回転電機
【課題】 絶縁信頼性を維持しながら、熱伝導性能を向上させることで、熱の放散性を高めることができる回転電機を提供する。
【解決手段】 固定子1における鉄心2のスロット2a内には、スロット絶縁物3を介して、接着電線6を用いた巻線7が収納され、スロット2aの開口部には楔材12が打ちまれる。さらに、ワニス処理によって、スロット2a内およびコイルエンド部にワニス12が含浸され、加熱硬化させて接着電線6の接着層10およびワニス12により巻線7を一体固定成形している。そして、絶縁構造を構成する上記各部材に、第1の充填剤と第2の充填剤とを含有させて用いる。
【解決手段】 固定子1における鉄心2のスロット2a内には、スロット絶縁物3を介して、接着電線6を用いた巻線7が収納され、スロット2aの開口部には楔材12が打ちまれる。さらに、ワニス処理によって、スロット2a内およびコイルエンド部にワニス12が含浸され、加熱硬化させて接着電線6の接着層10およびワニス12により巻線7を一体固定成形している。そして、絶縁構造を構成する上記各部材に、第1の充填剤と第2の充填剤とを含有させて用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子の絶縁構造を改良した回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
図11に回転電機の固定子の一般的な絶縁構造を示す。固定子100における鉄心101には、等間隔に複数のスロット101aが同心円状に配設されている。このスロット101a内には、カレンダー処理されたアラミッド紙等を用いたU字型スロット絶縁物102が装着されて、このスロット絶縁物102の内側には、例えばポリアミドイミドエナメル銅線等の合成樹脂エナメル線103aを用いた巻線103が収納され、スロット絶縁物102により包み込んだ上から、例えばカレンダー処理されたアラミド紙等を半U字型に成形した楔材104が打ち込まれて、巻線103が固定される。また、巻線103の図示しないコイルエンド部には、各相間に相間紙が挿入されて、相間融絶される。さらに、スロット101a内に収容された巻線103は、ワニス処理によって、スロット101a内およびコイルエンド部にワニス106が含浸され、加熱硬化されて一体に固定成形されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−308158号公報(図10)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来より、回転電機に対して、それを使用する機器は、エネルギー効率を高めるためにインバータによる可変速制御されることが多く、インバータは、2kHz程度から数10kHzの周波数で駆動され、例えばPWMパルス毎にサージ電圧が発生する。サージ電圧とは、ケーブルの長さ、コンデンサの有無などの周囲の電気系統の影響を受けてインバータの出力電圧よりも高い電圧が印加される現象である。また、パルス波形は急峻であるため、巻線103に使用されているエナメル線103aには部分放電が発生しやすくなることで、エナメル線103aの塗膜に局部的な温度上昇が起こったり、発生したオゾンが複雑に作用してエナメル皮膜の絶縁性を加速度的に劣化させたりして、機器の寿命を短くする。さらには、近年は回転電機も小型化の傾向にあり、ますます巻線温度が上昇する傾向にある。このため各部分に使用されている絶縁材料の耐熱劣化性を向上させる対策あるいは各部分の熱伝導率の向上を図り対応している。
【0004】
このサージ電圧による耐久性を高めるためには、エナメル塗膜を厚くしたり、回転電機の巻線103における含浸樹脂を増量したりしてある程度の効果をあげることができるが、占積率の増大による効率の低下や、経費の増大などの問題がある上に、これらの対策を施しても希望する信頼性が得られない場合が多い。そのために、更にインバータサージ電圧に対して特性の優れたエナメル線塗膜や、サージ電圧に対する耐性の高い絶縁構成が必要とされている。
【0005】
また、巻線103の温度上昇に対応するため、絶縁材料の耐熱劣化性を向上することは、比較的容易に実施可能であるが、材料自身のコストアップが大きく、対応可能な温度範囲に限界もある。そして、熱伝導率を上げる対策としては、通常樹脂などの熱伝導の悪い有機物の厚さを低減して放熱効果を高める方法があるが、厚さの低減は絶縁性能の低下に直結することから、絶縁材料での熱伝導性能と絶縁性能の両立は困難な場合が多い。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、絶縁信頼性を維持しながら、熱伝導性能を向上させることで、熱の放散性を高めることができる回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、回転電機の巻線の処理ワニスとして、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第一の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填材とを均一に含有した樹脂を用いたことを特徴とする。
このような構成によれば、1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤に対して、第1の充填剤に対する粒径が0.15倍以下の第2の充填剤を均一に含有することで、絶縁信頼性を維持しながら、熱伝導性能を向上させることで、熱の放散性を高めた処理ワニスを回転電機に用いることができる。
【0008】
請求項2記載の発明は、回転電機巻線と鉄心の間に対地絶縁を行なうために挿入されるスロット絶縁物として、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第1の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填材とを均一に含有したシート材の単体、あるいは、他のシート材との張り合わせ材を用いたことを特徴とする。
このような構成によれば、請求項1と同様の効果があるスロット絶縁物を回転電機に用いることができる。
【0009】
請求項3記載の発明は、回転電機の巻線のマグネットワイヤとして、Bステージの接着層をエナメル線の表面に塗布してなる接着電線を用い、その接着層となる樹脂に、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第1の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填剤とを均一に含有したことを特徴とする。
