説明

噴射式塗布ユニット、噴射式塗布装置及び噴射式塗布方法

【課題】塗布液の高速噴射が可能になるとともに、高粘度の塗布液にも対応可能とする。
【解決手段】塗布液充填流路41を開閉する充填用圧電素子43と、吐出用タンク21内の圧力を変動させる吐出用圧電素子23と、充填用圧電素子43及び吐出用圧電素子23を独立的に駆動制御可能な圧電素子駆動制御部とを備え、圧電素子駆動制御部が、充填用圧電素子43を閉側とし、かつ、吐出用圧電素子23を圧力上昇側に動作させることにより、吐出用タンク21内の塗布液14をノズル22から噴射状に吐出させる吐出制御手段と、ノズル22から塗布液14を吐出させた後、充填用圧電素子43を閉側としたまま、吐出用圧電素子23を初期側に戻すことにより、吐出用タンク21内を負圧にして吐出された塗布液14の糸引き部を切る糸切り制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布液を噴射状に塗布する噴射式塗布ユニット、噴射式塗布装置及び噴射式塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体などの電子部品の製造工程においては、樹脂や液体を塗布する工程が多々ある。
たとえば、フリップ実装されたチップとチップの間に樹脂を流し込むように塗布する工程、基板と基板を接着するための接着剤を塗布する工程、あるいは、電子部品を保護し耐久性を向上させるための樹脂を塗布する工程などがある。
このような生産工程で用いられる樹脂は、水のように低粘度ではなく、粘度が高くて糸を引きやすい高粘度樹脂が多い。
【0003】
生産工程で用いる塗布装置としては、ノズル(ニードル)から塗布液を連続状に吐出させるニードル式塗布装置や、ノズルから塗布液を噴射状に吐出させる噴射式塗布装置が知られている。
しかしながら、ニードル式塗布装置は、電子部品の微細化に伴い、ノズルと電子部品の干渉により塗布位置が制限されたり、ノズル先端に樹脂が付着して塗布量を高精度に管理できないという問題が生じている。
一方、噴射式塗布装置は、ノズルから噴射状に吐出した塗布液を、微小の液滴として飛翔させて塗布位置に着弾させることができるので、塗布量及び塗布位置を高精度に管理することが可能であり、電子部品の微細化に伴い、噴射式塗布装置の需要が高まっている。
【0004】
図9は、一般的な噴射式塗布装置の構成を示す説明図である。
この図に示されるように、一般的な噴射式塗布装置は、一定圧力で樹脂を加圧してノズル管路内に樹脂を供給しつつ、ピストンの上下動作にもとづいて、ノズル管路内の圧力を繰り返し変動(正圧→0→正圧→0・・)させることにより、ノズルから樹脂を噴射状に吐出させている。
【0005】
しかしながら、このような噴射式塗布装置では、ピストンの先端を毎回ノズルと接触させているので、ノズル内部が磨耗し、塗布量が経時変化するという問題がある。このような問題は、定期的にノズルを交換することにより回避可能であるが、ランニングコストが増加してしまう。
また、上記の噴射式塗布装置では、ピストンの駆動源にエアー式のバルブを用いているので、250Hz以上の高速動作が困難であり、仮に微小の液滴を形成して飛翔させることができたとしても、点塗布や線塗布に時間かかかるという生産性の問題が発生する。
【0006】
そこで、インクジェットプリンタなどで用いられているインクの高速噴射技術を応用し、噴射式塗布装置の塗布速度を向上させることが提案される。
インクジェットプリンタなどの印字ヘッドは、高速動作可能なピエゾ素子などの圧電素子を備え、該圧電素子の駆動による圧力変動でインクをノズルから吐出させるので、インクの高速噴射が可能となっている(たとえば、特許文献1〜5参照)。
したがって、図9に示される噴射式塗布装置のピストンの駆動源を圧電素子に置き換えることにより、樹脂の高速噴射が可能になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−086758号公報
【特許文献2】特開2006−075660号公報
【特許文献3】特開2008−155537号公報
【特許文献4】特開平01−082964号公報
【特許文献5】特開平02−158348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、インクジェットプリンタのインク噴射技術を樹脂などの塗布装置に適用した場合、塗布液の特性(粘度や糸引き性など)によっては、ノズルから噴射された塗布液が、ノズル内の塗布液から自然に分離できなくなり、糸を引いた状態となる場合がある。
