説明

回転陽極X線管装置及びそれを用いたX線CT装置

【課題】電子ビームを偏向せずにX線の焦点を体軸方向に高速に移動させることができる回転陽極X線管装置、及びそれを用いたX線CT装置を提供することである。
【解決手段】
電子ビームを放出する陰極と、前記電子ビームを衝突させ、該衝突位置を焦点位置とするX線を発生させる陽極ターゲットと、前記陽極ターゲットを回転させる回転機構部とを備えた回転陽極X線管装置において、前記陽極ターゲットの電子ビーム衝突面側の領域に形成され、少なくとも回転方向に所定間隔で並設される段差を備える回転陽極X線管装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームを偏向せずにX線の焦点を高速に移動させることができる回転陽極X線管装置、及びそれを用いたX線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置は、被検体の周囲をX線源とX線検出器が回転して得られた複数角度の投影データより、被検体の断層画像を再構成し、その再構成された断層画像を表示して画像診断に供するものである。
【0003】
近年、X線CT装置においては、多スライスで高分解能な装置が主流となっている。この多スライス化及び高分解能化を達成するために、X線の焦点を体軸方向に移動させる技術が利用されている。この技術は、X線の焦点を体軸方向に微小距離だけ移動させて2つの焦点位置からX線を交互に発生させ、2つの焦点位置毎に別々にデータ収集するものである。このようにして体軸方向のダブルサンプリングを行うことにより、スライス数を検出器列数の2倍にすることが可能となり、また、高分解能化も達成される。
【0004】
スライス数の増加及び高分解能化は、X線検出器の多列化及び狭小化によっても実現可能であるが、これらはコストアップにつながる上、線量効率の低下によるノイズの増大も無視できない。
【0005】
現今、X線の焦点を体軸方向に高速に移動させる手段として、X線管装置内に電磁石を設け、陰極から放出された電子ビームを電磁的に偏向する方式が用いられている。これにより、電子ビームの陽極ターゲットに衝突する位置を変え、X線の焦点位置を変えている。
【0006】
電子ビームを電磁的に偏向する方式の公知文献としては、特許文献1、特許文献2及び特許文献3が挙げられる。
【特許文献1】特開平10−106462号公報
【特許文献2】特開平10−134744号公報
【特許文献3】特開2000−48748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電子ビームの偏向によりX線の焦点を体軸方向に移動させると、それに伴い体軸方向と直交する方向(半径方向)にも焦点が大きく移動するという問題がある。例えば、体軸方向に焦点を0.7mmだけ移動させる場合、ターゲット角度を7°とすると、半径方向にも焦点は0.7/tan7°=5.7mm移動する。この半径方向への焦点移動量は、X線CT装置におけるX線焦点とX線検出器間の距離及びX線検出器の幾何学的形状の観点から、無視することができない量である。
【0008】
また、電子ビームを偏向すると、電子ビームの陽極ターゲットに入射する角度が変わるため、結果として陽極ターゲット上に形成される焦点のサイズが変わるという問題が生ずる。この焦点サイズの変化を防止するためには、電子ビームを集束又は発散させて焦点サイズを高精度に制御する必要がある。すなわち、電子ビームを偏向するだけではなく、集束・発散する必要があるため、複雑な電磁石構成となってしまう。
【0009】
さらに、X線管装置内に複雑な電磁石を設けるため、X線管装置が高価なものとなる。加えて、電磁石用の励磁電源及び高精度な制御回路も必要となるため、X線CT装置としても大幅なコストアップは避けられない。
