説明

固体微粒子回収方法

【課題】SiCやSiの固体微粒子を含む液から比較的大粒径の固体微粒子を分離して回収するだけでなく、その固体微粒子より小粒径である超微細な固体微粒子を効率よく固液分離し、それら全ての固体微粒子を回収する方法を提供する。
【解決手段】SiC及び/又はSiの固体微粒子回収方法は、SiC及び/又はSiの固体微粒子を含む液を、遠心分離又は/及び液体サイクロンにより該固体微粒子中の比較的大粒径の固体微粒子を分離して回収し、比較的小粒径の固体微粒子が残存する液を排出する第一工程と、第一工程から排出された液に、有機凝集剤を添加して該比較的小粒径の固体微粒子が凝集して形成される凝集体が含まれる液を、遠心分離又は濾過して該凝集体を回収する第二工程とを有する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液に含まれるSiCやSiの固体微粒子を液中から分離して回収する方法及びその回収した固体微粒子を再利用可能に再生する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、炭化珪素粉(SiC粉)はSi、水晶、SiC、GaAs、GaN等の単結晶や多結晶の基板、ガラス、又はセラミックス等の切断や研削や研磨に使用されるだけでなく、SiC成形体の原料としても使用されており、幅広く用いられている。このSiC粉は、通常、アチソン法によりバッチ反応で製造されている。
【0003】
アチソン法は、大気開放のU型炉で、中心に長手方向にグラファイト電極を通し、その電極周りに、数mm〜数cmの珪砂及び炭素の混合物を蒲鉾状に積み上げ、グラファイト電極に大電流を流し加熱してSiCを製造するものである。この反応(SiO2+3C→SiC+CO)は吸熱反応であり、グラファイト電極のみが発熱体で高温なので、電極周りにおいてよく反応し、主として高温安定型結晶のαSiCが生成する。一方、電極から離れた部分では、未反応であったり、比較的用途が限定されている低温安定型結晶のβSiCとαSiCとの混合物等が多く生成したり、反応が不十分である。反応後は、塊状に硬く固まった炉内物を粗く砕き、所望のαSiC部分のみを選別し、更に微粉砕する。残りの未反応物やβSiCとαSiCとの混合物は、不要品として再度、反応原料に戻される。微粉砕されたαSiCは、各種用途に応じて、水等を用いた湿式分級や、空気や窒素等を用いた乾式分級で、その用途に応じた最適な粒度や粒度分布に調整される。このようにして得られたSiC微粉は、前記の切断、研削、研磨の砥粒、研削材として、又はSiC成形体の原料粉末として、大量に用いられている。
【0004】
SiC微粉の製造では、使用目的や用途により最適な平均粒径や粒度分布が要求されるため、所望粒度と不要粒度とを分ける分級工程が不可欠である。この分級では、比較的低コストで精密分級が可能な水分級法が一般的であるが、需要の無い不要なSiC微粉を含有する水溶液が多量に発生する。同様に、乾式分級の場合でも不要なSiC微粉が発生し、それらの処理が問題となっている。また、単結晶や多結晶のSiインゴットや成形物を研削する際にも、切子のSi微粒子を含有した廃液が多量に発生しており、その処理も問題となっている。
【0005】
この溶液や廃液の処理として、遠心分離機や濾過機でSiCやSiの微粒子を回収し有効利用しようとしても、そのままでは超微細な粒子が混在しているため、完全な固液分離が極めて難しい。産業廃棄物として焼却処分するか、大量な熱で加熱乾燥した後に乾燥残渣のSiCやSiを回収し、精々、経済的価値の低い溶鉱炉の脱酸剤として利用されたり、アチソン炉の原料として戻され利用されたりすることが一般的である。SiCやSiの微粒子を除去した後の液体は、場合により蒸留して再利用されることもあるが、熱エネルギー代が高く経済的ではない。
【0006】
