説明

回転軸の異常診断装置

【課題】回転軸の亀裂の発生や進展に伴う弾性波信号を、減衰させることなく、受信することができる回転軸の異常診断装置を提供する。
【解決手段】スピンドル4に発生する弾性波を検出する少なくとも1個以上のAEセンサ12と、AEセンサ12に有線接続され、AEセンサ12の信号に基づいて異常を診断する解析手段16と、流体fが封入され、スピンドル4の周面に当接し、スピンドル4の回転に伴って回転可能とされた回転体11とを有し、AEセンサ12は、流体fに少なくとも一部が浸されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸において発生する亀裂や磨耗発生等の異常を診断する異常診断装置に関し、特に、回転軸の亀裂の発生や進展に伴って発生する弾性波信号をアコースティックエミッション(AE)センサで検出する異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鋼板などを圧延する圧延機には、鋼板を圧延する一対の圧延ローラにモーターから駆動力を伝達するために、ギアや回転軸が多数介在している。
各々のスピンドルを支持する軸受は、使用条件によっては、運転中に微細な磨耗粉等が発生し、磨耗粉が異物となって潤滑油に混入して焼き付き等の異常が発生したり、亀裂等の損傷が発生することがある。
【0003】
このような異常や損傷の存在を検知する手段としては、加速度計等の振動センサで圧延機等の振動を計測する手段や、軸受の亀裂の発生や進展に伴って発生する弾性波(AE信号)をアコースティックエミッション(AE)センサで計測する手段が挙げられる。そして、これらの検知手段は軸受に取付けられることが多い。
しかしながら、圧延機における亀裂や磨耗等の異常発生は、軸受だけでなく、スピンドルそのものに発生することがある。
【0004】
この場合、従来の軸受に設けられたAEセンサは、スピンドルの亀裂発生や進展に伴って発生する弾性波(AE信号)を、軸受経由で受信することとなる。
しかし、軸受に取付けたAEセンサによって、軸受を介してスピンドルの異常を検出する方法では、スピンドルから発生する弾性波(AE信号)が減衰してしまうという問題がある。
【0005】
このような問題を解決する方法として、例えば、特許文献1に記載の技術が開示されている。
図4は、特許文献1における異常診断装置を示す図である。図4に示すように、特許文献1に記載の異常診断装置は、回転体23にAEセンサ1を直接設置し、このAEセンサ1が検知したAE信号を、異常診断手段を備えた受信装置(図示せず)に無線で伝送する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−26414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された技術においては、回転体に直接設置されたAEセンサが検知したAE信号を異常診断手段に無線で伝送するため、無線で伝送した信号にノイズが含まれる。このノイズの発生によって、微弱なAE信号をAEセンサが検出できない可能性があり、結果として異常診断の検出の精度の低下をもたらしていた。
また、AEセンサや送信アンテナが回転体に設置されるため、AEセンサや送信アンテナへの給電方法に課題が残されている。給電方法としては、例えば、スリップリングなどを用いることが挙げられる。しかし、このような給電方法によっても、ノイズの発生やスリップリングにおける接触不良などの問題が生じやすく、異常診断の検出の精度が低下する結果を招くことになる。なお、特許文献1には、このような問題を解決する手段については何ら開示されていない。
【0008】
従って、本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、回転軸の亀裂の発生や進展に伴う弾性波信号を、減衰させることなく受信することができる異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するため、本発明の請求項1に係る回転軸の異常診断装置は、回転軸に発生する弾性波を検出する少なくとも1個以上の弾性波検出手段と、その弾性波検出手段に有線接続され、前記弾性波検出手段で検出された弾性波に基づいて前記回転軸の異常を解析する解析手段とを有する回転軸の異常診断装置であって、流体が封入され、前記回転軸の周面に当接し、前記回転軸の回転に伴って回転可能とされた回転体を有し、
