表示する。
【0045】
〔評価位置取得工程〕
続いて、評価位置算出部47は、GPS装置27から得られた情報と、音響測深装置25から得られた情報と、に基づいて、水中移動部1aの現在の絶対位置を算出する(S123)。なお、評価位置取得工程は、打球探査工程の前に行ってもよい。
【0046】
〔データ記録工程〕
続いて、使用可否判定部45は、岩盤Rの使用の可否と岩盤Rの等級と、評価位置取得工程で得られた評価位置情報とを関連付けて情報蓄積部50に蓄積する(S125)。その後、岩盤Rの品質評価を継続する場合には(S127でYes)S103の処理に戻り、それ以外の場合には(S127でNo)処理を終了する。ダイバーDが海底を移動し岩盤Rの評価位置を変えながら以上の処理を繰り返せば、自然由来でありバラツキを有する岩盤Rの複数の箇所における変形係数を調査することができ、岩盤Rの変形係数の調査精度を向上させることができ、かつマッピングを行うことができる。
【0047】
この品質評価装置1及び品質評価方法では、岩盤Rにハンマーを衝突させたときの加速度データに基づき、Hertzの弾性接触論を用いた演算により岩盤Rの変形係数を算出する。そして、変形係数に基づいて、岩盤Rの岩盤等級が判定される。従って、海底の現場においては、加速度データ収集のために、ハンマー11で岩盤Rを打撃するといった簡易な操作をダイバーDが行えばよい。つまり、地質エンジニアと潜水士のスキルを併せ持つ希少な技術者を必要とせず、水中の現場において岩盤Rの品質評価を簡易に行うことができる。
【0048】
また、この品質評価装置1及び品質評価方法によれば、ダイバーDが行う作業は、主にハンマー11による岩盤Rの打撃のみであるので、1回の品質評価が、例えば30秒程度と短時間で可能であり、岩盤Rの使用可否を迅速に判定するといった運用が可能になる。よって、海底の掘削作業の途中に、岩盤Rの品質を頻繁に確認するといった運用も可能になる。また、多くのデータを収集して統計的処理を行うことが可能になり、評価の精度を高めることができる。また、ダイバーDの熟練度が評価の精度に与える影響も小さい。また、ハンマー11の質量を10kg未満としているので、ハンマー11の持ち運びや取り扱いが容易であり、海底で容易に測定を行うことができる。以上の結果、迅速な岩盤Rの評価が可能になり、ケーソン基礎Cの施工を効率的に行うことができる。
【0049】
ここで、Hertzの弾性接触論が、水中におけるハンマー11と岩盤Rとの衝突にも適用可能である点について検討する。
【0050】
本発明者らは、花崗岩、安山岩、および石英安山岩の3種の岩石試料について、品質評価装置1を用いた変形係数測定を行った。測定は、各岩石試料について、気中に置いた状態と、水中に置いた状態とでそれぞれハンマー11で打撃し、それぞれ変形係数を得た。ハンマー11の打撃部11aは、鋼鉄製で半径2.5cm、質量600gの球体であり、各岩石試料としては、直径30cm程度の岩塊を選んだ。測定結果は、図5に示すとおり、岩石の種類に関わらず、気中と水中とでほぼ同等の変形係数の測定値が得られた。これにより、Hertzの弾性接触論は、気中と同様に、水中における衝突にも成立し、品質評価装置1によれば、気中と同様に水中でも岩盤Rの変形係数が得られることが確認された。
【0051】
なお、Hertzの弾性接触論が水中の衝突でも成立するとの結論は、以下のように推定される。前述の数式(1)の接触時間Tcは、衝突によって瞬間的に接触する2物体の固有の物理特性(特に、変形係数又は弾性係数)にのみ依存し、衝突が気中で発生するか水中で発生するかといった条件には影響されないと考えられる。また、水は工学的に非粘性流体と考えられるので、2物体の衝突の瞬間には両者の接触面の間に介在しないと考えられるからである。また、2物体の接触面の間に水が介在しないことから、2物体の衝突の際の加速度に対して水の存在が与える影響は小さく、その結果、加速度波形から求められるV0(衝突速度)も、気中と水中との間で工学的には有意差がないと考えられる。
【0052】
また、式(1)中のE1(ハンマー11の打撃部11aの弾性係数)、μ1(打撃部11aのポアソン比)、R(打撃部11aの半径)、M(打撃部11aの質量)も、物体の固有の特性であり、気中と水中とで変化することはない。岩盤Rに関して、水中において岩盤Rの空隙が飽和しているのと同様に、土木分野で対象となるような岩盤は、降雨や地下水の影響により、気中においても飽和した状態にあると考えられる。すなわち、通常の自然条件下では、気中の岩盤の空隙が絶乾状態に至ることはほぼ考えられない。つまり、μ2(岩盤Rのポアソン比)も、水中の岩盤と気中の岩盤とでほぼ同等と考えられる。以上のように、水の有意な影響を受けるパラメータは式(1)には含まれず、式(1)で示されるHertzの弾性接触論は、気中においても水中においても同様に成立すると考えられる。
【0053】
続いて、図6を参照し、上述の品質評価方法を利用した海底の岩盤Rの掘削工事の一例について説明する。この例の岩盤Rは、前述のケーソン基礎Cの支持層とされるものである。
【0054】
まず、ケーソン基礎Cの位置が決定され(S201)、その位置の海底が計画深度まで掘削される(S203)。掘削で現れた岩盤Rについて、上述の品質評価方法及び品質評価装置1を用いた品質評価が実行される(S205)。ここでは、例えば、岩盤R上に評価位置が格子状に設定され、岩盤Rの複数箇所について品質評価が行われる。品質評価の結果「ケーソン基礎Cの支持層として使用可能」との結果が得られた場合(S207でYes)には、掘削工事を終了する(S209)。一方、品質評価の結果「ケーソン基礎Cの支持層として使用不可能」との結果が得られた場合(S207でNo)には、再掘削の深度決定のための調査が行われる(S211)。再掘削の深度が決定された後、S203に戻り上述の処理を繰り返す。
【0055】
次に、上記S211の再掘削深度決定の調査の工程に、品質評価装置1を利用する例について説明する。まず、品質評価装置1の水中移動部1aとコアドリル(図示せず)とを持ったダイバーDが海底の岩盤R上に降りる。次に、図7に示すように、ダイバーDがコアドリルを用いて岩盤Rに所定深さの鉛直の調査孔103を穿ける。調査孔103の孔径は、例えば100mm以下程度であり、調査孔103の深さは、例えば1m程度である。る。その後、ダイバーDが調査孔103の底面103aをハンマー11で打撃することにより加速度データを取得する。加速度データがコンピュータ23に送信され、前述の演算によって「使用可能」又は「使用不可能」との評価結果が導出される。
【0056】
ここで、「使用可能」との評価結果が得られた場合には、現在の岩盤R表面から更に深い位置に良質の岩盤が存在することが判明する。すなわち、調査孔103の深さ分だけ再掘削することで、ケーソン基礎Cの支持層として使用可能な岩盤が現れる可能性が高いと判断することができる。そして、調査孔103の底面103aの深度に該当する深度、再掘削の計画深度として採用される。
【0057】
なお、海底における取り扱い容易性の観点から、大口径のコアドリルを採用することは難しく、その結果、調査孔103の孔径が小さい場合がある。この場合、調査孔103内にダイバーDの手が入り難く、底面103aを適切に打撃することができない恐れもある。そこで、底面103aを打撃する際には、図7及び図8に示すような打撃器具51を用いるものとする。
【0058】
図8に示すように、打撃器具51は、把手部11cを取り除いた状態のハンマー11を棒体53の先端に取り付けたような構成をなす。打撃器具51は、棒体53と打撃部11aとを連結する連結部として、スライド機構61と付勢部67とを備えている。以下、棒体53の延在方向を前後方向として、打撃部11aが設けられた側の端部を「前端部」として、「前」、「後」の概念を含む語を位置関係の説明に用いるものとする。打撃部11aの前側の面が打撃面11dであり、打撃部11aの後側の面に加速度センサー11bが取り付けられる。
【0059】
スライド機構61は、棒体53の前端の中空部に設けられており、固定側レール61bと、固定側レール61bに対して前後移動可能に係合された移動側レール61aとを備えている。固定側レール61bは棒体53の中空部内壁面に固定されており、移動側レール61aの前端は棒体53の前端開口から前方に突出している。打撃部11aは、移動側レール61aの前端に取り付けられている。このような構造により、打撃部11aは、棒体53に対して、前後方向(棒体3の延在方向)に平行移動可能である。また、スライド機構61では、所定のストッパ機構(図示省略)により移動側レール61aの前後移動範囲が制限されているので、打撃部11aの移動範囲には、前端限界と後端限界とが存在する。
【0060】
スライド機構61としては、例えば、固定側レール61bと移動側レール61aとの間にボールを挟んだ構造をもつ公知のスライドレール部品を用いればよい。また、スライド機構61は、打撃部11aを前後移動可能に支持するものであれば、他の構造でもよい。
【0061】
更に、打撃器具51は、打撃部11aを前方に向けて付勢する付勢部67を備えている。付勢部67は、ヒンジ結合で開閉可能な2本のアーム69と、アーム69を開く方向に付勢するねじりバネ71と、を備えている。2本のアーム69の先端は、それぞれ、移動側レール61a及び棒体53の外壁面にヒンジ結合されているので、ねじりバネ71の付勢力は、打撃部11aを前方に付勢する力として作用する。なお、打撃部11aが前端限界の位置にあるときに、ねじりバネ71が発生する力がゼロになるように調整されており、打撃部11aが前端限界の位置から後退したときに、ねじりバネ71が打撃部11aを前方に押し出す力を発揮する。
【0062】
以上の構成に基づき、ダイバーDは、図7に示されるように、調査孔103に打撃器具51の先端を挿入し、棒体53を把持し下方に向けて突く動作により、打撃部11aで底面103aを打撃することができる。このように、打撃器具51を用いることにより、調査孔103にダイバーDの手が入り難い場合にも、底面103aを打撃部11aで打撃することができる。
【0063】
また、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得るためには、打撃の瞬間の反発による打撃部11aの動きが許容される状態で、底面103aを打撃する必要がある。すなわち、打撃の瞬間においては、打撃部11aが底面103aから弾性的に跳ね返る動きが妨げられてはならない。ここで、棒体53の前端部に単純に打撃部11aを固定した構造を考える。この構造の装置によれば、ダイバーDが底面103aを突く動作を行った際に、打撃部11aと底面103aとの衝突直後から更に一定時間だけ前方に押さえ込む動作になり易く、すなわち、打撃部11aが跳ね返る動きが妨げられる状態になり易い。更に、打撃部11aは調査孔103内にあり目視し難いので、打撃部11aの打撃の状態をダイバーDが微調整することも難しい。従って、棒体53の前端部に単純に打撃部11aを固定した構造では、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることが困難である。
【0064】
