説明

固体高分子型燃料電池

【課題】ガスケットに強化シートを挟持させることにより、または、ガスケットを、反りを発生しにくい構造に加工することにより、ガスケット付き膜電極接合体の成形時に、熱に起因して発生するガスケット付き膜電極接合体の反りを抑制できる固体高分子型燃料電池を得ることを目的とする。
【解決手段】この発明の固体高分子型燃料電池は、高分子電解質膜3および高分子電解質膜3の外周縁部を除く高分子電解質膜3の両面に接合されたカソード4およびアノード8を有する膜電極接合体2と、高分子電解質膜3の両面に接合されたカソード4およびアノード8を囲繞する枠状に形成され、高分子電解質膜3の外周縁部を埋設して膜電極接合体2に一体成形されたガスケット14a〜14dと、を備え、さらに、強化シート15が膜電極接合体2を囲繞してガスケット14a〜14dに埋設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固体高分子型燃料電池に関し、特に膜電極接合体のシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の固体高分子電解質型燃料電池は、高分子電解質膜の両面のそれぞれに触媒層と電極基材を密着して形成した膜電極接合体、および高分子電解質膜、触媒層および電極基材を囲繞するガスケットを熱圧着してなる電解質/電極接合体を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、単位電池(単位セル)が、電解質/電極接合体を、ガス流路を備えたセパレータで挟持することにより構成される。そして、水素が一方のセパレータのガス流路から電極基材を介して高分子電解質膜の一方の面の触媒層に供給され、酸素が他方のセパレータのガス流路から電極基材を介して他方の面の触媒層に供給されている。
このとき、ガスケットが膜電極接合体と密着状態に一体化されているので、水素や酸素の触媒層/電極接合体の外部へのリークが防止されていた。
【0004】
【特許文献1】特開平11−45729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の固体高分子電解質型燃料電池では、上述したようにガスケットを有する電解質/電極接合体が、熱圧着により成形されるので、電解質/電極接合体には、その成形時に大きな変形(反り)が、主に電極基材とガスケットとの熱膨張係数の違いに起因して生じてしまう。
電解質/電極接合体に大きな反りが生じると、電解質/電極接合体をセパレータで挟持する際、電解質/電極接合体をセパレータの所望の位置に配置することが困難となる問題が生じる。
また、電解質/電極接合体に力をかけて平らに再変形させると、電極基材と触媒層との間の接合、および高分子電解質膜、触媒層および電極基材とガスケットとの間の接合が変形のストレスにより剥離しやすくなる。つまりは、従来の固体高分子電解質型燃料電池自体の信頼性が損なわれるという問題が生じる。
【0006】
この発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、ガスケットに強化シートを挟持させることにより、または、ガスケットを、反りを発生しにくい構造に加工することにより、ガスケット付き膜電極接合体の成形時に、熱に起因して発生する反りを抑制できる固体高分子型燃料電池を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の固体高分子型燃料電池は、高分子電解質膜および高分子電解質膜の外周縁部を除く高分子電解質膜の両面に接合されたカソードおよびアノードを有する膜電極接合体と、高分子電解質膜の両面に接合されたカソードおよびアノードを囲繞する枠状に形成され、高分子電解質膜の外周縁部を埋設して膜電極接合体に一体成形された樹脂製のガスケットと、を備え、さらに強化シートが膜電極接合体を囲繞してガスケットに埋設されている。
【発明の効果】
【0008】
この発明の固体高分子型燃料電池によれば、ガスケット付き膜電極接合体の成形時に、熱に起因して発生するガスケット付き膜電極接合体の反りを抑制できるので、単位セルを組み立てる時にはガスケット付き膜電極接合体をセパレータの所望の位置に容易に配置することができる。また、ガスケット付き膜電極接合体の信頼性が損なわれることが防止される。つまりは、固体高分子型燃料電池自体の信頼性が損なわれることが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る固体高分子型燃料電池の断面図である。
【0010】
図1において、固体高分子型燃料電池は、シート状の膜電極接合体2と、膜電極接合体2の外周の全域からその外方に延設するように配置されたシール材としてのガラス繊維複合樹脂シート13a,13bと、膜電極接合体2およびガラス繊維複合樹脂シート13a、13bの両面を挟持するように設けられたセパレータ12と、を備える少なくとも一つの単位セル1で構成される。
そして、必要に応じて複数の単位セル1を積層することにより、所望の起電力を有する固体高分子型燃料電池が得られる。
【0011】
また、膜電極接合体2は、高分子電解質膜3と、高分子電解質膜3の外周縁部を除いた両面の部位を挟持するように配置されたカソード4およびアノード8とを有している。
つまり、カソード4、高分子電解質膜3およびアノード8の積層方向から見た膜電極接合体2は、高分子電解質膜3の外周縁部が、カソード4およびアノード8から露出されている。以降、カソード4、高分子電解質膜3およびアノード8の積層方向を単に積層方向と記載する。
【0012】
高分子電解質膜3は、固体高分子型燃料電池が動作される高温高湿の環境において、化学的に安定であり、プロトン伝導性を有する一方で電子伝導性がなく、かつ、ガスを通さない(ガスバリア性が高い)性能を有するものが用いられる。
高分子電解質膜3の材料には、一般的にパーフルオロ系主鎖とスルホン酸基からなる高分子電解質が用いられる。また高分子電解質膜3の厚さは、特に規定されるものではないが、一般的には50μm前後の厚さのものが用いられる。
【0013】
カソード4は、カソード触媒層5、導電性多孔質層6aおよびガス拡散層7aで構成される。そして、カソード4は、カソード触媒層5、導電性多孔質層6aおよびガス拡散層7aの順に積層され、カソード触媒層5を高分子電解質膜3の一面に密着させて配置されている。
また、アノード8は、アノード触媒層9、導電性多孔質層6bおよびガス拡散層7bで構成されている。そして、アノード8は、アノード触媒層9、導電性多孔質層6bおよびガス拡散層7bの順に積層され、アノード触媒層9を高分子電解質膜3の他面に密着させて配置されている。
【0014】
カソード触媒層5およびアノード触媒層9のそれぞれは、主に触媒粒子および触媒粒子とイオンのやり取りを行う高分子電解質の混合物からなる。
触媒粒子としては、カーボンブラック粒子表面に白金などの触媒活性をもつ金属微粒子を担持したものが一般に用いられる。