このような構成によれば、請求項1と同様の効果がある接着電線を回転電機に用いることができる。
【0010】
請求項4記載の発明は、回転電機の楔材として、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第1の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填材とを均一に含有したシート材の単体、あるいは、他のシート材との張り合わせ材を用いたことを特徴とする。
このような構成によれば、請求項1と同様の効果がある楔材を回転電機に用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、絶縁信頼性を維持しながら、熱伝導性能を向上させることで、熱の放散性を高めることができる回転電機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1の実施例)
以下、本発明の第1の実施例について、図1ないし図8を参照しながら説明する。
まず、図1は、回転電機の固定子の部分断面図である。この図1に示すように、回転電機の固定子1の鉄心2には、等間隔に複数のスロット2aが同心円状に配設されている。スロット2aは、略台形状をなしている。また、スロット2aには、U字形スロット絶縁物3が挿入されている。
【0013】
図2に示すように、スロット絶縁物3は、例えばポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート或いはポリフェニレンサルファイド等のフィルムもしくはアラミッド等の合成紙であるシート材4の例えば片面に、合成樹脂5がプリプレグ状態として張り合わされて構成されている。この合成樹脂5の中には、第1の充填剤として窒化ホウ素あるいは酸化マグネシウムと、金属アルコキシドを原料とするゾルゲル法により析出された第2の充填剤とが均一に含有されている。
【0014】
図5は、ゾルゲル法による合成樹脂5の製造方法を示しており、この図5において、合成樹脂5は、金属アルコキシドとして例えば高純度化学性であるテトラエトキシシラン(30ml)と、ポリジメチルシロキサン(20ml)と、イソプロピルアルコール(15ml)と、テトラハイドロフラン(10ml)とを、常温常圧にて、スターラーで2時間撹拌混合しA液を得る。そして、このA液に、2規定の塩酸(10ml)と蒸留水(30ml)とを撹拌混合した溶液を撹拌しながら滴下して加え、この混合液体を密閉された状態で70℃に保ちながら48時間加温して、B液を得る。
【0015】
さらに、このB液に対して、1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤として六方晶の窒化ホウ素(あるいは酸化マグネシウム)が60vol%充填され、撹拌混合されると共に300℃で乾燥硬化されて、板状の合成樹脂が形成される。尚、ここでは、スロット絶縁物3として、シート材4の片面に合成樹脂5がプリプレグ状態として張り合わされているので、合成樹脂5は、撹拌混合されると共に300℃で乾燥硬化される際にプリプレグ状態として塗着され、結果として、スロット絶縁物3に張り合わされた状態として構成される。
【0016】
図2に示すように、スロット絶縁物3は、プリプレグ状態にて張り合わせられた合成樹脂5側が鉄心2のスロット2aの内壁に接するようにしてスロット2a内に挿入されている。
続いて、図1に示すように、スロット絶縁物3の内側にマグネットワイヤとして接着電線6を挿通することで、巻線7が構成される。この巻線7は、例えばR,S,T相からなる三相巻線で、スター結線されており、各相巻線は、複数極に対応して直列接続された複数の巻線からなり、図示しないインバータに電源リード線を介して繋がれている。
【0017】
図3に示すように、接着電線6は、導体8の周囲のエナメル層9(導体8とエナメル層9は通常のマグネットワイヤたるエナメル線を構成する)の表面に合成樹脂10aを塗着して形成された接着層10を形成したものである。この接着電線6は、所定の温度で加熱することにより、接着層10が融着し、接着電線6同士が接着され、この接着電線6で構成される巻線7を一体化するものであり、合成樹脂10a(接着層10)は、スロット絶縁物3の場合の合成樹脂5と同材料であり、撹拌混合されると共に300℃で乾燥硬化される際に接着層10として形成される。
【0018】
そして、図1に示すように、鉄心2のスロット2aの開口部には、シート材を半U字形に成形した楔材11が打ち込まれて、巻線7が固定される。楔材11として用いるシート材は、例えばポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート或いはポリフェニレンサルファイド等のフィルムもしくはアラミッド等の合成紙の例えば片面に、合成樹脂が張り合わされて構成され、合成樹脂は、スロット絶縁物3の合成樹脂5と同材料で同様に形成されている。
【0019】
続いて、スロット2a内に収納された巻線7に対して、一体に固定成形するためのワニス12を含浸する処理が施される。この処理は、例えば、滴下含浸ワニス処理であり、固定子1を回転させながら巻線7のコイルエンド部7Rないし7T(図4参照)両側からノズルによりワニス12を滴下させ、接着電線6間の毛細管現象によってスロット2a内の巻線7にワニス12が充填されると共に、スロット2a内およびコイルエンド部7Rないし7Tにもワニス12が含浸されて、その後加熱硬化(Bステージに相当)される処理である。この含浸されるワニス12は、合成樹脂により構成され、この合成樹脂は、スロット絶縁物3の場合と同材料であり、撹拌混合されると共にスロット2a内に充填されて、乾燥硬化される。
【0020】
そして、絶縁構成が施された固定子1内に、図示しない回転子が配設されて回転電機が構成される。
しかして、インバータにより固定子1の巻線7がPWM制御されることにより、回転子の回転速度が変化する。
【0021】
以下本発明の作用について図6ないし図8を参照しながら説明する。
まず、粒径と熱伝達率の相関に関する実験結果を図6、図7を参照しながら説明する。
図6は、マイカと同じ形状をした窒化ホウ素とイソプロピレン系エラストマーの混合体に平均粒径が90nmのカーボンブラックを充填したときの熱伝導率の変化を示し、縦軸は、熱伝導率(W/mK)を表し、横軸は、窒化ホウ素およびイソプロピレン系エラストナーの複合体とカーボンブラックとの体積比(vol%)を表す。
