説明

固体酸化物形燃料電池およびその製造方法

【課題】補助集電極中における発電に寄与しない反応ガスバイパス流を抑制して反応ガスの利用効率を向上させ、燃料電池の内部抵抗を従来よりも更に低減することができる固体酸化物形燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明に係る固体酸化物形燃料電池は、燃料電池セルが収容され前記セルごとに仕切り反応ガスを透過しないセル容器を具備し、前記セル容器と前記セルとの間に反応ガスが流通可能な反応ガス流路用補助集電極が形成され、前記反応ガス流路用補助集電極中の反応ガスバイパス流路の平均面積比が15%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池に関し、特に、反応ガスの利用効率の向上に適した燃料電池セルユニットの構造、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、化学変化を直接的に電気エネルギーに変えることができることから高効率であり、また、窒素や硫黄などを含む燃料を燃焼しないので、大気汚染物質(NOX、SOX等)の排出量が少なく地球環境に優しいという特長を有する。燃料電池は、電解質の一方の面にアノード(燃料極)、もう一方の面にカソード(酸化剤極)を備えたセルを基本構造として、アノード面には燃料ガスを、カソード面には酸化剤ガス(主として空気)を供給し、電解質を介して燃料と酸化剤を電気化学的に反応させて発電する装置である。以下、燃料ガスと酸化剤ガスを総称して「反応ガス」と称する。
【0003】
この燃料電池には電解質の種類などによって幾つかの種類があるが、中でも固体酸化物形燃料電池(以下、SOFCと称する場合もある)は最も効率が高い燃料電池として期待されている。固体酸化物形燃料電池は、酸素イオン導電性を有するイットリア安定化ジルコニア等の固体酸化物を電解質とし、約600〜1000℃程度の温度で動作する。動作温度が高いことから、排熱を利用した電気・熱併用システムやガスタービン等の他の発電設備とのハイブリッドシステムも提案されている。
【0004】
固体酸化物形燃料電池のセル形状としては、大別して円筒タイプと平板タイプがある。平板セルに比べ、円筒セルは熱膨張を軸方向で許容し、熱応力を緩和できることから高温化・大容量化に有利であると言われている。
【0005】
一方、円筒セルは、内部のアノードからカソードへ向かう電流パスが円周に沿って形成されるため、平板セルに比べて電流経路が長くなり易いことから、一般的に電池の内部抵抗が高くなり易いデメリットがある。内部抵抗が高いことは、発電効率や出力密度などの電池性能の低下につながる。また、1セルあたりの発電部面積の観点から、円筒セルは体積エネルギー密度を高めることが困難という問題があった。
【0006】
これらの問題点を解決するため、セル形状を扁平状にして改善させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。ただし、特許文献1に記載の燃料電池セルは、セルから電流を取り出すためのインターコネクタが該セルの略半面を覆っており発電面積の増大が抑制されるため、1セルあたりの発電量を増加することが十分できない問題があった。上記問題を克服するため、本発明者らは補助集電極を設けることによって扁平円筒セルの両面で発電を可能にした構造の燃料電池を提案した(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2005−166527号公報
【特許文献2】特開2007−66546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の燃料電池は、補助集電極の形成が難しく製造歩留まりの向上に課題を残していた。また、補助集電極の形成が不適当であった場合、補助集電極の中や周囲に反応ガス(燃料ガスや酸化剤ガス)のバイパス流路が形成され、発電にほとんど寄与しない反応ガスバイパス流(反応ガスがセルの電池反応領域に到達することなくほぼそのまま排出される状態)が生ずる結果、電池性能の向上が抑制されることがあった。
【0009】
従って、本発明の目的は、補助集電極領域における発電に寄与しない反応ガスのバイパス流を抑制し、反応ガスの利用効率を向上させた固体酸化物形燃料電池を提供することにある。加えて、燃料電池の内部抵抗を従来よりも更に低減することができる固体酸化物形燃料電池を提供することにある。また、反応ガスバイパス流路の形成を抑制し、確実で再現性が良い補助集電極の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するための固体酸化物形燃料電池であって、
燃料電池セルが収容され前記セルごとに仕切り反応ガスを透過しないセル容器を具備し、
前記セル容器と前記セルとの間に反応ガスが流通可能な反応ガス流路用補助集電極が形成され、