これに対し、打撃器具51によれば、打撃部11aは、棒体53に対し、衝突方向(前後方向)に移動可能であるように支持された構成を採用している。よって、打撃の瞬間には、底面103aからの反発による打撃部11aの後方への動きが許容された状態である。よって、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることができる。
【0065】
また、上記の突く動作の際に、棒体53は前方に素早く加速されるので、打撃部11aは、慣性により棒体53に対して後方に移動しようとする。このとき、打撃部11aが後端限界に到達してしまうと、打撃の瞬間における打撃部11aの後方への動きが制限されてしまい、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることができなくなる。
【0066】
これに対し、打撃器具51においては付勢部67を設けることにより、棒体53の加速の際に、付勢部67によって打撃部11aが前方に付勢されるので、打撃部11aが後端限界に到達することを避けることができる。よって、棒体3が素早く加速された場合にも、反発によるハンマーの後方への動きを確保し、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることができる。なお、打撃の瞬間においては、付勢部67による前方への付勢力が作用しており、打撃部11aの後方への移動を僅かに妨げることになるが、当該付勢力は、打撃の衝撃力に比較して極めて小さく、上記付勢力の影響は無視することができる。
【0067】
(第2実施形態)
続いて、本発明の品質評価装置及び品質評価方法の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態において、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0068】
前述のような海底の岩盤の掘削工事では、掘削ズリとして岩石が発生する。このような岩石は、建設機械によって水上に揚げられ、例えば道路等の盛土材料として利用されるため、所定の品質を満足するか否かが評価され、材料として使用可能であるか否かを判定する必要がある。この判定を掘削ズリが海底にある段階で行うことができれば、適切な建設機械の選定や陸上における掘削ズリの適切な運搬等が可能となり、掘削ズリの利用または廃棄を効率的に行うことができる。そこで、本実施形態では、掘削ズリが発生した海底の現場に、ダイバーDが水中移動部1aを持って降り、ダイバーDは海底にある岩石をハンマー11で打撃することとする。
【0069】
また、掘削ズリの岩石が所望の目的に利用可能であるか否かは、一般的に、岩石の吸水率又は密度を基準として判断される場合が多い。そこで、本実施形態では、岩石の吸水率又は密度を判断基準として、当該岩石の使用可否を判定する。例えば、岩石の吸水率と弾性係数との間には所定の相関関係があるので、ハンマー11による岩石の打撃で当該岩石の弾性係数を算出し、弾性係数の算出値に基づいて岩石の吸水率を推定する。
【0070】
本実施形態における品質評価装置は、コンピュータ23に代えて図9に示すコンピュータ223を備えている点で、前述の品質評価装置1と異なる。コンピュータ223の情報記憶部30には、品質相関関係(吸水率相関関係)231と、品質基準値233とが格納されている。本発明者らの実験によれば、岩石の弾性係数と吸水率との間には、図10(a)のような曲線で表される相関関係があることが判明した。品質相関関係231は、上記のような岩石の弾性係数と吸水率との相関関係を示す情報である。後述の吸水率相関関係準備工程によって品質相関関係231が取得され、予め情報記憶部30に保存される。
【0071】
品質基準値233は、岩石が所望の用途に使用可能であるための吸水率の上限値を示す情報である。例えば、岩石をロックフィルダムのロック材として使用する場合には、岩石の吸水率が3.0%以下であることが要求されるので、「吸水率基準値=3.0%」との情報が情報記憶部30に格納される。この品質基準値233は、例えば、特記仕様書や施工計画書に基づいて設定され、ユーザによるコンピュータ223のキー操作等により事前に入力される。情報記憶部30及び情報蓄積部50は、例えば、コンピュータ223に内蔵された記憶装置の記憶領域である。
【0072】
演算部40は、弾性係数算出部241と、品質推定部243と、使用可否判定部245と、評価位置算出部47と、を備えている。弾性係数算出部241、品質推定部243、使用可否判定部245、及び評価位置算出部47は、コンピュータ223のCPU、RAM等のハードウェア上に所定の品質評価プログラムを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで通信モジュール、入力装置、出力装置等を動作させるとともに、RAMや補助記憶装置におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことでソフトウエア的に実現される構成要素である。
【0073】
弾性係数算出部241は、加速度センサー11bから得られる加速度信号に基づき、Hertzの弾性接触論を用いて、岩石の弾性係数を算出する。品質推定部243は、弾性係数算出部241で得られた岩石の弾性係数に基づいて、岩石の吸水率を推定する。即ち、品質推定部243は、情報記憶部30に格納された品質相関関係231を読み出し、上記弾性係数の値に対応する吸水率の値を、岩石の吸水率推定値として求める。
【0074】
使用可否判定部245は、品質推定部243で得られた吸水率推定値と、情報記憶部30から読み出した品質基準値233との大小比較を行う。そして、吸水率推定値が品質基準値233以下である場合には、岩石が所定の用途に(例えば、ロックフィルダムのロック材としての用途に)使用可能であると判定する。一方、吸水率推定値が品質基準値233よりも大きい場合には、岩石が所定の用途に使用不可能であると判定する。その後、使用可否判定部245は、判定結果(岩石の使用の可否)を、例えば、吸水率推定値と一緒に、コンピュータ223のディスプレイ60に表示する。更に、使用可否判定部245は、岩石の使用の可否と、吸水率推定値と、評価位置算出部47から得られる評価位置情報と、を関連付けて情報蓄積部50に蓄積する。
【0075】
更に、使用可否判定部245は、情報蓄積部50に蓄積されている前回の評価に係る岩石の吸水率推定値と、今回の評価に係る岩石の吸水率推定値とを比較することで、岩石の品質変動の有無を判定してもよい。
【0076】
続いて、上述した本実施形態の品質評価装置を用いて行う岩石の品質評価方法について図11を参照し説明する。
【0077】
〔吸水率相関関係準備工程〕
岩石の弾性係数と吸水率との相関関係を示す吸水率相関関係を、コンピュータ223の情報記憶部30に保存する(S301)。吸水率相関関係は、各種の現場(各種の岩種)において、岩石の弾性係数測定と吸水率測定とを行い、弾性係数と吸水率との相関関係を求め、これらの既往データを総合して求めた相関関係である。
【0078】
吸水率相関関係は以下のような手順で求められる。まず、岩石の中径が15cm以上の岩石を石サンプルとして採取する。「中径粒径が15cm以上」とは、岩石が、大きさ15cmの篩目をもつ篩を通過しないことを意味する。以下の説明においても、「中径粒径」との語を用いるときは同様の定義とする。続いて、後述する打球探査法により、採取した岩石サンプルを打撃し弾性係数を算出する。その一方で、採取した岩石の吸水率を、JIS A 1100の試験により測定する。そして、算出された上記弾性係数と測定された上記吸水率との関係をプロットする。以上を多数の岩石サンプルについて行うことにより、岩石の弾性係数と吸水率との相関関係が求められる。なお,本発明者らは岩石の弾性係数と吸水率の相関関係は、岩種に因らずほぼ同一の関係を持つとの知見を得ている。また、適宜、岩石の弾性係数と吸水率の相関関係を確認し、この関係をプロットすることで、岩石の弾性係数と吸水率の相関関係はより精度の高いものとなる。
【0079】
なお、実際に掘削ズリが発生する海底の現場で岩石サンプルを採取し、その岩石サンプルに基づいて吸水率相関関係を求め、コンピュータ223の情報記憶部30に保存してもよい。この場合、掘削ズリが発生する海底の現場に特有の吸水率相関関係を取得することができる。なお、吸水率相関関係準備工程は、採取現場で行う必要はなく、岩石サンプルを室内に持ち込んで行ってもよい。
【0080】
〔打球探査工程〕
まず、ダイバーDが海底において品質評価対象の岩石を選定し採取する(S303)。この場合、粒径が15cm以上のものを対象岩石として選定する。次に、打球探査法によって岩石の弾性係数を算出する。具体的には、ダイバーDは、選定した岩石をハンマー11の打撃面11dで打撃する。打撃時にハンマー11に発生する加速度が加速度センサー11bで検知され、加速度信号がコンピュータ223に入力され、演算部40の弾性係数算出部241に入力される。そして、弾性係数算出部241が、加速度信号に基づいて、前述の式(1)より、岩石の弾性係数を算出する(S305)。
【0081】
〔吸水率推定工程〕
続いて、品質推定部243は、上記打球探査工程による弾性係数算出値と、品質相関関係231と、に基づいて、岩石の吸水率を推定する。具体的には、品質推定部243は、情報記憶部30から品質相関関係231を読み出し、上記弾性係数算出値に対応する吸水率の値を、岩石の吸水率推定値として求める(S307)。
【0082】
〔使用可否判定工程〕
続いて、使用可否判定部245は、上記吸水率推定値と品質基準値233とを比較して岩石の使用可否を判定する。具体的には、使用可否判定部245は、情報記憶部30から品質基準値233を読み出し、吸水率推定値と品質基準値233とを大小比較する(S309)。吸水率推定値が品質基準値233以下の場合には、岩石は使用可能と判定し(S311)、吸水率推定値が品質基準値233よりも大きい場合には、岩石は使用不可能と判定する(S313)。その後、使用可否判定部245は、判定結果(岩石の使用の可否)を、例えば、吸水率推定値と一緒に、コンピュータ223のディスプレイ60に表示する。
【0083】
〔評価位置取得工程〕
続いて、評価位置算出部47は、GPS装置27から得られた情報と、音響測深装置25から得られた情報と、に基づいて、水中移動部1aの現在の絶対位置を算出する(S223)。なお、評価位置取得工程は、打球探査工程の前に行ってもよい。
【0084】
〔データ記録工程〕
続いて、使用可否判定部245は、岩石の使用の可否と、吸水率推定値と、評価位置取得工程で得られた評価位置情報と、を関連付けて情報蓄積部50に蓄積する(S325)。その後、岩石の品質評価を継続する場合には(S327でYes)、S303の処理に戻り、それ以外の場合には(S327でNo)、処理を終了する。
【0085】
本実施形態の品質評価方法及び品質評価装置によれば、海底の現場で発生する掘削ズリを現場から移動させることなく、当該岩石の品質評価を行うことができる。この評価を掘削ズリが海底にある段階で行うことができれば、適切な建設機械の選定や陸上における掘削ズリの適切な運搬等が可能となり、掘削ズリの利用または廃棄を効率的に行うことができる。