また、SiCを遊離砥粒としてスラリー状態でワイヤーにより切断する遊離砥粒ワイヤーソーでは、水又は油の溶媒中に研削材のSiC微粉とエチレングリコール、界面活性剤、防錆剤等の種々の添加材とを加えたスラリーを作りSiインゴット等の切断に使用する。このスラリーは、単結晶や多結晶Siを多量に切断すると、最適であったSiCの粒径や粒度分布から、磨耗、割れ、へたり、細粒化により粒度分布が広がり切断能力が低下すると共に、切子のSi微粒子が蓄積してスラリー粘度が上昇し、スラリーの循環使用が不能となり、新しいスラリーと交換される。使用不能となったスラリー廃液には、水又は油の溶媒以外に消耗し細粒化したSiCや切子のSiや各種の添加剤が存在しており、排水汚染の問題により単純に廃棄することができない。同様に、ダイヤモンド粒を固定したダイヤモンド固定ワイヤーソーによりウエハーや薄片を製造する際に発生する切子のSi微粒子を含有したスラリー廃液においても、これまで再利用が難しく、その処理が問題とされている。
【0007】
これらのワイヤーソースラリー廃液のSiCとSiとの混合微粉については、これまで幾つかの回収、有効活用方法が提案されており、例えば、特許文献1に研削泥中の金属けい素を炭化けい素に転化するのに必要な量の炭素を加え、非酸化条件下で1200℃以上に加熱する炭化けい素結晶体の製造方法が開示されている。また、特許文献2に、廃シリコンスラッジに炭素を添加混合して得られた混合物を加熱する炭化珪素の製造方法が開示されている。
【0008】
これらの方法は、廃液中に含有されている微細なSiをSiCに転換するために必要とされる量の炭素、例えば、石油コークスやカーボンブラックを廃スラリーに添加して加熱乾燥、又はその廃スラリーを遠心分離や濾過して得られた固形スラッジを加熱して切子のSiをSiC(Si+C→SiC)として回収し活用しようとするものである。しかし、これらの方法では、超微細な粒子が混在しているため、実際には遠心分離や濾過が難しく完全な固液分離による回収が困難であり、超高速回転の高価な装置や膨大な濾過面積が必要とされることでコスト高となり実用化が難しい。現状、遠心分離機又は液体サイクロンで比較的大粒径の粒子のみを分離して回収し、再利用することは可能であるが、残りの超微粉であるSiCやSiを含んだ残液は固液分離が難しく、そのまま廃棄物となっている。また、加熱コストが掛る蒸留法で固液を分離し再利用する場合でも、超微粉であるSiC及びSiは細か過ぎるため、利用価値がなく、廃棄物として処理されるのが一般的である。
【0009】
溶液や廃液を固液分離せずにそのまま加熱乾燥する方法は、大きな熱量が必要で経済的でない。仮に廃スラリー中からSiC微粒子を回収したとしても、へたりや細粒化されており、そのままの状態では、ワイヤーソー等の高度な用途には再度使用することができない。また、SiC微粒子と共に回収された切子のSi微粒子は、加熱によりカーボンと反応し、新たにSiCを生成できるが、元々回収されたSiはワイヤーソーの切子ゆえ超微粉で且つ粒度分布が広いため、生成されるSiCも微粒子で粒度分布が広くなってしまう。回収されるSiCと同様に、所要の比較的大きな粒径且つ狭い粒度分布が要求されるワイヤーソー用等には不向きな低付加価値のものであり、これらの改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−116227号公報
【特許文献2】特開2002−255532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、SiCやSiの固体微粒子を含む液から比較的大粒径の固体微粒子を分離して回収するだけでなく、その固体微粒子より小粒径である超微細な固体微粒子を効率よく固液分離し、それら全ての固体微粒子を回収する方法、及びその回収した固体微粒子におけるSiをSiCに転化すると共に、へたりや細粒化され使用困難で利用価値のないSiCを利用価値の高い粒径や粒度を有しワイヤーソー、ラッピング、ポリシング用等の高付加価値の研削材、砥粒、研磨材に利用可能で、有用なSiCとして再生する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載されたSiC及び/又はSiの固体微粒子回収方法は、SiC及び/又はSiの固体微粒子を含む液を、遠心分離又は/及び液体サイクロンにより該固体微粒子中の比較的大粒径の固体微粒子を分離して回収し、比較的小粒径の固体微粒子が残存する液を排出する第一工程と、第一工程から排出された液に、有機凝集剤を添加して該比較的小粒径の固体微粒子が凝集して形成される凝集体が含まれる液を、遠心分離又は濾過して該凝集体を回収する第二工程とを有する方法である。
