説明

回転治具機構

【課題】 回転部材の治具取付面に対するワーク受渡しを常に円滑に行え、同種のワークが連続してもサイクルタイムを短くできるようにすること。
【解決手段】 水平な中心軸12を中心に回転する回転部材11の複数の治具取付面13a…の各々に3種類のワーク5に対応させた3種類の位置決め治具14a…を設け、回転部材11をサーボモータ21で正逆両方向に任意の回転角度で回転駆動させ、回転部材11の回転角をエンコーダ22で検出してサーボモータ21に駆動制御信号を出力し、回転部材11をブレーキ手段23を使って任意の回転位置で回転停止させる。3面の治具取付面13a…のいずれか1面をワーク受渡し位置に戻すときに最短距離で戻るように、回転部材11の回転方向を選択してサイクルタイムを短縮し、ワーク取付直後にブレーキ手段23で回転部材11の回転を拘束する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車体パネル等の複数種類のワークが混流するワーク加工組立ラインに設置される回転治具機構に係り、特に複数種類のワークを種類毎に設置された位置決め治具で位置決め保持して回転移動させる回転治具機構に関する。
【0002】
【従来の技術】サイドメンバー等の車体パネルの加工組立ラインに設置され、同ラインを混流する複数種類の車体パネルを種類毎の位置決め治具で位置決め保持して、所定の加工組立ステーションに移動させる回転治具機構は、例えば図5及び図6に示すような正三角形構造の回転部材1を備えるものがある。回転部材1は、水平な中心軸2を中心に一定方向に間欠回転するもので、中心軸2から等距離の外周3面の各々が治具取付面3a、3b、3cとなっている。各治具取付面3a、3b、3cに3種類の車体パネル(以下、ワークと称する)5に対応させた3種類の位置決め治具4a、4b、4cが設置される。
【0003】回転部材1の中心軸2が支柱6の上部に回転可能に支持され、支柱6の下部がスライド部材7に固定される。スライド部材7が水平な作業台8上に水平な前後方向にスライド可能に支持される。作業台8上の後端部が受渡しステーションS1であり、反対の先端部がワーク加工組立ステーションS2である。前後両ステーションS1とS2の間をスライド部材7、支柱6及び回転部材1のユニットが前後往復移動する。
【0004】支柱6に対して回転部材1は、図示しない回転駆動源やラチェット機構等で定方向に回転駆動する。また、回転部材1には、その3面の治具取付面3a、3b、3cのいずれか1面が図5のように水平、或いは、図6のように鉛直になると回転部材1の回転を停止させるロック機構が付設される。このロック機構は、回転部材1の例えば両側の三角形端面の角部に形成したロック穴9と、このロック穴9の回転軌跡に沿った定位置に設置された複数のロックピン(図示せず)の組合せで構成される。回転部材1を回転させてロック穴9をロックピン位置まで移動させて、ロックピンをロック穴9に嵌挿することで回転部材1が定位置でロックされる。
【0005】図5のように回転部材1が受渡しステーションS1に在るとき、回転部材1の任意の1つの治具取付面3aが最上部位置となる水平なワーク受渡し位置に静止した状態で回転部材1がロックされる。この水平なワーク受渡し位置の治具取付面3a上の位置決め治具4aに、真上から1種類のワーク5が供給されて位置決め保持される。位置決め治具4aに保持されたワーク5は、必要に応じて図示しないクランパーでクランプされて、回転部材1に安定に支持される。
【0006】受渡しステーションS1で1種類のワーク5が回転部材1に供給されると、回転部材1のロック解除が行われた後、回転部材1が図5の反時計方向に所定角度だけ回転駆動される。そして、ワーク5を保持する治具取付面3aが水平姿勢から鉛直な姿勢になると、回転部材1が再びロックされる。次に、スライド部材7が油圧シリンダ(図示せず)等で定ストローク前進移動させられて、図6に示すように回転部材1が加工組立ステーションS2まで移送される。加工組立ステーションS2には溶接ロボット等が設置されて、加工組立ステーションS2に搬入された鉛直姿勢のワーク5の溶接や、他のワーク類の組付け等の所定のワーク加工組付作業が行われる。
【0007】加工組立ステーションS2でワーク5の加工組立作業が終了すると、ワーク5が回転部材1の治具取付面3aから取り外されて、空になった回転部材1がスライド部材7の後退移動で再び受渡しステーションS1まで戻される。受渡しステーションS1で回転部材1のロック解除と回転動作が行われて、次の同種或いは別種のワークの供給を受けて、上記要領でワークの加工組立作業が繰り返し行われる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】図5のワーク受渡しステーションS1で回転部材1の水平な治具取付面3aに対応する種類のワーク5を供給する場合、ロックされた回転部材1の治具取付面3aの位置決め治具4aに対してワーク5の相対位置関係を高精度に保った状態でワーク5を位置決め治具4aに受け渡す必要があるが、このような相対位置関係を常に高精度に保つことが難しくて、両者間に若干の位置ズレがあるとワーク受渡し動作が円滑に行われないことがある。
