説明

回転軸装置における転がり軸受の取付け構造

【課題】内輪、外輪の軌道面および転動体の転動面の摩耗を無くすとともに、フレッチングおよびクリープの発生を無くした転がり軸受の取付け構造を提供する。
【解決手段】内輪20の一側端面および外輪11の一側端面の少なくともどちらか一方に当接可能な第1の突出部63、73を、回転軸70およびハウジング61の少なくともどちらか一方に形成し、内輪20の他側端面および外輪11の他側端面の少なくともどちらか一方に当接可能な第2の突出部80、85を、回転軸70およびハウジング61の少なくともどちらか一方に設け、内輪20の一側端面の内縁および外輪11の一側端面の外縁の少なくともどちらか一方に面取り14、24を形成し、第1の突出部63、73および面取り14、24間にゴム製のリング状の弾性部材84、89を介挿するとともに回転軸70およびハウジング61に当接させ、一対の係合テーパ24に加工硬化層24aを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内輪、外輪、転動体とからなる転がり軸受を、回転軸およびハウジングの少なくともどちらか一方に取付けるための回転軸装置における転がり軸受の取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図6(特許文献1)に示すように、ハウジング100に対し回転軸110を回転可能に軸支するためには、ハウジング100および回転軸110間に一対の転がり軸受120、130が使用されている。一方の転がり軸受120の外輪121が、ハウジング100の段部101に当接し、他方の転がり軸受130の外輪131が、ハウジング100の段部102に当接し、他方の転がり軸受130の内輪132が回転軸110の段部112に当接し、一方の転がり軸受120の内輪122および回転軸110の段部111間にウェーブワッシャ140を介挿することにより、ハウジング100に対する回転軸110の軸方向の位置を決めている。前記ウェーブワッシャ140は、回転軸110を軸方向に押し付ける役目を持つとともに、ハウジング100および回転軸110の加工誤差を吸収するとともにこれらの熱膨張を吸収する役目を持つ。
【0003】
ウェーブワッシャ140の回転軸110を軸方向に押し付ける力によって、外輪121および段部101間、外輪131および段部102間、内輪122および段部111間、内輪132および段部112間に摩擦力が発生し、ハウジング100に対する回転軸110の半径方向の移動を不能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭60−103713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハウジング100の内周に外輪121、131が半径方向にごく僅かな隙間を持って嵌合され、回転軸110の外周に内輪122、132が半径方向にごく僅かな隙間を持って嵌合されているため、ハウジング100の内周の軸線に対し回転軸110の軸線が半径方向に若干ずれた位置に取付けられる。この結果、ハウジング100の内周に対し回転軸110が振れ回り回転し、回転軸110の遠心力によって内輪122、132、外輪121、131の軌道面および転動体123、133の転動面が摩耗しやすい。
【0006】
ウェーブワッシャ140および段部111に代えて、回転軸110に係合溝を形成し、この係合溝にCリングを嵌め込んだものは、構造が簡単なため組み付けやすいメリットがある反面、軸方向に隙間があるため、外部からの振動により回転軸110が軸方向に繰り返し移動し、内輪122、132、外輪121、131の段部111、112、101、102側の端面にフレッチングが発生する。また、ハウジング100の内周および外輪121、131間、回転軸110の外周および内輪122、132間にそれぞれ半径方向に隙間があるため、ハウジング100に対し外輪121、131が回転し、内輪122、132に対し回転軸110が回転することによって、クリープが発生する。