尚、熱伝導率は、レーザーフラッシュ法により測定した。ここで、窒化ホウ素の充填量は、窒化ホウ素とイソプロピレン系エラストマーの体積和に対して0.6倍(60vol%)の体積量で一定とした。
【0022】
図6より、カーボンブラックの充填によって熱伝導率が上昇し、カーボンブラックを充填しないものとカーボンブラック10vol%充填した場合と比較して、4倍近くの3.7W/mK程度の熱伝導率を得ることができた。これは、カーボンブラック粒子が窒化ホウ素粒子間に均一に存在することによって窒化ホウ素間の樹脂の弾性率が上昇し、その結果、窒化ホウ素粒子間の熱の流れが改善されたため、熱伝導性能が向上したと考えられる。
【0023】
図7は、窒化ホウ素とイソプロピレン系エラストマーの混合体に、カーボンブラックの代わりに平均粒径が70nmのアルミナを充填したときの熱伝導率の変化を示したものである。これによれば、カーボンブラックと比較して、さらに熱伝導率の上昇が観測され、アルミナを約12.5vol%充填した場合に4.7W/mK程度の熱伝導率を得ることができた。
【0024】
図8は、窒化ホウ素とイソプロピレン系エラストマーの混合体に、粒径の異なるアルミナを充填したときの熱伝導率の変化を示し、縦軸は熱伝導率(W/mK)を示し、横軸は第1の充填剤である窒化ホウ素と第2の充填剤であるアルミナの粒径比を示す。
この図8より、粒径比が、約0.1倍付近より小さい範囲で熱伝導率が上昇しているのが分かる。これにより、第2の充填剤の粒径が第1の充填剤の粒径の0.15倍以下とすることにより高い熱伝導性を有する材料を得ることができるのである。
【0025】
上述するように、熱伝導率増大のポイントは、第2の充填剤が第1の充填剤中に分散することであり、さらに熱伝導性を向上させるためには、充填剤間が化学的な結合で繋がっていることあるいは均一に分散することが重要であることがわかる。そこで、第1の充填剤中に第2に充填剤が均一に分散する方法としてゾルゲル法を用いることにより、第2の充填剤を析出する方法を適用すれば、第1の充填剤間に第2の充填剤の均一な分散が可能となる。
【0026】
このような構成によると、接着電線6の接着層10となる樹脂には、1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤として窒化ホウ素(または酸化マグネシウム)と、金属アルコキシドとしてテトラエトキシシランを原料したゾルゲル法により析出された第2の充填剤とが均一に分散されているので、インバータ駆動時におけるインバータサージ電圧に対する絶縁信頼性を維持させながらも、熱伝導率を向上させることで、熱の放散性を高めることができる。さらに、第1の充填剤である六方晶の窒化ホウ素および酸化マグネシウムは、モース硬度が低く柔らかいため、基材やエナメル線の損傷を防止できる。
【0027】
そして、ワニス12中には、第1の充填剤として窒化ホウ素(または酸化マグネシウム)と、テトラエトキシシランを原料したゾルゲル法により析出された第2の充填剤とが均一に分散されているので、ワニス12の絶縁信頼性を維持しながらも、熱伝達性を向上させることでき、さらに、加熱硬化される処理でワニス12と接着層10とは一体化されるので、接着電線6から発生するジュール熱を効率よく鉄心2側に伝達することで、熱の放散性を高めることができる。さらに、第1の充填剤である六方晶の窒化ホウ素および酸化マグネシウムにより、基材やエナメル線の損傷を防止できる。
【0028】
また、スロット絶縁物3を構成する合成樹脂5には、第1の充填剤として窒化ホウ素(または酸化マグネシウム)と、テトラエトキシシランを原料したゾルゲル法により析出された第2の充填剤とが均一に分散されているので、スロット絶縁物3と鉄心2間の接着部分におけるスロット絶縁物3の絶縁信頼性を維持しながらも、熱伝達率を向上させることができ、さらに、スロット絶縁物3と鉄心2とは密着しているため、接着電線6で発生したジュール熱を効率よく鉄心2側へ伝達することで、熱の放散性を高めることができる。さらに、第1の充填剤である六方晶の窒化ホウ素および酸化マグネシウムにより、基材やエナメル線の損傷を防止できる。
【0029】
さらに、楔材11を構成する合成樹脂には、第1の充填剤として窒化ホウ素(または酸化マグネシウム)と、テトラエトキシシランを原料したゾルゲル法により析出された第2の充填剤とが均一に分散されているので、楔材11の絶縁信頼性を維持しながらも、従来大きな熱抵抗であった楔材部分の熱伝達性能を向上させることで、熱の放散性を高めることができる。さらに、第1の充填剤である六方晶の窒化ホウ素および酸化マグネシウムにより、基材やエナメル線の損傷を防止できる。
【0030】
従って、インバータ駆動により発生するインバータサージ電圧に対する絶縁信頼性を維持しながらも、回転電機全体の熱伝導性能を向上させることで、熱の放散性を高めることができ、以って、回転電機全体の温度低減を図ることができるのである。
【0031】
(第2の実施例)
図9、図10は、本発明第2の実施例であり、上記第1の実施例と異なるところを説明する。上記第1の実施例においては、イソプロピルアルコール(イソプロピル系エラストナー)を含んだゾルゲル法用いて合成樹脂5を形成する構成としたが、エポキシ系樹脂を用いるゾルゲル法を用いて合成樹脂を形成した場合を説明する。この場合のゾルゲル法は、テトラエトキシシラン(30ml)と、シランカップリング剤A187(10ml)と、蒸留水(5ml)と、エタノール(10ml)とを200mlのビーカで10分撹拌し、撹拌しながらジエチレンアミン(0.6ml)を滴下した液をB液として、このB液に対して60vol%の窒化ホウ素(あるいは酸化マグネシウム)を充填した。これらが充填されている樹脂を350℃で乾燥硬化することで、合成樹脂を得る。その他の構成は、上記実施例と同様である。
【0032】
次に、粒径と熱伝達率の相関に関する実験結果を図9、図10を参照しながら説明する。
図9は、窒化ホウ素とエポキシ樹脂との複合体に平均粒径が90nmのカーボンブラックを充填したときの熱伝導率の変化を示し、縦軸は、熱伝導率(W/mK)を示し、横軸は、窒化ホウ素およびエポキシ樹脂の複合体とカーボンブラックとの体積比(vol%)を表す。尚、熱伝導率は、レーザーフラッシュ法により測定した。ここで、窒化ホウ素の充填量は、窒化ホウ素とエポキシ樹脂の体積和に対して0.6倍(60vol%)の体積量で一定とした。
