哺乳類乳汁微生物、それらを含有する組成物および乳腺炎の治療のためのそれらの使用
本発明は、同種の健常宿主から得られた哺乳類乳汁由来微生物の使用により、ヒトおよび動物双方の乳腺炎を予防または治療するための新規なアプローチ;感染性乳腺炎を軽減し得る乳汁から得られた新規なプロバイオティック微生物およびそれらを得るために用いられるスクリーニング法;乳腺炎およびその他の疾病に対する予防または治療のためのこれらのプロバイオティック細菌の使用;最後に、これらの化合物を含んでなる組成物に関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、同種の健常宿主から得られた哺乳類乳汁由来微生物の使用によってヒトおよび動物双方の乳腺炎を予防または治療するための新規なアプローチ;感染性乳腺炎を軽減し得る乳汁から得られた新規なプロバイオティック微生物;乳腺炎およびその他の疾病に対する予防または処置のための、これらのプロバイオティック細菌の使用;最後に、これらの化合物を含んでなる組成物に関する。
【0002】
発明の背景
乳腺炎は、乳汁分泌中の女性およびその他の哺乳類の雌に特に頻繁な乳腺の炎症および感染である。乳腺炎は主として、乳管および乳輪腺におけるブドウ球菌および/または連鎖球菌の選択と異常増殖により引き起こされる。ヒト乳腺炎は泌乳中の女性の最大30%を侵し、実に痛い症状であるため、早期および望まない離乳に至る場合が多い。
【0003】
さらに、乳腺炎はヒト特異的な病態ではなく、あらゆる哺乳類種を侵す。この意味で、ウシ、ヒツジまたはヤギなど、乳汁生産目的で飼育されている動物種および品種の感染性乳腺炎は、感染過程で生産された乳汁は細菌総数および体細胞総数が高いために廃棄しなければならないことから、重要な経済問題である。さらに、乳汁生産に供されない飼育種(ブタ、ウサギなど)および品種(例えば、肉牛)でも、低細菌品質の乳汁供給の低下は子孫の罹患率および死亡率を著しく高める可能性があるので、乳腺炎は重要な問題であり得る。
【0004】
これらの場合において、独特な治療選択肢として抗生物質に基づく療法が出てきた。しかしながら、現行の広域またはグラム陽性標的抗生物質は乳腺炎を引き起こすブドウ球菌株および連鎖球菌株には効果が低く、実際、このような処置は、通常、いくらかの保護効果を示し得る、哺乳類乳汁を特徴付ける常在細菌叢を排除するために、場合によっては有害であり得る。さらに、抗生物質療法では、乳汁中に抗生物質残留物が出現する可能性があり、もし泌乳期に起これば、これも有害である。あるいは、組換えウシGM−CSFも黄色ブドウ球菌(S. aureus)により引き起こされた無症状乳腺炎の処置に用いられてきたが(Takahashi, H. et al. 2004, Cad. J. Vet. Res. 68:182-187)、後期の黄色ブドウ球菌感染の処置には有効でないことが分かっている。
【0005】
乳腺炎の処置のためのもう1つのアプローチは、プロバイオティクスの使用である。例えば、Sytnik, S. I. et al. (Vrach Delo., 1990, 3:98-100)は乳腺炎の予防にビフィドバクテリウム属の使用を試みたが、乳房微生物叢の滞留時間に阻害は見られなかった。Greene, W. A. et al. (J. Dairy Sci., 1991, 74:2976-2981)は、体細胞総数(SSC)の増加の処置のために、直接乳房内注射による場合の市販の乳酸菌調製物を用いたが、このアッセイに用いた乳酸菌製品はSCCに基づく無症状乳腺炎の乳房内処置としては有効でなかったことを記載している。米国特許第4591499号には、非病原性乳酸菌株または株混合物を含む水中油エマルションの乳房内注射を用いて乳腺炎を処置する方法が記載されている。しかしながら、この文献に記載されている株は、乳腺内のpHの非特異的低下によって、また、直接乳房内注射により投与する必要があるそれらの特定の処方物のために作用するものと思われる。ロシア特許第2134583号には、乳汁の広範な微生物拡散を処置するためのラクトバクテリン(培養培地中で生きた状態で凍結乾燥/乾燥されている乳細菌の微生物塊)またはビフィズムバクテリン(特殊な活性炭に固定化されている凍結乾燥生物調製物)を含有する局所用組成物(topic composition)の使用を記載している。しかしながら、この調製物は局所投与(topical administration)にのみ好適であり、リラクゼーションマッサージと保護膜形成媒体を付加的に含む腸の常在微生物叢に由来する生物懸濁液の適用を含む多段階処置の一部をなす。国際特許出願WO05/34970には、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)株の直接乳房内注射による乳腺炎の処置が記載されている。
【0006】
従って、上記の先行技術は総て、乳房内注射または局所適用のいずれかによるプロバイオティック株に使用に関するものである。よって、当技術分野では、女性およびその他の哺乳類の雌において乳腺炎およびその他の乳腺病態の予防および処置を可能とし、より容易に、かつ、侵襲性が少ない手段によって適用可能なさらなるアプローチの必要がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、哺乳類の乳汁がそれらの経口接種後に乳腺に移行し、乳腺炎を引き起こす病原体に対して局所的に治療効果を発揮することができ、従って、乳腺炎の罹患率の軽減を助けるプロバイオティック株を含むという、予期されなかった、驚くべき発見に基づく。さらに、これらの株は、それらを他の疾病の処置にも有用とする予期されなかった、さらなる有利ないくつかの特性を有する。本発明は、授乳が提供できるという有益な特性の点で、また、農業生産者にとっては乳汁生産性という経済的観点のために、当業者に公知の方法に関して有利である。
【0008】
第一の態様において、本発明は、
(i)乳酸培養培地での選択により、哺乳類種の新鮮乳汁中に存在する乳酸菌またはビフィズス菌株を単離する工程;
(ii)経口摂取後に乳腺に移行することができ、かつ/またはその局所適用(topic application)後に乳腺に定着することができる工程(i)からの株を選択する工程;
(iii)黄色ブドウ球菌の生存率および/または黄色ブドウ球菌の上皮細胞への接着率を軽減することができる工程(ii)からの株を選択する工程;および
(iv)乳腺炎から動物を保護することができる工程(iii)からの株を選択する工程
を含んでなる、プロバイオティクスの選択方法を提供する。
【0009】
別の態様において、本発明は、本発明の方法によって得ることができるプロバイオティック株を提供する。
【0010】
別の態様において、本発明は、本発明の株または株混合物の培養物の上清を提供する。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、本発明のプロバイオティック株または本発明の1以上の株の培養物の上清を少なくとも含んでなる組成物、医薬品、飼料または栄養製品を提供する。
【0012】
別の態様において、本発明は、それを必要とする被験体または動物における、慢性もしくは急性の感染もしくは外寄生、または望ましくない微生物定着(この感染、外寄生または定着は、いずれかの体表または粘膜を侵す寄生虫、細菌、酵母、真菌またはウイルスにより引き起こされる)の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、本発明のプロバイオティック株またはその培養上清の使用を提供する。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、それを必要とする被験体または動物における、食物に対する過敏感反応および代謝不耐症;便秘およびその他の胃腸障害;IBD、潰瘍性大腸炎、関節炎、アテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、乾癬またはサルコイドーシスからなる群から選択される炎症性または自己免疫性障害;ならびに腫瘍の増殖、転移および癌の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、本発明のプロバイオティック株もしくはプロバイオティック株の混合物またはその培養上清の使用を提供する。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、それを必要とする被験体または動物における、アレルギー性障害および喘息の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、本発明のプロバイオティック株もしくはプロバイオティック株の混合物またはその培養上清の使用を提供する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、生理学的および管理性ストレスを受けた個人または動物における、一時的に抑圧された免疫レベルに治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、本発明のプロバイオティック株もしくはプロバイオティック株の混合物またはその培養上清の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】本発明に含まれるプロバイオティック細菌株の16S rRNA配列およびそれらのPCR−RAPDプロフィールを示す。
【図1B】本発明に含まれるプロバイオティック細菌株の16S rRNA配列およびそれらのPCR−RAPDプロフィールを示す。
【図1C】本発明に含まれるプロバイオティック細菌株の16S rRNA配列およびそれらのPCR−RAPDプロフィールを示す。
【図1D】本発明に含まれるプロバイオティック細菌株の16S rRNA配列およびそれらのPCR−RAPDプロフィールを示す。
【図2】マウスにおける本発明の株の乳腺移行能と本発明の株による消化管定着を示す棒グラフである。108cfuの遺伝的に標識した株を14日間毎日補給された泌乳中のマウスにおける発現した乳汁および糞便サンプル中の乳酸菌(グレーの棒)、ビフィズス菌(黒の棒)および腸球菌(白の棒)の数を細菌コロニープレーティングにより分析した。乳汁および糞便サンプルはプロバイオティック補給0日目、5日目および10日目に採取した。乳汁中のPCR陽性コロニーを%として示す。
【図3】ブドウ球菌を本発明に含まれる株と同時に培養した後にもたらされたブドウ球菌の生存および接着の阻害を示す棒グラフである。A)黄色ブドウ球菌の生存率に対する本発明に含まれるプロバイオティクスの阻害作用は、in vitroにおいて、TSAプレートでの寒天拡散法により評価した。細菌上清によって生じた阻止円の直径(ミリメートル)は抗微生物作用を決定する。B)病原性黄色ブドウ球菌株のCaco−2細胞への接着を、本発明のプロバイオティック株の存在下で評価した。無作為な10視野を計数し、結果を、プロバイオティクスの不在下で接着した病原性細菌の数に対する細胞に接着したグラム陰性菌の%の平均として表した。
【図4】ブドウ球菌性乳腺炎からの保護を示す棒グラフである。乳腺炎は、分娩後10日の泌乳中のマウスにおいて、4番目の乳房対に106cfuの黄色ブドウ球菌を注射することにより誘発した。発現した乳汁中のブドウ球菌負荷(A)および炎症性乳房スコア(B)を感染5日後と10日後に評価した。
【図5】プロバイオティック株の腸細胞への接着を示す棒グラフである。本発明のプロバイオティック株の接着は、Caco−2(グレーの棒)またはHT−29(黒の棒)腸細胞系統を用いて評価した。無作為な20視野を計数し、結果は、視野当たりの、細胞と接着した細菌の数の平均±SDとして表した。
【図6】消化類似条件に対するプロバイオティック株の生存率を示す棒グラフである。本発明のプロバイオティック株の、酸性内容物(グレーの棒)および高胆汁酸塩内容物(黒の棒)に対する滞留を、in vitroにおいて、MRS pH3.0または0.15%胆汁酸塩中で90分間細菌を培養することにより評価した。結果は、3回の独立した実験の平均±SDとして表す。
【図7】経口誘発サルモネラ菌感染モデルに対するプロバイオティック株の効果を示す。A)サルモネラ菌の脾臓への移行阻害におけるプロバイオティック処置の効果を示す棒グラフ。1010cfuのサルモネラ菌を経口投与した24時間後に、108cfuの不活性化サルモネラ菌でワクチン接種した(グレーの棒)またはワクチン接種無し(黒の棒)のプロバイオティクス処置マウスの脾臓においてサルモネラ菌コロニーの数を測定した。B)サルモネラ菌感染後の動物の生存曲線。
【図8】サイトカインおよび免疫グロブリンG発現に対するプロバイオティック株の効果を示す棒グラフである。TNF−α(A)およびIL−10(B)サイトカイン生産は、LPSおよび示されたプロバイオティック株で12時間刺激した骨髄由来マクロファージで分析し、IgG発現(C)は、LPSおよび示されたプロバイオティック株で6日間刺激したBalb/cマウス(6〜8週齢)の脾臓から得たリンパ球で分析した。サイトカインおよびIgGの生産は双方ともELISAにより検出した。
【発明の具体的説明】
【0017】
本発明は、それを必要とする女性およびその他の哺乳類の雌の双方における感染性乳腺炎の予防的処置および治療的処置のための新規な方法を提供する。本方法は、特定の適用に関して特に選択された特殊なプロバイオティック株の使用に基づく。
【0018】
第一の態様において、本発明は、
(i)乳酸培養培地での選択により、哺乳類種の新鮮乳汁中に存在する乳酸菌またはビフィズス菌株を単離する工程;
(ii)経口摂取後に乳腺に移行することができ、かつ/またはその局所適用(topic application)後に乳腺に定着することができる工程(i)からの株を選択する工程;
(iii)黄色ブドウ球菌の生存率および/または黄色ブドウ球菌の上皮細胞への接着率を軽減することができる工程(ii)からの株を選択する工程;および
