説明

回転ダンパ

【課題】 回転速度に応じて自動的にダンパトルクの大きさが変化するように構成した回転ダンパを提供する。
【解決手段】第1トルク発生部材の第1トルク発生面と第2トルク発生部材の第2トルク発生面との間の粘性流体の粘性抵抗によりトルクを発生させる。一方のトルク発生部材は他方のトルク発生部材に対して軸方向に移動可能な可動部材として構成される。トルク調整機構は、可動部材を他方のトルク発生部材から軸方向に離れる方向に付勢する弾性手段と、カムと、係合体とからなる。カムは、シャフトとハウジングとの相対回転により、係合体を回転方向とスラスト方向に押圧するようにし、このスラスト方向の力により可動部材が他方のトルク発生部材の方向に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り戸、引き戸、ロールスクリーン、手動シャッター等に使用される回転ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジング内に粘性流体を封じ込めると共に回転部材及び静止部材を近接させて対向配置し、回転部材の回転時に、双方の部材間に介在する粘性流体の剪断摩擦抵抗を利用して回転部材に制動力を与える回転ダンパは公知である。例えば、回転ダンパ内の粘性流体の温度変化による剪断抵抗の変動に伴う制動力の変動を軽減するための技術は既に知られている。(特許文献1)。また、回転ダンパの使用態様や使用目的に応じて、適正な制動力が得られるように回転部材と静止部材との対向面積を微調整する機能を持つ回転ダンパも知られている。このような微調整は回転ダンパの外部から行われ、その調整は一旦設定された後は固定されたままである(特許文献2、特許文献3)。一方、回転部材の回転速度の大小により制動力の大きさを自動的に調整し得る回転ダンパがある(特許文献4)。この点で特許文献4の開示技術は特許文献1ないし3の開示技術とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平03−163232
【特許文献2】特開2010−190268
【特許文献3】実開昭64−000736
【特許文献4】特許4529059号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献4の回転ダンパにおいては、スライド部材を粘性流体内で遠心力により径方向にスライドさせるため、粘性流体の抵抗を受け、遠心力によるスライド部材のスライド動作が円滑確実に行われないという問題点がある。また、回転部材の回転速度の大小により制動力の大きさを自動的に調整し得る利点はあるが、しかし回転速度の変化と制動力の大きさとの関係は二次関数となっている。この場合、回転部材に急激な負荷が掛かったとき、大きな制動力が速やかに得られるので、特に問題はないが、例えば、吊り戸を閉鎖する際に、閉鎖速度に応じた適切な制動力を得ようとした場合には、低速だと充分な制動力を得られず、高速だと制動力が効きすぎるという問題点がある。
そこで、本発明は、上記問題点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、内部に粘性流体を充填させた室を有するハウジングと、少なくとも一部が前記室内に収容され、前記ハウジングに対して相対的に回転自在なシャフトと、前記ハウジング及び前記シャフトのいずれか一方に設けられ、少なくとも前記シャフトの軸方向に展延する第1トルク発生面を備えた第1トルク発生部材と、前記ハウジング及び前記シャフトの他方に設けられ、前記第1トルク発生面と対向し得る第2トルク発生面を備えた第2トルク発生部材とを有し、前記第1トルク発生面と前記第2トルク発生面との間の粘性流体の粘性抵抗によりトルクを発生させる回転ダンパにおいて、前記第1トルク発生面及び第2トルク発生面の対向面積を可変とすべく、前記第1トルク発生部材及び前記第2トルク発生部材の少なくとも一方のトルク発生部材は他方のトルク発生部材に対して軸方向に移動可能な可動部材として構成され、該可動部材には、前記ハウジング及