説明

回転電機制御装置

【課題】インバータを不連続パルス幅変調方式で駆動する際の電流リップルを低減する。
【解決手段】複数相の全てが同じ信号レベルとなるゼロベクトル区間NVが基準変調期間TCの先頭に出現する場合は、ゼロベクトル区間NVを分割して、基準変調期間TCの末尾に配分し、ゼロベクトル区間NVが基準変調期間TCの末尾に出現する場合は、ゼロベクトル区間NVを分割して、基準変調期間TCの先頭に配分して、変調パルスS1,S3,S5を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源と交流の回転電機との間に介在されて前記直流電源の直流電力と前記回転電機の複数相の交流電力との間で電力変換するインバータを備えた回転電機駆動装置を制御する回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流の回転電機を駆動するインバータを制御する手法として、高い変調率での制御が可能なことから、しばしば不連続パルス幅変調(DPWM:discontinuous PWM)が用いられる。DPWMは、例えば3相の交流電力の内の1相に対応するインバータのスイッチング素子の駆動信号の信号レベルを順次固定して、他の2相に対応するスイッチング素子の駆動信号の信号レベルを変化させる。具体的には、電気角で60度(π/3)ずつ各相が順次固定される。これに対して、全ての相が変化する正弦波パルス幅変調や、空間ベクトルパルス幅変調は、連続パルス幅変調(CPWM:continuous PWM)と呼ばれる。
【0003】
DPWMでは、3相電圧に対して8つの状態((000),(001),(010),(011),(100),(101),(110),(111))で表される空間ベクトルの内、ゼロベクトルと称される(000),(111)が出現する頻度がCPWMに比べて少なくなる。ここで、“1”は駆動信号の信号レベルがハイレベルの状態を示し、“0”は信号レベルがローレベルの状態を示す。DPWMで1相の駆動信号の信号レベルがハイレベルに固定されている期間、つまり、1相の空間ベクトルが“1”に固定された期間では、ゼロベクトル(000)は出現しない。また、1相の駆動信号の信号レベルがローレベルに固定されている期間、つまり、1相の空間ベクトルが“0”に固定された期間では、ゼロベクトル(111)は出現しない。従って、DPWMではCPWMに比べて、全体としてゼロベクトルが出現する機会が減少することになる。
【0004】
ここで、各相の電流に着目すると、ゼロベクトルではない区間(アクティブベクトル区間)には電流が正負何れかの方向に増加し、ゼロベクトル区間には逆方向に電流が減少する。これは、アクティブベクトル区間では、直流電源と回転電機とがインバータを介して接続されて電流が流れるが、ゼロベクトル区間では、直流電源と回転電機との間に電流が流れず、インバータと回転電機との間で電流が還流して抵抗損失等によって電流が消費されるためである。上述したように、CPWMに比べてDPWMでは、ゼロベクトルの出現頻度が低下することにより、アクティブベクトル区間が長くなるので、電流の増減幅が大きくなる。このため、電流リップルが大きくなってCPWMに比べて損失が大きくなる。
【0005】
特開2008−61494号公報(特許文献1)には、このようなDPWMを用いて交流モータを制御するシステムが開示されている(上述した8つの状態の空間ベクトルは、特許文献1の図3等を参照。)。交流モータ(回転電機)の制御においては、多くの場合電流フィードバック制御が行われるが、このためには実際に交流モータ(回転電機)を流れる電流を検出することが必要である。上述したように電流リップルが大きいと、この電流の検出の際に誤差が大きくなる可能性がある。特許文献1では、この点に鑑みて、電流を検出するサンプリングタイミングを適切に設定している。具体的には、DPWMを用いたパルスシーケンスの基準となるスイッチング・サイクルの開始時や終了時にリップル電流がゼロとなることに着目し、スイッチング・サイクルの開始時にサンプリングタイミングが設定される(第19〜20段落、図29等)。
【0006】
但し、特許文献1では、電流リップルそのものを抑制することについては、提言されていない。上述したように、DPWMは、CPWMに比べて損失が大きくなる。従って、電流のサンプリング誤差を抑制するだけでなく、根本的な原因である電流リップルを低減することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−61494 号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記背景に鑑みて、インバータを不連続パルス幅変調方式で駆動制御する際に生じる電流リップルを低減する技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑みた本発明に係る回転電機制御装置の特徴構成は、
直流電源と交流の回転電機との間に介在されて前記直流電源の直流電力と前記回転電機の複数相の交流電力との間で電力変換するインバータを備えた回転電機駆動装置を制御する回転電機制御装置であって、
前記複数相の交流電力の内の1相に対応する前記インバータのスイッチング素子の駆動信号の信号レベルを順次固定し、他の相に対応するスイッチング素子の駆動信号の信号レベルを変動させる不連続パルス幅変調方式により、所定の変調周波数に応じた変調パルスを生成して、前記インバータを制御するインバータ制御部を備え、
