説明

回生型リアクトル評価装置

【課題】 回生コンバータ側のリアクトル設計が容易となり、さらに評価コンバータ側の各種設定が容易にできる回生型リアクトル評価装置を提供する。
【解決手段】 直流入力電源部と、昇圧チョッパー回路と、降圧チョッパー回路と、制御回路とを有し、前記昇圧チョッパー回路もしくは前記降圧チョッパー回路の何れか一方に試験用リアクトルを設置する回生型リアクトル評価装置において、昇圧チョッパー回路のキャリア周波数と降圧チョッパー回路のキャリア周波数が個別に設定可能であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DC−DCコンバータなどの電力変換器に用いられるリアクトルを実負荷条件で評価する回生型リアクトル評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の実負荷状態のリアクトル評価装置を図3に示す。これは昇圧チョッパーと云われるDC−DCコンバータの例である。コンバータ回路3は、実機器と同様な昇圧チョッパー回路で構成し、そこに試験リアクトル4(L1)が接続される。制御回路5は、与えられる電圧基準により、コンバータ回路3が一定の出力電圧を出力するようにトランジスタQ1を駆動する。さらに、入力側には所定容量の入力直流電源部1を設け、出力側には実負荷に相当する抵抗器などで構成される出力負荷部2が設置される。ここでは、コンバータ回路3が一定の出力電圧を出力するので、負荷の抵抗値により負荷電力が制御される。このリアクトル評価装置の負荷電力を27kWとすると、駆動回路全体の変換効率が90%であれば、入力直流電源部1には30kWの電源容量が必要となる。さらに出力負荷部2では、27kWの負荷電力が熱として消費されるので大型の冷却設備が必要とされる。
【0003】
新しいリアクトル評価装置の報告例として、非特許文献1がある。ここで提案されている回生型リアクトル評価装置を図4に示す。この装置では、ダイオードD2、トランジスタQ2、リアクトルL2よりなる降圧チョッパー回路が出力側から入力側に電力を回生する。これにより出力負荷部2が不要となる。従って、負荷電力に相当する熱は発生せず、出力負荷部2の冷却設備も不要となる。さらに入力直流電源部1も、負荷電力相当の電源容量が不要となる。前述の負荷電力27kWの例であれば、ここでの必要な電源容量は6kWとなる。この6kWはコンバータ回路31内で生ずる損失分であり、ダイオードD1、トランジスタQ1、リアクトルL1よりなる昇圧チョッパー回路と、D2、Q2、L2よりなる降圧チョッパー回路の両回路の合計損失である。この装置内で回生される電力は、入力電圧V1(直流入力電源部1の電圧)と試験リアクトル4を流れるリアクトル電流I1(平均値)の積となる。また、出力電圧V2と電流I1はそれぞれ制御回路51に与えられる電圧基準と電流基準により設定制御される。
【0004】
図4に示す従来の回生型リアクトル評価装置は、降圧チョッパー回路側を回生コンバータとし、昇圧チョッパー回路側を試験用リアクトルが接続される評価コンバータとするものである。この構成を逆にし、昇圧チョッパー回路側を回生コンバータとし、降圧チョッパー回路側を試験リアクトルの接続される評価コンバータとすることも可能である。(以後は、昇圧チョッパー回路と降圧チョッパー回路のうち、試験用リアクトルが接続される側の回路を評価コンバータとし、他方を回生コンバータと呼ぶ)
【0005】
【非特許文献1】電気学会半導体電力変換研究会資料SPC−03−158(2003年11月)山本幸弘、小笠原悟司「昇圧チョッパー用リアクトルの評価装置と損失低減のための一考察」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図4に示す従来の回生型リアクトル評価装置は、電源容量を大幅に低減でき、出力負荷部とその冷却設備も不要となる極めて優れた方式であるが、以下に示す問題点がある。
【0007】
第一の問題点は、キャリア周波数の異なる用途のリアクトルを多種類連続して評価しようとする場合に発生する。一般にリアクトルは、使用されるキャリア周波数により、これに適した磁心材料が異なる。従って、異なる磁心材料のリアクトルを続けて評価する場合、キャリア周波数も変更することになる。しかし、図4の回生型リアクトル評価装置では、評価コンバータと回生コンバータは同じキャリア周波数で駆動されるため、回生コンバータ側のリアクトルもこのキャリア周波数に適した磁心材料に変更する必要があった。