【0010】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたものであり、電子ビームを偏向せずにX線の焦点を体軸方向に高速に移動させることができる回転陽極X線管装置、及びそれを用いたX線CT装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決すべく、本発明は、電子ビームを放出する陰極と、前記電子ビームを衝突させ、該衝突位置を焦点位置とするX線を発生させる陽極ターゲットと、前記陽極ターゲットを回転させる回転機構部とを備えた回転陽極X線管装置において、前記陽極ターゲットの電子ビーム衝突面側の領域に形成され、少なくとも回転方向に所定間隔で並設される段差を備える回転陽極X線管装置である。
【0012】
また本発明は、被検体にX線を照射する前記回転陽極X線管装置と、前記回転陽極X線管装置に対向配置され前記被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記回転陽極X線管装置と前記X線検出器を搭載し前記被検体の周囲を回転するスキャナと、前記X線検出器で検出した投影データを前記2つの焦点位置毎に収集するデータ収集部と、前記データ収集部で収集した投影データに基づき前記被検体の断層像を再構成する画像再構成装置と、前記画像再構成装置で再構成した断層像を表示する画像表示装置とを備えたX線CT装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電子ビームを偏向せずにX線の焦点を体軸方向に高速に移動させることができる。
【0014】
本発明のその他の効果については、明細書全体の記載から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明が適用された実施形態の例について、図面を用いて説明する。ただし、以下の説明において、同一構成要素には同一符号を付し繰り返しの説明は省略する。
【0016】
〈第1の実施形態〉
図1は本発明の第1の実施形態の回転陽極X線管装置の概略構成を説明するための図である。
【0017】
図1に示すように、第1の実施形態の回転陽極X線管装置100は、陰極3、陽極ターゲット5、ロータ6、及び回転支持機構7が高真空を維持するための真空外囲器2内に封入される構成となっている。真空外囲器2は放射窓9が設けられた管容器1内部に収納される構成となっている。すなわち、本発明の第1の実施形態の回転陽極X線管装置100は、管容器1と真空外囲器2との二重構造となっており、内部が真空に保持される真空外囲器2と管容器1との間には後述するように絶縁性の冷媒10が循環可能に封入される構成となっている。なお、第1の実施形態においては、後述する図示しない回転位置検出手段の信号線を真空外囲器2内部から管容器1の外部まで引き出す機構部以外の構成は従来と同様の構成となっているので、詳細な説明は省略する。
【0018】
陰極3は陰極支持体4によって支持される構成となっており、陰極3から放出される図示しない電子ビームが陽極ターゲット5の電子ビーム衝突面側に照射される位置に固定される構成となっている。
【0019】
陽極ターゲット5は、ロータ6と連結されて回転体を構成している。この回転体は、回転支持機構7によって回転可能に支持されている。すなわち、陽極ターゲット5の中心位置に回転支持機構7の一端側が接続される構成となっており、他端側にロータ6が配置される構成となっている。このような構成により、陰極3から放出される電子ビームが照射される陽極ターゲット5の電子ビーム衝突面側の位置を順次移動させる構成となっている。なお、陽極ターゲット5の詳細構成については後述する。
【0020】
また、第1の実施形態の回転陽極X線管装置100では、陽極ターゲット5の回転位置に応じて電子ビームの衝突位置及びX線焦点位置が変化する構成となっている。従って、陽極ターゲット5の回転位置を検出するために、例えば周知のロータリーエンコーダ等からなる図示しない回転位置検出手段が回転支持機構7に設けられている。なお、電子ビームの衝突位置及びX線焦点位置の詳細については、後述する。
【0021】
ロータ6を囲む位置には、誘導磁界を発生するステータ8が配置されている。ステータ8の図示しないコイルには、誘導磁界を発生させるために約500Vの電圧が印加される構成となっており、絶縁が必要となる。そのため、管容器1内すなわち管容器1で囲まれる領域の内で真空外囲器2の領域内を除く領域は、例えば周知の絶縁油等の絶縁性の冷媒10が充填されており、該絶縁性の冷媒10を循環させることにより管容器1の内部で発生する熱を冷却する構成となっている。さらに、絶縁性の冷媒10を冷却するために、図示しない周知の外部冷却器が設けられている。