前記反応ガス流路用補助集電極中の反応ガスバイパス流路の平均面積比が15%以下であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記目的を達成するため、燃料電池セルが収容され前記セルごとに仕切り反応ガスを透過しないセル容器を具備し、前記セル容器と前記セルとの間に反応ガスが流通可能な反応ガス流路用補助集電極が形成され、前記反応ガス流路用補助集電極中の反応ガスバイパス流路の平均面積比が15%以下である固体酸化物形燃料電池の製造方法であって、
「前記セル容器内に前記セルを収容する工程」の後に、「前記反応ガス流路用補助集電極を形成する工程」を行なうことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記目的を達成するため、上記の本発明に係る固体酸化物形燃料電池または固体酸化物形燃料電池の製造方法において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(1)更に通電用補助集電極が前記反応ガス流路用補助集電極との積層構造となるように形成され、前記通電用補助集電極が前記反応ガス流路用補助集電極と前記セル容器との間に介在している。
(2)前記反応ガス流路用補助集電極は連続開気孔構造を有する多孔導電体である。
(3)前記連続開気孔構造を有する多孔導電体は空隙率が90〜98%で平均孔径が0.5〜1.5 mmである。
(4)前記通電用補助集電極は閉気孔構造を有する多孔導電体である。
(5)前記閉気孔構造を有する多孔導電体は空隙率が85〜95%で平均孔径が0.2〜1.5 mmである。
(6)前記反応ガス流路用補助集電極および前記通電用補助集電極はステンレスまたは、ニッケル、クロム、タングステン、金、白金、タンタルもしくはこれらの1以上を含む合金からなる。
(7)前記セル容器はクロム−鉄系合金、ニッケル基合金、耐熱性ステンレス鋼、アルミナ系セラミックス、またはこれらの1以上をコーティングした耐熱金属からなる。
(8)前記セル容器が前記通電用補助集電極である。
(9)前記固体酸化物形燃料電池が直並列に複数個電気接続された固体酸化物形燃料電池である。
(10)前記反応ガス流路用補助集電極を形成する工程は「前記反応ガス流路用補助集電極の材料の粉末を含むスラリーを用意する工程」と「連続開気孔構造を有する樹脂製の形材に前記スラリーを塗布・充填する工程」と「加熱により前記樹脂製の形材を焼失させ、前記補助集電極の材料の粉末を焼結させる工程」とを含む。
(11)前記通電用補助集電極を形成する工程は「前記通電用補助集電極の材料の粉末を発泡剤と混合して混合材を用意する工程」と「前記混合材を前記セル容器と前記セルとの間に充填する工程」と「充填した前記混合材を発泡させる工程」と「発泡後の前記混合材を焼結する工程」とを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、円筒系セルタイプの固体酸化物形燃料電池において、反応ガス流路用補助集電極中における発電にほとんど寄与しない反応ガスのバイパス流を抑制し、反応ガスの利用効率を向上させた固体酸化物形燃料電池を提供することができる。加えて、燃料電池の内部抵抗が従来よりも更に低減される固体酸化物形燃料電池を提供することができる。また、反応ガスバイパス流路の形成を抑制し、確実で再現性が良い反応ガス流路用補助集電極の形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
はじめに、従来の扁平円筒タイプの両面発電セルについて説明する。図6は、従来の扁平円筒タイプの両面発電セルを示す概略模式図である。セル4は、固体電解質1と、固体電解質1の外周に形成されたアノード(燃料極)2と、固体電解質1の内周に形成されたカソード(空気極)3とからなる。セル4には、カソード3からの電流を取り出すためのインターコネクタ5と、アノード2の外周に形成されアノード2へ通電するための補助集電極6とが設けられている。また、カソード3の内部には、酸化剤ガスを流す(通常、空気を流す)空気供給孔7が設けられており、カソード反応のための空気が供給される。アノード反応のための燃料ガスは、補助集電極6に供給され補助集電極6を透過してアノード2に到達する。
【0015】
発電による電流は、アノード2から固体電解質1を経てカソード3へ流れ込み、インターコネクタ5から取り出されて外部負荷(図示せず)で仕事をした後に補助集電極6を介してアノード2へ戻る。補助集電極6が形成されていない場合、電流はアノード2に沿って周方向に流れるため、電流経路が長くなり電気抵抗ロスが大きくなる。補助集電極6は、補助的に電流パスを増大し電気抵抗ロスを低減するためのものである。なお、カソード3においては、電流は電気抵抗が最小となるような経路を流れると考えられる。
【0016】