【0008】
本発明では、上記問題を改善し、試験用リアクトルによって回生コンバータ側のリアクトルを逐一交換することが不要な、回生型リアクトル評価装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、直流入力電源部と、昇圧チョッパー回路と、降圧チョッパー回路と、制御回路とを有し、前記昇圧チョッパー回路もしくは前記降圧チョッパー回路の何れか一方に試験用リアクトルを設置する回生型リアクトル評価装置において、昇圧チョッパー回路のキャリア周波数と降圧チョッパー回路のキャリア周波数が個別に設定可能であることを特徴とする。この回生型リアクトル評価装置では、試験用リアクトルの特性に係わらず、回生コンバータ側のリアクトルを逐一交換することが不要になる。
【0010】
また、本発明の回生型リアクトル評価装置は、試験用リアクトルを設置した方の回路のキャリア周波数が任意に設定可能であり、かつ他方の回路のキャリア周波数が固定設定されているものが好ましい。評価コンバータ側のキャリア周波数のみ設定すれば評価可能であり、取扱いが容易になる。
【0011】
また、本発明の回生型リアクトル評価装置は、試験用リアクトルを設置した方の回路の、リアクトル電流、入力電圧、出力電圧、およびキャリア周波数の各設定を制御するための制御回路と、前記制御回路に接続されたシステムコンソールを備える構成とすることができる。
従来の図4の回生型リアクトル評価装置では、入力電圧V1、出力電圧V2、リアクトル電流I1、キャリア周波数の4項目を最低でも設定しなければならない。非特許文献1では、この設定方法は明示されていないが、通常は前記の4項目を計測器で測定しながら、例えば手動で可変抵抗器の抵抗値を調整して所定の設定値に合せる必要があるが、上記構成にすることで複雑な調整作業が不要になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の回生型リアクトル評価装置は、回生コンバータ側のキャリア周波数と評価コンバータ側のキャリア周波数を個別に設定する。または、回生コンバータ側のキャリア周波数を固定設定とし、評価コンバータ側のキャリア周波数を任意に設定するものである。従って、キャリア周波数の異なる用途のリアクトルを多種類連続して評価しようとする場合でも、評価コンバータ側のキャリア周波数を試験リアクトル4に合せて設定すれば良く、回生コンバータ側は既設置のリアクトルに合せた既設定のキャリア周波数のままで使われる。よって、異なる磁心材料のリアクトルを続けて評価する場合、回生コンバータ側のリアクトルを変更する必要が無い。
【0013】
また、回生コンバータ側のキャリア周波数を固定したことで、評価コンバータ側のキャリア周波数のみ設定すれば評価可能であり、取扱いが容易になる。
さらに本発明の回生型リアクトル評価装置は、評価コンバータ側のリアクトル電流、入力電圧、出力電圧、キャリア周波数の設定を制御回路と接続されたシステムコンソールから操作するので、リアクトル評価の設定は、各設定値をキィー入力することで完了する。従って、評価作業者は従来のような可変抵抗器を調整するような煩雑な調整作業から開放される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものでは無い。
【0015】
本発明の実施例1の構成回路図を図1に示す。この構成では、ダイオードD1、トランジスタQ1、リアクトルL1よりなる昇圧チョッパー回路が評価コンバータとなり、ダイオードD2、トランジスタQ2、リアクトルL2よりなる降圧チョッパー回路が回生コンバータとなる。コンデンサC1、C2は昇圧チョッパー回路と降圧チョッパー回路の入出力コンデンサとして共用される。図4の従来の回生型リアクトル評価装置とは異なる点を以下に説明する。制御回路55には、回生コンバータ部のキャリア周波数が固定設定されている。直流入力電源部15は制御回路55からのV1制御信号により、コンバータ回路35の入力電圧V1を出力する。さらに制御回路55には、システムコンソール65が接続されている。
【0016】
