説明

固型化透析用剤およびその製造方法

【課題】添加剤を混和しなくとも打錠による固型化透析用剤の割れや欠けを防止することができ、連続打錠に適応して固型化透析用剤の実用化を図ることができる固型化透析用剤およびその製造方法を提供する。
【解決手段】人工透析に用いる透析液の調製に使用される粉粒体の内包物8を圧縮成型して固型化した固型化透析用剤10であって、最外層20を塩化ナトリウムで形成し、最外層20の内側にブドウ糖、炭酸水素ナトリウム、カルシウム塩、および有機酸の内包物8を包み込んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工透析に用いる透析液の調製に使用される成分を含む粉粒体を圧縮成型して固型化した固型化透析用剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透析用剤には、液体型と粉末型の2種類の型がある。液体型の透析用剤は、その大部分が水で占められており、重量と容積が大きくなるため、透析医療従事者への運搬作業の負荷が大きく、保管スペースも大きくなってしまう。そのため、近年、透析液を使用する際に、自動溶解装置に投入して、水に溶解させて透析液を調製する粉末型の透析用剤が急速に普及している(特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
透析液調整作業において、作業者が粉末型透析用剤の入った袋を開封し、手作業で溶解装置に所定量投入するとき、微粉末が飛散する。作業者は酢酸臭のする微粉末を身体に浴びることになり、著しく作業環境が悪い。この微粉末は有機酸等の腐食性成分を含有するため、周辺の透析機器を汚染し、誤動作や故障の原因となる。
【0004】
また、溶解装置に投入した粉末型透析用剤に水を添加し、撹拌溶解して透析液原液を作成するとき、撹拌力の弱いところでは透析用剤に含まれる微粉末が凝集し、粘性凝集塊を形成する。そうなると、所定溶解時間内では完溶しなくなり、溶解時間の延長が必要となる。
【0005】
上記の不具合を解決するために、固型化した透析用剤が開示されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第2769592号公報
【特許文献2】特許第3384841号公報
【特許文献3】特許第3187580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、次のような理由から、固型化透析用剤は未だ実用化には至っていない。すなわち、固型化するには、一般的には、粉末を臼内に充填し、杵を打ち込んで圧縮成形して製造される。このような固型化透析用剤を打錠といい、打錠の障害防止のために内服用医薬品にあっては、人体に無害な結合剤、滑沢剤などを選択して、添加剤として混和する。
【0007】
しかし、透析用剤については、透析用剤として必要な成分以外の添加剤を混和することは困難であり、水溶性添加剤を混和すると、透析液から透析器を通して、患者の血液に混入するおそれがある。また、非水溶性添加剤を混和すると、透析液ライン中の微粒子除去フィルターに目詰まりを引き起こしてしまう。そのため、透析用剤では、添加剤を混和しないで打錠する必要があるが、実際に粉末型透析用剤を打錠すると、薬剤が杵臼に付着する。そして、その付着物を打錠の度に清掃しないと、次の打錠を実施できないので、連続打錠が困難である。薬剤が杵臼に付着しないように打錠圧や圧縮速度を変化させても、錠剤に割れや欠けが生じる。こういう場合には、一般的には、滑沢剤として、非水溶性添加剤であるステアリン酸マグネシウムなどの脂肪酸金属塩、または精製タルクなどのケイ酸塩を適量添加して付着性を改善するが、前述の理由から、透析用剤には添加剤を混和することができないので、打錠による固型化は困難であった。
【0008】
打錠以外の固型化する方法としては、コーティング化、カプセル化、凍結乾燥なども考えられるが、生産性が悪く、製造コストが増大するなど、打錠以上に問題が多く、現実的ではない。
【0009】