このような場合、ノズルから噴射された塗布液は、糸を引いた状態で飛翔するので、微小面積を有する所定の塗布領域内に塗布することができない(たとえば、所定の塗布領域外に着弾してしまう)、あるいは、途中で切れた糸の一部(たとえば、塗布面側の塗布液)が所定の塗布領域外に出てしまうといった問題があった。
【0009】
また、糸の状態によっては、ノズル内の塗布液が噴射された塗布液に持ち込まれたり、あるいは、噴射された塗布液が減少したりするので、所定量の塗布液を塗布することができないといった問題があった。
さらに、上述したように、電子部品などの製造工程においては、近年の電子部品の微細化に伴い、塗布品質を向上させることが要望されている。すなわち、微小面積を有する塗布領域内に、微量の塗布液を塗布する技術や、塗布量を高精度に制御する技術などが求められている。
【0010】
また、途中で切れた糸の一部(たとえば、ノズル側の塗布液)がノズルに付着すると、ノズルの噴射孔が塗布液で塞がれることなどによって、塗布状態が不安定になる。この不具合を回避するには、自動クリーニング機構や作業者によって、ノズルに付着した塗布液を清掃する必要があった。この際、噴射式塗布装置が停止するので、生産効率が低下するといった問題があった。
また、上記のように、ノズルの噴射孔が塗布液で塞がれると、安定した連続塗布を行うことができなくなり、生産性などが低下するといった問題があった。
さらに、上記の糸が自然に切れる場合であっても、噴射されてから糸が切れるまでの時間が長いと、次回の噴射までのサイクルを長くする必要があり、生産性を向上させることができないといった問題があった。
【0011】
なお、塗布液の糸引き部に光や熱などのエネルギを照射し、塗布液の粘度を低下させることにより、塗布液の糸引き部を切断することは可能と考えられるが、このような糸切りを実現するには、光や熱などのエネルギを照射する照射装置を別途追加する必要があるので、大幅なコストアップとなるだけでなく、照射装置によってノズル部が大型化し、電子部品との干渉が発生しやすくなるという問題がある。
【0012】
本発明の目的は、上述した課題である、塗布液の高速噴射を可能とするとともに、ピストンの摩耗などによる塗布量の経時変化を防止し、高粘度の塗布液にも対応することができる噴射式塗布ユニット、噴射式塗布装置及び噴射式塗布方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の噴射式塗布ユニットは、ノズルを有する吐出用タンクと、前記吐出用タンクに塗布液を充填するための塗布液充填流路と、前記塗布液充填流路を開閉する充填用圧電素子と、前記吐出用タンク内の圧力を変動させる吐出用圧電素子と、前記充填用圧電素子及び前記吐出用圧電素子を独立的に駆動制御可能な圧電素子駆動制御部と、を備え、前記圧電素子駆動制御部が、前記充填用圧電素子を開側に動作させることにより、前記吐出用タンク内に塗布液を充填させる充填制御手段と、前記充填用圧電素子を閉側とし、かつ、前記吐出用圧電素子を圧力上昇側に動作させることにより、前記吐出用タンク内の塗布液を前記ノズルから噴射状に吐出させる吐出制御手段と、前記ノズルから塗布液を吐出させた後、前記充填用圧電素子を閉側としたまま、前記吐出用圧電素子を初期側に戻すことにより、前記吐出用タンク内を負圧にして吐出された塗布液の糸引き部を切る糸切り制御手段と、を備える構成としてある。
【0014】
また、本発明の噴射式塗布装置は、塗布液を噴射する噴射式塗布ユニットと、この噴射式塗布ユニットを塗布面に対して相対的に移動させる移動手段とを有する噴射式塗布装置において、前記噴射式塗布ユニットが、ノズルを有する吐出用タンクと、前記吐出用タンクに塗布液を充填するための塗布液充填流路と、前記塗布液充填流路を開閉する充填用圧電素子と、前記吐出用タンク内の圧力を変動させる吐出用圧電素子と、前記充填用圧電素子及び前記吐出用圧電素子を独立的に駆動制御可能な圧電素子駆動制御部と、を備え、前記圧電素子駆動制御部が、前記充填用圧電素子を開側に動作させることにより、前記吐出用タンク内に塗布液を充填させる充填制御手段と、前記充填用圧電素子を閉側とし、かつ、前記吐出用圧電素子を圧力上昇側に動作させることにより、前記吐出用タンク内の塗布液を前記ノズルから噴射状に吐出させる吐出制御手段と、前記ノズルから塗布液を吐出させた後、前記充填用圧電素子を閉側としたまま、前記吐出用圧電素子を初期側に戻すことにより、前記吐出用タンク内を負圧にして吐出された塗布液の糸引き部を切る糸切り制御手段と、を備える構成としてある。
