説明

固体酸化物型燃料電池およびその製造方法

【課題】耐久性を有し、製造が容易で製造コストが低減された固体酸化物型燃料電池およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の固体酸化物型燃料電池10は、固体電解質基板1を有し、該基板の一方の面にカソード電極層2が形成され、他方の面にアノード電極層3が形成され、カソード電極層2またはアノード電極層3が、一層または複数の層から形成され、カソード電極層2およびアノード電極層3における固体電解質基板1と接している層は、電極形成材料と固体電解質とにより形成され且つ該固体電解質を40〜60質量%含有し、カソード電極層2における固体電解質基板1と接している層を形成する電極形成材料が、コバルト酸化物であり、アノード電極層3における固体電解質基板1と接している層を形成する電極形成材料が、ニッケルとコバルト酸化物とからなるサーメットであり、該サーメットにおけるニッケルとコバルトとの質量比が、1:3〜3:1の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型燃料電池およびその製造方法に関する。特に、カソード電極層およびアノード電極層が形成された固体電解質基板を有し、製造が容易で製造コストが低減された固体酸化物型燃料電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、種々の発電形式の燃料電池が開発されており、この中に、固体電解質を用いた形式の固体酸化物型燃料電池がある。この固体酸化物型燃料電池の一例を挙げると、イットリア(Y23)が添加された安定化ジルコニアからなる焼成体を酸素イオン伝導型の固体電解質層として用いたものがある。この固体電解質層の一面にカソード電極層を、そして、その反対面にアノード電極層を形成し、このカソード電極層側に酸素又は酸素含有気体が供給され、さらに、アノード電極層には、メタン等の燃料ガスが供給されるようになっている。
【0003】
この固体酸化物型燃料電池内では、カソード電極層に供給された酸素(O2)が、カソード電極層と固体電解質層との境界で、還元反応により酸素イオン(O2-)にイオン化され、この酸素イオンが、固体電解質層によってアノード電極層に伝導され、アノード電極層に供給された、例えば、メタン(CH4)ガスと反応し、そこで、水(H2O)、二酸化炭素(CO2)、水素(H2)、一酸化炭素(CO)が、酸化反応により生成される。この反応において、酸素イオンが、電子を放出するため、カソード電極層とアノード電極層との間に電位差が生じる。そこで、カソード電極層とアノード電極層とにリード線を取り付ければ、アノード電極層の電子が、リード線を介してカソード電極層側に流れ、固体酸化物型燃料電池として発電することになる。なお、この固体酸化物型燃料電池の駆動温度は、約1000℃である。
【0004】
しかし、この形式の固体酸化物型燃料電池による発電装置では、カソード電極層側に、酸素又は酸素含有ガス供給チャンバーを、そして、アノード電極層側に、燃料ガス供給チャンバーを夫々分離したセパレート型チャンバーを用意しなければならず、固体酸化物型燃料電池を密封構造の容器に収容する必要があった。
【0005】
そこで、固体酸化物型燃料電池を密封構造の容器に収容する必要がない、開放型の固体酸化物型燃料電池が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の固体酸化物型燃料電池では、固体酸化物型燃料電池への燃料供給に、火炎を直接利用する形態が開示されている。そのため、この固体酸化物型燃料電池は、起電時間が短縮でき、構造が簡単なので、固体酸化物型燃料電池発電装置の小型軽量化、低コスト化に有利であるといえる。そして火炎を直接利用する点で、一般の燃焼装置や焼却装置等に組み込むことが可能となり、電力供給装置として利用することが期待されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−139936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載したような従来の固体酸化物型燃料電池は、図10(a)〜(d)に示すように、2度以上の焼成工程を経て製造される。
次に、従来の固体酸化物型燃料電池の製造方法の例を、図10(a)〜(d)を参照して、以下に説明する。
【0008】
まず、平板上に、固体電解質基板の形成材料からなる固体電解質ペーストを塗布し、固体電解質ペーストを乾燥した後、平板から剥がして、一度目の焼成を行って、図10(a)に示す固体電解質基板1を作製する。
【0009】
次に、図10(b)および図10(c)に示すように、固体電解質基板1の一方の面に、カソード電極層の形成材料からなるカソード電極材ペーストを印刷すると共に、固体電解質基板1の他方の面に、アノード電極層の形成材料からなるアノード電極材ペーストを印刷して、両ペーストを乾燥した後に二度目の焼成(Post-fired)を行うことにより、図10(d)に示す固体酸化物型燃料電池10を得る。また、カソード電極層2およびアノード電極層3に、金属メッシュまたは金属ワイヤからなる集電体を配設する場合もある。
【0010】
ここで、図10(b)に示すように、固体電解質基板1の一方の面に、カソード電極材ペーストを印刷して、一旦焼成した後に、固体電解質基板1の他方の面に、アノード電極材ペーストを印刷してもよい。この場合には、図10(d)に示す固体酸化物型燃料電池10を得るまでに計3度の焼成を行うことになる。
【0011】
このように、従来の固体酸化物型燃料電池の製造工程では、少なくとも2度の焼成工程が必要であった。
一方、図11(a)〜(e)に示すように、焼成の回数を減らして一度の焼成(Co-fired)で固体酸化物型燃料電池を製造することも試みられていた。
【0012】
つまり、まず、平板上に、固体電解質基板の形成材料からなる固体電解質ペーストを塗布し、この固体電解質ペーストを乾燥した後、平板からはがして、図11(a)に示すように、固体電解質シート100を作製する。
【0013】
次に、図11(b)に示すように、固体電解質シート100の一方の面に、カソード電極材ペーストを印刷し、次に、図11(c)に示すように、固体電解質シートの他方の面に、アノード電極材ペーストを印刷する。
【0014】
次に、図11(d)に示すように、両電極材ペーストを乾燥させて、固体電解質シート100の両面にカソード電極材シート200とアノード電極材シート300とが形成されたシート積層体400を作製する。
【0015】
然る後、シート積層体400の焼成を一度行って、図11(e)に示す固体酸化物型燃料電池10を得る。
【0016】
