四重極質量分析計を電子的に駆動して、速い走査速度における信号性能を向上させるための装置および方法
【課題】走査速度が上昇するにつれて、四重極の検出能力を最大限にする装置と方法の提供
【解決手段】質量分析計(100)の四重極(110)を電子的に制御するための装置(200)であって、その装置は、四重極(110)に結合された無線周波(RF)駆動回路要素および直流(DC)駆動回路要素と、前記RF駆動回路要素に関連したRF制御ループ(220)と、前記DC駆動回路要素に関連したDC制御ループ(230)と、及び前記DC制御ループ(230)に関連した制御ループ回路要素(1100)とを含み、前記制御ループ回路要素(1100)は、ステップ応答の整定時間(832)の期間中に前記DC制御ループ(230)の応答を変更して、前記整定時間(832)中に前記四重極(110)を通るイオンの透過率が、前記整定時間(832)中に前記DC制御ループ(230)の応答を変更しなかった場合に比べて大きくなるように構成される。
【解決手段】質量分析計(100)の四重極(110)を電子的に制御するための装置(200)であって、その装置は、四重極(110)に結合された無線周波(RF)駆動回路要素および直流(DC)駆動回路要素と、前記RF駆動回路要素に関連したRF制御ループ(220)と、前記DC駆動回路要素に関連したDC制御ループ(230)と、及び前記DC制御ループ(230)に関連した制御ループ回路要素(1100)とを含み、前記制御ループ回路要素(1100)は、ステップ応答の整定時間(832)の期間中に前記DC制御ループ(230)の応答を変更して、前記整定時間(832)中に前記四重極(110)を通るイオンの透過率が、前記整定時間(832)中に前記DC制御ループ(230)の応答を変更しなかった場合に比べて大きくなるように構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四重極質量分析計を電子的に駆動して、速い走査速度における信号性能を向上させるための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
四重極質量分析法とも呼ばれる、四重極イオンフィルタを利用した質量分析法が長年にわたって使用されてきた。「四重極」と呼ばれる、四重極イオンフィルタを利用した質量分析法では、直流(DC)電圧および重畳無線周波(RF)電圧が供給される、4つの平行なロッドが使用される。DC及びRF電圧によって、四重極はあらかじめ選択された無線周波数範囲にわたる走査により、質量範囲を走査することを可能にする。
【0003】
一般に、四重極を用いてある質量範囲を走査して、特定の質量を有するイオンを突き止める場合、DC及びRF電圧は、互いに一定の比率に維持され、ある時間期間にわたって、質量の異なるイオンをフィルタリングするように調整される。ある質量範囲を走査するために、フィルタリングしようとするイオンの原子質量に対応するステップで、DC及びRF電圧が調整される。例えば、0.1原子質量単位(AMU)のステップで、イオンを識別するように、DC及びRF電圧が調整される。ある質量範囲にわたってDC及びRF電圧を調整することによって、質量分析計は、イオン及びアイソトープの質量に応じて、種々のイオン及び関連するアイソトープを識別することが可能になる。AMUステップに対応するDC及びRF電圧の各ステップには、四重極および関連する検出器によって与えられる結果の分析(積算と呼ばれる)の前に、それぞれのDC及びRF電圧を発生する電気回路要素を安定化させることが必要とされる。残念ながら、所与のAMUステップサイズの場合、四重極を走査するのに望ましい速度が上昇し続けるので、信号の分析に利用可能な時間量は減少する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、走査速度が上昇するにつれて、四重極の検出能力を最大限にする装置と方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態によれば、質量分析計の四重極を電子的に制御するための装置は、四重極に結合された無線周波(RF)駆動回路要素および直流(DC)駆動回路要素と、RF駆動回路要素に関連したRF制御ループと、DC駆動回路要素に関連したDC制御ループと、DC制御ループに関連した制御ループ回路要素を含む。制御ループ回路要素は、ステップ応答の整定時間期間中にDC制御ループの応答を変更して、整定時間中に四重極を通るイオンの透過率が、整定時間中にDC制御ループの応答を変更しない場合に比べて大きくなるように構成される。
【0006】
本発明の他の装置、方法、及び態様と利点については、図面及び好適な実施形態の詳細な説明に関連して説明される。
【0007】
本発明は、特に添付図面に関連した例示的な実施形態の説明において、一例として説明される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、DC制御ループの応答が変更され、DC制御ループの応答の向上によって、整定時間中に四重極を通るイオンの透過率が有効に改善される。その結果として、整定時間中に積算する場合の信号劣化が最小限に抑えられ、走査速度が上昇しても整定時間中に信号を正確に積算することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
高質量から低質量へとイオンを走査する四重極質量分析計における利用に関して以下に説明されるが、質量分析計の四重極を電子的に駆動するための装置および方法は、低質量から高質量へとイオンを走査する場合に使用され得る。
【0010】
図1は、四重極質量分析計100を例示したブロック図である。分析されるべき材料の試料が、試料入口102を介してイオン源106に送られる。試料入口は、例えば、空気および単純ガスのサンプリングに使用される膜または他の制限装置とするができ、或いはガスクロマトグラフィ、液体クロマトグラフィ、又は固相サンプラのようなより高度な装置とするができる。イオン源106は、試料入口102内の材料からイオンを発生させる。イオン源106は、電子または化学イオン化源、エレクトロスプレー又は大気圧源、或いは試料入口102内の材料を単一または複数の荷電イオンに変換する他の任意のイオン源とすることができる。イオン源106は、接続148を介して四重極110にイオンを送る。
【0011】
四重極110は、イオンの原子質量に基づいて試料中の特定のイオンを分離または選択するイオン質量フィルタである。イオンフィルタとして使用される場合、及び適切なRF及びDC電圧が四重極110に印加される場合、四重極110は、原子質量に基づいて、イオン源106によって発生する複数のイオンから特定のイオンを選択する。次いで、選択されたイオンは、接続152を介して検出器108に送られる。四重極110は、ある質量範囲内を走査して、その質量範囲内における特定イオンを突き止めるために使用されることができ、又は特定の質量のイオンについて、単一イオンモニタ、即ち「SIM」と呼ばれる、ある単一イオンの存在について試料をモニタするために使用され得る。
【0012】
検出器108は、四重極110からイオンを収集して、イオンを電子(又は別の適切な電子信号)に変換し、検出されたイオンに関連する信号強度を測定する。典型的なイオン変換器には、連続または不連続変換ダイノード又は光電子増倍変換器が含まれる。検出器108からの出力信号は、接続128を介して検出器制御電子回路114に供給される。
【0013】
高真空と低真空の双方をもたらす真空源104が、接続122を介してイオン源106を、接続124を介して四重極110を、及び接続126を介して検出器108を真空引きして、異なる構成要素に必要とされる適切な真空状態をもたらす。真空源104の真空ポンプ(図示せず)は一般に、低真空用の回転羽根式または乾式ポンプ、及び高真空をもたらすためのターボ分子ポンプ又は拡散ポンプを含む。
【0014】
イオン源制御電子回路112は、接続132を介してイオン源106を制御するための高電圧素子と低電圧素子を含む。制御には、イオンガイドのためのDC電圧とRF電圧の双方の制御、及び検出しようとするイオンの質量の関数として変化するランプDC電圧の制御が含まれる。また、イオン源制御電子回路112には、必要であれば、ヒータ制御回路、流量制御回路、及びフィラメント制御回路も含まれる。四重極制御電子回路200は、その一部についてさらに詳細に後述されるが、接続134を介して四重極110に電圧を印加するための高電圧と低電圧のRF及びDC電圧発生器を含む。また、四重極制御電子回路200は、四重極110に対するイオンの送り込み/送り出しを支援するための、事前および事後イオンガイドを含むこともできる。
【0015】
検出器制御電子回路114は、接続136を介して、さまざまなタイプの検出器またはイオン変換装置のための電圧を生成する。検出器制御電子回路114は、検出器108からの信号の信号強度を測定するために、イオン信号を変換またはブーストするための電子増幅器を含む。検出器制御回路114のいくつかの増幅器(図示せず)は、さまざまなダイナミックレンジのアナログ素子であり、一方、他の増幅器はイオンを「カウント」するパルスカウンタである。
【0016】
