説明

四級アンモニウム化合物を含む組成物

本発明は、その窒素原子が、少なくとも12個の炭素原子を有する少なくとも1つのアルキル基で置換されている、四級アンモニウム化合物を含む組成物であって、前記組成物は、総組成物の重量の少なくとも20重量%の、その窒素原子が少なくとも14個の炭素原子を有する少なくとも1つのアルキル基で置換されているアンモニウムハライド、および総組成物の重量の5重量%超、好ましくは7重量%超の、その窒素原子が少なくとも16個の炭素原子を有する少なくとも1つのアルキル基で置換されているアンモニウムハライドを含むことを特徴とする組成物に関する。本発明はまた、このような組成物を含む眼部水中油型エマルジョンであって、眼のケアまたは眼の状態の治療のために有用であるエマルジョンに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四級アンモニウム化合物を含む薬剤、眼部または美容組成物、より好ましくは、眼のケアまたは眼の状態の治療のために有用である眼部エマルジョンに関する。本発明は、また、カチオン性物質として少なくとも1種の四級アンモニウム化合物を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
四級アンモニウム化合物は、通常、殺菌薬または抗菌薬として使用される有機化合物である。例えば、塩化ベンザルコニウムは、四級アンモニウム群に属する窒素性カチオン性界面活性剤である。塩化ベンザルコニウムは、一般に、一般式C6H5CH2N(CH3)2RCl(式中、RはC12〜C24アルキル基である)の化合物の混合物として定義される。
【0003】
塩化ベンザルコニウムは、通常、欧州および/または米国薬局方を遵守する必要がある製造者によって提供されるように、様々なアルキル鎖長のn-アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドの混合物である。例えば、FeF Chemicals A/S(Denmark)は、注文番号8100301U(BAK USP/NF)として、(1)C12-アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド60〜70%、(2)C14-アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド30〜40%、および(3)C16-アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド5%未満を含む、3種のアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドの混合物を供給している。
【0004】
塩化ベンザルコニウムは、様々なアルキル鎖長を有するアルキルジメチルベンジルアンモニウムの混合物として、局所用眼部製品中で防腐剤として使用される。塩化ベンザルコニウムはまた、カチオン性物質の特性を有し、エマルジョン、特に眼部エマルジョンのためのカチオン性物質として使用された。
【0005】
様々なアルキル鎖長を有する塩化ベンザルコニウムの混合物をエマルジョン中で使用する場合、これらは、防腐剤およびカチオン性物質としての両方の役割を果たす。
【0006】
本出願人は長鎖四級アンモニウム化合物を研究し、アルキル鎖長に従って、四級アンモニウム化合物のカチオン性出力の増強または低下が生じ、アルキル鎖長は、四級アンモニウム化合物によって果たされる機能に関して重要であることに気付いた。いかなる理論にも関連付けることは望まないが、本出願人は、水中油型エマルジョンの研究において、長鎖四級アンモニウム化合物は、エマルジョンの油/水界面に優先的に局在し、(1)より高いゼータ電位を有するエマルジョンおよび(2)より安定なエマルジョンをもたらすことが分かった。四級アンモニウムは、望ましくないまたは有毒と考え得るので、したがって本発明の目標は、四級アンモニウム化合物の含量を減少させるカチオン性組成物を提供することである。
【0007】
本出願人はまた、エマルジョン中で、長いアルキル鎖を有する四級アンモニウム化合物、例えば、C14〜C18アルキル鎖を有する四級アンモニウム化合物は、C12-アルキル鎖と比較した場合、これらは最大のカチオン性出力が付与されるのに対して、良好な殺菌活性を有さないことが分かった。
【0008】