【0009】また、受渡しステーションS1に戻された回転部材1に供給される次のワークが、先行のワーク5と異なる種類のワークの場合、この次のワークの種類に応じた治具取付面3b、3cのいずれかが水平なワーク受渡し位置まで回転移動するように、回転部材1が図6の状態から反時計方向に回転する。また、受渡しステーションS1に戻された回転部材1に供給される次のワークが先行ワーク5と同種の場合、この先行ワーク5を位置決め保持した治具取付面3aが水平なワーク受渡し位置まで回転移動するように回転部材1が図6の状態から反時計方向に270°回転して、水平姿勢にロックされた治具取付面3aに次のワークが供給される。
【0010】このように3種類のワークに対応させた回転部材1においては、連続的に供給されるワークの種類が毎回異なっていれば、次のワーク受け取りのために行われる回転部材1の必要な回転角度は比較的小さくて済むが、同種のワークが続くような場合に回転部材1は次のワーク受け取りのために毎回270°まで大きく反時計方向に回転する必要があり、この回転に要する時間が連続したワーク加工組立工程のサイクルタイムを長くしていた。
【0011】本発明の目的は、ワーク受渡しが常に円滑に行え、同種のワークが連続してもサイクルタイムを短くできる高性能な回転治具機構を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するため、水平な中心軸を中心に回転する回転部材の外周の周方向に設けた複数の治具取付面の各々に、複数種類のワークに対応した位置決め治具を取付け、回転部材の回転で所定のワーク受渡し位置に静止した1つの治具取付面の位置決め治具に対応する1種類のワークを位置決め保持させ、このワークを回転部材の回転で所定の加工組立位置まで移動させてワークの加工組立作業をしてからワークを治具取付面から取り外すようにした回転治具機構において、上記回転部材を任意の正逆両方向に任意の回転角度で回転駆動させるサーボモータと、回転部材の回転角を検出して前記サーボモータに駆動制御信号を出力するエンコーダと、回転部材を任意の回転位置で回転停止させるブレーキ手段とを具備したことを特徴とする。
【0013】ここで、回転部材は中心軸を中心に正逆両方向に回転するように設置され、この回転部材の正逆回転をサーボモータで行わせ、回転部材の回転角をエンコーダで逐一検出して回転部材の回転停止位置等の駆動制御信号を出力させることで、回転部材の1つの治具取付面が所定のワーク受渡し位置に最短距離で移動するようにする。また、回転部材をブレーキ手段で任意の回転位置で回転停止させるようにすることで、回転部材を所定の位置でのみ回転停止させるロック機構を回転部材から省略する。
【0014】また、本発明においては、回転部材のワーク受渡し位置に在る任意の1つの治具取付面の位置決め治具にワークを位置決めしてから、ブレーキ手段で回転部材の回転を停止させることが望ましい。このようにすることで、回転部材にワークを受け渡す際に、ワークからの応力で回転部材が従動回転して治具取付面の位置決め治具のワークに対する方向性が最適方向に変動して、ワークの常に良好な受渡し動作が可能となる。
【0015】
【発明の実施の形態】図1(A)に示される実施形態の回転治具機構10は、水平な中心軸12を中心に回転する回転部材11を備える。回転部材11は、外面に複数の治具取付面13a、…を有する多角形構造、例えば正三角形構造で、中心軸12から等距離の外周3面の各々が治具取付面13a、13b、13cであり、各治具取付面13a、13b、13cに3種類の車体パネル等のワーク5に対応させた3種類の位置決め治具14a、14b、14cが設置される。この正三角形構造の回転部材11の基本構造は、図5の回転部材1と同様でよく、また、回転部材11は図5と同様な支柱16の上部に正逆回転可能に支持され、支柱16はスライド部材17に立設され、スライド部材17は水平な作業台18上に受渡しステーションS1とワーク加工組立ステーションS2との間を往復移動可能に設置される。
【0016】回転部材11の中心軸12が支柱16の上部に回転可能に支持され、支柱16の下部がスライド部材17に固定される。スライド部材17が水平な作業台18上に水平な前後方向にスライド可能に支持される。作業台18上の後端部が受渡しステーションS1であり、反対の先端部がワーク加工組立ステーションS2である。前後両ステーションS1とS2の間をスライド部材17、支柱16及び回転部材11のユニットが前後往復移動する。