(iv)乳腺炎から動物を保護することができる工程(iii)からの株を選択する工程
を含んでなる、プロバイオティクスの選択方法を提供する。
【0019】
工程(i)において、哺乳類生物から得られた乳汁はいずれも、本発明の方法の出発材料として使用可能である。好ましい実施形態では、用いられる乳汁はヒト、ウシ、ブタ、ヒツジ、ネコまたはイヌ乳汁である。さらに、当技術分野で公知の乳酸培養培地はいずれも、株の選択のために使用可能である。好ましくは、乳酸培養培地は、MRS培地、APT培地、RCM培地、LM17培地、GM17培地およびElliker培地から選択される。最も好ましくは、乳酸培養培地はMRS培地である。
【0020】
工程(ii)において、工程(i)で単離された株は、経口摂取後のそれらの乳腺移行能および/または局所適用後(topic application)の乳腺定着に基づき選択される。乳腺移行能を検出するためには、WO2004003235に記載されているような、経口摂取後の乳汁への微生物移行を検出するためのアッセイを使用することができる。
【0021】
工程(iii)では、ブドウ球菌の生存率を測定するため、また、黄色ブドウ球菌の上皮細胞への接着率を測定するための当技術分野で公知のいずれのアッセイも使用できる。好ましい実施形態では、接着率におけるプロバイオティクスの効果は、黄色ブドウ球菌細胞と本発明のプロバイオティクスを加えた腸細胞系統の集密培養物を用い、接着した黄色ブドウ球菌細胞の数を好適な技術により測定する。一般に、腸細胞系統はCaco−2であり、接着された細胞の数は、光学顕微鏡下で細胞単層を直接観察することにより測定する。さらに、選択工程(iii)はその上に、またはその代わりに、プロバイオティック株の存在下で黄色ブドウ球菌の生存率(the viability of viability of S. aureus)を測定することを含む。細菌株の増殖阻害を測定するのに好適ないずれのアッセイを用いてもよい。一般に、黄色ブドウ球菌の生存率の評価は、寒天拡散法(agar well diffusion assay)によって行う。
【0022】
工程(iv)において、乳腺炎の保護を測定するためのいずれのアッセイも使用可能である。好ましくは、このアッセイは、乳腺炎の病原因子として知られる少なくとも1つの病原体が乳腺に注射された乳腺炎の動物モデルを使用することを含む。より好ましくは、この動物モデルはマウスであり、乳腺炎を引き起こすために投与する必要のある病原体は黄色ブドウ球菌である。
【0023】
別の態様において、本発明は、本発明の方法により得ることができるプロバイオティック株を提供する。好ましくは、このプロバイオティック株は、受託番号7263としてCECTに寄託されているビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、受託番号7264としてCECTに寄託されているビフィドバクテリウム・ブレーベ、受託番号7260としてCECTに寄託されているラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、受託番号7262としてCECTに寄託されているラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、受託番号7265としてCECTに寄託されているラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、受託番号7266としてCECTに寄託されているラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)CELA200、エンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae)EHG11、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)EFG1、ラクトバチルス・プランタルムLG14、ラクトバチルス・ロイテリPDA3の群から選択される。
【0024】
さらなる態様において、本発明は、本発明の1以上の株の培養物の上清を提供する。この上清は、遠心分離、濾過および浮遊法などを含む、当業者に利用可能ないずれかの手段により培養物から得ることができる。
【0025】
さらなる態様において、本発明は、薬剤として用いるための、本発明のプロバイオティック株もしくはプロバイオティック株の混合物、または本発明の1以上の株の培養物の上清を提供する。
【0026】
別の態様において、本発明は、本発明の少なくとも1つの細菌株を含んでなる組成物を提供する。好ましくは、この組成物は、本発明の少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つまたは少なくとも6つの株を含んでなり、各株は組成物中、0.1%〜99.9%、好ましくは1%〜99%、より好ましくは10%〜90%の割合に相当する。別の実施形態では、この組成物は、本発明のいずれかの細菌株を別の株または株混合物とともに含んでなり、各株は組成物中、0.1%〜99.9%、好ましくは1%〜99%、より好ましくは10%〜90%に相当する。別の態様において、本発明は、本発明の1以上の株の培養物の上清を含んでなる組成物を提供する。好ましくは、この上清は、組成物中、0.1%〜99.9%、より好ましくは1%〜99%、いっそうより好ましくは10%〜90%の割合に相当する。
【0027】
別の態様において、本発明は、治療上有効な量の、本発明の少なくとも1つの株もしくは組成物、または本発明の1以上の株の培養物の上清を含んでなる医薬組成物を提供する。この医薬製剤は錠剤、カプセル剤、液体細菌懸濁液、乾燥経口補助剤、湿潤経口補助剤、ドライチューブフィーディングまたはウェットチューブフィーディングの形態を採り得る。好ましくは、このプロバイオティック、プロバイオティック含有または上清含有組成物および医薬品は口腔、胃および/または腸管粘膜表面に向けられるが、鼻咽頭(naso-pharingeal)、呼吸器系、生殖系または腺系粘膜に、および/または乳腺に向けることもでき、経口、鼻腔、眼内、直腸、局所および/または膣経路により女性および動物に投与することもできる。
【0028】
別の態様において、本発明は、本発明のプロバイオティック株、または本発明の1以上の株の培養物の上清を少なくとも含んでなる飼料または栄養製品を提供する。本発明において使用できる好適な食料品の限定されない例としては、ミルク、ヨーグルト、チーズ、カード、発酵乳、ミルクに基づく発酵製品、発酵穀類に基づく製品、発酵肉製品、その他のミルクに基づくまたは穀類に基づく粉末、臨床栄養配合物、アイスクリーム、ジュース、パン、ケーキまたはキャンディー、動物飼料配合物、半合性または合成ダイエット配合物、幼児用配合物、、臨床栄養配合物、アイスクリーム、ジュース、小麦粉、パン、ケーキ、キャンディーまたはチューイングガムがある。
【0029】
上記の組成物、食品または医薬組成物中のプロバイオティック株の必要用量は、障害の性質、または組成物の提案される使用、予防的に用いるか治療的に用いるか、および関与する生物の種類によって異なる。
【0030】
本発明では、毒性作用が治療効果を超えない限り、プロバイオティクスまたはその組合せのいずれの好適な用量を用いてもよい。治療効力および毒性は、ED(集団の50%で治療上有効な用量)またはLD(集団の50%に致死的な用量)統計値を算出することによるなど、実験動物を用いる標準的な薬学的手順によって決定することができる。治療効果に対する毒性作用の用量比が治療係数であり、LD/ED比として表すことができる。しかしながらやはり、個体中の新たな微生物の活性は本来用量に依存する。すなわち、上記の食材または医薬組成物の摂取または投与に手段により組み込まれる微生物が多いほど、それらの微生物の予防および/または治療活性は高くなる。本発明の微生物はヒトおよび動物に対して有害ではなく、結局、健康なヒト乳汁から単離されたものなので、個々の粘膜の実質的に高い割合に新規な微生物が定着するように、高い量を組み込むことができる。大きな治療計数を示す組成物が好ましい。動物研究から得られたデータを用い、ヒトまたは動物用の一定範囲の用量を処方する。このような組成物中に含まれる用量は、ほとんどまたは全く毒性なく、EDを含む一定範囲の循環濃度内であることが好ましい。用量は、この範囲内で、用いる投与形、患者の感受性および投与経路によって異なる。厳密な用量は、医師により、処置を必要とする被験者に関連する要因に照らして決定される。例えば、本発明の食品組成物を調製するためには、本発明の少なくとも1つのプロバイオティック株を好適な支持体に、105cfu/g〜約1012cfu/g支持材、好ましくは約106cfu/g〜約1011cfu/g支持材、より好ましくは約106cfu/g〜約1010cfu/g支持材に組み込む。
【0031】
医薬組成物の場合には、プロバイオティック株の用量は、約105cfu/g〜約1014cfu/g支持材、好ましくは約106cfu/g〜約1013cfu/g支持材、より好ましくは約107cfu/g〜約1012cfu/g支持材であるべきである。本発明の目的では、省略形cfuは、寒天プレート上での微生物総数により表されるような細菌細胞の数として定義される「コロニー形成単位」を表す。
【0032】
用量および投与は、十分なレベルの活性部分を提供するよう、または所望の効果を維持するように調整される。考慮に入れることができる要因としては、病態の重篤度、被験体の健康状態、被験体の齢、体重および性、投与時間および投与頻度、薬剤の組合せ、反応感受性および療法に対する応答が挙げられる。長時間作用組成物は、特定の処方物の半減期およびクリアランス速度によって、3〜4日おき、1週間おき、または2週間おきに投与することができる。
【0033】
好ましい実施形態では、本発明はまた、当技術分野で公知の常法によって得ることができる凍結乾燥、冷凍乾燥または乾燥形態の、本発明の株の組成物に関する。
【0034】
別の態様において、本発明は、プロバイオティック株またはその混合物が部分的または完全に不活性化された形態である、組成物、医薬品、飼料または栄養製品を提供する。
【0035】
多くの人が乱れた腸微生物叢を有し、すなわち、有用腸細菌と有害腸細菌のバランスが乱れている。とりわけ、ストレス、胆汁酸塩の存在および特に食習慣などのいくつかの要因が細菌叢に影響を及ぼす。これらの状況では、発酵プロセスが乱れることがあり、有用細菌の数が減り、その結果、結腸粘膜が萎縮し、機能が止まると同時に、潜在的に悪玉の細菌の数が急速に増える。本発明のプロバイオティック株は、黄色ブドウ球菌の、上皮細胞への接着を防ぐだけでなく、黄色ブドウ球菌細胞および他の多くの病原体の生存率を低下させることができる。よって、本発明のプロバイオティック株は、病原体を死滅させるのに有効に寄与すると当時に、生理学的微生物叢を備えた粘膜表面を再増殖することに寄与するので、該疾病の処置に特に有用である。
【0036】
このため、本発明の一態様は、粘膜表面または他のいずれかのヒト部位の、慢性もしくは急性の感染または外寄生または望ましくない微生物定着(この感染、外寄生または定着は、いずれかの体表または粘膜を侵す寄生虫、細菌、酵母、真菌またはウイルスにより引き起こされる)の予防的または治療的処置を目的とした医薬組成物の製造のための、本発明のプロバイオティクス、本発明の1以上の株の培養物の上清の使用であり、該治療的処置は、それを必要とする被験者に有効量のプロバイオティクスまたはプロバイオティクス含有組成物を投与することを含む。好ましい実施形態では、感染または定着は、それを必要とする被験者または動物の体表または粘膜の寄生虫、細菌、酵母、真菌またはウイルスにより引き起こされる。
【0037】
本発明のプロバイオティクスは、経口摂取後の黄色ブドウ球菌の、乳腺に定着する能力および上皮細胞への接着を防ぐ能力およびその生存率を低下させる能力に基づいて選択されたものである。よって、これらの株は、乳腺炎の処置に好適である。よって、さらなる態様において、本発明は、ヒトおよび動物の感染性乳腺炎の治療または予防を目的とした医薬組成物の製造のための本発明のプロバイオティック株、および本発明の1以上の株の培養物の上清の使用を提供する。このプロセスは、同種の新鮮な乳汁から選択されたプロバイオティック株の使用およびこれらの株の、乳腺に移行し、ブドウ球菌感染の阻害などのそれらの利益を発揮する能力からなる。
【0038】
さらに、本発明のプロバイオティック株はまた、潜在的プロバイオティック株に属するいくつかの特徴、すなわち、安全性および消化過程に対する良好な耐性および消化管定着能を有することも示されている。よって、これらの株は経口摂取後に腸管に到達し、そこでそれらの治療特性を発揮することができる。よって、好ましい実施形態において、本発明は、新生児の下痢の処置を目的とした医薬組成物の製造のための、本発明のプロバイオティック株および本発明の1以上の株の培養物の上清の使用を提供する。
【0039】
プロバイオティック株は、慢性炎症性障害の際に活性化されたマクロファージによる炎症性サイトカインの産生を低下させることが知られている。よって、別の態様において、本発明は、炎症性または自己免疫性障害の処置を目的とした薬剤の製造のための医薬組成物の製造のための、本発明の細菌株、組成物および本発明の1以上の株の培養物の上清の使用に関する。このような炎症性および自己免疫疾患の限定されない例としては、IBD、潰瘍性大腸炎、関節炎、アテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、乾癬またはサルコイドーシスが挙げられる。
【0040】