【0015】
また、本発明の噴射式塗布方法は、ノズルを有する吐出用タンクと、前記吐出用タンクに塗布液を充填するための塗布液充填流路と、前記塗布液充填流路を開閉する充填用圧電素子と、前記吐出用タンク内の圧力を変動させる吐出用圧電素子と、を用い、前記充填用圧電素子を開側に動作させることにより、前記吐出用タンク内に塗布液を充填させる充填工程と、前記充填用圧電素子を閉側とし、かつ、前記吐出用圧電素子を圧力上昇側に動作させることにより、前記吐出用タンク内の塗布液を前記ノズルから噴射状に吐出させる吐出工程と、前記ノズルから塗布液を吐出させた後、前記充填用圧電素子を閉側としたまま、前記吐出用圧電素子を初期側に戻すことにより、前記吐出用タンク内を負圧にして吐出された塗布液の糸引き部を切る糸切り工程と、を有する方法としてある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、塗布液の高速噴射が可能になるとともに、ピストンの摩耗などによる塗布量の経時変化を防止でき、高粘度の塗布液にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る噴射式塗布装置の概略斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る噴射式塗布ユニットを示す概略正面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る噴射式塗布ユニットの圧電素子駆動制御部を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る噴射式塗布ユニットの動作タイミングを示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る噴射式塗布ユニットの糸切り動作の作用を説明するための概略図であり、(a)は吐出中の塗布液を示す説明図、(b)は糸引き状態の塗布液を示す説明図、(c)は糸切り後の塗布液を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係る噴射式塗布装置に用いる塗布液の粘度と温度との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態に係る噴射式塗布装置の塗布性能を説明するための概略図であり、(a)は実施形態に係る噴射式塗布装置のノズル部分を示す正面図、(b)はニードル式塗布装置のノズル部分を示す正面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る噴射式塗布ユニットの動作タイミングの他例を示す説明図である。
【図9】一般的な噴射式塗布装置の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
[噴射式塗布装置及び噴射式塗布ユニットの実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る噴射式塗布装置の概略斜視図、図2は、本発明の実施形態に係る噴射式塗布ユニットを示す概略正面図、図3は、本発明の実施形態に係る噴射式塗布ユニットの圧電素子駆動制御部を示すブロック図である。
これらの図において、本実施形態の噴射式塗布装置1は、塗布ユニット10、筐体11及び三軸ロボット12を備えており、また、塗布ユニット10が、吐出部2、貯溜部3、充填部4及び圧電素子駆動制御部5を備えている。
この噴射式塗布装置1は、筐体11上に載置された基板13に、塗布液14を塗布する。
ここで、塗布液14とは、液状の樹脂、接着剤又は塗料などをいい、分散系溶液をも含むものとする。
【0020】
塗布ユニット10は、三軸ロボット12に取り付けられており、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動する。
なお、本実施形態においては、移動手段としての三軸ロボット12が、塗布ユニット10を移動させる構成としてあるが、これに限定されるものではない。
たとえば、塗布ユニット10を固定し、基板13を移動させる移動手段を設ける構成としてもよい。
【0021】