さらに、本出願人は、長鎖四級アンモニウム化合物は、エマルジョン液滴の油/水界面に優先的に存在し、水相中にはより少ないことが分かった。四級アンモニウム化合物が水相中に非常に少量のみ存在するか、または存在しないという事実は、防腐効果の欠如または防腐効果の低下、および毒性の少ないエマルジョンをもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO 2006/050836
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目標の1つは、低減した量の塩化ベンザルコニウムを含み、前記塩化ベンザルコニウムをカチオン性物質の供給源の1つとして、または唯一の供給源として依然として用いる安定なカチオン性エマルジョンを提供することであり、前記エマルジョンは、防腐処理されるかまたはされない。
【0011】
本発明の他の目標は、たとえ四級アンモニウム化合物を含んでいても、有毒ではないエマルジョンを提供することである。
【0012】
好ましくは、本発明のエマルジョンは、点眼の目的に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、
「カチオン性エマルジョン」とは、プラスのゼータ電位、好ましくは10mVより高いゼータ電位を有するエマルジョンである。
「アルキル」とは、飽和または不飽和炭化水素鎖を意味する。
「長いアルキル鎖」とは、少なくとも12個の炭素原子を有するアルキル部分である。
「四級アンモニウム化合物」とは、その窒素原子が、少なくとも12個の炭素原子を有する、1つのみまたは少なくとも1つのアルキル基で置換されているアンモニウムハライドを指す。四級アンモニウム化合物にはまた、限定するものではないが、塩化ベンザルコニウムとも呼ばれる、n-アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(以下、BAKまたはADBACとも称される);n-アルキルジメチルベンジルアンモニウムブロマイド;n-アルキルトリメチルアンモニウムブロマイド(TABとも称される)が含まれ、n-アルキルは、少なくとも12個の炭素原子のアルキル基を意味する。
「C14-アルキルアンモニウムハライド」とは、アンモニウム基の窒素原子が、少なくとも14個の炭素原子を有する少なくとも1つのアルキル基で置換されているアンモニウムハライドを意味する。
「BAK C12」とは、塩化ベンゾドデシニウム(CAS 139-07-1)を指す。
「BAK C14」とは、塩化ミリスタルコニウム(CAS 139-08-2)を指す。
「BAK C16」とは、セタルコニウムクロリドまたはCKC(CAS 122-18-9)を指す。
「ATAB C12」とは、ラウリルトリメチルアンモニウムブロマイド(CAS 1119-94-4)を指す。
「ATAB C14」とは、ミリスチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CAS 1119-97-7)を指す。
「ATAB C16」または「CTAB」とは、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CAS 57-09-0)を指す。
「MCT」とは、中鎖トリグリセリドを意味する。実験で使用したMCTは、Mygliol 812(Sasol、Germany)であった。
「ND」とは、「判定せず」を意味する。
【0014】
本発明は、カチオン性物質としてアンモニウムハライド組成物を含むカチオン性水中油型エマルジョンに関する。このアンモニウムハライド組成物は、好ましい実施形態では、1種のみのアンモニウムハライドを含み、これは、C16-アルキル四級アンモニウムハライドである。
【0015】
本発明の水中油型エマルジョンは、塩化ベンザルコニウムを含むエマルジョンに比較して、非常に安定でかつ有毒でないでないという利点をもたらす。
【発明を実施するための形態】
【0016】
カチオン性水中油エマルジョンとは、プラスのゼータ電位を有する水中油エマルジョンと解される。本発明のエマルジョンは、プラスのゼータ電位を有し、安定であり、これは、プラスのゼータ電位を経時的に維持することを意味する。
【0017】
好ましい実施形態では、本発明による水中油型エマルジョンは、100〜500nm、好ましくは200〜300nmのサイズの液滴を含む。
【0018】
好ましい実施形態では、本発明の水中油型エマルジョンは、眼のケアまたは眼疾患もしくは眼の状態の治療のために有用である。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、眼疾患または眼の状態は、ドライアイ状態を意味する。
