説明

固体状チタン触媒成分

【課題】分子量分布が広く、溶融張力が高く、高速延伸、高速成形により適したオレフィン重合体を簡便に製造可能な触媒成分の提供。
【解決手段】チタン、マグネシウム、ハロゲンおよび特定の環状1,2−ジカルボン酸エステル化合物を含むことを特徴とする固体状チタン触媒成分。環状1,2−ジカルボン酸エステル化合物は、5〜10員環であり、環状骨格中の1,2−の炭素は単結合であり、それ以外の炭素は二重結合であってもよく、かつ非置換である。エステル基はそれぞれ独立に炭素数1〜20の1価の炭化水素基である。また、環状1,2−ジカルボン酸エステル化合物のトランス純度は51〜79%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンを代表例とする炭素原子数3以上のオレフィン重合体の製造方法に関し、とりわけ分子量分布の広い重合体の製造に適した製造方法に関する。更に本発明は、上記オレフィン重合体の製造に適した固体状チタン触媒成分に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エチレン、α-オレフィンの単独重合体あるいはエチレン・α-オレフィン共重合体などのオレフィン重合体を製造するために用いられる触媒として、活性状態のハロゲン化マグネシウムに担持されたチタン化合物を含む触媒が知られている。(以下、「単独重合」と「共重合」とをまとめて「重合」と記載する場合もある。)
【0003】
このようなオレフィン重合用触媒としては、チーグラー-ナッタ触媒と称される、四塩化チタンや三塩化チタンを含む触媒や、マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与体からなる固体状チタン触媒成分と有機金属化合物とからなる触媒等が広く知られている。
【0004】
後者の触媒は、エチレンの他、プロピレン、ブテン-1などのα-オレフィンの重合に高い活性を示す。また、得られるα-オレフィン重合体は高い立体規則性を有することがある。
【0005】
これらの触媒の中でも、特に、フタル酸エステルを典型的な例とするカルボン酸エステルから選択される電子供与体が担持された固体状チタン触媒成分と、助触媒成分としてのアルミニウム-アルキル化合物と、少なくとも一つのSi-OR(式中、Rは炭化水素基である)を有するケイ素化合物とからなる触媒を用いた場合に、優れた重合活性と立体特異性が発現されることが特開昭57-63310号公報(特許文献1)等で報告されている。
【0006】
上記の触媒を用いて得られた重合体は、チーグラー-ナッタ触媒で得られる重合体に比して分子量分布が狭いことが多い。分子量分布が狭い重合体は、「溶融流動性が低い」、「溶融張力が低い」、「成形性に劣る」、「剛性がやや低い」等の傾向があることが知られている。一方で、生産性向上、コストダウン等の観点から、たとえば延伸フィルムの生産性向上を目的とした高速延伸技術などの様々な高速成形技術が進化している。
【0007】
上記の様な比較的狭分子量分布の重合体をたとえば高速延伸しようとすると、溶融張力不足からフィルムのネックインやバタツキなどがより顕著となり、生産性向上が困難になるケースがある。よって、より高い溶融張力を有する重合体が市場から求められている。
【0008】
このような問題を解決させるために、分子量の異なる重合体を多段重合で製造して重合体の分子量分布を広げる方法(特開平5-170843号公報(特許文献2)等)や、複数種の電子供与体を含む触媒(特開平3-7703号公報(特許文献3))や、固体状チタン触媒成分に含まれる電子供与体に不斉炭素を有するコハク酸エステルを使用した触媒(国際公開第01/057099号パンフレット(特許文献4)、国際公開第00/63261号パンフレット(特許文献5)、国際公開第02/30998号パンフレット(特許文献6))等の数多くの報告がある。
【0009】
一方、特開2001−114811号公報(特許文献7)および特開2003−40918号公報(特許文献8)には、チタン化合物、マグネシウム化合物および電子供与性化合物を接触させて得られるオレフィン(類)重合用固体触媒成分、ならびにこの触媒成分を含むオレフィン(類)重合用触媒が開示されている。この電子供与性化合物として、特許文献7に記載の発明では、トランス純度80%以上を有する1,2-シクロヘキサンジカルボン酸エステルが使用され、特許文献8に記載の発明では、シクロヘキセンジカルボン酸ジエステルが使用され、このシクロヘキセンジカルボン酸ジエステルの具体例としては、1−シクロヘキセンのシクロヘキセン環の1位及び2位にアルコキシカルボニル基が結合した1−シクロヘキセンジカルボン酸ジエステルのみが開示されている(段落[0021]〜[0024]および実施例)。しかしながら、特許文献7および8には、オレフィン重合体の分子量分布に関する記載は一切ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭57-63310号公報
【特許文献2】特開平5-170843号公報
【特許文献3】特開平3-7703号公報
【特許文献4】国際公開第01/057099号パンフレット
【特許文献5】国際公開第00/63261号パンフレット
【特許文献6】国際公開第02/30998号パンフレット
【特許文献7】特開2001−114811号公報
【特許文献8】特開2003−40918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の触媒は、オレフィン重合体の分子量分布を広くする効果が不充分であったり、本発明者らの検討によると、低分子量成分を増加させることによって分子量分布を広げる触媒であったりするため、これらの触媒はオレフィン重合体の溶融張力の向上が充分とは言えないという市場の評価があり、さらに、市場から、上記の触媒の製造コストが高いという問題点が指摘されている。一方、市場からはコストダウンの観点等から、より簡略なプロセスで広分子量分布化したオレフィン重合体を製造可能とする触媒あるいはオレフィン重合体の製造方法の登場が待ち望まれていた。
【0012】
従って、本発明は、分子量分布が広く、溶融張力が高く、高速延伸、高速成形により適したオレフィン重合体を簡便に製造可能なオレフィン重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、分子量分布が広く、溶融張力が高く、高速延伸、高速成形により適したオレフィン重合体を簡便に製造可能な触媒成分を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意研究した結果、複数のカルボン酸エステル基を有する特定の環状炭化水素化合物を含む固体状チタン触媒成分を用い、重合器内を特定の圧力として、好ましくはバルク重合法を例とする高いモノマー濃度の条件により重合を行うと、分子量分布が広いオレフィン重合体を製造できることを見出し、オレフィン重合体の製造方法に関する本発明を完成させた。なお、特許文献7および8のいずれにも、重合法がオレフィン重合体の分子量分布に及ぼす影響に関して、何ら記載も示唆もされていない。
【0015】
本発明の、オレフィン重合体の製造方法は、
チタン、マグネシウム、ハロゲンおよび下記式(1)で特定される環状エステル化合物(a)を含む固体状チタン触媒成分(I)と;
【0016】
【化1】

〔式(1)において、nは5〜10の整数である。
【0017】
2およびR3はそれぞれ独立にCOOR1または水素原子であり、R2およびR3のうちの少なくとも1つはCOOR1であり、R1はそれぞれ独立に炭素数1〜20の1価の炭化水素基である。
【0018】
環状骨格中の単結合(Ca−Ca結合、およびR3が水素原子である場合のCa−Cb結合を除く。)は、二重結合に置き換えられていてもよい。〕、
周期表の第1族、第2族および第13族から選ばれる金属元素を含む有機金属化合物触媒成分(II)と
を含むオレフィン重合用触媒の存在下に、
重合器内圧力を重合温度における該オレフィンの飽和蒸気圧の0.25倍以上として、
炭素原子数3以上のオレフィンを重合する
ことを特徴としている。
【0019】
前記炭素原子数3以上のオレフィンとしては、炭素原子数3〜6のオレフィンが好ましく、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテンが特に好ましい。
前記オレフィン重合体のGPC測定により決定されるMw/Mn値は、6以上であることが好ましい。
【0020】
また、本発明者らは鋭意研究した結果、複数のカルボン酸エステル基を有する特定の環状エステル化合物を含む固体状チタン触媒成分を用いると、分子量分布が広いオレフィン重合体を製造できる効果と、重合活性や得られる重合体の立体規則性がより高いレベルで両立できることを見出し、触媒成分に関する本発明を完成させた。なお、特許文献7および8のいずれにも、下記式(2)で表わされる環状エステル化合物(a−1)は記載されていない。
【0021】
本発明の固体状チタン触媒成分(I−1)は、
チタン、マグネシウム、ハロゲンおよび下記式(2)で特定される環状エステル化合物(a−1)とを含むことを特徴としている。
【0022】
【化2】

〔式(2)において、nは5〜10の整数である。
環状骨格中の単結合(Ca−Ca結合およびCa−Cb結合を除く。)は、二重結合に置き換えられていてもよい。
1はそれぞれ独立に炭素数1〜20の1価の炭化水素基である。
また、上記式(2)で表される化合物のトランス純度は51〜79%である。〕。
【0023】
前記環状エステル化合物(a−1)の環状骨格中の炭素原子間結合は、すべて単結合であることが好ましい。
前記環状エステル化合物(a−1)の環状骨格中の炭素原子数は、6であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のオレフィンの重合体の製造方法は、広い分子量分布を有するオレフィン重合体を製造するのに適している。
また、オレフィンの重合体の製造方法を用いれば、たとえば高速延伸性、高速成形性などの成形性に加え、剛性にも優れたオレフィン重合体が製造可能になると期待できる。
【0025】
本発明の固体状チタン触媒成分(I−1)を用いれば、広い分子量分布を有し立体規則性の高いオレフィン重合体を高い活性で製造することができる。
また、本発明の固体状チタン触媒成分(I−1)を用いれば、たとえば高速延伸性、高速成形性などの成形性に加え、剛性にも優れたオレフィン重合体が製造可能になると期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、参考例4、比較例1及び比較例2で得られたポリプロピレンのGPCクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るオレフィン重合体の製造方法および固体状チタン触媒成分(I-1)についてさらに詳細に説明する。
〔オレフィン重合体の製造方法〕
本発明に係るオレフィン重合体の製造方法は、
後述する固体状チタン触媒成分(I)と、
周期表の第1族、第2族および第13族から選ばれる金属元素を含む有機金属化合物触媒成分(II)とを含むオレフィン重合触媒の存在下に、
重合器内圧力を重合温度における該オレフィンの飽和蒸気圧の0.25倍以上として、
炭素原子数3以上のオレフィンを重合することを特徴とする。
【0028】
本発明に従えば、単段重合でも分子量分布の広いオレフィン重合体を得ることができるので、多段重合、即ち重合途中に条件を変更する重合方法を実現できないプロセスでも分子量分布の広いオレフィン重合体を得ることができる。
【0029】
まず、各触媒成分について説明する。
[固体状チタン触媒成分(I)]
本発明に係る固体状チタン触媒成分(I)は、チタン、マグネシウム、ハロゲンおよび環状エステル化合物(a)を含むことを特徴としている。
【0030】
<環状エステル化合物(a)>
前記環状エステル化合物(a)は、複数のカルボン酸エステル基を有し、下記式(1)で表される。
【0031】
【化3】

