説明

回転電機の回転子軸心位置測定方法及び回転電機の回転子軸心位置測定装置

【課題】回転子の軸心位置と固定子の中心とのずれを高価な測定装置を用いず簡単な構成で、高精度かつ短時間に測定することができる回転電機の回転子軸心位置測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】固定子1においては互いに対向する固定子巻線15a、15bを有し、固定子1内には所定のエアギャップ5を介して回転子2が配置され、交流電圧源Vacによって固定子巻線15a、15bに電流を流し、固定子巻線15a、15bに流れる電流値の差を電流測定手段6によって測定することにより、回転子2の軸心の固定子1の中心軸に対する位置ずれの方向と大きさを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は回転電機における回転子軸心位置を測定するための方法及び装置に関するものであり、特に回転子の軸心位置がずれることによって電磁騒音を生じやすい小形の誘導電動機等の回転子の軸心位置測定方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の回転電機の回転子軸心位置測定方法では、固定子巻線のインダクタンスが固定子と回転子との間のエアギャップの長さに反比例することを利用して、固定子巻線のインダクタンスを各相ごとに測定し,各インダクタンス測定値における偏差から,エアギャップの長さの不均一性、すなわち回転電機の中心と回転子の軸心位置との間のずれ量を算出していた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−223875号公報(第5〜6頁、第4図、第5図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の回転電機の回転子軸心位置測定方法は以上のように構成されていたので、各相の固定子巻線のインダクタンスを順次測定しなければならないため、各相毎に配線を切替える必要があり、測定時間が長くなるという問題点があった。また通常インダクタンス測定値の偏差は平均値に対して相対的に小さいため、偏差を算出する際の誤差を防ぐためには、インダクタンスの測定精度を上げなければならず、高価なインダクタンス測定装置が必要になってしまうという問題点があった。
【0005】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたものであり、回転子の軸心位置と中心とのずれを高価な測定装置を用いず簡単な構成で、高精度かつ短時間に測定することができる回転電機の回転子軸心位置測定方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る回転電機の回転子軸心位置測定方法は、固定子鉄心に対して巻回された複数の固定子巻線を有する固定子と、上記固定子鉄心内にエアギャップを介して配置された回転子鉄心を有する回転子とからなる回転電機の回転子軸心位置測定方法であって、上記複数の固定子巻線のうちの上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している少なくとも2対の固定子巻線を測定時に並列に接続するとともに、上記並列に接続された固定子巻線に交流電圧源により電流を流し、上記並列に接続された各一対を構成している固定子巻線のうちの一の固定子巻線に流れる電流値と他の固定子巻線に流れる電流値との差を電流測定手段により測定し、上記各一対の固定子巻線の電流値の差と、上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向との関係特性を予め求めておき、この関係特性と上記電流差の測定結果に基づいて上記ずれの量及び上記ずれの方向を測定するようにしたものである。
【0007】