前記弾性波検出手段が、前記流体に少なくとも一部が浸されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1に係る回転軸の異常診断装置によれば、スピンドル(回転軸)の周面に当接し、前記回転軸の回転に伴って回転可能とされた回転体を設け、該回転体に封入された流体に浸るように前記弾性波検出手段を設けたので、スピンドルにおける亀裂の発生や進展に伴う弾性波信号を減衰させることなく直接受信することができる。また、弾性波検出手段と解析手段とが有線接続されているので、得られた弾性波をAE信号として解析手段に送信する際、無線送信によるノイズ減衰が発生しない。
【0011】
特に、スピンドルに生じた亀裂等を伝播する流体が前記回転体に封入され、流体が溢れ出ないようにされているので、流体の保持力が高く、弾性波の伝播性を維持することができる。そして、このような構成により、単に、回転軸とAEセンサとの間に媒体として流体を介在させるよりも弾性波の伝播性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る異常診断装置が設置される圧延機の構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係る回転軸の異常診断装置の一実施形態における回転体の構成を示す概略図である。
【図3】本発明に係る回転軸の異常診断装置の一実施形態における構成を示す概略図である。
【図4】従来の異常診断装置を備えた圧延機の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る回転軸の異常診断装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る回転軸の異常診断装置の一実施形態における圧延機の構成を示す概略図である。また、図2は、本発明に係る回転軸の異常診断装置の一実施形態における回転体の構成を示す図であり、図2(a)は、スピンドル4aと回転体11aとの構成を示す側面図であり、図2(b)は、圧延ロール2a側から見たスピンドル4aと回転体11aとの構成を示す正面図である。
【0014】
図1に示すように、圧延機1は、モーター(電動機)8と、モーター8の駆動力をスピンドル4a,4bに伝達するピニオンギア6a,6b、及び減速機7と、スピンドル4a,4bに連結され、鋼材50を挟んで圧延する一対の圧延ロール2a,2bとを有する。
スピンドル4a,4bは、圧延ロール2a,2bの回転軸5a,5bにそれぞれ連結されている。スピンドル4a,4bのそれぞれには、相互に噛み合わされたピニオンギア6a,6bが連結されている。ピニオンギア6aには、減速機7を介して、モーター8の駆動力を伝達する回転軸9が連結されている。回転軸5a,5bの両端部、スピンドル4a,4b、及び回転軸9には、これらをそれぞれ支持する複数の軸受3が設けられている。
【0015】
そして、スピンドル4a,4bのそれぞれの周面の上方には、スピンドル4a,4bの周面に当接し、スピンドル4a,4bの回転に伴って回転可能とされた円柱形状の回転体11a,11bが設置されている。回転体11a,11bの回転軸は、スピンドル4a,4bの回転軸に平行とされる。
図2に示すように、回転体11a,11bは中空構造とされ、内部には所定量の流体fが封入されている。このように、スピンドル4a,4bに生じた亀裂等を伝播する流体fが回転体11a,11bに封入され、流体fが溢れ出ないようにされているので、流体fの保持力が高く、弾性波の伝播性を維持することができる。
【0016】
また、回転体11a,11bは、圧延機1に一端部が取り付けられた柱形状の支持手段15a,15bにベアリング14を介して軸支されている。すなわち、回転体11a,11bのそれぞれの周面は、スピンドル4a,4bの周面に当接し、スピンドル4a,4bの回転に伴って支持手段15a,15bを回転軸として回転可能とされる。なお、支持手段15a,15b、及びベアリング14には、流体fが回転体11a,11bから溢れ出ないようにシール部材等(図示せず)でシール処理されている。
【0017】
また、支持手段15a,15bは、それらの一部分が回転体11a,11bの内部に嵌入されている。そして、支持手段15a,15bの他端部には、スピンドル4に亀裂が発生したときに発生する弾性波(AE信号)を検出するためのAEセンサ12a,12bが設置されている。これらのAEセンサ12a,12bの少なくとも一部は、回転体11a,11b内に封入された流体fに浸されている。従って、AEセンサ12aは、回転体11aに封入された流体fに浸されることによって、該流体f及び回転体11aを介してスピンドル4a内部で発生した弾性波を高い精度で検知することができる。
【0018】