【0022】
図2は本発明の第1の実施形態である陽極ターゲットの概略構成を説明するための図であり、特に図2(a)は陽極ターゲットの正面図であり、図2(b)は陽極ターゲットの側面図である。
【0023】
図2に示すように、陽極ターゲット5の電子ビーム衝突面に、円周方向の所定の角度範囲θ毎に段差が設けられている。すなわち、本発明の第1の実施形態の陽極ターゲット5は、正面側である電子ビーム衝突面側からの形状は円形であり、その回転中心を中心とする円盤形状である。また、第1の実施形態の陽極ターゲット5は少なくとも電子ビーム衝突面に凹凸による段差が形成される構成となっている。図2(a)から明らかなように、電子ビーム衝突面の内で、少なくとも陽極ターゲット5の回転動作に伴って図示しない電子ビームが照射される領域に形成される凹部の側壁面が中心側から外周側に向かって延在する構成となっており、さらには該側壁面が円周方向に角度θで等間隔に並設される構成となっている。また、第1の実施形態では、電子ビーム衝突面に形成される凹凸による段差は、回転中心に近い領域には形成されることはなく、回転中心から遠い領域すなわち外周に近い領域に形成される構成となっている。
【0024】
また、陽極ターゲット5における段差は、θが360°の偶数分の1の値であり、本第1の実施形態では15°を採用している。すなわち、第1の実施形態における段差の形成では、円周方向に24分割され、高い面5aと低い面5bとがそれぞれ12面ずつの構成となっている。なお、陽極ターゲット5における段差は24分割に限定されることはなく、θが360°の偶数分の1の値となる他の分割数でもよい。
【0025】
また、図2(b)に示すように、第1の実施形態の陽極ターゲット5では、高い面5aと低い面5bとの高低差dは0.7mmとして構成されている。また、陽極ターゲット5の傾斜角度φは7°としている。なお、陽極ターゲット5の高い面5aと低い面5bとの高低差dは0.7mmに限定されることはなく、他の高低差dでもよい。さらには、陽極ターゲット5の傾斜角度φは7°に限定されることはなく、他の傾斜角度φでもよい。
【0026】
このように、第1の実施形態の陽極ターゲットでは、当該陽極ターゲット5の回転中心軸と直交する平面と、凹凸による段差が形成される面とが所定の傾斜角度φを有する構成となっているので、陰極3から照射される電子ビームの照射方向を変化させることなく、陽極ターゲット5の電子ビーム衝突面に照射される電子ビームの位置を当該陽極ターゲット5の回転中心軸方向に移動させることが出来る。
【0027】
図3に本発明の第1の実施形態である回転陽極X線管装置における焦点移動を説明するための図を示し、以下、図1〜図3に基づいて、第1の実施形態の回転陽極X線管装置の動作を説明する。
【0028】
陰極3から放出された熱電子は、陰極3と陽極ターゲット5との間に印加される高電圧によって加速され、電子ビーム13として陽極ターゲット5に衝突する。これにより、陽極ターゲット5に焦点が形成され、この焦点からX線が発生する。陽極ターゲット5の電子ビーム衝突面には前述したように段差が設けられているので、陽極ターゲット5の回転に伴い、電子ビーム13は電子ビーム衝突面の高い面5aと低い面5bに交互に衝突することとなる。その結果、高い面5aにおける焦点と、低い面5bにおける焦点との2つの焦点位置F1(高い面5aにおける焦点位置)、F2(低い面5bにおける焦点位置)からX線14、15が交互に発生することとなる。
【0029】
例えば、陽極ターゲット5の回転数を150回転/秒とすると、1秒当たり3600回焦点位置がF1→F2→F1→F2・・・と交互に切り換わることになる。また、体軸方向(回転中心軸方向)の焦点移動量(F1とF2の体軸方向位置の差)は、d/cosφによって計算され、本実施形態では0.705mmとなる。また、焦点位置が切り換わる周期及びタイミングは、回転位置検出手段によって検出することが可能である。
【0030】