なお、触媒活性をもつ金属微粒子としては、白金−ルテニウム合金などの白金合金、パラジウム、マグネシウム、チタン、マンガン、ランタン、ニッケル−ランタン合金、チタン−鉄合金および金なども用いることができる。
【0015】
また、カソード触媒層5およびアノード触媒層9には、必要に応じて無機質粒子やポリマー粒子およびカーボン粒子等の添加物を混入してもよい。こうした添加物は、カソード触媒層5およびアノード触媒層9の親水性または疎水性(撥水性)を制御したり、空孔率を向上させたりする目的で適宜用いられる。
【0016】
導電性多孔層6a,6bおよびガス拡散層7a,7bには、固体高分子型燃料電池が動作される高温高湿の環境において、化学的に安定な材質が用いられる。
導電性多孔層6a,6bは、例えば、カーボンブラック等の粒子状導電材料に、フッ素系樹脂等のバインダを混合させて構成される。
【0017】
ガス拡散層7a,7bには、例えば、カーボンペーパやカーボンクロスといったカーボン繊維で形成された導電性多孔体が用いられる。さらに、ガス拡散層7a,7bは、フッ素樹脂をカーボンペーパやカーボンクロスに定着するなどして、撥水処理が施されている。また、ガス拡散層7a,7bの一般的な厚さは、数百μm程度である
【0018】
セパレータ12には、固体高分子型燃料電池が動作される高温高湿の環境において、化学的に安定でガスバリア性のある導電性板が用いられる。
セパレータ12には、例えば、カーボンなどからなる導電性板が用いられる。
また、セパレータ12の高分子電解質膜3側の面には、ガス流路となる溝(図示せず)が形成されている。
【0019】
ガラス繊維複合樹脂シート13aは、シート状のガスケット14a,14bと、ガスケット14a、14bに挟持された強化シートとしてのガラスクロス15により構成されている。
また、ガラス繊維複合樹脂シート13bは、シート状のガスケット14c,14dと、ガスケット14c、14dに挟持されたガラスクロス15により構成されている。
【0020】
そして、ガスケット14a〜14dには、カソード4およびアノード8の外形形状に対応する窓が形成されている。また、ガラスクロス15には、ガスケット14a〜14dの窓の大きさと同じかそれよりも大きな窓が形成され、ガスケット14a〜14dの窓を囲んでいる。いずれにしてもカソード4およびアノード8から離れたガスケット14a,14bまたはガスケット14c,14dの外周側の部位には、ガラスクロス15が挟持されている。
【0021】
即ち、ガスケット14a〜14dが、高分子電解質膜3の両面に接合されたカソード4およびアノード8を囲繞する枠状に形成され、高分子電解質膜3の露出する外周縁部を埋設して膜電極接合体2に一体成形されている。さらに、ガラスクロス15が膜電極接合体2を囲繞して、ガスケット14a〜14dに埋設されている。
また、ガスケット14a〜14dの厚さは、膜電極接合体の2の厚さに対応させて適宜設定される。
【0022】
そして上述のように、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bは、膜電極接合体2の外周の全域から外方に延設するように配置されている。
なお、2つのガラス繊維複合樹脂シート13a,13bが、膜電極接合体2の外周の全域から外方に延設されるものとして説明したが、1つのガラス繊維複合樹脂シートや3つ以上のガラス繊維複合樹脂シートが、膜電極接合体2の外周の全域から外方に延設されていてもよい。
【0023】
ガスケット14a〜14dには、固体高分子型燃料電池が動作される高温高湿の環境において、化学的に安定でガスバリア性の高い材料が用いられる。
例えば、ガスケット14a〜14dにはポリオレフィン系熱可塑樹脂シートを用いることができる。また、ガスケット14a〜14dとしては、熱硬化性樹脂シートを用いてもよい。
また、強化シートとしてのガラスクロス15は、ガスケット14a〜14dおよび膜電極接合体2を一体に成形する温度で軟化せず、引っ張り強度が高く、導電性がなく、かつ水分の吸収性のないガラス繊維からなる織布である。また、強化シートとして、ガラスクロス15と同様の性質を持つ有機系繊維からなる織布を用いることもできる。例えば、有機系繊維としてアラミド繊維シートなどを用いることができる。
さらに、強化シートとして、ガラス繊維や有機系繊維などの不織布も用いることができるが、厚さを薄くできるガラスクロス15などの織布を用いるのが好ましい。
【0024】
そして、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bには、その厚さ方向に複数のマニホールド穴16が形成(穿設)されている。マニホールド穴16は、上述の各セパレータ12の溝に連結され、カソード4に水素ガスや供給したり、アノード8に酸素ガスを供給したりするために利用される。さらに、マニホールド穴16は、固体高分子型燃料電池を冷却するための冷却液を供給するために形成される場合もある。従って、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bは、冷却液などに対しても化学的に安定なものが用いられる。
【0025】
そして、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bおよび膜電極接合体2で構成されるガスケット付き膜電極接合体としてのガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体が以下のように成形される。まず、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bを高分子電解質膜3の露出する外周縁部を埋設するように、カソード4およびアノード8側からそれぞれ対向配置させる。この状態で積層方向に圧力がかかるようにホットプレスを行うことにより、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bが膜電極接合体2と一体に成形される。
【0026】
上記のように構成されたガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体のガラス繊維複合樹脂シート13a,13bに埋設されているガラスクロス15は、引っ張り強度が高いので、熱によって発生するガスケット14a〜14dを収縮させる応力に抗して、ガスケット14a〜14dの変形を抑制するように働く。
【0027】
また、カソード4やアノード8は、ガスケット14a〜14dに対して熱膨張率が小さく、カソード4及びアノード8から離れたガスケット14a,14bまたはガスケット14c,14dの部位が、熱収縮により大きく変形されるものと推定される。従って、カソード4及びアノード8から離れたガスケット14a,14bまたは14c,14dの部位にガラスクロス15を挟持させることで、より効果的にガスケット14a〜14dの変形が抑制される。つまり、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bと膜電極接合体2とに熱を加えて一体成形した時に、ガラス繊維複合樹脂シート付き電極接合体の反り量が低減される。
