説明

回転工具のクラッチ装置

【課題】 回転工具のクラッチ装置に起因する振動を低減する。
【解決手段】 工作機械の駆動軸(5)と回転工具(3a,3b)の伝動軸(4)とのいずれか一方にほぞ状の突起(8)を有し、他方に上記突起(8)が係脱可能に嵌まり込む溝(7)を有した回転工具のクラッチ装置において、突起(8)の両平坦面(8a,8b)と溝(7)の対向壁(7a,7b)との隙間(δ)に入り込む弾性体(19)が突起(8)又は溝(7)に取り付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋盤等に使用される回転工具のクラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に示すように、旋盤のターレット1には刃物2を保持した回転工具3が複数個取り付けられる。各回転工具3の伝動軸4はターレット1の中心部に向かって突出し、ターレット1の中心部には回転工具3の伝動軸4に動力を伝達する駆動軸5が設けられる。回転工具3の伝動軸4は旋盤本体側の駆動軸5にクラッチ装置6を介して動力的に係脱可能である。
【0003】
このクラッチ装置6は、図7に示すように、旋盤の駆動軸5の先端に形成された溝7と、回転工具3における伝動軸4の先端に形成されたほぞ状の突起8とを有し、ターレット1が旋回して所望の回転工具3の突起8が駆動軸5の溝7に嵌まり込むことにより、この回転工具3が駆動軸5に動力的に連結される。駆動軸5の回転は溝7と突起8との係合により伝動軸4に伝達され、かさ歯車9a,9b等の伝動機構を介して刃物2に伝達される。この刃物2の回転により図示しないワークに所定の加工が行われる。他の刃物を使用する場合は、駆動軸5が停止状態になったところでターレット1が旋回し、前回の回転工具3における突起8が駆動軸5の溝7から離脱し、次回の回転工具における突起8が駆動軸5の溝7内に嵌まり込み、この回転工具が駆動軸5に動力的に連結される。そして、溝7と突起8との係合により駆動軸5の回転が伝動軸4に伝達され、かさ歯車9a,9b等の伝動機構を介して刃物2に伝達される。この刃物2によりワークに対し他の加工が行われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図7に示すように、クラッチ装置における溝7と突起8との間には両者の係合、離脱を円滑に行うため隙間δが形成される。ところが、この隙間δの存在のため、工作中振動が発生する場合がある。また、かさ歯車9a,9bのバックラッシとクラッチ装置6の隙間δによる二重の振動でさらに大きな振動が発生する場合がある。この振動は騒音、発熱、磨耗、加工精度の低下の原因となる。
【0005】
従って、本発明はクラッチ装置で生じる振動を低減する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、工作機械の駆動軸(5)と回転工具(3a,3b)の伝動軸(4)とのいずれか一方にほぞ状の突起(8)を有し、他方に上記突起(8)が係脱可能に嵌まり込む溝(7)を有した回転工具のクラッチ装置において、突起(8)の両平坦面(8a,8b)と溝(7)の対向壁(7a,7b)との隙間(δ)に入り込む弾性体(19)が突起(8)又は溝(7)に取り付けられた回転工具のクラッチ装置を採用する。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載のクラッチ装置において、上記突起(8)の両平坦面(8a,8b)上に突出部(19a,19b)を備えるように上記弾性体(19)が上記突起(8)に固定された回転工具のクラッチ装置を採用する。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、請求項2に記載のクラッチ装置において、上記突出部(19a,19b)が上記駆動軸(5)又は伝動軸(4)の軸芯(4a)を対称軸として対称形に配置された回転工具のクラッチ装置を採用する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、弾性体(19)が突起(8)の両平坦面(8a,8b)と溝(7)の対向壁(7a,7b)との隙間(δ)に入り込むので、工作機械の駆動軸(5)の回転が回転工具(3a,3b)の伝動軸(4)に滑らかに伝達され、振動が低減する。従って、騒音、発熱、磨耗等が低減し、加工精度が向上する。
【0010】
請求項2に係る発明によれば、弾性体(19)を簡易に装着することができる。
【0011】
請求項3に係る発明によれば、駆動軸(5)及び伝動軸(4)の正転と逆転の如何を問わず適正に振動を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0013】
