説明

回転霧化静電塗装装置及びその塗料汚れ防止方法

【課題】ロボット手首103a降りかかる塗料ミストの状態に係らず、回転霧化静電塗装装置の塗料汚れを確実に防止する
【解決手段】電圧印加手段10によって、ベル塗装機102Bとロボット手首103aとに印加する電圧を、比較的高電圧(VHH/VHL及びVHH’/VHL’)から比較的低電圧(VLH’/VHL’及びVLH/VHL)に切替えるタイミング(タイムラグΔT)と、比較的低電圧から比較的高電圧に切替えるタイミング(タイムラグΔT’)とを、各々設定する。ベル塗装機102Bに印加する電圧を、適宜、被塗物Wの態様に応じて変化させ、かつ、塗料ミストPd、Piの電荷の状態に対して適切な電解バリアを、ロボット手首103aの周辺領域に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転霧化静電塗装装置及びその塗料汚れ防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被塗物に対し静電塗装を行うための塗装装置として、回転霧化静電塗装装置が広く用いられている。この、回転霧化塗装装置は、被塗物をアース(0KV)とし、ベルカップを高速回転させて塗料を霧化するベル塗装機を陰極として、高電圧を与えて両極間に静電界をつくり、塗料ミストを帯電させることで、被塗物に効率的に塗料を付着させることが出来るものである。
【0003】
一例として、図5に示された回転霧化塗装装置101を参照しながら説明する。なお、図5の回転霧化塗装装置101は、本発明の実施の形態に係るものであるが、従来の回転霧化塗装装置と基本構成を同じくすることから、従来技術の説明としても引用するものである。この回転霧化塗装装置101は、ベル塗装機102を保持するロボットアーム103が、揺動自在に設置された基部アーム103Aと、基部アーム103Aの上部にその後端部が回動可能に連結される水平アーム103Bとから構成されている。そして、ロボットアーム103が屈伸動作することで、ベル塗装機102は、被塗物Wに対し自在に離間接近するものである。水平アーム103Bの先端部には、ベル塗装機102の連結筒102aが連結される第一アーム部103a(以下、「ロボット手首」という。)と、その先端部にロボット手首103aが揺動自在に連結される第二アーム部103bと、その先端部に第二アーム部103bが連結され、その後端部に基部アーム103Aが回動可能に連結される第三アーム部103cを有している。なお、第三アーム部103cは、基部アーム103Aを介して接地(アース接続)されている。
そして、ベル塗装機102には、第二アーム部103bに設けたカスケード回路107aに接続されている高電圧ケーブル106aから、高電圧が入力され、電圧が印加されるようになっている。カスケード回路107aには、電圧発生器105aにて発生する電圧が電圧ケーブル115aを介して入力され、このカスケード回路107aから高電圧ケーブル106aに高電圧が入力されるようになっている。
【0004】
又、ベル塗装機102やロボット手首103a等に塗料粒子が付着してしまうという課題に対応するために、ロボット手首103aには、高電圧ケーブル106bから高電圧が入力され、ロボット手首103aの外周表面全体に、ベル塗装機102と同極性の電圧が印加されるようになっている。高電圧ケーブル106bは、第二アーム部103bに設けたカスケード回路107bに接続されている。このカスケード回路107bには、電圧発生器105bにて発生する電圧が電圧ケーブル115bを介して入力され、このカスケード回路107bから高電圧ケーブル106bに高電圧が入力されるようになっている。
更に、ロボット手首103aの外周には、塗料に印加される電圧と同極性の電圧が印加される、リング電極108(リング状の静電電極)が設けられている。そして、リング電極108に電圧が印加されることにより、ロボット手首103aの全体に電圧が印加され、ロボット手首103aの表面から離れる方向へと向う電磁力線が形成される。この電磁力線によって、ロボット手首103aの周囲には、負側の電圧が印加された塗料ミストと反発し合う電界バリアが形成されることになる(例えば、特許文献1参照)。
