説明

回路基板

【課題】同期型の高速パルス信号を1本の伝送路を介して送受信する高速信号伝送システムにおいて、伝送路の途中に存在するインピーダンス不連続部に起因する信号波形品質の低下を抑制する。
【解決手段】送信側半導体装置112を搭載した送信側基板11と受信側半導体装置122を搭載した受信側基板12との間で1本の伝送路13を介して同期型の高速パルス信号を送受信する信号伝送システムにおいて、送信側基板11は、コネクタ113が搭載されており、かつ、送信側半導体装置112からコネクタ113までの伝送路にPCB配線114が形成されている。このPCB配線の配線長は、PCB配線上を伝搬する信号の往復伝送時間がパルス信号の切替周期の1/4または1/4+n/2(nは正の整数)の長さになるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板に係り、特に半導体装置および伝送路接続用コネクタを搭載した回路基板に関するもので、例えばパーソナルコンピュータと周辺装置との間で1本のUSBケーブルを介して同期型のパルス信号を送受信する信号伝送システムに使用されるものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、送信側半導体装置を搭載した送信側基板と受信側半導体装置を搭載した受信側基板との間で有線伝送路を介して信号を送受信する信号伝送システム、あるいは、送受信用半導体装置を搭載した送受信基板相互間で有線伝送路を介して高速信号を送受信する信号伝送システムが用いられている。このような高速信号伝送システムにおいて、伝送路のインピーダンスと終端抵抗のインピーダンスとが異なる場合には入射波に相似な反射波が生じる。
【0003】
伝送路を往復する反射波に起因する信号の時間的揺らぎを抑え、ジッタを低減するために、伝送路にチップ抵抗を接続した高速信号伝送配線実装構造が特許文献1に開示されている。特許文献1の構造では、出力信号波形中の入力波と反射波との合成ポイントが信号波形のエッジ付近になるので、このエッジ付近で信号波形に対してジッタ(jitter)、ディップ(dip) などの影響を及ぼし、信号波形品質の低下をまねく原因となる。
【0004】
ところで、前記したような高速信号伝送システムの1つの類型として、同期型の高速のパルス信号を1本の伝送路を介して送受信するシステムがある。そして、このシステムにおいて、送信側基板上では送信側半導体装置からコネクタまでの伝送路に印刷配線が形成され、受信側基板上ではコネクタから受信側半導体装置までの伝送路に印刷配線が形成された構成のものがある。なお、上記システムにおいて、送信側回路および受信側回路が内蔵された半導体装置を搭載した送受信基板上で半導体装置から送受信用コネクタまでの伝送路に印刷配線が形成され、送信側回路および受信側回路が切替回路によって選択的に前記印刷配線に接続される構成のものがある。
【0005】
これらの伝送路においては、半導体装置パッケージの端子接続部、基板上に実装されるコネクタ(例えばUSB規格のコネクタ)が存在する。一般的に、コネクタは、インピーダンス制御ができるものを入手することが難しいので、伝送路上に実装するコネクタや半導体装置パッケージの端子接続部などはインピーダンス不連続部となることが多い。このようなインピーダンス不連続部は、信号の反射を発生させる要因となり、信号波形に対してジッタ、ディップなどの影響を及ぼし、信号波形品質の低下をまねく原因となる。例えば、コネクタは、容量の付加、あるいは削減の効果を有し、コネクタで反射される波形は、入射波を微分した成分を多く含む。これは、前述した特許文献1に記載されている伝送路に反射波が生じる問題とは異なり、特許文献1とは異る対策が必要となる。
【特許文献1】特開2001−111408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記した事情に鑑みてなされたもので、同期型のパルス信号を1本の伝送路を介して送信または受信する場合に、伝送路の途中に存在するインピーダンス不連続部に起因する信号波形品質の低下を抑制し得る回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の回路基板の第1の態様は、パルス信号を送信する送信回路を内蔵した送信側半導体装置を搭載し、前記送信側半導体装置に接続された出力配線および当該出力配線に接続されたコネクタが配設された送信側基板を有し、前記送信側半導体装置から前記コネクタまでの伝送路に印刷配線が形成されており、前記印刷配線の長さは、当該印刷配線上を伝搬する信号の往復伝送時間が前記パルス信号の切替周期の1/4または1/4+n/2(nは正の整数)になるように