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、振れ回り回転を無くして内輪、外輪の軌道面および転動体の転動面の摩耗を無くすとともに、フレッチングおよびクリープの発生を無くした回転軸装置における転がり軸受の取付け構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、ハウジングに転がり軸受を介して回転軸を回転可能に軸支した回転軸装置において、内輪、外輪、転動体とからなる前記転がり軸受を、前記回転軸および前記ハウジングの少なくともどちらか一方に取付けるための転がり軸受の取付け構造であって、前記内輪の一側端面および前記外輪の一側端面の少なくともどちらか一方に当接可能な第1の突出部を、前記回転軸および前記ハウジングの少なくともどちらか一方に形成し、前記内輪の他側端面および前記外輪の他側端面の少なくともどちらか一方に当接可能な第2の突出部を、前記回転軸および前記ハウジングの少なくともどちらか一方に設け、前記内輪の一側端面の内縁および前記外輪の一側端面の外縁の少なくともどちらか一方に面取りを形成し、前記第1の突出部および面取り間にゴム製のリング状の弾性部材を介挿するとともにこの弾性部材を回転軸およびハウジングの少なくともどちらか一方に当接させ、前記面取りに加工硬化処理を施すことにより加工硬化層を設けたものである。
【0009】
この構成により、ハウジングの内周の軸線に対し回転軸の軸線が同軸に配置されることにより、回転軸の振れ回りが無くなり、内輪、外輪の軌道面および転動体の転動面の摩耗が無くなる。さらに、ハウジングに対して外輪が軸方向および半径方向に移動不能に固定されるか、内輪に対して回転軸が軸方向および半径方向に移動不能に固定されることにより、フレッチングおよびクリープの発生を無くすことができる。またさらに、加工硬化層により面取りが摩耗しにくくなる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記加工硬化処理として、ローレット加工を施したものである。これにより、ハウジングに対して外輪が軸方向および半径方向により一層移動不能に固定されるか、内輪に対して回転軸が軸方向および半径方向により一層移動不能に固定されることにより、フレッチングおよびクリープの発生をより一層無くすことができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記加工硬化処理として、ショットピーニング加工を施したものである。これにより、面取りが摩耗しにくくなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ハウジングの内周の軸線に対し回転軸の軸線が同軸に配置されることにより、回転軸の振れ回りが無くなり、内輪、外輪の軌道面および転動体の転動面の摩耗が無くなる。さらに、ハウジングに対して外輪が軸方向および半径方向に移動不能に固定されるか、内輪に対して回転軸が軸方向および半径方向に移動不能に固定されることにより、フレッチングおよびクリープの発生を無くすことができる。またさらに、加工硬化層により面取りが摩耗しにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態における転がり軸受の取付け構造を示す縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態における転がり軸受の取付け構造を示す図1のA矢視図である。
【図3】本発明の実施形態における転がり軸受の取付け構造を示す図1のB方向から見た面取りの展開図である。
【図4】本発明の他の実施形態における図3相当の面取りの展開図である。
【図5】本発明の他の実施形態における転がり軸受の取付け構造を示す縦断面図である。
【図6】従来における転がり軸受の取付け構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について、図1および図3を参酌しつつ説明する。図1は転がり軸受の取付け構造を示す縦断面図であり、図2は図1のA矢視図であり、図3は図1のB方向から見た面取りの円周方向の展開図である。
【0015】
回転軸装置60は、ハウジング61と、このハウジング61に取り付けられる転がり軸受10と、この転がり軸受10を介して回転可能に軸支される回転軸70とからなっている。転がり軸受は、転動体として玉を使った玉軸受10である。玉軸受10は、リング状の外輪11と、外輪11の内周側に配置されるリング状の内輪20と、外輪11と内輪20間に配置されるリング状の保持器30と、保持器30に保持される複数の玉40とからなっている。
【0016】
前記外輪11の内周には、断面円弧状の外輪側軌道面12が形成され、外輪11の外周には、円筒状の被嵌合面13が形成され、被嵌合面13の軸方向の両端の外縁には、一対のC面取り14が形成されている。前記内輪20の外周には、断面円弧状の内輪側軌道面22が形成され、内輪20の内周には、円筒状の被嵌合面23が形成され、被嵌合面23の軸方向の両端の内縁には、一対のC面取り24が形成されている。
