説明

唐辛子からカプシノイド化合物を抽出分離する方法及び唐辛子抽出物

【課題】唐辛子からカプシノイド化合物を抽出するに際し、色素成分と分離してカプシノイド化合物を選択性良く抽出分離できる方法を提供する。
【解決手段】この発明に係る抽出分離方法は、水と有機溶媒を含有してなる混合抽出溶媒、唐辛子粉砕物、及び活性炭を相互に接触させることによって、前記混合抽出溶媒中に唐辛子中のカプシノイド化合物を抽出すると共に、前記混合抽出溶媒中の唐辛子由来の色素成分を前記活性炭に吸着せしめることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、唐辛子からカプシノイド化合物を、色素成分とは分離して選択性良く抽出分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
唐辛子には辛味成分であるカプシノイド化合物(カプサイシン等)が含まれている。近年、カプシノイド化合物は抗酸化性、抗菌性等の様々な機能を有していることが報告されている。具体的には、例えばカプシノイド化合物を摂取することで体脂肪燃焼による肥満防止効果や抗酸化作用による老化防止の効果が得られることが知られている。このようにカプシノイド化合物は様々な効用を有して有用であることから、唐辛子から抽出されたカプシノイド化合物の需要は近年急激に増大している。
【0003】
従来、唐辛子からカプシノイド化合物を抽出する方法としては、唐辛子粉砕物と、水、アセトン、アルコール類、ヘキサン、エーテル及びジオキサンからなる群より選ばれる抽出溶媒とを接触させることによって、抽出溶媒中に唐辛子の中のカプシノイド化合物を抽出する方法が公知である(特許文献1参照)。この方法により唐辛子からカプシノイド化合物を容易に抽出分離することができる。
【特許文献1】特開2004−66227号公報(請求項12)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記抽出溶媒を用いて唐辛子からカプシノイド化合物を抽出すると、唐辛子中の色素成分(カロテノイド等)も同時に抽出されるので、この抽出操作により得られたカプシノイド化合物含有唐辛子抽出物は、赤色等の有色を呈する。この色素成分が唐辛子抽出物に存在することによって、前記カプシノイド化合物による抗酸化作用、抗菌作用等を阻害するようなことはないのであるが、例えば唐辛子抽出物を合成樹脂に添加して抗菌性の合成樹脂板を製作した場合には、唐辛子抽出物中の色素成分の赤色の影響を受けて合成樹脂板が強く赤みがかった色になり、所望の美麗な色(例えば青色、緑色、黄色等)を発現させることができないことから、意匠上の制約が大きく、その適用用途は非常に限定されるという問題があった。
【0005】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、唐辛子からカプシノイド化合物を抽出するに際し、色素成分と分離してカプシノイド化合物を選択性良く抽出分離できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0007】
[1]水と有機溶媒を含有してなる混合抽出溶媒、唐辛子粉砕物、及び活性炭を相互に接触させることによって、前記混合抽出溶媒中に唐辛子中のカプシノイド化合物を抽出すると共に、前記混合抽出溶媒中の唐辛子由来の色素成分を前記活性炭に吸着せしめることを特徴とする唐辛子からカプシノイド化合物を抽出分離する方法。
【0008】
[2]唐辛子粉砕物と、水及び有機溶媒を含有してなる混合抽出溶媒とを接触させることによって、該混合抽出溶媒中に唐辛子中のカプシノイド化合物を抽出する工程と、
前記抽出カプシノイド化合物を含有した混合抽出溶媒と、活性炭とを接触させることによって、前記混合抽出溶媒中の唐辛子由来の色素成分を前記活性炭に吸着せしめる工程とを包含することを特徴とする唐辛子からカプシノイド化合物を抽出分離する方法。