【0028】
以下、実施の形態1の固体高分子型燃料電池に適用される単位セル1のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体の実施例1〜実施例6と、比較例について図面を参照して説明する。
図2はこの発明の実施の形態1に係る固体高分子型燃料電池における実施例1のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体の断面図、図3はこの発明の実施の形態1に係る固体高分子型燃料電池における実施例2のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体の断面図、図4はこの発明の実施の形態1に係る固体高分子型燃料電池における実施例3のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体の断面図、図5はこの発明の実施の形態1に係る固体高分子型燃料電池における実施例4のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体の断面図、図6はこの発明の実施の形態1に係る固体高分子型燃料電池における実施例5のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体の断面図、図7はこの発明の実施の形態1に係る固体高分子型燃料電池における実施例6のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体の断面図、図8は比較例としての固体高分子型燃料電池におけるガスケットが一体化された膜電極接合体の断面図である。
また、カソード4は、図1に示されるようにカソード触媒層5、導電性多孔質層6aおよびガス拡散層7aを有し、アノード8は、アノード触媒層9、導電性多孔質層6bおよびガス拡散層7bを有しているが、図2〜図8においてはカソード4およびアノード8の詳細構成の図示は省略した。
【0029】
実施例1.
図2に示される実施例1のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Aは、以下のように構成した。
高分子電解質膜3は、厚さ50μmのNafion(デュポン社登録商標)膜を用いた。また、その外形形状は160mm角の正方形となっている。
カソード4およびアノード8の外形形状は、150mm角の正方形であり、その中心が、高分子電解質膜3の中心に一致し、かつ、各辺は高分子電解質膜3の各辺とそれぞれ平行になっている。また、カソード4およびアノード8のガス拡散層7a,7bには、厚さ300μm、空孔率80%のカーボンペーパを用いた。また、カソード触媒層5はカーボンブラック表面に、白金が担持されたものを用いた。また、アノード触媒層9は、カーボンブラック表面に白金−ルテニウム合金が担持されたものを用いた。
ガスケット14a〜14dのそれぞれは、外形形状が210mm角の正方形で、厚さ140μmのポリオレフィン系熱可塑性樹脂シートで形成されている。またガスケット14a〜14dの窓の中心は高分子電解質膜3の中心に一致し、かつ、各辺は高分子電解質膜3の各辺とそれぞれ平行になっている。
【0030】
また、ガラスクロス15は、厚さ60μmで、ガスケット14a〜14dと同じ外形で同じサイズに形成されている。また、ガラスクロス15の窓の大きさは、その一辺が、高分子電解質膜3の一辺の長さより10mm長い正方形に形成され、窓の中心は、高分子電解質膜3の中心に一致し、かつ、各辺は高分子電解質膜3の各辺とそれぞれ平行になっている。
【0031】
そして、同じ構成のガラス繊維複合樹脂シート13a,13bが、高分子電解質膜3の厚さ方向の中心を含み、かつ、膜電極接合体2の厚さ方向に垂直な面(以降、基準面とする)に対して対称に、かつ対向する面を密着させて配置されている。即ち、ガラスクロス15は、基準面から等距離に配置されている。
【0032】
ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Aの製造方法について説明する。
まず、カソード4の製造方法について説明する。
ガス拡散層7aは、以下のように形成した。カーボンペーパをフッ素樹脂ディスパージョン液に浸漬し、フッ素樹脂ディスパージョン液を乾燥させた後に加熱した。これにより、フッ素樹脂がカーボンペーパの表面(炭素繊維表面)に定着され、撥水処理が施されたガス拡散層7aが得られた。
【0033】
また、導電性多孔層6aは、カーボンブラックにフッ素樹脂ディスパージョン液を混合したものをガス拡散層7aの一面にスクリーン印刷により塗布した後、さらに乾燥させて形成した。
【0034】
さらに、カソード触媒層5は、導電性多孔層6aの表面に以下のカソード触媒ペーストをスクリーン印刷により塗布した後、さらに乾燥させて形成した。
カソード触媒ペーストは、カソード触媒粒子1重量部に水1重量部および水を溶媒とする濃度10%のパーフルオロ系高分子電解質溶液3重量部を添加し、攪拌混合することにより得た。カソード触媒粒子としては、白金をカーボンブラック上に50%担持させたものを用いた。なお、パーフルオロ系高分子電解質溶液の溶媒はエタノールなどでもよい。
以上の方法によりカソード4を得た。
【0035】
次いで、アノード8の製造方法について説明する。
まず、ガス拡散層7bおよび導電性多孔層6bを、カソード4のガス拡散層7aおよび導電性多孔層6aの製造方法と同様の手順で形成した。
さらに、導電性多孔層6bの表面に、以下のアノード触媒ペーストをスクリーン印刷により塗布した後、さらに乾燥させてアノード触媒層9を形成した。
【0036】
アノード触媒ペーストは、アノード触媒粒子1重量部に水1重量部および水を溶媒とする濃度10%のパーフルオロ系高分子電解質溶液6重量部を添加し、攪拌混合することにより得た。アノード触媒粒子としては、白金−ルテニウム系金属をカーボンブラック上に50%担持させたものを用いた。
以上の方法によりアノード8を得た。
また、上記のように製造されたカソード4およびアノード8を、その外形形状が150mm角の正方形になるようにトリミングした。
【0037】
また、高分子電解質膜3を、その一辺がカソード4およびアノード8の一辺より10mm長い正方形、つまり、160mm角の正方形になるようにトリミングした。(削除)
【0038】
次いで、膜電極接合体2の形成方法について説明する。
そして、高分子電解質膜3の一面の中央にカソード触媒層5が接触するように、カソード4を配置し、高分子電解質膜3の他面の中央にアノード触媒層9が接触するようにアノード8を配置した。この状態で、カソード4およびアノード8の反高分子電解質膜3側から、積層方向に圧力をかけ、150℃で3分間ホットプレスすることにより、膜電極接合体2を得た。
