説明

喘息治療剤

HGF又はその塩を有効成分として含有する喘息の予防又は治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は喘息治療剤に関する。更に詳細には、気管支喘息における炎症反応を極めて有効に抑制し、しかも副作用のない安全な喘息の予防又は治療剤に関する。
【背景技術】
現在社会においては、自動車や工場等からの排気ガス、化学物質、粉塵等による大気汚染が顕著となり、それに伴い気管支喘息の患者数が増えている。
気管支喘息とは、発作時に気管支平滑筋の収縮・攣縮が起こり、重積発作時は大変苦しい呼吸困難の状態から喘息死に至る重篤な疾患である。気管支喘息は、大人はもちろん子供でも入院原因の筆頭に挙げられる程であるが、現在の医療では、個々の患者の喘息に対応した予防も治療も難しい疾患とされている。
気管支喘息は、一般的には化学伝達物質やその他の因子に対する気道過敏性等の体質的素因に、抗原刺激等〔例えば、ハウスダスト(家内塵)・ダニ、ペット、花粉、上記の排気ガス、化学物質、粉塵等〕の原因因子、寄与因子が加わって発症するものと考えられている。その病態生理は複雑で、様々な要因、例えば、活性化された好酸球やTリンパ球等の炎症細胞の気管支粘膜への浸潤、その際にTh2サイトカイン、特にインターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)、インターロイキン−13(IL−13)、及びグロースファクター、例えば血小板由来増殖因子(PDGF)、神経増殖因子(NGF)、変形増殖因子(TGF−β)、中でも特にTGF−βが、一連の炎症反応を亢進化するのに重要な役割を果たしている等といった事実が多数の研究により示されているが、そのメカニズムの全容は未だ明らかとはなっていない。
炎症が頻発し、しかもその治療が不完全な状態で長期間続くと、例えば上皮下組織の線維化や、杯細胞、筋線維芽細胞の過増殖等が起こり、その結果、気管支は不完全修復(remodeling:リモデリング)の形で再生する。ひとたび不完全修復が起きてしまうと、気管支粘膜は線維質に置き換わり、その弾力性を失うために、気道の可逆性が失われ、喘息の慢性化・難治化を招くこととなる。
現在このような慢性的な気管支喘息の治療には、副腎皮質ホルモン剤、いわゆるステロイド剤が主に使用されている。しかし、この薬剤は治療には有効ではあるが、その副作用が問題となっている。例えば、効力のある抗喘息薬として知られているグルココルチコステロイドは、実際は一時的な症状鎮静効果しか有せず、その代償として周知の副作用、例えば骨粗鬆症、肥満、高血圧、糖尿病等を伴う〔例えば、Barnes,P.J.,“A new approach to the treatment of asthma”,USA,N Engl J Med,Massachusetts Medical Society,321,p1517−1527(1989)参照。〕。そのステロイドによる副作用を軽減すべく開発された吸入ステロイド療法も、合併症を発症する等の危険がある〔例えば、Toogood,J.H.,“Influence of dosing frequency and schedule on the response of chronic asthmatics to the aerosol steroid,budesonide”,Journal of Allergy and Clinical Immunology,USA,70,p388−398(1982)参照。〕。特にステロイドの副作用がひどい患者向けにはステロイド代替薬として低用量メトトレキセートが提案されてきた〔例えば、Mullarkey,M.F.,“Methotrexate in the treatment of corticosteroid−dependent asthma.A double−blind crossover study”,N.Engl.J.Med.,USA,Massachusetts Medical Society,318,p603−607(1988)参照。〕が、メトトレキセートそれ自体がかなりの毒性を有している。
また、気管支を拡張させる即効性のある薬剤、例えばβ2刺激剤等もあるが、これは心臓にも作用するので、心臓疾患のある患者には用いる事ができず、しかも使用回数が制限される。
従って、既存のどの抗喘息剤又は喘息療法も、その効果及び安全面において不完全で、かつ持続的な寛解は報告されていない。よって患者に無害で、しかも持続的な抗炎症効果を奏するような気管支喘息の治療剤及び療法が必要とされている。
肝細胞増殖因子(HGF)とは、N末端ヘアピンドメインと4つのクリングルドメインからなるα鎖と、β鎖とで構成されるヘテロダイマータンパクをいう。HGFは、種々の上皮細胞系において、上皮−間葉相互作用の仲介役を担う重要な因子であることが知られている。例えば、HGFは、腫瘍細胞の浸潤、転移等を誘発するマイトゲン活性、モートゲン活性、モルフォゲン活性及び血管新生作用を有することが知られている〔例えば、Nakamura T.,“Purification and sibunit structure of hepatocyte growth factor from rat platelets”,FEBS letters,USA,224,p311−316(1987),Jiang.W.G et al.,Crit.Rev.Oncol.Hematol.,29,p209−248(1999)参照。〕。また、HGFをヒト等に投与することにより、肝臓、腎臓、肺や心筋の線維化(例えば肝臓では肝硬変)の発症を防いだり、進行を阻止したりできることも知られている〔例えば、Ueki K.et al.,“Hepatocyte growth factor gene therapy of liver cirrhosis in rats”,Nature Medicine,5,p226−230(1999)参照。〕。
HGFは、上述したように様々な生物活性を有するが、喘息による気道の炎症を抑制する効果をも有することはこれまでに全く知られておらず、本発明において初めて明らかとなった。
従って、本発明は、このHGFの気道炎症抑制効果を発見した点において重要な発明であり、しかも本発明の喘息治療剤は、その構成成分を生体由来のHGFとする点で、上記したステロイド剤等を用いるよりも生体に安全で、しかもその投与による副作用発症の危険性がないため、非常に優れた発明であると言える。
【発明の開示】
本発明は喘息治療剤、詳しくは、気管支喘息における炎症反応を極めて有効に抑制するHGFを含有し、しかも投与による副作用がなく、生体に安全な喘息治療剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。具体的には、本発明者らは、抗原吸入暴露した卵白アルブミン感作マウスにHGFを投与すると、炎症時に見られる好酸球やリンパ球等の炎症細胞の浸潤が阻止され、しかも気管支肺胞洗浄液中のIL−4、IL−5並びにIL−13等のTh2サイトカイン及び血小板由来増殖因子(PDGF)、神経増殖因子(NGF)等のグロースファクターの濃度の上昇が顕著に抑制されるということを発見し、喘息等の気道炎症の治療・予防にHGFを用いることが有効であることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて更なる検討を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1) HGF又はその塩を有効成分として含有する喘息の予防又は治療剤、
(2) HGFが、配列番号:1又は2で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号:1又は2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチド又はこれらの部分ペプチドであることを特徴とする前記(1)に記載の喘息の予防又は治療剤、
(3) HGFをコードするDNAを有効成分として含有する喘息の予防又は治療剤、
(4) HGFをコードするDNAが、配列番号:3又は4で表される塩基配列又は配列番号:3又は4で表される塩基配列とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含むDNAであることを特徴とする前記(3)に記載の喘息の予防又は治療剤、
(5) HGFをコードするDNAが、組換え発現ベクターに挿入されていることを特徴とする前記(3)又は(4)に記載の喘息の予防又は治療剤、
(6) 組換え発現ベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス(HIV)、センダイウイルス、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、SV40、pCAGGS、pBK−CMV、pcDNA3.1又はpZeoSVであることを特徴とする前記(5)に記載の喘息の予防又は治療剤、
(7) 組換え発現ベクターが、更に宿主細胞に含まれていることを特徴とする前記(5)又は(6)に記載の喘息の予防又は治療剤、
(8) HGFをコードするDNA又はHGFをコードするDNAを含む組換え発現ベクターが、リポソーム又はマイクロカプセルに含まれていることを特徴とする前記(3)〜(7)のいずれかに記載の喘息の予防又は治療剤、
(9) 更に薬剤学的に許容され得る担体を含むことを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の喘息の予防又は治療剤、
(10) HGF又はその塩の有効量を、哺乳動物に投与することにより気管支の炎症を抑制することを特徴とする喘息の予防又は治療方法、
(11) HGFをコードするDNAの有効量を、哺乳動物に投与することにより気管支の炎症を抑制することを特徴とする喘息の予防又は治療方法、
(12) 気道の炎症を抑制することを特徴とする喘息の予防又は治療剤の製造のためのHGF又はその塩の使用、
(13) 気道の炎症を抑制することを特徴とする喘息の予防又は治療剤の製造のためのHGFをコードするDNAの使用、
に関する。
【図面の簡単な説明】
第1図は、気管支喘息モデルマウスにおいて、メサコリン吸入による気道過敏性亢進に対するHGF投与の影響を示した図である。
第2図は、抗原の吸入暴露48時間後の気管支喘息モデルマウスにおいて、気管支肺胞洗浄液(以下、BAL液と略す場合がある。)中炎症細胞数の増加に対するHGF投与の影響を示した図である。
第3図は、抗原吸入暴露48時間後の気管支喘息モデルマウスにおいて、気管支周囲・血管周囲の組織内における浸潤炎症細胞数の増加に対するHGF投与の影響を、組織学的に観察した組織標本写真を示す図である。(a)は対照群(非感作/非暴露)、(b)は生理食塩水投与群(感作/暴露+生理食塩水)、(c)はHGF投与群(感作/暴露+HGF)を示す。
第4図は、抗原吸入暴露48時間後の気管支喘息モデルマウスにおいて、気管支周囲・血管周囲の組織内における(a)浸潤総炎症細胞数及び(b)好酸球数の増加に対するHGF投与の影響を示した図である。