【0009】
[3]前記混合抽出溶媒における水と有機溶媒の混合モル比が、水/有機溶媒=10/90〜90/10の範囲である前項1または2に記載の唐辛子からカプシノイド化合物を抽出分離する方法。
【0010】
[4]前記混合抽出溶媒を構成する有機溶媒としてエタノールを用いる前項1〜3のいずれか1項に記載の唐辛子からカプシノイド化合物を抽出分離する方法。
【0011】
[5]前記混合抽出溶媒を構成する有機溶媒としてアセトンを用いる前項1〜3のいずれか1項に記載の唐辛子からカプシノイド化合物を抽出分離する方法。
【0012】
[6]前項1〜5のいずれか1項に記載の方法によって得られたカプシノイド化合物含有抽出溶媒から活性炭を分離除去した後、溶媒留去操作を行うことによって粘稠液体又は固形状態で回収された唐辛子抽出物。
【0013】
[7]前項6に記載の唐辛子抽出物を含有してなることを特徴とする防カビ剤。
【0014】
[8]前項6に記載の唐辛子抽出物を含有してなることを特徴とする抗菌剤。
【発明の効果】
【0015】
[1][2]の発明では、混合抽出溶媒として水及び有機溶媒を含有したものを用いているから、即ち混合抽出溶媒として水系のものを用いているから、この混合抽出溶媒に抽出されたカプシノイド化合物は、活性炭に殆ど吸着されることなく該混合抽出溶媒中に安定して存在する。即ち、水系混合溶媒という環境下においてカプシノイド化合物は活性炭には殆ど吸着されない。一方、混合抽出溶媒に抽出された色素成分は活性炭に効率良く吸着されて分離される。従って、本抽出分離方法によれば、唐辛子から、色素成分とは分離してカプシノイド化合物を選択性良く抽出分離することができる。
【0016】
[3]の発明では、混合抽出溶媒における水と有機溶媒の混合モル比が、水/有機溶媒=10/90〜90/10の範囲であるから、カプシノイド化合物の抽出効率をより高めることができると共に、カプシノイド化合物の抽出分離の選択性もさらに向上させることができる(色素成分を活性炭により効率良く吸着させることができる)。
【0017】
[4]の発明では、水及びエタノールを含有してなる混合抽出溶媒を用いることで特異的な抽出挙動が発現してカプシノイド化合物の抽出効率をより高めることができる。
【0018】
[5]の発明では、水及びアセトンを含有してなる混合抽出溶媒を用いることで特異的な抽出挙動が発現してカプシノイド化合物の抽出効率をより高めることができる。
【0019】
[6]の発明の唐辛子抽出物は、上記抽出分離方法によって得られたカプシノイド化合物含有抽出溶媒から活性炭を分離除去した後、溶媒留去操作を行うことによって粘稠液体又は固形状態で回収された唐辛子抽出物であり、この唐辛子抽出物は色素成分を含有しないか又は殆ど含有しないので、赤色等の色素成分由来の色を呈することがなく、例えば従来の色彩上、意匠上の制約が一挙に解消され、この唐辛子抽出物の適用用途は大きく拡大され得る。
【0020】
[7]の発明は、前記[6]の唐辛子抽出物を含有してなる防カビ剤であり、優れた防カビ効果を発揮すると共に、赤色等の色素成分由来の色を呈しないから適用用途は幅広いものとなる。
【0021】
[8]の発明は、前記[6]の唐辛子抽出物を含有してなる抗菌剤であり、優れた抗菌効果を発揮すると共に、赤色等の色素成分由来の色を呈しないから適用用途は幅広いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明に係る唐辛子からカプシノイド化合物を抽出分離する方法は、水と有機溶媒を含有してなる混合抽出溶媒、唐辛子粉砕物、及び活性炭を混合したものを相互に接触させることによって、前記混合抽出溶媒中に唐辛子中のカプシノイド化合物を抽出すると共に、前記混合抽出溶媒中の唐辛子由来の色素成分を前記活性炭に吸着せしめることを特徴とするものである。この抽出分離方法によれば、混合抽出溶媒として水及び有機溶媒を含有したものを用いているから、即ち混合抽出溶媒として水系のものを用いているから、この混合抽出溶媒に抽出されたカプシノイド化合物は、活性炭に殆ど吸着されることなく該混合抽出溶媒中に安定して存在する一方、混合抽出溶媒に抽出された色素成分(唐辛子由来)は活性炭に効率良く吸着分離されるので、唐辛子から、色素成分とは分離してカプシノイド化合物を選択性良く抽出分離することができる。
