説明

固体高分子型燃料電池セパレータ用導電性シート

【課題】固体高分子型燃料電池セパレータとして、柔軟性(耐衝撃性)に優れ、薄葉化が可能であり、十分に電気抵抗の小さい導電性シートを提供する。
【解決手段】導電性炭素質フィラーを乾燥収縮率が10%以上の芳香族アラミドフィブリッドをバインダーとして用いることにより、導電性炭素質フィラーを高混率で保持でき、ガスの不透過性、強度が向上した柔軟なシートとし、更に得られたシートに加熱プレス処理を施すことで炭素フィラー同士のパーコレーションを向上させて導電性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の用途で使用される導電性、柔軟性に優れた薄葉固体高分子型燃料電池セパレータ用導電性シートに関する。より詳しくは、原料に炭素質材料及び全芳香族ポリアミドフィブリッド等を含む導電性、強度、柔軟性に優れた薄葉固体高分子型燃料電池セパレータ用導電性シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電解質としてプロトン導電性の固体高分子膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池(以下、固体高分子型燃料電池という)の開発が進められている。
【0003】
固体高分子型燃料電池の基本的な構造及び作動原理は以下の通りである。
図1は、固体高分子型燃料電池を構成する単セルの構造を模式的に示した断面図である。図1に示すように、高分子電解質型燃料電池の単セル1では、パーフルオロカーボンスルフォン酸等からなる固体高分子電解質膜6の両面に空気極4(正極)と燃料極5(負極)とがそれぞれ配置されて膜電極接合体3を構成しており、空気極4と燃料極5の外側には、セパレータ2がそれぞれ当接されている。
【0004】
このセパレータ2には溝が形成されており、空気及び燃料を供給することができる。尚、このような固体高分子型燃料電池の単セル1から得られる電位差(電圧)は小さいため、実際に使用する場合は、固体高分子型燃料電池の単セル1を複数積層してスタックを形成し、大きな電位差(電圧)が得られるようにすることが好ましい。
【0005】
固体高分子型燃料電池では、燃料極5に燃料ガスを供給し、空気極4に空気を供給すると、燃料極5においては、下記反応式(1)に示す反応が起こり、空気極4においては、下記反応式(2)に示す反応が起こる。
その結果、固体高分子型燃料電池全体では、下記反応式(3)に示す反応が起こることとなる。
2H→4H+4e・・・(1)
+4H+4e→2HO・・・(2)
2H+O→2HO・・・(3)
【0006】
このように、固体高分子型燃料電池では、燃料極5において反応式(1)で表される反応により電子(4e)が生成し、この電子が外部負荷回路を経由して空気極6に移動する際に、外部負荷回路において行う仕事が電力として取り出される。
【0007】
また同時に、高分子電解質型燃料電池では、燃料極5において反応式(1)で表される反応により水素イオン(4H)が生成し、この水素イオンが固体高分子電解質膜6を経由して空気極4に移動し、酸素と反応する。その結果、高分子電解質型燃料電池では、上記反応式(2)及び(3)に示したように、発電に伴って水素と酸素とが反応して、空気極4において水が生成することとなる。
【0008】
このような高分子電解質型燃料電池用セパレータ2では、両面に設けられた溝に供給される燃料ガスと空気とが混入しないように、優れた気体不浸透性が要求される。さらに発電して得られたエネルギーを効率よく利用することができるように、電気抵抗が低いことが要求される。
【0009】
このような材料要求特性に対し、通常はカーボン系または金属系のセパレータが利用されている。特開2001−143721号公報にはカーボン系セパレータ素材について記載されているが、カーボン系セパレータ素材は物性面では一般に耐食性には優れるが、金属系に比べて電気抵抗が大きく、また脆く耐衝撃性に劣るため、薄型化が困難であるため設置に対し大きなスペースが必要であるといった問題があった。
【0010】