設定されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の回路基板の第2の態様は、パルス信号を受信する受信回路を内蔵した受信側半導体装置を搭載し、前記受信側半導体装置に接続された入力配線および当該入力配線に接続されたコネクタが配設された受信側基板を有し、前記受信側半導体装置から前記コネクタまでの伝送路に印刷配線が形成されており、前記印刷配線の長さは、当該印刷配線上を伝搬する信号の往復伝送時間が前記パルス信号の切替周期の1/4または1/4+n/2(nは正の整数)になるように設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の回路基板によれば、同期型のパルス信号を1本の伝送路を介して送信または受信する場合に、伝送路の途中に存在するインピーダンス不連続部に起因する信号波形品質の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。この説明に際して、全図にわたり共通する部分には共通する参照符号を付す。
【0011】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の回路基板を適用した信号伝送システムの第1の実施形態の構成を示す回路図である。この信号伝送システムは、送信回路111を内蔵した送信側半導体装置112および第1のコネクタ113を搭載した送信側基板11と、受信回路121を内蔵した受信側半導体装置122および第2のコネクタ123を搭載した受信側基板12との間で、1本の伝送路(例えばケーブル)13を介して同期型の高速パルス信号を送受信する。ここで、高速パルス信号の切替周期は、例えば2nS程度である。
【0012】
そして、送信側基板11には、送信側半導体装置112から第1のコネクタ113までの伝送路に印刷配線(PRINTED CIRCUIT BOAD配線、以下、PCB配線と記す)114が形成されている。そして、このPCB配線114の配線長は、このPCB配線114を伝搬する信号の往復伝送時間が前記パルス信号の切替周期の1/4または1/4+n/2(nは正の整数)となるように設定されている
また、受信側基板12には、受信側半導体装置122から第2のコネクタ123までの伝送路にPCB配線124が形成されている。そして、このPCB配線124の配線長は、このPCB配線124を伝搬する信号の往復伝送時間が前記パルス信号の切替周期の1/4または1/4+1/2の整数倍となるように設定されている。
【0013】
次に、送信側基板11のPCB配線114および受信側基板12のPCB配線124について、信号波形品質の低下防止の観点から最適な配線長を求める。
【0014】
図2は、図1中の送信側基板11においてPCB配線長と伝送信号に生じるジッタ量との関係を実測した際の波形測定回路を概略的に示している。ここで、115は送信側半導体装置112内の配線部(パッケージのリード部分を含む)、21は伝送路13の終端回路、22および23はジッタ測定機能付きのデジタルオシロスコープおよびその測定入力プローブである。
【0015】
いま、切替周期が2.083nS の高速パルス信号が1nS 間にPCB配線上を進む距離を140mm とすると、
切替周期の1/2の期間に信号が進む距離は2.083nS/2 ×140mm=145.81mm
切替周期の1/4の期間に信号が進む距離は2.083nS/4 ×140mm=72.905mm
切替周期の(1/4)+(1/2)×1の期間に信号が進む距離は218.72mm
切替周期の(1/4)+(1/2)×2の期間に信号が進む距離は364.53mm
になる。
【0016】
そこで、図1中の送信側基板11および受信側基板12においてPCB配線長をそれぞれ20、30、60、90、130 、200 、300 、450mm に設定し、各基板に同じ半導体装置を実装した場合のそれぞれのジッタ量を実測した。
【0017】
図3に示す実測データによれば、PCB配線上を伝搬する信号の往復伝送時間がパルス信号の切替周期の1/5、1/4、1/2、3/4にそれぞれ対応するようにPCB配線長が設定されている場合に、ジッタ量は約35pS、約20pS、約27pS、約20pSであった。この実測データから、PCB配線上を伝搬する信号の往復伝送時間がパルス信号の切替周期の1/4または1/4+n/2(nは正の整数)の場合にジッタ量が低減する現象を確認することができる。ここで、現実的には、n=0またはn=1が望ましい。その理由は、信号がPCB配線上を進む際に信号の減衰が発生し、信号の減衰量は周波数特性を有することから、PCB配線長が長いと信号減衰量の周波数特性が低下して信号歪みが増大するので、PCB配線長は短い方が好ましいからである。