び前記シャフトのいずれか一方が回転駆動されるとき、その回転速度に応じて前記対向面積を変化させるトルク自動調整機構が設けられ、該トルク調整機構は、前記可動部材を前記他方のトルク発生部材から軸方向に離れる方向に付勢する弾性手段と、前記軸方向に対して傾いたカム面を有するカムと、前記カムのカム面に係合して設けられた係合体とからなり、前記カムは、前記シャフトとハウジングとの相対回転により、前記係合体を前記シャフトの前記ハウジングに対する相対回転方向と前記シャフトの軸方向に沿ったスラスト方向に押圧するようにし、前記スラスト方向の力により前記可動部材が前記他方のトルク発生部材の方向に移動するようにしたことを特徴とする。
また本発明は、前記第1トルク発生部材は、盤状部に突出板が1列または同心状に複数列突出して形成され、前記第2トルク発生部材は、盤状部に突出板が1列または同心状に複数列突出して形成され、前記第1トルク発生部材と第2トルク発生部材の突出板は互いの軸方向の相対移動により対向するように、互いの径方向の位置がずれており、前記第1トルク発生部材と前記第2トルク発生部材の突出板の互いに対向する面が前記第1トルク発生面と第2トルク発生面を構成するようにしたことを特徴とする。
また本発明は、前記第1トルク発生部材を前記ハウジング側に設け、前記カム及び係合体のいずれか一方を前記シャフト側にこれと連動して回転するように設け、前記第2トルク発生部材を前記シャフト側に軸方向に移動自在に設け、前記カム及び係合体のいずれか他方を前記第2トルク発生部材側に設け、該係合体を前記カムに係合し、前記シャフトの前記ハウジングに対する相対回転により前記カムが前記係合体を回転方向とスラスト方向に押圧し、該スラスト方向の力により前記第2トルク発生部材が前記第1トルク発生部材の方向に移動するようにしたことを特徴とする。
また本発明は、前記回転速度に比例して前記カムと該カムに係合する係合体とのスラスト方向の圧力が変化するように前記カムのカム面を形成し、前記ハウジング及び前記シャフトのいずれか一方が回転駆動されるとき、その回転速度に比例して、前記可動部材が他方のトルク発生部材に対して軸方向に移動するようにしたことを特徴とする。
また本発明は、前記可動部材に対向する他方のトルク発生部材を、前記可動部材に対して軸方向に移動させるための移動調整機構を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、可動側のトルク発生部材のスラスト方向の移動を、ハウジング内の粘性流体の抵抗をほとんど受けないカムとこれに係合する係合体によりスラスト方向に駆動するようにしたので、トルク自動調整動作を粘性流体に影響されないで確実に行うことができる。また、ハウジング及びシャフト間の相対回転速度に応じて第1トルク発生部材と第2トルク発生部材のトルク発生面間の対向面積を変化させることができるので、吊り戸等の開閉速度に応じたトルクを発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る回転ダンパの縦断面図である。
【図2】同縦断面図である。
【図3】本発明の説明図である。
【図4】同説明図である。
【図5】本発明に係る回転ダンパの縦断面図である。
【図6】同縦断面図である。
【図7】本発明の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態を添付した図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る回転ダンパ2を示している。回転ダンパ2は、ハウジング4を備え、このハウジング4は、円筒形の本体4aと、この本体4aの開放端を塞ぐキャップ4bとから構成される。本体4a及びキャップ4bは共に適当な合成樹脂材料から一体成形品として成形されるが、金属で構成しても良い。本体4aとキャップ4bとによって形成された室内には、粘性流体が充填されている。
【0009】
