説明

回転ダンパー

【課題】温度変化に対する、シール材に起因したトルク変動を小さくすることができ、寒冷地でも不具合なく使用することのできる回転ダンパーを提供する。
【解決手段】ハウジング11と、このハウジング11内に充填されたシリコンオイル21と、ハウジング11から一部が突出する回転軸32、および、この回転軸32の下端部に連設されてハウジング11内に回転可能に収納されたローター制動板35を有するローター31と、ハウジング11と回転軸32との間に配設され、シリコンオイル21がハウジング11の外へ漏れるのを防止するOリング41とからなる回転ダンパーDにおいて、Oリング41を、シリコンオイル21に対して非膨潤性を有したエチレンプロピレンジエンゴムで形成し、Oリング41に起因したトルク変動を小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、歯車やラックと噛み合う被駆動歯車の回転を制動する回転ダンパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記した回転ダンパーは、ハウジングと、このハウジング内に充填された粘性流体と、ハウジングから一部が突出する回転軸、および、この回転軸の下端部に連設されてハウジング内に回転可能に収納されたローター制動板を有するローターと、ハウジングと回転軸との間に配設され、粘性流体がハウジングの外へ漏れるのを防止するシール材とで構成されている。そして、ハウジングから突出した回転軸の部分に、被駆動歯車が一体で回転するように取り付けられる。
【0003】
この回転ダンパーにおいて、粘性流体として使用するシリコンオイルは、温度変化による粘度(粘性)変化が小さく、ローター制動板に制動トルクを与える材料として優れている。しかし、シリコンゴムなどで形成したシール材、例えば、Oリングを使用すると、シリコンオイルがシール材に浸透してシール材が膨潤することにより、ハウジングと回転軸との間に摩擦抵抗が発生して制動トルクに影響を与える。そこで、シール材を自己潤滑性シリコンゴムで形成することにより、寸法の変化を小さくしてハウジングと回転軸との間の摩擦抵抗に起因する制動トルクへの影響を排除している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2808118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、自己潤滑性シリコンゴムでシール材を形成しても、シール材にシリコンオイルが浸透しており、ハウジングおよび回転軸とシール材とが接触するため、回転軸が回転するときにシール材に浸透しているシリコンオイルによる抵抗が発生し、特に、低温時に制動トルクに大きな影響、例えば、制動トルクが大きくなって回転軸が回転しなくなる場合がある。
【0006】
この発明は、上記したような不都合を解消するためになされたもので、温度変化に対する、シール材に起因したトルク変動を小さくすることができ、寒冷地でも不具合なく使用することのできる回転ダンパーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、ハウジングと、このハウジング内に充填された粘性流体と、ハウジングから一部が突出する回転軸、および、この回転軸の下端部に連設されてハウジング内に回転可能に収納されたローター制動板を有するローターと、ハウジングと回転軸との間に配設され、粘性流体がハウジングの外へ漏れるのを防止するシール材とからなる回転ダンパーにおいて、シール材が粘性流体に対して非膨潤性を有する材料で形成され、シール材に起因したトルク変動が減じられたものである。そして、粘性流体をシリコンオイルとし、シール材を、エチレンプロピレンゴム、イソブチレンイソプレンゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムのうちの1つで形成したり、または、粘性流体をシリコンオイルとし、シール材をエチレンプロピレンジエンゴムで形成したり、さらに、シール材の表面になし地仕上げを施すのが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、粘性流体に対して非膨潤性を有する材料でシール材を形成したので、温度変化に対する、シール材に起因したトルク変動を小さくすることができ、寒冷地でも不具合なく使用することのできる回転ダンパーとすることができる。また、粘性流体に対して非膨潤性を有した材料でシール材を形成するとともに、シール材の表面になし地仕上げを施したので、温度変化に対する、シール材に起因したトルク変動を小さくすることができ、寒冷地でも不具合なく使用することのできる回転ダンパーとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の一実施形態である回転ダンパーの平面図である。
【図2】図1のA−A線による断面図である。
【図3】この発明の回転ダンパーと従来の回転ダンパーとを23℃および−30℃で使用したときのトルク特性図である。
【図4】この発明の回転ダンパーと従来の回転ダンパーとの、23℃で使用したときのトルクに対する−30℃で使用したときのトルクの変化率を示すトルク変化率特性図である。
【図5】この発明の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に磨きをかけ、潰し量を10%、15%、20%とした場合と、この発明の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%、15%、20%とした場合との23℃で使用したときの、Oリングのみのトルク特性図である。
【図6】この発明の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に磨きをかけ、潰し量を10%、15%、20%とした場合と、この発明の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%、15%、20%とした場合との−30℃で使用したときの、Oリングのみのトルク特性図である。
【図7】図5に示したOリングの潰し量を10%、15%、20%としたときのトルクに対する図6に示したOリングの潰し量を10%、15%、20%としたときのトルクの変化率を示すトルク変化率特性図である。
【図8】従来の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に磨きをかけ、潰し量を10%、15%、20%とした場合と、従来の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%、15%、20%とした場合との23℃で使用したときの、Oリングのみのトルク特性図である。