一方、特開平11−162478号公報には、金属系セパレータ素材について記載されているが、金属系セパレータ素材は上記のカーボン系セパレータに対して機械的強度、特に耐衝撃性が優れているため、薄型化でき省スペースに対応できる。金属系セパレータとしては、白金等の貴金属を使用したものや、ステンレス鋼を使用したもの等が開発されている。白金等の貴金属を使用した金属系セパレータは、腐食されることなく長期間安定して使用することができるが、高分子電解質型燃料電池全体での貴金属の使用量が多くなるため、製作コスト的に用途はかなり限定される。
【0011】
又特開昭61−216257号公報には、ステンレス鋼を使用した金属系セパレータについて記載されているが、ステンレス鋼を使用した金属系セパレータは安価ではあるものの腐食の問題や、溶出した金属が固体高分子電解質膜のスルホン酸基と結合してプロトン伝導特性を劣化させ電池性能を低下させる問題等があった。
【0012】
【特許文献1】特開2001−143721号公報
【特許文献2】特開平11−162478号公報
【特許文献3】特開昭61−216257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記問題点に鑑み、高強度で柔軟性(耐衝撃性)に優れ、薄葉化が可能であり、固体高分子型燃料電池セパレータとして十分に電気抵抗の小さい導電性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討の結果、導電性炭素質フィラーに特定の全芳香族フィブリッドをバインダーとして使用することにより、導電性炭素質フィラーを高混率で保持でき、ガスの不透過性、強度が向上した柔軟な導電性シートが得られることを見出した。
【0015】
即ち本発明によれば、構成成分として、炭素質材料及び乾燥収縮率が10%以上である全芳香族ポリアミドフィブリッドを含む固体高分子型燃料電池セパレータ用導電性シートとし、好ましくは得られたシートに加熱プレス処理を施すことで炭素フィラー同士のパーコレーションを向上させて導電性を向上させることにより高強度で柔軟性に優れ、薄葉化が可能な導電性シートとすることができた。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属材料を含有していないため耐食性に優れ、薄葉かつ柔軟で耐衝撃性に優れた導電性シートを提供することができる。このため、固体高分子型燃料電池用セパレータとして優れた性能を発揮するとともに、固体高分子型燃料電池の軽量化および省スペース化に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における、炭素質材料とはシートに導電性を付与するために使用される。炭素質材料としては、導電性の点からは、カーボンブラック、炭素繊維、アモルファスカーボン、膨張黒鉛、人造黒鉛、天然黒鉛、気相法炭素繊維、カーボンナノチューブ、フラーレンの中から選ばれた1ないし2種類以上の組み合わせが挙げられる。
【0018】
本発明において、全芳香族ポリアミドとは、アミド結合の60%以上、好ましくは85%以上が芳香環に直接結合した線状高分子化合物を意味する。このようなアラミドとしては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミドおよびその共重合体、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびその共重合体、ポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4−ジフェニルエーテル)テレフタルアミドなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。これらのアラミドの中でも本発明におけるセパレータに対しては、高耐熱性および耐化学薬品性の観点から、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、もしくは、その共重合体であるポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4−ジフェニルエーテル)テレフタルアミドが適している。
【0019】
