回路基板、及び、回路基板の製造方法
【課題】めっき液の寿命低下を抑制しつつ、はんだ濡れ性を向上し、窒化珪素基板表面へのめっき付着を防止した回路基板、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】窒化珪素基板上に形成された導電部を含んだ回路基板であって、導電部の表面はNiSO4を含むめっき液を用いてめっきされており、当該めっき表面のグロー放電発光分析により見いだされるS成分のピークが、Ni成分のピークよりも小さい回路基板である。
【解決手段】窒化珪素基板上に形成された導電部を含んだ回路基板であって、導電部の表面はNiSO4を含むめっき液を用いてめっきされており、当該めっき表面のグロー放電発光分析により見いだされるS成分のピークが、Ni成分のピークよりも小さい回路基板である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素基板を用いた回路基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、例えば電動車両用のインバーター等として高電圧、大電流動作が可能なパワー半導体モジュール(IGBTモジュール等)が広く利用されている。このような半導体モジュールでは、半導体チップが動作中は比較的高温となるので、放熱の効率を高める必要がある。そこで上記半導体チップを搭載する回路基板として、機械強度が比較的高く、熱伝導率も比較的高い窒化珪素(Si3N4)基板が注目されている。
【0003】
一般に半導体モジュールでは、窒化珪素基板の一面側に、銅合金等、比較的電気伝導率の高い金属で回路パターンが形成される。この回路パターンを構成する金属と、窒化珪素基板との接合は、活性金属ろう付け法等で行われる。この活性金属ろう付け法では、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)等の活性金属とともに低融点合金を作る銀(Ag)、銅(Cu)等の金属を混合したもの、又はこれらの合金をろう材として、回路パターンを形成する金属箔又は金属板を窒化珪素基板の表面にろう材相を介して不活性ガス又は真空雰囲気中で加熱圧着接合する。
【0004】
また、回路パターンとなった金属の表面にはニッケル(Ni)−リン(P)等を含む無電解めっき層を形成しておく。これにより窒化珪素基板を用いた回路基板が得られ、この無電解めっき層の表面に半導体チップなどが搭載されてパワー半導体モジュールとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−183843号公報
【特許文献2】世界知的所有権機関国際事務局 国際公開第2007/148785号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では無電解めっき層を形成する際、めっきの前処理として、回路パターンに対し、活性パラジウム(Pd)を塗布して洗浄している。これは回路パターンに対するめっき層の形成を助けるためであるが、実際には活性パラジウムは回路パターン表面だけでなく、回路パターン外に露出した窒化珪素基板の表面にも付着してしまう。
【0007】
また窒化珪素基板の表面は、窒化珪素の柱状結晶がランダムに配列された組織となっており、洗浄によっても柱状結晶の組織内に活性パラジウムがトラップされた状態で残存する。めっきの工程では、当該残存した活性パラジウム部分にもめっきがされるため、めっき付着によって窒化珪素基板の表面に黒ずみ斑点等の外観不良等が生じる。
【0008】
特許文献1では、活性パラジウムの代わりに触媒活性を示すニッケル片を用い、ニッケル化合物を主成分としてリン酸系化合物を還元剤として含有するめっき浴中で、電子部品の電極表面にNi−Pの無電解めっき層を形成する技術が開示されている。しかしこの特許文献1に開示された技術では、めっき浴中にニッケル片を留めるため、めっき処理中には、当該ニッケル片表面にもめっきがされ、めっき浴の寿命を低下させる。
【0009】
そこで、特許文献2では、触媒活性を示す球状のニッケル粒を接触させた状態で基板をめっき液中に置き、その後、めっき液から取り出して必要部分にめっき被覆が形成されていることを確認後、ニッケル粒をはずして再度基板のみをめっき浴中に置くこととしている。しかしながらこの方法では、回路パターン表面においてニッケル粒の接触している位置や、めっき浴から取り出したときの温度低下により、めっき表面における硫黄(S)成分(還元剤に含まれていたもの)の分布にばらつきが生じ、はんだ濡れ性を劣化させる場合があった。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたもので、めっき液の寿命低下を抑制しつつ、はんだ濡れ性を向上し、窒化珪素基板表面へのめっき付着を防止した回路基板、及びその製造方法を提供することを、その目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、窒化珪素基板上に形成された導電部を含んだ回路基板であって、前記導電部の表面はNiSO4を含むめっき液を用いてめっきされており、当該めっき表面のグロー放電発光分析により見いだされるS成分のピークが、Ni成分のピークよりも小さいこととしたものである。
【0012】
また、本発明の一態様に係る回路基板の製造方法は、窒化珪素基板上に島状に凸となった導電部を形成する工程と、少なくともその表面がNiである球状体を前記導電部に接触させた状態で、めっき液に浸漬する工程と、めっき液に浸漬させた状態で、前記球状体を導電部から引き離す工程と、を含み、前記球状体の半径Rを、前記導電部間の最大距離W1と、導電部表面の窒化珪素基板表面からの距離tとに基づき、(4t2+W12)/8t<Rで定められる半径としたものである。
【0013】
ここに、球状体を前記導電部に接触させた状態で前記めっき液に浸漬する工程の持続時間を、めっき成長が開始するまでの時間として予め定めた時間としてもよい。
【0014】