【0020】
生成され、涙管中に分散される涙の量が減少し、または生成された涙膜の安定性が低下すると、ドライアイと称される眼の状態になる。ドライアイ状態は、軽度から強度の範囲にわたって、視力を低下させ、不快感をもたらように作用し、最終的には、治療および補正をしないでおくと、角膜組織が完全に破壊し、極端には角膜移植を必要とする、露出された眼球組織の破壊を伴う恒久的損傷が起こる。
【0021】
ドライアイに伴って生じる症状は、コンタクトレンズを用いる対象で悪化することが多い。
【0022】
したがってこの文脈では、ドライアイ状態は、涙液減少、涙欠乏症、眼の乾燥症、シェーグレン症候群、乾性角結膜炎(KCS)、アトピー性乾性角結膜炎(AKC)、春季乾性角結膜炎(VKC)、スティーブンスジョンソン症候群、眼の類天疱瘡、眼瞼縁炎、閉眼障害、または感覚神経麻痺に伴って生じるドライアイ、アレルギー性結膜炎に伴って生じるドライアイ、ウイルス性結膜炎後のドライアイ、レーザーin situ角膜屈折矯正術(LASIK)を含む角膜手術後のドライアイ、白内障手術後のドライアイ、コンタクトレンズ着用に伴って生じるドライアイ、またはVDT作業に伴って生じるドライアイを指す。
【0023】
より好ましくは、本発明による水中油型エマルジョンは、
a)油相、
b)エマルジョンの重量の0.0005重量%〜0.1重量%、好ましくは0.001〜0.02重量%の、上記の本発明によるアンモニウムハライドの組成物、
c)界面活性剤、
d)場合により、酸化防止剤、等張化剤、増粘剤、pH調整剤、緩衝剤、防腐剤、可溶化剤、キレート剤または増粘剤、
e)水
を含む。
【0024】
本発明のある実施形態では、前記アンモニウムハライドの組成物は、アンモニウム基の窒素原子が、少なくとも12個の炭素原子を有する、1種のみまたは少なくとも1種のアルキル基で置換されている、少なくとも1種のアンモニウム四級アンモニウムハライドを含み、前記組成物は、
- その窒素原子が、少なくとも14個の炭素原子、好ましくは14または16個の炭素原子を有する、1種のみまたは少なくとも1種のアルキル基で置換されている、総組成物の重量の少なくとも20重量%のアンモニウムハライド、および
- その窒素原子が、少なくとも16個の炭素原子を有する1種のみまたは少なくとも1種のアルキル基で置換されている、総組成物の重量の5重量%超、好ましくは7重量%超のアンモニウムハライド
を含む。
【0025】
本発明の好ましい実施形態によれば、アンモニウムハライドの組成物は、C16-アルキル四級アンモニウムハライドのみ、より好ましくは、アンモニウム基の窒素原子が、16個の炭素原子を有する1種のみまたは少なくとも1種のアルキル基で置換されている塩化アンモニウムまたは臭化アンモニウムを含む。
【0026】
好ましくは、アンモニウムハライドの組成物は、C16-アルキルベンジルアンモニウムハライド、好ましくは、C16-アルキルベンジルジメチルアンモニウムハライド、好ましくはBAK C16を含む。
【0027】
本発明のある実施形態によれば、アンモニウムハライドの組成物は、アンモニウム基の窒素原子が、2つまたは3つの低級アルキル基、好ましくは2つまたは3つのメチル基で置換されているC16-アルキル四級アンモニウムハライドを含む。
【0028】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、前記水中油型エマルジョンは、エマルジョンの重量の0.0005〜0.1重量%のC16-アルキル四級アンモニウムハライドを含む。
【0029】
好ましい実施形態によれば、本発明のエマルジョンは、鉱油、ヒマシ油、MCT、トウモロコシ油、オリーブ油、大豆油または任意の適した植物油を含む油相を含み、好ましくは、前記油相は、鉱油、ヒマシ油またはMCTを含む。
【0030】
好ましい実施形態によれば、本発明のエマルジョンは、チロキサポールをさらに含む。
【0031】
好ましい実施形態によれば、本発明のエマルジョンは、等張化剤、例えば、グリセロール、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムなど;その他界面活性剤、例えばポロクサマー;および場合により少なくとも1種の緩衝剤、例えばクエン酸塩、リン酸塩、トリス、ホウ酸塩、酢酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩-ポリオール複合物、ヒスチジン、グルコン酸塩および乳酸塩などをさらに含む。
【0032】