【0033】
図9より、カーボンブラックの充填によって熱伝導率が上昇し、カーボンブラックを充填しないものとカーボンブラック1vol%充填した場合と比較して、2倍強である約6.5W/mKの熱伝導率を得ることができた。これは、上記第1の実施例と同様に、カーボンブラック粒子が窒化ホウ素粒子間に均一に存在することによって窒化ホウ素間の樹脂の弾性率が上昇し、その結果、窒化ホウ素粒子間の熱の流れが改善されたため、熱伝導性能が向上したと考えられる。
【0034】
図10は、窒化ホウ素とエポキシ樹脂の複合体に、カーボンブラックの代わりに平均粒径が70nmのアルミナを充填したときの熱伝導率の変化を示したものである。カーボンブラックと比較して、さらに熱伝導率の上昇が観測され、アルミナを4vol%充填した場合に約7.4W/mKの熱伝導率を得ることができた。
上記のような絶縁構成を有した回転電機によれば、上記第1の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0035】
(変形例)
本発明は、上記実施例に限定されることなく、次のように変形または拡張できる。
上記第1の実施例において、ワニス処理を滴下含浸ワニス処理としたが、浸漬含浸ワニス処理してもよく、さらには、ワニス12の含浸作業を真空容器内で行うようにしてもよく、これによれば、減圧状態でワニス12が含浸されるため、ワニス12は、巻線7の接着電線6同士間、巻線7とスロット2a間やスロット絶縁物3とスロット2a間など狭い空間まで確実に含浸される。尚、浸漬含浸ワニス処理とは、ワニス12を収容した容器内に固定子1を浸漬して含浸し、容器から引き上げて自然放置することで余分なワニス12を滴下させて取り除き、しかる後に加熱炉内にて、固定子1に含浸させたワニス12を加熱硬化させることである。
【0036】
上記実施例において、スロット絶縁物3および楔材11は、シート材4であるフィルムまたは合成紙の例えば片面に、合成樹脂5が塗着されている構成としたが、シート材であるフィルムまたは合成紙の両面に、合成樹脂5が塗着される構成としてもよい。
また、スロット絶縁物3および楔材11は、合成樹脂5をシート材に塗着させて構成したが、シート材に塗着させる必要はなく、ゾルゲル法により形成された合成樹脂をシート状に形成し、それ自体を単体で用いて、スロット絶縁物3および楔材11を構成してもよい。
【0037】
さらに、シート材4に合成樹脂5を塗着する構成としたが、スロット絶縁物3として用いるシート材は、ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート或いはポリフェニレンサルファイド等のフィルムもしくはアラミッド等の合成紙、それぞれの単体或いは他のシート材との張り合わせ材であり、あらかじめ、これらのフィルムあるいは合成紙の原料に第1の充填剤と第2の充填剤が含有されている構成としてもよい。
【0038】
上記実施例において、第2の充填剤を金属アルコキシド(テトラエトキシシラン)を原料とするゾルゲル法により析出する構成としたが、カーボンブラックやアルミナを第2の充填剤として樹脂中に含有させて構成してもよい。
上記第実施例において、スロット絶縁物3、接着電線6、楔材11およびワニス12のすべての部材中に第1の充填剤および第2の充填剤を含有させて用いる構成としたが、すべての部材に含有させて用いる必要はなく、例えば、1つの部材若しくは2以上の部材に含有させて用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明第1の実施例を示す固定子の部分縦断面図
【図2】スロット部分の一部断面斜視図
【図3】コイルエンドを示す図
【図4】接着電線の断面図
【図5】ゾルゲル法を示すチャート図
【図6】カーボンブラックを充填した場合の熱伝導率の変化を示す図
【図7】アルミナを添加した場合図6相当図
【図8】窒化ホウ素とアルミナの粒径比による熱伝導率の変化を示す図
【図9】図6相当図
【図10】図7相当図
【図11】従来を示す図1相当図
【符号の説明】
【0040】
図面中、1は固定子、2は鉄心、2aはスロット、3はスロット絶縁物、4はシート材、5は合成樹脂、6は接着電線、7は巻線、10は接着層、11は楔材、12はワニスを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子の絶縁構造を改良した回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
図11に回転電機の固定子の一般的な絶縁構造を示す。固定子100における鉄心101には、等間隔に複数のスロット101aが同心円状に配設されている。このスロット101a内には、カレンダー処理されたアラミッド紙等を用いたU字型スロット絶縁物102が装着されて、このスロット絶縁物102の内側には、例えばポリアミドイミドエナメル銅線等の合成樹脂エナメル線103aを用いた巻線103が収納され、スロット絶縁物102により包み込んだ上から、例えばカレンダー処理されたアラミド紙等を半U字型に成形した楔材104が打ち込まれて、巻線103が固定される。また、巻線103の図示しないコイルエンド部には、各相間に相間紙が挿入されて、相間融絶される。さらに、スロット101a内に収容された巻線103は、ワニス処理によって、スロット101a内およびコイルエンド部にワニス106が含浸され、加熱硬化されて一体に固定成形されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−308158号公報(図10)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来より、回転電機に対して、それを使用する機器は、エネルギー効率を高めるためにインバータによる可変速制御されることが多く、インバータは、2kHz程度から数10kHzの周波数で駆動され、例えばPWMパルス毎にサージ電圧が発生する。サージ電圧とは、ケーブルの長さ、コンデンサの有無などの周囲の電気系統の影響を受けてインバータの出力電圧よりも高い電圧が印加される現象である。また、パルス波形は急峻であるため、巻線103に使用されているエナメル線103aには部分放電が発生しやすくなることで、エナメル線103aの塗膜に局部的な温度上昇が起こったり、発生したオゾンが複雑に作用してエナメル皮膜の絶縁性を加速度的に劣化させたりして、機器の寿命を短くする。さらには、近年は回転電機も小型化の傾向にあり、ますます巻線温度が上昇する傾向にある。このため各部分に使用されている絶縁材料の耐熱劣化性を向上させる対策あるいは各部分の熱伝導率の向上を図り対応している。