図1及び図2に示すように、工作機械である旋盤のターレット1の周壁部には、複数個の回転工具3a,3bが取り付けられている。ターレット1はその中心軸10を中心にして旋回可能である。ターレット1の旋回に伴い周壁部上の所望の回転工具3a又は3bが図示しないワークに対して接近し又は離反する。ターレット1内にはその中心軸10から周壁部に向かって駆動軸5が設けられ、旋盤の図示しない駆動源からの動力がこの駆動軸5に伝達される。また、ターレット1の中央部には旋盤本体側に固定されるガイドレール11が環状に配置される。駆動軸5の終端がこのガイドレール11の一部に形成された切欠部11a内に入り込んでいる。
【0014】
回転工具3a,3bは、上記ターレット1に固定されるハウジング12を備える。図1中、符号13はハウジング12をターレット1に固定するためのボルトを示す。ハウジング12内には、上記駆動軸5に動力的に連結可能な伝動軸4が各種ベアリング14を介し回転自在に支持される。伝動軸4の始端はハウジング12外に突出し、上記ガイドレール11に向かって伸びる。伝動軸4の終端は伝動機構であるかさ歯車9a,9bを介して出力軸であるスピンドル15に動力的に連結される。スピンドル15は伝動軸4に直交する方向に配置され、ハウジング12に対し各種ベアリング16を介し回転自在に支持される。スピンドル15にはコレットチャック17が取り付けられ、コレットチャック17に着脱自在に把持された刃物2がハウジング12の側面から突出する。
【0015】
なお、スピンドル15を省略し、伝動軸4にコレットチャック17、刃物2等を装着するようにしてもよい。
【0016】
図1及び図2に示すように、旋盤側の駆動軸5に回転工具3a,3bの伝動軸4を動力的に接続したり切り離したりするためのクラッチ装置18が設けられる。
【0017】
このクラッチ装置18は、図3乃至図6に示すように、伝動軸4の始端に形成されたほぞ状の突起8と、駆動軸5の終端に形成された上記突起8が係脱可能に嵌まり込む溝7とを具備する。ほぞ状の突起8は伝動軸4の軸端にその直径方向に伸びる板片として形成される。また溝7は駆動軸5の軸端にその直径方向に伸びるように形成される。
【0018】
図1及び図3に示すように、全回転工具3a,3bにおける伝動軸4の突起8は上記ターレット1内のガイドレール11の環状溝11b内に嵌まり込んでいる。このためターレット1が旋回する際、伝動軸4の突起8は常に一定の姿勢を保って移動する。一方、駆動軸5は回転を停止する際、その溝7が上記ガイドレール11内の伝動軸4の突起8に合致しうる向きになるよう制御される。駆動軸5が停止し、ターレット1が旋回すると、全回転工具3a,3bの伝動軸4がガイドレール11の環状溝11b内をスライドし、図1及び図2に示すように、所望の回転工具3aが駆動軸5の終端に到達したところでこの回転工具3aの突起8が駆動軸5の溝7内に嵌まり込む。
【0019】
図7に示したように、クラッチ装置6における溝7と突起8との間には両者の係合、離脱を円滑に行うため隙間δが形成され、この隙間δの存在のため工作中振動が発生する場合があるが、これを防止するため図4、図5及び図6に示すように、この実施の形態のクラッチ装置18では、突起8の両平坦面8a,8bと溝7の対向壁7a,7bとの隙間に入り込む弾性体19が上記突起8に取り付けられる。
【0020】
弾性体19は、突起8の両平坦面8a,8b上に突出部19a,19bを備えるように突起8に固定される。具体的には、弾性体19は樹脂、ゴム等の弾性材を用いて円柱形に形成され、突起8をその両平坦面8a,8b間に貫通する孔20内に挿入することにより突起8に取り付けられる。弾性体19は孔20に圧入により、或いは接着剤等を用いて固着され、図6に示すようにその両端が突起8の両平坦面8a,8b上に突出部19a,19bとなって突き出るように取り付けられる。これにより、図4に示すように伝動軸4の突起8が駆動軸5の溝7内に入ったとき、弾性体19の突出部19a,19bが溝7の対向壁7a,7bにそれぞれ当接して突起8の平坦面8a,8bが溝7の対向壁7a,7bに直に接触するのを阻止する。なお、突出部19a,19bに相当する部分のみを弾性体として形成し、これを突起8の平坦面8a,8bに接着するようにしてもよい。
【0021】
また、図5に示すように、弾性体19はその突出部19a,19aが伝動軸4の軸芯4aを対称軸として対称形に突出するように伝動軸4の突起8に固定される。これにより、駆動軸5及び伝動軸4の正転と逆転の如何を問わず振動が低減する。
【0022】
次に、上記構成のクラッチ装置の作用について説明する。
【0023】