【0086】
なお、前述したとおり、岩石の吸水率の代わりに岩石の密度を判断基準として、当該岩石の使用可否を判定してもよい。本発明者らの実験によれば、岩石の密度と弾性係数との間にも図10(b)に例示するような所定の相関関係があるので、ハンマー11による岩石の打撃で当該岩石の弾性係数を算出し、弾性係数の算出値に基づいて岩石の密度を推定する。そして、事前に準備した密度基準値よりも岩石の密度推定値が大きい場合に、岩石を使用可能と判定する。このような使用可否判定は、上述したような岩石の吸水率を判断基準とする使用可否判定に倣って行うことができる。この場合、品質相関関係(密度相関関係)231には、図10(b)のような岩石の弾性係数と密度との相関関係を示す情報が格納される。また、品質基準値233には、岩石が所望の用途に使用可能であるための密度の下限値(密度基準値)を示す情報が格納される。
【0087】
(第3実施形態)
続いて、本発明の品質評価装置及び品質評価方法の第3実施形態について、図12を参照しながら説明する。なお、本実施形態において、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0088】
図12に示すように、本実施形態の品質評価装置301は、水中移動部1aに代えて、水中移動部301aを備える点において前述の品質評価装置1と異なる。水中移動部301aは、円筒状のさや管303を備えており、把手部11cを取り除いた状態のハンマー11をさや管303の中空部に収納したような構成をなす。水中移動部301aは、ワイヤー305によって船Bから海中に吊り下げられ、海底の岩盤R上に降ろされる。そして、図12に示すように、水中移動部301aは、さや管303の筒軸を鉛直に向け岩盤R上に着地した状態で使用される。以下、「上」、「下」の概念を含む語を説明に用いる場合には、水中移動部301aの上記の使用状態の姿勢に基づくものとする。
【0089】
水中移動部301aでは、さや管303の中空部に打撃部11aが収納されている。さや管303の内径は打撃部11aの径よりもやや大きく、打撃部11aは中空部内で上下移動可能である。打撃部11aの下側の面が打撃面11dであり、打撃部11aの上側の面に加速度センサー11bが取り付けられる。さや管303の外側上部には、電磁石307が設けられている。電磁石307は、水上処理部1b側から操作可能であり、電磁石307が打撃部11aを吸着することで、打撃部11aがさや管303内で上部に移動する。そして、電磁石307が、上部に移動した打撃部11aを解放することで、打撃部11aがさや管303内を落下し、打撃面11dが岩盤Rに衝突する。なおこのとき、バネ等を利用して、打撃部11aを加速して岩盤Rに衝突させてもよい。さらに、先端に電磁石を取りつけた巻き取り可能なワイヤーで打撃部11aをさや管303内で上部に移動し、電流を切ることで打撃部11aを落下させればなお好適である。
【0090】
さや管303の下部には、管の内外を連通する排水口303aが設けられており、打撃部11aの落下の際には中空部内の水が排水口303aを介して外側に押し出される。これにより、打撃部11aに作用する水の抵抗が軽減され、打撃部11aがさや管303内を円滑に落下する。
【0091】
以上のように、品質評価装置301においては、ワイヤー305で水中移動部301aを海底に降ろし、水上処理部1bからの操作により打撃部11aを岩盤Rに衝突させることができるので、ダイバーを海底に派遣しない運用も可能になる。
【0092】
また、水中移動部301aは、さや管303の外側に取り付けられ下方を撮像する水中カメラ309と、さや管303の外側に取り付けられ下方に向けて水を噴出する水噴出装置311とを備えている。水中カメラ309による撮像データは、水上処理部1bに送信され、船B上の作業者は、モニター画面を通じて着地点の岩盤Rの状態を視認することができる。また船B上の作業者の操作により、例えば、さや管303の着地前に、水噴出装置311から岩盤Rに向けて水を噴出し、着地点の細かい岩石等を除去することができる。水上処理部1bと水中移動部301aとの間には、電磁石307の駆動信号、水中カメラ309の撮像データ、及び水噴出装置311の駆動信号等を送受信するためのケーブル(図示せず)が別途設けられる。
【0093】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。
【0094】
例えば、実施形態では、水中移動部1a,301aで得られた加速度データを、ケーブル12を通じて水上処理部1bまで送信しているが、水中移動部1a,301aに加速度データを保存・蓄積するデータ保存部を設けてもよい。例えば、データ保存部として、電子記憶媒体を採用し、岩盤Rの打撃で得られた加速度データを、電子データとして電子記憶媒体に保存・蓄積していくこととしてもよい。なおこの場合、電子記憶媒体に蓄積された加速度データを、船B上で回収したときに、水上処理部1bでバッチ処理する運用が考えられる。電子記憶媒体としては、半導体メモリやハードディスク装置等を用いることができる。
【0095】
また、図1に示す品質評価装置1の一式すべて(水中移動部1a及び水上処理部1b)を、水中移動部としてダイバーDが海底に持ち込む方式としてもよい。この場合、ダイバーDが、岩盤Rの使用可否を海底で確認することができる。また、この場合、船B上に、水上処理部としてGPS装置27と音響測深装置25とを設置し、ダイバーDの絶対位置を船B上で取得することとしてもよい。また、岩盤Rの使用可否の判定結果(使用可能、又は使用不可能)を、リアルタイムでダイバーD側のコンピュータ23から船B側のコンピュータに送信してもよい。これにより、船B上においても、判定結果をリアルタイムで知ることができる。なお、水中移動部において防水・耐水圧が必要な電子機器等は、適宜ハウジング等に収納してもよい。
【符号の説明】
【0096】
1…品質評価装置、1a,301a…水中移動部、1b…水上処理部、11…ハンマー、11a…打撃部、11b…加速度センサー、11d…打撃面(衝突面)、23…コンピュータ(演算装置、加速度データ取得手段)、25…(相対位置情報取得部)、27…GPS装置、31…岩石等級テーブル(対応テーブル)、41…変形係数算出部(加速度データ取得手段、変形特性演算手段)、43…等級判定部(品質判定手段)、231…品質相関関係(吸水率相関関係、密度相関関係)、241…弾性係数算出部(変形特性演算手段)、243…品質推定部(品質判定手段)、47…評価位置算出部(絶対位置情報取得部)、50…情報蓄積部(情報保存部)、231…相関関係(吸水率相関関係、密度相関関係)、R…岩盤。
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の自然由来の岩盤又は岩石の品質を評価する品質評価方法及び品質評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、建設事業において、自然由来の岩盤又は岩石が様々な用途に使用されている。例えば、自然由来の岩盤は、各種の構造物の荷重を支える基礎の支持層として重要な役割を果たしている。基礎の形式にはいくつかあるが、特に直接基礎あるいはケーソン基礎においては、基礎からの荷重を支持するために、これに適した強度や堅さ等を持つ適正な岩盤が必要である。このため、岩盤の強度や硬さ等について、建設中にJIS等で定められた方法による調査や試験を適宜実施する必要がある。このような調査方法及び試験方法としては、下記非特許文献1に記載のものが知られている。すなわち、非特許文献1に記載のような判定基準に従い、岩盤又は岩石の目視判定、岩石用ハンマーによる打撃音、及び周辺の地形や地質的組成に関する知識に基づいて、地質エンジニアが岩盤又は岩石の良否を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−150946号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】(財)日本ダム協会編,「フィルダムの施工」,pp.239,表3.5.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この方法には熟練した地質エンジニアが必要であると共に、判定に個人差が生じる可能性がある。また、例えば、港湾における岸壁等の建設工事等では、判定対象の岩盤や岩石が海底にある場合もある。この場合、それらの良否の判定のために、岩石等を水上まで運送することが考えられるが、手間が大きく迅速性にも欠ける。また、地質エンジニアが潜水し海底で岩盤又は岩石の目視判定を行うことも考えられるが、潜水士としての高いスキルと地質エンジニアとしての高いスキルを併せ持つ技術者は希少であるので、この場合も簡易性に欠ける。
【0006】
このような問題に鑑み、本発明は、水中に存在する岩盤又は岩石の品質評価を簡易に行うことができる品質評価方法及び品質評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、岩盤又は岩石の品質は変形係数に基づいて判定することができ、変形係数の測定には、Hertzの弾性接触論を利用できることに着目した。すなわち、Hertzの弾性接触論によれば、対象の岩盤又は岩石にハンマーを衝突させ、衝突時のハンマーの加速度波形に基づいて岩盤又は岩石の変形特性を知ることができる。そして、本発明者らは、岩盤又は岩石とハンマーとを水中で衝突させた場合にも、Hertzの弾性接触論が成立することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の品質評価方法は、水中の自然由来の岩盤又は岩石の品質を評価する品質評価方法であって、水中に存在する岩石又は岩盤に加速度センサーと球面形状の衝突面とを有するハンマーの衝突面を衝突させ、加速度センサーでハンマーの加速度データを取得する加速度データ取得工程と、加速度データに基づきHertzの弾性接触論を用いて岩盤又は岩石の変形特性を演算装置に演算させる変形特性演算工程と、変形特性演算工程で得られた変形特性に基づいて岩盤又は岩石の品質を判定する品質判定工程と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
この品質評価方法では、対象の岩盤又は岩石にハンマーを衝突させたときの加速度データに基づき、Hertzの弾性接触論を用いた演算により岩盤又は岩石の変形特性を算出する。そして、変形特性に基づいて、岩盤又は岩石の品質が判定される。従って、この品質評価方法によれば、例えば海底などの水中の現場において、加速度データを収集すべく、ダイバーにハンマーを岩盤又は岩石に衝突させるといった簡易な動作を行わせればよい。つまり、地質エンジニアと潜水士のスキルを併せ持つ希少な技術者を必要とせず、水中の現場において、岩盤又は岩石の品質評価を簡易に行うことができる。
【0010】
具体的には、品質判定工程では、岩盤又は岩石の変形特性と岩盤等級との対応を表す所定の対応テーブルに基づいて、岩盤又は岩石の工学的分類を行い、岩盤又は岩石の岩盤等級を品質に関する情報として得ることとしてもよい。対象の岩盤又は岩石を岩盤等級に従って工学的に分類することにより、構造物基礎の支持層としての岩盤又は岩石の使用可否を評価することができる。