第5図は、抗原吸入暴露48時間後の気管支喘息モデルマウスにおいて、気道上皮の粘液産生細胞(杯細胞)数の増加に対するHGF投与の影響を示す図である。(a)は対照群(非感作/非暴露)、(b)は生理食塩水投与群(感作/暴露+生理食塩水)、(c)はHGF投与群(感作/暴露+HGF)の気道上皮を組織学的に観察した組織標本写真を示す図である。(d)は前記各群における粘液産生細胞数を示し、(e)は前記各群における粘液含有量50%以上の細胞の数を示した図である。
第6図は、抗原吸入暴露48時間後の気管支喘息モデルマウスにおいて、BAL液中のサイトカイン〔(a)IL−4、(b)IL−5、(c)IL−13及び(d)IL−12〕の濃度に対するHGF投与の影響を示した図である。
第7図は、抗原吸入暴露48時間後の気管支喘息モデルマウスにおいて、BAL液中のグロースファクター〔(a)PDGF、(b)NGF並びに(c)TGF−β〕の濃度の上昇に対するHGF投与の影響を示した図である。
第8図は、抗原吸入暴露48時間後の気管支喘息モデルマウスにおいて、肺組織中におけるTGF−βの蓄積に対するHGF投与の影響を、組織学的に観察した組織標本写真を示す図である。(a)は対照群(非感作/非暴露)、(b)は生理食塩水投与群(感作/暴露+生理食塩水)、(c)はHGF投与群(感作/暴露+HGF)を示す。
第9図は、抗原吸入暴露48時間後の気管支喘息モデルマウスにおいて、血清中抗原特異的IgE抗体(抗OVA特異的IgE)量の増加に対するHGFの影響を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、HGF又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする。
HGF又はその塩は、哺乳動物、例えばヒト、モルモット、マウス、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サル等由来のいずれであってもよい。またHGFは、これらの哺乳動物の組織又は細胞、例えば成熟肝細胞や血小板等から抽出される精製タンパク質であっても、遺伝子組み換え技術等を用いて、HGFをコードするDNA又はRNAを導入された形質転換細胞等を培養し、産生されるタンパク質を精製することによって得られる組換えタンパク質であっても、また化学的に合成される合成ポリペプチドであってもよい。成熟肝細胞や形質転換細胞等からのHGFの抽出・精製又は合成ポリペプチドの製造は、それ自体公知の方法に従って行われて良い。
ヒト等の哺乳動物の細胞からHGFを単離・精製する方法としては、例えば、比較的高濃度にHGFを含むラット血小板をトロンビン処理し、血小板外へ分泌されるHGFを取得後、イオン交換クロマトグラフィー、ヘパリンセファロースによるアフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー等を用いて精製する方法等が挙げられる。
また、遺伝子組み換え技術等を用いて、HGFをコードするDNA又はRNAを導入された形質転換細胞等を培養し、分泌されるタンパク質を精製することによってHGFを得る場合は、以下の方法に従って行うのがよい。
HGFをコードするDNA又はRNAを、適当な組換え発現ベクター、例えばpCAGGS(Gene,108,193−200(1991))等に挿入し、これを宿主細胞に導入して形質転換体を構築する。
組換え発現ベクターを宿主へ導入する方法としては、自体公知の方法であればいずれも用いることができる。例えば、コンピテント細胞法[J.Mol.Biol.,53,154(1970)]、DEAEデキストラン法[Science,215,166,(1982)]、インビトロパッケージング法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,72,581(1975)]、ウイルスベクター法[Cell,37,1053(1984)]、マイクロインジェクション法[Exp.Cell.Res.,153,347(1984)]、エレクトロポレーション法[Cytotechnology,3,133(1990)]、リン酸カルシウム法[Science,221,551(1983)]、リポフェクション法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,84,7413(1987)]、プロトプラスト法[特開昭63−2483942、Gene,17,107(1982)、Molecular & General Genetics,168,111(1979)]に記載の方法等を挙げることができる。
宿主としては、細菌、酵母、糸状菌、植物細胞、哺乳動物細胞等が挙げられる。例えば、細菌としては、エッシェリシア属(Escherichia)、エンテロバクター属(Enterobacter)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、バチラス属(Bacillus)、ラクトバチラス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ストレプトミセス属(Streptomyces)、ストレプトコッカス属(Streptoccoccus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)等が挙げられる。
酵母としては、サッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、NCYC1913、NCYC2036、ピキア パストリス(Pichia pastoris)、パン酵母等が挙げられる。糸状菌としては、アスペルギルス属(Asperugillus)、ペニシリウム属(Penicillium)等が挙げられる。
植物細胞としては、ワタ、トウモロコシ、ポテト、ソラマメ、ペチュニア、トマト、タバコ等が挙げられる。哺乳動物細胞としては、マウスC127細胞、チャイニーズハムスターCHO細胞、サルCOS細胞、マウス細胞BALB/3T3、マウスL細胞、マウスAtT−20、マウスミエローマ細胞、ラットGH3、ヒト細胞HeLa、ヒトFL細胞、ヒト胎児腎臓由来の293細胞[実験医学,12,316(1994)]等が挙げられる。
得られた形質転換体は、HGFを産生するために、その宿主に応じた適切な培地で培養される。培地には該形質転換体の生育に必要な炭素源、無機物、ビタミン、血清及び薬剤等が含有される。
形質転換体の宿主が大腸菌の場合、LB培地(日水製薬)、M9培地[J.Exp.Mol.Genet.,Cold Spring Laboratory,New York,431(1972)]等が、宿主が酵母の場合、YEPD培地[Genetic Engineering,vol.1,Plenum Press,New York,117(1979)]等が、宿主が動物細胞の場合、20%以下のウシ胎仔血清を含有するMEM培地、DMEM培地、PRMI1640培地(日水製薬)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。形質転換体の培養は、通常20℃〜45℃、pHは5〜8の範囲で行われ、必要に応じて通気・攪拌が行われるが、これらに限定されるものではない。また、宿主が接着性の動物細胞等の場合は、所望によりガラスビーズ、コラーゲンビーズ、アセチルセルロースフォローファイバー等の担体が用いられる。
HGFを産生している形質転換体は、その培養液上清中にHGFを分泌することから、この形質転換体の培養上清を用いてHGFの抽出を行うことができる。また、形質転換体中に産生されたHGFの抽出を行うこともできる。タンパク質を培養菌体あるいは細胞から抽出するには、培養後、公知の方法で菌体あるいは細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチーム又は/及び凍結融解等によって菌体あるいは細胞を破壊した後、遠心分離や濾過によりHGFの粗抽出液を得る方法等が適宜用いられる。緩衝液の中に尿素や塩酸グアニジン等のタンパク質変性剤や、トリトンX−100TM等の界面活性剤が含まれていてもよい。このようにして得られた培養上清、あるいは細胞抽出液中に含まれるHGFの精製は、自体公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行なうことができる。これらの公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、透析法、限外濾過法、ゲル濾過法及びSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー等の荷電の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィー等の疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法等の等電点の差を利用する方法等が用いられる。
配列番号:1又は2で表されるアミノ酸配列は、HGFのアミノ酸配列の例である。配列番号:2で表されるアミノ酸配列は、配列番号:1で表されるアミノ酸配列の161〜165番目の5個のアミノ酸残基が欠失しているものであるが、配列番号:1又は2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質は、両者ともヒト由来の天然HGFであって、HGFとしてのマイトゲン活性、モートゲン活性等を有する。
配列番号:1又は2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含むペプチドとしては、配列番号:1又は2で表されるアミノ酸配列と少なくとも約70%以上、好ましくは約80%、更に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチド、例えば配列番号:1又は2で表されるアミノ酸配列から、1〜数個のアミノ酸残基を挿入又は欠失させたアミノ酸配列、1〜数個のアミノ酸残基を別のアミノ酸残基と置換させたアミノ酸配列、1〜数個のアミノ酸残基が修飾されたアミノ酸配列等を含むペプチドであって、喘息時における気道炎症抑制作用を有するペプチドであることが好ましい。挿入されるアミノ酸又は置換されるアミノ酸は、遺伝子によりコードされる20種類のアミノ酸以外の非天然アミノ酸であってもよい。
これらのペプチドは、単独であっても、挿入や欠失、置換等を組み合わせたアミノ酸配列を含有するペプチドであっても、またこれらの混合ペプチドであってもよい。
