説明

回転検出装置付き車輪用軸受装置

【課題】 コンパクト化が可能で、磁気エンコーダの摩耗・膨潤や位置ずれを防止して正確な回転検出が可能な回転検出装置付き車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】 外方部材1内周の転走面3と内方部材2外周の転走面4との間に転動体5を介在させた車輪用軸受装置において、内方部材2の外周面に磁気エンコーダ21が取付けられる。外方部材1には磁気センサ24を内蔵するセンサホルダ25が取付けられ、磁気センサ24は磁気エンコーダ21と所定隙間を介して軸方向に対峙する。センサホルダ25と内方部材2の間は密封装置8で密封される。磁気エンコーダ21はプラスチック磁気エンコーダとされ、磁気エンコーダ21と内方部材2のいずれか一方または両方に、これら両部材を互いに係合させて磁気エンコーダ21を軸方向に位置規制する係合部21ab,10aが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンチロックブレーキシステムを備えた自動車等に用いられる回転検出装置付き車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、経済成長の著しいBRICs諸国向けの自動車部品の輸出が拡大している。そのような自動車部品のうち、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置では、前記アンチロックブレーキシステム(ABS)のタイヤロック検知センサとして、磁気エンコーダと、この磁気エンコーダをターゲットとして車輪の回転を検出する磁気センサとでなる回転検出装置を内蔵させ、前記磁気エンコーダとして磁性ゴム製のものを使用する場合が多い。
【0003】
上記したBRICs諸国では、未舗装の悪路で自動車が運転される場合も多いので、その自動車の車輪用軸受装置に回転検出装置が内蔵される場合には、その磁気エンコーダとして耐摩耗性の高いものが要求される。このため、従来は、加熱圧縮により製造される磁性ゴム製の磁気エンコーダの表面を非磁性材料からなる保護カバーで被覆して、摩耗防止を図るなどの対策が講じられていた。
【0004】
しかし、非磁性材料からなる保護カバーで磁気エンコーダの表面を被覆するのでは、磁気エンコーダの表面と、これに対向して配置される磁気センサとのギャップが大きくなるため、より磁束密度の大きい磁気エンコーダが必要となる。
【0005】
そこで、このような課題を解決するものとして、前記磁気エンコーダと磁気センサとを軸受内部に設置した回転検出装置付き車輪用軸受装置も提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−300289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このようにゴム製の磁気エンコーダを軸受内部に設置した場合、潤滑剤であるグリースが磁気エンコーダに接触し、しかも磁気エンコーダは転動体などの軸受発熱部近傍の高温環境下に配置されることになるので、磁気エンコーダが膨潤しやすく、磁気信号が乱れる不具合が生じ、正確な回転検出ができないという問題がある。また、このような構成では、軸方向スペースが大きくなるので、コンパクト化する必要もある。
【0007】
このような要請に応えるものとして、本発明者等は、図8や図9に示す構成の回転検出装置付き車輪用軸受装置を開発した。この回転検出装置付き車輪用軸受装置は、回転輪となる軸受の内方部材42の外周面に嵌合したアキシアル型のプラスチック磁気エンコーダ71と、磁気センサ74を内蔵し固定輪となる軸受の外方部材41に取付けられた円環状のセンサホルダ75と、前記プラスチック磁気エンコーダ71よりも軸受外側位置で前記センサホルダ75と前記内方部材42との間の空間を密封する密封装置48とを備える。図8の構成例では、磁気センサ74がプラスチック磁気エンコーダ71よりも軸受内側位置でプラスチック磁気エンコーダ71と所定間隔を介して軸方向に対峙するように配置される。図9の構成例では、プラスチック磁気エンコーダ71の外周面が軸方向に対して傾斜した傾斜面71bとされ、磁気センサ74はプラスッチック磁気エンコーダ71の傾斜面71bに対して所定隙間を介して平行に対峙するように配置される。
【0008】
上記構成の回転検出装置付き車輪用軸受装置では、磁気エンコーダとして、スリンガを有しないプラスチック磁気エンコーダ71を用いているので、コンパクト化およびコスト低減が可能となる。
しかし、この構成の場合、特許文献1に開示のゴム製磁気エンコーダのようにスリンガを介して内方部材42に嵌合したものに比べて、内方部材42に対するプラスチック磁気エンコーダ71の結合力が小さくなり、プラスチック磁気エンコーダ71の軸方向位置決めが不十分となる懸念がある。