埋め込み式コントローラ116は、接続138、142、及び144を介して、それぞれ四重極質量分析計100内のイオン源制御電子回路112、四重極制御電子回路200、及び検出器制御電子回路114を制御し、例えば、単純な制御回路要素、又はオンボードオペレーティングシステムを有する完全埋め込み式コンピュータプロセッサとすることができる。ソフトウェア又はファームウェアが四重極制御電子回路200の応答を制御する一実施形態では、埋め込み式コントローラ116は、後述されるRF及びDC制御電子回路の応答を制御するためのソフトウェア250を含む。代案として、ソフトウェア250の代わりに、ファームウェア又はディスクリートの論理回路要素を実現して、四重極制御電子回路200によって供給されるRF及びDC制御電圧の応答を制御することもできる。
【0017】
接続128における検出器108の出力は、イオン強度を表す信号であり、対象となる試料を相関させて、最終測定結果を提供するように埋め込み式コントローラ116によって使用される。接続146における埋め込み式コントローラ116の出力には、試料入口からの試料を解釈し、最終測定結果と相関させるために、四重極質量分析計100の下流に配置された要素によって直接的または間接的に使用されるデータが含まれる。一般に、結果は、質量スペクトル又は試料イオンに関連した別の形式の質量情報である。
【0018】
図2は、図1の四重極制御電子回路200の一部を例示したブロック図である。四重極制御電子回路200には、RF制御ループ220の素子およびDC制御ループ230の素子を駆動するために使用される制御電圧を発生するデジタル−アナログ変換器(DAC)202が含まれる。後述される代替実施形態の場合、別個のDAC(202及び202a)がそれぞれ、RF制御ループ220及びDC制御ループ230を駆動する。この例では、接続204を介したDAC202の出力が、加算素子206に供給される。また、接続212におけるRFピーク検出信号も、加算素子206への入力になる。RF制御ループ220における加算素子206は、接続214を介して、補償素子222に出力を供給する。補償素子222は、例えば、能動的または受動的構成で構成された抵抗性及び容量性回路網とすることができる。
【0019】
接続228における補償素子222の出力は、ミクサ236に供給される。例えば、局部発振器(LO)とも呼ばれる、発振器とすることが可能な周波数発生源232は、接続234を介してミクサ236に周波数基準信号を供給する。ミクサ236は、接続234における周波数基準信号と接続228における信号を組み合わせて、接続238によって適切なRF振幅の信号を供給する。この実施形態の場合、周波数発生源232は、固定周波数発生源であり、ミクサ236は、接続234における基準信号の振幅を変調する。接続238における信号は、利得「ARF」を有する増幅器に供給され、その増幅器は、接続244に0°の位相のRF電圧信号を供給し、接続246に180°の位相のRF電圧信号を供給する。
【0020】
また、RFピーク検出信号も、接続212を介して、フィードバック信号として、DC制御ループ230の加算素子208に供給される。代案として、DC制御ループ230への入力としてRFフィードバックを利用する代わりに、経路「A」に沿って、接続204におけるDAC202の出力を加算素子208に供給することもでき、又はDAC202aの出力を加算素子208への入力として供給することもできる。また、加算素子208は、接続218を介してフィードバック素子226からのフィードバック信号も受信する。接続216における加算素子208の出力は、補償素子222と同様とすることができる補償素子224に供給され、接続274によって出力信号が増幅器272に供給される。増幅器272は、利得「ADC」を有する。接続296における増幅器272の出力は、+VDCと略記される正のDC電圧信号である。また、増幅器272の出力は、フィードバック素子226にも供給され、入力として、増幅器268にも供給される。増幅器268は、「−1」に等しい利得を有する。増幅器268の出力は、接続266における負の電圧−VDCである。
【0021】
接続244における増幅器242の0°の位相のRF出力および接続296における+VDC信号は、加算素子248に供給される。接続252における加算素子248の出力は、VRF(0)+VDCに等しいRF及びDC成分を有する信号である。接続246における増幅器242の180°出力および接続266における−VDC信号は、加算素子264に供給される。接続262における加算素子264の出力は、VRF(180)−VDCの特性を有する無線周波およびDC信号である。
【0022】
この例において、四重極110は、4つの平行なロッド286a、286b、290a、及び290bを含む。この例において、ロッド286a及び286bは、接続262におけるVRF(180)−VDC信号に結合され、ロッド290a及び290bは、接続252におけるVRF(0)+VDC信号に結合される。このようにして、四重極110は、RF及びDC電圧信号によって同時に駆動され、この場合、四重極110の要素(ロッド)286a及び286bに供給されるRF信号は、四重極110の要素(ロッド)290a及び290bに供給されるRF信号から位相が180°ずれ、要素286a及び286bのそれぞれに供給されるDC電圧は、要素290a及び290bに供給されるDC電圧と逆極性になる。
【0023】
四重極110からのイオン出力は、イオンを電流に変換する電子増倍管288に供給される。電子増倍管288の出力は、接続292によって検出器増幅器294に供給される。検出器増幅器294は、接続128を介して、検出器108(図1)の信号出力を検出器制御電子回路114(図1)に供給する。
【0024】
四重極110に供給されるVRF電圧のピークは、所望のイオンの質量の関数であり、下記の公式によって表わされる。
Vpeak=7.22×N×f2×R02 式1
ここで、Vpeakは四重極110でのピーク極電圧であり、NはAMU設定値であり、fはメガヘルツ(MHz)単位のRF信号の周波数であり、R0はインチ単位の四重極110の半径である。電圧VDCは、四重極110の要素に印加される等しい大きさで逆極性のDC電圧である。1対の要素が正の電圧を受け取り、もう1対の要素が負の電圧を受け取る。四重極110に印加されるDC電圧は、下記の式によって表わされる。
VDC=1.21×N×f2×R02 式2
ここで、VDCはDC電圧であり、NはAMU設定値であり、fはメガヘルツ(MHz)単位のRF信号の周波数であり、R0はインチ単位の四重極110の半径である。RF電圧と同様に、DC電圧に関する関係は、四重極技術の分野において知られており、式1及び式2はマチウ方程式と呼ばれる。
【0025】
RF及びDC電圧は一般に、四重極110からの質量における一定のピーク幅を強制するRF:DC比を実現するように微調整される。RF:DC電圧比が大きくなると、ピーク幅が広くなり、RF:DC電圧比が小さくなると、ピーク幅が狭くなる。典型的な質量分析計の場合、イオンのピーク幅は、信号の半分の高さで0.5〜0.7AMUであり、図4に示されている。より分解能の高い技術、又はより高い分解能を必要とする計測器は、0.5AMUより狭いピークを使用する可能性がある。ピーク幅が0.7AMUに近づき超えると、単位質量分解能は低下し始める。一般に、より大きなRF:DCの比は、RF:DCの比が所与の時間期間中に一定のままである場合に比べて、四重極110を通るイオンの透過率を良好にすることができる。
【0026】
四重極が走査される場合には、特定の試料中に存在する全イオンを示す、質量スペクトル全体が生成される。「走査」という用語は、ある特定の時間T内における、質量分析計のある電圧範囲にわたるRF及びDC電圧のステッピング(段階的な変化)を表しており、これにより、その結果として、走査された試料中に存在するイオンのさまざまな原子量を表わすスペクトルが生じる。走査の各ステップにおいて、質量分析計は、信号積算によってイオン信号のレベルを求め、走査の各ステップで生じる信号量(及び対応するイオン強度)を求める。積算の後、四重極110に印加されるRF及びDC電圧が再びステッピングされる。ステップのサイズは、AMUのステップサイズによって決められる。このプロセスは、走査範囲全体が完了するまで反復される。一般に、走査は、イオン強度が経時変動するので、試料中のイオン強度をモニタするために連続して反復される。
【0027】
一般に、走査の目標は、クロマトグラフピークの前後にわたって十分な走査結果を得ることにある。これを達成するためには、質量分析計が迅速に走査することが望ましい。これは、質量分析計が、迅速にステッピングし、迅速に信号を積算して、次のステップに移行し、走査プロセスを反復しなければならないことを意味する。
【0028】
図3は、四重極質量分析計の走査に用いられる制御電圧プロファイルを例示したグラフ300である。図3に示された例において、四重極質量分析計の走査は、高質量から低質量へと実施され、ある試験についてできるだけ多くの回数だけ繰り返される。横軸302は時間を表わし、縦軸304は電圧を表わす。曲線310は、全時間T内に生じるオーバヘッド部分312と走査部分314を含む。オーバヘッド部分312に関連した時間期間316及び走査部分314に関連した走査時間318によって、1つの走査が構成される。クロマトグラフピークに関する質量スペクトルを生成するのに必要な全時間Tは、オーバヘッド時間316と走査時間318の合計である。オーバヘッド時間316には、例えば、電圧回復時間、データ処理時間等が含まれる。クロマトグラフピーク毎に収集されるデータポイントの数を増加させるためには、オーバヘッド時間316または走査時間318のいずれかを最小限に抑えなければならない。後述するように、本発明の実施形態によれば、走査時間318は分析されるがオーバヘッド時間316は無視される。