しかし、このように、固体電解質と、カソード電極材と、アノード電極材とを同時に焼成して、一回の焼成により製造された固体酸化物型燃料電池は、図11(e)に示すように、例えば、固体電解質基板1がカソード電極層2側に向かって凸に湾曲するように、固体酸化物型燃料電池10の全体にうねりが生じたり、または、ひび割れが生じたりしてしまう。
【0017】
そして、固体酸化物型燃料電池が、うねりなどを有しており平らでないと、集電体を配設できなかったり、寸法が定まっている固体酸化物型燃料電池発電装置に、固体酸化物型燃料電池を配設できなくなる。また、固体酸化物型燃料電池が、ひび割れを有していると、その発電特性が低下してしまう。
【0018】
上述したように、固体酸化物型燃料電池を一度の焼成(Co-fired)で製造すると、うねりまたはひび割れが生じる理由は以下の通りである。
従来の固体酸化物型燃料電池10のカソード電極層2またはアノード電極層3は、酸化剤成分または燃料成分を、還元反応または酸化反応させるために、異なる電極形成材料により形成されている。そのため、カソード電極層2またはアノード電極層3は、それぞれの熱膨張係数などの熱特性が異なるので、焼成工程の高温処理により焼成されると、例えば、図12に示すように、アノード電極層3の焼結による収縮率σが、カソード電極層2の焼結による収縮率σよりも大きい場合には、図11(e)に示すように、固体電解質基板1がカソード電極層2側に向かって凸に湾曲するように、固体酸化物型燃料電池10の全体にうねりが生じてしまう。また、場合によっては、固体酸化物型燃料電池10にひび割れが発生する。
【0019】
また、図12に示す固体酸化物型燃料電池は、固体電解質基板が受ける応力が非対称的であるため、使用中の熱履歴によって、ひび割れを生じ易く、耐久性に劣る場合がある。
【0020】
このような不具合を回避するために、従来の固体酸化物型燃料電池の製造においては、中央に位置する固体電解質基板1が、アノード電極層2またはカソード電極層3の内部応力を受け止められるように、事前に固体電解質基板1を焼成して剛性を高めておくことが必要であった。その後に、図10(b)または図10(c)の例に示すように、アノード電極層2またはカソード電極層3を焼成(Post-fired)するので、2回以上の焼成工程が必要となった。
【0021】
従って、本発明の目的は、上述した従来技術が有する欠点を解消し得る固体酸化物型燃料電池およびその製造方法を提供することにある。特に、製造が容易で製造コストが低減された固体酸化物型燃料電池およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
以上の課題を解決するために、本発明の固体酸化物型燃料電池は、固体電解質基板を有し、該基板の一方の面にはカソード電極層が形成され、他方の面にはアノード電極層が形成されており、上記カソード電極層または上記アノード電極層が、一層または複数の層から形成されており、上記カソード電極層および上記アノード電極層における上記固体電解質基板と接している層は、電極形成材料と固体電解質とにより形成されており、且つ、該固体電解質を40〜60質量%含有しており、上記カソード電極層における上記固体電解質基板と接している上記層を形成する電極形成材料が、コバルト酸化物であり、上記アノード電極層における上記固体電解質基板と接している上記層を形成する電極形成材料が、ニッケルとコバルト酸化物とからなるサーメットであり、該サーメットにおけるニッケルとコバルトとの質量比が、1:3〜3:1の範囲にあることとした。
【0023】
また、本発明は、上記カソード電極層における上記固体電解質基板と接している上記層を形成するコバルト酸化物が、サマリウムストロンチウムコバルタイトであることが好ましい。
【0024】
また、本発明は、上記固体電解質基板を形成する固体電解質が、周期律表第3族元素から選択された1つまたは複数の元素を添加したセリア系セラミックスであることが好ましい。さらに、本発明は、請求項4に記載の発明のように、周期律表第3族元素として、サマリウムまたはガドニウムが選択される固体酸化物型燃料電池に適用されることが好ましい。
【0025】
また、本発明は、上記カソード電極層または上記アノード電極層が、上記固体電解質基板に沿った複数の層により形成されており、上記カソード電極層または上記アノード電極層における上記固体電解質基板と接していない層が、電極形成材料と固体電解質とにより形成されており、且つ、該固体電解質を20〜40質量%含有していることが好ましい。
【0026】
また、本発明は、上記カソード電極層および上記アノード電極層には、金属メッシュまたは金属ワイヤからなる集電体が配設されていることが好ましい。
【0027】
また、本発明の固体酸化物型燃料電池は、燃料成分と酸化剤成分とか混合された予混合燃料中に置かれることが好ましい。
【0028】
また、本発明の固体酸化物型燃料電池は、上記アノード電極層が、燃料成分の燃焼による火炎に晒され、上記カソード電極層には、空気が供給されることが好ましい。
【0029】
また、本発明は、固体電解質基板を有し、該基板の一方の面にはカソード電極層が形成され、他方の面にはアノード電極層が形成される固体酸化物型燃料電池の製造方法において、上記固体電解質基板の形成材料からなる固体電解質シートを作製し、上記固体電解質シートの一方の面に、上記カソード電極層の形成材料からなるカソード電極材ペーストを塗布し、上記固体電解質シートの他方の面に、上記アノード電極層の形成材料からなるアノード電極材ペーストを塗布し、塗布した上記カソード電極材ペーストおよび上記アノード電極材ペーストを乾燥させて、上記固体電解質シートの両面にカソード電極材シートとアノード電極材シートとが積層されたシート積層体を作製し、上記シート積層体を焼成して、上記固体酸化物型燃料電池を形成することとした。
【0030】
さらに、本発明は、固体電解質基板を有し、該基板の一方の面にはカソード電極層が形成され、他方の面にはアノード電極層が形成される固体酸化物型燃料電池の製造方法において、上記固体電解質基板の形成材料からなる固体電解質シートを作製し、該固体電解質シートの一方の面に、上記カソード電極層の形成材料からなるカソード電極材シートを載置し、上記固体電解質シートの他方の面に、上記アノード電極層の形成材料からなるアノード電極材シートを載置して、シート積層体を作製し、上記シート積層体を焼成して、上記固体酸化物型燃料電池を形成することとした。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明の固体酸化物型燃料電池によれば、カソード電極層とアノード電極層とが、実質的に同じ熱収縮率を有しているので、固体電解質基板が受ける応力が対称的となり、耐久性が向上する。また、固体電解質基板と、カソード電極層と、アノード電極層とを同時に焼成して形成することにより、その製造が容易となり、製造コストが低減できる。
