説明

回転電機の冷却構造

【課題】ロータ軸から冷却液を吐出してコイルの冷却を行う回転電機において、高回転時におけるコイルに掛かる冷却液の減少を抑制する。
【解決手段】ロータ軸16に、冷却液を吐出するための複数の貫通孔26,28を設ける。一方の貫通孔26に、所定の回転速度以上で貫通孔26を閉止するチェック弁32を設ける。回転速度が高くなり、1回に掛かる冷却液の量が減少するとき、チェック弁32に因り貫通孔26を閉じ、一方の貫通孔28から集中して冷却液を吐出するようにする。これにより、コイルのある箇所に、1回に掛かる冷却液の量を増やし、コイル内部まで冷却液が送られるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関し、特にその冷却に係る構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギを回転の運動エネルギに変換する電動機、回転の運動エネルギを電気エネルギに変換する発電機、さらに電動機と発電機どちらにも機能する電気機器が知られている。以下において、これらの電気機器を回転電機と記す。
【0003】
液体により冷却を行う回転電機が知られている(下記特許文献1参照)。下記特許文献1に記載された回転電機では、回転電機が高回転になると、ロータ軸からオイル(冷却液)を放出してロータを冷却している。また、ロータ軸から放出されるオイルによりコイルを冷却する技術も知られている(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−118714号公報
【特許文献2】特開2009−118686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冷却液の供給量が回転電機の回転速度に対して一定であると、回転速度が高速となったとき、1個の穴から放出される1回転当たりの冷却液の量が減少する。ロータ軸から放出される冷却液によりコイル等のロータ周囲の固定構成物を冷却する場合、上記の放出冷却液の減少は、コイル等の固定構造物上の1箇所からみると、冷却液が1回掛かるごとの冷却液量の減少となって現れる。この1回掛かるごとの冷却液の減少により、コイル等の十分な冷却がなされないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の1回掛かるごとの冷却液の量の減少を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る回転電機は、ロータ軸に、冷却液をコイルに向けて吐出する複数の孔を設ける。この孔は、ロータ軸の内部に形成される流路と、ロータ軸の外周面を結ぶ貫通孔である。ロータ軸の内部の前記流路には、冷却液供給源から冷却液が供給される。冷却液供給源からの冷却液供給量は、回転電機が第1の回転速度以上になると、回転速度に比例する場合よりも少なくなるように制限されている。冷却液の供給量が制限を受けた状況において、回転電機が第2の回転速度以上になると、前記複数の貫通孔の一部を閉止手段により閉止する。
【0008】
閉止手段は、回転電機の回転による遠心力により動作するチェック弁とすることができる。
【0009】
冷却液供給源は、第1所定回転速度以上の回転速度において、供給する冷却液の量を一定とするものとすることができる。
【発明の効果】
【0010】
1個の貫通孔当たりの冷却液の吐出量が増加し、冷却液が1回掛かるごとの冷却液の量の減少を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】回転電機10の概略構成を示す断面図である。
【図2】ロータ軸16の軸直交断面図である。
【図3】オイルポンプの供給量を示す図である。
【図4】貫通孔26およびこれを閉止するチェック弁32の構造を示す図である。
【図5】チェック弁32を図4の下方から見た図である。
【図6】貫通孔から供給される冷却液の量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、回転電機10の概略構成を示す断面図である。回転電機10は、ロータ12とステータ14を含む。ロータ12は概略円柱形状を有し、ステータ14は概略円筒形状であって、ロータ12を囲むように配置される。ロータ12は、軸受(不図示)に回転可能に支持されたロータ軸16と、ロータ軸16と一体となって回転するロータコア18を含む。ステータ14は、巻装されたコイル20を含み、コイル20に外部から電力を供給することにより、ステータ14の内側に回転する磁界が形成される。ロータ12は、ステータ14により形成された回転磁界と磁気結合し、回転する。