本発明に用いられるHGFは、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO)、アミド(−CONH)又はエステル(−COOR)のいずれであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルもしくはn−ブチル等のC1−6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル等のC3−8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α−ナフチル等のC6−12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチル等のフェニル−C1−2アルキル基もしくはα−ナフチルメチル等のα−ナフチル−C1−2アルキル基等のC7−14アラルキル基のほか、経口用エステルとして汎用されるピバロイルオキシメチル基等が用いられる。本発明で用いられるHGFが、C末端以外にカルボキシル基(又はカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化又はエステル化されているものも本発明におけるHGFに含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステル等が用いられる。さらに、本発明に用いられるHGFには、上記したタンパク質において、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル等のC2−6アルカノイル基等のC1−6アシル基等)で保護されているもの、N末端側が生体内で切断され生成したグルタミル基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば、−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基等)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル等のC2−6アルカノイル基等のC1−6アシル基等)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖タンパク質等の複合タンパク質等も含まれる。
本発明で用いるHGFの部分ペプチド(以下、部分ペプチドと略記する場合がある。)としては、上記したHGFの部分ペプチドであればいずれのものであってもよい。本発明において、部分ペプチドのアミノ酸の数は、上記したHGFの構成アミノ酸配列のうち少なくとも約20個以上、好ましくは約50個以上、より好ましくは約100個以上のアミノ酸配列を含有するペプチド等が好ましい。本発明の部分ペプチドにおいては、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO)、アミド(−CONH)又はエステル(−COOR)のいずれであってもよい。さらに、部分ペプチドには、上記したHGFと同様に、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基で保護されているもの、N端側が生体内で切断され生成したGlnがピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチド等の複合ペプチド等も含まれる。
本発明に用いられるHGF又はその部分ペプチドの塩としては、酸又は塩基との生理学的に許容される塩が挙げられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩等が挙げられる。
本発明に用いられるHGFの部分ペプチド又はその塩は、公知のペプチドの合成法に従って、あるいはHGFを適当なペプチダーゼで切断することによって製造することができる。ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれでも良い。すなわち、HGFを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は、保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、M.Bodanszky及びM.A.Ondetti、ペプチド シンセシス(Peptide Synthesis),Interscience Publishers,New York(1966年)、Schroeder及びLuebke、ザ ペプチド(The Peptide),Academic Press,NewYork(1965年)等に記載された方法が挙げられる。
また、反応後は通常の精製方法、例えば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶等を組み合わせてHGFの部分ペプチドを精製単離することができる。上記方法で得られる部分ペプチドが遊離体である場合は、公知の方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に塩で得られた場合は、公知の方法によって遊離体に変換することができる。
本発明は、HGFをコードするDNAをその有効成分として含有することもできる。
本発明で用いられるHGFをコードするDNAとしては、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、上記した細胞・組織由来のcDNA、上記した細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAのいずれでもよい。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミド等いずれであってもよい。また、上記した細胞・組織よりtotalRNA又はmRNA画分を調製したものを用いて、直接RT−PCR法によって増幅し、得ることもできる。具体的には、HGFをコードするDNAとしては、例えば、(a)配列番号:3又は4で表わされる塩基配列を有するDNA、又は(b)配列番号:3又は4で表わされる塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、HGFと実質的に同質の活性、例えばマイトゲン活性、モートゲン活性等を有するタンパク質をコードするDNA等が挙げられる。なお、配列番号:3又は4で表わされる塩基配列を有するDNAとハイブリダイズするDNAとは、例えば上記DNAをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味する。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、約0.7〜1.0M程度の塩化ナトリウム存在下、約65℃程度でハイブリダイゼーションを行った後、約0.1〜2倍程度の濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる。)を用い、約65℃程度の条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAを挙げることができる。
上記の配列番号:3又は4で表される塩基配列を有するDNAとハイブリダイズするDNAとして具体的には、配列番号:3又は4で表わされる塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を有するDNA等が挙げられる。ハイブリダイゼーションは、公知の方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning,A laboratory Manual,Third Edition(J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab.Press,2001:以下、モレキュラー・クローニング第3版と略す。)に記載の方法等に従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
本発明で用いられるHGFの部分ペプチドをコードするDNAとしては、上記した部分ペプチドをコードする塩基配列を有するDNAであればいかなるものであってもよい。また、上記のHGFをコードするDNAと同様に、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、上記した細胞・組織由来のcDNA、上記した細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAのいずれでもよい。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミド等いずれであってもよい。また、上記した細胞・組織よりmRNA画分を調製したものを用いて、直接RT−PCR法によって増幅することもできる。具体的な本発明の部分ペプチドをコードするDNAとしては、例えば、(a)配列番号:3又は4で表わされる塩基配列を有するDNAの部分塩基配列を有するDNA、(b)配列番号:3又は4で表わされる塩基配列を有するDNAの部分塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、HGFと実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードするDNA、又は上記(a)或いは(b)の部分塩基配列を有するDNA等が挙げられる。
本発明で用いられるHGF又は部分ペプチドをコードするRNAも、逆転写酵素によりHGF又は部分ペプチドを発現することができるものであれば、本発明に用いることができ、本発明の範囲内である。また該RNAも公知の手段により得ることができる。
本発明に用いられるHGF又はその部分ペプチド(以下、本発明のタンパク質と略記する場合がある。)を完全にコードするDNAのクローニングの手段としては、本発明のタンパク質の部分塩基配列を含有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、又は適当なベクターに組み込んだDNAの中から、標識されたHGFの一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを用いて、ハイブリダイゼーションさせることによって選別することができる。ハイブリダイゼーションの方法は、例えば、モレキュラー・クローニング第3版に記載の方法等に従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
また、公知のHGFの塩基配列情報から従来公知の方法を用いて化学合成によりクローニングすることもできる。化学合成法としては、例えば、フォスフォアミダイト法を利用したDNA合成機model392(パーキン・エルマー株式会社製)等のDNA合成機で化学合成する方法等が挙げられる。
DNAの塩基配列の置換は、PCRや公知のキット、例えば、MutanTM−superExpress Km(宝酒造)、MutanTM−K(宝酒造)等を用いて、ODA−LA PCR法、gapped duplex法、Kunkel法等の公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って行うことができる。クローン化された本発明のタンパク質をコードするDNAは、目的によりそのまま、又は所望により制限酵素で消化したり、リンカーを付加したりして使用することができる。該DNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGA又はTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することもできる。