なお、図5中、符号10、12については、後述する本発明の実施の形態に係る構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−69136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者らの鋭意研究の結果、ベル塗装機102等に塗料汚れが生じる仕組みには、大きく分けて2つの態様があることが確認された。例えば、自動車のボデー等、立体的な被塗物に対し塗装を行う場合には、複数の回転霧化静電塗装装置を同時に用いて塗装を行うことが一般的であるが、図6(a)に示されるように、一台のベル塗装機102Aから噴射された塗料ミストが、他方のベル塗装機102Bのロボット手首103aに直接的に降りかかる、いわゆる直接ミストPdが一つの原因であり、もう一つは、図6(b)に示されるように、ベル塗装機102B自身が噴射した塗料ミストが、空中を舞って自らのロボット手首103aに降りかかる、いわゆる間接ミストPiが原因である。そして、直接ミストPdと間接ミストPiとでは電荷に差があり、ベル塗装機102等の塗料汚れを確実に防ぐためには、夫々の電荷に応じた電解バリアを形成する必要がある。すなわち、一般に、直接ミストPdは粒径が大きくかつ帯電量も大きい。又、間接ミストPiは粒径が小さくかつ帯電量も小さい。従って、ベル塗装機102等に塗料汚れが生じる事を防ぐためには、ミストの帯電量に応じて、電解バリアを形成するための印加電圧を増減することが望まれる。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、降りかかる塗料ミストの状態に係らず、回転霧化静電塗装装置の塗料汚れを確実に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0008】
(1)ベル塗装機と、該ベル塗装機を保持するロボット手首とに対し、選択的にパルス状ないし非パルス状の電圧を、各々独立して印加する電圧印加手段を備える回転霧化静電塗装装置(請求項1)。
本項に記載の回転霧化静電塗装装置は、電圧印加手段によって、ベル塗装機と、該ベル塗装機を保持するロボット手首とに対し、選択的にパルス状ないし非パルス状の電圧を、各々独立して印加することで、ロボット手首に降りかかる塗料ミストの電荷の状態(帯電量)に対して、塗料汚れを確実に防ぐための電解バリアを、ロボット手首の周辺領域に形成するものである。
【0009】
(2)上記(1)項において、前記電圧印加手段は、前記ベル塗装機に印加する電圧の切替えと、前記ロボット手首に印加する電圧の切替えとに、タイムラグを設定可能である回転霧化静電塗装装置(請求項2)。
本項に記載の回転霧化静電塗装装置は、電圧印加手段によって、ベル塗装機に印加する電圧を、適宜、被塗物の態様に応じて変化させ、かつ、ベル塗装機に印加する電圧の切替えと、ロボット手首に印加する電圧の切替えとにタイムラグを設定することで、塗料ミストの電荷の状態に対応する適切な電解バリアを、ロボット手首の周辺領域に形成するものである。
【0010】
(3)上記(1)、(2)項において、前記電圧印加手段は、前記ベル塗装機と前記ロボット手首とに印加する電圧を、比較的高電圧から比較的低電圧に切替えるタイミングと、比較的低電圧から比較的高電圧に切替えるタイミングとを、各々設定可能である回転霧化静電塗装装置(請求項3)。
本項に記載の回転霧化静電塗装装置は、電圧印加手段によって、ベル塗装機とロボット手首とに印加する電圧を、比較的高電圧から比較的低電圧に切替えるタイミングと、比較的低電圧から比較的高電圧に切替えるタイミングとを、各々設定することで、ベル塗装機に印加する電圧を、適宜、被塗物の態様に応じて変化させ、かつ、塗料ミストの電荷の状態に対応する適切な電解バリアを、ロボット手首の周辺領域に形成するものである。
【0011】
(4)上記(1)から(3)項において、前記電圧印加手段は、前記ベル塗装機と前記ロボット手首とに印加する電圧を、パルス状電圧から非パルス状電圧に切替えるタイミングと、非パルス状電圧からパルス状電圧に切替えるタイミングとを、各々設定可能である回転霧化静電塗装装置(請求項4)。