【0011】
また、品質判定工程では、岩盤又は岩石の変形特性と吸水率との相関関係を表す所定の吸水率相関関係に基づいて、岩盤又は岩石の吸水率を品質に関する情報として得ることとしてもよい。また、品質判定工程では、岩盤又は岩石の変形特性と密度との相関関係を表す所定の密度相関関係に基づいて、岩盤又は岩石の密度を品質に関する情報として得ることとしてもよい。
【0012】
本発明者らは、岩盤又は岩石の吸水率や密度は、当該岩盤又は岩石の変形特性と相関関係があることを見出した。そこで、岩盤又は岩石の変形特性に基づいて吸水率や密度を得ることができる。対象の岩盤又は岩石について、吸水率や密度を得ることにより、当該岩盤又は岩石の用途の判断材料とすることができる。
【0013】
本発明の品質評価装置は、水中の自然由来の岩盤又は岩石の品質を評価する品質評価装置であって、加速度センサーと球面形状の衝突面とを有するハンマーと、ハンマーの衝突面を水中に存在する岩盤又は岩石に衝突させたときに加速度センサーで得られる加速度データを取得する加速度データ取得手段と、加速度データに基づきHertzの弾性接触論を用いて岩盤又は岩石の変形特性を演算する変形特性演算手段と、変形特性演算手段で得られた変形特性に基づいて岩盤又は岩石の品質を判定する品質判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
この品質評価装置では、対象の岩盤又は岩石にハンマーを衝突させたときの加速度データに基づき、Hertzの弾性接触論を用いた演算により岩盤又は岩石の変形特性を算出する。そして、変形特性に基づいて、岩盤又は岩石の品質が判定される。従って、この品質評価装置によれば、例えば海底などの水中の現場においては、加速度データを収集すべく、ダイバーにハンマーを岩盤又は岩石に衝突させるといった簡易な動作を行わせればよい。つまり、地質エンジニアと潜水士のスキルを併せ持つ希少な技術者を必要とせず、水中の現場において、岩盤又は岩石の品質評価を簡易に行うことができる。
【0015】
また、本発明の品質評価装置は、ハンマーを少なくとも含み、水中で移動可能であり、加速度データに関する情報を取得する水中移動部と、水中移動部で取得された情報に基づいて水上で所定の情報処理を行う水上処理部とを備えてもよい。この構成によれば、品質評価装置のうち水中の岩盤又は岩石の近傍で情報を収集する水中移動部と、その情報を水上で処理する水上処理部とを分けることができる。
【0016】
また、本発明の品質評価装置は、水上処理部の位置情報をGPSにより取得するGPS装置と、水上処理部に対する水中移動部の相対位置情報を取得する相対位置情報取得部と、GPS装置で得られる位置情報と相対位置情報とに基づいて、水中移動部の絶対位置情報を取得する絶対位置情報取得部と、ハンマーと岩盤又は岩石とが衝突した時に、絶対位置情報と加速度データに関する情報とを関連付けて保存する情報保存部と、を備えてもよい。この構成によれば、水中移動部の絶対位置から推定される岩盤又は岩石の絶対位置と、加速度データに関する情報から得られる岩盤又は岩石の品質とを関連付けることができる。
【0017】
また、ハンマーの打撃部は球体をなし、ハンマーの質量は10kg未満であることとしてもよい。打撃部の質量が10kg未満であれば、持ち運びや取り扱いが容易である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水中に存在する岩盤又は岩石の品質評価を簡易に行うことができる品質評価方法及び品質評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の品質評価装置の第1実施形態の構成を示す図である。
【図2】図1の品質評価装置の使用形態を示す図である。
【図3】図1の品質評価装置のコンピュータの構成を示す図である。
【図4】本発明の品質評価方法の第1実施形態を示すフローチャートである。
【図5】本発明者らが行った試験の結果を示すグラフである。
【図6】本発明の品質評価方法を用いた海底掘削工事の一例を示すフローチャートである。
【図7】再掘削深度決定のための調査の手法を示す図である。
【図8】図7の打撃器具の先端部を示す断面図である。
【図9】第2実施形態の品質評価装置のコンピュータの構成を示す図である。
【図10】(a)は、岩石の弾性係数と吸水率との相関関係を示すグラフの一例であり、(b)は、岩石の弾性係数と絶乾密度との相関関係を示すグラフの一例である。
【図11】本発明の品質評価方法の第2実施形態を示すフローチャートである。
【図12】本発明の品質評価装置の第3実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る岩盤又は岩石の品質評価方法及び品質評価装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
(第1実施形態)
図1に、本実施形態の品質評価装置1を示す。品質評価装置1は、水中に存在する自然由来の岩盤又は岩石の品質評価を行うための装置である。水中の自然由来の岩盤には、例えば海底の岩盤などが含まれ、水中の自然由来の岩石には、例えば海底の岩盤を掘削して発生する岩石(掘削ズリ)などが含まれる。
【0022】
図2に、品質評価装置1の使用形態の一例を示す。図に示すように、品質評価装置1は、ケーソン基礎Cの支持層とするための海底の岩盤Rの調査に用いられる。図2に示す領域では、海底を掘削して現れる岩盤Rの上に基礎捨石層101が設けられ、更に基礎捨石層101の上にケーソン基礎Cが載置され、ケーソン基礎Cの上部が海面H上に露出する。ケーソン基礎Cは、波のエネルギーを反射する直立堤として機能する。ケーソン基礎Cの施工方法は公知のものであるので、詳細な説明を省略する。岩盤Rの掘削工事中において、本実施形態の品質評価装置1及び品質評価方法を用いた岩盤Rの品質評価が行われ、岩盤Rがケーソン基礎Cの支持層として使用可能であるか否かが調査される。具体的には、図2に示されるように、ダイバーDが、品質評価装置1の一部である水中移動部1aを持って海底に潜り、岩盤R上でデータ収集の作業を行う。品質評価装置1の他の部分である水上処理部1bは、船Bに搭載されており、水中移動部1aと水上処理部1bとは、ケーブル12で接続されている。詳細は後述するが、水上処理部1bは水中移動部1aで収集されたデータに基づく所定の情報処理を行う。
【0023】
図1に示すとおり、品質評価装置1は、金属製のハンマー11と、チャージアンプ13と、チャージアンプ13用の直流電源装置15と、ターミナルパネル19と、AD変換器21と、コンピュータ(演算装置)23と、音響測深装置(相対位置情報取得部)25と、GPS装置27と、を備えている。このうち、ハンマー11は、上記の水中移動部1aに属し、チャージアンプ13、直流電源装置15、ターミナルパネル19、AD変換器21、コンピュータ23、音響測深装置25、及びGPS装置27は、上記の水上処理部1bに属する。
【0024】
ハンマー11は、ユーザが把持するための棒状の把手部11cと、把手部11cの先端に取り付けられた球体形状の打撃部11aと、打撃部11aの上方に取り付けられた一軸の加速度センサー11bと、を有している。ハンマー11は、品質評価対象である岩盤Rを打撃するためのものである。ダイバーDは、把手部11cを把持して打撃部11aを岩盤Rに衝突させる。打撃部11aの表面のうち下部は、実際に岩盤Rに衝突する球面形状の打撃面(衝突面)11dを構成する。ハンマー11は、例えば海中で使用されるものであるので、錆防止のためにステンレス製であることが好ましい。
【0025】
ハンマー11の質量は、海底における持ち運びや取り扱いを容易にする観点から、10kg未満であることが好ましい。打撃部11aの直径は例えば5cm程度である。なお、後述する打球探査法を実行するためには、打撃部11a全体を球形とすることは必須ではなく、少なくとも打撃面11dが球面形状をなすようにすればよい。
【0026】
加速度センサー11bは、打撃面11dと岩盤Rとの衝突方向における加速度を計測する。ユーザがハンマー11で岩盤Rを打撃したとき、加速度センサー11bは、打撃面11dと岩石との衝突により発生する衝撃波形を加速度波形(加速度データ)として検知する。そして、検知された加速度波形は、加速度信号として、ケーブル12を介して、船B上の水上処理部1bに送信される。水上処理部1bでは、加速度信号がチャージアンプ13に入力され、更にターミナルパネル19、及びAD変換器21を介して、コンピュータ23に送信される。チャージアンプ13は、加速度センサー11bからの加速度信号を増幅し、ターミナルパネル19は、増幅された信号に含まれるノイズ成分を除去し、AD変換器21は、ノイズ除去後の信号をAD変換する機能を有する。
【0027】
コンピュータ23としては、所定の品質評価プログラムを格納した市販のパーソナルコンピュータを用いることができる。コンピュータ23は、上記品質評価プログラムを実行することにより、加速度センサー11bから得られる加速度信号に基づく演算を行い、岩盤Rの評価結果を出力する。コンピュータ23としては、持ち運びや取り扱いを容易にする観点から小型・軽量であることが好ましいので、ラップトップ型コンピュータを採用することが好ましい。
【0028】
GPS(Global Positioning System)装置27は、GPS衛星から受信した電波に基づいて水上処理部1bの現在位置(絶対位置)を算出し、現在位置情報をコンピュータ23に送信する。音響測深装置(相対位置情報取得部)25は、音波を海底に向けて出射し、その反射波を分析して海底のダイバーDの位置或いは水中移動部1aの位置を測定する。音響測深装置25で得られる測定データは、水上処理部1bに対する水中移動部1aの3次元の相対位置を示し、当該相対位置情報はコンピュータ23に送信される。このような機能をもつGPS装置27や音響測深装置25は公知であるので、更なる詳細な説明を省略する。
【0029】
図3に示すように、コンピュータ23は、情報記憶部30と演算部40と情報蓄積部(情報保存部)50と、ディスプレイ60とを有している。情報記憶部30には、岩盤等級テーブル(対応テーブル)31と、使用基準33とが格納されている。岩盤等級テーブル31は、下表1に例示するように、岩盤の変形係数(応力と歪みとの比例定数)と岩盤等級との対応関係を示す情報であり、例えば、下記文献に記載されている周知のテーブルが採用される。なお、表1には岩盤の静弾性係数と岩盤等級との対応関係も併せて示されている。変形係数及び静弾性係数は、ともに岩盤又は岩石の変形特性を表す評価指標である。ただし、載荷等の外力によって岩盤が変形するに際し、変形係数が岩盤中に内在する亀裂の閉口に伴う変位を考慮するのに対して、静弾性係数ではそれを考慮しないという差異がある。つまり、変形係数は亀裂を内在する岩盤の変形特性を表す評価指標であり、静弾性係数は岩盤の基質及び亀裂を内在しない岩石の変形特性を表す評価指標であるといえる。
【表1】
〔文献〕菊地宏吉ら、「ダム基礎岩盤の耐荷性に関する地質工学的総合評価」、応用地質、日本応用地質学会、1984年、特別号、p.103−118.
