固体支持体上の生体分子を質量分析する方法およびそのための固体支持体
【課題】 多数の試料を迅速に分析する手段を提供し、核酸およびタンパク質等の生体分子の分析を迅速に実施する方法を提供する。また、高分子量の生体分子を分析する方法を提供する。
【解決手段】 生体分子を分析する方法であって、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化すること、固体支持体上の生体分子を酵素で分解すること、および得られた分解物を質量分析することを含む前記方法。
【解決手段】 生体分子を分析する方法であって、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化すること、固体支持体上の生体分子を酵素で分解すること、および得られた分解物を質量分析することを含む前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸およびタンパク質等の生体分子を質量分析することにより分析および解析する方法、およびそのための固体支持体およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチド、タンパク質、核酸および糖鎖など生体分子の多くは比較的少数の構成単位が一定の規則で重合してできている。例えば、ペプチドやタンパク質は20種のL-α-アミノ酸がペプチド結合でつながった分子である。これらの構成単位の分子の構造は既にほとんどが明らかになっており、当然、それらの正確な分子量も明らかとなっている。従って、生体分子やその断片の分子量を正確に測定できれば、その構造(配列など)や生体内で受ける様々な修飾反応の解析に大きく寄与しうることから、質量分析法は核酸およびタンパク質等の生体分子の構造解析に欠かせない手段として位置づけられている。質量分析法では、質量分析装置(MS)を用いて生体分子をイオン化し、得られたイオンを質量電荷比(m/z値)に従って分離し、その強度を測定することにより、質量を決定する。
【0003】
質量分析による生体分子の構造解析/決定には、分析対象を多数の成分に分離精製し、さらに個々の成分を制限酵素で断片化したものを分析する必要があり、非常に多数の試料を分析しなければならない。また、DNA診断においては、多数の人間から得た試料を迅速に処理する必要がある。
【0004】
それに対し市販されている一般的な質量分析装置は、精製したそれぞれの試料をサンプルボードに配置し、これを1個ずつ質量分析していくものである。すなわちサンプリングした試料を1種類ずつ分析していく必要があった。従って、未精製の試料を電気泳動により分離した場合は、泳動後のゲルをバンドごとに切り出してそれぞれ精製してから1種類ずつ質量分析する必要があり、多数の試料を迅速に分析することは非常に困難であった。
【0005】
また、従来の質量分析装置では、分析できる生体分子の分子量に制限があり、高分子量のタンパク質を解析するのは困難であった。そのため、例えばタンパク質を特定のプロテアーゼで分解し、得られたペプチド断片を質量分析し、得られたデータと公知の断片データとを比較することによりペプチドを同定する方法が知られている。
【0006】
しかし、従来の質量分析法では、高分子量の生体分子を分析するためには、試料を精製した後さらにこれを酵素分解し、得られた分解物を1種類ずつ質量分析する必要があり、生体分子の迅速な分析にはさらなる問題があった。
【0007】
電気泳動した生体分子をゲルからニトロセルロース等のメンブレン上に転写してこれを分析する方法も知られているが、メンブレン上の分析においては、抗原抗体反応や核酸ハイブリダイゼーションを利用した蛍光検出等に限られる。なぜなら、従来使用されているニトロセルロースやPVDF等のメンブレンに、例えばレーザを照射するとメンブレン自体の分解が起きる可能性が高く、上記メンブレンから生体分子を直接イオン化することが困難だからである。すなわち、これらのメンブレン上に転写された生体分子をそのまま質量分析装置で分析することは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、多数の試料を迅速に分析する手段を提供し、核酸およびタンパク質等の生体分子の分析を迅速に実施する方法を提供することである。また、高分子量の生体分子を分析する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、固体支持体に固定化した生体分子を酵素分解し、これを質量分析することにより、高分子量の生体分子であっても効率的に分析できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)生体分子を分析する方法であって、
試料中の生体分子を固体支持体上に固定化すること、固体支持体上の生体分子を酵素で分解すること、および得られた分解物を質量分析することを含む前記方法。
(2)試料中の生体分子をゲル電気泳動で分離し、ゲル中に分離された生体分子を固体支持体上に転写することにより、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化する(1)記載の方法。
【0011】
(3)試料中の生体分子をゲル電気泳動で分離し、ゲル中に分離された生体分子をメンブレン上に転写し、該メンブレン上に転写された生体分子を固体支持体上に転写することにより、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化する(1)記載の方法。
(4)固体支持体が表面にカーボン層を有するものである(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0012】
(5)カーボン層が、ダイヤモンドライクカーボン層である(4)記載の方法。
(6)カーボン層が化学修飾されているものである(4)または(5)記載の方法。
(7)固体支持体上の生体分子にさらなる生体分子を相互作用させることをさらに含み、固体支持体上の生体分子および/または相互作用した生体分子を酵素で分解すること、ならびに得られた分解物を質量分析することを含む(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
【0013】
(8)生体分子がペプチドであり、酵素がプロテアーゼである(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)質量分析を、レーザ脱離/イオン化−飛行時間型質量分析によって行う(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載の方法において使用するための表面にカーボン層を有する固体支持体。
(11)(1)〜(9)のいずれかに記載の方法において使用するためのキットであって、表面にカーボン層を有する固体支持体および酵素を含む前記キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、生体分子の分析を迅速に実施することができる。また、高分子量の生体分子をも迅速に分析することができる。
【0015】
従って、本発明は、核酸およびタンパク質等の生体分子の解析において非常に有用な手段となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において、分析の対象となる生体分子は生体に由来する分子であり、特に制限されないが、核酸、ペプチドおよび糖鎖、ならびにこれらの誘導体などが含まれる。本明細書において、核酸にはDNAおよびRNAが含まれる。本明細書においてペプチドには、オリゴペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質ならびにそれらの複合体が含まれる。ペプチド誘導体としては、その他のペプチドと融合した融合ペプチド、ポリエチレングリコールなどのポリマーに結合させた化学修飾ペプチド、および翻訳後修飾されたペプチドなどが含まれる。ペプチドの翻訳後修飾としては、リン酸化、アセチル化、メチル化、ミリストイル化、グリコシル化、アミド化およびユビキチン化などが挙げられる。本発明は、高分子量の生体分子、特に高分子量のペプチドの分析に好適である。
【0017】
本発明において好適な生体分子の分子量は、通常5〜200kDa、好ましくは5〜100kDaである。
【0018】
これらの生体分子を含む分析対象となる試料としては、特に制限されないが、細胞抽出物、菌体抽出物、無細胞系合成産物、PCR(Polymerase chain reaction)産物、酵素処理産物、合成DNA、合成RNA、合成ペプチド等が挙げられる。
【0019】
生体分子を固定化するための固体支持体は、分析対象となる生体分子を固定化できるものであれば特に制限されず、公知のものを使用でき、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデン、クロム、白金、チタン、ニッケル等の金属;ステンレス、ハステロイ、インコネル、モネル、ジュラルミン等の合金;上記金属とセラミックスとの積層体;ガラス;シリコン;繊維;木材;紙;ポリカーボネート、フッ素樹脂等のプラスチック等からなるものが挙げられる。
【0020】
本発明においては、基板の表面にカーボン層を有する固体支持体を用いるのが好ましい。さらに、カーボン層に特定の化学修飾を施したものが好ましい。特定の化学修飾を施すことにより分析対象となる生体分子を保持しやすくなり、また安定に固定化できるからである。
【0021】
本発明において基板とはカーボン層を形成させるもととなる基材を意味し、このような基材としては、特に制限されないが、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデン、クロム、白金、チタン、ニッケル等の金属;ステンレス、ハステロイ、インコネル、モネル、ジュラルミン等の合金;上記金属とセラミックスとの積層体;ガラス;シリコン;繊維;木材;紙;ポリカーボネート、フッ素樹脂等のプラスチック;およびプラスチックと上記金属、セラミックス、ダイヤモンド等との混合体を挙げることができる。ガラスまたはプラスチック等の表面にプラチナ、チタン等からなる金属層を形成させたものを使用することもできる。金属層の形成は、スパッタリング、真空蒸着、イオンビーム蒸着、電気めっき、無電解めっき等により実施することができる。
【0022】
固定化された生体分子について、レーザ脱離/イオン化−飛行時間型質量分析等によって質量分析を行う場合、固体支持体に高電圧がかかるため、基板は導電性を有するもの、例えば、ステンレス、アルミニウム、チタン等の金属が好ましい。
【0023】
本発明において基板上に形成させるカーボン層としては、特に制限されないが、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、無定形炭素、グラファイト、炭化ハフニウム、炭化ニオブ、炭化珪素、炭化タンタル、炭化トリウム、炭化チタン、炭化ウラン、炭化タングステン、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、炭化クロムまたは炭化バナジウム等からなる層を挙げることができ、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層が好ましい。カーボン層は、化学的安定性に優れておりその後の化学修飾や分析対象物質との結合における反応に耐えることができる点、分析対象物質と静電結合によって結合するためその結合が柔軟性を持っている点、UV吸収がないため検出系UVに対して透明性である点、およびエレクトロブロッティングの際に通電可能な点において有利である。また、分析対象物質との結合反応において、非特異的吸着が少ない点においても有利である。
【0024】
本発明においてカーボン層の形成は公知の方法で行うことができる。例えば、マイクロ波プラズマCVD(Chemical vapor deposit)法、ECRCVD(Electric cyclotron resonance chemical vapor deposit)法、ICP(Inductive coupled plasma)法、直流スパッタリング法、ECR(Electric cyclotron resonance)スパッタリング法、イオン化蒸着法、アーク式蒸着法、レーザ蒸着法、EB(Electron beam)蒸着法、抵抗加熱蒸着法などが挙げられる。
【0025】
高周波プラズマCVD法では、高周波によって電極間に生じるグロー放電により原料ガス(メタン)を分解し、基板上にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)層を合成する。イオン化蒸着法では、タングステンフィラメントで生成される熱電子を利用して、原料ガス(ベンゼン)を分解・イオン化し、バイアス電圧によって基板上にカーボン層を形成する。水素ガス1〜99体積%と残りメタンガス99〜1体積%からなる混合ガス中で、イオン化蒸着法によりDLC層を形成してもよい。
【0026】
アーク式蒸着法では、固体のグラファイト材料(陰極蒸発源)と真空容器(陽極)の間に直流電圧を印加することにより真空中でアーク放電を起こして陰極から炭素原子のプラズマを発生させ蒸発源よりもさらに負のバイアス電圧を基板に印加することにより基板に向かってプラズマ中の炭素イオンを加速しカーボン層を形成することができる。
【0027】
レーザ蒸着法では、例えばNd:YAGレーザ(パルス発振)光をグラファイトのターゲット板に照射して溶融させ、ガラス基板上に炭素原子を堆積させることによりカーボン層を形成することができる。
【0028】
本発明の固体支持体表面のカーボン層の厚さは、通常、単分子層〜100μm程度であり、薄すぎると下地基板の表面が局部的に露出する可能性があり、逆に厚くなると生産性が悪くなるので、好ましくは2nm〜1μm、より好ましくは5nm〜500nmである。なお、固体支持体のすべてが炭素材料で構成されていてもよい。
【0029】
質量分析を行うため、本発明の固体支持体の形状は平板状であることが好ましい。そのサイズは、特に制限されないが、通常は、幅10〜200mm×長さ10〜200mm×厚み0.1〜20mm程度である。
【0030】
生体分子を固定化するためには、カーボン層が形成された基板の表面を化学修飾することが好ましい。このような化学修飾は、当業者であれば適宜選択することができ、特に制限されないが、例えば、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ホルミル基、ヒドロキシル基および活性化エステル基を導入することが挙げられる。また、ニッケルキレート、コバルトキレート等の金属キレートを導入することも有効である。
【0031】
アミノ基の導入は、例えば、カーボン層をアンモニアガス中で紫外線照射することにより実施できる。または、カーボン層を塩素ガス中で紫外線を照射して塩素化し、さらにアンモニアガス中で紫外線照射することにより実施できる。または、メチレンジアミン、エチレンジアミンで等の多価アミン類ガスを、塩素化したカーボン層と反応させることによって実施することもできる。
【0032】
カルボキシル基の導入は、例えば、上記のようにアミノ化したカーボン層に適当な多価カルボン酸を反応させることにより実施できる。
【0033】
エポキシ基の導入は、例えば、上記のようにアミノ化したカーボン層に適当な多価エポキシ化合物を反応させることによって実施できる。あるいは、カーボン層が含有する炭素=炭素2重結合に有機過酸を反応させることにより得ることができる。有機過酸としては、過酢酸、過安息香酸、ジペルオキシフタル酸、過ギ酸、トリフルオロ過酢酸などが挙げられる。
【0034】
ホルミル基の導入は、例えば、上記のようにアミノ化したカーボン層に、グルタルアルデヒドを反応させることにより実施できる。
【0035】
ヒドロキシル基の導入は、例えば、上記のように塩素化したカーボン層に、水を反応させることにより実施できる。
【0036】
活性化エステル基の導入は、例えば、塩素ガス中でカーボン層に紫外線を照射して表面を塩素化し、ついで、アンモニアガス中で紫外線を照射してアミノ化した後、適当な酸クロリドまたはジカルボン酸無水物を用いてカルボキシル化し、末端のカルボキシル基をカルボジイミドまたはジシクロヘキシルカルボジイミドおよびN−ヒドロキシスクシンイミドと脱水縮合することにより実施できる。この処理により、アミド結合を介して炭化水素基の末端に、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基等の活性化エステル基が結合した基を形成することができる(特開2001−139532)。
【0037】
DNAおよびRNA等の核酸を保持する場合は、アミノ基、カルボジイミド基、エポキシ基、ホルミル基または活性化エステル基を導入するのが好ましい。
【0038】
ペプチドを保持する場合は、アミノ基、カルボジイミド基、エポキシ基、ホルミル基、金属キレートまたは活性化エステル基を導入するのが好ましい。金属キレートを導入した固体支持体を使用すると、ポリヒスチジン配列等の金属イオンと親和性のある標識を有するペプチドを効果的かつ安定に固定化することができる。金属キレートの導入は、例えば、カーボン層が形成された基板を塩素化し、次いでこれをアミノ化した後、クロロ酢酸等のハロカルボン酸を添加してキレート配位子を導入することにより実施できる。ポリヒスチジン配列等の標識は、当業者に公知の方法により導入することができる。