ここで、燃料の改質反応と電池反応について簡単に説明する。まず、炭化水素系燃料を改質して水素を含む改質ガスを生成する方法について、炭化水素系燃料としてメタンを例にとり説明する。改質触媒上で主に下記(1)式の反応によりメタンと水蒸気が反応(改質反応)して水素が生成する。なお、改質触媒としては、Ni系やRu系などの触媒が一般的に用いられている。また、メタン以外には、エタン、プロパンなどの各種炭化水素系燃料が利用可能である。
CH4 + H2O = CO + 3H2 ・・・・・(1)
【0017】
同時に、化学式(1)により生成したCOの一部は、下記の(2)式で表されるH2Oとの反応(CO転化反応)により、さらに水素に変換され燃料となる。
CO + H2O = CO2 + H2 ・・・・・(2)
上述した炭化水素系燃料から水素を生成する反応は吸熱反応であり、この反応を継続するためには熱を供給する必要がある。一般的には、改質触媒を600〜800℃程度に維持する必要がある。なお、本発明においては、燃料改質器が外部改質器であるか内部改質器であるかを問わない。
【0018】
一方、電池反応(発電反応)は、燃料極であるアノードで生起し、下記の(3),(4)式で表される発熱反応である。
H2 + 1/2O2 = H2O ・・・・・(3)
CO + 1/2O2 = CO2 ・・・・・(4)
すなわち、セル4に対しては、H2とCOが燃料ガスとして供給・消費され、H2OとCO2が排ガスとして生成・排出される。
【0019】
上記の説明ではアノードが扁平円筒の外側に形成されたセルの場合を示したが、カソードが円筒の外側に形成されたセルの場合にも同様の現象が起こる。以下に、図を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。なお、本明細書ではアノードが扁平円筒の外側に形成されたセルの場合を例として説明するが、本発明はここで取り上げた実施の形態に限定されることはない。また、本明細書の図面中で同義の部分には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0020】
〔本発明の第1の実施形態〕
(燃料電池の構成)
本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池は、燃料電池セルが収容され前記セルごとに仕切り反応ガスを透過しないセル容器を具備し、前記セル容器と前記セルとの間に反応ガスが流通可能な反応ガス流路用補助集電極が形成され、前記反応ガス流路用補助集電極中の反応ガスバイパス流路の平均面積比が15%以下であることを特徴とする。図1は、本発明の第1の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の構造の1例を示す横断面模式図である。
【0021】
図1に示すように、セル4は、固体電解質1と、固体電解質1の外周に形成されたアノード(燃料極)2と、固体電解質1の内周に形成されたカソード(空気極)3とからなり、他のセルと仕切られるようにセル容器8内に収容されている。セル容器8は、反応ガス(燃料ガスや酸化剤ガス)を透過しない気密性を有することが望ましい。セル容器8とセル4との間には、反応ガスが流通可能な反応ガス流路用補助集電極61が形成されている。このとき、反応ガス流路用補助集電極61中の反応ガスバイパス流路の平均面積比は15%以下であることが望ましい。反応ガス流路用補助集電極61に関する詳細は後述する。
【0022】
カソード3からの電流を取り出すためのインターコネクタ5と、反応ガス流路用補助集電極61へ通電するためのアノード電極5’とが設けられている。なお、インターコネクタ5は、セル容器8を貫通するように設けられており、固体電解質1とアノード2と反応ガス流路用補助集電極61とセル容器8とに対して絶縁されている。また、カソード3の内部には、酸化剤ガスを流す(通常、空気を流す)空気供給孔7が設けられており、カソード反応のための空気が供給される。アノード反応のための燃料ガスは、反応ガス流路用補助集電極61に供給され反応ガス流路用補助集電極61内を透過してアノード2に到達する。
【0023】
発電による電流は、アノード2から固体電解質1を経てカソード3へ流れ込み、インターコネクタ5から取り出されて外部負荷(図示せず)で仕事をした後、アノード電極5’から反応ガス流路用補助集電極61を介してアノード2へ戻る。反応ガス流路用補助集電極61が形成されていない場合、電流はアノード2に沿って周方向に流れるため、電流経路が長くなり電気抵抗ロスが大きくなる。反応ガス流路用補助集電極61は、補助的に電流パスを増大し電気抵抗ロスを低減するためのものであり、アノード2よりも電気抵抗率の低い材料を用いることが望ましい。なお、カソード3においては、電流は電気抵抗が最小となるような経路を流れると考えられる。また、本実施形態において、インターコネクタ5をセル4の周方向で2箇所に設け、軸方向も2箇所(図1中に図示せず、図6参照)に設けることを想定しているが、それぞれ2箇所に限定されるものではない(1箇所でも3箇所以上でもよい)。