【0030】
使用基準33は、岩盤Rがケーソン基礎Cの支持層として使用可能であるための等級を示す情報である。例えば、「ケーソン基礎Cの支持層として使用可能な岩盤は、岩盤等級がB級またはCH級のもの」といった情報が、使用基準33として情報記憶部30に格納される。この使用基準33は、例えば、特記仕様書や施工計画書に基づいて設定され、ユーザによるコンピュータ23のキー操作等により事前に入力される。情報記憶部30及び情報蓄積部50は、例えば、コンピュータ23に内蔵された記憶装置の記憶領域である。
【0031】
演算部40は、変形係数算出部(加速度データ取得手段、変形特性演算手段)41と、等級判定部(品質判定手段)43と、使用可否判定部45と、評価位置算出部(絶対位置情報取得部)47と、を備えている。変形係数算出部41と、等級判定部43と、使用可否判定部45と、評価位置算出部47とは、コンピュータ23のCPU、RAM等のハードウェア上に所定の品質評価プログラムを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで通信モジュール、入力装置、出力装置等を動作させるとともに、RAMや補助記憶装置におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことでソフトウエア的に実現される構成要素である。
【0032】
変形係数算出部41は、加速度センサー11bから得られる加速度信号に基づき、Hertzの弾性接触論を用いて、岩盤Rの変形係数を算出する。Hertzの弾性接触論によれば、球体を弾性体表面に衝突させたときの球体と弾性体平面との接触時間Tcは、次式(1)で表される。
【数1】
【0033】
但し、
E1:球体の弾性係数
μ1:球体のポアソン比
R :球体の半径
M :球体の質量
E2:弾性体の弾性係数
μ2:弾性体のポアソン比
V0:衝突速度
である。
【0034】
特許文献1では、以上のようなHertzの弾性接触論を、コンクリート構造物の剛性の測定に利用することが開示されている。本実施形態では、岩盤Rの変形係数を測定する場合にHertzの弾性接触論を適用する。すなわち、本実施形態では、上記のHertzの弾性接触論において、上記球体にハンマー11の打撃部11aを当てはめ、上記弾性体に岩盤Rを当てはめる。この場合、式(1)において、E1,μ1,R,Mは既知である。また、岩盤Rのポアソン比μ2としては、一般的な岩石のポアソン比として0.2程度の値を用いればよい。更に、Tc及びV0は、加速度信号で表される衝撃波形(加速度データ)から算出することができる。従って、加速度信号が得られれば、式(1)に基づいて、未知量である岩盤Rの弾性係数E2を算出することができる。なお、ここでは、打撃の対象が岩盤Rであるので、E2は岩盤Rの応力と歪みとの比例定数である「変形係数」を示すことになる。
【0035】
等級判定部43は、変形係数算出部41で得られた岩盤Rの変形係数E2に基づいて、岩盤Rの工学的分類を行う。岩盤の工学的分類とは、例えば前述の表1に従って、対象の岩盤の岩盤等級を決定することを言う。即ち、等級判定部43は、情報記憶部30に格納された岩盤等級テーブル31を読み出し、上記変形係数E2の値に対応する岩盤等級を、岩盤Rの等級として求める。
【0036】
評価位置算出部47は、打撃により評価した岩盤Rの箇所の絶対位置(以下「評価位置」)を算出する。具体的には、評価位置算出部47は、GPS装置27で得られた水上処理部1bの絶対位置情報と、音響測深装置25で得られた水中移動部1aの相対位置情報と、に基づいて、水中移動部1aの絶対位置を算出する。このような水中移動部1aの絶対位置の算出を、岩盤Rの打撃時(打撃の直前又は打撃の直後を含む)に行うことにより、打撃により評価した岩盤Rの場所の絶対位置を取得することができる。
【0037】
使用可否判定部45は、等級判定部43で得られた岩盤Rの等級と、情報記憶部30から読み出した使用基準33との比較を行う。そして、岩盤Rの等級が使用基準33を満たす場合には、岩盤Rがケーソン基礎Cの支持層として使用可能であると判定する。一方、岩盤Rの等級が使用基準33を満たさない場合には、岩盤Rがケーソン基礎Cの支持層として使用不可能であると判定する。
【0038】
その後、使用可否判定部45は、判定結果(岩盤Rの使用の可否)を、例えば、岩盤Rの等級と一緒に、コンピュータ23のディスプレイ60に表示する。更に、使用可否判定部45は、岩盤Rの使用の可否と岩盤等級と、評価位置算出部47から得られる評価位置情報と、を関連付けて情報蓄積部50に蓄積する。
【0039】
更に、使用可否判定部45は、情報蓄積部50に蓄積されている前回の評価に係る岩盤の等級と、今回の評価に係る岩盤Rの等級とを比較することで、岩盤の品質変動の有無を判定してもよい。
【0040】
続いて、上述の品質評価装置1を用いて行う岩盤Rの品質評価方法について、図4を参照し説明する。
【0041】
〔対応テーブル準備工程〕
岩盤の変形係数と岩盤等級との対応関係を示す岩盤等級テーブル31を、コンピュータ23の情報記憶部30に保存する(S101)。具体的には、例えば前述の表1が電子データとして情報記憶部30に保存される。
【0042】
〔打球探査工程〕
まず、海底において岩盤Rの評価位置を選定する(S103)。次に、打球探査法によって岩盤Rの変形係数を算出する。具体的には、ダイバーDは、選定した岩盤Rの場所をハンマー11の打撃面11dで打撃する。打撃時にハンマー11に発生する加速度が加速度センサー11bで検知され、加速度信号がコンピュータ23に入力され、演算部40の変形係数算出部41に入力される(加速度データ取得工程)。そして、変形係数算出部41が、加速度信号に基づいて、前述の式(1)より、岩盤Rの変形係数を算出する(S105:変形特性演算工程)。
【0043】
〔等級判定工程〕
続いて、等級判定部43は上記打球探査工程による変形係数算出値と、岩盤等級テーブル31とに基づいて、岩盤Rの等級を判定する(S107)。具体的には、等級判定部43は、情報記憶部30から岩盤等級テーブル31を読み出し、上記変形係数算出値に対応する岩盤等級を、岩盤Rの等級として求める(品質判定工程)。
【0044】
〔使用可否判定工程〕
続いて、使用可否判定部45は、求められた岩盤Rの等級と使用基準33とを比較して岩盤Rの使用可否を判定する。具体的には、使用可否判定部45は、情報記憶部30から使用基準33を読み出し、岩盤Rの等級と比較し(S109)、岩盤Rの等級が使用基準33を満足する場合には、岩盤Rは使用可能と判定し(S111)、岩盤Rの等級が使用基準33を満足しない場合には、岩盤Rは使用不可能と判定する(S113)。その後、使用可否判定部45は、判定結果(岩盤Rの使用の可否)を、例えば、岩盤Rの等級と一緒に、コンピュータ23のディスプレイ60に表示する。
【0045】
〔評価位置取得工程〕
続いて、評価位置算出部47は、GPS装置27から得られた情報と、音響測深装置25から得られた情報と、に基づいて、水中移動部1aの現在の絶対位置を算出する(S123)。なお、評価位置取得工程は、打球探査工程の前に行ってもよい。
【0046】
〔データ記録工程〕
続いて、使用可否判定部45は、岩盤Rの使用の可否と岩盤Rの等級と、評価位置取得工程で得られた評価位置情報とを関連付けて情報蓄積部50に蓄積する(S125)。その後、岩盤Rの品質評価を継続する場合には(S127でYes)S103の処理に戻り、それ以外の場合には(S127でNo)処理を終了する。ダイバーDが海底を移動し岩盤Rの評価位置を変えながら以上の処理を繰り返せば、自然由来でありバラツキを有する岩盤Rの複数の箇所における変形係数を調査することができ、岩盤Rの変形係数の調査精度を向上させることができ、かつマッピングを行うことができる。
【0047】
この品質評価装置1及び品質評価方法では、岩盤Rにハンマーを衝突させたときの加速度データに基づき、Hertzの弾性接触論を用いた演算により岩盤Rの変形係数を算出する。そして、変形係数に基づいて、岩盤Rの岩盤等級が判定される。従って、海底の現場においては、加速度データ収集のために、ハンマー11で岩盤Rを打撃するといった簡易な操作をダイバーDが行えばよい。つまり、地質エンジニアと潜水士のスキルを併せ持つ希少な技術者を必要とせず、水中の現場において岩盤Rの品質評価を簡易に行うことができる。
【0048】
また、この品質評価装置1及び品質評価方法によれば、ダイバーDが行う作業は、主にハンマー11による岩盤Rの打撃のみであるので、1回の品質評価が、例えば30秒程度と短時間で可能であり、岩盤Rの使用可否を迅速に判定するといった運用が可能になる。よって、海底の掘削作業の途中に、岩盤Rの品質を頻繁に確認するといった運用も可能になる。また、多くのデータを収集して統計的処理を行うことが可能になり、評価の精度を高めることができる。また、ダイバーDの熟練度が評価の精度に与える影響も小さい。また、ハンマー11の質量を10kg未満としているので、ハンマー11の持ち運びや取り扱いが容易であり、海底で容易に測定を行うことができる。以上の結果、迅速な岩盤Rの評価が可能になり、ケーソン基礎Cの施工を効率的に行うことができる。
【0049】
ここで、Hertzの弾性接触論が、水中におけるハンマー11と岩盤Rとの衝突にも適用可能である点について検討する。
【0050】
本発明者らは、花崗岩、安山岩、および石英安山岩の3種の岩石試料について、品質評価装置1を用いた変形係数測定を行った。測定は、各岩石試料について、気中に置いた状態と、水中に置いた状態とでそれぞれハンマー11で打撃し、それぞれ変形係数を得た。ハンマー11の打撃部11aは、鋼鉄製で半径2.5cm、質量600gの球体であり、各岩石試料としては、直径30cm程度の岩塊を選んだ。測定結果は、図5に示すとおり、岩石の種類に関わらず、気中と水中とでほぼ同等の変形係数の測定値が得られた。これにより、Hertzの弾性接触論は、気中と同様に、水中における衝突にも成立し、品質評価装置1によれば、気中と同様に水中でも岩盤Rの変形係数が得られることが確認された。
【0051】
なお、Hertzの弾性接触論が水中の衝突でも成立するとの結論は、以下のように推定される。前述の数式(1)の接触時間Tcは、衝突によって瞬間的に接触する2物体の固有の物理特性(特に、変形係数又は弾性係数)にのみ依存し、衝突が気中で発生するか水中で発生するかといった条件には影響されないと考えられる。また、水は工学的に非粘性流体と考えられるので、2物体の衝突の瞬間には両者の接触面の間に介在しないと考えられるからである。また、2物体の接触面の間に水が介在しないことから、2物体の衝突の際の加速度に対して水の存在が与える影響は小さく、その結果、加速度波形から求められるV0(衝突速度)も、気中と水中との間で工学的には有意差がないと考えられる。