又この発明に係る別の回転電機の回転子軸心位置測定方法は、固定子鉄心に対して巻回された複数の固定子巻線を有する固定子と、上記固定子鉄心内にエアギャップを介して配置された回転子鉄心を有する回転子とからなる回転電機の回転子軸心位置測定方法であって、上記複数の固定子巻線のうち上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している一対の固定子巻線を測定時に並列に接続するとともに、上記並列に接続された一対の固定子巻線に交流電圧源により電流を流し、上記並列に接続された一対を構成している固定子巻線のうちの一の固定子巻線に流れる電流値と他の固定子巻線に流れる電流値との差を電流測定手段により測定するとともに、上記複数の固定子巻線のうちの上記一対の固定子巻線以外の固定子巻線であって、上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している他の一対の固定子巻線の一の固定子巻線に上記並列に接続された一対の固定子巻線に流れる電流によって発生する誘起電圧と他の固定子巻線に上記並列に接続された一対の固定子巻線に流れる電流によって発生する誘起電圧との差を測定し、上記一対の固定子巻線の電流値の差及び上記他の一対の固定子巻線の誘起電圧差と、上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向との予め求められた関係特性と上記電流差及び上記誘起電圧差の測定結果に基づいて上記ずれの量及び上記ずれの方向を測定するようにしたものである。
【0008】
この発明に係る回転電機の回転子軸心位置測定装置は、固定子鉄心に対して巻回された複数の固定子巻線を有する固定子と、上記固定子鉄心内にエアギャップを介して配置された回転子鉄心を有する回転子とからなる回転電機の回転子軸心位置測定装置であって、測定時に並列に接続された上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している少なくとも2対の固定子巻線に電流を流すための交流電圧源と、上記並列に接続された各一対を構成している固定子巻線のうちの一の固定子巻線に流れる電流値と他の固定子巻線に流れる電流値との差を測定する電流測定手段と、上記各一対の固定子巻線の電流値の差と、上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向との関係特性を定義したテーブルと、このテーブルと上記電流測定手段により測定した電流差とから上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向を検出する手段とを設けたものである。
【0009】
又この発明に係る別の回転電機の回転子軸心位置測定装置は、固定子鉄心に対して巻回された複数の固定子巻線を有する固定子と、上記固定子鉄心内にエアギャップを介して配置された回転子鉄心を有する回転子とからなる回転電機の回転子軸心位置測定装置であって、上記複数の固定子巻線のうち測定時に並列に接続された上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している一対の固定子巻線に電流を流すための交流電圧源と、上記並列に接続された一対を構成している固定子巻線のうちの一の固定子巻線に流れる電流値と他の固定子巻線に流れる電流値との差を測定する電流測定手段と、上記複数の固定子巻線のうちの上記一対の固定子巻線以外の固定子巻線であって、上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している他の一対の固定子巻線の一の固定子巻線に上記並列に接続された一対の固定子巻線に流れる電流によって発生する誘起電圧と他の固定子巻線に上記並列に接続された一対の固定子巻線に流れる電流によって発生する誘起電圧との差を測定する誘起電圧測定手段と、上記一対の固定子巻線の電流値の差及び上記他の一対の固定子巻線の誘起電圧差と、上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向との関係特性を定義したテーブルと、このテーブルと上記電流測定手段により測定した電流差及び上記誘起電圧測定手段により測定した誘起電圧差とから上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向を検出する手段とを設けたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る回転電機の回転子軸心位置測定方法によれば、固定子鉄心に対して巻回された複数の固定子巻線を有する固定子と、上記固定子鉄心内にエアギャップを介して配置された回転子鉄心を有する回転子とからなる回転電機の回転子軸心位置測定方法であって、上記複数の固定子巻線のうちの上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している少なくとも2対の固定子巻線を測定