本発明は上記した事情に鑑みなされたもので、その目的は、添加剤を混和しなくとも打錠による割れや欠けを防止することができ、連続打錠に適応して固型化透析用剤の実用化を図ることができる固型化透析用剤およびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1に記載のものは、人工透析に用いる透析液の調製に使用される成分を含む粉粒体を圧縮成型して固型化した固型化透析用剤において、
最外層を塩化ナトリウムで形成し、該最外層の内側に残りの成分を含む粉粒体を包み込んでなることを特徴とする固型化透析用剤である。
「残りの成分を含む粉粒体」とは、人工透析に用いる透析液の調製に使用される成分を含む粉粒体のうち、塩化ナトリウムを除いた場合のみならず、塩化ナトリウムを含む場合もあるという意味である。
【0011】
請求項2に記載のものは、前記最外層の塩化ナトリウムの含水率が0.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の固型化透析用剤である。
【0012】
請求項3に記載のものは、前記最外層により包み込む粉粒体の成分は、炭酸水素ナトリウムを含まないで、カルシウム塩、有機酸を含む第1剤と、炭酸水素ナトリウムを含み、カルシウム塩、有機酸を含まない第2剤と、からなり、各剤を別個に圧縮成型し、第1剤と第2剤とを水に溶解させて透析液として使用できるようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固型化透析用剤である。
【0013】
請求項4に記載のものは、前記最外層により包み込む粉粒体の成分は、炭酸水素ナトリウム、ブドウ糖を含まないで、カルシウム塩、有機酸を含む第3剤と、炭酸水素ナトリウムを含み、ブドウ糖、カルシウム塩、有機酸を含まない第4剤と、ブドウ糖を含み、炭酸水素ナトリウム、カルシウム塩、有機酸を含まない第5剤と、からなり、各剤を別個に圧縮成型し、第3剤と第4剤と第5剤とを水に溶解させて透析液として使用できるようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固型化透析用剤である。
【0014】
請求項5に記載のものは、単体重量が10〜1000gであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の固型化透析用剤である。
【0015】
請求項6に記載のものは、人工透析に用いる透析液の調製に使用される成分を含む粉粒体を圧縮成型して固型化する固型化透析用剤の製造方法において、
塩化ナトリウム結晶を圧縮成型して下側最外層を形成する工程と、
前記下側最外層上に残りの成分を含む粉粒体を供給して仮圧縮する工程と、
該仮圧縮した粉粒体上に上側最外層となる塩化ナトリウム結晶を供給して圧縮成型して打錠する工程と、
を有することを特徴とする固型化透析用剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下のような優れた効果を奏する。
請求項1に記載の発明によれば、打錠の際に杵臼に付着し難い塩化ナトリウムで固型化透析用剤の最外層を形成し、該最外層の内側に残りの成分を含む粉粒体を包み込んでいるので、添加剤を混和しなくとも打錠による割れや欠けを防止することができ、連続打錠に適応して固型化透析用剤の実用化を図ることができる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、最外層の塩化ナトリウムの含水率を0.5%以下とすることにより、打錠の際に杵臼に塩化ナトリウムがより付着し難くい。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、最外層により包み込む粉粒体の成分は、炭酸水素ナトリウムを含まないで、カルシウム塩、有機酸を含む第1剤と、炭酸水素ナトリウムを含み、カルシウム塩、有機酸を含まない第2剤と、に分けて調剤し、各剤を別個に圧縮成型し、第1剤と第2剤とを水に溶解させて透析液として使用できるようにしたので、溶解前の搬送時や保管時において、透析用剤の含有成分同士の相互作用を抑制することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、最外層により包み込む粉粒体の成分は、炭酸水素ナトリウム、ブドウ糖を含まないで、カルシウム塩、有機酸を含む第3剤と、炭酸水素ナトリウムを含み、ブドウ糖、カルシウム塩、有機酸を含まない第4剤と、ブドウ糖を含み、炭酸水素ナトリウム、カルシウム塩、有機酸を含まない第5剤と、からなり、各剤を別個に圧縮成型し、第3剤と第4剤と第5剤とを水に溶解させて透析液として使用できるようにしたので、溶解前の搬送時や保管時において、透析用剤の含有成分同士の相互作用を一層確実に抑制することができる。