【0029】
図4は、典型的な質量ピークを例示したグラフ400である。横軸402は質量を表わし、縦軸404は信号を表わす。質量ピーク410は、図3に示されるように、質量分析計が高質量から低質量へとステップ走査する際の信号ピークを表わす。質量分析計は、信号の半分の高さにおける質量ピーク幅が0.5〜0.7AMUの幅になるように調整される。図4に示される例の場合、ピーク410の半分の高さにおける幅は、0.6AMUである。ピーク412は、質量ピーク410で表わされたNの質量のイオンに関連した、N+1の質量を有するアイソトープを表わす。質量ピーク410は、対象となる質量範囲において質量軸に沿ってステップ走査により得られる。例えば、0.1AMUの各ステップ毎に、RF及びDC制御電圧が安定化し、信号が積算され、全イオン質量(「存在度」または信号高さとも呼ばれる)が求められる。
【0030】
図5は、質量ピーク前後にわたるデータ収集に使用されるステップの一部を例示したグラフ500である。横軸502は時間を表わし、縦軸504は電圧を表わす。曲線510は、図3の走査部分314の小さい部分を表わす。図3の走査部分314は、数百または数千のステップからなり、それらの一部が図5の曲線510で示される。曲線510には、高さが0.1AMUで、全走査時間にわたって生じるステップ512が含まれる。各ステップは、522で示される持続時間を有する。各ステップには、四重極制御電子回路200によって四重極110に印加されるRF及びDC制御電圧が安定化する整定時間514と、積算時間516とが含まれる。RF及びDC制御電圧が整定時間514中に安定化すると、積算時間516中に四重極110によって送られる信号が、対象となる信号である。この時間、即ち積算時間516中に信号が積算され、その質量位置(即ち、原子質量単位)に関する全イオン質量が求められる。
【0031】
走査速度が上昇するに従い、理想的には、積算時間は短縮され、整定時間は最小限に抑えられなければならない。1,000AMU/秒で走査する典型的な用途の場合、1AMUの範囲の走査には1ミリ秒(msec)かかる。0.1AMUステップの場合、整定および積算時間に100マイクロ秒(μsec)が利用できる。例えば、RF及びDC制御ループが整定時間に20μsec費やす場合、四重極110からの信号の分析に利用可能な積算時間は、80μsecになる。走査速度が上昇するにつれて、利用可能な積算時間が短くなる。例えば、毎秒5,000AMU(AMU/sec)で四重極110を走査するのが望ましい場合には、各0.1AMUステップについて、わずか20μsecしか利用できない。これは、全ステップ時間がRF及びDC制御ループの整定によって費やされ、信号を積算する時間が残らないことを示す。走査速度の上昇につれて、積算時間が短くなるので、ある量の信号劣化及び信号損失が生じる。さらに、信号強度を維持しようとする場合、S/N比の低下および四重極110を通るイオンの通過時間がより重要になる。
【0032】
図6は、図5に示された技術を用いた走査速度の上昇の結果を例示したグラフ600である。横軸602は質量を表わし、縦軸は信号強度を表わす。信号ピーク610は、100AMU/secの走査結果であり、信号ピーク620は、1,000AMU/secの走査結果であり、信号ピーク630は、5,000AMU/secの走査結果である。図示のように、走査速度が上昇するにつれて、信号強度は継続的に低下する。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、四重極110によって送られる信号は、整定時間中に積算される。図5に示されるように、整定時間514及び積算時間516を含む時間期間522を使用して、信号が積算される。
【0034】
あいにく、整定時間中に信号を積算することには欠点がある。例えば、整定時間中の積算によって、不正確な信号結果が生じる可能性がある。さらに、前回のステップからの信号のサンプリングによって、やはり信号測定に悪影響を及ぼす可能性がある。さらにまた、四重極110が電圧レベル間で遷移している間に信号をサンプリングすることにより、信号が劣化する可能性がある。本発明の一実施形態によれば、整定時間中に積算する場合の信号劣化が最小限に抑えられるように、整定時間中に、RF及びDC制御ループの応答が変更される。
【0035】
図7のA及びBは、接続252及び262(図2)における図2の四重極制御電子回路200のRF及びDC制御電圧の応答をまとめて例示したグラフである。グラフ700には、時間を表わす横軸702と電圧を表わす縦軸704が含まれる。RFピーク電圧の応答は、曲線706を用いて示され、DCピーク電圧の応答は曲線720を用いて示される。質量「N AMU」から質量「N−0.1 AMU」へと(即ち、高質量から低質量へと)走査する場合に、部分708の間にわたり安定しているRFピーク電圧が、714で示された整定時間期間中に遷移する。この時間期間は整定時間714と呼ばれる。同様に、図2に関連して、曲線720を用いて示されたDC制御電圧の応答は、RFピーク電圧の応答706に追随し、整定時間732を含む。
【0036】
図7のAに示される例の場合、DC電圧応答とRF電圧応答との間には、遅れ728がある。この遅れは、DC制御ループ230の応答、加算素子248及び264の応答、加算素子208に入力を供給するために実施される回路トポロジ(図2の入力経路「A」または入力経路「B」)、並びにRF制御ループ220の応答など、多くの要因に起因する。例えば、DC制御ループ230への供給が、DAC202を用いて、経路「A」に沿って(又は独立したDAC202aによって)行われる場合、図7のAに示されるDC電圧応答が、RF電圧応答に関連した遅れを短縮するか、又はなくし、それどころかRF電圧応答に先行する可能性さえある。
【0037】
図7のBに示されるように、RF制御ループとDC制御ループとの間の任意の遅れに関係なく、一定のピーク幅(図4)を維持するために、整定時間前後のRF:DC電圧比は、一定に保たれる。整定時間中、RF:DC比は、RF及びDC制御ループの応答に従って、一定の状態から変化する可能性があり、結果として、748で示されるRF:DC比に乱れを生じる可能性がある。この乱れによって、高い走査速度における四重極110の性能が劣化する可能性がある。四重極110がより速く走査されるので、データは整定時間中にサンプリングされる。RF制御ループ220及びDC制御ループ230が、整定時間中に適正に制御されなければ、質量分解能、透過率、及び感度が損なわれる可能性がある。
【0038】
図8のA及びBは、本発明の一実施形態の動作をまとめて例示したグラフである。図8のAにおいて、横軸802は時間を表わし、縦軸804は電圧を表わす。806で示されるRFピーク電圧の応答は、図7のAの706で示されるRFピーク電圧の応答と同様である。整定時間818は、RFピーク電圧が異なる値(即ち、異なる質量(即ち、0.1AMUステップ))へと遷移し始める時点814から、電圧遷移が完了する時点816までの時間として定義される。820で示されるDCピーク電圧の応答は、時点834から遷移を開始するが、これは、RF制御ループとDC制御ループとの間の任意の遅れを無視すると、RFピーク電圧の遷移とほぼ同じ時点である。本発明の一実施形態によれば、DC制御ループの応答が変更され、変更されたDC制御ループ電圧応答824の結果として、DC制御ループは、その応答が変更されなかった場合に比べて、より速く0.1AMU(この例の場合)のステップに対応する電圧に達するようになる。DC制御ループ応答の向上によって、整定時間832の間に四重極110を通るイオンの透過率が有効に改善される。従来のDC電圧応答が、参考のために図8のAに示され、724で表示される。
【0039】
時点814と834、及び時点816と836におけるRF:DC電圧比は、一定であり、上述のマチウ方程式1及び2によって表わされる。しかしながら、整定時間832の間にわたる曲線部分824によって示されるように、整定時間832中に、RF:DC電圧比は増大し、824で示される応答がもたらされる。このようにして、整定時間832の間にわたって四重極110を通るイオンの透過率が改善される。図8のBに示されるように、改善された応答850によって、748で示される元の応答が相殺され、結果として、信号の性能が改善されて、整定時間中に信号を正確に積算できるようになる。本発明の実施形態では、時間セグメント888及び889の間にわたる定常状態のRF:DC比は変更されず、応答850によって示されるように、整定時間中のRF:DC比が変更されるだけである。
【0040】
図9は、図2のDC制御ループ230を例示したブロック図900である。この実施形態において、DC制御ループ230に供給される有効設定値電圧を変更することにより、図8のAに示される電圧応答が生じる。図9において、設定値電圧は、接続212を介して加算素子208に供給されるが、代案として、接続204またはDAC202a(図2)を介して供給されてもよい。
【0041】