【0018】
なお、従来例の特許文献1の構成において、仮に伝送路の長さを上記したような高速パルス信号の切替周期の1/4または1/4+n/2(nは正の整数)に設定すると、出力信号波形中の入力波と反射波との合成ポイントが信号波形に対してジッタ、ディップなどの影響を及ぼし、信号波形品質の低下をまねく。
【0019】
図4は、図1の信号伝送システムにおいて、PCB配線上を伝搬する信号の往復伝送時間がパルス信号の切替周期の1/4になるようにPCB配線長が設定された場合に、送信側基板11の出力信号波形中で入力波と反射波との合成ポイントが信号波形の中央付近になる様子を示す。このように、信号波形に対してジッタ、ディップなどの影響を及ぼす程度が軽減され、信号品質の低下を抑制することができる。
【0020】
上記したように本実施形態によれば、送信側基板11において、PCB配線上を伝搬する信号の往復伝送時間が高速パルス信号の切替周期の1/4または1/4+n/2(nは正の整数)になるようにPCB配線長を設定することによって、送信側基板11の伝送路の途中に存在するインピーダンス不連続部でのインピーダンス不整合を軽減することができ、信号波形に与える要因を軽減し、信号波形品質を最良に調整し、信号波形品質の低下を防止することができる。すなわち、コネクタ部での送信波(進行波)と反射波の位相(時間関係)を最良(適切)に調整することができ、結果として、第1のコネクタ113でのインピーダンス不整合を軽減することができる。
【0021】
同様に、受信側基板12において、PCB配線上を伝搬する信号の往復伝送時間が高速パルス信号の切替周期の1/4または1/4+n/2(nは正の整数)になるようにPCB配線長を設定することによって、受信側基板12の伝送路の途中に存在するインピーダンス不連続部でのインピーダンス不整合を軽減することができ、信号波形に与える要因を軽減し、信号波形品質を最良に調整し、信号波形品質の低下を防止することができる。すなわち、受信回路入力ノード部における受信波と反射波の時間関係を適切に調整することができ、結果として、受信回路入力ノード部でのインピーダンス不整合を軽減することができる。
【0022】
なお、本実施例形態においては、PCB配線に直列に結合容量を挿入してもよい。また、送信側半導体装置112は伝送信号用の同期クロック信号の出力端子を有しておらず、送信側基板11も伝送信号用の同期クロック信号の出力端子を有していない。同様に、受信側半導体装置122は伝送信号用の同期クロック信号の入力端子を有しておらず、受信側基板12も伝送信号用の同期クロック信号の入力端子を有していない。
【0023】
また、送信側半導体装置11には、送信回路111の出力側で所定電位ノードとの間にPCB配線114のインピーダンスと整合する終端抵抗(図示せず)が内蔵され、受信側半導体装置12にも、受信回路121の入力ノード側で所定電位ノードとの間にPCB配線124のインピーダンスと整合する終端抵抗(図示せず)が内蔵されることが望ましい。
【0024】
また、送信側基板11や受信側基板12のPCB配線には、従来例の特許文献1のようなチップ抵抗が接続されていないので、チップ抵抗接続部に半田付けランド、半田等のインピーダンス不連続要素が存在するという問題は発生しない。
【0025】
<第1の実施形態の一具体例>
図5は、第1の実施形態の一具体例を示す。送信側基板11は、多層配線構造を有し、送信回路を内蔵した送信側半導体装置(IC)112および第1のUSBコネクタ113aを搭載している。この場合、送信側基板11上には送信側半導体装置112と第1のUSBコネクタ113aとの間を接続する第1のPCB配線114が形成されている。このPCB配線114上を伝搬する信号の往復伝送時間が高速パルス信号の切替周期の1/4または1/4+n/2(nは正の整数)になるように、PCB配線長が設定されている。
【0026】
受信側基板12は、多層配線構造を有し、受信回路を内蔵した受信側半導体装置(IC)122および第2のUSBコネクタ123aを搭載している。この場合、受信側基板12上には受信側半導体装置122と第2のUSBコネクタ123aとの間を接続する第2のPCB配線124が形成されている。このPCB配線124上を伝搬する信号の往復伝送時間が高速パルス信号の切替周期の1/4または1/4+n/2(nは正の整数)になるように、PCB配線長が設定されている。
【0027】
そして、第1のUSBコネクタ113aと第2のUSBコネクタ123aとの間は、両端にUSBコネクタ13aが取り付けられた1本のUSBケーブル13により接続されている。
【0028】
<第2の実施形態>