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、単体重量を10〜1000gとすることにより、自動溶解装置でのハンドリング性、透析液調整時の溶解性および透析液供給能力を総合的に適切なものとすることができる。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、塩化ナトリウム結晶からなる下側最外層と上側最外層との内側に、残りの成分を含む粉粒体を包み込んで圧縮成型して打錠するので、打錠工程の際に杵臼に最外層の塩化ナトリウムが付着し難く、添加剤を混和しなくとも打錠による割れや欠けを防止することができ、連続打錠に適応して固型化透析用剤の実用化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明に係る固型化透析用剤は、人工透析に用いる透析液の調製に使用される成分を含む粉粒体を圧縮成型(打錠)して固型化した錠剤であり、図1に示すような錠剤圧縮成型装置1を用いて製造される。
【0023】
図1は本発明に係る固型化透析用剤の製造に用いる錠剤圧縮成型装置の模式図である。図1に示す錠剤圧縮成型装置1は有核打錠機であり、下杵2、上杵3および臼4が備えられ、杵2、3および臼4の組数だけ錠剤(固型化透析用剤)10を製造し得るようになっている。杵2、3は、それぞれ中心杵2a,3aと、該中心杵2a,3aの外周を取り巻く外杵2b,3bとの2重構造を有している。下杵2は、臼4の底部を形成するように、該臼4の上端部から下方へ空間部6を隔てて挿入配置される。下杵2および臼4によって区画された空間部6内には、例えば、結晶状の外層剤7(すなわち、本発明では塩化ナトリウムの粉粒体)が充填され、上方から上杵3が打ち込まれることにより、中空カップ状の下側最外層20aが圧縮成型される。さらに、圧縮成型された下側最外層20a内の底部の上に、内包物8となる粉粒体(すなわち、本発明では残りの成分を含む粉粒体)が供給され、上方から上杵3の中心杵3aが打ち込まれることにより、内包物8が仮圧縮される。そして、仮圧縮された内包物8の上に、結晶状の上側外層剤7bが供給され、上方から上杵3(中心杵3aおよび外杵3b)が打ち込まれることにより、圧縮成型(打錠)されて錠剤(固型化透析用剤)10となる。本実施形態に用いる錠剤圧縮成型装置1は打錠機であるので、杵2、3および臼4の表面には、これらの摩耗を防止すべく、硬質クロムめっき処理が施されている。この錠剤圧縮成型装置1を用いた固型化透析用剤10の製造方法の詳細については後述する。
【0024】
図2は本発明に係る固型化透析用剤を二剤とした場合の断面構造を示す模式図である。図2に示す固型化透析用剤10では、上記内包物8の塩化ナトリウム以外の成分が、炭酸水素ナトリウムを含まないで、カルシウム塩、有機酸30を含む第1剤Aと、炭酸水素ナトリウム50を含み、カルシウム塩、有機酸を含まない第2剤Bと、に分けて調剤され、各剤を最外層20としての塩化ナトリウムで包み込んで別個に圧縮成型される。例えば、第1剤Aは、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、無水酢酸ナトリウム、氷酢酸、ブドウ糖を含む内包物30を最外層20の塩化ナトリウムが包み込んでおり、第2剤Bは内包物である炭酸ナトリム50を最外層20の塩化ナトリウムで包み込んでいる。このように第1剤Aと第2剤Bとに分けて調剤することにより、透析用剤の含有成分同士の相互作用を抑制することができる。そして、この固型化透析用剤10を使用するばあいには、第1剤Aと第2剤Bとを水に溶解させて透析液として使用する。そして、透析液に調整したとき、以下の組成となる。
Na 120〜150mEq/L
1.5〜3.0mEq/L
Ca++ 2.0〜4.0mEq/L