式(1)において、nは、5〜10の整数、好ましくは5〜7の整数であり、特に好ましくは6である。またCaおよびCbは、炭素原子を表わす。
【0032】
環状骨格中の炭素原子間結合は、すべてが単結合であることが好ましいが、環状骨格中の、Ca−Ca結合およびR3が水素原子である場合のCa−Cb結合以外のいずれかの単結合は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【0033】
また、R2およびR3はそれぞれ独立にCOOR1または水素原子であり、R2およびR3のうちの少なくとも1つはCOOR1であり、R1はそれぞれ独立に炭素数1〜20の1価の炭化水素基である。
【0034】
複数個あるR1は、それぞれ独立に、炭素原子数が1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは2〜8、さらに好ましくは4〜8、特に好ましくは4〜6の1価の炭化水素基である。この炭化水素基としては、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基などが挙げられ、中でもn−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基が好ましく、更にはn−ブチル基、イソブチル基が好ましい。
【0035】
このような環状エステル化合物(a)としては、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジn-プロピル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソプロピル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジn-ブチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジヘキシル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジオクチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジデシル、
シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸ジエチル、
シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸ジイソプロピル、
シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、
シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸ジデシル、
シクロペンタン-1,3-ジカルボン酸ジエチル、
シクロペンタン-1,3-ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘプタン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
シクロヘプタン-1,2-ジカルボン酸ジイソプロピル、
シクロヘプタン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘプタン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、
シクロヘプタン-1,2-ジカルボン酸ジデシル、
シクロヘプタン-1,3-ジカルボン酸ジエチル、
シクロヘプタン-1,3-ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロオクタン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
シクロデカン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジn-プロピル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジイソプロピル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジn-ブチル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジヘキシル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジオクチル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジデシル、
4-シクロヘキセン-1,3-ジカルボン酸ジエチル、
4-シクロヘキセン-1,3-ジカルボン酸ジイソブチル、
3-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
3-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸ジイソプロピル、
3-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
3-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、
3-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸ジデシル、
3-シクロペンテン-1,3-ジカルボン酸ジエチル、
3-シクロペンテン-1,3-ジカルボン酸ジイソブチル、
4-シクロヘプテン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
4-シクロヘプテン-1,2-ジカルボン酸ジイソプロピル、
4-シクロヘプテン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
4-シクロヘプテン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、
4-シクロヘプテン-1,2-ジカルボン酸ジデシル、
4-シクロヘプテン-1,3-ジカルボン酸ジエチル、
4-シクロヘプテン-1,3-ジカルボン酸ジイソブチル、
5-シクロオクテン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
6-シクロデセン-1,2-ジカルボン酸ジエチル
などが挙げられる。
【0036】
上記のようなジエステル構造を持つ化合物には、シス、トランス等の異性体が存在するが、どの構造であっても本発明の目的に合致する効果を有する。
上記の様なエステル構造は、トランス純度(トランス体およびシス体のうちのトランス体の割合)は51〜79%であることが好ましい。このトランス純度は、より好ましくは55〜79%、更に好ましくは60〜79%、特に好ましくは65〜79%である。
【0037】
特に上記式(1)においてn=6であるシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジエステルのトランス純度は上記の範囲である。
トランス純度が51%未満であると広分子量分布化の効果が不充分となったり、活性、立体特異性が不充分となることがある。また、トランス純度が79%を超えると広分子量分布化の効果が不充分となることがある。すなわち、トランス純度が上記の範囲内であれば、得られる重合体の分子量分布を広げる効果と、触媒の活性や得られる重合体の高い立体規則性とを高いレベルで両立することができる。
【0038】
前記環状エステル化合物(a)としては、シクロアルカン1,2-ジカルボン酸ジエステル構造を有する化合物が好ましく、特に、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジn-ブチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジヘキシル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジオクチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸ジヘプチル、
シクロヘプタン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘプタン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル
などが好ましい。
【0039】
上記の化合物の中では、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジヘキシル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジオクチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
がさらに好ましい。その理由は、触媒性能だけでなく、これらの化合物がDiels Alder 反応を利用して比較的安価に製造できる点にある。
【0040】
本発明のオレフィン重合体の製造方法では、分子量分布の広い重合体が得られる。この理由は現時点で不明であるが、下記のような原因が推定される。
環状炭化水素構造は、イス型、舟型など多彩な立体構造を形成することが知られている。この多彩な立体構造を取りうることが、固体状チタン触媒成分(I)上に多彩な活性種を形成する事に繋がる。特に、環状エステル化合物(a)の環状骨格を形成する炭素原子のうちの、エステル基(COOR1基)が結合した炭素原子とエステル基(COOR1基)が結合した他の炭素原子との間の結合が単結合であれば、取りうる立体構造のバリエーションが広がる。その結果、固体状チタン触媒成分(I)を用いてオレフィンの重合を行うと、多様な分子量のオレフィン重合体を一度に製造することができる、即ち分子量分布の広いオレフィン重合体を製造することができる。
【0041】
これらの化合物は、1種単独で用いてもよく2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明の目的を損なわない限り、これらの環状エステル化合物(a)と後述する触媒成分(b)と組み合わせて用いても良い。
【0042】
また環状エステル化合物(a)は、固体状チタン触媒成分(I)を調製する過程で形成されてもよい。たとえば、固体状チタン触媒成分(I)を調製する際に、環状エステル化合物(a)に対応する無水カルボン酸やカルボン酸ジハライドと、対応するアルコールとが実質的に接触する工程を設けることで、環状エステル化合物(a)を固体状チタン触媒成分中に含有させることもできる。
本発明で用いられる固体状チタン触媒成分(I)の調製には、上記の環状エステル化合物(a)の他、マグネシウム化合物およびチタン化合物が用いられる。
【0043】
<マグネシウム化合物>
このようなマグネシウム化合物としては、具体的には、
塩化マグネシウム、臭化マグネシウムなどのハロゲン化マグネシウム;
メトキシ塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、フェノキシ塩化マグネシウムなどのアルコキシマグネシウムハライド;
エトキシマグネシウム、イソプロポキシマグネシウム、ブトキシマグネシウム、2-エチルヘキソキシマグネシウムなどのアルコキシマグネシウム;
フェノキシマグネシウムなどのアリーロキシマグネシウム;
ステアリン酸マグネシウムなどのマグネシウムのカルボン酸塩
などの公知のマグネシウム化合物を挙げることができる。
【0044】
これらのマグネシウム化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。またこれらのマグネシウム化合物は、他の金属との錯化合物、複化合物あるいは他の金属化合物との混合物であってもよい。
【0045】
これらの中ではハロゲンを含有するマグネシウム化合物が好ましく、ハロゲン化マグネシウム、特に塩化マグネシウムがより好ましく用いられる。他には、エトキシマグネシウムのようなアルコキシマグネシウムも好ましく用いられる。また、該マグネシウム化合物は、他の物質から誘導されたもの、たとえばグリニャール試薬のような有機マグネシウム化合物とハロゲン化チタンやハロゲン化珪素、ハロゲン化アルコールなどとを接触させて得られるものであってもよい。
【0046】
<チタン化合物>
チタン化合物としては、たとえば一般式;
Ti(OR)g4-g
(Rは炭化水素基であり、Xはハロゲン原子であり、gは0≦g≦4である。)
で示される4価のチタン化合物を挙げることができる。より具体的には、
TiCl4、TiBr4などのテトラハロゲン化チタン;
Ti(OCH3)Cl3、Ti(OC25)Cl3、Ti(O-n-C49)Cl3、Ti(OC25)Br3、Ti(O-isoC49)Br3などのトリハロゲン化アルコキシチタン;
Ti(OCH3)2Cl2、Ti(OC25)2Cl2などのジハロゲン化アルコキシチタン;
Ti(OCH3)3Cl、Ti(O-n-C49)3Cl、Ti(OC25)3Brなどのモノハロゲン化アルコキシチタン;
Ti(OCH3)4、Ti(OC25)4、Ti(OC49)4、Ti(O-2-エチルヘキシル)4などのテトラアルコキシチタン
などを挙げることができる。
【0047】
これらの中で好ましいものは、テトラハロゲン化チタンであり、特に四塩化チタンが好ましい。これらのチタン化合物は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の様なマグネシウム化合物およびチタン化合物としては、たとえば前記特許文献1、特許文献2などに詳細に記載されている化合物も挙げることができる。
【0048】
本発明で用いられる固体状チタン触媒成分(I)の調製には、環状エステル化合物(a)を使用する他は、公知の方法を制限無く使用することができる。具体的な好ましい方法としては、たとえば下記(P-1)〜(P-4)の方法を挙げることができる。
【0049】
(P-1) マグネシウム化合物および後述する触媒成分(b)からなる固体状付加物と、環状エステル化合物(a)と、液状状態のチタン化合物とを、不活性炭化水素溶媒共存下、懸濁状態で接触させる方法。
【0050】
(P-2) マグネシウム化合物および触媒成分(b)からなる固体状付加物と、環状エステル化合物(a)と、液状状態のチタン化合物とを、複数回に分けて接触させる方法。
(P-3) マグネシウム化合物および触媒成分(b)からなる固体状付加物と、環状エステル化合物(a)と、液状状態のチタン化合物とを、不活性炭化水素溶媒共存下、懸濁状態で接触させ、且つ複数回に分けて接触させる方法。
【0051】
(P-4) マグネシウム化合物および触媒成分(b)からなる液状状態のマグネシウム化合物と、液状状態のチタン化合物と、環状エステル化合物(a)とを接触させる方法。
固体状チタン触媒成分(I)の調製の際の好ましい反応温度は、−30℃〜150℃、より好ましくは−25℃〜130℃、更に好ましくは−25〜120℃、特には−25℃〜110℃、とりわけ−25℃〜105℃の範囲である。
【0052】
また上記の固体状チタン触媒成分の製造は、必要に応じて公知の媒体の存在下に行うこともできる。この媒体としては、やや極性を有するトルエンなどの芳香族炭化水素やヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサンなどの公知の脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素化合物が挙げられるが、これらの中では脂肪族炭化水素が好ましい例として挙げられる。
【0053】
上記の範囲で製造された固体状チタン触媒成分(I)を用いてオレフィンの重合反応を行うと、広い分子量分布の重合体を得られる効果と、触媒の活性や得られる重合体の高い立体規則性とをより高いレベルで両立することができる。
【0054】
(触媒成分(b))
上記の固体状付加物や液状状態のマグネシウム化合物の形成に用いられる触媒成分(b)としては、室温〜300℃程度の温度範囲で上記のマグネシウム化合物を可溶化できる公知の化合物が好ましく、たとえばアルコール、アルデヒド、アミン、カルボン酸およびこれらの混合物などが好ましい。これらの化合物としては、たとえば前記特許文献1や特許文献2に詳細に記載されている化合物を挙げることができる。
【0055】
上記のマグネシウム化合物可溶化能を有するアルコールとして、より具体的には
メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、2-メチルペンタノール、2-エチルブタノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノールのような脂肪族アルコール;
シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノールのような脂環族アルコール;
ベンジルアルコール、メチルベンジルアルコールなどの芳香族アルコール;
n-ブチルセルソルブなどのアルコキシ基を有する脂肪族アルコール
などを挙げることができる。
【0056】
カルボン酸としては、カプリル酸、2-エチルヘキサノイック酸などの炭素数7以上の有機カルボン酸類を挙げることができる。アルデヒドとしては、カプリックアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒドなどの炭素数7以上のアルデヒド類を挙げることができる。
【0057】
アミンとしては、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、ラウリルアミン、2-エチルヘキシルアミンなどの炭素数6以上のアミン類を挙げることができる。
上記の触媒成分(b)としては、上記のアルコール類が好ましく、特にエタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、2-エチルヘキサノール、デカノールなどが好ましい。
【0058】
上記の固体状付加物や液状状態のマグネシウム化合物を調製する際のマグネシウム化合物および触媒成分(b)の使用量については、その種類、接触条件などによっても異なるが、マグネシウム化合物は、該触媒成分(b)の単位容積あたり、0.1〜20モル/リットル、好ましくは、0.5〜5モル/リットルの量で用いられる。また、必要に応じて上記固体状付加物に対して不活性な媒体を併用することもできる。
【0059】
上記の媒体としては、やや極性を有するトルエンなどの芳香族炭化水素やヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサンなどの公知の脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素化合物が挙げられるが、これらの中では脂肪族炭化水素が好ましい例として挙げられる。
【0060】
得られる固体状付加物や液状状態のマグネシウム化合物のマグネシウムと触媒成分(b)との組成比は、用いる化合物の種類によって異なるので一概には規定できないが、マグネシウム化合物中のマグネシウム1モルに対して、触媒成分(b)は、好ましくは2.6モル以上、より好ましくは2.7モル以上、5モル以下の範囲である。
【0061】
<芳香族カルボン酸エステルおよび/または複数の炭素原子を介して2個以上のエーテル結合を有する化合物>
本発明で用いられる固体状チタン触媒成分(I)は、さらに、芳香族カルボン酸エステルおよび/または複数の炭素原子を介して2個以上のエーテル結合を有する化合物(以下「触媒成分(c)」ともいう。)を含んでいてもよい。本発明で用いられる固体状チタン触媒成分(I)が触媒成分(c)を含んでいると活性や立体規則性を高めたり、分子量分布をより広げることができる場合がある。
【0062】
この触媒成分(c)としては、従来オレフィン重合用触媒に好ましく用いられている公知の芳香族カルボン酸エステルやポリエーテル化合物、たとえば上記特許文献2や特開2001-354714号公報などに記載された化合物を制限無く用いることができる。
【0063】
この芳香族カルボン酸エステルとしては、具体的には安息香酸エステルやトルイル酸エステルなどの芳香族カルボン酸モノエステルの他、フタル酸エステル類等の芳香族多価カルボン酸エステルが挙げられる。これらの中でも芳香族多価カルボン酸エステルが好ましく、フタル酸エステル類がより好ましい。このフタル酸エステル類としては、フタル酸エチル、フタル酸n-ブチル、フタル酸イソブチル、フタル酸ヘキシル、フタル酸へプチル等のフタル酸アルキルエステルが好ましく、フタル酸ジイソブチルが特に好ましい。
【0064】
また前記ポリエーテル化合物としては、より具体的には以下の式(3)で表わされる化合物が挙げられる。
【0065】
【化4】