さらに本発明の別の態様に係る集合回路基板の製造方法は、島状に凸となった導電部を含む複数の回路パターンを、窒化珪素基板上に繰り返し形成する工程と、少なくともその表面がNiである球状体を前記導電部の各々に接触させた状態で、めっき液に浸漬する工程と、めっき液に浸漬させた状態で、前記球状体を前記導電部から引き離す工程と、を含み、前記球状体の半径Rを、前記導電部間の最大距離W1と、導電部表面の窒化珪素基板表面からの距離tとに基づき、(4t2+W12)/8t<Rで定められる半径としたものである。
【0015】
さらに本発明の一態様に係る回路基板は、一定電圧6.6kVを印加し続けたときの絶縁破壊時間hが、130000時間以上であることとしたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、めっき液の寿命低下を抑制しつつ、はんだ濡れ性を向上し、窒化珪素基板表面へのめっき付着を防止した回路基板、及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る回路基板の製造方法を表すフロー図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る回路基板の例を表す平面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る回路基板の例を表す側面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る回路基板をめっき液に浸漬させる際の状態を表す説明図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る回路基板に対するニッケル球の接触状態の例を表す説明図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る回路基板に対するニッケル球の接触状態の別の例を表す説明図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る回路基板に対するニッケル球の接触状態のさらに別の例を表す説明図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る回路基板のめっき表面をグロー放電発光分析したときの硫黄成分とニッケル成分との放出経過の概要を表す説明図である。
【図9】めっき表面の硫黄成分量に対するはんだ濡れ性の関係を表す説明図である。
【図10】本実施例で用いる集合回路基板の例を表す説明図である。
【図11】本実施例と比較例とのそれぞれに係る集合回路基板の絶縁破壊電圧と絶縁破壊時間との関係を表す説明図である。
【図12】本実施例と比較例とのそれぞれに係る集合回路基板のめっき表面のグロー放電発光分析の結果を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施の形態に係る回路基板は図1に例示するように、次のようにして製造される。
【0019】
回路パターンに従って加工した銅合金板(導電部)20を窒化珪素基板10の平面側にろう付けした基板を用意する(S1)。この基板で導電部20は、図2に示すように、窒化珪素基板上に島状に複数配され、導電部20の間には空隙Gが空けられる。また、この導電部20は、図3に側面図を示すように、窒化珪素基板表面よりも凸となっている。
【0020】
なお、この導電部20は窒化珪素基板の平面側に形成し、底面側はその全面に導電部を形成してもよい。IGBTモジュール等の場合、この底面側の導電部は放熱の役割を果たす。
【0021】
次にこの基板の導電部20の表面を清浄化する(S2)。清浄化は例えば有機溶剤による脱脂や、酸性の水溶液を用いた洗浄、またはエッチングなど広く知られた方法で行うことができる。
【0022】
清浄化した基板を、ナイロン製のメッシュケースなど、めっき液が内外に流通するケース内部に配し、ニッケル球30を充填する(図4)。このとき、基板両面の各導電部20に少なくとも一つのニッケル球30が接するよう、メッシュケース40のサイズやニッケル球30の数、サイズ等を調整しておく。なお、ここでニッケル球30は、少なくともその表面がニッケルである球状体であればよい。つまり球の内部までニッケルでできていてもよいし、樹脂製の球表面をニッケルで被覆したものであってもよい。
【0023】
次に、基板をナイロン製のメッシュケース40ごとめっき液内に浸漬する(S3)。このめっき液は、無電解Ni−Pめっき液としては、NiSO4を含む、広く知られたものを用いる。予め定めた時間(第1の時間)だけ経過した後(S4)、めっき液中でナイロン製メッシュケース40から基板を取り出し、ニッケル球をめっき液から取り出す(S5)。つまり、基板はめっき液に浸漬させた状態のまま、ニッケル球30を導電部から引き離す。ここで第1の時間は、予め実験的に、導電部20の表面にめっき成長が開始するに十分な時間として定められたものである。
【0024】
そしてまた予め定めた時間(第2の時間)だけ、基板の導電部20上に無電解めっきを行って(S6)、導電部20表面にNi−Pめっき膜を形成する。こうして窒化珪素基板10上に形成された導電部20を含み、導電部20の表面にNi−Pめっき膜が形成された回路基板が得られる。
【0025】
また本実施の形態では、上記ニッケル球30のサイズを次のようにして定める。すなわちニッケル球30の半径をRとし、導電部間20の最大の距離(最大の空隙の幅)をW1とし、導電部20表面の窒化珪素基板10表面からの距離をtとする(図5)。このとき、ニッケル球30が導電部20表面には接するが、窒化珪素基板10表面に触れないようにするには、ニッケル球30が空隙を挟む一対の導電部20の端部で支えられるときに、ニッケル球30の中心Oから窒化珪素基板10の表面に下ろした垂線の足Fまでの長さOFが、ニッケル球30の半径Rよりも大きいこと、つまり、OF>Rであればよい。
【0026】
