固体高分子型燃料電池用ガス拡散層
【課題】安価で電池の出力密度の向上に寄与しうる、燃料電池用ガス拡散層を提供する。
【解決手段】カーボン粒子および撥水剤粒子からなる小径の貫通孔を無数に持つ多孔体焼結粗粒子が、ガスと液水の通路となる隙間を持ちつつ前記多孔体焼結粗粒子同士が連なって大径の貫通孔を無数に形成してなる燃料電池用ガス拡散層であって、前記ガス拡散層は片面に溝を有する平板状の形状を有し、前記溝の表面の少なくとも一部に撥水剤層を有することを特徴とする、燃料電池用ガス拡散層である。
【解決手段】カーボン粒子および撥水剤粒子からなる小径の貫通孔を無数に持つ多孔体焼結粗粒子が、ガスと液水の通路となる隙間を持ちつつ前記多孔体焼結粗粒子同士が連なって大径の貫通孔を無数に形成してなる燃料電池用ガス拡散層であって、前記ガス拡散層は片面に溝を有する平板状の形状を有し、前記溝の表面の少なくとも一部に撥水剤層を有することを特徴とする、燃料電池用ガス拡散層である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用のガス拡散層ならびにこれを用いた燃料電池用の膜電極接合体および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の少ない電源として、燃料電池が注目されている。燃料電池は、酸素などの酸化剤および水素などの燃料剤の供給を受けて電力を生成するものである。燃料電池には、固体高分子電解質型燃料電池(PEFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、アルカリ型燃料電池(AFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)などがある。中でも、固体高分子型燃料電池は、比較的低温で作動して高出力密度が得られることから、電気自動車用電源、分散電源、携帯用電源として期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池の構成は、一般的に、膜電極接合体(以下、「MEA」とも称する)をバイポーラプレートで挟持した構造となっている。MEAは、固体高分子電解質膜の両側に二つの電極が配設され、さらにこれをガス拡散層で挟持した構造となっている。電極は、カーボンブラックに担持された電極触媒と固体高分子電解質との混合物により形成された多孔性の構造を有し、電極触媒層とも呼ばれる。
【0004】
上記のようなMEAを有する固体高分子型燃料電池では、以下のような電気化学的反応などを通して、電気を外部に取り出すことが可能となる。まず、アノード(燃料極)側に供給された燃料ガスに含まれる水素が、触媒粒子により酸化され、プロトンおよび電子となる(2H2→4H++4e−:反応1)。次に、生成したプロトンは、アノード側電極触媒層に含まれる固体高分子電解質、さらにアノード側電極触媒層と接触している固体高分子電解質膜を通り、カソード(酸素極)側電極触媒層に達する。また、アノード側電極触媒層で生成した電子は、アノード側電極触媒層を構成している導電性担体、さらにアノード側電極触媒層の固体高分子電解質膜と異なる側に接触しているガス拡散層、バイポーラプレートおよび外部回路を通してカソード側電極触媒層に達する。そして、カソード側電極触媒層に達したプロトンおよび電子はカソード側に供給されている酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し水を生成する(O2+4H++4e−→2H2O:反応2)。
【0005】
かような電気化学的反応は、主に、触媒粒子と、固体高分子電解質と、燃料ガスまたは酸化剤ガスなどの反応ガスとが接触する三相界面において進行する。したがって、ガス拡散層は、供給された反応ガスを電極触媒層へと均一に供給することが必要とされる。
【0006】
また、燃料電池における固体高分子電解質膜は、湿潤していないと高いプロトン伝導性を示さない。そのため、固体高分子型燃料電池に供給する反応ガスは、ガス加湿装置などを用いて加湿される。これにより、固体高分子電解質膜の湿度分布が均一にされる。
【0007】
しかしながら、高加湿、高電流密度などの運転条件下では、アノードからカソードに向けて固体高分子電解質膜を移動するプロトンに伴って移動する水の量と、カソード側電極触媒層内に生成して凝集する生成水の量とが増加する。このため、カソードの生成水が電極触媒層内に滞留し、反応ガス供給路となっていた細孔を閉塞するフラッディング現象を招く。これにより、反応ガスの拡散などが阻害されるため、電気化学的反応が妨げられ、結果として電池出力が低下する。したがって、燃料電池の高出力化のためには、電極触媒層からの水の排出が必要である。
【0008】
電極触媒層の排水性を向上させる方法として、例えば、特許文献1には、カーボンペーパーなどの基材の上に、カーボンブラックなどの炭素粉末を用いて形成される多孔構造を有するカーボン層(マイクロポーラスレイヤー)を設けたガス拡散層が開示されている。特許文献1に記載のガス拡散層では、基材に撥水処理を施し、さらに必要に応じて炭素粉末にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンのような撥水剤を混合して撥水性を高め、電極触媒層内の水分を効率的に除去できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−56851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載のガス拡散層においては、炭素材料の分散液に撥水剤を混合して、これを基材にスプレーして吹きつけることによってカーボン層を作製するため、均一なカーボン層を形成するのが困難であった。また、カーボン層の強度が不十分であるため、カーボンペーパーなどの基材に塗布する必要があるが、カーボンペーパーは高価である上に、2MPa以上の圧力でプレスすると繊維が崩れて粉末化しやすいという問題点があった。
【0011】
一方で、固体高分子型燃料電池において用いられるバイポーラプレートは、通常、溝加工された形状を有し、溝加工された面がガス拡散層と接して流体流路を形成する。しかしながら、一般に緻密カーボングラファイトや炭素板などの炭素材料から形成されるバイポーラプレートに流路を形成するための溝加工は、フライス加工、サンドブラスト等の機械加工で行われるため、加工が容易ではなく、非常に高価である。そのため、従来より、ガス拡散層に流路を形成することで燃料電池の製造工程を簡略化し、電池を薄型化して高出力密度化する試みが行われているが、上記のようなガス拡散層に流路を形成することは強度の観点から困難である。
【0012】
そこで本発明の目的は、安価で電池の出力密度の向上に寄与しうる、燃料電池用ガス拡散層を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、カーボンブラック粒子とフッ素樹脂粒子を均一分散させ、その均一分散状態を保ったままフッ素樹脂粒子の融点以上で熱処理すると圧縮特性の優れた多孔体が得られることを明らかにした。この多孔体粒子を用い、ガス拡散層における空隙の空孔径分布を制御し、ガス拡散層のバイポーラプレートと接する側の面に流路を形成することによって、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、カーボン粒子および撥水剤粒子からなる小径の貫通孔を無数に持つ多孔体焼結粗粒子が、ガスと液水の通路となる隙間を持ちつつ前記多孔体焼結粗粒子同士が連なって大径の貫通孔を無数に形成してなる燃料電池用ガス拡散層である。本発明のガス拡散層は片面に溝を有する平板状の形状を有し、前記溝の表面の少なくとも一部に撥水剤層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガス拡散層は、多孔体焼結粗粒子が連結されて構成されるために高い圧縮強度が得られ、そのため高価なカーボンペーパーを用いる必要がなく、低コストである。さらに、本発明のガス拡散層を用いると、平板状のバイポーラプレートが使用可能であるため、燃料電池の高出力密度化、および燃料電池を作製する工程の簡略化、低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】基材の上にマイクロポーラスレイヤーを設けたガス拡散層を含む燃料電池の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明のガス拡散層を含む燃料電池の構造を模式的に示す断面図である。
【図3(a)】本発明のガス拡散層の断面模式図である。
【図3(b)】本発明のガス拡散層の上面模式図である。
【図3(c)】本発明のガス拡散層を構成する粒子の模式図である。
【図3(d)】本発明のガス拡散層の撥水剤層を表す模式図である。
【図4】ガス拡散層の溝部の構造を模式的に示す図である。
【図5】ガス拡散層の溝部の上部に貫通孔を設けた構造を示す模式図である。
【図6】ガス拡散層の溝部に強度補強材を接合した構造を示す模式図である。
【図7】ガス拡散層の溝部の側壁に親水処理した構造を示す模式図である。
【図8】本発明のガス拡散層の製造方法の代表的な実施形態を示す工程概略図である。
【図9】実施例1で得られたガス拡散層の表面のSEM写真である。
【図10】実施例1および比較例1、2で得られたガス拡散層の空孔分布を表す図である。
【図11】実施例1および比較例1、2で得られたガス拡散層の圧縮特性を示す図である。
【図12】実施例1で得られたガス拡散層およびカーボンペーパーの圧縮特性を示す図である。
【図13】実施例1および比較例1、2で得られたガス拡散層を用いた燃料電池の単セルの発電評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい形態を説明する。
【0018】
本発明の一実施形態は、カーボン粒子および撥水剤粒子からなる小径の貫通孔を無数に持つ多孔体焼結粗粒子が、ガスと液水の通路となる隙間を持ちつつ前記多孔体焼結粗粒子同士が連なって大径の貫通孔を無数に形成してなる燃料電池用ガス拡散層であって、前記ガス拡散層は片面に溝を有する平板状の形状を有し、前記溝の表面の少なくとも一部に撥水剤層を有することを特徴とする、燃料電池用ガス拡散層である。
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0020】
図1に、カーボンペーパーなどの基材の上にマイクロポーラスレイヤーを設けたガス拡散層を含む、通常の燃料電池10の構造を模式的に示す。燃料電池10において、膜電極接合体18は、一対の触媒層12(アノード触媒層及びカソード触媒層)が、固体高分子電解質膜11の両面に対向して配置され、これを一対のガス拡散層13(アノード側ガス拡散層およびカソード側ガス拡散層)が挟持してなる。ガス拡散層13は、それぞれ基材15とマイクロポーラスレイヤー14とにより構成され、マイクロポーラスレイヤー14の側の面で触媒層12と接する。基材15の外側に、流路17を形成するための溝構造を有する一対のバイポーラプレート16(アノード側バイポーラプレートおよびカソード側バイポーラプレート)が配置され、燃料電池が構成される。
【0021】
図2に、本発明のガス拡散層を含む燃料電池20の構造を模式的に示す。一対の触媒層12が、固体高分子電解質膜11の両面に対向して配置され、この両側に本発明のガス拡散層23が配置され、膜電極接合体28が形成される。本発明のガス拡散層23は、基材を含まず、マイクロポーラスレイヤーが自立層として機能する。そして、バイポーラプレート26と接する側に、流路27を有する。したがって、本発明のガス拡散層を用いる燃料電池においては、平板状のバイポーラプレート26を用いることができる。本発明のガス拡散層は、基材を用いないため、安価に製造できる。また、平板状のバイポーラプレートを用いることができるため、加工が容易になり、電池の厚みを低減させ、出力密度を高めることができる。なお、本発明のガス拡散層23は、アノード側ガス拡散層に適用されてもよく、カソード側ガス拡散層に適用されてもよく、その両方に適用されてもよいが、好ましくは両方に適用される。
【0022】
図3(a)〜(d)に、本実施形態のガス拡散層の基本構造を模式的に示す。上述したように、本実施形態のガス拡散層は、図3(a)の断面模式図、図3(b)の上面模式図に示すように、ガスや液水などの流体の流路となる溝を有し、前記溝の表面に撥水剤層34を有する。なお、撥水剤層34は、溝の表面の少なくとも一部に配置されればよい。溝の表面の面積に対する撥水層34の被覆率は、例えば、20〜80%でありうる。
【0023】
ガス拡散層の厚み、設けられる溝のサイズ、形状、配置、数などは特に制限されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。溝の断面の形状も、例えば、矩形であってもアーチ状であってもよい。溝の配置も任意であり、例えば、格子状や菱型の配置に形成されうる。好ましくは、図4のように、平行溝の形態が採用されうる。Hで表されるガス拡散層の厚みは特に限定されないが、好ましくは100〜700μmであり、より好ましくは100〜500μmである。Aで表される溝の幅は、好ましくは50〜800μmであり、より好ましくは100〜500μmである。Bで表される溝のピッチは、好ましくは100〜800μmであり、より好ましくは100〜500μmである。Cで表される溝の深さは、好ましくは50〜600μmであり、より好ましくは50〜500μmである。上記範囲であれば、ガスの流れ、液水の排出性、電子の移動性をバランスよく最良にすることができる。
【0024】
本実施形態のガス拡散層は、石を積み上げて石垣を作るのに似ている。小さな石でも積み上げてアーチ構造にすれば、巨大な橋を造ることができ、例えば100kg/cm2程度の荷重をかけても壊れることはない。したがって、本実施形態によるガス拡散層は、高い圧縮強度を有し、カーボンペーパーのような高価な基材を用いずに自立層を形成することができる。さらに、カーボンペーパーなどの基材を用いる場合に比べて低温度の熱処理で製造できるため、製造コストも低減できる。
【0025】
本実施形態のガス拡散層は、図3(c)左に示すように、多孔体焼結粗粒子31を用いて構成されたものであって、図3(c)右のように前記多孔体焼結粗粒子31は、カーボン粒子311と撥水剤粒子312とを用いて形成されている。そして、前記カーボン粒子311および/または撥水剤粒子312同士の間に形成される空孔(小径の貫通孔)313および前記多孔体焼結粗粒子31同士の間に形成される空孔(大径の貫通孔)32を含む。
【0026】
ここで、多孔体焼結粗粒子31は、焼結体であり、焼結時にPTFEなどの撥水剤粒子312が溶融してバインダとして作用し、カーボン粒子311および/または撥水剤粒子312同士が、相互に接合(結着)した構造となっている。混合時、焼結時にせん断応力がかからないため、撥水剤粒子312はフィブリル化せず粒子形態のまま多孔体焼結粗粒子31が形成される。そして、前記カーボン粒子311および/または撥水剤粒子312同士の間に形成される隙間が、無数の小径の貫通孔313を形成する。
【0027】
多孔体焼結粗粒子31中において、前記カーボン粒子311および前記撥水剤粒子312は均一に分布していることが好ましい。分布が均一であれば、より圧縮特性、導電性に優れたガス拡散層が得られうる。多孔体焼結粗粒子31中の前記カーボン粒子311および前記撥水剤粒子312の分布は、SEM観察、EPMA元素分析、比表面積測定やAFM観察などにより測定されうる。
【0028】
また、ガス拡散層は、成形体であり、多孔体焼結粗粒子31を加熱、加圧下で成形時に各多孔体焼結粗粒子31の表面にある撥水剤粒子312が溶融してバインダとして作用し、多孔体焼結粗粒子31同士が、相互に接合(結着)した構造となっている。なお、成形時にせん断応力が加えられても、撥水剤粒子の集合体が形成されていないため、多孔体焼結粗粒子31の変形はおこりにくい。そして、前記多孔体焼結粗粒子31同士の間に形成される隙間が、大径の貫通孔32を形成する。
【0029】
さらに、本実施形態のガス拡散層は、溝の表面に沿って撥水剤層34を有する。ここで、撥水剤層とは、図3(d)に示すように、最外層の多孔体焼結粗粒子31の外側に存在する撥水剤粒子を含む領域を意味する。この領域は、溝の表面全体に存在してもよく、表面の一部に存在してもよい。例えば、溝の形状を形成するための構造体を利用して前記多孔体焼結粗粒子31を加熱、加圧下で成形時すると、成形時に多孔体焼結粗粒子31の表面にある撥水剤粒子312が溶融する。そしてその一部が前記構造体と前記多孔体焼結粗粒子31との間に形成される空隙部に移動し、結果的に溝の表面に沿って最外層の多孔体焼結粗粒子31の外側に撥水剤粒子312を含む領域が形成される。このような領域が形成されると、溝の表面付近での多孔体焼結粗粒子31同士の接着性が向上し、溝の表面付近に存在する多孔体焼結粗粒子31の破壊や脱落が生じにくくなるため、強固な溝の構造が形成されうる。前記撥水剤層は、SEM観察、EPMA元素分析やAFM観察などによって確認することができる。