なお、上記式(3)において、mは1≦m≦10の整数、より好ましくは3≦m≦10の整数であり、R11〜R36は、それぞれ独立に、水素原子、あるいは炭素、水素、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、硫黄、リン、ホウ素およびケイ素から選択される少なくとも1種の元素を有する置換基である。
【0066】
mが2以上である場合、複数個存在するR11およびR12は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。任意のR11〜R36、好ましくはR11およびR12は共同してベンゼン環以外の環を形成していてもよい。
【0067】
この様な化合物の一部の具体例としては、
2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、
2-s-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、
2-クミル-1,3-ジメトキシプロパン
等の1置換ジアルコキシプロパン類、
2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、
2,2-ジシクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、
2-メチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、
2-メチル-2-シクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、
2-メチル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、
2,2-ジイソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、
2,2-ビス(シクロヘキシルメチル)-1,3-ジメトキシプロパン、
2,2-ジイソブチル-1,3-ジエトキシプロパン、
2,2-ジイソブチル-1,3-ジブトキシプロパン、
2,2-ジ-s-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、
2,2-ジネオペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、
2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、
2-シクロヘキシル-2-シクロヘキシルメチル-1,3-ジメトキシプロパン
等の2置換ジアルコキシプロパン類
2,3-ジシクロヘキシル-1,4-ジエトキシブタン、
2,3-ジシクロヘキシル-1,4-ジエトキシブタン、
2,3-ジイソプロピル-1,4-ジエトキシブタン
2,4-ジフェニル-1,5-ジメトキシペンタン、
2,5-ジフェニル-1,5-ジメトキシヘキサン、
2,4-ジイソプロピル-1,5-ジメトキシペンタン、
2,4-ジイソブチル-1,5-ジメトキシペンタン、
2,4-ジイソアミル-1,5-ジメトキシペンタン
等のジアルコキシアルカン類、
2-メチル-2-メトキシメチル-1,3-ジメトキシプロパン、
2-シクロヘキシル-2-エトキシメチル-1,3-ジエトキシプロパン、
2-シクロヘキシル-2-メトキシメチル-1,3-ジメトキシプロパン
等のトリアルコキシアルカン類、
2,2-ジイソブチル-1,3-ジメトキシ4-シクロヘキセン、
2-イソプロピル-2-イソアミル-1,3-ジメトキシ4-シクロヘキセン、
2-シクロヘキシル-2-メトキシメチル-1,3-ジメトキシ4-シクロヘキセン、
2-イソプロピル-2-メトキシメチル-1,3-ジメトキシ4-シクロヘキセン、
2-イソブチル-2-メトキシメチル-1,3-ジメトキシ4-シクロヘキセン、
2-シクロヘキシル-2-エトキシメチル-1,3-ジメトキシ4-シクロヘキセン、
2-イソプロピル-2-エトキシメチル-1,3-ジメトキシ4-シクロヘキセン、
2-イソブチル-2-エトキシメチル-1,3-ジメトキシ4-シクロヘキセン
等のジアルコキシシクロアルカン
等を例示することができる。
【0068】
これらのうち、1,3-ジエーテル類が好ましく、特に、2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジシクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(シクロヘキシルメチル)1,3-ジメトキシプロパンが好ましい。
【0069】
これらの化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の様な環状エステル化合物(a)、触媒成分(b)、触媒成分(c)は、当該業者では電子供与体と呼ばれる成分に属すると考えても差し支えない。上記の電子供与体成分は、触媒の高い活性を維持したまま、得られる重合体の立体規則性を高める効果や、得られる共重合体の組成分布を制御する効果や、触媒粒子の粒形や粒径を制御する凝集剤効果などを示すことが知られている。
【0070】
上記の環状エステル化合物(a)は、それ自身が電子供与体であることによって、さらに分子量分布を制御する効果をも示していると考えられる。
本発明で用いられる固体状チタン触媒成分(I)において、ハロゲン/チタン(原子比)(すなわち、ハロゲン原子のモル数/チタン原子のモル数)は、2〜100、好ましくは4〜90であることが望ましく、
環状エステル化合物(a)/チタン(モル比)(すなわち、環状エステル化合物(a)のモル数/チタン原子のモル数)は、0.01〜100、好ましくは0.2〜10であることが望ましく、
触媒成分(b)や触媒成分(c)は、触媒成分(b)/チタン原子(モル比)は0〜100、好ましくは0〜10であることが望ましく、触媒成分(c)/チタン原子(モル比)は0〜100、好ましくは0〜10であることが望ましい。
【0071】
マグネシウム/チタン(原子比)(すなわち、マグネシウム原子のモル数/チタン原子のモル数)は、2〜100、好ましくは4〜50であることが望ましい。
また、前述した環状エステル化合物(a)以外に含まれても良い成分、たとえば触媒成分(b)や触媒成分(c)の含有量は、好ましくは環状エステル化合物(a)100重量%に対して20重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下である。
【0072】
固体状チタン触媒成分(I)のより詳細な調製条件として、環状エステル化合物(a)を使用する以外は、たとえばEP585869A1(欧州特許出願公開第0585869号明細書)や前記特許文献2等に記載の条件を好ましく用いることができる。
【0073】
[オレフィン重合用触媒]
本発明の、オレフィン重合体の製造方法において用いられるオレフィン重合用触媒は、
上記の本発明に係る固体状チタン触媒成分(I)と、
周期表の第1族、第2族および第13族から選ばれる金属元素を含む有機金属化合物触媒成分(II)と
を含むことを特徴としている。
【0074】
<有機金属化合物触媒成分(II)>
前記有機金属化合物触媒成分(II)としては、第13族金属を含む化合物、たとえば、有機アルミニウム化合物、第1族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物、第2族金属の有機金属化合物などを用いることができる。これらの中でも有機アルミニウム化合物が好ましい。
有機金属化合物触媒成分(II)としては具体的には、前記EP585869A1等の公知の文献に記載された有機金属化合物を好ましい例として挙げることができる。
【0075】
<触媒成分(III)>
また、本発明で用いられるオレフィン重合用触媒は、上記の有機金属化合物触媒成分(II)と共に、必要に応じて既述の触媒成分(III)を含んでいてもよい。触媒成分(III)として好ましくは、有機ケイ素化合物が挙げられる。この有機ケイ素化合物としては、たとえば下記一般式で表される化合物を例示できる。
nSi(OR')4-n
(式中、RおよびR'は炭化水素基であり、nは0<n<4の整数である)
【0076】
上記のような一般式で示される有機ケイ素化合物としては、具体的には、ジイソプロピルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジエトキシシラン、t-アミルメチルジエトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、t-ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、2-メチルシクロペンチルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジエトキシシラン、トリシクロペンチルメトキシシラン、ジシクロペンチルメチルメトキシシラン、ジシクロペンチルエチルメトキシシラン、シクロペンチルジメチルエトキシシランなどが用いられる。
【0077】
このうちビニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランが好ましく用いられる。
【0078】
また、国際公開第2004/016662号パンフレットに記載されている下記式(5)で表されるシラン化合物も前記有機ケイ素化合物の好ましい例である。
Si(ORa3(NRbc) ・・・(5)
式(5)中、Raは、炭素数1〜6の炭化水素基であり、Raとしては、炭素数1〜6の不飽和あるいは飽和脂肪族炭化水素基などが挙げられ、特に好ましくは炭素数2〜6の炭化水素基が挙げられる。具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、これらの中でもエチル基が特に好ましい。
【0079】
式(5)中、Rbは、炭素数1〜12の炭化水素基または水素であり、Rbとしては、炭素数1〜12の不飽和あるいは飽和脂肪族炭化水素基または水素などが挙げられる。具体例としては水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、これらの中でもエチル基が特に好ましい。
【0080】
式(5)中、Rcは、炭素数1〜12の炭化水素基であり、Rcとしては、炭素数1〜12の不飽和あるいは飽和脂肪族炭化水素基または水素などが挙げられる。具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、これらの中でもエチル基が特に好ましい。
【0081】
上記式(5)で表される化合物の具体例としては、
ジメチルアミノトリエトキシシラン、
ジエチルアミノトリエトキシシラン、
ジエチルアミノトリメトキシシラン、
ジエチルアミノトリエトキシシラン、
ジエチルアミノトリn−プロポキシシラン、
ジn−プロピルアミノトリエトキシシラン、
メチルn−プロピルアミノトリエトキシシラン、
t-ブチルアミノトリエトキシシラン、
エチルn−プロピルアミノトリエトキシシラン、
エチルiso−プロピルアミノトリエトキシシラン、
メチルエチルアミノトリエトキシシラン、
が挙げられる。
【0082】
また、前記有機ケイ素化合物の他の例としては、下記式(6)で表される化合物が挙げられる。
RNSi(ORa3 (6)
式(6)中、RNは、環状アミノ基であり、この環状アミノ基として、例えば、パーヒドロキノリノ基、パーヒドロイソキノリノ基、1,2,3,4−テトラヒドロキノリノ基、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリノ基、オクタメチレンイミノ基等が挙げられる。上記式(6)で表される化合物として具体的には、
(パーヒドロキノリノ)トリエトキシシラン、
(パーヒドロイソキノリノ)トリエトキシシラン、
(1,2,3,4−テトラヒドロキノリノ)トリエトキシシラン、
(1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリノ)トリエトキシシラン、
オクタメチレンイミノトリエトキシシラン
等が挙げられる。
【0083】
これらの有機ケイ素化合物は、2種以上組み合わせて用いることもできる。
また、触媒成分(III)として他に有用な化合物としては、前記芳香族カルボン酸エステルおよび/または複数の炭素原子を介して2個以上のエーテル結合を有する化合物(前記触媒成分(c))の例として記載したポリエーテル化合物も好ましい例として挙げられる。
【0084】
これらのポリエーテル化合物の中でも、1,3-ジエーテル類が好ましく、特に、2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジシクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(シクロヘキシルメチル)1,3-ジメトキシプロパンが好ましい。
【0085】
これらの化合物は、単独で用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
これらの触媒成分(III)を用いると、重合活性や得られるオレフィン重合体の立体規則性をより高めることができる場合がある。
【0086】
なお、本発明で用いられるオレフィン重合用触媒は、上記のような各成分以外にも必要に応じてオレフィン重合に有用な他の成分を含んでいてもよい。この他の成分としては、たとえば、シリカなどの担体、帯電防止剤等、粒子凝集剤、保存安定剤などが挙げられる。
【0087】
[オレフィン重合体の製造方法]
本発明に係る、オレフィン重合体の製造方法は、炭素原子数3以上のオレフィンを、前記オレフィン重合用触媒の存在下に、重合器内圧力を重合温度における該オレフィンの蒸気圧の0.25倍以上として重合することを特徴としている。
【0088】
また本発明において、重合器内圧力が分子量分布に影響を及ぼす理由は不明であるが、重合器内圧力が低い、即ち触媒に対するオレフィンの濃度が低い場合、重合反応に比して連鎖移動などの副反応が起こる割合が高くなるため、固体状チタン触媒成分(I)が本来有する広分子量分布化重合反応の効果が相対的に小さくなることが考えられる。
【0089】
重合器内圧力が上記の範囲よりも低いと、分子量分布が従来と同等に程度になることがある。
好ましい重合器内圧力(絶対圧)の下限は、上記オレフィンの蒸気圧の0.3倍、より好ましくは、0.4倍である。好ましい重合器内圧力の上限値をオレフィンの重合温度に対する飽和蒸気圧の比で規定することは困難である。該飽和蒸気圧の1倍以上ではオレフィンが液化する、即ち触媒に対するオレフィンの濃度は、重合器内圧力が飽和蒸気圧の1倍以上では余り変化しないためである。
【0090】
なお、重合器内圧力は通常ゲージ圧で記載されることが多いが、通常、絶対圧はゲージ圧に常圧である0.1MPaを加算した値と見なして差し支えない。
重合器内圧力の好ましい上限値は、ゲージ圧で10MPa、より好ましくは8MPa、更に好ましくは6MPa、特に好ましくは5MPa、とりわけ4MPaである。
【0091】
重合器内圧力が高いと、プロセス建設費が高価となり、オレフィン重合体製造コストアップの問題が発生することがある。
本発明において、「重合」には、ホモ重合の他、ランダム共重合、ブロック共重合などの共重合の意味が含まれることがある。
【0092】
本発明のオレフィン重合体の製造方法では、前記オレフィン重合用触媒の存在下にα-オレフィンを予備重合(prepolymerization)させて得られる予備重合触媒の存在下で、本重合(polymerization)を行うことも可能である。この予備重合は、オレフィン重合用触媒1g当り0.1〜1000g好ましくは0.3〜500g、特に好ましくは1〜200gの量でα-オレフィンを予備重合させることにより行われる。
【0093】
予備重合では、本重合における系内の触媒濃度よりも高い濃度の触媒を用いることができる。
予備重合における前記固体状チタン触媒成分(I)の濃度は、液状媒体1リットル当り、チタン原子換算で、通常約0.001〜200ミリモル、好ましくは約0.01〜50ミリモル、特に好ましくは0.1〜20ミリモルの範囲とすることが望ましい。
【0094】
予備重合における前記有機金属化合物触媒成分(II)の量は、固体状チタン触媒成分(I)1g当り0.1〜1000g、好ましくは0.3〜500gの重合体が生成するような量であればよく、固体状チタン触媒成分(I)中のチタン原子1モル当り、通常約0.1〜300モル、好ましくは約0.5〜100モル、特に好ましくは1〜50モルの量であることが望ましい。
【0095】
予備重合では、必要に応じて前記触媒成分(III)等を用いることもでき、この際これらの成分は、前記固体状チタン触媒成分(I)中のチタン原子1モル当り、0.1〜50モル、好ましくは0.5〜30モル、さらに好ましくは1〜10モルの量で用いられる。
【0096】
予備重合は、不活性炭化水素媒体にオレフィンおよび上記の触媒成分を加え、温和な条件下に行うことができる。
この場合、用いられる不活性炭化水素媒体としては、具体的には、
プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素;
シクロヘプタン、シクロヘプタン、メチルシクロヘプタン、4-シクロヘプタン、4-シクロヘプタン、メチル4-シクロヘプタンなどの脂環族炭化水素;
ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;
エチレンクロリド、クロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、
あるいはこれらの混合物などを挙げることができる。
【0097】
これらの不活性炭化水素媒体のうちでは、特に脂肪族炭化水素を用いることが好ましい。このように、不活性炭化水素媒体を用いる場合、予備重合はバッチ式で行うことが好ましい。
【0098】
一方、オレフィン自体を溶媒として予備重合を行うこともできるし、また実質的に溶媒のない状態で予備重合することもできる。この場合には、予備重合を連続的に行うのが好ましい。
【0099】
予備重合で使用されるオレフィンは、後述する本重合で使用されるオレフィンと同一であっても、異なっていてもよく、具体的には、プロピレンであることが好ましい。
予備重合の際の温度は、通常約-20〜+100℃、好ましくは約-20〜+80℃、さらに好ましくは0〜+40℃の範囲であることが望ましい。
【0100】
次に、前記の予備重合を経由した後に、あるいは予備重合を経由することなく実施される本重合(polymerization)について説明する。
本重合(polymerization)において使用することができる(すなわち、重合される)オレフィンとしては、具体的には炭素原子数が3〜20のα-オレフィン、たとえば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどの直鎖状オレフィンや、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1- ブテン等の分岐状オレフィンを挙げることができ、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテンが好ましい。また、剛性の高い樹脂において分子量分布の広い重合体のメリットが発現し易い観点から、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテンが特に好ましい。
【0101】
これらのオレフィンと共に、エチレン;スチレン、アリルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン等の脂環族ビニル化合物を用いることもできる。更に、シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、イソプレン、ブタジエンなどのジエン類などの共役ジエンや非共役ジエンのような多不飽和結合を有する化合物をオレフィンとともに重合原料として用いることもできる。これらの化合物は2種以上を併用してもよい。(以下、上記「炭素原子数が3〜20のα-オレフィン」と共に用いられるオレフィンを「他のオレフィン」ともいう。)
【0102】
上記他のオレフィンの中では、エチレンや芳香族ビニル化合物が好ましい。また、オレフィンの総量100重量%のうち、少量、たとえば10重量%以下、好ましくは5重量%以下の量であれば、エチレン等の他のオレフィンが用いられてもよい。
【0103】
本発明では、予備重合および本重合は、バルク重合法、溶解重合、懸濁重合などの液相重合法あるいは気相重合法のいずれにおいても実施できる。
本重合がスラリー重合の反応形態を採る場合、反応溶媒としては、上述の予備重合時に用いられる不活性炭化水素を用いることもできるし、反応温度において液体であるオレフィンを用いることもできる。
【0104】
本発明のオレフィン重合体の製造方法における本重合においては、前記固体状チタン触媒成分(I)は、重合容積1リットル当りチタン原子に換算して、通常は約0.0001〜0.5ミリモル、好ましくは約0.005〜0.1ミリモルの量で用いられる。また、前記有機金属化合物触媒成分(II)は、重合系中の予備重合触媒成分中のチタン原子1モルに対し、通常約1〜2000モル、好ましくは約5〜500モルとなるような量で用いられる。前記触媒成分(III)は、使用される場合であれば、前記有機金属化合物触媒成分(II)に対して、0.001〜50モル、好ましくは0.01〜30モル、特に好ましくは0.05〜20モルの量で用いられる。
【0105】
本重合を水素の存在下に行えば、得られる重合体の分子量を調節することができ、メルトフローレートの大きい重合体が得られる。
本発明における本重合において、オレフィンの重合温度は、通常、約20〜200℃、好ましくは約30〜100℃、より好ましくは50〜90℃である。本発明のオレフィン重合体の製造方法においては、重合を、回分式、半連続式、連続式の何れの方法においても行うことができる。さらに重合を、反応条件を変えて二段以上に分けて行うこともできる。このような多段重合を行えば、オレフィン重合体の分子量分布を更に広げることが可能である。
【0106】
このようにして得られたオレフィンの重合体は、単独重合体、ランダム共重合体およびブロック共重合体などのいずれであってもよい。
上記のようなオレフィン重合用触媒を用いてオレフィンの重合、特にプロピレンの重合を行うと、デカン不溶成分含有率が70%以上、好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である立体規則性の高いプロピレン系重合体が得られる。
【0107】
さらに本発明のオレフィン重合体の製造方法によれば、多段重合を行わなくても、少ない段数の重合、例えば単段重合でも、分子量分布の広いポリオレフィンを得ることができる。本発明のオレフィン重合体の製造方法においては、特に、メルトフローレート(MFR)が同等である従来のオレフィン重合体よりも、分子量の高い成分を含むオレフィン重合体が得られる場合が多いことが特徴である。この特徴は、後述するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により確認することができ、Mw/Mn値およびMz/Mw値の両方が高い重合体を得ることができる。
【0108】
従来のマグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与体を含む固体状チタン触媒成分を用いて得られるポリプロピレンは、たとえばMFRが1〜10g/10分の領域では、GPC測定で求められる分子量分布の指標であるMw/Mn値が5以下、Mz/Mw値は4未満となることが一般的であったが、本発明のオレフィン重合体の製造方法を用いると、上記の同様の重合条件でMw/Mn値が6〜30、好ましくは7〜20のオレフィン重合体を得ることができる。また好ましくは、Mz/Mw値が4〜10、より好ましくは4.5〜8のオレフィン重合体を得ることができる。特に、本発明のオレフィンの重合体の製造方法によれば、Mz/Mw値の高い重合体が得られることが多い。
【0109】
Mw/Mn値が高いポリプロピレン(以下「PP」ともいう。)は、成形性や剛性に優れることが当該業者では常識とされている。一方、Mz/Mw値が高いことは、分子量の高い成分の含有比率が高いことを表しており、得られるポリプロピレンの溶融張力が高く、成形性に優れる可能性が高いことが予想される。
【0110】
本発明のオレフィン重合体の製造方法を用いれば、多段重合を行わなくても分子量分布の広い重合体を得ることができるので、重合体製造装置をよりシンプルにする事ができる可能性がある。また、従来の多段重合法に適用すると、より溶融張力や成形性に優れた重合体を得ることができることが予想される。
【0111】
分子量分布の広い重合体を得る他の方法としては、分子量の異なる重合体を溶解混合や、溶融混練する方法もあるが、これらの方法により得られる重合体は、作業が比較的煩雑な割には、溶融張力や成形性の向上が充分でない場合がある。これは分子量の異なる重合体は基本的に混ざり難い為と推定されている。一方、本発明のオレフィン重合体の製造方法で得られる重合体は、触媒レベル、即ちナノレベルで、極めて広い範囲の分子量の異なる重合体が混合しているので、溶融張力が高く、成形性に優れていることが予想される。
【0112】
〔固体状チタン触媒成分(I−1)〕
本発明に係る固体状チタン触媒成分(I−1)は、
チタン、マグネシウム、ハロゲンおよび下記式(2)で特定される環状エステル化合物(a−1)を含むことを特徴とする。
【0113】
【化5】