時に並列に接続するとともに、上記並列に接続された固定子巻線に交流電圧源により電流を流し、上記並列に接続された各一対を構成している固定子巻線のうちの一の固定子巻線に流れる電流値と他の固定子巻線に流れる電流値との差を電流測定手段により測定し、上記各一対の固定子巻線の電流値の差と、上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向との関係特性を予め求めておき、この関係特性と上記電流差の測定結果に基づいて上記ずれの量及び上記ずれの方向を測定するようにしたので、回転子の軸心位置ずれの大きさ及び方向を簡単な構成で高精度に測定できる。
【0011】
又この発明に係る別の回転電機の回転子軸心位置測定方法によれば、固定子鉄心に対して巻回された複数の固定子巻線を有する固定子と、上記固定子鉄心内にエアギャップを介して配置された回転子鉄心を有する回転子とからなる回転電機の回転子軸心位置測定方法であって、上記複数の固定子巻線のうち上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している一対の固定子巻線を測定時に並列に接続するとともに、上記並列に接続された一対の固定子巻線に交流電圧源により電流を流し、上記並列に接続された一対を構成している固定子巻線のうちの一の固定子巻線に流れる電流値と他の固定子巻線に流れる電流値との差を電流測定手段により測定するとともに、上記複数の固定子巻線のうちの上記一対の固定子巻線以外の固定子巻線であって、上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している他の一対の固定子巻線の一の固定子巻線に上記並列に接続された一対の固定子巻線に流れる電流によって発生する誘起電圧と他の固定子巻線に上記並列に接続された一対の固定子巻線に流れる電流によって発生する誘起電圧との差を測定し、上記一対の固定子巻線の電流値の差及び上記他の一対の固定子巻線の誘起電圧差と、上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向との予め求められた関係特性と上記電流差及び上記誘起電圧差の測定結果に基づいて上記ずれの量及び上記ずれの方向を測定するようにしたので、回転子の軸心位置ずれの大きさ及び方向を簡単な構成で高精度に測定できる。
【0012】
この発明に係る回転電機の回転子軸心位置測定装置によれば、固定子鉄心に対して巻回された複数の固定子巻線を有する固定子と、上記固定子鉄心内にエアギャップを介して配置された回転子鉄心を有する回転子とからなる回転電機の回転子軸心位置測定装置であって、測定時に並列に接続された上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している少なくとも2対の固定子巻線に電流を流すための交流電圧源と、上記並列に接続された各一対を構成している固定子巻線のうちの一の固定子巻線に流れる電流値と他の固定子巻線に流れる電流値との差を測定する電流測定手段と、上記各一対の固定子巻線の電流値の差と、上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向との関係特性を定義したテーブルと、このテーブルと上記電流測定手段により測定した電流差とから上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向を検出する手段とを設けたので、回転子の軸心位置ずれの大きさ及び方向を簡単な構成で高精度に測定できる。
【0013】
又この発明に係る別の回転電機の回転子軸心位置測定装置によれば、固定子鉄心に対して巻回された複数の固定子巻線を有する固定子と、上記固定子鉄心内にエアギャップを介して配置された回転子鉄心を有する回転子とからなる回転電機の回転子軸心位置測定装置であって、上記複数の固定子巻線のうち測定時に並列に接続された上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している一対の固定子巻線に電流を流すための交流電圧源と、上記並列に接続された一対を構成している固定子巻線のうちの一の固定子巻線に流れる電流値と他の固定子巻線に流れる電流値との差を測定する電流測定手段と、上記複数の固定子巻線のうちの上記一対の固定子巻線以外の固定子巻線であって、上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