ここでニッケル球30が接する導電部20の端部(一方をAとする)を結ぶ線分と、OFとが交わる点をPとすると、OF=OP+tである。また、角OAPをθとするとOPは、R・sinθとなる。よって、t+R・sinθ>R。一方、2R・cosθ=W1なので、sinθ=√(1−cos2θ)=(1/2R)×√(4R2−W12)であり、従って、条件は、(1/2)×√(4R2−W12)>R−tと書き直せる。両辺ともに正の値なので、それぞれ二乗して整理し、(4t2+W12)/8t<Rを得る。
【0027】
すなわち本実施の形態ではニッケル球30の半径Rを、形成された導電部間20の最大距離(最大の空隙の幅)をW1とし、導電部20表面の窒化珪素基板10表面からの距離をtとするとき、(4t2+W12)/8tより大きくする。
【0028】
しかしながらニッケル球30の半径を大きくしすぎると、図6に例示するように、比較的幅の狭い導電部20にニッケル球30が接触しない場合がある。そこで、めっき液に浸漬させている間、ニッケル球30を基板に対して流動させる。これは例えばメッシュケース40ごと揺動させるようにするなど、様々な方法で行うことができる。
【0029】
また、ニッケル球30の半径を(2W1+W2)/2>Rとしておくこととしてもよい。これは図7のように接する場合を考慮して、W2+2R・cosθ>2Rとの条件(及びこの場合のcosθ=W1/R)から導かれる条件である。
【0030】
図8は、以上のようにニッケル球30の球半径を制御し、まためっき成長開始後にめっき液に浸漬させた状態のままでニッケル球30を導電部20から引き離して得た回路基板に対し、その導電部20表面に存在する各分子の存在比を、グロー放電発光分析法(GD-OES: Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy)を利用して測定したものである。このグロー放電発光分析法による測定を行う装置としては、例えば堀場製作所製のGD−Profiler2等がある。
【0031】
図8において、横軸は測定開始からの時間、縦軸は各成分が放出された量を表す。図8には比較のために、従来の方法(ニッケル球の半径をW1,W2に関わりなく定め、ニッケル球を導電部から引き離すときにめっき液から一旦取り出す方法)で製造された回路基板における結果(b)と、本実施の形態の方法で製造された回路基板における結果(a)とを示している。
【0032】
図8(a),(b)を比較すると、従来の方法で製造された回路基板に比べ、本実施の形態の方法で製造された回路基板では、導電部20上に形成されためっき表面のグロー放電発光分析により見いだされる硫黄(S)成分のピークが、ニッケル(Ni)成分のピークよりも小さくなっている。
【0033】
またS成分のピークに対するはんだ濡れ性について実験した結果を図9に示す。図9において横軸はS成分のピークの値、縦軸ははんだ濡れ性を表す。ここではんだ濡れ性とは、例えば導電部(Ni−Pめっきをしたもの)上に面積A0のはんだを載せてリフロー処理したときに、当該リフロー処理後のはんだの面積AのA0に対する比、A/A0を単位パーセントで表したものである。
【0034】
図9に示すように、めっき表面に含まれるS成分の濃度(a.u:規格化単位)とはんだ濡れ性とには相関が見られ、本実施の方法で製造された回路基板では、導電部20上に形成されためっき表面のグロー放電発光分析により見いだされる硫黄(S)成分のピークが、ニッケル(Ni)成分のピークよりも小さくなっているので、はんだ濡れ性を高くすることができる。
【0035】
なお、本実施の形態の方法で製造する基板は、窒化珪素基板上に複数の同じ回路パターン50を繰り返し形成した集合基板であってもよい(図10)。この場合には、各回路パターン50の外周に、ガイド枠60を形成してもよい。このガイド枠は回路パターンと同様に、銅合金板をガイド枠の形状に加工し、窒化珪素基板にろう付けしたものとすればよい。このガイド枠の表面と窒化珪素基板の表面との間の距離は、導電部の表面と窒化珪素基板の表面との間の距離と同じでよい。またこの集合基板において、回路パターンに含まれる導電部間の最大距離よりも、回路パターンに含まれる導電部とガイド枠との間の距離が大きい部分があるときには、当該回路パターンに含まれる導電部とガイド枠との間の最大距離をW1として、上述の方法でニッケル球の半径Rを定める。
【0036】
本実施の形態の方法では、ニッケル球をめっき液から取り出すことでめっき液の寿命低下を抑制しつつ、はんだ濡れ性を向上でき、また、ニッケル球が窒化珪素基板に接触しないようにしたので、窒化珪素基板表面へのめっき付着を防止できる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明に係る実施例について説明する。
【0038】
ここでは図10に示した集合回路基板を処理の対象とした例について述べる。図10の集合回路基板は、窒化珪素基板上に、銅合金板を回路パターンに従って加工した導電部50が4×11のマトリクス状に繰り返し配されている。また、これら複数の導電部50の外周には、ガイド枠60を銅合金板で形成している。ここでは、これら導電部50及びガイド枠60が導電部となっている。図10の基板では、導電部の間にある間隙のうち最大の間隙は、基板の左半分と右半分との間にある間隙(長さW0)である。さらに導電部はいずれも、その表面と窒化珪素基板の表面との距離がt=0.5mmとなっている。
【0039】
この基板の導電部の表面は清浄化しておき、(4t2+W02)/8t<R<(2W0+W2)/2の条件を満足するRの半径を有するニッケル球を用意した。ここでW2は、めっきを要する導電部の幅のうち、もっとも狭い幅(図10の導電部50の上下方向の幅w)としている。
【0040】
清浄化した基板を、ナイロン製のメッシュケースに収納し、用意した半径Rのニッケル球を充填した。そしてメッシュケースごと、基板をめっき液内に浸漬し、予め実験的に、導電部の表面にめっき成長が開始するに十分な時間として定められた第1の時間だけ待機した。この第1の時間が経過した後、めっき液中でメッシュケースから基板を取り出し、ニッケル球を導電部から引き離した。さらにニッケル球はめっき液から取り出した。