式(2)において、nは、5〜10の整数、好ましくは5〜7の整数であり、特に好ましくは6である。またCaは、炭素原子を表わす。
【0114】
環状骨格中の炭素原子間結合は、すべてが単結合であることが好ましいが、Ca−Ca結合およびCa−Cb結合以外のいずれかの単結合は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【0115】
1は、それぞれ独立に、炭素原子数が1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは2〜8、さらに好ましくは4〜8、特に好ましくは4〜6の1価の炭化水素基である。この炭化水素基としては、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基)などが挙げられ、中でもn−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基が好ましく、更にはn−ブチル基、イソブチル基が好ましい。
【0116】
即ち、固体状チタン触媒成分(I−1)は、前述した固体状チタン触媒成分(I)の好ましい範囲にも位置付けられる。
本発明に係る固体状チタン触媒成分(I−1)を用いて炭素数3以上オレフィンを重合させると分子量分布の広い重合体が得られる。特に低い重合器内圧力でも分子量分布の広い重合体が得られ易い特徴がある。
【0117】
固体状チタン触媒成分(I−1)は、マグネシウム化合物、チタン化合物および環状エステル化合物(a−1)を接触させることによって得られる。用いられるマグネシウム化合物、チタン化合物は、前記固体状チタン触媒成分(I)の調製に用いられるマグネシウム化合物、チタン化合物と同様である。
【0118】
このような環状エステル化合物(a−1)としては、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジn-プロピル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソプロピル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジn-ブチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジヘキシル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジオクチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジデシル、
シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸ジイソプロピル、
シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、
シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸ジデシル、
シクロペンタン-1,3-ジカルボン酸ジエチル、
シクロペンタン-1,3-ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘプタン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
シクロヘプタン-1,2-ジカルボン酸ジイソプロピル、
シクロヘプタン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘプタン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、
シクロヘプタン-1,2-ジカルボン酸ジデシル、
シクロオクタン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
シクロデカン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジn-プロピル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジイソプロピル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジn-ブチル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジヘキシル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジオクチル、
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジデシル、
3-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
3-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸ジイソプロピル、
3-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
3-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、
3-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸ジデシル、
4-シクロヘプテン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
4-シクロヘプテン-1,2-ジカルボン酸ジイソプロピル、
4-シクロヘプテン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
4-シクロヘプテン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、
4-シクロヘプテン-1,2-ジカルボン酸ジデシル、
5-シクロオクテン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、
6-シクロデセン-1,2-ジカルボン酸ジエチル
などが挙げられる。
【0119】
これらの中でも環状構造が全て単結合である化合物が好ましい。
上記の様なエステル構造は、トランス純度(トランス体およびシス体のうちのトランス体の割合)は51〜79%であることが好ましい。このトランス純度は、より好ましくは55〜79%、更に好ましくは60〜79%、特に好ましくは65〜79%である。特に上記式(2)においてn=6であるシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジエステルのトランス純度は上記の範囲である。
【0120】
n=6である場合にトランス純度が51%未満であると、広分子量分布化の効果が不充分となったり、活性、立体特異性が不充分となることがある。また、n=6である場合にトランス純度が79%を超えると広分子量分布化の効果が不充分となることがある。すなわち、トランス純度が上記の範囲内であれば、得られる重合体の分子量分布を広げる効果と、触媒の活性や得られる重合体の高い立体規則性を高いレベルで両立することができる。
【0121】
特に好ましい具体的な環状エステル化合物(a−1)は、上記のトランス純度の範囲を満たす
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジヘキシル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジオクチル、
シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
である。これらが特に好ましい理由は、触媒性能だけでなく、これらの化合物がDiels Alder 反応を利用して比較的安価に製造できる点にある。
【0122】
本発明の固体状チタン触媒成分(I−1)には、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分が含まれていても良い。その成分は、固体状チタン触媒成分(I)の説明で記載した化合物と同様である。
【0123】
本発明の固体状チタン触媒成分(I−1)はオレフィンの重合に用いることができ、この固体状チタン触媒成分(I−1)と前記の有機金属化合物触媒成分(II)と必要に応じて前記の触媒成分(III)とを組み合わせて、オレフィンの重合を行うことが好ましい。これらの成分の好ましい使用量、重合条件などは、全て、前述した固体状チタン触媒成分(I)を用いる場合と同様である。
【0124】
また予備重合や本重合に用いられるオレフィンも、前述した固体状チタン触媒成分(I)を用いる場合と同様である。
本発明の固体状チタン触媒成分(I−1)を用いてオレフィンの重合、特にプロピレンの重合を行うと、デカン不溶成分含有率が70%以上、好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である立体規則性の高いプロピレン系重合体が得られる。
【0125】
さらに本発明の固体状チタン触媒成分(I−1)を用いれば、多段重合を行わなくても、少ない段数の重合、例えば単段重合でも、分子量分布の広いポリオレフィンを得ることができる。本発明の固体状チタン触媒成分(I−1)を用いてオレフィンを重合すると、特に、メルトフローレート(MFR)が同等である従来のオレフィン重合体よりも、分子量の高い成分を含むオレフィン重合体が得られる場合が多いことが特徴である。この特徴は、後述するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により確認することができ、Mw/Mn値およびMz/Mw値の両方が高い重合体を得ることができる。
【0126】
従来のマグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与体を含む固体状チタン触媒成分を用いて得られるポリプロピレンは、たとえばMFRが1〜10g/10分の領域では、GPC測定で求められる分子量分布の指標であるMw/Mn値が5以下、Mz/Mw値は4未満となることが一般的であったが、本発明の固体状チタン触媒成分(I−1)を用いると、上記の同様の重合条件でMw/Mn値が6〜30、好ましくは7〜20のオレフィン重合体を得ることができる。また好ましくは、Mz/Mw値が4〜10、より好ましくは4.5〜8のオレフィン重合体を得ることができる。特に、本発明の固体状チタン触媒成分(I−1)を用いると、Mz/Mw値の高い重合体が得られることが多い。
【0127】
Mw/Mn値が高いPPは、成形性や剛性に優れることが当該業者では常識とされている。一方、Mz/Mw値が高いことは、分子量の高い成分の含有比率が高いことを表しており、得られるポリプロピレンの溶融張力が高く、成形性に優れる可能性が高いことが予想される。
【0128】
本発明の固体状チタン触媒成分(I−1)を用いれば、多段重合を行わなくても分子量分布の広い重合体を得ることができるので、重合体製造装置をよりシンプルにする事ができる可能性がある。また、従来の多段重合法に適用すると、より溶融張力や成形性に優れた重合体を得ることができることが予想される。
【0129】
分子量分布の広い重合体を得る他の方法としては、分子量の異なる重合体を溶解混合や、溶融混練する方法もあるが、これらの方法により得られる重合体は、作業が比較的煩雑な割には、溶融張力や成形性の向上が充分でない場合がある。これは分子量の異なる重合体は基本的に混ざり難い為と推定されている。一方、本発明の固体状チタン触媒成分(I−1)を用いて得られる重合体は、触媒レベル、即ちナノレベルで、極めて広い範囲の分子量の異なる重合体が混合しているので、溶融張力が高く、成形性に優れていることが予想される。
【0130】
[実施例]
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0131】
以下の実施例において、プロピレン等の重合体の嵩比重、メルトフローレート、デカン可溶(不溶)成分量、分子量分布などは下記の方法によって測定した。
(1)嵩比重:
JIS K-6721に従って測定した。
【0132】
(2)メルトフローレート(MFR):
ASTM D1238Eに準拠し、測定温度は、プロピレン重合体の場合は230℃、4−メチル1−ペンテン重合体の場合は260℃とした。
【0133】
(3)デカン可溶(不溶)成分量:
ガラス製の測定容器にプロピレン重合体約3グラム(10-4グラムの単位まで測定した。また、この重量を、下式においてb(グラム)と表した。)、デカン500ml、およびデカンに可溶な耐熱安定剤を少量装入し、窒素雰囲気下、スターラーで攪拌しながら2時間で150℃に昇温してプロピレン重合体を溶解させ、150℃で2時間保持した後、8時間掛けて23℃まで徐冷した。得られたプロピレン重合体の析出物を含む液を、磐田ガラス社製25G-4規格のグラスフィルターにて減圧濾過した。濾液の100mlを採取し、これを減圧乾燥してデカン可溶成分の一部を得、この重量を10-4グラムの単位まで測定した(この重量を、下式においてa(グラム)と表した。)この操作の後、デカン可溶成分量を下記式によって決定した。
デカン可溶成分含有率=100 × (500 × a) / (100 × b)
デカン不溶成分含有率=100 - 100 × (500 × a) / (100 × b)
【0134】
(4)分子量分布:
液体クロマトグラフ : Waters製 ALC/GPC 150-C plus型(示唆屈折計検出器一体型)
カラム : 東ソー株式会社製 GMH6-HT×2本およびGMH6-HTL×2本を直列接続した。
移動相媒体 : o-ジクロロベンゼン
流速 : 1.0ml/分
測定温度 : 140℃
検量線の作成方法 : 標準ポリスチレンサンプルを使用した
サンプル濃度 : 0.10%(w/w)
サンプル溶液量 : 500μl
の条件で測定し、得られたクロマトグラムを公知の方法によって解析することでMw/Mn値およびMz/Mw値を算出した。1サンプル当たりの測定時間は60分であった。
【0135】
(5)溶融張力:
東洋精機製作所株式会社製キャピログラフ1B型装置にメルトテンション測定装備を付した溶融張力測定装置を用い、230℃の同装置シリンダー内(窒素雰囲気下)で6分間溶融したサンプル樹脂を、ピストンを用いて長さ8mm、直径2.095mmのノズルを通してストランドを押し出した。ピストンの押出速度は15mm/分とした。このストランドをフィラメント状に引き、ロードセルを付したプーリーを通し、所定の巻き取り速度のローラーを用いて巻き取った。この時にロードセルで検出される応力を測定し、溶融張力とした。
【0136】
(6)トランス純度:
なお、前記環状エステル化合物(a)(環状エステル化合物(a−1))に該当する化合物としては、特に明記しない限りアヅマ株式会社合成品を用いた。またトランス体、シス体の異性体純度は、特に明記しない場合何れも95%以上である。
【0137】
トランス純度は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)の常法による測定によって決定した。具体的な測定条件は以下の通りである。
また上記異性体純度が5%を超え95%未満である化合物の場合は、トランス体化合物(トランス体純度95%以上の化合物)、シス体化合物(シス体純度95%以上の化合物)を所定の割合で混合することで異性体純度を制御した。
【0138】
トランス体純度は以下の条件で1H−NMR測定を行い、COOR1基が結合した炭素原子(上記式(1)、(2)中のCa)に結合するメチン水素のトランス体の面積(At)、シス体(As)のシグナルの面積を用い、下式によって計算した。
・装置 :日本電子製GSX−400型
・溶媒 :重クロロホルム
・基準物質 :テトラメチルシラン
・温度 :25℃
・積算回数 :40回
・繰り返し時間 :6秒
トランス率 =100At/(At+As
【0139】
シス体のシグナルはトランス体のシグナルより低磁場側に検出される。その差は構造によって異なるが、およそ0.2〜0.4ppmである。具体的な位置は構造によって異なるが、シス体は2.7〜3.2ppmの位置、トランス体は2.5〜3.0ppmの位置に検出される。
【0140】
(7)融点、結晶化温度:
DSC装置を用いた常法により測定した。具体的には以下の通りである。
重合体を200℃で5分間溶融し、3〜5MPaの圧力でプレスしてプレスシートを得た。このプレスシートを約5ミリグラムを以下の条件で、DSC測定した。
・DSC装置 :Perkin Elmer社製、DSC-7型装置
・昇降温条件 :
第1段階 − 室温から200℃まで320℃/分で昇温し、10分間200℃で保持
第2段階 − 200℃から30℃まで10℃/分で降温し、5分間30℃で保持
第3段階 − 30℃から200℃まで10℃/分で昇温
(第2段階の降温時に結晶化温度、第3段階の昇温時に融点が観測される。)
【0141】
[参考例1]
(固体状チタン触媒成分(α1)の調製)
内容積2リットルの高速撹拌装置(特殊機化工業製)を充分窒素置換した後、この装置に精製デカン700ml、市販塩化マグネシウム10g、エタノール24.2gおよび商品名レオドールSP-S20(花王(株)製ソルビタンジステアレート)3gを入れ、この懸濁液を撹拌しながら系を昇温し、懸濁液を120℃にて800rpmで30分撹拌した。次いでこの懸濁液を、沈殿物が生じないように高速撹拌しながら、内径5mmのテフロン(登録商標)製チューブを用いて、予め-10℃に冷却された精製デカン1リットルを張り込んである2リットルのガラスフラスコ(攪拌機付)に移した。移液により生成した固体を濾過し、精製n-ヘプタンで充分洗浄することにより、塩化マグネシウム1モルに対してエタノールが2.8モル配位した固体状付加物を得た。
【0142】
デカン30mlで懸濁状にした、マグネシウム原子に換算して46.2ミリモルの上記固体状付加物を、-20℃に保持した四塩化チタン200ml中に、攪拌下、全量導入して混合液を得た。この混合液を5時間かけて80℃に昇温し、80℃に達したところで、シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体33%)を、固体状付加物のマグネシウム原子1モルに対して0.15モルの割合の量で添加し、40分間で120℃まで昇温した。温度を120℃で90分間攪拌しながら保持することによりこれらを反応させた。
【0143】
90分間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を200mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、昇温して130℃に達したところで、45分間撹拌しながら保持することによりこれらを反応させた。45分間の反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、100℃のデカンおよびヘプタンで、洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄した。
【0144】
以上の操作によって調製した固体状チタン触媒成分(α1)はデカンスラリーとして保存したが、この内の一部を、触媒組成を調べる目的で乾燥した。
このようにして得られた固体状チタン触媒成分(α1)の組成はチタン2.4質量%,マグネシウム20質量%,塩素65質量%、エタノール残基0.3質量%であった。
【0145】
(本重合)
内容積2リットルの重合器に、室温で500gのプロピレンおよび水素1NLを加えた後、トリエチルアルミニウムを0.5ミリモル、シクロヘキシルメチルジメトキシシランを0.1ミリモル、および固体状チタン触媒成分(α1)をチタン原子換算で0.004ミリモル加え、速やかに重合器内を70℃まで昇温した。この時の重合器内圧力は、ゲージ圧で3.1MPa(絶対圧:3.2MPa)であった。70℃で1時間重合した後、少量のメタノールにて反応停止し、プロピレンをパージした。更に得られた重合体粒子を80℃で一晩、減圧乾燥した。
【0146】
触媒の活性、得られた重合体のMFR、デカン不溶成分量、嵩比重、分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mw)を表1に示した。
なお、プロピレンの70℃での飽和蒸気圧は3.0MPaである。
【0147】
[参考例2]
(固体状チタン触媒成分(α2)の調製)
シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体33%)の代わりにシクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチルのトランス体を用いた以外は参考例1と同様にして、固体状チタン触媒成分(α2)を得た。
【0148】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α1)に替えて固体状チタン触媒成分(α2)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表1に示した。
【0149】
[参考例3]
(固体状チタン触媒成分(α3)の調製)
シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体33%)の代わりにシクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジn-オクチル(トランス体29%)を用いた以外は参考例1と同様にして、固体状チタン触媒成分(α3)を得た。
【0150】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α3)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表1に示した。
【0151】
[参考例4]
(固体状チタン触媒成分(α4)の調製)
シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体33%)の代わりにシクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジイソブチルのトランス体を用いた以外は参考例1と同様にして、固体状チタン触媒成分(α4)を得た。
【0152】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α4)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表1に示した。
【0153】
[参考例5]
(固体状チタン触媒成分(α5)の調製)
シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体33%)の代わりに4-シクロヘキセン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体50%)を用いた以外は参考例1と同様にして、固体状チタン触媒成分(α5)を得た。
【0154】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α5)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表1に示した。
【0155】
[参考例6]
(固体状チタン触媒成分(α6)の調製)
シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体33%)の代わりに4-シクロヘキセン1,2-ジカルボン酸ジエチルのトランス体を用いた以外は参考例1と同様にして、固体状チタン触媒成分(α6)を得た。
【0156】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α6)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表1に示した。
【0157】
[参考例7]
(固体状チタン触媒成分(α7)の調製)
シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体33%)(マグネシウム1モルに対して0.15モル)の代わりに4-シクロヘキセン1,2-ジカルボン酸ジエチルのトランス体をマグネシウム1モルに対して0.125モル分用いた以外は参考例1と同様にして、固体状チタン触媒成分(α7)を得た。
【0158】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α7)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表1に示した。
【0159】
[参考例8]
(固体状チタン触媒成分(α8)の調製)
シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体33%)の代わりに4-シクロヘキセン1,2-ジカルボン酸ジイソブチルのトランス体を用いた以外は参考例1と同様にして、固体状チタン触媒成分(α8)を得た。
【0160】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α8)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表1に示した。
【0161】
[参考例9]
(固体状チタン触媒成分(α9)の調製)
シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体33%)の代わりに4-シクロヘキセン1,2-ジカルボン酸ジn-オクチルのシス体を用いた以外は参考例1と同様にして、固体状チタン触媒成分(α9)を得た。
【0162】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α9)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表1に示した。
【0163】
[参考例10]
(固体状チタン触媒成分(α10)の調製)
シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体33%)の代わりに4-シクロヘキセン1,2-ジカルボン酸ジn-オクチル(トランス体50%)を用いた以外は参考例1と同様にして、固体状チタン触媒成分(α10)を得た。
【0164】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α10)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表1に示した。
【0165】
[参考例11]
(固体状チタン触媒成分(α11)の調製)
シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体33%)の代わりにシクロペンタン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル(トランス体)を用いた以外は参考例1と同様にして、固体状チタン触媒成分(α11)を得た。
【0166】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α11)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表1に示した。
【0167】
[参考例12]
(固体状チタン触媒成分(α12)の調製)
シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体33%)の代わりにシクロヘプタン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル(トランス体)を用いた以外は参考例1と同様にして、固体状チタン触媒成分(α12)を得た。
【0168】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α12)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表1に示した。
【0169】
[参考例13]
(固体状チタン触媒成分(α13)の調製)
まず、参考例1と同様にして、塩化マグネシウム1モルに対してエタノールが2.8モル配位した固体状付加物を得た。
【0170】
デカン30mlで懸濁状にした上記固体状付加物をマグネシウム原子に換算して46.2ミリモルを-20℃に保持した四塩化チタン200ml中に攪拌下、全量導入した。この混合液を5時間かけて80℃に昇温し、80℃に達したところで、2-イソブチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパンを固体状付加物のマグネシウム原子1モルに対して0.15モル量を添加し、40分間で120℃まで昇温した。温度が120℃に達した時点で4-シクロヘキセン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体)を固体状付加物のマグネシウム原子1モルに対して0.15モル量添加し、90分間攪拌しながら温度を120℃に保持した。
【0171】
90分間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を200mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、昇温して130℃に達したところで、45分間撹拌しながら保持した。45分間の反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、100℃のデカンおよびヘプタンで洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄した。
【0172】
以上の操作によって調製した固体状チタン触媒成分(α13)はデカンスラリーとして保存したが、この内の一部を、触媒組成を調べる目的で乾燥した。
このようにして得られた固体状チタン触媒成分(α13)の組成はチタン2.0質量%,マグネシウム19質量%,塩素60質量%、エタノール残基0.2質量%であった。
【0173】
(本重合)
内容積2リットルの重合器に、室温で500gのプロピレンおよび水素1NLを加えた後、トリエチルアルミニウムを0.5ミリモル、シクロヘキシルメチルジメトキシシランを0.1ミリモル、および固体状チタン触媒成分(α13)をチタン原子換算で0.004ミリモル加え、速やかに重合器内を70℃まで昇温した。70℃で1時間重合した後、少量のメタノールにて反応停止し、プロピレンをパージした。更に得られた重合体粒子を80℃で一晩、減圧乾燥した。
触媒の活性、得られた重合体のMFR、デカン不溶成分量、嵩比重、分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mw)を表1に示した。
【0174】
[参考例14]
(固体状チタン触媒成分(α14)の調製)
2-イソブチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパンの代わりにフタル酸ジイソブチル(和光純薬工業(株)製 試薬特級)を固体状付加物中のマグネシウム原子1モルに対して0.10モル、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体)の代わりにシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル(トランス体)を固体状付加物中のマグネシウム原子1モルに対して0.05モル用いた以外は参考例1と同様にして、固体状チタン触媒成分(α14)を得た。
【0175】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α14)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表1に示した。
【0176】
[実施例15]
(固体状チタン触媒成分(α15)の調製)
まず、参考例1と同様にして、塩化マグネシウム1モルに対してエタノールが2.8モル配位した固体状付加物を得た。
【0177】
デカン30mlで懸濁状にした、マグネシウム原子に換算して46.2ミリモルの上記固体状付加物を、-20℃に保持した四塩化チタン200ml中に、攪拌下、全量導入して混合液を得た。この混合液を5時間かけて80℃に昇温し、80℃に達したところで、シクロヘキサン1,2ジカルボン酸ジイソブチル(トランス率78%)を固体状付加物のマグネシウム原子1モルに対して0.15モル量添加し、10分間で90℃まで昇温した。90℃の時点で2-イソブチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパンを固体状付加物のマグネシウム原子1モルに対して0.05モル量添加した。その後、90分間、攪拌しながら温度を90℃に保持することによりこれらを反応させた。
【0178】
90分間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を200mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、昇温して90℃に達したところで、45分間撹拌しながら90℃を保持することによりこれらを反応させた。45分間の反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、100℃のデカンおよびヘプタンで洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄した。
【0179】
以上の操作によって調製した固体状チタン触媒成分(α15)はデカンスラリーとして保存したが、この内の一部を、触媒組成を調べる目的で乾燥した。
このようにして得られた固体状チタン触媒成分(α15)の組成は、チタン3.2質量%、マグネシウム17質量%、塩素60質量%、エタノール残基0.7質量%、シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジイソブチル14.6質量%、2-イソブチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン3.5質量%であった。
【0180】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α15)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表1に示した。
【0181】
[比較例1]
(固体状チタン触媒成分(β1)の合成)
シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体33%)の代わりにフタル酸ジイソブチル(和光純薬工業(株)製試薬特級)を用いた以外は参考例1と同様にして、固体状チタン触媒成分(β1)を得た。
【0182】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(β1)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表1に示した。
【0183】
[比較例2]
(2,3-ジイソプロピルコハク酸ジエチルの合成)
前記特許文献5に記載の方法と同様の方法で、2,3-ジイソプロピルコハク酸ジエチルを合成した。
【0184】
(固体状チタン触媒成分(β2)の合成)
シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体33%)の代わりに2,3-ジイソプロピルコハク酸ジエチルを用いた以外は参考例1と同様にして、固体状チタン触媒成分(β2)を得た。
【0185】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(β2)を用い、水素を1.6NL用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。この時の重合器内圧力は3.2MPa(絶対圧:3.3MPa)であった。結果を表1に示した。
【0186】
[比較例3]
(固体状チタン触媒成分(β3)の合成)
シクロヘキサン1,2-ジカルボン酸ジエチル(トランス体33%)の代わりに1-シクロヘキセン1,2-ジカルボン酸ジイソブチルを用いた以外は参考例1と同様にして、固体状チタン触媒成分(β3)を得た。
【0187】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(β3)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表1に示した。
【0188】
【表1】