本発明のプロバイオティック株は、経口摂取後に免疫消化管障壁を再増殖することができ、従って、それらはまた、それを必要とする被験者または動物においての改善に特に好適である。よって、別の態様において、本発明は、食品に対する過敏感反応およびラクトース不耐症などの代謝不耐症、便秘ならびにその他の胃腸障害の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための医薬組成物の製造のための、本発明の1以上のプロバイオティック株および本発明の1以上の株の培養物の上清を提供する。
【0041】
プロバイオティクスは、ニトロサミンなど、腸における発癌性毒素の阻害におけるそれらの効果のみならず、自然免疫応答の調節におけるこのプロバイオティクスの効果のために、癌の中和に有用であることが知られている。よって、さらなる態様において、本発明は、それを必要とする被験者または動物において、いくつかの癌種の予防的または治療的処置のため、また、腫瘍増殖、転移および癌を阻害するための医薬組成物の製造を目的とした、本発明で述べられる株、本発明の1以上の株の培養物の上清の使用を提供する。
【0042】
本発明の株は、免疫応答およびTh1サイトカインとTh2サイトカインの間のバランスを調節することができる。よって、さらなる態様において、本発明は、アレルギー性障害、喘息、および摂取されたタンパク質に対する耐性の発生に関連する障害の治療および/または予防のための薬剤の製造における本発明の株、組成物および上清の使用を提供する。
【0043】
さらなる態様において、本発明は、加齢の際にまたは激しい運動または一般には大きな生理学的緊張またはストレスを受ける健常者において起こるような個人の免疫レベルの一時的抑制の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造における、本発明の株、組成物および上清の使用を手供する。
【0044】
別の態様において、本発明は、プロバイオティック株、株の組合せおよび上清の治療的使用を提供し、該株または組成物が経口、局所(topic)、鼻腔、腸内、眼内、尿生殖器、直腸または膣を介して投与される。
【0045】
さらに、乳汁中の選択された株を提供することにより、処置を必要とする被験体は、選択された株を直接摂取するものであり得るだけでなく、胎児または授乳乳児でもあり得る。よって、なおさらなる態様において、本発明は、胎児および/または母乳で育てられる乳児の治療的または予防的処置のために泌乳中の女性に投与されるように計画された薬剤の製造における本発明の株、組成物および上清の使用を提供する。
【0046】
以下の方法および実施例は本発明を説明する。
【実施例】
【0047】
実施例1:哺乳類乳汁からのプロバイオティクスの単離
分娩後6〜14日目の健常女性23名、分娩後5日目の雌ブタ8匹、分娩後2〜10日目の雌イヌ9匹、および分娩後2日目の雌ウシ4匹から、新鮮な乳汁サンプル(0.5mlしか採取されなかった雌イヌの場合を除き2ml)を得た。
【0048】
女性にも動物にも分娩の際に合併症は無く、乳汁サンプル採取前の2週間は抗生物質療法は行わなかった。乳汁サンプルは総てすぐに−80℃で冷凍した。
【0049】
これらのサンプルから細菌株を単離するために、ペプトン水中0.1mlの連続希釈液をMRS、APT、RCM、LM17、GM17およびElliker寒天プレート上、37℃にて、好気条件および嫌気条件の双方で24〜48時間、平板培養した。最初に得られたおよそ1200のコロニーのうち、120(10%;プレート上で見られた形態の異なる代表的なものを含む)を選択し、好気条件下、MRS寒天にて37℃で、継代培養した。それらから、本発明者らはさらに、以下の特徴:非胞子形成、カタラーゼ陰性およびオキシダーゼ陰性グラム陽性桿菌を有する68の単離物を選択した。
【0050】
これら68の選択単離物はさらに、表現型的(API CH50、APIZYMおよび抗生物質耐性評価)および遺伝学的(16S rRNA配列決定およびRAPD−PCRプロフィール)の双方で特性決定した。この特性決定により、59の異なる細菌株が得られ、乳腺炎から保護することができる可能性のあるプロバイオティック候補を得るためにこれらを本発明に記載されているスクリーニング法によってさらに評価した。
【0051】
このスクリーニング法の後、6株(女性から2株、雌イヌから2株および雌ブタから2株)のみが定義された総ての基準を満たした。ヤギ、ヒツジ、ネコ、ラットおよびマウスなどの他の哺乳類種からも他の乳酸菌株を得たが、それらは総てのスクリーニング基準を満たすことができず、そのためそれらは本発明に含まれない。
・ビフィドバクテリウム・ブレーベ(ヒト乳汁から取得)
・ビフィドバクテリウム・ブレーベ(ヒト乳汁から取得)
・ラクトバチルス・ロイテリ(ブタ乳汁から取得)
・ラクトバチルス・プランタルム(ブタ乳汁から取得)
・ラクトバチルス・ロイテリ(イヌ乳汁から取得)
・ラクトバチルス・ファーメンタム(イヌ乳汁から取得)
・ラクトバチルス・サリバリウス(ブタ乳汁から取得)
・エンテロコッカス・ヒラエ(ネコ乳汁から取得)
・エンテロコッカス・フェカリス(ネコ乳汁から取得)
・ラクトバチルス・プランタルム(ネコ乳汁から取得)
・ラクトバチルス・ロイテリ(ネコ乳汁から取得)
【0052】
実施例2:生理学的および遺伝学的特性決定
これら総ての単離物を生理学的および遺伝学的に特性決定した。各プロバイオティック株の同定に関して、本発明者らは、製造業者の説明書に従い、好気条件下、37℃で24時間および48時間の発酵API 50CH(BioMerieux)分析を行った。24時間の結果を表Iにまとめた。陽性発酵性基質は3より高い値を有するものである。
【0053】
このAPI特性決定の特異性が低いため、本発明者らはまた、選択された細菌株の16S rRNA配列の分析も行った。選択された細菌の16S RNA配列およびそれらのRAPD−PCRプロフィールを図1に示す。得られた結果から、上記に示した細菌株の分類に至った。この分類により、本発明の細菌株は、ブダペスト条約に従い、2007年4月17日にCECT -Coleccion Espanola de Cultivos Tipo-, Valencia (Spain)に寄託され、以下の受託番号を与えられた。
・ビフィドバクテリウム・ブレーベCECT7263
・ビフィドバクテリウム・ブレーベCECT7264
・ラクトバチルス・ロイテリCECT7260
・ラクトバチルス・プランタルムCECT7262
・ラクトバチルス・ロイテリCECT7265
・ラクトバチルス・ファーメンタムCECT7266
【0054】
本発明の以下の細菌株は、ブダペスト条約に従い、2008年5月30日にCECT -Coleccion Espanola de Cultivos Tipo-, Valencia (Spain)に寄託された。
・ラクトバチルス・ロイテリCELA200
・エンテロコッカス・ヒラエEHG11
・エンテロコッカス・フェカリスEFG1
・ラクトバチルス・プランタルムLG14
・ラクトバチルス・ロイテリPDA3
【0055】
【表1】
【0056】
実施例3:株の選択スクリーニング
実施例3a:経口摂取後の乳腺への移行
最初の選択基準に示されているように哺乳類乳汁から種々の候補株が得られたら、本発明に記載されている選択方法の次の工程は、経口摂取または局所適用(topic application)後に細菌が乳汁へ移行することができなければならないということである。この能力を試験するため、推定される株をこれまでに記載されているように(WO2004/003235)遺伝的に標識し、動物モデルとしての妊娠ラットに経口投与した。乳汁および新生児糞便サンプル中の総乳酸菌、ビフィズス菌および腸球菌を測定した。さらに、細菌の特定の移行を、泌乳中のラットの乳汁および新生児の糞便から得られたコロニーのPCRスクリーニングにより分析した。
【0057】
4匹の妊娠ウィスターラットに、分娩2週間前から2日おきに0.5mlの乳汁をビヒクルとし、遺伝的に標識した株108cfuを経口摂取した。分娩後、遺伝的に標識した株の乳汁への移行を、分娩後0日目、5日目および10日目に新生児の糞便から単離された細菌を比較することにより分析した。総てのプレートを好気条件下、37℃で24時間インキュベートした。得られた各サンプルについて、ビフィズス菌、乳酸菌および腸球菌総数を測定した。MRSプレートで増殖したコロニーのうち、各サンプルから50を無作為に選択し、Cm−MRSプレートで継代培養した。最後に、Cm耐性コロニーを鋳型として用い、特異的遺伝標識コロニーを検出した(図2)。得られたコロニーの少なくとも1%がPCR陽性であった場合に、移行有りとみなした。
【0058】
実施例3b:黄色ブドウ球菌の生存の阻害
本発明のプロバイオティック株を、寒天拡散法を用い、黄色ブドウ球菌の生存を低下させ得る殺菌性代謝物を産生する能力に関して評価した。106cfu/mlの黄色ブドウ球菌を含有するTSA寒天プレートを作製した。滅菌コルクボーラーを用い、寒天に直径5mmの孔を開けた。次に、各プロバイオティック株溶液の2倍濃度上清50μlをこれらの孔に加え、4℃で2時間のプレインキュベーション中に寒天に拡散させ、その後、これらのプレートを37℃で16〜18時間、好気的にインキュベーションした。インキュベーション後、阻止円を観察し、測定して(ミリメートル)、プロバイオティック候補の殺菌効果を評価した(図3A)。
【0059】
実施例3c:黄色ブドウ球菌の上皮細胞への接着の阻害
Caco−2腸細胞系統を、抗生物質を含まない2mlの培地を含有する35mmのプラスチックディッシュ中で集密となるまで培養した。集密後10〜14日目に、培地1mlをDMEM中108のプロバイオティック細菌の懸濁液1mlに置き換えた。これらの培養物を37℃で1時間インキュベートした。その後、DMEM中108病原性細菌(黄色ブドウ球菌)の懸濁液1mlをこれらの培養物に加え、37℃でさらに1時間インキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄し、氷冷70%メタノールで30分間固定した。プレートを風乾し、グラム染色を行った。接着した細菌をAxiovert 200(Zeiss)光学顕微鏡を用い、油浸にて、1000倍で観察した。無作為な10視野でグラム陰性菌の数を数え、結果を、プロバイオティック株を含まない対照培養物に対する細胞に接着した病原性細菌の%の平均値として表した(図3B)。
【0060】
実施例3d:乳腺炎の保護
プロバイオティック候補の、乳腺炎からの保護の有効性を評価するため、本発明者らはこの病態のマウスモデルを用いた。要するに、1群当たり10匹の妊娠ウィスターラットに経口胃管栄養法により、200μlの乳汁をビヒクルとする各プロバイオティック株108cfu/日を、分娩前2週間、毎日補給した。分娩1週間後、これらの動物において、4番目の乳腺対に106cfuの黄色ブドウ球菌を注射することにより乳腺炎感染を誘発した。感染後0日目、5日目および10日目に発現した乳汁を採取し、細菌負荷を測定し(図4A)、感染後5日目と10日目に乳腺生検を得るために各群5個体を犠牲にし、組織学的検査により炎症プロセスを評価した。
【0061】
腺全体を5%ホルマリン中で固定し、アルコールで脱水し、最後に、パラフィンに包埋した。組織切片をヘマトキシリン−エオジンで染色し、盲検方式で調べた(図4B)。乳腺の組織構造の変化を質的に評価するため、次のように炎症指数値(HV)を決定した。
・スコア0:浸潤無し
・スコア1:組織切片の単離領域における軽度のPMN細胞の間質浸潤、管上皮の損傷無し
・スコア2:ほとんどの視野にわたって間質浸潤、組織構造の欠落を伴う組織損傷の領域が散在、若干の膿瘍形成像
・スコア3:ほとんどの視野にわたって重度の浸潤、組織構造の欠落を伴う組織損傷の領域が頻繁、頻繁な膿瘍形成像
【0062】
実施例4:株のプロバイオティック能
選択された株を、プロバイオティック株として作用するそれらの能力を増進し得る種々の特徴に関してさらに分析した。得られた結果を示された実施例に記載する。
【0063】
実施例4a:Caco−2およびHT−29細胞への接着
接着アッセイに関しては、細胞系統Caco−2(ATCC HTB−37)およびHT−29(ATCC HTB−38)を腸細胞のモデルとして用いた。両細胞系統を分極、腸酵素の発現、特定の構造ポリペプチドおよびムチンの生産などの腸細胞に特徴的な特徴を呈した。
【0064】
これらの細胞を、プラスチックフラスコ(75cm2、Nunc)にて、10%不活性化FCS、非必須アミノ酸、100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン、1μg/mlアンホテリシンを添加した培養培地としてのDMEM中で増殖させた。培養は95%空気と5%CO2を含む雰囲気下、37℃で行った。2日おきに培地を交換し、1週間おきに細胞を分割した。
【0065】
Caco−2およびHT−29腸細胞系統を、35mmプラスチックディッシュにて、抗生物質を含まない2ml培地中に分割し、集密とした。10〜14日後、培地1mlをDMEM(PAA)中108細菌の懸濁液1mlで置き換えた。これらの培養物を37℃で1時間インキュベートした。その後、細胞をPBSで2回洗浄し、氷冷70%メタノールで30分間固定した。プレートを風乾し、グラム染色を行った。
【0066】
接着した細菌を、Axiovert 200(Zeiss)光学顕微鏡を用い、油浸にて、1000倍で観察した。無作為な20視野を計数し、結果を、1視野当たりの、細胞に接着した細菌の数の平均値±SDとして表した(図5)。
【0067】
実施例4b:酸および胆汁酸塩に対する耐性
本発明のプロバイオティック株の、これらの細菌が消化性移動の際に受ける条件である酸性内容物および高胆汁酸塩内容物に対する耐性を分析するため、細菌を、pH3.0または2%胆汁酸塩(Sigma)を含むMRSブロス培地で90分間培養した。連続希釈液のMRS寒天プレーティングにより生存率を算出し、対照条件(MRSブロスpH5.8)で得られたコロニー数と比較した。プレートを極度の好気条件下、36℃で24時間培養した。この実験を3回繰り返した(図6)。