【0017】
前記保持器30は円周方向に複数のポケット部31を有し、各ポケット部31に玉40が回転可能に保持されている。前記玉40は、金属製で、球形状を有し、外面が転動面となる。
【0018】
前記ハウジング61には、回転軸70の回転軸線と同軸に円筒状の内周面62が形成され、この内周面62は、外輪11の被嵌合面13が径方向に僅かな隙間を持って嵌合できるような内径を有する。内周面62には玉軸受10側へ突出した第1の突出部63が形成され、この第1の突出部63は外輪11の一側端面と対向する第1の内側端面64を有する。また内周面62には、外輪11の他側端面に対応する位置に係合溝65が形成され、この係合溝65にはCリング80が嵌め込まれている。Cリング80は外輪11の他側端面に当接する第2の内側端面81を有する。Cリング80は、図1の状態よりもさらに外径方向に拡張しようとする弾性力を有し、円周上1箇所に切欠き83を有する。
【0019】
前記回転軸70には、これの回転軸線と同軸に円筒状の外周面72が形成され、この外周面72は、内輪20の被嵌合面23が径方向に僅かな隙間を持って嵌合できるような外径を有する。外周面72には玉軸受10側へ突出した第1の突出部73が形成され、この第1の突出部73は内輪20の一側端面と対向する第1の内側端面74を有する。また外周面72には、内輪20の他側端面に対応する位置に係合溝75が形成され、この係合溝75には、Cリング85が嵌め込まれている。Cリング85は内輪20の他側端面に当接する第2の内側端面86を有する。Cリング85は、図1の状態よりもさらに内径方向に縮小しようとする弾性力を有し、円周上1箇所に切欠き88を有する。
【0020】
前記被嵌合面13、23には、樹脂製の吸収被膜15、25が固着されている。吸収被膜15、25は、例えばナイロン66等のように外輪11および内輪20よりも軟らかい材料が用いられる。吸収被膜15、25は、粘着系の接着剤によって被嵌合面13、23に貼り付けられる。前記粘着系の接着剤は、時間の経過とともに硬化するタイプのものが望ましい。吸収被膜15は、外輪11の被嵌合面13およびハウジング61の内周面62間の隙間を埋める程度の肉厚を有し、吸収被膜25は、内輪20の被嵌合面23および回転軸70の外周面72間の隙間を埋める程度の肉厚を有する。
【0021】
吸収被膜15、25は、内輪20の軸線方向に幅を有するので、後述するOリング84、89単独に比べて、外輪11はハウジング61の内周面62と同軸になるよう配置されやすくなり、内輪20は回転軸70の外周面72と同軸になるよう配置されやすくなる。吸収被膜15、25の肉厚を、外輪11の被嵌合面13およびハウジング61の内周面62間の隙間、内輪20の被嵌合面23および回転軸70の外周面72間の隙間よりも若干大きくしてこれらの隙間へ圧入すれば、ハウジング61に対し外輪11が回転しようとする動きを止めることができ、回転軸70に対し内輪20が回転しようとする動きを止めることができ、クリープの発生が抑えられる。
【0022】
ハウジング61の内周面62にはゴム製でリング状のOリング84が嵌め込まれ、Oリング84は第1の内側端面64、C面取り14および内周面62に当接する。Oリング84の弾性力によって、外輪11の他側端面がCリング80の第2の内側端面81に当接し、外輪11の一側端面および第1の突出部63の第1の内側端面64間に隙間が形成される。また、Oリング84の弾性力およびC面取り14によって、外輪11はハウジング61の内周面62と同軸になるよう配置される。
【0023】
回転軸70の外周面72にはゴム製でリング状のOリング89が嵌め込まれ、Oリング89は第1の内側端面74、C面取り24および外周面72に当接する。Oリング89の弾性力によって、内輪20の他側端面がCリング85の第2の内側端面86に当接し、内輪20の一側端面および第1の突出部73の第1の内側端面74間に隙間が形成される。また、Oリング89の弾性力およびC面取り24によって、内輪20は回転軸70の外周面72と同軸になるよう配置される。
【0024】
前記C面取り14、24には、加工硬化処理が施され、加工硬化層14a、24aが設けられている。図3は、加工硬化処理としてローレット加工を施した例であり、一対の係合テーパ24の表面には、格子状の溝24bが形成されている。この格子状の溝24bにOリング89が喰い込むことによって、Oリング89に対してC面取り24が、軸方向および半径方向に不動不能となる。この格子状の溝24bを形成することにより、溝24bおよび溝24b間の山が硬くなり、加工硬化層24aが作られる。