【0041】
そしてさらに30分間、無電解めっきを行い、導電部の表面にNi−Pめっき膜を形成した回路基板(実施例)を得た。
【0042】
また比較のため、図10に示した同じ導電部を有する基板を作成し、この基板の導電部の表面を清浄化した後、ナイロン製のメッシュケースに収納し、用意した半径Rのニッケル球を充填した。そしてメッシュケースごと、基板をめっき液内に浸漬し、5秒から10秒の間にめっき液から引き上げ、メッシュケースから基板を取り出して各導電部においてめっき成長が始まっていることを目視で確認した。その後、当該基板を再びめっき液に浸漬し、30分間無電解めっきを行い、導電部の表面にNi−Pめっき膜を形成した回路基板(比較例)を得た。
【0043】
これら実施例と比較例とのそれぞれの導電部表面に存在する各分子の存在比を、堀場製作所製のGD−Profiler2を用い、グロー放電発光分析法(GD-OES: Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy)により測定した。実験の条件としては、アルゴン(Ar)ガス圧力が500Pa、RF出力を35W、アノード径が4mm、1.7μm毎秒の速度でノーマルスパッタを行った。また蛍光X線分析により、導電部表面に存在するリン(P)成分の濃度(%)を併せて測定した。
【0044】
さらに、実施例と比較例とにおける導電部上でのはんだ濡れ性と、絶縁耐圧とを測定した。ここで絶縁耐圧は次のようにして得たデータである。すなわち8から10kVの間の互いに異なる電圧V1,V2…Vnを、回路基板の表裏間に印加し、絶縁破壊が生じるまでの時間を測定した。この結果を図11に示す。なお、この際に島状に存在する各導電部は互いに短絡させておいた。
【0045】
図11において縦軸(y軸)は、絶縁破壊が生じた印加電圧(kV)、横軸(x軸)は絶縁破壊が生じるまでの時間(時間)である。この測定の結果から比較例の回路基板について、
y=6.7x-0.06
との相関関数を得た。また実施例の回路基板について、
y=8.8x-0.03
との相関関数を得た。
【0046】
これらの相関関数から、15年経過時点での絶縁耐圧を外挿して予測した値を次の表1、2に示す。それぞれ表1が実施例に関する実験の結果であり、表2が比較例に関する実験の結果である。
【表1】
【表2】
【0047】
表1に示す実施例1から実施例24は、いずれもガイド枠を形成した集合基板を、ボール径Rが(4t2+W12)/8t<Rの条件を満足したニッケル球を用い、まためっき液から引き出すことなく、ニッケル球を導電部から引き離した(引き出しなし)ものである。この表に示す通り、測定される硫黄(S)成分は、比較的低く、またリン(P)濃度も7乃至8.5%の間に安定している。はんだ濡れ性は97%以上であり、15年経過時点(約130000時間)での絶縁耐圧の予測値は6.0kV以上となっている。つまり、実施例に係る回路基板では、一定電圧6.6kVを印加し続けたときの絶縁破壊時間hは、130000時間以上である。
【0048】
一方、表2に示す比較例1、2は、ガイド枠を形成しなかったものである。また、比較例3,4は、めっき液から引き出した状態で、ニッケル球を導電部から引き離した(引き出し有り)ものである。その他の比較例5から11は、ボール径(R)が、(4t2+W12)/8t<Rの条件を満足していない。なお、表2では、(4t2+W12)/8tを、最小ボール径として表示した。
【0049】
この結果、表2に示す比較例では、比較例3,4を除いて15年経過時点での絶縁耐圧の予測値が4.0kV未満となっている。また、比較例3,4では、15年経過時点での絶縁耐圧の予測値は6.0kV以上となっているが、めっき表面の硫黄(S)成分やリン(P)濃度が比較的高く、はんだ濡れ性が75%未満に低下している。
【0050】
図12は、比較例と実施例とのそれぞれに係る回路基板について、導電部表面の成分をグロー放電発光分析法により測定した例を表したものである。双方でニッケル(Ni)成分のピークは約3a.u.で変わらないが、硫黄(S)成分のピークは比較例で5.0a.u.、実施例で2.5a.u.と異なっている。
【符号の説明】
【0051】
10 窒化珪素基板、20,50 導電部 30 ニッケル球、40 メッシュケース、60 ガイド枠。
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素基板を用いた回路基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、例えば電動車両用のインバーター等として高電圧、大電流動作が可能なパワー半導体モジュール(IGBTモジュール等)が広く利用されている。このような半導体モジュールでは、半導体チップが動作中は比較的高温となるので、放熱の効率を高める必要がある。そこで上記半導体チップを搭載する回路基板として、機械強度が比較的高く、熱伝導率も比較的高い窒化珪素(Si3N4)基板が注目されている。
【0003】
一般に半導体モジュールでは、窒化珪素基板の一面側に、銅合金等、比較的電気伝導率の高い金属で回路パターンが形成される。この回路パターンを構成する金属と、窒化珪素基板との接合は、活性金属ろう付け法等で行われる。この活性金属ろう付け法では、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)等の活性金属とともに低融点合金を作る銀(Ag)、銅(Cu)等の金属を混合したもの、又はこれらの合金をろう材として、回路パターンを形成する金属箔又は金属板を窒化珪素基板の表面にろう材相を介して不活性ガス又は真空雰囲気中で加熱圧着接合する。
【0004】
また、回路パターンとなった金属の表面にはニッケル(Ni)−リン(P)等を含む無電解めっき層を形成しておく。これにより窒化珪素基板を用いた回路基板が得られ、この無電解めっき層の表面に半導体チップなどが搭載されてパワー半導体モジュールとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−183843号公報