本発明に用いられるHGFをコードするDNA又はRNA(以下、本発明のDNA等と略記する場合がある。)は、細胞内でのその安定性を高めるため、また、もし毒性があるならその毒性をより小さなものにするために修飾されていてもよい。このような修飾には、例えばJ.Kawakami et al.,Pharm Tech Japan,Vol.8,p247(1992);Vol.8,p395(1992);S.T.Crooke et al.ed.,Antisense Research and Applications,CRC Press(1993)等に記載された方法等が挙げられる。本発明のDNA等は、リポソーム又はミクロスフェア等に内包された特殊な形態で用いられてもよい。また、本発明に用いられるHGFをコードするDNA等は、塩基以外の他の物質が付加されたものであってもよい。前記他の物質としては、糖;酸又は塩基;リン酸基骨格の電荷を中和するように働くポリリジンのようなポリカチオン体;又は、細胞膜との相互作用を高めたり、核酸の取込みを増大せしめるような脂質(例えば、ホスホリピド、コレステロール等)といった疎水性のものが挙げられる。付加するに好ましい脂質としては、コレステロールやその誘導体(例えば、コレステリルクロロホルメート、コール酸等)などが挙げられる。前記他の物質は、核酸の3’末端あるいは5’末端に付着させることができ、塩基、糖、分子内ヌクレオシド結合を介して付着させることができうる。本発明のDNA等は、その末端が化学修飾されたものであってもよい。末端の修飾基としては、核酸の3’末端あるいは5’末端に特異的に配置されたキャップ用の基で、エキソヌクレアーゼ、RNase等のヌクレアーゼによる分解を阻止するためのものが挙げられる。こうしたキャップ用の基としては、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のグリコールをはじめとした当該分野で知られた水酸基の保護基が挙げられるが、それに限定されるものではない。
本発明に用いられるHGF或いはその部分ペプチドをコードするDNAは、組換え発現ベクターに含有されていてもよい。
組換え発現ベクターとしては、HGF又はその部分ペプチドを発現することができる発現ベクターが好ましい。
本発明に用いられる組換え発現ベクターは、例えば、HGFをコードする塩基配列を有するDNA断片を、適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
前記組換え発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pCR4、pCR2.1、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110、pTP5、pC194)、酵母由来プラスミド(例、pSH19、pSH15)、λファージ等のバクテリオファージ、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス(HIV)、センダイウイルス、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、SV40等のウイルス等の他、pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo等が用いられる。中でも、ウイルスが好ましく、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レトロウイルス、又はポックスウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス(HIV)、センダイウイルス、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、SV40等が好ましい。更にアデノ随伴ウイルス(AAV)若しくはアデノウイルス等を用いることがより好ましい。アデノウイルスには種々の血清型が存在するが、本発明では2型若しくは5型ヒトアデノウイルスを使用することが好ましい。
前記プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、動物細胞を宿主として用いる場合は、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV−TKプロモーター等が挙げられる。これらのうち、CMVプロモーター、SRαプロモーター等を用いるのが好ましい。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPプロモーター、lppプロモーター等が、宿主がバチルス属菌である場合は、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等、宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等が好ましい。宿主が昆虫細胞である場合は、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーター等が好ましい。
発現ベクターには、以上の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン等を有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(以下、dhfrと略称する場合がある。)遺伝子〔メソトレキセート(MTX)耐性〕、アンピシリン耐性遺伝子(以下、Ampと略称する場合がある。)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、Neoと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞CHOを用いてdhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によっても選択できる。また、所望により、宿主に合ったシグナル配列を発現ベクターに付加してもよい。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、PhoA・シグナル配列、OmpA・シグナル配列等が、宿主がバチルス属菌である場合は、α−アミラーゼ・シグナル配列、サブチリシン・シグナル配列等が、宿主が酵母である場合は、MFα・シグナル配列、SUC2・シグナル配列等、宿主が動物細胞である場合には、インシュリン・シグナル配列、α−インターフェロン・シグナル配列、抗体分子・シグナル配列等がそれぞれ利用できる。このようにして構築された本発明のタンパク質をコードするDNAを含有する発現ベクターを宿主に導入することにより、形質転換体を製造することができる。
上記HGF或いはその部分ペプチドをコードするDNAを含有する組換え発現ベクターは、更に宿主細胞に導入されていてもよい。
上記組換え発現ベクターの宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、ビフィズス菌、乳酸菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞等が用いられる。エシェリヒア属菌の具体例としては、Escherichia coli K12・DH1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,60巻,160(1968)〕、JM103〔Nucleic Acids Research),9巻,309(1981)〕,JA221〔Journal of Molecular Biology,120巻,517(1978)〕、HB101〔Journal of Molecular Biology,41巻,459(1969)〕、C600〔Genetics,39巻,440(1954)〕、DH5α〔Inoue,H.,Nojima,H.and Okayama,H.,Gene,96,23−28(1990)〕、DH10B〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87巻,4645−4649(1990)〕等が用いられる。バチルス属菌としては、例えば、Bacillus subtilis MI114〔Gene,24巻,255(1983)〕、〔Journal of Biochemistry,95巻,87(1984)〕等が用いられる。ビフィズス菌としては、例えばBifidobacterium longum、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve等が挙げられる。乳酸菌としては、例えばラクトバチラス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptoccoccus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)等が挙げられる。酵母としては、例えばSaccharomyces cerevisiae AH22、AH22R,NA87−11A、DKD−5D、20B−12、Schizosaccharomyces pombe NCYC1913、NCYC2036、Pichia pastoris等が用いられる。
昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合は、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestrabrassicae由来の細胞又はEstigmena acrea由来の細胞等が用いられる。ウイルスがBmNPVの場合は、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N;BmN細胞)等が用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞(以上、Vaughn,J.L.ら、In Vivo,13,p213−217(1977))等が用いられる。昆虫としては、例えば、カイコの幼虫等が用いられる(前田ら、Nature,315,592(1985))。
動物細胞としては、例えば、サル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO細胞と略記する。)、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO(dhfr)細胞と略記する。)、マウスL細胞、マウスAtT−20、マウスミエローマ細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞等が用いられる。
エシェリヒア属菌を形質転換するには、例えば、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,69,p2110(1972)やGene,17,p107(1982)等に記載の方法に従って行うことができる。バチルス属菌を形質転換するには、例えば、Molecular & General Genetics,168,p111(1979)等に記載の方法に従って行うことができる。酵母を形質転換するには、例えば、Methods in Enzymology,194巻,p182−187(1991)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,p1929(1978)等に記載の方法に従って行うことができる。