【0025】
続いて、回転軸装置60へ玉軸受10を取付ける動作について説明する。
【0026】
まず外輪11の被嵌合面13に吸収被膜15を貼り付け、内輪20の被嵌合面23に吸収被膜25を貼り付ける。続いて、回転軸70の外周面72に、Oリング89を第1の突出部73の第1の内側端面74に当接する位置まで嵌め込む。次に、回転軸70の外周面72に吸収被膜25を圧縮させながら被嵌合面23とともに吸収被膜25を嵌め込み、Oリング89に玉軸受10の一対のC面取り24の一方を面接触させる。回転軸70の外周面72にCリング85を嵌め込み、内輪20の他側端面にCリング85の第2の内側端面86を押し付ける。Oリング89が圧縮され、Cリング85が係合溝75に対応する位置まで来ると、係合溝75にCリング85が嵌め込まれる。内輪20の他側端面にCリング85の第2の内側端面86を押し付ける力を解除すると、Oリング89の弾性力によって、内輪20およびCリング85が押し戻され、係合溝75の他側端面にCリング85が接触し、内輪20およびCリング85のこれ以上の押し戻しが阻止される。Oリング89の弾性力およびC面取り24によって、内輪20は回転軸70の外周面72と同軸になるよう配置される。
【0027】
続いてハウジング61の内周面62に、Oリング84を第1の突出部63の第1の内側端面64に当接する位置まで嵌め込み、続いて吸収被膜15を圧縮させながら被嵌合面13とともに吸収被膜15を嵌め込み、Oリング84に玉軸受10の一対のC面取り14の一方を面接触させる。ハウジング61の内周面62にCリング80を嵌め込み、外輪11の他側端面にCリング80の第2の内側端面81を押し付ける。Oリング84が圧縮され、Cリング80が係合溝65に対応する位置まで来ると、係合溝65にCリング80が嵌め込まれる。外輪11の他側端面にCリング80の第2の内側端面81を押し付ける力を解除すると、Oリング84の弾性力によって、外輪11およびCリング80が押し戻され、係合溝65の他側端面にCリング80が接触し、外輪11およびCリング80のこれ以上の押し戻しが阻止される。Oリング84の弾性力およびC面取り14によって、外輪11はハウジング61の内周面62と同軸になるよう配置される。
【0028】
Oリング84、89の弾性力およびC面取り14、24によって、外輪11はハウジング61の内周面62と同軸になるよう配置され、内輪20は回転軸70の外周面72と同軸になるよう配置されるようにするためには、吸収被膜15、25の圧縮量よりも、Oリング84、89の圧縮量を大きくするのが望ましい。
【0029】
このようにして取付けられた回転軸70を回転させると、ハウジング61の内周面62の軸線に対し、回転軸70の軸線が同軸となっているため、回転軸70の振れ回りが無く、外輪11の外輪側軌道面12、内輪20の内輪側軌道面22、および玉40の転動面の摩耗が無い。また外部から回転軸装置60に振動が作用しても、Oリング84、92はゴム製を使用しているので摩擦係数が高く、Oリング84、92およびC面取り14、24間の摩擦力によりハウジング61に対して外輪11が、軸方向および半径方向に移動不能に固定され、内輪20に対して回転軸70が、軸方向および半径方向に移動不能に固定されているので、フレッチングおよびクリープの発生が無い。またゴム製のOリング84、92を使用しているので、外部から回転軸装置60に作用する振動により回転軸70が軸方向に振動しても、この振動を吸収し、フレッチングの発生を抑えることができる。
【0030】
さらに、C面取り14、24には、ローレット加工が施され、これによってできた格子状の溝24bにOリング84、89が喰い込むことによって、ハウジング61に対して外輪11が、軸方向および半径方向により一層移動不能に固定され、内輪20に対して回転軸70が、軸方向および半径方向により一層移動不能に固定され、フレッチングおよびクリープの発生がより一層無い。溝24bの形成により、C面取り14、24の表面が加工硬化し、外部から回転軸装置60に振動が作用しても、摩耗しにくい効果が多少ある。
【0031】
上述した実施形態は、一つの玉軸受10でハウジング61に対する回転軸70の軸方向位置を拘束した例について述べた。この場合、玉軸受10と共に図略の針状ころ軸受が使用され、この針状ころ軸受と共に玉軸受10によりハウジング61に対し回転軸70を回転可能に軸支するのが一般的である。
【0032】
他の実施形態として、図5に示すように、一対の玉軸受50、55でハウジング90に対する回転軸95の軸方向位置を拘束する例について述べる。
【0033】