【0189】
本発明のオレフィン重合体の製造方法を利用して得られるポリプロピレンは分子量分布の広い重合体であることがわかる。特に、ほぼ同じMFR値のPP(ポリプロピレン)同士を比較した場合、分子量の高い成分の含有率が高いことを示すMz/Mw値が高いことが特徴的である。
【0190】
また、本発明の固体状チタン触媒成分を利用して得られるポリプロピレンは分子量分布の広い重合体であることがわかる。特に、ほぼ同じMFR値のPP同士を比較した場合、分子量の高い成分の含有率が高いことを示すMz/Mw値が高いことが特徴的である。
【0191】
[実施例16]
[固体状チタン触媒成分(α16)の調製]
無水塩化マグネシウム75g、デカン280.3gおよび2−エチルヘキシルアルコ−ル308.3gを130℃で3時間加熱反応させて均一溶液とした後、この溶液中に安息香酸エチル17.7gを添加し、さらに100℃にて1時間攪拌混合を行なった。
【0192】
このようにして得られた均一溶液を室温まで冷却した後、この均一溶液30mlを、−20℃に保持した四塩化チタン80ml中に、攪拌下、45分間にわたって全量滴下装入し混合液を得た。装入終了後、この混合液の温度を3.8時間かけて97.5℃に昇温し、97.5℃になったところで混合液中にシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル(トランス率78%)をMg原子の0.25モル倍添加し、2時間同温度にて攪拌下保持することによりこれらを反応させた。2時間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を100mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、再び97.5℃で2時間、加熱反応を行った。反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、100℃デカンおよびヘキサンで洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄した。以上の操作によって調製した固体状チタン触媒成分(α16)はデカンスラリ−として保存したが、この内の一部を触媒組成を調べる目的で乾燥した。このようにして得られた固体状チタン触媒成分(α16)の組成はチタン2.6質量%、マグネシウム18質量%、塩素55質量%、シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル15.9質量%および2−エチルヘキシルアルコ−ル残基0.3質量%であった。
【0193】
(本重合)
内容積2リットルの重合器に、室温で500gのプロピレンおよび水素1NLを加えた後、トリエチルアルミニウムを0.5ミリモル、ジエチルアミノトリエトキシシランを0.1ミリモル、および固体状チタン触媒成分(α16)をチタン原子換算で0.004ミリモル加え、速やかに重合器内を70℃まで昇温した。この時の重合器内圧力は、ゲージ圧で3.1MPa(絶対圧:3.2MPa)であった。70℃で1時間重合した後、少量のメタノールにて反応停止し、プロピレンをパージした。更に得られた重合体粒子を80℃で一晩、減圧乾燥した。
【0194】
触媒の活性、得られた重合体のMFR、デカン不溶成分量、嵩比重、分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mw)を表2に示した。
【0195】
[実施例17]
重合時に水素を7.5NL用いた以外は実施例16と同様にしてプロピレンの重合を行った。この時の重合器内圧力は、3.7MPa(絶対圧:3.8MPa)であった。
重合結果を表2に示した。
【0196】
【表2】