【0004】
このサージ電圧による耐久性を高めるためには、エナメル塗膜を厚くしたり、回転電機の巻線103における含浸樹脂を増量したりしてある程度の効果をあげることができるが、占積率の増大による効率の低下や、経費の増大などの問題がある上に、これらの対策を施しても希望する信頼性が得られない場合が多い。そのために、更にインバータサージ電圧に対して特性の優れたエナメル線塗膜や、サージ電圧に対する耐性の高い絶縁構成が必要とされている。
【0005】
また、巻線103の温度上昇に対応するため、絶縁材料の耐熱劣化性を向上することは、比較的容易に実施可能であるが、材料自身のコストアップが大きく、対応可能な温度範囲に限界もある。そして、熱伝導率を上げる対策としては、通常樹脂などの熱伝導の悪い有機物の厚さを低減して放熱効果を高める方法があるが、厚さの低減は絶縁性能の低下に直結することから、絶縁材料での熱伝導性能と絶縁性能の両立は困難な場合が多い。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、絶縁信頼性を維持しながら、熱伝導性能を向上させることで、熱の放散性を高めることができる回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、回転電機の巻線の処理ワニスとして、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第一の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填材とを均一に含有した樹脂を用いたことを特徴とする。
このような構成によれば、1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤に対して、第1の充填剤に対する粒径が0.15倍以下の第2の充填剤を均一に含有することで、絶縁信頼性を維持しながら、熱伝導性能を向上させることで、熱の放散性を高めた処理ワニスを回転電機に用いることができる。
【0008】
請求項2記載の発明は、回転電機巻線と鉄心の間に対地絶縁を行なうために挿入されるスロット絶縁物として、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第1の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填材とを均一に含有したシート材の単体、あるいは、他のシート材との張り合わせ材を用いたことを特徴とする。
このような構成によれば、請求項1と同様の効果があるスロット絶縁物を回転電機に用いることができる。
【0009】
請求項3記載の発明は、回転電機の巻線のマグネットワイヤとして、Bステージの接着層をエナメル線の表面に塗布してなる接着電線を用い、その接着層となる樹脂に、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第1の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填剤とを均一に含有したことを特徴とする。
このような構成によれば、請求項1と同様の効果がある接着電線を回転電機に用いることができる。
【0010】
請求項4記載の発明は、回転電機の楔材として、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第1の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填材とを均一に含有したシート材の単体、あるいは、他のシート材との張り合わせ材を用いたことを特徴とする。
このような構成によれば、請求項1と同様の効果がある楔材を回転電機に用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、絶縁信頼性を維持しながら、熱伝導性能を向上させることで、熱の放散性を高めることができる回転電機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1の実施例)
以下、本発明の第1の実施例について、図1ないし図8を参照しながら説明する。
まず、図1は、回転電機の固定子の部分断面図である。この図1に示すように、回転電機の固定子1の鉄心2には、等間隔に複数のスロット2aが同心円状に配設されている。スロット2aは、略台形状をなしている。また、スロット2aには、U字形スロット絶縁物3が挿入されている。
【0013】
図2に示すように、スロット絶縁物3は、例えばポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート或いはポリフェニレンサルファイド等のフィルムもしくはアラミッド等の合成紙であるシート材4の例えば片面に、合成樹脂5がプリプレグ状態として張り合わされて構成されている。この合成樹脂5の中には、第1の充填剤として窒化ホウ素あるいは酸化マグネシウムと、金属アルコキシドを原料とするゾルゲル法により析出された第2の充填剤とが均一に含有されている。
【0014】
図5は、ゾルゲル法による合成樹脂5の製造方法を示しており、この図5において、合成樹脂5は、金属アルコキシドとして例えば高純度化学性であるテトラエトキシシラン(30ml)と、ポリジメチルシロキサン(20ml)と、イソプロピルアルコール(15ml)と、テトラハイドロフラン(10ml)とを、常温常圧にて、スターラーで2時間撹拌混合しA液を得る。そして、このA液に、2規定の塩酸(10ml)と蒸留水(30ml)とを撹拌混合した溶液を撹拌しながら滴下して加え、この混合液体を密閉された状態で70℃に保ちながら48時間加温して、B液を得る。
【0015】
さらに、このB液に対して、1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤として六方晶の窒化ホウ素(あるいは酸化マグネシウム)が60vol%充填され、撹拌混合されると共に300℃で乾燥硬化されて、板状の合成樹脂が形成される。尚、ここでは、スロット絶縁物3として、シート材4の片面に合成樹脂5がプリプレグ状態として張り合わされているので、合成樹脂5は、撹拌混合されると共に300℃で乾燥硬化される際にプリプレグ状態として塗着され、結果として、スロット絶縁物3に張り合わされた状態として構成される。