前記インバータ制御部は、信号レベルを固定する際には、前記変調周波数に基づく基準変調期間の全期間に亘って信号レベルをハイレベル又はローレベルに固定し、信号レベルを変動させる際には、前記基準変調期間のそれぞれにおいて前記信号レベルをハイレベルとローレベルとの間で1回変化させるものであり、
前記複数相の全てが同じ信号レベルとなるゼロベクトル区間が前記基準変調期間の先頭に出現する場合は、当該ゼロベクトル区間を分割して、当該基準変調期間の末尾に配分し、前記ゼロベクトル区間が前記基準変調期間の末尾に出現する場合は、当該ゼロベクトル区間を分割して、当該基準変調期間の先頭に配分して、前記変調パルスを生成する点にある。
【0010】
この特徴構成によれば、各基準変調期間において、先頭と末尾とにゼロベクトル区間が分割配置されるので、基準変調期間の区切りにおいてゼロベクトル区間が出現するようになる。このため、アクティブベクトル区間が継続する期間が短くなり、1回のアクティブベクトル区間における電流の増加量がゼロベクトル区間の分割前と比べて少なくなる。その結果、電流の増減幅が抑制され、電流リップルも抑制される。尚、各基準変調期間においてゼロベクトル区間が分割、配分されるので、各基準変調期間における線間電圧は影響を受けない。従って、回転電機に印加する電圧を維持した状態で電流リップルが抑制される。
【0011】
また、本発明に係る回転電機制御装置の前記インバータ制御部は、何れか1相の前記変調パルスの信号レベルがハイレベルに固定されるハイ固定期間において全相の前記変調パルスの前記基準変調期間におけるハイレベルのデューティーを一律に低下させ、何れか1相の前記変調パルスの信号レベルがローレベルに固定されるロー固定期間において全相の前記変調パルスの前記基準変調期間におけるハイレベルのデューティーを一律に上昇させると好適である。この構成によれば、全ての相のデューティーを一律に上昇又は減少させるので、各相の相電圧が一律にオフセットされることになる。つまり、線間電圧は変化しないので、ゼロベクトルの分割・配分前と同等の電圧を回転電機に印加することができる。つまり、回転電機に印加する電圧を維持したままで、各基本制御周期にゼロベクトル区間を出現させて電流リップルを抑制することが可能となる。
【0012】
ここで、本発明に係る回転電機制御装置は、分割後のそれぞれの前記ゼロベクトル区間が、前記信号レベルをハイレベルとローレベルとの間で変化させる際に、前記インバータの1相のレッグを構成する上段側アームの前記スイッチング素子及び下段側アームの前記スイッチング素子が共にオフ状態にスイッチングされる期間であるデッドタイム期間以上の長さに設定されると好適である。直流電源の正極と負極との間に直列接続されて相補的にオン状態となる上段側アームのスイッチング素子と下段側アームのスイッチング素子とは、両アームのスイッチング素子が一時的にでも同時にオン状態となった場合に、直流電源を短絡させてしまう。従って、両アームスイッチング素子の一方がオン状態からオフ状態へ、他方がオフ状態からオン状態へと遷移する際には、両アームのスイッチング素子が共にオフ状態となるようにスイッチングされる期間であるデッドタイム期間が設定される。このデッドタイム期間は、インバータの安全性を確保するために必ず設けなければならない期間であるから、分割後のゼロベクトル区間の長さは、このデッドタイム期間以上の長さに設定されると好適である。尚、1つの態様として、インバータ制御部は、分割後のゼロベクトル区間の長さがこのデッドタイム期間以上の長さに設定可能か否かに応じて、ゼロベクトル区間の分割を行うか否かを決定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】回転電機制御装置を含むシステム構成例を模式的に示すブロック図
【図2】インバータを含む回転電機駆動装置の構成例を模式的に示すブロック図
【図3】不連続パルス幅変調の原理を示す説明図
【図4】分割前のゼロベクトル区間を含む変調パルスの一例を示す波形図
【図5】分割後のゼロベクトル区間を含む変調パルスの一例を示す波形図
【図6】ゼロベクトル区間を分割し配分する一例を示す波形図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、ハイブリッド自動車や電気自動車などの車両の駆動源及び当該車両の直流電源への回生源となる回転電機を制御する回転電機制御装置を例として、図面に基づいて説明する。本実施形態では、回転電機制御装置が、内燃機関と回転電機とが協働するハイブリッド自動車に搭載される回転電機を制御する場合を例として説明する。説明を容易にするために、本実施形態では、1つの回転電機を制御する場合を例として説明するが、複数の回転電機を制御する回転電機制御装置にも本発明を適用することが可能である。尚、以下、回転電機を適宜、モータと称して説明するが、これは、電動機及び発電機として機能する回転電機を指す。
【0015】
図1のブロック図は、そのようなモータMの制御装置50(回転電機制御装置)を含む車両のシステム構成の一例を模式的に示している。図1に示すように、本実施形態では、交流の回転電機として3相同期モータMが備えられている。図1に示すように、モータMは、インバータ5を備えた回転電気駆動装置1を介して、直流電源3と電気的に接続される。この直流電源3は、バッテリであっても良いし、バッテリ及びバッテリの出力電圧を昇圧するコンバータを含むものであってもよい。本実施形態では、図2に示すように直流電源3としてバッテリを例示している。インバータ5は、直流電源3から出力される直流電力を3相交流電力(多相交流電力)に変換する。変換された3相交流電力によって、電動機として機能するモータMが駆動される。また、インバータ5は、モータMが発電機として機能する場合には、発電された3相交流電力を直流電力に変換して直流電源3に回生する。