【0030】
ここで、前記小径の貫通孔の空孔径ピークは0.07〜0.12μmの範囲であることが好ましい。上記範囲であれば、ガス透過が可能であり、液水は容易に進入できない空孔領域が得られ、さらに緻密な空孔構造を保持することができる。より好ましくは、前記小径の貫通孔の空孔径ピークは0.07〜0.1μmの範囲である。
【0031】
前記大径の貫通孔の空孔径ピークは3〜20μmの範囲であることが好ましい。上記範囲であれば、ガスおよび液水が透過し得るサイズの空孔領域とすることができ、また、強固で取り扱い性が容易な空孔構造が得られうる。より好ましくは、前記大径の貫通孔の空孔径ピークは3〜10μmの範囲である。
【0032】
また、前記大径の貫通孔および前記小径の貫通孔のいずれもが、上記範囲の空孔径ピークを有する場合は、大径の貫通孔と小径の貫通孔との水浸入圧力がより大きくなるため、効率よく液水を排出することができ、電池性能の向上に寄与しうる。
【0033】
本発明において、「ピーク」とは空孔径の分布曲線において、大きな空孔径側から空孔径を小さくしていく場合に、当該曲線の接線の傾きが負から正に変わるときの凸部分を意味する。また、当該凸部分の頂点(局所極大値)の空孔径を「ピーク空孔径」、凸部分の頂点(局所極大値)からベースラインまでの距離を「ピーク高さ」というものとする。ピークの凸部分の両端は凸部分の頂点から空孔径を大きくまたは小さくしていく場合に、曲線の接線の傾きが0となる点を指すものとする。
【0034】
なお、「空孔径ピークがXμm以上Yμm以下(未満)の範囲にある」とは、空孔径ピークの全体がXμm以上Yμm以下(未満)の範囲に実質的に含まれることを意味する。また、「空孔径ピークの全体がXμm以上Yμm以下(未満)の範囲に実質的に含まれる」とは、空孔径ピークの凸部分の面積(空孔径分布曲線の積分値)の20%以上がXμm以上Yμm以下(未満)の範囲に含まれることを指す。ただし、空孔径ピークの凸部分の面積のうち、Xμm以上Yμm以下(未満)の範囲に、好ましくは50%以上が含まれ、より好ましくは80%以上が含まれる。また、第1の空孔径ピークおよび第2の空孔径ピークは上記の空孔径範囲にある限り、複数存在してもよい。空孔径分布の測定方法は特に制限されないが、例えばハーフドライ法(ASTM:F316−86およびASTM:E1294−89)により測定することができる。
【0035】
次に、上述した多孔体焼結粗粒子の構成部材につき、カーボン粒子および撥水剤粒子を中心に説明する。
【0036】
カーボン粒子としては、導電性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましい。中でも、ケッチェンブラックなどのファーネスブラックまたはアセチレンブラックが好ましく、アセチレンブラックが特に好ましい。また、アセチレンブラックを用いたガス拡散層の比抵抗は0.2〜0.5Ωcmであるが多層カーボンナノチューブをカーボン粒子の全質量に対して15〜30質量%程度混入すると比抵抗は0.08Ωcm以下に改善されるため、カーボンナノチューブを適量混合してもよい。この場合、針状のカーボンナノチューブがイオン交換膜を突き抜ける場合があるため、イオン交換膜に接しない領域に配置されるようにすることが好ましい。なお、グラファイト粒子を添加すると、粒子のクリープ性が出て耐圧縮性が低下する場合がある。
【0037】
撥水剤粒子は、撥水性を有するものであれば特に限定されない。好ましくは、カーボン粒子を結着させることができる撥水性の高分子材料が用いられうる。本発明に用いられうる撥水剤粒子としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)粒子、ポリヘキサフルオロプロピレン粒子、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)粒子などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン粒子、ポリエチレン粒子などが挙げられる。中でも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられ、特に、粒子の圧縮性から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子が好ましい。ポリテトラフルオロエチレン粒子を用いると、より圧縮強度の高いガス拡散層が得られうる。前記撥水剤粒子は、好ましくは、ディスパージョンの形態で用いられうる。前記高分子材料の分子量は、特に制限されないが、例えば、3,000,000から15,000,000である。撥水剤粒子を用いることにより、ガス拡散層の小径の貫通孔に撥水性が付与され、小径の貫通孔の水浸入圧力がより大きくなるため、小径の貫通孔への水の浸入がより一層抑制されうる。なお、これらの撥水剤粒子は1種類単独で用いてもよいし、または2種類以上併用してもよい。また、これら以外の高分子材料が用いられてもよい。
【0038】
カーボン粒子の平均粒子径(2次粒子径)は、カーボン粒子および/または撥水剤粒子同士の隙間に生じる小径の貫通孔が所望の大きさとなるように、適宜決定すればよい。具体的には、好ましくは0.1〜3μm程度、より好ましくは0.2〜2μm、さらに好ましくは0.3〜1μmとするのがよい。これにより、所望の空孔径分布および毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0039】
撥水剤粒子の平均粒子径としては、上記の小径の貫通孔を有する多孔体焼結粗粒子を形成することができるものであればよく、好ましくは0.1〜0.5μm、より好ましくは0.2〜0.3μmの範囲である。
【0040】
カーボン粒子および/または撥水剤粒子から形成された多孔体焼結粗粒子の平均粒子径は、多孔体焼結粗粒子同士の隙間に生じる空孔(大径の貫通孔)が所望の大きさとなるように、適宜決定すればよい。具体的には、前記多孔体焼結粗粒子の平均粒子径が、好ましくは20〜250μm、より好ましくは30〜200μm、さらに好ましくは50〜150μmの範囲である。このように集合体の粒子サイズを調製することにより、大径の貫通孔の径および分布数を、本発明の作用効果を有効に奏するように制御することができる。多孔体焼結粗粒子の平均粒子径が20μm以上であれば、液水を容易に通過せしめる比較的大きな貫通孔を得ることができる。また、多孔体焼結粗粒子の平均粒子径が250μm以下であれば、成膜が容易となる。
【0041】
なお、カーボン粒子、撥水剤粒子、および多孔体焼結粗粒子の平均粒子径の値は、それぞれ、走査型電子顕微鏡(SEM)により調べられる各々の成分の粒子径の平均値として算出できる。
【0042】
本発明のガス拡散層におけるカーボン粒子と撥水剤粒子との含有量の比は、空孔構造、特に小径の貫通孔の強度、および小径の貫通孔の撥水性(接触角)が所望の特性となるように適宜調整すればよい。具体的には、撥水剤粒子の含有量は、カーボン粒子と撥水剤粒子との合計質量に対して好ましくは15〜70質量%、より好ましくは20〜60質量%、さらに好ましくは30〜50質量%の範囲であるのが好ましい。撥水剤粒子の配合比率が15質量%以上であればカーボン粒子同士を結合でき、70質量%以下であればガス拡散層の電気抵抗を低く保つため好ましい。
【0043】
また、本発明のガス拡散層において、大小2つの貫通孔の数は、機械的強度が確保される限り、多数(無数)であることが好ましい。具体的には、ガス拡散層内の小径の貫通孔および大径の貫通孔の領域が占める割合(空孔率)は、ガス拡散層の全体積を基準にして、好ましくは40〜80体積%であり、より好ましくは45〜70体積%であり、さらに好ましくは50〜60体積%である。かような構成を有するガス拡散層は、十分な機械的強度が確保されると共に、ガスの拡散性および水の排出性に優れる。
【0044】
空孔率の測定方法は特に制限されないが、例えば、水銀圧入法による空孔分布測定などによりガス拡散層内部に存在する空孔の体積を測定し、ガス拡散層の体積に対する割合として求めることができる。また、小径孔または大径孔それぞれの貫通孔の体積は、空孔分布における各空孔径ピークの面積(空孔径分布曲線の積分値)から、算出することができる。
【0045】
上記のようなガス拡散層は、さらに図5に示すように、平行溝の上部に直角方向に直径10〜20μmの貫通孔をさらに設けてもよい。上記のような貫通孔を設けることで、ガスおよび液水の移動をより容易にすることができる。ここで、図5左は、ガス拡散層の断面図であり、図5右は、前記ガス拡散層を溝の走る方向と直角方向の側面から見た図である。または、平行溝の斜め方向に直径10〜20μmの貫通孔を設けた構造(図示せず)にしてもよい。斜め方向に貫通孔を設けることで、液水の排出をより容易にすることができる。上記のような貫通孔は、例えば、前記多孔体焼結粗粒子を加熱加圧成形する際、型の中に貫通孔の形状に見合った線材を多数平行に張り渡しておき、成形後線材を引き抜くことで形成されうる。
【0046】
また、ガス拡散層の曲げ強度を改善するために、図6のように溝の側に、例えば20μm程度の厚さの、強度の高いガス拡散層を接合してもよい。強度の高いガス拡散層としては、例えば特開2007−56064号公報に記載のゴアテックスフィルムとアセチレンブラックから形成されるガス拡散層などが用いられうる。または、導電性のカーボン繊維を接合してもよい。前記強度の高いガス拡散層またはカーボン繊維は、例えば、ホットプレスなどの方法で接合されうる。
【0047】
さらに、図7のように、前記ガス拡散層の溝の表面を親水化処理してもよい。溝の表面の面積に占める親水化処理された表面の面積の割合は特に制限されないが、例えば、10〜60%である。バイポーラプレート側を親水化して水の移動を容易にすることで、加湿時の性能を向上させることができる。親水化処理としては、例えば、シリカ、チタニア、アルミナなどの微粒子を表面に付着させるか、またはAuなどの耐食性金属をコーティングする方法などが挙げられる。
【0048】
[ガス拡散層の製造方法]
本発明のガス拡散層の製造方法は特に制限されず、従来公知の知見を適宜参照することにより製造できる。以下、本発明の膜電極接合体の製造方法を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。
【0049】
以下、本発明のガス拡散層の製造方法につき、図面を用いて説明する。図8は、本発明のガス拡散層の製造方法の代表的な実施形態を示す工程概略図である。
【0050】
本発明のガス拡散層は、下記(1)〜(4)の工程を含む方法により得られうる:
(1)カーボン粒子と撥水剤粒子とを混合し、焼結して焼結体を得る工程(第一の工程);
(2)上記(1)で得られた焼結体を粉砕して多孔体焼結粗粒子を得る工程(第二の工程);
(3)上記(2)で得られた多孔体焼結粗粒子を、溝を形成するための構造体に充填して加熱加圧成形し、成形体を得る工程(第三の工程);
(4)上記(3)で得られた成形体から構造体を分離してガス拡散層を得る工程(第四の工程)。
【0051】
本発明の製造方法によれば、流体流路を有し、流体流路近傍に撥水剤層を有するガス拡散層が簡便に得られうる。以下、ガス拡散層の製造方法を工程ごとに説明する。
【0052】
(1)第一の工程(図8(A)〜(C)参照)
本工程では、カーボン粒子と撥水剤粒子とを混合し、焼結して、カーボン粒子および撥水剤粒子の焼結体を得る。カーボン粒子および撥水剤粒子の混合方法、およびこれらの混合体の焼結方法については、緻密で均一な焼結体が得られる方法であれば特に制限されないが、以下のような方法を用いることが好ましい。
【0053】
まず、(a)カーボン粒子と撥水剤粒子とを、必要に応じて添加される非イオン性界面活性剤を含む溶媒に分散させてカーボン粒子・撥水剤粒子分散液を調製する(分散液の調製段階)。次いで、(b)カーボン粒子・撥水剤粒子分散液を固形化させる(固形化段階)。そして、(c)得られた固形物を焼成して混合焼結体を形成させる(焼結段階)。以下、これらの各段階について説明する。なお、カーボン粒子および撥水剤粒子については、既に説明したとおりであるので、ここでの説明は省略する。
【0054】
(a)分散液の調製段階(図8(A)および(B)参照)
本段階では、カーボン粒子と撥水剤粒子とを、必要に応じて添加される非イオン性界面活性剤を含む純水に分散させてカーボン粒子・撥水剤粒子分散液を調製する。
【0055】
例えば、図8(A)に示すように、まず、非イオン性界面活性剤を含む水に、カーボン粒子を添加し、適当な分散装置、例えば、超音波分散機、ジェットミル、ビーズミル等で、平均粒子径0.1〜1μm程度まで分散して、カーボン粒子分散液81を調製する。カーボン粒子は、2次凝集して塊状化している。このため、分散装置を用いて、適当な大きさになるまで微粒化し、界面活性剤を表面に吸着させることにより、安定な分散液を得ることができる。
【0056】
次に、図8(B)に示すように、上記により得られたカーボン粒子分散液81に、撥水剤粒子分散液を必要量添加、混合し、適当な撹拌装置、例えば、超音波照射、攪拌機等で過度の応力がかからないように緩やかに均一分散する。これにより、カーボン粒子・撥水剤粒子分散液82を得る。最適な界面活性剤を用いた分散液は過度の剪断応力をかけない限り安定である。例えば、通常の攪拌、震とう、超音波照射等では撥水剤粒子が凝集繊維化することはない。
【0057】
ここで、撥水剤粒子分散液を用いたのは、撥水剤粒子の撥水作用により、固形化された撥水剤粒子を単独で添加したのでは、水中に分散させるのが不可能なためである。かかる撥水剤粒子分散液としては、ダイキン工業株式会社、旭硝子株式会社、三井フロロケミカル株式会社等で市販されているものを容易に入手できる。
【0058】
カーボン粒子の配合量としては、カーボン粒子・撥水剤粒子分散液に対して好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜25質量%の範囲である。上記撥水剤粒子の配合量としては、カーボン粒子・撥水剤粒子分散液に対して、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは6〜35質量%の範囲である。
【0059】
非イオン性界面活性剤としては、カーボン粒子および撥水剤粒子を凝集させることなく、微粒化した状態で、溶媒である水中に分散、好ましくは均一に高分散させることができることができるものであればよい。上記非イオン性界面活性剤としては、具体的には、Triton(登録商標、ダウケミカル社製) X−100等のポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであるN−100(三洋化成工業製)などを挙げることができるが、これらに何ら制限されるものではない。好ましくは相分離の観点から、適度な曇点を有するTriton(登録商標) X−100、N−100が好適である。また、これら非イオン性界面活性剤は、1種単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0060】
非イオン性界面活性剤の配合量としては、カーボンブラック等のカーボン粒子の比表面積に比例して界面活性剤の添加量は増減するが、ここではアセチレンブラック(電気化学工業製)を例に説明する。この場合、非イオン性界面活性剤の配合量としては、カーボン粒子・撥水剤粒子分散液に対して好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは0.5〜8質量%の範囲である。非イオン性界面活性剤の配合量が0.5質量%以上であれば、良好に分散される。一方、非イオン性界面活性剤の配合量が20質量%以下であれば、本発明の作用効果を損なうことなく良好に分散されるものである。
【0061】
(b)固形化段階(図8(C)および(D)参照)
本段階では、上記で調製したカーボン粒子・撥水剤粒子分散液を固形化させる。カーボン粒子・撥水剤粒子分散液を固形化して焼結する前に剪断応力をかけると撥水剤粒子が凝集繊維化してしまうおそれがある。この凝集繊維化を防止するため、液体状態から応力が加わらない固形化方法で固形化するのが望ましい。
【0062】
かような固形化方法としては、特に制限されないが、例えば、電着法によりカーボン粒子・撥水剤粒子分散液82を固形化する方法が用いられうる。具体的には、上記カーボン粒子・撥水剤粒子分散液82を適当な電着法、例えば、泳動電着により泳動電着用陽極84に固形物(電着固形物)85を電積させる方法が用いられる。電着法を用いると、撥水剤粒子が繊維化しないため、固形物を焼結した場合に均一で緻密な空孔構造を有する焼結体が得られる。
【0063】
泳動電着用陽極84には、電気化学的に溶解せずに安定なものが望ましく、例えば、白金板、白金被覆チタン板、カーボン電極、ボロンドープダイヤモンド電極などが用いられうる。一方、泳動電着用陰極83についても、特に制限されず、従来公知の各種電極材料を用いることができる。例えば、ニッケル鋼などを利用することできる。
【0064】
