説明

噴射装置

【課題】噴霧パターンが大きく、かつ噴霧パターン内での噴射密度が均一で小さく、噴霧粒子も小さく、噴射をマイルドにする噴射装置を提供する。
【解決手段】噴口22が開口した噴口チップ20と噴口チップ20を装着するハウジング11を有し、ハウジング11内に流入した流体を噴口22から噴射する噴射装置10が、噴口チップ20の内壁に、外周より噴口22に向う旋回流を形成する複数の溝23と、それらの溝23が合流して噴口に至る合流部24を有する。溝深さが噴口チップ20の外周部21に対して合流部24側が深くなるように溝底面23bが傾斜し、溝23の形成面が噴口22の中心線Lbに対して垂直な平面である。ハウジングは、溝23の形成面に当接するセンターポスト14を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器本体の口部に装着され、内容液を噴霧させるために有用な噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアゾール容器やポンプ容器から内容液を噴霧させる場合、それらの容器本体の口部に、噴口チップを備えた噴射装置が装着されており、噴口チップの形状は、目的とする噴霧パターンに応じて変えられている。
【0003】
例えば、噴霧される流体の拡散角を広げる場合に、有底筒状で底部に噴口が開口した噴口チップの当該底部内壁に複数の溝を放射状に形成することが知られている。この噴口チップの底部内壁に、柱状部材の先端面を当接させることにより、柱状部材の外周を流れて噴口チップの外周部に達した流体が、柱状部材の先端面と噴口チップの底部との間に形成される放射状の流路を通り、噴口から噴射されるようにすると、噴射した流体は旋回流により拡散するので、噴霧パターンを広げることが可能となる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−15299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、噴口チップに複数の溝を放射状に形成して、噴口チップの外周部から噴口に至る流体の流路を放射状にしても、噴霧パターンの広さが不十分であったり、広げた噴霧パターン内では噴霧粒子の密度に偏りがあったり、噴霧粒子も大きく、マイルドな噴霧を得にくいという問題があった。
【0006】
これに対し、本発明は、噴霧パターンが大きく、かつ噴霧パターン内での噴射密度が均一で小さく、噴霧粒子も小さく、噴射をマイルドにする噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、噴口チップに、噴口に向かう旋回流が形成されるように複数の溝を形成する場合に、溝底面を傾斜させることにより溝深さを溝の合流部に向かって深くすると、噴霧パターンが広がると共に噴射密度が小さく均一で噴射がマイルドになること、また、この場合に溝の形成面を、噴口の中心軸に対して垂直な平面とすると、この平面と、ハウジングに形成されているセンターポストの先端面とを容易に密着させることができるので、噴口に至る流体の流路を確実に放射状に形成することができ、上述の効果を得やすくなることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、噴口が開口した噴口チップと噴口チップを装着するハウジングを有し、ハウジング内に流入した流体を噴口から噴射する噴射装置であって、
噴口チップの内壁に、外周より噴口に向う旋回流を形成する複数の溝と、それらの溝が合流して噴口に至る合流部が設けられ、
溝底面が、溝深さが噴口チップの外周部に対して合流部側が深くなるように傾斜し、
溝の形成面が噴口の中心線に対して垂直な平面であり、
ハウジングが、前記溝の形成面に当接するセンターポストを有するとともに前記溝の外周側に連なる流路を有する噴射装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の噴射装置によれば、複数の溝により噴口チップの噴口に向かう旋回流が形成され、かつ、溝底面が傾斜して溝が合流部側で深くなっているので、流体の旋回流の損失を抑えて噴口から噴射できるため、噴射流体に大きな遠心力を与えることができ、これにより、噴霧パターンが広く、かつ噴射密度が均一で小さく、更に噴霧粒子が小さいマイルドな噴霧を得ることが可能となる。