実際の構成は、図示はしていないが、LAN(ローカルエリアネットワーク)ケーブルを介して接続されたパーソナルコンピュータにシステムコンソール65がインストールされている。システムコンソール65をパーソナルコンピュータ上で立ち上げ、キィボードから入力電圧設定A、出力電圧設定B、リアクトル電流設定C、評価コンバータのキャリア周波数設定Dをそれぞれ入力する。これにより、直流入力電源部15は制御回路55からV1制御信号を受け、入力電圧V1を供給し、コンバータ回路35が作動する。回生コンバータ部は制御回路55内で固定設定されたキャリア周波数で駆動され、評価コンバータ部は、キィボードから入力されたキャリア周波数設定Dで駆動される。ここで入力電圧V1は300V、出力電圧V2は600V、リアクトル電流I1は80A、回生コンバータ側のキャリア周波数は17kHz、評価コンバータ側のキャリア周波数は10kHzの条件でリアクトル評価を行ったが、なんら問題無く装置は作動した。
【0017】
本発明の実施例2の構成回路図を図2に示す。図1の実施例1と異なる点は、ダイオードD1、トランジスタQ1、リアクトルL1よりなる昇圧チョッパー回路側を回生コンバータとし、入力側から出力側に電力を回生している。ダイオードD2、トランジスタQ2、リアクトルL2よりなる降圧チョッパー回路側は試験リアクトル4(L2)の接続される評価コンバータとなっている。ここでも実施例1と同じ条件即ち、入力電圧V1は300V、出力電圧V2は600V、リアクトル電流I2は80A、回生コンバータ側のキャリア周波数は17kHz、評価コンバータ側のキャリア周波数は10kHzでリアクトル評価を行ったが、なんら問題無く装置は作動した。
【0018】
前述の実施例の説明では、図中のコンバータ回路35の左側を入力とし、右側を出力としているが、これは直流入力電源15を左側に配置して、コンデンサC1と接続しているからである。反対に直流入力電源を図中の右側に配置して、コンデンサC2と接続する方法でも、本評価装置は稼働させることが可能であり、同様な機能、特徴を有する。また、前述の実施例では、リアクトル電流の検出を評価コンバータ側の試験リアクトルの電流検出で行っているが、これを回生コンバータ側のリアクトルの電流検出で行っても制御は可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例による回生型リアクトル評価装置の構成回路図である。
【図2】本発明の別の実施例による回生型リアクトル評価装置の構成回路図である。
【図3】従来のリアクトル評価装置の構成回路図である。
【図4】従来の回生型リアクトル評価装置の構成回路図である。
【符号の説明】
【0020】
1、15 直流入力電源部,
2 出力負荷部,
3、31、35 コンバータ回路,
4 試験リアクトル,
5、51、55 制御回路,
65 システムコンソール,
A 入力電圧設定,
B 出力電圧設定,
C リアクトル電流設定,
D 評価コンバータのキャリア周波数設定

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流入力電源部と、昇圧チョッパー回路と、降圧チョッパー回路と、制御回路とを有し、前記昇圧チョッパー回路もしくは前記降圧チョッパー回路の何れか一方に試験用リアクトルを設置する回生型リアクトル評価装置において、昇圧チョッパー回路のキャリア周波数と降圧チョッパー回路のキャリア周波数が個別に設定可能であることを特徴とする回生型リアクトル評価装置。
【請求項2】
前記回生型リアクトル評価装置は、試験用リアクトルを設置した方の回路のキャリア周波数が任意に設定可能であり、かつ他方の回路のキャリア周波数が固定設定されていることを特徴とする請求項1に記載の回生型リアクトル評価装置。
【請求項3】
試験用リアクトルを設置した方の回路の、リアクトル電流、入力電圧、出力電圧、およびキャリア周波数の各設定を制御するための制御回路と、前記制御回路に接続されたシステムコンソールを備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回生型リアクトル評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−282384(P2007−282384A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106017(P2006−106017)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】