また、本発明の固体酸化物型燃料電池製造方法によれば、固体酸化物型燃料電池の製造が容易で製造コストが低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の固体酸化物型燃料電池10をその好ましい第1実施形態に基づいて、図面を参照しながら説明する。
【0033】
本実施形態の固体酸化物型燃料電池10は、図1(a)および図1(b)に示すように、平板状の固体電解質基板1を有し、該基板の一方の面には平板状にカソード電極層2が形成されており、他方の面には平板状にアノード電極層3が形成されている。
また、本実施形態では、カソード電極層2およびアノード電極層3それぞれが、一層により形成されており、固体電解質基板1と接している。
【0034】
固体酸化物型燃料電池10は、全体として、平板状である。固体酸化物型燃料電池10の平面視形状は、用途に応じて任意の形状とすることができるが、本実施形態では、円形状としており、固体電解質基板1、カソード電極層2およびアノード電極層3それぞれが、円形状を有している。カソード電極層2およびアノード電極層3のそれぞれの平面視した寸法は、同等であり、固体電解質基板1よりも若干小さく形成されている。
【0035】
そして、固体酸化物型燃料電池10の寸法は、必要とされる発電特性に応じて適宜設計されることが好ましい。
【0036】
固体酸化物型燃料電池10の固体電解質基板1は、発電時に、電子伝導性を実質的に有さないが、酸素イオンなどのイオンを透過する。また、カソード電極層2は、発電時に、酸化剤成分などの酸化性雰囲気に晒されており、例えば酸化剤である酸素に電子を与えて、還元反応を起こす触媒作用を有する。さらに、アノード電極層3は、発電時に、燃料成分などの還元性雰囲気に晒されており、例えば燃料成分である水素に対して、酸化反応を起こす触媒作用を有する。
【0037】
本実施形態の固体酸化物型燃料電池10では、酸化剤成分の還元反応を担うカソード電極層2と、燃料成分の酸化反応を担うアノード電極層3とは、それぞれ、異なる電極形成材料により形成されているが、カソード電極層2の熱収縮率σとアノード電極層3の熱収縮率σaとが、図2に示すように、実質的に同じである。
【0038】
そのため、固体電解質基板1と、カソード電極層2と、アノード電極層3とが同時に焼成(Co-fired)された場合には、両電極層間に介在する固体電解質基板1には、カソード電極層2から固体電解質基板1の一方の面に働く応力と、アノード電極層3から他方の面に働く応力とが略同じとなり、固体電解質基板1が湾曲することなく、平らな形状の固体酸化物型燃料電池10が形成される。従って、本実施形態の固体酸化物型燃料電池10は、焼成を一度行うだけで、うねりまたはひび割れのない平らな形状を作製できるので、その製造が容易である。
【0039】
ここで、焼成時の熱収縮率が実質的に同じとは、図2に示すように、固体電解質基板1と、カソード電極層2と、アノード電極層3とが同時に焼成されて形成され固体酸化物型燃料電池10の形状が、焼成前の平らな形状を維持して略平らであり、例えば、後述する反り量の値が1mm以下である状態をいう。このような形状の固体酸化物型燃料電池10であれば、集電体を電極層に容易に配設することができ、また、寸法が定まっている固体酸化物型燃料電池発電装置に、固体酸化物型燃料電池10を配設することが容易である。
【0040】
カソード電極層2およびアノード電極層3のそれぞれの厚さは、同等であることが、上述したように、固体電解質基板1が受ける応力を対称的にする上で好ましい。
また、カソード電極層2およびアノード電極層3のそれぞれの厚さは、固体電解質基板1の厚さに対して、5〜15%の範囲にあることが好ましい。カソード電極層2およびアノード電極層3のそれぞれの厚さが5%以上であることにより、発電のために十分な還元反応または酸化反応を起こすことができる。一方、カソード電極層2およびアノード電極層3のそれぞれの厚さが15%以上であると、酸化剤成分または燃料成分が、固体電解質基板1にまでアクセスすることが困難となる場合がある。
【0041】
次に、固体酸化物型燃料電池10の形成材料について、以下に説明する。
【0042】
カソード電極層2は、電極形成材料と固体電解質とから形成されている。カソード電極層2を形成する電極形成材料は、コバルト酸化物である。このコバルト酸化物としては、例えば、サマリウムストロンチウムコバルタイト、ランタンストロンチウムコバルタイト、ランタンストロンチウムコバルトフェライトを用いることができる。
【0043】
また、アノード電極層3も、電極形成材料と固体電解質とにより形成されている。アノード電極層3を形成する電極形成材料は、ニッケルとコバルト酸化物とからなるサーメットであり、該サーメットにおけるニッケルとコバルトとの質量比が、1:3〜3:1の範囲にある。
【0044】
固体酸化物型燃料電池10は、カソード電極層2およびアノード電極層3にコバルト酸化物を含有している。カソード電極層2は、コバルト酸化物を40〜60質量%含有している。そして、アノード電極層3におけるコバルトの量を、上述した範囲にすることにより、カソード電極層2の熱収縮率σとアノード電極層3の熱収縮率σaとが、実質的に同じになる。
【0045】
上述したカソード電極層2およびアノード電極層3それぞれは、固体電解質を40〜60質量%含有している。上記範囲の固体電解質を有するカソード電極層2およびアノード電極層3それぞれは、固体電解質基板1との接合性が向上し、且つ、固体電解質基板1と熱収縮率などの熱特性が近づく。
【0046】
また、このようにカソード電極層2またはアノード電極層3それぞれに、固体電解質が含まれることにより、還元反応または酸化反応の化学的反応場が増加するので、固体酸化物型燃料電池10の発電特性が向上する。
【0047】
固体電解質基板1を形成する固体電解質、および、カソード電極層2およびアノード電極層3を形成する固体電解質には、例えば、次に示す材料を使用できる。
a)YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、これらにCe、Alなどをドープしたジルコニア系セラミックス。
b)周期律表第3族元素から選択された1つまたは複数の元素を添加したセリア系セラミックス。特に、周期律表第3族元素として、サマリウムまたはガドニウムが選択されることが好ましい。具体的には、SDC(サマリアドープドセリア)、SGC(ガドリアドープドセリア)などのセリア系セラミックスが好ましく用いられる。
c)LSGM系(ランタンガレート系セラミックス)、酸化ビスマス系セラミックス。
このように本明細書では、固体酸化物は、固体電解質を含む概念である。
【0048】
本実施形態の固体酸化物型燃料電池10において、カソード電極層2は、多孔質に形成されていることが好ましい。カソード電極層2を多孔質体にすることにより、該カソード電極層2の比表面積および細孔を増加させて、酸点などの化学的反応場を増やし、且つ、酸化剤成分が細孔を通って化学反応場にアクセスしやすくなるので、酸化剤成分の還元反応が促進する。また、カソード電極層2を多孔質体にすることにより、カソード電極層2の耐熱衝撃性が向上して、急激な温度変化によってひび割れなどが生じることを防止する。