【0039】
次いで、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bの形成方法を説明する。
ガスケット14a〜14dの中央にカソード4およびアノード8の外形に対応する大きさの窓を形成した。
【0040】
また、ガラスクロス15の中央に高分子電解質膜3の一辺の長さより一辺の長さが10mm長い正方形の窓を形成した。
【0041】
そして、ガスケット14a,14bおよびガスケット14c,14dのそれぞれに、ガラスクロス15を挟持させ、さらに、180℃でホットプレスすることで、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bを得た。
【0042】
次いで、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bを膜電極接合体2の外周部に一体成形する方法を説明する。
ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bのガスケット14a,14bおよびガスケット14c,14dの窓に、膜電極接合体2のカソード4およびアノード8をそれぞれ嵌め込み、カソード4およびアノード8の外周部でガラス繊維複合樹脂シート13a,13bを対向配置させる。さらに、膜電極接合体2の積層方向の両側から膜電極接合体2およびガラス繊維複合樹脂シート13a,13bに圧力がかかるように150℃で2分間ホットプレスし、膜電極接合体2とガラス繊維複合樹脂シート13a,13bとを一体化させた。さらに、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bを貫通するマニホールド穴16を所定の場所に形成した。
以上により、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Aを得た。
【0043】
実施例2.
図3に示される実施例2のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Bは、以下のように構成した。
ガラス繊維複合樹脂シート13aのガスケット14a,14bの厚さは280μmのものを用いた。また、ガラスクロス15の窓は、その一辺が、高分子電解質膜3の一辺の大きさより3mm大きい正方形に形成されている。
そして、ガラス繊維複合樹脂シート13aのガラスクロス15は、その厚さ方向の中心が基準面に一致されている。また、ガラス繊維複合樹脂シート13bの配設は省略されている。
なお、他の構成は上記実施例1と同様に構成されている。
【0044】
次いで、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Bの製造方法について説明する。
膜電極接合体2は実施例1と同様の手順により得た。
さらに、ガラス繊維複合樹脂シート13aを膜電極接合体2の外周部に一体成形する方法を説明する。
ガスケット14a,14bの中央に、カソード4およびアノード8の外形形状に対応する大きさの正方形の窓を形成した。
【0045】
さらに、ガラスクロス15の中央に高分子電解質膜3の一辺の長さより、一辺の長さが3mm大きな正方形の窓を形成した。
そして、膜電極接合体2が、ガラスクロス15の窓内の中心に配置されるように膜電極接合体2およびガラスクロス15の位置合わせを行った。さらに2つのガスケット14a,14bのそれぞれの窓をカソード4およびアノード8に嵌めこみ、ガスケット14a,14bでガラスクロス15を挟持させた。
【0046】
さらに、膜電極接合体2の積層方向の両側から膜電極接合体2およびガラス繊維複合樹脂シート13aに圧力がかかるように150℃で2分間ホットプレスし、膜電極接合体2、ガスケット14a,14bおよびガラスクロス15を同時に一体化させた。これにより、ガラス繊維複合樹脂シート13aと膜電極接合体2とが一体に形成された。
さらに、ガラス繊維複合樹脂シート13aを貫通するマニホールド穴16を所定の場所に形成した。
以上により、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Bを得た。
【0047】
実施例3.
図4に示される実施例3のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Cは、以下のように構成した。
ガラス繊維複合樹脂シート13aのガラスクロス15の窓の大きさが、カソード4およびアノード8に対応したサイズに形成されている。また、高分子電解質膜3のカソード4およびアノード8の外周よりも外方に延設される部位は、アノード8側で、ガラスクロス15と重なるように曲げ加工されている。
なお、他の構成は上記実施例2と同様に構成されている。
【0048】
実施例3のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Cの製造方法について説明する。
膜電極接合体2は実施例1と同様の手順により得た。
次いで、ガスケット14a,14bの中央に、カソード4およびアノード8の外形形状に対応する大きさの正方形の窓を形成した。
また、ガラスクロス15の中央に、カソード4およびアノード8の外形形状に対応する大きさの正方形の窓を形成した。
【0049】
そして、高分子電解質膜3のカソード4およびアノード8の外周よりも外方に延設される部位の断面が以下になるように加工した。カソード4およびアノード8の外周から突出される高分子電解質膜3の先端をアノード8の側端面に向かって該垂直に折り曲げ、さらにその先端を反アノード8側に垂直に折り曲げた。このとき、高分子電解質膜3において、アノード8の側端面と略平行な部位の長さは、ガラスクロス15の厚さと概略同じになっている。
【0050】
そして、ガラスクロス15の窓をカソード4に嵌めこんでガラスクロス15を押し込み、高分子電解質膜3の先端側の折り曲げ部位に当接させる。つまり、ガラスクロス15がカソード4およびアノード8に挟持されている高分子電解質膜3の部位の外周から外方に延設されるように配置した。さらに2つのガスケット14a,14bのそれぞれの窓をカソード4およびアノード8に嵌めこんだ。
【0051】
さらに、膜電極接合体2の積層方向の両側から膜電極接合体2およびガスケット14a,14bおよびガラスクロス15に圧力がかかるように150℃で2分間ホットプレスし、膜電極接合体2、ガスケット14a,14bおよびガラスクロス15を同時に一体化させた。これにより、ガラス繊維複合樹脂シート13aと膜電極接合体2とが一体に形成された。
さらに、ガラス繊維複合樹脂シート13aを貫通するマニホールド穴16を所定の場所に形成した。
以上により、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Cを得た。
【0052】
実施例4.