本発明の好ましい一実施形態では、前記エマルジョンは、等張化剤としてマンニトールを含む。
【0033】
本発明の他の好ましい実施形態では、前記エマルジョンは、等張化剤としてグリセロールを含む。
【0034】
好ましくは、このエマルジョンは、エマルジョンの重量の1〜5重量%の油相、好ましくは、MCTヒマシ油または鉱油を含む。
【0035】
好ましくは、この鉱油相は、重質鉱油と軽質鉱油の混合物である。
【0036】
主な液滴コアは、軽質鉱油50%と重質鉱油50%からなる。
【0037】
鉱油は、石油から得られた精製された、液体飽和脂肪族(C14〜C18)と環状炭化水素の混合物である。軽質鉱油は、重質鉱油より、粘性がより低く、より低比重を有する。重質および軽質鉱油は、経口および局所(最大95%まで)製剤を含む様々な製剤で使用されるよく知られている賦形剤である。眼軟膏剤では、鉱油は、賦形剤として最大60%の濃度まで見られる。眼科学における軽質鉱油と重質鉱油の組合せは、ドライアイ治療に特に適合する皮膚軟化薬特性を有するので、US当局によって認められている(21 CFR 349)。
【0038】
好ましくは、このエマルジョンは、エマルジョンの重量の0.1〜1重量%の界面活性剤、例えば、チロキサポールおよび場合によりポロクサマー188および/またはポリソルベート80および/またはトコフェロールポリエチレングリコールサクシネートおよび/またはソルビタンモノラウレートを含む。
【0039】
好ましくは、このエマルジョンは、エマルジョンの重量の、0.3重量%のチロキサポールおよび場合により0.1重量%のポロクサマー188を含む。
【0040】
好ましくは、このエマルジョンは、エマルジョンの重量の、0.1重量%〜5重量%、より好ましくは0.5重量%〜4重量%、さらにより好ましくは0.9重量%〜3.3重量%の等張化剤(複数可)を含む。
【0041】
一実施形態では、このエマルジョンは、エマルジョンの重量の0.1重量%〜5重量%、より好ましくは0.5重量%〜4重量%、さらにより好ましくは0.9重量%〜3.3重量%のマンニトールを含む。
【0042】
他の実施形態では、このエマルジョンは、エマルジョンの重量の0.1重量%〜2.5重量%、より好ましくは0.19重量%〜1.6重量%のグリセロールを含む。
【0043】
本発明の好ましい一実施形態では、このエマルジョンは、軽質鉱油および重質鉱油、チロキサポール、ポロクサマー188、マンニトールならびにセタルコニウムクロリドを含む。好ましくは、前記エマルジョンは、エマルジョンの重量の、0.5重量%の軽質鉱油、0.5重量%の重質鉱油、0.3重量%のチロキサポール、0.1重量%のポロクサマー188、3.3重量%のマンニトール、および0.002重量%のセタルコニウムクロリドを含む。
【0044】
本発明の他の好ましい実施形態では、このエマルジョンは、軽質鉱油および重質鉱油、チロキサポール、ポロクサマー188、グリセロールならびにセタルコニウムクロリドを含む。好ましくは、前記エマルジョンは、エマルジョンの重量の0.5重量%の軽質鉱油、0.5重量%の重質鉱油、0.3重量%のチロキサポール、0.1重量%のポロクサマー188、1.6重量%のグリセロール、および0.002重量%のセタルコニウムクロリドを含む。
【0045】
本発明の好ましい実施形態によれば、このエマルジョンは、正常な涙の張性に対して低張性である。
【0046】
好ましい実施形態によれば、本発明の水中油型エマルジョンは、溶液の重量に対して、同じ重量の同じC16-アルキル四級アンモニウムハライドを含む溶液より毒性が少ない。例えば、実施例で示すように、この毒性は、発赤試験またはドレーズ試験で評価することができる。
【0047】
好ましい実施形態によれば、本発明の水中油型エマルジョンは、エマルジョンの重量の0.01〜0.1重量%のBAKを含むエマルジョンであって、前記BAKが、USまたは欧州薬局方の規格を遵守しているC12、C14およびC16-アルキル四級アンモニウムハライドの混合物であるエマルジョンより毒性が少ない。
【0048】
好ましい実施形態によれば、本発明の水中油型エマルジョンは、アルビノウサギの結膜に、5分ごとに液滴を投与して、50μlを9滴投与するまで、好ましくは11滴を投与するまで、より好ましくは13滴を投与するまで発赤を誘発しない。
【0049】
第1の実施形態によれば、このエマルジョンは、いずれの活性成分も含まない。この実施形態では、このエマルジョンは、人工涙液として、あるいはドライアイ状態、例えばドライアイ症候群または慢性ドライアイ疾患(CDED)(共に臨床的には、乾性角結膜炎として知られている)の治療のために特に有用である。