【0049】
同様に、アノード電極層3も、多孔質に形成されていることが、上述したのと同じ観点から好ましい。
【0050】
カソード電極層2またはアノード電極層3における気孔率は、10〜60体積%、特に20〜40体積%であることが好ましい。気孔率が、10体積%よりも大きいことにより、酸化剤成分または燃料成分の化学的反応場へのアクセスが十分となり、且つ、電子およびイオンの導電性のバランスが向上する。一方、気孔率が、60体積%よりも大きいと、カソード電極層2またはアノード電極層3の剛性が低下して、機械的強度が不十分となる。
【0051】
また、固体電解質基板1も、多孔質に形成されることが好ましい。従来の固体酸化物型燃料電池では、固体電解質基板は緻密質に形成されていたが、耐熱衝撃性が低く、急激な温度変化によって、ひび割れが生じやすかった。本実施形態では、固体電解質基板1が多孔質であることで、例えば直接火炎型燃料電池において発電を行う場合に、固体酸化物型燃料電池10が、火炎の内部またはその近傍に配置されて、急激に温度変化を与えても、さらに、温度差の激しいヒートサイクルに対しても、ひび割れなどがなくなり、耐熱衝撃性が向上する。
【0052】
多孔質の固体電解質基板1の気孔率は、通常、約10〜60体積%であることが好ましく、さらに好ましくは、約20〜40体積%である。固体電解質基板1の気孔率が10体積%未満のときは、耐熱衝撃性に著しい向上が認められなかったが、10体積%以上であると良好な耐熱衝撃性が見られた。これは、固体電解質基板1が多孔質であると、加熱による熱膨張が空隙部分で緩和されるためと考えられる。
【0053】
上述した本実施形態の固体酸化物型燃料電池10によれば、カソード電極層2とアノード電極層3とが、実質的に同じ熱収縮率を有しているので、固体電解質基板1が受ける応力が対称的となり、耐久性が向上する。また、固体電解質基板1と、カソード電極層2と、アノード電極層3とを同時に焼成(Co-fired)して形成することにより、その製造が容易となり、製造コストが低減できる。
【0054】
また、カソード電極層2とアノード電極層3とに、固体電解質が含まれていることにより、固体電解質基板1と、カソード電極層2およびアノード電極層3との接合性を向上し、且つ、熱特性を近づけられる。そのため、固体電解質基板1と、カソード電極層2と、アノード電極層3とを同時に焼成しても、うねりまたはひび割れの発生が、確実に防止される。
さらに、カソード電極層2またはアノード電極層3が多孔質に形成されているため、発電特性および耐久性を高められる。
【0055】
次に、本発明の第2実施形態の固体酸化物型燃料電池を、図3および図4を参照しながら以下に説明する。第2実施形態について特に説明しない点については、上述の第1実施形態に関して詳述した説明が適宜適用される。また、図3および図4において、図1および図2と同じ構成要素に同じ符号を付してある。
【0056】
本発明の第2実施形態の固体酸化物型燃料電池10は、図3に示すように、カソード電極層2およびアノード電極層3それぞれが、固体電解質基板1に沿った2つの層により形成されている。具体的には、カソード電極層2は、固体電解質基板1側に位置する第1のカソード電極層2aと、外側に位置する第2のカソード電極層2bとが積層された2層構造を有している。アノード電極層3は、固体電解質基板1側に位置する第1のアノード電極層3aと、外側に位置する第2のアノード電極層3bとが積層された2層構造を有している。
【0057】
本実施形態の固体電解質基板10において、固体電解質基板1、カソード電極層2における固体電解質基板1と接している第1のカソード電極層2a、および、アノード電極層3における固体電解質基板1と接している第1のアノード電極層3aは、それぞれ、上述した第1実施形態と同様の構成を有している。
【0058】
第2のカソード電極層2bは、第1のカソード電極層2aと同様に、円形の平板状に形成されている。第2のアノード電極層3bも、同様に円形の平板形状を有している。
【0059】
本実施形態のカソード電極層2では、該カソード電極層2における固体電解質基板1と接していない第2のカソード電極層2bが、電極形成材料と固体電解質とにより形成されており、且つ、該固体電解質を20〜40質量%含有している。同様に、アノード電極層3における固体電解質基板1と接していない第2のアノード電極層3bが、電極形成材料と固体電解質とにより形成されており、且つ、該固体電解質を20〜40質量%含有している。
【0060】
固体酸化物型燃料電池10の製造において、カソード電極層2およびアノード電極層3は、例えば、スクリーン印刷法、または、グリーンシート法を用いて形成される。この場合には、カソード電極層2およびアノード電極層3の厚さは、製造方法に起因した所定の厚さを有する。
そこで、本実施形態では、カソード電極層2およびアノード電極層3それぞれを、2層に積層し、厚さを増加して、発電特性を高めている。
【0061】
また、本実施形態では、第2のカソード電極層2bおよび第2のアノード電極層3bには、金属メッシュまたは金属ワイヤからなる集電体4a、4bが配設されている。集電体4aは、第2のカソード電極層2bに埋設、または、固着することができる。同様に、第2のアノード電極層3bにも、金属メッシュまたは金属ワイヤからなる集電体4bが配設されている。
【0062】
集電体4aは、図3に示すように、第2のカソード電極層2bの全体に亘って配設されている。また、集電体4aは、カソード電極層2の一部分から延出する延出部5aを有している。同様に、集電体4bも、第2のアノード電極層3bの全体に亘って配設されており、アノード電極層3の一部分から延出する延出部5bを有している。延出部5bは、延出部5aとは反対の方向に向かって延出している。
【0063】
集電体4a、4bの形成材料としては、これを配設するカソード電極層、アノード電極層との熱膨張係数の調和や、耐熱性に優れたものが好適である。具体的には、白金や、白金を含む合金から成る金属でメッシュ状またはワイヤ状にしたものが挙げられる。SUS300番代(304、316等)、或いは、SUS400番代(430等)のステンレスでも良く、これらはコストの点で有利である。
【0064】
このような構成とすることにより、熱履歴などによってひび割れした固体酸化物型燃料電池10がバラバラになって崩れないように補強されることになり、さらに、金属メッシュや金属ワイヤは、ひび割れした部分を電気的に接続することができるので、固体酸化物型燃料電池10の耐久性が高められる。
【0065】
また、第2のカソード電極層2bは、造孔材が添加されて多孔質に形成されている。一方、第1のカソード電極層2aには、造孔材が添加されていない。