【0039】
また、上記化学修飾は、表面カーボン層上に静電層を形成することにより行ってもよい。該静電層は、アミノ基含有化合物など正荷電を有する化合物を用いて形成することができる。
【0040】
前記アミノ基含有化合物としては、非置換のアミノ基(−NH2)、または炭素数1〜6のアルキル基等で一置換されたアミノ基(−NHR;Rは置換基)を有する化合物、例えばエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、n−プロピルアミン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、アリルアミン、アミノアゾベンゼン、アミノアルコール(例えば、エタノールアミン)、アクリノール、アミノ安息香酸、アミノアントラキノン、アミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、プロリン、シスチン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、アニリン、またはこれらの重合体(例えば、ポリアリルアミン、ポリリシン)や共重合体;4,4’,4”-トリアミノトリフェニルメタン、トリアムテレン、スペルミジン、スペルミン、プトレシンなどのポリアミン(多価アミン)が挙げられる。
【0041】
静電層は、基板またはカーボン層と共有結合させずに形成してもよく、基板またはカーボン層と共有結合させて形成してもよい。
【0042】
静電層を基板またはカーボン層と共有結合させずに形成する場合には、例えば、カーボン層を製膜する際に前記アミノ基含有化合物を製膜装置内に導入することによって、アミノ基を含有する炭素系皮膜を製膜する。製膜装置内に導入する化合物として、アンモニアガスを用いてもよい。また、表面処理層は、密着層を形成した後にアミノ基を含有する皮膜を形成するといった、複層であってもよく、この場合もアンモニアガスを含んだ雰囲気で行ってもよい。製膜は、例えばプラズマ法によって実施できる。
【0043】
また、静電層を基板またはカーボン層と共有結合させずに形成する場合には、静電層と基板またはカーボン層との親和性、即ち密着性を高める点で、基板上に、前記の非置換または一置換されたアミノ基を有する化合物および炭素化合物を蒸着させることが好ましい。ここで用いる炭素化合物としては、気体として供給することができれば特に制限はないが、例えば常温で気体であるメタン、エタン、プロパンが好ましい。蒸着の方法としては、イオン化蒸着法が好ましく、イオン化蒸着法の条件としては、作動圧が0.1〜50Pa、そして加速電圧が200〜1000Vの範囲であることが好ましい。
【0044】
静電層を基板またはカーボン層と共有結合させて形成する場合には、例えば、基板またはカーボン層を施した基板に、塩素ガス中で紫外線照射して表面を塩素化し、次いで前記アミノ基含有化合物のうち、例えば、ポリアリルアミン、ポリリシン、4,4',4”-トリアミノトリフェニルメタン、トリアムテレン等の多価アミンを反応させて、基板と結合していない側の末端にアミノ基を導入することにより、静電層を形成することができる。
【0045】
基板を、非置換または一置換されたアミノ基を有する化合物を含有する溶液中に浸漬することにより、静電層を形成する場合に、アミノ基含有化合物としてポリアリルアミンを用いると、基板との密着性に優れ、生体分子の固定化量がより向上する。アミノ基含有化合物とともにシランカップリング剤が共存する溶液に基板を浸漬することにより、静電層を形成することもできる。
静電層の厚みは、1nm〜500μmであることが好ましい。
【0046】
本発明においては、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化し、固体支持体上の生体分子を酵素で分析し、得られた分解物を質量分析することにより生体分子を分析する。
【0047】
一実施形態においては、生体分子をスポッティグ用バッファーに溶解し、本発明の固体支持体上にスポッティングすることにより、生体分子を固体支持体上に固定化する。
【0048】
生体分子を、濃度が通常0.001〜100pmol、好ましくは0.01〜50pmolとなるようにスポッティング用バッファーに溶解し、スポッティング用溶液を調製する。スポッティング用バッファーとしては、1〜100%、好ましくは20〜50%のPEG(ポリエチレングリコール)溶液、1〜100%、好ましくは20〜50%のグリセロール溶液、PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)、50%DMSO(ジメチルスルホキシド)、3×SSC(saline sodium citrate)、純水等を使用することができる。
【0049】
調製したスポッティング用溶液を、96穴もしくは384穴プラスチックプレートに分注し、分注した溶液をスポッター装置等によって固体支持体上にスポッティングすることができる。または、マイクロピペッターにて手動でスポッティングすることができる。このとき、多種類の生体分子を互いに独立したスポットとしてアレイ状に配列することにより、この複数種の生体分子を迅速に分析することができる。
【0050】
スポッティング後、生体分子が固体支持体に結合する反応を進行させるため、インキュベーションを行うことが好ましい。インキュベーションは、通常−20〜100℃、好ましくは0〜40℃の温度で、通常0.5〜16時間、好ましくは1〜2時間にわたって行う。インキュベーションは、高湿度の雰囲気下、例えば、湿度50〜90%の条件で行うのが望ましい。インキュベーションに続き、固体支持体に結合していないポリペプチドを除去するため、洗浄液(例えば、50mM TBS/0.05% Tween20)を用いて洗浄を行うことが好ましい。
【0051】
本発明の別の実施形態では、試料中の生体分子をゲル電気泳動で分離し、ゲル中に分離された生体分子を固体支持体上に転写することにより、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化する。
【0052】
試料の分離に使用できるゲル電気泳動法としては、特に制限されないが、例えば、アガロースゲル電気泳動法、sievingアガロースゲル電気泳動法、変性アガロースゲル電気泳動法、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法、等電点ゲル電気泳動法および二次元電気泳動法などを挙げることができる。当業者であれば、分離の対象となる物質の種類および分子量等から使用する電気泳動法の種類を適宜選択することができる。
【0053】
アガロースゲル電気泳動法は、核酸を分離するために最もよく利用される手法である。アガロースゲルはポリアクリルアミドゲルと比較してゲルの網目構造が大きいため、数十〜数百KbpのDNAフラグメントを長さや分子構造の違いで分離することができる。DNAフラグメント全体の荷電状態は主にリン酸基の数に依存するため、移動度はDNAフラグメントの大きさに比例する。電場方向を断続的に変化させて泳動すると酵母染色体などの巨大DNAを分離することもできる(パルスフィールド電気泳動)。
【0054】
核酸のポリアクリルアミドゲル電気泳動は、DNAフラグメントの解析に主に用いられ、ポリアクリルアミドゲルの微細な網目構造を利用して、アガロースゲル電気泳動の場合に比較して短鎖(〜1Kbp)のフラグメントを長さと構造に基づいて分離する手法である。DNAの立体構造(コンフォメーション)の影響を強く受けるため、DNA鎖長の推定は二本鎖DNAを泳動する場合に限られる。一本鎖DNAは様々な構造を取ることが予想されるので移動度とそのDNA鎖長との間に相関は見られず、しばしば複数のバンドとして検出されることもある。DNA塩基のわずかな違いでも構造変化がおこり、泳動パターンに反映される。これを利用したDNAフラグメント解析手法(SSCP:Single−Strand Conformation Polymorphism)も開発され遺伝子変異解析に利用されている。特殊な配列(繰返し配列や塩基の偏りなど)を含む二本鎖DNAフラグメントはDNA構造を歪めることが知られており、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法はDNAの構造・機能解析にも使用できる。また、尿素などを含む変性ゲル中では、一本鎖DNAも構造の影響を受けることなく鎖長に応じて分離できる。
【0055】
SDS(Sodium dodecyl sulfate)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE法)は、目的タンパク質の高次構造を変性して分子量の違いにより分離する手法である。ポリアクリルアミドゲルは、ゲル中の細孔径が密なため100〜200KDa以下のタンパク質やポリペプチドを分離するのに適している。操作が簡便で再現性が高いので、タンパク質の電気泳動では最もよく用いられている手法である。通常は、泳動サンプルの調製時にβ-メルカプトエタノールやDTT(Dithiothreitol)などの還元剤を添加してタンパク質のS−S結合(ジスルフィド結合)を切断する。SDSの結合量によって分子の電荷がほぼ決まるため、電気泳動によりポリペプチド分子を分子量に従って分離することができる。SDSは強力な陰イオン界面活性剤なので、膜タンパク質などの不溶性タンパク質の可溶化にも適している。
【0056】
等電点電気泳動は、タンパク質の等電点(pI)の違いを利用して分離し、目的タンパク質の等電点測定や分析を行う泳動手法である。タンパク質を構成しているアミノ酸側鎖やアミノ末端、カルボキシル末端の電荷はpH条件によって変化し、電荷の総和がゼロになるpHの値が等電点となる。等電点電気泳動を行うには、泳動ゲル中にpH勾配を作る必要がある。サンプルを泳動ゲルに添加して電場をかけると、それぞれのタンパク質は固有のpIと同じpHに向かってpH勾配を形成したゲル中を移動する。pH勾配ゲルの作製には、両性担体(キャリアアンフォライト)をゲルに添加して電場をかけてpH勾配を形成する手法と、様々なpIの側鎖を持つアクリルアミド誘導体を用いてゲル作製と同時にpH勾配を形成する手法(IPG法:Immobilized pH gradient)とがあり、プロテオミクス研究では、分離能、再現性、添加許容量ともに優れるIPG法が主に用いられている。IPG法専用のプレキャストゲル(Immobiline DryStrip Gel)が市販されている。キャリアアンフォライトを用いる等電点泳動の分離能は0.01〜0.02pH単位で、IPG法では0.001pH単位の違いでも分離することができる。
【0057】
二次元電気泳動法は、二段階の電気泳動によりタンパク質を二次元に分離する方法である。一般的に一次元目は等電点電気泳動によりタンパク質を分離し、二次元目はSDS−PAGE法により分子量で分離する。いずれの手法も分離能が非常に高いので、細胞全タンパク質を数千以上にもおよぶスポットに分離することができる。再現性と解像度に優れた固定化pH勾配法(IPG法)を一次元目泳動に用いることが一般的である。また、より多くのスポットを得るために、幅広いpHレンジの分離結果を基にしてNarrow pH IPGゲルで目的pH部分のみを分離したり、20cm以上の大型ゲルを用いて二次元目電気泳動を行うこともできる。
【0058】
本発明においては、核酸を分離する場合は、アガロースゲル電気泳動法を使用するのが好ましく、ペプチドを分離する場合は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法および二次元電気泳動法を使用するのが好ましい。
【0059】
電気泳動後、ゲルを、固体支持体に載る大きさに切り出し、ゲルと固体支持体とを密着させて、ゲル中に分離された生体分子を本発明の固体支持体上に転写する。固体支持体への転写方法としては、特に制限されず、当技術分野で通常用いられる方法を使用することができる。例えば、毛細管現象を利用したキャピラリー式ブロッティング、ポンプにより吸引するバキューム式ブロッティングおよび電気的手法を用いるエレクトロブロッティングが挙げられる。核酸を転写する場合は、キャピラリー式ブロッティングを使用するのが好ましく、ペプチドを転写する場合は、エレクトロブロッティングを使用するのが好ましい。
【0060】
エレクトロブロッティングにおいては、タンク式、セミドライ式およびセミウェット式のいずれも使用することができるが、バッファー使用量の少なさや、反応時間の短さ等の観点からセミドライ式エレクトロブロッティングを使用するのが好ましい。ブロッティング装置としては、当技術分野で通常用いられているエレクトロブロッティング装置を使用することができる。エレクトロブロッティングにおける通電条件は、定電圧、200V以下、好ましくは0.1〜10Vで、1〜500分間、好ましくは5〜100分間が好ましい。ただし、電圧を金属基板の酸化電位より高くすると金属の溶出がおこるため、基板金属の酸化電位より低い電圧で行うのが好ましい。
【0061】
以下に、試料中のタンパク質を分析する場合の本発明における電気泳動および転写の一態様を示す。まず、試料中のタンパク質を可溶化する。すなわち、試料に存在するタンパク質分解酵素を失活させるとともに、SDSとβ−メルカプトエタノールによってタンパク質を効果的に変性させる目的で沸騰水中で一定時間熱処理する。次にSDS−ポリアクリルアミドゲルの各レーンに一定量注入し、SDSを含むグリシン−トリスバッファーを泳動用バッファーとして、一定電圧で一定時間泳動させる。泳動後、ゲルをあらかじめ冷却しておいたメタノールを含むグリシン−トリスバッファー(転写用バッファー)に一定時間浸漬し、平衡化する。続いて、ゲルを陰極側、転写用固体支持体を陽極側としてエレクトロブロッティング装置に装着する。転写槽には転写用バッファーを加え、氷冷下、定電圧で一定時間転写を行う。このとき、転写効率を上げる観点から、陰極とゲルの間、および陽極と固体支持体の間に、バッファーやイオン交換水を含ませたろ紙を配置するのが好ましい。陰極側のろ紙に含ませるバッファーとしては、ホウ酸、Tris、ε−アミノカプロン酸、酢酸、EDTA、リン酸、酒石酸、SDS等を含むものが挙げられる。ホウ酸、Trisおよびε−アミノカプロン酸を含むバッファーを用いる場合、ε−アミノカプロン酸の濃度は通常、1000mM以下、好ましくは1μM〜1000mM、より好ましくは1〜300mMである。陽極側のろ紙には、イオン交換水を含ませるのが好ましい。また、陽極側のろ紙は、存在しなくてもよい。
【0062】
本発明のさらに別の実施形態においては、試料中の生体分子をゲル電気泳動で分離し、ゲル中に分離された生体分子をメンブレン上に転写し、該メンブレン上に転写された生体分子を固体支持体上に転写することにより、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化する。この場合に使用できるメンブレンの材質としては、ニトロセルロース、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ナイロンおよびポジティブチャージナイロン等が挙げられる。タンパク質の転写においては、タンパク質の結合能力が最も高いPVDFを使用するのが好ましく、核酸の転写においても核酸の非特異吸着が少ないPVDFを使用するのが好ましい。泳動物質のゲルからメンブレンへの転写およびメンブレンから固体支持体への転写は、上記と同様の方法により実施できる。ゲルからメンブレンへの転写においては、エレクトロブロッティングを使用するのが好ましく、エレクトロブロッティングにおける通電条件は、0.1〜50Vで、5〜120分間程度が好ましい。メンブレンから固体支持体への転写においても、エレクロトブロッティングを利用するのが好ましい。
【0063】
本発明の方法では、上記のようにして固体支持体に固定化された生体分子を酵素で分解し、得られた分解物を質量分析する。
【0064】