【0009】
この発明の目的は、コンパクト化が可能で、磁気エンコーダの摩耗・膨潤や位置ずれを防止して正確な回転検出が可能な回転検出装置付き車輪用軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の回転検出装置付き車輪用軸受装置は、内周に複列の転走面が形成され固定側部材となる外方部材と、前記各転走面に対向する転走面が外周に形成され回転側部材となる内方部材と、これら対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置において、前記内方部材の外周面に嵌合して取付けられた磁気エンコーダと、磁気センサを内蔵しその磁気センサが前記磁気エンコーダと所定隙間を介して軸方向に対峙するように前記外方部材に取付けられた円環状のセンサホルダと、前記磁気エンコーダよりも軸受外側位置で前記センサホルダと前記内方部材との間の空間を密封する密封装置とを備え、前記磁気エンコーダをプラスチック磁気エンコーダとすると共に、この磁気エンコーダと前記内方部材のいずれか一方または両方に、これら両部材を互いに係合させて磁気エンコーダを軸方向に位置規制する係合部を形成したことを特徴とする。
この構成によると、磁気センサを内蔵したセンサホルダを、その磁気センサが前記磁気エンコーダと所定間隔を介して軸方向に対峙するように外方部材に取付け、磁気エンコーダよりも軸受外側位置でセンサホルダと内方部材との間の空間を密封する密封装置を設けている。このため、外部からの異物などにより磁気エンコーダが摩耗するのを防止できる。特に、磁気エンコーダとしてプラスチック磁気エンコーダを用いているので、その磁石部が潤滑剤であるグリースに接触して膨潤するのを防止できる。また、磁気エンコーダと内方部材のいずれか一方または両方に、これら両部材を互いに係合させて磁気エンコーダを軸方向に位置規制する係合部を形成しているので、磁気エンコーダの固定位置を正確に決めることができ、軸受の回転や温度変化等により位置ずれするのを防止することもできる。その結果、正確な回転検出が可能となる。
また、センサホルダと同じ軸方向位置に磁気エンコーダが配置されるので、磁気エンコーダの軸方向長さ分だけ、回転検出装置付き車輪用軸受装置の軸方向長さを短くでき、装置のコンパクト化が可能となる。
【0011】
この発明において、前記係合部が、前記内方部材の外周面に形成された凸部と、前記プラスチック磁気エンコーダの内周面に形成され前記凸部に係合する凹部とからなるものであっても良い。この構成の場合、簡単な構成の係合部で磁気エンコーダの軸方向の位置規制が行える。
【0012】
この発明において、前記係合部が、前記内方部材の外周面に形成された凹部と、前記プラスチック磁気エンコーダの内周面に形成され前記凹部に係合する凸部とからなるものであっても良い。この構成の場合、簡単な構成の係合部で磁気エンコーダの軸方向の位置規制が行える。
【0013】
この発明において、前記係合部が、前記内方部材の外周面に形成され前記プラスチック磁気エンコーダの軸方向に向く幅面に係合する段差面からなるものであっても良い。この構成の場合、簡単な構成の係合部で磁気エンコーダの軸方向の位置規制が行える。
【0014】
この発明において、前記プラスチック磁気エンコーダは、円周方向に磁極が並ぶ多極磁石を有する磁気エンコーダであり、前記多極磁石は磁性粉と熱可塑性樹脂とを含み、前記磁性粉含有熱可塑性樹脂の溶融粘度が30Pa・s以上1500Pa・s以下であっても良い。
プラスチック多極磁石の材料である磁性粉含有熱可塑性樹脂の溶融粘度が30Pa・sよりも小さいと、射出成形時においてバリが多量に発生し、適切に成形することが困難になる。また、熱可塑性樹脂の溶融粘度が1500Pa・sよりも大きいと、熱可塑性樹脂に磁性粉を混練することが困難となる。特に、磁性粉の割合を高くした場合に、混練不良が顕著となる。そこで、磁性粉含有熱可塑性樹脂の溶融粘度を、30Pa・s以上で、1500Pa・s以下とすることにより、生産性の良好なプラスチック磁気エンコーダを得ることができる。また、プラスチック磁気エンコーダの生産性向上は、回転検出装置付き車輪用軸受装置の生産性向上にもつながる。
【0015】
この発明において、前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンスルフィドの群から選択される1つ以上の化合物を含むものであっても良い。
これらの熱可塑性樹脂は、軸受に潤滑剤として使用されるグリースに高温浸漬された時でも非常に膨潤量が小さい(10%以下)ので、吸水性に乏しく、低温下での結露、塩水や泥水、雨水など、水分が多い環境下においても劣化に強く、車輪用軸受装置に組み込まれるプラスチック磁気エンコーダの材料として特に有効である。