【0068】
実施例4c:抗生物質耐性
現行の抗生物質の使用は常在消化管微生物叢の減少をもたし、それが下痢およびその他の消化管障害に関連することがある。さらに、この消化管細菌の量の減少は、日和見病原性細菌およびウイルスを宿主に感染させる結果となり得る。感染を遮断するための抗生物質の使用は、この障害を解決するわけではなく、複雑にする。プロバイオティクスが有益な役割を発揮し得る腸炎症のような他の状況では、この潜在的効果は抗生物質による同時療法に限定される場合がある。これらの総ての理由のため、汎用抗生物質に耐性となり得た潜在的プロバイオティック株の選択は、明らかに注目されるべきである。
【0069】
本発明のプロバイオティック株の耐性を分析するため、本発明者らは寒天拡散法を用いた。106cfu/mlの各プロバイオティック株を含有するMueller−Hinton寒天プレートを作製した。次に、抗生物質市販ディスクを孔に加え、室温で10分間のプレインキュベーションの際に寒天に拡散させた後、36℃で16〜18時間、プレートの極度の好気的インキュベーションを行った。
【0070】
本発明のプロバイオティック株の抗生物質耐性を表IIにまとめる。
【0071】
【表2】
【0072】
実施例4d:抗微生物性代謝物の産生
プロバイオティクスにより用いられている主要な機構は有益な腸細菌と有害な腸細菌のバランスを制御することであり、消化管であることが示唆された。有益な細菌の数が減少すると、日和見性細菌が過度に増殖し、宿主の健康を見出し、あるいは感染を引き起こしさえする。ほとんとの細菌性生物は、一緒に棲息している他の微生物の増殖能を抑え、従って、それらの選択的増殖が可能となる特徴または機構を獲得している。乳酸菌による酸の生産によるpHの低下はこのような機構の1つである。さらに、いくつかの乳酸菌はまた、他の細菌、酵母または真菌の増殖を選択的に阻害する生物活性ペプチド成分およびその他の代謝物も産生する。これはロイテリン(アルデヒド)またはバクテリオシン(ナイシンまたはペディオシン(PA−I)などのペプチド)の場合である。
【0073】
本発明のプロバイオティック株を、寒天拡散法を用い、殺菌性代謝物を産生するそれらの能力に関して評価した。種々の病原性細菌株106cfu/mlを含むTSA寒天プレートを作製し、先に実施例3bで黄色ブドウ球菌に関して示したようにアッセイした。得られた結果を表IIIに記載した。
【0074】
【表3】
【0075】
実施例5:不活性化サルモネラ菌ワクチンで免疫した後のマウスにおけるネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)の移行に対する本発明のプロバイオティック株の効果
特に胃腸の感染、疾病または手術の後の被験体においては、消化管上皮からのグラム陰性菌の移行が起こり得る。それを処置しないまま放置すると、内毒素血症に至り得る。本実施例では、消化管病原体ネズミチフス菌の移行に対する本発明のプロバイオティック株の効果を検討した。
【0076】
雄Balb/cマウス(6〜8週齢)を2週間、毎日、0.2ml乳汁中1×108cfuまたは乳汁単独で飢餓状態とした。その後、マウスを不活性化サルモネラ菌ワクチン(0.2ml乳汁中、パラホルムアルデヒドで不活性化したもの108cfu)で経口免疫した、またはしなかった。免疫後、さらに2週間、隔日でプロバイオティック調製物を与えてさらに2週間マウスを飢餓状態とした。経口免疫2週間後、総てのマウスに生菌ネズミチフス菌で経口刺激を行った(0.2ml乳汁中、1010cfu)。
【0077】
そして、24〜48時間後、半数の動物で、脾臓におけるネズミチフス菌の定着レベルを判定した。残りの動物は、サルモネラ菌感染後の動物の生存率を評価するために、さらに2週間追跡した。
【0078】
得られた結果は、図7に示されるように、供試したほとんどのプロバイオティクスが不活性化サルモネラ菌ワクチンによるマウスのワクチン接種の有益な効果を増進することを示す。
【0079】
実施例6:新生ブタにおける新生児下痢の予防に対するL.プランタルムCECT7262またはL.ロイテリCECT7260の効果
3〜4週齢での子ブタの離乳は、主として下痢性感染症の罹患率の上昇によるこれらの動物の高い死亡率と相関する。おそらく、この高い死亡率は、ストレスとなるそれらの栄養状態および管理状態の変化による防御のダウンレギュレーションおよびそれらの消化管微生物叢の重大な組成変化に関連する。
【0080】
このため、生産者は、コリスチンまたはZnOなどの抗生物質、免疫刺激剤または粘膜保護成分の使用といったいくつかのアプローチを用いることでこの問題を解決しようとしてきた。しかしながら、2006年の動物生産に関する抗生物質の使用のEU規制がこの状況を悪化させた。このため、消化管の微生物叢および免疫応答を調節し得るプロバイオティクスの使用は可能性のある選択肢として浮上する。
【0081】
本発明者らは、34日間、3×109cfu/日のL.ロイテリCECT7260およびL.プランタルムCECT7262を投与した場合と、3000ppmのZnOおよび40ppmのコリスチンを含有する動物飼料配合物を投与した場合の保護効果を比較した(それぞれ離乳させたブタ48匹と45匹の2群)。
【0082】
両群とも、試験中に下痢を起こした個体、また、死亡した個体は無く、体重の発達も両処理間で同等であり、これらのプロバイオティクスを添加した動物飼料配合物は、通常の抗生物質と免疫調節剤を含有するものと少なくとも同程度良好であることが示唆される。
【0083】
実施例7:炎症性サイトカインおよびIgG産生に対するプロバイオティック細菌の効果
感染リスクの軽減の他、プロバイオティック処置に関連する多くの臨床効果は、選択されたプロバイオティック株の免疫調節能によるものである。免疫応答の調節は通常、TNF−αなどの炎症性サイトカイン(Th1)、IL−4またはIL−13などの体液性サイトカイン(Th2)、ならびにIL−10およびTGF−βなどの調節サイトカイン(Th3)の間のバランスの変化によって媒介される。さらに、この免疫応答における偏りは、その後の体液性応答中の免疫グロブリンの分泌も調節する。このため、本発明者らはまた、手掛かりとなるこれらのサイトカインおよびIgGの発現を調節する上での、本発明のいくつかのプロバイオティック株の効果を試験した。
【0084】
本発明者らは、細胞モデルとして、100ng/mlのLPS(Sigma)で刺激した骨髄由来マクロファージを用いた。105マクロファージ/ウェルを、1mlのDMEMを含む24ウェルプラスチックプレート(Nunc)で培養した。接着したところで、マクロファージを無刺激とするか、または100ng/mlのLPSおよび107cfu/mlの示されたプロバイオティック株で、5%CO2雰囲気下、37℃にて12時間時間刺激した。上清を採取し、サイトカインの産生を、マウスTNF−αまたはマウスIL−10 ELISA(Biosource)を用いて分析した。得られた結果を図8AおよびBにまとめる。
【0085】
免疫グロブリンの産生に対する本発明のプロバイオティック株の効果の分析は、雄Balb/cマウス(6〜8週齢)の脾臓から得られたリンパ球培養物を用いて行った。2×106個のリンパ球を24ウェルのプラスチックプレートにて1mlのDMEM中で培養し、25μg/mlのLPSの存在下または不在下で6日間、不活性化プロバイオティック培養物(108cfu/ml)で刺激した。リンパ球によるIgGの産生を、Bethyl製のマウスIgG ELISAを用いて評価した(図8C)。
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、同種の健常宿主から得られた哺乳類乳汁由来微生物の使用によってヒトおよび動物双方の乳腺炎を予防または治療するための新規なアプローチ;感染性乳腺炎を軽減し得る乳汁から得られた新規なプロバイオティック微生物;乳腺炎およびその他の疾病に対する予防または処置のための、これらのプロバイオティック細菌の使用;最後に、これらの化合物を含んでなる組成物に関する。
【0002】
発明の背景
乳腺炎は、乳汁分泌中の女性およびその他の哺乳類の雌に特に頻繁な乳腺の炎症および感染である。乳腺炎は主として、乳管および乳輪腺におけるブドウ球菌および/または連鎖球菌の選択と異常増殖により引き起こされる。ヒト乳腺炎は泌乳中の女性の最大30%を侵し、実に痛い症状であるため、早期および望まない離乳に至る場合が多い。
【0003】
さらに、乳腺炎はヒト特異的な病態ではなく、あらゆる哺乳類種を侵す。この意味で、ウシ、ヒツジまたはヤギなど、乳汁生産目的で飼育されている動物種および品種の感染性乳腺炎は、感染過程で生産された乳汁は細菌総数および体細胞総数が高いために廃棄しなければならないことから、重要な経済問題である。さらに、乳汁生産に供されない飼育種(ブタ、ウサギなど)および品種(例えば、肉牛)でも、低細菌品質の乳汁供給の低下は子孫の罹患率および死亡率を著しく高める可能性があるので、乳腺炎は重要な問題であり得る。
【0004】
これらの場合において、独特な治療選択肢として抗生物質に基づく療法が出てきた。しかしながら、現行の広域またはグラム陽性標的抗生物質は乳腺炎を引き起こすブドウ球菌株および連鎖球菌株には効果が低く、実際、このような処置は、通常、いくらかの保護効果を示し得る、哺乳類乳汁を特徴付ける常在細菌叢を排除するために、場合によっては有害であり得る。さらに、抗生物質療法では、乳汁中に抗生物質残留物が出現する可能性があり、もし泌乳期に起これば、これも有害である。あるいは、組換えウシGM−CSFも黄色ブドウ球菌(S. aureus)により引き起こされた無症状乳腺炎の処置に用いられてきたが(Takahashi, H. et al. 2004, Cad. J. Vet. Res. 68:182-187)、後期の黄色ブドウ球菌感染の処置には有効でないことが分かっている。
【0005】
乳腺炎の処置のためのもう1つのアプローチは、プロバイオティクスの使用である。例えば、Sytnik, S. I. et al. (Vrach Delo., 1990, 3:98-100)は乳腺炎の予防にビフィドバクテリウム属の使用を試みたが、乳房微生物叢の滞留時間に阻害は見られなかった。Greene, W. A. et al. (J. Dairy Sci., 1991, 74:2976-2981)は、体細胞総数(SSC)の増加の処置のために、直接乳房内注射による場合の市販の乳酸菌調製物を用いたが、このアッセイに用いた乳酸菌製品はSCCに基づく無症状乳腺炎の乳房内処置としては有効でなかったことを記載している。米国特許第4591499号には、非病原性乳酸菌株または株混合物を含む水中油エマルションの乳房内注射を用いて乳腺炎を処置する方法が記載されている。しかしながら、この文献に記載されている株は、乳腺内のpHの非特異的低下によって、また、直接乳房内注射により投与する必要があるそれらの特定の処方物のために作用するものと思われる。ロシア特許第2134583号には、乳汁の広範な微生物拡散を処置するためのラクトバクテリン(培養培地中で生きた状態で凍結乾燥/乾燥されている乳細菌の微生物塊)またはビフィズムバクテリン(特殊な活性炭に固定化されている凍結乾燥生物調製物)を含有する局所用組成物(topic composition)の使用を記載している。しかしながら、この調製物は局所投与(topical administration)にのみ好適であり、リラクゼーションマッサージと保護膜形成媒体を付加的に含む腸の常在微生物叢に由来する生物懸濁液の適用を含む多段階処置の一部をなす。国際特許出願WO05/34970には、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)株の直接乳房内注射による乳腺炎の処置が記載されている。
【0006】
従って、上記の先行技術は総て、乳房内注射または局所適用のいずれかによるプロバイオティック株に使用に関するものである。よって、当技術分野では、女性およびその他の哺乳類の雌において乳腺炎およびその他の乳腺病態の予防および処置を可能とし、より容易に、かつ、侵襲性が少ない手段によって適用可能なさらなるアプローチの必要がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、哺乳類の乳汁がそれらの経口接種後に乳腺に移行し、乳腺炎を引き起こす病原体に対して局所的に治療効果を発揮することができ、従って、乳腺炎の罹患率の軽減を助けるプロバイオティック株を含むという、予期されなかった、驚くべき発見に基づく。さらに、これらの株は、それらを他の疾病の処置にも有用とする予期されなかった、さらなる有利ないくつかの特性を有する。本発明は、授乳が提供できるという有益な特性の点で、また、農業生産者にとっては乳汁生産性という経済的観点のために、当業者に公知の方法に関して有利である。
【0008】
第一の態様において、本発明は、
(i)乳酸培養培地での選択により、哺乳類種の新鮮乳汁中に存在する乳酸菌またはビフィズス菌株を単離する工程;
(ii)経口摂取後に乳腺に移行することができ、かつ/またはその局所適用(topic application)後に乳腺に定着することができる工程(i)からの株を選択する工程;
(iii)黄色ブドウ球菌の生存率および/または黄色ブドウ球菌の上皮細胞への接着率を軽減することができる工程(ii)からの株を選択する工程;および
(iv)乳腺炎から動物を保護することができる工程(iii)からの株を選択する工程
を含んでなる、プロバイオティクスの選択方法を提供する。
【0009】
別の態様において、本発明は、本発明の方法によって得ることができるプロバイオティック株を提供する。
【0010】
