説明

嗅覚刺激に対する応答を測定するための方法

【課題】ドーパミン作動性経路による報酬を引き出す香料材料の能力を評価すること。
【解決手段】本発明は、ドーパミン作動性経路による報酬を引き出すという香料材料の能力を評価するために、機能的磁気共鳴画像法を使って香料試料をスクリーニングする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嗅覚刺激、特に、報酬効果を誘発する香料成分、アコード(accord)または調合香料による刺激に対するヒトの応答を識別するための、fMRI(functional Magnetic Resonance Imaging)とマッピング技法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の消費者調査技法は、ある製品が商業的に成功するかしないかの予測では、限られた成功しか収めてこなかった。質問に応じて考えをまとめ、それを言語で表現するのに要求される時間と熟慮を伴わずに、刺激に対する脳の応答を測定する技法を有することが望ましい。磁気共鳴画像法は、脳が刺激を解釈している間に消費者が刺激に対して非言語的にどのように応答するかを調べる方法を提供し、これにより、(例えば梨状皮質(PC)における)一次応答と(例えば眼窩前頭皮質(OFC)における)感覚シグナルのさらなる処理との両方を、可視化することが可能になる。消費者は、製品に反応するために、それを使用し、または体験する必要があるが、MRI(Magnetic Resonance Imaging)によって脳の応答を測定している状況では、それが困難な製品も多い。しかし、特別な形態のオルファクトメーターを使用すれば、脳の応答を測定しつつ、正確かつ精密に被験者に嗅覚刺激を導入することが可能である。
【0003】
オルファクトメーターは、制御された再現性ある方法で、被験者にいくつかの嗅覚刺激を与えるために設計された機器である。MRIスキャニング技法の要件が、MRIスキャナとの併用に適したオルファクトメーターの設計に制約を課している。大きな制約の一つは、スキャナの近傍からの磁気材料の排除である。MRIスキャナと併用することができるオルファクトメーターが入手可能になったため、嗅覚刺激に対する脳の応答をMRIで測定することへの関心が、ここ数年の間に著しく高まっている。嗅覚に関してMRI測定への関心の大半は、刺激に対する快不快応答に集中してきた(例えばZatorre R.L,Jones−Gottman M,Rouby C「臭気の快適さおよび強度の判定に関与する神経機序(Neural mechanisms involved in odor pleasantness and intensity judgements)」Neuroreport 11 2711−2716(2000)(非特許文献1参照)またはKobal G,Kettenmann B,Int.J.Psychophysiology 36(2)157−163 2000(非特許文献2参照)を参照)。
【0004】
情動応答に関して広く支持されている見解は、ヒトが次に挙げる6つの基本的情動を有しているというものである(Ekmanら,J of Personality and Social Psychology 1987 v53,p712(非特許文献3参照))。:
・怒り
・嫌悪
・恐怖
・幸福
・悲しみ
・驚き
【0005】
これらの情動は報酬に関係しているが、報酬はこれらの情動を賦活する効果である。実際、これらの情動のいずれの賦活も、その結果は報酬であり得る(例えば、恐怖に打ち勝てば、勇敢であるということになり、報酬が得られ、そして今度は、この報酬を体験するために、恐怖を探し求めるようになる可能性がある、という具合である)。
【0006】
ドーパミン作動性経路は報酬経路と呼ばれることもあり、一般に、次に挙げるような機能と関連している。:
・動機づけおよび情動応答
・報酬および欲求
・喜び、多幸感
・嗜癖、強迫
【0007】
報酬は一般に「物事を良くする」と感じられるので、それは、好まれ、欲求され、追求される。報酬は、言葉を使って表される場合もあるし、強い幸福感を伝える表現を使って表される場合もある。
【0008】
ドーパミン作動性経路に関与する脳の領域はよく理解されており、概要はT.A.Woolsetら「The Brain Atlas」(Wiley 2008,ISBN978−0−470−08476−2)(非特許文献4参照)などの標準的な記述に見いだすことができ、詳細については、O.Arrias−Carrionら著「ドーパミン作動性報酬系:短総説(Dopaminergic reward system:a short integrative review)」International Archives of Medicine 2010,3:24(非特許文献5参照)、およびEverittら,Brain Res Brain Res Review 36,p129−138(2001)(非特許文献6参照)などの総説に見いだすことができる。この経路には、腹側被蓋野(ドーパミン作動性中脳内に位置する)、側坐核、線条体(尾状核および被殻)、扁桃体、海馬ならびに前前頭皮質(上、中、下前頭回)および前帯状回が関与する。
【0009】
多様な刺激を使ったfMRI研究の総説において、SharpleyおよびBitsika(Behav Brain Res 2010 Jul 13)(非特許文献7参照)は、腹側被蓋野(VTA)が母性愛と恋愛のどちらによっても賦活されたことに言及し、愛、ユーモアおよび他の形態の喜びの研究のほとんど全てにおいて、賦活される領域は、やはり報酬プロセスと関連するものであると論評した。Sharpleyらは、VTAおよび側坐核の賦活が歓喜/幸福/笑いとも関連することにも言及したが、これは、それらがしばしば情動体験の報酬的結果であることとの関連で理解することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Zatorre R.L Jones−Gottman M,Rouby C,Neuroreport 11 2711−2716(2000)