【0016】
インバータ5は、よく知られているようにスイッチング素子を用いた複数相(ここでは3相)のブリッジ回路により構成される。スイッチング素子には、IGBT(insulated gate bipolar transistor)やMOSFET(metal oxide semiconductor field effect transistor)を適用すると好適である。本実施形態では、スイッチング素子としてIGBTを用いる場合を例として説明する。
【0017】
図2に示すように、インバータ5の直流の正極側と直流の負極側との間には、2つのIGBTが直列に接続された1相分のレッグが構成され、このレッグが3回線並列接続される。つまり、モータMのU,V,W各相に対応するステータコイルのそれぞれに一組のレッグが対応したブリッジ回路が構成される。各レッグの上段側のIGBT(E1,E3,E5)のコレクタはインバータ5の直流の正極側に接続され、エミッタは各レッグの下段側のIGBT(E2,E4,E6)のコレクタに接続される。また、各レッグの下段側のIGBT(E2,E4,E6)のエミッタは、インバータ5の直流の負極側(例えば、グラウンド)に接続される。各レッグにおいて対となるIGBTの中間点、つまり、IGBTの接続点は、モータMの3相のステータコイルにそれぞれ接続される。IGBTには、それぞれ、カソード端子がIGBTのコレクタ端子に接続され、アノード端子がIGBTのエミッタ端子に接続される形でフリーホイールダイオード(還流ダイオード)が並列に(逆並列に)接続される。各IGBTのゲートは、後述するドライバ回路55を介してECU(electronic control unit)50に接続されており、それぞれ個別にスイッチング制御される。
【0018】
ECU50は、マイクロコンピュータなどの論理回路を中核として構成される。本実施形態では、ECU50は、マイクロコンピュータであるCPU(central processing unit)51と、インターフェース回路52と、その他の周辺回路等とを有して構成される。CPU51は、回転電機制御プログラムを実行するコンピュータであり、本発明の回転電機制御装置に相当する制御装置50の中核となる。インターフェース回路52は、EMI(electro-magnetic interference)対策部品やバッファ回路などにより構成される。ドライバ回路55は、インバータ5のスイッチング素子E1〜E6を駆動する駆動信号(スイッチング制御信号S1〜S6)の電圧を変換する回路である。高電圧をスイッチングするIGBTやMOSFETの制御端子(ゲート)に入力される駆動信号は、マイクロコンピュータなどの一般的な電子回路の電源電圧よりも高い電圧を必要とする。このため、駆動信号は、ドライバ回路55を介して電圧変換(例えば昇圧)された後、インバータ5に入力される。
【0019】
本実施形態のCPU51は、例えば、CPUコア11と、プログラムメモリ12と、パラメータメモリ13と、ワークメモリ14と、通信制御部15と、A/Dコンバータ16と、タイマ17と、ポート18とを有して構成される。CPUコア11は、CPU51の中核であり、命令レジスタや命令デコーダ、種々の演算の実行主体となるALU(arithmetic logic unit)、フラグレジスタ、汎用レジスタ、割り込みコントローラなどを有して構成される。つまり、CPUコア11を主として、ワークメモリ14やタイマ17なども含むハードウェアと、プログラムメモリ12やパラメータメモリ13に格納されたプログラムやパラメータなどのソフトウェアとの協働により、制御装置50の中核が構成される。
【0020】
プログラムメモリ12は、モータ制御プログラム(回転電機制御プログラム)が格納された不揮発性のメモリである。パラメータメモリ13は、プログラムの実行の際に参照される種々のパラメータが格納された不揮発性のメモリである。尚、パラメータメモリ13は、プログラムメモリ12と区別することなく構築されてもよい。また、プログラムメモリ12やパラメータメモリ13は、例えばフラッシュメモリなどによって構成されると好適である。ワークメモリ14は、プログラム実行中の一時データを一時記憶するメモリである。ワークメモリ14は、揮発性で問題なく、高速にデータの読み書きが可能なDRAM(dynamic RAM)やSRAM(static RAM)により構成される。
【0021】
通信制御部15は、車両内の他のシステムとの通信を制御する。例えば、車両内のCAN(controller area network)などのネットワークを介して、走行制御システム60や、その他のシステム、センサ等との通信を制御する。本実施形態では、CPU51は、通信制御部15を介して、走行制御システム60から、モータ制御指令Hr(例えば、モータMに対する要求トルク)を受け取り、これに基づいて、モータMを制御する。
【0022】
A/Dコンバータ16は、アナログの電気信号をデジタルデータに変換する。本実施形態では、モータMの各ステータコイルに流れるモータ電流の検出結果を電流センサ58から受け取り、デジタルデータに変換する。本実施形態では、U,V,W相の3相電流の全てが非接触型の電流センサ58により検出される場合を例示している。但し、3相電流は平衡しており、その瞬時値はゼロであるので、2相分のみの電流を検出し、残る1相はCPU51において演算により求めてもよい。また、本例では、A/Dコンバータ16が複数のアナログ入力を有しているように図示しているが、必ずしも複数の入力を有する必要はない。例えば、インターフェース回路52にマルチプレクサを備えて、時分割により複数の電流値を取得してもよい。