別の態様において、本発明は、本発明の株または株混合物の培養物の上清を提供する。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、本発明のプロバイオティック株または本発明の1以上の株の培養物の上清を少なくとも含んでなる組成物、医薬品、飼料または栄養製品を提供する。
【0012】
別の態様において、本発明は、それを必要とする被験体または動物における、慢性もしくは急性の感染もしくは外寄生、または望ましくない微生物定着(この感染、外寄生または定着は、いずれかの体表または粘膜を侵す寄生虫、細菌、酵母、真菌またはウイルスにより引き起こされる)の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、本発明のプロバイオティック株またはその培養上清の使用を提供する。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、それを必要とする被験体または動物における、食物に対する過敏感反応および代謝不耐症;便秘およびその他の胃腸障害;IBD、潰瘍性大腸炎、関節炎、アテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、乾癬またはサルコイドーシスからなる群から選択される炎症性または自己免疫性障害;ならびに腫瘍の増殖、転移および癌の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、本発明のプロバイオティック株もしくはプロバイオティック株の混合物またはその培養上清の使用を提供する。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、それを必要とする被験体または動物における、アレルギー性障害および喘息の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、本発明のプロバイオティック株もしくはプロバイオティック株の混合物またはその培養上清の使用を提供する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、生理学的および管理性ストレスを受けた個人または動物における、一時的に抑圧された免疫レベルに治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、本発明のプロバイオティック株もしくはプロバイオティック株の混合物またはその培養上清の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】本発明に含まれるプロバイオティック細菌株の16S rRNA配列およびそれらのPCR−RAPDプロフィールを示す。
【図1B】本発明に含まれるプロバイオティック細菌株の16S rRNA配列およびそれらのPCR−RAPDプロフィールを示す。
【図1C】本発明に含まれるプロバイオティック細菌株の16S rRNA配列およびそれらのPCR−RAPDプロフィールを示す。
【図1D】本発明に含まれるプロバイオティック細菌株の16S rRNA配列およびそれらのPCR−RAPDプロフィールを示す。
【図2】マウスにおける本発明の株の乳腺移行能と本発明の株による消化管定着を示す棒グラフである。108cfuの遺伝的に標識した株を14日間毎日補給された泌乳中のマウスにおける発現した乳汁および糞便サンプル中の乳酸菌(グレーの棒)、ビフィズス菌(黒の棒)および腸球菌(白の棒)の数を細菌コロニープレーティングにより分析した。乳汁および糞便サンプルはプロバイオティック補給0日目、5日目および10日目に採取した。乳汁中のPCR陽性コロニーを%として示す。
【図3】ブドウ球菌を本発明に含まれる株と同時に培養した後にもたらされたブドウ球菌の生存および接着の阻害を示す棒グラフである。A)黄色ブドウ球菌の生存率に対する本発明に含まれるプロバイオティクスの阻害作用は、in vitroにおいて、TSAプレートでの寒天拡散法により評価した。細菌上清によって生じた阻止円の直径(ミリメートル)は抗微生物作用を決定する。B)病原性黄色ブドウ球菌株のCaco−2細胞への接着を、本発明のプロバイオティック株の存在下で評価した。無作為な10視野を計数し、結果を、プロバイオティクスの不在下で接着した病原性細菌の数に対する細胞に接着したグラム陰性菌の%の平均として表した。
【図4】ブドウ球菌性乳腺炎からの保護を示す棒グラフである。乳腺炎は、分娩後10日の泌乳中のマウスにおいて、4番目の乳房対に106cfuの黄色ブドウ球菌を注射することにより誘発した。発現した乳汁中のブドウ球菌負荷(A)および炎症性乳房スコア(B)を感染5日後と10日後に評価した。
【図5】プロバイオティック株の腸細胞への接着を示す棒グラフである。本発明のプロバイオティック株の接着は、Caco−2(グレーの棒)またはHT−29(黒の棒)腸細胞系統を用いて評価した。無作為な20視野を計数し、結果は、視野当たりの、細胞と接着した細菌の数の平均±SDとして表した。
【図6】消化類似条件に対するプロバイオティック株の生存率を示す棒グラフである。本発明のプロバイオティック株の、酸性内容物(グレーの棒)および高胆汁酸塩内容物(黒の棒)に対する滞留を、in vitroにおいて、MRS pH3.0または0.15%胆汁酸塩中で90分間細菌を培養することにより評価した。結果は、3回の独立した実験の平均±SDとして表す。
【図7】経口誘発サルモネラ菌感染モデルに対するプロバイオティック株の効果を示す。A)サルモネラ菌の脾臓への移行阻害におけるプロバイオティック処置の効果を示す棒グラフ。1010cfuのサルモネラ菌を経口投与した24時間後に、108cfuの不活性化サルモネラ菌でワクチン接種した(グレーの棒)またはワクチン接種無し(黒の棒)のプロバイオティクス処置マウスの脾臓においてサルモネラ菌コロニーの数を測定した。B)サルモネラ菌感染後の動物の生存曲線。
【図8】サイトカインおよび免疫グロブリンG発現に対するプロバイオティック株の効果を示す棒グラフである。TNF−α(A)およびIL−10(B)サイトカイン生産は、LPSおよび示されたプロバイオティック株で12時間刺激した骨髄由来マクロファージで分析し、IgG発現(C)は、LPSおよび示されたプロバイオティック株で6日間刺激したBalb/cマウス(6〜8週齢)の脾臓から得たリンパ球で分析した。サイトカインおよびIgGの生産は双方ともELISAにより検出した。
【発明の具体的説明】
【0017】
本発明は、それを必要とする女性およびその他の哺乳類の雌の双方における感染性乳腺炎の予防的処置および治療的処置のための新規な方法を提供する。本方法は、特定の適用に関して特に選択された特殊なプロバイオティック株の使用に基づく。
【0018】
第一の態様において、本発明は、
(i)乳酸培養培地での選択により、哺乳類種の新鮮乳汁中に存在する乳酸菌またはビフィズス菌株を単離する工程;
(ii)経口摂取後に乳腺に移行することができ、かつ/またはその局所適用(topic application)後に乳腺に定着することができる工程(i)からの株を選択する工程;
(iii)黄色ブドウ球菌の生存率および/または黄色ブドウ球菌の上皮細胞への接着率を軽減することができる工程(ii)からの株を選択する工程;および
(iv)乳腺炎から動物を保護することができる工程(iii)からの株を選択する工程
を含んでなる、プロバイオティクスの選択方法を提供する。
【0019】
工程(i)において、哺乳類生物から得られた乳汁はいずれも、本発明の方法の出発材料として使用可能である。好ましい実施形態では、用いられる乳汁はヒト、ウシ、ブタ、ヒツジ、ネコまたはイヌ乳汁である。さらに、当技術分野で公知の乳酸培養培地はいずれも、株の選択のために使用可能である。好ましくは、乳酸培養培地は、MRS培地、APT培地、RCM培地、LM17培地、GM17培地およびElliker培地から選択される。最も好ましくは、乳酸培養培地はMRS培地である。
【0020】
工程(ii)において、工程(i)で単離された株は、経口摂取後のそれらの乳腺移行能および/または局所適用後(topic application)の乳腺定着に基づき選択される。乳腺移行能を検出するためには、WO2004003235に記載されているような、経口摂取後の乳汁への微生物移行を検出するためのアッセイを使用することができる。
【0021】
工程(iii)では、ブドウ球菌の生存率を測定するため、また、黄色ブドウ球菌の上皮細胞への接着率を測定するための当技術分野で公知のいずれのアッセイも使用できる。好ましい実施形態では、接着率におけるプロバイオティクスの効果は、黄色ブドウ球菌細胞と本発明のプロバイオティクスを加えた腸細胞系統の集密培養物を用い、接着した黄色ブドウ球菌細胞の数を好適な技術により測定する。一般に、腸細胞系統はCaco−2であり、接着された細胞の数は、光学顕微鏡下で細胞単層を直接観察することにより測定する。さらに、選択工程(iii)はその上に、またはその代わりに、プロバイオティック株の存在下で黄色ブドウ球菌の生存率(the viability of viability of S. aureus)を測定することを含む。細菌株の増殖阻害を測定するのに好適ないずれのアッセイを用いてもよい。一般に、黄色ブドウ球菌の生存率の評価は、寒天拡散法(agar well diffusion assay)によって行う。
【0022】
工程(iv)において、乳腺炎の保護を測定するためのいずれのアッセイも使用可能である。好ましくは、このアッセイは、乳腺炎の病原因子として知られる少なくとも1つの病原体が乳腺に注射された乳腺炎の動物モデルを使用することを含む。より好ましくは、この動物モデルはマウスであり、乳腺炎を引き起こすために投与する必要のある病原体は黄色ブドウ球菌である。
【0023】
別の態様において、本発明は、本発明の方法により得ることができるプロバイオティック株を提供する。好ましくは、このプロバイオティック株は、受託番号7263としてCECTに寄託されているビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、受託番号7264としてCECTに寄託されているビフィドバクテリウム・ブレーベ、受託番号7260としてCECTに寄託されているラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、受託番号7262としてCECTに寄託されているラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、受託番号7265としてCECTに寄託されているラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、受託番号7266としてCECTに寄託されているラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)CELA200、エンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae)EHG11、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)EFG1、ラクトバチルス・プランタルムLG14、ラクトバチルス・ロイテリPDA3の群から選択される。
【0024】
さらなる態様において、本発明は、本発明の1以上の株の培養物の上清を提供する。この上清は、遠心分離、濾過および浮遊法などを含む、当業者に利用可能ないずれかの手段により培養物から得ることができる。
【0025】
さらなる態様において、本発明は、薬剤として用いるための、本発明のプロバイオティック株もしくはプロバイオティック株の混合物、または本発明の1以上の株の培養物の上清を提供する。
【0026】
別の態様において、本発明は、本発明の少なくとも1つの細菌株を含んでなる組成物を提供する。好ましくは、この組成物は、本発明の少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つまたは少なくとも6つの株を含んでなり、各株は組成物中、0.1%〜99.9%、好ましくは1%〜99%、より好ましくは10%〜90%の割合に相当する。別の実施形態では、この組成物は、本発明のいずれかの細菌株を別の株または株混合物とともに含んでなり、各株は組成物中、0.1%〜99.9%、好ましくは1%〜99%、より好ましくは10%〜90%に相当する。別の態様において、本発明は、本発明の1以上の株の培養物の上清を含んでなる組成物を提供する。好ましくは、この上清は、組成物中、0.1%〜99.9%、より好ましくは1%〜99%、いっそうより好ましくは10%〜90%の割合に相当する。
【0027】
別の態様において、本発明は、治療上有効な量の、本発明の少なくとも1つの株もしくは組成物、または本発明の1以上の株の培養物の上清を含んでなる医薬組成物を提供する。この医薬製剤は錠剤、カプセル剤、液体細菌懸濁液、乾燥経口補助剤、湿潤経口補助剤、ドライチューブフィーディングまたはウェットチューブフィーディングの形態を採り得る。好ましくは、このプロバイオティック、プロバイオティック含有または上清含有組成物および医薬品は口腔、胃および/または腸管粘膜表面に向けられるが、鼻咽頭(naso-pharingeal)、呼吸器系、生殖系または腺系粘膜に、および/または乳腺に向けることもでき、経口、鼻腔、眼内、直腸、局所および/または膣経路により女性および動物に投与することもできる。
【0028】
別の態様において、本発明は、本発明のプロバイオティック株、または本発明の1以上の株の培養物の上清を少なくとも含んでなる飼料または栄養製品を提供する。本発明において使用できる好適な食料品の限定されない例としては、ミルク、ヨーグルト、チーズ、カード、発酵乳、ミルクに基づく発酵製品、発酵穀類に基づく製品、発酵肉製品、その他のミルクに基づくまたは穀類に基づく粉末、臨床栄養配合物、アイスクリーム、ジュース、パン、ケーキまたはキャンディー、動物飼料配合物、半合性または合成ダイエット配合物、幼児用配合物、、臨床栄養配合物、アイスクリーム、ジュース、小麦粉、パン、ケーキ、キャンディーまたはチューイングガムがある。