本項に記載の回転霧化静電塗装装置は、電圧印加手段によって、ベル塗装機とロボット手首とに印加する電圧を、パルス状電圧から非パルス状電圧に切替えるタイミングと、非パルス状電圧からパルス状電圧に切替えるタイミングとを、各々設定することで、ベル塗装機に印加する電圧を、適宜、被塗物の態様に応じて変化させ、かつ、塗料ミストの電荷の状態に対応する適切な電解バリアを、ロボット手首の周辺領域に形成するものである。
【0012】
(5)上記(1)から(4)項において、前記電圧印加手段は、前記ベル塗装機に遅れて前記ロボット手首の電圧を切替え可能である回転霧化静電塗装装置(請求項5)。
本項に記載の回転霧化静電塗装装置は、電圧印加手段により、ベル塗装機に遅れてロボット手首の電圧を切替えることで、直接ミストがロボット手首に降りかかるタイミングでは、直接塗料ミストの電荷に対応する強度の電解バリアを、ロボット手首の周辺領域に形成し、間接ミストがロボット手首に降りかかるタイミングでは、間接塗料ミストの電荷に対応する強度の電解バリアを、ロボット手首の周辺領域に形成するものである。
【0013】
(6)ベル塗装機と、該ベル塗装機を保持するロボット手首とに、選択的にパルス状ないし非パルス状の電圧を、各々印加する電圧印加手段を備える回転霧化静電塗装装置により、前記ベル塗装機から被塗装物に塗料を噴霧する際に、前記ベル塗装機と、前記ロボット手首とに印加する電圧の制御を、各々独立して行う回転霧化静電塗装装置の塗料汚れ防止方法(請求項6)。
本項に記載の回転霧化静電塗装装置の塗料汚れ防止方法は、ベル塗装機と、該ベル塗装機を保持するロボット手首とに対し、選択的にパルス状ないし非パルス状の電圧を、各々独立して印加することで、ロボット手首に降りかかる塗料ミストの電荷の状態に対して、塗料汚れを確実に防ぐための電解バリアを、ロボット手首の周辺領域に形成するものである。
【0014】
(7)上記(6)項において、前記ベル塗装機に印加する電圧の切替えと、前記ロボット手首に印加する電圧の切替えとに、タイムラグを設定する回転霧化静電塗装装置の塗料汚れ防止方法(請求項7)。
本項に記載の回転霧化静電塗装装置の塗料汚れ防止方法は、ベル塗装機に印加する電圧を、適宜、被塗物の態様に応じて変化させ、かつ、ベル塗装機に印加する電圧の切替えと、ロボット手首に印加する電圧の切替えとにタイムラグを設定することで、塗料ミストの電荷の状態に対応する適切な電解バリアを、ロボット手首の周辺領域に形成するものである。
【0015】
(8)上記(6)(7)項において、前記ベル塗装機と前記ロボット手首とに印加する電圧を、比較的高電圧から比較的低電圧に切替えるタイミングと、比較的低電圧から比較的高電圧に切替えるタイミングとを、各々設定する回転霧化静電塗装装置の塗料汚れ防止方法(請求項8)。
本項に記載の回転霧化静電塗装装置の塗料汚れ防止方法は、ベル塗装機とロボット手首とに印加する電圧を、比較的高電圧から比較的低電圧に切替えるタイミングと、比較的低電圧から比較的高電圧に切替えるタイミングとを、各々設定することで、ベル塗装機に印加する電圧を、適宜、被塗物の態様に応じて変化させ、かつ、塗料ミストの電荷の状態に対応する適切な電解バリアを、ロボット手首の周辺領域に形成するものである。
【0016】
(9)上記(6)から(8)項において、前記ベル塗装機と前記ロボット手首とに印加する電圧を、パルス状電圧から非パルス状電圧に切替えるタイミングと、非パルス状電圧からパルス状電圧に切替えるタイミングとを、各々設定する回転霧化静電塗装装置の塗料汚れ防止方法(請求項9)。
本項に記載の回転霧化静電塗装装置の塗料汚れ防止方法は、ベル塗装機とロボット手首とに印加する電圧を、パルス状電圧から非パルス状電圧に切替えるタイミングと、非パルス状電圧からパルス状電圧に切替えるタイミングとを、各々設定することで、ベル塗装機に印加する電圧を、適宜、被塗物の態様に応じて変化させ、かつ、塗料ミストの電荷の状態に対応する適切な電解バリアを、ロボット手首の周辺領域に形成するものである。
【0017】
(10)上記(6)から(9)項において、前記ベル塗装機に遅れて前記ロボット手首の電圧を切替える回転霧化静電塗装装置の塗料汚れ防止方法(請求項10)。