本発明における全芳香族ポリアミドフィブリッドとは、全芳香族ポリアミドポリマーからなる微小のフィブリルを有する薄葉状、鱗片状の小片、又は、ランダムにフィブリル化した微小短繊維の総称である。例えば、WO2004/099476 A1、特公昭35−11851号公報、特公昭37−5732号公報等に記載された方法により、全芳香族ポリアミド重合体溶液をその沈澱剤と剪断力の存在する系において混合することにより製造されるフィブリッドや、特公昭59−603号公報に記載された方法により、光学的異方性を示す高分子重合体溶液から成形した分子配向性を有する成形物に叩解等の機械的剪断力を与えてランダムにフィブリル化させたフィブリッドを例示することができるが、本発明に使用する乾燥収縮率が10%以上であるフィブリッドを得るには前者の方法によるものが最適である。
【0020】
また、本発明における乾燥収縮率が10%以上である全芳香族ポリアミドフィブリッドとしては、高耐熱性の観点からパラ型全芳香族ポリアミドが好ましく、中でもポリパラフェニレンテレフタルアミドポリマーを原料としたものがより好ましい。
【0021】
全芳香族ポリアミドフィブリッドは、通常の木材パルプと同様に、離解、叩解処理を施し抄紙原料として用いることが広く知られており、本発明においても抄紙に適した品質を保つ目的でいわゆる叩解処理を施すことができる。この叩解処理は、デイスクリファイナー、ビーター、その他の機械的切断作用を及ぼす抄紙原料処理機器によって実施することができる。この操作において、フィブリッドの形態変化は、日本工業規格P8121に規定されている濾水度試験方法(フリーネス)でモニターすることができる。本発明において、叩解処理を施した後のアラミドフィブリッドの濾水度は、一般に、0〜300cm(カナディアンフリーネス)の範囲内にあることが好ましい。この範囲より大きな濾水度のフィブリッドでは、それから成形されるシートの強度が低下する可能性がある。
【0022】
本発明に使用する全芳香族ポリアミドフィブリッド(以後単にフィブリッドと呼ぶ場合がある)の乾燥収縮率は下記式により計算される。全芳香族ポリアミドフィブリッドのみを用いて上記した公知の湿式抄造法により100g/mの紙を抄造し、抄造直後の湿紙シート面積と、その湿紙シートを無圧下、乾燥後のシート面積から算出する。
S=[(S1−S2)/S1]×100
S:乾燥収縮率(%)
S1:TAPPI式手漉き抄造マシーンを使用して得られた全芳香族ポリアミドフィブリッド100g/mの湿紙状態でのシート面積
S2:120℃で5時間乾燥後のシート面積
【0023】
ここで、乾燥収縮率が10%以上のフィブリッドは、フィブリッド単体又はその他の成分とともに後述のような手法でシート化した場合、薄手でありながら、機械的強度は非常に強く、ガス透過性も小さいものが得られる。フィブリッドの有するフィブリルが収縮する際に他の繊維またはフィラー等の他のシート構成材料と強固に絡み合いが生じ、又接着性を示す結果、密度が上がるとともに、強度が高くなるものと推定している。
【0024】
乾燥収縮率が10%未満のフィブリッドは繊維間の微小な空隙が残存したシートとなるため機械的強度も低いものとなり、ガス透過も高くなるため好ましくない。
本発明における、導電性シートとは、構成成分として炭素質材料および乾燥収縮率が10%以上である全芳香族ポリアミドフィブリッドを含むシート状物からなることを特徴とする導電性シートであって、体積固有抵抗値は10×10−3Ω・cm以下が好ましい。
【0025】
シート化の手法としては、まず、炭素質材料と全芳香族ポリアミドフィブリッド等を水などとともに離解機またはミキサーなどの公知の攪拌装置を用いて、湿式混練することによって全芳香族ポリアミドフィブリッドに炭素質材料を定着させたスラリーを作成することができる。その後、作成したスラリーを公知の湿式抄造法を用いてシート化した後、脱水、乾燥を行うことで導電性シート状物を得ることができる。このときのシート全重量に対する炭素質材料の重量比は70%以上が好ましいが、体積固有抵抗値が上記値を満たすものであればこの限りではない。
【0026】
本発明においては、上記シートをプレス処理することが好ましい。プレス処理とは、シートの緻密化を目的として公知の加圧設備を用いて実施される。加圧はプレス機等を用いることもできるが、生産性の面からロールプレスの方が好ましい。また、加圧は熱を加えながら行っても良い。ただし、500℃以上の温度で加熱加圧処理を行うと芳香族ポリアミドの分解温度以上であるため、シートが熱劣化を起こす可能性があり好ましくない。
【0027】