【図9】従来の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に磨きをかけ、潰し量を10%、15%、20%とした場合と、従来の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%、15%、20%とした場合との−30℃で使用したときの、Oリングのみのトルク特性図である。
【図10】図8に示したOリングの潰し量を10%、15%、20%としたときのトルクに対する図9に示したOリングの潰し量を10%、15%、20%としたときのトルクの変化率を示すトルク変化率特性図である。
【図11】この発明の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に磨きをかけ、潰し量を10%、15%、20%としたときのトルクに対するこの発明の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に粒度#400または#240の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%、15%、20%としたときの、Oリングのみのトルクの変化率を示すトルク変化率特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施形態を図に基づいて説明する。図1はこの発明の一実施形態である回転ダンパーの平面図、図2は図1のA−A線による断面図である。
これらの図において、回転ダンパーDは、ハウジング11と、このハウジング11内に充填された粘性流体としてのシリコンオイル21と、ハウジング11から一部が突出する回転軸32、および、この回転軸32の下端部に連設されてハウジング11内に回転可能に収納されたローター制動板35を有するローター31と、ハウジング11と回転軸32との間に配設され、シリコンオイル21がハウジング11の外へ漏れるのを防止するシール材としてのOリング41と、ハウジング11から突出した回転軸32の部分に取り付けられた被駆動歯車51とで構成されている。
【0011】
上記したハウジング11は、合成樹脂で成形されたハウジング本体12と、合成樹脂で成形されたキャップ16とで構成されている。そして、ハウジング本体12は、底を有する円筒部13と、この円筒部13の中心に連設され、円筒部13よりも上側へ突出する平断面円形の支持軸14と、円筒部13の対向する外側位置に半径方向外側へ延びるように連設された取付片15A,15Bとで構成されている。なお、取付片15Aには取付孔15aが設けられ、取付片15Bには取付凹部15bが設けられている。また、キャップ16は、回転軸32が貫通する円形の貫通孔17aが中心に設けられ、この貫通孔17aの下端部に連なる、貫通孔17aと同心で貫通孔17aよりも太径の段状をしたOリング収容部17bが設けられた円形の天板17と、この天板17の周縁に周回して連設され、円筒部13が内側に嵌合する周壁18とで構成されている。
【0012】
上記したローター31は、合成樹脂で成形され、ハウジング11から一部が突出する回転軸32と、この回転軸32の下端部に連設されてハウジング11内に回転可能に収納されるローター制動板35とで構成されている。そして、回転軸32は、支持軸14が下側から回転可能に挿入される円筒状の凹部からなる軸受け部33aを有する太径軸部33と、この太径軸部33の上側に同心で連なり、被駆動歯車51が一体で回転するように取り付けられる取付軸部34とで構成されている。なお、取付軸部34は、被駆動歯車51を一体で回転させるため、Iカット状に成形され、平行する面の下方部分に係止凹部34aがそれぞれ設けられている。そして、ローター制動板35は、太径軸部33の下端外周に、太径軸部33と同心の円板状に設けられている。
【0013】
上記したシール材としてのOリング41は、シリコンオイル21に対して非膨潤性を有する材料、例えば、エチレンプロピレンゴムの範疇に含まれるエチレンプロピレンジエンゴムで形成されている。また、被駆動歯車51には、係止凹部34aに対応した係合部53を内周面に有した取付孔52が設けられている。
【0014】
次に、回転ダンパーの組立の一例について説明する。まず、円筒部13の開放側を上側にした状態でハウジング本体12を、例えば、作業台の上に設置した後、回転軸32を構成する太径軸部33の軸受け部33a内へ支持軸14を挿入してローター制動板35を円筒部13内へ回転可能に収容させる。次に、円筒部13内に適量のシリコンオイル21を注入(充填)する。
【0015】
そして、天板17のOリング収容部17b内にOリング41を装着した後、周壁18を下側にしてOリング41内に取付軸部34側から太径軸部33を圧入し、取付軸部34を、貫通孔17aを貫通させて天板17から突出させるとともに、周壁18の内側に円筒部13を嵌合させる。このようにしてキャップ16をハウジング本体12に取り付けることにより、Oリング41は、天板17と太径軸部33とで押され、変形することによってハウジング11(キャップ16)とローター31との間を封止し、ハウジング11とローター31との間からシリコンオイル21がハウジング11の外へ漏れるのを防止する。
【0016】
次に、周壁18を円筒部13に対して、例えば、超音波溶着で周回して溶着させることにより、円筒部13と周壁18との間からシリコンオイル21がハウジング11の外へ漏れるのを防止するとともに、キャップ16をハウジング本体12に取付、固定する。そして、係合部53側を下側にするとともに、係合部53を係止凹部34aに対応させて取付軸部34を取付孔52内へ圧入すると、係止凹部34aに係合部53が係合することにより、被駆動歯車51が回転軸32から抜けなくなるとともに、回転軸32と一体で回転するようになる。
【0017】
このようにして組み立てた回転ダンパーDは、取付片15A,15Bの取付孔15aおよび取付凹部15bを利用することにより、所望の位置に取り付けることができるとともに、被駆動歯車51で制動をかける歯車、ラックなどに噛み合わせることができる。
【0018】
次に、動作について説明する。まず、図1および図2のように組み立てられて取り付けられた回転ダンパーDの被駆動歯車51に、回転させようとする力が作用すると、シリコンオイル21が充填されたハウジング11内でローター制動板35が回転することになる。そして、ローター制動板35がシリコンオイル21内で回転すると、ローター制動板35にシリコンオイル21の粘性抵抗およびせん断抵抗が作用することにより、被駆動歯車51の回転を制動する。したがって、回転ダンパーDは、被駆動歯車51が噛み合う歯車、ラックなどの回転または移動を制動してその回転または移動をゆっくりとさせる。