このようにして、簡単な構成でX線の焦点を体軸方向に高速に移動させることができる。また、本実施形態では、X線焦点位置の移動は電子ビーム13の照射方向すなわち回転中心軸方向となり、X線焦点位置の半径方向(体軸方向すなわち回転中心軸と直交する方向)への移動がないという優れた長所を有している。なお、第1の実施形態の回転陽極X線管装置では、回転中心軸に平行な電子ビームと直交する方向(図3中の下方向)にX線が発生する場合について説明したが、これに限定されることはなく、電子ビームと直交する方向以外にX線が発生する場合にも適用可能である。
【0031】
なお、本実施形態では、陽極ターゲット5におけるθ、φ及びdの値を、それぞれθ=15°、φ=7°、d=0.7mmとしたが、これは一例であって、これに限ることなく実施できる。例えば、θ=10°として円周方向に36分割してもよい。
【0032】
また、本実施形態の回転陽極X線管装置では、段差を形成する高い面5a及び低い面5bの傾斜角度φを同じ角度としたが、同じ傾斜角度φに限定されることはなく、高い面5aと低い面5bの傾斜角度を異なる角度としてもよい。ただし、高い面5aと低い面5bの傾斜角度を同じ角度φとすることにより、電子ビームのビーム幅が同じ場合は高い面5aと低い面5bに照射される電子ビームの焦点サイズを同じにできるという格別の効果を得ることが可能である。その結果、陽極ターゲット5に電子ビームを衝突させることによって発生されるX線ビームの線種やX線焦点の大きさ(焦点サイズ)も同じものとすることができるという格別の効果を得ることができる。
【0033】
さらには、本実施形態の陽極ターゲット5では高い面5aと低い面5bとの2面を形成して段差を形成する構成としたが、これに限定されることはなく、それぞれ高さの異なる3面以上が形成される段差を設け、各面に対応した3つ以上の焦点位置のX線を発生させる構成でもよい。
【0034】
〈第2の実施形態〉
図4は本発明の第2の実施形態の回転陽極X線管装置の概略構成を説明するための図である。図4から明らかなように、第2の実施形態の回転陽極X線管装置110は陽極ターゲット15、真空外囲器16、発光部11、及び受光部12の構成を除く他の構成は第1の実施形態の回転陽極X線管装置100と同じ構成となる。従って、以下の説明では第1の実施形態と構成が異なる陽極ターゲット15、真空外囲器16、発光部11、及び受光部12について詳細に説明する。なお、第2の実施形態の回転陽極X線管装置110は回転位置検出手段を発光部11及び受光部12で構成するものである。
【0035】
第2の実施形態における陽極ターゲット15は、電子ビーム衝突面の段差に対応した凹凸18が当該陽極ターゲット15の外周部に形成される構成となっている。該凹凸18の形成方向は凹部の側壁面の延在方向が陽極ターゲット15の回転軸方向となり、電子ビーム衝突面に形成される段差の凹部の側壁面と同様の間隔で形成される構成となっている。なお、図4中の陽極ターゲット15の外周部に点線で示す領域が凹部領域である。また、陽極ターゲット15の詳細構成については、後述する。
【0036】
また、真空外囲器16の図中の上部には発光部11と受光部12とが配置される構成となっている。発光部11と受光部12は真空外囲器16の両側から陽極ターゲット15を挟むようにして対向配置される構成となっている。すなわち、発光部11からの照射光17が受光部12に到達する間に、陽極ターゲット15の外周部に設けられた凸部では照射光17が遮られ、凹部では照射光17が受光部12に到達する位置に、発光部11及び受光部12が配置される。また、第2の実施形態の回転陽極X線管装置では、発光部11及び受光部12は真空外囲器16の外側に配置される構成となっている。なお、発光部11としては例えばレーザー光を発光し照射する周知のレーザーダイオード等を用いることが可能であり、受光部12としては例えば受光したレーザー光に応じた電圧を出力するホトダイオード等を用いることが可能である。なお、発光部11及び受光部12はこれらに限定されることはなく、他の素子等でもよい。
【0037】