【0013】
請求項2に記載された固体微粒子回収方法は、請求項1に記載されたものであって、前記有機凝集剤が下記化学式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基であり、XはCl、Br、及びFから選ばれる何れかのハロゲン化物であり、aは0〜10の数、bは1〜10の数、mは最小で3の数である)で示されるカチオン性有機凝集剤であることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載された固体微粒子回収方法は、請求項1または2に記載されたものであって、第一工程から排出された液100重量部に対して、前記有機凝集剤を0.01〜10重量部とすることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載された有用なSiCへの再生方法は、請求項1の固体微粒子回収方法により回収した前記凝集体に、炭素、又は炭素と酸化珪素とを添加して非酸化性雰囲気下で最低でも1800℃で加熱して前記SiCの平均粒径を肥大化させ、又は前記SiからSiCへ転化させることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載された有用なSiCへの再生方法は、請求項4に記載の再生方法において、炭素、又は炭素と酸化珪素とともに、B、BC、及びBから選ばれる何れかの焼結助剤を添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のSiC及び/又はSiの固体微粒子回収方法によれば、SiCやSiの固体微粒子を含む液から、効率よく固液を完全分離して、これらの超微粉である固体微粒子を回収することができる。この回収工程として第一工程と第二工程との2段階で回収することで、粒度分布が広く種々の粒径の固体微粒子が含有される液から、比較的大粒径の固体微粒子と比較的小粒径の固体微粒子とを分けて回収することができる。この回収された固体微粒子のうち、比較的大粒径の固体微粒子は、そのまま、再度リサイクルして使用することができ、比較的小粒径の固体微粒子は、再生して使用することができる。また、この固体微粒子回収方法によれば、各微粒子側の固形分と完全透明な液分とに分離することができるため、排水を汚濁せず、排水汚染の問題を生じることがない。固液分離された液体も、再度使用することができる。
【0018】
本発明の固体微粒子回収方法は、液に直接炭素を添加することで遠心分離の量や濾過量を増加させて固液分離の負担を一層大きくし効率が悪いうえ、炭素が微粒子の場合に必要量の炭素を添加するとグリースや団子状になり固液分離の操作が全く不可能になるような従来の方法に比べて、第一工程で比較的大粒径の固体微粒子を回収した後に、第二工程で比較的小粒径の固体微粒子を凝集させ固液分離するため、超高速回転や膨大な濾過面積を有するような高価な装置を使用する必要がなく、経済的であり実用化することができる。
【0019】
本発明の再生方法によれば、これらの回収された固体微粒子のうち、比較的小粒径の固体微粒子を、SiをSiCへ転化したり、微細なSiCを肥大化したりして、所望の粒径及び粒度分布を有し利用価値の高い粒子へと再生することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の好ましい形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0021】
本発明のSiC及び/又はSiの固体微粒子回収方法は、SiC粉を製造する際の分級工程で副産物として生成する目的粒径以下の不要なSiC微粒子を含んだ溶液、単結晶や多結晶のSiインゴットや成形物を研削する際の切子のSi微粒子を含有した廃液、SiCを遊離砥粒として単結晶や多結晶Siをスラリー状態でワイヤーにより切断する遊離砥粒ワイヤーソー又はダイヤモンド粒を固定したダイヤモンド固定ワイヤーソーによりウエハーや薄片を製造する際に発生するSiC微粒子やSi微粒子を含有したスラリー廃液等の懸濁液から、これまで利用が難しく廃棄物とされていたSiC微粒子やSi微粒子やこれらの混合微粉を、経済的で効率良く分離して回収する方法である。
