説明

回転ブラシを用いた研磨方法

【課題】回転ブラシの棒状部材に加わる荷重を均一にして、角部のバリ取りや面取りを容易にばらつきなく行う。
【解決手段】ワーク1外周の形状に沿ってワーク1の外方へ所定の水平隙間11が設けられると共に、回転ブラシ30の回転軸8の軸心方向に対してワーク1と同じ高さ若しくはワーク1よりも若干低くなるように研磨用治具10をワーク1の周囲に配置し、回転する回転ブラシ30の棒状部材33の先端をワーク1及び研磨用治具10の表面に当接させ、ワーク1外周と研磨用治具10との水平隙間11に挿入された棒状部材33の側面をワーク1表面の角部5に当接させ、角部5を丸めながら、ワーク1の表面に沿って回転ブラシ30を相対移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転ブラシを用いた研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、砥粒が混入された複数の棒状部材が植え込まれたカップ状の回転ブラシを回転させながらワーク表面に当接させてその角部を丸める研磨方法は知られている。
【0003】
このような研磨方法で用いる回転ブラシでは、例えば、特許文献1に示すように、合成樹脂素材の内部に、ダイヤモンドパウダーなどの砥粒を混入させたブラシ用線材が用いられている。
【0004】
このようなブラシ用線材を用いた回転ブラシを使用する研磨方法では、例えば、特許文献2に示すもののように、ワークの表面に沿って回転ブラシを回転させながら移動させ、同時に上下動させてバリ取りや、研磨を行っている。
【特許文献1】特開2002−187073号公報
【特許文献2】特開2002−254277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の回転ブラシを用いた研磨方法では、回転する回転ブラシの棒状部材の先端をワークの表面に当接させる際に、ワークの外周よりも外方において、ワークに当接しない棒状部材はフリーとなる一方、ワークに当接した棒状部材にのみ荷重が伝達されるので、ブラシ全体で均等に荷重を加えることができない。
【0006】
このため、棒状部材に対してフリーの状態から急激に荷重が加えられるので、回転ブラシが痛みやすいという問題があった。また、例えば、棒状部材間での荷重が不均一となり、ワーク外周の角部と、ワーク内の表面に設けた孔の周縁部とでブラシ先端に加わる荷重のばらつきが生じるので、均一にバリ取りや角部の丸面取りが行えず、仕上がり品質が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ワーク周辺を覆う治具を設けることにより、回転ブラシの棒状部材に加わる荷重を均一にして、角部のバリ取りや面取りを容易にばらつきなく行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、回転ブラシの先端をワークの表面だけでなく、研磨用治具にも当接させるようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明では、砥粒が混入された複数の棒状部材が植え込まれたカップ状の回転ブラシを回転させながらワーク表面に当接させてその角部を丸めるワークの研磨方法を対象とする。
【0010】
そして、上記ワーク外周の形状に沿って該ワークの外方へ所定の隙間が設けられると共に、上記回転ブラシの回転軸の軸心方向に対してワークと同じ高さ若しくはワークよりも若干低くなるように研磨用治具を該ワークの周囲に配置し、
回転する上記回転ブラシの棒状部材の先端を上記ワーク及び研磨用治具の表面に当接させ、
上記ワーク外周と研磨用治具との隙間に挿入された棒状部材の側面をワーク表面の角部に当接させ、該角部を丸めながら、ワークの表面に沿って回転ブラシを相対移動させる構成とする。
【0011】
上記の構成によると、回転ブラシの各棒状部材がワーク及び研磨用治具に当接するので、研磨用治具のない場合に比べて、回転ブラシの略全体の棒状部材において均一な面圧が保たれる。そして、棒状部材が、研磨用治具又はワークの表面から研磨用治具とワークとの隙間に入り込む際に、角部に急激に衝突するのが避けられる。
【0012】
第2の発明では、上記棒状部材は、合成樹脂材料に砥粒が混入されたものとする。
【0013】