昆虫細胞又は昆虫を形質転換するには、例えば、Bio/Technology,6,p47−55(1988)等に記載の方法に従って行うことができる。動物細胞を形質転換するには、例えば、細胞工学別冊8新細胞工学実験プロトコール,p263−267(1995)(秀潤社発行)、Virology,52巻,p456(1973)等に記載の方法に従って行うことができる。このようにして、本発明のタンパク質をコードするDNAを含有する発現ベクターで形質転換された形質転換体が得られる。宿主がエシェリヒア属菌又はバチルス属菌である形質転換体を培養する際、培養に使用される培地としては液体培地が適当であり、その中には該形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他が含有せしめられる。炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖等、窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液等の無機又は有機物質、無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。また、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子等を添加してもよい。培地のpHは約5〜8が望ましい。
エシェリヒア属菌を培養する際の培地としては、例えば、グルコース、カザミノ酸を含むM9培地〔Miller,Journal of Experiments in Molecular Genetics,p431−433,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1972)〕が好ましい。ここに必要によりプロモーターを効率よく働かせるために、例えば、3β−インドリルアクリル酸のような薬剤を加えることができる。宿主がエシェリヒア属菌の場合、培養は通常約15〜43℃で約3〜24時間行い、必要により、通気や撹拌を加えることもできる。宿主がバチルス属菌の場合、培養は通常約30〜40℃で約6〜24時間行い、必要により通気や撹拌を加えることもできる。宿主が酵母である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地〔Bostian,K.L.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,p4505(1980)〕や0.5%カザミノ酸を含有するSD培地〔Bitter,G.A.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,p5330(1984)〕等が挙げられる。培地のpHは約5〜8に調整するのが好ましい。培養は通常約20℃〜35℃で約24〜72時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
宿主が昆虫細胞又は昆虫である形質転換体を培養する際、培地としては、Grace’s Insect Medium(Grace,T.C.C.,Nature,195,p788(1962))に非動化した10%ウシ血清等の添加物を適宜加えたもの等が用いられる。培地のpHは約6.2〜6.4に調整するのが好ましい。培養は通常約27℃で約3〜5日間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。宿主が動物細胞である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地〔Science,122,p501(1952)〕,DMEM培地〔Virology,8,p396(1959)〕,RPMI 1640培地〔The Journal of the American Medical Association,199,p519(1967)〕,199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73,p1(1950)〕等が用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30℃〜40℃で約15〜60時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
以上のようにして、形質転換体の細胞内、細胞膜又は細胞外にHGFを生成せしめることができ、生体に有効にHGFを投与することができる。
組換え発現ベクターを宿主細胞に形質転換せず、裸のベクターとして生体にin vivo導入し、本発明に用いることもできる。裸のベクターとして用いる場合、使用される組換え発現ベクターとしては、pCAGGS[Gene,108,p193−200(1991)]、pBK−CMV、pcDNA3.1、pZeoSV(インビトロゲン社、ストラジーン社)等のプラスミドを用いることができる。該ベクターにも、前記SRαプロモーター、SV40プロモーター等、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン等を含有させることができる。
また、HGFをコードするDNA等又はHGFをコードするDNAを有する組換え発現ベクターを、リポソーム、マイクロカプセル、サイトフェクチン、DNA−タンパク質複合体、バイオポリマー等の人工ベクターに含有させることもできる。
リポソームとは、内部に水層を有する脂質二重膜でできた閉鎖小胞体であり、その脂質二分子膜構造が、生体膜に極めて近似していることが知られている。リポソームを製造するに際し使用されるリン脂質としては、例えば、レシチン、リゾレシチン等のホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール等の酸性リン脂質、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質等が挙げられる。また、コレステロール等を添加することもできる。リポソームは、自体公知の方法に従って製造することができる。リポソームには、膜融合リポソーム、HVJ−膜融合リポソーム[Kaneda.Y et al.,Biol.Chem,264,p12126−12129(1989)、Kato.K et al.,Biol.Chem,266,p3361−3364(1991)、Tomita.N et al.,Biochem.Biophys.Res.,186,p129−134(1992)、Tomota.N et al.,Cric.Res.,73,p898−905(1993)]、陽イオン性リポソーム(特表平2000−510151号公報、特表平2000−516630号公報)等が知られている。センダウイルス(HVJ)と融合させたHVJ−膜融合リポソームを用いることは、特に好ましい。リポソームの表面にHVJの糖タンパクを組み込み、又は共有結合させてポリエチレングリコール等を添加すると、細胞への遺伝子導入効率が上昇する。
HGFをコードするDNAにシグナル配列、プロモーター及びポリアデニル化配列を付加したDNAをリポソーム中に含有させることにより、また、HGFをコードするDNAを含む組換え発現ベクターをリポソーム中に含有させることにより、本発明の喘息の予防・治療剤とすることができる。
マイクロカプセルはフィルムコートされた粒子であり、膜形成ポリマー誘導体、疎水性可塑剤、表面活性剤又は/及び潤滑剤窒素含有ポリマーの混合物からなるコーティング材料でコートされた粒子等で構成される。
HGFをコードするDNAにシグナル配列、プロモーター及びポリアデニル化配列を付加したDNAをマイクロカプセル中に含有させることにより、また、HGFをコードするDNAを有する組換え発現ベクターをマイクロカプセル中に含有させることにより、本発明の喘息の予防・治療剤とすることができる。
HGF又はその塩等を直接投与するか、又はHGFをコードするDNA等を投与し、HGFを投与部位において発現させることにより、投与された生体の気管支炎の炎症等を抑制することができる。それ故、(a)HGFもしくはその部分ペプチド又はそれらの塩、又は(b)HGFもしくはその部分ペプチドをコードするDNAもしくはRNAは、喘息の予防・治療剤として使用することができる。
前記「喘息」とは、いわゆるアレルギー性の慢性気道炎症や気道過敏性亢進(AHR)等に関係する一連の症候群をいう。本発明の喘息の予防、治療剤は、急性・一過性又は慢性の喘息の両方において有効であり、小児喘息においてもその効果を発揮する。喘息の原因が、例えばウイルス感染(いわゆる風邪)、アレルゲン、化学物質によるもの等のいかなる場合であっても、また特に小児喘息においては、アトピー型であろうと非アトピー型であろうと、これらの予防・治療に有効に使用することができる。
本発明の喘息の予防・治療剤がHGFからなる場合は、常套手段に従って製剤化することができる。一方、HGFをコードするDNA等を該予防・治療剤として使用する場合は、上述した通り、該DNA等を単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はアデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクター等の適当なベクターに挿入した後、常套手段に従って製剤化することができる。本発明のDNA等は、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤とともに、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与することもできる。
例えば、HGF若しくはその塩又はHGFをコードするDNA等は、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等として経口的に投与したり、患部、皮下、筋肉内等に埋め込むこともできる。また、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液又は懸濁液剤等の注射剤の形で非経口的に投与することもできる。本発明の喘息の予防又は治療剤は、ネブライザーや吸入剤(ポケット型ネブライザー)の形で投与することができる。ネブライザーによる投与に際しては、好ましくは電動式ネブライザー(例えばジェット式ネブライザー、超音波式ネブライザー、メッシュ式のネブライザー等)が使用される。本発明の喘息の予防又は治療剤は、電動式ネブライザーの器具の中に入れられ、加圧された空気の噴出によって液体の薬剤を霧状にし人の気道に噴霧されるか、超音波振動によって薬剤を噴霧し、気道に投与される。吸入剤による投与方法としては、本発明の喘息の予防又は治療剤を例えばスプレー等で直接噴霧する方法か、吸入補助器具(スペーサー)を使用して噴霧された薬剤を吸入する方法が挙げられる。
本発明の製剤は、例えば、HGF若しくはその塩又はHGFをコードするDNA等を生理学的に認められる公知の担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤又は徐放性を付与する物質等とともに混和することによって製造することができる。