【0019】
図3はこの発明の回転ダンパーと従来の回転ダンパーとを23℃および−30℃で使用したときのトルク特性図である。なお、図3の、縦軸はトルク(mN・m)で、横軸は回転数(rmp)である。ここで、この発明の回転ダンパーとは、エチレンプロピレンジエンゴムで形成したOリングをシール部材として使用したものであり(図4においても同じである。)、また、従来の回転ダンパーとは、自己潤滑性シリコンゴムで形成したOリングをシール部材として使用したものである(図4においても同じである。)。そして、Oリングを除いた部分は、この発明の回転ダンパーも、従来の回転ダンパーも同じである(以下の説明においても同じである。)。
【0020】
図3において、N31はこの発明の回転ダンパーを23℃で使用したときのトルク特性曲線、N32はこの発明の回転ダンパーを−30℃で使用したときのトルク特性曲線である。O31は従来の回転ダンパーを23℃で使用したときのトルク特性曲線、O32は従来の回転ダンパーを−30℃で使用したときのトルク特性曲線である。
【0021】
図4はこの発明の回転ダンパーと従来の回転ダンパーとの、23℃で使用したときのトルクに対する−30℃で使用したときのトルクの変化率を示すトルク変化率特性図である。なお、図4の、縦軸はトルク変化率(%)で、横軸は回転数(rmp)である。
【0022】
図4において、N41はこの発明の回転ダンパーの、23℃で使用したときのトルクに対する−30℃で使用したときのトルクの変化率を示すトルク変化率特性曲線、O41は従来の回転ダンパーの、23℃で使用したときのトルクに対する−30℃で使用したときのトルクの変化率を示すトルク変化率特性曲線である。
【0023】
図3のトルク特性曲線N31,O31に対する図3のトルク特性曲線N32,O32のトルク変化率は、図4のトルク変化率特性曲線N41,O41となり、この発明の回転ダンパーの方が従来の回転ダンパーよりもトルク変化率が少ないことがわかる。
【0024】
上述したように、この発明の一実施形態によれば、シリコンオイルに対して非膨潤性を有するエチレンプロピレンジエンゴムでOリングを形成したので、温度変化に対する、Oリングに起因したトルク変動を小さくすることができ、寒冷地でも不具合なく使用することのできる回転ダンパーとすることができる。
【0025】
図5はこの発明の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に磨きをかけ、潰し量を10%、15%、20%とした場合と、この発明の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%、15%、20%とした場合との23℃で使用したときの、Oリングのみのトルク特性図である。なお、図5の、縦軸はトルク(mN・m)で、横軸は回転数(rmp)である。
【0026】
図5において、N51はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を10%として23℃で使用したときのトルク特性曲線、N52はOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてのなし地仕上げを施し、潰し量を10%として23℃で使用したときのトルク特性曲線、N53はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を15%として23℃で使用したときのトルク特性曲線、N54はOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を15%として23℃で使用したときのトルク特性曲線、N55はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を20%として23℃で使用したときの温度特性曲線、N56はOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を20%として23℃で使用したときの温度特性曲線である。
【0027】
図6はこの発明の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に磨きをかけ、潰し量を10%、15%、20%とした場合と、この発明の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%、15%、20%とした場合との−30℃で使用したときの、Oリングのみのトルク特性図である。
なお、図6の、縦軸はトルク(mN・m)で、横軸は回転数(rmp)である。
【0028】
図6において、N61はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を10%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線、N62はOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線、N63はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を15%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線、N64はOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を15%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線、N65はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を20%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線、N66はOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を20%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線である。
【0029】
図7は図5に示したOリングの潰し量を10%、15%、20%としたときのトルクに対する図6に示したOリングの潰し量を10%、15%、20%としたときのトルクの変化率を示すトルク変化率特性図である。なお、図7の、縦軸はトルク変化率(%)で、横軸は回転数(rmp)である。