【0024】
セル4の形状に特段の制限は無いが、本明細書では扁平円筒型の袋状管を例として説明する。セル4を構成する固体電解質1・アノード2・カソード3の材料にも特段の制限はなく、固体酸化物形燃料電池で通常用いられる材料を利用することができる。例えば、固体電解質1としてイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)を用いることができる。アノード2はニッケル(Ni)とYSZからなる多孔質のサーメット(金属とセラミックスの焼結体)で形成され、カソード3はランタンマンガネイト(LaMnO3)を用いて形成することができる。また、インターコネクタ5およびアノード電極5’にも特段の制限はなく、通常用いられる材料を利用することができる。例えば、インターコネクタ5およびアノード電極5’はランタンクロマイト(LaCrO3)を用いて形成することができる。
【0025】
前述したように、セル容器8は反応ガスを透過しない気密性を有することが望ましい。また、燃料電池の温度変化に伴う熱応力を抑制するため、熱膨張量(実効的な熱膨張係数)がセル4と同等になるようにすることが望ましい。材料としてはクロム-鉄系合金(例えば22mass%Cr−bal.Fe合金等)、ニッケル基合金(例えばインコネルやハステロイ等)、耐熱性ステンレス鋼(例えばSUS301SやSUS430等)、アルミナ系セラミック(例えばアルミナやムライト等)、これらの材料をコーティングした1200℃以上の融点を有する耐熱金属等を用いることができる。
【0026】
反応ガス流路用補助集電極61は、アノード2への電流パスを増大し電気抵抗ロスを低減する機能とともに、アノード2へ燃料ガスを供給する流路の機能も有する。電気抵抗ロスを低減するためには、アノード2よりも電気抵抗率の低いことが望ましい。また、アノード2へ燃料ガスを供給するためには、反応ガス流路用補助集電極61は連続開気孔構造を有する多孔体であることが望ましい。連続開気孔構造を有する多孔体とすることにより、熱膨張量(実効的な熱膨張係数)をセル4と同等にすることができるという利点もある。
【0027】
具体的には、導電性材料による連続開気孔構造の発泡体(いわゆる発泡金属)で構成することができる。多孔体の空隙率としては90〜98%が好ましく、より好ましくは93〜98%である。また、平均孔径は0.5〜1.5 mmが好ましく、より好ましくは0.7〜1mmである。加えて、発電反応にほとんど寄与しない反応ガスバイパス流を抑制するため、反応ガス流路用補助集電極61中の反応ガスバイパス流路の平均面積比は、反応ガス流路用補助集電極61の面積の15%以下であることが望ましい。より望ましくは10%以下であり、さらに望ましくは5%以下である。なお、反応ガスバイパス流路の平均面積比は、例えば、セルモジュール(少なくともセル4とセル容器8と反応ガス流路用補助集電極61とを有する)におけるセルの長手方向でX線CT(Computed Tomography)による断層撮影を6箇所程度おこない、その断層写真から評価することができる。
【0028】
材料としては、ステンレスまたは、ニッケル、クロム(Cr)、タングステン(W)、金(Au)、白金(Pt)、タンタル(Ta)もしくはこれらの1以上を含む合金を用いることが好ましい。これらの材料を用いることで燃料電池の内部抵抗が減少し、電気抵抗ロスを低減することができる。
【0029】
(燃料電池の製造方法)
固体酸化物形燃料電池の製造方法について説明する。
【0030】
まず、従来の製作方法を概説する。図6に示したような従来の固体酸化物形燃料電池の場合は、補助集電極6を形成するにあたり、貫通気孔を有する導電性多孔体をあらかじめシート状に成形し、該シートをセル4に巻き付けて装着していた。また、複数のセルを直並列に接続するときは、補助集電極6を形成した(前記シートを巻き付けて装着した)セル4どうしを直列および/または並列に電気接続していた。
【0031】
このような従来の製造方法は手順が簡素という利点はあるが、巻き付け装着であるが故に補助集電極6とセル4との間、および直並列接続時の補助集電極6どうしの間に望まない隙間が形成され易い(残存し易い)課題があった。これらの隙間は、電気的な接続不良を招く要因になるとともに反応ガスバイパス流路を構成し、電池性能の向上を阻害することがあった。言い換えると、望まない隙間が形成されないように補助集電極6を形成することが難しく製造歩留まりの向上に課題を残していた。
【0032】
これに対し、本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の製造方法は、燃料電池セルが収容され前記セルごとに仕切り反応ガスを透過しないセル容器を具備し、前記セル容器と前記セルとの間に反応ガスが流通可能な反応ガス流路用補助集電極が形成され、前記反応ガス流路用補助集電極中の反応ガスバイパス流路の平均面積比が15%以下である固体酸化物形燃料電池の製造方法であって、前記セル容器内に前記セルを収容する工程の後に、前記反応ガス流路用補助集電極を形成する工程を行なうことを特徴とする。