【0010】
また、本発明の噴射装置によれば、噴口チップにおける溝の形成面が、噴口の中心線に対して垂直な平面となっているため、この平面に、噴射装置のセンターポストの先端面を容易に密着させることができる。したがって、噴口チップの外周部から噴口に至る流体の流路を確実に放射状に形成することができる。
【0011】
さらに、噴口チップを備えた既存の噴射装置のハウジングの多くは、先端面が平坦なセンターポストを有するので、本発明の噴射装置は、既存の噴射装置のハウジングを利用して、簡便に低コストに得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例の噴射装置を備えたエアゾール容器の斜視図である。
【図2A】図2Aは、図1の噴射装置の断面図(A−A図)である。
【図2B】図2Bは、図2Aの噴口チップ部分の拡大図である。
【図3A】図3Aは、図2Aの噴射装置の噴口チップの断面図である。
【図3B】図3Bは、図2Aの噴射装置の噴口チップの背面図(A−A図)である。
【図4A】図4Aは、比較例の噴口チップの断面図である。
【図4B】図4Bは、図4Aの噴口チップの背面図(A−A図)である。
【図5A】図5Aは、比較例の噴口チップの断面図である。
【図5B】図5Bは、図5Aの噴口チップの背面図(A−A図)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の噴射装置を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は、同一又は同等の構成要素を表している。
【0014】
図1は、本発明の一実施例の噴射装置10を備えたエアゾール容器1の斜視図であり、図2Aは、その噴射装置10の断面図(A−A図)であり、図2Bは、その噴口チップ部分の拡大図であって、流体の流れを示した図である。
【0015】
この噴射装置10は、エアゾール容器1の容器本体2の口部に装着され、容器本体2内に収容されている流体を噴射するものであって、そのハウジング11には、エアゾール容器1のステム3が挿入されるステム挿入部12が形成されている。また、ステム挿入部12の長手方向に対して略垂直に円筒状凹部13が形成され、その中に円柱状のセンターポスト14が形成され、センターポスト14の外周と円筒状凹部13との間の間隙が流路15となっている。この流路15は、ステム挿入部12に連通している。
【0016】
センターポスト14の先端部には噴口チップ20が装着されている。噴口チップ20は、概略有底筒状で底部に噴口22が開口している。図3A及び図3Bに示すように、この噴口チップ20の内壁には、その外周部21から噴口22に向かう旋回流を形成する複数の溝23が形成され、さらにそれらの溝23が噴口22の手前で合流する合流部24が形成されている。なお、符号25は、噴口チップ20の側面内壁に突出するように形成された突起であって、突起25はセンターポスト14に当接して、噴口チップ20を位置決めし、固定する。
【0017】
ここで、複数の溝23は略放射状に形成されているが、各溝23は、噴口22から噴射される流体が旋回流となるように、溝幅の中心線Laが噴口22の中心からずれるように形成されている。なお、複数の溝23の平面形状としては、噴口22から流体が旋回流として射出されるように、少なくとも合流部24近傍では、溝幅の中心線Laが噴口22の中心からずれるように形成されていればよく、その余の領域では、例えば、複数の溝が渦巻きに形成されていてもよい。また、溝23の個数としては、好ましくは2〜6個、より好ましくは3〜4個である。
【0018】