している他の一対の固定子巻線の一の固定子巻線に上記並列に接続された一対の固定子巻線に流れる電流によって発生する誘起電圧と他の固定子巻線に上記並列に接続された一対の固定子巻線に流れる電流によって発生する誘起電圧との差を測定する誘起電圧測定手段と、上記一対の固定子巻線の電流値の差及び上記他の一対の固定子巻線の誘起電圧差と、上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向との関係特性を定義したテーブルと、このテーブルと上記電流測定手段により測定した電流差及び上記誘起電圧測定手段により測定した誘起電圧差とから上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向を検出する手段とを設けたので、回転子の軸心位置ずれの大きさ及び方向を簡単な構成で高精度に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1による回転電機の回転子軸心位置測定装置を示す回路図である。
【図2】回転電機を示す斜視図である。
【図3】回転電機を示す斜視図である。
【図4】回転電機を示す側面断面図である。
【図5】回転電機を示す平面断面図である。
【図6】回転電機を示す平面断面図である。
【図7】この発明の実施の形態2による回転電機の回転子軸心位置測定装置を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
以下この発明の一実施形態を図に基づいて説明する。図1はこの発明の実施の形態1による回転電機の回転子軸心位置測定装置を示す回路図である。本発明による回転電機の回転子軸心位置測定装置は、複数の固定子巻線15a〜15dに同時に交流電圧を印加する交流電圧源Vacと、回転子2を挟んで対向する位置関係にある1対の固定子巻線15aと15c、及び1対の固定子巻線15bと15dに流れる電流の差を測定する電流測定手段6とからなる。
【0016】
回転子2を挟んで対向する位置関係にある固定子巻線15aと15cは、中間端子17aを中継点として直列に結線されている。固定子巻線15aと15cは、電流が固定子巻線15a側の端子16aから中間端子17aを介して固定子巻線15c側の端子16cに向かって流れたときに、互いの磁束が強まる向きに巻線されている。すなわち同一方向に電流が流れた場合、各巻線に発生する磁束の向きが同一となるように巻回されている。同様に固定子巻線15bと15dは中間端子17bを中継点として直列に結線されている。
【0017】
交流電圧源Vacの一方の端子は固定子巻線の中間端子17a,17bと接続されており,もう一方の端子は電流測定手段6内部の同一抵抗値を有する並列抵抗器Ra〜Rdと接続されている。並列抵抗器Ra〜Rdは端子16a〜16dを介して固定子巻線15a〜15dとそれぞれ直列接続されている。したがって固定子巻線15a〜15dは交流電圧源Vacと並列接続され,電流は中間端子17a,17bから端子16a〜16dの向き、あるいはその逆の向きに流れる。このように接続することで,交流電圧源Vacを作動すると、固定子巻線15aと15cの間、及び固定子巻線15bと15dの間では互いの磁束を打消し合う向きの磁界が発生する。
【0018】
交流電圧源Vacの電圧及び周波数は測定対象となる回転電機に対応して任意に設定できるが,発熱による固定子巻線15a〜15dの抵抗値変化を抑えるため,電流ができるだけ小さくなるように設定するのが望ましい。本実施形態においては,固定子巻線15a〜15dのインピーダンスが約5kΩ(周波数100Hz)であるので,電流値が約1mAになるよう,交流電圧源Vacの電圧を5V,周波数を100Hzに設定した。また抵抗器Ra〜Rdは固定子巻線のインピーダンスの約0.1倍である470Ωに設定した。
【0019】
固定子巻線15a,15cに流れる電流Ia,Icは,固定子巻線15a,15cに直列接続された抵抗器Ra,Rcにかかる電圧RaIa,RcIcに比例するから,端子16a,16cの電圧を測定することにより抵抗器Ra,Rcにかかる電圧を測定することが出来る。端子16a,16cの電圧の差は差動増幅器61に入力され約10倍に増幅される。固定子巻線15bと15dに流れる電流Ib,Idについても同様であり、端子16b,16dの電圧の差は差動増幅器62に入力される。
【0020】