生体分子を分解するための酵素は、マスフィンガープリンティング法で使用できるものであれば特に制限されず、当業者であれば、分析対象となる生体分子に応じて選択することができる。核酸を分析する場合は、酵素としてヌクレアーゼ、特に制限酵素(例えば、REBASEのデータベースに記載のもの)を使用する。ヌクレアーゼとしては、例えば、S1 ヌクレアーゼ、蛇毒ヌクレアーゼ、脾臓ホスホジエステラーゼ、スタフィロコッカスヌクレアーゼ、マングマメヌクレアーゼ、アカパンカビヌクレアーゼ、RNase H、膵臓DNaseI、Bal31、ExoI、ExoIII、ExoVII、λエキソヌクレアーゼ、AarI、AatII、AccI、AceIII、AciI、AclI、AcyI、Hin1I、AflII、AflIII、AgeI、AhaIII、AlfI、AloI、AluI、AlwNI、ApaI、ApaBI、ApaLI、ApoI、AscI、AspCNI、AsuI、Cfr13I、AsuII、BspT104I、AvaI、AvaII、VpaK11BI、EcoT22I、BlnI、BbvII、BbvCI、BccI、BcefI、Bce83I、BcgI、BciVI、FbaI、BetI、BfiI、BglI、BglII、BinI、BmgI、BplI、Bpu10I、BsaAI、BsaBI、BsaXI、BsbI、BscGI、BseMII、BsePI、BseRI、BseSI、BseYI、BsgI、BsiYI、BsmI、BsmAI、BspGI、BspHI、BspLU11I、BspMI、BspGII、BspNCI、Bsp24I、Bsp1407I、BsrI、BsrBI、BsrDI、BstEII、BstPI、EcoO65I、BstXI、BtgZI、BtrI、BtsI、Cac8I、CauII、BcnI、CdiI、CfrI、EaeI、Cfr10I、CjeI、CjePI、ClaI、CviJI、CviRI、CdeI、DpnI、DraII、DraIII、DrdI、DrdII、DsaI、Eam1105I、EcoNI、EciI、EcoNI、EcoRI、EcoRII、MvaI、EcoRV、Eco31I、Eco47III、Aor51HI、Eco57I、Eco57MI、EspI、Bpu1102I、Esp3I、FalI、FauI、FinI、FnuDII、AccII、Fnu4HI、FokI、FseI、FspAI、GdiII、GsuI、HaeI、HaeII、HaeIII、HaeIV、HgaI、HgiAI、HgiCI、BspT107I、HgiEII、HgiJII、BanII、HhaI、HindII、HincII、HindIII、HinfI、Hin4I、Hin4II、HpaI、HpaII、HapII、MspI、HphI、Hpy99I、Hpy178III、Hpy188I、KpnI、Ksp632I、MaeI、XspI、MaeII、MaeIII、MboI、Sau3AI、MboII、McrI、MfeI、MunI、MjaIV、MluI、MmeI、MnlI、MstI、NsbI、MwoI、NaeI、NarI、BbeI、NcoI、NdeI、NheI、NlaIII、NlaIV、NotI、NruI、NspI、NspBII、OliI、PacI、PflMI、Pfl1108I、PfoI、PleI、PmaCI、PmeI、PpiI、PpuMI、PshAI、PsiI、PsrI、PstI、PvuI、PvuII、RleAI、RsaI、AfaI、RsrII、CpoI、SacI、SacII、SalI、SanDI、SapI、SauI、Eco81I、ScaI、ScrFI、SduI、Bsp1286I、SecI、SexAI、SfaNI、SfeI、SfiI、SgfI、SgrAI、SimI、SmaI、SmlI、SnaI、SnaBI、SpeI、SphI、SplI、SrfI、Sse8387I、Sse8647I、SspI、Sth132I、StuI、StyI、EcoT14I、SwaI、taqI、taqII、tatI、TauI、TfiI、TseI、TspDTI、TspEI、TspGWI、TspRI、Tsp4CI、Tsp45I、Tth111I、Tth111II、UbaDI、UbaEI、UbaGI、UbaHI、UbaNI、UbaPI、VspI、PshBI、XbaI、XcmI、XhoI、XhoII、MflI、XmaIII、Eco52IおよびXmnI等が挙げられる。
【0065】
タンパク質を分析する場合は、酵素としてプロテアーゼを使用する。プロテアーゼとしては、例えば、トリプシン、AchromobacterプロテアーゼI(API、リジルエンドペプチダーゼ)、Staphylococcus aureus V8 プロテアーゼ、エンドプロテイナーゼAsp−N、トロンビン、アミノペプチダーゼM、ブロメライン、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼP、カルボキシペプチダーゼY、カテプシンC、キモトリプシンA、クロストリパイン、コラゲナーゼ、ディスパーゼ(protease neutral)、エラスターゼ、エンドプロテイナーゼArg−C、エンドプロテイナーゼGlu−C(プロテアーゼV8)、エンドプロテイナーゼLys−C、Xa因子、フィシン、ロイシンアミノペプチダーゼ、パパイン、ペプシン、プラスミン、プロナーゼ、プロテイナーゼK、ピログルタメートアミノペプチダーゼ、スブチリシン、サーモリシン、トロンビンを使用することができる。タンパク質をプロテアーゼで分解する場合、通常25〜42℃、より好ましくは35〜39℃で、1〜24時間反応を行う。
【0066】
ここで分解物とは、生体分子を酵素で分解することによって得られる小分子を意味し、長鎖核酸分子を酵素分解して得られる核酸断片、およびポリペプチド、オリゴペプチドまたはタンパク質を酵素分解して得られるペプチド断片が包含される。
【0067】
酵素分解では、塩はイオン化を阻害するため、塩濃度を薄くするか、揮発性の塩を使用するのが好ましい。また、酵素分解反応中の溶液乾燥は切断反応を停止させるため、湿度を保って乾燥を防ぐのが好ましい。
【0068】
本発明では、マスフィンガープリント法により、固体支持体上に固定化された生体分子を同定することができる。すなわち、生体分子の酵素分解物に含まれる多数の消化断片に由来するイオンの質量を測定し、既知のデータベースと比較することにより、固体支持体に固定化された生体分子を同定することができる。さらに、低分子化処理により、MALDI特有のポストソースディケイ(PSD)解析ができるようになるためMS/MS解析で容易にアミノ酸配列等を決定できる。このため、データベースサーチにMS/MS解析のデータを使ったデータベース検索ができる。
【0069】
ペプチドを同定するためのデータベースとしては、例えば、Mascot、MS−Tag、Peptide Search、PepFrag、SEQUESTなどが挙げられる(実験医学別冊、ポストゲノム時代の実験講座2、プロテオーム解析法、羊土社(2000))。
【0070】
本発明のさらに別の実施形態においては、固体支持体上に固定化された生体分子にさらなる生体分子を相互作用させ、固体支持体上の生体分子および/または相互作用した生体分子を酵素で分解し、得られた分解物を質量分析することにより、固体支持体上に固定化された生体分子および/または当該生体分子と相互作用した生体分子を分析することができる。
【0071】
既に述べたような方法により、タンパク質が固体支持体上に固定化される場合は、該タンパク質に対する抗体または抗体断片を反応させて複合体を形成し、該複合体をイオン化することにより質量分析を行うことができ、該タンパク質に対する特異的な抗体の同定や抗体のエピトープ部位を決定することができる。また、抗体断片が固体支持体上に固定化される場合は、タンパク質(抗原)を反応させて複合体を形成し、該複合体をイオン化することにより質量分析を行い、抗体のエピトープ部位を決定することができる。さらに、DNAまたはRNA等の核酸が固体支持体上に固定化される場合は、該核酸に対して相補的な核酸を固体支持体上の核酸にハイブリダイズさせ、形成した二本鎖をイオン化して質量分析を行うことができる。その他の相互作用としては、例えば、リガンドと受容体の相互作用、酵素反応、ビオチン−ストレプトアビジン相互作用等が挙げられる。相互作用によって形成した複合体の質量分析を行うことにより、プローブ分子に特異的に相互作用したターゲット分子を同定し、その塩基配列またはアミノ酸配列を解析することができる。
【0072】
本発明の別の態様においては、生体分子の相互作用を分析することを目的として、溶液中で相互作用する生体分子の複合体を形成した後、これを電気泳動に付し、電気泳動によって分離された複合体を固体支持体上に固定化し、固体支持体上の複合体をイオン化することによって質量分析を行うこともできる。このような分析方法は、溶液中で複合体形成を行うものであるため、タンパク質の分析など、分析対象分子の立体構造を高度に保持する必要がある解析に有利である。
【0073】
質量分析方法として、電気的相互作用を利用して原子・分子のイオンを質量の違いによって分析する手法を使用できる。このような質量分析方法は、イオンの生成・分離・検出の3つの工程を含む。
【0074】
固体支持体上に固定化された生体分子の酵素分解物を質量分析する方法としては、特に制限されず、当技術分野で公知のものを使用できる。質量分析する際に使用できるイオン化法の様式としては、マトリックス補助レーザ脱離(MALDI)法、電子衝撃によるイオン化(EI)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、光イオン化法、放射性同位体から放射されるLETの大きなαまたはβ線を使用するイオン化法、2次イオン化法、高速原子衝突イオン化法、電界電離イオン化法、表面電離イオン化法、化学イオン化(CI)法、フィールドイオン化(FI)法、火花放電によるイオン化法等が挙げられ、マトリックス補助レーザ脱離(MALDI)法が好ましい。また、分離様式としては、線形または非線形反射飛行時間型(TOF)、単一または多重四重極型、単一または多重磁気セクター型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)型、イオン捕獲型、高周波型ならびにイオン捕獲/飛行時間型等が挙げられ、線形または非線形反射飛行時間(TOF)型、高周波およびイオン捕獲/飛行時間型を用いるものが好ましい。上記のようなイオン化法と分離様式、電気的記録ならびに写真記録のような検出様式とを組み合わせることにより質量分析を実施することができる。具体的には、MALDI−TOF MS、ESI Q−TOF MS、MALDI Q−TOF MS等が挙げられる。生体分子などの高分子物質をイオン化し、固体支持体上の複数の分子を分析するという観点からは、レーザ脱離/イオン化−飛行時間型質量分析、特にMALDI−TOF MSを利用するのが好ましい。
【0075】
以下に本発明の一態様として、MALDI−TOF MSを用いた質量分析の手順を説明する。
【0076】
分析対象が固定化された本発明の固体支持体にマトリックス溶媒を添加し、乾燥させる。マトリックス溶媒としては、α-シアノヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸などを含むものが使用できる。本発明においては、1〜80%α-シアノヒドロキシ桂皮酸、1〜80%のアセトニトリルを含むマトリックス溶媒を用いるのが好ましい。このようなマトリックスを用いることによりマトリックス溶媒がレーザーのエネルギーを効果的に吸収して、そのエネルギーが間接的にタンパク質やペプチドに伝わり、イオン化が起こる。次ぎに該固体支持体を、MALDI−TOF MSのフラットターゲットに設置する。そして、MassLynxソフトウエア等を用いて質量分析を開始する。MassLynxによって測定と解析の全てをコントロールすることができる。測定時に、自動測定のパラメーターファイルと、測定後に行うデータプロセスおよびデータベース解析のプロセスファイル、ならびに試料リストなどを作成する。データプロセシングは、ProteinLynxソフトウエアを用いてMassLynx上で行うことができる。取り込まれたデータから質量スペクトルを作成し、作成されたスペクトルは、MaxEnt 3ソフトウエア(Micromass社)により、精度を高めた後、モノアイソトピック・ピークデータに変換する。続いてキャリブレーションを行い質量誤差約50ppmの最終データとする。
【0077】
固体支持体にペプチドが固定化されている場合、質量分析に続いてペプチドのアミノ酸配列分析および同定を行うことができる。MALDI−TOF MSの分析モードをポストソースディケイ(PSD)スペクトルを検出できるモードにし、ペプチドのアミノ酸配列を分析する。続いて、アミノ酸配列データを基にSWISSPROTデータベースを検索し、ペプチドを同定する。あるいは、MALDI−TOF/TOF MSやMALDI Q−TOF MSにペプチドが固定化された固体支持体を設置してアミノ酸配列を分析し、ペプチドを同定することができる。
【0078】
本発明はまた、上記の生体分子の分析方法において使用するためのキットであって、表面にカーボン層を有する固体支持体および酵素を含むキットに関する。本発明のキットは、表面にカーボン層を有する固体支持体および酵素を含み、本発明の分析方法に使用するためのものであることを除き、公知公用のキットに用いられている各要素によって構成することができる。表面にカーボン層を有する固体支持体および酵素に加え、例えば、緩衝液、マトリックス溶媒、洗浄バッファー、試料希釈液、反応停止液、標準物質等を含みうる。
【0079】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
(実施例1)Ti−Pt−DLC固体支持体へのタンパク質の転写
固体支持体の作成
76mm×26mm×1.1mmのスライドガラスにTi層およびその上にPt層をマグネトロンスパッタリングにより形成した。スパッタリングの条件は以下の通りである。生成した金属層の厚みは、Ti層およびPt層それぞれが100nmであった。
【0081】
【表1】
【0082】
そして、金属層を形成した基板上にダイヤモンドライクカーボン層を形成した。ダイヤモンドライクカーボン層の形成はイオン化蒸着法により以下の条件で行った。生成したダイヤモンドライクカーボン層の厚みは、20nmであった。
【0083】
【表2】
【0084】
上記のようにして基板1にダイヤモンドライクカーボン層を形成した後、表面を塩素ガス中で1分間紫外線を照射することにより塩素化し、アンモニアガス中で10分間紫外線を照射することによりアミノ化して固体支持体1を作成した。
【0085】
SDS−PAGE法による電気泳動
Cy3-プロテインA(1.5μg、SIGMA社製)、大腸菌タンパク質(0.5μg)およびマーカー(Prestained Broad Range、0.5μl、BIO RAD社製)を試料として用い、SDS−PAGE用装置(ATTO社製 AE−7300型)を用いて電気泳動を行った。泳動用のゲルとしては、10%ポリアクリルアミドゲルを使用した。泳動用バッファーは0.1%SDSを含むグリシン―トリスバッファー(pH8.3)を用い、泳動は200Vで35分間行った。泳動終了後、15分間CBB染色し、脱染色したあと、LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した(図1)。約50kDa付近にCy3-プロテインAのバンドが検出された。
【0086】
エレクトロブロッティング
泳動後のポリアクリルアミドゲルを、あらかじめ冷却しておいた転写用バッファー(25mM Tris、5%メタノール)に30分間浸漬し、平衡化した。次いで、ポリアクリルアミドゲルを固体支持体1に載る大きさに切り取って、該固体支持体と密着させ、ポリアクリルアミドゲルを陰極、固体支持体を陽極に設置し、下記条件で通電した。
【0087】
【表3】
【0088】
蛍光強度の測定
タンパク質転写後の固体支持体1の蛍光強度をFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で測定したところ、蛍光強度が28270として測定され、Cy3−プロテインAが固体支持体表面に固定化されたことが確認された(図2)。続いて、該固体支持体をPBSで10分間洗浄した後、同様に蛍光強度を測定したところ、蛍光強度は9766であり、約1/3程度まで低下した(図3)。ブロッキング試薬(Roche社製)で1時間ブロッキングし、蛍光強度を測定したところ蛍光強度に変化はなかった。次ぎに、500μlの0.05μg/μl Cy3−IgGを添加して室温で1時間反応させた後、PBSで室温にて12時間洗浄し、蛍光強度を測定した(図4)。蛍光強度は16448であり、増加していることから、プロテインAとIgGが結合したこと、すなわち、転写保持されたタンパク質の結合能が維持されたことがわかる。
【0089】
(実施例2)ステンレス−DLC固体支持体へのタンパク質の転写
ステンレス−DLC固体支持体の作成
ステンレス基板にダイヤモンドライクカーボン層を形成した。ステンレス基板は、平滑性と蛍光バックグラウンドを下げるために、予めバフ研磨後、更に電解研磨を施した。ダイヤモンドライクカーボン層の形成はイオン化蒸着法により以下の条件で行った。生成したダイヤモンドライクカーボン層の厚みは、20nmであった。また、アンモニアプラズマ処理することによりアミノ基を導入することにより固体支持体2を作成した。
【0090】
【表4】
【0091】
Cy3−プロテインA(0.2μg、SIGMA社製)を実施例1と同様にSDS−PAGE法(ATTO社製 AE−6530型)で泳動し、泳動終了後、15分間CBB染色し、脱染色したあと、LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した(図5)。
【0092】
泳動後のゲルを取り出し、固体支持体2に載る大きさに切った後、転写用バッファーB(25mM Tris、5% メタノール)に浸した。予め固体支持体2の大きさに切っておいたろ紙(ATTO社製)をそれぞれ、転写用バッファーA(0.3M Tris、5% メタノール)、C(25mM Tris、40mM ε−アミノカプロン酸、5% メタノール)またはイオン交換水に浸した。続いて、気泡が入らないように、ろ紙、ゲル、固体支持体を図6のように重ねてセミドライブロッティング装置に設置し、8V、4mAで60分間通電し、タンパク質を固体支持体2に転写した。転写後の固体支持体2をイオン交換水で室温にて30分間洗浄し、乾燥させた後、転写後の固体支持体とゲルをFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した(図7)。
【0093】
(1)は、陰極側および陽極側のろ紙の双方にイオン交換水を含ませて転写を行った場合の結果である。Cy3−プロテインAはゲルからほとんど抜け出ておらず、また固体支持体にも転写保持されていなかった。