本発明においては、溝23が流体が送り込まれる流路15のある噴口チップ20の外周部21に対して合流部24側で深くなるように溝底面23bが傾斜し、かつ溝23の形成領域における溝23の形成面(即ち、溝23の上縁の包絡面)が、噴口22の中心線Lbに対して垂直な平面とすることを特徴としている。このため、本実施例では、図3Aに示すように、噴口チップ20における噴口22の形成壁を平板状とすることにより溝23の上縁23aは噴口22の中心線Lbに対して垂直となるようにし、かつ溝の底面23bには傾きを持たせ、噴口22側で溝23を深くしている。このように、溝の底面23bに傾きをもたせ、溝23の深さを噴口チップ20の外周部21に対して合流部24側で深くすると、図2Bに示すように、センターポスト14の外側の流路15を通って噴口チップ20の外周部21に達した流体が、さらに溝23に沿って旋回して流れ、噴口22から拡散噴射される場合に、流体の旋回流の損失を抑えて噴口22から噴射できるため、噴射流体に大きな遠心力を与えることができるので、噴口22から噴射する流体の噴霧パターンを広げ、かつ噴射密度を均一で小さくし、噴霧粒子を微細化させてマイルドな噴霧を得ることが可能となる。また、溝23の形成領域における溝23の形成面を噴口22の中心線Lbに対して垂直とすることにより、溝23の形成面とセンターポスト14の先端面との密着性が向上するので、溝23により、確実に放射状の流路を形成することができる。さらに、既存の噴射装置のハウジングの多くは、先端面が、噴口の中心線Lbに対して垂直に形成されているので、既存の噴射装置のハウジングを用いて本発明の噴射装置を低コストに得ることが可能となる。
【0019】
溝23の深さを合流部24側で深くするにあたり、溝23を噴口チップ20の外周から合流部24にかけて直線的に深くしてもよいが、噴口チップ20の外周からセンターポスト14の当接領域あたりまでは一定とし、センターポスト14の当接領域あたりから溝の底面23bに傾きをもたせてもよい。
【0020】
また、溝23の深さを合流部24側で深くする態様としては、溝の底面23bを階段状に形成することも考えられるが、溝の底面23bを階段状にすると、その段に付着物が溜まり、吐出不良が生じる場合があるので、溝の底面23bを傾斜させることが好ましい。
【0021】
溝23を合流部24側で深くする程度は、噴口チップ20、合流部24、噴口22のそれぞれの径にもよるが、例えば、噴口チップ20の内径L1が2.0〜8.0mm、合流部24の直径L2が0.2〜4.0mm、噴口22の直径L3が0.2〜1.5mmの場合に、溝23の最も浅い部分の深さL4を0.1〜1.0mmとし、溝23の最も深い部分の深さL5を0.2〜1.5mmとすることが好ましい。また底面23bの傾斜角度θは5°〜45°が好ましい。
【0022】
なお、溝の合流部24の深さは、図3Aに示したように、噴口22に向かって深くなるようにしてもよく、一定としてもよいが、流体の圧力損失を小さくする点から、噴口22に向かって深くし、合流部24を、噴口22を頂部とする円錐台形状とすることが好ましい。
【0023】
一方、溝23の流路断面積は噴口チップ20外周部21から合流部24に向かって同一あるいは、小さくすることが好ましいので、溝23の幅を、噴口チップ20の外周部21から合流部24に向かって狭くすることが好ましい。これにより、上述のように溝23を合流部24側で深くしても、流体の線流速の低下を防止でき、噴霧パターンをより広くすることができる。
【0024】
本発明の噴射装置10は、容器本体2の口部にハウジング11を装着させるためのハウジング11の構成を常法により適宜変更することにより、エアゾール容器、ポンプ容器、トリガー容器等の液体吐出容器の口部に取り付けることが可能となる。
【0025】
本発明の噴射装置10においては、噴口チップ20がセンターポスト14と当接する面に溝23を形成するのに加えて、センターポスト14に溝加工しても良い。
【実施例】
【0026】
以下、実験例に基づいて本発明の実施例を具体的に説明する。
【0027】
実施例1
図3A及び図3Bに示したように4本の溝23が略放射状に形状され、各溝の深さが合流部24に向かって深くなるように溝底面23bが傾斜し、溝幅が合流部24に向かって狭くなるように変化している噴口チップ20であって、噴口22の直径L3、ランド長L6、溝幅(最大L7/最小L8)、溝深さ(最小L4/最大L5)が表1に示すものを製造し、この噴口チップ20を用いて、図2Aの構造の噴射装置10を製造した。
【0028】
比較例1
図4A及び図4Bに示すように、噴口チップ20Xとして、4本の溝23が略放射状に形成されているが、溝底面が傾斜しておらず、溝深さが噴口チップ20Xの外周部21から合流部24まで一定であり、溝幅が合流部24に向かって狭くなるように変化している噴口チップであって、表1の寸法を有するものを製造し、この噴口チップを用いて実施例1と同様に噴射装置を製造した。