【0023】
この発明に係る抽出分離方法は、水と有機溶媒を含有してなる混合抽出溶媒、即ち水系混合溶媒という環境下においてはカプシノイド化合物は活性炭には殆ど吸着されないのに対し、色素成分(カロテノイド等)は活性炭に効率良く吸着されるという性質を見出すに至り、このような性質を利用することによって、唐辛子から、色素成分とは分離してカプシノイド化合物を選択性良く抽出分離することができるものである。
【0024】
なお、上記抽出分離方法では、水と有機溶媒を含有してなる混合抽出溶媒、唐辛子粉砕物、及び活性炭を混合したものを相互に接触させることによって、前記混合抽出溶媒中へのカプシノイド化合物の抽出と、色素成分の活性炭への吸着を同時並行的に行わしめているが、特にこのような方法に限定されるものではなく、混合抽出溶媒中へのカプシノイド化合物の抽出と、色素成分の活性炭への吸着を別工程で行うようにしても良い。即ち、この発明に係る別の、唐辛子からカプシノイド化合物を抽出分離する方法は、唐辛子粉砕物と、水及び有機溶媒を含有してなる混合抽出溶媒とを接触させることによって、該混合抽出溶媒中に唐辛子中のカプシノイド化合物を抽出する工程と、前記抽出カプシノイド化合物を含有した混合抽出溶媒と、活性炭とを接触させることによって、前記混合抽出溶媒中の唐辛子由来の色素成分を前記活性炭に吸着せしめる工程とを包含することを特徴とする。
【0025】
この発明において、前記混合抽出溶媒における水と有機溶媒の混合モル比は、水/有機溶媒=10/90〜90/10の範囲に設定するのが好ましい。水の混合モル比を上記下限又は下限以上に設定することでカプシノイド化合物の抽出分離の選択性をより向上させることができる(即ち色素成分を活性炭により効率良く吸着させることができる)と共に、水の混合モル比を上記上限又は上限以下に設定することでカプシノイド化合物の抽出効率をより高めることができる。中でも、前記混合抽出溶媒における水と有機溶媒の混合モル比は、水/有機溶媒=40/60〜80/20の範囲に設定するのがより好ましく、特に好ましい範囲は水/有機溶媒=45/55〜75/25であり、さらに最好適範囲は水/有機溶媒=50/50〜65/35である。
【0026】
前記混合抽出溶媒を構成する有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えばエタノール、アセトン、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の親水性有機溶媒などが挙げられる。
【0027】
中でも、前記混合抽出溶媒を構成する有機溶媒としてはエタノールを用いるのが好ましい。水及びエタノールを含有してなる混合抽出溶媒を用いることで特異的な抽出挙動が発現してカプシノイド化合物の抽出効率をより高めることができる。
【0028】