【0023】
ところで、交流モータを制御する方法として、ベクトル制御と呼ばれる制御方法が知られている。ベクトル制御では、交流モータの3相各相のステータコイルに流れるコイル電流を、回転子に配置された永久磁石が発生する磁界の方向に準じた第1軸(例えば、磁界の方向に沿ったd軸)と、第1軸に直交する第2軸(例えばq軸)との2相のベクトル成分に座標変換してフィードバック制御を行う。本実施形態においては、このd−q軸ベクトル空間におけるベクトル制御を採用した場合を例として説明する。
【0024】
ベクトル制御における座標変換に際しては、モータMの回転状態をリアルタイムで知る必要がある。従って、図1に示すように、モータMの近傍にレゾルバなどの回転検出センサ59が備えられる。その検出結果は、上述したように、CPU51のポート18を介して、CPUコア11内のレジスタやワークメモリ14に伝達される。制御装置50は、回転検出センサ59の回転検出信号Rに基づいて、ロータ位置(電気角θ)や、回転速度(角速度ω)を求める。尚、回転検出センサ59が直接、電気角θや角速度ωを出力するものであってもよい。
【0025】
図2に示すように、制御装置50は、ベクトル制御によりインバータ5を含む回転電機駆動装置を制御する機能部として、インバータ制御部10を備えて構成されている。インバータ制御部10は、走行制御システム60から与えられるモータ制御指令(走行制御指令)Hrに基づいて、各モータMを制御するための要求トルクであるトルク指令を演算し、それぞれのトルク指令に応じて電流フィードバック制御のための2相の目標電流である電流指令id,iqを設定する。電流指令id,iqは、上述したd軸及びq軸に対応して設定される目標電流である。続いて、インバータ制御部10は、電流指令id,iqと、フィードバックされたモータ電流との偏差に基づいて、例えば比例積分制御(PI制御)や、比例微積分制御(PID制御)を行い、目標電圧である電圧指令vd,vqを設定する。尚、電流センサ58により検出されるモータ電流は、3相電流であるから、電気角θに基づいて2相電流Id,Iqに座標変換される。そして、電流指令id,iqと2相モータ電流Id,Iqとの偏差、及び、角速度ωに基づいて、PID制御が行われ、電圧指令vd,vqが演算される。
【0026】
次に、インバータ制御部10は、電圧指令vd,vqに基づいて、インバータ5の3相のIGBTを駆動するスイッチング制御信号S1〜S6(変調パルス)を生成する。インバータ制御部10は、2相の電圧指令vd,vqを、電気角θに基づいて3相の電圧指令Vu,Vv,Vwに座標変換する。そして、インバータ制御部10は、インバータ5を構成する各IGBTのスイッチング制御信号S1〜S6を生成する。スイッチング制御信号S1〜S6は、パルス幅変調によって生成される。
【0027】
パルス幅変調には、正弦波パルス幅変調や空間ベクトルパルス幅変調などの連続パルス幅変調(CPWM:continuous PWM)や、不連続パルス幅変調(DPWM:discontinuous PWM)などの方式がある。DPWMは、例えば3相の交流電力の内の1相に対応するインバータのスイッチング制御信号の信号レベルを順次固定して、他の2相に対応するスイッチング制御信号の信号レベルを変動させる方式である。CPWMは、このように何れかの相に対応するスイッチング制御信号が固定されることなく、全ての相が変調される方式である。これらの変調方式は、モータMに求められる回転速度やトルクなどの運転条件、そして、その運転条件を満足するために必要な変調率(3相交流の相間電圧の実効値に対する直流電圧の割合)に応じて決定される。ここでは、変調方式として、DPWMが選択されている場合について説明する。
【0028】
ここで、図3を参照して、DPWMの原理について説明する。図3に示すように、DPWMでは、3相の電圧指令Vu,Vv,Vwの内の一相が順次、π/3(=60度)ずつ直流電源3の正極の電圧レベル又は負極の電圧レベルに固定される。例えば、U相の電圧指令Vuが正極側に固定されている間、つまり1/3πから2/3πまでの期間は、U相の電圧指令VuはキャリアCAよりも小さくなることがない。このため、当該期間において、U相レッグの上段側アームのスイッチング素子E1のスイッチング制御信号S1の信号レベルは常にハイレベル(H)に固定されることになる。一方、この期間において電圧指令が固定されていないV相及びW相の上段側アームのスイッチング素子E3,E5のスイッチング制御信号S3,S5については、電圧指令Vv,VwとキャリアCAとの大小関係に基づいて変調されて信号レベルが変化する。U相の電圧指令Vuが負極側に固定されている期間、つまり4/3πから5/3πまでの期間についても同様である。スイッチング制御信号S1の信号レベルは常にローレベル(L)に固定され、スイッチング制御信号S3,S5は信号レベルが変化する。
【0029】