【0016】
図2に示すように、スロット絶縁物3は、プリプレグ状態にて張り合わせられた合成樹脂5側が鉄心2のスロット2aの内壁に接するようにしてスロット2a内に挿入されている。
続いて、図1に示すように、スロット絶縁物3の内側にマグネットワイヤとして接着電線6を挿通することで、巻線7が構成される。この巻線7は、例えばR,S,T相からなる三相巻線で、スター結線されており、各相巻線は、複数極に対応して直列接続された複数の巻線からなり、図示しないインバータに電源リード線を介して繋がれている。
【0017】
図3に示すように、接着電線6は、導体8の周囲のエナメル層9(導体8とエナメル層9は通常のマグネットワイヤたるエナメル線を構成する)の表面に合成樹脂10aを塗着して形成された接着層10を形成したものである。この接着電線6は、所定の温度で加熱することにより、接着層10が融着し、接着電線6同士が接着され、この接着電線6で構成される巻線7を一体化するものであり、合成樹脂10a(接着層10)は、スロット絶縁物3の場合の合成樹脂5と同材料であり、撹拌混合されると共に300℃で乾燥硬化される際に接着層10として形成される。
【0018】
そして、図1に示すように、鉄心2のスロット2aの開口部には、シート材を半U字形に成形した楔材11が打ち込まれて、巻線7が固定される。楔材11として用いるシート材は、例えばポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート或いはポリフェニレンサルファイド等のフィルムもしくはアラミッド等の合成紙の例えば片面に、合成樹脂が張り合わされて構成され、合成樹脂は、スロット絶縁物3の合成樹脂5と同材料で同様に形成されている。
【0019】
続いて、スロット2a内に収納された巻線7に対して、一体に固定成形するためのワニス12を含浸する処理が施される。この処理は、例えば、滴下含浸ワニス処理であり、固定子1を回転させながら巻線7のコイルエンド部7Rないし7T(図4参照)両側からノズルによりワニス12を滴下させ、接着電線6間の毛細管現象によってスロット2a内の巻線7にワニス12が充填されると共に、スロット2a内およびコイルエンド部7Rないし7Tにもワニス12が含浸されて、その後加熱硬化(Bステージに相当)される処理である。この含浸されるワニス12は、合成樹脂により構成され、この合成樹脂は、スロット絶縁物3の場合と同材料であり、撹拌混合されると共にスロット2a内に充填されて、乾燥硬化される。
【0020】
そして、絶縁構成が施された固定子1内に、図示しない回転子が配設されて回転電機が構成される。
しかして、インバータにより固定子1の巻線7がPWM制御されることにより、回転子の回転速度が変化する。
【0021】
以下本発明の作用について図6ないし図8を参照しながら説明する。
まず、粒径と熱伝達率の相関に関する実験結果を図6、図7を参照しながら説明する。
図6は、マイカと同じ形状をした窒化ホウ素とイソプロピレン系エラストマーの混合体に平均粒径が90nmのカーボンブラックを充填したときの熱伝導率の変化を示し、縦軸は、熱伝導率(W/mK)を表し、横軸は、窒化ホウ素およびイソプロピレン系エラストナーの複合体とカーボンブラックとの体積比(vol%)を表す。
尚、熱伝導率は、レーザーフラッシュ法により測定した。ここで、窒化ホウ素の充填量は、窒化ホウ素とイソプロピレン系エラストマーの体積和に対して0.6倍(60vol%)の体積量で一定とした。
【0022】
図6より、カーボンブラックの充填によって熱伝導率が上昇し、カーボンブラックを充填しないものとカーボンブラック10vol%充填した場合と比較して、4倍近くの3.7W/mK程度の熱伝導率を得ることができた。これは、カーボンブラック粒子が窒化ホウ素粒子間に均一に存在することによって窒化ホウ素間の樹脂の弾性率が上昇し、その結果、窒化ホウ素粒子間の熱の流れが改善されたため、熱伝導性能が向上したと考えられる。
【0023】
図7は、窒化ホウ素とイソプロピレン系エラストマーの混合体に、カーボンブラックの代わりに平均粒径が70nmのアルミナを充填したときの熱伝導率の変化を示したものである。これによれば、カーボンブラックと比較して、さらに熱伝導率の上昇が観測され、アルミナを約12.5vol%充填した場合に4.7W/mK程度の熱伝導率を得ることができた。
【0024】
図8は、窒化ホウ素とイソプロピレン系エラストマーの混合体に、粒径の異なるアルミナを充填したときの熱伝導率の変化を示し、縦軸は熱伝導率(W/mK)を示し、横軸は第1の充填剤である窒化ホウ素と第2の充填剤であるアルミナの粒径比を示す。
この図8より、粒径比が、約0.1倍付近より小さい範囲で熱伝導率が上昇しているのが分かる。これにより、第2の充填剤の粒径が第1の充填剤の粒径の0.15倍以下とすることにより高い熱伝導性を有する材料を得ることができるのである。
【0025】
上述するように、熱伝導率増大のポイントは、第2の充填剤が第1の充填剤中に分散することであり、さらに熱伝導性を向上させるためには、充填剤間が化学的な結合で繋がっていることあるいは均一に分散することが重要であることがわかる。そこで、第1の充填剤中に第2に充填剤が均一に分散する方法としてゾルゲル法を用いることにより、第2の充填剤を析出する方法を適用すれば、第1の充填剤間に第2の充填剤の均一な分散が可能となる。
【0026】
このような構成によると、接着電線6の接着層10となる樹脂には、1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤として窒化ホウ素(または酸化マグネシウム)と、金属アルコキシドとしてテトラエトキシシランを原料したゾルゲル法により析出された第2の充填剤とが均一に分散されているので、インバータ駆動時におけるインバータサージ電圧に対する絶縁信頼性を維持させながらも、熱伝導率を向上させることで、熱の放散性を高めることができる。さらに、第1の充填剤である六方晶の窒化ホウ素および酸化マグネシウムは、モース硬度が低く柔らかいため、基材やエナメル線の損傷を防止できる。
【0027】
そして、ワニス12中には、第1の充填剤として窒化ホウ素(または酸化マグネシウム)と、テトラエトキシシランを原料したゾルゲル法により析出された第2の充填剤とが均一に分散されているので、ワニス12の絶縁信頼性を維持しながらも、熱伝達性を向上させることでき、さらに、加熱硬化される処理でワニス12と接着層10とは一体化されるので、接着電線6から発生するジュール熱を効率よく鉄心2側に伝達することで、熱の放散性を高めることができる。さらに、第1の充填剤である六方晶の窒化ホウ素および酸化マグネシウムにより、基材やエナメル線の損傷を防止できる。