次に、塗布ユニット10の吐出部2、貯溜部3、充填部4及び圧電素子駆動制御部5について説明する。
図2に示すように、吐出部2は、吐出用タンク21、ノズル22及び吐出用圧電素子23を備えている。
吐出用タンク21は、吐出部2の内部に設けられた加圧室であり、塗布液14が充填される。
ノズル22は、吐出用タンク21の底部に設けられており、ここから塗布液14が噴射状に吐出される。
吐出用圧電素子23は、ノズル22と非接触の状態で吐出用タンク21内に設けられており、吐出用タンク21内の圧力を上昇させる圧力上昇動作(伸長変位動作)と、初期状態に戻る戻り動作(収縮動作)が可能であり、圧力上昇動作でノズル22から塗布液14を吐出させる。
吐出用圧電素子23としては、高応答、高出力が可能な積層ピエゾ素子が用いられる。バイモフ型ピエゾでは、高応答、高出力が実現できず、中高粘度の塗布液14を噴射状に吐出することが困難だからである。
【0022】
貯溜部3は、貯溜タンク31及び加圧機構32を備えている。
貯溜タンク31は、塗布液14を貯溜する容器である。
加圧機構32は、たとえば、エアー圧で貯溜タンク31の塗布液14を加圧している。
【0023】
充填部4は、塗布液充填流路41、開閉弁42及び充填用圧電素子43を備えている。
塗布液充填流路41は、貯溜タンク31と吐出用タンク21を連通させる流路であり、加圧された貯溜タンク31内の塗布液14は、塗布液充填流路41を介して、吐出用タンク21内に流入される。
開閉弁42は、塗布液充填流路41を開閉させる弁体である。
充填用圧電素子43は、開閉弁42に連結された状態で設けられており、開閉弁42を開く動作(伸長変位動作)と、開閉弁42を閉じる動作(収縮動作)が可能であり、開閉弁42を開くことにより、吐出用タンク21内に塗布液14が充填させる。
充填用圧電素子43としては、吐出用圧電素子23と同様、高応答、高出力が可能な積層ピエゾ素子が用いられる。これにより、吐出用圧電素子23と充填用圧電素子43が高速で協働し、塗布液14を高速噴射することが可能となる。
【0024】
圧電素子駆動制御部5は、充填用圧電素子43及び吐出用圧電素子23を独立的に駆動制御可能な制御手段であり、たとえば、任意波形発生回路を用いて構成され、増幅器を介して充填用圧電素子43及び吐出用圧電素子23を駆動させる。
圧電素子駆動制御部5は、充填用圧電素子43及び吐出用圧電素子23を所定のタイミングで動作させるために、充填制御手段51、吐出制御手段52及び糸切り制御手段53を備え、これらを順次繰り返し実行することにより、塗布ユニット10による塗布液14の高速噴射か可能となる。
【0025】
充填制御手段51は、充填用圧電素子43を開側に動作させることにより、吐出用タンク21内に塗布液14を充填させる。
吐出制御手段52は、充填用圧電素子43を閉側とし、かつ、吐出用圧電素子23を圧力上昇側に動作させることにより、吐出用タンク21内の塗布液14をノズル22から噴射状に吐出させる。
糸切り制御手段53は、ノズル22から塗布液14を吐出させた後、充填用圧電素子43を閉側としたまま、吐出用圧電素子23を初期側に戻すことにより、吐出用タンク21内を負圧にして吐出された塗布液14の糸引き部15(図5参照)を切る。
すなわち、ノズル22から塗布液14を吐出させた直後に、吐出用タンク21内を負圧にすると、ノズル22の管路内に残っている塗布液14が吐出用タンク21内に向けて引き込まれるので、塗布液14の糸引き部15に吐出方向とは逆方向の力が作用し、糸引き部15が切れやすくなる。
【0026】
また、圧電素子駆動制御部5は、吐出用圧電素子23を初期側に戻し始めてから、吐出用圧電素子23が初期状態に戻るまでの間に、充填制御手段51による充填用圧電素子43の開側への動作を開始させる。これにより、ノズル22から吐出用タンク21内への気泡の流入を防止することができる。
すなわち、吐出用タンク21内を負圧にしている時間が長い場合や、ノズル22の管路が短く塗布液14の引き込みストロークが小さい場合は、前記糸切り動作時においてノズル22から吐出用タンク21内へ気泡が流入し、塗布液14の連続噴射が不可能となる可能性があるが、気泡が吐出用タンク21内に入り込む前に、充填用圧電素子43の開側への動作を開始し、吐出用タンク21内に塗布液14を充填し始めることにより、ノズル22からの気泡の流入を防止することが可能となる。
【0027】
充填制御手段51による充填用圧電素子43の開側への動作を開始させるタイミングは、ノズル22の管路長などに応じて任意に設定することが可能である。