回転ダンパ2は、合成樹脂材料或いは金属材料から形成されたシャフト6を具備する。シャフト6は、その一端部は、ハウジング本体4aの閉塞端に軸方向に移動しないように定位置で回転可能に装着された、円柱状のアジャスタ8の軸受部8aに回転自在に支持される。更に、シャフト6は、ハウジング4のキャップ4bに形成された中央孔を貫通し、その中間部はハウジング4の室内に収納される。一方キャップ4bの中央の外面側に形成された凹部にはボール軸受10が設けられ、これにシャフト6が回転自在に支持されている。
【0010】
また、キャップ4bの中央の内面側に形成された凹部内では、シャフト6を囲むようにOリングシール12が設けられ、これによりシャフト6に沿うキャップ4bからの粘性流体の漏れが防止される。なお、本実施形態において、回転ダンパ2は、ハウジング4が固定側、シャフト6が回転側として吊り戸等に取り付けられる。ハウジング本体4aの閉塞端側には、第1トルク発生部材14が配置され、該部材14の外周面に図7に示すように、軸方向にキー16が形成されている。一方、ハウジング本体4aの内径部に図7に示すように、軸方向にキー溝18が形成され、該キー溝18に前記キー16がスライド自在に嵌合している。
【0011】
これにより、第1トルク発生部材14は、ハウジング本体4aに対して軸方向にスライド自在となっている。第1トルク発生部材14の内径部は、アジャスタ8の外周部に軸方向にスライド自在に嵌合し、第1トルク発生部材14の内径部に形成された2つの係合体20,21が図7に示すように、アジャスタ8の外周部に形成された2つのカムのカム面22,24に当接している。アジャスタ8のカムはそれぞれ同一形状に構成され、各カムのカム面22,24は、これらに当接する係合体20,21を軸方向に移動するための傾斜面を有している。第1トルク発生部材14の係合体20,21の各先端Fは、初期状態において、圧縮コイルばね48のばね圧により対応するカム面22,24の各始点Sに当接している。
【0012】
アジャスタ8の2つのカムのカム面22,24は、それぞれアジャスタ8の軸方向の最も後方を始点Sとし、最も前方を終点Eとして、その間を、アジャスタ8の外周面に沿って結んだ線上に傾斜面が形成されている。アジャスタ8を回転させることにより係合体20,21の先端Fに対して、カム面22,24の位置を、その始点Sと、終点Eの間で変化させることができる。第1トルク発生部材14の盤状部14aには、ハウジング本体4aの内周方向に沿って同心状に複数列、4つの環状の突出板26が形成されている。各突出板26は図7に示すように、切り欠き部が形成され、軸方向及び径方向に環状に展延して形成されている。
【0013】
これら突出板26はシャフト6の半径方向に等間隔で配置され、各突出板26の表面は後述するようにトルク発生面26aとして機能する。なお、突出板26は同心状に複数列設けた構成を説明したが単数列であっても良い。また、突出板26は環状でなくともよく、半環状その他、シャフト6の軸方向かつ該シャフト6の中心軸線を中心とする周方向に展延した形状であればどのような形状でも良い。シャフト6には、図3に示すように、外周に複数のカム32が形成された管体40が被着され、この管体40の内面側には、シャフト6の軸方向に沿って少なくとも1つの凸条即ちキー(図示省略)が形成されこれらキーはシャフト6に形成されたキー溝(図示省略)と係合され、これにより、管体40は、シャフト6と共に一体的に回転する。管体40の外周部に形成された4個のカム32は、互いに等間隔を有している。尚、カム32は特に4個でなくともよい。各カム32は、略二等辺三角形の外径の周面部32aと該周面部32aの両側部に位置して、図3に示すように、管体40の径方向に所定の幅を有する第1のカム面F1と第2のカム面F2が形成されている。
【0014】