【0016】
この発明において、前記磁性粉がフェライト系磁性粉であっても良い。フェライト系磁性粉は酸化しにくいため、プラスチップ磁気エンコーダの防食性を向上させることができる。
【0017】
この発明において、前記磁性粉が異方性フェライト系磁性粉であっても良い。
【0018】
この発明において、前記プラスチック磁気エンコーダが射出成形品であっても良い。射出成形によると、プラスチック磁気エンコーダの成形が容易に行える。
【0019】
この発明において、前記プラスチック磁気エンコーダは射出成形において磁場成形したものであっても良い。このように磁場成形することにより、より磁束密度の大きなプラスチック磁気エンコーダを得ることができる。
【0020】
この発明において、前記プラスチック磁気エンコーダが軸方向に対して傾斜した傾斜面をもち、前記円環状のセンサホルダが前記プラスチック磁気エンコーダの傾斜面に対して所定間隔を介して平行に対峙するように、外方部材に装着されていても良い。
このように傾斜面でプラスチック磁気エンコーダがセンサホルダと対峙する構成とすると、プラスチック磁気エンコーダは断面概形三角形状となるため、コンパクトな構成でプラスチック磁気エンコーダを強化することができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明の回転検出装置付き車輪用軸受装置は、内周に複列の転走面が形成され固定側部材となる外方部材と、前記各転走面に対向する転走面が外周に形成され回転側部材となる内方部材と、これら対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置において、前記内方部材の外周面に嵌合して取付けられた磁気エンコーダと、磁気センサを内蔵しその磁気センサが前記磁気エンコーダと所定隙間を介して軸方向に対峙するように前記外方部材に取付けられた円環状のセンサホルダと、前記磁気エンコーダよりも軸受外側位置で前記センサホルダと前記内方部材との間の空間を密封する密封装置とを備え、前記磁気エンコーダをプラスチック磁気エンコーダとすると共に、この磁気エンコーダと前記内方部材のいずれか一方または両方に、これら両部材を互いに係合させて磁気エンコーダを軸方向に位置規制する係合部を形成したため、コンパクト化が可能で、磁気エンコーダの摩耗・膨潤や位置ずれを防止して正確な回転検出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明の一実施形態を図1ないし図3と共に説明する。この実施形態の回転検出装置付き車輪用軸受装置は、第3世代型に分類される複列のアンギュラ玉軸受型であり、内輪回転タイプでかつ駆動輪支持用のものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0023】
この回転検出装置付き車輪用軸受装置における車輪用軸受装置は、図1に断面図で示すように、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を外周に形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、各転走面3,4は接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間のアウトボード側端は密封装置7によって密封されている。
【0024】
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックル60に取付ける車体取付用のフランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには、周方向の複数箇所に車体取付用のボルト孔14が設けられ、インボード側からナックル60のボルト挿通孔60aに挿通したナックルボルト61を前記フランジ1aのボルト孔14に螺合することにより、フランジ1aがナックル60にボルト止めされる。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。この貫通孔11に、等速ジョイント62の外輪63のステム部63aを挿通し、ステム部63aの基端周辺の段面と先端に螺合するナット64との間で内方部材2を挟み込むことで、車輪用軸受装置と等速ジョイント62とを連結している。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト15の圧入孔16が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、ブレーキロータとホイール(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。このパイロット部13の案内により、前記ハブフランジ9aにブレーキロータとホイールとを重ね、ハブボルト15で固定する。