なお、電着工程の代わりに、カーボン粒子・撥水剤粒子分散液82を非イオン性界面活性剤の相分離現象を利用して相分離濃縮し、固形化する方法、スプレードライ法などを用いてもよい。ただし、比較的短時間に固形分を集めることができる点で電着法を用いて固形化するのが好ましい。これらの固形化物は乾燥機等で水分を完全に除く。
【0065】
(c)焼結段階(図8(E)参照)
続いて、上記で得られた固形物85を焼結して焼結体を形成させる。図8(E)に示すように、上記で得た固形物85を、必要に応じて乾燥し、泳動電着用陽極84から剥離後乾燥、焼成して、焼結体86を得る。
【0066】
乾燥を行う場合には、剪断応力を加えずに、撥水剤粒子の繊維化を起こさない乾燥条件とするのが望ましい。かかる観点から、乾燥条件としては、70〜150℃で3〜15時間程度であればよい。乾燥温度までの昇温速度は、好ましくは10〜100℃/分、より好ましくは20〜50℃/分の範囲である。
【0067】
焼結に先立ち、固形物に含まれる界面活性剤を除くことが好ましい。アセトンで抽出、二酸化炭素の超臨界抽出を用いることができる。
【0068】
次に、焼結の条件としては、例えば、撥水剤粒子の融点以上、好ましくは撥水剤粒子の融点より5〜50℃高い温度域で0.5〜30時間程度焼成することで、焼結体が得られる。なお、焼結温度までの昇温速度は、好ましくは10〜200℃/分、より好ましくは50〜150℃/分の範囲である。焼結温度を調整することにより、カーボン粒子および撥水剤粒子からなる焼結体の密度、細孔分布、導電性等の物性を変化させることができる。
【0069】
また、焼結体の厚さは、生産性の観点から好ましくは0.2〜5mm、より好ましくは0.5〜3mm程度である。
【0070】
(2)第二の工程(図8(F)参照)
本工程では、上記で得た焼結体を粉砕して、カーボン粒子および/または撥水剤粒子の多孔体焼結粗粒子からなる粉体を得る。図8(F)に示すように、上記工程で得た混合焼結体86を、適当な粉砕装置、例えば、液体窒素冷却して高速粉砕機などを用いて微粉砕した後、適当な分級装置、例えば、ふるい、分級機などを用いて分級し、所望の粒子径を有する多孔体焼結粗粒子の粉体87を得る。
【0071】
(3)第三の工程(図8(G)参照)
本工程では、分級された多孔体焼結粗粒子の粉体87を、溝を付与するために凹凸をつけた構造体(治具)89に充填して加熱加圧成形し、成形体90を得る。上記手法によれば、多孔体焼結粗粒子の構造を破壊することなく、溝構造を形成することができ、また、撥水剤粒子が溝構造の最表面の部分にも残ることで、より強固なガス拡散層が得られうる。
【0072】
前記構造体としては、所望の形状の溝を形成しうるものであれば特に制限されず、例えば、通常のホットプレス用金型の底部に網または線材を配置したものでもよく、所望の溝形状を形成するように加工した金型であってもよい。前記網または前記線材の材質も特に制限されず、例えば、銅、真鍮、アルミニウム、SUS、などが用いられうる。
【0073】
ホットプレス条件としては、撥水剤粒子の融点以上、好ましくは撥水剤粒子の融点より5〜30℃高い加熱温度で、圧力10kg/cm2以上、好ましくは20〜150kg/cm2で、0.5〜3分間、好ましくは1〜2分間ホットプレスする。
【0074】
適当な治具としては、得られるガス拡散層の一方の表面に凹凸の溝構造を形成できる形状であれば特に制限されるものではなく、従来公知のホットプレス用金型を利用することができる。治具の材質も特に制限されず、例えば、インコネル、SUS、炭素鋼が用いられうる。
【0075】
なお、本発明のガス拡散層の上記製法においては、ホットプレスにおいて、インプリント技術、特に、本発明に適したナノインプリント技術を用いて、多孔体焼結粗粒子間に形成される空孔の径と数を制御するようにしてもよい。すなわち、所望の大径孔(大径孔の空孔径、数および配列など)に対応する凹凸パターンをインプリント技術によりホットメルトに用いる金型やモールドに形成させ、ホットメルトにより所望のパターンをガス拡散層に転写させてもよい。これにより、集合体同士間に形成される空孔、すなわち大径孔の径および数を制御することができる。
【0076】
(4)第四の工程(図8(H)参照)
本工程では、上記で得られた成形体90から前記構造体89を分離してガス拡散層を得る。具体的には、ホットプレス後の、溝形成のための構造体が接合した成形体を、例えば10%過硫酸アンモニウム水溶液などに浸漬して銅、真鍮を除去し、アルカリ水溶液でアルミニウムを、硝酸、塩酸でSUSなどの材質の構造体を溶解させて除去する。または、あらかじめ離型剤を塗布した治具から構造体を取り外して除去してもよい。
【0077】
[膜電極接合体]
上記のガス拡散層を、固体高分子電解質層の両面に配置された触媒層の外側に、溝が外側になるように配置して、膜電極接合体を形成することができる。すなわち、本発明の第2実施形態は上記ガス拡散層によって構成される、膜電極接合体である。上記膜電極接合体を用いると、低コストで出力密度の高い電池が作製されうる。
【0078】
以下、膜電極接合体を構成する部材について簡単に説明する。ただし、ガス拡散層を構成する成分については上記で説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。また、本発明の技術的範囲が下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態が同様に採用されうる。
【0079】
(固体高分子電解質膜)
固体高分子電解質膜は、プロトン伝導性を有する高分子電解質から構成され、固体高分子型燃料電池の運転時にアノード触媒層で生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層へと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
【0080】
固体高分子電解質膜の具体的な構成は特に制限されず、燃料電池の技術分野において従来公知の高分子電解質からなる膜が適宜採用できる。固体高分子電解質膜は、構成材料である高分子電解質の種類に応じて、フッ素系固体高分子電解質膜と炭化水素系固体高分子電解質膜とに大別される。
【0081】
フッ素系固体高分子電解質膜を構成する高分子電解質としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能上の観点からはこれらのフッ素系固体高分子電解質膜が好ましく用いられ、より好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系固体高分子電解質膜が用いられる。
【0082】
炭化水素系固体高分子電解質膜を構成する高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系固体高分子電解質膜が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0083】
上述した固体高分子電解質膜を構成する高分子電解質以外の材料が高分子電解質として用いられてもよい。このような材料としては、例えば、高いプロトン伝導性を有する液体、固体、ゲル状材料などが利用可能であり、リン酸、硫酸、アンチモン酸、スズ酸、ヘテロポリ酸などの固体酸、リン酸などの無機酸を炭化水素系高分子化合物にドープさせたもの、一部がプロトン伝導性の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたゲル状プロトン導電性材料などが挙げられる。プロトン伝導性と電子伝導性とを併有する混合導電体もまた、高分子電解質として利用できる。
【0084】
固体高分子電解質膜の厚さは、膜電極接合体や高分子電解質の特性を考慮して適宜決定され、特に限定はされない。ただし、固体高分子電解質膜の厚さは、好ましくは5〜300μmであり、より好ましくは5〜200μmであり、さらに好ましくは10〜150μmであり、特に好ましくは15〜50μmである。厚さがこのような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性、および使用時の出力特性のバランスが適切に制御できる。
【0085】
(電極触媒層)
電極触媒層には、アノード触媒層およびカソード触媒層の2つがある。以下、アノード触媒層とカソード触媒層との区別をしないときは、単に「電極触媒層」とも称する。電極触媒層は、電気化学反応により、電気エネルギーを生み出す機能を有する。アノード触媒層では水素の酸化反応により、プロトンおよび電子が生成する。ここで生じたプロトンおよび電子は、カソード触媒層での酸素の還元反応に用いられる。
【0086】
電極触媒層は、導電性担体に触媒成分が担持されてなる電極触媒および高分子電解質を含む。電極触媒層の具体的な構成は特に制限されず、燃料電池の技術分野において従来公知の電極触媒層の構成を適宜採用できる。
【0087】
(導電性担体)
導電性担体は、触媒成分を担持する担体であって、導電性を有する。導電性担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるのに充分な比表面積を有し、かつ、充分な電子伝導性を有するものであればよい。導電性担体の組成は、主成分がカーボンであることが好ましい。導電性担体の材質として、具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容できることを意味する。
【0088】
導電性担体のBET(Brunauer−Emmet−Teller)比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であれば特に制限はないが、好ましくは100〜1500m2/gであり、より好ましくは600〜1000m2/gである。導電性担体の比表面積がこのような範囲内の値であると、導電性担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御できる。
【0089】
導電性担体の平均粒子径についても特に制限はないが、通常は5〜200nmであり、好ましくは10〜100nm程度である。なお、「導電性担体の平均粒子径」の値としては、透過型電子顕微鏡(TEM)による一次粒子径測定法によって算出される値を採用する。
【0090】
(触媒成分)
触媒成分は、上記電気的化学反応の触媒作用をする機能を有する。導電性担体に担持される触媒成分は、上述した電気的化学反応を促進する触媒作用を有するものであれば特に制限はなく、従来公知の触媒成分を適宜採用できる。触媒成分として、具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属、およびこれらの合金などが挙げられる。これらのうち、触媒活性、耐溶出性などに優れるという観点からは、触媒成分は少なくとも白金を含むことが好ましい。電極触媒層の触媒成分として合金を使用する場合の合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり、当業者によって適宜選択できるが、好ましくは白金が30〜90原子%程度、合金化する他の金属が10〜70原子%程度である。なお、「合金」とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質を有しているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。ここで、合金組成の特定は、ICP発光分析法を用いることで可能である。
【0091】
触媒成分の形状や大きさは特に制限されず、従来公知の触媒成分と同様の形状および大きさが適宜採用できるが、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましい。そして、触媒成分粒子の平均粒子径は、好ましくは0.5〜30nmであり、より好ましくは1〜20nmである。触媒成分粒子の平均粒子径がこのような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御できる。なお、本発明において、「触媒成分粒子の平均粒子径」の値は、X線回折における触媒成分粒子の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として算出できる。
【0092】
電極触媒における導電性担体と触媒成分との含有量の比は、特に制限されない。ただし、触媒成分の含有率(担持量)は、電極触媒の全質量に対して、好ましくは5〜70質量%であり、より好ましくは10〜60質量%であり、さらに好ましくは30〜55質量%である。触媒成分の含有率が5質量%以上であると、電極触媒の触媒性能が充分に発揮され、ひいては固体高分子型燃料電池の発電性能の向上に寄与する。一方、触媒成分の含有率が70質量%以下であると、導電性担体の表面における触媒成分どうしの凝集が抑制され、触媒成分が高分散状態で担持されるため、好ましい。なお、上述した含有量の比の値としては、ICP発光分析法により測定される値を採用するものとする。
【0093】
(高分子電解質)
高分子電解質は、電極触媒層のプロトン伝導性を向上させる機能を有する。電極触媒層に含まれる高分子電解質の具体的な形態に特に制限はなく、燃料電池の技術分野において従来公知の知見が適宜参照できる。例えば、電極触媒層に含まれる高分子電解質としては、上述した固体高分子電解質膜を構成する高分子電解質を同様に用いることができる。そのため、高分子電解質の具体的な形態の詳細はここでは省略する。なお、電極触媒層に含まれる高分子電解質は、1種単独であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0094】
電極触媒層に含まれる高分子電解質のイオン交換容量は、イオン伝導性に優れるという観点から、0.8〜1.5mmol/gであることが好ましく、1.0〜1.5mmol/gであることがより好ましい。なお、高分子電解質の「イオン交換容量」とは、高分子電解質の単位乾燥質量当りのスルホン酸基のmol数を意味する。「イオン交換容量」の値は、高分子電解質分散液の分散媒を加熱乾燥などにより除去して固形の高分子電解質とし、これを中和滴定することにより、算出できる。
【0095】
電極触媒層における高分子電解質の含有量についても特に制限はない。ただし、電極触媒層における導電性担体の含有量に対する高分子電解質の含有量の質量比(高分子電解質/導電性担体の質量比)は、好ましくは0.5〜2.0であり、より好ましくは0.6〜1.5であり、さらに好ましくは0.8〜1.3である。高分子電解質/導電性担体の質量比が0.8以上であると、膜電極接合体の内部抵抗値の抑制という観点から好ましい。一方、高分子電解質/導電性担体の質量比が1.3以下であると、フラッディングの抑制という観点から好ましい。
【0096】
各触媒層、特に導電性担体表面や高分子電解質には、さらに、撥水剤や、その他各種添加剤が被覆ないし含まれていてもよい。撥水剤が含まれていることにより、得られる触媒層の撥水性を高めることができ、発電時に生成した水などを速やかに排出することができる。撥水剤の混合量は、本発明の作用効果に影響を与えない範囲で適宜決定することができる。撥水剤としては、上記で例示したものを同様に好ましく用いることができる。
【0097】
本発明における触媒層の厚さは、特に限定されないが、0.1〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜20μmである。触媒層の厚さが0.1μm以上であると所望する発電量が得られる点で好ましく、100μm以下であると高出力を維持できる点で好ましい。
【0098】
前記膜電極接合体は、従来公知の方法を用いて、固体高分子電解質膜の両面にアノード側およびカソード側の電極触媒層を形成し、これを上記の方法により得られるガス拡散層で挟持することにより製造できる。
【0099】
電極触媒層は、上記のような電極触媒、高分子電解質および溶媒などからなる触媒インクを、固体高分子電解質膜にスプレー法、転写法、ドクターブレード法、ダイコーター法などの従来公知の方法を用いて塗布することにより製造できる。
【0100】
固体高分子電解質膜および触媒インクの塗布量は、電極触媒が電気化学反応を触媒する作用を十分発揮できる量であれば特に制限されないが、単位面積あたりの触媒成分の質量が0.05〜1mg/cm2となるように塗布することが好ましい。また、塗布する触媒インクの厚さは、乾燥後に5〜30μmとなるように塗布することが好ましい。なお、上記の触媒インクの塗布量および厚さは、アノード側およびカソード側で同じである必要はなく、適宜調整することができる。
【0101】
[燃料電池]
上記実施形態の膜電極接合体は、燃料電池に適用することができる。すなわち本発明の第3実施形態は、上記膜電極接合体を用いた燃料電池である。本実施形態の燃料電池は、低コストであり、信頼性が高く、出力密度が向上しうる。
【0102】