【0052】
また、式(1)中のE1(ハンマー11の打撃部11aの弾性係数)、μ1(打撃部11aのポアソン比)、R(打撃部11aの半径)、M(打撃部11aの質量)も、物体の固有の特性であり、気中と水中とで変化することはない。岩盤Rに関して、水中において岩盤Rの空隙が飽和しているのと同様に、土木分野で対象となるような岩盤は、降雨や地下水の影響により、気中においても飽和した状態にあると考えられる。すなわち、通常の自然条件下では、気中の岩盤の空隙が絶乾状態に至ることはほぼ考えられない。つまり、μ2(岩盤Rのポアソン比)も、水中の岩盤と気中の岩盤とでほぼ同等と考えられる。以上のように、水の有意な影響を受けるパラメータは式(1)には含まれず、式(1)で示されるHertzの弾性接触論は、気中においても水中においても同様に成立すると考えられる。
【0053】
続いて、図6を参照し、上述の品質評価方法を利用した海底の岩盤Rの掘削工事の一例について説明する。この例の岩盤Rは、前述のケーソン基礎Cの支持層とされるものである。
【0054】
まず、ケーソン基礎Cの位置が決定され(S201)、その位置の海底が計画深度まで掘削される(S203)。掘削で現れた岩盤Rについて、上述の品質評価方法及び品質評価装置1を用いた品質評価が実行される(S205)。ここでは、例えば、岩盤R上に評価位置が格子状に設定され、岩盤Rの複数箇所について品質評価が行われる。品質評価の結果「ケーソン基礎Cの支持層として使用可能」との結果が得られた場合(S207でYes)には、掘削工事を終了する(S209)。一方、品質評価の結果「ケーソン基礎Cの支持層として使用不可能」との結果が得られた場合(S207でNo)には、再掘削の深度決定のための調査が行われる(S211)。再掘削の深度が決定された後、S203に戻り上述の処理を繰り返す。
【0055】
次に、上記S211の再掘削深度決定の調査の工程に、品質評価装置1を利用する例について説明する。まず、品質評価装置1の水中移動部1aとコアドリル(図示せず)とを持ったダイバーDが海底の岩盤R上に降りる。次に、図7に示すように、ダイバーDがコアドリルを用いて岩盤Rに所定深さの鉛直の調査孔103を穿ける。調査孔103の孔径は、例えば100mm以下程度であり、調査孔103の深さは、例えば1m程度である。る。その後、ダイバーDが調査孔103の底面103aをハンマー11で打撃することにより加速度データを取得する。加速度データがコンピュータ23に送信され、前述の演算によって「使用可能」又は「使用不可能」との評価結果が導出される。
【0056】
ここで、「使用可能」との評価結果が得られた場合には、現在の岩盤R表面から更に深い位置に良質の岩盤が存在することが判明する。すなわち、調査孔103の深さ分だけ再掘削することで、ケーソン基礎Cの支持層として使用可能な岩盤が現れる可能性が高いと判断することができる。そして、調査孔103の底面103aの深度に該当する深度、再掘削の計画深度として採用される。
【0057】
なお、海底における取り扱い容易性の観点から、大口径のコアドリルを採用することは難しく、その結果、調査孔103の孔径が小さい場合がある。この場合、調査孔103内にダイバーDの手が入り難く、底面103aを適切に打撃することができない恐れもある。そこで、底面103aを打撃する際には、図7及び図8に示すような打撃器具51を用いるものとする。
【0058】
図8に示すように、打撃器具51は、把手部11cを取り除いた状態のハンマー11を棒体53の先端に取り付けたような構成をなす。打撃器具51は、棒体53と打撃部11aとを連結する連結部として、スライド機構61と付勢部67とを備えている。以下、棒体53の延在方向を前後方向として、打撃部11aが設けられた側の端部を「前端部」として、「前」、「後」の概念を含む語を位置関係の説明に用いるものとする。打撃部11aの前側の面が打撃面11dであり、打撃部11aの後側の面に加速度センサー11bが取り付けられる。
【0059】
スライド機構61は、棒体53の前端の中空部に設けられており、固定側レール61bと、固定側レール61bに対して前後移動可能に係合された移動側レール61aとを備えている。固定側レール61bは棒体53の中空部内壁面に固定されており、移動側レール61aの前端は棒体53の前端開口から前方に突出している。打撃部11aは、移動側レール61aの前端に取り付けられている。このような構造により、打撃部11aは、棒体53に対して、前後方向(棒体3の延在方向)に平行移動可能である。また、スライド機構61では、所定のストッパ機構(図示省略)により移動側レール61aの前後移動範囲が制限されているので、打撃部11aの移動範囲には、前端限界と後端限界とが存在する。
【0060】
スライド機構61としては、例えば、固定側レール61bと移動側レール61aとの間にボールを挟んだ構造をもつ公知のスライドレール部品を用いればよい。また、スライド機構61は、打撃部11aを前後移動可能に支持するものであれば、他の構造でもよい。
【0061】
更に、打撃器具51は、打撃部11aを前方に向けて付勢する付勢部67を備えている。付勢部67は、ヒンジ結合で開閉可能な2本のアーム69と、アーム69を開く方向に付勢するねじりバネ71と、を備えている。2本のアーム69の先端は、それぞれ、移動側レール61a及び棒体53の外壁面にヒンジ結合されているので、ねじりバネ71の付勢力は、打撃部11aを前方に付勢する力として作用する。なお、打撃部11aが前端限界の位置にあるときに、ねじりバネ71が発生する力がゼロになるように調整されており、打撃部11aが前端限界の位置から後退したときに、ねじりバネ71が打撃部11aを前方に押し出す力を発揮する。
【0062】
以上の構成に基づき、ダイバーDは、図7に示されるように、調査孔103に打撃器具51の先端を挿入し、棒体53を把持し下方に向けて突く動作により、打撃部11aで底面103aを打撃することができる。このように、打撃器具51を用いることにより、調査孔103にダイバーDの手が入り難い場合にも、底面103aを打撃部11aで打撃することができる。
【0063】
また、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得るためには、打撃の瞬間の反発による打撃部11aの動きが許容される状態で、底面103aを打撃する必要がある。すなわち、打撃の瞬間においては、打撃部11aが底面103aから弾性的に跳ね返る動きが妨げられてはならない。ここで、棒体53の前端部に単純に打撃部11aを固定した構造を考える。この構造の装置によれば、ダイバーDが底面103aを突く動作を行った際に、打撃部11aと底面103aとの衝突直後から更に一定時間だけ前方に押さえ込む動作になり易く、すなわち、打撃部11aが跳ね返る動きが妨げられる状態になり易い。更に、打撃部11aは調査孔103内にあり目視し難いので、打撃部11aの打撃の状態をダイバーDが微調整することも難しい。従って、棒体53の前端部に単純に打撃部11aを固定した構造では、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることが困難である。
【0064】
これに対し、打撃器具51によれば、打撃部11aは、棒体53に対し、衝突方向(前後方向)に移動可能であるように支持された構成を採用している。よって、打撃の瞬間には、底面103aからの反発による打撃部11aの後方への動きが許容された状態である。よって、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることができる。
【0065】
また、上記の突く動作の際に、棒体53は前方に素早く加速されるので、打撃部11aは、慣性により棒体53に対して後方に移動しようとする。このとき、打撃部11aが後端限界に到達してしまうと、打撃の瞬間における打撃部11aの後方への動きが制限されてしまい、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることができなくなる。
【0066】
これに対し、打撃器具51においては付勢部67を設けることにより、棒体53の加速の際に、付勢部67によって打撃部11aが前方に付勢されるので、打撃部11aが後端限界に到達することを避けることができる。よって、棒体3が素早く加速された場合にも、反発によるハンマーの後方への動きを確保し、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることができる。なお、打撃の瞬間においては、付勢部67による前方への付勢力が作用しており、打撃部11aの後方への移動を僅かに妨げることになるが、当該付勢力は、打撃の衝撃力に比較して極めて小さく、上記付勢力の影響は無視することができる。
【0067】
(第2実施形態)
続いて、本発明の品質評価装置及び品質評価方法の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態において、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0068】
前述のような海底の岩盤の掘削工事では、掘削ズリとして岩石が発生する。このような岩石は、建設機械によって水上に揚げられ、例えば道路等の盛土材料として利用されるため、所定の品質を満足するか否かが評価され、材料として使用可能であるか否かを判定する必要がある。この判定を掘削ズリが海底にある段階で行うことができれば、適切な建設機械の選定や陸上における掘削ズリの適切な運搬等が可能となり、掘削ズリの利用または廃棄を効率的に行うことができる。そこで、本実施形態では、掘削ズリが発生した海底の現場に、ダイバーDが水中移動部1aを持って降り、ダイバーDは海底にある岩石をハンマー11で打撃することとする。
【0069】
また、掘削ズリの岩石が所望の目的に利用可能であるか否かは、一般的に、岩石の吸水率又は密度を基準として判断される場合が多い。そこで、本実施形態では、岩石の吸水率又は密度を判断基準として、当該岩石の使用可否を判定する。例えば、岩石の吸水率と弾性係数との間には所定の相関関係があるので、ハンマー11による岩石の打撃で当該岩石の弾性係数を算出し、弾性係数の算出値に基づいて岩石の吸水率を推定する。
【0070】
本実施形態における品質評価装置は、コンピュータ23に代えて図9に示すコンピュータ223を備えている点で、前述の品質評価装置1と異なる。コンピュータ223の情報記憶部30には、品質相関関係(吸水率相関関係)231と、品質基準値233とが格納されている。本発明者らの実験によれば、岩石の弾性係数と吸水率との間には、図10(a)のような曲線で表される相関関係があることが判明した。品質相関関係231は、上記のような岩石の弾性係数と吸水率との相関関係を示す情報である。後述の吸水率相関関係準備工程によって品質相関関係231が取得され、予め情報記憶部30に保存される。