図5に示される実施例4のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Dは、以下のように構成した。
ガラス繊維複合樹脂シート13aのガラスクロス15の窓の外形形状が、高分子電解質膜3の一辺の長さより、一辺の長さが8mm大きな正方形に形成されている。
なお、他の構成は上記実施例2と同様に構成されている。
【0053】
ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Dの製造方法について説明する。
膜電極接合体2は実施例1と同様の手順により得た。
次いで、ガスケット14a,14bの中央に、カソードおよびアノードの外形形状に対応する大きさの正方形の窓を形成した。
さらに、ガラスクロス15の中央に高分子電解質膜3の一辺の長さより、一辺の長さが8mm大きな正方形の窓を形成した。
以降、上記実施例2において、ガラスクロス15の中央に窓を形成した後のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Bの製造手順と同様にして、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Dを得た。
【0054】
実施例5.
図6に示される実施例5のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Eは、以下のように構成した。
ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bのガスケット14a,14cには、その厚さが100μmの熱可塑性樹脂シートを用いた。
ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bのガスケット14b,14dには、その厚さが190μmの熱可塑性樹脂シートを用いた。
【0055】
ガラス繊維複合樹脂シート13aが、厚さ100μmのガスケット14bを高分子電解質膜3に向けてカソード4側に配置され、ガラス繊維複合樹脂シート13bが、厚さ190μmのガスケット14cを高分子電解質膜3に向けた状態にアノード8側に配置されている。このように、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bのガラスクロス15は、基準面に対して非対称に配置されている。
なお、他の構成は上記実施例1と同様に構成されている。
【0056】
ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Eの製造方法について説明する。
膜電極接合体2は実施例1と同様の手順により得た。
次いで、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bの形成方法を説明する。
厚さ100μmのガスケット14a,14cおよび厚さ190μmのガスケット14b,14dを用意し、それぞれの中央にカソード4およびアノード8の外形形状に対応する大きさの窓を形成した。
また、ガラスクロス15の中央に高分子電解質膜3の一辺の長さより一辺の長さが100mm長い正方形の窓を形成した。
【0057】
そして、2枚のガスケット14a,14bおよびガスケット14c,14dで、ガラスクロス15をそれぞれ挟持させ、全体を180℃でホットプレスすることで、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bを作製した。
【0058】
そして、一方のガラス繊維複合樹脂シート13aを厚さ190μmのガスケット側が高分子電解質膜3側に配置されるようにカソードに嵌めこみ、他方のガラス繊維複合樹脂シートを厚さ100μmのガスケット側が高分子電解質膜3側に配置されるようにアノードに嵌め込んだ。
【0059】
さらに、膜電極接合体2の積層方向の両側から膜電極接合体2およびガラス繊維複合樹脂シートに圧力がかかるように150℃で2分間ホットプレスし、膜電極接合体2およびガラス繊維複合樹脂シート13a,13bを一体化させた。
さらに、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bを貫通するマニホールド穴16を所定の場所に形成した。
以上により、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Eを得た。
【0060】
実施例6.
図7に示される実施例6のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Fは、以下のように構成した。
ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bのガスケット14a,14dには、厚さ190μmの熱可塑性樹脂シートを用いた。
また、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bのガスケット14b,14cには、厚さ100μmの熱可塑性樹脂シートを用いた。
そして、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bが、厚さ100μmのガスケット14b,14cを高分子電解質膜3に向けて対向配置されている。
なお、他の構成は上記実施例1と同様に構成されている。
【0061】
ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Fの製造方法について説明する。
膜電極接合体2は実施例1と同様の手順により得た。
次いで、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bの形成方法を説明する。
厚さ100μmのガスケット14b,14cおよび厚さ190μmのガスケット14a,14dを用意し、それぞれの中央にカソード4およびアノード8の外形形状に対応する大きさの窓を形成した。
また、ガラスクロス15の中央に高分子電解質膜3の一辺の長さと一辺の長さが10mm長い正方形の窓を形成した。
【0062】
そして、2枚のガスケット14a,14bおよびガスケット14c,14dで、ガラスクロス15をそれぞれ挟み全体を180℃でホットプレスすることで、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bを作製した。
ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bを、厚さ100μmのガスケット側が高分子電解質膜3側で対向配置されるように、ガスケット14a,14bおよびガスケット14c,14dの窓をそれぞれカソード4およびアノード8に嵌めこんだ。
【0063】
さらに、膜電極接合体2の積層方向の両側から膜電極接合体2およびガラス繊維複合樹脂シート13a,13bに圧力がかかるように150℃で2分間ホットプレスし、膜電極接合体2およびガラス繊維複合樹脂シート13aを一体化させた。
さらに、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bを貫通するマニホールド穴16を所定の場所に形成した。
以上により、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17Fを得た。
【0064】
比較例.