本実施形態の燃料電池は、上記膜電極接合体と、これを挟持する一対のバイポーラプレートから構成される。そして、アノード側ガス拡散層の表面に設けられた溝とバイポーラプレートによって形成される流体流路には、運転時に燃料ガスが流通し、カソード側ガス拡散層の表面に設けられた溝とバイポーラプレートによって形成された流体流路には、運転時に酸化剤ガスが流通しうる。固体高分子型燃料電池の周囲には、一対のガス拡散層を包囲するように、ガスケットが配置されうる。
【0103】
以下、本発明の燃料電池を構成する部材について簡単に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
【0104】
(バイポーラプレート)
バイポーラプレートは、固体高分子型燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、バイポーラプレートは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。バイポーラプレートを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。バイポーラプレートの形状としては、平板状であることが好ましいが、特に制限されず、流体流路を表面に有する形状であってもよい。バイポーラプレートの厚さやサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
【0105】
(ガスケット)
ガスケットは、一対の電極触媒層およびガス拡散層を包囲するように燃料電池の周囲に配置され、触媒層に供給されたガスが外部にリークするのを防止する機能を有する。ガス拡散電極とは、ガス拡散層および電極触媒層の接合体をいう。ガスケットを構成する材料としては、特に制限はないが、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴムなどのゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリオレフィンやポリエステルなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。また、ガスケットの厚さにも特に制限はなく、好ましくは50μm〜2mmであり、より好ましくは100μm〜1mm程度とすればよい。
【0106】
前記燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質型燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質型燃料電池が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
【0107】
[車両]
上述した本発明の燃料電池や燃料電池スタックを搭載した車両もまた、本発明の技術的範囲に包含される。本発明の燃料電池や燃料電池スタックは、発電性能および耐久性に優れるため、高出力を要求される車両用途に適している。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0109】
[実施例1]
(ガス拡散層の作製)
カーボン粒子としてカーボンブラック、撥水剤粒子としてPTFEを準備した。
【0110】
(1)カーボンブラックおよびPTFEの焼結体の調製
(a)カーボンブラックPTFE分散液の調製
100gのカーボンブラック(アセチレンブラック、1次粒子の平均粒子径46nm、電気化学工業製)、960gの純水および40gの非イオン性界面活性剤(Triton(登録商標) X−100、ダウケミカル社製)を混合した。この混合液を、ジェットミルでカーボンブラック粒子の2次粒子(1次粒子が凝集した粒状物)の平均粒径が0.5μmとなるまで分散させ、カーボンブラック分散液を得た。このカーボンブラック分散液に40質量%相当のPTFE分散液(PTFE粒子の平均粒子径250nm、AD−911、旭硝子株式会社製)を添加混合し、13質量%固形分のカーボンブラックPTFE分散液を得た。この際、カーボンブラックとPTFEとの仕込み比(質量比)は、カーボンブラック:PTFE=60:40であった。
【0111】
(b)固形化(電着)
上記で得たカーボンブラックPTFE分散液を泳動電着槽に入れ、槽電圧60Vで3分間電気泳動電着を行うことにより、厚さ3mmの電着物(電着固形分)を得た。なお、泳動電着用陽極としては白金被覆チタン電極、泳動電着用陰極としてはニッケル鋼を用いた。
【0112】
(c)混合焼結体の作製
得られた電着物(電着固形分)を熱風乾燥機により80℃で8時間乾燥した。その後、乾燥物を電熱焼結炉により360℃(なお、PTFEの融点は327℃である)で3時間焼成焼結させて混合焼結体を得た。
【0113】
(2)混合焼結体の粉砕
この混合焼結体を5mm角以下に切断し、液体窒素で冷却しつつ、ロータースピードミルP−14(ドイツ フリッチュ社製)で粉砕し、振動ふるいで分級して、粒子径53μm〜106μmの粉体を得た。
【0114】
(3)ガス拡散層の作製
上記で得た粉体を、線径100μm、100メッシュの銅網上に500μm厚さに均一に配置し、これを治具に充填し、350℃、50kg/cm2で60秒間ホットプレスして、片面に銅網が接合されたシート状の焼結体を得た。この片面に銅網が接合されたシート状の焼結体を加温した10%過硫酸アンモニウム水溶液に浸漬し、銅網を完全に除去した。純水で十分に洗浄した後、乾燥し、60℃に加温したアセトンで5回洗浄して、ガス拡散層を得た。得られたガス拡散層は、厚みが300μmであった。得られた溝は、幅が100μmであり、深さが100μmであり、ピッチは250μmの格子状であった。
【0115】
(SEM観察)
図9(a)は、得られたガス拡散層の、銅網が接合されなかった側の表面のSEM写真であり、(b)は銅網が接合された側の表面のSEM写真である。図9(a)、(b)のいずれの表面にも、カーボンブラックおよび/またはPTFEの多孔体焼結粗粒子が連なって形成された構造が観察され、多孔体焼結粗粒子同士の隙間に大径の貫通孔が無数に形成されていることが確認された。さらに、多孔体焼結粗粒子の充填物をホットプレスしても、多孔体焼結粗粒子の形状が変形せず、多孔体焼結粗粒子が小さな粒子サイズに細粒化されてしまうこともなく、大径の貫通孔および小径の貫通孔が残存することが確認された。さらに、PTFEの繊維化がほとんど見られないことが確認された。
【0116】
加えて、(a)の表面はほぼ平坦であるのに対して、(b)の表面には幅100μmの網目状の溝が形成されていることがわかる。さらに溝の周辺であっても多孔体焼結粗粒子の形状が変形せず、多孔体焼結粗粒子の脱落や小さな粒子サイズへの細粒化もみられないことから、溝構造の表面近傍に撥水剤粒子が分布し、溝構造の表面近傍での多孔体焼結粗粒子どうしの結着をより強固にしているものと考えられる。
【0117】
[比較例1]
実施例1と同様にして、カーボンブラックPTFE分散液を調製した。この分散液を、簡易コーターを用いてアルミ箔上に塗布し、360℃で2時間焼成し、混合焼結体を得た。
【0118】
上記の混合焼結体をカーボンペーパー(東レ製、TGP−H−060、厚さ200μm)上に載せて、ホットプレスで接合した。接合条件は340℃、20kg/cm2、60秒であった。その後、アルミ箔を取り除いて、ガス拡散層を得た。
【0119】
[比較例2]
実施例1(1)〜(2)と同様にして、カーボンブラックPTFE分散液を調製し、固形化、焼結して混合焼結体を得て、これを粉砕し、分級して同様の粉体を得た。この粉体を、治具に充填し、360℃、50kg/cm2で60秒間ホットプレスしてシート状の焼結体を得た。このシート状の焼結体を大型ミクロトームにセットし、タングステンカーバイドの刃で厚さ50μmにスライスした。
【0120】
スライスした焼結体を、カーボンペーパー(東レ製、TGP−H−060、厚さ200μm)上に載せて、ホットプレスで接合して、ガス拡散層を得た。接合条件は340℃、20kg/cm2、60秒であった。同様に接合圧力のみを40kg/cm2にするとカーボンペーパーが崩れて一部粉末化したため使用できなかった。
【0121】
(評価)
(空孔分布測定)
実施例1ならびに比較例1および比較例2で得たガス拡散層を用いて、ハーフドライ法(PMI社製、パームポロメータ)により、空孔分布の測定を行なった。
【0122】
測定結果を図10に示す。図10中、横軸は空孔径[μm]を示し、縦軸はガス拡散層内の空孔全体に対してその空孔径を有する空孔が占める割合[体積%]を示す。図10より、実施例1および比較例2においては大径の貫通孔に由来する空孔径ピークおよび小径の貫通孔に由来する空孔径ピークが確認され、ガス拡散層に2〜20μmの大径の貫通孔、0.07〜0.1μmの小径の貫通孔が多数形成されていることが確認できた。このように、本発明のガス拡散層の製造方法を用いると、所望のサイズの大径の貫通孔および小径の貫通孔がガス拡散層に付与されることがわかった。これに対して、比較例1においては、大径の貫通孔に由来する空孔径ピークが存在せず、ガス拡散層に0.07〜0.5μmの小径の貫通孔のみが多数形成されていることがわかった。なお、実施例1で得られたガス拡散層の空孔率は70体積%であった。
【0123】
(圧縮特性)
実施例1ならびに比較例1および比較例2で得たガス拡散層を用いて、INSTRON社製材料試験機5867型により圧縮特性の測定を行った。
【0124】
測定結果を図11に示す。実施例1で得られたガス拡散層は、4Mpa以上の面圧を加えても破壊されることなく、除圧すると元の厚みに戻る。一方、比較例1または2で得られたガス拡散層では、3MPaまで加圧すると、除圧後元の厚みにもどらない。これは、加圧によってカーボンペーパーが破断されたためであると考えられる。
【0125】
図12に、カーボンペーパー(東レ製TGP−H−060、厚み200μm)と、実施例1のガス拡散層に、それぞれ4MPaまで面圧を加え、初期厚みに対する加圧後の厚みの比を、カーボンペーパー4サンプル、実施例1のガス拡散層6サンプルの計10サンプルについて測定した結果を示す。図12より、カーボンペーパーは、4MPaでの圧縮後、初期厚みの平均88%の厚みになるのに対し、実施例1のガス拡散層は、平均99%の厚みに維持されることがわかった。
【0126】
(発電評価)
実施例1ならびに比較例1および2において作製した各ガス拡散層を用いて、下記の手順に従って膜電極接合体を作製し、膜電極接合体の発電性能を測定することにより、各ガス拡散層の評価を行った。
【0127】
(1)電極触媒層の作製
白金担持カーボン(田中貴金属工業株式会社製 TEC10E50E、白金含量50質量%)と、固体高分子電解質溶液(デュポン社製 NAFION溶液DE520、電解質含量5質量%)と、純水と、イソプロピルアルコールと、を質量比で1:1:5:5として、を25℃で保持するよう設定したウォーターバス中のガラス容器にてホモジナイザーを用いて1時間混合分散することで、触媒インクを調製した。
【0128】
次に、上記触媒インクを、テフロンシートの片面上にスクリーンプリンターを用いて塗布し、大気中、25℃で6時間乾燥させることにより、テフロンシート上に触媒層(面積1cm2あたりの白金質量0.4mg)を作製した。
【0129】
(2)膜電極接合体および単セルの組立て
上記で作製した触媒層2枚を、固体高分子電解質膜(ナフィオン(登録商標)211)の両側に配置した後、ホットプレス法により130℃、2MPaで10分間ホットプレスした後にテフロンシートを剥がして接合体とした。
【0130】
得られた接合体を、先に作製したガス拡散層を2枚用いて、実施例1に関しては溝を有する側が外側となるように、比較例1、2に関してはカーボンペーパーが外側になるようにして挟んで重ねた状態とし、これをグラファイト製バイポーラプレート(溝の幅1000μm、深さ1000μm、間隔1000μm)で挟持し、さらに金メッキしたステンレス製集電板で挟持して、評価用単セルとした。
【0131】
(3)単セル評価
実施例1ならびに比較例1および2の各評価用単セルの発電試験を行った。アノードに水素、カソードに空気を供給し、ガス流量はアノード/カソードS.R.=1.25/1.43、相対湿度アノード100%R.H./カソード100%R.H.、セル温度50℃の条件で発電試験を行った。なお、「S.R.」(Stoichiometric Ratio)とは、所定量の電流を流すために必要な水素または酸素の量の比率を意味し、「アノードS.R.=1.25」とは、所定量の電流を流すために必要な水素量の1.25倍の流量で水素を流すことを意味する。
【0132】
発電評価結果を図13に示す。図13より、フラッディングが生じやすい高加湿条件において、大径の貫通孔と小径の貫通孔とが付与されている実施例1および比較例2のガス拡散層を用いたセルは、高電流密度においても電圧が高く、ほぼ同等の良好な性能を示した。
【0133】
一方、大径の貫通孔が存在しない比較例1のガス拡散層を用いたセルは、高電流密度で電圧が低下し、フラッディングが生じている。比較例1のガス拡散層を用いたセルはガス拡散層内に大径の貫通孔が存在しないため、水通路とガス通路との分離ができず、また耐水圧が大きいため、生成した水を迅速に排出させることができないと考えられる。
【0134】
以上から、空孔径分布が制御された本発明のガス拡散層を用いた燃料電池セルは、従来のガス拡散層を用いたセルに比べて、高電流密度においても、フラッディングを生じることなく、高い電圧を維持でき、良好な性能を示すことがわかった。また、同等の空孔分布を有する、カーボンペーパーを基材として用いたガス拡散層と同等の性能が得られ、カーボンペーパーを用いずとも、性能向上が可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0135】
10、20 燃料電池、
11 固体高分子電解質膜、
12 触媒層、
13、23 ガス拡散層、
14 マイクロポーラスレイヤー、
15 基材、
16、26 バイポーラプレート、
18、28 膜電極接合体、
31 多孔体焼結粗粒子、
32 大径の貫通孔、
34 撥水剤層、
311 カーボン粒子、
312 撥水剤粒子、
313 小径の貫通孔、
81 カーボン粒子分散液、
82 カーボン粒子・撥水剤粒子分散液、
83 泳動電着用陰極、
84 泳動電着用陽極、
85 固形物(電着固形物)、
86 焼結体、
87 粉体、
89 構造体、
90 成形体。
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用のガス拡散層ならびにこれを用いた燃料電池用の膜電極接合体および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の少ない電源として、燃料電池が注目されている。燃料電池は、酸素などの酸化剤および水素などの燃料剤の供給を受けて電力を生成するものである。燃料電池には、固体高分子電解質型燃料電池(PEFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、アルカリ型燃料電池(AFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)などがある。中でも、固体高分子型燃料電池は、比較的低温で作動して高出力密度が得られることから、電気自動車用電源、分散電源、携帯用電源として期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池の構成は、一般的に、膜電極接合体(以下、「MEA」とも称する)をバイポーラプレートで挟持した構造となっている。MEAは、固体高分子電解質膜の両側に二つの電極が配設され、さらにこれをガス拡散層で挟持した構造となっている。電極は、カーボンブラックに担持された電極触媒と固体高分子電解質との混合物により形成された多孔性の構造を有し、電極触媒層とも呼ばれる。
【0004】
上記のようなMEAを有する固体高分子型燃料電池では、以下のような電気化学的反応などを通して、電気を外部に取り出すことが可能となる。まず、アノード(燃料極)側に供給された燃料ガスに含まれる水素が、触媒粒子により酸化され、プロトンおよび電子となる(2H2→4H++4e−:反応1)。次に、生成したプロトンは、アノード側電極触媒層に含まれる固体高分子電解質、さらにアノード側電極触媒層と接触している固体高分子電解質膜を通り、カソード(酸素極)側電極触媒層に達する。また、アノード側電極触媒層で生成した電子は、アノード側電極触媒層を構成している導電性担体、さらにアノード側電極触媒層の固体高分子電解質膜と異なる側に接触しているガス拡散層、バイポーラプレートおよび外部回路を通してカソード側電極触媒層に達する。そして、カソード側電極触媒層に達したプロトンおよび電子はカソード側に供給されている酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し水を生成する(O2+4H++4e−→2H2O:反応2)。
【0005】
かような電気化学的反応は、主に、触媒粒子と、固体高分子電解質と、燃料ガスまたは酸化剤ガスなどの反応ガスとが接触する三相界面において進行する。したがって、ガス拡散層は、供給された反応ガスを電極触媒層へと均一に供給することが必要とされる。