【0094】
(2)は、ろ紙Iに転写用バッファーC、ろ紙IIに転写用バッファーB、ろ紙IIIに転写用バッファーAを含ませて転写を行った場合の結果である。Cy3−プロテインAはゲルから多少減少しているが、固体支持体には転写保持されていなかった。
【0095】
(3)は、ろ紙Iに転写用バッファーC、ろ紙IIおよびIIIにイオン交換水を含ませて転写を行った場合の結果である。ゲルは、固体支持体に重ねる前に、水分をふき取った。その結果、Cy3−プロテインAは、均一ではないがゲルから抜け出ていることが確認された。また、固体支持体上には形状は良くないが転写保持が見られた。
【0096】
(4)は、ろ紙Iに転写用バッファーC、ろ紙IIおよびIIIにイオン交換水を含ませ、ゲルの水分をふきとらずに固体支持体に重ねて転写を行った場合の結果である。その結果、Cy3−プロテインAは、均一ではないがゲルから抜け出ていることが確認された。また、固体支持体上にはCy3−プロテインAが形状良く転写保持されていた。
【0097】
以上から、ゲル中のタンパク質の固体支持体への転写においては、陰極側のろ紙には転写用バッファーを、陽極側のろ紙にはイオン交換水を含ませ、泳動後のゲルの水分をふきとることなく転写を行うことが好ましいと考えられる。
【0098】
(実施例3)ステンレス−DLC固体支持体へのタンパク質の転写
Cy3−プロテインA(50ng、SIGMA社製)およびCy3−IgA(100ng、SIGMA社製)を実施例1と同様にSDS−PAGE法(ATTO社製 AE−6530型)で泳動し、泳動終了後、15分間CBB染色し、脱染色したあと、LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した(図8)。なお、Cy3-IgAの泳動については、12%ポリアクリルアミドゲルを使用した。また、実施例2と同様にして、固体支持体2を作成した。
【0099】
泳動後のゲルを取り出し、固体支持体2に載る大きさに切った後、転写用バッファー(25mM Tris、5% メタノール)に浸した。予め固体支持体の大きさに切っておいたろ紙(ATTO社製)をそれぞれ、転写用バッファーC1(25mM Tris、40mM ε−アミノカプロン酸、5% メタノール)、C2(25mM Tris、400mM ε−アミノカプロン酸、5% メタノール)またはイオン交換水に浸した。続いて、気泡が入らないように、ろ紙、ゲル、固体支持体を実施例2の図6と同様に重ね、セミドライブロッティング装置に設置した。このとき、陰極側のろ紙3枚には、転写用バッファーC1またはC2を含ませたものを使用し、陽極側のろ紙3枚には、イオン交換水を含ませたものを使用した。そして、2V、2μAで60分間通電し、タンパク質を固体支持体2に転写した。転写後の固体支持体2をイオン交換水で室温にて30分間洗浄し、乾燥させた。そして該固体支持体と転写後のゲルをFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した(図9)。
【0100】
その結果、固体支持体への転写の際に陰極側のろ紙に含ませる転写用バッファーは、C1、すなわち、ε−アミノカプロン酸の濃度が40mMのものの方が転写保持効率がよいことが分かった。
【0101】
(実施例4)PVDFメンブレンからTi−Pt−DLC固体支持体へのタンパク質転写
実施例1と同様にして基板1にダイヤモンドライクカーボン層を形成し、イオン化蒸着装置を用いてアンモニアプラズマ中で処理することにより表面をアミノ化して固体支持体3を作成した。
【0102】
また実施例1と同様にしてポリアクリルアミドゲルでCy3−プロテインAを電気泳動した。泳動終了後、15分間CBB染色し、脱染色したあと、LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影を行った(図10)。約50kDa付近にCy3-プロテインAのバンドが検出された。
【0103】
転写用バッファーA(0.3M Tris、5% メタノール)、B(25mM Tris、5% メタノール)およびC(25mM Tris、40mM ε−アミノカプロン酸、5% メタノール)を調製した。泳動後のゲルを取り出し、約200mlの転写用バッファーBに浸して、5分間軽く振盪した。予めゲルの大きさに切っておいたPVDFメンブレン(ATTO社製)を少量のメタノールに5秒間浸した後、約100mlの転写用バッファーBに浸し、5分以上振盪した。
【0104】
転写用バッファーA、BまたはCの各200mlに、予めゲルの大きさに切っておいたろ紙をそれぞれ2枚、1枚および3枚ずつ浸した。続いて、セミドライブロッティング装置(日本エイドー)に、上記のろ紙、ゲルおよびPVDFメンブレンを、気泡が入らないように図11のように重ね合わせて設置し、電圧15Vで60分間通電した。転写後、PVDFメンブレンを200mlのPBSに浸して、5分間浸透した。
【0105】
転写後のPVDFメンブレンを固体支持体3に載る大きさに切り、図12のような順番で重ね合わせ、35g/cm2の重しを載せた。室温にて1時間置き、メンブレン上のCy3−プロテインAを固体支持体3上に転写した。続いて該固体支持体3を、PBSで室温にて20分間洗浄した後、乾燥させた。そして、固体支持体をFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した。撮影画像を図13に示す。画像中に囲った部分がメンブレンを密着させた部分である。対応する位置に蛍光が検出されたことから、Cy3-プロテインAが固体支持体上に転写保持されていることがわかる。
【0106】
(実施例5)ステンレス−DLC固体支持体へのタンパク質の転写
Cy3ラベルした酵母タンパク質(300μg/レーン)を実施例1と同様にSDS−PAGE法(ATTO社製 AE−6530型)で泳動し、泳動終了後、FLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した(図14(1))。また、実施例2と同様にして、固体支持体2を作成した。
【0107】
泳動後のゲルを取り出し、固体支持体2に載る大きさに切った後、10%メタノールでゲルを洗浄後、新しい10%メタノールに交換し、更に30秒洗浄した。洗浄後、固体支持体2にゲルを載せ、その上に透析膜、1MH3BO3バッファー(pH8.0)を含むろ紙を載せた。そして、2Vで60分間通電し、タンパク質複合体を固体支持体2に転写した。転写後の固体支持体2を超純水で洗浄し、乾燥させた。そして該固体支持体と転写後のゲルをFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した(図14(2))。
その結果、転写効率が約40%であり、十分転写ができていることが判明した。
【0108】
(実施例6)ステンレス−DLC固体支持体へのタンパク質の転写
Cy3−プロテインA(50ng、SIGMA社製)とCy5−IgA(100ng、SIGMA社製)を溶液中で混合し、Native−PAGE法(ATTO社製 AE−6530型)で泳動し、泳動終了後、FLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した。また、実施例2と同様にして、固体支持体2を作成した。
【0109】
泳動後のゲルを取り出し、固体支持体2に載る大きさに切った後、転写用バッファー(25mM Tris、5% メタノール)に浸した。予め固体支持体の大きさに切っておいたろ紙(ATTO社製)をそれぞれ、転写用バッファーC1(25mM Tris、40mM ε−アミノカプロン酸、5% メタノール)またはイオン交換水に浸した。続いて、気泡が入らないように、ろ紙、ゲル、固体支持体を実施例2の図6と同様に重ね、セミドライブロッティング装置に設置した。このとき、陰極側のろ紙3枚には、転写用バッファーC1を含ませたものを使用し、陽極側のろ紙3枚には、イオン交換水を含ませたものを使用した。そして、2V、2μAで60分間通電し、タンパク質複合体を固体支持体2に転写した。転写後の固体支持体2をイオン交換水で室温にて30分間洗浄し、乾燥させた。そして転写後のゲルをFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した。
【0110】
その結果、転写後のゲルをFLA8000で画像撮影したものの蛍光強度は、泳動終了後のFLA8000で画像撮影したものの蛍光強度に比べて約35%であった。
【0111】
(実施例7)
(1)固体支持体上でタンパク質をトリプシン消化した場合
牛アルブミン(BSA)を実施例2で作製した固体支持体2にスポットした。スポットしたBSAにトリプシン消化液(100mM NH4HCO3、0.3μg/μl トリプシン)をのせて37℃で16時間にわたり酵素消化した。マトリックス溶媒(1mg/mL α-シアノヒドロキシ桂皮酸、50%アセトニトリル、0.1%トリフルオロ酢酸)をスポットし、自然乾燥後、MALDI−TOF MS測定した。
(2)溶液中でタンパク質をトリプシン消化した場合
牛アルブミン(BSA)をトリプシン消化液中で、37℃にて5時間にわたり酵素消化した。消化後のBSAを固体支持体2にスポットし、さらに自然乾燥後、MALDI−TOF MS測定した。
(3)トリプシン消化なしの場合
牛アルブミン(BSA)を実施例2で作製した固体支持体2にスポットした。スポットしたBSAに(1)と同じマトリックス溶媒をスポットし、自然乾燥後、MALDI−TOF MS測定した。
【0112】
(1)および(2)では質量スペクトルが得られたが、(3)では質量スペクトルは得られなかった。(1)および(2)から得られた質量スペクトルを用い、Mascotにてデータベースサーチを行ったところ、BSAと十分に高い相同性が得られた。
【0113】
(実施例8)タンパク質の二次元電気泳動ゲルを転写した固体支持体の分析
酵母(Saccharomyces cerevisiae)から既知の方法によりタンパク質を抽出し、抽出物に対し、二次元電気泳動を行った。電気泳動にて分離させたタンパク質をゲルから実施例2で作製した固体支持体2に、実施例3と同様の方法において転写用バッファーC1を用いてブロッティング(転写)し、リジルエンドペプチダーゼ消化液(5mM Tris−HCl、pH9.0、1ug/mL リジルエンドペプチダーゼ)をのせて37℃で5時間にわたり酵素消化した。マトリックス溶媒(1mg/mL α-シアノヒドロキシ桂皮酸、50%アセトニトリル、0.1% TFA)をスポットし、自然乾燥後、MALDI−TOF MS測定した。それぞれのエリアから得られた質量スペクトルを用い、Mascotにてデータベースサーチを行ったところ、酵母由来のタンパク質であるフコース−ビスホスフェートアルドラーゼ(分子量:39465)、エノラーゼ 2(分子量:46754)およびチトクロム B pre−mRNA プロセシングプロテイン 2(分子量73814)と十分に高い相同性が得られ、これらのタンパク質を同定することができた。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】実施例1において、Cy3-プロテインAおよび大腸菌タンパク質をSDS−PAGE法で電気泳動し、泳動後のゲルを15分間CBB染色し、脱染色した後、LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図2】実施例1において、電気泳動後のゲルを固体支持体1に転写し、転写後の固体支持体の蛍光強度をFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図3】実施例1において、電気泳動後のゲルを転写した固体支持体1を、PBSで10分間洗浄し、乾燥した後、画像撮影したものである。
【図4】実施例1において、電気泳動後のゲルを転写した固体支持体1を、PBSで10分間洗浄し、さらにブロッキング試薬で1時間ブロッキングし、その後Cy3−IgGを添加して室温で1時間反応させ、PBSで12時間洗浄し(室温)、画像撮影したものである。
【図5】実施例2において、Cy3-プロテインAをSDS−PAGE法で電気泳動し、泳動後のゲルを15分間CBB染色し、脱染色した後、LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図6】実施例2において、タンパク質を電気泳動後のゲルから固体支持体2に転写するときの配置を表したものである。
【図7】実施例2において、電気泳動後のゲルからタンパク質を転写した固体支持体2を、PBSで30分間洗浄して乾燥したものおよび転写後のゲルをFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図8】実施例3において、Cy3-プロテインAおよびCy3−IgAをSDS−PAGE法で電気泳動し、泳動後のゲルを15分間CBB染色し、脱染色した後、LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図9】実施例3において、電気泳動後のゲルからタンパク質を転写した固体支持体2を、PBSで30分間洗浄して乾燥したものおよび転写後のゲルをFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図10】実施例4において、Cy3-プロテインAをSDS−PAGE法で電気泳動し、ゲルを15分間CBB染色し、脱染色した後LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図11】実施例4において、電気泳動した後のゲルからタンパク質をPVDFメンブレンに転写するときの配置を表したものである。
【図12】実施例4において、タンパク質をPVDFメンブレンから固体支持体3に転写するときの配置を表したものである。
【図13】実施例4において、PVDFメンブレンからタンパク質が転写された固体支持体3を、PBSで20分間洗浄し、乾燥した後、FLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図14】図14(1)は実施例5において、SDS−PAGE法で電気泳動後、FLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものであり、図14(2)は、タンパク質が転写された固体支持体3を、イオン交換水で30分間洗浄し、乾燥した後、FLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸およびタンパク質等の生体分子を質量分析することにより分析および解析する方法、およびそのための固体支持体およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチド、タンパク質、核酸および糖鎖など生体分子の多くは比較的少数の構成単位が一定の規則で重合してできている。例えば、ペプチドやタンパク質は20種のL-α-アミノ酸がペプチド結合でつながった分子である。これらの構成単位の分子の構造は既にほとんどが明らかになっており、当然、それらの正確な分子量も明らかとなっている。従って、生体分子やその断片の分子量を正確に測定できれば、その構造(配列など)や生体内で受ける様々な修飾反応の解析に大きく寄与しうることから、質量分析法は核酸およびタンパク質等の生体分子の構造解析に欠かせない手段として位置づけられている。質量分析法では、質量分析装置(MS)を用いて生体分子をイオン化し、得られたイオンを質量電荷比(m/z値)に従って分離し、その強度を測定することにより、質量を決定する。
【0003】
質量分析による生体分子の構造解析/決定には、分析対象を多数の成分に分離精製し、さらに個々の成分を制限酵素で断片化したものを分析する必要があり、非常に多数の試料を分析しなければならない。また、DNA診断においては、多数の人間から得た試料を迅速に処理する必要がある。
【0004】
それに対し市販されている一般的な質量分析装置は、精製したそれぞれの試料をサンプルボードに配置し、これを1個ずつ質量分析していくものである。すなわちサンプリングした試料を1種類ずつ分析していく必要があった。従って、未精製の試料を電気泳動により分離した場合は、泳動後のゲルをバンドごとに切り出してそれぞれ精製してから1種類ずつ質量分析する必要があり、多数の試料を迅速に分析することは非常に困難であった。
【0005】
また、従来の質量分析装置では、分析できる生体分子の分子量に制限があり、高分子量のタンパク質を解析するのは困難であった。そのため、例えばタンパク質を特定のプロテアーゼで分解し、得られたペプチド断片を質量分析し、得られたデータと公知の断片データとを比較することによりペプチドを同定する方法が知られている。
【0006】
しかし、従来の質量分析法では、高分子量の生体分子を分析するためには、試料を精製した後さらにこれを酵素分解し、得られた分解物を1種類ずつ質量分析する必要があり、生体分子の迅速な分析にはさらなる問題があった。
【0007】