増幅された信号にはノイズ成分(高周波成分)が含まれるため,以下の方法で所望の周波数(本例では100Hz)の信号のみを抽出し、S/N比を向上させる。まず,交流電圧源Vacの電圧信号を位相調整器67、68に入力する。位相調整器67、68は,位相調整後の電圧信号が差動増幅器61、62の出力信号と同位相になるように,位相調整量を予め設定しておく。
【0021】
次に位相調整器67、68の出力信号である基準周波数信号と差動増幅器61、62の出力信号とを乗算器63、64で乗じる。このとき差動増幅器61、62の出力信号のうち,交流電圧源Vacの電圧信号と等しい周波数の信号は直流成分として出力される。即ち位相調整器67、68の出力信号をcosmωt、差動増幅器61、62の出力信号をcosnωtとすると、乗算器63、64において両者を乗じることにより、
cosmωt×cosnωt={cos(m+n)ωt+cos(m−n)ωt}/2となるが、m=nであるから、(cos2mωt+1)/2なる信号が得られることとなる。実際には位相調整器67、68は電源電圧cosωtの位相を調整するだけなので、m=n=1となり、
(cos2ωt+1)/2なる信号が得られる。
【0022】
この信号は、直流成分である1/2と、2倍数次であるcos2ωt/2に分解することができる。従って直流成分を透過し、2倍数次成分を遮断するようなローパスフィルター65、66を通過させれば直流成分のみ取り出すことができ、電流の差Ic−Ia及びId−Ibに比例した信号を得ることができる。直流成分が得られるのはm=n=1の場合のみであり、ノイズ成分(1<n)はn±1の2つの交流成分に分解されるだけである。したがって,ローパスフィルター65、66の遮断周波数を十分低くしておけば(例えば0.1〜0.5×ω),ノイズ成分も遮断される。ここで電流の差Ic−Ia及びId−Ibと、固定子の中心と回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向との関係特性を予め求めておき、この関係特性を示すテーブルを作成し、このテーブルに示された関係特性を参照することにより、電流の差Ic−Ia及びId−Ibからずれの量及びずれの方向を判別し、更には回転子2の軸心の位置ずれを調整する。
【0023】
次に回転子2の軸心位置と固定子の中心軸とがずれた場合に,回転子2を挟んで対向する位置関係にある固定子巻線15aと15c(または15bと15d)に流れる電流の差が生じる原理を説明する。図2,図3は本発明の測定対象となる回転電機を示す斜視図であり、図3においてはブラケットを取り除いた状態を示している。図4は軸方向に沿って切断した断面図である。図においては、固定子鉄心11の歯数が4個の小形誘導電動機を示しているが、他の構成の回転電機にも適用可能である。
【0024】
回転電機は固定子1,かご形回転子2,フレーム3及びブラケット4で構成されている。固定子1は固定子鉄心11,インシュレータ14及び固定子巻線から成る。固定子鉄心11は環状の継鉄部12と継鉄部12から回転電機の中心軸方向に延設された4つの歯部13a〜13dとを備える。インシュレータ14は2個で一対をなしており、固定子鉄心11の歯部13a〜13dにブラケット4側とフレーム3側から嵌合されることにより固定されている。
【0025】
ブラケット4側のインシュレータ14の壁部上面には,すずめっきが施された銅製の端子16が2本圧入固定されている。固定子巻線はインシュレータ14の周囲に所定巻数だけ巻回されており,巻始め側と巻終わり側の端末線は端子16にからげられ,はんだ接合されている。このように構成された固定子1は略円筒状のフレーム3の開口部に継鉄部12の軸方向における一部分が露出するようにして圧入固定されている。
【0026】
回転子2は回転子鉄心,導体25,回転軸26及び軸受27a、27bから構成されている。回転子鉄心は環状の継鉄部と、継鉄部から放射状に延設された歯部から成り,歯部と歯部との間の溝部にはアルミ製の導体25がアルミダイキャスト製法によってインサート成形されている。回転子鉄心の中央部には回転軸26が貫通して固定されており,回転軸26のフレーム3側とブラケット4側にはそれぞれ軸受27a,27bの内輪がしまり嵌めされている。
【0027】