【0028】
また、スロット絶縁物3を構成する合成樹脂5には、第1の充填剤として窒化ホウ素(または酸化マグネシウム)と、テトラエトキシシランを原料したゾルゲル法により析出された第2の充填剤とが均一に分散されているので、スロット絶縁物3と鉄心2間の接着部分におけるスロット絶縁物3の絶縁信頼性を維持しながらも、熱伝達率を向上させることができ、さらに、スロット絶縁物3と鉄心2とは密着しているため、接着電線6で発生したジュール熱を効率よく鉄心2側へ伝達することで、熱の放散性を高めることができる。さらに、第1の充填剤である六方晶の窒化ホウ素および酸化マグネシウムにより、基材やエナメル線の損傷を防止できる。
【0029】
さらに、楔材11を構成する合成樹脂には、第1の充填剤として窒化ホウ素(または酸化マグネシウム)と、テトラエトキシシランを原料したゾルゲル法により析出された第2の充填剤とが均一に分散されているので、楔材11の絶縁信頼性を維持しながらも、従来大きな熱抵抗であった楔材部分の熱伝達性能を向上させることで、熱の放散性を高めることができる。さらに、第1の充填剤である六方晶の窒化ホウ素および酸化マグネシウムにより、基材やエナメル線の損傷を防止できる。
【0030】
従って、インバータ駆動により発生するインバータサージ電圧に対する絶縁信頼性を維持しながらも、回転電機全体の熱伝導性能を向上させることで、熱の放散性を高めることができ、以って、回転電機全体の温度低減を図ることができるのである。
【0031】
(第2の実施例)
図9、図10は、本発明第2の実施例であり、上記第1の実施例と異なるところを説明する。上記第1の実施例においては、イソプロピルアルコール(イソプロピル系エラストナー)を含んだゾルゲル法用いて合成樹脂5を形成する構成としたが、エポキシ系樹脂を用いるゾルゲル法を用いて合成樹脂を形成した場合を説明する。この場合のゾルゲル法は、テトラエトキシシラン(30ml)と、シランカップリング剤A187(10ml)と、蒸留水(5ml)と、エタノール(10ml)とを200mlのビーカで10分撹拌し、撹拌しながらジエチレンアミン(0.6ml)を滴下した液をB液として、このB液に対して60vol%の窒化ホウ素(あるいは酸化マグネシウム)を充填した。これらが充填されている樹脂を350℃で乾燥硬化することで、合成樹脂を得る。その他の構成は、上記実施例と同様である。
【0032】
次に、粒径と熱伝達率の相関に関する実験結果を図9、図10を参照しながら説明する。
図9は、窒化ホウ素とエポキシ樹脂との複合体に平均粒径が90nmのカーボンブラックを充填したときの熱伝導率の変化を示し、縦軸は、熱伝導率(W/mK)を示し、横軸は、窒化ホウ素およびエポキシ樹脂の複合体とカーボンブラックとの体積比(vol%)を表す。尚、熱伝導率は、レーザーフラッシュ法により測定した。ここで、窒化ホウ素の充填量は、窒化ホウ素とエポキシ樹脂の体積和に対して0.6倍(60vol%)の体積量で一定とした。
【0033】
図9より、カーボンブラックの充填によって熱伝導率が上昇し、カーボンブラックを充填しないものとカーボンブラック1vol%充填した場合と比較して、2倍強である約6.5W/mKの熱伝導率を得ることができた。これは、上記第1の実施例と同様に、カーボンブラック粒子が窒化ホウ素粒子間に均一に存在することによって窒化ホウ素間の樹脂の弾性率が上昇し、その結果、窒化ホウ素粒子間の熱の流れが改善されたため、熱伝導性能が向上したと考えられる。
【0034】
図10は、窒化ホウ素とエポキシ樹脂の複合体に、カーボンブラックの代わりに平均粒径が70nmのアルミナを充填したときの熱伝導率の変化を示したものである。カーボンブラックと比較して、さらに熱伝導率の上昇が観測され、アルミナを4vol%充填した場合に約7.4W/mKの熱伝導率を得ることができた。
上記のような絶縁構成を有した回転電機によれば、上記第1の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0035】
(変形例)
本発明は、上記実施例に限定されることなく、次のように変形または拡張できる。
上記第1の実施例において、ワニス処理を滴下含浸ワニス処理としたが、浸漬含浸ワニス処理してもよく、さらには、ワニス12の含浸作業を真空容器内で行うようにしてもよく、これによれば、減圧状態でワニス12が含浸されるため、ワニス12は、巻線7の接着電線6同士間、巻線7とスロット2a間やスロット絶縁物3とスロット2a間など狭い空間まで確実に含浸される。尚、浸漬含浸ワニス処理とは、ワニス12を収容した容器内に固定子1を浸漬して含浸し、容器から引き上げて自然放置することで余分なワニス12を滴下させて取り除き、しかる後に加熱炉内にて、固定子1に含浸させたワニス12を加熱硬化させることである。
【0036】
上記実施例において、スロット絶縁物3および楔材11は、シート材4であるフィルムまたは合成紙の例えば片面に、合成樹脂5が塗着されている構成としたが、シート材であるフィルムまたは合成紙の両面に、合成樹脂5が塗着される構成としてもよい。
また、スロット絶縁物3および楔材11は、合成樹脂5をシート材に塗着させて構成したが、シート材に塗着させる必要はなく、ゾルゲル法により形成された合成樹脂をシート状に形成し、それ自体を単体で用いて、スロット絶縁物3および楔材11を構成してもよい。
【0037】
さらに、シート材4に合成樹脂5を塗着する構成としたが、スロット絶縁物3として用いるシート材は、ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート或いはポリフェニレンサルファイド等のフィルムもしくはアラミッド等の合成紙、それぞれの単体或いは他のシート材との張り合わせ材であり、あらかじめ、これらのフィルムあるいは合成紙の原料に第1の充填剤と第2の充填剤が含有されている構成としてもよい。
【0038】
上記実施例において、第2の充填剤を金属アルコキシド(テトラエトキシシラン)を原料とするゾルゲル法により析出する構成としたが、カーボンブラックやアルミナを第2の充填剤として樹脂中に含有させて構成してもよい。