本項に記載の回転霧化静電塗装装置の塗料汚れ防止方法は、電圧印加手段により、ベル塗装機に遅れてロボット手首の電圧を切替えることで、直接ミストがロボット手首に降りかかるタイミングでは、直接塗料ミストの電荷に対応する強度の電解バリアを、ロボット手首の周辺領域に形成し、間接ミストがロボット手首に降りかかるタイミングでは、間接塗料ミストの電荷に対応する強度の電解バリアを、ロボット手首の周辺領域に形成するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明はこのように構成したので、降りかかる塗料ミストの状態に係らず、回転霧化静電塗装装置の塗料汚れを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は、本発明の実施の形態に係る回転霧化静電塗装装置の、電圧印加手段により、ベル塗装機と、該ベル塗装機を保持するロボット手首とに印加される電圧の変化を示すグラフであり、(b)は、それによる効果を模式的に示した説明図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る回転霧化静電塗装装置の、電圧印加手段により、ベル塗装機と、該ベル塗装機を保持するロボット手首とに印加される電圧の制御ロジックの一例を示す図表である。
【図3】本発明の実施の形態に係る回転霧化静電塗装装置の、電圧印加手段により、ベル塗装機と、該ベル塗装機を保持するロボット手首とに印加される一定電圧又はパルス状電圧の値と、それにより励起される電子の電流値との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態に係る回転霧化静電塗装装置の、電圧印加手段の構成を例示する電気回路図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る回転霧化静電塗装装置の概要図である。
【図6】従来の、回転霧化静電塗装装置を用いた塗装工程における問題点を示す説明図であり、(a)は、ベル塗装機を保持するロボット手首に直接ミストが降りかかる様子を、(b)は、同ロボット手首に間接ミストが降りかかる様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1に基づいて説明する。なお、従来技術と同一部分若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略する。
本発明の実施の形態に係る回転霧化静電塗装装置は、前述のように図5に例示される転霧化塗装装置101の構成を採用することができるものである。更に、本発明の実施の形態特有の構成として、二系統の給電装置、すなわち、ベル塗装機102に高電圧を印加する電気系統に係る電圧発生器105aと、ロボット手首103aに高電圧を印加する電気系統に係る電圧発生器105bとから印加される電圧を制御する、制御手段12を備える、電圧印加手段10が構成されているものである。又、電圧発生器105a、105bのいずれも、選択的にパルス状ないし非パルス状の電圧を印加することが可能となっている。
【0021】
より具体的には、制御手段12は、パーソナルコンピュータ等の汎用演算器や専用回路による演算器が使用可能であり、後述する所定の制御を行う制御ロジックを備えるものである。そして、通常の手法によって各電圧発生器105a、105bの各CPUと、電気的に接続されることで、電圧印加手段10が構成されている。
又、図4には、上記二系統の給電装置に採用可能な電気回路の具体例が示されている。その他、具体的な回路構成として、特開平06−320066号公報に記載された高電圧電源装置を用いることも可能である。
【0022】
又、電圧発生器105a、105bにおいて、図3に示されるように、一定電圧(非パルス状電圧)CVが印加されると(例えば比較的高電圧Vと比較的低電圧V)、それにより励起される電子も一定の電流値(例えば比較的高電流Iと比較的低電流I)となるが、パルス電圧PVが印加されると、それにより急激な電子の流れが励起され、電流値I’の値は大幅に増大することとなる。これにより、被塗物Wとベル塗装機102との空間に形成される電界強度も大幅に向上し、その領域も拡大することとなる。又、塗料ミストの帯電量も向上し、クーロン力(qE)が増大することで、被塗物Wに引き付けられる力が大きくなり、大幅な塗着効率向上が図られる。従って、被塗物Wの形状に応じて、一定電圧CVとパルス電圧PVとを切替えることで、均一かつ高品質の塗装を行うものである。
