説明

固体撮像素子パッケージ用カバーガラス

【課題】樹脂製の固体撮像素子パッケージに好適なカバーガラスを提供すること。
【解決手段】質量%で、SiO 35〜57%、Al 6〜23%、B 0〜20%、LiO 0〜10%、NaO 0〜25%、KO 0〜10%、ただし、LiO+NaO+KO 15〜40%、MgO+CaO+SrO+ZnO 0〜30%、を含有し、実質的にAs、Sb、SnOを含有しないことを特徴とする固体撮像素子パッケージ用カバーガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体撮像素子を収納する樹脂製パッケージの前面に取り付けられ、固体撮像素子を保護すると共に透光窓として使用される固体撮像素子パッケージ用カバーガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子は、受光素子であるLSIチップをパッケージ内に納め、その受光面に色分解モザイクフィルターを重ねてワイヤボンディングし、パッケージ開口部にカバーガラスを接着剤により封着した構造となっている。ここで用いられるカバーガラスは、パッケージとの気密封着によりLSIチップを保護するだけではなく受光面へ効率的に光を導入するため、内部欠陥の少ない光学的に均質な材料特性、高い透過率特性が要求される。また、このような用途に使用されるガラスは、パッケージと封着された時に割れや歪みが発生してはならない。すなわち、ガラスとパッケージ材質との熱膨張係数を適合させる必要がある。パッケージ材質としては、平均熱膨張係数が60〜75×10−7−1のアルミナなどのセラミックが従来より用いられており、これに適合するカバーガラスとして平均熱膨張係数が45〜75×10−7−1のホウケイ酸塩ガラスがある。
【0003】
近年、デジタルカメラ等の撮像装置における軽量化やコストダウンを目的として、パッケージ材質の樹脂化が検討されている。樹脂材の平均熱膨張係数は110〜180×10−7−1とセラミックよりも大きい。また、樹脂中にSiO粉末を多量に含ませるなどして熱膨張係数を下げた樹脂製パッケージもあるが、そのようなものを含めても樹脂製パッケージの平均熱膨張係数はおおよそ95×10−7−1以上である。そのため、従来のホウケイ酸塩ガラスを樹脂製パッケージに用いると両者の熱膨張係数が大きく相違することに起因して、パッケージの変形やカバーガラスのハガレが発生するおそれがあった。
【0004】
これに対し、樹脂製パッケージに好適なカバーガラスとして、フツリン酸ガラスが提案されている(特許文献1)。このガラスは、100〜300℃における平均線膨張係数が120〜180×10−7/℃であるフツリン酸ガラスであり、これにより樹脂製パッケージへの装着性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−353718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、固体撮像素子をパッケージに実装する工程として、リフロー方式を採用することが多くなってきている。リフローは、パッケージ内の所定の位置にハンダペーストを印刷した後、その上に部品を載せてからパッケージ全体を180〜250℃付近の温度(使用するハンダペーストの種類によって異なる)まで加熱し、ハンダペーストを溶融することでハンダ付けを行う工程である。この際、カバーガラスをパッケージに貼り付け、パッケージ内を気密封着した後、パッケージ全体を加熱するため、パッケージ内の気体が膨張してパッケージの内圧が上がる。この内圧は、パッケージとカバーガラスに均等にかかるが、カバーガラスは通常0.5mm程度の板厚の薄い板が使用されるため、内圧による負荷が大きく、変形して割れるおそれがある。
上記特許文献1に記載のフツリン酸ガラスは、光学ガラスに用いられる他のガラス組成系と比べてガラスの強度が低く、光学研磨を行うと端部に微小な欠けを生じる割合が高い。そのため、ガラスに外力が作用した際に、この端部を起点に破損するといった強度上の問題が懸念されている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、樹脂製パッケージの気密封着に好適に用いることができ、リフロー工程においても破損し難い強度を有する固体撮像素子パッケージ用カバーガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、特定の組成範囲のケイ酸塩ガラスが、樹脂製パッケージのカバーガラスとして上記の諸課題を解決し得ることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の固体撮像素子パッケージ用カバーガラスは、
質量%で、
SiO 35〜57%、