【0029】
比較例2
図5A及び図5Bに示すように、噴口チップ20Yとして、4本の溝23が略放射状に形成されているが、溝底面が傾斜しておらず、溝深さが噴口チップ20Yの外周部21から合流部24まで一定であり、溝幅も一定であり、表1の寸法を有するものを製造し、この噴口チップを用いて実施例1と同様に噴射装置を製造した。
【0030】
評価
実施例1、比較例1及び比較例2の各噴射装置を、それぞれエアゾール容器(内容液:原液/ガス(重量比):45/55、ガス比(重量比):LPG(0.2MPa)/DME=30/70、原液:ヘアスプレー剤、粘度10mPa・s(20℃)、ガス圧:0.35Mpa(20℃))の口部に取り付け、(a)スプレーパターン、(b)噴射量、(c)粒子径、(d)噴射密度を次のように測定した。これらの結果を表1に示す。
【0031】
(a)スプレーパターン(縦mm×横mm)
噴口から150mmの距離に平板を置き、1秒間噴射させた場合に平板に形成されたスプレーパターンの縦、横の長さ(mm)を測定した。
(b)噴射量(g/10s)
10秒間噴射させた場合の噴射液量(g)を測定した。
(c)粒子径(μm)
Partikel-technik社のレーザー回折式粒子径分布測定装置により測定した。
(d)噴射密度(g/cm2
噴口から150mmの距離に平板を置き、1秒間噴射させた場合の噴射量(g)を直径150mmの円の面積で割ることにより求めた。
【0032】
【表1】

【0033】
表1の結果から、実施例1の噴射装置は比較例1、2の噴射装置に比してスプレーパターンが広いこと、また、噴射量が維持され、粒子径も小さな状態を維持したままで噴射密度が小さく、マイルドな噴霧を形成していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の噴射装置は、化粧用スプレー、ヘアケアスプレー、衣料用スプレー、洗浄剤スプレーなど種々のスプレー容器の噴射装置として有用である。
【符号の説明】
【0035】
1 エアゾール容器
2 容器本体
3 ステム
10 噴射装置
11 ハウジング
12 ステム挿入部
13 円筒状凹部
14 センターポスト
15 流路
20、20X、20Y 噴口チップ
21 噴口チップの外周部
22 噴口
23 溝
23a 溝の上縁
23b 溝の底面
24 合流部
25 突起
La 溝の中心線
Lb 噴口の中心線
L1 噴口チップの内径
L2 合流部の直径
L3 噴口の直径
L4 溝の最も浅い部分の深さ
L5 溝の最も深い部分の深さ
L6 ランド長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴口が開口した噴口チップと噴口チップを装着するハウジングを有し、ハウジング内に流入した流体を噴口から噴射する噴射装置であって、
噴口チップの内壁に、外周より噴口に向う旋回流を形成する複数の溝と、それらの溝が合流して噴口に至る合流部が設けられ、
溝底面が、溝深さが噴口チップの外周部に対して合流部側が深くなるように傾斜し、
溝の形成面が噴口の中心線に対して垂直な平面であり、
ハウジングが、前記溝の形成面に当接するセンターポストを有するとともに前記溝の外周側に連なる流路を有する噴射装置。
【請求項2】
合流部近傍において溝幅の中心線が噴口の中心からずれている請求項1記載の噴射装置。
【請求項3】
溝幅が噴口チップの外周部から合流部に向かって狭くなっている請求項1又は2記載の噴射装置。
【請求項4】
合流部が、噴口を頂部とする円錐台形状である請求項1〜3のいずれかに記載の噴射装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2011−147920(P2011−147920A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13595(P2010−13595)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(000144463)株式会社三谷バルブ (142)
【Fターム(参考)】