【0025】
図2は、図1におけるA部の拡大断面図である。内方部材2の外周面のインボード側端には、プラスチック磁気エンコーダ21が嵌合して取付けられる。一方、外方部材1のインボード側端には、前記プラスチック磁気エンコーダ21の磁束を検出する磁気センサ24を内蔵した円環状のセンサホルダ25が取付けられる。前記プラスチック磁気エンコーダ21と磁気センサ24とで、プラスチック磁気エンコーダ21と一体の内方部材2の回転、つまり車輪の回転を検出する回転検出装置20が構成される。
【0026】
プラスチック磁気エンコーダ21は円環状の単体であり、内方部材2の外周面(ここでは内輪10の外周面)に圧入して固定される内周面21a、および軸受内側が大径となるように軸方向に対して傾斜した外周面である傾斜面21bを有する。
センサホルダ25は、その磁気センサ24が前記プラスチック磁気エンコーダ21の傾斜面21bに対して所定間隔を介して平行に対峙するように、外方部材1に取付けられる。
【0027】
プラスチック磁気エンコーダ21は、プラスチック磁気エンコーダ21と内方部材2の両方に形成された係合部21ab,10aで内方部材2に係合させることで、軸方向に位置規制される。この場合、内方部材2の係合部10aは、内方部材2の構成部品である内輪10の外周面に周方向に延びて環状に形成された凸部である。プラスチック磁気エンコーダ21の係合部21abは、その内周面21aに周方向に延びて環状に形成され前記内方部材2の係合部10aに係合する凹部である。なお、上記係合部10a,21abは、円周方向の複数箇所に局部的に設けられたものであっても良い。
【0028】
プラスチッック磁気エンコーダ21は、図3に示すように、円周方向に交互に磁極N,Sが並ぶように多極に磁化された環状のプラスチック多極磁石であり、磁性粉と、バインダとしての熱可塑性樹脂とを含む射出成形品とされる。前記磁極N,Sは、ピッチ円直径PCDにおいて、所定のピッチpとなるように形成されている。
【0029】
プラスチック磁気エンコーダ21の材料である磁性粉含有熱可塑性樹脂の溶融粘度が30Pa・sよりも小さいと、射出成形時においてバリが多量に発生し、適切に成形することが困難になる。また、熱可塑性樹脂の溶融粘度が1500Pa・sよりも大きいと、熱可塑性樹脂に磁性粉を混練することが困難となる。特に、磁性粉の割合を高くした場合に、混練不良が顕著となる。そこで、この実施形態では、前記磁性粉含有熱可塑性樹脂の溶融粘度を、30Pa・s以上で、1500Pa・s以下としている。これにより、生産性の良好なプラスチック磁気エンコーダ21を得ることができる。また、回転検出装置付き車輪用軸受装置の生産性向上にもつながる。
なお、この場合の熱可塑性樹脂の溶融粘度は、キャピログラフ(東洋精機(株)製)で、径1mmφ,ランド長10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度100(l/s)、熱可塑性樹脂の融点+50℃の温度で測定した結果を示す。
【0030】
また、この場合の熱可塑性樹脂としては、軸受に潤滑剤として使用されるグリースに高温浸漬された時でも非常に膨潤量の小さい(10%以下)ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポニフェニレンスルフィドの群から選択される1つ以上の化合物を含むものとするのが好ましい。このような熱可塑性樹脂は、吸水性が乏しいため、低温下での結露、塩水や泥水、雨水など、水分が多い環境下においても劣化に強く、車輪用軸受装置に組み込まれるプラスチック磁気エンコーダ21の材料として特に有効である。
【0031】
プラスチック磁気エンコーダ21の材料である磁性粉としては、バリウム系やストロンチウム系のフェライト粉が用いられる。フェライト系磁性粉の場合、等方性のフェライト系磁性粉であっても異方性のフェライト系磁性粉であっても良い。このようなフェライト系磁性粉は酸化しにくいため、プラスチック磁気エンコーダ21の防食性を向上させることができる。また、フェライト系磁性粉のみでは磁力が不足する場合、サマリウム鉄系磁性粉やネオジウム鉄系磁性粉などの希土類系磁性粉をフェライト系磁性粉に混合して使用しても良い。
【0032】
プラスチック磁気エンコーダ21は、以下の工程で製造される。まず、2軸押出機や混練機などを用いて、磁性粉と溶融した熱可塑性樹脂とを混練し、磁性粉を熱可塑性樹脂に適当に分散させる。その後、多極磁石の形状となるように射出成形等を行い、所望の成形体を得る。このようにして得られた成形品を、着磁ヨークを用いて多極に着磁することで磁極を形成する。なお、前記射出成形時には、磁気エンコーダ着磁面に対し80000Oe以上の垂直磁場を印加しながら磁場成形して、含有する磁性粉を磁場配向させるのが好ましい。このように磁場成形することにより、より磁束密度の大きなプラスチック磁気エンコーダ21を得ることができる。