【非特許文献2】Kobal G,Kettenmann B,Int.J.Psychophysiology 36(2)157−163 2000
【非特許文献3】Ekmanら,J of Personality and Social Psychology 1987 v53,p712
【非特許文献4】T.A.Woolsetら著「The Brain Atlas」Wiley 2008,ISBN978−0−470−08476−2
【非特許文献5】O.Arrias−Carrionら,International Archives of Medicine 2010,3:24
【非特許文献6】Everittら,Brain Res Brain Res Review 36,p129−138(2001)
【非特許文献7】SharpleyおよびBitsika,Behav Brain Res 2010 Jul 13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
通常、ドーパミン経路の刺激は、愛する人の写真や金銭的報酬などといった「強い」刺激によって達成される。現在までのところ、快適な臭気がドーパミン経路を賦活し得ることの証拠はない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、香料試料(下記に定義するもの)を嗅ぐことによってこの経路が賦活され得ることを、本発明者は見出した。さらに驚くべきことに、本発明者は、香料試料の一部(ただし全てではない)がドーパミン作動性経路による報酬を引き出すことを見出し、fMRI画像法を使って目的の材料をスクリーニングする方法を設計した。同じ方法をそのまま使って、任意の嗅覚刺激をその報酬経路刺激能について評価することができる。
【0013】
本発明における態様において、本発明は、ドーパミン作動性経路による報酬を引き出す香料試料を同定する方法であって、
a)各被験者が対照臭気および試験香料試料を嗅いでいる間に、被験者の群を、fMRI検査に付すこと;
b)各被験者の脳活動を検出するために、対照臭気および試験香料試料を嗅いでいる各被験者のfMRI脳スキャンを取り込むこと;
c)対照臭気および試験香料試料を嗅いでいる時の全被験者の脳活動をそれぞれ平均すること;および
d)試験香料試料を嗅いでいる時の被験者の平均脳活動を、対照臭気を嗅いでいる時の被験者の平均脳活動と対比すること
を含む方法を提供する。
本発明における別の態様では、本発明は、上述の方法によって同定される香料試料を提供する。
本発明におけるさらに別の態様では、本発明は、香料、例えば調合香料を製造する方法であって、ドーパミン作動性経路による報酬を引き出す香料試料を同定すること、および該試料を調合して調合香料にすることを含む方法を提供する。
本発明におけるさらに別の態様では、本発明は、ドーパミン作動性経路による報酬を引き出す香料試料を、消費者製品に使用することに関する。
【0014】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(10)を特徴とする。
(1)ドーパミン作動性経路による報酬を引き出す香料試料を同定する方法であって、
a)被験者の群を、
・該群の各被験者に対照臭気を嗅がせること;
・各被験者の脳活動を検出するために、対照臭気を嗅いでいる各被験者の機能的磁気共鳴画像法(fMRI)脳スキャンを取り込むこと
を含む第1プロトコールに付すこと;
b)同じ被験者の群を、
・該群の各被験者に、試験すべき香料試料を嗅がせること;
・各被験者の前記脳活動を検出するために、試験すべき前記香料試料を嗅いでいる各被験者のfMRI脳スキャンを取り込むこと
を含む第2プロトコールに付すこと;
c)前記第1プロトコールおよび前記第2プロトコールで得られた全被験者の脳活動を平均すること;および
d)前記第2プロトコールで得られた結果的平均脳活動を、前記第1プロトコールで得られた結果的平均脳活動と対比して、隣接賦活ボクセルの数を決定すること
を含み、
中脳(腹側被蓋野:VTA)、前前頭皮質、線条体および扁桃体−海馬複合体から選択される少なくとも3つの脳領域において、隣接賦活ボクセルのクラスターが、閾値以上のボリュームを有するか、クラスターが閾値以上の隣接賦活ボクセル数を有する場合、試験された香料試料がドーパミン作動性経路による報酬を引き出す、方法。
(2)前記対照臭気が空気または空気で希釈された無臭の香料製造用溶剤である、上記(1)に記載の方法。
(3)被験者の群が少なくとも5人を含む、上記(1)または(2)に記載の方法。
(4)被験者の群が少なくとも10人を含む、上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の方法。
(5)閾クラスターボリューム値が少なくとも303mmである、上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の方法。
(6)前記閾隣接賦活ボクセル数が9である、上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の方法。
(7)上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の方法によって同定される香料試料。
(8)アコードまたは調合香料を製造するための方法であって、
a)少なくとも一つの香料試料を、前記ドーパミン作動性経路による報酬を引き出すその能力について、スクリーニングすること;
b)前記香料試料が前記ドーパミン作動性経路による報酬を引き出すことが同定された場合、該香料試料を調合して、アコードまたは調合香料にすること
を含み、ステップa)が上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の方法によって行われる、方法。
(9)前記アコードまたは前記調合香料がバニリンを含む、上記(8)に記載の方法。