本発明における導電性シートは耐食性、ガス不透過性及び機械的強度向上を目的として、バインダーの役割を果たすPTFE等のフッ素樹脂粉末を添加することが好ましい。本発明に用いられるフッ素樹脂としては、例えば四フッ化エチレン樹脂(以下PTFEと略称することがある)、パーフルオロ−アルコキシ樹脂(以下、PFAと略称することがある)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂(以下、FEPと略称することがある)、四フッ化エチレン−エチレン共重合樹脂(以下、ETFEと略称することがある)、フッ化ビニリデン樹脂(以下、PVDFと略称することがある)、三フッ化塩化エチレン樹脂(以下、PCTFEと略称することがある)等を挙げることができるが、中でも耐熱性の点でPTFEが特に好ましい。
【0028】
本発明においては、上記のフッ素樹脂粉末を全芳香族ポリアミドフィブリッドへ定着させて、湿式抄造法によりシート化を行うが、そのときのフッ素樹脂粉末は、予め水中分散物としておくことが好ましい。フッ素樹脂の分散液(ディスパージョン又はエマルジョン等と呼ばれることがある)は、アニオン系、カチオン系、又はノニオン系の界面活性剤を含む水中にフッ素樹脂粉末を安定に分散させて作製する。又フッ素樹脂粉末の分散液は、一般的には、1種類以上の界面活性剤の存在下でフッ素樹脂の原料のモノマーを水系重合させることによって調製することもできる。また、市販されているフッ素樹脂粉末のディスパージョンをそのまま利用することも可能である。例えば、旭硝子(株)、ダイキン工業(株)等から市販されているフッ素樹脂ディスパージョンを挙げることができる。
【0029】
本発明におけるフッ素樹脂の好ましい平均粒径は0.01〜10μmであり、さらに好ましくは0.1〜1μmである。粒径が0.01より小さい場合には粒子の繊維表面への定着が困難となり、10μmより大きい場合には安定な分散液を得ることが難しくなる。
【0030】
本発明におけるフッ素樹脂含有導電性シートの作成方法は、まず、炭素質材料と全芳香族ポリアミドフィブリッドを水などとともに離解機またはミキサーなどの公知の攪拌装置を用いて、湿式混練することによって全芳香族ポリアミドフィブリッドに炭素質材料を定着させたスラリーを作成することができる。その後、上記のフッ素樹脂ディスパージョンを加え、さらに攪拌した後、凝集剤を加えることによって全芳香族ポリアミドフィブリッドにフッ素樹脂を沈着することができる。フッ素樹脂を沈着させたスラリーを公知の湿式抄造法を用いてシート化した後、脱水、乾燥を行い、シート状物を得る。続いてこのシート状物を加圧により緻密な構造とし、引き続き又は同時にフッ素樹脂の融点又は軟化点以上の温度で焼成して目的のシートを得る。例えば、フッ素樹脂として融点が320℃のPTFEを用いる場合は、320〜450℃、好ましくは350〜400℃で焼成する。焼成温度が融点未満であると均一なフッ素樹脂層が形成されずボイドが残るなどの問題を生じる。融点+90℃を越えるとフッ素樹脂の溶融粘度が低くなり過ぎてシートの厚さが不均一になる。加圧はプレス機等を用いて行うこともできるが、ロールで加圧することが生産性の面で望ましい。
【0031】
凝集剤は、フッ素樹脂粉末の水中での分散を不安定化させる作用を持ち、フッ素樹脂粉末を芳香族ポリアミドフィブリッドの表面に定着させる役割を果たす。適用する凝集剤の種類、及び添加量は、フッ素樹脂粉末を分散させるのに用いている界面活性剤の種類等より決定される。
【0032】
フッ素樹脂粉末がアニオン系の界面活性剤で安定化されている場合は、凝集剤として、強酸あるいは強電解質、あるいはポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸ソーダ系等の高分子凝集剤、さらにはこれらの高分子凝集剤と強酸または強電解質とを組合わせて適用することができる。
【0033】
フッ素樹脂粉末がカチオン系の界面活性剤で安定化されている場合は、凝集剤として、塩基またはは強電解質、あるいはポリアクリルアミド系、ポリメタクリル酸エステル系等の高分子凝集剤、さらにはこれらの高分子凝集剤と塩基あるいは強電解質とを組合わせて適用することができる。
【0034】
フッ素樹脂粉末がノニオン系の界面活性剤で安定化されている場合は、凝集剤として、強電解質、あるいはポリアクリルアミド系等の高分子凝集剤、さらにはこれらの高分子凝集剤と強電解質とを組合わせて適用することができる。