【0197】
この結果から、窒素含有アルコキシシラン化合物の存在下においても、分子量分布の広い重合体を得られることが分かる。
【0198】
[実施例18]
実施例16で得られた塩化マグネシウムの均一溶液30mlを、−20℃に保持した四塩化チタン80ml中に、攪拌下、45分間にわたって全量滴下装入して混合液を得た。装入終了後、この混合液の温度を4時間かけて110℃に昇温し、110℃になったところで混合液中にシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル(トランス率75%)をMg原子の0.25モル倍添加し、2時間同温度にて攪拌下保持することによりこれらを反応させた。2時間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を100mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、再び110℃で2時間、加熱反応を行った。反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、100℃デカンおよびヘキサンで洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄して固体状チタン触媒成分(α18)を得た。
【0199】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α18)を用いた以外は実施例16と同様にしてプロピレンの重合を行った。この時の重合器内圧力は、3.1MPa(絶対圧:3.2MPa)であった。
結果を表3に示した。
【0200】
[実施例19]
プロピレン500gの代わりに、活性アルミナを用いて精製したヘプタン240mlとプロピレン380gとを用い、水素を0.65NLとした以外は、実施例18と同様にしてプロピレンの重合を行った。この時の重合器内圧力は2.5MPa(絶対圧:2.6MPa)であった。
結果を表3に示した。
【0201】
[実施例20]
プロピレン500gの代わりに、活性アルミナを用いて精製したヘプタン560mlとプロピレン220gとを用い、水素を0.45NLとした以外は、実施例18と同様にしてプロピレンの重合を行った。この時の重合器内圧力は1.6MPa(絶対圧:1.7MPa)であった。
結果を表3に示した。
【0202】
[比較例4]
(固体状チタン触媒成分(β4)の調製)
シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル(トランス率75%)の代わりにシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチルのトランス体を用いた以外は実施例18と同様にして固体状チタン触媒成分(β4)を得た。
【0203】
(重合)
充分に窒素置換した内容積2リットルの重合器に、室温で750mlの精製ヘプタンを装入し、40℃、プロピレン雰囲気下でトリエチルアルミニウムを0.75ミリモル、シクロヘキシルメチルジメトキシシランを0.015ミリモルおよび固体状チタン触媒成分(β4)をチタン原子換算で0.015ミリモル加えた。次いで60℃に昇温して水素0.2NLを添加し80℃に昇温した後、1時間プロピレン重合を行った。重合中の圧力はゲージ圧で0.8MPa(絶対圧:0.9MPa)に保持した。重合終了後、精製した固体を含むスラリーを濾過し、80℃で一晩減圧乾燥した。結果を表3に示した。
尚、80℃でのプロピレンの飽和蒸気圧は3.8MPaである。
【0204】
[比較例5]
(固体状チタン触媒成分(β5)の調製)
シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル(トランス率75%)の代わりにシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチルのシス体を用いた以外は実施例18と同様にして固体状チタン触媒成分(β5)を得た。
【0205】
(重合)
固体状チタン触媒成分(β5)を用いた以外は比較例4と同様にしてプロピレンの重合を行った。結果を表3に示した。
【0206】
【表3】