(10)前記ドーパミン作動性経路による報酬を引き出すことが同定された香料試料の、家庭用品、洗濯用品、パーソナルケア製品および化粧品における使用。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、報酬効果を誘発する香料成分、アコードまたは調合香料をfMRI画像法を用いて容易に評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において使用する用語「脳活動」は、精神活動に関連するヒト脳内または脳の一領域内での生理学的および生化学的活動を意味し、例えば活性脳領域への血流量の増加、血中酸素レベルの変化、代謝活性(例えばグルコース消費量)の増加、ニューロンの電位の変化、および神経伝達物質の放出などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。脳活動は、例えば頭骨から発生する電場、磁場の変化を測定することなどによって、非侵襲的に測定することができる。
【0017】
本明細書において使用する用語「脳領域」は、任意の形状を有することができ、解剖学的にまたは空間的に特徴づけることができる、ヒト脳内の組織のボリュームを指す。
【0018】
本明細書において使用される用語「前頭」、「前」、「後」、「上」および「下」は、それぞれ、解剖学における通例の意味を有する。例えば「Stedman’s Medical Dictionary」を参照されたい。
【0019】
脳内の特定位置、または脳内の特定ボリュームは、三次元座標系を参照することによって記述することもできる。そのような系の一つは、TalairachおよびTournox(「Stereotaxic Coplanar Atlas of the Human Brain」1988年、Thieme刊、ISBN 9783137117018)が記載したものであり、これは、著者らが典型であると見なした単一の脳に基づいている。個々の被験者の脳イメージまたは脳マップは、そのようなテンプレート脳と、目視比較によって比較するか、または個々の脳をテンプレート脳上にマッピングするコンピュータソフトウェアプログラムを使用することができる。例えば、後述のStatistical Parametric Mapping(SPM)ソフトウェアは、MNIテンプレート上への個々の脳の空間登録と標準化を自動的に実行する。MNI座標とTalairach座標の間での対応を決定するソフトウェアも利用することができる(例えばwww.cla.sc.edu/psyc/faculty/rorden/mricro.htmlで利用することができるMRIcro;RordenおよびBrett(2000),Behavioural Neurology,12:191−200を参照)。
【0020】
本明細書において使用する用語「ボクセル」は、空間中の特定ボリュームに対応する多次元データポイントを指し、特に、脳画像法によって得られ、脳内の特定ボリュームに対応する、そのようなデータポイントを指す。ボクセルサイズは、実験手法および装置、特にfMRI計器の分解能に依存する。本願では1.5テスラの計器を使用したが、現在、最大7テスラの計器が市販されている。
【0021】
本明細書において使用する用語「脳賦活マップ」は、各データポイントがヒト脳の1点または1ボリュームに対応する一組または一連のデータを意味する。各データポイントは脳座標と関連づけられた単一データからなるか、脳座標と関連づけられた多次元データアレイからなることができる。脳賦活マップは二次元表現または三次元表現として表示するか、図示することなくデータセットとして保存することができる。
【0022】
本明細書において使用する用語「香料試料」は、
・アコードまたは調合香料内の一成分であることができる、任意の個別材料、例えば「香料成分」(これは、用語「香料材料」と同義である);
・上に定義した個々の材料の混合物、例えばアコードまたは調合香料など(個々の材料の混合物は、最大40の香料成分、例えば少なくとも10、好ましくは少なくとも20、より好ましくは少なくとも30の香料成分を含み得る)
を意味すると解釈される。
【0023】
香料成分が、それ自体、数多くの個別化学化合物を含み得ること、そして快適な匂いを有し得ることは、当業者には理解される。この区別は調香技術に詳しい人々には理解される。香料成分または香料材料は、香料組成物に使用される任意の天然油もしくは天然抽出物または化学化合物であることができる。天然油および天然抽出物は、E Guenther著「The Essential Oils」(Van Nostrand刊)に記載されており、これには、適切な植物の任意の部分、すなわち根、根茎、球根、球茎、茎、樹皮、心材、葉、花、種子および果実などから得られる抽出物および留出物が含まれる。そのような抽出物および留出物の例として、オレンジ油またはレモン油などの柑橘油、パイン油またはセダー油などの樹木油、ペパーミント油、タイム油、ローズマリー油、チョウジ油などのハーブ油、またはローズ油もしくはゼラニウム油などの花抽出物が挙げられる。アセタール類、アルケン類、アルコール類、アルデヒド類、アミド類、アミン類、エステル類、エーテル類、イミン類、ニトリル類、ケタール類、ケトン類、オキシム類、チオール類、チオケトン類など、さまざまな化学官能基を有する材料を含む、多種多様な合成臭気材料も、香料製造用に知られている。限定はされないが、ほとんどの場合、香料成分は、十分な揮発性を確保するために、70質量単位〜400質量単位の分子量を有する臭気化合物である。香料成分は、スルホネート、サルフェート、または4級アンモニウムイオンなどといった、強くイオン化する官能基を含有しない。香料成分は、S.Arctander「Perfume Flavors and Chemicals」Vol.IおよびII(ニュージャージー州モントクレア(Montclair, N. J.))、「Merck Index」(第8版、Merck & Co.,Inc.、ニュージャージー州ローウェー(Rahway, N. J.))および「Allured’s Flavor and Fragrance Materials 2008」(Allured Publishing Corp刊、ISBN1−932633−42−1)に、より詳しく記述されており、これらは全て参照により本明細書に組み込まれる。