図1は、水及びエタノールからなる混合抽出溶媒におけるエタノールのモル分率とカプサイシン抽出量との関係を調べたグラフであるが、このグラフから、エタノール(グラフではエタノールのモル分率が1のケースに相当する)はカプサイシンをある程度抽出できるのに対し、水(グラフではアセトンのモル分率が0のケースに相当する)はカプサイシンを殆ど抽出しないことがわかる。このような2つの溶媒(エタノール・水)を混合して混合抽出溶媒とした場合、その混合モル比率を変化させていった時のグラフは一般的には図1の破線のようになると推定される。実際その他の多くの混合溶媒系ではこのようになることが知られている。しかしながら、唐辛子からカプサイシンを溶媒で抽出するに際し、水及びエタノールからなる混合溶媒系では、図1の実線で示すように、一般的な予測曲線(破線)で求められる抽出量よりも格段に多くの量のカプサイシンを抽出できることがわかった。即ち、唐辛子からカプサイシンを溶媒で抽出するに際し、抽出溶媒として、水及びエタノールを含有してなる混合抽出溶媒を用いた場合には、図1の実線で示すような特異的な抽出挙動を示して高い抽出効率でカプサイシンを抽出することができるのである。
【0029】
なお、図1のグラフは次のようにして得られたものである。即ち、ビーカー内に入れた唐辛子粉砕物(粉末状)10gに対して、表1に示す組成からなる抽出溶媒100gを加えた後、恒温横型振とう機で温度330K、130rpmの条件で30分間振とう攪拌した。次いで、定性濾紙No.131を使用して減圧濾過を行った後、濾液5mLを採取して天日で十分に乾燥させた。乾燥物(抽出物)を溶離液(メタノール:純水=8体積部:2体積部)10mLに溶解したものを高速液体クロマトグラフを用いて定量することによって、抽出溶媒100gによって抽出されたカプサイシン量(カプサイシン抽出量)を算出した。これらの結果を表1に示す。表1の11点の結果をグラフにプロットして纏めたものが図1である。
【0030】
【表1】

【0031】
或いは、前記混合抽出溶媒を構成する有機溶媒としてはアセトンを用いるのが好ましい。水及びアセトンを含有してなる混合抽出溶媒を用いることで特異的な抽出挙動が発現してカプシノイド化合物の抽出効率をより高めることができる。
【0032】
図2は、水及びアセトンからなる混合抽出溶媒におけるアセトンのモル分率とカプサイシン抽出量との関係を調べたグラフであるが、このグラフから、アセトン(グラフではアセトンのモル分率が1のケースに相当する)はカプサイシンをある程度抽出できるのに対し、水(グラフではアセトンのモル分率が0のケースに相当する)はカプサイシンを殆ど抽出しないことがわかる。このような2つの溶媒(アセトン・水)を混合して混合抽出溶媒とした場合、その混合モル比率を変化させていった時のグラフは一般的には図2の破線のようになると推定される。実際その他の多くの混合溶媒系ではこのようになることが知られている。しかしながら、唐辛子からカプサイシンを溶媒で抽出するに際し、水及びアセトンからなる混合溶媒系では、図2の実線で示すように、一般的な予測曲線(破線)で求められる抽出量よりも格段に多くの量のカプサイシンを抽出できることがわかった。即ち、唐辛子からカプサイシンを溶媒で抽出するに際し、抽出溶媒として、水及びアセトンを含有してなる混合抽出溶媒を用いた場合には図2の実線で示すような特異的な抽出挙動を示して高い抽出効率でカプサイシンを抽出することができるのである。
【0033】
なお、図2のグラフは次のようにして得られたものである。即ち、ビーカー内に入れた唐辛子粉砕物(粉末状)10gに対して、表2に示す組成からなる抽出溶媒100gを加えた後、恒温横型振とう機で温度330K、130rpmの条件で30分間振とう攪拌した。次いで、定性濾紙No.131を使用して減圧濾過を行った後、濾液5mLを採取して天日で十分に乾燥させた。乾燥物(抽出物)を溶離液(メタノール:純水=8体積部:2体積部)10mLに溶解したものを高速液体クロマトグラフを用いて定量することによって、抽出溶媒100gによって抽出されたカプサイシン量(カプサイシン抽出量)を算出した。これらの結果を表2に示す。表2の11点の結果をグラフにプロットして纏めたものが図2である。
【0034】
【表2】

【0035】
前記活性炭としては、特に限定されるものではなく、どのようなものでも使用できる。例えば、粉末状、粒状、繊維状等いずれの形状であっても良い。また、活性炭の細孔径、表面積等の性状も特に限定されない。