【0030】
図7において、N71は図5に示したOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を10%として23℃で使用したときのトルク特性曲線N51に対する図6に示したOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を10%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線N61の変化率を示すトルク変化率特性曲線、N72は図5に示したOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%として23℃で使用したときのトルク特性曲線N52に対する図6に示したOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線N62の変化率を示すトルク変化率特性曲線、N73は図5に示したOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を15%として23℃で使用したときのトルク特性曲線N53に対する図6に示したOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を15%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線N63の変化率を示すトルク変化率特性曲線、N74は図5に示したOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を15%として23℃で使用したときのトルク特性曲線N54に対する図6に示したOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を15%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線N64の変化率を示すトルク変化率特性曲線、N75は図5に示したOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を20%として23℃で使用したときのトルク特性曲線N55に対する図6に示したOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を20%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線N65の変化率を示すトルク変化率特性曲線、N76は図5に示したOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を20%として23℃で使用したときのトルク特性曲線N56に対する図6に示したOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を20%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線N66の変化率を示すトルク変化率特性曲線である。
【0031】
図5および図6のトルク特性曲線N51〜N56,N61〜N66から分かるように、この発明の回転ダンパーにおけるOリングの潰し量が少ない場合、トルクは小さく、Oリングの表面に磨きをかけても、Oリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施してもトルクはほぼ同じである。しかし、Oリングの潰し量が大きい場合、トルクは大きく、Oリングの表面に磨きをかけたトルクよりも、Oリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施した方のトルクが小さくなっている。また、図7のトルク変化率特性曲線N71〜N76から分かるように、トルク変化率は、回転数が少ない場合、Oリングの潰し量が大きい程大きく、Oリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施した方の小さくなっている。したがって、この発明の回転ダンパーにおけるOリングの表面になし地仕上げを施すことにより、トルク変化率が少なくなることがわかる。
【0032】
図8は従来の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に磨きをかけ、潰し量を10%、15%、20%とした場合と、従来の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%、15%、20%とした場合との23℃で使用したときの、Oリングのみのトルク特性図である。なお、図8の、縦軸はトルク(mN・m)で、横軸は回転数(rmp)である。
【0033】
図8において、O81はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を10%として23℃で使用したときのトルク特性曲線、O82はOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%として23℃で使用したときのトルク特性曲線、O83はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を15%として23℃で使用したときのトルク特性曲線、O84はOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を15%として23℃で使用したときのトルク特性曲線、O85はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を20%として23℃で使用したときの温度特性曲線、O86はOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を20%として23℃で使用したときの温度特性曲線である。
【0034】
図9は従来の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に磨きをかけ、潰し量を10%、15%、20%とした場合と、従来の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%、15%、20%とした場合との−30℃で使用したときの、Oリングのみのトルク特性図である。なお、図9の、縦軸はトルク(mN・m)で、横軸は回転数(rmp)である。
【0035】