電気泳動した生体分子をゲルからニトロセルロース等のメンブレン上に転写してこれを分析する方法も知られているが、メンブレン上の分析においては、抗原抗体反応や核酸ハイブリダイゼーションを利用した蛍光検出等に限られる。なぜなら、従来使用されているニトロセルロースやPVDF等のメンブレンに、例えばレーザを照射するとメンブレン自体の分解が起きる可能性が高く、上記メンブレンから生体分子を直接イオン化することが困難だからである。すなわち、これらのメンブレン上に転写された生体分子をそのまま質量分析装置で分析することは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、多数の試料を迅速に分析する手段を提供し、核酸およびタンパク質等の生体分子の分析を迅速に実施する方法を提供することである。また、高分子量の生体分子を分析する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、固体支持体に固定化した生体分子を酵素分解し、これを質量分析することにより、高分子量の生体分子であっても効率的に分析できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)生体分子を分析する方法であって、
試料中の生体分子を固体支持体上に固定化すること、固体支持体上の生体分子を酵素で分解すること、および得られた分解物を質量分析することを含む前記方法。
(2)試料中の生体分子をゲル電気泳動で分離し、ゲル中に分離された生体分子を固体支持体上に転写することにより、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化する(1)記載の方法。
【0011】
(3)試料中の生体分子をゲル電気泳動で分離し、ゲル中に分離された生体分子をメンブレン上に転写し、該メンブレン上に転写された生体分子を固体支持体上に転写することにより、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化する(1)記載の方法。
(4)固体支持体が表面にカーボン層を有するものである(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0012】
(5)カーボン層が、ダイヤモンドライクカーボン層である(4)記載の方法。
(6)カーボン層が化学修飾されているものである(4)または(5)記載の方法。
(7)固体支持体上の生体分子にさらなる生体分子を相互作用させることをさらに含み、固体支持体上の生体分子および/または相互作用した生体分子を酵素で分解すること、ならびに得られた分解物を質量分析することを含む(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
【0013】
(8)生体分子がペプチドであり、酵素がプロテアーゼである(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)質量分析を、レーザ脱離/イオン化−飛行時間型質量分析によって行う(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載の方法において使用するための表面にカーボン層を有する固体支持体。
(11)(1)〜(9)のいずれかに記載の方法において使用するためのキットであって、表面にカーボン層を有する固体支持体および酵素を含む前記キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、生体分子の分析を迅速に実施することができる。また、高分子量の生体分子をも迅速に分析することができる。
【0015】
従って、本発明は、核酸およびタンパク質等の生体分子の解析において非常に有用な手段となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において、分析の対象となる生体分子は生体に由来する分子であり、特に制限されないが、核酸、ペプチドおよび糖鎖、ならびにこれらの誘導体などが含まれる。本明細書において、核酸にはDNAおよびRNAが含まれる。本明細書においてペプチドには、オリゴペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質ならびにそれらの複合体が含まれる。ペプチド誘導体としては、その他のペプチドと融合した融合ペプチド、ポリエチレングリコールなどのポリマーに結合させた化学修飾ペプチド、および翻訳後修飾されたペプチドなどが含まれる。ペプチドの翻訳後修飾としては、リン酸化、アセチル化、メチル化、ミリストイル化、グリコシル化、アミド化およびユビキチン化などが挙げられる。本発明は、高分子量の生体分子、特に高分子量のペプチドの分析に好適である。
【0017】
本発明において好適な生体分子の分子量は、通常5〜200kDa、好ましくは5〜100kDaである。
【0018】
これらの生体分子を含む分析対象となる試料としては、特に制限されないが、細胞抽出物、菌体抽出物、無細胞系合成産物、PCR(Polymerase chain reaction)産物、酵素処理産物、合成DNA、合成RNA、合成ペプチド等が挙げられる。
【0019】
生体分子を固定化するための固体支持体は、分析対象となる生体分子を固定化できるものであれば特に制限されず、公知のものを使用でき、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデン、クロム、白金、チタン、ニッケル等の金属;ステンレス、ハステロイ、インコネル、モネル、ジュラルミン等の合金;上記金属とセラミックスとの積層体;ガラス;シリコン;繊維;木材;紙;ポリカーボネート、フッ素樹脂等のプラスチック等からなるものが挙げられる。
【0020】
本発明においては、基板の表面にカーボン層を有する固体支持体を用いるのが好ましい。さらに、カーボン層に特定の化学修飾を施したものが好ましい。特定の化学修飾を施すことにより分析対象となる生体分子を保持しやすくなり、また安定に固定化できるからである。
【0021】
本発明において基板とはカーボン層を形成させるもととなる基材を意味し、このような基材としては、特に制限されないが、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデン、クロム、白金、チタン、ニッケル等の金属;ステンレス、ハステロイ、インコネル、モネル、ジュラルミン等の合金;上記金属とセラミックスとの積層体;ガラス;シリコン;繊維;木材;紙;ポリカーボネート、フッ素樹脂等のプラスチック;およびプラスチックと上記金属、セラミックス、ダイヤモンド等との混合体を挙げることができる。ガラスまたはプラスチック等の表面にプラチナ、チタン等からなる金属層を形成させたものを使用することもできる。金属層の形成は、スパッタリング、真空蒸着、イオンビーム蒸着、電気めっき、無電解めっき等により実施することができる。
【0022】
固定化された生体分子について、レーザ脱離/イオン化−飛行時間型質量分析等によって質量分析を行う場合、固体支持体に高電圧がかかるため、基板は導電性を有するもの、例えば、ステンレス、アルミニウム、チタン等の金属が好ましい。
【0023】
本発明において基板上に形成させるカーボン層としては、特に制限されないが、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、無定形炭素、グラファイト、炭化ハフニウム、炭化ニオブ、炭化珪素、炭化タンタル、炭化トリウム、炭化チタン、炭化ウラン、炭化タングステン、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、炭化クロムまたは炭化バナジウム等からなる層を挙げることができ、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層が好ましい。カーボン層は、化学的安定性に優れておりその後の化学修飾や分析対象物質との結合における反応に耐えることができる点、分析対象物質と静電結合によって結合するためその結合が柔軟性を持っている点、UV吸収がないため検出系UVに対して透明性である点、およびエレクトロブロッティングの際に通電可能な点において有利である。また、分析対象物質との結合反応において、非特異的吸着が少ない点においても有利である。
【0024】
本発明においてカーボン層の形成は公知の方法で行うことができる。例えば、マイクロ波プラズマCVD(Chemical vapor deposit)法、ECRCVD(Electric cyclotron resonance chemical vapor deposit)法、ICP(Inductive coupled plasma)法、直流スパッタリング法、ECR(Electric cyclotron resonance)スパッタリング法、イオン化蒸着法、アーク式蒸着法、レーザ蒸着法、EB(Electron beam)蒸着法、抵抗加熱蒸着法などが挙げられる。
【0025】
高周波プラズマCVD法では、高周波によって電極間に生じるグロー放電により原料ガス(メタン)を分解し、基板上にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)層を合成する。イオン化蒸着法では、タングステンフィラメントで生成される熱電子を利用して、原料ガス(ベンゼン)を分解・イオン化し、バイアス電圧によって基板上にカーボン層を形成する。水素ガス1〜99体積%と残りメタンガス99〜1体積%からなる混合ガス中で、イオン化蒸着法によりDLC層を形成してもよい。
【0026】
アーク式蒸着法では、固体のグラファイト材料(陰極蒸発源)と真空容器(陽極)の間に直流電圧を印加することにより真空中でアーク放電を起こして陰極から炭素原子のプラズマを発生させ蒸発源よりもさらに負のバイアス電圧を基板に印加することにより基板に向かってプラズマ中の炭素イオンを加速しカーボン層を形成することができる。
【0027】
レーザ蒸着法では、例えばNd:YAGレーザ(パルス発振)光をグラファイトのターゲット板に照射して溶融させ、ガラス基板上に炭素原子を堆積させることによりカーボン層を形成することができる。
【0028】
本発明の固体支持体表面のカーボン層の厚さは、通常、単分子層〜100μm程度であり、薄すぎると下地基板の表面が局部的に露出する可能性があり、逆に厚くなると生産性が悪くなるので、好ましくは2nm〜1μm、より好ましくは5nm〜500nmである。なお、固体支持体のすべてが炭素材料で構成されていてもよい。
【0029】
質量分析を行うため、本発明の固体支持体の形状は平板状であることが好ましい。そのサイズは、特に制限されないが、通常は、幅10〜200mm×長さ10〜200mm×厚み0.1〜20mm程度である。
【0030】
生体分子を固定化するためには、カーボン層が形成された基板の表面を化学修飾することが好ましい。このような化学修飾は、当業者であれば適宜選択することができ、特に制限されないが、例えば、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ホルミル基、ヒドロキシル基および活性化エステル基を導入することが挙げられる。また、ニッケルキレート、コバルトキレート等の金属キレートを導入することも有効である。
【0031】
アミノ基の導入は、例えば、カーボン層をアンモニアガス中で紫外線照射することにより実施できる。または、カーボン層を塩素ガス中で紫外線を照射して塩素化し、さらにアンモニアガス中で紫外線照射することにより実施できる。または、メチレンジアミン、エチレンジアミンで等の多価アミン類ガスを、塩素化したカーボン層と反応させることによって実施することもできる。
【0032】
カルボキシル基の導入は、例えば、上記のようにアミノ化したカーボン層に適当な多価カルボン酸を反応させることにより実施できる。
【0033】
エポキシ基の導入は、例えば、上記のようにアミノ化したカーボン層に適当な多価エポキシ化合物を反応させることによって実施できる。あるいは、カーボン層が含有する炭素=炭素2重結合に有機過酸を反応させることにより得ることができる。有機過酸としては、過酢酸、過安息香酸、ジペルオキシフタル酸、過ギ酸、トリフルオロ過酢酸などが挙げられる。
【0034】
ホルミル基の導入は、例えば、上記のようにアミノ化したカーボン層に、グルタルアルデヒドを反応させることにより実施できる。
【0035】
ヒドロキシル基の導入は、例えば、上記のように塩素化したカーボン層に、水を反応させることにより実施できる。
【0036】
活性化エステル基の導入は、例えば、塩素ガス中でカーボン層に紫外線を照射して表面を塩素化し、ついで、アンモニアガス中で紫外線を照射してアミノ化した後、適当な酸クロリドまたはジカルボン酸無水物を用いてカルボキシル化し、末端のカルボキシル基をカルボジイミドまたはジシクロヘキシルカルボジイミドおよびN−ヒドロキシスクシンイミドと脱水縮合することにより実施できる。この処理により、アミド結合を介して炭化水素基の末端に、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基等の活性化エステル基が結合した基を形成することができる(特開2001−139532)。
【0037】
DNAおよびRNA等の核酸を保持する場合は、アミノ基、カルボジイミド基、エポキシ基、ホルミル基または活性化エステル基を導入するのが好ましい。
【0038】
ペプチドを保持する場合は、アミノ基、カルボジイミド基、エポキシ基、ホルミル基、金属キレートまたは活性化エステル基を導入するのが好ましい。金属キレートを導入した固体支持体を使用すると、ポリヒスチジン配列等の金属イオンと親和性のある標識を有するペプチドを効果的かつ安定に固定化することができる。金属キレートの導入は、例えば、カーボン層が形成された基板を塩素化し、次いでこれをアミノ化した後、クロロ酢酸等のハロカルボン酸を添加してキレート配位子を導入することにより実施できる。ポリヒスチジン配列等の標識は、当業者に公知の方法により導入することができる。
【0039】
また、上記化学修飾は、表面カーボン層上に静電層を形成することにより行ってもよい。該静電層は、アミノ基含有化合物など正荷電を有する化合物を用いて形成することができる。
【0040】
前記アミノ基含有化合物としては、非置換のアミノ基(−NH2)、または炭素数1〜6のアルキル基等で一置換されたアミノ基(−NHR;Rは置換基)を有する化合物、例えばエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、n−プロピルアミン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、アリルアミン、アミノアゾベンゼン、アミノアルコール(例えば、エタノールアミン)、アクリノール、アミノ安息香酸、アミノアントラキノン、アミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、プロリン、シスチン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、アニリン、またはこれらの重合体(例えば、ポリアリルアミン、ポリリシン)や共重合体;4,4’,4”-トリアミノトリフェニルメタン、トリアムテレン、スペルミジン、スペルミン、プトレシンなどのポリアミン(多価アミン)が挙げられる。
【0041】
静電層は、基板またはカーボン層と共有結合させずに形成してもよく、基板またはカーボン層と共有結合させて形成してもよい。
【0042】
静電層を基板またはカーボン層と共有結合させずに形成する場合には、例えば、カーボン層を製膜する際に前記アミノ基含有化合物を製膜装置内に導入することによって、アミノ基を含有する炭素系皮膜を製膜する。製膜装置内に導入する化合物として、アンモニアガスを用いてもよい。また、表面処理層は、密着層を形成した後にアミノ基を含有する皮膜を形成するといった、複層であってもよく、この場合もアンモニアガスを含んだ雰囲気で行ってもよい。製膜は、例えばプラズマ法によって実施できる。
【0043】
また、静電層を基板またはカーボン層と共有結合させずに形成する場合には、静電層と基板またはカーボン層との親和性、即ち密着性を高める点で、基板上に、前記の非置換または一置換されたアミノ基を有する化合物および炭素化合物を蒸着させることが好ましい。ここで用いる炭素化合物としては、気体として供給することができれば特に制限はないが、例えば常温で気体であるメタン、エタン、プロパンが好ましい。蒸着の方法としては、イオン化蒸着法が好ましく、イオン化蒸着法の条件としては、作動圧が0.1〜50Pa、そして加速電圧が200〜1000Vの範囲であることが好ましい。
【0044】
静電層を基板またはカーボン層と共有結合させて形成する場合には、例えば、基板またはカーボン層を施した基板に、塩素ガス中で紫外線照射して表面を塩素化し、次いで前記アミノ基含有化合物のうち、例えば、ポリアリルアミン、ポリリシン、4,4',4”-トリアミノトリフェニルメタン、トリアムテレン等の多価アミンを反応させて、基板と結合していない側の末端にアミノ基を導入することにより、静電層を形成することができる。
【0045】
基板を、非置換または一置換されたアミノ基を有する化合物を含有する溶液中に浸漬することにより、静電層を形成する場合に、アミノ基含有化合物としてポリアリルアミンを用いると、基板との密着性に優れ、生体分子の固定化量がより向上する。アミノ基含有化合物とともにシランカップリング剤が共存する溶液に基板を浸漬することにより、静電層を形成することもできる。
静電層の厚みは、1nm〜500μmであることが好ましい。
【0046】