従って、本実施形態の固体酸化物型燃料電池10は、カソード電極層2の気孔率が、固体電解質基板1から離れるに従って段階的に増加している。
【0066】
一方、第2のアノード電極層3bには、酸化触媒が添加されている。
発電中に、アノード電極層3には、燃料成分の反応によって、煤が生成される場合がある。そして、アノード電極層3に煤が生成すると、細孔をふさいだり、酸点などの化学反応場を覆って発電性能を低減する。
【0067】
本実施形態の固体酸化物型燃料電池10では、第2のアノード電極層3bに、酸化ロジウム(Rh)、酸化ルテニウム(RuO)および酸化チタン(TiO)から選択された1つまたは複数の酸化触媒が添加されており、上述した煤の生成を防止している。
【0068】
アノード電極層3に添加する酸化触媒の割合としては、1〜10質量%、特に1〜5質量%であることが好ましい。
アノード電極層3中の酸化触媒の割合が、1質量%より少ないと、煤の生成を十分に抑制できない。一方、アノード電極層3中の酸化触媒の割合が、1質量%よりも多ければ、十分な煤生成の抑制能力が発揮される。
【0069】
上述した本実施形態の固体酸化物型燃料電池10は、例えば、図4に示すように、アノード電極層3を火炎F側に向けた状態で、火炎F中または火炎Fの近傍に配設して発電を行うことができる。火炎Fは、燃料成分と酸化剤成分とか混合された予混合燃料ガスを燃焼して生成されることが好ましい。
【0070】
固体酸化物型燃料電池10は、大気圧開放下で、アノード電極層3が、予混合燃料ガスの燃焼による火炎Fに晒され、この火炎F中に存在する炭化水素、水素、ラジカル(OH、CH、C、OH、CH)などを燃料成分として利用しやすくしている。一方、カソード電極層2には、空気が供給される。
【0071】
固体酸化物型燃料電池10で発電された電力は、カソード電極層2とアノード電極層3とからそれぞれ引き出されたリード線L1、L2によって取り出される。リード線としては耐熱性のある白金製、或いは、白金を含む合金製のものが使用される。リード線L1、L2は、それぞれ、延出部5a、5bに接続されている。
【0072】
また、本実施形態の固体酸化物型燃料電池10を、シングル型チャンバー内に配設して、燃料成分と酸化剤成分とか混合された予混合燃料中に置かれた状態で発電してもよい。
【0073】
上述した本実施形態の固体酸化物型燃料電池10によれば、カソード電極層2およびアノード電極層3を2層構造として、発電特性を高めている。
また、カソード電極層2の外側に位置する第2のカソード電極層2bが、多孔質に形成されているため、酸化剤成分がカソード電極層2の内部にアクセスしやすくなっており、且つ、化学的反応場が増加しているので、発電特性が高められる。
【0074】
また、集電体4a、4bを配設することにより、発電した電力を取り出しやすくすると共に、固体酸化物型燃料電池10の耐久性を高めている。
【0075】
また、カソード電極層2を多層構造にして、その層ごとに気孔率を調整しているので、気孔率が調整されたカソード電極層2の作製が容易である。
【0076】
また、アノード電極層3の外側に位置する第2のアノード電極層3bには、酸化触媒が添加されているので、アノード電極層2における煤の生成が抑制されるため、固体酸化物型燃料電池10の発電特性および耐久性が高められる。
【0077】
次ぎに、上述した本発明の固体酸化物型燃料電池の第1実施形態の製造方法の例を、その好ましい第1実施態様に基づいて、図5を参照しながら以下に説明する。
【0078】
本実施態様では、まず、図5(a)に示すように、固体電解質基板1の形成材料からなる固体電解質ペーストを平板Pの面上に所定形状に塗布する。固体電解質ペーストは、例えば、上記固体電解質の粉末とバインダーと有機溶剤などを混ぜて作製できる。また、固体電解質ペーストの塗布には、例えば、スクリーン印刷法などの印刷法を用いることができる。所定形状とは、例えば、図1に示す固体電解質基板1のような円形の平板形状が挙げられる。
また、固体電解質基板1を多孔質に形成するために、固体電解質ペーストに、造孔材を添加してもよい。
【0079】
次に、この固体電解質ペーストを乾燥した後、図5(b)に示すように、乾燥した固体電解質を、平板Pから剥がして所定形状の固体電解質シート100を作製する。また、この固体電解質シート100は、グリーンシート法を用いて作製してもよい。
【0080】
次に、図5(c)に示すように、固体電解質シート100の一方の面に、カソード電極層2の形成材料からなるカソード電極材ペーストを塗布し、固体電解質シート100の他方の面に、アノード電極層3の形成材料からなるアノード電極材ペーストを塗布する。カソード電極材ペーストは、例えば、カソード電極層2の形成材料である上記電極形成材料および上記固体電解質の粉末と、バインダーと有機溶剤などを混ぜて作製できる。アノード電極材ペーストも同様に作製することができる。これらの電極材ペーストの塗布にも、上述したスクリーン印刷法などの印刷法を用いることができる。
また、カソード電極材ペーストまたはアノード電極材ペーストには、造孔材などを必要に応じて添加してもよい。この造孔材の添加量は、電極材ペーストに対して、50〜70体積%であることが、電極層内において、予混合燃料ガスなどの拡散性および電子・イオン伝導性を向上させる上で好ましい。アノード電極材ペーストには、酸化触媒を必要に応じて添加してもよい。
【0081】
次に、カソード電極材ペーストおよびアノード電極材ペーストを乾燥させて、図5(d)に示すように、固体電解質シート100の両面にカソード電極材シート200とアノード電極材シート300とが積層されたシート積層体400を作製する。
【0082】
然る後に、シート積層体400を一回焼成して、図5(e)に示すように、平板状の固体電解質基板1を有し、該基板の一方の面には平板状にカソード電極層2が形成されており、他方の面には平板状にアノード電極層3が形成される固体酸化物型燃料電池10を得る。
【0083】
ここで、焼成温度、焼成時間、予備焼成等の焼成条件などを調整することによって、固体電解質基板1、カソード電極層2またはアノード電極層3における気孔率を調整することができる。
【0084】
上述した本実施態様によれば、固体酸化物型燃料電池10のカソード電極層2およびアノード電極層3が、同じ熱収縮率を有している。そのため、シート積層体400を焼成工程により焼結しても、図2に示すように、アノード電極層3の焼結による収縮率σと、カソード電極層2の焼結による収縮率σとが同じとなり、固体電解質基板1が湾曲などすることなく、全体が、焼成前の平らな形状のまま焼結される。
従って、固体電解質基板1と、カソード電極層2と、アノード電極層3とを同時に一回焼成するだけで、うねりやひび割れなどのない平らな固体酸化物型燃料電池10を製造できるので、その製造が容易であり、製造コストを低減できる。
【0085】