【0207】
上記の結果から、重合器内圧力が低いと分子量分布の広い重合体が得られないことが分かる。
【0208】
[実施例21]
(予備重合)
200ミリリットルの攪拌機付きガラス製四つ口反応器に窒素雰囲気下、精製ヘキサンを50ミリリットル、トリエチルアルミニウムを1.5ミリモル、固体状チタン触媒(α16)をチタン原子換算で0.5ミリモル添加した後、1.6リットル/時間の速度でプロピレンを1時間反応器に供給した。これらの操作中、反応器内圧力は常圧に、温度は20℃に保持した。
【0209】
プロピレンの供給が終了したところで反応器内の気相を窒素置換し、上澄み液の除去および精製ヘキサンの添加から成る洗浄操作を2回行った後、残留した液を精製デカンにて再懸濁し、触媒瓶に全量移液して予備重合触媒成分(α21)を得た。
【0210】
(気相重合)
充分に窒素置換した内容積2Lの重合容器に塩化ナトリウム(和光純薬工業(株)製特級)150gを装入し、90℃で1.5時間減圧乾燥した。その後、系内を40℃まで冷却し、トリエチルアルミニウムを1ミリモル、シクロヘキシルメチルジメトキシシランを0.2ミリモルおよび予備重合触媒成分(α21)をチタン原子換算で0.01ミリモル装入した。その後、水素0.4NLを装入し、次いでプロピレンの供給を開始した。重合器内圧力は1.2MPa(絶対圧:1.3MPa)を保持し、70℃で1時間重合を行った。結果を表4に示した。
【0211】
[比較例6]
(気相重合)
充分に窒素置換した内容積1Lの重合容器に塩化ナトリウム(和光純薬工業(株)製特級)150gを装入し、90℃で1.5時間減圧乾燥した。その後、系内を40℃まで冷却し、トリエチルアルミニウムを0.4ミリモル、シクロヘキシルメチルジメトキシシランを0.08ミリモルおよび予備重合触媒成分(α21)をチタン原子換算で0.008ミリモル装入した。その後、水素0.1NLを装入し、次いでプロピレンの供給を開始した。重合器内圧力は0.5MPa(絶対圧:0.6MPa)を保持し、70℃で1時間重合を行った。結果を表4に示した。
【0212】
【表4】

【0213】
上記の結果から、気相重合においても重合器内圧力が低いと分子量分布の広い重合体が得られないことが分かる。
【0214】
[実施例22]
(固体状チタン触媒(α22)の調製)
シクロヘキサン1,2ジカルボン酸ジイソブチル(トランス体)の代わりにシクロヘキサン1,2ジカルボン酸ジイソブチル(トランス率78%)を用いた以外は、参考例4と同様にして固体状チタン触媒成分の調製を行い固体状チタン触媒成分(α22)を得た。
【0215】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α1)に代えて固体状チタン触媒成分(α22)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表5に示した。
【0216】
[実施例23]
(固体状チタン触媒(α23)の調製)
シクロヘキサン1,2ジカルボン酸ジイソブチル(トランス体)の代わりにシクロヘキサン1,2ジカルボン酸ジイソブチル(トランス率55%)を用いた以外は、参考例4と同様にして固体状チタン触媒成分の調製を行い固体状チタン触媒成分(α23)を得た。
【0217】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α1)に代えて固体状チタン触媒成分(α23)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表5に示した。
【0218】
[参考例24]
(固体状チタン触媒(α24)の調製)
シクロヘキサン1,2ジカルボン酸ジイソブチル(トランス体)の代わりにシクロヘキサン1,2ジカルボン酸ジイソブチル(シス体)を用いた以外は、参考例4と同様にして固体状チタン触媒成分の調製を行い固体状チタン触媒成分(α24)を得た。
【0219】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α1)に代えて固体状チタン触媒成分(α24)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表5に示した。
【0220】
[参考例25]
(固体状チタン触媒(α25)の調製)
まず、参考例1と同様にして、塩化マグネシウム1モルに対してエタノールが2.8モル配位した固体状付加物を得た。
【0221】
デカン30mlで懸濁状にした、マグネシウム原子に換算して46.2ミリモルの上記固体状付加物を、-20℃に保持した四塩化チタン200ml中に、攪拌下、全量導入して混合液を得た。この混合液を5時間かけて80℃に昇温し、80℃に達したところで、シクロヘキサン1,2ジカルボン酸ジイソブチル(トランス体)を固体状付加物のマグネシウム原子1モルに対して0.175モル量添加し、20分間で100℃まで昇温し、その後、90分間攪拌しながら温度を100℃に保持することによりこれらを反応させた。
【0222】
90分間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を200mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、昇温して100℃に達したところで、45分間撹拌しながら100℃を保持することによりこれらを反応させた。45分間の反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、100℃のデカンおよびヘプタンで洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄して固体状チタン触媒成分(α25)を得た。
【0223】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α1)に代えて固体状チタン触媒成分(α25)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表5に示した。
【0224】
[実施例26]
(固体状チタン触媒(α26)の調製)
シクロヘキサン1,2ジカルボン酸ジイソブチル(トランス体)の代わりにシクロヘキサン1,2ジカルボン酸ジイソブチル(トランス率78%)を用いた以外は、参考例25と同様にして固体状チタン触媒成分の調製を行い固体状チタン触媒成分(α26)を得た。
【0225】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α1)に代えて固体状チタン触媒成分(α26)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表5に示した。
【0226】
[実施例27]
(固体状チタン触媒(α27)の調製)
シクロヘキサン1,2ジカルボン酸ジイソブチル(トランス体)の代わりにシクロヘキサン1,2ジカルボン酸ジイソブチル(トランス率55%)を用いた以外は、参考例4と同様にして固体状チタン触媒成分の調製を行い固体状チタン触媒成分(α27)を得た。
【0227】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α1)に代えて固体状チタン触媒成分(α27)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表5に示した。
【0228】
[参考例28]
(固体状チタン触媒(α28)の調製)
シクロヘキサン1,2ジカルボン酸ジイソブチル(トランス体)の代わりにシクロヘキサン1,2ジカルボン酸ジイソブチル(シス体)を用いた以外は、参考例4と同様にして固体状チタン触媒成分の調製を行い固体状チタン触媒成分(α28)を得た。
【0229】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α1)に代えて固体状チタン触媒成分(α28)を用いた以外は参考例1と同様にプロピレンの重合を行った。結果を表5に示した。
【0230】
【表5】