上記の構成によると、合成樹脂材料は、荷重を加えた際に撓みやすく、折れることなく、座屈する。また、合成樹脂材料や砥粒の材質は、研磨対象に合わせて適切に選択される。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、回転する回転ブラシの棒状部材の先端をワーク及び研磨用治具の表面に当接させて荷重を加え、回転ブラシの棒状部材に加わる荷重を均一にしている。このため、角部のバリ取りや面取りを容易にばらつきなく行うことができる。また、研磨用治具に当接していた棒状部材が、角部に接触する際に無理な荷重が加わわらないので、棒状部材が損傷せず、回転ブラシの寿命を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に本発明の実施形態にかかる研磨用治具10に囲まれたワーク1を示す。すなわち、本発明の研磨対象とするワーク1は、特に外周の形状が平面視で非円形のものである。
【0017】
このワーク1の表面には、ボルト(図示せず)を挿通するためや、質量軽減のための複数の孔部2が設けられている。また、ワーク1の中央部分には、貫通孔3が設けられ、その周縁部には他の部分よりも一段高いリブ4が設けられている。なお、ワーク1の形状は、本実施形態のものには限定されず、あくまで一例である。
【0018】
図2に示すように、上記ワーク1の周縁に設けられた研磨用治具10は、外周が平面視円形となる板形状を有している。この研磨用治具10の外径は、後述する回転ブラシ30の公転範囲の全てをカバーする大きさとなっている。研磨用治具10の内側には、ワーク1外周の形状に沿って該ワーク1の外方へ所定の水平隙間11が形成されるように、ワーク収容用孔部12が形成されている。この水平隙間11の大きさは、回転ブラシ30に植え込まれた各棒状部材33の太さよりも大きいものとなっている。研磨用治具10の厚さは、ワーク1の厚さよりも若干薄いものとなっている。
【0019】
すなわち、定盤7上に配置されたワーク1の外周に上記研磨用治具10を配設した状態で側方から見ると、研磨用治具10の表面は、上記回転ブラシ30の回転軸の軸方向(上下方向)にワーク1よりも若干低くなり、上下方向に高さの差hが設けられ、上下方向の隙間が形成されている。この高さ方向の差hは、例えば、1.5mm程度の大きさとなっている。
【0020】
上記回転ブラシ30は、その回転中心に軸取付部31が設けられ、その先端に円板状のブラシ本体32が連結されている。このブラシ本体32に上記棒状部材33の基端側が中央部分をあけて植え込まれてカップ形状となっている。なお、中央部分に隙間なく棒状部材33が設けられているものであってもよい。各棒状部材33は、例えば、ナイロンなどの合成樹脂材料に酸化アルミナ、炭化ケイ素、ダイヤモンドなどの砥粒34(図4に示す)が混入されたものである。回転ブラシ30が回転した状態で、この棒状部材33の砥粒34がワーク1の角部5に当接しながら移動することで、角部5のバリが削除されたり、角部5が丸められたりされるようになっている。
【0021】
回転ブラシ30は、図示しない公知の工作機械の回転軸8に接続され、この回転軸8を中心に回転される。また、図1に矢印で示すように、回転軸8は、ワーク1の表面に沿ってその中心に対して例えば、時計回りに公転するようになっているので、回転ブラシ30がワーク1の表面全域のバリ取りなどが行えるようになっている。また、回転ブラシ30は、回転軸8の軸方向に沿って移動可能となり、ワーク1表面に対して適切な加重を保ちながら回転ブラシ30の先端が当接されるようになっている。具体的には、この荷重は、上記各棒状部材33の1本当たり、20〜60g程度に設定されている。
【0022】
−運転動作−
次に、本実施形態にかかる回転ブラシ30を用いた研磨方法の作動について説明する。
【0023】
まず、ワーク1の形状に合わせて上記研磨用治具10を製作する。
【0024】
次いで、ワーク1外周に回転ブラシ30の回転軸8の軸心方向に対してワーク1上面よりも若干その表面が低くなるように定盤7上に研磨用治具10を配置する。
【0025】
次いで、回転ブラシ30を回転させながら、回転軸8を下げることでワーク1に対して近付ける。
【0026】
次に、回転する回転ブラシ30の棒状部材33の先端をワーク1及び研磨用治具10の表面に当接させ、適切な荷重を加える。すると、図3及び図4に示すように、ワーク1に当接した棒状部材33は座屈し、研磨用治具10に当接した棒状部材33は座屈せずに直線状に保たれる。また、ワーク1外周と研磨用治具10との間の隙間である水平隙間11に挿入された棒状部材33の側面がワーク1表面の角部5に当接する。