たとえば、吐出用圧電素子23を初期側に戻し始めてから、充填制御手段51による充填用圧電素子43の開側への動作を開始させるまでの時間T1と、充填制御手段51による充填用圧電素子43の開側への動作を開始させてから、吐出用圧電素子23が初期状態に戻るまでの時間T2が略同じになるような設定とすることができる。このようにすると、糸切りに必要な糸切り制御期間を確保しつつ、ノズル22からの気泡の流入を防止することができる。
【0028】
次に、上記構成の塗布ユニット10の動作について、図4及び図5を参照して説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る噴射式塗布ユニットの動作タイミングを示す説明図、図5は、本発明の実施形態に係る噴射式塗布ユニットの糸切り動作の作用を説明するための概略図であり、(a)は吐出中の塗布液を示す説明図、(b)は糸引き状態の塗布液を示す説明図、(c)は糸切り後の塗布液を示す説明図である。
図4は、吐出用タンク21内に塗布液14が充填された状態から塗布液14の噴射を開始する場合における吐出用圧電素子23及び充填用圧電素子43の駆動信号波形を示している。
【0029】
図4の(A)の状態では、充填用圧電素子43が閉状態で、かつ、吐出用圧電素子23が初期状態となっている。ここで、吐出用圧電素子23にSIN波形の電圧を与えると、吐出用圧電素子23は、電圧に応じて伸長動作し、吐出用タンク21内の圧力を上昇させる。このとき、圧力の逃げ場は、ノズル22の管路のみであるため、ノズル22から塗布液14が勢いよく吐出される(図5の(a)、(b)参照)。
【0030】
図4の(B)の状態に到達した後、つまり、ノズル22から塗布液14を吐出させた後は、充填用圧電素子43を閉側としたまま、吐出用圧電素子23を初期側に戻す。これにより、吐出用タンク21内を負圧にして吐出された塗布液14の糸引き部15を切る。
すなわち、ノズル22から塗布液14を吐出させた直後に、吐出用タンク21内を負圧にすると、ノズル22の管路内に残っている塗布液14が吐出用タンク21内に向けて引き込まれるので、塗布液14の糸引き部15に吐出方向とは逆方向の力が作用し、糸引き部15が切れやすくなる(図5の(c)参照)。
【0031】
次に、図4の(C)の状態に到達したら、充填用圧電素子43の開側への動作を開始し、吐出用タンク21内への塗布液14の充填を開始させる。
すなわち、吐出用圧電素子23を初期側に戻し始めてから、吐出用圧電素子23が初期状態に戻るまでの間に、吐出用タンク21内への塗布液14の充填を開始させることにより、吐出用タンク21内の負圧状態を解除し、ノズル22から吐出用タンク21内への気泡の流入を防止する。
【0032】
充填用圧電素子43に出力される駆動信号はSIN波形であり、図4の(D)の状態で充填用圧電素子43が開側の動作端に到達し、その後、連続的に戻り動作して閉側の動作端に到達した時点、つまり、図4の(E)の状態に到達した時点で吐出用タンク21に対する塗布液14の充填が完了する。そして、連続噴射動作においては、その直後に吐出用圧電素子23の駆動信号が出力されることになる。
【0033】
図5は、本発明の実施形態に係る塗布ユニット10の糸切り動作の作用を示しており、糸引き部15は、前述した糸切り動作を受けると、糸引き状態を維持することができなくなり、上下方向にほぼ自然に分離する。
そして、切断された糸引き部15の下方の部分は、噴射された塗布液14の液滴に吸収されるので、噴射された塗布液14は、安定した液滴として(ほぼ液滴形状の状態で)空中を飛翔(降下)し、基板13に塗布される。
これにより、噴射式塗布装置1においては、塗布液14が、たとえば、糸引き部15を発生させる高粘度樹脂の場合であっても、微小面積を有する塗布領域内に、微量の塗布液14を塗布することができる。
【0034】
また、切断された糸引き部15の上方の部分は、ノズル22内の塗布液14に吸収されるので、ノズル22の周囲が塗布液14で塞がれることなどによって、塗布状態が不安定になるといった不具合を効果的に回避することができる。
これにより、自動クリーニング機構や作業者によって、ノズル22に付着した塗布液14を清掃する必要がほぼなくなるので、生産性を大幅に向上させることができる。
また、塗布状態が安定することにより、塗布品質、たとえば、所定の塗布領域内に、所定量の塗布液14を塗布するといった品質を向上させることができる。