軸受27a、27bの外輪はフレーム3とブラケット4の中央部に凹部を設けることにより構成されたハウジング31,41に隙間嵌めを施すことにより固定される。ブラケット4の内径と固定子継鉄部12の外径との間には所定量の隙間が設けられており,この隙間の分により回転子2の軸心の位置ずれを調整できるようになっている。回転子2の軸心の位置ずれを調整した後,フレーム3のフランジ32とブラケット4のフランジ42を接触させ、レーザ溶接部8において溶接して固定する。
【0028】
図5、図6は回転電機の軸に対して垂直な方向に沿って切断した断面図であり、図5は回転子の軸心と固定子の中心軸とが一致している場合、図6は回転子の軸心と固定子の中心軸とが一致していない場合を示している。図において、矢印はある瞬間に固定子巻線が発生する磁束7を表している。回転電機の内部には4つの磁極による磁束が形成されている。
【0029】
図5において、固定子巻線15dが発生した磁束7a,7cは,歯部13dの先端からエアギャップ5を横断して回転子鉄心に進入し,回転軸26の手前で左右両側に分岐する。二手に分かれた磁束7a,7cは,それぞれ再びエアギャップ5を横断して固定子鉄心11の歯部13a,13cに進入し,固定子巻線15a,15cと鎖交した後,固定子鉄心11の継鉄部12を通って固定子鉄心11の歯部13dで再び合流して固定子巻線15dに還る経路をたどる。他の固定子巻線15a〜15cが発生する磁束についても同様である。
【0030】
回転子2の軸心位置にずれがない場合は,図5に示すように,回転子2を挟んで対向する位置関係にある固定子巻線15bと15dに鎖交する磁束はそれぞれ等しいため,固定子巻線15bと15dそれぞれの自己インダクタンスによって発生する逆起電力は等しくなる。従って,固定子巻線15bと15dには等しい電流が流れる。この関係は固定子巻線15aと15cの間においても同様である。
【0031】
一方図6に示すように,回転子2の軸心位置が固定子巻線15dの方向にずれた場合には、エアギャップ5の長さは固定子巻線15b側よりも固定子巻線15d側の方が短いため,磁路抵抗は固定子巻線15b側よりも固定子巻線15d側の方が小さい。したがって固定子巻線15a,15cを鎖交する磁束7a,7cの大きさは固定子巻線15b,15d側において同一とはならず、固定子巻線15dの方に多く偏る。
【0032】
そのため,固定子巻線15dにおいて、その自己インダクタンスにより発生する逆起電力は、対向する位置関係にある固定子巻線15bにおいて、その自己インダクタンスにより発生する逆起電力より大きくなる。その結果,固定子巻線15dに流れる電流は固定子巻線15bに比べて少なくなる。他方固定子巻線15a,15cに鎖交する磁束は,図6に示すように等しいので,発生する逆起電力及び電流も等しくなる。この関係は回転子2の軸心位置が他の方向にずれた場合も同様である。
【0033】
以上より,回転子2の軸心位置がずれた場合,エアギャップ5が小さくなる方向(すなわち回転子2が固定子1に近づく方向)の固定子巻線に流れる電流が,当該固定子巻線と回転子2を挟んで対向する位置にありエアギャップ5が大きくなる方向(すなわち回転子2が固定子1から遠ざかる方向)の固定子巻線に流れる電流と比べて小さくなることが分かる。従ってこれら1対の固定子巻線に流れる電流の差を測定することで,回転子2の軸心の回転電機の中心軸に対する位置ずれの方向と大きさを測定することができる。位置ずれの方向と大きさを測定する具体的手段は図1について説明したとおりである。
【0034】
以上のような構成によれば,複数の固定子巻線15a〜15dに同時に交流電圧を印加する交流電圧源Vacを設けたことにより,複数方向の回転子の軸心位置ずれを同時に測定できるため測定時間が短くなる。また回転子2の回転軸26に対して対称関係になるように対向する位置関係にある1対の固定子巻線に流れる電流の差を電流測定手段6を用いて測定することで,回転子の軸心位置ずれの大きさ及び方向を簡単な構成で高精度に測定でき、従って歩留まりを向上させることが出来る。又従来のように固定子巻線のインダクタンスを各相毎に測定する必要もなくなるので、測定のためのエネルギーを減少させることが出来る。
【0035】
尚上記説明においては4つの固定子巻線を設けた場合を示したが、4つ以外の複数の固定子巻線を設けた場合でも本装置を適用することが出来る。例えば3相誘導電動機であればU相、V相、W相それぞれの固定子巻線に流れる電流をIU、V、W、とすると、I−IV、−IW、−Iの電流差とずれの量及びずれの方向との関係特性を予め求めておき、この関係特性に基づいて上記ずれの量及び上記ずれの方向を測定するものである。
【0036】
実施の形態2.