次に本発明の第2および第3実施態様の固体酸化物型燃料電池の製造方法を、図6および図7を参照しながら以下に説明する。第2および第3実施形態について特に説明しない点については、上述の第1実施態様に関して詳述した説明が適宜適用される。また、図6および図7において、図5と同じ構成要素に同じ符号を付してある。
【0086】
本実施態様では、まず、図6(a)に示すように、上述した第1実施形態の固体酸化物型燃料電池10における固体電解質基板1の形成材料からなる固体電解質ペーストを乾燥して形成した固体電解質シート100を作製する。また、第1実施形態のカソード電極層2の形成材料からなるカソード電極材ペーストを乾燥して形成したカソード電極材シート200を作製する。また、第1実施形態のアノード電極層3の電極材形成材料からなるアノード電極材ペーストを乾燥して形成したアノード電極材シート300を作製する。
【0087】
固体電解質シート100、カソード電極材シート200またはアノード電極材シート300は、例えば、グリーンシート法により容易に作製できる。または、上述した第1実施態様の固体電解質シートと同様に作製してもよい。ここで、固体電解質シート100、カソード電極材シート200またはアノード電極材シート300は、乾燥されているが、焼成前の状態である。
【0088】
次に、図6(b)に示すように、固体電解質シート100の一方の面に、カソード電極材シート200を載置し、固体電解質シート100の他方の面に、アノード電極材シート300を載置した後、圧着してシート積層体400を一体に作製する。
【0089】
然る後に、シート積層体400を一回焼成して、図6(c)に示すように、平板状の固体電解質基板1を有し、該基板の一方の面には平板状にカソード電極層2が形成されており、他方の面には平板状にアノード電極層3が形成される固体酸化物型燃料電池10を得る。
【0090】
上述した本実施態様によれば、上記の第1実施態様と同様の効果が得られる。
【0091】
次に、上述した第2実施形態の固体酸化物型燃料電池10を作製する、第3実施態様の固体酸化物型燃料電池の製造方法を、以下に説明する。
本実施態様では、まず、図7(a)に示すように、上記第1実施態様または上記第2実施態様を用いて作製したシート積層体400を用意し、そのカソード電極材シート200の上に、図7(b)に示すように、第2のカソード電極層2bの形成材料からなるカソード電極材ペースト201を塗布すると共に、アノード電極材シート300の上に、第2のアノード電極層3bの形成材料からなるアノード電極材ペースト301を塗布する。
【0092】
次に、図7(c)に示すように、集電体4aを、塗布したカソード電極材ペースト201に埋設すると共に、集電体4bを、塗布したアノード電極材ペースト301に埋設する。
【0093】
次に、集電体4a、4bが埋設されたカソード電極材ペースト201およびアノード電極材ペースト301を乾燥して、シート積層体401を作製する。
【0094】
然る後に、シート積層体401を一回焼成して、図7(d)に示すように、平板状の固体電解質基板1を有し、該基板の一方の面には平板状にカソード電極層2が形成されており、他方の面には平板状にアノード電極層3が形成される固体酸化物型燃料電池10を得る。
【0095】
本発明の固体酸化物型燃料電池およびその製造方法は、上述した実施形態または実施態様に制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更が可能である。
例えば、上述した第2実施形態において、カソード電極層2またはアノード電極層3は、2層以上の多層構造を有していてもよい。
【0096】
また、上述した第2実施形態では、一つの固体酸化物型燃料電池10が発電に用いられていたが、複数の固体酸化物型燃料電池10を直列接続または並列接続した固体酸化物型燃料電池ユニットとして用いてもよい。また、複数の固体酸化物型燃料電池10を直列接続して形成した固体酸化物型燃料電池ユニットを、並列接続して用いてもよい。さらに、複数の固体酸化物型燃料電池10を並列接続して形成した固体酸化物型燃料電池ユニットを、直列接続して用いてもよい。
【0097】
上述した一の実施形態また実施態様における要件は、適宜、実施形態間または実施態様間で相互に置換可能である。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を、実施例を用いて更に説明する。ただし、本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0099】
[実施例1]
まず、固体電解質としてサマリアドープドセリア(Sm0.2Ce0.81.9:SDC)を用いて作製した固体電解ペーストを、平板の面上に所定形状に塗布し乾燥した後、乾燥した固体電解質を、平板から剥がして円形で平板状の固体電解質シートを作製した。
次に、電極形成材料であるニッケルとコバルト酸化物とのサーメット:Ni0.25Co0.75と、固体電解質であるSDCとを質量比40:60で混合し、さらにバインダーと有機溶剤を混ぜてアノード電極材ペーストAを作製して、上記固体電解質シートの一方の面に印刷し乾燥した。アノード電極材ペーストAは、電極形成材料と固体電解質との混合物を、自動乳鉢を用いて2時間すりつぶした後、バインダーと有機溶剤とを加えて、ハイブリッドミキサーで混合して作製した。また印刷には、低印圧スクリーン印刷機を用いた。
【0100】
次に、電極形成材料であるサマリウムストロンチウムコバルトタイトと、固体電解質であるSDCとを質量比50:50で混合し、さらにバインダーと有機溶剤を混ぜてカソード電極材ペーストBを作製し、このカソード電極材ペーストBを上記固体電解質シートの他方の面に印刷し乾燥して、シート積層体を作製した。ペーストの作製および印刷は、アノード電極材ペーストAと同様に行った。
【0101】
次に、上述したように作製したシート積層体のカソード電極層側およびアノード電極層側の表面を粗面化処理し、500℃×5時間の前処理後に、1300℃×5時間の焼成(Co-fired)をして、固体電解質基板1の一方の面に第1のアノード電極層3aが形成され、固体電解質基板の他方の面に第1のカソード電極層2aが形成されたシート積層焼成体500を作製した。
【0102】
次に、シート積層焼成体500の反り量を、以下のようにして測定した。
まず、図8(a)に示すように、シート積層焼成体500の第1のアノード電極層3aを上方に向けて、平板上に置き、第1のアノード電極層3aの最凸部の高さHaを測定した。
次に、図8(b)に示すように、シート積層焼成体500の第1のカソード電極層2aを上方に向けて、平板上に置き、第1のカソード電極層2aの最凹部の高さHcを測定した。
然る後、高さHaから高さHcを減算して、反り量を求めた。測定した反り量の値を表1に示す。
【0103】
【表1】

【0104】