【0033】
円環状のセンサホルダ25は、環状の芯金26と、磁気センサ24を内蔵し前記芯金26に結合された樹脂製のセンサ保持体27とでなる。センサ保持体27は、その軸方向の軸受内側端から内周面に突出してセンサ埋め込み突部27aが設けられる。このセンサ埋め込み突部27aは、先端面と軸受内側面との間の角部が、プラスチック磁気エンコーダ21の傾斜面21bに平行な傾斜面とされ、この傾斜面に沿って磁気センサ24が内蔵されている。センサ埋め込み突部27aは、円環状であっても、また円周方向の一部に局部的に設けられたものであっても良い。芯金26は、外方部材1の外周面に圧入して取付けられる外径円筒部26aと、この外径円筒部26aのインボード側端から内径側に延びる鍔部26bと、この鍔部26bの内径側端から軸方向に延びる内径円筒部26cとでなる。この芯金26は、耐食性を有するステンレス鋼板などをプレス加工して形成される。芯金26における内径円筒部26cの周方向複数箇所には穿孔28が形成され、この内径円筒部26cから鍔部26bにわたる部位に樹脂製のセンサ保持体27が一体モールド成形されている。前記芯金26の外径円筒部26aを外方部材1の外周面に圧入し、その鍔部26bを外方部材1のインボード側端面に密着させた状態で、センサホルダ25が外方部材1のインボード側端に固定される。
【0034】
センサホルダ25の内周と内方部材2の外周との間の空間は、前記プラスチック磁気エンコーダ21よりも軸受外側位置に設置される密封装置8によって密封される。この密封装置8は、内方部材2の外周面およびセンサホルダ25の内周面にそれぞれ装着された環状の第1および第2のシール板31,32を有する。
第1のシール板31は、内方部材2の外周面に圧入して取付けられる円筒部31aと、この円筒部31aのインボード側端から外径側に延びる立板部31bとでなる断面L字状に形成されている。この第1のシール板31は、オーステナイト系ステンレス鋼板、あるいは防錆処理された冷間圧延鋼板をプレス加工して形成される。
第2のシール板32は、センサホルダ25の内周面におけるインボード側に圧入して取付けられる円筒部32aと、この円筒部32aのアウトボード側端から内径側に延びる立板部32bとでなる断面逆L字状に形成される。この第2のシール板32は、その立板部32bが第1のシール板31の立板部31bよりもアウトボード側に位置して、第1のシール板31の立板部31bと軸方向に対面するように配置される。第2のシール板32には、サイドリップ33a、グリースリップ33b、および中間リップ33cを有するシール部材33が加硫接着されている。このシール部材33はゴム等の弾性部材からなる。前記サイドリップ33aは第1のシール板31の立板部31bに摺接し、グリースリップ33bおよび中間リップ33cは第1のシール板31の円筒部31aに摺接する。第1のシール板31の立板部31bの先端は、第2のシール板32の円筒部32aと僅かな径方向隙間を介して対向し、ラビリンスシールを構成する。この密封装置8により、外方部材1と内方部材2の間の軸受空間におけるインボード側端が密封される。
【0035】
この回転検出装置付き車輪用軸受装置では、車輪の回転に伴って内方部材2と一体のプラスチック磁気エンコーダ21が回転する。このとき、このプラスチック磁気エンコーダ21の着磁面である傾斜面21bと所定隙間を介して平行に対峙する磁気センサ24が、プラスチック磁気エンコーダ21の磁極N,Sの磁力の変化を読み取る。これにより、プラスチック磁気エンコーダ21と磁気センサ24とで構成される回転検出装置20は、車輪の回転を検出できる。
【0036】
また、この回転検出装置付き車輪用軸受装置では、内方部材2の外周面に嵌合して取付けられるプラスチック磁気エンコーダ21とで回転検出装置20を構成する磁気センサ24を内蔵したセンサホルダ25を、その磁気センサ24がプラスチック磁気エンコーダ21の傾斜面21bと平行に対峙するように外方部材1に取付け、プラスチック磁気エンコーダ21よりも軸受外側位置でセンサホルダ25と内方部材2との間の空間を密封する密封装置8を設けているので、外部からの異物などによりプラスチック磁気エンコーダ21が摩耗するのを防止できる。
【0037】
特に、磁気エンコーダとしてプラスチック磁気エンコーダ21を用いているので、磁気エンコーダが潤滑剤であるグリースと接触して膨潤するのを防止できる。また、プラスチック磁気エンコーダ21と内方部材2に形成した係合部21ab,10aでこれら両部材を互いに係合させて、プラスチック磁気エンコーダ21を軸方向に位置規制しているので、プラスチック磁気エンコーダ21の固定位置を正確に決めることができ、軸受の回転や温度変化等により位置ずれするのを防止することもできる。その結果、正確な回転検出が可能となる。