【0036】
また、前記唐辛子粉砕物としては、唐辛子を粉砕したものであればどのようなものでも使用できる。中でも、長径0.5mm以下の唐辛子粉砕物を用いるのが好ましく、特に好ましいのは唐辛子粉末である。
【0037】
この発明の抽出分離方法において、前記各成分の混合比は、特に限定されないが、次のような混合比範囲に設定するのが好ましい。即ち、前記唐辛子粉砕物10質量部に対して前記混合抽出溶媒を50〜300質量部混合するのが好ましい。混合抽出溶媒を50質量部以上混合することでカプシノイド化合物の抽出効率をさらに向上させることができると共に、300質量部以下とすることで高い濃度のカプシノイド化合物を含有した抽出溶液を得ることができる。また、前記唐辛子粉砕物10質量部に対して前記活性炭を2〜8質量部混合するのが好ましい。活性炭を2質量部以上混合することで色素成分の吸着効率をさらに向上させることができると共に、8質量部以下とすることで活性炭の使用量を低減できて経済的である。
【0038】
また、唐辛子粉砕物と混合抽出溶媒との接触は、特に限定されるものではないが、攪拌により行うのが好ましい。この攪拌操作としては、特に限定されないが、例えば攪拌翼による攪拌、振とう機による振とう攪拌、超音波による攪拌などが挙げられる。
【0039】
また、前記抽出操作を行う際の混合抽出溶媒の温度は、抽出効率への影響はあまり無いものの、30〜60℃に設定するのが好ましい。
【0040】
前記抽出分離操作を行うための抽出分離装置としては、特に限定されるものではないが、例えば特開2004−66227号公報に記載の装置を挙げることができる。勿論、一般的なミキサー・セトラー装置を用いても良いし、その他の設備を用いても良く、特に限定されない。
【0041】
なお、上記抽出分離方法によって抽出され得るカプシノイド化合物としては、特に限定されるものではないが、例えばカプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、ホモカプサイシン、ホモジヒドロカプサイシン等が挙げられる。
【0042】
しかして、この発明の抽出分離方法によって得られたカプシノイド化合物含有抽出溶媒から活性炭を分離除去した後、抽出溶媒を留去することによって唐辛子抽出物(カプシノイド化合物含有)を回収する。この唐辛子抽出物は、粘稠液体又は固形状態(粉体、粒体等)で回収される。このような溶媒蒸発法により回収するのが一般的であるが、特にこの手法に限定されるものではなく、例えば吸着剤(多孔性樹脂等)を用いる吸着法により唐辛子抽出物の回収を行うものとしても良い。また、これら唐辛子抽出物から、各個別成分(カプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、ホモカプサイシン、ホモジヒドロカプサイシン等)に単離して利用するものとしても良い。
【0043】
前記カプシノイド化合物含有抽出溶媒から活性炭を分離除去する方法としては、特に限定されるものではないが、例えばフィルター濾過による分離、遠心分離などが挙げられる。
【0044】
なお、前記抽出溶媒留去操作後に液−液抽出操作を実施して唐辛子抽出物を回収するようにしても良い。例えば、前記抽出溶媒留去操作後に水を添加し、さらにn−ヘキサン等の有機溶媒を加えて攪拌することによって液−液抽出を行わしめた後、静置して水相と油相(n−ヘキサン等)とに分離せしめ、該油相から溶媒を留去することによって唐辛子抽出物(カプシノイド化合物含有)を回収するようにしても良い。
【0045】
前記唐辛子抽出物は、色素成分を含有しないか又は殆ど含有しないので、赤色等の色素成分由来の色を呈することがなくて、様々な用途に利用することが可能であり、例えば防カビ剤、防虫剤、抗菌剤等として好適に用いられる。例えば、前記唐辛子抽出物を合成樹脂に添加することにより、所望の美麗な色(例えば青色、緑色、黄色、パステル調色等)を呈する抗菌性樹脂成形品を提供することができる。