玉軸受50、55は、リング状の外輪51、56と、外輪51、56の内周側に配置されるリング状の内輪52、57と、外輪51、56と内輪52、57間に配置されるリング状の保持器53、58と、保持器53、58に保持される複数の玉54、59とからなっている。外輪51の外周には、軸方向の両端の外縁で一対のC面取り51aが形成されている。保持器53、58は円周方向に複数のポケット部を有し、各ポケット部に玉54、59が回転可能に保持されている。前記玉54、59は、金属製で、球形状を有し、外面が転動面となる。
【0034】
前記ハウジング90には、回転軸95の回転軸線と同軸に円筒状の内周面91が形成され、この内周面91は、外輪51が径方向に僅かな隙間を持って嵌合できるような内径を有する。内周面91には玉軸受50の一側端面へ突出した第1の突出部92が形成され、この第1の突出部92は外輪51の一側端面と対向する第1の内側端面92aを有する。また内周面91には、玉軸受55の他側端面に対応する位置に係合溝93が形成され、この係合溝93にはCリング94が嵌め込まれている。Cリング94は外輪56の他側端面に当接する第2の内側端面94aを有する。Cリング94は、図3の状態よりもさらに外径方向に拡張しようとする弾性力を有する。
【0035】
前記回転軸95には、これの回転軸線と同軸に円筒状の外周面96が形成され、この外周面96は、内輪52が径方向に僅かな隙間を持って嵌合できるような外径を有する。外周面96には玉軸受50の他側端面へ突出した第2の突出部97が形成され、この第2の突出部97は内輪52の他側端面と接触する第2の内側端面97aを有する。また外周面96には玉軸受51の一側端面へ突出した第1の突出部98が形成され、この第1の突出部98は内輪57の一側端面と接触する第1の内側端面98aを有する。
【0036】
前記外輪51、56の外周および前記内輪52、57の内周には、樹脂製の吸収被膜51c、56c、52c、57cが固着されている。吸収被膜51c、56c、52c、57cは、例えばナイロン66等のように外輪51、56および内輪52、57よりも軟らかい材料が用いられる。吸収被膜51c、56c、52c、57cは、粘着系の接着剤によって外輪51、56の外周および前記内輪52、57の内周に貼り付けられる。前記粘着系の接着剤は、時間の経過とともに硬化するタイプのものが望ましい。吸収被膜51c、56cは、外輪51、56の外周およびハウジング90の内周面91間の隙間を埋める程度の肉厚を有し、吸収被膜52c、57cは、内輪52、57の内周および回転軸95の外周面96間の隙間を埋める程度の肉厚を有する。
【0037】
吸収被膜51c、56c、52c、57cは、内輪52、57の軸線方向に幅を有するので、後述するOリング99単独に比べて、外輪51、56はハウジング90の内周面91と同軸になるよう配置されやすくなり、内輪52、57は回転軸95の外周面96と同軸になるよう配置されやすくなる。吸収被膜51c、56c、52c、57cの肉厚を、外輪51、56の外周およびハウジング90の内周面91間の隙間、内輪52、57の内周および回転軸95の外周面96間の隙間よりも若干大きくしてこれらの隙間へ圧入すれば、ハウジング90に対し外輪51、56が回転しようとする動きを止めることができ、回転軸95に対し内輪52、57が回転しようとする動きを止めることができ、クリープの発生が抑えられる。
【0038】
ハウジング90の内周面91にはゴム製でリング状のOリング99が嵌め込まれ、Oリング99は第1の内側端面92a、C面取り51aおよび内周面91に当接する。Oリング99の弾性力によって、内輪52の他側端面が第2の突出部97の第2の内側端面97aに当接し、第1の突出部98の第1の内側端面98aが内輪57の一側端面に当接し、外輪56の他側端面がCリング94の第2の内側端面94aに当接し、外輪51の一側端面および第1の突出部92の第1の内側端面92a間に隙間が形成される。また、Oリング99の弾性力およびC面取り51aによって、外輪51はハウジング90の内周面91と同軸になるよう配置される。
【0039】
外輪51、玉54を介して内輪52が、ハウジング90の内周面91に対し同軸に配置されるので、外輪51、内輪52の軌道面、玉54の転動面の摩耗が少ない。吸収被膜52cによって、内輪52に対し回転軸95ができるだけ同軸に配置されるので、回転軸95の振れ回りが少なくなって外輪51、内輪52の軌道面、玉54の転動面への摩耗の影響を少なくできる。Oリング99はゴム製を使用しているので摩擦係数が高く、Oリング99およびC面取り51a間の摩擦力によりハウジング90に対して外輪51が、軸方向および半径方向に移動不能に固定され、内輪52に対して回転軸95が、軸方向および半径方向に移動不能に固定されているので、フレッチングおよびクリープの発生が無い。またゴム製のOリング99を使用しているので、外部から回転軸装置に作用する振動により回転軸95が軸方向に振動しても、この振動を吸収し、フレッチングの発生を抑えることができる。