【0006】
また、燃料電池における固体高分子電解質膜は、湿潤していないと高いプロトン伝導性を示さない。そのため、固体高分子型燃料電池に供給する反応ガスは、ガス加湿装置などを用いて加湿される。これにより、固体高分子電解質膜の湿度分布が均一にされる。
【0007】
しかしながら、高加湿、高電流密度などの運転条件下では、アノードからカソードに向けて固体高分子電解質膜を移動するプロトンに伴って移動する水の量と、カソード側電極触媒層内に生成して凝集する生成水の量とが増加する。このため、カソードの生成水が電極触媒層内に滞留し、反応ガス供給路となっていた細孔を閉塞するフラッディング現象を招く。これにより、反応ガスの拡散などが阻害されるため、電気化学的反応が妨げられ、結果として電池出力が低下する。したがって、燃料電池の高出力化のためには、電極触媒層からの水の排出が必要である。
【0008】
電極触媒層の排水性を向上させる方法として、例えば、特許文献1には、カーボンペーパーなどの基材の上に、カーボンブラックなどの炭素粉末を用いて形成される多孔構造を有するカーボン層(マイクロポーラスレイヤー)を設けたガス拡散層が開示されている。特許文献1に記載のガス拡散層では、基材に撥水処理を施し、さらに必要に応じて炭素粉末にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンのような撥水剤を混合して撥水性を高め、電極触媒層内の水分を効率的に除去できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−56851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載のガス拡散層においては、炭素材料の分散液に撥水剤を混合して、これを基材にスプレーして吹きつけることによってカーボン層を作製するため、均一なカーボン層を形成するのが困難であった。また、カーボン層の強度が不十分であるため、カーボンペーパーなどの基材に塗布する必要があるが、カーボンペーパーは高価である上に、2MPa以上の圧力でプレスすると繊維が崩れて粉末化しやすいという問題点があった。
【0011】
一方で、固体高分子型燃料電池において用いられるバイポーラプレートは、通常、溝加工された形状を有し、溝加工された面がガス拡散層と接して流体流路を形成する。しかしながら、一般に緻密カーボングラファイトや炭素板などの炭素材料から形成されるバイポーラプレートに流路を形成するための溝加工は、フライス加工、サンドブラスト等の機械加工で行われるため、加工が容易ではなく、非常に高価である。そのため、従来より、ガス拡散層に流路を形成することで燃料電池の製造工程を簡略化し、電池を薄型化して高出力密度化する試みが行われているが、上記のようなガス拡散層に流路を形成することは強度の観点から困難である。
【0012】
そこで本発明の目的は、安価で電池の出力密度の向上に寄与しうる、燃料電池用ガス拡散層を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、カーボンブラック粒子とフッ素樹脂粒子を均一分散させ、その均一分散状態を保ったままフッ素樹脂粒子の融点以上で熱処理すると圧縮特性の優れた多孔体が得られることを明らかにした。この多孔体粒子を用い、ガス拡散層における空隙の空孔径分布を制御し、ガス拡散層のバイポーラプレートと接する側の面に流路を形成することによって、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、カーボン粒子および撥水剤粒子からなる小径の貫通孔を無数に持つ多孔体焼結粗粒子が、ガスと液水の通路となる隙間を持ちつつ前記多孔体焼結粗粒子同士が連なって大径の貫通孔を無数に形成してなる燃料電池用ガス拡散層である。本発明のガス拡散層は片面に溝を有する平板状の形状を有し、前記溝の表面の少なくとも一部に撥水剤層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガス拡散層は、多孔体焼結粗粒子が連結されて構成されるために高い圧縮強度が得られ、そのため高価なカーボンペーパーを用いる必要がなく、低コストである。さらに、本発明のガス拡散層を用いると、平板状のバイポーラプレートが使用可能であるため、燃料電池の高出力密度化、および燃料電池を作製する工程の簡略化、低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】基材の上にマイクロポーラスレイヤーを設けたガス拡散層を含む燃料電池の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明のガス拡散層を含む燃料電池の構造を模式的に示す断面図である。
【図3(a)】本発明のガス拡散層の断面模式図である。
【図3(b)】本発明のガス拡散層の上面模式図である。
【図3(c)】本発明のガス拡散層を構成する粒子の模式図である。
【図3(d)】本発明のガス拡散層の撥水剤層を表す模式図である。
【図4】ガス拡散層の溝部の構造を模式的に示す図である。
【図5】ガス拡散層の溝部の上部に貫通孔を設けた構造を示す模式図である。
【図6】ガス拡散層の溝部に強度補強材を接合した構造を示す模式図である。
【図7】ガス拡散層の溝部の側壁に親水処理した構造を示す模式図である。
【図8】本発明のガス拡散層の製造方法の代表的な実施形態を示す工程概略図である。
【図9】実施例1で得られたガス拡散層の表面のSEM写真である。
【図10】実施例1および比較例1、2で得られたガス拡散層の空孔分布を表す図である。
【図11】実施例1および比較例1、2で得られたガス拡散層の圧縮特性を示す図である。
【図12】実施例1で得られたガス拡散層およびカーボンペーパーの圧縮特性を示す図である。
【図13】実施例1および比較例1、2で得られたガス拡散層を用いた燃料電池の単セルの発電評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい形態を説明する。
【0018】
本発明の一実施形態は、カーボン粒子および撥水剤粒子からなる小径の貫通孔を無数に持つ多孔体焼結粗粒子が、ガスと液水の通路となる隙間を持ちつつ前記多孔体焼結粗粒子同士が連なって大径の貫通孔を無数に形成してなる燃料電池用ガス拡散層であって、前記ガス拡散層は片面に溝を有する平板状の形状を有し、前記溝の表面の少なくとも一部に撥水剤層を有することを特徴とする、燃料電池用ガス拡散層である。
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0020】
図1に、カーボンペーパーなどの基材の上にマイクロポーラスレイヤーを設けたガス拡散層を含む、通常の燃料電池10の構造を模式的に示す。燃料電池10において、膜電極接合体18は、一対の触媒層12(アノード触媒層及びカソード触媒層)が、固体高分子電解質膜11の両面に対向して配置され、これを一対のガス拡散層13(アノード側ガス拡散層およびカソード側ガス拡散層)が挟持してなる。ガス拡散層13は、それぞれ基材15とマイクロポーラスレイヤー14とにより構成され、マイクロポーラスレイヤー14の側の面で触媒層12と接する。基材15の外側に、流路17を形成するための溝構造を有する一対のバイポーラプレート16(アノード側バイポーラプレートおよびカソード側バイポーラプレート)が配置され、燃料電池が構成される。
【0021】
図2に、本発明のガス拡散層を含む燃料電池20の構造を模式的に示す。一対の触媒層12が、固体高分子電解質膜11の両面に対向して配置され、この両側に本発明のガス拡散層23が配置され、膜電極接合体28が形成される。本発明のガス拡散層23は、基材を含まず、マイクロポーラスレイヤーが自立層として機能する。そして、バイポーラプレート26と接する側に、流路27を有する。したがって、本発明のガス拡散層を用いる燃料電池においては、平板状のバイポーラプレート26を用いることができる。本発明のガス拡散層は、基材を用いないため、安価に製造できる。また、平板状のバイポーラプレートを用いることができるため、加工が容易になり、電池の厚みを低減させ、出力密度を高めることができる。なお、本発明のガス拡散層23は、アノード側ガス拡散層に適用されてもよく、カソード側ガス拡散層に適用されてもよく、その両方に適用されてもよいが、好ましくは両方に適用される。
【0022】
図3(a)〜(d)に、本実施形態のガス拡散層の基本構造を模式的に示す。上述したように、本実施形態のガス拡散層は、図3(a)の断面模式図、図3(b)の上面模式図に示すように、ガスや液水などの流体の流路となる溝を有し、前記溝の表面に撥水剤層34を有する。なお、撥水剤層34は、溝の表面の少なくとも一部に配置されればよい。溝の表面の面積に対する撥水層34の被覆率は、例えば、20〜80%でありうる。
【0023】
ガス拡散層の厚み、設けられる溝のサイズ、形状、配置、数などは特に制限されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。溝の断面の形状も、例えば、矩形であってもアーチ状であってもよい。溝の配置も任意であり、例えば、格子状や菱型の配置に形成されうる。好ましくは、図4のように、平行溝の形態が採用されうる。Hで表されるガス拡散層の厚みは特に限定されないが、好ましくは100〜700μmであり、より好ましくは100〜500μmである。Aで表される溝の幅は、好ましくは50〜800μmであり、より好ましくは100〜500μmである。Bで表される溝のピッチは、好ましくは100〜800μmであり、より好ましくは100〜500μmである。Cで表される溝の深さは、好ましくは50〜600μmであり、より好ましくは50〜500μmである。上記範囲であれば、ガスの流れ、液水の排出性、電子の移動性をバランスよく最良にすることができる。
【0024】
本実施形態のガス拡散層は、石を積み上げて石垣を作るのに似ている。小さな石でも積み上げてアーチ構造にすれば、巨大な橋を造ることができ、例えば100kg/cm2程度の荷重をかけても壊れることはない。したがって、本実施形態によるガス拡散層は、高い圧縮強度を有し、カーボンペーパーのような高価な基材を用いずに自立層を形成することができる。さらに、カーボンペーパーなどの基材を用いる場合に比べて低温度の熱処理で製造できるため、製造コストも低減できる。
【0025】
本実施形態のガス拡散層は、図3(c)左に示すように、多孔体焼結粗粒子31を用いて構成されたものであって、図3(c)右のように前記多孔体焼結粗粒子31は、カーボン粒子311と撥水剤粒子312とを用いて形成されている。そして、前記カーボン粒子311および/または撥水剤粒子312同士の間に形成される空孔(小径の貫通孔)313および前記多孔体焼結粗粒子31同士の間に形成される空孔(大径の貫通孔)32を含む。
【0026】
ここで、多孔体焼結粗粒子31は、焼結体であり、焼結時にPTFEなどの撥水剤粒子312が溶融してバインダとして作用し、カーボン粒子311および/または撥水剤粒子312同士が、相互に接合(結着)した構造となっている。混合時、焼結時にせん断応力がかからないため、撥水剤粒子312はフィブリル化せず粒子形態のまま多孔体焼結粗粒子31が形成される。そして、前記カーボン粒子311および/または撥水剤粒子312同士の間に形成される隙間が、無数の小径の貫通孔313を形成する。
【0027】
多孔体焼結粗粒子31中において、前記カーボン粒子311および前記撥水剤粒子312は均一に分布していることが好ましい。分布が均一であれば、より圧縮特性、導電性に優れたガス拡散層が得られうる。多孔体焼結粗粒子31中の前記カーボン粒子311および前記撥水剤粒子312の分布は、SEM観察、EPMA元素分析、比表面積測定やAFM観察などにより測定されうる。
【0028】
また、ガス拡散層は、成形体であり、多孔体焼結粗粒子31を加熱、加圧下で成形時に各多孔体焼結粗粒子31の表面にある撥水剤粒子312が溶融してバインダとして作用し、多孔体焼結粗粒子31同士が、相互に接合(結着)した構造となっている。なお、成形時にせん断応力が加えられても、撥水剤粒子の集合体が形成されていないため、多孔体焼結粗粒子31の変形はおこりにくい。そして、前記多孔体焼結粗粒子31同士の間に形成される隙間が、大径の貫通孔32を形成する。
【0029】
さらに、本実施形態のガス拡散層は、溝の表面に沿って撥水剤層34を有する。ここで、撥水剤層とは、図3(d)に示すように、最外層の多孔体焼結粗粒子31の外側に存在する撥水剤粒子を含む領域を意味する。この領域は、溝の表面全体に存在してもよく、表面の一部に存在してもよい。例えば、溝の形状を形成するための構造体を利用して前記多孔体焼結粗粒子31を加熱、加圧下で成形時すると、成形時に多孔体焼結粗粒子31の表面にある撥水剤粒子312が溶融する。そしてその一部が前記構造体と前記多孔体焼結粗粒子31との間に形成される空隙部に移動し、結果的に溝の表面に沿って最外層の多孔体焼結粗粒子31の外側に撥水剤粒子312を含む領域が形成される。このような領域が形成されると、溝の表面付近での多孔体焼結粗粒子31同士の接着性が向上し、溝の表面付近に存在する多孔体焼結粗粒子31の破壊や脱落が生じにくくなるため、強固な溝の構造が形成されうる。前記撥水剤層は、SEM観察、EPMA元素分析やAFM観察などによって確認することができる。
【0030】
ここで、前記小径の貫通孔の空孔径ピークは0.07〜0.12μmの範囲であることが好ましい。上記範囲であれば、ガス透過が可能であり、液水は容易に進入できない空孔領域が得られ、さらに緻密な空孔構造を保持することができる。より好ましくは、前記小径の貫通孔の空孔径ピークは0.07〜0.1μmの範囲である。
【0031】
前記大径の貫通孔の空孔径ピークは3〜20μmの範囲であることが好ましい。上記範囲であれば、ガスおよび液水が透過し得るサイズの空孔領域とすることができ、また、強固で取り扱い性が容易な空孔構造が得られうる。より好ましくは、前記大径の貫通孔の空孔径ピークは3〜10μmの範囲である。
【0032】
また、前記大径の貫通孔および前記小径の貫通孔のいずれもが、上記範囲の空孔径ピークを有する場合は、大径の貫通孔と小径の貫通孔との水浸入圧力がより大きくなるため、効率よく液水を排出することができ、電池性能の向上に寄与しうる。
【0033】
本発明において、「ピーク」とは空孔径の分布曲線において、大きな空孔径側から空孔径を小さくしていく場合に、当該曲線の接線の傾きが負から正に変わるときの凸部分を意味する。また、当該凸部分の頂点(局所極大値)の空孔径を「ピーク空孔径」、凸部分の頂点(局所極大値)からベースラインまでの距離を「ピーク高さ」というものとする。ピークの凸部分の両端は凸部分の頂点から空孔径を大きくまたは小さくしていく場合に、曲線の接線の傾きが0となる点を指すものとする。
【0034】
なお、「空孔径ピークがXμm以上Yμm以下(未満)の範囲にある」とは、空孔径ピークの全体がXμm以上Yμm以下(未満)の範囲に実質的に含まれることを意味する。また、「空孔径ピークの全体がXμm以上Yμm以下(未満)の範囲に実質的に含まれる」とは、空孔径ピークの凸部分の面積(空孔径分布曲線の積分値)の20%以上がXμm以上Yμm以下(未満)の範囲に含まれることを指す。ただし、空孔径ピークの凸部分の面積のうち、Xμm以上Yμm以下(未満)の範囲に、好ましくは50%以上が含まれ、より好ましくは80%以上が含まれる。また、第1の空孔径ピークおよび第2の空孔径ピークは上記の空孔径範囲にある限り、複数存在してもよい。空孔径分布の測定方法は特に制限されないが、例えばハーフドライ法(ASTM:F316−86およびASTM:E1294−89)により測定することができる。
【0035】
次に、上述した多孔体焼結粗粒子の構成部材につき、カーボン粒子および撥水剤粒子を中心に説明する。
【0036】
カーボン粒子としては、導電性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましい。中でも、ケッチェンブラックなどのファーネスブラックまたはアセチレンブラックが好ましく、アセチレンブラックが特に好ましい。また、アセチレンブラックを用いたガス拡散層の比抵抗は0.2〜0.5Ωcmであるが多層カーボンナノチューブをカーボン粒子の全質量に対して15〜30質量%程度混入すると比抵抗は0.08Ωcm以下に改善されるため、カーボンナノチューブを適量混合してもよい。この場合、針状のカーボンナノチューブがイオン交換膜を突き抜ける場合があるため、イオン交換膜に接しない領域に配置されるようにすることが好ましい。なお、グラファイト粒子を添加すると、粒子のクリープ性が出て耐圧縮性が低下する場合がある。
【0037】