【0023】
又、電圧印加手段10は、パルス電圧PVを印加する場合において、図1(a)に示されるように、ベル塗装機に印加する電圧VHH/VHL及びVLH/VHLの切替えと、ロボット手首103aに印加する電圧VHH’/VHL’及びVLH’/VHL’の切替えとに、適宜、タイムラグΔT、ΔT’を設定することが可能である。又、タイムラグΔT、ΔT’の各々について、異なる時間設定をすることも可能である。同様にして、電圧印加手段10は、ベル塗装機に印加する電圧をパルス状電圧PVから非パルス状電圧CVに切替えるタイミングと、非パルス状電圧CVからパルス状電圧PVに切替えるタイミングとを、各々設定することも可能である。
そして、本発明の実施の形態では、電圧印加手段10は、ベル塗装機102に遅れてロボット手首103aの電圧を切替えるように、タイムラグΔT、ΔT’を設定している。なお、ΔT、ΔT’は、ベル塗装機102からロボット手首103aへの塗料ミストの到達時間を考慮して設定され、通常は数秒程度に設定される。
【0024】
更に、図2に示されるように、ベル塗装機とロボット手首とで、高中低(VHH/VHL、VMH/VML及びVLH/VHL)の三段階(あるいはそれ以上の多段階)のパルス電圧を印加し、この際、電圧印加手段10は、ベル塗装機102に遅れてロボット手首103aの電圧を切替えるように、タイムラグΔT(ΔT’)を設定することも可能である。
【0025】
さて、上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、電圧印加手段10によって、ベル塗装機102と、ベル塗装機102を保持するロボット手首103aとに対し、選択的にパルス状ないし非パルス状の電圧を、各々独立して印加することで、ロボット手首103aに降りかかる塗料ミストの電荷の状態、すなわち、帯電量の異なる直接ミストPdと間接ミストPiとに対して、ロボット手首103a塗料汚れを確実に防ぐための電解バリアを、ロボット手首103aの周辺領域に形成することが可能となる。
【0026】
すなわち、図1(b)に示される直接ミストPdと間接ミストPiとでは、一般に、直接ミストPdは粒径が大きくかつ帯電量も大きく、間接ミストPiは粒径が小さくかつ帯電量も小さいことから、ロボット手首103aに、いずれのミストが降りかかるタイミングであるかを、ベル塗装機102の塗料の噴射タイミング、ロボット手首103aの作動パターン等から予め把握し、電圧印加手段10によって、ベル塗装機102に印加する電圧を、適宜、被塗物の態様に応じて変化させ、かつ、ベル塗装機102に印加する電圧の切替えと、ロボット手首103aに印加する電圧の切替えとにタイムラグを設定することで、塗料ミストの電荷の状態に対応する適切な電解バリアを、ロボット手首103aの周辺領域に形成するものである。従って、ロボット手首103aに対する直接ミストPd及び間接ミストPiのいずれの付着も、確実に回避することが可能となる。
【0027】
又、電圧印加手段10によって、ベル塗装機102とロボット手首103aとに印加する電圧を、比較的高電圧(VHH/VHL及びVHH’/VHL’)から比較的低電圧(VLH’/VHL’及びVLH/VHL)に切替えるタイミング(タイムラグΔT)と、比較的低電圧から比較的高電圧に切替えるタイミング(タイムラグΔT’)とを、各々設定することで、ベル塗装機102に印加する電圧を、適宜、被塗物Wの態様に応じて変化させ、かつ、塗料ミストの電荷の状態に対応する適切な電解バリアを、ロボット手首103aの周辺領域に形成することができる。
【0028】
又、被塗物Wの形状等に応じ、ベル塗装機102とロボット手首103aとに印加する電圧を、パルス状電圧PVと非パルス状電圧CVとで切替える必要がある場合にも、パルス状電圧PVから非パルス状電圧CVに切替えるタイミング(タイムラグΔT)と、非パルス状電圧CVからパルス状電圧PVに切替えるタイミング(タイムラグΔT’)とを、各々設定することで、ベル塗装機102に印加する電圧を、適宜、被塗物Wの態様に応じて変化させ、かつ、塗料ミストの電荷の状態に対応する適切な電解バリアを、ロボット手首103aの周辺領域に形成することができる。
【0029】