第2の実施形態の真空外囲器16では、発光部11及び受光部12が配置される位置には図示しない窓が形成されている。すなわち、第2の回転陽極X線管装置では、発光部11及び受光部12では真空外囲器16の窓部を介して陽極ターゲット15の回転を検出する構成となっている。
【0038】
図5は本発明の第2の実施形態の陽極ターゲットの概略構成を説明するための図であり、特に図5(a)は陽極ターゲットの正面図であり、図5(b)は陽極ターゲットの側面図である。
【0039】
図5(a)に示すように、第2の実施形態の陽極ターゲット15の電子ビーム衝突面には、円周方向の所定の角度範囲θ毎に段差が設けられる構成となっている。該電子ビーム衝突面における段差に加えて、第2の実施形態の陽極ターゲット15では該段差に連続して形成される凹凸18が当該陽極ターゲット15の外周部に形成される構成となっている。すなわち、第2の実施形態の陽極ターゲット15では、電子ビーム衝突面に形成される段差の凹部の側壁面と、外周部に形成される凹凸18の凹部の側壁面とが一致するような構成となっている。
【0040】
次に、図4及び図5に基づいて、第2の実施形態の回転陽極X線管装置の動作を説明する。ただし、電子ビーム衝突面の構成は第1の実施形態の陽極ターゲット15と同じ構成となるので、X線の焦点位置の移動については第1の実施形態と同様となる。従って、以下の説明では、陽極ターゲット15の回転位置の検出動作について詳細に説明する。
【0041】
図5(a)から明らかなように、第2の実施形態の陽極ターゲット15においても、回転中心に対して高い面5aと低い面5bとがそれぞれ点対称となる位置に形成されている。また、図4から明らかなように、第2の実施形態の回転陽極X線管装置では、陰極3から照射された図示しない電子ビームは陽極ターゲット15の図中の下部側に焦点位置が形成される。
【0042】
一方、発光部11と受光部12とは陽極ターゲット15の図中の上部側に配置される構成となっており、X線の焦点位置より陽極ターゲット15の回転中心から遠い位置で当該陽極ターゲット15の回転位置を検出する構成となっている。すなわち、陽極ターゲット15の回転位置を検出する際に、X線の焦点位置から直線距離でもっとも離れた場所で回転位置を検出する構成となっている。このような構成により電子ビームの衝突により発生するX線の影響がもっとも少ない位置での回転位置検出が可能となるので、焦点位置が切り換わる周期及びタイミングを正確に検出することができる。
【0043】
また、前述するように、陽極ターゲット15の回転中心に対して高い面5aと低い面5bとがそれぞれ点対称で形成されているので、陽極ターゲット5が回転を開始すると発光部11から発光(照射)された照射光(例えば、レーザー光)17は外周部に設けられた凹凸18によって通過/遮断を繰り返すことになる。すなわち、凹凸18の凸部が発光部11と受光部12との間を通過している期間では照射光17は該凸部によって遮断され、凹部が通過している期間では照射光17は受光部12に到達するという動作が繰り返される。
【0044】
従って、受光部12には外周部の凹凸18に対応したパルス光が入射されることとなる。受光部12に入射されるパルス光は、電子ビームの衝突している面が高い面5aと低い面5bのいずれであるかに対応しているので、段差が切り換わる周期及びタイミングを正確に検出することが可能となる。このとき、高い面5aと低い面5bは発生したX線の焦点位置がF1、F2のいずれであるかに対応するので、焦点位置が切り換わる周期及びタイミングを正確に検出することが可能となる。
【0045】
以上説明したように、第2の実施形態の回転陽極X線管装置では、発光部11及び受光部12を共に真空外囲器16の外部に配置する構成により、発光部11及び受光部12を構成する半導体素子を高真空中に配置することに伴う不純物等の発生を防止することが可能となるので、回転陽極X線管装置の信頼性を低下させることなく、容易に陽極ターゲット15の回転を検出することが可能である。
【0046】
また、陽極ターゲット15は非常に高温となるので、比較的熱に弱い半導体素子からなる発光部11及び受光部12を真空外囲器16の外部に配置することにより、冷媒10による冷却が容易となり発光部11及び受光部12の信頼性を向上させることができる。
【0047】