【0029】
上記の組成物、食品または医薬組成物中のプロバイオティック株の必要用量は、障害の性質、または組成物の提案される使用、予防的に用いるか治療的に用いるか、および関与する生物の種類によって異なる。
【0030】
本発明では、毒性作用が治療効果を超えない限り、プロバイオティクスまたはその組合せのいずれの好適な用量を用いてもよい。治療効力および毒性は、ED(集団の50%で治療上有効な用量)またはLD(集団の50%に致死的な用量)統計値を算出することによるなど、実験動物を用いる標準的な薬学的手順によって決定することができる。治療効果に対する毒性作用の用量比が治療係数であり、LD/ED比として表すことができる。しかしながらやはり、個体中の新たな微生物の活性は本来用量に依存する。すなわち、上記の食材または医薬組成物の摂取または投与に手段により組み込まれる微生物が多いほど、それらの微生物の予防および/または治療活性は高くなる。本発明の微生物はヒトおよび動物に対して有害ではなく、結局、健康なヒト乳汁から単離されたものなので、個々の粘膜の実質的に高い割合に新規な微生物が定着するように、高い量を組み込むことができる。大きな治療計数を示す組成物が好ましい。動物研究から得られたデータを用い、ヒトまたは動物用の一定範囲の用量を処方する。このような組成物中に含まれる用量は、ほとんどまたは全く毒性なく、EDを含む一定範囲の循環濃度内であることが好ましい。用量は、この範囲内で、用いる投与形、患者の感受性および投与経路によって異なる。厳密な用量は、医師により、処置を必要とする被験者に関連する要因に照らして決定される。例えば、本発明の食品組成物を調製するためには、本発明の少なくとも1つのプロバイオティック株を好適な支持体に、105cfu/g〜約1012cfu/g支持材、好ましくは約106cfu/g〜約1011cfu/g支持材、より好ましくは約106cfu/g〜約1010cfu/g支持材に組み込む。
【0031】
医薬組成物の場合には、プロバイオティック株の用量は、約105cfu/g〜約1014cfu/g支持材、好ましくは約106cfu/g〜約1013cfu/g支持材、より好ましくは約107cfu/g〜約1012cfu/g支持材であるべきである。本発明の目的では、省略形cfuは、寒天プレート上での微生物総数により表されるような細菌細胞の数として定義される「コロニー形成単位」を表す。
【0032】
用量および投与は、十分なレベルの活性部分を提供するよう、または所望の効果を維持するように調整される。考慮に入れることができる要因としては、病態の重篤度、被験体の健康状態、被験体の齢、体重および性、投与時間および投与頻度、薬剤の組合せ、反応感受性および療法に対する応答が挙げられる。長時間作用組成物は、特定の処方物の半減期およびクリアランス速度によって、3〜4日おき、1週間おき、または2週間おきに投与することができる。
【0033】
好ましい実施形態では、本発明はまた、当技術分野で公知の常法によって得ることができる凍結乾燥、冷凍乾燥または乾燥形態の、本発明の株の組成物に関する。
【0034】
別の態様において、本発明は、プロバイオティック株またはその混合物が部分的または完全に不活性化された形態である、組成物、医薬品、飼料または栄養製品を提供する。
【0035】
多くの人が乱れた腸微生物叢を有し、すなわち、有用腸細菌と有害腸細菌のバランスが乱れている。とりわけ、ストレス、胆汁酸塩の存在および特に食習慣などのいくつかの要因が細菌叢に影響を及ぼす。これらの状況では、発酵プロセスが乱れることがあり、有用細菌の数が減り、その結果、結腸粘膜が萎縮し、機能が止まると同時に、潜在的に悪玉の細菌の数が急速に増える。本発明のプロバイオティック株は、黄色ブドウ球菌の、上皮細胞への接着を防ぐだけでなく、黄色ブドウ球菌細胞および他の多くの病原体の生存率を低下させることができる。よって、本発明のプロバイオティック株は、病原体を死滅させるのに有効に寄与すると当時に、生理学的微生物叢を備えた粘膜表面を再増殖することに寄与するので、該疾病の処置に特に有用である。
【0036】
このため、本発明の一態様は、粘膜表面または他のいずれかのヒト部位の、慢性もしくは急性の感染または外寄生または望ましくない微生物定着(この感染、外寄生または定着は、いずれかの体表または粘膜を侵す寄生虫、細菌、酵母、真菌またはウイルスにより引き起こされる)の予防的または治療的処置を目的とした医薬組成物の製造のための、本発明のプロバイオティクス、本発明の1以上の株の培養物の上清の使用であり、該治療的処置は、それを必要とする被験者に有効量のプロバイオティクスまたはプロバイオティクス含有組成物を投与することを含む。好ましい実施形態では、感染または定着は、それを必要とする被験者または動物の体表または粘膜の寄生虫、細菌、酵母、真菌またはウイルスにより引き起こされる。
【0037】
本発明のプロバイオティクスは、経口摂取後の黄色ブドウ球菌の、乳腺に定着する能力および上皮細胞への接着を防ぐ能力およびその生存率を低下させる能力に基づいて選択されたものである。よって、これらの株は、乳腺炎の処置に好適である。よって、さらなる態様において、本発明は、ヒトおよび動物の感染性乳腺炎の治療または予防を目的とした医薬組成物の製造のための本発明のプロバイオティック株、および本発明の1以上の株の培養物の上清の使用を提供する。このプロセスは、同種の新鮮な乳汁から選択されたプロバイオティック株の使用およびこれらの株の、乳腺に移行し、ブドウ球菌感染の阻害などのそれらの利益を発揮する能力からなる。
【0038】
さらに、本発明のプロバイオティック株はまた、潜在的プロバイオティック株に属するいくつかの特徴、すなわち、安全性および消化過程に対する良好な耐性および消化管定着能を有することも示されている。よって、これらの株は経口摂取後に腸管に到達し、そこでそれらの治療特性を発揮することができる。よって、好ましい実施形態において、本発明は、新生児の下痢の処置を目的とした医薬組成物の製造のための、本発明のプロバイオティック株および本発明の1以上の株の培養物の上清の使用を提供する。
【0039】
プロバイオティック株は、慢性炎症性障害の際に活性化されたマクロファージによる炎症性サイトカインの産生を低下させることが知られている。よって、別の態様において、本発明は、炎症性または自己免疫性障害の処置を目的とした薬剤の製造のための医薬組成物の製造のための、本発明の細菌株、組成物および本発明の1以上の株の培養物の上清の使用に関する。このような炎症性および自己免疫疾患の限定されない例としては、IBD、潰瘍性大腸炎、関節炎、アテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、乾癬またはサルコイドーシスが挙げられる。
【0040】
本発明のプロバイオティック株は、経口摂取後に免疫消化管障壁を再増殖することができ、従って、それらはまた、それを必要とする被験者または動物においての改善に特に好適である。よって、別の態様において、本発明は、食品に対する過敏感反応およびラクトース不耐症などの代謝不耐症、便秘ならびにその他の胃腸障害の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための医薬組成物の製造のための、本発明の1以上のプロバイオティック株および本発明の1以上の株の培養物の上清を提供する。
【0041】
プロバイオティクスは、ニトロサミンなど、腸における発癌性毒素の阻害におけるそれらの効果のみならず、自然免疫応答の調節におけるこのプロバイオティクスの効果のために、癌の中和に有用であることが知られている。よって、さらなる態様において、本発明は、それを必要とする被験者または動物において、いくつかの癌種の予防的または治療的処置のため、また、腫瘍増殖、転移および癌を阻害するための医薬組成物の製造を目的とした、本発明で述べられる株、本発明の1以上の株の培養物の上清の使用を提供する。
【0042】
本発明の株は、免疫応答およびTh1サイトカインとTh2サイトカインの間のバランスを調節することができる。よって、さらなる態様において、本発明は、アレルギー性障害、喘息、および摂取されたタンパク質に対する耐性の発生に関連する障害の治療および/または予防のための薬剤の製造における本発明の株、組成物および上清の使用を提供する。
【0043】
さらなる態様において、本発明は、加齢の際にまたは激しい運動または一般には大きな生理学的緊張またはストレスを受ける健常者において起こるような個人の免疫レベルの一時的抑制の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造における、本発明の株、組成物および上清の使用を手供する。
【0044】
別の態様において、本発明は、プロバイオティック株、株の組合せおよび上清の治療的使用を提供し、該株または組成物が経口、局所(topic)、鼻腔、腸内、眼内、尿生殖器、直腸または膣を介して投与される。
【0045】
さらに、乳汁中の選択された株を提供することにより、処置を必要とする被験体は、選択された株を直接摂取するものであり得るだけでなく、胎児または授乳乳児でもあり得る。よって、なおさらなる態様において、本発明は、胎児および/または母乳で育てられる乳児の治療的または予防的処置のために泌乳中の女性に投与されるように計画された薬剤の製造における本発明の株、組成物および上清の使用を提供する。
【0046】
以下の方法および実施例は本発明を説明する。
【実施例】
【0047】
実施例1:哺乳類乳汁からのプロバイオティクスの単離
分娩後6〜14日目の健常女性23名、分娩後5日目の雌ブタ8匹、分娩後2〜10日目の雌イヌ9匹、および分娩後2日目の雌ウシ4匹から、新鮮な乳汁サンプル(0.5mlしか採取されなかった雌イヌの場合を除き2ml)を得た。
【0048】
女性にも動物にも分娩の際に合併症は無く、乳汁サンプル採取前の2週間は抗生物質療法は行わなかった。乳汁サンプルは総てすぐに−80℃で冷凍した。
【0049】
これらのサンプルから細菌株を単離するために、ペプトン水中0.1mlの連続希釈液をMRS、APT、RCM、LM17、GM17およびElliker寒天プレート上、37℃にて、好気条件および嫌気条件の双方で24〜48時間、平板培養した。最初に得られたおよそ1200のコロニーのうち、120(10%;プレート上で見られた形態の異なる代表的なものを含む)を選択し、好気条件下、MRS寒天にて37℃で、継代培養した。それらから、本発明者らはさらに、以下の特徴:非胞子形成、カタラーゼ陰性およびオキシダーゼ陰性グラム陽性桿菌を有する68の単離物を選択した。
【0050】
これら68の選択単離物はさらに、表現型的(API CH50、APIZYMおよび抗生物質耐性評価)および遺伝学的(16S rRNA配列決定およびRAPD−PCRプロフィール)の双方で特性決定した。この特性決定により、59の異なる細菌株が得られ、乳腺炎から保護することができる可能性のあるプロバイオティック候補を得るためにこれらを本発明に記載されているスクリーニング法によってさらに評価した。
【0051】
このスクリーニング法の後、6株(女性から2株、雌イヌから2株および雌ブタから2株)のみが定義された総ての基準を満たした。ヤギ、ヒツジ、ネコ、ラットおよびマウスなどの他の哺乳類種からも他の乳酸菌株を得たが、それらは総てのスクリーニング基準を満たすことができず、そのためそれらは本発明に含まれない。
・ビフィドバクテリウム・ブレーベ(ヒト乳汁から取得)
・ビフィドバクテリウム・ブレーベ(ヒト乳汁から取得)
・ラクトバチルス・ロイテリ(ブタ乳汁から取得)
・ラクトバチルス・プランタルム(ブタ乳汁から取得)
・ラクトバチルス・ロイテリ(イヌ乳汁から取得)
・ラクトバチルス・ファーメンタム(イヌ乳汁から取得)
・ラクトバチルス・サリバリウス(ブタ乳汁から取得)
・エンテロコッカス・ヒラエ(ネコ乳汁から取得)
・エンテロコッカス・フェカリス(ネコ乳汁から取得)
・ラクトバチルス・プランタルム(ネコ乳汁から取得)
・ラクトバチルス・ロイテリ(ネコ乳汁から取得)
【0052】
実施例2:生理学的および遺伝学的特性決定
これら総ての単離物を生理学的および遺伝学的に特性決定した。各プロバイオティック株の同定に関して、本発明者らは、製造業者の説明書に従い、好気条件下、37℃で24時間および48時間の発酵API 50CH(BioMerieux)分析を行った。24時間の結果を表Iにまとめた。陽性発酵性基質は3より高い値を有するものである。
【0053】
このAPI特性決定の特異性が低いため、本発明者らはまた、選択された細菌株の16S rRNA配列の分析も行った。選択された細菌の16S RNA配列およびそれらのRAPD−PCRプロフィールを図1に示す。得られた結果から、上記に示した細菌株の分類に至った。この分類により、本発明の細菌株は、ブダペスト条約に従い、2007年4月17日にCECT -Coleccion Espanola de Cultivos Tipo-, Valencia (Spain)に寄託され、以下の受託番号を与えられた。
・ビフィドバクテリウム・ブレーベCECT7263
・ビフィドバクテリウム・ブレーベCECT7264
・ラクトバチルス・ロイテリCECT7260
・ラクトバチルス・プランタルムCECT7262
・ラクトバチルス・ロイテリCECT7265
・ラクトバチルス・ファーメンタムCECT7266
【0054】
本発明の以下の細菌株は、ブダペスト条約に従い、2008年5月30日にCECT -Coleccion Espanola de Cultivos Tipo-, Valencia (Spain)に寄託された。
・ラクトバチルス・ロイテリCELA200
・エンテロコッカス・ヒラエEHG11
・エンテロコッカス・フェカリスEFG1
・ラクトバチルス・プランタルムLG14
・ラクトバチルス・ロイテリPDA3