【0071】
品質基準値233は、岩石が所望の用途に使用可能であるための吸水率の上限値を示す情報である。例えば、岩石をロックフィルダムのロック材として使用する場合には、岩石の吸水率が3.0%以下であることが要求されるので、「吸水率基準値=3.0%」との情報が情報記憶部30に格納される。この品質基準値233は、例えば、特記仕様書や施工計画書に基づいて設定され、ユーザによるコンピュータ223のキー操作等により事前に入力される。情報記憶部30及び情報蓄積部50は、例えば、コンピュータ223に内蔵された記憶装置の記憶領域である。
【0072】
演算部40は、弾性係数算出部241と、品質推定部243と、使用可否判定部245と、評価位置算出部47と、を備えている。弾性係数算出部241、品質推定部243、使用可否判定部245、及び評価位置算出部47は、コンピュータ223のCPU、RAM等のハードウェア上に所定の品質評価プログラムを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで通信モジュール、入力装置、出力装置等を動作させるとともに、RAMや補助記憶装置におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことでソフトウエア的に実現される構成要素である。
【0073】
弾性係数算出部241は、加速度センサー11bから得られる加速度信号に基づき、Hertzの弾性接触論を用いて、岩石の弾性係数を算出する。品質推定部243は、弾性係数算出部241で得られた岩石の弾性係数に基づいて、岩石の吸水率を推定する。即ち、品質推定部243は、情報記憶部30に格納された品質相関関係231を読み出し、上記弾性係数の値に対応する吸水率の値を、岩石の吸水率推定値として求める。
【0074】
使用可否判定部245は、品質推定部243で得られた吸水率推定値と、情報記憶部30から読み出した品質基準値233との大小比較を行う。そして、吸水率推定値が品質基準値233以下である場合には、岩石が所定の用途に(例えば、ロックフィルダムのロック材としての用途に)使用可能であると判定する。一方、吸水率推定値が品質基準値233よりも大きい場合には、岩石が所定の用途に使用不可能であると判定する。その後、使用可否判定部245は、判定結果(岩石の使用の可否)を、例えば、吸水率推定値と一緒に、コンピュータ223のディスプレイ60に表示する。更に、使用可否判定部245は、岩石の使用の可否と、吸水率推定値と、評価位置算出部47から得られる評価位置情報と、を関連付けて情報蓄積部50に蓄積する。
【0075】
更に、使用可否判定部245は、情報蓄積部50に蓄積されている前回の評価に係る岩石の吸水率推定値と、今回の評価に係る岩石の吸水率推定値とを比較することで、岩石の品質変動の有無を判定してもよい。
【0076】
続いて、上述した本実施形態の品質評価装置を用いて行う岩石の品質評価方法について図11を参照し説明する。
【0077】
〔吸水率相関関係準備工程〕
岩石の弾性係数と吸水率との相関関係を示す吸水率相関関係を、コンピュータ223の情報記憶部30に保存する(S301)。吸水率相関関係は、各種の現場(各種の岩種)において、岩石の弾性係数測定と吸水率測定とを行い、弾性係数と吸水率との相関関係を求め、これらの既往データを総合して求めた相関関係である。
【0078】
吸水率相関関係は以下のような手順で求められる。まず、岩石の中径が15cm以上の岩石を石サンプルとして採取する。「中径粒径が15cm以上」とは、岩石が、大きさ15cmの篩目をもつ篩を通過しないことを意味する。以下の説明においても、「中径粒径」との語を用いるときは同様の定義とする。続いて、後述する打球探査法により、採取した岩石サンプルを打撃し弾性係数を算出する。その一方で、採取した岩石の吸水率を、JIS A 1100の試験により測定する。そして、算出された上記弾性係数と測定された上記吸水率との関係をプロットする。以上を多数の岩石サンプルについて行うことにより、岩石の弾性係数と吸水率との相関関係が求められる。なお,本発明者らは岩石の弾性係数と吸水率の相関関係は、岩種に因らずほぼ同一の関係を持つとの知見を得ている。また、適宜、岩石の弾性係数と吸水率の相関関係を確認し、この関係をプロットすることで、岩石の弾性係数と吸水率の相関関係はより精度の高いものとなる。
【0079】
なお、実際に掘削ズリが発生する海底の現場で岩石サンプルを採取し、その岩石サンプルに基づいて吸水率相関関係を求め、コンピュータ223の情報記憶部30に保存してもよい。この場合、掘削ズリが発生する海底の現場に特有の吸水率相関関係を取得することができる。なお、吸水率相関関係準備工程は、採取現場で行う必要はなく、岩石サンプルを室内に持ち込んで行ってもよい。
【0080】
〔打球探査工程〕
まず、ダイバーDが海底において品質評価対象の岩石を選定し採取する(S303)。この場合、粒径が15cm以上のものを対象岩石として選定する。次に、打球探査法によって岩石の弾性係数を算出する。具体的には、ダイバーDは、選定した岩石をハンマー11の打撃面11dで打撃する。打撃時にハンマー11に発生する加速度が加速度センサー11bで検知され、加速度信号がコンピュータ223に入力され、演算部40の弾性係数算出部241に入力される。そして、弾性係数算出部241が、加速度信号に基づいて、前述の式(1)より、岩石の弾性係数を算出する(S305)。
【0081】
〔吸水率推定工程〕
続いて、品質推定部243は、上記打球探査工程による弾性係数算出値と、品質相関関係231と、に基づいて、岩石の吸水率を推定する。具体的には、品質推定部243は、情報記憶部30から品質相関関係231を読み出し、上記弾性係数算出値に対応する吸水率の値を、岩石の吸水率推定値として求める(S307)。
【0082】
〔使用可否判定工程〕
続いて、使用可否判定部245は、上記吸水率推定値と品質基準値233とを比較して岩石の使用可否を判定する。具体的には、使用可否判定部245は、情報記憶部30から品質基準値233を読み出し、吸水率推定値と品質基準値233とを大小比較する(S309)。吸水率推定値が品質基準値233以下の場合には、岩石は使用可能と判定し(S311)、吸水率推定値が品質基準値233よりも大きい場合には、岩石は使用不可能と判定する(S313)。その後、使用可否判定部245は、判定結果(岩石の使用の可否)を、例えば、吸水率推定値と一緒に、コンピュータ223のディスプレイ60に表示する。
【0083】
〔評価位置取得工程〕
続いて、評価位置算出部47は、GPS装置27から得られた情報と、音響測深装置25から得られた情報と、に基づいて、水中移動部1aの現在の絶対位置を算出する(S223)。なお、評価位置取得工程は、打球探査工程の前に行ってもよい。
【0084】
〔データ記録工程〕
続いて、使用可否判定部245は、岩石の使用の可否と、吸水率推定値と、評価位置取得工程で得られた評価位置情報と、を関連付けて情報蓄積部50に蓄積する(S325)。その後、岩石の品質評価を継続する場合には(S327でYes)、S303の処理に戻り、それ以外の場合には(S327でNo)、処理を終了する。
【0085】
本実施形態の品質評価方法及び品質評価装置によれば、海底の現場で発生する掘削ズリを現場から移動させることなく、当該岩石の品質評価を行うことができる。この評価を掘削ズリが海底にある段階で行うことができれば、適切な建設機械の選定や陸上における掘削ズリの適切な運搬等が可能となり、掘削ズリの利用または廃棄を効率的に行うことができる。
【0086】
なお、前述したとおり、岩石の吸水率の代わりに岩石の密度を判断基準として、当該岩石の使用可否を判定してもよい。本発明者らの実験によれば、岩石の密度と弾性係数との間にも図10(b)に例示するような所定の相関関係があるので、ハンマー11による岩石の打撃で当該岩石の弾性係数を算出し、弾性係数の算出値に基づいて岩石の密度を推定する。そして、事前に準備した密度基準値よりも岩石の密度推定値が大きい場合に、岩石を使用可能と判定する。このような使用可否判定は、上述したような岩石の吸水率を判断基準とする使用可否判定に倣って行うことができる。この場合、品質相関関係(密度相関関係)231には、図10(b)のような岩石の弾性係数と密度との相関関係を示す情報が格納される。また、品質基準値233には、岩石が所望の用途に使用可能であるための密度の下限値(密度基準値)を示す情報が格納される。
【0087】
(第3実施形態)
続いて、本発明の品質評価装置及び品質評価方法の第3実施形態について、図12を参照しながら説明する。なお、本実施形態において、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0088】
図12に示すように、本実施形態の品質評価装置301は、水中移動部1aに代えて、水中移動部301aを備える点において前述の品質評価装置1と異なる。水中移動部301aは、円筒状のさや管303を備えており、把手部11cを取り除いた状態のハンマー11をさや管303の中空部に収納したような構成をなす。水中移動部301aは、ワイヤー305によって船Bから海中に吊り下げられ、海底の岩盤R上に降ろされる。そして、図12に示すように、水中移動部301aは、さや管303の筒軸を鉛直に向け岩盤R上に着地した状態で使用される。以下、「上」、「下」の概念を含む語を説明に用いる場合には、水中移動部301aの上記の使用状態の姿勢に基づくものとする。
【0089】
水中移動部301aでは、さや管303の中空部に打撃部11aが収納されている。さや管303の内径は打撃部11aの径よりもやや大きく、打撃部11aは中空部内で上下移動可能である。打撃部11aの下側の面が打撃面11dであり、打撃部11aの上側の面に加速度センサー11bが取り付けられる。さや管303の外側上部には、電磁石307が設けられている。電磁石307は、水上処理部1b側から操作可能であり、電磁石307が打撃部11aを吸着することで、打撃部11aがさや管303内で上部に移動する。そして、電磁石307が、上部に移動した打撃部11aを解放することで、打撃部11aがさや管303内を落下し、打撃面11dが岩盤Rに衝突する。なおこのとき、バネ等を利用して、打撃部11aを加速して岩盤Rに衝突させてもよい。さらに、先端に電磁石を取りつけた巻き取り可能なワイヤーで打撃部11aをさや管303内で上部に移動し、電流を切ることで打撃部11aを落下させればなお好適である。
【0090】
さや管303の下部には、管の内外を連通する排水口303aが設けられており、打撃部11aの落下の際には中空部内の水が排水口303aを介して外側に押し出される。これにより、打撃部11aに作用する水の抵抗が軽減され、打撃部11aがさや管303内を円滑に落下する。