【0050】
第2の実施形態によれば、本発明の組成物は活性成分を含む。
【0051】
一実施形態では、前記活性成分は、ピロカルピンまたはセラメリンなど分泌促進物質、天然または合成のシクロスポリン、タクロリムスまたはシロリムスなど免疫抑制薬、15(S)-HETE、エカベトまたはジクアホソルなどムチン分泌促進物質、アンドロゲンミメティックス、アマニ油補給剤、ステロイド、アデノシンA3受容体のアゴニスト、スクアレン、ビタミンAから選択され;前記活性成分は、好ましくはシクロスポリンである。
【0052】
他の実施形態では、前記活性成分は、KCSを治療するための、追加のまたは相乗的治療効果を有することが可能な活性物質の中から選択される。
【0053】
好ましくは、前記活性成分は、硫酸亜鉛などの収斂薬、セルロース誘導体、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロースを含む粘滑剤;ヒプロメロース、メチルセルロース、デキストラン70、ゼラチン、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリソルベート80、プロピレングリコール、ポリビニルアルコールおよびポリエチレングリコール6000などのポビドン(PVP)、ラノリン製剤または油性成分などの皮膚軟化剤、ナファゾリン、エフェドリン、テトラヒドロゾリンおよびフェニレフリン塩などの血管収縮薬を含む群の中で選択することができる。
【0054】
本発明のある実施形態では、この水中油型エマルジョンは防腐処理される。
【0055】
本発明の他の実施形態では、この水中油型エマルジョンは、防腐処理されない;ある実施形態では、このエマルジョンは、単位用量でパックされる;他の実施形態では、このエマルジョンは、適した複数回用量の容器にパックされる。
【0056】
本発明はまた、高粘度を有し、眼部使用に適したゲルの形態で患者に供給される上記の水中油型エマルジョンにも関する。
【0057】
本発明の他の目的はまた、上記の水中油型エマルジョンを含む薬物である。
【0058】
本発明はまた、活性成分を含まない上記の第1のエマルジョン、および活性成分、好ましくはシクロスポリンを含む第2のエマルジョンを含むドライアイ治療用キットにも関する。
【0059】
ある実施形態によれば、活性成分を含む前記第2のエマルジョンは、本発明によるエマルジョンである。
【0060】
他の実施形態によれば、活性成分を含む前記第2のエマルジョンは、眼部使用に適した任意のエマルジョンである。
【0061】
本発明の他の目的は、本発明の治療用水中油型エマルジョンの予濃縮物、および前記予濃縮物を製造する方法である。
【0062】
本発明によれば、予濃縮物とは、患者に投与される治療用エマルジョンの油量より多い油量を有するエマルジョンとして定義される。第1の実施形態では、この予濃縮物中の油量は、少なくとも4体積/体積%である。第2の実施形態では、この予濃縮物中の油量は、少なくとも8体積/体積%である。第3の実施形態では、この予濃縮物中の油量は、少なくとも10体積/体積%、好ましくは少なくとも20体積/体積%、より好ましくは少なくとも30体積/体積%である。
【0063】
この予濃縮物は、液体の形態もしくはゲルの形態、または水によるそのさらなる希釈の点からみて適した任意の形態であってもよい。
【0064】
ある実施形態によれば、本発明による眼部水中油型エマルジョンの予濃縮物は、例えば高圧蒸気殺菌法などの加熱によって、またはフィルタリングもしくはろ過によって、または照射によって、またはガス滅菌によって滅菌してもよい。他の実施形態では、この眼部エマルジョン濃縮物は、無菌の方式で調製される。
【0065】
本発明はまた、油相と水相と界面活性成分(複数可)とを乳化/混合する段階を含む治療用水中油型エマルジョンの予濃縮物を製造する方法であって、活性成分が油相に場合により溶解されている方法に関する。前記予濃縮物を製造する方法は、治療目的で投与される対応するエマルジョンの油量より高い油量を有するエマルジョンを得るために、ある油量と水相と適した界面活性剤とを乳化するステップを含む。
【0066】
製造工程を開始する前に、この治療用水中油型エマルジョンを、油の望まれる濃度、油のタイプ(眼部使用に適した、例えば、鉱油、ヒマシ油、またはMCTなど)、例えば界面活性剤などの、乳化のために必要な成分のタイプおよび場合により活性成分について設計する。次いで、必要な工業用容量に応じて、濃縮物の濃度を決定する。