図8に示されるガスケット14a,14bが一体化した膜電極接合体2は、以下のように構成した。
厚さ300μmのガスケット14a,14bが、ガスケット14aの一面とガスケット14bの他面が、基準面で密着された状態に対向配置されている。また、ガラスクロス15の配置を省略した。
なお、他の構成は上記実施例2と同様に構成されている。
次いで、比較例のガスケット14a,14bが一体化された膜電極接合体2の製造方法について説明する。
膜電極接合体2は上記実施例1と同様に構成した。
【0065】
厚さ300μmのガスケットを2枚用意し、それぞれの中央に、カソード4およびアノード8の外形に対応する大きさの窓を形成した。
そして、2つのガスケット14a,14bの窓をカソード4およびアノード8に合わせて、ガスケット14a,14bのそれぞれをカソード4およびアノード8に嵌めこんだ。
さらに、膜電極接合体2の積層方向の両側から膜電極接合体2およびガラス繊維複合樹脂シートに圧力がかかるように150℃で2分間ホットプレスし、膜電極接合体とガスケットを一体化させた。
さらに、ガスケット14a,14bを貫通するマニホールド穴16を所定の場所に形成した。
以上により、ガスケット14a,14bが一体化された膜電極接合体2を得た。
【0066】
上記実施例1〜実施例6のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17F
は、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13b(または13a)により、膜電極接合体2がシールされ、膜電極接合体2の外部にガスがリークされることが抑制される。
【0067】
そして、単位セル1は、上記実施例1〜実施例6のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fをセパレータ12で挟持させることにより得られる。このとき、セパレータ12には予め、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fのマニホールド穴16に対応する位置にセパレータ12を貫通するマニホールド穴が空けられている。
また、セパレータ12は膜電極接合体2に接着される必要はなく、例えば単位セル1を所望の層数を積層した後、複数の単位セル1の積層方向の両側から圧力がかかる形状に成形された容器(図示せず)に収納するなどして固体高分子燃料型電池を得ることができる。
【0068】
次に、実施例1〜実施例6のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fおよび比較例のガスケット14a,14bが一体化された膜電極接合体2の評価について説明する。
【0069】
上記の方法にて製造されたガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fの反り量を以下のように定義する。
即ち、反りを伴うガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fを、水平に配置された平板上に下に凸になるように配置する。そして、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fに力が加えられていない状態で、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fの平板の当接面と、鉛直方向に最も反り生じているガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fの部分の距離を反り量としている。つまり、通常は、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fの平板との当接箇所と、該当接箇所から最も水平距離の長いガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fの角部のいずれかとの間の鉛直方向の距離が反り量となる。
【0070】
実施例1〜実施例6のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17F成形後の反り量および比較例のガスケット14a,14b付き膜電極接合体2の反り量を測定した結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1において、実施例1〜実施例6の反り量は、それぞれ、2.2mm、4.2mm、3.1mm、4.8mm、9.9mmおよび3.9mmであった。これに対し、比較例の反り量は18mmであった。
ガラス繊維複合樹脂シート13a(または13a,13b)が膜電極接合体2の外周に配置された実施例1〜実施例6の反り量は、ガスケット14a,14bのみが膜電極接合体2の外周に配置された比較例の反り量より小さくなった。
【0073】
上記結果について考察する。上述したように、ガラスクロス15は、その引っ張り強度が高いので、熱によって発生するガスケット14a〜14dを収縮させる応力に抗して、ガスケット14a〜14dの変形を抑制する。一方、比較例は、ガラスクロス15が配置されていないので、熱によって発生するガスケット14a〜14dを収縮させる応力が、そのままガスケット14a〜14dを反らせる力として働く。従って、各実施例1〜実施例6の反り量が比較例の反り量より小さくなったものと判断される。
【0074】
また、ガラスクロス15が、ガラスクロス15をガスケット14a,14bのトータルの厚さの厚さ中心に配置またはガスケット14a〜14dのトータルの厚さの厚さ中心に対して対称に配置された実施例1〜実施例4および実施例6は、ガラスクロス15が、ガスケット14a〜14dのトータルの厚さ方向の中心に対して非対称に配置された実施例5より反り量が大幅に小さくなった。
【0075】
上記結果について考察する。
実施例1〜実施例4および実施例6は、ガラスクロス15が、ガスケット14a〜14dまたはガスケット14a,14bのトータルの厚さの厚さ中心に配置、または厚さ中心に対して対称に配置されているので、ガラスクロス15の両面のガスケット14a〜14dの部位で発生する熱収縮の応力は均一であると判断される。
【0076】
一方、実施例5は、ガラスクロス15が、ガスケット14a〜14dのトータルの厚さ方向の中心に対して非対称に配置されているので、ガラスクロス15の両面のガスケット14a〜14dの部位で発生する熱収縮による応力が部分的に集中される箇所があるものと判断される。これにより、実施例5では、ガスケット14a〜14dの熱収縮による大きな応力を受けるガラスクロス15の部位の反り量が大きくなる。
従って、実施例1〜実施例4および実施例6の反り量は、実施例5の反り量より小さくなったものと判断される。
【0077】
また、ガラスクロス15が、ガスケット14a〜14dのトータルの厚さの厚さ中心に対して対称に配置された場合とガラスクロス15がガスケット14a,14bのトータルの厚さの厚さ中心に配置された場合について検討する。
【0078】