錠剤、カプセル剤等において混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤;結晶性セルロースのような賦形剤;コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸等のような膨化剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤;ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤等が挙げられる。錠剤には、適当なコーティング剤(ゼラチン、白糖、アラビアゴム、カルナバロウ等)、腸溶性コーティング剤(例えば酢酸フタル酸セルロース、メタアクリル酸コポリマー、ヒドロキシプロピルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース等)などで剤皮を施してもよい。カプセル剤の場合には、さらに油脂のような液状担体を含有することができる。また、カプセル剤は、通常のカプセル剤の他、腸溶性コーティングカプセル剤、胃内抵抗性カプセル剤、放出制御カプセル剤とすることもできる。腸溶性カプセル剤とする場合、腸溶性コーティング剤でコーティングしたHGF又はHGFに上記の適当な賦形剤を添加したものを通常のカプセルに充填する。あるいは、腸溶性コーティング剤でコーティングしたカプセル、若しくは腸溶性高分子を基剤として成形したカプセルにHGF又はHGFに上記の適当な賦形剤を添加したものを充填することができる。
注射のための無菌組成物は注射用水性液又は油性液に有効成分を溶解又は懸濁させる等の通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウム等)などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例、ポリソルベート80TM、HCO−50)等を併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤である安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。さらに、前記無菌組成物には、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン等)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコール等)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール等)、酸化防止剤等が配合されてもよい。調製された無菌組成物は通常、適当なアンプルに充填され、注射剤として供される。
また、ネブライザー用液剤や吸入剤として製造する場合、その添加剤としては、一般に吸入用製剤に使用される添加剤であればいずれのものであってもよく、例えば、上記した賦形剤、緩衝剤、溶解補助剤、保存剤、安定剤、等張化液、pH調整剤(塩酸、水酸化ナトリウム等)、及び矯味剤(クエン酸、メントール、グリチルリチンアンモニウム塩、グリシン、香料等)などが用いられる。吸入剤においては、前記添加剤に加え噴射剤が配合される。噴射剤としては、液化ガス噴射剤、圧縮ガス等が用いられる。液化ガス噴射剤としては、例えば、フッ化炭化水素(HCFC22、HCFC−123、HCFC−134a、HCFC142等の代替フロン類等)、液化石油、ジメチルエーテル等が挙げられる。圧縮ガスとしては、例えば、可溶性ガス(炭酸ガス、亜酸化窒素ガス等)、不溶性ガス(窒素ガス等)などが挙げられる。
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル等)などに対して投与することができる。
本発明に用いられるHGFをコードするDNA等を製剤化せずに生体に投与する場合は、公知の方法に従って行ってよいが、例えば、DNAを直接体内に導入するin vivo法、又は投与されるヒト等からある種の細胞を体外に取り出して、これにDNAを導入し、その形質転換細胞を体内に戻すex vivo法がある[日経サイエンス、4月号、20−45(1994)、月間薬事、36、23−48(1994)、実験医学増刊、12、15(1994)]。それぞれの方法において、DNAを細胞に導入する方法としては、上述したようにアデノ随伴ウイルス、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター等の組換え発現ベクターに含有させて、該発現ベクター等を導入する遺伝子導入方法、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、形質導入、細胞融合、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム沈殿、遺伝子銃で担体(金属粒子等)とともにDNAを細胞内に導入する方法等、自体公知の方法により細胞に導入する方法[Wu et al.,J.Blol.Chem.267,963−967(1992)、Wu et al.,J.Blol.Chem.263,14621−14624,(1988)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,88,2726−2730(1991)]が挙げられる。またリポソーム等を用いる場合には、リポソーム法、HVJ−リポソーム法、陽イオン性リポソーム法、リポフェクチン法、リポフェクトアミン法等が挙げられる。
中でも、導入効率の観点から、アデノウイルスベクター又はレトロウイルスベクターを用いる遺伝子導入方法が望ましい。
また、上記組換え発現ベクターを宿主細胞に導入し、該形質転換体を本発明の予防・治療剤とすることもできる。その場合は、例えば形質転換体をカプセル等に含有させてカプセル製剤として生体に投与することができる。
またHVJ−リポソーム等のリポソームを用いる場合には、例えば、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤等のリポソーム製剤の形態とすることができる。
本発明にかかる喘息の予防・治療剤は、経口的に投与したり、患部、皮下、筋肉内等に埋め込んだり、静脈投与することができるが、好ましくは静脈投与又は気管支に局所的に投与することが好ましい。
また本発明の喘息の予防・治療剤の投与時期は、喘息の症状が起こった時に投与されるのが好ましい。また喘息の慢性化、重症・難治化に繋がる危険性がある場合等には、継続的に投与され、気道の不完全修復(remodeling:リモデリング)を予防するのが好ましい。
本発明の予防・治療剤の投与量は、投与対象、症状、投与形態、処置期間等により異なるので一概には言えないが、通常、静脈投与の場合、HGFとして、約250〜1000μg/Kg/日、好ましくは約300〜800μg/Kg/日、特に好ましくは、約300〜550μg/Kg/日、またHGFをコードするDNA等として、約0.2〜40,000μg/Kg/日、好ましくは約2〜2,000μg/Kg/日である。
本発明の製剤を投与することにより、喘息の発作時における気道の炎症を抑制及び予防することができる。気道の炎症時には、通常「気管支平滑筋の収縮」「粘膜の浮腫」「分泌物の増加」等の変化が起こっていると考えられており、具体的な症状としては呼吸停止等が見られる。病理形態的には、肺組織への炎症細胞、例えば好酸球、Tリンパ球やマクロファージ等の浸潤、気道上皮組織における粘液産生細胞(杯細胞)の過増殖等により確認できる。また、血清中の抗原特異的IgE値が上昇し、更には、気管支肺胞洗浄液(以降、BAL液と略す場合がある。)中のTh2サイトカイン、例えばIL−4、IL−5、IL−13等やグロースファクター、例えば血小板由来増殖因子(PDGF)、神経増殖因子(NGF)、変形増殖因子(TGF−β)の濃度が上昇することが確認されている。
従って、本発明の製剤を投与すると、炎症時に見られる上記の現象が抑制される。
本発明の製剤の気道炎症抑制作用効果は、マウスを用いた抗原反復吸入暴露による実験的気管支喘息モデルを作成し、該マウスが気道の炎症反応を起こす環境下において本発明の製剤を該マウスに投与し、気道炎症及び気道過敏性亢進が抑制されることにより確認することができる。
気管支喘息モデルの作製は特に限定されないが、例えば、マウスに卵白アルブミン感作・吸入暴露を施して抗原特異的免疫性を付与する方法が挙げられる。この抗原誘発アレルギー性気道炎症モデルマウスに、例えばメサコリン(Methacholine)等の気道収縮作用を有する物質を吸入させることにより、気道炎症を引き起こさせることができる。
血清中抗原特異的IgE値の測定には、例えばELISA法(Temann,U.A.,Am.J.Respir.Cull.Mol.Biol.,16,p471−478,1997)等を用いることができる。
BAL液中の炎症細胞を含む全BAL細胞数の測定は、例えば生理食塩水で肺胞内を洗浄し、得られたBAL液中に存在する細胞の数を顕微鏡下で計測することにより行うことができる。
BAL液上清中のIL−4、IL−5、IL−13等のサイトカインやPDGF、NGF、TGF−β等のグロースファクターの濃度の測定は、例えばELISA法により行うことができる。ELISAにおける比色計測定は、それぞれ添付の使用説明書に記載の方法に従って行うのがよい。
組織学的及び免疫組織学的に気道炎症を確認する方法としては、例えば、気管支周辺の肺組織を過ヨウ素酸シッフ染色後、顕微鏡下で粘液産生細胞(杯細胞)の数を計測する方法、また気管支周辺の組織細胞をヘマトキシン−エオジン染色後、同じく顕微鏡下で好酸球、リンパ球又はマクロファージの数を計測する方法等が挙げられる。これらの計測には、NIH Image Analysis system(National Institute of Health,Bethesda,MD)等を用いることができる。また、気管支周辺組織細胞に、例えば抗TGF−βウサギIgGを吸着させ、その後アビジン−ビオチン処理(Ueki,T.,et al.Nat,Med.,5,p226−230,1999)することにより、細胞内のTGF−βの蓄積を確認することができる。
以下に、実施例等を示して本発明を具体的に説明するが、言うまでもなく、本発明はこれらに限定されるものではない。
製造例
HGFを含有する製剤の製造
(1) HGFcDNAの作製
ヒトのMRC−5線維芽細胞からFast Track mRNA isolation kit(Invitrogen)を使用し、mRNAを単離し、これを使用してRT−PCR(reverse transcription/polymerase chain reaction)を行い、HGFcDNAを単離した。具体的には、mRNA溶液0.5μL(150ng)、10×RT−PCR溶液[500mM KCl、100mM トリス−HCl(pH9.0)、1% Triton X−100、15mM MgCl]5μL、dNTP(2.5mM)4μL、プライマー:1(10mM)2μL、プライマー:2(10mM)2μL、Taqポリメラーゼ(Takara)0.5μL、RNasin(Promega)0.5μL、逆転写酵素(Takara)0.5μL及びDEPC処理HO 35.2μLを混合し、42℃ 30分、95℃ 5分で逆転写反応を行い、94℃ 30秒、55℃ 1分、72℃ 1分のサイクルを40回繰り返し、さらに72℃ 7分間反応させHGFcDNAを得た。このようにして得られたHGFcDNAをTA Cloning Kit(Invitrogen)を使用してpCRIITMベクターにクローニングし、pCRII/HGFを得た。