【0024】
第1の態様において、本発明は、ドーパミン作動性経路による報酬を引き出す香料試料を同定する方法であって、
a)被験者の群を、
・該群の各被験者に対照臭気を嗅がせること;
・各被験者の脳活動を検出するために、対照臭気を嗅いでいる各被験者の機能的磁気共鳴画像法(fMRI)脳スキャンを取り込むこと
を含む第1プロトコールに付すこと;
b)同じ被験者の群を、
・該群の各被験者に、試験すべき香料試料を嗅がせること;
・各被験者の脳活動を検出するために、試験すべき香料試料を嗅いでいる各被験者のfMRI脳スキャンを取り込むこと
を含む第2プロトコールに付すこと;
c)第1プロトコールおよび第2プロトコールで得られた全被験者の脳活動を平均すること;および
d)第2プロトコールで得られた結果的平均脳活動を、第1プロトコールで得られた結果的平均脳活動と対比して、隣接賦活ボクセルの数を決定すること
を含み、
中脳(VTA)、前前頭皮質、線条体および扁桃体−海馬複合体から選択される少なくとも3つの脳領域において、隣接賦活ボクセルのクラスターが、閾値以上のボリュームを有するか、クラスターが閾値以上の隣接賦活ボクセル数を有する場合、試験された香料試料がドーパミン作動性経路による報酬を引き出す、方法を提供する。
【0025】
何らかの臭気を嗅ぐことは臭気処理による脳活動を引き出し、それは、以下に詳述するfMRIによって検出される。本発明は、香料試料を嗅ぐことに呼応して起こる、特定脳領域、すなわちドーパミン作動性中脳(腹側被蓋野)、前前頭皮質、線条体および扁桃体−海馬複合体のうちの、少なくとも3つの脳領域における同時賦活が、ドーパミン作動性経路が賦活された証拠であるという、驚くべき発見に基づくものである。
【0026】
本発明の方法は、被験者の群内の被験者が対照臭気を嗅ぎ、各被験者の脳活動がfMRIを使って決定されるという、第1ステップを含む。被験者の群は、典型的には、少なくとも5人の被験者、好ましくは少なくとも10人の被験者を含む。対照臭気は、好ましくは、空気であるか、空気に希釈された溶剤である。香料製造によく使用される任意の無臭溶剤、例えばジプロピレングリコールまたはクエン酸トリエチルなどを、本発明の方法において使用することができる。本発明における実施形態として、対照臭気は、上述した4つの特定脳領域(中脳(腹側被蓋野)、前前頭皮質、線条体、扁桃体−海馬複合体)をいずれも賦活しないか、そのうちの一つしか賦活しないような、上に定義した香料試料(例えば、ローズ・アブソリュートなどの個々の材料、またはアコード、または新しい香料を試験する際の比較対象にする既存の香料)であることもできる。
【0027】
第2ステップでは、同じ被験者の群が試験香料試料を嗅ぎ、各被験者の脳活動を再びfMRIを使って決定する。
【0028】
対照臭気および香料試料は、オルファクトメーターによって、被験者の鼻孔の一つに送達される。鼻道が乾燥するのを避けるために、好ましくは、対照臭気および試料は、鼻への導入前に湿らせる。
【0029】
第3ステップでは、対照臭気を嗅いだ全被験者の脳活動を平均し、試験試料を嗅いだ全被験者の脳活動も平均する。
【0030】
次のステップは、結果として得られた平均脳活動を対比する。これは、典型的には「対照群」の平均脳活動を「試験群」の平均脳活動から差し引くことによって行われる。差引の結果として、3D空間における隣接賦活ボクセルの数、すなわち血流(または活動)が有意に異なる隣接ボクセル、言い換えると検討対象の各脳領域においてスチューデントのt検定(p<0.005)に合格するボクセルが決定される。ボクセル分布を解析し、賦活ボクセルのクラスターを同定する。有意なクラスターサイズが、中脳(腹側被蓋野)、前前頭皮質、線条体および扁桃体−海馬複合体から選択される少なくとも3つの脳領域に同時に存在するのであれば、それは、報酬経路が賦活されることを示す。この手法を以下に詳しく説明する。
【0031】
対比ステップの結果を閾値と比較する。閾値は、好ましくは、単一ボクセルの値と、検討対象である脳領域における他の全てのボクセルの他の全ての値との比較に基づいて選択される。閾値は、クラスターボリュームに基づくか、クラスター中の隣接賦活ボクセルの数に基づくことができる。ボクセルは、典型的には、一辺が約0.5mm〜約7mmの寸法を有する立方体または直方体である。例示的実施形態の一つでは、3.0×3.0×3.75mmのボクセルが使用され;この実施形態では、閾値が、3D空間において最低9個の隣接賦活ボクセルのクラスター、または少なくとも303mmの(隣接賦活ボクセルの)クラスターボリュームと設定された。
【0032】
本発明において、上に定義した差引ステップは、第2プロトコールで得られた脳活動を、第1プロトコールで得られた脳活動と、被験者ごとに対比した後、結果として得られる全被験者の対比された脳活動を平均することによって行うこともできる。
【0033】
脳活動は脳シグナルを検出することによって測定され;「対照」シグナルを「測定」シグナルから差し引くことによって、臭気刺激を示すシグナルが得られ、次にそれを、以下に説明するようにコンピュータ処理して、三次元マップに変換する。脳活動は、好ましくは、血中酸素レベル依存(BOLD)法(これは、脳によるエネルギー消費量の増加およびオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの間のコントラストと相関する脳活動を測定するための、一般に認められた技法である)を使って測定される。
【0034】
<被験者選択>