【0022】
本発明の固体微粒子回収方法における各工程について詳細に説明する。
【0023】
この固体微粒子回収方法は、SiCやSiの固体微粒子を含む液から遠心分離や液体サイクロンにより固体微粒子中の比較的大粒径の固体微粒子を分離して回収する第一工程と、第一工程から排出された液に有機凝集剤を添加して比較的小粒径の固体微粒子が凝集して形成される凝集体が含まれる液を、遠心分離機又は濾過機で固液分離して、凝集体を回収する第二工程とを有するものである。
【0024】
第一工程では、固体主成分としてSiCやSiの固体微粒子を含む液を、遠心分離機や液体サイクロンを用いて遠心分離や分級して、固体微粒子のうち比較的大粒径の固体微粒子又はそれを含む液と、比較的小粒径の固体微粒子が残存する液とに分離する。そのうち、比較的大粒径の固体微粒子を回収して、比較的小粒径の固体微粒子が残存する液を排出する。
【0025】
比較的大粒径の固体微粒子は、その平均粒径が4〜15μmであると好ましい。この固体微粒子は、比較的粒径が大きいため、再度リサイクルして使用することができる。ここで、粒子の平均粒径とは、レーザー測定法の日機装社製マイクロトラックHRAでの平均径を言う。
【0026】
比較的大粒径の固体微粒子を遠心分離する遠心分離機としては、デカンターバケット型遠心濾過機等の遠心力が500〜3000Gの遠心力を利用した固液分離機が挙げられる。比較的大粒径の固体微粒子を分級して分離する液体サイクロンとしては、粗細固形粒子を含むスラリーを接線方向に導入し、旋回運動を利用した遠心力で粗粒子と細粒子とを分離するものが挙げられる。粗粒子は下方から濃厚スラリーとして排出され、細粒子は上方向から希釈スラリーとして排出される。第一工程は、遠心分離機や液体サイクロンにより、固形分として比較的大粒径の固体微粒子を分離してもよく、比較的大粒径の固体微粒子を含む液として分離してもよい。
【0027】
第二工程では、第一工程から排出された液である比較的小粒径の固体微粒子が残存する液に、有機凝集剤を添加して、比較的小粒径の固体微粒子を凝集して凝集体を形成する。その凝集体を含む液を遠心分離機又は濾過機により固形分である凝集体と透明な液分とに固液分離して、凝集体を回収する。
【0028】
有機凝集剤としては、例えば、ポリアクルアミド、ポリエチレンアミン、ポリエチレンイミン、各種のカチオン系の有機凝集剤等が挙げられる。特に、下記化学式(1)で示されるカチオン性有機凝集剤が効果的である。
【0029】
【化2】

式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基であり、XはCl、Br、及びFから選ばれる何れかのハロゲン化物であり、aは0〜10の数、bは1〜10の数、mは3以上の数である。
【0030】
これらの有機凝集剤は、無機凝集剤と異なり、後述する粒子の再生において、Si微粒子からSiCへの転化やSiC微粒子の肥大化の際に加熱分解して炭素になるため、無機凝集剤のように残存して不純物とならず、再生における反応原料の一部となり好適である。
【0031】
有機凝集剤の添加量は、第一工程から排出された液100重量部に対して0.01〜10重量部であると好ましい。
【0032】
第一工程から排出された液に残存する比較的小粒径の固体微粒子(0.1〜5μm程度)が凝集して回収される凝集体の平均粒径は、3〜15μmであると好ましい。3μmより小さいと効率よく分離して回収することが困難となる。この比較的小粒径の固体微粒子は、割れやへたりを有していたり、磨耗や細粒化されており、再利用が困難で利用価値が無いものである。そこで、回収された凝集体に、炭素、又は炭素と酸化珪素とを添加して1800℃以上で加熱することで、利用価値が無いとされる比較的小粒径の固体微粒子から、利用価値が高く比較的大きな粒径を有し、それら粒子の粒度分布が狭い有用なSiCへと再生することができる。
【0033】