【特許文献2】世界知的所有権機関国際事務局 国際公開第2007/148785号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では無電解めっき層を形成する際、めっきの前処理として、回路パターンに対し、活性パラジウム(Pd)を塗布して洗浄している。これは回路パターンに対するめっき層の形成を助けるためであるが、実際には活性パラジウムは回路パターン表面だけでなく、回路パターン外に露出した窒化珪素基板の表面にも付着してしまう。
【0007】
また窒化珪素基板の表面は、窒化珪素の柱状結晶がランダムに配列された組織となっており、洗浄によっても柱状結晶の組織内に活性パラジウムがトラップされた状態で残存する。めっきの工程では、当該残存した活性パラジウム部分にもめっきがされるため、めっき付着によって窒化珪素基板の表面に黒ずみ斑点等の外観不良等が生じる。
【0008】
特許文献1では、活性パラジウムの代わりに触媒活性を示すニッケル片を用い、ニッケル化合物を主成分としてリン酸系化合物を還元剤として含有するめっき浴中で、電子部品の電極表面にNi−Pの無電解めっき層を形成する技術が開示されている。しかしこの特許文献1に開示された技術では、めっき浴中にニッケル片を留めるため、めっき処理中には、当該ニッケル片表面にもめっきがされ、めっき浴の寿命を低下させる。
【0009】
そこで、特許文献2では、触媒活性を示す球状のニッケル粒を接触させた状態で基板をめっき液中に置き、その後、めっき液から取り出して必要部分にめっき被覆が形成されていることを確認後、ニッケル粒をはずして再度基板のみをめっき浴中に置くこととしている。しかしながらこの方法では、回路パターン表面においてニッケル粒の接触している位置や、めっき浴から取り出したときの温度低下により、めっき表面における硫黄(S)成分(還元剤に含まれていたもの)の分布にばらつきが生じ、はんだ濡れ性を劣化させる場合があった。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたもので、めっき液の寿命低下を抑制しつつ、はんだ濡れ性を向上し、窒化珪素基板表面へのめっき付着を防止した回路基板、及びその製造方法を提供することを、その目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、窒化珪素基板上に形成された導電部を含んだ回路基板であって、前記導電部の表面はNiSO4を含むめっき液を用いてめっきされており、当該めっき表面のグロー放電発光分析により見いだされるS成分のピークが、Ni成分のピークよりも小さいこととしたものである。
【0012】
また、本発明の一態様に係る回路基板の製造方法は、窒化珪素基板上に島状に凸となった導電部を形成する工程と、少なくともその表面がNiである球状体を前記導電部に接触させた状態で、めっき液に浸漬する工程と、めっき液に浸漬させた状態で、前記球状体を導電部から引き離す工程と、を含み、前記球状体の半径Rを、前記導電部間の最大距離W1と、導電部表面の窒化珪素基板表面からの距離tとに基づき、(4t2+W12)/8t<Rで定められる半径としたものである。
【0013】
ここに、球状体を前記導電部に接触させた状態で前記めっき液に浸漬する工程の持続時間を、めっき成長が開始するまでの時間として予め定めた時間としてもよい。
【0014】
さらに本発明の別の態様に係る集合回路基板の製造方法は、島状に凸となった導電部を含む複数の回路パターンを、窒化珪素基板上に繰り返し形成する工程と、少なくともその表面がNiである球状体を前記導電部の各々に接触させた状態で、めっき液に浸漬する工程と、めっき液に浸漬させた状態で、前記球状体を前記導電部から引き離す工程と、を含み、前記球状体の半径Rを、前記導電部間の最大距離W1と、導電部表面の窒化珪素基板表面からの距離tとに基づき、(4t2+W12)/8t<Rで定められる半径としたものである。
【0015】
さらに本発明の一態様に係る回路基板は、一定電圧6.6kVを印加し続けたときの絶縁破壊時間hが、130000時間以上であることとしたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、めっき液の寿命低下を抑制しつつ、はんだ濡れ性を向上し、窒化珪素基板表面へのめっき付着を防止した回路基板、及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る回路基板の製造方法を表すフロー図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る回路基板の例を表す平面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る回路基板の例を表す側面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る回路基板をめっき液に浸漬させる際の状態を表す説明図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る回路基板に対するニッケル球の接触状態の例を表す説明図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る回路基板に対するニッケル球の接触状態の別の例を表す説明図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る回路基板に対するニッケル球の接触状態のさらに別の例を表す説明図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る回路基板のめっき表面をグロー放電発光分析したときの硫黄成分とニッケル成分との放出経過の概要を表す説明図である。
【図9】めっき表面の硫黄成分量に対するはんだ濡れ性の関係を表す説明図である。
【図10】本実施例で用いる集合回路基板の例を表す説明図である。