【0035】
なお、図5に示す噴射された塗布液14の形状は、一例である。すなわち、塗布液14の特性(たとえば、粘度など)などに応じて、噴射された塗布液14は、様々な形状となる場合がある。
したがって、たとえば、発生する糸引き部15の直径が、ノズル22の噴射孔の最小径とほぼ同じ、あるいは、この最小径より僅かに細い場合もある。かかる場合であっても、本実施形態の噴射式塗布装置1によれば、前述した糸切り動作により、噴射された塗布液14は、安定した液滴として(ほぼ液滴形状の状態で)空中を飛翔し、基板13に塗布される。
【0036】
次に、塗布液14の粘度と温度の関係について、図6を参照して説明する。
図6は、本発明の実施形態に係る噴射式塗布装置に用いる塗布液の粘度と温度との関係を示すグラフである。
図6において、塗布液14の一例として、アンダーフィル用の樹脂(たとえば、チップと基板との間に充填する液状の樹脂)の粘度と温度との関係を示しており、この塗布液14は、60℃のときの粘度が、20℃のときの粘度の約1/100である。
【0037】
本発明は、噴射された塗布液14が、糸を引く場合に有効である。
たとえば、図6に示す特性の塗布液を噴射式塗布装置1で塗布する場合、塗布液14が高粘度の温度域であっても、微小面積を有する塗布領域内に、微量の塗布液を塗布することができる。
なお、本発明においては、10Pa・s以上の粘度を高粘度とする。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の噴射式塗布装置1及び塗布ユニット10によれば、ノズル22を有する吐出用タンク21と、吐出用タンク21に塗布液14を充填するための塗布液充填流路41と、塗布液充填流路41を開閉する充填用圧電素子43と、吐出用タンク21内の圧力を変動させる吐出用圧電素子23と、充填用圧電素子43及び吐出用圧電素子23を独立的に駆動制御可能な圧電素子駆動制御部5とを備え、圧電素子駆動制御部5が、充填用圧電素子43を開側に動作させることにより、吐出用タンク21内に塗布液14を充填させる充填制御手段51と、充填用圧電素子43を閉側とし、かつ、吐出用圧電素子23を圧力上昇側に動作させることにより、吐出用タンク21内の塗布液14をノズル22から噴射状に吐出させる吐出制御手段52と、ノズル22から塗布液14を吐出させた後、充填用圧電素子43を閉側としたまま、吐出用圧電素子23を初期側に戻すことにより、吐出用タンク21内を負圧にして吐出された塗布液14の糸引き部15を切る糸切り制御手段53とを備えるので、圧電素子23、43を駆動源として塗布液14を吐出させることにより、塗布液14の高速噴射が可能になるとともに、ピストンの摩耗などによる塗布量の経時変化も防止でき、しかも、ノズル22から塗布液14を吐出させた後、塗布液14の糸引き部15を切る糸切り動作を行うことにより、高粘度の塗布液14にも対応することができる。
【0039】
また、圧電素子駆動制御部5は、吐出用圧電素子23を初期側に戻し始めてから、吐出用圧電素子23が初期状態に戻るまでの間に、充填制御手段51による充填用圧電素子43の開側への動作を開始させるので、ノズル22から吐出用タンク21内への気泡の流入を防止することができる。
【0040】
また、吐出用圧電素子23を初期側に戻し始めてから、充填制御手段51による充填用圧電素子43の開側への動作を開始させるまでの時間T1と、充填制御手段51による充填用圧電素子43の開側への動作を開始させてから、吐出用圧電素子23が初期状態に戻るまでの時間T2が略同じであるので、糸切りに必要な糸切り制御期間を確保しつつ、ノズル22からの気泡の流入を防止することができる。
【0041】
[使用例]
次に、上記実施形態の噴射式塗布装置1の使用例などについて、図7を参照して説明する。
図7は、本発明の実施形態に係る噴射式塗布装置の塗布性能を説明するための概略図であり、(a)は実施形態に係る噴射式塗布装置のノズル部分を示す正面図、(b)はニードル式塗布装置のノズル部分を示す正面図である。
【0042】
図7の(a)に示すように、本実施例の噴射式塗布装置1は、電子部品や半導体生産ラインなどに用いられており、複数のチップ(フリップチップ)16が、半田バンプ17を介して実装された基板13に、塗布液14(アンダーフィル用の樹脂)を塗布する。チップ16は、高密度実装されており、チップ16どうしの距離は、コンマ数mm(たとえば、0.5mm)としてある。