【0091】
以上のように、品質評価装置301においては、ワイヤー305で水中移動部301aを海底に降ろし、水上処理部1bからの操作により打撃部11aを岩盤Rに衝突させることができるので、ダイバーを海底に派遣しない運用も可能になる。
【0092】
また、水中移動部301aは、さや管303の外側に取り付けられ下方を撮像する水中カメラ309と、さや管303の外側に取り付けられ下方に向けて水を噴出する水噴出装置311とを備えている。水中カメラ309による撮像データは、水上処理部1bに送信され、船B上の作業者は、モニター画面を通じて着地点の岩盤Rの状態を視認することができる。また船B上の作業者の操作により、例えば、さや管303の着地前に、水噴出装置311から岩盤Rに向けて水を噴出し、着地点の細かい岩石等を除去することができる。水上処理部1bと水中移動部301aとの間には、電磁石307の駆動信号、水中カメラ309の撮像データ、及び水噴出装置311の駆動信号等を送受信するためのケーブル(図示せず)が別途設けられる。
【0093】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。
【0094】
例えば、実施形態では、水中移動部1a,301aで得られた加速度データを、ケーブル12を通じて水上処理部1bまで送信しているが、水中移動部1a,301aに加速度データを保存・蓄積するデータ保存部を設けてもよい。例えば、データ保存部として、電子記憶媒体を採用し、岩盤Rの打撃で得られた加速度データを、電子データとして電子記憶媒体に保存・蓄積していくこととしてもよい。なおこの場合、電子記憶媒体に蓄積された加速度データを、船B上で回収したときに、水上処理部1bでバッチ処理する運用が考えられる。電子記憶媒体としては、半導体メモリやハードディスク装置等を用いることができる。
【0095】
また、図1に示す品質評価装置1の一式すべて(水中移動部1a及び水上処理部1b)を、水中移動部としてダイバーDが海底に持ち込む方式としてもよい。この場合、ダイバーDが、岩盤Rの使用可否を海底で確認することができる。また、この場合、船B上に、水上処理部としてGPS装置27と音響測深装置25とを設置し、ダイバーDの絶対位置を船B上で取得することとしてもよい。また、岩盤Rの使用可否の判定結果(使用可能、又は使用不可能)を、リアルタイムでダイバーD側のコンピュータ23から船B側のコンピュータに送信してもよい。これにより、船B上においても、判定結果をリアルタイムで知ることができる。なお、水中移動部において防水・耐水圧が必要な電子機器等は、適宜ハウジング等に収納してもよい。
【符号の説明】
【0096】
1…品質評価装置、1a,301a…水中移動部、1b…水上処理部、11…ハンマー、11a…打撃部、11b…加速度センサー、11d…打撃面(衝突面)、23…コンピュータ(演算装置、加速度データ取得手段)、25…(相対位置情報取得部)、27…GPS装置、31…岩石等級テーブル(対応テーブル)、41…変形係数算出部(加速度データ取得手段、変形特性演算手段)、43…等級判定部(品質判定手段)、231…品質相関関係(吸水率相関関係、密度相関関係)、241…弾性係数算出部(変形特性演算手段)、243…品質推定部(品質判定手段)、47…評価位置算出部(絶対位置情報取得部)、50…情報蓄積部(情報保存部)、231…相関関係(吸水率相関関係、密度相関関係)、R…岩盤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の自然由来の岩盤又は岩石の品質を評価する品質評価方法であって、
水中に存在する前記岩盤又は前記岩石に、加速度センサーと球面形状の衝突面とを有するハンマーの前記衝突面を衝突させ、前記加速度センサーで前記ハンマーの加速度データを取得する加速度データ取得工程と、
前記加速度データに基づき、Hertzの弾性接触論を用いて前記岩盤又は前記岩石の変形特性を演算装置に演算させる変形特性演算工程と、
前記変形特性演算工程で得られた変形特性に基づいて、前記岩盤又は前記岩石の品質を判定する品質判定工程と、
を備えたことを特徴とする品質評価方法。
【請求項2】
前記品質判定工程では、
前記岩盤又は前記岩石の変形特性と岩盤等級との対応を表す所定の対応テーブルに基づいて、前記岩盤又は前記岩石の工学的分類を行い、前記岩盤又は前記岩石の岩盤等級を前記品質に関する情報として得ることを特徴とする請求項1に記載の品質評価方法。
【請求項3】
前記品質判定工程では、
前記岩盤又は前記岩石の変形特性と吸水率との相関関係を表す所定の吸水率相関関係に基づいて、前記岩盤又は前記岩石の吸水率を、前記品質に関する情報として得ることを特徴とする請求項1に記載の品質評価方法。
【請求項4】
前記品質判定工程では、
前記岩盤又は前記岩石の変形特性と密度との相関関係を表す所定の密度相関関係に基づいて、前記岩盤又は前記岩石の密度を、前記品質に関する情報として得ることを特徴とする請求項1に記載の品質評価方法。
【請求項5】
水中の自然由来の岩盤又は岩石の品質を評価する品質評価装置であって、
加速度センサーと球面形状の衝突面とを有するハンマーと、
前記ハンマーの衝突面を水中に存在する前記岩盤又は前記岩石に衝突させたときに前記加速度センサーで得られる加速度データを取得する加速度データ取得手段と、
前記加速度データに基づき、Hertzの弾性接触論を用いて前記岩盤又は前記岩石の変形特性を演算する変形特性演算手段と、
前記変形特性演算手段で得られた変形特性に基づいて、前記岩盤又は前記岩石の品質を判定する品質判定手段と、を備えたことを特徴とする品質評価装置。
【請求項6】
前記ハンマーを少なくとも含み、水中で移動可能であり、前記加速度データに関する情報を取得する水中移動部と、
前記水中移動部で取得された情報に基づいて水上で所定の情報処理を行う水上処理部と、を備えたことを特徴とする請求項5に記載の品質評価装置。
【請求項7】
前記水上処理部の位置情報をGPSにより取得するGPS装置と、
前記水上処理部に対する前記水中移動部の相対位置情報を取得する相対位置情報取得部と、
前記GPS装置で得られる前記位置情報と前記相対位置情報とに基づいて、前記水中移動部の絶対位置情報を取得する絶対位置情報取得部と、
前記ハンマーと前記岩盤又は前記岩石とが衝突した時に、前記絶対位置情報と前記加速度データに関する情報とを関連付けて保存する情報保存部と、を備えたことを特徴とする請求項6に記載の品質評価装置。
【請求項8】
前記ハンマーの打撃部は球体をなし、前記ハンマーの質量は10kg未満であることを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載の品質評価装置。
【請求項1】
水中の自然由来の岩盤又は岩石の品質を評価する品質評価方法であって、
水中に存在する前記岩盤又は前記岩石に、加速度センサーと球面形状の衝突面とを有するハンマーの前記衝突面を衝突させ、前記加速度センサーで前記ハンマーの加速度データを取得する加速度データ取得工程と、
前記加速度データに基づき、Hertzの弾性接触論を用いて前記岩盤又は前記岩石の変形特性を演算装置に演算させる変形特性演算工程と、
前記変形特性演算工程で得られた変形特性に基づいて、前記岩盤又は前記岩石の品質を判定する品質判定工程と、
を備えたことを特徴とする品質評価方法。
【請求項2】
前記品質判定工程では、
前記岩盤又は前記岩石の変形特性と岩盤等級との対応を表す所定の対応テーブルに基づいて、前記岩盤又は前記岩石の工学的分類を行い、前記岩盤又は前記岩石の岩盤等級を前記品質に関する情報として得ることを特徴とする請求項1に記載の品質評価方法。
【請求項3】
前記品質判定工程では、
前記岩盤又は前記岩石の変形特性と吸水率との相関関係を表す所定の吸水率相関関係に基づいて、前記岩盤又は前記岩石の吸水率を、前記品質に関する情報として得ることを特徴とする請求項1に記載の品質評価方法。
【請求項4】
前記品質判定工程では、
前記岩盤又は前記岩石の変形特性と密度との相関関係を表す所定の密度相関関係に基づいて、前記岩盤又は前記岩石の密度を、前記品質に関する情報として得ることを特徴とする請求項1に記載の品質評価方法。
【請求項5】
水中の自然由来の岩盤又は岩石の品質を評価する品質評価装置であって、
加速度センサーと球面形状の衝突面とを有するハンマーと、
前記ハンマーの衝突面を水中に存在する前記岩盤又は前記岩石に衝突させたときに前記加速度センサーで得られる加速度データを取得する加速度データ取得手段と、
前記加速度データに基づき、Hertzの弾性接触論を用いて前記岩盤又は前記岩石の変形特性を演算する変形特性演算手段と、
前記変形特性演算手段で得られた変形特性に基づいて、前記岩盤又は前記岩石の品質を判定する品質判定手段と、を備えたことを特徴とする品質評価装置。
【請求項6】
前記ハンマーを少なくとも含み、水中で移動可能であり、前記加速度データに関する情報を取得する水中移動部と、
前記水中移動部で取得された情報に基づいて水上で所定の情報処理を行う水上処理部と、を備えたことを特徴とする請求項5に記載の品質評価装置。
【請求項7】
前記水上処理部の位置情報をGPSにより取得するGPS装置と、
前記水上処理部に対する前記水中移動部の相対位置情報を取得する相対位置情報取得部と、
前記GPS装置で得られる前記位置情報と前記相対位置情報とに基づいて、前記水中移動部の絶対位置情報を取得する絶対位置情報取得部と、
前記ハンマーと前記岩盤又は前記岩石とが衝突した時に、前記絶対位置情報と前記加速度データに関する情報とを関連付けて保存する情報保存部と、を備えたことを特徴とする請求項6に記載の品質評価装置。
【請求項8】
前記ハンマーの打撃部は球体をなし、前記ハンマーの質量は10kg未満であることを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載の品質評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−53871(P2013−53871A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190847(P2011−190847)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(594051655)株式会社セントラル技研 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(594051655)株式会社セントラル技研 (7)
【Fターム(参考)】
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