Al 6〜23%、
0〜20%、
LiO 0〜10%、
NaO 0〜25%、
O 0〜10%、
ただし、LiO+NaO+KO 15〜40%、
MgO+CaO+SrO+ZnO 0〜30%
を含有し、
As、Sb、SnOを実質的に含有しないことを特徴とする。
【0010】
本発明の固体撮像素子パッケージ用カバーガラスは、50〜250℃の平均熱膨張係数が100〜140×10−7−1であり、樹脂製のパッケージに取り付けられることが好ましい。
【0011】
本発明の固体撮像素子パッケージ用カバーガラスは、ヤング率が74GPa以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂製パッケージの気密封着に好適に用いることができ、かつリフロー工程などで外力が作用しても破損し難い強度を有する固体撮像素子パッケージ用カバーガラスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の固体撮像素子パッケージ用カバーガラスが取り付けられる樹脂製パッケージとしては、特に制限なく各種の樹脂材を用いることができる。具体的には、エポキシ樹脂、イミド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂やポリフェニレンサルファイド樹脂やポリスルホン樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができ、これら樹脂材に硬化剤や離型剤、充填剤などを適宜配合することも可能である。
【0014】
これら樹脂材からなるパッケージの平均熱膨張係数は、95〜180×10−7−1であり、これらパッケージにカバーガラスを封着した際に割れや歪みが生じないよう、カバーガラスの平均熱膨張係数は、前述の樹脂材の平均熱膨張係数と類似する必要がある。本発明のカバーガラスは、50〜250℃の平均熱膨張係数が100〜140×10−7−1であるため、樹脂材の平均熱膨張係数と類似しており、樹脂材のパッケージに取り付けた場合に割れや歪みが発生することなく気密封着することができる。
【0015】
次に、本発明のカバーガラスを構成する各成分の含有量(質量%)を上記のように限定した理由を以下に説明する。
【0016】
SiOは、ガラスの網目構造を形成する主成分であるが、35%未満ではガラスの耐候性が悪くなり、57%を超えると溶解性が低下し、ガラス化し難くなる。好ましい範囲は40〜50%である。
【0017】
Alは、ガラスの耐候性、ヤング率を向上させる成分であるが、6%未満ではその効果は得られず、23%を超えると失透性が強くなり、ガラス化が困難となる。好ましい範囲は10〜20%である。
【0018】
は、ガラスの構造を補強し、ガラス化を容易にする成分であるが、20%を超えると耐候性が低下する。好ましい範囲は15%以下である。
【0019】
LiO、NaO、KOは、溶解性を向上させ、平均熱膨張係数を主に調整する成分である。LiOは、10%を超えると耐候性が低下する。好ましい範囲は9.5%以下である。NaOは、25%を超えると耐候性が低下する。好ましい範囲は20%以下である。KOは、10%を超えると耐候性が低下する。好ましい範囲は7%以下である。LiO、NaO、KOの合量は、15%未満および40%を超えると所望の平均熱膨張係数が得られない。好ましい範囲は20〜35%である。また、ヤング率を向上させる効果は、LiO>NaO>KOの順であり、LiOを上記範囲内で多く含有させることが望ましい。
【0020】
MgO、CaO、SrO、ZnOは、溶解性を向上させる成分であるが、これらの合量が30%を超えると失透傾向が強まる。好ましい範囲は20%以下である。
【0021】
As、Sbは、環境負荷物質であり、本発明のカバーガラスを構成する成分としては実質的に含有しない。
SnOは、ガラスの溶融工程において溶解槽に白金を使用する場合、白金に対してダメージを与えるため、本発明のカバーガラスを構成する成分としては実質的に含有しない。
なお、実質的に含有しないとは、原料として意図して用いないことを意味しており、原料成分や製造工程から混入する不可避不純物については実質的に含有していないとみなす。また、前記不可避不純物を考慮し、実質的に含有しないこととは含有量が0.1%以下であることを意味する。
【0022】
本発明の固体撮像素子用カバーガラスは、50〜250℃の平均熱膨張係数が100〜140×10−7−1であることが好ましい。これにより、樹脂製パッケージと貼り合わせても、パッケージの変形やカバーガラスの剥がれが発生し難い。また、本発明の固体撮像素子用カバーガラスは、ヤング率が74GPa以上であることが好ましく、80GPa以上がより好ましい。これにより、固体撮像素子用パッケージの組立工程において、パッケージにカバーガラスが気密封着された状態でリフロー工程され、パッケージ内の内圧がカバーガラスに負荷された場合でも、カバーガラスの変形が小さいため、割れが発生し難い。