【0017】本発明は図1(B)に示すように、回転部材11をサーボモータ21で正逆両方向に任意の回転角度で回転駆動させること、及び、回転部材11の回転角をエンコーダ22で検出してサーボモータ21に駆動制御信号を出力すること、及び、回転部材21をブレーキ手段23を使って任意の回転位置で回転停止させることを特徴としている。
【0018】例えばサーボモータ21はスライド部材17上に固設され、サーボモータ21の正逆回転可能な回転駆動軸と回転部材11の中心軸12とがスプロケット等を介してチェーン連結される。また、回転部材11の端面から突出する中心軸12に円形ブレーキ盤24を同軸に固定し、ブレーキ盤24に接近させて定位置に配置したエンコーダ22でブレーキ盤24の回転角を検出することで、エンコーダ22で回転部材21の回転角を逐一検出するようにしている。さらに、ブレーキ盤24の半径方向に前進後退するようにブレーキ手段23を配置し、シリンダ25等でブレーキ手段23を前進させるとこのブレーキ手段23がブレーキ盤24の外周に定方向から摩擦係合してブレーキ盤24の回転にブレーキを掛けて、ブレーキ手段23で回転部材21の回転を任意の位置で停止させるようにしている。エンコーダ22による回転部材検出信号が制御回路30に出力され、この出力信号を制御回路30が判読してサーボモータ21とブレーキ手段23の駆動制御信号を出力する。
【0019】図1(A)のように回転部材11が受渡しステーションS1に在り、回転部材11の任意の1つの例えば治具取付面13aが水平なワーク受渡し位置に静止した状態において、この治具取付面13aの位置決め治具14aに対応する1種類のワーク5が位置決め治具14aに位置決めされて取り付けられる。ここで、ワーク5が位置決め治具14aに取り付けられる時点では、図1(B)に示すようにブレーキ手段23をブレーキ盤24から離して回転部材11をサーボモータ21だけで保持された半自由状態にしておき、位置決め治具14aにワーク5が取り付けられた時点でブレーキ手段23を前進させてブレーキ盤24に摩擦係合させて、回転部材11に回転を停止させるようブレーキを掛ける。
【0020】すなわち、ブレーキ手段23が回転部材11にブレーキを掛けない状態で位置決め治具14aにワーク5を受け渡すとき、仮に図2(A)に示すように位置決め治具14aの方向とワーク5の重心方向wに若干のズレが有るような場合、この方向ズレを無くすようにワーク5に追従して回転部材11が従動回転して、結果的に図2(B)に示すように位置決め治具14aの方向がワーク5の重心方向wに自動変更されて、ワーク5が位置決め治具14aに位置ズレ無く正常な状態で位置決め保持される。また、図2(A)のときに位置決め治具14aに対してワーク5が正常な相対位置関係にあると、回転部材11は上記のように従動回転することが無くて、位置決め治具14aにワーク5が図2(B)のように速やかに受け渡される。また、図2(B)の状態でブレーキ手段23が動作して回転部材11の回転が停止し、この状態で必要に応じてワーク5のクランパー等による治具取付面13aでの安定した支持が行われる。
【0021】図2(B)のように受渡しステーションS1で1種類のワーク5が回転部材11に供給された後、ブレーキ手段23が後退して回転部材11へのブレーキ動作が解かれてから、サーボモータ21が作動して回転部材11を図1の反時計方向に回転させ、ワーク5を保持する治具取付面13aが水平姿勢から鉛直な姿勢になる角度まで回転するとこれをエンコーダ22が検知してサーボモータ21を停止させる。また、スライド部材17が油圧シリンダ(図示せず)等で定ストローク前進移動させられて、図4に示すように回転部材11が加工組立ステーションS2まで移送される。加工組立ステーションS2には(従来同様に)溶接ロボット等が設置されて、加工組立ステーションS2に搬入された鉛直姿勢のワーク5の溶接や、他のワーク類の組付け等の所定のワーク加工組付作業が行われる。
【0022】加工組立ステーションS2でワーク5の加工組立作業が終了すると、ワーク5が回転部材11の治具取付面13aから取り外されて、空になった回転部材11がスライド部材17の後退移動で再び受渡しステーションS1まで戻されて、次のワークの供給に備えて図4R>4に示すように回転方向が選択されて回転部材11が回転される。
【0023】図4(A)は1種類のワークが外された1つの治具取付面13aが鉛直姿勢に在る状態を示し、この状態で先のワークと同種のワークを治具取付面13aに供給する場合は、図4(B)に示すように回転部材11を時計方向に90°回転させて、治具取付面13aを水平なワーク受渡し位置に移動させる。つまり、同種のワークを連続して加工組立作業する場合は、回転部材11を図4(B)と図4(A)の間で90°正逆回転させれば、回転部材11は最短距離の最小回転角で回転動作してワーク加工組立工程のサイクルタイムを短縮する。このような回転部材11の90°の正逆回転動作は、サーボモータ21とエンコーダ22で正確に制御して行うことが容易である。