【0231】
これらの結果から、トランス率が51%〜79%の範囲である場合に、得られる重合体の広い分子量分布と、触媒の活性や得られる重合体の高い立体規則性とを高いレベルで両立できることが分かる。
【0232】
[実施例29]
実施例16で得られた塩化マグネシウムの均一溶液30mlを、−20℃に保持した四塩化チタン80ml中に、攪拌下、45分間にわたって全量滴下装入し混合液を得た。装入終了後、この混合液の温度を3.9時間かけて105℃に昇温し、105℃になったところで混合液中にシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル(トランス率78%)をMg原子の0.25モル倍添加し、2時間同温度にて攪拌下保持することによりこれらを反応させた。2時間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を100mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、再び105℃で2時間、加熱反応を行った。反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、100℃デカンおよびヘキサンで洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄して固体状チタン触媒成分(α29)を得た。
【0233】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α29)を用いた以外は参考例1と同様にしてプロピレンの重合を行った。この時の重合器内圧力は、3.1MPa(絶対圧:3.2MPa)であった。結果を表6に示した。
【0234】
[実施例30]
実施例16で得られた塩化マグネシウムの均一溶液30mlを、−20℃に保持した四塩化チタン80ml中に、攪拌下、45分間にわたって全量滴下装入し混合液を得た。装入終了後、この混合液の温度を3.9時間かけて100℃に昇温し、100℃になったところで混合液中にシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル(トランス率78%)をMg原子の0.25モル倍添加し、2時間同温度にて攪拌下保持することによってこれらを反応させた。2時間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を100mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、再び100℃で2時間、加熱反応を行った。反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、100℃デカンおよびヘキサンで洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄して固体状チタン触媒成分(α30)を得た。
【0235】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α30)を用いた以外は参考例1と同様にしてプロピレンの重合を行った。この時の重合器内圧力は、3.1MPa(絶対圧:3.2MPa)であった。結果を表6に示した。
【0236】
[実施例31]
(本重合)
実施例16で得られた固体状チタン触媒成分(α16)を用いた以外は参考例1と同様にしてプロピレンの重合を行った。この時の重合器内圧力は、3.1MPa(絶対圧:3.2MPa)であった。結果を表6に示した。
【0237】
【表6】

【0238】
これらの結果から、本発明の固体状チタン触媒成分を105℃以下の温度で製造することにより、得られる重合体の広い分子量分布と、触媒の活性や得られる重合体の高い立体規則性をより高いレベルで両立することができることが分かる。
【0239】
[実施例32]
(本重合)
内容積2リットルの重合器に、室温で400gのプロピレン、エチレン2.3NLおよび水素1NLを加えた後、トリエチルアルミニウムを0.5ミリモル、ジシクロペンチルジメトキシシランを0.15ミリモル、および実施例16で調製した固体状チタン触媒成分(α16)をチタン原子換算で0.002ミリモル加え、速やかに重合器内を70℃まで昇温した。この時の重合器内圧力は、ゲージ圧で3.0MPa(絶対圧:3.1MPa)であった。70℃で30分重合した後、少量のメタノールにて反応停止し、プロピレンをパージした。更に得られた重合体粒子を80℃で一晩、減圧乾燥した。
【0240】
触媒の活性、得られた重合体のMFR、デカン不溶成分量、嵩比重、分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mw)、融点(Tm)および結晶化温度(Tc)を表7に示した。
【0241】
[比較例7]
(固体状チタン触媒成分(β7の調製))
まず、参考例1と同様にして、塩化マグネシウム1モルに対してエタノールが2.8モル配位した固体状付加物を得た。
【0242】
デカン30mlで懸濁状にした、マグネシウム原子に換算して46.2ミリモルの上記固体状付加物を、-20℃に保持した四塩化チタン200ml中に、攪拌下、全量導入して混合液を得た。この混合液を5時間かけて80℃に昇温し、80℃に達したところで、フタル酸ジイソブチルを固体状付加物のマグネシウム原子1モルに対して0.135モル量添加し、80℃で30分間保持し、次いで2−イソブチル2−イソプロピル1,3―ジメトキシシランを固体状付加物のマグネシウム原子1モルに対して0.15モル量添加した。更に40分間で120℃まで昇温し、その後、90分間攪拌しながら温度を120℃に保持しすることによりこれらを反応させた。
【0243】
90分間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を200mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、昇温して130℃に達したところで、45分間撹拌しながら130℃を保持することによりこれらを反応させた。45分間の反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、100℃のデカンおよびヘプタンで、洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄して固体状チタン触媒成分(β7)を得た。
【0244】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(β7)を用いた以外は、実施例32と同様にしてプロピレンとエチレンとの共重合を行った。結果を表7に示した。
【0245】
【表7】

【0246】
[実施例33]
(本重合)
内容積2リットルの重合器に、室温で650ミリリットルの精製ヘキサン、175ミリリットルの1−ブテンおよび水素1NLを加えた後、トリエチルアルミニウムを0.6ミリモル、ジシクロペンチルジメトキシシランを0.02ミリモル、および実施例16で調製した固体状チタン触媒成分(α16)をチタン原子換算で0.015ミリモル加え、速やかに重合器内を60℃まで昇温した。この時の重合器内圧力は、ゲージ圧で0.4MPa(絶対圧:0.5MPa)であった。60℃で15分重合した後、少量のメタノールにて反応停止し、未反応の1−ブテンをパージした。得られた重合体の溶液を大量のメタノールとアセトンの体積比で1/1の混合液に投入して重合体を析出させて濾別し、更に得られた重合体を80℃で一晩、減圧乾燥した。
【0247】
触媒の活性、得られた重合体の[η]、嵩比重、分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mw)を表8に示した。
なお、1−ブテンの60℃での飽和蒸気圧は、0.8MPaである。
【0248】
[比較例8]
(固体状チタン触媒成分(β8)の調製)
シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル(トランス率75%)の代わりにフタル酸ジイソブチルを塩化マグネシウム溶液のマグネシウム1モルに対して0.15モル量用いた以外は実施例16と同様にして固体状チタン触媒成分(β8)を得た。
【0249】
(本重合)
固体状チタン触媒成分(α16)の代わりに固体状チタン触媒成分(β8)を用いた以外は実施例33と同様にして1−ブテンの重合を行った。結果を表8に示した。
【0250】
【表8】

【0251】
[実施例34]
(本重合)
内容積1リットルの重合器に、室温で4−メチル-1−ペンテン(常圧での沸点:54℃)および水素0.5NLを加えた後、トリエチルアルミニウムを0.8ミリモル、シクロヘキシルメチルジメトキシシランを0.08ミリモル、および実施例16で調製した固体状チタン触媒成分(α16)をチタン原子換算で0.0075ミリモル加え、速やかに重合器内を50℃まで昇温した。この時の重合器内圧力は、ゲージ圧で0.1MPa(絶対圧:0.2MPa)であった。50℃で1時間重合した後、少量のメタノールにて反応停止した。得られたスラリーを濾別して得られた白色固体を、80℃で一晩、減圧乾燥した。白色固体の減圧乾燥後の重量は56.8gであった。
触媒の活性、得られた重合体のMFR、嵩比重、分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mw)を表9に示した。
【0252】
[比較例9]
(本重合)
固体状チタン触媒成分(β8)を用いた以外は、実施例34と同様にして4−メチル1−ペンテンの重合を行った。結果を表9に示した。
【0253】
【表9】

【0254】
表7〜表9に示したように、本発明のオレフィンの重合方法を用いれば、分子量分布の広い種々のオレフィンの重合体やオレフィンの共重合体を得ることができる。
表10には溶融張力測定結果を示した。参考例4に比して比較例2のPPは、溶融張力に劣っていることが分かる。
【0255】
【表10】

【0256】
比較例2のPPは、Mw/Mn値としては、実施例のPPと同等の広い分子量分布を示すが、Mz/Mw値は参考例4のPPに比して低い。これはMw/Mn値よりもMz/Mw値がPPの物性に大きく影響することを示している。
【0257】
図1には、MFR値がほぼ同じ値である参考例4、比較例1および比較例2で得られたポリプロピレンのGPCクロマトグラムを示した。参考例4のPPは比較例1のPPに比して明らかに分子量分布が広いことが分かる。一方、参考例4と比較例2のPPを比較すると、分子量の低い成分の含有比率は参考例4のPPの方が明らかに低い。Mz/Mw値が異なる理由はここにある。
【0258】
即ち、Mw/Mn値で規定される分子量分布だけでなく、特にMz/Mw値で規定される分子量分布も広い重合体、即ち、分子量の高い成分の比率が高く且つ(一般にベタ成分と呼ばれる)分子量の低い成分の比率が低い重合体が得られる本発明の固体状チタン触媒成分、オレフィン重合体の製造方法は、従来技術に比して優位性を持っていると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン、マグネシウム、ハロゲンおよび下記式(2)で特定される環状エステル化合物(a−1)を含むことを特徴とする固体状チタン触媒成分(I−1);
【化1】

〔式(2)において、nは5〜10の整数である。
環状骨格中の単結合(Ca−Ca結合およびCa−Cb結合を除く。)は、二重結合に置き換えられていてもよい。
1はそれぞれ独立に炭素数1〜20の1価の炭化水素基である。
また、上記式(2)で表される化合物のトランス純度は51〜79%である。〕。
【請求項2】
前記環状エステル化合物(a−1)の環状骨格中の炭素原子間結合が全て単結合であることを特徴とする請求項1記載の固体状チタン触媒成分(I−1)。
【請求項3】
前記環状エステル化合物(a−1)の環状骨格中の炭素原子数が6であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体状チタン触媒成分(I−1)。

【図1】
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【公開番号】特開2012−233195(P2012−233195A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−155387(P2012−155387)
【出願日】平成24年7月11日(2012.7.11)
【分割の表示】特願2006−553956(P2006−553956)の分割
【原出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】