図10は、図9のDC制御ループ900を例示した略図1000である。設定値電圧は、接続212を介して、或いは代案として接続204を介して、又はDAC202a(図2)から第1の抵抗1002に供給される。抵抗1002の出力は、加算増幅器1008の反転入力1004に供給される。加算増幅器1008の非反転入力は、接続1006を介してアースに結合される。加算増幅器1008の出力は、抵抗1012に供給される。抵抗1012は、増幅器1016に結合される。増幅器1016は、利得「ADC」、関連抵抗1014、及び関連コンデンサ1018を有する。接続1022における増幅器1016の出力は、正のDC電圧信号+VDCである。
【0042】
フィードバック経路Fには、抵抗1026が含まれる。増幅器1016の出力は、抵抗1028を介して増幅器1034に供給される。増幅器1034は−1の利得を有する。増幅器1034には、抵抗1032が含まれ、接続1036における増幅器の出力は、負のDC電圧信号−VDCである。接続1022及び1036における信号は、図2の四重極110に供給される。
【0043】
図11は、本発明の考えられる具現化形態の1つを例示した略図1100である。図11に示されたDC制御ループ230には、フィードフォワード回路1110が含まれる。フィードフォワード回路1110は、入力加算抵抗1002(RIN)の周りに接続されたコンデンサ1112及び抵抗1114を含む。フィードフォワード回路1110は、入力インピーダンスを周波数に依存させることによって、DC制御ループ230の設定値電圧を有効に変化させる。フィードフォワード回路1110を組み込む結果として、接続1022及び1036におけるDC出力電圧の応答がより速くなる。フィードフォワード回路1110は、+VDC及び−VDC電圧に適切な調整を行い、整定時間の間にわたって四重極110を通るイオンの透過率を改善し、整定時間中に四重極110を通るイオンの透過率が減少しないようにする。
【0044】
一実施形態では、5.8マイクロ秒(μs)の時定数について、抵抗1114の値は21.5キロオームであり、コンデンサ1112の値は270ピコファラッド(pF)である。これは、RINの値が20.88キロオームの場合である。他の多くの抵抗値と静電容量値の組み合わせが、同様の結果をもたらすであろう。最終的な結果は、より速い走査速度のためにイオンの透過率がより高くなることである。フィードフォワード回路1110内の構成要素は調整可能であり、それによりステップ応答が調整可能になる。改善の調整範囲は、図8のAには860で示され、図8のBには870で示される。フィードフォワード回路1110でDC制御ループ230を駆動する場合、RF:DC比を制御して調整することによって、増幅器の整定時間中に四重極110を通るイオンの透過率を維持するか又は増大させると同時に、質量分析計100を走査することができる。このイオン透過率の改善の結果として、RF及びDC電圧ステップの応答が微調整されることにより、より高い走査速度における信号損失が減少することになる。さらに、この実施形態の場合、フィードフォワード回路1110の構成要素が受動的なコンデンサ及び抵抗であるため、それらは簡単に修正または調整されて、DC制御ループ230の所望の応答を最適化することができる。フィードフォワード回路1110は、高質量から低質量へと走査する場合に好ましい。
【0045】
RF:DC比は、フィードフォワード回路1110によって整定時間中に変更される。この実施形態の場合、フィードフォワード回路1110は、短い時間量でより高い利得をDC増幅器1016及び1034に生じさせ、かくしてRF:DC比が増大する。コンデンサ1112が充電されて新しい状態になると、より高い利得は停止し、従って定常状態の一定のRF:DC比に戻る。上述したように別個のDACを用いる場合には、ファームウェア250はまずDC制御ループ230の応答を変更し、次いでRF制御ループ220の応答を変更して、短い時間期間の間に同様のRF:DC比の増大をもたらす。
【0046】
代案として、フィードフォワード回路1150は、インダクタンス1152及び抵抗1154を含むことができ、これによって、低質量から高質量への走査時に、DC応答を変更することができる。さらに、フィードフォワード回路1110又は1150の代わりに、図2に示されるような別個のDAC202aで駆動することによって、DC制御ループ230の応答を変更することもできる。
【0047】
図12は、四重極110を電子的に制御するための方法の一実施形態の動作を例示したフローチャートである。フローチャートのブロックは、図示の順序で、図示の順序と無関係に、又はほぼ並行して実行され得る。ブロック1202では、図2の四重極制御電子回路200を用いて、RF及びDC制御電圧信号を発生する。ブロック1204では、RF及びDC制御電圧が四重極110に供給される。ブロック1206では、電圧のステップの整定時間中にRF電圧信号とDC電圧信号との比が変更され、結果として、図8のA及びBに示されるDC制御ループ応答が生じる。ブロック1208では、整定期間が完了したか否かが判定される。整定期間がまだ完了していなければ、プロセスは、ブロック1206に戻る。しかしながら、整定時間が完了している場合には、ブロック1212において、RF電圧とDC電圧との間における一定の比が再開される。
【0048】
以上の詳細な説明は、単に本発明の典型的な具現化形態を理解するために与えられており、当該技術者であれば、添付の特許請求の範囲およびそれれらの等価物から逸脱しない修正が明らかであるので、不必要な制限を加えるものとみなすべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】四重極質量分析計を例示したブロック図である。
【図2】図1の四重極制御電子回路の一部を例示したブロック図である。
【図3】質量分析計の走査に使用される制御電圧プロファイルを例示したグラフである。
【図4】典型的な質量ピークを例示したグラフである。
【図5】質量ピークの前後にわたるデータの収集に用いられるステップの一部を例示したグラフである。
【図6】図5に示された技術を用いた走査速度の上昇の結果を例示したグラフである。
【図7】図2の四重極制御電子回路のRF及びDC制御電圧応答をまとめて例示した図である。
【図8】本発明の一実施形態の動作をまとめて例示したグラフである。
【図9】図2のDC制御ループを例示したブロック図である。
【図10】図9のDC制御ループを例示した略図である。
【図11】本発明の考えられる具現化形態の1つを例示した略図である。
【図12】四重極を電子的に制御する方法の一実施形態の動作を例示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
100 四重極質量分析計
110 四重極
200 四重極制御電子回路
202 デジタル−アナログ変換器
220 RF制御ループ
230 DC制御ループ
832 整定時間
1110 フィードフォワード回路
1112 コンデンサ
1114、1154 抵抗
1152 インダクタンス
【技術分野】
【0001】
本発明は、四重極質量分析計を電子的に駆動して、速い走査速度における信号性能を向上させるための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
四重極質量分析法とも呼ばれる、四重極イオンフィルタを利用した質量分析法が長年にわたって使用されてきた。「四重極」と呼ばれる、四重極イオンフィルタを利用した質量分析法では、直流(DC)電圧および重畳無線周波(RF)電圧が供給される、4つの平行なロッドが使用される。DC及びRF電圧によって、四重極はあらかじめ選択された無線周波数範囲にわたる走査により、質量範囲を走査することを可能にする。
【0003】
一般に、四重極を用いてある質量範囲を走査して、特定の質量を有するイオンを突き止める場合、DC及びRF電圧は、互いに一定の比率に維持され、ある時間期間にわたって、質量の異なるイオンをフィルタリングするように調整される。ある質量範囲を走査するために、フィルタリングしようとするイオンの原子質量に対応するステップで、DC及びRF電圧が調整される。例えば、0.1原子質量単位(AMU)のステップで、イオンを識別するように、DC及びRF電圧が調整される。ある質量範囲にわたってDC及びRF電圧を調整することによって、質量分析計は、イオン及びアイソトープの質量に応じて、種々のイオン及び関連するアイソトープを識別することが可能になる。AMUステップに対応するDC及びRF電圧の各ステップには、四重極および関連する検出器によって与えられる結果の分析(積算と呼ばれる)の前に、それぞれのDC及びRF電圧を発生する電気回路要素を安定化させることが必要とされる。残念ながら、所与のAMUステップサイズの場合、四重極を走査するのに望ましい速度が上昇し続けるので、信号の分析に利用可能な時間量は減少する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、走査速度が上昇するにつれて、四重極の検出能力を最大限にする装置と方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態によれば、質量分析計の四重極を電子的に制御するための装置は、四重極に結合された無線周波(RF)駆動回路要素および直流(DC)駆動回路要素と、RF駆動回路要素に関連したRF制御ループと、DC駆動回路要素に関連したDC制御ループと、DC制御ループに関連した制御ループ回路要素を含む。制御ループ回路要素は、ステップ応答の整定時間期間中にDC制御ループの応答を変更して、整定時間中に四重極を通るイオンの透過率が、整定時間中にDC制御ループの応答を変更しない場合に比べて大きくなるように構成される。