【0046】
なお、この発明において、唐辛子粉砕物と混合抽出溶媒とを接触させる前に、予め唐辛子粉砕物と水とを接触せしめて唐辛子中の水溶性物質を溶解除去しておいても良い。こうすることによって、カプシノイド化合物含有抽出溶媒や唐辛子抽出物における水溶性物質の含有比率を大きく低減することができ、その分カプシノイド化合物含有抽出溶媒や唐辛子抽出物におけるカプシノイド化合物含有比率を顕著に増大させることができる。
【実施例】
【0047】
次に、この発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0048】
<実施例1>
ビーカー内に入れた唐辛子粉砕物(粉末状)10gに対して、水/エタノール=58/42(モル比)の組成からなる混合抽出溶媒100g及び活性炭0.5gを加えた後、恒温横型振とう機で温度318K、130rpmの条件で30分間振とう攪拌した。次いで、定性濾紙No.131を使用して減圧濾過を行って活性炭を分離除去した後、濾液5mLを採取して天日で十分に乾燥させることによって、唐辛子抽出物を得た。この唐辛子抽出物を溶離液(メタノール:純水=8体積部:2体積部)10mLに溶解したものを高速液体クロマトグラフを用いて定量することによって、抽出溶媒10g当たりの抽出カプサイシン量を算出した。この結果を表3に示す。
【0049】
なお、天日で乾燥させて得た前記唐辛子抽出物を液体クロマトグラフ−質量分析装置(LC−MS)で分析した結果、抽出物は少なくともカプサイシン・ジヒドロカプサイシン・ノルジヒドロカプサイシン・ホモカプサイシン・ホモジヒドロカプサイシンこれら5種類のカプシノイド化合物を含有していることを確認できた。
【0050】
<実施例2>
活性炭の添加量を1.0gとした以外は、実施例1と同様にして唐辛子抽出物を得、同様に抽出溶媒10g当たりの抽出カプサイシン量を算出した。
【0051】
<実施例3>
活性炭の添加量を2.0gとした以外は、実施例1と同様にして唐辛子抽出物を得、同様に抽出溶媒10g当たりの抽出カプサイシン量を算出した。
【0052】
<実施例4>
活性炭の添加量を5.0gとした以外は、実施例1と同様にして唐辛子抽出物を得、同様に抽出溶媒10g当たりの抽出カプサイシン量を算出した。
【0053】
<比較例1>
活性炭の添加量を0gとした(活性炭を添加しない)以外は、実施例1と同様にして唐辛子抽出物を得、同様に抽出溶媒10g当たりの抽出カプサイシン量を算出した。
【0054】
【表3】

【0055】
表3から明らかなように、この発明の抽出分離方法を適用した実施例1〜4では、唐辛子から、色素成分とは分離してカプシノイド化合物を選択性良く且つ高い抽出効率で抽出分離することができた。なお、色素成分の活性炭による吸着除去は、抽出溶媒の液の色(色種、濃淡)により確認した(以下、同様)。
【0056】
これに対し、比較例1では、抽出溶媒は、赤色を呈しており、カプシノイド化合物と共に色素成分も抽出含有したものとなっていた。
【0057】
<実施例5>
ビーカー内に入れた唐辛子粉砕物(粉末状)10gに対して、水/アセトン=45/55(モル比)の組成からなる混合抽出溶媒100g及び活性炭0.5gを加えた後、恒温横型振とう機で温度318K、130rpmの条件で30分間振とう攪拌した。次いで、定性濾紙No.131を使用して減圧濾過を行って活性炭を分離除去した後、濾液5mLを採取して天日で十分に乾燥させることによって、唐辛子抽出物を得た。この唐辛子抽出物を溶離液(メタノール:純水=8体積部:2体積部)10mLに溶解したものを高速液体クロマトグラフを用いて定量することによって、抽出溶媒10g当たりの抽出カプサイシン量を算出した。この結果を表4に示す。
【0058】