【図11】本実施例と比較例とのそれぞれに係る集合回路基板の絶縁破壊電圧と絶縁破壊時間との関係を表す説明図である。
【図12】本実施例と比較例とのそれぞれに係る集合回路基板のめっき表面のグロー放電発光分析の結果を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施の形態に係る回路基板は図1に例示するように、次のようにして製造される。
【0019】
回路パターンに従って加工した銅合金板(導電部)20を窒化珪素基板10の平面側にろう付けした基板を用意する(S1)。この基板で導電部20は、図2に示すように、窒化珪素基板上に島状に複数配され、導電部20の間には空隙Gが空けられる。また、この導電部20は、図3に側面図を示すように、窒化珪素基板表面よりも凸となっている。
【0020】
なお、この導電部20は窒化珪素基板の平面側に形成し、底面側はその全面に導電部を形成してもよい。IGBTモジュール等の場合、この底面側の導電部は放熱の役割を果たす。
【0021】
次にこの基板の導電部20の表面を清浄化する(S2)。清浄化は例えば有機溶剤による脱脂や、酸性の水溶液を用いた洗浄、またはエッチングなど広く知られた方法で行うことができる。
【0022】
清浄化した基板を、ナイロン製のメッシュケースなど、めっき液が内外に流通するケース内部に配し、ニッケル球30を充填する(図4)。このとき、基板両面の各導電部20に少なくとも一つのニッケル球30が接するよう、メッシュケース40のサイズやニッケル球30の数、サイズ等を調整しておく。なお、ここでニッケル球30は、少なくともその表面がニッケルである球状体であればよい。つまり球の内部までニッケルでできていてもよいし、樹脂製の球表面をニッケルで被覆したものであってもよい。
【0023】
次に、基板をナイロン製のメッシュケース40ごとめっき液内に浸漬する(S3)。このめっき液は、無電解Ni−Pめっき液としては、NiSO4を含む、広く知られたものを用いる。予め定めた時間(第1の時間)だけ経過した後(S4)、めっき液中でナイロン製メッシュケース40から基板を取り出し、ニッケル球をめっき液から取り出す(S5)。つまり、基板はめっき液に浸漬させた状態のまま、ニッケル球30を導電部から引き離す。ここで第1の時間は、予め実験的に、導電部20の表面にめっき成長が開始するに十分な時間として定められたものである。
【0024】
そしてまた予め定めた時間(第2の時間)だけ、基板の導電部20上に無電解めっきを行って(S6)、導電部20表面にNi−Pめっき膜を形成する。こうして窒化珪素基板10上に形成された導電部20を含み、導電部20の表面にNi−Pめっき膜が形成された回路基板が得られる。
【0025】
また本実施の形態では、上記ニッケル球30のサイズを次のようにして定める。すなわちニッケル球30の半径をRとし、導電部間20の最大の距離(最大の空隙の幅)をW1とし、導電部20表面の窒化珪素基板10表面からの距離をtとする(図5)。このとき、ニッケル球30が導電部20表面には接するが、窒化珪素基板10表面に触れないようにするには、ニッケル球30が空隙を挟む一対の導電部20の端部で支えられるときに、ニッケル球30の中心Oから窒化珪素基板10の表面に下ろした垂線の足Fまでの長さOFが、ニッケル球30の半径Rよりも大きいこと、つまり、OF>Rであればよい。
【0026】
ここでニッケル球30が接する導電部20の端部(一方をAとする)を結ぶ線分と、OFとが交わる点をPとすると、OF=OP+tである。また、角OAPをθとするとOPは、R・sinθとなる。よって、t+R・sinθ>R。一方、2R・cosθ=W1なので、sinθ=√(1−cos2θ)=(1/2R)×√(4R2−W12)であり、従って、条件は、(1/2)×√(4R2−W12)>R−tと書き直せる。両辺ともに正の値なので、それぞれ二乗して整理し、(4t2+W12)/8t<Rを得る。
【0027】
すなわち本実施の形態ではニッケル球30の半径Rを、形成された導電部間20の最大距離(最大の空隙の幅)をW1とし、導電部20表面の窒化珪素基板10表面からの距離をtとするとき、(4t2+W12)/8tより大きくする。
【0028】
しかしながらニッケル球30の半径を大きくしすぎると、図6に例示するように、比較的幅の狭い導電部20にニッケル球30が接触しない場合がある。そこで、めっき液に浸漬させている間、ニッケル球30を基板に対して流動させる。これは例えばメッシュケース40ごと揺動させるようにするなど、様々な方法で行うことができる。
【0029】
また、ニッケル球30の半径を(2W1+W2)/2>Rとしておくこととしてもよい。これは図7のように接する場合を考慮して、W2+2R・cosθ>2Rとの条件(及びこの場合のcosθ=W1/R)から導かれる条件である。
【0030】
図8は、以上のようにニッケル球30の球半径を制御し、まためっき成長開始後にめっき液に浸漬させた状態のままでニッケル球30を導電部20から引き離して得た回路基板に対し、その導電部20表面に存在する各分子の存在比を、グロー放電発光分析法(GD-OES: Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy)を利用して測定したものである。このグロー放電発光分析法による測定を行う装置としては、例えば堀場製作所製のGD−Profiler2等がある。
【0031】
図8において、横軸は測定開始からの時間、縦軸は各成分が放出された量を表す。図8には比較のために、従来の方法(ニッケル球の半径をW1,W2に関わりなく定め、ニッケル球を導電部から引き離すときにめっき液から一旦取り出す方法)で製造された回路基板における結果(b)と、本実施の形態の方法で製造された回路基板における結果(a)とを示している。
【0032】
図8(a),(b)を比較すると、従来の方法で製造された回路基板に比べ、本実施の形態の方法で製造された回路基板では、導電部20上に形成されためっき表面のグロー放電発光分析により見いだされる硫黄(S)成分のピークが、ニッケル(Ni)成分のピークよりも小さくなっている。