図3に示すように、順次、U相の電圧指令Vu、V相の電圧指令Vv、W相の電圧指令Vwがπ/3ずつ固定される。つまり、V相のスイッチング制御信号S3が固定されてW相及びU相のスイッチング制御信号S5,S1が変化する期間、W相のスイッチング制御信号S5が固定されてU相及びV相のスイッチング制御信号S1,S3が変化する期間が出現する。このように、インバータ制御部10は、複数相の内の1相に対応するインバータ5のスイッチング制御信号の信号レベルを順次固定し、他の相に対応するスイッチング制御信号の信号レベルを変動させる不連続パルス幅変調方式により、所定の変調周波数(キャリアCAの周波数)に応じた変調パルスを生成して、インバータ5を制御する。
【0030】
図4は、スイッチング制御信号S1がハイレベルに固定されている期間を拡大したものである。インバータ制御部10は、不連続パルス幅変調方式により、所定の変調周波数に応じた変調パルスを生成する。この変調周波数は、図3及び図4に示すキャリアCAの周波数である。本実施形態では、さらにこのキャリアCAの半周期、つまり三角波のキャリアCAの波形が谷(ボトム)から山(ピーク)へ向かう期間と、山から谷へ向かう期間とを基準変調期間TCとして変調パルスを生成する。
【0031】
ベクトル制御においては、例えば上段側アームの3相のスイッチング制御信号S1,S3,S5の信号レベルの組み合わせによって8つの空間ベクトルを定義することができる。各スイッチング制御信号の信号レベルがハイレベルの場合を“1”、ローレベルの場合を“0”として、(UVW)で示される空間ベクトルは以下の8つとなる。即ち、(000),(001),(010),(011),(100),(101),(110),(111)の8つである。尚、下段側アームの3相のスイッチング制御信号S2,S4,S6については、それぞれ上段側アームのスイッチング制御信号S1,S3,S5と相補的な信号レベルとなる。従って、3相のインバータ5をスイッチング制御するための空間ベクトルは上述した8つに代表される。
【0032】
上記、8つの空間ベクトルの内、(000),(111)は、相間電圧がゼロとなってモータMに電流が流れないためにゼロベクトル又はヌルベクトルと称される。これに対して、他の6つの空間ベクトルは、アクティブベクトルと称される。DPWMでは、何れかの相のスイッチング制御信号がハイレベルに固定されている期間では、ゼロベクトル(000)は出現せず、何れかの相のスイッチング制御信号がローレベルに固定されている期間では、ゼロベクトル(111)は出現しない。このため、固定期間が存在しない例えばCPWMのような方式に比べて、DPWMではゼロベクトルの出現頻度が少なくなる。
【0033】
図4の下段には、U相電流Iuを模式的に示している。図4に示すように、ゼロベクトルではない期間(アクティブベクトル区間AV)には電流が増加し、ゼロベクトル区間NVには電流が減少する。これは、アクティブベクトル区間AVでは、直流電源3とモータMとがインバータ5を介して接続されて電流が流れるが、ゼロベクトル区間NVでは、直流電源3とモータMとの間に電流が流れず、インバータ5とモータMとの間で電流が還流して抵抗損失等によって電流が消費されるためである。そして、上述したように、DPWMでは、例えばCPMWと比べてゼロベクトルが出現する機会が減少するから、アクティブベクトル区間AVが長くなる。このため、例えばCPWMと比べて電流の増減幅が大きくなって電流リップルも大きくなり、損失も大きくなる。
【0034】
このような観点より、インバータ制御部10は、ゼロベクトル区間NVを分割してアクティブベクトル区間AVの中に配分する。つまり、アクティブベクトル区間AVの中にゼロベクトル区間NVを設けてゼロベクトルの出現頻度を増加させる。これにより、分割前に比べてアクティブベクトル区間AVの長さが短くなるから、アクティブベクトル区間AVに増加する電流も小さくなる。その結果、分割前に比べて電流の増減幅が小さくなり、リップルも抑制されて損失も小さくなる。
【0035】
本実施形態において、インバータ制御部10は、スイッチング制御信号の信号レベルを固定する際には、変調周波数に基づく基準変調期間TCの全期間に亘って信号レベルをハイレベル又はローレベルに固定する。一方、インバータ制御部10は、信号レベルを変動させる際には、基準変調期間TCのそれぞれにおいて信号レベルをハイレベルとローレベルとの間で1回変化させる。図4に示す例においては、スイッチング制御信号S1は、各基準変調期間TCのそれぞれ全期間に亘って信号レベルがハイレベルに固定されている。スイッチング制御信号S3及びS5は、共に、キャリアCAが谷から山へ向かう上り期間(第1期間)に対応する基準変調期間TCにおいてハイレベルからローベルに1回変化し、キャリアCAが山から谷へ向かう下り期間(第2期間)に対応する基準変調期間TCにおいてローレベルからハイベルに1回変化している。尚、キャリアCAの上り期間及び下り期間に対する第1期間及び第2期間の呼称は、単に区別のためのものであって何ら順序を規定するものではない。当然ながら、第1期間と第2期間との呼称が反対であってもよい。
【0036】
ここで、図4に示すように、スイッチング制御信号S1の信号レベルがハイレベルに固定されており、キャリアCAの谷のタイミングで(111)のゼロベクトル区間NVが出現する場合を考える。この谷のタイミングの次の山のタイミングでは、スイッチング制御信号S1を除く2つのスイッチング制御信号S3,S5の信号レベルが共にローレベルであるが、スイッチング制御信号S1の信号レベルがハイレベルに固定されているためにゼロベクトル(000)は出現しない。このため、さらに次の谷のタイミングで(111)のゼロベクトルが出現するまで、アクティブベクトル区間AVが継続する。そこで、キャリアCAの谷のタイミングに出現する(111)のゼロベクトル区間NVを分割し、元の谷のタイミングと、次の山のタイミングとにゼロベクトル区間NVを配分する。