このように構成された圧延機1は、モーター8からの出力が、減速機7を介して伝達されたピニオンギア6a,6bで上下に分配されて、スピンドル4a,4bへと駆動力が伝達される。駆動力が伝達されたスピンドル4a,4bは、回転軸5a,5bを介して、圧延ロール2a,2bを回転させて、鋼材50を圧延する。
【0019】
流体fとしては、液体状であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、回転体11a,11bの音響インピーダンスとの差が小さい音響インピーダンスを呈する流体が好ましい。流体fの例としては、主成分である水、有機溶剤、又は油等の液体(分散媒)、及びその粒子に吸着して粒子を液体(分散媒)中に安定して分散させるための界面活性剤の2成分よりなるコロイド溶液がある。
【0020】
また、回転体11a,11bの材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、スピンドル4a,4bの音響インピーダンスとの差が小さい音響インピーダンスを呈する材料が好ましい。回転体11a,11bの材料の例としては、プラスチックやアルミニウムである。
このように、本実施形態における圧延機1では、回転体11a,11bの音響インピーダンスと、流体fの音響インピーダンスと、スピンドル4a,4bの音響インピーダンスとの差が小さいことが好ましい。また、回転体11a,11bの音響インピーダンスが、流体fの音響インピーダンスと、スピンドル4a,4bの音響インピーダンスとの間であることがより好ましい。なお、音響インピーダンスは、例えば、公知の近接法、反射法、比較法、定在波管法、管内法等から適宜選択された測定方法によって測定される。
【0021】
図3は、本発明に係る回転体の異常診断装置の構成を示すブロック図である。図3に示すように、異常診断装置10は、弾性波検出手段10a,10bと、解析手段16とを有する。弾性波検出手段10a,10bは、回転体11a,11bに封入された流体fを介してそれぞれ設けられたAEセンサ12a,12bと、各AEセンサ12a,12bに接続されたプリアンプ13a,13bとを有する。解析手段16は、具体的には、AE信号を解析する手段であり、プリアンプ13a,13bに接続されている。プリアンプ13a,13bと、解析手段16とは有線で接続されている。このため、弾性波検出手段10a,10bで得られた弾性波をAE信号として解析手段16に送信する際、無線送信によるノイズ減衰が発生しない。
【0022】
このように構成された異常診断装置10は、AEセンサ12a、12bの出力がプリアンプ13a,13bを経由して増幅され、解析手段16でフーリエ変換等の信号処理がなされて、スピンドル4a,4bにおける異常が検出可能にされている。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。例えば、1つのスピンドル4に、AEセンサ12を備えた回転体11をスピンドル4の長手方向に複数設けてもよい。AEセンサ12を備えた回転体11をスピンドル4の長手方向に複数設けることによって、スピンドル4の異常を高い精度で検知するだけでなく、その異常が発生している箇所を特定しやすくなる。また、スピンドル4に対して回転体11を常に回転接触させるために、回転体11をスピンドル4側に付勢する弾性体を用いた付勢手段を設けてもよいし、スピンドル4と回転体11との間にグリース等を介在させてもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 圧延機
2a,2b 圧延ロール
3 軸受
4a,4b スピンドル(回転軸)
10 異常診断装置
11 回転体
12 AEセンサ
14 軸受
15 支持手段
16 解析手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に発生する弾性波を検出する少なくとも1個以上の弾性波検出手段と、その弾性波検出手段に有線接続され、前記弾性波検出手段で検出された弾性波に基づいて前記回転軸の異常を解析する解析手段とを有する回転軸の異常診断装置であって、流体が封入され、前記回転軸の周面に当接し、前記回転軸の回転に伴って回転可能とされた回転体を有し、
前記弾性波検出手段が、前記流体に少なくとも一部が浸されたことを特徴とする回転軸の異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−243398(P2010−243398A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93995(P2009−93995)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】