実施例1および実施例6では、2層のガラスクロス15をガスケット14a〜14dのトータルの厚さの厚さ中心に対して対称に配置させている。この場合、予めガラス繊維複合樹脂シート13a,13bの形成後にガラス繊維複合樹脂シート13a,13bを膜電極接合体2と一体化させることが可能である。ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bのそれぞれのガラスクロス15は、所定の厚さのガスケット14a,14bおよびガスケット14c,14dに挟持されるので、ガスケット14a,14bおよびガスケット14c,14dのトータルの厚さの所定の部位で必ず挟持されることになる。従って、2層のガラスクロス15をトータルの厚さの厚さ中心に対して対称に配置させることが、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bをカソード4およびアノード8にはめ込むとで自動的に行える。
【0079】
これに対し、実施例2〜実施例4では、1層のガラスクロス15をガスケット14a,14bのトータルの厚さの厚さ中心に配置させている。この場合、ガラスクロス15、ガスケット14a,14bおよび膜電極接合体2の一体成形時に、ガラスクロス15の厚さ方向の中心を基準面に合わせ、ガラスクロス15の窓中心を膜電極接合体3の中心に合わせる工程が必要となるが、ガラスクロス15は大変薄いので扱いづらく、位置調整が難しくなる場合がある。
【0080】
したがって、1層のガラスクロス15をガスケット14a,14bのトータルの厚さの厚さ中心に配置させるより、2層のガラスクロス15をガスケット14a〜14dのトータルの厚さの厚さ中心に対して対称に積層させるのが容易となる。
【0081】
また、ガラスクロス15が一層であり、かつガラスクロス15が、ガスケット14a,14bのトータルの厚さ方向の中心に配置された実施例3〜実施例5は、ガラスクロス15に形成された窓の大きさが最も小さい実施例3での反り量がもっとも小さくなり、窓の大きさが最も大きい実施例5の反り量が他に比べて大きくなった。
【0082】
上記結果について考察する。
ガラスクロス15の面積は、窓が大きくなるほど小さくなる。ガラスクロス15の面積が小さくなるほど熱によって発生するガスケット14a〜14dを収縮させる応力に抗する力がなくなり、ガスケット14a〜14dの変形を抑制する効果が小さくなるものと判断される。
【0083】
しかしながら、ガラスクロス15の窓の大きさが、高分子電解質膜3の大きさより小さい実施例3では、両者の干渉をなくすように高分子電解質膜3の加工を施す必要がある。また、高分子電解質膜3とガラスクロス15との重なり部分では、ガラスクロス15から放出されるイオン性不純物が高分子電解質膜3に伝導しないように対策をとる必要性が生じる場合もある。従って、好ましくは、ガラスクロス15の窓の外形形状は、高分子電解質膜3と重ならないように形成するのがよい。
【0084】
この実施の形態1によれば、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bが、ガスケット14a,14bまたはガスケット14c,14dにガラスクロス15を挟持させて形成されている。従って、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bが膜電極接合体2の外周に配置された状態でホットプレスによりガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fを成形する際、ガラスクロス15がガスケット14a〜14dの収縮力に抗して、ガスケット14a〜14dが変形するのを抑制するため、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fの成形後の反り量を小さくすることができる。
【0085】
従って、その後の工程で、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fをセパレータで挟持する際、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fをセパレータ12の所望の位置に配置することが容易になる。
【0086】
また、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fの成形後の反り量が小さいので、ガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fに力をかけて平らに再変形する場合でも、その変形によるストレスは小さく、つまりは、固体高分子型燃料電池自体の信頼性が損なわれることがない。
【0087】
また、ガラスクロス15をガスケット14a,14bのトータルの厚さの厚さ中心に配置またはガスケット14a〜14dのトータルの厚さの厚さ中心に対して対称に配置させることで、より効果的にガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体17A〜17Fの反りを抑制することができる。さらに、ガラスクロス15の積層数を2層とすることで、ガラス繊維複合樹脂シート13a,13bをカソード4およびアノード8に嵌め込むだけで、ガラスクロス15をガスケット14a〜14dのトータルの厚さの厚さ中心に対して対称に配置させることが容易に行える。
【0088】
また、ガラスクロス15が、膜電極接合体2の外周に配置されたガスケット14a〜14dのトータルの厚さの厚さ中心に配置した場合、ガラスクロス15の窓の大きさを高分子電解質膜3の外形形状より大きくすることで高分子電解質膜3と重ならせることなくガラスクロス15を配置させることができる。従って、高分子電解質膜3をガラスクロス15の形状に合わせて加工するという手間が省ける。また、ガラスクロス15から放出されるイオン性不純物が高分子電解質膜3を汚染することがないので、汚染に対して何らかの対策をとる必要もない。
【0089】
なお、この実施の形態1では、ガラスクロス15を、1層または2層に積層するものとして説明したが、ガラスクロス15は、1層または2層に積層するものに限定されるものではなく、3層以上に積層してもよい。この場合、ガスケット14a〜14dのトータルの厚さの厚さ中心に対して対称になるようにガラスクロス15を積層させるのが望ましい。
【0090】
実施の形態2.
図9はこの発明の実施の形態2に係る固体高分子型燃料電池のガスケット付き膜電極接合体の上面図である。
【0091】
図9において、ガスケット付き膜電極接合体19は、マニホールド穴16が、ガスケット14a,14bのうち対向する2辺に沿って、所定の間隔をあけて形成されている。
また、スリット状の切り欠き18が各マニホールド穴16の間のガスケット14a,14bの部位に形成されている。切り欠き18により、マニホールド穴16の間のガスケット14a,14bの部位が分離される。
このとき、ガスケット14a,14bは、アノード8の外周から距離Aまでの範囲とマニホールド穴16の外周から距離Aの範囲のガスケット14a,14bの部位を残して切り欠かれている。
【0092】
距離Aは、ガスケット14a,14b装着の本来の目的である水素や酸素のガスリークの防止機能が維持することのできるガスケットの大きさを決定するものである。
即ち、切り欠き18が形成されたガスケット14a,14bは、膜電極接合体2からのガスリークを抑制するために、カソード4およびアノード8の外周から距離A以上で、かつ、マニホールド穴16の外周から距離A以上を有する外形形状に形成されていればよい。
なお、他の構成は上記比較例と同様に構成されている。
【0093】
実施例7.