【0037】
例えば、図4に示すように、キャリアCAの谷のタイミングにおける期間T1(T3)のゼロベクトル区間NVを半分ずつ2つの期間T2(T4)に分割して、一方は元の谷のタイミングに残す。つまり、元のゼロベクトル区間NVを半分の長さに短縮する。そして、分割した他方はキャリアCAの次の山のタイミングに配分して期間T2(T4)のゼロベクトル区間NVを新たに設ける。このような分割及び配分によって、スイッチング制御信号S1,S3,S5は図5に示すようなパルスとなる。上述したように、アクティブベクトル区間AVには電流が増加し、ゼロベクトル区間NVには電流が減少する。図4に示したパルス波形に比べて、ゼロベクトル区間NVを分割・配分した後の図5に示したパルス波形では、ゼロベクトルが出現する機会が増加し、アクティブベクトル区間AVが相対的に短くなっている。その結果、図5の下段に示すように電流の増減幅も相対的に小さくなって電流リップルも小さくなり、損失も低減される。
【0038】
尚、このゼロベクトルの分割・配分の前後においてゼロベクトル区間NVの総和は同じである。つまり、キャリアCAの谷のタイミングのゼロベクトル区間NVが減少した分は、次の山のタイミングに配分されているから、全体としてゼロベクトル区間NVは維持される。また、以下に説明するように、ゼロベクトル区間NVの分割・配分を行っても3相の線間電圧は維持される。具体的には、図5に示す例では、キャリアCAの谷のタイミングでゼロベクトル区間NVが短くなるので、V相及びW相のスイッチング制御信号S3,S5のハイレベルの期間が短くなり、V相及びW相の電圧が低下する。しかし、キャリアCAの山のタイミングにゼロベクトル区間NVが設けられることによって、スイッチング制御信号S1のハイレベルの期間も短くなり、U相の電圧も低下する。このように、3相のそれぞれの電圧が一律に低下することになるので、ゼロベクトルの分割・配分前と同等の電圧をモータMに印加することができる。つまり、モータMに印加する電圧を維持したままで、基準変調期間TCの区切りごとにゼロベクトル区間NVを出現させて電流リップルを抑制することが可能となる。
【0039】
以上、ゼロベクトル区間NVを分割し、配分する概念について説明した。以下、図6を参照して、実際にマイクロコンピュータなどを用いてゼロベクトル区間NVの分割・配分を実現する手法について説明する。上述したように、本実施形態のインバータ制御部10は、CPU51を中核として構成されている。CPU51においてキャリアCAは、タイマ17(カウンタと同義)やタイマ17と協働するレジスタなどによって仮想的に実現される。具体的には、図6の下段に示すように、キャリアCAの上り期間(第1期間)TC1及び下り期間(第2期間)TC2の長さに対応する基準変調期間TCは、タイマ17によるカウント値CTによって規定される。ここでは、10進数で0〜99の100カウントによって、基準変調期間TCが設定されている場合を例示している。
【0040】
また、上り期間(第1期間)TC1及び下り期間(第2期間)TC2の区別は、別のカウント値CTSによって規定される。本実施形態では、カウント値CTSが“0”の場合が上り期間(第1期間)TC1であり、カウント値CTSが“1”の場合が下り期間(第2期間)TC2である。尚、同一のカウント値の上位ビットによって上り期間(第1期間)TC1及び下り期間(第2期間)TC2の区別を表し、下位ビットによって基準変調期間TCの長さを表してもよい。また、本実施形態では、上り期間(第1期間)TC1及び下り期間(第2期間)TC2共に、値が増加するアップカウンタ方式で規定する例を示したが、例えば、上り期間(第1期間)TC1はアップカウンタ方式で規定し、下り期間(第2期間)TC2は値が減少するダウンカウンタ方式で規定してもよい。このようなアップダウンカウンタ方式を採用すると、カウント値によって山や谷を表現することが可能である。
【0041】
スイッチング制御信号S3の電圧指令Vvとして“3”が設定され、スイッチング制御信号S5の電圧指令Vwとして“1”が設定されているとする。変調パルスの長さとしては、それぞれ、スイッチング制御信号S3が“4”、スイッチング制御信号S5が“2”となる。基準変調期間TCを通じて信号レベルがハイレベルに固定されるU相の電圧指令Vuは、カウント値CTと一致することのない値や最大値が設定される。ここでは、U相の電圧指令Vuに最大値の“99”が設定されている。つまり、変調パルスの長さとしては、“100”が設定されていることとなり、基準変調期間TCを通じて信号レベルがハイレベルに固定されることになる。図6に示すように、この場合には、上り期間TC1におけるゼロベクトル区間NVの期間T10は、カウント値CTの“2”の長さとなる。これを“T10=2”と表す。次に、このゼロベクトル区間NVが1/2ずつ2つの期間T11に分割される。つまり、“T11=T10/2=1”となる。そして、この演算結果を用いて、電圧指令Vu,Vv,Vwが調整される。
【0042】
例えば、V相の電圧指令Vvは、ゼロベクトル区間NVを“T11=1”だけ短くするために、“3”から“2(=3−1)”に変更される。同様にW相の電圧指令Vwは、元のゼロベクトル区間NVを“T11=1”だけ短くするために、“1”から“0(=1−1)”に変更される。この上り期間TC1のように、ゼロベクトル区間NVが基準変調期間TCの先頭に出現する場合には、分割されたゼロベクトル区間NVが、当該基準変調期間TC(上り期間TC1)の末尾に配分される。U相の電圧指令Vuは、ゼロベクトル区間NVを出現させるために、当該基準変調期間TCの末尾から“T11=1”に相当する期間、固定された一方の信号レベル(ここでは“H”)から他方の信号レベル(ここでは“L”)へと変位するように変更される。上述したように、本実施形態では、U相の電圧指令Vuとして、最大値“99”が指定されているので、“99”から“1”を減じて“98(=99−1)”に変更される。