被験者は読み書きが可能であることと、インフォームドコンセントを与える能力を有することが要求される。被験者候補が、Structured Clinical Interview for DSM−IV Axis I Disorders(SCID−I)(Firstら(1995))による判定で単純恐怖症を除く精神障害(ただし物質乱用/物質依存は含む)を現在または過去に有しているか、神経疾患の病歴を有しているか、現時点で不安定な医学的状態にあるか、検査時から5半減期以内に向精神薬を使用したか、MRI検査を危険にするであろう何らかの金属インプラントまたは榴散弾の破片を有しているか、ペースメーカーや固定型補聴器などの取り外せない医療機器を有するか、MRI検査に耐えられなかったことが過去にあるか、または閉鎖的な空間において著しい不安を誘発するほど重度の閉所恐怖症を有している場合は、その候補者を除外する。他の除外基準には、9歳未満の年齢、嗅覚機能に影響を及ぼすことが知られている何らかの疾患(例えば糖尿病、パーキンソン病、腎不全など)の病歴が含まれる。徹底的なENT(耳鼻咽喉)検査により、嗅覚能力を損なう可能性がある病状;急性または重度慢性の鼻炎または副鼻腔炎、重度の鼻中隔弯曲症、外傷歴、鼻ポリープなどは除外する。被験者は、実験に参加するために、利き手調査票への記入も行う。性別または利き手による変動は避けることが好ましいので、同じ利き手を有する男女どちらか一方だけのパネルまたは群が構成されるように、被験者を選択する。
【0035】
上記の選択基準に合格した正常嗅覚を有する被験者だけを、検査のために選択する。被験者が正常な嗅覚を有することを保証するために、さまざまな市販の検査を利用することができる。そのような検査は、臭気同定検査から、より洗練された閾および識別検査まで、さまざまである。任意の適切な試験は、有効かつ信頼できるものでなければならない。後述の実施例では、嗅覚機能を評価するために「Sniffin’Sticks」検査を使用した。Sniffin Sticksに関するさらなる情報については、T Hummel,B Sekinger,SR Wolf,E paulおよびG Kobalの「スニフィン・スティックス:臭気同定、臭気識別および臭気閾の複合的検査によって評価される嗅覚性能(Sniffin Sticks:Olfactory Performance Assessed by the Combined Testing of Odor Identification,Odor Discrimination and Olfactory Threshold)」、Chem.Senses 1997 vol 22 pp39−52、またはT Hummel,K Rosenheim,C−G KonnerthおよびG Kobalの「4分間臭気検査による嗅覚機能のスクリーニング:信頼性、規範的データ、および嗅覚消失患者における調査(Screening Olfactory Function with a Four Minute Odor Investigation Test Reliability Normative Data and Investigations in Patients with Olfactory Loss)」、Ann.Otol.Rhinol.and Laryngol.2001 vol 110 pp976−981を参照されたい。Sniffin Sticksは独国ウェーデル(Wedel, Germany)のBurghardt Gmbhから入手することができる。臭気提示のために、実験者は約3秒間、キャップを外し、ペンの先端を、両方の鼻孔の正面、約2cmの位置に置く。この臭気同定検査では、12の一般的臭気(シナモン、バナナ、レモン、カンゾウ、パイナップル、コーヒー、チョウジ、バラ、皮革、魚、オレンジ、ペパーミント)の評価が行われる。多肢選択課題を使って、1臭気あたり4つの記述子のリストから、個々の臭気物質の同定を行う。臭気提示の間隔は20〜30秒とする。全ての測定は静かな空調室で行う。以降の実験への参加には、10以上の正しい応答が要求される。
【0036】
<試験試料の調製>
香料材料の試験試料は、ASTM E544(1999)の静的方法「環境臭気の強度を評価するための標準実務:手法B:n−ブタノールを参照物質として使用する静的方法」を使って、等価な嗅覚強度を有するように調製する。
【0037】
<fMRIスキャナ>
所望のfMRIイメージを得るには、スピンエコー−エコープラナー撮像(SE−EPI)シーケンスを使って稼働することが可能な任意の適切なMRI機器を使用することができる。このEPIプロトコールを最適化して、脳内の血中酸素レベルのわずかな経時変化を検出する。EPIスキャニングは、神経活動の変化と確実に相関することが示されている血中酸素レベル依存(BOLD)シグナルの変化を測定する効果的な方法である。全脳をカバーするスキャンを行って、各評価中は常に全脳を連続的にモニタリングできるようにする。適切なMRIスキャナはSiemens AG、Phillips、GE Healthcare、Varian、東芝および日立から入手することができる。
【0038】
<オルファクトメーター>
fMRIスキャナとの併用に適した任意のオルファクトメーターを使用することができる。適切なオルファクトメーターの設計が、Kobal(Electroencephalography and clinical neurophysiology 71,241−250,1988)およびSobel(J.Neuroscience methods 78,115−123,1997)によって報告されており、適切な市販のオルファクトメーターは、独国ウェーデル(Wedel, Germany)のBurghart Medezintechnik GmbHから入手することができる。頭部の動きを最小限に抑えるために、内径2〜3mmのカニューレを使って、臭気物質を鼻腔内に適用する。このカニューレは、その開口部が鼻弁を越えるように、鼻孔中に約1cm挿入される。臭気パルスは、数分後には迅速に感知不可能になる一定流量の自動調温(36℃)湿潤(80%RH)気流(典型的には6〜8リットル/分)に乗せて送られるので、臭気物質の提示が鼻粘膜中の機械受容器または温度受容器を同時に賦活することはない。したがって被験者は、オルファクトメーターが無刺激条件から刺激条件へと切り替わった時も、その逆の時も、何の変化も認知しないし、被験者が機械刺激または温度刺激による妨害を感じることもない。気流量は、切替弁と共にコンピュータ制御されるマスフローコントローラを使って決定される。したがってこの装置により、試料提示に最大限の正確さおよび精密さが得られるように、異なる質、強度、持続時間、または刺激間間隔を有する刺激のシーケンスの設定、および何度も反復することが可能になる。