次に、電極形成材料であるニッケルとコバルト酸化物とのサーメット:Ni0.9Co0.1と、固体電解質であるSDCとを質量比70:30で混合し、この混合物に対して酸化ロジウムを5質量%添加し、さらにバインダーと有機溶剤を混ぜてアノード電極材ペーストCを作製して、このアノード電極材ペーストCをシート積層焼成体500の第1のアノード電極層3aの上に印刷し、プラチナメッシュの集電体を埋設し乾燥した。ペーストの作製および印刷は、アノード電極材ペーストAと同様に行った。
【0105】
次に、電極形成材料であるサマリウムストロンチウムコバルトタイトと固体電解質であるSDCとを質量比70:30で混合し、この混合物に対して造孔材を25質量%添加し、さらにバインダーと有機溶剤を混ぜてカソード電極材ペーストDを作製して、このカソード電極材ペーストDをシート積層焼成体500の第1のカソード電極層2aの上に印刷し、プラチナメッシュの集電体を埋設し乾燥して、集電体を埋設したシート積層焼成体を作製した。ペーストの作製および印刷は、アノード電極材ペーストAと同様に行った。
【0106】
次に、上述したように作製した集電体を埋設したシート積層焼成体を、1200℃×1時間焼成し、図3に示す固体酸化物型燃料電池を作製して、実施例1とした。
実施例1の固体電解質基板の直径は約15mmであり、両電極層の直径は約13mmであり、固体酸化物型燃料電池の厚さは約0.2mmであった。
また、焼成によりバインダーおよび有機溶媒が消失した結果、実施例1の上記第1のアノード電極層3aのSDC濃度は60質量%であった。また、上記第1のアノード電極層3aの電極形成材料であるサーメットにおけるニッケル(Ni)とコバルト(Co)との質量比は1:3であった。第1のアノード電極層3aにおけるSDC濃度およびNiとCoとの質量比を、表1に示す。
また、焼成によりバインダーおよび有機溶媒が消失した結果、実施例1の上記第1のカソード電極層2aのSDC濃度は50質量%であり、このSDC濃度は、下記実施例2〜4および比較例1〜4についても同様であった。
【0107】
[実施例2]
アノード電極材ペーストAを、電極形成材料であるNi0.25Co0.75と固体電解質であるSDCとを質量比50:50で混合して作製した他は、実施例1と同様にして、固体酸化物型燃料電池を作製して、実施例2とした。
実施例2の第1のアノード電極層のSDC濃度は50質量%であった。また、第1のアノード電極層の電極形成材料であるサーメットにおけるNiとCoとの質量比は1:3であった。
【0108】
[実施例3]
アノード電極材ペーストAを、電極形成材料であるNi0.5Co0.5と固体電解質であるSDCとを質量比40:60で混合して作製した他は、実施例1と同様にして、固体酸化物型燃料電池を作製して、実施例3とした。
実施例3の第1のアノード電極層のSDC濃度は60質量%であった。また、第1のアノード電極層の電極形成材料であるサーメットにおけるNiとCoとの質量比は1:1であった。
【0109】
[実施例4]
アノード電極材ペーストAを、電極形成材料であるNi0.75Co0.25と固体電解質であるSDCとを質量比60:40で混合して作製した他は、実施例1と同様にして、固体酸化物型燃料電池を作製して、実施例4とした。
実施例4の第1のアノード電極層のSDC濃度は40質量%であった。また、第1のアノード電極層の電極形成材料であるサーメットにおけるNiとCoとの質量比は3:1であった。
【0110】
[比較例1]
アノード電極材ペーストAを、電極形成材料であるNi0.9Co0.1と固体電解質であるSDCとを質量比40:60で混合して作製した他は、実施例1と同様にして、固体酸化物型燃料電池を作製して、比較例1とした。しかし、比較例1では、シート積層焼成体の反り量が大きく、集電体を埋設することができなかった。
比較例1の第1のアノード電極層のSDC濃度は60質量%であった。また、第1のアノード電極層の電極形成材料であるサーメットにおけるNiとCoとの質量比は9:1であった。
【0111】
[比較例2]
アノード電極材ペーストAを、電極形成材料であるNi0.25Co0.75と固体電解質であるSDCとを質量比30:70で混合して作製した他は、実施例1と同様にして、固体酸化物型燃料電池を作製して、比較例2とした。しかし、比較例2では、シート積層焼成体の反り量が大きく、集電体を埋設することができなかった。
比較例2の第1のアノード電極層のSDC濃度は70質量%であった。また、第1のアノード電極層の電極形成材料であるサーメットにおけるNiとCoとの質量比は1:3であった。
【0112】
[比較例3]
アノード電極材ペーストAを、電極形成材料であるNi0.25Co0.75と固体電解質であるSDCとを質量比70:30で混合して作製した他は、実施例1と同様にして、固体酸化物型燃料電池を作製して、比較例3とした。しかし、比較例3では、シート積層焼成体の反り量が大きく、集電体を埋設することができなかった。
比較例3の第1のアノード電極層のSDC濃度は30質量%であった。また、第1のアノード電極層の電極形成材料であるサーメットにおけるNiとCoとの質量比は1:3であった。
【0113】
[比較例4]
固体電解質シートを焼成して固体電解質基板を作製した後に、アノード電極材ペーストAおよびカソード電極材ペーストBを印刷し焼成(Post-fired)した他は、比較例1と同様にして、固体酸化物型燃料電池を作製し、比較例4とした。
【0114】
実施例2〜4および比較例1〜3の反り量の測定値を、第1のアノード電極層におけるSDC濃度およびNiとCoとの質量比と共に、表1に示す。
その結果、本発明の実施例1〜4は、比較例1〜3と比べて、反り量の値が小さく、平らな形状を有していることが分かった。特に、実施例2の反り量の値は、極めて小さかった。
【0115】
[発電出力特性について]
実施例1〜4および比較例4の固体酸化物型燃料電池を用い、図4に示すように、アノード電極層を、石英管ガスバーナの火炎に直接晒して発電の評価を行った。予混合燃料ガスは、燃料成分としてn−ブタンを用い、酸化剤成分として空気を用いた。予混合燃料ガス中のn−ブタン濃度は6.5体積%であった。また、予混合燃料ガスの流量は、400sccmに調節した。なお、sccmとは、1気圧(大気圧、1014hPa)、0℃で測定された1分間あたりの流量をml(10−3リットル)で表したものである。
発電の評価は、固体酸化物型燃料電池を火炎に近づけて、開回路電圧(Open Circuit Voltage:OCV)が最大値となる位置に固体酸化物型燃料電池を固定し、ポテンシオ・ガルバノスタットを用いて、カソード電極層とアノード電極層との間に50mA、100mA、150mA…と定電流を逆方向に強制通電し、各定電流値において、デジタルマルチメーターを用いて電流値がゼロとなる電圧値を測定して、発電出力特性(I−V−P特性)を得た。
その結果を図9に示す。
【0116】