【0033】
またS成分のピークに対するはんだ濡れ性について実験した結果を図9に示す。図9において横軸はS成分のピークの値、縦軸ははんだ濡れ性を表す。ここではんだ濡れ性とは、例えば導電部(Ni−Pめっきをしたもの)上に面積A0のはんだを載せてリフロー処理したときに、当該リフロー処理後のはんだの面積AのA0に対する比、A/A0を単位パーセントで表したものである。
【0034】
図9に示すように、めっき表面に含まれるS成分の濃度(a.u:規格化単位)とはんだ濡れ性とには相関が見られ、本実施の方法で製造された回路基板では、導電部20上に形成されためっき表面のグロー放電発光分析により見いだされる硫黄(S)成分のピークが、ニッケル(Ni)成分のピークよりも小さくなっているので、はんだ濡れ性を高くすることができる。
【0035】
なお、本実施の形態の方法で製造する基板は、窒化珪素基板上に複数の同じ回路パターン50を繰り返し形成した集合基板であってもよい(図10)。この場合には、各回路パターン50の外周に、ガイド枠60を形成してもよい。このガイド枠は回路パターンと同様に、銅合金板をガイド枠の形状に加工し、窒化珪素基板にろう付けしたものとすればよい。このガイド枠の表面と窒化珪素基板の表面との間の距離は、導電部の表面と窒化珪素基板の表面との間の距離と同じでよい。またこの集合基板において、回路パターンに含まれる導電部間の最大距離よりも、回路パターンに含まれる導電部とガイド枠との間の距離が大きい部分があるときには、当該回路パターンに含まれる導電部とガイド枠との間の最大距離をW1として、上述の方法でニッケル球の半径Rを定める。
【0036】
本実施の形態の方法では、ニッケル球をめっき液から取り出すことでめっき液の寿命低下を抑制しつつ、はんだ濡れ性を向上でき、また、ニッケル球が窒化珪素基板に接触しないようにしたので、窒化珪素基板表面へのめっき付着を防止できる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明に係る実施例について説明する。
【0038】
ここでは図10に示した集合回路基板を処理の対象とした例について述べる。図10の集合回路基板は、窒化珪素基板上に、銅合金板を回路パターンに従って加工した導電部50が4×11のマトリクス状に繰り返し配されている。また、これら複数の導電部50の外周には、ガイド枠60を銅合金板で形成している。ここでは、これら導電部50及びガイド枠60が導電部となっている。図10の基板では、導電部の間にある間隙のうち最大の間隙は、基板の左半分と右半分との間にある間隙(長さW0)である。さらに導電部はいずれも、その表面と窒化珪素基板の表面との距離がt=0.5mmとなっている。
【0039】
この基板の導電部の表面は清浄化しておき、(4t2+W02)/8t<R<(2W0+W2)/2の条件を満足するRの半径を有するニッケル球を用意した。ここでW2は、めっきを要する導電部の幅のうち、もっとも狭い幅(図10の導電部50の上下方向の幅w)としている。
【0040】
清浄化した基板を、ナイロン製のメッシュケースに収納し、用意した半径Rのニッケル球を充填した。そしてメッシュケースごと、基板をめっき液内に浸漬し、予め実験的に、導電部の表面にめっき成長が開始するに十分な時間として定められた第1の時間だけ待機した。この第1の時間が経過した後、めっき液中でメッシュケースから基板を取り出し、ニッケル球を導電部から引き離した。さらにニッケル球はめっき液から取り出した。
【0041】
そしてさらに30分間、無電解めっきを行い、導電部の表面にNi−Pめっき膜を形成した回路基板(実施例)を得た。
【0042】
また比較のため、図10に示した同じ導電部を有する基板を作成し、この基板の導電部の表面を清浄化した後、ナイロン製のメッシュケースに収納し、用意した半径Rのニッケル球を充填した。そしてメッシュケースごと、基板をめっき液内に浸漬し、5秒から10秒の間にめっき液から引き上げ、メッシュケースから基板を取り出して各導電部においてめっき成長が始まっていることを目視で確認した。その後、当該基板を再びめっき液に浸漬し、30分間無電解めっきを行い、導電部の表面にNi−Pめっき膜を形成した回路基板(比較例)を得た。
【0043】
これら実施例と比較例とのそれぞれの導電部表面に存在する各分子の存在比を、堀場製作所製のGD−Profiler2を用い、グロー放電発光分析法(GD-OES: Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy)により測定した。実験の条件としては、アルゴン(Ar)ガス圧力が500Pa、RF出力を35W、アノード径が4mm、1.7μm毎秒の速度でノーマルスパッタを行った。また蛍光X線分析により、導電部表面に存在するリン(P)成分の濃度(%)を併せて測定した。
【0044】
さらに、実施例と比較例とにおける導電部上でのはんだ濡れ性と、絶縁耐圧とを測定した。ここで絶縁耐圧は次のようにして得たデータである。すなわち8から10kVの間の互いに異なる電圧V1,V2…Vnを、回路基板の表裏間に印加し、絶縁破壊が生じるまでの時間を測定した。この結果を図11に示す。なお、この際に島状に存在する各導電部は互いに短絡させておいた。
【0045】
図11において縦軸(y軸)は、絶縁破壊が生じた印加電圧(kV)、横軸(x軸)は絶縁破壊が生じるまでの時間(時間)である。この測定の結果から比較例の回路基板について、
y=6.7x-0.06
との相関関数を得た。また実施例の回路基板について、
y=8.8x-0.03
との相関関数を得た。
【0046】
これらの相関関数から、15年経過時点での絶縁耐圧を外挿して予測した値を次の表1、2に示す。それぞれ表1が実施例に関する実験の結果であり、表2が比較例に関する実験の結果である。
【表1】
【表2】
【0047】