図7はこの発明の実施の形態2による回転電機の回転子軸心位置測定装置を示す回路図であり、本実施形態においては、固定子巻線に流れる電流の差を測定する代わりに,固定子巻線を開放して誘起電圧の差を測定したものである。固定子巻線15a,15cには,実施の形態1の場合と同様に交流電圧源Vacによって交流電圧を印加する。一方固定子巻線15b,15dは,それぞれに鎖交する磁束が等しいときに端子16b、16d間の電圧が0になるように直列接続しておく。その他の構成は図1に示されたものと同様であり、又その動作も実施の形態1で説明したものと同様である。
【0037】
固定子巻線15a,15cのみに交流電圧を印加した場合でも,回転電機内部の磁束の様子は図5,図6に示したようになる。例えば図6のように回転子2の軸心位置が固定子巻線15dの方向にずれた場合,固定子巻線15dに鎖交する磁束が,対向する位置関係にある固定子巻線15bに鎖交する磁束よりも大きくなるため,固定子巻線15dにおいて発生する誘起電圧が固定子巻線15bにおいて発生する誘起電圧よりも大きくなる。従って固定子巻線15bと15dを直列接続した回路の電圧、即ち端子16b、16d間の電圧を測定すれば回転子軸心位置のずれを測定することができる。尚固定子巻線15a、15cに関しては、実施の形態1の場合と同様電流の差を測定する。そして電流値の差及び電圧差と、固定子の中心と回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向との関係特性を予め求めておき、この関係特性を示すテーブルを作成し、このテーブルに示された関係特性を参照することにより、電流値の差及び電圧からずれの量及びずれの方向を判別し、更には回転子2の軸心の位置ずれを調整する。
【0038】
即ち図6に示されるような場合、固定子巻線15dにおいて発生する誘起電圧が固定子巻線15bにおいて発生する誘起電圧よりも大きくなり、端子16b、16d間の電圧が0ではなくなるので、この電圧を差動増幅器62によって増幅させ、実施の形態1と同様にして軸心位置の偏りを測定するのである。このような構成によれば,電流測定のための抵抗器Rb、Rdが不要になり,実施の形態1の場合よりも更に構成を簡略化することが出来る。そして固定子巻線15a、15cに関しては、実施の形態1の場合と同様電流の差を測定する。即ち電流測定手段6は誘起電圧測定手段としても機能するものである。
【0039】
上記説明においては、固定子巻線15a、15cに交流電圧を印加するようにしたが、固定子巻線15b、15dに交流電圧を印加するような構成にしても良い。又図7においては、4つの固定子巻線を設けた場合を示したが、4つ以外の複数の固定子巻線を設けるようにしても良い。更には図7においては、固定子巻線15a、15cにそれぞれ流れる電流値の差を測定するための手段を設けた場合を示したが、このような手段を省略し、固定子巻線15a、15cには交流電圧源Vacにより交流電圧を印加するようにするとともに、固定子巻線15b、15dの他に開放される固定子巻線を設け、これらの誘起電圧の差を測定するようにしても良い。
【符号の説明】
【0040】
1 固定子、2 回転子、5 エアギャップ、6 電流測定手段、11 固定子鉄心、
15a〜15d 固定子巻線、26 回転軸、61,62 差動増幅器、
63,64 乗算器、65,66 ローパスフィルター、Ra〜Rd 抵抗器、
Vac 交流電圧源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子鉄心に対して巻回された複数の固定子巻線を有する固定子と、上記固定子鉄心内にエアギャップを介して配置された回転子鉄心を有する回転子とからなる回転電機の回転子軸心位置測定方法であって、
上記複数の固定子巻線のうちの上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している少なくとも2対の固定子巻線を測定時に並列に接続するとともに、上記並列に接続された固定子巻線に交流電圧源により電流を流し、上記並列に接続された各一対を構成している固定子巻線のうちの一の固定子巻線に流れる電流値と他の固定子巻線に流れる電流値との差を電流測定手段により測定し、上記各一対の固定子巻線の電流値の差と、上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向との関係特性を予め求めておき、この関係特性と上記電流差の測定結果に基づいて上記ずれの量及び上記ずれの方向を測定することを特徴とする回転電機の回転子軸心位置測定方法。
【請求項2】
固定子鉄心に対して巻回された複数の固定子巻線を有する固定子と、上記固定子鉄心内にエアギャップを介して配置された回転子鉄心を有する回転子とからなる回転電機の回転子軸心位置測定方法であって、