本発明の有用なSiCへの再生方法は、比較的小粒径の固体微粒子を凝集して回収した凝集体に、炭素、又は炭素及び酸化珪素、さらに必要に応じて焼結助剤を添加した後、1800℃以上で加熱反応させることで、比較的小粒径の固体微粒子におけるSiCを肥大化させ、またSiからSiCへ転化させて、これら固体微粒子を再生する方法である。ここで、再生とは、微細化されているSiCが粒成長により肥大化して利用価値の高いSiCとなること、またSiから新たにSiCが生成すること、その新たに生成したSiCが粒成長により肥大化し利用価値の高いSiCとなることである。これらの再生されるSiCはαSiCであると好ましい。
【0034】
加熱反応させる温度は、1800℃以上の高温であると、残存するSiCやSiである反応物がαSiCに結晶転移するため好ましく、1800℃未満であると反応物を完全にαSiCに結晶転移するのが困難である。
【0035】
添加される炭素は、SiCとなる反応原料の一部として機能するものであって、残存するSiCを肥大化させる原料、新たにSiCを生成する原料、その新たに生成されるSiCを成長させ肥大化させる原料となるものである。さらにこの炭素は、SiCの反応原料となるだけでなく、反応し易い環境即ち反応の場として機能し、反応速度や生成するSiCの収率に影響を与える。従って、炭素は粉末や粉体であると好ましく、その粒径は100μm以下であると好ましい。粒径が余り大きいと反応速度が遅くなると共に生成するSiCの収率が低下するため経済的ではない。
【0036】
炭素の添加量は、回収された凝集体の組成により変化する。炭素の添加量は、凝集体におけるSiの1.0モルに対して、1.0〜1.5モルであると好ましい。
【0037】
添加される酸化珪素は、前記の炭素と異なり、生成するSiCの収率に殆ど影響を与えない。しかし、その粒径が余り大き過ぎると反応速度が遅くなるため、得策ではない。酸化珪素は粉末や粉体であると好ましく、その粒径は200μm以下であると好ましい。
【0038】
炭素と酸化珪素とが添加される場合、炭素のみが添加される場合と同様で、共に、残存するSiCを肥大化させる原料、新たにSiCを生成する原料、その新たに生成されるSiCを成長させ肥大化させる原料となる。
【0039】
炭素及び酸化珪素の添加量は、回収された凝集体の組成により変化する。炭素及び酸化珪素の添加量は、凝集体におけるSiC及び/又はSiの1.0モルに対して、0.1〜10モルであると好ましい。0.1モル未満の場合、残存するSiCの肥大化が不十分であったり、新たに生成されるSiCの粒径が極めて微小であったり、実用的なSiCを得ることができない。また、10モル以上の場合、必要量に対して過剰となるため、反応後にその過剰分を除去する工程が必要になると共に必要以上に粒径が大きくなり過ぎる。炭素及び酸化珪素の混合比率は、炭素:酸化珪素=3〜4:1であると好ましい。
【0040】
必要に応じて添加される焼結助剤は、凝集体に、少なくとも炭素、又は炭素及び酸化珪素と共に混合して添加される。焼結助剤としては、一般的に用いられるSiCの焼結助剤を用いることができるが、B、BC、及びBから選ばれる少なくとも一種であると焼結促進効果が高く好ましい。
【0041】
これらの工程により再生され回収されるSiCは、その用途に応じた最適な粒径や粒度分布に調整することができる。例えば、ワイヤーソースラリーにおけるSiCとSiとの混合微粉中、SiCの平均粒径が1μm未満まで過度に使用されると切断速度が落ち、生産性が悪くなるため、新しいスラリーと交換される。また平均粒径が20μm以上であると大きな研削傷や切断ロスを多く発生させ易いので通常は用いられない。従って、再生化されたSiCの平均粒径は、1〜20μmであると好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
アチソン法で製造したαSiCを平均粒径18μmに粉砕した後、水分級で粗めと細かめとにカットした。粗めにカットしたαSiCは再度、粉砕原料として回した。
第一工程として、平均粒径10μm以下の細かめにカットしたαSiCの水溶液を、CMS社製の縦型固液分離装置で1000〜2000Gで遠心分離し、2μm以上の粒子である比較的大粒径の固体微粒子を分離し、回収した。
第二工程として、第一工程から排出された液であって、2μm未満の微粒子を多く含有している溶液に、ポリエチレンイミン凝集剤をその溶液100重量部に対して1重量部を添加し、溶液中の固形分を凝集させた。その後、この溶液をエクセルフィルターで濾過をした。固液分離は微粉が凝集しているため、濾過は容易で濾過速度も速く、濾過液は微粉の混入もなく透明であり、回収された濾過液はリサイクル可能であった。