本発明においては、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化し、固体支持体上の生体分子を酵素で分析し、得られた分解物を質量分析することにより生体分子を分析する。
【0047】
一実施形態においては、生体分子をスポッティグ用バッファーに溶解し、本発明の固体支持体上にスポッティングすることにより、生体分子を固体支持体上に固定化する。
【0048】
生体分子を、濃度が通常0.001〜100pmol、好ましくは0.01〜50pmolとなるようにスポッティング用バッファーに溶解し、スポッティング用溶液を調製する。スポッティング用バッファーとしては、1〜100%、好ましくは20〜50%のPEG(ポリエチレングリコール)溶液、1〜100%、好ましくは20〜50%のグリセロール溶液、PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)、50%DMSO(ジメチルスルホキシド)、3×SSC(saline sodium citrate)、純水等を使用することができる。
【0049】
調製したスポッティング用溶液を、96穴もしくは384穴プラスチックプレートに分注し、分注した溶液をスポッター装置等によって固体支持体上にスポッティングすることができる。または、マイクロピペッターにて手動でスポッティングすることができる。このとき、多種類の生体分子を互いに独立したスポットとしてアレイ状に配列することにより、この複数種の生体分子を迅速に分析することができる。
【0050】
スポッティング後、生体分子が固体支持体に結合する反応を進行させるため、インキュベーションを行うことが好ましい。インキュベーションは、通常−20〜100℃、好ましくは0〜40℃の温度で、通常0.5〜16時間、好ましくは1〜2時間にわたって行う。インキュベーションは、高湿度の雰囲気下、例えば、湿度50〜90%の条件で行うのが望ましい。インキュベーションに続き、固体支持体に結合していないポリペプチドを除去するため、洗浄液(例えば、50mM TBS/0.05% Tween20)を用いて洗浄を行うことが好ましい。
【0051】
本発明の別の実施形態では、試料中の生体分子をゲル電気泳動で分離し、ゲル中に分離された生体分子を固体支持体上に転写することにより、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化する。
【0052】
試料の分離に使用できるゲル電気泳動法としては、特に制限されないが、例えば、アガロースゲル電気泳動法、sievingアガロースゲル電気泳動法、変性アガロースゲル電気泳動法、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法、等電点ゲル電気泳動法および二次元電気泳動法などを挙げることができる。当業者であれば、分離の対象となる物質の種類および分子量等から使用する電気泳動法の種類を適宜選択することができる。
【0053】
アガロースゲル電気泳動法は、核酸を分離するために最もよく利用される手法である。アガロースゲルはポリアクリルアミドゲルと比較してゲルの網目構造が大きいため、数十〜数百KbpのDNAフラグメントを長さや分子構造の違いで分離することができる。DNAフラグメント全体の荷電状態は主にリン酸基の数に依存するため、移動度はDNAフラグメントの大きさに比例する。電場方向を断続的に変化させて泳動すると酵母染色体などの巨大DNAを分離することもできる(パルスフィールド電気泳動)。
【0054】
核酸のポリアクリルアミドゲル電気泳動は、DNAフラグメントの解析に主に用いられ、ポリアクリルアミドゲルの微細な網目構造を利用して、アガロースゲル電気泳動の場合に比較して短鎖(〜1Kbp)のフラグメントを長さと構造に基づいて分離する手法である。DNAの立体構造(コンフォメーション)の影響を強く受けるため、DNA鎖長の推定は二本鎖DNAを泳動する場合に限られる。一本鎖DNAは様々な構造を取ることが予想されるので移動度とそのDNA鎖長との間に相関は見られず、しばしば複数のバンドとして検出されることもある。DNA塩基のわずかな違いでも構造変化がおこり、泳動パターンに反映される。これを利用したDNAフラグメント解析手法(SSCP:Single−Strand Conformation Polymorphism)も開発され遺伝子変異解析に利用されている。特殊な配列(繰返し配列や塩基の偏りなど)を含む二本鎖DNAフラグメントはDNA構造を歪めることが知られており、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法はDNAの構造・機能解析にも使用できる。また、尿素などを含む変性ゲル中では、一本鎖DNAも構造の影響を受けることなく鎖長に応じて分離できる。
【0055】
SDS(Sodium dodecyl sulfate)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE法)は、目的タンパク質の高次構造を変性して分子量の違いにより分離する手法である。ポリアクリルアミドゲルは、ゲル中の細孔径が密なため100〜200KDa以下のタンパク質やポリペプチドを分離するのに適している。操作が簡便で再現性が高いので、タンパク質の電気泳動では最もよく用いられている手法である。通常は、泳動サンプルの調製時にβ-メルカプトエタノールやDTT(Dithiothreitol)などの還元剤を添加してタンパク質のS−S結合(ジスルフィド結合)を切断する。SDSの結合量によって分子の電荷がほぼ決まるため、電気泳動によりポリペプチド分子を分子量に従って分離することができる。SDSは強力な陰イオン界面活性剤なので、膜タンパク質などの不溶性タンパク質の可溶化にも適している。
【0056】
等電点電気泳動は、タンパク質の等電点(pI)の違いを利用して分離し、目的タンパク質の等電点測定や分析を行う泳動手法である。タンパク質を構成しているアミノ酸側鎖やアミノ末端、カルボキシル末端の電荷はpH条件によって変化し、電荷の総和がゼロになるpHの値が等電点となる。等電点電気泳動を行うには、泳動ゲル中にpH勾配を作る必要がある。サンプルを泳動ゲルに添加して電場をかけると、それぞれのタンパク質は固有のpIと同じpHに向かってpH勾配を形成したゲル中を移動する。pH勾配ゲルの作製には、両性担体(キャリアアンフォライト)をゲルに添加して電場をかけてpH勾配を形成する手法と、様々なpIの側鎖を持つアクリルアミド誘導体を用いてゲル作製と同時にpH勾配を形成する手法(IPG法:Immobilized pH gradient)とがあり、プロテオミクス研究では、分離能、再現性、添加許容量ともに優れるIPG法が主に用いられている。IPG法専用のプレキャストゲル(Immobiline DryStrip Gel)が市販されている。キャリアアンフォライトを用いる等電点泳動の分離能は0.01〜0.02pH単位で、IPG法では0.001pH単位の違いでも分離することができる。
【0057】
二次元電気泳動法は、二段階の電気泳動によりタンパク質を二次元に分離する方法である。一般的に一次元目は等電点電気泳動によりタンパク質を分離し、二次元目はSDS−PAGE法により分子量で分離する。いずれの手法も分離能が非常に高いので、細胞全タンパク質を数千以上にもおよぶスポットに分離することができる。再現性と解像度に優れた固定化pH勾配法(IPG法)を一次元目泳動に用いることが一般的である。また、より多くのスポットを得るために、幅広いpHレンジの分離結果を基にしてNarrow pH IPGゲルで目的pH部分のみを分離したり、20cm以上の大型ゲルを用いて二次元目電気泳動を行うこともできる。
【0058】
本発明においては、核酸を分離する場合は、アガロースゲル電気泳動法を使用するのが好ましく、ペプチドを分離する場合は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法および二次元電気泳動法を使用するのが好ましい。
【0059】
電気泳動後、ゲルを、固体支持体に載る大きさに切り出し、ゲルと固体支持体とを密着させて、ゲル中に分離された生体分子を本発明の固体支持体上に転写する。固体支持体への転写方法としては、特に制限されず、当技術分野で通常用いられる方法を使用することができる。例えば、毛細管現象を利用したキャピラリー式ブロッティング、ポンプにより吸引するバキューム式ブロッティングおよび電気的手法を用いるエレクトロブロッティングが挙げられる。核酸を転写する場合は、キャピラリー式ブロッティングを使用するのが好ましく、ペプチドを転写する場合は、エレクトロブロッティングを使用するのが好ましい。
【0060】
エレクトロブロッティングにおいては、タンク式、セミドライ式およびセミウェット式のいずれも使用することができるが、バッファー使用量の少なさや、反応時間の短さ等の観点からセミドライ式エレクトロブロッティングを使用するのが好ましい。ブロッティング装置としては、当技術分野で通常用いられているエレクトロブロッティング装置を使用することができる。エレクトロブロッティングにおける通電条件は、定電圧、200V以下、好ましくは0.1〜10Vで、1〜500分間、好ましくは5〜100分間が好ましい。ただし、電圧を金属基板の酸化電位より高くすると金属の溶出がおこるため、基板金属の酸化電位より低い電圧で行うのが好ましい。
【0061】
以下に、試料中のタンパク質を分析する場合の本発明における電気泳動および転写の一態様を示す。まず、試料中のタンパク質を可溶化する。すなわち、試料に存在するタンパク質分解酵素を失活させるとともに、SDSとβ−メルカプトエタノールによってタンパク質を効果的に変性させる目的で沸騰水中で一定時間熱処理する。次にSDS−ポリアクリルアミドゲルの各レーンに一定量注入し、SDSを含むグリシン−トリスバッファーを泳動用バッファーとして、一定電圧で一定時間泳動させる。泳動後、ゲルをあらかじめ冷却しておいたメタノールを含むグリシン−トリスバッファー(転写用バッファー)に一定時間浸漬し、平衡化する。続いて、ゲルを陰極側、転写用固体支持体を陽極側としてエレクトロブロッティング装置に装着する。転写槽には転写用バッファーを加え、氷冷下、定電圧で一定時間転写を行う。このとき、転写効率を上げる観点から、陰極とゲルの間、および陽極と固体支持体の間に、バッファーやイオン交換水を含ませたろ紙を配置するのが好ましい。陰極側のろ紙に含ませるバッファーとしては、ホウ酸、Tris、ε−アミノカプロン酸、酢酸、EDTA、リン酸、酒石酸、SDS等を含むものが挙げられる。ホウ酸、Trisおよびε−アミノカプロン酸を含むバッファーを用いる場合、ε−アミノカプロン酸の濃度は通常、1000mM以下、好ましくは1μM〜1000mM、より好ましくは1〜300mMである。陽極側のろ紙には、イオン交換水を含ませるのが好ましい。また、陽極側のろ紙は、存在しなくてもよい。
【0062】
本発明のさらに別の実施形態においては、試料中の生体分子をゲル電気泳動で分離し、ゲル中に分離された生体分子をメンブレン上に転写し、該メンブレン上に転写された生体分子を固体支持体上に転写することにより、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化する。この場合に使用できるメンブレンの材質としては、ニトロセルロース、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ナイロンおよびポジティブチャージナイロン等が挙げられる。タンパク質の転写においては、タンパク質の結合能力が最も高いPVDFを使用するのが好ましく、核酸の転写においても核酸の非特異吸着が少ないPVDFを使用するのが好ましい。泳動物質のゲルからメンブレンへの転写およびメンブレンから固体支持体への転写は、上記と同様の方法により実施できる。ゲルからメンブレンへの転写においては、エレクトロブロッティングを使用するのが好ましく、エレクトロブロッティングにおける通電条件は、0.1〜50Vで、5〜120分間程度が好ましい。メンブレンから固体支持体への転写においても、エレクロトブロッティングを利用するのが好ましい。
【0063】
本発明の方法では、上記のようにして固体支持体に固定化された生体分子を酵素で分解し、得られた分解物を質量分析する。
【0064】
生体分子を分解するための酵素は、マスフィンガープリンティング法で使用できるものであれば特に制限されず、当業者であれば、分析対象となる生体分子に応じて選択することができる。核酸を分析する場合は、酵素としてヌクレアーゼ、特に制限酵素(例えば、REBASEのデータベースに記載のもの)を使用する。ヌクレアーゼとしては、例えば、S1 ヌクレアーゼ、蛇毒ヌクレアーゼ、脾臓ホスホジエステラーゼ、スタフィロコッカスヌクレアーゼ、マングマメヌクレアーゼ、アカパンカビヌクレアーゼ、RNase H、膵臓DNaseI、Bal31、ExoI、ExoIII、ExoVII、λエキソヌクレアーゼ、AarI、AatII、AccI、AceIII、AciI、AclI、AcyI、Hin1I、AflII、AflIII、AgeI、AhaIII、AlfI、AloI、AluI、AlwNI、ApaI、ApaBI、ApaLI、ApoI、AscI、AspCNI、AsuI、Cfr13I、AsuII、BspT104I、AvaI、AvaII、VpaK11BI、EcoT22I、BlnI、BbvII、BbvCI、BccI、BcefI、Bce83I、BcgI、BciVI、FbaI、BetI、BfiI、BglI、BglII、BinI、BmgI、BplI、Bpu10I、BsaAI、BsaBI、BsaXI、BsbI、BscGI、BseMII、BsePI、BseRI、BseSI、BseYI、BsgI、BsiYI、BsmI、BsmAI、BspGI、BspHI、BspLU11I、BspMI、BspGII、BspNCI、Bsp24I、Bsp1407I、BsrI、BsrBI、BsrDI、BstEII、BstPI、EcoO65I、BstXI、BtgZI、BtrI、BtsI、Cac8I、CauII、BcnI、CdiI、CfrI、EaeI、Cfr10I、CjeI、CjePI、ClaI、CviJI、CviRI、CdeI、DpnI、DraII、DraIII、DrdI、DrdII、DsaI、Eam1105I、EcoNI、EciI、EcoNI、EcoRI、EcoRII、MvaI、EcoRV、Eco31I、Eco47III、Aor51HI、Eco57I、Eco57MI、EspI、Bpu1102I、Esp3I、FalI、FauI、FinI、FnuDII、AccII、Fnu4HI、FokI、FseI、FspAI、GdiII、GsuI、HaeI、HaeII、HaeIII、HaeIV、HgaI、HgiAI、HgiCI、BspT107I、HgiEII、HgiJII、BanII、HhaI、HindII、HincII、HindIII、HinfI、Hin4I、Hin4II、HpaI、HpaII、HapII、MspI、HphI、Hpy99I、Hpy178III、Hpy188I、KpnI、Ksp632I、MaeI、XspI、MaeII、MaeIII、MboI、Sau3AI、MboII、McrI、MfeI、MunI、MjaIV、MluI、MmeI、MnlI、MstI、NsbI、MwoI、NaeI、NarI、BbeI、NcoI、NdeI、NheI、NlaIII、NlaIV、NotI、NruI、NspI、NspBII、OliI、PacI、PflMI、Pfl1108I、PfoI、PleI、PmaCI、PmeI、PpiI、PpuMI、PshAI、PsiI、PsrI、PstI、PvuI、PvuII、RleAI、RsaI、AfaI、RsrII、CpoI、SacI、SacII、SalI、SanDI、SapI、SauI、Eco81I、ScaI、ScrFI、SduI、Bsp1286I、SecI、SexAI、SfaNI、SfeI、SfiI、SgfI、SgrAI、SimI、SmaI、SmlI、SnaI、SnaBI、SpeI、SphI、SplI、SrfI、Sse8387I、Sse8647I、SspI、Sth132I、StuI、StyI、EcoT14I、SwaI、taqI、taqII、tatI、TauI、TfiI、TseI、TspDTI、TspEI、TspGWI、TspRI、Tsp4CI、Tsp45I、Tth111I、Tth111II、UbaDI、UbaEI、UbaGI、UbaHI、UbaNI、UbaPI、VspI、PshBI、XbaI、XcmI、XhoI、XhoII、MflI、XmaIII、Eco52IおよびXmnI等が挙げられる。
【0065】
タンパク質を分析する場合は、酵素としてプロテアーゼを使用する。プロテアーゼとしては、例えば、トリプシン、AchromobacterプロテアーゼI(API、リジルエンドペプチダーゼ)、Staphylococcus aureus V8 プロテアーゼ、エンドプロテイナーゼAsp−N、トロンビン、アミノペプチダーゼM、ブロメライン、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼP、カルボキシペプチダーゼY、カテプシンC、キモトリプシンA、クロストリパイン、コラゲナーゼ、ディスパーゼ(protease neutral)、エラスターゼ、エンドプロテイナーゼArg−C、エンドプロテイナーゼGlu−C(プロテアーゼV8)、エンドプロテイナーゼLys−C、Xa因子、フィシン、ロイシンアミノペプチダーゼ、パパイン、ペプシン、プラスミン、プロナーゼ、プロテイナーゼK、ピログルタメートアミノペプチダーゼ、スブチリシン、サーモリシン、トロンビンを使用することができる。タンパク質をプロテアーゼで分解する場合、通常25〜42℃、より好ましくは35〜39℃で、1〜24時間反応を行う。