【0038】
また、センサホルダ25と同じ軸方向位置にプラスチック磁気エンコーダ21が配置されるので、プラスチック磁気エンコーダ21の軸方向長さ分だけ、回転検出装置付き車輪用軸受装置の軸方向長さを短くでき、装置のコンパクト化が可能となる。
【0039】
また、この実施形態の場合、プラスチック磁気エンコーダ21はその外周面が軸方向に対して傾斜した傾斜面21bとされた断面概形三角形状であるので、プラスチック磁気エンコーダ21の構造を強化することができる。
【0040】
図4は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態では、図1〜図3の実施形態の回転検出装置付き車輪用軸受装置において、プラスチック磁気エンコーダ21と内方部材2の両方に形成された係合部21aa,10bで内方部材2に係合させることで、プラスチック磁気エンコーダ21が軸方向に位置規制される。この場合、内方部材2の係合部10bは、内方部材2の構成部品である内輪10の外周面に周方向に延びて環状に形成された凹部である。プラスチック磁気エンコーダ21の係合部21aaは、その内周面21aに周方向に延びて環状に形成され前記内方部材2の係合部10bに係合する凸部である。係合部10b,21aaは、円周方向の複数箇所に局部的に設けられたものであっても良い。その他の構成は図1〜図3の実施形態の場合と同様である。
【0041】
図5は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図1〜図3の実施形態の回転検出装置付き車輪用軸受装置において、内方部材2に形成された係合部10cでプラスチック磁気エンコーダ21を内方部材2に係合させることで、プラスチック磁気エンコーダ21が軸方向に位置規制される。この場合、内方部材2の係合部10cは、内方部材2の構成部品である内輪10の外周面において、インボード側の大径部とアウトボード側の小径部の境界に形成された段差面であり、プラスチック磁気エンコーダ21のインボード側に向く幅面に係合して、プラスチック磁気エンコーダ21がインボード側へ位置ずれするのを規制する。その他の構成は図1〜図3の実施形態の場合と同様である。
【0042】
図6は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図1〜図3の実施形態の回転検出装置付き車輪用軸受装置において、内方部材2に形成された係合部10dでプラスチック磁気エンコーダ21を内方部材2に係合させることで、プラスチック磁気エンコーダ21が軸方向に位置規制される。この場合、内方部材2の係合部10dは、内方部材2の構成部品である内輪10の外周面において、インボード側の小径部とアウトボード側の大径部の境界に形成された段差面であり、プラスチック磁気エンコーダ21のインボード側に向く幅面に係合して、プラスチック磁気エンコーダ21がアウトボードへ位置ずれするのを規制する。その他の構成は図1〜図3の実施形態の場合と同様である。
【0043】
図7は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図1〜図3の実施形態の回転検出装置付き車輪用軸受装置において、内方部材2に形成された係合部10eでプラスチック磁気エンコーダ21を内方部材2に係合させることで、プラスチック磁気エンコーダ21が軸方向に位置規制される。この場合、内方部材2の係合部10eは、内方部材2の構成部品である内輪10の外周面に形成された軸方向中間の小径部分と両側の大径部分との間に形成された段差面である。プラスチック磁気エンコーダ21は、上記小径部分と両側の段差面の係合部10eとからなる円周溝状部分に嵌まり込み、アウトボードおよびインボード側のいずれの方向に対しても位置ずれが防止される。その他の構成は図1〜図3の実施形態の場合と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の一実施形態にかかる回転検出装置付き車輪用軸受装置の断面図である。
【図2】図1におけるA部の拡大断面図である。
【図3】プラスチック磁気エンコーダを正面から見た磁極の説明図である。
【図4】この発明の他の実施形態にかかる回転検出装置付き車輪用軸受装置の部分拡大断面図である。
【図5】この発明のさらに他の実施形態にかかる回転検出装置付き車輪用軸受装置の部分拡大断面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態にかかる回転検出装置付き車輪用軸受装置の部分拡大断面図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態にかかる回転検出装置付き車輪用軸受装置の部分拡大断面図である。