しかも、電圧印加手段10により、ベル塗装機102に遅れてロボット手首103aの電圧を切替えることで、直接ミストPdがロボット手首103aに降りかかるタイミングでは、直接塗料ミスPdトの電荷に対応する強度の電解バリアを、ロボット手首103aの周辺領域に形成し、間接ミストPiがロボット手首103aに降りかかるタイミングでは、間接塗料ミストPiの電荷に対応する強度の電解バリアを、ロボット手首103aの周辺領域に形成し、ロボット手首103a塗料汚れを確実に防ぐことが可能となる。
【符号の説明】
【0030】
10:電圧印加手段、12:制御手段、101:回転霧化塗装装置、102:ベル塗装機、103a:ロボット手首、CV:一定電圧、PV:パルス電圧、VHH/VHL、VHH’/VHL’:比較的高電圧、 VLH’/VHL’、VLH/VHL:比較的低電圧、 ΔT、ΔT’:タイムラグ、W:被塗物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベル塗装機と、該ベル塗装機を保持するロボット手首とに対し、選択的にパルス状ないし非パルス状の電圧を、各々独立して印加する電圧印加手段を備えることを特徴とする回転霧化静電塗装装置。
【請求項2】
前記電圧印加手段は、前記ベル塗装機に印加する電圧の切替えと、前記ロボット手首に印加する電圧の切替えとに、タイムラグを設定可能であることを特徴とする請求項1記載の回転霧化静電塗装装置。
【請求項3】
前記電圧印加手段は、前記ベル塗装機と前記ロボット手首とに印加する電圧を、比較的高電圧から比較的低電圧に切替えるタイミングと、比較的低電圧から比較的高電圧に切替えるタイミングとを、各々設定可能であることを特徴とする請求項1又は2記載の回転霧化静電塗装装置。
【請求項4】
前記電圧印加手段は、前記ベル塗装機と前記ロボット手首とに印加する電圧を、パルス状電圧から非パルス状電圧に切替えるタイミングと、非パルス状電圧からパルス状電圧に切替えるタイミングとを、各々設定可能であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の回転霧化静電塗装装置。
【請求項5】
前記電圧印加手段は、前記ベル塗装機に遅れて前記ロボット手首の電圧を切替え可能であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項記載の回転霧化静電塗装装置。
【請求項6】
ベル塗装機と、該ベル塗装機を保持するロボット手首とに、選択的にパルス状ないし非パルス状の電圧を、各々印加する電圧印加手段を備える回転霧化静電塗装装置により、前記ベル塗装機から被塗装物に塗料を噴霧する際に、前記ベル塗装機と、前記ロボット手首とに印加する電圧の制御を、各々独立して行うことを特徴とする回転霧化静電塗装装置の塗料汚れ防止方法。
【請求項7】
前記ベル塗装機に印加する電圧の切替えと、前記ロボット手首に印加する電圧の切替えとに、タイムラグを設定することを特徴とする請求項6記載の回転霧化静電塗装装置の塗料汚れ防止方法。
【請求項8】
前記ベル塗装機と前記ロボット手首とに印加する電圧を、比較的高電圧から比較的低電圧に切替えるタイミングと、比較的低電圧から比較的高電圧に切替えるタイミングとを、各々設定することを特徴とする請求項6又は7記載の回転霧化静電塗装装置の塗料汚れ防止方法。
【請求項9】
前記ベル塗装機と前記ロボット手首とに印加する電圧を、パルス状電圧から非パルス状電圧に切替えるタイミングと、非パルス状電圧からパルス状電圧に切替えるタイミングとを、各々設定することを特徴とする請求項6から8のいずれか1項記載の回転霧化静電塗装装置の塗料汚れ防止方法。
【請求項10】
前記ベル塗装機に遅れて前記ロボット手首の電圧を切替えることを特徴とする請求項6から9の何れか1項記載の回転霧化静電塗装装置の塗料汚れ防止方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−5955(P2012−5955A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144133(P2010−144133)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(309007818)友信工機株式会社 (19)
【Fターム(参考)】