【0013】
ロータ軸16の中空部分は、オイルポンプ22から供給される潤滑油の流れる流路24となっている。潤滑油は、ロータ軸16を支持する軸受や、当該回転電機の各部、さらには、回転電機10の周囲に配置される機構および構造物の潤滑を必要とする位置にオイルポンプ22により供給される。潤滑油はまた、回転電機10等の各部の冷却する冷却液としても機能する。また、潤滑油は、液圧式アクチュエータの作動液としても機能する。例えば、回転電機10が車両のトランスアクスル内に配置される場合、変速機構のクラッチおよびブレーキを動作させるための作動液として機能する。以下では、潤滑油の冷却機能に着目し、潤滑油を冷却液と記す。また、ロータ軸16に形成される内部の流路24を冷却液流路24と記す。
【0014】
図2は、ロータ軸16の軸直交断面図である。この図2および図1により示されるように、ロータ軸16には、内部の冷却液流路24と外周面とを結ぶ貫通孔26,28が設けられている。この回転電機10において、貫通孔は2個設けられているが、これより多く設けることもできる。オイルポンプ22から冷却液流路24に供給された冷却液は、貫通孔26,28からロータ軸16の周囲に向けて吐出される。貫通孔26,28が設けられた位置の半径方向外側には、コイル20、特に、ステータ14のコアの端面から出た部分であるコイルエンド30が位置する。貫通孔26,28は、ここから吐出される冷却液がコイルエンド30に向かうように配置されている。
【0015】
オイルポンプ22は、ある回転速度までは、当該オイルポンプの回転速度に比例した吐出量を有し、その回転速度を超えると、比例した吐出量より少ない吐出量に制限される特性のものが用いられる。回転速度に比例した吐出量と、制限される吐出量の境界の回転速度を以降、境界回転速度と記す。また、制限される吐出量の例としては、境界回転速度以上の速度領域で吐出量が一定となる特性が挙げられる。この特性を、図3に実線で示す。
【0016】
図3は、横軸がオイルポンプ22の回転速度、縦軸がオイルポンプ22が冷却液流路24に供給する冷却液の量である。オイルポンプ22と回転電機10の回転速度が比例関係を有する場合、横軸は回転電機10の回転速度も示している。前述の境界回転速度が図3中、符号N1 で示されている。境界回転速度N1 以下では、供給量は回転速度に比例し、それ以上では一定となっている。
【0017】
供給量が一定の領域では、回転速度が高くなるに従い、ロータ軸16が1回回転する間の、1個の貫通孔から吐出される冷却液の量は減少する。吐出された冷却液が掛かるコイルエンド30の、周上の1箇所からみると、この箇所に、貫通孔26,28が回転してきて対向した時に冷却液が掛かる。この周上の1箇所にとっては、回転速度が高くなり、1個の貫通孔の1回転当たりの吐出量が減少することは、その箇所に冷却液が1回掛かるときの冷却液の量が減少することを意味する。1回当たり冷却液の供給量が減少すると、コイルエンド30、特にその内部に十分冷却液が供給されない。コイルエンド30は、コイル導線が複雑に配列されており、コイル導線同士の隙間からコイルエンド30内部に冷却液が浸入することにより内部まで冷却される。しかし、前述のように1回当たりに掛かる冷却液の量が少ないと、冷却液がコイルエンド30の表面に掛かるだけで、内部まで冷却液が浸入せず、内部の冷却が十分でなくなる場合がある。
【0018】
回転電機10においては、1回に掛かる冷却液の量の減少を抑制するために、回転電機10が所定の回転速度となったときに、冷却液の吐出に係る貫通孔の数を減じている。貫通孔26,28の一部、つまり一方の貫通孔26に、これを閉止する閉止手段が設けられている。閉止手段は、具体的にはチェック弁32である。
【0019】
図4および図5は、チェック弁32の細部の構造を示す図である。貫通孔26は、ロータ軸16の外側部分に径の細い細径部34、内側部分に径の太い太径部36を有し、これらが繋がって形成されている。太径部36内部の空間には、細径部34の内径より大きい直径を有するボール38が配置される。太径部36の冷却液流路24側の開口には、ボール38を保持するための保持板40が、開口を蓋するように設けられている。保持板40は略円形であり、ボール38を支持する位置、または保持板の中心を避けるようにしてスリット42が設けられている。この例では、同一円周上に配置される円弧形状の4個のスリットが設けられている。ボール38には、ボール38を保持板40に向けて、つまり、細径部34から離れる向きに、ばね44により付勢力が作用している。
【0020】