【0006】
本発明の他の装置、方法、及び態様と利点については、図面及び好適な実施形態の詳細な説明に関連して説明される。
【0007】
本発明は、特に添付図面に関連した例示的な実施形態の説明において、一例として説明される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、DC制御ループの応答が変更され、DC制御ループの応答の向上によって、整定時間中に四重極を通るイオンの透過率が有効に改善される。その結果として、整定時間中に積算する場合の信号劣化が最小限に抑えられ、走査速度が上昇しても整定時間中に信号を正確に積算することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
高質量から低質量へとイオンを走査する四重極質量分析計における利用に関して以下に説明されるが、質量分析計の四重極を電子的に駆動するための装置および方法は、低質量から高質量へとイオンを走査する場合に使用され得る。
【0010】
図1は、四重極質量分析計100を例示したブロック図である。分析されるべき材料の試料が、試料入口102を介してイオン源106に送られる。試料入口は、例えば、空気および単純ガスのサンプリングに使用される膜または他の制限装置とするができ、或いはガスクロマトグラフィ、液体クロマトグラフィ、又は固相サンプラのようなより高度な装置とするができる。イオン源106は、試料入口102内の材料からイオンを発生させる。イオン源106は、電子または化学イオン化源、エレクトロスプレー又は大気圧源、或いは試料入口102内の材料を単一または複数の荷電イオンに変換する他の任意のイオン源とすることができる。イオン源106は、接続148を介して四重極110にイオンを送る。
【0011】
四重極110は、イオンの原子質量に基づいて試料中の特定のイオンを分離または選択するイオン質量フィルタである。イオンフィルタとして使用される場合、及び適切なRF及びDC電圧が四重極110に印加される場合、四重極110は、原子質量に基づいて、イオン源106によって発生する複数のイオンから特定のイオンを選択する。次いで、選択されたイオンは、接続152を介して検出器108に送られる。四重極110は、ある質量範囲内を走査して、その質量範囲内における特定イオンを突き止めるために使用されることができ、又は特定の質量のイオンについて、単一イオンモニタ、即ち「SIM」と呼ばれる、ある単一イオンの存在について試料をモニタするために使用され得る。
【0012】
検出器108は、四重極110からイオンを収集して、イオンを電子(又は別の適切な電子信号)に変換し、検出されたイオンに関連する信号強度を測定する。典型的なイオン変換器には、連続または不連続変換ダイノード又は光電子増倍変換器が含まれる。検出器108からの出力信号は、接続128を介して検出器制御電子回路114に供給される。
【0013】
高真空と低真空の双方をもたらす真空源104が、接続122を介してイオン源106を、接続124を介して四重極110を、及び接続126を介して検出器108を真空引きして、異なる構成要素に必要とされる適切な真空状態をもたらす。真空源104の真空ポンプ(図示せず)は一般に、低真空用の回転羽根式または乾式ポンプ、及び高真空をもたらすためのターボ分子ポンプ又は拡散ポンプを含む。
【0014】
イオン源制御電子回路112は、接続132を介してイオン源106を制御するための高電圧素子と低電圧素子を含む。制御には、イオンガイドのためのDC電圧とRF電圧の双方の制御、及び検出しようとするイオンの質量の関数として変化するランプDC電圧の制御が含まれる。また、イオン源制御電子回路112には、必要であれば、ヒータ制御回路、流量制御回路、及びフィラメント制御回路も含まれる。四重極制御電子回路200は、その一部についてさらに詳細に後述されるが、接続134を介して四重極110に電圧を印加するための高電圧と低電圧のRF及びDC電圧発生器を含む。また、四重極制御電子回路200は、四重極110に対するイオンの送り込み/送り出しを支援するための、事前および事後イオンガイドを含むこともできる。
【0015】
検出器制御電子回路114は、接続136を介して、さまざまなタイプの検出器またはイオン変換装置のための電圧を生成する。検出器制御電子回路114は、検出器108からの信号の信号強度を測定するために、イオン信号を変換またはブーストするための電子増幅器を含む。検出器制御回路114のいくつかの増幅器(図示せず)は、さまざまなダイナミックレンジのアナログ素子であり、一方、他の増幅器はイオンを「カウント」するパルスカウンタである。
【0016】
埋め込み式コントローラ116は、接続138、142、及び144を介して、それぞれ四重極質量分析計100内のイオン源制御電子回路112、四重極制御電子回路200、及び検出器制御電子回路114を制御し、例えば、単純な制御回路要素、又はオンボードオペレーティングシステムを有する完全埋め込み式コンピュータプロセッサとすることができる。ソフトウェア又はファームウェアが四重極制御電子回路200の応答を制御する一実施形態では、埋め込み式コントローラ116は、後述されるRF及びDC制御電子回路の応答を制御するためのソフトウェア250を含む。代案として、ソフトウェア250の代わりに、ファームウェア又はディスクリートの論理回路要素を実現して、四重極制御電子回路200によって供給されるRF及びDC制御電圧の応答を制御することもできる。
【0017】
接続128における検出器108の出力は、イオン強度を表す信号であり、対象となる試料を相関させて、最終測定結果を提供するように埋め込み式コントローラ116によって使用される。接続146における埋め込み式コントローラ116の出力には、試料入口からの試料を解釈し、最終測定結果と相関させるために、四重極質量分析計100の下流に配置された要素によって直接的または間接的に使用されるデータが含まれる。一般に、結果は、質量スペクトル又は試料イオンに関連した別の形式の質量情報である。
【0018】
図2は、図1の四重極制御電子回路200の一部を例示したブロック図である。四重極制御電子回路200には、RF制御ループ220の素子およびDC制御ループ230の素子を駆動するために使用される制御電圧を発生するデジタル−アナログ変換器(DAC)202が含まれる。後述される代替実施形態の場合、別個のDAC(202及び202a)がそれぞれ、RF制御ループ220及びDC制御ループ230を駆動する。この例では、接続204を介したDAC202の出力が、加算素子206に供給される。また、接続212におけるRFピーク検出信号も、加算素子206への入力になる。RF制御ループ220における加算素子206は、接続214を介して、補償素子222に出力を供給する。補償素子222は、例えば、能動的または受動的構成で構成された抵抗性及び容量性回路網とすることができる。
【0019】
接続228における補償素子222の出力は、ミクサ236に供給される。例えば、局部発振器(LO)とも呼ばれる、発振器とすることが可能な周波数発生源232は、接続234を介してミクサ236に周波数基準信号を供給する。ミクサ236は、接続234における周波数基準信号と接続228における信号を組み合わせて、接続238によって適切なRF振幅の信号を供給する。この実施形態の場合、周波数発生源232は、固定周波数発生源であり、ミクサ236は、接続234における基準信号の振幅を変調する。接続238における信号は、利得「ARF」を有する増幅器に供給され、その増幅器は、接続244に0°の位相のRF電圧信号を供給し、接続246に180°の位相のRF電圧信号を供給する。
【0020】
また、RFピーク検出信号も、接続212を介して、フィードバック信号として、DC制御ループ230の加算素子208に供給される。代案として、DC制御ループ230への入力としてRFフィードバックを利用する代わりに、経路「A」に沿って、接続204におけるDAC202の出力を加算素子208に供給することもでき、又はDAC202aの出力を加算素子208への入力として供給することもできる。また、加算素子208は、接続218を介してフィードバック素子226からのフィードバック信号も受信する。接続216における加算素子208の出力は、補償素子222と同様とすることができる補償素子224に供給され、接続274によって出力信号が増幅器272に供給される。増幅器272は、利得「ADC」を有する。接続296における増幅器272の出力は、+VDCと略記される正のDC電圧信号である。また、増幅器272の出力は、フィードバック素子226にも供給され、入力として、増幅器268にも供給される。増幅器268は、「−1」に等しい利得を有する。増幅器268の出力は、接続266における負の電圧−VDCである。
【0021】
接続244における増幅器242の0°の位相のRF出力および接続296における+VDC信号は、加算素子248に供給される。接続252における加算素子248の出力は、VRF(0)+VDCに等しいRF及びDC成分を有する信号である。接続246における増幅器242の180°出力および接続266における−VDC信号は、加算素子264に供給される。接続262における加算素子264の出力は、VRF(180)−VDCの特性を有する無線周波およびDC信号である。
【0022】