図1及び図2に示すように、加工を行おうとする回転工具3aの伝動軸4の突起8が駆動軸5の溝7内に嵌まり込み、他の回転工具3bにおける伝動軸4の突起8はターレット1内のガイドレール11の環状溝11b内に嵌まり込んでいる。
【0024】
所定の加工が終了すると、駆動軸5及び伝動軸4が回転を停止する。その際、両軸5,4の溝7と突起8はガイドレール11の切欠部11a内において環状溝11bに合致する向きで停止する。
【0025】
ターレット1が旋回を開始し、前回の加工に携わった回転工具3aにおける伝動軸4の突起8が駆動軸5の溝7から離脱してガイドレール11の環状溝11b内に嵌まり込む。また、次回の加工に携わる回転工具3bの伝動軸4の突起8がガイドレール11の環状溝11b内をスライドし、この環状溝11bから離脱して駆動軸5の溝7内に嵌まり込むと、ターレット1が停止する。これにより、所望の回転工具3bの伝動軸4が旋盤の駆動軸5に動力的に連結される。駆動軸5が回転すると、動力がクラッチ装置18、伝動軸4、かさ歯車9a,9b、スピンドル15を介し刃物2に伝達され、刃物2が図示しないワークに対して所望の加工を行う。
【0026】
図4に示すように、駆動軸5に対し伝動軸4が動力的に連結されると、弾性体19の突出部19a,19bが突起8の両平坦面8a,8bと溝7の対向壁7a,7bとの隙間δに入り込む。駆動軸5と伝動軸4の回転中、弾性体19の突出部19a,19bが溝7の対向壁7a,7bにそれぞれ当接し、突起8の平坦面8a,8bと溝7の対向壁7a,7bとが直接接触する前に、弾性体19が隙間δ内で弾性変形しながらエネルギーを吸収し平坦面8a,8bと対向壁7a,7bとが接触する時の力を弱めると共に振動を吸収する。更にこの隙間δと図2に示すかさ歯車9a,9bのバックラッシとによる二重の振動を低減する。これにより、駆動軸5の回転が回転工具3bの伝動軸4に滑らかに伝達され、騒音等が低減し、加工精度が向上する。
【0027】
弾性体19はその突出部19a,19bが伝動軸4の軸芯4aを対称軸として対称形に突出するように伝動軸4の突起8に固定されているので、駆動軸5及び伝動軸4が逆転する場合であっても振動が吸収される。
【0028】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば上記各実施の形態では突起が伝動軸に設けられ溝が駆動軸に設けられるが、突起を駆動軸に設け溝を伝動軸に設けるようにしてもよい。また、上記実施の形態では弾性体が突起に取り付けられるが、溝の対向壁上に取り付けることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るクラッチ装置を示す立面図である。
【図2】図1中、II−II線矢視断面である。
【図3】図1中、III−III線矢視図である。
【図4】図2中、IV部分の拡大図である。
【図5】伝動軸の始端の平面図である。
【図6】図5中、VI−VI線矢視断面図である。
【図7】従来のクラッチ装置を示す立面図である。
【符号の説明】
【0030】
3a,3b…回転工具
4…伝動軸
4a…軸芯
5…駆動軸
7…溝
7a,7b…対向壁
8…突起
8a,8b…平坦面
18…クラッチ装置
19…弾性体
19a,19b…突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の駆動軸と回転工具の伝動軸とのいずれか一方にほぞ状の突起を有し、他方に上記突起が係脱可能に嵌まり込む溝を有した回転工具のクラッチ装置において、突起の両平坦面と溝の対向壁との隙間に入り込む弾性体が突起又は溝に取り付けられたことを特徴とする回転工具のクラッチ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転工具のクラッチ装置において、上記突起の両平坦面上に突出部を備えるように上記弾性体が上記突起に固定されたことを特徴とする回転工具のクラッチ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の回転工具のクラッチ装置において、上記突出部が上記駆動軸又は伝動軸の軸芯を対称軸として対称形に配置されたことを特徴とする回転工具のクラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−7401(P2006−7401A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191998(P2004−191998)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000127042)株式会社アルプスツール (31)
【Fターム(参考)】