カム32はシャフト6の回転トルクによる、該カム32のカム面F1,F2に係合する後述する第2トルク発生部材44の係合体42対する圧力を、カム面F1,F2の傾きによって、シャフト6の回転方向とシャフト6の軸方向に沿ったスラスト方向の二方向の力に変換するように構成され、各カム32のカム面F1,F2は、係合体42を回転方向に押圧するとともにスラスト方向にスライド自在に案内する、軸方向に対して角度を有する案内面を構成している。互いに隣接する一対のカム32は、一方のカム32の第1のカム面F1が、他方のカム32の第2のカム面F2に第3図に示すように所定の間隔を存して対向している。前記第1のカム面F1と第2のカム面F2は、管体40の外周面に軸方向に角度を有してその略全長にわたって形成され、第1と第2のカム面F1,F2は、互いの対向間隔が軸方向に広がるように、傾斜している。
【0015】
第1のカム面F1の傾斜は、これに接する係合体42に対して一方向の回転力と、スラスト方向Gの力を付与する。また、第2のカム面F2の傾斜は、これに接する係合体42に対して他方向の回転力と、スラスト方向Gの力を付与する。2つのカム32の第1と第2のカム面F1,F2間に、圧縮コイルばね48の弾発力により、圧接配置される係合体42は、第2トルク発生部材44の内径部にくさび状に形成されている。第1のカム面F1と第2のカム面F2の間に当接配置される係合体42は、前記カム32の数に対応してこれらと同数設けられ、各係合体42の両側部には、第1のカム受け面H1と第2のカム受け面H2が形成されている。各カム32の各円周面部32aは、同一周面上に形成され、各係合体42の周面部42aも同一円周面上に形成されている。管体40に第2トルク発生部材44が嵌合した状態において、係合体42の両側部は、第1のカム面F1と第1のカム受面H1とが対向して面接触し、第2のカム面F2と第2のカム受面H2とが対向して面接触し、対応する一対のカム32間に図3Aのように配置される。該状態において、各カム32の周面部32aは、係合体42間に形成された第2トルク発生部材44の内周面44bに面接触し、各係合体42の末広がり形状の周面部42aは、各カム32間の管体40の外周面40aに面接触する。
【0016】
シャフト6が停止した状態において、係合体42は、図3(A)に示すように、圧縮コイルばね48のばね力により第1と第2のカム面F1,F2間の幅狭方向の奥端に位置し、該状態において、係合体42の一側部の第1のカム受け面H1は、対応する第1のカム面F1に当接し、他側部の第2のカム受け面H2は対応する第2のカム面F2に当接する。管体40が一方向に回転すると、この回転は第1のカム面F1を介して、係合体42の第1のカム受け面H1に伝達され、係合体42は、図3(B)に示すように、回転速度に応じて、カム面F1に沿ってスラスト方向Gに移動する。管体40が他方向に回転すると、この回転は、第2のカム面F2を介して係合体42の第2のカム受け面H2に伝達され、回転速度に応じて、カム面F2に沿ってスラスト方向Gに移動する。。第2トルク発生部材44は、カム32を介してシャフト6と共に回転するように、管体40上に装着され、この第2トルク発生部材44は合成樹脂材料で成形される。
【0017】
第2トルク発生部材44は、図1に示す最左方位置と、第2図に示す最右方位置との間で、管体40の外周面に沿って移動自在とされる。本実施形態では、第2トルク発生部材44は、シャフト6の中心軸線方向に移動可能な可動部材として定義することができる。第2トルク発生部材44の盤状部44aにはハウジング本体4aの閉塞端内面側に向かって軸方向かつシャフト6の中心軸線を中心とする周方向に沿って同心状に3つの環状の突出板46が形成されている。これら突出板46は、第1トルク発生部材14の突出板26と同様に同心状に等間隔に複数列配置され、各突出板46の表面は、軸方向及び円周方向に展延した形状を備え、該表面は後述するようにトルク発生面46aとして機能する。尚、突出板43は環状でなくともよく、半環状その他、シャフト6の軸方向かつ該シャフト6の中心軸線を中心とする周方向に展延した形状であればどのような形状でも良い。
【0018】