【0043】
噴射式塗布装置1は、塗布ユニット10が、三軸ロボット12によって、所定の塗布位置に移動し、上述したように塗布動作を開始する。本使用例では、塗布ユニット10は、数十〜数百(回噴射/秒)の噴射タクトで、塗布液14を、チップ16どうしの隙間に塗布する。すなわち、噴射式塗布装置1は、チップ(フリップチップ)16といった半導体製品の生産ラインの、チップ16と基板13との間にアンダーフィル用の樹脂を充填する塗布工程において、微小で高精度の塗布を行うことを可能とする。
これにより、微細微小化の傾向にある半導体製品において、耐久性や温度の保護としての役目を持つアンダーフィル充填塗布生産ラインの生産効率向上に、大いに役立つことができる。また、噴射式塗布装置1は、糸引きが起きやすく粘度が高い樹脂を用いている生産ライン、例えばUV硬化剤や接着剤、高粘度のため作業者が塗布している生産工程にも有効である。
【0044】
一方、上記の噴射式塗布装置1に対して、たとえば、図7(b)に示すように、ニードル18を用いた一般的な塗布装置は、塗布液14を、チップ16どうしの隙間に塗布する際、塗布液14がチップ16の上面と接触してしまい、所定の位置(チップ16と基板13とに挟まれた空間)に、塗布液14を塗布することができない。
すなわち、噴射式塗布装置1は、電子部品や半導体装置の高密度実装化などに、極めて有効である。
【0045】
[噴射式塗布装置及び噴射式塗布ユニットの第二実施形態]
図8は、本発明の実施形態に係る噴射式塗布ユニットの動作タイミングの他例を示す説明図である。
この図に示すように、本発明の第二実施形態に係る噴射式塗布装置及び噴射式塗布ユニットは、糸切り制御手段53が、充填用圧電素子43を閉側としたまま、吐出用圧電素子23を段階的に初期側に戻す点が前記実施形態と相違している。
たとえば、図8に示すように、吐出用圧電素子23を伸長動作させて塗布液14を吐出させた後、吐出用圧電素子23を所定量戻し動作した後に一旦停止させ、その後に再度吐出用圧電素子23を所定量戻し動作することにより、2段階の糸切り動作を行う。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の噴射式塗布装置及び噴射式塗布ユニットによれば、上記の第一実施形態の噴射式塗布装置1とほぼ同様の効果を奏することができ、さらには、糸切り制御手段53が、充填用圧電素子43を閉側としたまま、吐出用圧電素子23を段階的に初期側に戻すことにより、前記実施形態とは異なる糸切り性能を発揮することができ、塗布液14の種類によっては、前記実施形態よりも良好な糸切り性を発揮することができる。
【0047】
以上、本発明について、実施形態を示して説明したが、本発明は、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
たとえば、前記実施形態では、吐出用タンク内に吐出用圧電素子を設け、その駆動により吐出用タンク内の圧力を変動させているが、吐出用タンク内の圧力を変動させるピストンなどの圧力変動機構を設け、該圧力変動機構を吐出用圧電素子の駆動で動作させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、塗布液を噴射状に吐出する噴射式塗布ユニット、噴射式塗布装置及び噴射式塗布方法に適用でき、特に、高粘度の樹脂を噴射状に吐出する噴射式塗布ユニット、噴射式塗布装置及び噴射式塗布方法に好適である。
【符号の説明】
【0049】
1 噴射式塗布装置
2 吐出部
3 貯溜部
4 充填部
5 圧電素子駆動制御部
10 塗布ユニット
14 塗布液
15 糸引き部
21 吐出用タンク
22 ノズル
23 吐出用圧電素子
41 塗布液充填流路
42 開閉弁
43 充填用圧電素子
51 充填制御手段
52 吐出制御手段
53 糸切り制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルを有する吐出用タンクと、
前記吐出用タンクに塗布液を充填するための塗布液充填流路と、
前記塗布液充填流路を開閉する充填用圧電素子と、
前記吐出用タンク内の圧力を変動させる吐出用圧電素子と、
前記充填用圧電素子及び前記吐出用圧電素子を独立的に駆動制御可能な圧電素子駆動制御部と、を備え、
前記圧電素子駆動制御部が、
前記充填用圧電素子を開側に動作させることにより、前記吐出用タンク内に塗布液を充填させる充填制御手段と、