【0067】
本発明はまた、(1)鉱油、ヒマシ油およびMCT含む群中で選択される眼部使用に適した油と、界面活性成分(複数可)と、水相とを乳化/混合することによって、眼部水中油型エマルジョンの予濃縮物を製造する段階であって、前記予濃縮物は、少なくとも4体積/体積%、好ましくは10体積/体積%以上、より好ましくは20体積/体積%以上、さらにより好ましくは30体積/体積%以上の油の含量を有し、前記油相は、場合により1種または複数の活性成分およびC16-アルキル四級アンモニウムハライドを含む段階と、次いで、(2)得られた予濃縮物の1容量を2〜50容量の水で希釈する段階とを含む治療用水中油型エマルジョンを製造する方法に関する。
【0068】
ある実施形態によれば、この乳化は、予濃縮物における液滴サイズまたは液滴サイズの分布が、治療用水中油型エマルジョンの液滴サイズまたは液滴サイズの分布とほぼ同じようなものである。
【0069】
ある実施形態によれば、この希釈水は、等張化剤、例えば、NaCl、グリセロールもしくはマンニトール、増粘剤、緩衝剤、防腐剤、酸化防止剤または着色剤を含む群から選択される添加剤を含んでいてもよい。
【0070】
ある実施形態によれば、この希釈水はまた、C16-アルキル四級アンモニウムハライドを含んでいてもよい。
【0071】
この結果、本発明によれば、この所望のエマルジョンの予濃縮物は、眼部使用に適した油と、水相と、界面活性成分(複数可)とを混合することによって製造される;この界面活性成分(複数可)の平均親水親油バランス(HLB)は、有利には、本発明の組成物に使用される油または油(複数)のHLBまたは平均HLBのエマルジョン必要条件とほぼ等しくてもよい。
【0072】
本発明の利点は、乳化工程をスケールアップする必要なく、大量のエマルジョンを製造することである。
【0073】
本発明は、本発明による治療用水中油型エマルジョンを製造する方法であって、上記の方法により濃縮物を製造する段階と、次いで、濃縮物の1容量と2〜50容量の水とを混合することによって、前記濃縮物を希釈して、5体積/体積%以下、好ましくは3体積/体積%以下、より好ましくは2体積/体積%以下、さらにより好ましくは1体積/体積%以下の油含量を有する最終治療用エマルジョンを得る段階を含む方法に関する。
【0074】
本発明はまた、上記の方法により、予濃縮物から調製された眼部エマルジョンを患者に投与することからなる、眼球の疾患または状態を治療する方法に関する。
【0075】
本発明はまた、本発明の方法によって、即ち、活性成分を場合により含む濃縮物を製造すること、および次いで前記濃縮物を2〜50容量の水で希釈することによって得られる水中油型エマルジョンであって、前記水が、例えば、等張化剤、増粘剤、緩衝剤、防腐剤、酸化防止剤または着色剤などの添加剤を場合により含むエマルジョンに関する。
【0076】
本発明の1つの利点は、この濃縮物を希釈することによって得られた水中油型エマルジョンが、低いエネルギーの投入量で形成されることである。
【0077】
以下の実施例および図は、本発明を例示するものであり、決して本発明の範囲を縮小するものと解釈するべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】眼球表面における発赤の出現するタイミングを示すグラフである。
【図2】ドレーズ試験評価を示すグラフである。
【0079】
(実施例)
エマルジョン処方におけるすべての濃度は、異なる指示がなければ、重量/製剤全体の重量で表される。
【0080】
(実施例1)
エマルジョン中に取り込まれ場合の四級アミンの毒性の低減
材料:
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
5.PBS
方法
アルビノウサギに5分ごとに1滴(50μl)を15回投与した。
【0086】
1/ 発赤の時間による毒性の評価ならびにH4およびD1において分析したドレーズ試験項目
15回の点眼後の結膜における発赤の開始時間を評価した(図1)。PBSは、すべての点眼期間中なんら発赤を誘発しなかった(データ図示せず)。BAK Solは、非常に速く、最初の点眼後約10〜15分(2〜3滴後)で結膜の発赤を誘発した。BAK Em、CKC Solを点眼した群は、点眼剤の最初の点眼後約25〜35分(5〜7滴後)で発赤を示した。CKC Emは、この実験のほとんど最後、最初の点眼後60〜65分(12〜13滴後)で眼に見える発赤を示した。
【0087】