【0039】
<統計的データ解析>
脳活動の変化を統計的に解析する方法は当技術分野ではよく知られており、一部の脳活動測定機器については、データ解析用に特別に改造されたソフトウェアパッケージが市販されている。例えばSPECT、PETまたはMRIデータは、DotもしくはEMMA(Extensible MATLAB Medical image Analysis)パッケージ(これらはどちらもMNIから無料で入手することができる)またはSPMソフトウェアパッケージ(これは英国ロンドン(London, UK)大学ユニバーシティカレッジにあるWellcome Department of Imaging NeuroscienceのFunctional Imaging Laboratory(www.fil.ion.ucl.ac.uk/spm/)から無料で入手することができる)を使って解析することができる。EMMAおよびSPMソフトウェアは、MATLAB(登録商標)プログラミング言語(MathWorks,Inc.、マサチューセッツ州ナティック(Natick, Mass))に基づき、Cプログラミング言語で書かれたルーチンが追加されている。SPMモジュールは、市販のMEDxソフトウェア(Medical Numerics,Inc.、バージニア州スターリング(Sterling, Va))に組み込まれている。
【0040】
SPMソフトウェアでは、各ボクセルにおけるパラメトリック統計モデルを使用し、一般線形モデルを使って、実験効果および交絡効果ならびに残差変動に関するデータの変動を記述する。モデルパラメータに関して明示された仮説を、単変数統計解析により、各ボクセルにおいて評価する。fMRIに関する一般線形モデルの時間的重畳により、系列相関回帰からの結果の応用が可能になり、fMRI時系列から統計イメージを構築することができる。全てのボクセル統計データを同時に評価することの多重比較問題は、統計イメージが、基礎をなす連続定常確率場の良い格子表現であると仮定して、連続確率場の理論を使って対処される。オイラー標数に関する結果は各ボクセル仮説ごとに補正されたp値をもたらす。また、この理論では、所与の閾を上回るk個のボクセルのクラスターに関する補正されたp値の算出も可能であり、閾上クラスターのセット全体については、多少の位置特定力を犠牲にして、より強力な統計的検定をもたらす(Fristonら,Magnetic Resonance in Medicine 35 346−355 1996およびその引用文献を参照)。
【0041】
fMRIデータの一般セットを評価するために使用される統計的手法は、分散分析(ANOVA)型の一般線形モデルの時系列バリアント(time-series variant)である。統計解析は、被験者ごとに、脳の各ボクセルを帰無仮説(検査の持続時間中、そのボクセルに由来するBOLDシグナルの増減が、臭気の提示サイクルのオンセットおよびオフセットと相関しないというもの)に対して検定する。対象のシングルタスク変数に関するオン−オフタイミングイベントの単純矩形波型モデルから始まる加重モデルを作成する。
【0042】
このANOVAモデルではリグレッサーを使って局外変数をモデル化することができる。本発明では、全脳のグローバルシグナル強度をそのようなリグレッサーとして使用する。脳のグローバルシグナル強度は、呼吸サイクル、心拍サイクル、瞬きなどによって引き起こされる脳内の動揺を説明することになる。これらのシグナル変動は全脳にわたって起こり、しばしば、嗅覚シグナルに起因するBOLDシグナルにおける局所変化よりも大きな振幅であり得る。脳全体にわたって起こるこれらのシグナル変動を、測定されたfMRIシグナルから差し引くことで、臭気刺激に起因するシグナルを示すことができる。
【0043】
1人のfMRIデータについてのANOVA計算の結果として得られる産物は、t値の三次元マトリックスであり、これを三次元マップとして表すことができる。次に、このt値マップを確率マップ(p値に対応するマップ)に変換することができ、その結果を、所望する任意の閾(例えばp<0.05)で図示することができる。その結果を、よりきめの細かい皮質構造の同定が容易になるように、より高分解能のMRIイメージに重ねることができる。
【0044】
2人以上の被験者からのデータを組み合わせるために、各個人のtマップを計算する前に、各被験者の脳をまず共通の三次元定位空間に標準化する。次に、ANOVA中に計算された各被験者からの各ボクセルについてのコントラスト重みの和の値(基本的にt−統計量の分子)を、新しい「第2レベル」t−統計量計算における単一データポイントとして入力する。次に、この第2レベル計算では、被験者全体にわたる各ボクセルについての平均値を効果項としてモデル化し、被験者間の分散を誤差項とする。留意しておくべきこの手法の重要な帰結は、被験者の事実上全てがそのボクセルにおける賦活を示さない限り、あるボクセルがグループレベルマップ上で有意な賦活を示す可能性は極めて低いということである。また脳領域は、いくつかの隣接ボクセルが、指定した確率基準を上回る統計的有意性を示す場合にのみ、賦活されたと見なされる。
【0045】
統計解析および図示のために、脳活動に関する生データは通常、被験者の脳の固定されたボリュームに対応するボクセルにグループ分けされる。ボクセルサイズは、脳活動測定機器の分解能または脳領域を同定する際に所望する精密度に応じて変化させることができる。ただし、小さいボクセルほど信号対雑音比が悪化し、部分容積効果による磁化率アーチファクトが大きくなることに注意すべきである。典型的には、ボクセルは、例えば一辺が約0.5mm〜約7mmの寸法を有する立方体または直方体(例えば3.0×3.0×3.0mm)である。次に、何らかの統計値に従ってボクセルを色分けし、活動または活動レベルの変化が二次元にマッピングされた断面を示すことによって、データを図示することができる。一連のそのような同一平面断面を作成することにより、脳ボリューム全体をマッピングすることができる。
【0046】