この例において、四重極110は、4つの平行なロッド286a、286b、290a、及び290bを含む。この例において、ロッド286a及び286bは、接続262におけるVRF(180)−VDC信号に結合され、ロッド290a及び290bは、接続252におけるVRF(0)+VDC信号に結合される。このようにして、四重極110は、RF及びDC電圧信号によって同時に駆動され、この場合、四重極110の要素(ロッド)286a及び286bに供給されるRF信号は、四重極110の要素(ロッド)290a及び290bに供給されるRF信号から位相が180°ずれ、要素286a及び286bのそれぞれに供給されるDC電圧は、要素290a及び290bに供給されるDC電圧と逆極性になる。
【0023】
四重極110からのイオン出力は、イオンを電流に変換する電子増倍管288に供給される。電子増倍管288の出力は、接続292によって検出器増幅器294に供給される。検出器増幅器294は、接続128を介して、検出器108(図1)の信号出力を検出器制御電子回路114(図1)に供給する。
【0024】
四重極110に供給されるVRF電圧のピークは、所望のイオンの質量の関数であり、下記の公式によって表わされる。
Vpeak=7.22×N×f2×R02 式1
ここで、Vpeakは四重極110でのピーク極電圧であり、NはAMU設定値であり、fはメガヘルツ(MHz)単位のRF信号の周波数であり、R0はインチ単位の四重極110の半径である。電圧VDCは、四重極110の要素に印加される等しい大きさで逆極性のDC電圧である。1対の要素が正の電圧を受け取り、もう1対の要素が負の電圧を受け取る。四重極110に印加されるDC電圧は、下記の式によって表わされる。
VDC=1.21×N×f2×R02 式2
ここで、VDCはDC電圧であり、NはAMU設定値であり、fはメガヘルツ(MHz)単位のRF信号の周波数であり、R0はインチ単位の四重極110の半径である。RF電圧と同様に、DC電圧に関する関係は、四重極技術の分野において知られており、式1及び式2はマチウ方程式と呼ばれる。
【0025】
RF及びDC電圧は一般に、四重極110からの質量における一定のピーク幅を強制するRF:DC比を実現するように微調整される。RF:DC電圧比が大きくなると、ピーク幅が広くなり、RF:DC電圧比が小さくなると、ピーク幅が狭くなる。典型的な質量分析計の場合、イオンのピーク幅は、信号の半分の高さで0.5〜0.7AMUであり、図4に示されている。より分解能の高い技術、又はより高い分解能を必要とする計測器は、0.5AMUより狭いピークを使用する可能性がある。ピーク幅が0.7AMUに近づき超えると、単位質量分解能は低下し始める。一般に、より大きなRF:DCの比は、RF:DCの比が所与の時間期間中に一定のままである場合に比べて、四重極110を通るイオンの透過率を良好にすることができる。
【0026】
四重極が走査される場合には、特定の試料中に存在する全イオンを示す、質量スペクトル全体が生成される。「走査」という用語は、ある特定の時間T内における、質量分析計のある電圧範囲にわたるRF及びDC電圧のステッピング(段階的な変化)を表しており、これにより、その結果として、走査された試料中に存在するイオンのさまざまな原子量を表わすスペクトルが生じる。走査の各ステップにおいて、質量分析計は、信号積算によってイオン信号のレベルを求め、走査の各ステップで生じる信号量(及び対応するイオン強度)を求める。積算の後、四重極110に印加されるRF及びDC電圧が再びステッピングされる。ステップのサイズは、AMUのステップサイズによって決められる。このプロセスは、走査範囲全体が完了するまで反復される。一般に、走査は、イオン強度が経時変動するので、試料中のイオン強度をモニタするために連続して反復される。
【0027】
一般に、走査の目標は、クロマトグラフピークの前後にわたって十分な走査結果を得ることにある。これを達成するためには、質量分析計が迅速に走査することが望ましい。これは、質量分析計が、迅速にステッピングし、迅速に信号を積算して、次のステップに移行し、走査プロセスを反復しなければならないことを意味する。
【0028】
図3は、四重極質量分析計の走査に用いられる制御電圧プロファイルを例示したグラフ300である。図3に示された例において、四重極質量分析計の走査は、高質量から低質量へと実施され、ある試験についてできるだけ多くの回数だけ繰り返される。横軸302は時間を表わし、縦軸304は電圧を表わす。曲線310は、全時間T内に生じるオーバヘッド部分312と走査部分314を含む。オーバヘッド部分312に関連した時間期間316及び走査部分314に関連した走査時間318によって、1つの走査が構成される。クロマトグラフピークに関する質量スペクトルを生成するのに必要な全時間Tは、オーバヘッド時間316と走査時間318の合計である。オーバヘッド時間316には、例えば、電圧回復時間、データ処理時間等が含まれる。クロマトグラフピーク毎に収集されるデータポイントの数を増加させるためには、オーバヘッド時間316または走査時間318のいずれかを最小限に抑えなければならない。後述するように、本発明の実施形態によれば、走査時間318は分析されるがオーバヘッド時間316は無視される。
【0029】
図4は、典型的な質量ピークを例示したグラフ400である。横軸402は質量を表わし、縦軸404は信号を表わす。質量ピーク410は、図3に示されるように、質量分析計が高質量から低質量へとステップ走査する際の信号ピークを表わす。質量分析計は、信号の半分の高さにおける質量ピーク幅が0.5〜0.7AMUの幅になるように調整される。図4に示される例の場合、ピーク410の半分の高さにおける幅は、0.6AMUである。ピーク412は、質量ピーク410で表わされたNの質量のイオンに関連した、N+1の質量を有するアイソトープを表わす。質量ピーク410は、対象となる質量範囲において質量軸に沿ってステップ走査により得られる。例えば、0.1AMUの各ステップ毎に、RF及びDC制御電圧が安定化し、信号が積算され、全イオン質量(「存在度」または信号高さとも呼ばれる)が求められる。
【0030】
図5は、質量ピーク前後にわたるデータ収集に使用されるステップの一部を例示したグラフ500である。横軸502は時間を表わし、縦軸504は電圧を表わす。曲線510は、図3の走査部分314の小さい部分を表わす。図3の走査部分314は、数百または数千のステップからなり、それらの一部が図5の曲線510で示される。曲線510には、高さが0.1AMUで、全走査時間にわたって生じるステップ512が含まれる。各ステップは、522で示される持続時間を有する。各ステップには、四重極制御電子回路200によって四重極110に印加されるRF及びDC制御電圧が安定化する整定時間514と、積算時間516とが含まれる。RF及びDC制御電圧が整定時間514中に安定化すると、積算時間516中に四重極110によって送られる信号が、対象となる信号である。この時間、即ち積算時間516中に信号が積算され、その質量位置(即ち、原子質量単位)に関する全イオン質量が求められる。
【0031】
走査速度が上昇するに従い、理想的には、積算時間は短縮され、整定時間は最小限に抑えられなければならない。1,000AMU/秒で走査する典型的な用途の場合、1AMUの範囲の走査には1ミリ秒(msec)かかる。0.1AMUステップの場合、整定および積算時間に100マイクロ秒(μsec)が利用できる。例えば、RF及びDC制御ループが整定時間に20μsec費やす場合、四重極110からの信号の分析に利用可能な積算時間は、80μsecになる。走査速度が上昇するにつれて、利用可能な積算時間が短くなる。例えば、毎秒5,000AMU(AMU/sec)で四重極110を走査するのが望ましい場合には、各0.1AMUステップについて、わずか20μsecしか利用できない。これは、全ステップ時間がRF及びDC制御ループの整定によって費やされ、信号を積算する時間が残らないことを示す。走査速度の上昇につれて、積算時間が短くなるので、ある量の信号劣化及び信号損失が生じる。さらに、信号強度を維持しようとする場合、S/N比の低下および四重極110を通るイオンの通過時間がより重要になる。
【0032】
図6は、図5に示された技術を用いた走査速度の上昇の結果を例示したグラフ600である。横軸602は質量を表わし、縦軸は信号強度を表わす。信号ピーク610は、100AMU/secの走査結果であり、信号ピーク620は、1,000AMU/secの走査結果であり、信号ピーク630は、5,000AMU/secの走査結果である。図示のように、走査速度が上昇するにつれて、信号強度は継続的に低下する。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、四重極110によって送られる信号は、整定時間中に積算される。図5に示されるように、整定時間514及び積算時間516を含む時間期間522を使用して、信号が積算される。
【0034】
あいにく、整定時間中に信号を積算することには欠点がある。例えば、整定時間中の積算によって、不正確な信号結果が生じる可能性がある。さらに、前回のステップからの信号のサンプリングによって、やはり信号測定に悪影響を及ぼす可能性がある。さらにまた、四重極110が電圧レベル間で遷移している間に信号をサンプリングすることにより、信号が劣化する可能性がある。本発明の一実施形態によれば、整定時間中に積算する場合の信号劣化が最小限に抑えられるように、整定時間中に、RF及びDC制御ループの応答が変更される。