なお、天日で乾燥させて得た前記唐辛子抽出物を液体クロマトグラフ−質量分析装置(LC−MS)で分析した結果、抽出物は少なくともカプサイシン・ジヒドロカプサイシン・ノルジヒドロカプサイシン・ホモカプサイシン・ホモジヒドロカプサイシンこれら5種類のカプシノイド化合物を含有していることを確認できた。
【0059】
<実施例6>
活性炭の添加量を1.0gとした以外は、実施例5と同様にして唐辛子抽出物を得、同様に抽出溶媒10g当たりの抽出カプサイシン量を算出した。
【0060】
<実施例7>
活性炭の添加量を2.0gとした以外は、実施例5と同様にして唐辛子抽出物を得、同様に抽出溶媒10g当たりの抽出カプサイシン量を算出した。
【0061】
<実施例8>
活性炭の添加量を5.0gとした以外は、実施例5と同様にして唐辛子抽出物を得、同様に抽出溶媒10g当たりの抽出カプサイシン量を算出した。
【0062】
<比較例2>
活性炭の添加量を0gとした(活性炭を添加しない)以外は、実施例5と同様にして唐辛子抽出物を得、同様に抽出溶媒10g当たりの抽出カプサイシン量を算出した。
【0063】
【表4】

【0064】
表4から明らかなように、この発明の抽出分離方法を適用した実施例5〜8では、唐辛子から、色素成分とは分離してカプシノイド化合物を選択性良く且つ高い抽出効率で抽出分離することができた。
【0065】
これに対し、比較例2では、抽出溶媒は、赤色を呈しており、カプシノイド化合物と共に色素成分も抽出含有したものとなっていた。
【0066】
<比較例3>
ビーカー内に入れた唐辛子粉砕物(粉末状)10gに対して、エタノール(抽出溶媒)100g及び活性炭5.0gを加えた後、恒温横型振とう機で温度318K、130rpmの条件で30分間振とう攪拌した。次いで、定性濾紙No.131を使用して減圧濾過を行って活性炭を分離除去した後、濾液5mLを採取して天日で十分に乾燥させることによって、唐辛子抽出物を得た。この唐辛子抽出物を溶離液(メタノール:純水=8体積部:2体積部)10mLに溶解したものを高速液体クロマトグラフを用いて定量することによって、抽出溶媒10g当たりの抽出カプサイシン量を算出した。この結果を表5に示す。
【0067】
<比較例4>
活性炭の添加量を0gとした(活性炭を添加しない)以外は、比較例3と同様にして唐辛子抽出物を得、同様に抽出溶媒10g当たりの抽出カプサイシン量を算出した。
【0068】
【表5】

【0069】
表5における比較例3と比較例4の抽出溶媒中のカプサイシン含有量の対比から明らかなように、水を含有しない抽出溶媒(エタノールのみ)を用いた比較例3では、抽出されたカプサイシンは活性炭に吸着される量がかなり多くなっており、このためにカプサイシンの抽出効率は低かった。
【0070】
<比較例5>
ビーカー内に入れた唐辛子粉砕物(粉末状)10gに対して、アセトン(抽出溶媒)100g及び活性炭5.0gを加えた後、恒温横型振とう機で温度318K、130rpmの条件で30分間振とう攪拌した。次いで、定性濾紙No.131を使用して減圧濾過を行って活性炭を分離除去した後、濾液5mLを採取して天日で十分に乾燥させることによって唐辛子抽出物を得た。この唐辛子抽出物を溶離液(メタノール:純水=8体積部:2体積部)10mLに溶解したものを高速液体クロマトグラフを用いて定量することによって、抽出溶媒10g当たりの抽出カプサイシン量を算出した。この結果を表6に示す。
【0071】
<比較例6>
活性炭の添加量を0gとした(活性炭を添加しない)以外は、比較例4と同様にして唐辛子抽出物を得、同様に抽出溶媒10g当たりの抽出カプサイシン量を算出した。
【0072】
【表6】

【0073】
表6における比較例5と比較例6の抽出溶媒中のカプサイシン含有量の対比から明らかなように、水を含有しない抽出溶媒(アセトンのみ)を用いた比較例5では、抽出されたカプサイシンは活性炭に吸着される量がかなり多くなっており、このためにカプサイシンの抽出効率は低かった。