【0033】
すなわち、反応ガス流路用補助集電極を形成する工程の順序が従来の製造方法と大きく異なっている。また、セル容器と該セル容器に収容されたセルを反応ガス流路用補助集電極形成の型枠として利用できることから、反応ガス流路用補助集電極の周囲に望まない隙間が形成されず、再現性良く確実に反応ガス流路用補助集電極を形成できる。加えて、反応ガス流路用補助集電極とセルとの間の電気的接続が良好となり、かつ反応ガスバイパス流路の形成も抑制されることから、燃料電池の性能を向上することができる。
【0034】
反応ガス流路用補助集電極61は、スラリー塗布法(粉末焼結法の1種)やスラリー発泡法(粉末焼結法の1種)、連続体溶融法(ロータス型法の1種)等で形成できるが、スラリー塗布法またはスラリー発泡法が好適である。スラリー塗布法では、例えば次のような工程によって形成することができる。
(i)反応ガス流路用補助集電極の材料の粉末を含むスラリーを用意する工程
反応ガス流路用補助集電極の材料として例えばニッケル粉末を用い、水溶性バインダとして例えばポリビニルアルコール水溶液を用い、それらを混合してスラリーを用意する。
(ii)連続開気孔構造を有する樹脂製の形材に前記スラリーを塗布・充填する工程
反応ガス流路用補助集電極を形成しようとする箇所に連続開気孔構造(立体的なメッシュ構造)を有する樹脂(例えば、ポリウレタン)を形成し、該連続開気孔中に充填されるように前記スラリーを塗布する。
(iii)加熱により前記樹脂製の形材を焼失させ、前記補助集電極の材料の粉末を焼結させる工程
上記工程で塗布・充填したスラリーを乾燥させて水分等を除去する。その後、加熱処理を施し前記樹脂製の形材を焼失させ、前記補助集電極の材料の粉末を焼結させる。
上記のような工程により、連続開気孔構造を有する反応ガス流路用補助集電極61を形成することができる。反応ガス流路用補助集電極61の空隙率や平均孔径は、上記樹脂製の形材によって調整できる。なお、スラリー発泡法は、前記スラリーに発泡剤を添加して充填し発泡させ、その後、焼結させて形成する方法である。
【0035】
〔本発明の第2の実施形態〕
(燃料電池の構成)
本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池は、第1の実施形態に加えて、通電用補助集電極が反応ガス流路用補助集電極との積層構造となるように形成され、前記通電用補助集電極が前記反応ガス流路用補助集電極とセル容器との間に介在していることを特徴とする。図2は、本発明の第2の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の構造の1例を示す横断面模式図である。なお、第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0036】
図2に示すように、セル4は他のセルと仕切られるようにセル容器8内に収容されており、セル容器8とセル4との間には、反応ガスが流通可能な反応ガス流路用補助集電極61が形成されている。このとき、通電用補助集電極62が反応ガス流路用補助集電極61との積層構造となるように形成され、通電用補助集電極62が反応ガス流路用補助集電極61とセル容器8との間に介在している。
【0037】
通電用補助集電極62を形成することにより、アノード2への電流パスが第1の実施形態よりも増大し電気抵抗ロスを更に低減することができる。電気抵抗ロスを低減するためには、通電用補助集電極62は、アノード2よりも電気抵抗率の低く反応ガス流路用補助集電極61よりもかさ密度が高いことが望ましい。また、通電用補助集電極62は、反応ガスを透過しない気密性を有していることが好ましい。アノード2から離れた領域での反応ガスの流通が減少することから、反応ガスバイパス流が低減するためである。加えて、熱応力緩和の観点から閉気孔構造を有する多孔体であることが望ましい。閉気孔構造を有する多孔体とすることにより、熱膨張量(実効的な熱膨張係数)をセル4と同等にすることができる。
【0038】
具体的には、導電性材料による閉気孔構造の発泡体(いわゆる発泡金属)で構成することができる。多孔体の空隙率としては85〜95%が好ましく、より好ましくは90〜95%である。また、平均孔径は0.2〜1.5 mmが好ましく、より好ましくは0.5〜1mmである。材料としては、ステンレスまたは、ニッケル、クロム、タングステン、金、白金、タンタルもしくはこれらの1以上を含む合金を用いることが好ましい。これらの材料を用いることで燃料電池の内部抵抗が減少し、電気抵抗ロスを低減することができる。
【0039】
(燃料電池の製造方法)
図3は、第2の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の製造方法における途中段階を示した断面模式図である。第1の実施形態の場合と同様に、セル4をセル容器8の中に収容する。このとき、補助集電極用型枠9をセル4とセル容器8との間に設置する。