脳イメージに対して統計的解析を実行する際に、研究者は、統計的有意性を評価するために適当な確率値を選択することができる。選ばれる特定の値は、統計解析の目的と要求される確実性のレベルに依存して変動し得る。実施例では、統計的有意性に関するレベルをp<0.005に選択した。
【0047】
上記の方法はドーパミン作動性経路による報酬を引き出す香料試料の同定を可能にする。
【0048】
したがって、本発明における別の態様は、前記方法によって同定された香料試料に関する。
そのような香料試料は、アコードまたは調合香料であり、匂いを嗅ぐか身につけた場合にドーパミン作動性経路によって報酬を引き出すであろうアコードまたは調合香料を調合するために使用することができる。
【0049】
したがって、本発明におけるさらに別の態様は、アコードまたは調合香料を製造するための方法であって、
a)少なくとも一つの香料試料を、ドーパミン作動性経路による報酬を引き出すその能力について、スクリーニングすること;
b)香料試料がドーパミン作動性経路による報酬を引き出すことが同定された場合、該香料試料を調合して、アコードまたは調合香料にすること
を含む方法に関する。
【0050】
本発明における実施形態では、アコードまたは調合香料はバニリンを含むことが好ましい。
【0051】
ドーパミン作動性経路による報酬を引き出すことが同定された香料試料は、家庭用品、洗濯用品、パーソナルケア製品および化粧品(アルコール系香料およびオーデコロンを含む)などの消費者製品に使用することもできる。そのような製品には、洗剤、例えば洗濯洗剤、柔軟仕上げ剤、シャンプー、ヘア・コンディショナー、スキンローション、ボディーオイル、脱臭剤、日焼け防止製品などがある。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明を例示するが、本発明は以下の実施例に限定されるわけではない。
【0053】
[実施例1]
18人の女性右利き被験者を選択してfMRI実験に参加してもらった。以下に詳述する手法に従って、次に挙げる快適な臭気を嗅がせた。
・バニリン:市販品の再結晶によって調製したもの、ジプロピレングリコール中の15%溶液として使用
・テサロン(登録商標)(trans−2,2,6−トリメチルシクロヘキサンカルボン酸エチルの商標名):高砂香料工業株式会社から入手可能、ジプロピレングリコール中の20%溶液として使用
・モロッコ産ローズ・アブソリュート(Biolandes(フランス)から入手可能):ジプロピレングリコール中の0.5%溶液として使用
・酢酸イソボルニル(IBA、Arco(フランス)から入手可能):ジプロピレングリコール中の1%溶液として使用
【0054】
等価な臭気強度を有するように試料を調製した。臭気刺激は、20秒間オン/20秒間オフのブロックデザインでの嗅覚(オン)刺激条件と非嗅覚(オフ)刺激条件の間の交互反復を可能にする空気希釈コンピュータ制御オルファクトメーター(Burghart OM8b)により、スキャナの中にいる被験者の右鼻孔に送達させた。刺激は、オン期間中、2秒ごとに1秒間送達した。各オン期間の後に対応する2秒間のベースラインオフ期間を設け、その間は湿潤純粋空気だけを(対照臭気として)送達した。各刺激を、240秒間の結果として生じるスキャニングランにおける交互反復ブロックで提示した。ランダムなブロック順序を有する4つのプロトコールを構築し、被験者間にランダムな順序で適用した。機能ランの後に、解剖学的スキャンを取得した。ランの間に2分間の休憩を含めた。全体的なスキャニング時間は約50分間だった。スキャニングセッションの最後に、被験者に4つの刺激を再び同じブロック設定でランダムな順序で与え、それらを、強さ、快・不快(hedonics)および覚醒(arousal)について評価してもらった。
【0055】
データは1.5T MRスキャナを使って取得した(Sonata;Siemens、ドイツ・エルランゲン(Erlangen, Germany))。解剖学的オーバーレイのために、スライス数224、ボクセルサイズ1.6×1.1×1.5mm、繰り返し時間(TR)2130ms、エコー時間(TE)3.93ms、および加算回数2(2130/3.93/2)で、T1強調(TurboFLASHシーケンス)軸方向スキャンを取得した。fMRIによる計測は、マルチスライス・スピンエコー−エコープラナー撮像(SE−EPI)シーケンスを使って、横断面(骨アーチファクトを最小限に抑えるために蝶形骨面に平行な方向)で行った。スキャンパラメータには、64×64マトリックス、ボクセルサイズ3×3×3.75mm、2500msのTR、および35msのTEを含めた。1パラダイムあたり24のスライス位置のそれぞれにおいて合計120枚のイメージを取得した。
【0056】
神経イメージングデータをSPM5(Wellcome Deparatment of Cognitive Neurology(英国ロンドン(London, UK))、Matlab R2007b(MathWorks,Inc.、米国マサチューセッツ州ナティック(Natick, Mass))で実行)を使って前処理および後処理した。機能データを登録(register)し、体動の問題を補正するために位置補正(realign)してから、対応する構造イメージに重ね合わせた(coregister)。さらに、空間的に標準化(MNI ICBM152空間(SPM2によって提供されるMNIテンプレート)に定位的に変換)され平滑化(7×7×7mm FWHMガウシアンフィルタを使用)されたイメージを解析した。
【0057】
試料のデータ解析を表1に示す。SPM解析に基づく実験に関して、3D空間における最低9個の隣接賦活ボクセルのクラスターを閾値として設定した(p<0.005)。「有」は少なくとも9個の隣接ボクセルが賦活されたことを意味する。対比は無臭(空気)に対して行った。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示したように、試験した材料の中ではバニリンが、ドーパミン作動性経路に属する全ての脳領域において賦活を示した。他の快適な臭気はドーパミン作動性経路を賦活しなかった。
【0060】
[実施例2]