なお、プライマー:a及びプライマー:bの配列は、以下の通りのとおりである。

(2) 組換え発現ベクターの構築
(1)で作製したpCRIIベクターに組み込まれたHGFcDNAを制限酵素Kpn I/Spe Iで切断し、T4 DNAポリメラーゼ(Takara)処理により切断末端を平滑化させた。得られたHGFcDNA断片をあらかじめ制限酵素Xho Iで処理した後、切断末端を平滑化しておいたCHO細胞用発現ベクターpCAGGS−DHFRと混合し、T4 DNAリガーゼで結合してHGF発現ベクターpCAGGS−DHFR/HGFを得た。得られたHGF発現ベクターはニワトリβ−アクチンプロモーターとウサギβ−グロビンポリ(A)シグナル配列の間にHGFcDNAを有する。また、形質転換された細胞の選択は、マウスジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子にサイトメガロウイルス初期プロモーターとポリ(A)シグナル配列で連結したDHFRキメラ遺伝子により可能となる。
(3) チャイニーズハムスターCHO細胞への形質転換とその発現
上記CHO細胞発現用ベクターpCAGGS−DHFR/HGFはWiglerらの方法[Cell,11,p233(1977)]によりチャイニーズハムスターCHO細胞のDHFR欠損細胞に導入した。約30μgのpCAGGS−DHFR/HGFプラスミドをそれぞれ240μLの0.5M塩化カルシウムに溶解し、20mM HEPES、280mM塩化ナトリウム及び1.5mMリン酸ナトリウムからなる2×HEPES緩衝液(pH7.1)240μLを攪拌しながら加えた。室温で30分攪拌を続けプラスミドとリン酸カルシウムの共沈殿物を形成させた。続いて、10%ウシ胎仔血清(ギブコ社)と1%グルタミンとを含むα−MEM培地(フローラボラトリー社)を用いて5×10個のCHO細胞を5%CO存在下で37℃、24時間培養した。培地交換した後、プラスミドとリン酸カルシウム共沈殿物を加え室温で20分間放置した。さらに、37℃で4時間インキュベートした後、培地を除去し、15%グリセリンを添加した1×HEPES緩衝液を加え室温で5分間放置した。培地で細胞を洗浄した後、培地交換しさらに37℃で7日間培養して形質転換細胞を得た。得られた細胞株はリボヌクレオシドとデオキシリボヌクレオシドを含まず、透析した10%ウシ胎仔血清(ギブコ社)、2%グルタミンを含むα−MEM培地(フローラボラトリー社)を用いて安定なHGF高生産株を得るために100nM、250nM、500nM、750nM、1μM、2μMとメソトレキセート濃度を順次追加させながら同培地で継代培養を繰り返した。得られたHGF産生組換え細胞をクローン選別を行い、安定なHGF生産株を得た。
(4) 形質転換CHO細胞培養上清からのHGFの精製
上記(3)で得られたHGF産生チャイニーズハムスターCHO組換え細胞株をリボヌクレオシドとデオキシリボヌクレオシドを含まず、10%ウシ胎仔血清(ギブコ社)と1%グルタミンと2μMメソトレキセートを含むα−MEM培地(フローラボラトリー社)で培養し、その培養上清より、HGFを精製した。
イ)ヘパリンアフィニティークロマトグラフィー
HGF産生チャイニーズハムスターCHO組換え細胞株の培養液12Lに最終濃度0.01%になるようにTween 80を添加し、ステベックスHVフィルター(日本ミリポア)により濾過した。0.15M塩化ナトリウムを含む緩衝液A(20mM Citrate−NaOH、0.01%Tween 80、pH6.5)で平衡化したヘパリン−セファロースCL−6B(ファルマシア製、カラム体積50mL)に添加した。0.5M塩化ナトリウムを含む緩衝液Aで洗浄後、0.5Mから2.5Mの塩化ナトリウムによる直線濃度勾配により溶出したピーク画分を集め、ヘパリン溶出液Aとした。
ロ)陰イオン交換クロマトグラフィー
ヘパリン溶出液Aを100倍容の緩衝液B(20mM Tris−HCl、0.01%Tween 80、pH8.0)で3回透析を行った後、緩衝液Bで平衡化したDEAE−セファロース(ファルマシア製、カラム体積40mL)に添加した。緩衝液Bで洗浄後、1M塩化ナトリウムを含む緩衝液Bで溶出したピーク画分を集め、DEAE溶出液とした。
ハ)ヘパリンアフィニティークロマトグラフィー(2回目)
DEAE溶出液を100倍容の緩衝液Aで3回透析を行った後、0.15M塩化ナトリウムを含む緩衝液Aで平衡化したヘパリン−セファロースCL−6B(ファルマシア製、カラム体積50mL)に添加した。0.3M塩化ナトリウムを含む緩衝液Aで洗浄後、0.3Mから2.5Mの塩化ナトリウムによる直線濃度勾配により吸着物を溶出した。HGFのピーク画分を集め、ヘパリン溶出液Bとした。精製されたHGFの収量は約12mgであり、培養上清液からの回収率は約50%であった。
ニ)SDS−ポリアクリルアミド電気泳動
HGFを2−メルカプトエタノール還元下及び非還元下でSDS−ポリアクリルアミド電気泳動を行った。精製HGFは非還元条件下[2−ME(−)]では約50kDaを示し、還元条件下[2−ME(+)]では約67kDaを示した。
(5) 凍結乾燥剤の作製
生理食塩水100mL中に(4)で調整したHGF(1g)、マンニトール(1g)及びポリソルベート80(10mg)を含有する溶液を無菌的に調整し、1mLずつバイアルに分注した後、凍結乾燥して密封して、本発明の製剤を凍結乾燥剤として調整した(製剤1)。
【実施例】
HGF投与による気道炎症抑制効果の確認
(1)気道過敏性亢進におけるHGF投与の影響
雌の8〜10週令マウス(BALB/c:Charles River Japan,Inc.)に卵白アルブミン(OVA)非含有飼料を与え、一定温度、一定光サイクル下で飼育した。
気管支喘息モデルマウスを、以下に示す方法により作製した。
生理食塩水100μL中に20μgOVA(Grade V、Sigma,St.Louis MO)及び2.25mg硫酸アルミニウム(乳化剤:AlumImuject;Piearce,Rockford,IL)を懸濁し、この懸濁液をマウスの腹腔内に、飼育開始0日後及び14日後に投与した。該マウスに、生理食塩水に1%のOVAを含む液を、超音波ネブライザーを用いて、20分間、OVAを吸入させた。吸入暴露は、飼育開始28、29及び30日後に行った。
気管支喘息モデルマウス作製中に、一部のマウスに製造例で得た製剤1を投与した。1mgの製剤1を10mLの生理食塩水に溶解・希釈後、該溶液0.2mLを飼育開始後27〜31日の期間毎日、継続的に皮下投与した(HGF投与群、n=16:感作/暴露+HGF)。製剤1の投与量は、HGFとして500μg/kg/日とした。
製剤1を生理食塩水に溶解して作成した溶液に代えて、生理食塩水0.2mLを、飼育開始後27〜31日に継続的に皮下投与した群も作製した(生理食塩水投与群、n=16:感作/暴露+生理食塩水)。また、上記のOVAによる感作・暴露を行わないマウスを、対照群(n=16:非感作/非暴露)とした。
尚、群間比較は、二元配置分散分析を行った後、生理食塩水投与群とHGF投与群との間(*)、又は対照群と生理食塩水投与群との間(#)で、差を検定することにより行った(t検定)。以降の試験においても、同様に群間比較を行った。
気管支喘息モデルマウスにおける気道過敏性の評価は、以下に示す方法により行った。メサコリン含有生理食塩水(3.125〜25mg/mL)又は生理食塩水のみを超音波ネブライザー(NE−U07,OMRON社製)にて、気管支喘息モデルマウスのHGF投与群、生理食塩水投与群及び気管支喘息でない対照群にそれぞれ3分間吸入させた後、ホールボディープレチスモグラフボックス内にマウスを入れ、マウスが覚醒下かつ無拘束の状態で、バロメトリックプレチスモグラフ(Barometric plethysmography:Buxco Electronics Inc,Troy,NY)によるコンピューター呼吸機能解析システム(Buxco Electronics Inc.,Troy,NY)を用いて気道過敏性(Penh)を測定した。Pehnの測定は以下の式に従った。
Penh=PEP/PIP x Te−Tr/Tr
PEP;peak expiratory pressure(mL/s),maximal positive box pressure occurring in one breath
PIP;peak inspiratory pressure(mL/s),maximal negative box pressure occurring in one breath
Te;expiratory time(s),time from end of inspiration to start of next inspiration
Tr;relaxation time(s),time of the pressure decay to 36% of total box pressure during expirations
(Cieslewicz.G et al.,JCI,104,p301−308(1999)
その結果、各群において、生理食塩水のみを吸入した時に得られるベースラインPenh値には殆ど差がなかった(非感作/非暴露:0.49±0.04、感作/暴露+生理食塩水:0.53±0.17、感作/暴露+HGF:0.53±0.13)が、メサコリンを吸入した場合、生理食塩水投与群ではメサコリン濃度に依存して急激な気道過敏性の上昇が見られた。これに対しHGF投与群では、その気道過敏性の上昇が有意に抑制された(第1図)。
(2)BAL液中炎症細胞数の測定
(1)に記載の試験48時間後、各群のマウスの気管支・肺胞内を、気管内チューブを介して生理食塩水(1mL、37℃)で2回洗浄した。洗浄液を回収し、全BAL液量及びBAL液内の全細胞数を、B▲u▼rker−t▲u▼rk式血球計算板を用いて測定した。次いで、BAL液からサイトスピン(Cytospin3:SHANDON社製)を用いて単層標本を作製し(4,000rpm、5分)、これをメイ・ギムザ染色(13分)した。該組織単層標本を顕微鏡下において観察し、BAL液中におけるマクロファージ、リンパ球、好中球、好酸球等の炎症細胞数を測定した。
その結果、対照群においては、全BAL細胞数が少なく、またその内約95%以上をマクロファージが占めており、他の炎症細胞は殆ど見られなかった。生理食塩水投与群においては、著しいリンパ球と好酸球の増加が見られた。これに対し、HGF投与群では、生理食塩水投与群において見られたリンパ球と好酸球数の増加が有意に抑制されていた(第2図)。
(3)気管支周囲・血管周囲の組織内における浸潤炎症細胞数の測定
(2)の肺胞内洗浄後の右肺に2mLの空気を、気管内チューブを介して送り、右肺胞を膨らませ、10%ホルマリンで、48時間固定した。この固定組織から主気管支周辺の肺組織ブロックを切り出し、パラフィン固定した。ブロックから4μm厚の組織切片を作製し、これらを顕微鏡スライド上に固定した後パラフィンを除去した。該組織検体スライドをヘマトキシン−エオジン染色し、明視化された炎症細胞の浸潤状況を顕微鏡下で観察した(最終倍率×400、インセット×1,000)。炎症細胞数の計測には、NIH Image Analysis system(National Institute of Health,Bethesda,MD)等を用いた。上記計測は、ランダムに選択した10視野に対して行い、組織1mm当たりの細胞数の平均値を算出した。また試験に供した各群のマウスの数はそれぞれ16匹とした。