【0035】
図7のA及びBは、接続252及び262(図2)における図2の四重極制御電子回路200のRF及びDC制御電圧の応答をまとめて例示したグラフである。グラフ700には、時間を表わす横軸702と電圧を表わす縦軸704が含まれる。RFピーク電圧の応答は、曲線706を用いて示され、DCピーク電圧の応答は曲線720を用いて示される。質量「N AMU」から質量「N−0.1 AMU」へと(即ち、高質量から低質量へと)走査する場合に、部分708の間にわたり安定しているRFピーク電圧が、714で示された整定時間期間中に遷移する。この時間期間は整定時間714と呼ばれる。同様に、図2に関連して、曲線720を用いて示されたDC制御電圧の応答は、RFピーク電圧の応答706に追随し、整定時間732を含む。
【0036】
図7のAに示される例の場合、DC電圧応答とRF電圧応答との間には、遅れ728がある。この遅れは、DC制御ループ230の応答、加算素子248及び264の応答、加算素子208に入力を供給するために実施される回路トポロジ(図2の入力経路「A」または入力経路「B」)、並びにRF制御ループ220の応答など、多くの要因に起因する。例えば、DC制御ループ230への供給が、DAC202を用いて、経路「A」に沿って(又は独立したDAC202aによって)行われる場合、図7のAに示されるDC電圧応答が、RF電圧応答に関連した遅れを短縮するか、又はなくし、それどころかRF電圧応答に先行する可能性さえある。
【0037】
図7のBに示されるように、RF制御ループとDC制御ループとの間の任意の遅れに関係なく、一定のピーク幅(図4)を維持するために、整定時間前後のRF:DC電圧比は、一定に保たれる。整定時間中、RF:DC比は、RF及びDC制御ループの応答に従って、一定の状態から変化する可能性があり、結果として、748で示されるRF:DC比に乱れを生じる可能性がある。この乱れによって、高い走査速度における四重極110の性能が劣化する可能性がある。四重極110がより速く走査されるので、データは整定時間中にサンプリングされる。RF制御ループ220及びDC制御ループ230が、整定時間中に適正に制御されなければ、質量分解能、透過率、及び感度が損なわれる可能性がある。
【0038】
図8のA及びBは、本発明の一実施形態の動作をまとめて例示したグラフである。図8のAにおいて、横軸802は時間を表わし、縦軸804は電圧を表わす。806で示されるRFピーク電圧の応答は、図7のAの706で示されるRFピーク電圧の応答と同様である。整定時間818は、RFピーク電圧が異なる値(即ち、異なる質量(即ち、0.1AMUステップ))へと遷移し始める時点814から、電圧遷移が完了する時点816までの時間として定義される。820で示されるDCピーク電圧の応答は、時点834から遷移を開始するが、これは、RF制御ループとDC制御ループとの間の任意の遅れを無視すると、RFピーク電圧の遷移とほぼ同じ時点である。本発明の一実施形態によれば、DC制御ループの応答が変更され、変更されたDC制御ループ電圧応答824の結果として、DC制御ループは、その応答が変更されなかった場合に比べて、より速く0.1AMU(この例の場合)のステップに対応する電圧に達するようになる。DC制御ループ応答の向上によって、整定時間832の間に四重極110を通るイオンの透過率が有効に改善される。従来のDC電圧応答が、参考のために図8のAに示され、724で表示される。
【0039】
時点814と834、及び時点816と836におけるRF:DC電圧比は、一定であり、上述のマチウ方程式1及び2によって表わされる。しかしながら、整定時間832の間にわたる曲線部分824によって示されるように、整定時間832中に、RF:DC電圧比は増大し、824で示される応答がもたらされる。このようにして、整定時間832の間にわたって四重極110を通るイオンの透過率が改善される。図8のBに示されるように、改善された応答850によって、748で示される元の応答が相殺され、結果として、信号の性能が改善されて、整定時間中に信号を正確に積算できるようになる。本発明の実施形態では、時間セグメント888及び889の間にわたる定常状態のRF:DC比は変更されず、応答850によって示されるように、整定時間中のRF:DC比が変更されるだけである。
【0040】
図9は、図2のDC制御ループ230を例示したブロック図900である。この実施形態において、DC制御ループ230に供給される有効設定値電圧を変更することにより、図8のAに示される電圧応答が生じる。図9において、設定値電圧は、接続212を介して加算素子208に供給されるが、代案として、接続204またはDAC202a(図2)を介して供給されてもよい。
【0041】
図10は、図9のDC制御ループ900を例示した略図1000である。設定値電圧は、接続212を介して、或いは代案として接続204を介して、又はDAC202a(図2)から第1の抵抗1002に供給される。抵抗1002の出力は、加算増幅器1008の反転入力1004に供給される。加算増幅器1008の非反転入力は、接続1006を介してアースに結合される。加算増幅器1008の出力は、抵抗1012に供給される。抵抗1012は、増幅器1016に結合される。増幅器1016は、利得「ADC」、関連抵抗1014、及び関連コンデンサ1018を有する。接続1022における増幅器1016の出力は、正のDC電圧信号+VDCである。
【0042】
フィードバック経路Fには、抵抗1026が含まれる。増幅器1016の出力は、抵抗1028を介して増幅器1034に供給される。増幅器1034は−1の利得を有する。増幅器1034には、抵抗1032が含まれ、接続1036における増幅器の出力は、負のDC電圧信号−VDCである。接続1022及び1036における信号は、図2の四重極110に供給される。
【0043】
図11は、本発明の考えられる具現化形態の1つを例示した略図1100である。図11に示されたDC制御ループ230には、フィードフォワード回路1110が含まれる。フィードフォワード回路1110は、入力加算抵抗1002(RIN)の周りに接続されたコンデンサ1112及び抵抗1114を含む。フィードフォワード回路1110は、入力インピーダンスを周波数に依存させることによって、DC制御ループ230の設定値電圧を有効に変化させる。フィードフォワード回路1110を組み込む結果として、接続1022及び1036におけるDC出力電圧の応答がより速くなる。フィードフォワード回路1110は、+VDC及び−VDC電圧に適切な調整を行い、整定時間の間にわたって四重極110を通るイオンの透過率を改善し、整定時間中に四重極110を通るイオンの透過率が減少しないようにする。
【0044】
一実施形態では、5.8マイクロ秒(μs)の時定数について、抵抗1114の値は21.5キロオームであり、コンデンサ1112の値は270ピコファラッド(pF)である。これは、RINの値が20.88キロオームの場合である。他の多くの抵抗値と静電容量値の組み合わせが、同様の結果をもたらすであろう。最終的な結果は、より速い走査速度のためにイオンの透過率がより高くなることである。フィードフォワード回路1110内の構成要素は調整可能であり、それによりステップ応答が調整可能になる。改善の調整範囲は、図8のAには860で示され、図8のBには870で示される。フィードフォワード回路1110でDC制御ループ230を駆動する場合、RF:DC比を制御して調整することによって、増幅器の整定時間中に四重極110を通るイオンの透過率を維持するか又は増大させると同時に、質量分析計100を走査することができる。このイオン透過率の改善の結果として、RF及びDC電圧ステップの応答が微調整されることにより、より高い走査速度における信号損失が減少することになる。さらに、この実施形態の場合、フィードフォワード回路1110の構成要素が受動的なコンデンサ及び抵抗であるため、それらは簡単に修正または調整されて、DC制御ループ230の所望の応答を最適化することができる。フィードフォワード回路1110は、高質量から低質量へと走査する場合に好ましい。
【0045】
RF:DC比は、フィードフォワード回路1110によって整定時間中に変更される。この実施形態の場合、フィードフォワード回路1110は、短い時間量でより高い利得をDC増幅器1016及び1034に生じさせ、かくしてRF:DC比が増大する。コンデンサ1112が充電されて新しい状態になると、より高い利得は停止し、従って定常状態の一定のRF:DC比に戻る。上述したように別個のDACを用いる場合には、ファームウェア250はまずDC制御ループ230の応答を変更し、次いでRF制御ループ220の応答を変更して、短い時間期間の間に同様のRF:DC比の増大をもたらす。
【0046】
代案として、フィードフォワード回路1150は、インダクタンス1152及び抵抗1154を含むことができ、これによって、低質量から高質量への走査時に、DC応答を変更することができる。さらに、フィードフォワード回路1110又は1150の代わりに、図2に示されるような別個のDAC202aで駆動することによって、DC制御ループ230の応答を変更することもできる。
【0047】