【0023】
本発明のガラスは、次のようにして作製することができる。まず得られるガラスが上記組成範囲となるように原料を秤量、混合する。この原料混合物を白金ルツボに収容し、電気炉内において1200〜1400℃の温度で加熱溶解する。十分に撹拌・清澄した後、金型内に鋳込み、徐冷した後、切断・研磨して平板状カバーガラスを得る。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例および比較例を表1〜表3に示す。表中、例1〜例21が本発明の実施例であり、例22〜例24が比較例である。なお、表中のガラス組成は質量%で示す。
【0025】
これらガラスは、表に示す組成となるよう原料を秤量・混合し、内容積約300ccの白金ルツボ内に入れて、1200〜1400℃で1〜3時間溶融、清澄、撹拌後、およそ300〜500℃に予熱した所定サイズのモールドに鋳込み後、約1℃/分で徐冷してサンプルとした。ガラスは、サンプル作製時に目視で観察し、泡や脈理のないことを確認した。ヤング率、強度試験(リフロー工程を想定)、平均熱膨張係数について、以下の方法により測定、評価を行った。
【0026】
ヤング率は、長さ90mm、幅20mm、厚さ2mmの試験片を作成し、JIS R 1602 ファインセラミックスの弾性率試験方法の動的弾性率試験方法 (1)曲げ共振法に準拠して測定した。
【0027】
強度試験(リフロー工程を想定)は、次のように行った。溶融、成形されたガラスについて両面光学研磨を行い、長さ35mm、幅30mm、板厚0.5mmの矩形上基板とした。そして、エポキシ樹脂からなるパッケージの開口部であり、カバーガラスが当接する部分にディスペンサーを用いて紫外線硬化型樹脂を塗布した。次に、パッケージの開口部に実施例もしくは比較例のカバーガラスを載置し、カバーガラスのパッケージに対抗する面の反対側から紫外線ランプにより紫外線を照射して紫外線硬化型接着剤を硬化させ、カバーガラスをパッケージに接着(気密封着)した。このパッケージを加熱装置に入れ、150℃まで3分で昇温し、150℃で1分間保持、230℃まで30秒で昇温し、230℃で10秒保持した後、室温まで冷却し、この加熱・冷却プロセスにおいてカバーガラスの割れの発生有無を観察した。
【0028】
平均熱膨張係数は、得られたガラスを棒状に加工し、熱分析装置(リガク社製、装置名:TMA8310)で熱膨張法により、昇温速度5℃/分で測定した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
表1ないし表3の結果から明らかなように、実施例のガラスはリフロー工程を模した強度評価において、パッケージに貼り付けたカバーガラスに割れが発生することなく、変形に対する強度が高いことがわかる。また、実施例のガラスは、平均熱膨張係数が100〜140×10−7−1であり、樹脂製パッケージの熱膨張係数と近いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように、本発明のガラスは、平均熱膨張係数が100〜140×10−7−1であり、樹脂製パッケージと貼り合わせた場合に熱膨張係数の差による剥がれや変形が発生しない。かつ、ヤング率が74GPa以上であり、リフロー工程においても割れが発生せず、固体撮像素子パッケージ用カバーガラスとして極めて有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
SiO 35〜57%、
Al 6〜23%、
0〜20%、
LiO 0〜10%、
NaO 0〜25%、
O 0〜10%、
ただし、LiO+NaO+KO 15〜40%、
MgO+CaO+SrO+ZnO 0〜30%、
を含有し、実質的にAs、Sb、SnOを含有しないことを特徴とする固体撮像素子パッケージ用カバーガラス。
【請求項2】
50〜250℃の平均熱膨張係数が100〜140×10−7−1であり、樹脂製のパッケージに取り付けられることを特徴とする請求項1記載の固体撮像素子パッケージ用カバーガラス。
【請求項3】
ヤング率が74GPa以上であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の固体撮像素子パッケージ用カバーガラス。

【公開番号】特開2011−230942(P2011−230942A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101063(P2010−101063)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】