前記充填用圧電素子を閉側とし、かつ、前記吐出用圧電素子を圧力上昇側に動作させることにより、前記吐出用タンク内の塗布液を前記ノズルから噴射状に吐出させる吐出制御手段と、
前記ノズルから塗布液を吐出させた後、前記充填用圧電素子を閉側としたまま、前記吐出用圧電素子を初期側に戻すことにより、前記吐出用タンク内を負圧にして吐出された塗布液の糸引き部を切る糸切り制御手段と、を備える
ことを特徴とする噴射式塗布ユニット。
【請求項2】
前記圧電素子駆動制御部が、
前記吐出用圧電素子を初期側に戻し始めてから、前記吐出用圧電素子が初期状態に戻るまでの間に、前記充填制御手段による前記充填用圧電素子の開側への動作を開始させる請求項1記載の噴射式塗布ユニット。
【請求項3】
前記吐出用圧電素子を初期側に戻し始めてから、前記充填制御手段による前記充填用圧電素子の開側への動作を開始させるまでの時間と、前記充填制御手段による前記充填用圧電素子の開側への動作を開始させてから、前記吐出用圧電素子が初期状態に戻るまでの時間が略同じである請求項2記載の噴射式塗布ユニット。
【請求項4】
前記糸切り制御手段が、
前記充填用圧電素子を閉側としたまま、前記吐出用圧電素子を段階的に初期側に戻す請求項1〜3のいずれか一項に記載の噴射式塗布ユニット。
【請求項5】
前記圧電素子が、積層ピエゾ素子である請求項1〜4のいずれか一項に記載の噴射式塗布ユニット。
【請求項6】
前記塗布液が、高粘度の液状樹脂である請求項1〜5のいずれか一項に記載の噴射式塗布ユニット。
【請求項7】
塗布液を噴射する噴射式塗布ユニットと、この噴射式塗布ユニットを塗布面に対して相対的に移動させる移動手段とを有する噴射式塗布装置において、
前記噴射式塗布ユニットが、
ノズルを有する吐出用タンクと、
前記吐出用タンクに塗布液を充填するための塗布液充填流路と、
前記塗布液充填流路を開閉する充填用圧電素子と、
前記吐出用タンク内の圧力を変動させる吐出用圧電素子と、
前記充填用圧電素子及び前記吐出用圧電素子を独立的に駆動制御可能な圧電素子駆動制御部と、を備え、
前記圧電素子駆動制御部が、
前記充填用圧電素子を開側に動作させることにより、前記吐出用タンク内に塗布液を充填させる充填制御手段と、
前記充填用圧電素子を閉側とし、かつ、前記吐出用圧電素子を圧力上昇側に動作させることにより、前記吐出用タンク内の塗布液を前記ノズルから噴射状に吐出させる吐出制御手段と、
前記ノズルから塗布液を吐出させた後、前記充填用圧電素子を閉側としたまま、前記吐出用圧電素子を初期側に戻すことにより、前記吐出用タンク内を負圧にして吐出された塗布液の糸引き部を切る糸切り制御手段と、を備える
ことを特徴とする噴射式塗布装置。
【請求項8】
前記圧電素子駆動制御部が、
前記吐出用圧電素子を初期側に戻し始めてから、前記吐出用圧電素子が初期状態に戻るまでの間に、前記充填制御手段による前記充填用圧電素子の開側への動作を開始させる請求項7記載の噴射式塗布装置。
【請求項9】
ノズルを有する吐出用タンクと、
前記吐出用タンクに塗布液を充填するための塗布液充填流路と、
前記塗布液充填流路を開閉する充填用圧電素子と、
前記吐出用タンク内の圧力を変動させる吐出用圧電素子と、を用い、
前記充填用圧電素子を開側に動作させることにより、前記吐出用タンク内に塗布液を充填させる充填工程と、
前記充填用圧電素子を閉側とし、かつ、前記吐出用圧電素子を圧力上昇側に動作させることにより、前記吐出用タンク内の塗布液を前記ノズルから噴射状に吐出させる吐出工程と、
前記ノズルから塗布液を吐出させた後、前記充填用圧電素子を閉側としたまま、前記吐出用圧電素子を初期側に戻すことにより、前記吐出用タンク内を負圧にして吐出された塗布液の糸引き部を切る糸切り工程と、を有する
ことを特徴とする噴射式塗布方法。
【請求項10】
前記吐出用圧電素子を初期側に戻し始めてから、前記吐出用圧電素子が初期状態に戻るまでの間に、前記充填工程による前記充填用圧電素子の開側への動作を開始させる請求項9記載の噴射式塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−31181(P2011−31181A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180414(P2009−180414)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】