なお、第2の実施形態では陽極ターゲット15の回転位置を検出するための照射光17の通過と遮断を、陽極ターゲット15の焦点位置より回転中心から遠い外周側に設けた凹凸18によって実現する構成としたが、これに限定されることはない。例えば、焦点位置よりも回転中心から遠い位置に高い面5aと低い面5bとに対応する孔を形成し、該孔を通過する照射光17の遮断と通過とを受光部12で検出する構成でもよい。
【0048】
また、図6に示すように、陽極ターゲット5の電子ビーム衝突面に真空外囲器19の外側に配置した発光部11から照射光17を照射し、電子ビーム衝突面に形成される高い面5aと低い面5bとからの反射光20を受光部12で検出する構成でもよい。このような構成とすることにより、陽極ターゲット5の構成は第1の実施形態と同様に電子ビーム衝突面に段差を設けるのみの簡易な構成でよいので、第2の実施形態の回転陽極X線管装置の効果に加えて陽極ターゲット5を安価に製造できるという格別の効果を得ることができる。なお、受光部12に入射された反射光20から電子ビーム衝突面の段差を検出する技術は周知の技術を用いる。
【0049】
〈X線CT装置への適用〉
図7は本発明の回転陽極X線管装置を用いたX線CT装置の概略構成を説明するための図であり、以下の説明では、第1の実施形態の回転陽極X線管装置100を適用したX線CT装置について詳細に説明する。なお、本願発明の第2の実施形態の回転陽極X線管装置110、111を適用した場合も同じ構成となる。
【0050】
図7に示すように、スキャナガントリ101は中央部に円形の開口部103を有していて、この開口部103に、被検体104を寝かせるための寝台105が設置されている。寝台105は、図示しない水平移動手段及び上下移動手段により被検体104の体軸方向及び上下方向へ移動自在となっている。
【0051】
スキャナガントリ101内には、被検体104の周囲を回転するスキャナ102が設けられている。このスキャナ102には、被検体104を挟んで対向するように、本発明の回転陽極X線管装置100とX線検出器106とが配置されている。
【0052】
回転陽極X線管装置100は、前述したように2つの焦点位置F1、F2からX線が交互に発生するようになっており、発生したX線は被検体104に照射される。なお、回転陽極X線管装置100の照射面側すなわち回転陽極X線管装置100と被検体104との間には周知の図示しないコリメータ等が配置されており、X線ビームの照射野がX線検出器106に対応する所定幅に設定されている。
【0053】
X線検出器106は、回転陽極X線管装置100の焦点を中心とする円弧状に形成されている。X線の受光面には、被検体104の体軸と直交するチャンネル方向に多数のX線検出素子群が配列され、またX線検出素子群は被検体104の体軸方向へ複数列配列された構成となっている。このX線検出器106で被検体104を透過したX線が検出され、データ収集装置107で2つの焦点位置毎に投影データとしてデータ収集される。なお、2つの焦点位置F1、F2と収集された画像データとの対応付けの詳細については、後述する。
【0054】
データ収集装置107で収集された投影データは、画像再構成装置108に送られ、画像再構成装置108では、投影データに基づき被検体104の断層像が再構成される。そして、再構成された断層像は画像表示装置109に表示され、画像診断に供される。
【0055】
図8は本発明のX線CT装置における2つの焦点位置とX線検出器との位置関係を説明するための図である。なお、以下の説明では、X線検出器106を構成するX線検出素子のスキャナ102の回転中心軸方向の配列数が4列の場合について説明するが、これに限定されることはなく、4列以上の配列数のX線検出器106でもよい。近年では64列程度の配列数を有するX線検出器106のX線CT装置が使用されている。
【0056】