第2トルク発生部材44が第1トルク発生部材14に向かってスラスト方向に移動させられた際には、第1トルク発生部材14の突出板26と、第2トルク発生部材44の突出板46とは、図2に示すように互いに対向配置されて係合し合うことになる。すなわち、第2トルク発生部材44の突出板46の厚さは第1トルク発生部材14の突出板26との厚さとほぼ同じであり第2トルク発生部材44の突出板46の配置ピッチは第1トルク発生部材14の突出板26の配置ピッチに対して半ピッチ分だけ外側にずらされ、このため、図2に示すような係合状態が得られる。
【0019】
なお、突出板46は同心状に複数列設けた構成を説明したが、単数列であっても良い。第1トルク発生部材14と第2トルク発生部材44の対向部には、ばね収納用凹部がそれぞれ形成され、これらに、弾性手段即ち圧縮コイルばね48が保持されている。圧縮コイルばね48は、第2トルク発生部材44を第1トルク発生部材14から弾性的に引き離すように機能し、このため第2トルク発生部材44は図1に示す最左方位置に通常は弾性的に留められる。
尚、図中、符号5はシール部材、7はワッシャ、27はスナップリング、28はばね用座金、30はシール部材である。
次に本実施形態の動作について説明する。
【0020】
回転ダンパのシャフト2が非回転状態におかれているとき、図1に示すように、圧縮コイルばね48の弾性力により第2トルク発生部材44は、第1トルク発生部材14から引き離されて、各係合体42の両側面の第1のカム受面H1,第2のカム受面H2が、対向間隔の最も狭い部分の第1のカム面F1と第2のカム面F2に密着する。このとき、第1トルク発生部材14の突出板26のトルク発生面と第2トルク発生部材44の突出板46のトルク発生面との対向面積は実質的にゼロ若しくはゼロに近い状態とされる。
【0021】
シャフト6がいずれかの回転方向に回転させられると、その回転速度がきわめて小さいときは、カム面F1,F2の傾斜面により係合体42に発生するスラスト方向の力は、ほとんどなく、従って第1トルク発生部材14の突出板26のトルク発生面と第2トルク発生部材44の突出板46のトルク発生面との対向面積がゼロ若しくはゼロに近い状態で回転する。シャフト6が一方向に回転させられて、その回転速度が徐々に速くなると、係合体42の、カム面F1から受けるスラスト方向の力が増大し、係合体42が、カム32の回転と連動して回転しながら圧縮コイルばね48の弾発力に抗して、第1のカム面F1に押圧されてスラスト方向Gに移動させられる。
【0022】
このとき、第2トルク発生部材44は回転しつつ第1トルク発生部材14側に移動させられて、第1トルク発生部材14の突出板26のトルク発生面と第2トルク発生部材44の突出板46のトルク発生面とが互いに対向することになる。その結果、双方のトルク発生面間に粘性流体を介した摩擦抵抗によりトルクが発生させられ、シャフト6には制動力が加わることになる。シャフト6の回転速度が大きくなるにつれ、係合体42は、次第に大きくなるスラスト方向の力を受け、第1トルク発生部材14に向かう第2トルク発生部材44の移動量も大きくなり、第1トルク発生部材14の突出板26のトルク発生面と第2トルク発生部材44の突出板46のトルク発生面との間の対向面積も次第に増大し、双方のトルク発生面間に発生するトルク、即ちシャフト6に加わる制動力も増大する。
【0023】
シャフト6の回転速度が上限速度に到達すると、図2に示すように、上述の対向面積は最大となり、その間に発生するトルク、即ちシャフト6に加わる制動力も最大となる。カム32のカム面が傾斜面として形成されているので、第1トルク発生部材14の突出板26のトルク発生面と第2トルク発生部材44の突出板46のトルク発生面との間の対向面積の変化はシャフト6の回転速度に比例することになる。従って、双方のトルク発生面間に発生するトルク、即ちシャフト6に加わる制動力もシャフト6の回転速度に比例することになる。
【0024】