ヘマトキシン−エオジン染色は以下の通り行った。組織検体スライドを脱パラフィン後、ヘマトキシン液による染色を室温で5分間行い、37℃のぬるま湯に5分間浸漬することにより余分な色素を洗い流した。次いで、検体を室温で95%アルコールに15秒浸し、親和させた後、水溶性エオジン液により対比染色を10分間行った。
その結果を第3図及び第4図に示す。対照群においては、殆ど気管支周囲・血管周囲組織に炎症細胞の浸潤は見られなかった〔第3図−(a)〕が、生理食塩水投与群においては、炎症細胞の浸潤が見られ〔第3図−(b)〕、炎症細胞数及び好酸球数が著しく増加した(第4図)。これに対し、HGF投与群では、生理食塩水投与群に比較して、炎症細胞の浸潤の程度が低く、炎症細胞数及び好酸球数の増加が抑制されていた(第3図−(c)、第4図)。
(4)気道上皮組織における粘液産生細胞(杯細胞)数の測定
(3)の右肺固定組織から気道上皮組織を含む主気管支周辺の肺組織ブロックを切り出し、組織検体スライドを作製した。該組織検体スライドを過ヨウ素酸シッフ染色し、明視化された杯細胞の数を顕微鏡下で計測した(最終倍率×1,000)。計測には、NIH Image Analysis system(National Institute of Health,Bethesda,MD)等を用いた。上記計測をランダムに選択した10視野に対して行い、気道上皮基底膜の単位長さ(1mm)当りの細胞数の平均値を算出した。
また、細胞中の粘液含有量を、過ヨウ素酸シッフ染色により着色される色の濃さ(染色率)から判定し、粘液産生細胞を染色率が50%以上又は50%以下の2種類に分類した。
過ヨウ素酸シッフ染色は以下の通り行った。組織検体スライドを脱パラフィン後、検体を室温で1%過ヨウ素酸水溶液に浸漬し、酸化させた。流水で水洗後、検体をシッフ試薬により室温で10分間染色し、再び流水で十分水洗後、ヘマトキシリン液により1分間の核染色を行った。
結果を第5図に示す。生理食塩水投与群〔第5図−(b)〕においては、対照群〔第5図−(a)〕に比べて粘液産生細胞の数が顕著に増加した〔第5図−(d)〕。これに対し、HGF投与群では、粘液産生細胞数の増加が抑制されており〔第5図−(c)、(d)〕、しかも粘液含有量50%以上の細胞の数も、生理食塩水投与群に比べて顕著に低く(生理食塩水投与群:165±27個/mm、HGF投与群:54±16個/mm)、各細胞内における粘液の分泌量も低下していることが確認された〔第5図−(e)〕。
(5)BAL液中サイトカイン及びグロースファクターの濃度測定
BAL液中のサイトカイン及びグロースファクターの濃度は、BAL液を遠心(4℃、3,000rpm、10分間)して得られた上清を用いて測定した。IL−4、IL−5、IL−12、IL−13並びにPDGFは、R&D(Minneapolis,MN)のELISAキットを、またTGF−β又はNGFはそれぞれPromega(Madison,WI)又はChemicon(Temecula,CA)のELISAキットを用いて、それぞれ添付の使用説明書に記載の方法に従って測定した。
結果を第6図及び第7図に示す。生理食塩水投与群においては、IL−4、IL−5及びIL−13のサイトカイン(第6図−(a)、(b)及び(c))、並びにPDGF、NGF及びTGF−β(第7図−(a)、(b)及び(c))のいずれも、対照群に比べて顕著に濃度が上昇した。これに対し、HGF投与群では、これらの濃度の上昇が全て有意に抑制された。一方IL−12濃度は、対照群に比べ、生理食塩水投与群では低下したが、HGF投与群では有意に上昇した(第6図−(d))。
(6)肺組織中におけるTGF−βの蓄積
(2)の肺胞洗浄後の左肺を70%エタノールで12時間脱水した。脱水した左肺をパラフィン固定後、(3)と同様に組織検体スライドを作製した。組織検体に抗TGF−βウサギIgG(Promega,Madison,WI)を吸着させ(1:250)、次いで、アビジン−ビオチン免疫染色を施し、組織内のTGF−βを明視化し、顕微鏡下(最終倍率×1,000)で観察した。
抗TGF−βウサギIgGの吸着は、4℃、12時間で行い、アビジン−ビオチン処理は、室温で60分間行った。パーオキシダーゼ標識ポリマー試薬の反応は遮光下で、室温、15分間行った。
その結果、生理食塩水投与群(第8図−(b))においては、対照群(第8図−(a))に比べて気道上皮及び炎症細胞の殆どが染色され、細胞内においてTGF−βが産生されていることが確認された。これに対し、HGF投与群(第8図−(c))では、染色された細胞の数が生理食塩水投与群に比べて少なく、TGF−βの産生が抑制されていることが確認された。
(7)血清中抗原特異的IgE抗体(抗OVAIgE)量の測定
各群のマウスの下大静脈より、血液サンプルを採取し、4℃、1,500rpmで20分遠心し、血清サンプルを作製した。
96ウェルのプレート(NUNC IMMUNOPLATE I:Nunc)に、5μg/mLのモノクローナル抗マウスIgE抗体(Serotec)を含むPBS希釈液を100μL/wellで分注し、4℃にて1晩反応させてプレートをコートした。その後、各ウエルを0.1%Tween20−PBS(−)(Ca2+及びMg2+を含まない)(洗浄用バッファー)にて5回洗浄し、1%BSA(和光純薬工業株式会社)−PBSを150μL/wellで加え、室温にて1時間インキュベートした。ついで、洗浄用バッファーにて5回洗浄し、各群のマウスの血清サンプルを100μL/wellずつ加え、室温にて1時間インキュベートした。同時に、標準曲線作成用として、あらかじめ総IgE抗体量測定の系で定量したモノクローナル抗OVA特異的IgE抗体を、1%BSA−0.1%Tween20−PBS(希釈バッファー)で各種濃度に希釈して、同一プレートの別のウエルに加えた。各ウエルを洗浄バッファーで5回洗浄した後、希釈バッファーで50倍に希釈したビオチン標識OVAを100μL/wellで加え、さらに室温で1時間インキュベートした。各ウエルを、洗浄バッファーで5回洗浄し、希釈バッファーで3000倍に希釈したパーオキシダーゼ結合ストレプトアビジン(peroxidase conjugated streptavidinDAKO)を100μL/wellで加え、さらに室温で1時間インキュベートした。各ウエルを、洗浄バッファーで5回洗浄し、基質溶液(0.1M クエン酸、0.2M NaHPO、O−フェニレンジアミン、及び30%Hを含む。)を100μL/wellで加えて、室温暗所にて約30分間反応させた後、プレートの各ウエルの吸光度を492nmで測定した。
結果を第9図に示す。生理食塩水投与群においては、抗OVA特異的IgEの濃度が、対照群に比べて著しく上昇した。これに対し、HGF投与群では、抗OVA特異的IgEの濃度の上昇が抑制された。
【産業上の利用可能性】
本発明の喘息の予防・治療剤は、気道の炎症時に確認される炎症細胞の気道上皮及び上皮下への浸潤、Th2サイトカイン及びグロースファクター等の気道組織内での濃度上昇等を抑制し、気管支喘息における炎症反応を極めて有効に抑制することができ、慢性喘息或いは重症・難治性喘息への移行を予防することができる。しかも、その有効成分を生体由来のHGF又はそのHGFをコードするDNAとすることから、生体に投与しても、従来のステロイド吸入において見られる様な副作用がない。従って本発明の喘息の予防・治療剤は、生体に非常に安全で有用である。
本出願は日本で出願された特願2003−086268を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。
【配列表】












【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
HGF又はその塩を有効成分として含有する喘息の予防又は治療剤。
【請求項2】
HGFが、配列番号:1又は2で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号:1又は2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチド又はこれらの部分ペプチドであることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の喘息の予防又は治療剤。
【請求項3】
HGFをコードするDNAを有効成分として含有する喘息の予防又は治療剤。
【請求項4】
HGFをコードするDNAが、配列番号:3又は4で表される塩基配列又は配列番号:3又は4で表される塩基配列とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含むDNAであることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の喘息の予防又は治療剤。
【請求項5】
HGFをコードするDNAが、組換え発現ベクターに挿入されていることを特徴とする請求の範囲第3項又は第4項に記載の喘息の予防又は治療剤。
【請求項6】
組換え発現ベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス(HIV)、センダイウイルス、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、SV40、pCAGGS、pBK−CMV、pcDNA3.1又はpZeoSVであることを特徴とする請求の範囲第5項に記載の喘息の予防又は治療剤。
【請求項7】
組換え発現ベクターが、更に宿主細胞に含まれていることを特徴とする請求の範囲第5項又は第6項に記載の喘息の予防又は治療剤。
【請求項8】
HGFをコードするDNA又はHGFをコードするDNAを含む組換え発現ベクターが、リポソーム又はマイクロカプセルに含まれていることを特徴とする請求の範囲第3項〜第7項のいずれかに記載の喘息の予防又は治療剤。
【請求項9】
更に薬剤学的に許容され得る担体を含むことを特徴とする請求の範囲第1項〜第8項のいずれかに記載の喘息の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項10】
HGF又はその塩の有効量を、哺乳動物に投与することにより気道の炎症を抑制することを特徴とする喘息の予防又は治療方法。
【請求項11】
HGFをコードするDNAの有効量を、哺乳動物に投与することにより気道の炎症を抑制することを特徴とする喘息の予防又は治療方法。
【請求項12】
気道の炎症を抑制することを特徴とする喘息の予防又は治療剤の製造のためのHGF又はその塩の使用。
【請求項13】
気道の炎症を抑制することを特徴とする喘息の予防又は治療剤の製造のためのHGFをコードするDNAの使用。

【国際公開番号】WO2004/084934
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504091(P2005−504091)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004133
【国際出願日】平成16年3月24日(2004.3.24)
【出願人】(502068908)クリングルファーマ株式会社 (16)
【出願人】(591115073)
【Fターム(参考)】