第2の実施形態では、送受信用の半導体装置および送受信兼用のコネクタを搭載した2つの送受信基板相互間で1本の伝送路を介して同期型の高速パルス信号を送受信する。各半導体装置は、送信回路と、受信回路と、これらの送信回路および受信回路を送受信兼用の外部端子に切替接続するための切替回路を内蔵している。
【0029】
各送受信基板上では、半導体装置からコネクタまでの伝送路にPCB配線が形成され、このPCB配線は切替回路によって送信回路および受信回路に選択的に接続される。このPCB配線の配線長は、このPCB配線上を伝搬する信号の往復伝送時間が高速パルス信号の切替周期の1/4または1/4+n/2(nは正の整数)になるように設定されている。
【0030】
第2の実施形態において、切替回路によってPCB配線が送信回路に接続されている期間には、前述した第1の実施形態と同様に、伝送路の途中に存在するコネクタ部でのインピーダンス不整合を軽減することができ、信号波形に与える要因を軽減し、信号波形品質を最良に調整し、信号波形品質の低下を防止することができる。また、切替回路によってPCB配線が受信回路に接続されている期間には、前述した第1の実施形態と同様に、伝送路の途中に存在する受信回路入力ノード部でのインピーダンス不整合を軽減することができ、信号波形に与える要因を軽減し、信号波形品質を最良に調整し、信号波形品質の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の信号伝送システムの第1の実施形態の構成を示す回路図。
【図2】図1中の送信側基板および受信側基板においてPCB配線長と伝送信号に生じるジッタ量との関係を実測した際の波形測定回路の回路図。
【図3】図1中の送信側基板および受信側基板においてPCB配線長を種々の値に設定し、各基板に同一ICを実装した場合のそれぞれのジッタ量を実測した結果を示す図。
【図4】図1の信号伝送システムにおいて、PCB配線長上を伝搬する信号の往復伝送時間がパルス切替周期の1/4になるように設定された場合に出力信号波形中の入力波と反射波との合成ポイントが信号波形の中央付近になる様子を示すタイミング波形図。
【図5】第1の実施形態の一具体例を示す回路図。
【符号の説明】
【0032】
11…送信側基板、111…送信回路、112…送信側半導体装置、113…第1のコネクタ、114…PCB配線、12…受信側基板、121…受信回路、122…受信側半導体装置、123…第2のコネクタ、124…PCB配線、13…伝送路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス信号を送信する送信回路を内蔵した送信側半導体装置を搭載し、前記送信側半導体装置に接続された出力配線および当該出力配線に接続されたコネクタが配設された送信側基板を有し、
前記送信側半導体装置から前記コネクタまでの伝送路に印刷配線が形成されており、
前記印刷配線の長さは、当該印刷配線上を伝搬する信号の往復伝送時間が前記パルス信号の切替周期の1/4または1/4+n/2(nは正の整数)になるように設定されていることを特徴とする回路基板。
【請求項2】
前記送信側半導体装置および前記送信側基板は、それぞれ伝送信号用の同期クロック信号の出力端子を有さず、前記送信側半導体装置には、前記送信回路の出力ノード側で所定電位ノードとの間に前記印刷配線のインピーダンスと整合する終端抵抗が内蔵されていることを特徴とする請求項1記載の回路基板。
【請求項3】
パルス信号を受信する受信回路を内蔵した受信側半導体装置を搭載し、前記受信側半導体装置に接続された入力配線および当該入力配線に接続されたコネクタが配設された受信側基板を有し、
前記受信側半導体装置から前記コネクタまでの伝送路に印刷配線が形成されており、
前記印刷配線の長さは、当該印刷配線上を伝搬する信号の往復伝送時間が前記パルス信号の切替周期の1/4または1/4+n/2(nは正の整数)になるように設定されていることを特徴とする回路基板。
【請求項4】
前記受信側半導体装置および前記受信側基板は、それぞれ伝送信号用の同期クロック信号の入力端子を有さず、前記受信側半導体装置には、前記受信回路の入力ノード側で所定電位ノードとの間に前記印刷配線のインピーダンスと整合する終端抵抗が内蔵されていることを特徴とする請求項3記載の回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−252374(P2008−252374A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89531(P2007−89531)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】