【0040】
その後、補助集電極用型枠9とセル4との間の空間に対し、第1の実施形態と同様に反応ガス流路用補助集電極61を形成する。次に、補助集電極用型枠9とセル容器8との間の空間に対し、通電用補助集電極62を形成する。詳細に説明するまでもなく、反応ガス流路用補助集電極61と通電用補助集電極62の形成順序が逆であっても構わない。
【0041】
通電用補助集電極62は、プリカーサ法(粉末成形法の1種)や発泡溶融法等で形成できるが、プリカーサ法が好適である。プリカーサ法では、例えば次のような工程によって形成することができる。
(a)通電用補助集電極の材料の粉末を発泡剤と混合して混合材を用意する工程
反応ガス流路用補助集電極の材料として例えばニッケル粉末を用い、発泡剤として例えば炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を用い、水溶性バインダとして例えばポリビニルアルコール水溶液を用い、それらを混合して混合材を用意する。
(b)前記混合材をセル容器とセルとの間に充填する工程
前記混合材をセル容器8とセル容器8に収容されたセル4との間に充填する。例えば、上述したように、補助集電極用型枠9とセル容器8との間の空間に充填する。
(c)充填した前記混合材を発泡させる工程
充填した前記混合材を加熱・発泡させる。
(d)発泡後の前記混合材を焼結する工程
上記工程で発泡させた前記混合材中の水分を乾燥させた後、該混合材中の通電用補助集電極材料の粉末を焼結する。
上記のような工程により、閉気孔構造を有する通電用補助集電極62を形成することができる。なお、通電用補助集電極62の空隙率や平均孔径は、材料粉末の粒子径や発泡剤の調合量によって調整できる。
【0042】
補助集電極の形成に障害を生じさせなければ、補助集電極用型枠9に特段の制限はない。また、燃料電池の運転に対して悪影響を及ぼさなければ、補助集電極用型枠9を撤去しなくてもよい。例えば、補助集電極用型枠9として、反応ガス流路用補助集電極61や通電用補助集電極62と同材質のワイヤを用いたメッシュ型枠(前記混合材が透過しない程度の網目を有する)を用いた場合、補助集電極用型枠9を撤去せずに連続して反応ガス流路用補助集電極61の形成と通電用補助集電極62の形成を行なうことができる。もちろん、補助集電極用型枠9を撤去してもよい。
【0043】
〔本発明の第3の実施形態〕
本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池は、第2の実施形態に加えて、セル容器が通電用補助集電極であることを特徴とする。横断面構造としては図1と略同じになるが(図1参照)、セル容器8が通電用補助集電極62を兼ねている点で、第1の実施形態や第2の実施形態と異なる。なお、アノード電極5’は在っても無くてもよい。
【0044】
重複する説明は省略するが、本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池は、第1の実施形態と第2の実施形態の利点を併せ持つ。すなわち、第1の実施形態と同じ簡素な製造方法で製造可能であり、第2の実施形態と同等の低い電気抵抗ロスと反応ガスバイパス流の低減効果がある。
【0045】
〔本発明の第4の実施形態〕
図4は、本発明の第4の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の構造の1例を示す断面模式図であり、第3の実施形態に係る燃料電池を複数個直列接続した集合電池である。各セルがセル容器によって仕切られていることで、セル容器ごとに乾電池のように簡単に直並列接続したり分離したりすることができる。これは、固体酸化物形燃料電池の集合電池システムを構築するにあたり、組み上げの作業性を大幅に向上させる。加えて、不具合の生じた(故障した)セルの入れ替えが簡単に行なえることを意味し、集合電池全体のメインテナンス性が飛躍的に向上することにつながる。
【0046】
一方、前述したように固体酸化物形燃料電池は高温で運転されるため、集合電池化したときに各電池間に温度分布が生じる場合がある。この場合、発電効率の観点から各電池の実態温度に適した量の反応ガスを供給することが望ましいが、従来の一体型集合電池においては、反応ガス流量の個別制御が困難であった。これに対し、本発明に係る集合電池は、各電池(各セル)が反応ガスを透過しないセル容器によって仕切られていることから、電池ごとに反応ガス流量の個別制御が可能となる利点も有する。
【0047】
〔本発明の第5の実施形態〕