ドレーズ試験により、最後の点眼後4時間(H4)では、眼球刺激は、BAK Solを点眼した群で最も大きく、これは、BAK EmおよびCKC Sol(これらの2つの群の間には差がない)群より高いことが明らかに示された。BAK Sol、BAK Em、CKC Solのすべては、CKC Emより高い眼球刺激を示し、CKC Emは、PBSを点眼した群との差を示さなかった(図2)。
【0088】
投与後1日では(D1)、PBS、BAK Em、CKC SolおよびCKC Emはすべて正常な状況に戻り、これらの中で差はなかった。しかし、BAK Solはなお、他のあらゆる群より強い眼球刺激を誘発した(P<0.0001)。
【0089】
(実施例2)
本発明のエマルジョンの安定性
1.エマルジョン組成物
いくつかのエマルジョンを以下に説明する:
【0090】
【表5】

【0091】
【表6】

【0092】
【表7】

【0093】
2.エマルジョンの調製
このエマルジョンの油相および水相(これらは、活性成分を含んでも含まなくてもよい)を別々に適当な温度まで加熱してもよい。この温度は、両方の場合同じであってもよい。界面活性剤を油相、水相または両方に溶解してもよい。先ず粗いエマルジョンをマグネティック撹拌によって生成し、この液滴サイズを高せん断混合、高圧ホモジナイズ化、または両方によって減少させる。
【0094】
本発明の水中油型エマルジョンは、調製後、加熱、例えば、オートクレーブ蒸気滅菌を用いて滅菌することができる。
【0095】
3.エマルジョン特性に対する鎖長の影響
a)エマルジョン液滴サイズ
この油滴の平均直径をHigh Performance Particle Sizer HPPS 5001型(Malvern Instruments、Worcestershire、UK)を用いて、動的光散乱法によって測定した。このエマルジョンを再蒸留水で希釈後、測定を25℃で実施する。
【0096】
表1:エマルジョン液滴サイズ値(nm)
表1および表2のエマルジョンは、MCT 2%、チロキサポール0.3%およびポロクサマー188 0.1%およびグリセロール2.25%およびBAKの組成物を含む;BAKの濃度は、このエマルジョンの重量に対して0.001〜0.1重量%の範囲である。
【表8】

【0097】
b)エマルジョンゼータ電位
ゼータ電位は、Zetasizer 2000、Malvern Instruments Ltd、UKなどのゼータメーターによって測定することができる。エマルジョン液滴表面のゼータ電位は、電気泳動易動度によって測定される。このエマルジョンを再蒸留水中に1:250に希釈後、測定を25℃で実施する。この電気泳動易動度は、スモルコウスキーの式を介してゼータ電位値に変換される。以下の表およびグラフは、QAの濃度増加におけるゼータ電位(表面電荷を示す)の発現を示す。より親油性の(より長い)鎖長に対して、プラスの電荷に、より迅速に、かつより低濃度で達することを観察することができ、油滴表面内での優先的な分配を示唆している。
【0098】
表2:エマルジョンのゼータ電位値(mV)
【表9】

【0099】
c)エマルジョンの経時的安定性
このエマルジョンの安定性は、その様相の発現(視覚的スコアが13(最良のアスペクト)から1から全相の分離にわたる)によって評価することができる。
【0100】
以下の表から、等モル濃度において、より長い(より親油性の)鎖長のQAは、より安定なエマルジョンを生じることを観察することができる。
【0101】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルジョンの重量の0.0005〜0.1重量%のC16-アルキル四級アンモニウムハライドを含む水中油型エマルジョン。
【請求項2】
チロキサポールをさらに含む、請求項1に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項3】
鉱油、ヒマシ油またはMCTを含む油相をさらに含む、請求項1または2に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項4】
前記C16-アルキル四級アンモニウムハライドが、C16-アルキルベンジルアンモニウムハライド、好ましくは、C16-アルキルベンジルジメチルアンモニウムハライド、好ましくはBAK C16である、請求項1から3のいずれかに記載の水中油型エマルジョン。
【請求項5】
鉱油相が重質鉱油と軽質鉱油の混合物である、請求項1から4のいずれかに記載の水中油型エマルジョン。
【請求項6】