【0066】
ここで分解物とは、生体分子を酵素で分解することによって得られる小分子を意味し、長鎖核酸分子を酵素分解して得られる核酸断片、およびポリペプチド、オリゴペプチドまたはタンパク質を酵素分解して得られるペプチド断片が包含される。
【0067】
酵素分解では、塩はイオン化を阻害するため、塩濃度を薄くするか、揮発性の塩を使用するのが好ましい。また、酵素分解反応中の溶液乾燥は切断反応を停止させるため、湿度を保って乾燥を防ぐのが好ましい。
【0068】
本発明では、マスフィンガープリント法により、固体支持体上に固定化された生体分子を同定することができる。すなわち、生体分子の酵素分解物に含まれる多数の消化断片に由来するイオンの質量を測定し、既知のデータベースと比較することにより、固体支持体に固定化された生体分子を同定することができる。さらに、低分子化処理により、MALDI特有のポストソースディケイ(PSD)解析ができるようになるためMS/MS解析で容易にアミノ酸配列等を決定できる。このため、データベースサーチにMS/MS解析のデータを使ったデータベース検索ができる。
【0069】
ペプチドを同定するためのデータベースとしては、例えば、Mascot、MS−Tag、Peptide Search、PepFrag、SEQUESTなどが挙げられる(実験医学別冊、ポストゲノム時代の実験講座2、プロテオーム解析法、羊土社(2000))。
【0070】
本発明のさらに別の実施形態においては、固体支持体上に固定化された生体分子にさらなる生体分子を相互作用させ、固体支持体上の生体分子および/または相互作用した生体分子を酵素で分解し、得られた分解物を質量分析することにより、固体支持体上に固定化された生体分子および/または当該生体分子と相互作用した生体分子を分析することができる。
【0071】
既に述べたような方法により、タンパク質が固体支持体上に固定化される場合は、該タンパク質に対する抗体または抗体断片を反応させて複合体を形成し、該複合体をイオン化することにより質量分析を行うことができ、該タンパク質に対する特異的な抗体の同定や抗体のエピトープ部位を決定することができる。また、抗体断片が固体支持体上に固定化される場合は、タンパク質(抗原)を反応させて複合体を形成し、該複合体をイオン化することにより質量分析を行い、抗体のエピトープ部位を決定することができる。さらに、DNAまたはRNA等の核酸が固体支持体上に固定化される場合は、該核酸に対して相補的な核酸を固体支持体上の核酸にハイブリダイズさせ、形成した二本鎖をイオン化して質量分析を行うことができる。その他の相互作用としては、例えば、リガンドと受容体の相互作用、酵素反応、ビオチン−ストレプトアビジン相互作用等が挙げられる。相互作用によって形成した複合体の質量分析を行うことにより、プローブ分子に特異的に相互作用したターゲット分子を同定し、その塩基配列またはアミノ酸配列を解析することができる。
【0072】
本発明の別の態様においては、生体分子の相互作用を分析することを目的として、溶液中で相互作用する生体分子の複合体を形成した後、これを電気泳動に付し、電気泳動によって分離された複合体を固体支持体上に固定化し、固体支持体上の複合体をイオン化することによって質量分析を行うこともできる。このような分析方法は、溶液中で複合体形成を行うものであるため、タンパク質の分析など、分析対象分子の立体構造を高度に保持する必要がある解析に有利である。
【0073】
質量分析方法として、電気的相互作用を利用して原子・分子のイオンを質量の違いによって分析する手法を使用できる。このような質量分析方法は、イオンの生成・分離・検出の3つの工程を含む。
【0074】
固体支持体上に固定化された生体分子の酵素分解物を質量分析する方法としては、特に制限されず、当技術分野で公知のものを使用できる。質量分析する際に使用できるイオン化法の様式としては、マトリックス補助レーザ脱離(MALDI)法、電子衝撃によるイオン化(EI)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、光イオン化法、放射性同位体から放射されるLETの大きなαまたはβ線を使用するイオン化法、2次イオン化法、高速原子衝突イオン化法、電界電離イオン化法、表面電離イオン化法、化学イオン化(CI)法、フィールドイオン化(FI)法、火花放電によるイオン化法等が挙げられ、マトリックス補助レーザ脱離(MALDI)法が好ましい。また、分離様式としては、線形または非線形反射飛行時間型(TOF)、単一または多重四重極型、単一または多重磁気セクター型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)型、イオン捕獲型、高周波型ならびにイオン捕獲/飛行時間型等が挙げられ、線形または非線形反射飛行時間(TOF)型、高周波およびイオン捕獲/飛行時間型を用いるものが好ましい。上記のようなイオン化法と分離様式、電気的記録ならびに写真記録のような検出様式とを組み合わせることにより質量分析を実施することができる。具体的には、MALDI−TOF MS、ESI Q−TOF MS、MALDI Q−TOF MS等が挙げられる。生体分子などの高分子物質をイオン化し、固体支持体上の複数の分子を分析するという観点からは、レーザ脱離/イオン化−飛行時間型質量分析、特にMALDI−TOF MSを利用するのが好ましい。
【0075】
以下に本発明の一態様として、MALDI−TOF MSを用いた質量分析の手順を説明する。
【0076】
分析対象が固定化された本発明の固体支持体にマトリックス溶媒を添加し、乾燥させる。マトリックス溶媒としては、α-シアノヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸などを含むものが使用できる。本発明においては、1〜80%α-シアノヒドロキシ桂皮酸、1〜80%のアセトニトリルを含むマトリックス溶媒を用いるのが好ましい。このようなマトリックスを用いることによりマトリックス溶媒がレーザーのエネルギーを効果的に吸収して、そのエネルギーが間接的にタンパク質やペプチドに伝わり、イオン化が起こる。次ぎに該固体支持体を、MALDI−TOF MSのフラットターゲットに設置する。そして、MassLynxソフトウエア等を用いて質量分析を開始する。MassLynxによって測定と解析の全てをコントロールすることができる。測定時に、自動測定のパラメーターファイルと、測定後に行うデータプロセスおよびデータベース解析のプロセスファイル、ならびに試料リストなどを作成する。データプロセシングは、ProteinLynxソフトウエアを用いてMassLynx上で行うことができる。取り込まれたデータから質量スペクトルを作成し、作成されたスペクトルは、MaxEnt 3ソフトウエア(Micromass社)により、精度を高めた後、モノアイソトピック・ピークデータに変換する。続いてキャリブレーションを行い質量誤差約50ppmの最終データとする。
【0077】
固体支持体にペプチドが固定化されている場合、質量分析に続いてペプチドのアミノ酸配列分析および同定を行うことができる。MALDI−TOF MSの分析モードをポストソースディケイ(PSD)スペクトルを検出できるモードにし、ペプチドのアミノ酸配列を分析する。続いて、アミノ酸配列データを基にSWISSPROTデータベースを検索し、ペプチドを同定する。あるいは、MALDI−TOF/TOF MSやMALDI Q−TOF MSにペプチドが固定化された固体支持体を設置してアミノ酸配列を分析し、ペプチドを同定することができる。
【0078】
本発明はまた、上記の生体分子の分析方法において使用するためのキットであって、表面にカーボン層を有する固体支持体および酵素を含むキットに関する。本発明のキットは、表面にカーボン層を有する固体支持体および酵素を含み、本発明の分析方法に使用するためのものであることを除き、公知公用のキットに用いられている各要素によって構成することができる。表面にカーボン層を有する固体支持体および酵素に加え、例えば、緩衝液、マトリックス溶媒、洗浄バッファー、試料希釈液、反応停止液、標準物質等を含みうる。
【0079】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
(実施例1)Ti−Pt−DLC固体支持体へのタンパク質の転写
固体支持体の作成
76mm×26mm×1.1mmのスライドガラスにTi層およびその上にPt層をマグネトロンスパッタリングにより形成した。スパッタリングの条件は以下の通りである。生成した金属層の厚みは、Ti層およびPt層それぞれが100nmであった。
【0081】
【表1】
【0082】
そして、金属層を形成した基板上にダイヤモンドライクカーボン層を形成した。ダイヤモンドライクカーボン層の形成はイオン化蒸着法により以下の条件で行った。生成したダイヤモンドライクカーボン層の厚みは、20nmであった。
【0083】
【表2】
【0084】
上記のようにして基板1にダイヤモンドライクカーボン層を形成した後、表面を塩素ガス中で1分間紫外線を照射することにより塩素化し、アンモニアガス中で10分間紫外線を照射することによりアミノ化して固体支持体1を作成した。
【0085】
SDS−PAGE法による電気泳動
Cy3-プロテインA(1.5μg、SIGMA社製)、大腸菌タンパク質(0.5μg)およびマーカー(Prestained Broad Range、0.5μl、BIO RAD社製)を試料として用い、SDS−PAGE用装置(ATTO社製 AE−7300型)を用いて電気泳動を行った。泳動用のゲルとしては、10%ポリアクリルアミドゲルを使用した。泳動用バッファーは0.1%SDSを含むグリシン―トリスバッファー(pH8.3)を用い、泳動は200Vで35分間行った。泳動終了後、15分間CBB染色し、脱染色したあと、LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した(図1)。約50kDa付近にCy3-プロテインAのバンドが検出された。
【0086】
エレクトロブロッティング
泳動後のポリアクリルアミドゲルを、あらかじめ冷却しておいた転写用バッファー(25mM Tris、5%メタノール)に30分間浸漬し、平衡化した。次いで、ポリアクリルアミドゲルを固体支持体1に載る大きさに切り取って、該固体支持体と密着させ、ポリアクリルアミドゲルを陰極、固体支持体を陽極に設置し、下記条件で通電した。
【0087】
【表3】
【0088】
蛍光強度の測定
タンパク質転写後の固体支持体1の蛍光強度をFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で測定したところ、蛍光強度が28270として測定され、Cy3−プロテインAが固体支持体表面に固定化されたことが確認された(図2)。続いて、該固体支持体をPBSで10分間洗浄した後、同様に蛍光強度を測定したところ、蛍光強度は9766であり、約1/3程度まで低下した(図3)。ブロッキング試薬(Roche社製)で1時間ブロッキングし、蛍光強度を測定したところ蛍光強度に変化はなかった。次ぎに、500μlの0.05μg/μl Cy3−IgGを添加して室温で1時間反応させた後、PBSで室温にて12時間洗浄し、蛍光強度を測定した(図4)。蛍光強度は16448であり、増加していることから、プロテインAとIgGが結合したこと、すなわち、転写保持されたタンパク質の結合能が維持されたことがわかる。
【0089】
(実施例2)ステンレス−DLC固体支持体へのタンパク質の転写
ステンレス−DLC固体支持体の作成
ステンレス基板にダイヤモンドライクカーボン層を形成した。ステンレス基板は、平滑性と蛍光バックグラウンドを下げるために、予めバフ研磨後、更に電解研磨を施した。ダイヤモンドライクカーボン層の形成はイオン化蒸着法により以下の条件で行った。生成したダイヤモンドライクカーボン層の厚みは、20nmであった。また、アンモニアプラズマ処理することによりアミノ基を導入することにより固体支持体2を作成した。
【0090】
【表4】
【0091】
Cy3−プロテインA(0.2μg、SIGMA社製)を実施例1と同様にSDS−PAGE法(ATTO社製 AE−6530型)で泳動し、泳動終了後、15分間CBB染色し、脱染色したあと、LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した(図5)。
【0092】
泳動後のゲルを取り出し、固体支持体2に載る大きさに切った後、転写用バッファーB(25mM Tris、5% メタノール)に浸した。予め固体支持体2の大きさに切っておいたろ紙(ATTO社製)をそれぞれ、転写用バッファーA(0.3M Tris、5% メタノール)、C(25mM Tris、40mM ε−アミノカプロン酸、5% メタノール)またはイオン交換水に浸した。続いて、気泡が入らないように、ろ紙、ゲル、固体支持体を図6のように重ねてセミドライブロッティング装置に設置し、8V、4mAで60分間通電し、タンパク質を固体支持体2に転写した。転写後の固体支持体2をイオン交換水で室温にて30分間洗浄し、乾燥させた後、転写後の固体支持体とゲルをFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した(図7)。
【0093】
(1)は、陰極側および陽極側のろ紙の双方にイオン交換水を含ませて転写を行った場合の結果である。Cy3−プロテインAはゲルからほとんど抜け出ておらず、また固体支持体にも転写保持されていなかった。
【0094】
(2)は、ろ紙Iに転写用バッファーC、ろ紙IIに転写用バッファーB、ろ紙IIIに転写用バッファーAを含ませて転写を行った場合の結果である。Cy3−プロテインAはゲルから多少減少しているが、固体支持体には転写保持されていなかった。
【0095】
(3)は、ろ紙Iに転写用バッファーC、ろ紙IIおよびIIIにイオン交換水を含ませて転写を行った場合の結果である。ゲルは、固体支持体に重ねる前に、水分をふき取った。その結果、Cy3−プロテインAは、均一ではないがゲルから抜け出ていることが確認された。また、固体支持体上には形状は良くないが転写保持が見られた。
【0096】
(4)は、ろ紙Iに転写用バッファーC、ろ紙IIおよびIIIにイオン交換水を含ませ、ゲルの水分をふきとらずに固体支持体に重ねて転写を行った場合の結果である。その結果、Cy3−プロテインAは、均一ではないがゲルから抜け出ていることが確認された。また、固体支持体上にはCy3−プロテインAが形状良く転写保持されていた。
【0097】
以上から、ゲル中のタンパク質の固体支持体への転写においては、陰極側のろ紙には転写用バッファーを、陽極側のろ紙にはイオン交換水を含ませ、泳動後のゲルの水分をふきとることなく転写を行うことが好ましいと考えられる。
【0098】
(実施例3)ステンレス−DLC固体支持体へのタンパク質の転写
Cy3−プロテインA(50ng、SIGMA社製)およびCy3−IgA(100ng、SIGMA社製)を実施例1と同様にSDS−PAGE法(ATTO社製 AE−6530型)で泳動し、泳動終了後、15分間CBB染色し、脱染色したあと、LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した(図8)。なお、Cy3-IgAの泳動については、12%ポリアクリルアミドゲルを使用した。また、実施例2と同様にして、固体支持体2を作成した。
【0099】
泳動後のゲルを取り出し、固体支持体2に載る大きさに切った後、転写用バッファー(25mM Tris、5% メタノール)に浸した。予め固体支持体の大きさに切っておいたろ紙(ATTO社製)をそれぞれ、転写用バッファーC1(25mM Tris、40mM ε−アミノカプロン酸、5% メタノール)、C2(25mM Tris、400mM ε−アミノカプロン酸、5% メタノール)またはイオン交換水に浸した。続いて、気泡が入らないように、ろ紙、ゲル、固体支持体を実施例2の図6と同様に重ね、セミドライブロッティング装置に設置した。このとき、陰極側のろ紙3枚には、転写用バッファーC1またはC2を含ませたものを使用し、陽極側のろ紙3枚には、イオン交換水を含ませたものを使用した。そして、2V、2μAで60分間通電し、タンパク質を固体支持体2に転写した。転写後の固体支持体2をイオン交換水で室温にて30分間洗浄し、乾燥させた。そして該固体支持体と転写後のゲルをFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した(図9)。
【0100】
その結果、固体支持体への転写の際に陰極側のろ紙に含ませる転写用バッファーは、C1、すなわち、ε−アミノカプロン酸の濃度が40mMのものの方が転写保持効率がよいことが分かった。
【0101】
(実施例4)PVDFメンブレンからTi−Pt−DLC固体支持体へのタンパク質転写
実施例1と同様にして基板1にダイヤモンドライクカーボン層を形成し、イオン化蒸着装置を用いてアンモニアプラズマ中で処理することにより表面をアミノ化して固体支持体3を作成した。
【0102】