表1に示す実施例1から実施例24は、いずれもガイド枠を形成した集合基板を、ボール径Rが(4t2+W12)/8t<Rの条件を満足したニッケル球を用い、まためっき液から引き出すことなく、ニッケル球を導電部から引き離した(引き出しなし)ものである。この表に示す通り、測定される硫黄(S)成分は、比較的低く、またリン(P)濃度も7乃至8.5%の間に安定している。はんだ濡れ性は97%以上であり、15年経過時点(約130000時間)での絶縁耐圧の予測値は6.0kV以上となっている。つまり、実施例に係る回路基板では、一定電圧6.6kVを印加し続けたときの絶縁破壊時間hは、130000時間以上である。
【0048】
一方、表2に示す比較例1、2は、ガイド枠を形成しなかったものである。また、比較例3,4は、めっき液から引き出した状態で、ニッケル球を導電部から引き離した(引き出し有り)ものである。その他の比較例5から11は、ボール径(R)が、(4t2+W12)/8t<Rの条件を満足していない。なお、表2では、(4t2+W12)/8tを、最小ボール径として表示した。
【0049】
この結果、表2に示す比較例では、比較例3,4を除いて15年経過時点での絶縁耐圧の予測値が4.0kV未満となっている。また、比較例3,4では、15年経過時点での絶縁耐圧の予測値は6.0kV以上となっているが、めっき表面の硫黄(S)成分やリン(P)濃度が比較的高く、はんだ濡れ性が75%未満に低下している。
【0050】
図12は、比較例と実施例とのそれぞれに係る回路基板について、導電部表面の成分をグロー放電発光分析法により測定した例を表したものである。双方でニッケル(Ni)成分のピークは約3a.u.で変わらないが、硫黄(S)成分のピークは比較例で5.0a.u.、実施例で2.5a.u.と異なっている。
【符号の説明】
【0051】
10 窒化珪素基板、20,50 導電部 30 ニッケル球、40 メッシュケース、60 ガイド枠。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素基板上に形成された導電部を含んだ回路基板であって、
前記導電部の表面はNiSO4を含むめっき液を用いてめっきされており、当該めっき表面のグロー放電発光分析により見いだされるS成分のピークが、Ni成分のピークよりも小さいことを特徴とする回路基板。
【請求項2】
窒化珪素基板上に島状に凸となった導電部を形成する工程と、
少なくともその表面がNiである球状体を前記導電部に接触させた状態で、めっき液に浸漬する工程と、
めっき液に浸漬させた状態で、前記球状体を導電部から引き離す工程と、
を含み、
前記球状体の半径Rを、前記導電部間の最大距離W1と、導電部表面の窒化珪素基板表面からの距離tとに基づき、
(4t2+W12)/8t<R
で定められる半径としたことを特徴とする回路基板の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の製造方法であって、
球状体を前記導電部に接触させた状態で前記めっき液に浸漬する工程の持続時間を、めっき成長が開始するまでの時間として予め定めた時間とすることを特徴とする回路基板の製造方法。
【請求項4】
島状に凸となった導電部を含む複数の回路パターンを、窒化珪素基板上に繰り返し形成する工程と、
少なくともその表面がNiである球状体を前記導電部の各々に接触させた状態で、めっき液に浸漬する工程と、
めっき液に浸漬させた状態で、前記球状体を前記導電部から引き離す工程と、
を含み、
前記球状体の半径Rを、前記導電部間の最大距離W1と、導電部表面の窒化珪素基板表面からの距離tとに基づき、
(4t2+W12)/8t<R
で定められる半径としたことを特徴とする集合回路基板の製造方法。
【請求項5】
一定電圧6.6kVを印加し続けたときの絶縁破壊時間hが、130000時間以上であることを特徴とする回路基板。
【請求項1】
窒化珪素基板上に形成された導電部を含んだ回路基板であって、
前記導電部の表面はNiSO4を含むめっき液を用いてめっきされており、当該めっき表面のグロー放電発光分析により見いだされるS成分のピークが、Ni成分のピークよりも小さいことを特徴とする回路基板。
【請求項2】
窒化珪素基板上に島状に凸となった導電部を形成する工程と、
少なくともその表面がNiである球状体を前記導電部に接触させた状態で、めっき液に浸漬する工程と、
めっき液に浸漬させた状態で、前記球状体を導電部から引き離す工程と、
を含み、
前記球状体の半径Rを、前記導電部間の最大距離W1と、導電部表面の窒化珪素基板表面からの距離tとに基づき、
(4t2+W12)/8t<R
で定められる半径としたことを特徴とする回路基板の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の製造方法であって、
球状体を前記導電部に接触させた状態で前記めっき液に浸漬する工程の持続時間を、めっき成長が開始するまでの時間として予め定めた時間とすることを特徴とする回路基板の製造方法。
【請求項4】
島状に凸となった導電部を含む複数の回路パターンを、窒化珪素基板上に繰り返し形成する工程と、
少なくともその表面がNiである球状体を前記導電部の各々に接触させた状態で、めっき液に浸漬する工程と、
めっき液に浸漬させた状態で、前記球状体を前記導電部から引き離す工程と、
を含み、
前記球状体の半径Rを、前記導電部間の最大距離W1と、導電部表面の窒化珪素基板表面からの距離tとに基づき、
(4t2+W12)/8t<R
で定められる半径としたことを特徴とする集合回路基板の製造方法。
【請求項5】
一定電圧6.6kVを印加し続けたときの絶縁破壊時間hが、130000時間以上であることを特徴とする回路基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−238949(P2010−238949A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85872(P2009−85872)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
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