実施例1〜4の固体酸化物型燃料電池は、図9に示すように、従来のPost-firedによる方法で作製した比較例4と同等の発電出力特性を示すことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】図1(a)および(b)は、本発明の固体酸化物型燃料電池の第1実施形態を示しており、図1(a)は平面図であり、図1(b)は、図1(a)のX−X線断面図である。
【図2】図2は、図1の固体酸化物型燃料電池の焼成時の収縮する様子を示す図である。
【図3】図3は、本発明の固体酸化物型燃料電池の第2実施形態を示す図である。
【図4】図4は、図3の固体酸化物型燃料電池を直接火炎に晒して発電する様子を示す図である。
【図5】図5(a)〜(e)は、本発明の固体酸化物型燃料電池の製造方法の第1実施態様を示す図である。
【図6】図6(a)〜(c)は、本発明の固体酸化物型燃料電池の製造方法の第2実施態様を示す図である。
【図7】図7(a)〜(d)は、本発明の固体酸化物型燃料電池の製造方法の第3実施態様を示す図である。
【図8】図8(a)および(b)は、固体酸化物型燃料電池の反り量の測定方法を説明する図である。
【図9】図9は、実施例および比較例の固体酸化物型燃料電池の発電出力特性を示す図である。
【図10】図10は、(a)〜(d)は、従来技術による固体酸化物型燃料電池の製造方法の例を示す図である。
【図11】図11(a)〜(e)は、従来技術による固体酸化物型燃料電池の製造方法の他の例を示す図である。
【図12】図12は、図11(e)の固体酸化物型燃料電池が焼成により収縮する様子を示す図である。
【符号の説明】
【0118】
1 固体電解質基板
2 カソード電極層
2a 第1のカソード電極層
2b 第2のカソード電極層
3 アノード電極層
3a 第1のアノード電極層
3b 第2のアノード電極層
4a カソード電極層側の集電体
4b アノード電極層側の集電体
10 固体酸化物型燃料電池
100 固体電解質シート
200 カソード電極材シート
300 アノード電極材シート
400 シート積層体
P 平板
F 火炎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質基板を有し、該基板の一方の面にはカソード電極層が形成され、他方の面にはアノード電極層が形成される固体酸化物型燃料電池において、
前記カソード電極層または前記アノード電極層が、一層または複数の層から形成されており、
前記カソード電極層および前記アノード電極層における前記固体電解質基板と接している層は、電極形成材料と固体電解質とにより形成されており、且つ、該固体電解質を40〜60質量%含有しており、
前記カソード電極層における前記固体電解質基板と接している前記層を形成する電極形成材料が、コバルト酸化物であり、
前記アノード電極層における前記固体電解質基板と接している前記層を形成する電極形成材料が、ニッケルとコバルト酸化物とからなるサーメットであり、該サーメットにおけるニッケルとコバルトとの質量比が、1:3〜3:1の範囲にあることを特徴とする固体酸化物型燃料電池。
【請求項2】
前記カソード電極層における前記固体電解質基板と接している前記層を形成するコバルト酸化物が、サマリウムストロンチウムコバルタイトであることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項3】
前記固体電解質基板を形成する固体電解質が、周期律表第3族元素から選択された1つまたは複数の元素を添加したセリア系セラミックスであることを特徴とする請求項1または2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項4】
周期律表第3族元素として、サマリウムまたはガドニウムが選択されることを特徴とする請求項3に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項5】
前記カソード電極層または前記アノード電極層が、前記固体電解質基板に沿った複数の層により形成されており、
前記カソード電極層または前記アノード電極層における前記固体電解質基板と接していない層が、電極形成材料と固体電解質とにより形成されており、且つ、該固体電解質を20〜40質量%含有していることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項6】
前記カソード電極層および前記アノード電極層には、金属メッシュまたは金属ワイヤからなる集電体が配設されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項7】
燃料成分と酸化剤成分とか混合された予混合燃料中に置かれることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項8】
前記アノード電極層が、燃料成分の燃焼による火炎に晒され、前記カソード電極層には、空気が供給されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項9】
請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池の製造方法において、
前記固体電解質基板の形成材料からなる固体電解質シートを作製し、
前記固体電解質シートの一方の面に、前記カソード電極層の形成材料からなるカソード電極材ペーストを塗布し、前記固体電解質シートの他方の面に、前記アノード電極層の形成材料からなるアノード電極材ペーストを塗布し、
塗布した前記カソード電極材ペーストおよび前記アノード電極材ペーストを乾燥させて、前記固体電解質シートの両面にカソード電極材シートとアノード電極材シートとが積層されたシート積層体を作製し、
前記シート積層体を焼成して、前記固体酸化物型燃料電池を形成する固体酸化物型燃料電池の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池の製造方法において、
前記固体電解質基板の形成材料からなる固体電解質シートを作製し、
前記固体電解質シートの一方の面に、前記カソード電極層の形成材料からなるカソード電極材シートを載置し、前記固体電解質シートの他方の面に、前記アノード電極層の形成材料からなるアノード電極材シートを載置して、シート積層体を作製し、
前記シート積層体を焼成して、前記固体酸化物型燃料電池を形成する固体酸化物型燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−300269(P2008−300269A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146656(P2007−146656)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000190688)新光電気工業株式会社 (1,516)
【Fターム(参考)】