実施例7のガスケット付き膜電極接合体19は、以下のように構成した。
マニホールド穴16の形状は、長辺35.3mmおよび短辺10mmの長方形に形成されている。そして、マニホールド穴16が、ガスケット14a,14bの対向する2辺に沿って3つずつ形成されている。このとき、マニホールド穴16は、その長辺がガスケット14a,14bの対向する2辺と平行になるように形成されている。
【0094】
また、2mm幅の切り欠き18が、隣接するマニホールド穴16の中間部にガスケット14a,14bの厚さ方向に形成されている。このとき、距離Aは10mmとした。
また、ガラスクロス15の配置は省略されている。
なお、他の構成は上記実施例1と同様に構成されている。
【0095】
次いで、実施例7のガスケット付き膜電極接合体19の製造方法について説明する。
まず、上記実施例1と同様に、膜電極接合体2を得た。
さらに、ガスケット14a,14bには、後工程で形成されるマニホールド穴16の形成予定の位置に対して、切り欠き18が各マニホールド穴16の間のガスケット14a,14bの部位にスリット状に形成した。このとき、切り欠き18は、マニホールド穴16の外周から距離Aの範囲のガスケット14a,14bの部位を残して形成されている。
【0096】
さらに、ガスケット14a,14bの窓から距離Aの範囲のガスケット14a,14bの部位が残るように、ガスケット14a,14bを切取った。
【0097】
そして、ガスケット14a,14bの窓に、膜電極接合体2のカソード4およびアノード8をそれぞれ嵌め込み、カソード4およびアノード8の外周部でガスケット14a,14bを対向配置させる。さらに、膜電極接合体2の積層方向の両側から膜電極接合体2およびガスケット14a,14bに圧力がかかるように150℃で2分間ホットプレスし、膜電極接合体2とガスケット14a,14bとを一体化させた。
【0098】
さらに、ガスケット14a,14bを貫通するマニホールド穴16を所定の場所に形成した。
以上により、ガスケット付き膜電極接合体19を得た。
【0099】
また、比較例として、実施の形態1のガスケット14a,14bが一体化された膜電極接合体2と同様のものを用意した。
【0100】
次に、ガスケット付き膜電極接合体19の形成後の反り量および比較例のガスケット14a,14b付き膜電極接合体2の反り量を、上記実施の形態1の実施例1〜実施例6の反り量の測定方法と同様の測定方法で測定した。
その結果、実施例7の反り量は8.2mmであり、比較例の反り量18mmと比較して格段に反り量が減少した。
【0101】
次いで、上記評価結果をについて検討する。
実施例7では、スリット状の切り欠き18が、膨張係数の小さいカソード4およびアノード8から距離の離れたガスケット14a,14bの外周部におけるマニホールド穴16の間の部位に形成されている。
【0102】
ガスケット14a,14bと膜電極接合体2を一体化する際の熱に起因する反りは、膨張係数の小さいカソード4およびアノード8から距離の離れたガスケット14a,14bの外周部の収縮に起因する応力が大きく影響するものと推定される。
ガスケット14a,14bの外周部におけるマニホールド穴16の間の部位が、切り欠き18により分離されたので、ガスケット14a,14bの収縮による応力が、切り欠き18に吸収され、ガスケット14a,14b全体の収縮が抑制されるものと判断される。
【0103】
従って、この実施の形態2によれば、ガスケット14a,14bの外周部におけるマニホールド穴16の間の部位が、切り欠き18により分離されたので、ガスケット14a,14b全体の収縮を抑制することができる。即ち、ガスケット付き膜電極接合体19の成形時の熱に起因して発生するガスケット付き膜電極接合体19の反りを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】この発明の実施の形態1に係る固体高分子型燃料電池の断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る固体高分子型燃料電池における実施例1のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体の断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る固体高分子型燃料電池における実施例2のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体の断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る固体高分子型燃料電池における実施例3のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体の断面図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係る固体高分子型燃料電池における実施例4のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体の断面図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る固体高分子型燃料電池における実施例5のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体の断面図である。
【図7】この発明の実施の形態1に係る固体高分子型燃料電池における実施例6のガラス繊維複合樹脂シート付き膜電極接合体の断面図である。
【図8】比較例としての固体高分子型燃料電池におけるガスケットが一体化された膜電極接合体の断面図である。
【図9】この発明の実施の形態2に係る固体高分子型燃料電池のガスケット付き膜電極接合体の上面図である。
【符号の説明】
【0105】
2 膜電極接合体、3 高分子電解質膜、4 カソード、8 アノード、14a〜14d ガスケット、15 ガラスクロス(強化シート)、16 マニホールド穴、18 切り欠き。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜および上記高分子電解質膜の外周縁部を除く該高分子電解質膜の両面にそれぞれ接合されたカソードおよびアノードを有する膜電極接合体と、
上記高分子電解質膜の両面に接合された上記カソードおよび上記アノードを囲繞する枠状に形成され、上記高分子電解質膜の外周縁部を埋設して上記膜電極接合体に一体成形されたガスケットと、
を備えた固体高分子型燃料電池において、
強化シートが上記膜電極接合体を囲繞して上記ガスケットに埋設されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
【請求項2】
上記強化シートは上記ガスケットの厚さ方向に複数層積層され、かつ、複数の上記強化シートが上記ガスケットの厚さの厚さ中心に対して対称に配置されていることを特徴とする請求項1記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項3】
上記強化シートの積層数は2層であることを特徴とする請求項2記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項4】
上記強化シートが、上記ガスケットの厚さの厚さ中心に1層埋設されていることを特徴とする請求項1記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項5】
上記強化シートは、上記高分子電解質膜の外周から所定の間隔をおいて配置されていることを特徴とする請求項4記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項6】
高分子電解質膜および上記高分子電解質膜の外周縁部を除く該高分子電解質膜の両面にそれぞれ接合されたカソードおよびアノードを有する膜電極接合体と、
上記高分子電解質膜の両面に接合された上記カソードおよび上記アノードを囲繞する枠状に形成され、上記高分子電解質膜の上記外周縁部に埋設して上記膜電極接合体に一体成形されたガスケットと、を備えた固体高分子型燃料電池において、
上記カソードおよびアノードにガスを供給するマニホールド穴が上記ガスケットに複数穿設され、
切り欠きが上記マニホールド穴の間の上記ガスケットの部位にスリット状に形成されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−123957(P2008−123957A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309238(P2006−309238)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/要素技術開発/高温熱利用型MEAの研究開発」委託契約、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】