図5は、本発明の第5の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の構造の1例を示す断面模式図である。図5に示すように、本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の集合電池は、複数の小部屋を有するセル容器8’を具備し該小部屋ごとにセル4を収容している点で、第4の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池と異なる。本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池は、第4の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池よりも容積を縮小できることから、大規模集合電池システムを構築するのに適している。他の作用・効果は第4の実施形態と同じである。
【0048】
以上、本発明に係る実施形態を説明してきたが、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはない。例えば、セルの縦断面形状が底のない開放された管でも構わないし、セルの横断面形状も扁平円筒形状に限らず楕円形状・円筒形状・直方体や立方体形状等でも構わない。
【実施例】
【0049】
実施例1として、第2の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(図2参照)を用意した。また、比較例1として、従来の製造方法で製造した固体酸化物形燃料電池(図6参照)を実施例1と同じセル容器に挿入(圧入)した固体酸化物形燃料電池を用意した。なお、実施例1と比較例1はセルとしても同じものを用い、補助集電極の構成のみが異なるようにしたものである。
【0050】
インターコネクタとアノード電極との間の電気抵抗を測定したところ、実施例1の電気抵抗値は比較例1のそれよりも30%低いものであった。次に、それぞれの燃料電池に反応ガスを流通させ発電試験を行なった。その結果、比較例1の固体酸化物形燃料電池は、燃料利用率を75%以上に高めるとセル電圧が徐々に低下し始め、80%以上で大きく低下した。これに対し、実施例1の固体酸化物形燃料電池は、燃料利用率を95%まで高めてもセル電圧がほとんど低下しなかった。
【0051】
これら電気抵抗と燃料利用率の結果の差異は、補助集電極中(特に反応ガス流路用補助集電極の周囲)における望まない隙間の有無に起因するものと考えられた。本実施例により、本発明に係る固体酸化物形燃料電池は、反応ガス流路用補助集電極の領域中に望まない隙間が形成されず、反応ガス流路用補助集電極とセルとの間の電気的接続が良好となり、かつ反応ガスバイパス流路の形成も抑制されることから、燃料電池の性能を向上することができることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の構造の1例を示す横断面模式図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の構造の1例を示す横断面模式図である。
【図3】第2の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の製造方法における途中段階を示した断面模式図である。
【図4】本発明の第4の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の構造の1例を示す断面模式図である。
【図5】本発明の第5の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の構造の1例を示す断面模式図である。
【図6】従来の扁平円筒タイプの両面発電セルを示す概略模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1…固体電解質、2…アノード、3…カソード、4…セル、
5…インターコネクタ、5’…アノード電極、
6…補助集電極、61…反応ガス流路用補助集電極、62…通電用補助集電極、
7…空気供給孔、8,8’…セル容器、9…補助集電極用型枠。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池であって、
燃料電池セルが収容され前記セルごとに仕切り反応ガスを透過しないセル容器を具備し、
前記セル容器と前記セルとの間に反応ガスが流通可能な反応ガス流路用補助集電極が形成され、
前記反応ガス流路用補助集電極中の反応ガスバイパス流路の平均面積比が15%以下であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池において、
更に通電用補助集電極が前記反応ガス流路用補助集電極との積層構造となるように形成され、前記通電用補助集電極が前記反応ガス流路用補助集電極と前記セル容器との間に介在していることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記反応ガス流路用補助集電極は連続開気孔構造を有する多孔導電体であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記連続開気孔構造を有する多孔導電体は空隙率が90〜98%で平均孔径が0.5〜1.5 mmであることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記通電用補助集電極は閉気孔構造を有する多孔導電体であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項6】