撥水剤粒子は、撥水性を有するものであれば特に限定されない。好ましくは、カーボン粒子を結着させることができる撥水性の高分子材料が用いられうる。本発明に用いられうる撥水剤粒子としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)粒子、ポリヘキサフルオロプロピレン粒子、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)粒子などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン粒子、ポリエチレン粒子などが挙げられる。中でも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられ、特に、粒子の圧縮性から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子が好ましい。ポリテトラフルオロエチレン粒子を用いると、より圧縮強度の高いガス拡散層が得られうる。前記撥水剤粒子は、好ましくは、ディスパージョンの形態で用いられうる。前記高分子材料の分子量は、特に制限されないが、例えば、3,000,000から15,000,000である。撥水剤粒子を用いることにより、ガス拡散層の小径の貫通孔に撥水性が付与され、小径の貫通孔の水浸入圧力がより大きくなるため、小径の貫通孔への水の浸入がより一層抑制されうる。なお、これらの撥水剤粒子は1種類単独で用いてもよいし、または2種類以上併用してもよい。また、これら以外の高分子材料が用いられてもよい。
【0038】
カーボン粒子の平均粒子径(2次粒子径)は、カーボン粒子および/または撥水剤粒子同士の隙間に生じる小径の貫通孔が所望の大きさとなるように、適宜決定すればよい。具体的には、好ましくは0.1〜3μm程度、より好ましくは0.2〜2μm、さらに好ましくは0.3〜1μmとするのがよい。これにより、所望の空孔径分布および毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0039】
撥水剤粒子の平均粒子径としては、上記の小径の貫通孔を有する多孔体焼結粗粒子を形成することができるものであればよく、好ましくは0.1〜0.5μm、より好ましくは0.2〜0.3μmの範囲である。
【0040】
カーボン粒子および/または撥水剤粒子から形成された多孔体焼結粗粒子の平均粒子径は、多孔体焼結粗粒子同士の隙間に生じる空孔(大径の貫通孔)が所望の大きさとなるように、適宜決定すればよい。具体的には、前記多孔体焼結粗粒子の平均粒子径が、好ましくは20〜250μm、より好ましくは30〜200μm、さらに好ましくは50〜150μmの範囲である。このように集合体の粒子サイズを調製することにより、大径の貫通孔の径および分布数を、本発明の作用効果を有効に奏するように制御することができる。多孔体焼結粗粒子の平均粒子径が20μm以上であれば、液水を容易に通過せしめる比較的大きな貫通孔を得ることができる。また、多孔体焼結粗粒子の平均粒子径が250μm以下であれば、成膜が容易となる。
【0041】
なお、カーボン粒子、撥水剤粒子、および多孔体焼結粗粒子の平均粒子径の値は、それぞれ、走査型電子顕微鏡(SEM)により調べられる各々の成分の粒子径の平均値として算出できる。
【0042】
本発明のガス拡散層におけるカーボン粒子と撥水剤粒子との含有量の比は、空孔構造、特に小径の貫通孔の強度、および小径の貫通孔の撥水性(接触角)が所望の特性となるように適宜調整すればよい。具体的には、撥水剤粒子の含有量は、カーボン粒子と撥水剤粒子との合計質量に対して好ましくは15〜70質量%、より好ましくは20〜60質量%、さらに好ましくは30〜50質量%の範囲であるのが好ましい。撥水剤粒子の配合比率が15質量%以上であればカーボン粒子同士を結合でき、70質量%以下であればガス拡散層の電気抵抗を低く保つため好ましい。
【0043】
また、本発明のガス拡散層において、大小2つの貫通孔の数は、機械的強度が確保される限り、多数(無数)であることが好ましい。具体的には、ガス拡散層内の小径の貫通孔および大径の貫通孔の領域が占める割合(空孔率)は、ガス拡散層の全体積を基準にして、好ましくは40〜80体積%であり、より好ましくは45〜70体積%であり、さらに好ましくは50〜60体積%である。かような構成を有するガス拡散層は、十分な機械的強度が確保されると共に、ガスの拡散性および水の排出性に優れる。
【0044】
空孔率の測定方法は特に制限されないが、例えば、水銀圧入法による空孔分布測定などによりガス拡散層内部に存在する空孔の体積を測定し、ガス拡散層の体積に対する割合として求めることができる。また、小径孔または大径孔それぞれの貫通孔の体積は、空孔分布における各空孔径ピークの面積(空孔径分布曲線の積分値)から、算出することができる。
【0045】
上記のようなガス拡散層は、さらに図5に示すように、平行溝の上部に直角方向に直径10〜20μmの貫通孔をさらに設けてもよい。上記のような貫通孔を設けることで、ガスおよび液水の移動をより容易にすることができる。ここで、図5左は、ガス拡散層の断面図であり、図5右は、前記ガス拡散層を溝の走る方向と直角方向の側面から見た図である。または、平行溝の斜め方向に直径10〜20μmの貫通孔を設けた構造(図示せず)にしてもよい。斜め方向に貫通孔を設けることで、液水の排出をより容易にすることができる。上記のような貫通孔は、例えば、前記多孔体焼結粗粒子を加熱加圧成形する際、型の中に貫通孔の形状に見合った線材を多数平行に張り渡しておき、成形後線材を引き抜くことで形成されうる。
【0046】
また、ガス拡散層の曲げ強度を改善するために、図6のように溝の側に、例えば20μm程度の厚さの、強度の高いガス拡散層を接合してもよい。強度の高いガス拡散層としては、例えば特開2007−56064号公報に記載のゴアテックスフィルムとアセチレンブラックから形成されるガス拡散層などが用いられうる。または、導電性のカーボン繊維を接合してもよい。前記強度の高いガス拡散層またはカーボン繊維は、例えば、ホットプレスなどの方法で接合されうる。
【0047】
さらに、図7のように、前記ガス拡散層の溝の表面を親水化処理してもよい。溝の表面の面積に占める親水化処理された表面の面積の割合は特に制限されないが、例えば、10〜60%である。バイポーラプレート側を親水化して水の移動を容易にすることで、加湿時の性能を向上させることができる。親水化処理としては、例えば、シリカ、チタニア、アルミナなどの微粒子を表面に付着させるか、またはAuなどの耐食性金属をコーティングする方法などが挙げられる。
【0048】
[ガス拡散層の製造方法]
本発明のガス拡散層の製造方法は特に制限されず、従来公知の知見を適宜参照することにより製造できる。以下、本発明の膜電極接合体の製造方法を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。
【0049】
以下、本発明のガス拡散層の製造方法につき、図面を用いて説明する。図8は、本発明のガス拡散層の製造方法の代表的な実施形態を示す工程概略図である。
【0050】
本発明のガス拡散層は、下記(1)〜(4)の工程を含む方法により得られうる:
(1)カーボン粒子と撥水剤粒子とを混合し、焼結して焼結体を得る工程(第一の工程);
(2)上記(1)で得られた焼結体を粉砕して多孔体焼結粗粒子を得る工程(第二の工程);
(3)上記(2)で得られた多孔体焼結粗粒子を、溝を形成するための構造体に充填して加熱加圧成形し、成形体を得る工程(第三の工程);
(4)上記(3)で得られた成形体から構造体を分離してガス拡散層を得る工程(第四の工程)。
【0051】
本発明の製造方法によれば、流体流路を有し、流体流路近傍に撥水剤層を有するガス拡散層が簡便に得られうる。以下、ガス拡散層の製造方法を工程ごとに説明する。
【0052】
(1)第一の工程(図8(A)〜(C)参照)
本工程では、カーボン粒子と撥水剤粒子とを混合し、焼結して、カーボン粒子および撥水剤粒子の焼結体を得る。カーボン粒子および撥水剤粒子の混合方法、およびこれらの混合体の焼結方法については、緻密で均一な焼結体が得られる方法であれば特に制限されないが、以下のような方法を用いることが好ましい。
【0053】
まず、(a)カーボン粒子と撥水剤粒子とを、必要に応じて添加される非イオン性界面活性剤を含む溶媒に分散させてカーボン粒子・撥水剤粒子分散液を調製する(分散液の調製段階)。次いで、(b)カーボン粒子・撥水剤粒子分散液を固形化させる(固形化段階)。そして、(c)得られた固形物を焼成して混合焼結体を形成させる(焼結段階)。以下、これらの各段階について説明する。なお、カーボン粒子および撥水剤粒子については、既に説明したとおりであるので、ここでの説明は省略する。
【0054】
(a)分散液の調製段階(図8(A)および(B)参照)
本段階では、カーボン粒子と撥水剤粒子とを、必要に応じて添加される非イオン性界面活性剤を含む純水に分散させてカーボン粒子・撥水剤粒子分散液を調製する。
【0055】
例えば、図8(A)に示すように、まず、非イオン性界面活性剤を含む水に、カーボン粒子を添加し、適当な分散装置、例えば、超音波分散機、ジェットミル、ビーズミル等で、平均粒子径0.1〜1μm程度まで分散して、カーボン粒子分散液81を調製する。カーボン粒子は、2次凝集して塊状化している。このため、分散装置を用いて、適当な大きさになるまで微粒化し、界面活性剤を表面に吸着させることにより、安定な分散液を得ることができる。
【0056】
次に、図8(B)に示すように、上記により得られたカーボン粒子分散液81に、撥水剤粒子分散液を必要量添加、混合し、適当な撹拌装置、例えば、超音波照射、攪拌機等で過度の応力がかからないように緩やかに均一分散する。これにより、カーボン粒子・撥水剤粒子分散液82を得る。最適な界面活性剤を用いた分散液は過度の剪断応力をかけない限り安定である。例えば、通常の攪拌、震とう、超音波照射等では撥水剤粒子が凝集繊維化することはない。
【0057】
ここで、撥水剤粒子分散液を用いたのは、撥水剤粒子の撥水作用により、固形化された撥水剤粒子を単独で添加したのでは、水中に分散させるのが不可能なためである。かかる撥水剤粒子分散液としては、ダイキン工業株式会社、旭硝子株式会社、三井フロロケミカル株式会社等で市販されているものを容易に入手できる。
【0058】
カーボン粒子の配合量としては、カーボン粒子・撥水剤粒子分散液に対して好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜25質量%の範囲である。上記撥水剤粒子の配合量としては、カーボン粒子・撥水剤粒子分散液に対して、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは6〜35質量%の範囲である。
【0059】
非イオン性界面活性剤としては、カーボン粒子および撥水剤粒子を凝集させることなく、微粒化した状態で、溶媒である水中に分散、好ましくは均一に高分散させることができることができるものであればよい。上記非イオン性界面活性剤としては、具体的には、Triton(登録商標、ダウケミカル社製) X−100等のポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであるN−100(三洋化成工業製)などを挙げることができるが、これらに何ら制限されるものではない。好ましくは相分離の観点から、適度な曇点を有するTriton(登録商標) X−100、N−100が好適である。また、これら非イオン性界面活性剤は、1種単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0060】
非イオン性界面活性剤の配合量としては、カーボンブラック等のカーボン粒子の比表面積に比例して界面活性剤の添加量は増減するが、ここではアセチレンブラック(電気化学工業製)を例に説明する。この場合、非イオン性界面活性剤の配合量としては、カーボン粒子・撥水剤粒子分散液に対して好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは0.5〜8質量%の範囲である。非イオン性界面活性剤の配合量が0.5質量%以上であれば、良好に分散される。一方、非イオン性界面活性剤の配合量が20質量%以下であれば、本発明の作用効果を損なうことなく良好に分散されるものである。
【0061】
(b)固形化段階(図8(C)および(D)参照)
本段階では、上記で調製したカーボン粒子・撥水剤粒子分散液を固形化させる。カーボン粒子・撥水剤粒子分散液を固形化して焼結する前に剪断応力をかけると撥水剤粒子が凝集繊維化してしまうおそれがある。この凝集繊維化を防止するため、液体状態から応力が加わらない固形化方法で固形化するのが望ましい。
【0062】
かような固形化方法としては、特に制限されないが、例えば、電着法によりカーボン粒子・撥水剤粒子分散液82を固形化する方法が用いられうる。具体的には、上記カーボン粒子・撥水剤粒子分散液82を適当な電着法、例えば、泳動電着により泳動電着用陽極84に固形物(電着固形物)85を電積させる方法が用いられる。電着法を用いると、撥水剤粒子が繊維化しないため、固形物を焼結した場合に均一で緻密な空孔構造を有する焼結体が得られる。
【0063】
泳動電着用陽極84には、電気化学的に溶解せずに安定なものが望ましく、例えば、白金板、白金被覆チタン板、カーボン電極、ボロンドープダイヤモンド電極などが用いられうる。一方、泳動電着用陰極83についても、特に制限されず、従来公知の各種電極材料を用いることができる。例えば、ニッケル鋼などを利用することできる。
【0064】
なお、電着工程の代わりに、カーボン粒子・撥水剤粒子分散液82を非イオン性界面活性剤の相分離現象を利用して相分離濃縮し、固形化する方法、スプレードライ法などを用いてもよい。ただし、比較的短時間に固形分を集めることができる点で電着法を用いて固形化するのが好ましい。これらの固形化物は乾燥機等で水分を完全に除く。
【0065】
(c)焼結段階(図8(E)参照)
続いて、上記で得られた固形物85を焼結して焼結体を形成させる。図8(E)に示すように、上記で得た固形物85を、必要に応じて乾燥し、泳動電着用陽極84から剥離後乾燥、焼成して、焼結体86を得る。
【0066】
乾燥を行う場合には、剪断応力を加えずに、撥水剤粒子の繊維化を起こさない乾燥条件とするのが望ましい。かかる観点から、乾燥条件としては、70〜150℃で3〜15時間程度であればよい。乾燥温度までの昇温速度は、好ましくは10〜100℃/分、より好ましくは20〜50℃/分の範囲である。
【0067】
焼結に先立ち、固形物に含まれる界面活性剤を除くことが好ましい。アセトンで抽出、二酸化炭素の超臨界抽出を用いることができる。
【0068】
次に、焼結の条件としては、例えば、撥水剤粒子の融点以上、好ましくは撥水剤粒子の融点より5〜50℃高い温度域で0.5〜30時間程度焼成することで、焼結体が得られる。なお、焼結温度までの昇温速度は、好ましくは10〜200℃/分、より好ましくは50〜150℃/分の範囲である。焼結温度を調整することにより、カーボン粒子および撥水剤粒子からなる焼結体の密度、細孔分布、導電性等の物性を変化させることができる。
【0069】
また、焼結体の厚さは、生産性の観点から好ましくは0.2〜5mm、より好ましくは0.5〜3mm程度である。
【0070】
(2)第二の工程(図8(F)参照)
本工程では、上記で得た焼結体を粉砕して、カーボン粒子および/または撥水剤粒子の多孔体焼結粗粒子からなる粉体を得る。図8(F)に示すように、上記工程で得た混合焼結体86を、適当な粉砕装置、例えば、液体窒素冷却して高速粉砕機などを用いて微粉砕した後、適当な分級装置、例えば、ふるい、分級機などを用いて分級し、所望の粒子径を有する多孔体焼結粗粒子の粉体87を得る。
【0071】
(3)第三の工程(図8(G)参照)
本工程では、分級された多孔体焼結粗粒子の粉体87を、溝を付与するために凹凸をつけた構造体(治具)89に充填して加熱加圧成形し、成形体90を得る。上記手法によれば、多孔体焼結粗粒子の構造を破壊することなく、溝構造を形成することができ、また、撥水剤粒子が溝構造の最表面の部分にも残ることで、より強固なガス拡散層が得られうる。
【0072】
前記構造体としては、所望の形状の溝を形成しうるものであれば特に制限されず、例えば、通常のホットプレス用金型の底部に網または線材を配置したものでもよく、所望の溝形状を形成するように加工した金型であってもよい。前記網または前記線材の材質も特に制限されず、例えば、銅、真鍮、アルミニウム、SUS、などが用いられうる。
【0073】
ホットプレス条件としては、撥水剤粒子の融点以上、好ましくは撥水剤粒子の融点より5〜30℃高い加熱温度で、圧力10kg/cm2以上、好ましくは20〜150kg/cm2で、0.5〜3分間、好ましくは1〜2分間ホットプレスする。
【0074】
適当な治具としては、得られるガス拡散層の一方の表面に凹凸の溝構造を形成できる形状であれば特に制限されるものではなく、従来公知のホットプレス用金型を利用することができる。治具の材質も特に制限されず、例えば、インコネル、SUS、炭素鋼が用いられうる。
【0075】