Mg++ 0.5〜2.0mEq/L
Cl 90〜120mEq/L
HCO3− 20〜35mEq/L
CHCOO 2.0〜12mEq/L
ブドウ糖 0〜2.5g/L
【0025】
図3は本発明に係る固型化透析用剤を三剤とした場合の断面構造を示す模式図である。図3に示す固型化透析用剤10では、上記内包物8の成分が、炭酸水素ナトリウム、ブドウ糖を含まないで、カルシウム塩、有機酸30を含む第3剤Cと、炭酸水素ナトリウム50を含み、ブドウ糖、カルシウム塩、有機酸を含まない第4剤Dと、ブドウ糖40を含み、炭酸水素ナトリウム、カルシウム塩、有機酸を含まない第5剤Eと、に分けて調剤され、各剤を最外層20としての塩化ナトリウムで包み込んで別個に圧縮成型される。すなわち、第3剤Cはカルシウム塩および有機酸30を最外層20の塩化ナトリウムで包み込み、第4剤Dは炭酸水素ナトリム50を最外層20の塩化ナトリウムで包み込んでおり、第5剤Eはブドウ糖40を最外層20の塩化ナトリウムで包み込んでいる。このように第3剤Cと第4剤Dと第5剤Eとに分けて調剤することにより、透析用剤の含有成分同士の相互作用を抑制することができる。そして、この固型化透析用剤10を使用するばあいには、第3剤Cと第4剤Dと第5剤Eとを水に溶解させて透析液として使用する。
【0026】
固型化透析用剤10の最外層20を塩化ナトリウムで形成した理由は、打錠の際に、透析用粉粒体を構成する成分のうちで、塩化ナトリウムが最も杵2、3および臼4に付着し難いからである。これは、全成分中で塩化ナトリウムの融点が最も高いことに起因していると推測される。すなわち、圧縮成形する場合、粉粒体は、圧縮の瞬間に摩擦熱で溶融し、直後に放冷して固化する。そして、溶融して杵臼に接触したものが放冷後に固化して杵臼に付着する。斯かる考え方からして、融点が最も高い塩化ナトリウムが外層として好適であり、また、全成分中で配合量が多いことも好適である。ただし、塩化ナトリウムは含水率が高いと融点が下がるので、最外層20の塩化ナトリウムの含水率は0.5%以下であることが好ましい。
【0027】
また、固型化透析用剤10の単体重量は、10〜1000gであることが好ましい。1000gを超えると、1容器当たりの錠剤10の個数が少なくて済み、自動溶解装置での取り扱い(ハンドリング)が容易になるが、透析液調整時の溶解性が悪くなり、溶解時間が長くなって透析液供給能力が低くなるからである。逆に、10g未満であると、溶解性が良くなり、透析液供給能力は高くなるが、1容器当たりの錠剤10の個数が多くなり、自動溶解装置でのハンドリングが悪くなるからである。さらに、個数が増加すると、輸送中の振動により容器内で錠剤同士が衝突して微粉末を生成し易く、透析液供給時に微粉末が粘性凝集塊を形成し、溶解不良が生じるからである。すなわち、固型化透析用剤10の単体重量を10〜1000gとすることにより、自動溶解装置でのハンドリング性、透析液調整時の溶解性および透析液供給能力を総合的に適切に設定することができる。
【0028】
次に、図1に示した錠剤圧縮成型装置1を用いて、本実施形態の固型化透析用剤10の製造方法を説明する。まず、図1(A)のように、錠剤圧縮成型装置1の臼4内に下杵3を挿入配置する。次に、図1(B)のように、下杵3および臼4により区画された空間部6に、塩化ナトリウム結晶を供給し、図1(C),(D)のように、上方から上杵3(中心杵3aおよび外杵3b)を打ち込み、中空カップ状の下側最外層20aを圧縮成型する工程を行う。
【0029】
図2に示す固型化透析用剤10を二剤で構成する場合は、前述したように、上記内包物30の成分が、炭酸水素ナトリウムを含まないで、カルシウム塩、有機酸を含む第1剤Aと、炭酸水素ナトリウム50を含み、カルシウム塩、有機酸を含まない第2剤Bと、に分けて調剤される。したがって、第1剤Aでは有機酸およびカルシウム塩が内包物を構成し、第2剤Bでは炭酸水素ナトリウム50が内包物を構成する。
【0030】