図9において、O91はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を10%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線、O92はOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線、O93はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を15%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線、O94はOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を15%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線、O95はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を20%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線、O96はOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を20%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線である。
【0036】
図10は図8に示したOリングの潰し量を10%、15%、20%としたときのトルクに対する図9に示したOリングの潰し量を10%、15%、20%としたときのトルクの変化率を示すトルク変化率特性図である。なお、図10の、縦軸はトルク変化率(%)で、横軸は回転数(rmp)である。
【0037】
図10において、O101は図8に示したOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を10%として23℃で使用したときのトルク特性曲線O81に対する図9に示したOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を10%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線O91の変化率を示すトルク変化率特性曲線、O102は図8に示したOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%として23℃で使用したときのトルク特性曲線O82に対する図9に示したOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線O92の変化率を示すトルク変化率特性曲線、O103 は図8に示したOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を15%として23℃で使用したときのトルク特性曲線O83に対する図9に示したOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を15%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線O93の変化率を示すトルク変化率特性曲線、O104は図8に示したOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を15%として23℃で使用したときのトルク特性曲線O84に対する図9に示したOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を15%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線O94の変化率を示すトルク変化率特性曲線、O105は図8に示したOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を20%として23℃で使用したときのトルク特性曲線O85に対する図9に示したOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を20%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線O95の変化率を示すトルク変化率特性曲線、O106 は図8に示したOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を20%として23℃で使用したときのトルク特性曲線O86に対する図9に示したOリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を20%として−30℃で使用したときのトルク特性曲線O96の変化率を示すトルク変化率特性曲線である。
【0038】
図8および図9のトルク特性曲線O81〜O86,O91〜O96から分かるように、従来の回転ダンパーにおいて、Oリングの表面に磨きをかけた場合よりも、Oリングの表面に粒度#320の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施した場合の方が、トルクは小さくなっている。
しかし、図10のトルク変化率特性曲線O101〜O106から分かるように、トルク変化率は、全体的に回転数が大きくなれば改善されるものの、図7の対応するトルク変化率特性曲線N71〜N76よりも改善されているものを見出すことができない。
【0039】
上述したように、この発明の他の実施形態によれば、シリコンオイルに対して非膨潤性を有したエチレンプロピレンジエンゴムでOリングを形成するとともに、Oリングの表面になし地仕上げを施したので、温度変化に対する、Oリングに起因したトルク変動を小さくすることができ、寒冷地でも不具合なく使用することのできる回転ダンパーとすることができる。
【0040】
図11はこの発明の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に磨きをかけ、潰し量を10%、15%、20%としたときのトルクに対するこの発明の回転ダンパーにおけるOリングとして表面に粒度#400または#240の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%、15%、20%としたときの、Oリングのみのトルクの変化率を示すトルク変化率特性図である。なお、図11の、縦軸はトルク変化率(%)で、横軸は回転数(rmp)である。
【0041】