実施例1の手順を繰り返して、バニリンを、対照臭気としてのローズ・アブソリュートと比較した(どちらの臭気も実施例1と同様に調製した)。SPM解析に基づく実験に関して、3D空間における最低9個の隣接賦活ボクセルのクラスターを閾値として設定した(p<0.005)。「有」は少なくとも9個の隣接ボクセルが賦活されたことを意味する。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
上記実施例でもバニリンはドーパミン作動性経路の賦活を示した。
【0063】
[実施例3]
実施例1の場合と同様の実験手順を使ってさらに別の実験を行った。変更点は次のとおりである。
使用したオルファクトメーターは、液状香料試料が充填されたガラス容器を通る無臭空気の誘導に基づくもので、液状香料試料の上の容器のヘッドスペースにある臭気飽和空気が、被験者に向かって押し流されるようになっている。湿潤臭気刺激を、パルス的に被験者に提示するか、環境中に廃棄した。被験者が臭気刺激の提示を受けていない期間は、無臭の湿潤空気を(対照臭気として)被験者に与えた。典型的には、パルス長を1秒とし、間隔を2秒とした。典型的に使用した気流は2リットル/分であり;臭気(試験臭気および対照臭気)は、各鼻孔に1リットル/分が提示されるようにして、両方の鼻孔に提示した。臭気によるこのパルス状の刺激を、典型的には、21秒間続け(いわゆるオン相)、次にシステムを無臭空気に切り換えて、それを次の21秒間提示した(いわゆるオフ相)。刺激持続時間、刺激間間隔、オン相およびオフ相の持続時間をコンピュータ制御して、シーケンスがセッションの開始前にプログラムされた経過に常に従うようにした。次に、スキャニング手順は実施例1と同じとした。
【0064】
上記のプロトコールでは、26人の女性が、バニリン(ジプロピレングリコール中の溶液として:溶剤10g中にバニリン3g)と、バニリンを一切含有しないレッドフルーツの特徴を有する高砂香料香料株式会社のリファレンスDGFRUI067Kと呼ばれるアコード(このアコードは希釈せずに使用した)を嗅いだ。上述のように臭気を空気と対比した。SPM解析に基づく実験に関して、3D空間において最低9個の隣接賦活ボクセルを閾値として設定した(p<0.005)。「有」は少なくとも9個の隣接ボクセルが賦活されたことを意味する。結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
上記実施例でもバニリンはドーパミン作動性経路の賦活を示した。また、バニリンを含有しないアコードも、ドーパミン作動性経路の賦活を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパミン作動性経路による報酬を引き出す香料試料を同定する方法であって、
a)被験者の群を、
・該群の各被験者に対照臭気を嗅がせること;
・各被験者の脳活動を検出するために、対照臭気を嗅いでいる各被験者の機能的磁気共鳴画像法(fMRI)脳スキャンを取り込むこと
を含む第1プロトコールに付すこと;
b)同じ被験者の群を、
・該群の各被験者に、試験すべき香料試料を嗅がせること;
・各被験者の前記脳活動を検出するために、試験すべき前記香料試料を嗅いでいる各被験者のfMRI脳スキャンを取り込むこと
を含む第2プロトコールに付すこと;
c)前記第1プロトコールおよび前記第2プロトコールで得られた全被験者の脳活動を平均すること;および
d)前記第2プロトコールで得られた結果的平均脳活動を、前記第1プロトコールで得られた結果的平均脳活動と対比して、隣接賦活ボクセルの数を決定すること
を含み、
中脳(腹側被蓋野:VTA)、前前頭皮質、線条体および扁桃体−海馬複合体から選択される少なくとも3つの脳領域において、隣接賦活ボクセルのクラスターが、閾値以上のボリュームを有するか、クラスターが閾値以上の隣接賦活ボクセル数を有する場合、試験された香料試料がドーパミン作動性経路による報酬を引き出す、方法。
【請求項2】
前記対照臭気が空気または空気で希釈された無臭の香料製造用溶剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被験者の群が少なくとも5人を含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
被験者の群が少なくとも10人を含む、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
閾クラスターボリューム値が少なくとも303mmである、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記閾隣接賦活ボクセル数が9である、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の方法によって同定される香料試料。
【請求項8】
アコードまたは調合香料を製造するための方法であって、
a)少なくとも一つの香料試料を、前記ドーパミン作動性経路による報酬を引き出すその能力について、スクリーニングすること;
b)前記香料試料が前記ドーパミン作動性経路による報酬を引き出すことが同定された場合、該香料試料を調合して、アコードまたは調合香料にすること
を含み、ステップa)が請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の方法によって行われる、方法。
【請求項9】
前記アコードまたは前記調合香料がバニリンを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ドーパミン作動性経路による報酬を引き出すことが同定された香料試料の、家庭用品、洗濯用品、パーソナルケア製品および化粧品における使用。

【公開番号】特開2012−177112(P2012−177112A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−37592(P2012−37592)
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】