【0043】
続く下り期間(第2期間)TC2では、ゼロベクトル区間NVが基準変調期間TCの末尾に出現している。この場合には、分割されたゼロベクトル区間NVが、当該基準変調期間TC(下り期間TC2)の先頭に配分される。具体的には、下り期間TC2の末尾に出現するゼロベクトル区間NVの期間T12が1/2ずつ2つの期間T13に分割される。V相の電圧指令Vvは、元のゼロベクトル区間NVを“T13=1”だけ短くするために、“95”から“96(=95+1)”に変更される。W相の電圧指令Vwは、ゼロベクトル区間NVを“T13=1”だけ短くするために、“97”から“98(=97+1)”に変更される。
【0044】
U相の電圧指令Vuは、ゼロベクトル区間NVを出現させるために、当該基準変調期間TCの先頭から“T13=1”に相当する期間、固定される一方の信号レベル(ここでは“H”)ではなく、他方の信号レベル(ここでは“L”)となるように電圧指令Vuが変更される。本実施形態では、先行する上り期間TC1の末尾において固定される一方の電圧レベル(H)から他方の信号レベル(L)へと変位しているため、下り期間TC2の先頭においては固定される一方の信号レベル(H)ではなく、他方の信号レベル(L)となっている。従って、電圧指令Vuは、固定される信号レベルではない他方の信号レベル(L)から、固定される一方の信号レベル(H)への変化点を指定する値として設定される。上述したように、本実施形態では、U相の電圧指令Vuとして、最大値“99”が指定されているので、“99”に“1”を加える。ここでは“99”は最大値であるから、“1”を加算したことによって値が“100”となる。上述したようにカウンタ値CTは、“0〜99”の間に設定されるので、周回して最初の値である“0”に戻り、U相の電圧指令Vuは“0”に変更される。
【0045】
このように、1つの基準変調期間TCの中において、ゼロベクトルが分割され、配分されると好適である。図4及び図5は、ゼロベクトル区間NVを分割し、配分する原理を説明するために、1つの基準変調期間TCの中で分割・配分せず、キャリアCAの谷において分割し、山に配分するとして説明した。しかし、マイクロコンピュータなどによりインバータ制御部10が構成される場合には、上述したように各基準変調期間TCの中で分割と配分とが完結するようにすると、プログラムへの影響も少なく好適である。つまり、ゼロベクトル区間NVの分割・配分を実施しない場合とほぼ同様のプログラムを利用して、電流リップルを抑制することができる。
【0046】
ところで、1つの観点として、上り期間TC1及び下り期間TC2において、つまり、U相のスイッチング制御信号S1(変調パルス)の信号レベルがハイレベルに固定されるハイ固定期間において、全ての相のスイッチング制御信号S1,S3,S5(変調パルス)の、基準変調期間TCにおけるハイレベルのデューティーが一律に低下されている。具体的には、U相のスイッチング制御信号S1のハイレベルのデューティーは100%から99%に、V相のスイッチング制御信号S3のデューティーは4%から3%に、W相のスイッチング制御信号S5のデューティーは2%から1%に、それぞれ1%ずつ低下されている。
【0047】
当業者であれば、容易に理解可能であるから図示及び詳細な説明は省略するが、何れか1相のスイッチング制御信号(変調パルス)の信号レベルがローレベルに固定されるロー固定期間においては、全相のスイッチング制御信号(変調パルス)の基準変調期間TCにおけるハイレベルのデューティーが一律に上昇されることになる。つまり、全ての相のデューティーを一律に上昇又は減少させるので、各相の相電圧が一律にオフセットされたことになり、線間電圧は変化しないので、ゼロベクトルの分割・配分前と同様の電圧をモータMに印加することができる。つまり、モータMに印加する電圧を維持したままで、基準変調期間TCの区切りごとにゼロベクトル区間NVを出現させて電流リップルを抑制することが可能となる。
【0048】
ところで、直流電源3の正極と負極との間に直列接続されて相補的にオン状態となる上段側アームのスイッチング素子と下段側アームのスイッチング素子とは、両アームのスイッチング素子が一時的にでも同時にオン状態となった場合に、直流の正負両極を短絡させてしまう。従って、両アームスイッチング素子の一方がオン状態からオフ状態へ、他方がオフ状態からオン状態へと遷移する際には、両アームのスイッチング素子がオフ状態となるようにスイッチングされる期間であるデッドタイム期間が設定される。このデッドタイム期間は、インバータ5の安全性を確保するために必ず設けなければならない期間であるから、分割後のゼロベクトル区間NVの長さは、このデッドタイム期間以上の長さに設定される。インバータ制御部10は、分割の結果、デッドタイム期間を満足できない場合には、ゼロベクトル区間NVの分割及び配分が実施されないようにしてもよい。
【0049】