【0035】
また凝集剤として、ポリヒドロキシ芳香族カルボン酸とグルコース類との縮合物及び多価の金属塩を併用することは、使用する界面活性剤の種類に係わらず、特に有効である。縮合物の例としては、タンニン酸、没食子酸等が挙げられる。金属塩の例として、硫酸アルミニウムや塩化カルシウム等が挙げられる。この時、系に水酸化カルシウム、アンモニア、アルミン酸ソーダ等のアルカリ成分を加えて系のpHを3.5から6.0の範囲に調整することは、フッ素樹脂粉末の実質上総てを芳香族ポリアミドフィブリッドに定着させるので有効である。
【実施例】
【0036】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明する。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
尚測定法は下記の通りである。
1)全芳香族ポリアミドフィブリッドの乾燥収縮率
上述した方法で評価
2)全芳香族ポリアミドフィブリッドのガス透過性
ガーレー透気度 JIS P8117に準拠
【0037】
[実施例1]
WO2004/099476の手法に準じて作製したパラ型全芳香族ポリアミドフィブリッドを用いて公知の湿式抄造法により100g/mの紙を抄造し、乾燥収縮率を算出したところ29.4%であり、ガーレー透気度は38秒/100mlであった。
【0038】
[比較例1]
実施例1においてパラ型全芳香族ポリアミドフィブリッドの代わりにパラ型全芳香族ポリアミドパルプ(帝人テクノプロダクツ製、トワロン1094)を使用した以外は同様の方法で乾燥収縮率を算出したところ、4.0%であり、ガーレー透気度は8秒/100mlであった。
【0039】
実施例1と比較例1の結果から、乾燥収縮率が大きいフィブリッドのほうがガス不透過性が良好であることが示された。これは収縮により紙が緻密化し、シート中の通気孔がふさがれたためと考えられる。
【0040】
導電性シートの作成
下記実施例および比較例に基づき作成したシートの物性評価は次のように行った。
1)フィラー保持性
フィラー保持性は下記の手順に従って評価を実施した。
a)フィブリッド、パルプおよび黒鉛粉末(日本黒鉛製;SP−20、平均粒径=15μm)を所定の割合で合計重量15gを水とともに公知のミキサーを用いて湿式混合し、スラリーを作成する。
b)a)で作成したスラリーをTAPPI式手漉き抄造マシーンを使用して、シート状に成型する。(このとき、フィブリッド及びパルプに未定着の黒鉛粉末はメッシュ下に流れ、シート中に残留しない)
c)b)で作成したシートを熱風乾燥機を用いて120℃×24hrで十分に乾燥する。
d)c)で作成したシートの乾燥重量を測定し、下記の式からフィラー保持性を評価した。
フィラー保持性=(シートの乾燥重量)/(原料投入重量=15g)
2体積固有抵抗
JIS K6911に準拠して測定した。
3シート厚み
JIS P8118に準拠して測定した。
4シート目付け
JIS P8124に準拠して測定した。
5シート引っ張り強度
JIS P8113に準拠して測定した。
6ガーレー透気度
JIS P8117に準拠して測定した。
【0041】
[実施例2]
実施例1で使用したパラ型全芳香族ポリアミドフィブリッド10重量部と粉末状黒鉛(日本黒鉛製;SP−20)90重量部を水5000重量部とともにJIS標準離解機を用いて3000rpmで3分間湿式混練し、抄紙用スラリーを得た。つぎにこのスラリーをTAPPI式角型手漉きシートマシーンにて抄造し、プレス脱水後、120℃の乾燥機にて2時間乾燥させることでシート状物を得た。このシート状物に高温ローラープレス処理にて100℃×3920N/cmで圧延処理を施して導電性シートを得た。
【0042】
[実施例3]
実施例1で使用したパラ型全芳香族ポリアミドフィブリッド5重量部、パラ型全芳香族ポリアミドパルプ(帝人テクノプロダクツ製 トワロン1094)5重量部としたこと以外は実施例2と同様の方法で導電性シートを得た。
【0043】
[実施例4]