【0055】
【表1】
【0056】
実施例3:株の選択スクリーニング
実施例3a:経口摂取後の乳腺への移行
最初の選択基準に示されているように哺乳類乳汁から種々の候補株が得られたら、本発明に記載されている選択方法の次の工程は、経口摂取または局所適用(topic application)後に細菌が乳汁へ移行することができなければならないということである。この能力を試験するため、推定される株をこれまでに記載されているように(WO2004/003235)遺伝的に標識し、動物モデルとしての妊娠ラットに経口投与した。乳汁および新生児糞便サンプル中の総乳酸菌、ビフィズス菌および腸球菌を測定した。さらに、細菌の特定の移行を、泌乳中のラットの乳汁および新生児の糞便から得られたコロニーのPCRスクリーニングにより分析した。
【0057】
4匹の妊娠ウィスターラットに、分娩2週間前から2日おきに0.5mlの乳汁をビヒクルとし、遺伝的に標識した株108cfuを経口摂取した。分娩後、遺伝的に標識した株の乳汁への移行を、分娩後0日目、5日目および10日目に新生児の糞便から単離された細菌を比較することにより分析した。総てのプレートを好気条件下、37℃で24時間インキュベートした。得られた各サンプルについて、ビフィズス菌、乳酸菌および腸球菌総数を測定した。MRSプレートで増殖したコロニーのうち、各サンプルから50を無作為に選択し、Cm−MRSプレートで継代培養した。最後に、Cm耐性コロニーを鋳型として用い、特異的遺伝標識コロニーを検出した(図2)。得られたコロニーの少なくとも1%がPCR陽性であった場合に、移行有りとみなした。
【0058】
実施例3b:黄色ブドウ球菌の生存の阻害
本発明のプロバイオティック株を、寒天拡散法を用い、黄色ブドウ球菌の生存を低下させ得る殺菌性代謝物を産生する能力に関して評価した。106cfu/mlの黄色ブドウ球菌を含有するTSA寒天プレートを作製した。滅菌コルクボーラーを用い、寒天に直径5mmの孔を開けた。次に、各プロバイオティック株溶液の2倍濃度上清50μlをこれらの孔に加え、4℃で2時間のプレインキュベーション中に寒天に拡散させ、その後、これらのプレートを37℃で16〜18時間、好気的にインキュベーションした。インキュベーション後、阻止円を観察し、測定して(ミリメートル)、プロバイオティック候補の殺菌効果を評価した(図3A)。
【0059】
実施例3c:黄色ブドウ球菌の上皮細胞への接着の阻害
Caco−2腸細胞系統を、抗生物質を含まない2mlの培地を含有する35mmのプラスチックディッシュ中で集密となるまで培養した。集密後10〜14日目に、培地1mlをDMEM中108のプロバイオティック細菌の懸濁液1mlに置き換えた。これらの培養物を37℃で1時間インキュベートした。その後、DMEM中108病原性細菌(黄色ブドウ球菌)の懸濁液1mlをこれらの培養物に加え、37℃でさらに1時間インキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄し、氷冷70%メタノールで30分間固定した。プレートを風乾し、グラム染色を行った。接着した細菌をAxiovert 200(Zeiss)光学顕微鏡を用い、油浸にて、1000倍で観察した。無作為な10視野でグラム陰性菌の数を数え、結果を、プロバイオティック株を含まない対照培養物に対する細胞に接着した病原性細菌の%の平均値として表した(図3B)。
【0060】
実施例3d:乳腺炎の保護
プロバイオティック候補の、乳腺炎からの保護の有効性を評価するため、本発明者らはこの病態のマウスモデルを用いた。要するに、1群当たり10匹の妊娠ウィスターラットに経口胃管栄養法により、200μlの乳汁をビヒクルとする各プロバイオティック株108cfu/日を、分娩前2週間、毎日補給した。分娩1週間後、これらの動物において、4番目の乳腺対に106cfuの黄色ブドウ球菌を注射することにより乳腺炎感染を誘発した。感染後0日目、5日目および10日目に発現した乳汁を採取し、細菌負荷を測定し(図4A)、感染後5日目と10日目に乳腺生検を得るために各群5個体を犠牲にし、組織学的検査により炎症プロセスを評価した。
【0061】
腺全体を5%ホルマリン中で固定し、アルコールで脱水し、最後に、パラフィンに包埋した。組織切片をヘマトキシリン−エオジンで染色し、盲検方式で調べた(図4B)。乳腺の組織構造の変化を質的に評価するため、次のように炎症指数値(HV)を決定した。
・スコア0:浸潤無し
・スコア1:組織切片の単離領域における軽度のPMN細胞の間質浸潤、管上皮の損傷無し
・スコア2:ほとんどの視野にわたって間質浸潤、組織構造の欠落を伴う組織損傷の領域が散在、若干の膿瘍形成像
・スコア3:ほとんどの視野にわたって重度の浸潤、組織構造の欠落を伴う組織損傷の領域が頻繁、頻繁な膿瘍形成像
【0062】
実施例4:株のプロバイオティック能
選択された株を、プロバイオティック株として作用するそれらの能力を増進し得る種々の特徴に関してさらに分析した。得られた結果を示された実施例に記載する。
【0063】
実施例4a:Caco−2およびHT−29細胞への接着
接着アッセイに関しては、細胞系統Caco−2(ATCC HTB−37)およびHT−29(ATCC HTB−38)を腸細胞のモデルとして用いた。両細胞系統を分極、腸酵素の発現、特定の構造ポリペプチドおよびムチンの生産などの腸細胞に特徴的な特徴を呈した。
【0064】
これらの細胞を、プラスチックフラスコ(75cm2、Nunc)にて、10%不活性化FCS、非必須アミノ酸、100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン、1μg/mlアンホテリシンを添加した培養培地としてのDMEM中で増殖させた。培養は95%空気と5%CO2を含む雰囲気下、37℃で行った。2日おきに培地を交換し、1週間おきに細胞を分割した。
【0065】
Caco−2およびHT−29腸細胞系統を、35mmプラスチックディッシュにて、抗生物質を含まない2ml培地中に分割し、集密とした。10〜14日後、培地1mlをDMEM(PAA)中108細菌の懸濁液1mlで置き換えた。これらの培養物を37℃で1時間インキュベートした。その後、細胞をPBSで2回洗浄し、氷冷70%メタノールで30分間固定した。プレートを風乾し、グラム染色を行った。
【0066】
接着した細菌を、Axiovert 200(Zeiss)光学顕微鏡を用い、油浸にて、1000倍で観察した。無作為な20視野を計数し、結果を、1視野当たりの、細胞に接着した細菌の数の平均値±SDとして表した(図5)。
【0067】
実施例4b:酸および胆汁酸塩に対する耐性
本発明のプロバイオティック株の、これらの細菌が消化性移動の際に受ける条件である酸性内容物および高胆汁酸塩内容物に対する耐性を分析するため、細菌を、pH3.0または2%胆汁酸塩(Sigma)を含むMRSブロス培地で90分間培養した。連続希釈液のMRS寒天プレーティングにより生存率を算出し、対照条件(MRSブロスpH5.8)で得られたコロニー数と比較した。プレートを極度の好気条件下、36℃で24時間培養した。この実験を3回繰り返した(図6)。
【0068】
実施例4c:抗生物質耐性
現行の抗生物質の使用は常在消化管微生物叢の減少をもたし、それが下痢およびその他の消化管障害に関連することがある。さらに、この消化管細菌の量の減少は、日和見病原性細菌およびウイルスを宿主に感染させる結果となり得る。感染を遮断するための抗生物質の使用は、この障害を解決するわけではなく、複雑にする。プロバイオティクスが有益な役割を発揮し得る腸炎症のような他の状況では、この潜在的効果は抗生物質による同時療法に限定される場合がある。これらの総ての理由のため、汎用抗生物質に耐性となり得た潜在的プロバイオティック株の選択は、明らかに注目されるべきである。
【0069】
本発明のプロバイオティック株の耐性を分析するため、本発明者らは寒天拡散法を用いた。106cfu/mlの各プロバイオティック株を含有するMueller−Hinton寒天プレートを作製した。次に、抗生物質市販ディスクを孔に加え、室温で10分間のプレインキュベーションの際に寒天に拡散させた後、36℃で16〜18時間、プレートの極度の好気的インキュベーションを行った。
【0070】
本発明のプロバイオティック株の抗生物質耐性を表IIにまとめる。
【0071】
【表2】
【0072】
実施例4d:抗微生物性代謝物の産生
プロバイオティクスにより用いられている主要な機構は有益な腸細菌と有害な腸細菌のバランスを制御することであり、消化管であることが示唆された。有益な細菌の数が減少すると、日和見性細菌が過度に増殖し、宿主の健康を見出し、あるいは感染を引き起こしさえする。ほとんとの細菌性生物は、一緒に棲息している他の微生物の増殖能を抑え、従って、それらの選択的増殖が可能となる特徴または機構を獲得している。乳酸菌による酸の生産によるpHの低下はこのような機構の1つである。さらに、いくつかの乳酸菌はまた、他の細菌、酵母または真菌の増殖を選択的に阻害する生物活性ペプチド成分およびその他の代謝物も産生する。これはロイテリン(アルデヒド)またはバクテリオシン(ナイシンまたはペディオシン(PA−I)などのペプチド)の場合である。
【0073】
本発明のプロバイオティック株を、寒天拡散法を用い、殺菌性代謝物を産生するそれらの能力に関して評価した。種々の病原性細菌株106cfu/mlを含むTSA寒天プレートを作製し、先に実施例3bで黄色ブドウ球菌に関して示したようにアッセイした。得られた結果を表IIIに記載した。
【0074】
【表3】
【0075】
実施例5:不活性化サルモネラ菌ワクチンで免疫した後のマウスにおけるネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)の移行に対する本発明のプロバイオティック株の効果
特に胃腸の感染、疾病または手術の後の被験体においては、消化管上皮からのグラム陰性菌の移行が起こり得る。それを処置しないまま放置すると、内毒素血症に至り得る。本実施例では、消化管病原体ネズミチフス菌の移行に対する本発明のプロバイオティック株の効果を検討した。
【0076】
雄Balb/cマウス(6〜8週齢)を2週間、毎日、0.2ml乳汁中1×108cfuまたは乳汁単独で飢餓状態とした。その後、マウスを不活性化サルモネラ菌ワクチン(0.2ml乳汁中、パラホルムアルデヒドで不活性化したもの108cfu)で経口免疫した、またはしなかった。免疫後、さらに2週間、隔日でプロバイオティック調製物を与えてさらに2週間マウスを飢餓状態とした。経口免疫2週間後、総てのマウスに生菌ネズミチフス菌で経口刺激を行った(0.2ml乳汁中、1010cfu)。
【0077】
そして、24〜48時間後、半数の動物で、脾臓におけるネズミチフス菌の定着レベルを判定した。残りの動物は、サルモネラ菌感染後の動物の生存率を評価するために、さらに2週間追跡した。
【0078】
得られた結果は、図7に示されるように、供試したほとんどのプロバイオティクスが不活性化サルモネラ菌ワクチンによるマウスのワクチン接種の有益な効果を増進することを示す。
【0079】
実施例6:新生ブタにおける新生児下痢の予防に対するL.プランタルムCECT7262またはL.ロイテリCECT7260の効果
3〜4週齢での子ブタの離乳は、主として下痢性感染症の罹患率の上昇によるこれらの動物の高い死亡率と相関する。おそらく、この高い死亡率は、ストレスとなるそれらの栄養状態および管理状態の変化による防御のダウンレギュレーションおよびそれらの消化管微生物叢の重大な組成変化に関連する。
【0080】
このため、生産者は、コリスチンまたはZnOなどの抗生物質、免疫刺激剤または粘膜保護成分の使用といったいくつかのアプローチを用いることでこの問題を解決しようとしてきた。しかしながら、2006年の動物生産に関する抗生物質の使用のEU規制がこの状況を悪化させた。このため、消化管の微生物叢および免疫応答を調節し得るプロバイオティクスの使用は可能性のある選択肢として浮上する。
【0081】
本発明者らは、34日間、3×109cfu/日のL.ロイテリCECT7260およびL.プランタルムCECT7262を投与した場合と、3000ppmのZnOおよび40ppmのコリスチンを含有する動物飼料配合物を投与した場合の保護効果を比較した(それぞれ離乳させたブタ48匹と45匹の2群)。
【0082】
両群とも、試験中に下痢を起こした個体、また、死亡した個体は無く、体重の発達も両処理間で同等であり、これらのプロバイオティクスを添加した動物飼料配合物は、通常の抗生物質と免疫調節剤を含有するものと少なくとも同程度良好であることが示唆される。
【0083】
実施例7:炎症性サイトカインおよびIgG産生に対するプロバイオティック細菌の効果
感染リスクの軽減の他、プロバイオティック処置に関連する多くの臨床効果は、選択されたプロバイオティック株の免疫調節能によるものである。免疫応答の調節は通常、TNF−αなどの炎症性サイトカイン(Th1)、IL−4またはIL−13などの体液性サイトカイン(Th2)、ならびにIL−10およびTGF−βなどの調節サイトカイン(Th3)の間のバランスの変化によって媒介される。さらに、この免疫応答における偏りは、その後の体液性応答中の免疫グロブリンの分泌も調節する。このため、本発明者らはまた、手掛かりとなるこれらのサイトカインおよびIgGの発現を調節する上での、本発明のいくつかのプロバイオティック株の効果を試験した。
【0084】
本発明者らは、細胞モデルとして、100ng/mlのLPS(Sigma)で刺激した骨髄由来マクロファージを用いた。105マクロファージ/ウェルを、1mlのDMEMを含む24ウェルプラスチックプレート(Nunc)で培養した。接着したところで、マクロファージを無刺激とするか、または100ng/mlのLPSおよび107cfu/mlの示されたプロバイオティック株で、5%CO2雰囲気下、37℃にて12時間時間刺激した。上清を採取し、サイトカインの産生を、マウスTNF−αまたはマウスIL−10 ELISA(Biosource)を用いて分析した。得られた結果を図8AおよびBにまとめる。