なお、本発明のガス拡散層の上記製法においては、ホットプレスにおいて、インプリント技術、特に、本発明に適したナノインプリント技術を用いて、多孔体焼結粗粒子間に形成される空孔の径と数を制御するようにしてもよい。すなわち、所望の大径孔(大径孔の空孔径、数および配列など)に対応する凹凸パターンをインプリント技術によりホットメルトに用いる金型やモールドに形成させ、ホットメルトにより所望のパターンをガス拡散層に転写させてもよい。これにより、集合体同士間に形成される空孔、すなわち大径孔の径および数を制御することができる。
【0076】
(4)第四の工程(図8(H)参照)
本工程では、上記で得られた成形体90から前記構造体89を分離してガス拡散層を得る。具体的には、ホットプレス後の、溝形成のための構造体が接合した成形体を、例えば10%過硫酸アンモニウム水溶液などに浸漬して銅、真鍮を除去し、アルカリ水溶液でアルミニウムを、硝酸、塩酸でSUSなどの材質の構造体を溶解させて除去する。または、あらかじめ離型剤を塗布した治具から構造体を取り外して除去してもよい。
【0077】
[膜電極接合体]
上記のガス拡散層を、固体高分子電解質層の両面に配置された触媒層の外側に、溝が外側になるように配置して、膜電極接合体を形成することができる。すなわち、本発明の第2実施形態は上記ガス拡散層によって構成される、膜電極接合体である。上記膜電極接合体を用いると、低コストで出力密度の高い電池が作製されうる。
【0078】
以下、膜電極接合体を構成する部材について簡単に説明する。ただし、ガス拡散層を構成する成分については上記で説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。また、本発明の技術的範囲が下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態が同様に採用されうる。
【0079】
(固体高分子電解質膜)
固体高分子電解質膜は、プロトン伝導性を有する高分子電解質から構成され、固体高分子型燃料電池の運転時にアノード触媒層で生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層へと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
【0080】
固体高分子電解質膜の具体的な構成は特に制限されず、燃料電池の技術分野において従来公知の高分子電解質からなる膜が適宜採用できる。固体高分子電解質膜は、構成材料である高分子電解質の種類に応じて、フッ素系固体高分子電解質膜と炭化水素系固体高分子電解質膜とに大別される。
【0081】
フッ素系固体高分子電解質膜を構成する高分子電解質としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能上の観点からはこれらのフッ素系固体高分子電解質膜が好ましく用いられ、より好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系固体高分子電解質膜が用いられる。
【0082】
炭化水素系固体高分子電解質膜を構成する高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系固体高分子電解質膜が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0083】
上述した固体高分子電解質膜を構成する高分子電解質以外の材料が高分子電解質として用いられてもよい。このような材料としては、例えば、高いプロトン伝導性を有する液体、固体、ゲル状材料などが利用可能であり、リン酸、硫酸、アンチモン酸、スズ酸、ヘテロポリ酸などの固体酸、リン酸などの無機酸を炭化水素系高分子化合物にドープさせたもの、一部がプロトン伝導性の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたゲル状プロトン導電性材料などが挙げられる。プロトン伝導性と電子伝導性とを併有する混合導電体もまた、高分子電解質として利用できる。
【0084】
固体高分子電解質膜の厚さは、膜電極接合体や高分子電解質の特性を考慮して適宜決定され、特に限定はされない。ただし、固体高分子電解質膜の厚さは、好ましくは5〜300μmであり、より好ましくは5〜200μmであり、さらに好ましくは10〜150μmであり、特に好ましくは15〜50μmである。厚さがこのような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性、および使用時の出力特性のバランスが適切に制御できる。
【0085】
(電極触媒層)
電極触媒層には、アノード触媒層およびカソード触媒層の2つがある。以下、アノード触媒層とカソード触媒層との区別をしないときは、単に「電極触媒層」とも称する。電極触媒層は、電気化学反応により、電気エネルギーを生み出す機能を有する。アノード触媒層では水素の酸化反応により、プロトンおよび電子が生成する。ここで生じたプロトンおよび電子は、カソード触媒層での酸素の還元反応に用いられる。
【0086】
電極触媒層は、導電性担体に触媒成分が担持されてなる電極触媒および高分子電解質を含む。電極触媒層の具体的な構成は特に制限されず、燃料電池の技術分野において従来公知の電極触媒層の構成を適宜採用できる。
【0087】
(導電性担体)
導電性担体は、触媒成分を担持する担体であって、導電性を有する。導電性担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるのに充分な比表面積を有し、かつ、充分な電子伝導性を有するものであればよい。導電性担体の組成は、主成分がカーボンであることが好ましい。導電性担体の材質として、具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容できることを意味する。
【0088】
導電性担体のBET(Brunauer−Emmet−Teller)比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であれば特に制限はないが、好ましくは100〜1500m2/gであり、より好ましくは600〜1000m2/gである。導電性担体の比表面積がこのような範囲内の値であると、導電性担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御できる。
【0089】
導電性担体の平均粒子径についても特に制限はないが、通常は5〜200nmであり、好ましくは10〜100nm程度である。なお、「導電性担体の平均粒子径」の値としては、透過型電子顕微鏡(TEM)による一次粒子径測定法によって算出される値を採用する。
【0090】
(触媒成分)
触媒成分は、上記電気的化学反応の触媒作用をする機能を有する。導電性担体に担持される触媒成分は、上述した電気的化学反応を促進する触媒作用を有するものであれば特に制限はなく、従来公知の触媒成分を適宜採用できる。触媒成分として、具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属、およびこれらの合金などが挙げられる。これらのうち、触媒活性、耐溶出性などに優れるという観点からは、触媒成分は少なくとも白金を含むことが好ましい。電極触媒層の触媒成分として合金を使用する場合の合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり、当業者によって適宜選択できるが、好ましくは白金が30〜90原子%程度、合金化する他の金属が10〜70原子%程度である。なお、「合金」とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質を有しているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。ここで、合金組成の特定は、ICP発光分析法を用いることで可能である。
【0091】
触媒成分の形状や大きさは特に制限されず、従来公知の触媒成分と同様の形状および大きさが適宜採用できるが、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましい。そして、触媒成分粒子の平均粒子径は、好ましくは0.5〜30nmであり、より好ましくは1〜20nmである。触媒成分粒子の平均粒子径がこのような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御できる。なお、本発明において、「触媒成分粒子の平均粒子径」の値は、X線回折における触媒成分粒子の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として算出できる。
【0092】
電極触媒における導電性担体と触媒成分との含有量の比は、特に制限されない。ただし、触媒成分の含有率(担持量)は、電極触媒の全質量に対して、好ましくは5〜70質量%であり、より好ましくは10〜60質量%であり、さらに好ましくは30〜55質量%である。触媒成分の含有率が5質量%以上であると、電極触媒の触媒性能が充分に発揮され、ひいては固体高分子型燃料電池の発電性能の向上に寄与する。一方、触媒成分の含有率が70質量%以下であると、導電性担体の表面における触媒成分どうしの凝集が抑制され、触媒成分が高分散状態で担持されるため、好ましい。なお、上述した含有量の比の値としては、ICP発光分析法により測定される値を採用するものとする。
【0093】
(高分子電解質)
高分子電解質は、電極触媒層のプロトン伝導性を向上させる機能を有する。電極触媒層に含まれる高分子電解質の具体的な形態に特に制限はなく、燃料電池の技術分野において従来公知の知見が適宜参照できる。例えば、電極触媒層に含まれる高分子電解質としては、上述した固体高分子電解質膜を構成する高分子電解質を同様に用いることができる。そのため、高分子電解質の具体的な形態の詳細はここでは省略する。なお、電極触媒層に含まれる高分子電解質は、1種単独であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0094】
電極触媒層に含まれる高分子電解質のイオン交換容量は、イオン伝導性に優れるという観点から、0.8〜1.5mmol/gであることが好ましく、1.0〜1.5mmol/gであることがより好ましい。なお、高分子電解質の「イオン交換容量」とは、高分子電解質の単位乾燥質量当りのスルホン酸基のmol数を意味する。「イオン交換容量」の値は、高分子電解質分散液の分散媒を加熱乾燥などにより除去して固形の高分子電解質とし、これを中和滴定することにより、算出できる。
【0095】
電極触媒層における高分子電解質の含有量についても特に制限はない。ただし、電極触媒層における導電性担体の含有量に対する高分子電解質の含有量の質量比(高分子電解質/導電性担体の質量比)は、好ましくは0.5〜2.0であり、より好ましくは0.6〜1.5であり、さらに好ましくは0.8〜1.3である。高分子電解質/導電性担体の質量比が0.8以上であると、膜電極接合体の内部抵抗値の抑制という観点から好ましい。一方、高分子電解質/導電性担体の質量比が1.3以下であると、フラッディングの抑制という観点から好ましい。
【0096】
各触媒層、特に導電性担体表面や高分子電解質には、さらに、撥水剤や、その他各種添加剤が被覆ないし含まれていてもよい。撥水剤が含まれていることにより、得られる触媒層の撥水性を高めることができ、発電時に生成した水などを速やかに排出することができる。撥水剤の混合量は、本発明の作用効果に影響を与えない範囲で適宜決定することができる。撥水剤としては、上記で例示したものを同様に好ましく用いることができる。
【0097】
本発明における触媒層の厚さは、特に限定されないが、0.1〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜20μmである。触媒層の厚さが0.1μm以上であると所望する発電量が得られる点で好ましく、100μm以下であると高出力を維持できる点で好ましい。
【0098】
前記膜電極接合体は、従来公知の方法を用いて、固体高分子電解質膜の両面にアノード側およびカソード側の電極触媒層を形成し、これを上記の方法により得られるガス拡散層で挟持することにより製造できる。
【0099】
電極触媒層は、上記のような電極触媒、高分子電解質および溶媒などからなる触媒インクを、固体高分子電解質膜にスプレー法、転写法、ドクターブレード法、ダイコーター法などの従来公知の方法を用いて塗布することにより製造できる。
【0100】
固体高分子電解質膜および触媒インクの塗布量は、電極触媒が電気化学反応を触媒する作用を十分発揮できる量であれば特に制限されないが、単位面積あたりの触媒成分の質量が0.05〜1mg/cm2となるように塗布することが好ましい。また、塗布する触媒インクの厚さは、乾燥後に5〜30μmとなるように塗布することが好ましい。なお、上記の触媒インクの塗布量および厚さは、アノード側およびカソード側で同じである必要はなく、適宜調整することができる。
【0101】
[燃料電池]
上記実施形態の膜電極接合体は、燃料電池に適用することができる。すなわち本発明の第3実施形態は、上記膜電極接合体を用いた燃料電池である。本実施形態の燃料電池は、低コストであり、信頼性が高く、出力密度が向上しうる。
【0102】
本実施形態の燃料電池は、上記膜電極接合体と、これを挟持する一対のバイポーラプレートから構成される。そして、アノード側ガス拡散層の表面に設けられた溝とバイポーラプレートによって形成される流体流路には、運転時に燃料ガスが流通し、カソード側ガス拡散層の表面に設けられた溝とバイポーラプレートによって形成された流体流路には、運転時に酸化剤ガスが流通しうる。固体高分子型燃料電池の周囲には、一対のガス拡散層を包囲するように、ガスケットが配置されうる。
【0103】
以下、本発明の燃料電池を構成する部材について簡単に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
【0104】
(バイポーラプレート)
バイポーラプレートは、固体高分子型燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、バイポーラプレートは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。バイポーラプレートを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。バイポーラプレートの形状としては、平板状であることが好ましいが、特に制限されず、流体流路を表面に有する形状であってもよい。バイポーラプレートの厚さやサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
【0105】
(ガスケット)
ガスケットは、一対の電極触媒層およびガス拡散層を包囲するように燃料電池の周囲に配置され、触媒層に供給されたガスが外部にリークするのを防止する機能を有する。ガス拡散電極とは、ガス拡散層および電極触媒層の接合体をいう。ガスケットを構成する材料としては、特に制限はないが、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴムなどのゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリオレフィンやポリエステルなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。また、ガスケットの厚さにも特に制限はなく、好ましくは50μm〜2mmであり、より好ましくは100μm〜1mm程度とすればよい。
【0106】
前記燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質型燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質型燃料電池が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
【0107】
[車両]
上述した本発明の燃料電池や燃料電池スタックを搭載した車両もまた、本発明の技術的範囲に包含される。本発明の燃料電池や燃料電池スタックは、発電性能および耐久性に優れるため、高出力を要求される車両用途に適している。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0109】
[実施例1]
(ガス拡散層の作製)
カーボン粒子としてカーボンブラック、撥水剤粒子としてPTFEを準備した。
【0110】
(1)カーボンブラックおよびPTFEの焼結体の調製
(a)カーボンブラックPTFE分散液の調製
100gのカーボンブラック(アセチレンブラック、1次粒子の平均粒子径46nm、電気化学工業製)、960gの純水および40gの非イオン性界面活性剤(Triton(登録商標) X−100、ダウケミカル社製)を混合した。この混合液を、ジェットミルでカーボンブラック粒子の2次粒子(1次粒子が凝集した粒状物)の平均粒径が0.5μmとなるまで分散させ、カーボンブラック分散液を得た。このカーボンブラック分散液に40質量%相当のPTFE分散液(PTFE粒子の平均粒子径250nm、AD−911、旭硝子株式会社製)を添加混合し、13質量%固形分のカーボンブラックPTFE分散液を得た。この際、カーボンブラックとPTFEとの仕込み比(質量比)は、カーボンブラック:PTFE=60:40であった。