芳香族ポリアミドフィブリッド10重量部と粉末状黒鉛80重量部を水5000重量部とともにJIS標準離解機を用いて3000rpmで3分間湿式混練し、その後PTFEディスパージョン(旭硝子製;フルオンディスパージョンAD1(平均粒径0.25μm、固形分濃度60%)を16.7重量部加え、スターラーにより十分に攪拌した。続いて、タンニン酸3重量%、硫酸アルミ2重量%を含む水溶液80重量部とアンモニア1重量%水溶液20重量部を加えて、系内のタンニン酸の濃度を約450ppm、硫酸アルミの濃度を約300ppmとした。そのまま10分間攪拌して、芳香族ポリアミドパルプの表面に高分子量のPTFEと低分子量のPTFEを定着させた。つぎにこのスラリーをTAPPI式角型手漉きシートマシーンにて抄造し、プレス脱水後、120℃の乾燥機にて2時間乾燥させることでシート状物を得た。このシート状物を室温で3920N/cmの線圧でロール加圧した後、380℃の窒素雰囲気オーブンで1時間焼成し、目的のフッ素樹脂含有導電性シートを得た。
【0044】
[比較例2]
実施例2において、全芳香族ポリアミドフィブリッドの代わりに比較例1の全芳香族ポリアミドパルプを10重量部としたこと以外は同様の方法で導電性シートを得た。
【0045】
[比較例3]
実施例2において高温ローラープレス処理を省いたこと以外は同様の方法で導電性シートを得た。
【0046】
【表1】

【0047】
評価結果から、実施例2、3、4及び比較例2では比較例3対比体積固有抵抗値が大幅に減少している。これは高温ロールプレスによりシートが緻密化したために導電性炭素質フィラー同士のパーコレーションが向上したためと考えられる。
【0048】
また、実施例2、3、4ではガーレー透気度の測定においてガス不透過であったのに対し、比較例2、3ではガスの透過が見られた。実施例1、2及び比較例1から、導電性炭素質フィラーのバインダーとして熱収縮性の全芳香族ポリアミドフィブリッドを使用することにより、フィブリッドが乾燥時に収縮し、シートが緻密化し、更に加熱プレスすることにより、シート中に存在する通気孔をふさいだためと思われる。
さらに、実施例4では、フッ素樹脂を添加したため、引っ張り強度が向上している。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の導電性シートは金属を含まないため耐食性に優れ、薄葉かつ高強度で柔軟性があるため固体高分子型燃料電池セパレータに使用した場合、軽量かつ省スペースが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】固体高分子型燃料電池を構成する単セルの構造を模式的に示した断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成成分として、炭素質材料及び乾燥収縮率が10%以上である全芳香族ポリアミドフィブリッドを含むことを特徴とする固体高分子型燃料電池セパレータ用導電性シート。
【請求項2】
全芳香族ポリアミドフィブリッドがパラ型全芳香族ポリアミドフィブリッドである請求項1記載の固体高分子型燃料電池セパレータ用導電性シート。
【請求項3】
炭素質材料の含有量が70wt%以上である請求項1〜2いずれか一項記載の固体高分子型燃料電池セパレータ用導電性シート。
【請求項4】
さらにフッ素樹脂を構成成分として含む請求項1〜3いずれか一項記載の固体高分子型燃料電池セパレータ用導電性シート。
【請求項5】
請求項1〜4記載の導電性シートにおいて、下記(イ)〜(ハ)の工程からなることを特徴とする導電性シートの製造方法。(イ)炭素質材料及び/又はフッ素樹脂を、芳香族ポリアミドフィブリッドと水系スラリーとして混合し、炭素質材料及び/又はフッ素樹脂を芳香族ポリアミドフィブリッドへ定着する工程、(ロ)炭素質材料及び/又はフッ素樹脂が定着した該芳香族ポリアミドフィブリッドを湿式抄造し、その後乾燥してシート状物を得る工程、(ハ)該シート状物を加圧及び焼成する工程。
【請求項6】
フッ素樹脂を芳香族ポリアミドフィブリッドへ定着する工程(イ)において、凝集剤を使用する請求項5記載の固体高分子型燃料電池セパレータ用導電性シートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−34176(P2008−34176A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204506(P2006−204506)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】