【0085】
免疫グロブリンの産生に対する本発明のプロバイオティック株の効果の分析は、雄Balb/cマウス(6〜8週齢)の脾臓から得られたリンパ球培養物を用いて行った。2×106個のリンパ球を24ウェルのプラスチックプレートにて1mlのDMEM中で培養し、25μg/mlのLPSの存在下または不在下で6日間、不活性化プロバイオティック培養物(108cfu/ml)で刺激した。リンパ球によるIgGの産生を、Bethyl製のマウスIgG ELISAを用いて評価した(図8C)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)乳酸培養培地での選択により、哺乳類種の新鮮乳汁中に存在する乳酸菌またはビフィズス菌株を単離する工程;
(ii)経口摂取後に乳腺に移行することができ、かつ/またはその局所適用後に乳腺に定着することができる、工程(i)からの株を選択する工程;
(iii)黄色ブドウ球菌の生存率および/または黄色ブドウ球菌の上皮細胞への接着率を軽減することができる工程(ii)からの株を選択する工程;および
(iv)乳腺炎から動物を保護することができる工程(iii)からの株を選択する工程
を含んでなる、プロバイオティクスを選択する方法。
【請求項2】
工程(i)で用いられる乳汁が、ヒト、ブタ、ウシ、ネコ、ヒツジおよびイヌ乳汁から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法によって得ることができる、プロバイオティック株。
【請求項4】
受託番号7263としてCECTに寄託されているビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、受託番号7264としてCECTに寄託されているビフィドバクテリウム・ブレーベ、受託番号7260としてCECTに寄託されているラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、受託番号7262としてCECTに寄託されているラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、受託番号7265としてCECTに寄託されているラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、受託番号7266としてCECTに寄託されているラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)CELA200、エンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae)EHG11、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)EFG1、ラクトバチルス・プランタルムLG14、ラクトバチルス・ロイテリPDA3の群から選択される、請求項3に記載のプロバイオティック株。
【請求項5】
請求項3または4に記載の株または株混合物の培養物の、上清。
【請求項6】
薬剤として用いるための、請求項3もしくは4に記載のプロバイオティック株、請求項3もしくは4に記載のプロバイオティック株の混合物、または請求項5に記載の上清。
【請求項7】
請求項3もしくは4に記載のプロバイオティック株または請求項5に記載の上清を少なくとも含んでなる、組成物、医薬品、飼料または栄養製品。
【請求項8】
冷凍、凍結乾燥または乾燥形態である、請求項7に記載の組成物、医薬品、飼料または栄養製品。
【請求項9】
プロバイオティック株またはその混合物が部分的または完全に不活性化された形態である、請求項7または8に記載の組成物、医薬品、飼料または栄養製品。
【請求項10】
それを必要とする被験体または動物における、慢性もしくは急性の感染もしくは外寄生、または望ましくない微生物定着(この感染、外寄生または定着は、いずれかの体表または粘膜を侵す寄生虫、細菌、酵母、真菌またはウイルスにより引き起こされる)の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、請求項3もしくは4に記載のプロバイオティック株またはその混合物、または請求項5に記載の上清の使用。
【請求項11】
感染が乳腺炎であり、プロバイオティック株が工程(i)において処置を意図するものと同じ種からの乳汁を用いて選択されたものである、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
感染が新生児の下痢である、請求項10に記載の使用。
【請求項13】
それを必要とする被験体または動物における、食物に対する過敏感反応および代謝不耐症;便秘およびその他の胃腸障害;IBD、潰瘍性大腸炎、関節炎、アテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、乾癬またはサルコイドーシスからなる群から選択される炎症性または自己免疫性障害;ならびに腫瘍の増殖、転移および癌の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、請求項3もしくは4に記載のプロバイオティック株またはその混合物、または請求項5に記載の上清の使用。
【請求項14】
それを必要とする被験体または動物における、アレルギー性障害および喘息の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、請求項3もしくは4に記載のプロバイオティック株またはその混合物、または請求項5に記載の上清の使用。
【請求項15】
生理学的および管理性ストレスを受けた個人または動物における、一時的に抑圧された免疫レベルの治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、請求項3もしくは4に記載のプロバイオティック株またはその混合物、または請求項5に記載の上清の使用。
【請求項16】
株または組成物が、経口、局所、鼻腔、腸内、眼内、尿生殖器、直腸または膣を介して投与される、請求項10〜15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
株、組成物、医薬品、飼料または栄養製品が、胎児および/または母乳で育てられる乳児または子の治療的または予防的処置を目的として授乳中の女性または動物に投与するために設計されたものである、請求項10〜15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項1】
(i)乳酸培養培地での選択により、哺乳類種の新鮮乳汁中に存在する乳酸菌またはビフィズス菌株を単離する工程;
(ii)経口摂取後に乳腺に移行することができ、かつ/またはその局所適用後に乳腺に定着することができる、工程(i)からの株を選択する工程;
(iii)黄色ブドウ球菌の生存率および/または黄色ブドウ球菌の上皮細胞への接着率を軽減することができる工程(ii)からの株を選択する工程;および
(iv)乳腺炎から動物を保護することができる工程(iii)からの株を選択する工程
を含んでなる、プロバイオティクスを選択する方法。
【請求項2】
工程(i)で用いられる乳汁が、ヒト、ブタ、ウシ、ネコ、ヒツジおよびイヌ乳汁から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法によって得ることができる、プロバイオティック株。
【請求項4】
受託番号7263としてCECTに寄託されているビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、受託番号7264としてCECTに寄託されているビフィドバクテリウム・ブレーベ、受託番号7260としてCECTに寄託されているラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、受託番号7262としてCECTに寄託されているラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、受託番号7265としてCECTに寄託されているラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、受託番号7266としてCECTに寄託されているラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)CELA200、エンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae)EHG11、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)EFG1、ラクトバチルス・プランタルムLG14、ラクトバチルス・ロイテリPDA3の群から選択される、請求項3に記載のプロバイオティック株。
【請求項5】
請求項3または4に記載の株または株混合物の培養物の、上清。
【請求項6】
薬剤として用いるための、請求項3もしくは4に記載のプロバイオティック株、請求項3もしくは4に記載のプロバイオティック株の混合物、または請求項5に記載の上清。
【請求項7】
請求項3もしくは4に記載のプロバイオティック株または請求項5に記載の上清を少なくとも含んでなる、組成物、医薬品、飼料または栄養製品。
【請求項8】
冷凍、凍結乾燥または乾燥形態である、請求項7に記載の組成物、医薬品、飼料または栄養製品。
【請求項9】
プロバイオティック株またはその混合物が部分的または完全に不活性化された形態である、請求項7または8に記載の組成物、医薬品、飼料または栄養製品。
【請求項10】
それを必要とする被験体または動物における、慢性もしくは急性の感染もしくは外寄生、または望ましくない微生物定着(この感染、外寄生または定着は、いずれかの体表または粘膜を侵す寄生虫、細菌、酵母、真菌またはウイルスにより引き起こされる)の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、請求項3もしくは4に記載のプロバイオティック株またはその混合物、または請求項5に記載の上清の使用。
【請求項11】
感染が乳腺炎であり、プロバイオティック株が工程(i)において処置を意図するものと同じ種からの乳汁を用いて選択されたものである、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
感染が新生児の下痢である、請求項10に記載の使用。
【請求項13】
それを必要とする被験体または動物における、食物に対する過敏感反応および代謝不耐症;便秘およびその他の胃腸障害;IBD、潰瘍性大腸炎、関節炎、アテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、乾癬またはサルコイドーシスからなる群から選択される炎症性または自己免疫性障害;ならびに腫瘍の増殖、転移および癌の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、請求項3もしくは4に記載のプロバイオティック株またはその混合物、または請求項5に記載の上清の使用。
【請求項14】
それを必要とする被験体または動物における、アレルギー性障害および喘息の治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、請求項3もしくは4に記載のプロバイオティック株またはその混合物、または請求項5に記載の上清の使用。
【請求項15】
生理学的および管理性ストレスを受けた個人または動物における、一時的に抑圧された免疫レベルの治療および/または予防を目的とした薬剤の製造のための、請求項3もしくは4に記載のプロバイオティック株またはその混合物、または請求項5に記載の上清の使用。
【請求項16】
株または組成物が、経口、局所、鼻腔、腸内、眼内、尿生殖器、直腸または膣を介して投与される、請求項10〜15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
株、組成物、医薬品、飼料または栄養製品が、胎児および/または母乳で育てられる乳児または子の治療的または予防的処置を目的として授乳中の女性または動物に投与するために設計されたものである、請求項10〜15のいずれか一項に記載の使用。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公表番号】特表2010−528093(P2010−528093A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509847(P2010−509847)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056768
【国際公開番号】WO2008/145756
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(504371550)プレバ、バイオテック、ソシエダッド、アノニマ (2)
【氏名又は名称原語表記】PULEVA BIOTECH, S.A.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056768
【国際公開番号】WO2008/145756
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(504371550)プレバ、バイオテック、ソシエダッド、アノニマ (2)
【氏名又は名称原語表記】PULEVA BIOTECH, S.A.
【Fターム(参考)】
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