上記複数の固定子巻線のうち上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している一対の固定子巻線を測定時に並列に接続するとともに、上記並列に接続された一対の固定子巻線に交流電圧源により電流を流し、上記並列に接続された一対を構成している固定子巻線のうちの一の固定子巻線に流れる電流値と他の固定子巻線に流れる電流値との差を電流測定手段により測定するとともに、上記複数の固定子巻線のうちの上記一対の固定子巻線以外の固定子巻線であって、上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している他の一対の固定子巻線の一の固定子巻線に上記並列に接続された一対の固定子巻線に流れる電流によって発生する誘起電圧と他の固定子巻線に上記並列に接続された一対の固定子巻線に流れる電流によって発生する誘起電圧との差を測定し、
上記一対の固定子巻線の電流値の差及び上記他の一対の固定子巻線の誘起電圧差と、上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向との予め求められた関係特性と上記電流差及び上記誘起電圧差の測定結果に基づいて上記ずれの量及び上記ずれの方向を測定することを特徴とする回転電機の回転子軸心位置測定方法。
【請求項3】
固定子鉄心に対して巻回された複数の固定子巻線を有する固定子と、上記固定子鉄心内にエアギャップを介して配置された回転子鉄心を有する回転子とからなる回転電機の回転子軸心位置測定装置であって、
測定時に並列に接続された上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している少なくとも2対の固定子巻線に電流を流すための交流電圧源と、上記並列に接続された各一対を構成している固定子巻線のうちの一の固定子巻線に流れる電流値と他の固定子巻線に流れる電流値との差を測定する電流測定手段と、上記各一対の固定子巻線の電流値の差と、上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向との関係特性を定義したテーブルと、このテーブルと上記電流測定手段により測定した電流差とから上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向を検出する手段とを設けたことを特徴とする回転電機の回転子軸心位置測定装置。
【請求項4】
上記電流測定手段は上記一の固定子巻線及び上記他の固定子巻線に対してそれぞれ直列に接続された同一抵抗値を有する抵抗器にかかる電圧の差を測定することによって、上記一の固定子巻線に流れる電流値と上記他の固定子巻線に流れる電流値との差を測定するようにしたことを特徴とする請求項3記載の回転電機の回転子軸心位置測定装置。
【請求項5】
上記電流測定手段は、上記電圧差を増幅するための差動増幅器と、上記交流電圧源の電圧信号の位相を調整するための位相調整器と、上記増幅された信号を上記位相調整器の出力信号と乗算するための乗算器と、乗算された信号から直流成分を抽出するためのローパスフィルタとを備えたことを特徴とする請求項4記載の回転電機の回転子軸心位置測定装置。
【請求項6】
固定子鉄心に対して巻回された複数の固定子巻線を有する固定子と、上記固定子鉄心内にエアギャップを介して配置された回転子鉄心を有する回転子とからなる回転電機の回転子軸心位置測定装置であって、
上記複数の固定子巻線のうち測定時に並列に接続された上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している一対の固定子巻線に電流を流すための交流電圧源と、上記並列に接続された一対を構成している固定子巻線のうちの一の固定子巻線に流れる電流値と他の固定子巻線に流れる電流値との差を測定する電流測定手段と、
上記複数の固定子巻線のうちの上記一対の固定子巻線以外の固定子巻線であって、上記回転子の回転軸に対して対称関係になるよう対向している他の一対の固定子巻線の一の固定子巻線に上記並列に接続された一対の固定子巻線に流れる電流によって発生する誘起電圧と他の固定子巻線に上記並列に接続された一対の固定子巻線に流れる電流によって発生する誘起電圧との差を測定する誘起電圧測定手段と、上記一対の固定子巻線の電流値の差及び上記他の一対の固定子巻線の誘起電圧差と、上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向との関係特性を定義したテーブルと、このテーブルと上記電流測定手段により測定した電流差及び上記誘起電圧測定手段により測定した誘起電圧差とから上記固定子の中心と上記回転子の軸心位置とのずれの量及びずれの方向を検出する手段とを設けたことを特徴とする回転電機の回転子軸心位置測定装置。
【請求項7】
上記誘起電圧測定手段は、上記誘起電圧差を増幅するための差動増幅器と、上記交流電圧源の電圧信号の位相を調整するための位相調整器と、上記増幅された信号を上記位相調整器の出力信号と乗算するための乗算器と、乗算された信号から直流成分を抽出するためのローパスフィルタとを備えたことを特徴とする請求項6記載の回転電機の回転子軸心位置測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−72059(P2011−72059A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218423(P2009−218423)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】