ロータ軸16の回転速度が低い場合は、ばね44の付勢力によりボール38は、保持板40に当接し、細径部34を開放している。回転速度が高くなるに従ってボール38に作用する遠心力が増加し、これがばね44の付勢力より大きくなると、ボール38は細径部34の内径側の開口を塞ぎ、貫通孔26を閉止する。ボール38は、これに作用する遠心力により動作する弁体として機能する。貫通孔26が閉止される回転速度を閉止回転速度N2 として図6に示す。貫通孔26が閉止された後は、貫通孔28からのみ冷却液が吐出され、コイルエンド30が冷却される。
【0021】
図6は、一つの貫通孔28から吐出される冷却液の流量およびコイルエンド30のある箇所に、1回に掛かる量を示す図である。貫通孔28から吐出される流量が実線で示され、1回に掛かる量が破線で示されている。境界回転速度N1 までは、オイルポンプ22の供給量の増加と共に、流量および1回に掛かる量が増加する。境界回転速度N1 を超えると、オイルポンプ22からの供給量が一定となり、貫通孔28から吐出される流量も一定になる。一方、ロータ軸16の回転速度は増加するので、1回転当たりの吐出量は減少し、コイルエンド30のある箇所に、1回に掛かる冷却液の量も減少する。閉止回転速度N2 に達すると、一方の貫通孔26が閉止されるため、貫通孔28の流量は2倍となる。1回に掛かる冷却液の量も2倍に増加する。さらに、回転速度が増加すると、これに伴って、流量、1回に掛かる量も減少する。しかし、貫通孔26を閉止しない場合(図6に一点鎖線で示す)に比べ、流量および1回に掛かる量を増加させることができる。これにより、コイルエンド30内部に送られる冷却液の量を、貫通孔の個数を減少させない場合に比べて増やすことができ、コイルの冷却性が改善される。
【0022】
境界回転速度および閉止回転速度は、回転電機10の使用環境や使用条件に基づき任意に定めることができる。貫通孔の数は、3つ以上とすることも可能であり、さらに複数の貫通孔に閉止手段を設けることもできる。複数の貫通孔に閉止手段を設ける場合、貫通孔ごとに閉止する回転速度(閉止回転速度)が異なるようにすることもできる。
【0023】
貫通孔26を閉止する閉止手段は、他の構成を採ることもできる。例えば、貫通孔の細径部34の開口を塞ぐ弁体は、ボール形状でなくてもよく、例えば板形状であってもよい。羽根は、コイルばねの他、板ばね等の他のばねを採用することができる。板ばねの一部が開口を塞ぐようにしてもよい。さらに、遠心力により動作する弁以外の機構を設けることもできる。例えば、二つの貫通孔のそれぞれに別個に当該貫通孔に至る冷却液の流路を設け、流路に電磁弁等の閉止手段を設けるようにもできる。3つ以上の貫通孔を設ける場合は、同時に閉止動作させる貫通孔により組を形成し、この組ごとに冷却液の流路を設けるようにできる。
【符号の説明】
【0024】
10 回転電機、12 ロータ、14 ステータ、16 ロータ軸、20 コイル、22 オイルポンプ、24 冷却液流路、26,28 貫通孔、30 コイルエンド、32 チェック弁(閉止手段)、38 ボール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ軸を含むロータと、
コイルを有し、ロータの外側に配置されるステータと、
冷却液を供給する冷却液供給源と、
を有する回転電機の冷却構造であって、
ロータ軸には、内部の流路と、この流路とロータ軸外周面を結ぶ複数の貫通孔とが設けられ、
冷却液供給源から供給される冷却液が、前記流路および前記貫通孔を介して、コイルに向けて吐出され、
冷却液供給源は、当該回転電機が第1の所定回転速度以上の回転速度のとき、供給する冷却液の量を、回転速度に比例する場合よりも制限し、
さらに、
冷却液の供給量が前記のように制限され、かつ回転電機が第2所定回転速度以上の回転速度のときに、前記複数の貫通孔のうち一部を閉止する閉止手段、
を有する、回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、前記閉止手段は、回転電機の回転による遠心力により動作するチェック弁である、回転電機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回転電機であって、前記冷却液供給源は、前記第1所定回転速度以上の回転速度において、供給する冷却液の量を一定とする、回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−62912(P2013−62912A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198552(P2011−198552)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】