回収された固形分である凝集体を乾燥し、この乾燥固形分400Kgに平均粒径80μm、比表面積393m/gの木炭粉48Kgと、平均粒径120μmのシリカ粉70Kgとをよく混合して再生における反応原料とした。これを、1850℃に温度制御したプッシャー炉でArガスの流通下において、容器に入れた反応原料を移動させながら加熱反応させた。得られた反応生成物は、完全にαSiCの結晶であった。さらに大気中、750℃で過剰な炭素を除去した。その結果、平均粒径2μm未満でこれまで使用することができなかった細かめ部分のαSiC微粉は平均粒径9.5μmのαSiCとして、肥大化(粒成長)して再生、回収され有用なSiC粉となった。このSiC粉はワイヤーソー用の砥粒として好適なものであった。
【0044】
(比較例1)
有機凝集剤を添加しないこと以外は実施例1と同様の条件、方法で回収を行ったところ、微粉のSiCで濾布が目詰まりし、固液分離が困難となった。さらに、わずかに流出した濾液は混濁して濾液に超微粉のSiCが含まれており、完全な固液分離がなされていなかった。
【0045】
(実施例2)
第一工程として、ワイヤーソー廃液(固形成分;αSiC:30重量%、Si:4.1重量%、Fe:0.9重量%、溶液成分;エチレングリコール+界面活性剤+水混合物65重量%)から、CMS社製の縦型固液分離装置で1000〜2000Gで遠心分離し、10μm以上の比較的粗い粒子である比較的大粒径の固体微粒子を分離して回収した。
第二工程として、第一工程から排出された液100重量部に対して、下記化学式(1)で示され、R=メチル基、R=アルキル基、X=ハロゲン化物、a=1、b=5、m=5、であるカチオン性有機凝集剤0.02重量部を、第一工程から排出された液に添加し、固形分を凝集させた後、加圧濾過機を用いて3kg/cmの圧力で加圧濾過し、固液分離した。この分離した濾液は透明であった。この濾液はワイヤーソー装置にリサイクル可能であった。
回収された固形分である凝集体を乾燥した後、この乾燥固形分350kgに平均粒径15μmに粉砕した比表面積50m/gのコークス76kgと、平均粒径50μmのシリカ粉50kgとを添加し混合して、再生における反応原料とした。これを1900℃のロータリー炉でArガス流通下において、加熱反応させた。得られた反応物生成物は、100%のαSiCで平均粒径8μmであり、これは使用前のSiC砥粒の平均粒径8.5μmとほぼ同じに再生することができた。なお、再生前の廃液中のSiCは平均粒径4μmでかなりくたびれ、へたったものであった。
【0046】
(実施例2−1)
シリカ粉を添加しないこと以外は実施例2と同様の条件、方法で再生、回収を行った。細粒化したSiCの粒径は肥大化(粒成長)せず、殆ど平均粒径6μmそのままであり、切子のSi微粉とコークスとの反応で生成した新たなSiCの平均粒径は1μmで2つのピークを示す広い粒度分布であった。ワイヤーソー等の高度な用途には不向きなものであった。
【0047】
(実施例3)
第一工程として、単結晶Siインゴットを円筒研削した際の切子のSi微粒子を含有した廃液を、遠心分離機を用いて1000〜2000Gで遠心分離し、2μm以上の粒子である比較的大粒径の固体微粒子を分離して回収した。
第二工程として、第一工程から排出された液である分離後の残液100重量部に対して、前記化学式(1)で示され、R=メチル基、R=アルキル基、X=ハロゲン化物、a=8、b=9、m=20であるカチオン性有機凝集剤の7重量部を、残液に添加し、微粉を一括、凝集させた後に遠心分離機で、500〜1000Gで遠心分離し2μm未満の超微粒子の固液分離を行った。超微粉は凝集しているため、固液はよく分離し、分離液は無色透明であり、そのまま排水可能であった。