【図8】提案例の部分拡大断面図である。
【図9】他の提案例の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1…外方部材
2…内方部材
3,4…転走面
5…転動体
8…密封装置
10a〜10d,21aa,21ab…係合部
20…回転検出装置
21…プラスチック磁気エンコーダ
24…磁気センサ
25…センサホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の転走面が形成され固定側部材となる外方部材と、前記各転走面に対向する転走面が外周に形成され回転側部材となる内方部材と、これら対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置において、
前記内方部材の外周面に嵌合して取付けられた磁気エンコーダと、磁気センサを内蔵しその磁気センサが前記磁気エンコーダと所定隙間を介して軸方向に対峙するように前記外方部材に取付けられた円環状のセンサホルダと、前記磁気エンコーダよりも軸受外側位置で前記センサホルダと前記内方部材との間の空間を密封する密封装置とを備え、
前記磁気エンコーダをプラスチック磁気エンコーダとすると共に、この磁気エンコーダと前記内方部材のいずれか一方または両方に、これら両部材を互いに係合させて磁気エンコーダを軸方向に位置規制する係合部を形成したことを特徴とする回転検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、前記係合部が、前記内方部材の外周面に形成された凸部と、前記プラスチック磁気エンコーダの内周面に形成され前記凸部に係合する凹部とからなる回転検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項3】
請求項1において、前記係合部が、前記内方部材の外周面に形成された凹部と、前記プラスチック磁気エンコーダの内周面に形成され前記凹部に係合する凸部とからなる回転検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項4】
請求項1において、前記係合部が、前記内方部材の外周面に形成され前記プラスチック磁気エンコーダの軸方向に向く幅面に係合する段差面からなる回転検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記プラスチック磁気エンコーダは、円周方向に磁極が並ぶ多極磁石を有する磁気エンコーダであり、前記多極磁石は磁性粉と熱可塑性樹脂とを含み、前記磁性粉含有熱可塑性樹脂の溶融粘度が30Pa・s以上1500Pa・s以下である回転検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項6】
請求項5において、前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンスルフィドの群から選択される1つ以上の化合物を含む回転検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6において、前記磁性粉がフェライト系磁性粉である回転検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項8】
請求項7において、前記磁性粉が異方性フェライト系磁性粉である回転検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記プラスチック磁気エンコーダが射出成形品である回転検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項10】
請求項9において、前記プラスチック磁気エンコーダは射出成形において磁場成形したものである回転検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記プラスチック磁気エンコーダが軸方向に対して傾斜した傾斜面をもち、前記円環状のセンサホルダが前記プラスチック磁気エンコーダの傾斜面に対して所定間隔を介して平行に対峙するように、外方部材に装着された回転検出装置付き車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−43907(P2010−43907A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207113(P2008−207113)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】