図3に示す固型化透析用剤10を三剤で構成する場合は、前述したように、上記内包物8の成分が、炭酸水素ナトリウム、ブドウ糖を含まないで、カルシウム塩、有機酸30を含む第3剤Cと、炭酸水素ナトリウム50を含み、ブドウ糖、カルシウム塩、有機酸を含まない第4剤Dと、ブドウ糖40を含み、炭酸水素ナトリウム、カルシウム塩、有機酸を含まない第5剤Eと、に分けて調剤される。したがって、第3剤Cでは有機酸およびカルシウム塩30が内包物8を形成し、第4剤Dでは炭酸水素ナトリウム50が内包物8を形成し、第5剤Eではブドウ糖40が内包物8を形成する。
【0031】
続いて、図1(E),(F)に示すように、上記の如く形成した内包物8を上記下側最外層20aの底部上に供給し、上方から中心枠3aを打ち込んで仮圧縮する工程を行う。
【0032】
次に、図1(G)に示すように、中心枠3aを上昇させた後、図1(H),(I)に示すように、仮圧縮した内包物8上に上側最外層20bとなる塩化ナトリウム結晶を供給し、臼4内に上方から上杵3(中心杵3aおよび外杵3b)を打ち込んで錠剤(固型化透析用剤)10を圧縮成型する打錠工程を行う。錠剤10の形状は、円板状(円柱状)、レンズ状、六角柱状、球体状等の種々の形状を成型(打錠)し得るが、円板状やレンズ状のものが成型しやすく、杵2、3および臼4の製作が容易である。
【0033】
図1(J)のように、上杵3を上昇させると共に、下杵2を上昇させてからプッシャー9で横から押して錠剤10を取り出し、取り出した錠剤10は、容器(図示せず)内に所定の量だけ充填される。容器は、使用済み容器の減容性のためにはバリア材(シリカ蒸着PETまたはアルミナ蒸着PET)をラミネートした軟質包材を用いることが好ましいが、折り畳みやすいように所定の方向にリブを設けた熱可塑性樹脂製(HDPE製またはPP製)のハードボトルであっても構わない。いずれの容器の場合も密閉して湿気を防止できることが望ましい。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の固型化透析用剤10によれば、塩化ナトリウムが最外層20となるように透析用粉粒体を打錠することによって、打錠工程を行う際に薬剤(塩化ナトリウム)が杵2、3および臼4に付着するのを防止することができ、添加剤を混和しなくとも打錠による割れや欠けを防止することができ、連続打錠に適応して固型化透析用剤の実用化を図ることができる。すなわち、従来のブドウ糖を最外層とした固形剤(特許第3187580号公報記載)では、打錠工程を行う際にブドウ糖が杵2、3および臼4に付着するが、本実施形態の固型化透析用剤10では、打錠工程を行う際に最外層20の塩化ナトリウムが杵2、3および臼4に付着しないという従来の透析用剤にない特有の効果を奏する。特に、塩化ナトリウムの含水率を0.5%以下とした場合に、その効果が顕著に現れる。
【0035】
このように塩化ナトリウムを最外層20とすることによって、吸湿性成分(塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム)を最外層20の内部に封じ込めることができるので、固型化透析用剤10の保存中における吸湿、水分増加、およびこれによる薬剤の変質を抑えることができる。
【0036】
また、固型化透析用剤の生産性の向上を図ることができ、透析液調整作業における微粉末の飛散による作業環境の改善および周辺機器の汚染防止を図ることができる。さらに、透析液調整作業における微粉末の溶け残りによる透析液の組成異常を防止することができるものである。そして、粉末型透析用剤よりも容積が小さくなるので、輸送、保管効率が向上する。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0038】
〔実施例1〕
二剤の一方である第1剤Aを打錠する例を挙げて説明する。塩化ナトリウム0.734kg、塩化カリウム0.175kg、塩化カルシウム0.259kg、塩化マグネシウム0.119kg、酢酸ナトリウム0.771kg、ブドウ糖1.174kgを混合、粉砕し、圧縮造粒した。この造粒物に酢酸0.157kgを添加して30分間混合して、粒状の内包物を得た。これを打錠する際の内包物とし、結晶状の塩化ナトリウムを外層打錠用とする。
【0039】