回収された固形分である凝集体を乾燥し、その乾燥固形分253Kg(切子、平均粒径1.1μmのSi微粒子を25.3重量%、微量のアミン系防錆材を含有)に、平均粒径32μm、比表面積695m/gの活性炭124Kgと、平均粒径170μmの石英粉25Kgとを加え、よく混合して再生における反応原料とした。これを実施例1と同じプシャー式反応炉で1950℃に温度制御し、Arガスの流通下において、容器に入れた反応原料を40分毎に各ゾーンを移動させながら加熱反応させた。反応物生成物は完全にαSiC化していた。さらに大気中、750℃で過剰な炭素を除去した。その結果、平均粒径1μm未満の超微粉のSi切子は平均粒径7.5μmのαSiCとして回収され、有効資源化された。この回収されたαSiCは、ラップ研磨用砥粒やSiC成形原料用に好適な利用価値の高いものであった。
【0048】
(比較例2)
カチオン性有機凝集剤の代わりに、アニオン系凝集剤(アクリルアミドアクリル酸ソーダ共重合体)又はノニオン系凝集剤(アクリルアミド共重合体)を、それぞれ添加したこと以外は実施例3と同様の条件、方法で回収を行った。何れの場合もよく凝集せず、その後の遠心分離や濾過での固液の分離も上手くできずに濾過液中に固形分が多く流出してしまった。
【0049】
(実施例4)
実施例3においてプシャー式反応炉に入れる前の反応原料に、5重量%のBCを添加し混合した。その後の反応及び除炭も実施例3と同一条件で行った。その結果、平均粒子径が12μmのαSiCとして再生され、ワイヤーソー用の砥粒として有効なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のSiC及び/又はSiの固体微粒子回収方法は、SiC粉の製造において副産物として生成する目的粒径以下の不要なSiC微粒子を含んだ溶液、Siインゴットや成形物を研削する際の切子のSi微粒子を含有した廃液、ワイヤーソースラリー廃液などの処理として、含有される微細なSiCやSiである固形分と液分とを分離、さらにその固形分である各固体微粒子の回収に用いられる。
【0051】
この固体微粒子回収方法により回収された各固体微粒子は、不要な粒径とされたSiC微粒子、循環使用で消耗してへたりや微細化したSiC微粒子、切子のSi微粒子から、用途に応じた最適な粒径や粒度分布を有する利用価値の高いSiCに再生することができる。これらは、ワイヤーソー、ラッピング、ポリシング用等の高付加価値の研削材、砥粒、研磨材として利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC及び/又はSiの固体微粒子を含む液を、遠心分離又は/及び液体サイクロンにより該固体微粒子中の比較的大粒径の固体微粒子を分離して回収し、比較的小粒径の固体微粒子が残存する液を排出する第一工程と、
第一工程から排出された液に、有機凝集剤を添加して該比較的小粒径の固体微粒子が凝集して形成される凝集体が含まれる液を、遠心分離又は濾過して該凝集体を回収する第二工程とを有する、SiC及び/又はSiの固体微粒子回収方法。
【請求項2】
前記有機凝集剤が下記化学式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基であり、XはCl、Br、及びFから選ばれる何れかのハロゲン化物であり、aは0〜10の数、bは1〜10の数、mは最小で3の数である)
で示されるカチオン性有機凝集剤であることを特徴とする請求項1に記載の固体微粒子回収方法。
【請求項3】
第一工程から排出された液100重量部に対して、前記有機凝集剤を0.01〜10重量部とすることを特徴とする請求項1または2に記載の固体微粒子回収方法。
【請求項4】
請求項1の固体微粒子回収方法により回収した前記凝集体に、炭素、又は炭素と酸化珪素とを添加して非酸化性雰囲気下で最低でも1800℃で加熱して前記SiCの平均粒径を肥大化させ、又は前記SiからSiCへ転化させることを特徴とする有用なSiCへの再生方法。
【請求項5】
請求項4に記載の再生方法において、炭素、又は炭素と酸化珪素とともに、B、BC、及びBから選ばれる何れかの焼結助剤を添加することを特徴とする有用なSiCへの再生方法。

【公開番号】特開2013−66871(P2013−66871A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208967(P2011−208967)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【出願人】(595073432)信濃電気製錬株式会社 (10)
【Fターム(参考)】