【0040】
前記C面取り51aには、加工硬化処理が施され、加工硬化層51bが設けられている。加工硬化処理として図3に示すようなローレット加工を施しても良いし、図4に示すようなショットピーニング加工を施しても良い。加工硬化層51bによって、C面取り51aの摩耗が抑えられる。
【0041】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0042】
一番最初に述べた実施形態は、外輪11および内輪20の両方にOリング84、92を用いた例について述べた。他の実施形態として、内輪20のみOリング89を用いても良いし、外輪11のみOリング84を用いても良い。
【0043】
一番最初に述べた実施形態は、C面取り14、24に、ローレット加工を施した例について述べた。他の実施形態として、C面取り14、24にショットピーニング加工を施しても良い。この場合、図4に示すように、C面取り24の表面に細かい窪み24cが多数形成される。窪み24cにOリング84、89が喰い込むことによって、Oリング84、89に対してC面取り14、24が、軸方向および半径方向に不動不能となる効果も少なからずあるが、窪み24cを形成することにより、一対の係合テーパ14、24の表面が加工硬化し、外部から回転軸装置60に振動が作用しても、摩耗しにくい効果の方が大きい。
【0044】
一番最初に述べた実施形態は、外輪11および内輪20の両方にテーパ状のC面取り14、24を形成した例について述べた。他の実施形態として、外輪11および内輪20の両方にR形状のR面取りを形成しても良い。
【0045】
上述した実施形態は、玉軸受10に上述した取付け構造を適用した。他の実施形態として、円すいころ軸受、円筒ころ軸受等の他の軸受にも、上述した取付け構造を適用しても良い。
【符号の説明】
【0046】
10:玉軸受(転がり軸受)、11:外輪、14:C面取り、14a:加工硬化層、20:内輪、24:C面取り、24a:加工硬化層、40:玉(転動体)、60:回転軸装置、61:ハウジング、63:第1の突出部、65:係合溝、70:回転軸、73:第1の突出部、75:係合溝、80:Cリング(第2の突出部)、84:Oリング(弾性部材)、85:Cリング(第2の突出部)、89:Oリング(弾性部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに転がり軸受を介して回転軸を回転可能に軸支した回転軸装置において、内輪、外輪、転動体とからなる前記転がり軸受を、前記回転軸および前記ハウジングの少なくともどちらか一方に取付けるための転がり軸受の取付け構造であって、前記内輪の一側端面および前記外輪の一側端面の少なくともどちらか一方に当接可能な第1の突出部を、前記回転軸および前記ハウジングの少なくともどちらか一方に形成し、前記内輪の他側端面および前記外輪の他側端面の少なくともどちらか一方に当接可能な第2の突出部を、前記回転軸および前記ハウジングの少なくともどちらか一方に設け、前記内輪の一側端面の内縁および前記外輪の一側端面の外縁の少なくともどちらか一方に面取りを形成し、前記第1の突出部および面取り間にゴム製のリング状の弾性部材を介挿するとともにこの弾性部材を回転軸およびハウジングの少なくともどちらか一方に当接させ、前記面取りに加工硬化処理を施すことにより加工硬化層を設けたことを特徴とする回転軸装置における転がり軸受の取付け構造。
【請求項2】
前記加工硬化処理は、ローレット加工であることを特徴とする請求項1に記載の回転軸装置における転がり軸受の取付け構造。
【請求項3】
前記加工硬化処理は、ショットピーニング加工であることを特徴とする請求項1に記載の回転軸装置における転がり軸受の取付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−2469(P2013−2469A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131249(P2011−131249)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】