【0074】
<唐辛子抽出物の防カビ性の評価>
実施例1で得られた唐辛子抽出物の防カビ性を下記のようにして評価した。まず、シャーレに接着剤を塗布した後、塗布面の中央位置に四角形に切り出した夏蜜柑(1cm×1cm角)を載せて接着固定し、これを評価用試料とした。前記評価用試料の夏蜜柑に、実施例1で得られた唐辛子抽出物の1倍希釈液を0.5mL含浸せしめたものを「試料X」とし、前記評価用試料に液を特に含浸せしめなかったものを「試料Y」とし、これら両試料を25℃の条件下で9日間放置したところ、前記試料Yでは夏蜜柑の全面がカビで完全に覆われると共に接着剤表面にもカビが広がっていたのに対し、前記試料Xでは夏蜜柑の一部に少しカビが発生した程度であった。また、前記角形夏蜜柑の裏面をシャーレの透明底面ごしに観察したところ、前記試料Yではカビが密集して付着していたのに対し、前記試料Xではカビは殆ど付着していなかった。このように、本発明の唐辛子抽出物は、優れた防カビ性(抗菌性)を有している。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】混合抽出溶媒におけるエタノールのモル分率とカプサイシン抽出量との関係を示すグラフである。
【図2】混合抽出溶媒におけるアセトンのモル分率とカプサイシン抽出量との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と有機溶媒を含有してなる混合抽出溶媒、唐辛子粉砕物、及び活性炭を相互に接触させることによって、前記混合抽出溶媒中に唐辛子中のカプシノイド化合物を抽出すると共に、前記混合抽出溶媒中の唐辛子由来の色素成分を前記活性炭に吸着せしめることを特徴とする唐辛子からカプシノイド化合物を抽出分離する方法。
【請求項2】
唐辛子粉砕物と、水及び有機溶媒を含有してなる混合抽出溶媒とを接触させることによって、該混合抽出溶媒中に唐辛子中のカプシノイド化合物を抽出する工程と、
前記抽出カプシノイド化合物を含有した混合抽出溶媒と、活性炭とを接触させることによって、前記混合抽出溶媒中の唐辛子由来の色素成分を前記活性炭に吸着せしめる工程とを包含することを特徴とする唐辛子からカプシノイド化合物を抽出分離する方法。
【請求項3】
前記混合抽出溶媒における水と有機溶媒の混合モル比が、水/有機溶媒=10/90〜90/10の範囲である請求項1または2に記載の唐辛子からカプシノイド化合物を抽出分離する方法。
【請求項4】
前記混合抽出溶媒を構成する有機溶媒としてエタノールを用いる請求項1〜3のいずれか1項に記載の唐辛子からカプシノイド化合物を抽出分離する方法。
【請求項5】
前記混合抽出溶媒を構成する有機溶媒としてアセトンを用いる請求項1〜3のいずれか1項に記載の唐辛子からカプシノイド化合物を抽出分離する方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法によって得られたカプシノイド化合物含有抽出溶媒から活性炭を分離除去した後、溶媒留去操作を行うことによって粘稠液体又は固形状態で回収された唐辛子抽出物。
【請求項7】
請求項6に記載の唐辛子抽出物を含有してなることを特徴とする防カビ剤。
【請求項8】
請求項6に記載の唐辛子抽出物を含有してなることを特徴とする抗菌剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−19191(P2008−19191A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191039(P2006−191039)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(597124349)
【出願人】(000226091)日栄化工株式会社 (17)
【Fターム(参考)】