また実施例1と同様にしてポリアクリルアミドゲルでCy3−プロテインAを電気泳動した。泳動終了後、15分間CBB染色し、脱染色したあと、LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影を行った(図10)。約50kDa付近にCy3-プロテインAのバンドが検出された。
【0103】
転写用バッファーA(0.3M Tris、5% メタノール)、B(25mM Tris、5% メタノール)およびC(25mM Tris、40mM ε−アミノカプロン酸、5% メタノール)を調製した。泳動後のゲルを取り出し、約200mlの転写用バッファーBに浸して、5分間軽く振盪した。予めゲルの大きさに切っておいたPVDFメンブレン(ATTO社製)を少量のメタノールに5秒間浸した後、約100mlの転写用バッファーBに浸し、5分以上振盪した。
【0104】
転写用バッファーA、BまたはCの各200mlに、予めゲルの大きさに切っておいたろ紙をそれぞれ2枚、1枚および3枚ずつ浸した。続いて、セミドライブロッティング装置(日本エイドー)に、上記のろ紙、ゲルおよびPVDFメンブレンを、気泡が入らないように図11のように重ね合わせて設置し、電圧15Vで60分間通電した。転写後、PVDFメンブレンを200mlのPBSに浸して、5分間浸透した。
【0105】
転写後のPVDFメンブレンを固体支持体3に載る大きさに切り、図12のような順番で重ね合わせ、35g/cm2の重しを載せた。室温にて1時間置き、メンブレン上のCy3−プロテインAを固体支持体3上に転写した。続いて該固体支持体3を、PBSで室温にて20分間洗浄した後、乾燥させた。そして、固体支持体をFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した。撮影画像を図13に示す。画像中に囲った部分がメンブレンを密着させた部分である。対応する位置に蛍光が検出されたことから、Cy3-プロテインAが固体支持体上に転写保持されていることがわかる。
【0106】
(実施例5)ステンレス−DLC固体支持体へのタンパク質の転写
Cy3ラベルした酵母タンパク質(300μg/レーン)を実施例1と同様にSDS−PAGE法(ATTO社製 AE−6530型)で泳動し、泳動終了後、FLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した(図14(1))。また、実施例2と同様にして、固体支持体2を作成した。
【0107】
泳動後のゲルを取り出し、固体支持体2に載る大きさに切った後、10%メタノールでゲルを洗浄後、新しい10%メタノールに交換し、更に30秒洗浄した。洗浄後、固体支持体2にゲルを載せ、その上に透析膜、1MH3BO3バッファー(pH8.0)を含むろ紙を載せた。そして、2Vで60分間通電し、タンパク質複合体を固体支持体2に転写した。転写後の固体支持体2を超純水で洗浄し、乾燥させた。そして該固体支持体と転写後のゲルをFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した(図14(2))。
その結果、転写効率が約40%であり、十分転写ができていることが判明した。
【0108】
(実施例6)ステンレス−DLC固体支持体へのタンパク質の転写
Cy3−プロテインA(50ng、SIGMA社製)とCy5−IgA(100ng、SIGMA社製)を溶液中で混合し、Native−PAGE法(ATTO社製 AE−6530型)で泳動し、泳動終了後、FLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した。また、実施例2と同様にして、固体支持体2を作成した。
【0109】
泳動後のゲルを取り出し、固体支持体2に載る大きさに切った後、転写用バッファー(25mM Tris、5% メタノール)に浸した。予め固体支持体の大きさに切っておいたろ紙(ATTO社製)をそれぞれ、転写用バッファーC1(25mM Tris、40mM ε−アミノカプロン酸、5% メタノール)またはイオン交換水に浸した。続いて、気泡が入らないように、ろ紙、ゲル、固体支持体を実施例2の図6と同様に重ね、セミドライブロッティング装置に設置した。このとき、陰極側のろ紙3枚には、転写用バッファーC1を含ませたものを使用し、陽極側のろ紙3枚には、イオン交換水を含ませたものを使用した。そして、2V、2μAで60分間通電し、タンパク質複合体を固体支持体2に転写した。転写後の固体支持体2をイオン交換水で室温にて30分間洗浄し、乾燥させた。そして転写後のゲルをFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影した。
【0110】
その結果、転写後のゲルをFLA8000で画像撮影したものの蛍光強度は、泳動終了後のFLA8000で画像撮影したものの蛍光強度に比べて約35%であった。
【0111】
(実施例7)
(1)固体支持体上でタンパク質をトリプシン消化した場合
牛アルブミン(BSA)を実施例2で作製した固体支持体2にスポットした。スポットしたBSAにトリプシン消化液(100mM NH4HCO3、0.3μg/μl トリプシン)をのせて37℃で16時間にわたり酵素消化した。マトリックス溶媒(1mg/mL α-シアノヒドロキシ桂皮酸、50%アセトニトリル、0.1%トリフルオロ酢酸)をスポットし、自然乾燥後、MALDI−TOF MS測定した。
(2)溶液中でタンパク質をトリプシン消化した場合
牛アルブミン(BSA)をトリプシン消化液中で、37℃にて5時間にわたり酵素消化した。消化後のBSAを固体支持体2にスポットし、さらに自然乾燥後、MALDI−TOF MS測定した。
(3)トリプシン消化なしの場合
牛アルブミン(BSA)を実施例2で作製した固体支持体2にスポットした。スポットしたBSAに(1)と同じマトリックス溶媒をスポットし、自然乾燥後、MALDI−TOF MS測定した。
【0112】
(1)および(2)では質量スペクトルが得られたが、(3)では質量スペクトルは得られなかった。(1)および(2)から得られた質量スペクトルを用い、Mascotにてデータベースサーチを行ったところ、BSAと十分に高い相同性が得られた。
【0113】
(実施例8)タンパク質の二次元電気泳動ゲルを転写した固体支持体の分析
酵母(Saccharomyces cerevisiae)から既知の方法によりタンパク質を抽出し、抽出物に対し、二次元電気泳動を行った。電気泳動にて分離させたタンパク質をゲルから実施例2で作製した固体支持体2に、実施例3と同様の方法において転写用バッファーC1を用いてブロッティング(転写)し、リジルエンドペプチダーゼ消化液(5mM Tris−HCl、pH9.0、1ug/mL リジルエンドペプチダーゼ)をのせて37℃で5時間にわたり酵素消化した。マトリックス溶媒(1mg/mL α-シアノヒドロキシ桂皮酸、50%アセトニトリル、0.1% TFA)をスポットし、自然乾燥後、MALDI−TOF MS測定した。それぞれのエリアから得られた質量スペクトルを用い、Mascotにてデータベースサーチを行ったところ、酵母由来のタンパク質であるフコース−ビスホスフェートアルドラーゼ(分子量:39465)、エノラーゼ 2(分子量:46754)およびチトクロム B pre−mRNA プロセシングプロテイン 2(分子量73814)と十分に高い相同性が得られ、これらのタンパク質を同定することができた。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】実施例1において、Cy3-プロテインAおよび大腸菌タンパク質をSDS−PAGE法で電気泳動し、泳動後のゲルを15分間CBB染色し、脱染色した後、LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図2】実施例1において、電気泳動後のゲルを固体支持体1に転写し、転写後の固体支持体の蛍光強度をFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図3】実施例1において、電気泳動後のゲルを転写した固体支持体1を、PBSで10分間洗浄し、乾燥した後、画像撮影したものである。
【図4】実施例1において、電気泳動後のゲルを転写した固体支持体1を、PBSで10分間洗浄し、さらにブロッキング試薬で1時間ブロッキングし、その後Cy3−IgGを添加して室温で1時間反応させ、PBSで12時間洗浄し(室温)、画像撮影したものである。
【図5】実施例2において、Cy3-プロテインAをSDS−PAGE法で電気泳動し、泳動後のゲルを15分間CBB染色し、脱染色した後、LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図6】実施例2において、タンパク質を電気泳動後のゲルから固体支持体2に転写するときの配置を表したものである。
【図7】実施例2において、電気泳動後のゲルからタンパク質を転写した固体支持体2を、PBSで30分間洗浄して乾燥したものおよび転写後のゲルをFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図8】実施例3において、Cy3-プロテインAおよびCy3−IgAをSDS−PAGE法で電気泳動し、泳動後のゲルを15分間CBB染色し、脱染色した後、LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図9】実施例3において、電気泳動後のゲルからタンパク質を転写した固体支持体2を、PBSで30分間洗浄して乾燥したものおよび転写後のゲルをFLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図10】実施例4において、Cy3-プロテインAをSDS−PAGE法で電気泳動し、ゲルを15分間CBB染色し、脱染色した後LAS1000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図11】実施例4において、電気泳動した後のゲルからタンパク質をPVDFメンブレンに転写するときの配置を表したものである。
【図12】実施例4において、タンパク質をPVDFメンブレンから固体支持体3に転写するときの配置を表したものである。
【図13】実施例4において、PVDFメンブレンからタンパク質が転写された固体支持体3を、PBSで20分間洗浄し、乾燥した後、FLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【図14】図14(1)は実施例5において、SDS−PAGE法で電気泳動後、FLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものであり、図14(2)は、タンパク質が転写された固体支持体3を、イオン交換水で30分間洗浄し、乾燥した後、FLA8000(富士写真フイルム株式会社製)で画像撮影したものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子を分析する方法であって、
試料中の生体分子を固体支持体上に固定化すること、固体支持体上の生体分子を酵素で分解すること、および得られた分解物を質量分析することを含む前記方法。
【請求項2】
試料中の生体分子をゲル電気泳動で分離し、ゲル中に分離された生体分子を固体支持体上に転写することにより、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化する請求項1記載の方法。
【請求項3】
試料中の生体分子をゲル電気泳動で分離し、ゲル中に分離された生体分子をメンブレン上に転写し、該メンブレン上に転写された生体分子を固体支持体上に転写することにより、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化する請求項1記載の方法。
【請求項4】
固体支持体が表面にカーボン層を有するものである請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
カーボン層が、ダイヤモンドライクカーボン層である請求項4記載の方法。
【請求項6】
カーボン層が化学修飾されているものである請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
固体支持体上の生体分子にさらなる生体分子を相互作用させることをさらに含み、固体支持体上の生体分子および/または相互作用した生体分子を酵素で分解すること、ならびに得られた分解物を質量分析することを含む請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
生体分子がペプチドであり、酵素がプロテアーゼである請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
質量分析を、レーザ脱離/イオン化−飛行時間型質量分析によって行う請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の方法において使用するための表面にカーボン層を有する固体支持体。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項記載の方法において使用するためのキットであって、表面にカーボン層を有する固体支持体および酵素を含む前記キット。
【請求項1】
生体分子を分析する方法であって、
試料中の生体分子を固体支持体上に固定化すること、固体支持体上の生体分子を酵素で分解すること、および得られた分解物を質量分析することを含む前記方法。
【請求項2】
試料中の生体分子をゲル電気泳動で分離し、ゲル中に分離された生体分子を固体支持体上に転写することにより、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化する請求項1記載の方法。
【請求項3】
試料中の生体分子をゲル電気泳動で分離し、ゲル中に分離された生体分子をメンブレン上に転写し、該メンブレン上に転写された生体分子を固体支持体上に転写することにより、試料中の生体分子を固体支持体上に固定化する請求項1記載の方法。
【請求項4】
固体支持体が表面にカーボン層を有するものである請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
カーボン層が、ダイヤモンドライクカーボン層である請求項4記載の方法。
【請求項6】
カーボン層が化学修飾されているものである請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
固体支持体上の生体分子にさらなる生体分子を相互作用させることをさらに含み、固体支持体上の生体分子および/または相互作用した生体分子を酵素で分解すること、ならびに得られた分解物を質量分析することを含む請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
生体分子がペプチドであり、酵素がプロテアーゼである請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
質量分析を、レーザ脱離/イオン化−飛行時間型質量分析によって行う請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の方法において使用するための表面にカーボン層を有する固体支持体。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項記載の方法において使用するためのキットであって、表面にカーボン層を有する固体支持体および酵素を含む前記キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−170857(P2006−170857A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364934(P2004−364934)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)研究集会名:横浜市地域結集型共同研究事業 平成16年度研究成果報告会 主催者名:財団法人木原記念横浜生命科学振興財団、横浜市及び独立行政法人科学技術振興機構 開催日:平成16年10月28日 (2)研究集会名:第55回日本電気泳動学会総会 主催者名:日本電気泳動学会 開催日:平成16年11月12日 要旨集発行日:平成16年10月15日
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【出願人】(592032197)財団法人木原記念横浜生命科学振興財団 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)研究集会名:横浜市地域結集型共同研究事業 平成16年度研究成果報告会 主催者名:財団法人木原記念横浜生命科学振興財団、横浜市及び独立行政法人科学技術振興機構 開催日:平成16年10月28日 (2)研究集会名:第55回日本電気泳動学会総会 主催者名:日本電気泳動学会 開催日:平成16年11月12日 要旨集発行日:平成16年10月15日
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【出願人】(592032197)財団法人木原記念横浜生命科学振興財団 (4)
【Fターム(参考)】
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