【0024】図4(A)の回転部材11に先のワークと異なる種類のワークを、例えば治具取付面13cに供給する場合は、図4(C)に示すように回転部材11を反時計方向に30°回転させて治具取付面13cを水平なワーク受渡し位置に移動させる。また、図4(A)の回転部材11に先のワークと異なる種類のワークを治具取付面13bに供給する場合は、図4(D)に示すように図4(A)の回転部材11を反時計方向に150°回転させて治具取付面13bを水平なワーク受渡し位置に移動させる。なお、図4(A)の回転部材11を時計方向に210°回転させて治具取付面13bを水平なワーク受渡し位置に移動させることも可能であるが、この場合は1回の回転角度が大きくなってサイクルタイムを長くするので不適当である。
【0025】以上の回転部材11の3面の治具取付面13a、13b、13cのいずれかを水平なワーク受渡し位置に移動させる際の回転方向と回転角度は、回転するときの各治具取付面13a、13b、13cの位置から割り出されて最短距離で移動できるように回転方向が正逆いずれか方向に選択され、回転角度が決定される。したがって、3面の各治具取付面13a、13b、13cがいずれの位置にあっても回転部材11が最短距離で回転して、ワークの連続した加工組立作業のサイクルタイムが確実に短縮される。
【0026】なお、上記実施形態における回転部材の治具取付面は3面としたが、4面或いは4面以上としてもよく、このように治具取付面の数が多くなるほど、各治具取付面を最短距離でワーク受渡し位置に戻す時間短縮効果が顕著となり、サイクルタイムがより効果的に短縮できる。
【0027】
【発明の効果】本発明によれば、回転部材の複数の治具取付面の任意の1面をワークが供給される位置に戻す際の回転部材の回転角を、回転部材の回転方向の選択により最小にすることができて、複数種類のワークの連続した加工組立作業のサイクルタイムの短縮が可能となる。
【0028】また、回転部材の治具取付面の位置決め治具にワークを取り付けた時点で回転部材の回転をブレーキ手段で停止させるようにすることで、ワーク取付時にワークからの応力で回転部材が従動回転して、位置決め治具のワークに対する方向性にズレがあっても、このズレが修正されるように位置決め治具が自動的に変動して、常に正常な状態でワークの位置決め保持が実行される。また、このようにワークが常に無理なく位置決め治具に受け渡されるために、ワークの位置決め治具との着脱動作が常に円滑に、ワークや位置決め治具に損傷を与えること無く行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は本発明に係る回転治具機構の一実施形態を示す正面図、(B)は回転部材の駆動系の概要を示す回路図。
【図2】(A)及び(B)は図1の回転治具機構のワーク取付時及び取付後での部分拡大正面図。
【図3】図1の回転治具機構のワーク加工組立ステーションでの正面図。
【図4】(A)〜(D)は図3の回転治具機構における回転部材のワーク受渡し位置への戻り回転時での各種状態を示す正面図。
【図5】従来の回転治具機構の正面図。
【図6】図5の回転治具機構のワーク加工組立ステーションでの正面図。
【符号の説明】
5 ワーク
11 回転部材
12 中心軸
13a〜13c 治具取付面
14a〜14c 位置決め治具
21 サーボモータ
22 エンコーダ
23 ブレーキ手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水平な中心軸を中心に回転する回転部材の外周の周方向に設けた複数の治具取付面の各々に、複数種類のワークに対応した位置決め治具を取付け、回転部材の回転で所定のワーク受渡し位置に静止した1つの治具取付面の位置決め治具に対応する1種類のワークを位置決め保持させ、このワークを回転部材の回転で所定の加工組立位置まで移動させてワークの加工組立作業をしてからワークを治具取付面から取り外すようにした回転治具機構において、上記回転部材を任意の正逆両方向に任意の回転角度で回転駆動させるサーボモータと、回転部材の回転角を検出して前記サーボモータに駆動制御信号を出力するエンコーダと、回転部材を任意の回転位置で回転停止させるブレーキ手段と、を具備したことを特徴とする回転治具機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2001−334421(P2001−334421A)
【公開日】平成13年12月4日(2001.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−156225(P2000−156225)
【出願日】平成12年5月26日(2000.5.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】