かくして、例えば、回転ダンパ2が吊り戸に組み込まれ(このときシャフト6が吊り戸の回転軸に連結され、ハウジング4が吊り戸に隣接した壁等に固着される)、しかも開放された吊り戸が重力によって閉鎖位置まで移動する場合を想定すると、吊り戸は重力加速度によって加速されるがシャフト6に加わる制動力はシャフト6の回転速度に比例するので、吊り戸は一定の速さで閉鎖位置まで移動することになる。また、本件発明に係る上記実施形態の装置を引き戸等に使用したときには、引き戸を通常の軽い力で開閉方向に移動させるときには、引き戸は小さな力で軽く移動させることができ、引き戸を大きな力で開閉方向に移動させた場合には、大きな制動力がかかり、開閉終端部に強く当たることがない。即ち、引き戸の開閉のために加えられた力の大きさにかかわらず常に一定の移動速度で開閉動作が行われることになる。
【0025】
以上の記載から明らかなように、本実施形態にあっては、第1トルク発生部材14、第2トルク発生部材44、圧縮コイルばね48、カム32、係合体42等によって、トルク自動調整機構が構成され、このトルク自動調整機構により、第1トルク発生部材14の突出板26のトルク発生面と第2トルク発生部材44の突出板46のトルク発生面との対向面積をシャフト6の回転速度に比例して変化させることが可能となる。
【0026】
次に、第1トルク発生部材44を初期位置からシャフト6の軸方向に移動し、初期状態の第1トルク発生部材14と第2トルク発生部材44との対向間隔を調整する作業について説明する。
アジャスタ8をその穴8aを使用して、手操作若しくは回転工具を用いて、所定の方向に回転させると、カム面22,24が、係合体20,21の先端をスラスト方向に押圧し、この押圧力によって、第1トルク発生部材14は、圧縮コイルばね48の弾発力に抗して、軸方向に移動する。この移動によって、初期状態における、第1トルク発生部材14と第2トルク発生部材44との位置関係を調整することができる。図5は、第1トルク発生部材14を、最も、ハウジング本体4aの閉塞端側に移動した状態を示している。
【0027】
この状態において、第1トルク発生部材14と第2トルク発生部材44間に発生するトルクは、低く、この位置状態において、初期状態即ちシャフト6の回転力が小さいとき、回転ダンパはシャフト6の回転に作用する制動力はきわめて小さい。図6は第1トルク発生部材14を最も第2トルク発生部材44側に移動した状態を示し、この状態において、第1トルク発生部材14の突出板26のトルク発生面と第2トルク発生部材44の突出板46のトルク発生面との間の対向面積が最大となり、初期状態即ちシャフト6の回転力が小さいとき、回転ダンパは高い制動力を発生する。回転ダンパ2は、アジャスタ8を回転させることで、第1トルク発生部材14の位置を図5に示す、最も右方向の位置から、図6に示す最も左方向の位置の間で任意の位置に調整することができる。
【0028】
尚、本発明の実施に際し、係合体42は、一対のカム32,32間の第1カム面F1と第2カム面F2に密着する図示する形状に特に限定されるものでなく、図4に示すように、カム面F1,F2に点接触する形状のものや線接触する形状のもの等任意の形状のものを用いることができる。また、ハウジング4側がシャフト6に対して回転する構成としても良い。また、係合体42を管体40側に設け、カム32を第2トルク発生部材44側に設け、両者の管体40と第2トルク発生部材44に対する取り付け関係を逆にしても良い。また、第2トルク発生部材44、カム32、係合体42をハウジング4側に設け、第1トルク発生部材14をシャフト6側に設け、シャフト6に対してハウジング4を回転させる構成としても良い。また、アジャスタ8はなくてもよく、この場合、第1トルク発生部材14はハウジング本体4aと一体となる。なお、上記説明において、スラスト方向と軸方向は同一の方向を示すものとして用いている。
【符号の説明】
【0029】
2 回転ダンパ
4 ハウジング
4a 本体
4b キャップ
6 シャフト
8 アジャスタ
8a 軸受部
10 ボール軸受
12 Oリングシール
14 第1トルク発生部材
14a 盤状部
16 キー
18 キー溝
20 係合体
21 係合体
22 カム面
24 カム面
26 突出板
32 カム
40 管体
42 係合体
44 第2トルク発生部材
46 突出板