上記第実施例において、スロット絶縁物3、接着電線6、楔材11およびワニス12のすべての部材中に第1の充填剤および第2の充填剤を含有させて用いる構成としたが、すべての部材に含有させて用いる必要はなく、例えば、1つの部材若しくは2以上の部材に含有させて用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明第1の実施例を示す固定子の部分縦断面図
【図2】スロット部分の一部断面斜視図
【図3】コイルエンドを示す図
【図4】接着電線の断面図
【図5】ゾルゲル法を示すチャート図
【図6】カーボンブラックを充填した場合の熱伝導率の変化を示す図
【図7】アルミナを添加した場合図6相当図
【図8】窒化ホウ素とアルミナの粒径比による熱伝導率の変化を示す図
【図9】図6相当図
【図10】図7相当図
【図11】従来を示す図1相当図
【符号の説明】
【0040】
図面中、1は固定子、2は鉄心、2aはスロット、3はスロット絶縁物、4はシート材、5は合成樹脂、6は接着電線、7は巻線、10は接着層、11は楔材、12はワニスを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の巻線の処理ワニスとして、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第1の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填材とを均一に含有した樹脂を用いたことを特徴とする回転電機。
【請求項2】
回転電機の巻線と鉄心の間に対地絶縁を行なうために挿入されるスロット絶縁物として、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第1の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填材とを均一に含有したシート材の単体、あるいは、他のシート材との張り合わせ材を用いたことを特徴とする回転電機。
【請求項3】
回転電機の巻線のマグネットワイヤとして、Bステージの接着層をエナメル線の表面に塗布してなる接着電線を用い、その接着層となる樹脂に、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第1の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填剤とを均一に含有したことを特徴とする回転電機。
【請求項4】
回転電機の楔材として、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第1の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填材とを均一に含有したシート材の単体、あるいは、他のシート材との張り合わせ材を用いたことを特徴とする回転電機。
【請求項5】
前記第1の充填剤が、窒化ホウ素または酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の回転電機。
【請求項6】
前記第2の充填剤は、カーボンブラックまたはアルミナであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の回転電機。
【請求項7】
前記第2の充填剤は、金属アルコキシドを原料としたゾルゲル法により析出して分散されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の回転電機。
【請求項1】
回転電機の巻線の処理ワニスとして、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第1の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填材とを均一に含有した樹脂を用いたことを特徴とする回転電機。
【請求項2】
回転電機の巻線と鉄心の間に対地絶縁を行なうために挿入されるスロット絶縁物として、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第1の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填材とを均一に含有したシート材の単体、あるいは、他のシート材との張り合わせ材を用いたことを特徴とする回転電機。
【請求項3】
回転電機の巻線のマグネットワイヤとして、Bステージの接着層をエナメル線の表面に塗布してなる接着電線を用い、その接着層となる樹脂に、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第1の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填剤とを均一に含有したことを特徴とする回転電機。
【請求項4】
回転電機の楔材として、少なくとも1.0W/mK以上の熱伝導率を持つ第1の充填剤と、粒径が第1の充填剤と比較して0.15倍以下である第2の充填材とを均一に含有したシート材の単体、あるいは、他のシート材との張り合わせ材を用いたことを特徴とする回転電機。
【請求項5】
前記第1の充填剤が、窒化ホウ素または酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の回転電機。
【請求項6】
前記第2の充填剤は、カーボンブラックまたはアルミナであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の回転電機。
【請求項7】
前記第2の充填剤は、金属アルコキシドを原料としたゾルゲル法により析出して分散されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の回転電機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−14490(P2006−14490A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188153(P2004−188153)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(500414800)東芝産業機器製造株式会社 (137)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(500414800)東芝産業機器製造株式会社 (137)
【Fターム(参考)】
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