ポロクサマーをさらに含む、請求項1から5のいずれかに記載の水中油型エマルジョン。
【請求項7】
緩衝剤および/または少なくとも1種の等張化剤を含む、請求項1から6のいずれかに記載の水中油型エマルジョン。
【請求項8】
等張化剤がマンニトールである、請求項7に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項9】
等張化剤がグリセロールである、請求項7に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項10】
プラスのゼータ電位を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項11】
100〜500nmの液滴サイズを有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項12】
防腐処理される、請求項1から11のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項13】
防腐処理されない、請求項1から11のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項14】
軽質鉱油および重質鉱油、チロキサポール、ポロクサマー188、マンニトールならびにセタルコニウムクロリドを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項15】
軽質鉱油および重質鉱油、チロキサポール、ポロクサマー188、グリセロールならびにセタルコニウムクロリドを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項16】
低張性である、請求項1から15のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項17】
溶液の重量に対して同じ重量の、同じC16-アルキル四級アンモニウムハライドを含む溶液より毒性が少ない、請求項1から16のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項18】
エマルジョンの重量の0.01〜0.1重量%のBAKを含むエマルジョンより毒性が少なく、前記BAKは、USまたは欧州薬局方の規格を遵守しているC12、C14およびC16-アルキル四級アンモニウムハライドの混合物である、請求項1から16のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項19】
アルビノウサギの結膜に、5分ごとに液滴を投与して、50μlを9滴投与するまで、好ましくは11滴を投与するまで、より好ましくは13滴を投与するまで発赤を誘発しない、請求項1から16のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項20】
活性成分、好ましくはシクロスポリンをさらに含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項21】
眼部使用に適したゲルの形態で患者に供給される、請求項1から20のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョン。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか一項に記載の水中油型エマルジョンを含む薬物。
【請求項23】
ドライアイ治療用の眼部組成物を調製するための、請求項1から21のいずれか一項に記載のエマルジョンの使用。
【請求項24】
請求項1から19のいずれか一項に記載の第1のエマルジョンおよびシクロスポリンを含む第2のエマルジョンを含む、ドライアイ治療用のキット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−544667(P2009−544667A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521280(P2009−521280)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057784
【国際公開番号】WO2008/012367
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(504169407)ノバガリ・フアルマ・エス・エイ (2)
【Fターム(参考)】