48 圧縮コイルばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に粘性流体を充填させた室を有するハウジングと、少なくとも一部が前記室内に収容され、前記ハウジングに対して相対的に回転自在なシャフトと、前記ハウジング及び前記シャフトのいずれか一方に設けられ、少なくとも前記シャフトの軸方向に展延する第1トルク発生面を備えた第1トルク発生部材と、前記ハウジング及び前記シャフトの他方に設けられ、前記第1トルク発生面と対向し得る第2トルク発生面を備えた第2トルク発生部材とを有し、前記第1トルク発生面と前記第2トルク発生面との間の粘性流体の粘性抵抗によりトルクを発生させる回転ダンパにおいて、前記第1トルク発生面及び第2トルク発生面の対向面積を可変とすべく、前記第1トルク発生部材及び前記第2トルク発生部材の少なくとも一方のトルク発生部材は他方のトルク発生部材に対して軸方向に移動可能な可動部材として構成され、該可動部材には、前記ハウジング及び前記シャフトのいずれか一方が回転駆動されるとき、その回転速度に応じて前記対向面積を変化させるトルク自動調整機構が設けられ、該トルク調整機構は、前記可動部材を前記他方のトルク発生部材から軸方向に離れる方向に付勢する弾性手段と、前記軸方向に対して傾いたカム面を有するカムと、前記カムのカム面に係合して設けられた係合体とからなり、前記カムは、前記シャフトとハウジングとの相対回転により、前記係合体を前記シャフトの前記ハウジングに対する相対回転方向と前記シャフトの軸方向に沿ったスラスト方向に押圧するようにし、前記スラスト方向の力により前記可動部材が前記他方のトルク発生部材の方向に移動するようにしたことを特徴とする回転ダンパ。
【請求項2】
前記第1トルク発生部材は、盤状部に突出板が1列または同心状に複数列突出して形成され、前記第2トルク発生部材は、盤状部に突出板が1列または同心状に複数列突出して形成され、前記第1トルク発生部材と第2トルク発生部材の突出板は互いの軸方向の相対移動により対向するように、互いの径方向の位置がずれており、前記第1トルク発生部材と前記第2トルク発生部材の突出板の互いに対向する面が前記第1トルク発生面と第2トルク発生面を構成するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の回転ダンパ。
【請求項3】
前記第1トルク発生部材を前記ハウジング側に設け、前記カム及び係合体のいずれか一方を前記シャフト側にこれと連動して回転するように設け、前記第2トルク発生部材を前記シャフト側に軸方向に移動自在に設け、前記カム及び係合体のいずれか他方を前記第2トルク発生部材側に設け、該係合体を前記カムに係合し、前記シャフトの前記ハウジングに対する相対回転により前記カムが前記係合体を回転方向とスラスト方向に押圧し、該スラスト方向の力により前記第2トルク発生部材が前記第1トルク発生部材の方向に移動するようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の回転ダンパ。
【請求項4】
前記回転速度に比例して前記カムと該カムに係合する係合体とのスラスト方向の圧力が変化するように前記カムのカム面を形成し、前記ハウジング及び前記シャフトのいずれか一方が回転駆動されるとき、その回転速度に比例して、前記可動部材が他方のトルク発生部材に対して軸方向に移動するようにしたことを特徴とする請求項1乃至3に記載の回転ダンパ。
【請求項5】
前記可動部材に対向する他方のトルク発生部材を、前記可動部材に対して軸方向に移動させるための移動調整機構を設けたことを特徴とする請求項1乃至4に記載の速度依存性回転ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−50117(P2013−50117A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186733(P2011−186733)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000110206)トックベアリング株式会社 (83)
【Fターム(参考)】