上述したようにキャリアCAの谷と山との間に基準変調期間TCが設定される場合には、分割の前後何れにおいてもゼロベクトル区間NVは、隣接する基準変調期間TCをまたいで出現することになる。このような場合には、単独の基準変調期間TCにおけるゼロベクトル区間NVがデッドタイム期間以上でなくても、隣接する基準変調期間TCにまたがって存在する1つのゼロベクトル区間NVがデッドタイム期間以上となる場合がある。従って、各基準変調期間TCで、分割後のゼロベクトル区間NVがデッドタイム期間以上であることを判定するのではなく、隣接する基準変調期間TCにまたがって連続して存在する1つのゼロベクトル区間NVがデッドタイム期間以上であることを判定してもよい。
【0050】
上記において、各基準変調区間TCで制御を完結させると、プログラムへの影響も少なく好適であると説明した。しかし、多少プログラム等が複雑になったとしても、図4及び図5に例示したように、キャリアCAの山と谷とにおいて分割及び配分を行うと、デッドタイム期間により制限がかかりにくくなり、ゼロベクトル区間NVの分割・配分がより促進される。その結果、より電流リップルも抑制できる。従って、電流リップルの抑制効果を高めたい場合などでは、隣接する基準変調期間TCをまとめて管理してキャリアCAの谷と山とのタイミングで分割・配分する形態も好適である。
【0051】
〔その他の実施形態〕
以下、本発明のその他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0052】
(1)上記実施形態においては、モータMとして3相交流回転電機を例示して説明したが、当業者であれば3相を超える多相交流回転電機にも本発明を適用可能であろう。空間ベクトルの内、ゼロベクトルが出現する区間を分割して配分することによって、3相交流回転電機と同様の効果を得ることが可能である。従って、本発明は、3相を超える多相交流回転電機を制御対象とする回転電機制御装置にも適用することができる。
【0053】
(2)上記実施形態においては、分割元のゼロベクトル区間NVを1/2ずつ2つに分割して、1対1で配分する例を示した。しかし、これに限定されることなく、1対2や2対3など他の割合で分割、配分することを妨げるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、直流電源と交流の回転電機との間に介在されて前記直流電源の直流電力と前記回転電機の複数相の交流電力との間で電力変換するインバータを備えた回転電機駆動装置を制御する回転電機制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
3 :直流電源
5 :インバータ
10 :インバータ制御部
56 :直流電源
50 :制御装置(回転電機制御装置)
AV :アクティブベクトル区間
E1〜E6:スイッチング素子
Iu :U相電流
M :モータ
NV :ゼロベクトル区間
S1〜S6:スイッチング制御信号(変調パルス)
TC :基準変調期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と交流の回転電機との間に介在されて前記直流電源の直流電力と前記回転電機の複数相の交流電力との間で電力変換するインバータを備えた回転電機駆動装置を制御する回転電機制御装置であって、
前記複数相の交流電力の内の1相に対応する前記インバータのスイッチング素子の駆動信号の信号レベルを順次固定し、他の相に対応するスイッチング素子の駆動信号の信号レベルを変動させる不連続パルス幅変調方式により、所定の変調周波数に応じた変調パルスを生成して、前記インバータを制御するインバータ制御部を備え、
前記インバータ制御部は、信号レベルを固定する際には、前記変調周波数に基づく基準変調期間の全期間に亘って信号レベルをハイレベル又はローレベルに固定し、信号レベルを変動させる際には、前記基準変調期間のそれぞれにおいて前記信号レベルをハイレベルとローレベルとの間で1回変化させるものであり、
前記複数相の全てが同じ信号レベルとなるゼロベクトル区間が前記基準変調期間の先頭に出現する場合は、当該ゼロベクトル区間を分割して、当該基準変調期間の末尾に配分し、前記ゼロベクトル区間が前記基準変調期間の末尾に出現する場合は、当該ゼロベクトル区間を分割して、当該基準変調期間の先頭に配分して、前記変調パルスを生成する回転電機制御装置。
【請求項2】
前記インバータ制御部は、何れか1相の前記変調パルスの信号レベルがハイレベルに固定されるハイ固定期間において全相の前記変調パルスの前記基準変調期間におけるハイレベルのデューティーを一律に低下させ、何れか1相の前記変調パルスの信号レベルがローレベルに固定されるロー固定期間において全相の前記変調パルスの前記基準変調期間におけるハイレベルのデューティーを一律に上昇させる請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項3】
分割後のそれぞれの前記ゼロベクトル区間は、前記信号レベルをハイレベルとローレベルとの間で変化させる際に、前記インバータの1相のレッグを構成する上段側アームの前記スイッチング素子及び下段側アームの前記スイッチング素子が共にオフ状態にスイッチングされる期間であるデッドタイム期間以上の長さに設定される請求項1又は2に記載の回転電機制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−13199(P2013−13199A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143293(P2011−143293)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】