【0027】
このことで、座屈した棒状部材33は、その先端がワーク1の表面を移動するだけで、研磨はほとんど行われない。直線状の棒状部材33は、先端のみで荷重が伝達されるので、先端部分に砥粒34がある場合にのみ、研磨が若干行われる。
【0028】
そして、ワーク1表面又は研磨用治具10表面に当接していた棒状部材33が回転ブラシ30の回転により、ワーク1外周と研磨用治具10との水平隙間11に挿入される。このとき、棒状部材33の側面の砥粒34がワーク1の外周の角部5に当接しながら移動するので、角部5が削られてバリが取られ、さらには丸められる。回転ブラシ30のほぼ全体が常にワーク1又は研磨用治具10に当接しているので、従来のように、完全にフリーの状態から、ワーク1の角部5に当接することはない。
【0029】
なお、ワーク1に設けられた孔部2においても、ワーク1に当接して座屈していた棒状部材33が孔部2に入り込み、その側面の砥粒34が孔部2周縁の角部5に当接しながら、バリを取ったり、丸めたりする。
【0030】
このようにしてワーク1の表面に沿って回転ブラシ30を公転させて移動させることで、ワーク1表面全体の角部5のバリが取られ、丸められる。
【0031】
−実施形態の効果−
したがって、本実施形態にかかる回転ブラシ30を用いた研磨方法によると、回転ブラシ30の棒状部材33に加わる荷重を均一にすることで、角部5のバリ取りや面取りを容易にばらつきなく行うことができる。また、研磨用治具10に当接していた棒状部材33が、角部5に接触する際に無理な荷重が加わらないので、棒状部材33が損傷せず、回転ブラシ30の寿命を保つことができる。
【0032】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0033】
例えば、上記実施形態では、ワーク1に対して回転ブラシ30を公転させて移動させるようにしたが、回転ブラシ30は公転移動させずに、ワーク1を回転させてもよい。
【0034】
また、上記実施形態では、回転ブラシ30の回転軸8に軸心方向に対してワーク1上面よりも若干その表面が低くなるように研磨用治具10を配置したが、ワーク1上面と研磨用治具10の表面は同じ高さに配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上説明したように、本発明は、砥粒が混入された複数の棒状部材が植え込まれたカップ状の回転ブラシを用いた研磨方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態にかかる研磨用治具及びワークを示す平面図である。
【図2】回転ブラシが当接するときの図1のII−II線断面図である。
【図3】回転ブラシの先端が研磨用治具及びワークに当接して撓む様子を示す側方断面図である。
【図4】棒状部材が座屈する様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ワーク
5 角部
10 研磨用治具
11 水平隙間
30 回転ブラシ
33 棒状部材
34 砥粒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒が混入された複数の棒状部材が植え込まれたカップ状の回転ブラシを回転させながらワーク表面に当接させてその角部を丸めるワークの研磨方法であって、
上記ワーク外周の形状に沿って該ワークの外方へ所定の隙間が設けられると共に、上記回転ブラシの回転軸の軸心方向に対してワークと同じ高さ若しくはワークよりも若干低くなるように研磨用治具を該ワークの周囲に配置し、
回転する上記回転ブラシの棒状部材の先端を上記ワーク及び研磨用治具の表面に当接させ、
上記ワーク外周と研磨用治具との隙間に挿入された棒状部材の側面をワーク表面の角部に当接させ、該角部を丸めながら、ワークの表面に沿って回転ブラシを相対移動させることを特徴とする回転ブラシを用いた研磨方法。
【請求項2】
上記棒状部材は、合成樹脂材料に砥粒が混入されたものであることを特徴とする請求項1に記載の回転ブラシを用いた研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−21599(P2007−21599A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203632(P2005−203632)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】