図8から明らかなように、本願発明のX線CT装置では、Z軸で示すスキャナ102の回転中心軸方向すなわち被検体104の体軸方向に、2つの焦点位置F1、F2が移動するように回転陽極X線管装置100が配置される構成となっている。また、本実施形態のX線CT装置では、2つの焦点位置F1、F2から発生する1検出器列幅当たりのX線ビームがZ軸上で50%だけオーバーラップされるように幾何学的に構成されている。すなわち、2つの焦点位置F1、F2から照射され同一のX線検出素子に入射するX線ビームがZ軸上で50%の重なると共に、隣接配置されるX線検出素子に入射するX線ビームともZ軸上で50%の重なりが生じるように、2つの焦点位置F1、F2の距離L、回転中心軸(Z軸)と焦点位置との距離a、及び回転中心軸とX線検出器106との距離bがそれぞれ幾何学的に構成されている。このような幾何学的構成とすることにより、いわゆるダブルサンプリングを簡易な構成で実現することが可能となる。なお、ダブルサンプリングについては周知技術となるので、その詳細な説明は省略する。
【0057】
例えば、回転中心軸であるZ軸と焦点位置との距離aが600mm、回転中心軸であるZ軸とX線検出器106との距離bが400mm、Z軸上でのスライス幅wが0.625mm、オーバーラップ量cが50%(c=0.625/2=0.3125)の場合では、2つの焦点位置F1、F2の距離LはL=c×(a+b)/b=0.3125×(600+400)/400=0.78mmとなる。なお、この距離Lは一例であり、L=0.78mmに限定されるものではない。
【0058】
次に、図7及び図8に基づいて、本発明の実施形態であるX線CT装置の動作を説明する。
【0059】
被検体104の断層撮影に当たっては、まず被検体104を寝台105に寝かせた状態で、撮影部位がスキャナ102の回転中心となるように寝台105の位置を調整する。次に、X線CT装置の運転を開始すると、スキャナ102が回転を開始し、続いて回転陽極X線管装置100より被検体104に向けてX線が照射されて、被検体104の断層撮影が開始される。
【0060】
回転陽極X線管装置100からは、2つの焦点位置(F1、F2)からX線が交互に発生するため、データ収集装置107では投影データを2つの焦点位置毎に順次収集する。すなわち各ビューのデータ収集周期と焦点位置が切り換わる周期を合わせ、且つ両者のタイミングを合わせることにより、1ビュー毎に焦点位置の異なる投影データを収集している。
【0061】
データ収集装置107に収集された投影データは画像再構成装置108で周知の方法で再構成され、所定の画像処理がなされた後に画像表示装置109に表示される。
【0062】
このように本実施形態のX線CT装置では、回転陽極X線管装置100が備える回転位置検出手段からの回転位置信号により検出される焦点位置が切り換わる周期・タイミングと、各ビュー毎の投影データの収集周期・タイミングとを一致させている。
【0063】
以上説明したように、本実施形態のX線CT装置では、回転陽極X線管装置100に前述する第1の実施形態の回転陽極X線管装置を適用した構成となっているので、陽極ターゲットの高い面5aからのX線ビームである焦点位置F1からのX線ビーム14aと低い面5bからのX線ビームである焦点位置F2からのX線ビーム14bとが交互に照射される。このとき、2つの焦点位置F1、F2からのそれぞれのX線ビーム14a、14bの照射タイミングに同期してスキャナ102の回転及び投影データの収集を行う構成となっているので、ダブルサンプリング方式のX線CT装置に必要な投影データを容易に収集することが可能となり、高分解能なX線CT装置を提供することができる。
【0064】
また、回転陽極X線管装置100に電子ビームを電磁的に偏向するための電磁石等の外付け機構が不要となるので、ダブルサンプリング方式のX線CT装置を簡素で安価に提供することができるという格別の効果が得られる。
【0065】
なお、本実施形態のX線CT装置では、1ビューのデータ収集周期と焦点位置が切り換わる周期を合わせる構成としたが、これに限定されることはなく、例えば2ビュー(複数ビュー)のデータ収集周期と焦点位置が切り換わる周期とを合わせる構成としてもよい。
【0066】
以上、本発明者によってなされた発明を、前記発明の実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記発明の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施形態である回転陽極X線管装置の概略構成を説明するための図である。