図12は、四重極110を電子的に制御するための方法の一実施形態の動作を例示したフローチャートである。フローチャートのブロックは、図示の順序で、図示の順序と無関係に、又はほぼ並行して実行され得る。ブロック1202では、図2の四重極制御電子回路200を用いて、RF及びDC制御電圧信号を発生する。ブロック1204では、RF及びDC制御電圧が四重極110に供給される。ブロック1206では、電圧のステップの整定時間中にRF電圧信号とDC電圧信号との比が変更され、結果として、図8のA及びBに示されるDC制御ループ応答が生じる。ブロック1208では、整定期間が完了したか否かが判定される。整定期間がまだ完了していなければ、プロセスは、ブロック1206に戻る。しかしながら、整定時間が完了している場合には、ブロック1212において、RF電圧とDC電圧との間における一定の比が再開される。
【0048】
以上の詳細な説明は、単に本発明の典型的な具現化形態を理解するために与えられており、当該技術者であれば、添付の特許請求の範囲およびそれれらの等価物から逸脱しない修正が明らかであるので、不必要な制限を加えるものとみなすべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】四重極質量分析計を例示したブロック図である。
【図2】図1の四重極制御電子回路の一部を例示したブロック図である。
【図3】質量分析計の走査に使用される制御電圧プロファイルを例示したグラフである。
【図4】典型的な質量ピークを例示したグラフである。
【図5】質量ピークの前後にわたるデータの収集に用いられるステップの一部を例示したグラフである。
【図6】図5に示された技術を用いた走査速度の上昇の結果を例示したグラフである。
【図7】図2の四重極制御電子回路のRF及びDC制御電圧応答をまとめて例示した図である。
【図8】本発明の一実施形態の動作をまとめて例示したグラフである。
【図9】図2のDC制御ループを例示したブロック図である。
【図10】図9のDC制御ループを例示した略図である。
【図11】本発明の考えられる具現化形態の1つを例示した略図である。
【図12】四重極を電子的に制御する方法の一実施形態の動作を例示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
100 四重極質量分析計
110 四重極
200 四重極制御電子回路
202 デジタル−アナログ変換器
220 RF制御ループ
230 DC制御ループ
832 整定時間
1110 フィードフォワード回路
1112 コンデンサ
1114、1154 抵抗
1152 インダクタンス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
四重極(110)に結合された無線周波(RF)駆動回路要素および直流(DC)駆動回路要素と、
前記RF駆動回路要素に関連したRF制御ループ(220)と、
前記DC駆動回路要素に関連したDC制御ループ(230)と、及び
前記DC制御ループ(230)に関連した制御ループ回路要素(1100)とを含み、
前記制御ループ回路要素(1100)は、ステップ応答の整定時間(832)の期間中に前記DC制御ループ(230)の応答を変更して、前記整定時間(832)中に前記四重極(110)を通るイオンの透過率が、前記整定時間(832)中に前記DC制御ループ(230)の応答を変更しなかった場合に比べて大きくなるように構成されている、質量分析計(100)の四重極(110)を電子的に制御するための装置(200)。
【請求項2】
前記制御ループ回路要素(1100)が、高質量から低質量へと走査するために構成された容量性回路(1112)及び抵抗性回路(1114)を含む、請求項1に記載の装置(200)。
【請求項3】
前記制御ループ回路要素(1100)が、低質量から高質量へと走査するために構成された誘導性回路(1152)及び抵抗性回路(1154)を含む、請求項1に記載の装置(200)。
【請求項4】
前記制御ループ回路要素(1100)が、デジタル−アナログ変換器(DAC)(202)を含む、請求項1に記載の装置(200)。
【請求項5】
前記DC制御ループ(230)の変更された応答により、前記整定時間(832)中における前記四重極(110)のイオン透過率が、前記DC制御ループ(230)の応答が変更されなかった場合の前記四重極(110)のイオン透過率に比べて大きくなることが可能になる、請求項1に記載の装置(200)。
【請求項6】
前記DC制御ループ(230)に対する前記RF制御ループ(220)の制御電圧の比が増大する、請求項1に記載の装置(200)。
【請求項7】
無線周波(RF)制御電圧(242)及び直流(DC)制御電圧(272、268)を発生(1202)し、
前記RF制御電圧(242)及びDC制御電圧(272、268)を四重極(110)に供給(1204)し、及び
前記RF及びDC制御電圧のステッピングに関連した整定期間(832)中に、前記RF制御電圧と前記DC制御電圧の比を変更(1206)することを含む、質量分析計(100)の前記四重極(110)を電子的に制御するための方法(1200)。
【請求項8】
前記DC制御電圧(272、268)が、低質量から高質量へと走査するために前記RF制御電圧(242)に遅れるように変更される、請求項7に記載の方法(1200)。
【請求項9】
前記DC制御電圧(272、268)が、高質量から低質量へと走査するために前記RF制御電圧(242)に先行するように変更される、請求項7に記載の方法(1200)。
【請求項10】
前記RF制御電圧(242)と前記DC制御電圧(272、268)との比を変更することによって、前記整定時間(832)中に前記四重極(110)を通るイオンの透過率が、前記RF制御電圧(242)と前記DC制御電圧(272、268)との比が変更されなかった場合の前記四重極(110)を通るイオンの透過率に比べて大きくなることが可能になる、請求項9に記載の方法(1200)。
【請求項1】
四重極(110)に結合された無線周波(RF)駆動回路要素および直流(DC)駆動回路要素と、
前記RF駆動回路要素に関連したRF制御ループ(220)と、
前記DC駆動回路要素に関連したDC制御ループ(230)と、及び
前記DC制御ループ(230)に関連した制御ループ回路要素(1100)とを含み、
前記制御ループ回路要素(1100)は、ステップ応答の整定時間(832)の期間中に前記DC制御ループ(230)の応答を変更して、前記整定時間(832)中に前記四重極(110)を通るイオンの透過率が、前記整定時間(832)中に前記DC制御ループ(230)の応答を変更しなかった場合に比べて大きくなるように構成されている、質量分析計(100)の四重極(110)を電子的に制御するための装置(200)。
【請求項2】
前記制御ループ回路要素(1100)が、高質量から低質量へと走査するために構成された容量性回路(1112)及び抵抗性回路(1114)を含む、請求項1に記載の装置(200)。
【請求項3】
前記制御ループ回路要素(1100)が、低質量から高質量へと走査するために構成された誘導性回路(1152)及び抵抗性回路(1154)を含む、請求項1に記載の装置(200)。
【請求項4】
前記制御ループ回路要素(1100)が、デジタル−アナログ変換器(DAC)(202)を含む、請求項1に記載の装置(200)。
【請求項5】
前記DC制御ループ(230)の変更された応答により、前記整定時間(832)中における前記四重極(110)のイオン透過率が、前記DC制御ループ(230)の応答が変更されなかった場合の前記四重極(110)のイオン透過率に比べて大きくなることが可能になる、請求項1に記載の装置(200)。
【請求項6】
前記DC制御ループ(230)に対する前記RF制御ループ(220)の制御電圧の比が増大する、請求項1に記載の装置(200)。
【請求項7】
無線周波(RF)制御電圧(242)及び直流(DC)制御電圧(272、268)を発生(1202)し、
前記RF制御電圧(242)及びDC制御電圧(272、268)を四重極(110)に供給(1204)し、及び
前記RF及びDC制御電圧のステッピングに関連した整定期間(832)中に、前記RF制御電圧と前記DC制御電圧の比を変更(1206)することを含む、質量分析計(100)の前記四重極(110)を電子的に制御するための方法(1200)。
【請求項8】
前記DC制御電圧(272、268)が、低質量から高質量へと走査するために前記RF制御電圧(242)に遅れるように変更される、請求項7に記載の方法(1200)。
【請求項9】
前記DC制御電圧(272、268)が、高質量から低質量へと走査するために前記RF制御電圧(242)に先行するように変更される、請求項7に記載の方法(1200)。
【請求項10】
前記RF制御電圧(242)と前記DC制御電圧(272、268)との比を変更することによって、前記整定時間(832)中に前記四重極(110)を通るイオンの透過率が、前記RF制御電圧(242)と前記DC制御電圧(272、268)との比が変更されなかった場合の前記四重極(110)を通るイオンの透過率に比べて大きくなることが可能になる、請求項9に記載の方法(1200)。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−40890(P2006−40890A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209708(P2005−209708)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】
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