図11において、N111はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を10%として23℃で使用したときのトルク特性曲線に対するOリングの表面に粒度#400の粒径の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%として−30℃で使用したときトルク特性曲線の変化率を示すトルク変化率特性曲線、N112はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を10%として23℃で使用したときのトルク特性曲線に対するOリングの表面に粒度#240の粒径の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を10%として−30℃で使用したときトルク特性曲線の変化率を示すトルク変化率特性曲線、N113はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を15%として23℃で使用したときのトルク特性曲線に対するOリングの表面に粒度#400の粒径の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を15%として−30℃で使用したときトルク特性曲線の変化率を示すトルク変化率特性曲線、N114はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を15%として23℃で使用したときのトルク特性曲線に対するOリングの表面に粒度#240の粒径の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を15%として−30℃で使用したときトルク特性曲線の変化率を示すトルク変化率特性曲線、N115はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を20%として23℃で使用したときのトルク特性曲線に対するOリングの表面に粒度#400の粒径の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を20%として−30℃で使用したときトルク特性曲線の変化率を示すトルク変化率特性曲線、N116はOリングの表面に磨きをかけ、潰し量を20%として23℃で使用したときのトルク特性曲線に対するOリングの表面に粒度#240の粒径の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施し、潰し量を20%として−30℃で使用したときトルク特性曲線の変化率を示すトルク変化率特性曲線である。
【0042】
この図11と図10とを比較することで分かるように、粒度#400または#240の研磨材をOリングの表面に吹き付けてなし地仕上げを施しても、粒度#320の研磨材をOリングの表面に吹き付けてなし地仕上げを施した場合と同様な効果を得ることができる。
【0043】
上記した実施形態では、粘性流体をシリコンオイル、シール材をOリングとし、シリコンオイルに対して非膨潤性を有したエチレンプロピレンジエンゴムでOリングを形成した例を示したが、同様な性質を有する、エチレンプロピレンジエンゴム以外のエチレンプロピレンゴム、イソブチレンイソプレンゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムのいずれかでシール材を形成しても、同様な効果を得ることができた。また、シール材の表面に、粒度#400、#320または#240の研磨材を吹き付けてなし地仕上げを施す例を示したが、粘性流体がハウジング(キャップ)と回転軸との間からハウジングの外へ漏れるのを防止できれば、他の粒度の研磨材でなし地仕上げを施しても、同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0044】
D 回転ダンパー
11 ハウジング
12 ハウジング本体
13 円筒部
14 支持軸
15A 取付片
15a 取付孔
15B 取付片
15b 取付凹部
16 キャップ
17 天板
17a 貫通孔
17b Oリング収容部
18 周壁
21 シリコンオイル(粘性流体)
31 ローター
32 回転軸
33 太径軸部
33a 軸受け部
34 取付軸部
34a 係止凹部
35 ローター制動板
41 Oリング(シール材)
51 被駆動歯車
52 被取付孔
53 係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、このハウジング内に充填された粘性流体と、前記ハウジングから一部が突出する回転軸、および、この回転軸の下端部に連設されて前記ハウジング内に回転可能に収納されたローター制動板を有するローターと、前記ハウジングと前記回転軸との間に配設され、前記粘性流体が前記ハウジングの外へ漏れるのを防止するシール材とからなる回転ダンパーにおいて、
前記シール材が前記粘性流体に対して非膨潤性を有する材料で形成され、前記シール材に起因するトルク変動が減じられている、
ことを特徴とすると回転ダンパー。
【請求項2】
請求項1に記載の回転ダンパーにおいて、
前記粘性流体をシリコンオイルとし、
前記シール材を、エチレンプロピレンゴム、イソブチレンイソプレンゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムのうちの1つで形成した、
ことを特徴とする回転ダンパー。
【請求項3】
請求項1に記載の回転ダンパーにおいて、
前記粘性流体をシリコンオイルとし、
前記シール材をエチレンプロピレンジエンゴムで形成した、
ことを特徴とする回転ダンパー。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の回転ダンパーにおいて、
前記シール材の表面になし地仕上げを施した、
ことを特徴とする回転ダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−270915(P2010−270915A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186936(P2010−186936)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【分割の表示】特願2003−272989(P2003−272989)の分割
【原出願日】平成15年7月10日(2003.7.10)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)
【Fターム(参考)】