請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記閉気孔構造を有する多孔導電体は空隙率が85〜95%で平均孔径が0.2〜1.5 mmであることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
請求項2乃至請求項6のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記反応ガス流路用補助集電極および前記通電用補助集電極はステンレスまたは、ニッケル、クロム、タングステン、金、白金、タンタルもしくはこれらの1以上を含む合金からなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記セル容器はクロム−鉄系合金、ニッケル基合金、耐熱性ステンレス鋼、またはこれらの1以上をコーティングした耐熱金属からなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記セル容器はアルミナ系セラミックス、またはアルミナ系セラミックスコーティングした耐熱金属からなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項10】
請求項2乃至請求項8のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記セル容器が前記通電用補助集電極であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池が直並列に複数個電気接続されたことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項12】
燃料電池セルが収容され前記セルごとに仕切り反応ガスを透過しないセル容器を具備し、前記セル容器と前記セルとの間に反応ガスが流通可能な反応ガス流路用補助集電極が形成され、前記反応ガス流路用補助集電極中の反応ガスバイパス流路の平均面積比が15%以下である固体酸化物形燃料電池の製造方法であって、
「前記セル容器内に前記セルを収容する工程」の後に、「前記反応ガス流路用補助集電極を形成する工程」を行なうことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法において、
前記反応ガス流路用補助集電極を形成する工程は「前記反応ガス流路用補助集電極の材料の粉末を含むスラリーを用意する工程」と「連続開気孔構造を有する樹脂製の形材に前記スラリーを塗布・充填する工程」と「加熱により前記樹脂製の形材を焼失させ、前記補助集電極の材料の粉末を焼結させる工程」とを含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項14】
請求項12または請求項13に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法において、
前記固体酸化物形燃料電池は、更に通電用補助集電極が前記反応ガス流路用補助集電極との積層構造となるように形成され、前記通電用補助集電極が前記反応ガス流路用補助集電極と前記セル容器との間に介在しており、
前記通電用補助集電極を形成する工程は「前記通電用補助集電極の材料の粉末を発泡剤と混合して混合材を用意する工程」と「前記混合材を前記セル容器と前記セルとの間に充填する工程」と「充填した前記混合材を発泡させる工程」と「発泡後の前記混合材を焼結する工程」とを含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項15】
請求項12乃至請求項14のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池の製造方法において、
前記反応ガス流路用補助集電極および/または前記通電用補助集電極の材料としてステンレスまたは、ニッケル、クロム、タングステン、金、白金、タンタルおよびこれらの1以上を含む合金を用いることを特徴とする固体酸化物形燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−10071(P2010−10071A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170762(P2008−170762)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】