【図2】本発明の第1の実施形態である回転陽極X線管装置の陽極ターゲットの概略構成を説明するための図である。
【図3】本発明の第1の実施形態である回転陽極X線管装置における焦点移動を説明するための図である。
【図4】本発明の第2の実施形態である回転陽極X線管装置の概略構成を説明するための図である。
【図5】本発明の第2の実施形態である回転陽極X線管装置の陽極ターゲットの概略構成を説明するための図である。
【図6】本発明の第2の実施形態である回転陽極X線管装置のその他の陽極ターゲットの概略構成を説明するための図である。
【図7】本発明の回転陽極X線管装置を用いたX線CT装置の概略構成を説明するための図である。
【図8】本発明の回転陽極X線管装置を用いたX線CT装置におけるダブルサンプリングの説明図である。
【符号の説明】
【0068】
1・・・管容器、2、16、19・・・真空外囲器、3・・・陰極、4・・・陰極支持体
5、15・・・陽極ターゲット、5a・・・高い面、5b・・・低い面、6・・・ロータ
7・・・回転支持機構、8・・・ステータ、9・・・放射窓、10・・・絶縁性の冷媒
11・・・発光部、12・・・受光部、13・・・電子ビーム、18・・・凹凸
14a、14b・・・X線ビーム、17・・・照射光、20・・・反射光
100、110、111・・・回転陽極X線管装置、101・・・スキャナガントリ
102・・・スキャナ、103・・・開口部、104・・・被検体
105・・・寝台、106・・・X線検出器
107・・・データ収集装置、108・・・画像再構成装置、109・・・画像表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを放出する陰極と、
前記電子ビームを衝突させ、該衝突位置を焦点位置とするX線を発生させる陽極ターゲットと、
前記陽極ターゲットを回転させる回転機構部と
を備えた回転陽極X線管装置において、
前記陽極ターゲットの電子ビーム衝突面側の領域に形成され、少なくとも回転方向に所定間隔で並設される段差を備える
ことを特徴とする回転陽極X線管装置。
【請求項2】
請求項1記載の回転陽極X線管装置において、
前記陽極ターゲットの回転位置を検出する回転位置検出手段を備えたことを特徴とする回転陽極X線管装置。
【請求項3】
請求項2に記載の回転陽極X線管装置において、
前記回転位置検出手段は、
前記陽極ターゲットの外周部に形成され、側壁面が前記当該陽極ターゲットの回転軸方向に延在し、前記電子ビーム衝突面に形成された前記段差に対応する凹凸部と、
前記凹凸部を間にして対向配置される発光部及び受光部と
を備える
ことを特徴とする回転陽極X線管装置。
【請求項4】
請求項2に記載の回転陽極X線管装置において、
前記回転位置検出手段は、
前記電子ビーム衝突面に照射光を照射する発光部と、
前記電子ビーム衝突面で反射される照射光を検出する受光部と
を備える
ことを特徴とする回転陽極X線管装置。
【請求項5】
被検体にX線を照射する請求項1ないし4の何れか1項に記載の回転陽極X線管装置と、
前記回転陽極X線管装置に対向配置され前記被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、
前記回転陽極X線管装置と前記X線検出器を搭載し前記被検体の周囲を回転するスキャナと、
前記X線検出器で検出した投影データを前記2つの焦点位置毎に収集するデータ収集部と、
前記データ収集部で収集した投影データに基づき前記被検体の断層像を再構成する画像再構成装置と、
前記画像再構成装置で再構成した断層像を表示する画像表示装置と
を備えたことを特徴とするX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−118283(P2010−118283A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291730(P2008−291730)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】