【0111】
(b)固形化(電着)
上記で得たカーボンブラックPTFE分散液を泳動電着槽に入れ、槽電圧60Vで3分間電気泳動電着を行うことにより、厚さ3mmの電着物(電着固形分)を得た。なお、泳動電着用陽極としては白金被覆チタン電極、泳動電着用陰極としてはニッケル鋼を用いた。
【0112】
(c)混合焼結体の作製
得られた電着物(電着固形分)を熱風乾燥機により80℃で8時間乾燥した。その後、乾燥物を電熱焼結炉により360℃(なお、PTFEの融点は327℃である)で3時間焼成焼結させて混合焼結体を得た。
【0113】
(2)混合焼結体の粉砕
この混合焼結体を5mm角以下に切断し、液体窒素で冷却しつつ、ロータースピードミルP−14(ドイツ フリッチュ社製)で粉砕し、振動ふるいで分級して、粒子径53μm〜106μmの粉体を得た。
【0114】
(3)ガス拡散層の作製
上記で得た粉体を、線径100μm、100メッシュの銅網上に500μm厚さに均一に配置し、これを治具に充填し、350℃、50kg/cm2で60秒間ホットプレスして、片面に銅網が接合されたシート状の焼結体を得た。この片面に銅網が接合されたシート状の焼結体を加温した10%過硫酸アンモニウム水溶液に浸漬し、銅網を完全に除去した。純水で十分に洗浄した後、乾燥し、60℃に加温したアセトンで5回洗浄して、ガス拡散層を得た。得られたガス拡散層は、厚みが300μmであった。得られた溝は、幅が100μmであり、深さが100μmであり、ピッチは250μmの格子状であった。
【0115】
(SEM観察)
図9(a)は、得られたガス拡散層の、銅網が接合されなかった側の表面のSEM写真であり、(b)は銅網が接合された側の表面のSEM写真である。図9(a)、(b)のいずれの表面にも、カーボンブラックおよび/またはPTFEの多孔体焼結粗粒子が連なって形成された構造が観察され、多孔体焼結粗粒子同士の隙間に大径の貫通孔が無数に形成されていることが確認された。さらに、多孔体焼結粗粒子の充填物をホットプレスしても、多孔体焼結粗粒子の形状が変形せず、多孔体焼結粗粒子が小さな粒子サイズに細粒化されてしまうこともなく、大径の貫通孔および小径の貫通孔が残存することが確認された。さらに、PTFEの繊維化がほとんど見られないことが確認された。
【0116】
加えて、(a)の表面はほぼ平坦であるのに対して、(b)の表面には幅100μmの網目状の溝が形成されていることがわかる。さらに溝の周辺であっても多孔体焼結粗粒子の形状が変形せず、多孔体焼結粗粒子の脱落や小さな粒子サイズへの細粒化もみられないことから、溝構造の表面近傍に撥水剤粒子が分布し、溝構造の表面近傍での多孔体焼結粗粒子どうしの結着をより強固にしているものと考えられる。
【0117】
[比較例1]
実施例1と同様にして、カーボンブラックPTFE分散液を調製した。この分散液を、簡易コーターを用いてアルミ箔上に塗布し、360℃で2時間焼成し、混合焼結体を得た。
【0118】
上記の混合焼結体をカーボンペーパー(東レ製、TGP−H−060、厚さ200μm)上に載せて、ホットプレスで接合した。接合条件は340℃、20kg/cm2、60秒であった。その後、アルミ箔を取り除いて、ガス拡散層を得た。
【0119】
[比較例2]
実施例1(1)〜(2)と同様にして、カーボンブラックPTFE分散液を調製し、固形化、焼結して混合焼結体を得て、これを粉砕し、分級して同様の粉体を得た。この粉体を、治具に充填し、360℃、50kg/cm2で60秒間ホットプレスしてシート状の焼結体を得た。このシート状の焼結体を大型ミクロトームにセットし、タングステンカーバイドの刃で厚さ50μmにスライスした。
【0120】
スライスした焼結体を、カーボンペーパー(東レ製、TGP−H−060、厚さ200μm)上に載せて、ホットプレスで接合して、ガス拡散層を得た。接合条件は340℃、20kg/cm2、60秒であった。同様に接合圧力のみを40kg/cm2にするとカーボンペーパーが崩れて一部粉末化したため使用できなかった。
【0121】
(評価)
(空孔分布測定)
実施例1ならびに比較例1および比較例2で得たガス拡散層を用いて、ハーフドライ法(PMI社製、パームポロメータ)により、空孔分布の測定を行なった。
【0122】
測定結果を図10に示す。図10中、横軸は空孔径[μm]を示し、縦軸はガス拡散層内の空孔全体に対してその空孔径を有する空孔が占める割合[体積%]を示す。図10より、実施例1および比較例2においては大径の貫通孔に由来する空孔径ピークおよび小径の貫通孔に由来する空孔径ピークが確認され、ガス拡散層に2〜20μmの大径の貫通孔、0.07〜0.1μmの小径の貫通孔が多数形成されていることが確認できた。このように、本発明のガス拡散層の製造方法を用いると、所望のサイズの大径の貫通孔および小径の貫通孔がガス拡散層に付与されることがわかった。これに対して、比較例1においては、大径の貫通孔に由来する空孔径ピークが存在せず、ガス拡散層に0.07〜0.5μmの小径の貫通孔のみが多数形成されていることがわかった。なお、実施例1で得られたガス拡散層の空孔率は70体積%であった。
【0123】
(圧縮特性)
実施例1ならびに比較例1および比較例2で得たガス拡散層を用いて、INSTRON社製材料試験機5867型により圧縮特性の測定を行った。
【0124】
測定結果を図11に示す。実施例1で得られたガス拡散層は、4Mpa以上の面圧を加えても破壊されることなく、除圧すると元の厚みに戻る。一方、比較例1または2で得られたガス拡散層では、3MPaまで加圧すると、除圧後元の厚みにもどらない。これは、加圧によってカーボンペーパーが破断されたためであると考えられる。
【0125】
図12に、カーボンペーパー(東レ製TGP−H−060、厚み200μm)と、実施例1のガス拡散層に、それぞれ4MPaまで面圧を加え、初期厚みに対する加圧後の厚みの比を、カーボンペーパー4サンプル、実施例1のガス拡散層6サンプルの計10サンプルについて測定した結果を示す。図12より、カーボンペーパーは、4MPaでの圧縮後、初期厚みの平均88%の厚みになるのに対し、実施例1のガス拡散層は、平均99%の厚みに維持されることがわかった。
【0126】
(発電評価)
実施例1ならびに比較例1および2において作製した各ガス拡散層を用いて、下記の手順に従って膜電極接合体を作製し、膜電極接合体の発電性能を測定することにより、各ガス拡散層の評価を行った。
【0127】
(1)電極触媒層の作製
白金担持カーボン(田中貴金属工業株式会社製 TEC10E50E、白金含量50質量%)と、固体高分子電解質溶液(デュポン社製 NAFION溶液DE520、電解質含量5質量%)と、純水と、イソプロピルアルコールと、を質量比で1:1:5:5として、を25℃で保持するよう設定したウォーターバス中のガラス容器にてホモジナイザーを用いて1時間混合分散することで、触媒インクを調製した。
【0128】
次に、上記触媒インクを、テフロンシートの片面上にスクリーンプリンターを用いて塗布し、大気中、25℃で6時間乾燥させることにより、テフロンシート上に触媒層(面積1cm2あたりの白金質量0.4mg)を作製した。
【0129】
(2)膜電極接合体および単セルの組立て
上記で作製した触媒層2枚を、固体高分子電解質膜(ナフィオン(登録商標)211)の両側に配置した後、ホットプレス法により130℃、2MPaで10分間ホットプレスした後にテフロンシートを剥がして接合体とした。
【0130】
得られた接合体を、先に作製したガス拡散層を2枚用いて、実施例1に関しては溝を有する側が外側となるように、比較例1、2に関してはカーボンペーパーが外側になるようにして挟んで重ねた状態とし、これをグラファイト製バイポーラプレート(溝の幅1000μm、深さ1000μm、間隔1000μm)で挟持し、さらに金メッキしたステンレス製集電板で挟持して、評価用単セルとした。
【0131】
(3)単セル評価
実施例1ならびに比較例1および2の各評価用単セルの発電試験を行った。アノードに水素、カソードに空気を供給し、ガス流量はアノード/カソードS.R.=1.25/1.43、相対湿度アノード100%R.H./カソード100%R.H.、セル温度50℃の条件で発電試験を行った。なお、「S.R.」(Stoichiometric Ratio)とは、所定量の電流を流すために必要な水素または酸素の量の比率を意味し、「アノードS.R.=1.25」とは、所定量の電流を流すために必要な水素量の1.25倍の流量で水素を流すことを意味する。
【0132】
発電評価結果を図13に示す。図13より、フラッディングが生じやすい高加湿条件において、大径の貫通孔と小径の貫通孔とが付与されている実施例1および比較例2のガス拡散層を用いたセルは、高電流密度においても電圧が高く、ほぼ同等の良好な性能を示した。
【0133】
一方、大径の貫通孔が存在しない比較例1のガス拡散層を用いたセルは、高電流密度で電圧が低下し、フラッディングが生じている。比較例1のガス拡散層を用いたセルはガス拡散層内に大径の貫通孔が存在しないため、水通路とガス通路との分離ができず、また耐水圧が大きいため、生成した水を迅速に排出させることができないと考えられる。
【0134】
以上から、空孔径分布が制御された本発明のガス拡散層を用いた燃料電池セルは、従来のガス拡散層を用いたセルに比べて、高電流密度においても、フラッディングを生じることなく、高い電圧を維持でき、良好な性能を示すことがわかった。また、同等の空孔分布を有する、カーボンペーパーを基材として用いたガス拡散層と同等の性能が得られ、カーボンペーパーを用いずとも、性能向上が可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0135】
10、20 燃料電池、
11 固体高分子電解質膜、
12 触媒層、
13、23 ガス拡散層、
14 マイクロポーラスレイヤー、
15 基材、
16、26 バイポーラプレート、
18、28 膜電極接合体、
31 多孔体焼結粗粒子、
32 大径の貫通孔、
34 撥水剤層、
311 カーボン粒子、
312 撥水剤粒子、
313 小径の貫通孔、
81 カーボン粒子分散液、
82 カーボン粒子・撥水剤粒子分散液、
83 泳動電着用陰極、
84 泳動電着用陽極、
85 固形物(電着固形物)、
86 焼結体、
87 粉体、
89 構造体、
90 成形体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン粒子および撥水剤粒子からなる小径の貫通孔を無数に持つ多孔体焼結粗粒子が、ガスと液水の通路となる隙間を持ちつつ前記多孔体焼結粗粒子同士が連なって大径の貫通孔を無数に形成してなる燃料電池用ガス拡散層であって、
前記ガス拡散層は片面に溝を有する平板状の形状を有し、前記溝の表面の少なくとも一部に撥水剤層を有することを特徴とする、燃料電池用ガス拡散層。
【請求項2】
前記大径の貫通孔は3〜20μmに空孔径ピークを有し、
前記小径の貫通孔は0.07〜0.12μmに空孔径ピークを有する、請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項3】
前記燃料電池用ガス拡散層は、100〜700μmの厚みを有し、前記溝は、幅50〜800μm、深さ50〜600μm、ピッチ100〜800μmの構造を有する、請求項1または2に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項4】
前記多孔体焼結粗粒子は、前記カーボン粒子および撥水剤粒子が均一に分散された状態で焼結される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項5】
前記撥水剤粒子がポリテトラフルオロエチレン粒子である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項6】
前記溝の表面の一部が親水処理された、請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項7】
カーボン粒子と撥水剤粒子とを混合し、焼結して、焼結体を得る第一の工程と、
前記焼結体を粉砕して多孔体焼結粗粒子を得る第二の工程と、
前記多孔体焼結粗粒子を、溝を形成するための構造体に充填して加熱加圧成形して成形体を得る第三の工程と、
前記成形体から前記構造体を分離してガス拡散層を得る第四の工程と、
を有することを特徴とする、燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項8】
前記第一の工程において、泳動電着法を用いて前記焼結体を得る、請求項7に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項9】
前記撥水剤粒子がポリテトラフルオロエチレン粒子である、請求項7または8に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層または請求項7〜9のいずれか1項に記載の製造方法により製造された燃料電池用ガス拡散層を用いた膜電極接合体。
【請求項11】
請求項10に記載の膜電極接合体を用いた燃料電池。
【請求項1】
カーボン粒子および撥水剤粒子からなる小径の貫通孔を無数に持つ多孔体焼結粗粒子が、ガスと液水の通路となる隙間を持ちつつ前記多孔体焼結粗粒子同士が連なって大径の貫通孔を無数に形成してなる燃料電池用ガス拡散層であって、
前記ガス拡散層は片面に溝を有する平板状の形状を有し、前記溝の表面の少なくとも一部に撥水剤層を有することを特徴とする、燃料電池用ガス拡散層。
【請求項2】
前記大径の貫通孔は3〜20μmに空孔径ピークを有し、
前記小径の貫通孔は0.07〜0.12μmに空孔径ピークを有する、請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項3】
前記燃料電池用ガス拡散層は、100〜700μmの厚みを有し、前記溝は、幅50〜800μm、深さ50〜600μm、ピッチ100〜800μmの構造を有する、請求項1または2に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項4】
前記多孔体焼結粗粒子は、前記カーボン粒子および撥水剤粒子が均一に分散された状態で焼結される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項5】
前記撥水剤粒子がポリテトラフルオロエチレン粒子である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項6】
前記溝の表面の一部が親水処理された、請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項7】
カーボン粒子と撥水剤粒子とを混合し、焼結して、焼結体を得る第一の工程と、
前記焼結体を粉砕して多孔体焼結粗粒子を得る第二の工程と、
前記多孔体焼結粗粒子を、溝を形成するための構造体に充填して加熱加圧成形して成形体を得る第三の工程と、
前記成形体から前記構造体を分離してガス拡散層を得る第四の工程と、
を有することを特徴とする、燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項8】
前記第一の工程において、泳動電着法を用いて前記焼結体を得る、請求項7に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項9】
前記撥水剤粒子がポリテトラフルオロエチレン粒子である、請求項7または8に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層または請求項7〜9のいずれか1項に記載の製造方法により製造された燃料電池用ガス拡散層を用いた膜電極接合体。
【請求項11】
請求項10に記載の膜電極接合体を用いた燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3(a)】
【図3(b)】
【図3(c)】
【図3(d)】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3(a)】
【図3(b)】
【図3(c)】
【図3(d)】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−205450(P2010−205450A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46993(P2009−46993)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】
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