杵臼の表面が硬質クロムめっき処理され、中心杵と該中心杵の外周を取り巻く外杵との2重構造の杵を備えた有核打錠機(錠剤圧縮成型装置)を使用して打錠した。まず、結晶状の塩化ナトリウムを外層錠として中心部分に空間を残したカップ形状に打錠(打錠圧4〜5t/杵)した。次に、外層錠の中心空間内に粒状の前記内包物(内核)を供給して、仮打錠(打錠圧1t/杵)した。最後に、その上部に残りの塩化ナトリウムを供給して、最終打錠(打錠圧4〜5t/杵)を行った。最終錠剤直径は45mmで、1錠当たり第1剤A8.8g、塩化ナトリウム17.2gで、打錠環境は21℃、湿度50%であった。
【0040】
打錠後の錠剤が杵に付着して排出できなくなる時点を打錠限界数としたとき、1000回連続打錠しても限界に至らなかった。
【0041】
〔比較例1〕
塩化ナトリウム7.344kg、塩化カリウム0.175kg、塩化カルシウム0.259kg、塩化マグネシウム0.119kg、酢酸ナトリウム0.771kg、ブドウ糖1.174kgを混合、粉砕し、圧縮造粒した。この造粒物に酢酸0.157kgを添加して30分間混合して、粒状の透析用剤を得た。
【0042】
比較例1では、杵臼の表面を硬質クロムめっき処理した単式打錠機を使用し、この粒状の透析用剤を打錠(打錠圧4〜5t/杵)した。錠剤直径は45mm、1錠当たり26gで、打錠環境は21℃、湿度50%であった。
【0043】
打錠後の錠剤が杵に付着して排出できなくなる時点を打錠限界数としたとき、打錠限界数が20回となった。
【0044】
〔比較例2〕
塩化ナトリウム7.344kg、塩化カリウム0.175kg、塩化カルシウム0.259kg、塩化マグネシウム0.119kg、酢酸ナトリウム0.771kg、純水0.03リットルを添加し、60℃で加熱混合して造粒した。
【0045】
この造粒物を乾燥、冷却した後、酢酸0.157kgを添加して30分間混合し、さらに、ブドウ糖1.17kgを添加して30分間混合して、粒状の透析用剤を得た。
【0046】
比較例1と同じ単式打錠機を使用し、この粒状の透析用剤を打錠(打錠圧4〜5t/杵)した。錠剤直径は45mm、1錠当たり26gで、打錠環境は21℃、湿度50%であった。
【0047】
打錠後の錠剤が杵に付着して排出できなくなる時点を打錠限界数としたとき、打錠限界数が15回となった。
以上の通り、本発明によれば、連続打錠による固形化が可能であり、実用に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る固型化透析用剤の製造に使用する錠剤圧縮成型装置の模式図である。
【図2】本発明に係る固型化透析用剤を二剤とした場合の断面構造を示す模式図である。
【図3】本発明に係る固型化透析用剤を三剤とした場合の断面構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0049】
1 錠剤圧縮成型装置
2 下杵
3 上杵
3a 中心杵
3b 外杵
4 臼
6 空間部
7 外層剤
8 内包物
10 固型化透析用剤
20 最外層
20a 下側最外層
20b 上最外層
30 有機酸・カルシウム塩
40 ブドウ糖
50 炭酸水素ナトリウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工透析に用いる透析液の調製に使用される成分を含む粉粒体を圧縮成型して固型化した固型化透析用剤において、
その単体が最外層を塩化ナトリウムで形成し、該最外層の内側に残りの成分を含む粉粒体を包み込んでなることを特徴とする固型化透析用剤。
【請求項2】
前記最外層の塩化ナトリウムの含水率が0.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の固型化透析用剤。
【請求項3】
前記最外層により包み込む粉粒体の成分は、炭酸水素ナトリウムを含まないで、カルシウム塩、有機酸を含む第1剤と、炭酸水素ナトリウムを含み、カルシウム塩、有機酸を含まない第2剤と、からなり、各剤を別個に圧縮成型し、第1剤と第2剤とを水に溶解させて透析液として使用できるようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固型化透析用剤。
【請求項4】
前記最外層により包み込む粉粒体の成分は、炭酸水素ナトリウム、ブドウ糖を含まないで、カルシウム塩、有機酸を含む第3剤と、炭酸水素ナトリウムを含み、ブドウ糖、カルシウム塩、有機酸を含まない第4剤と、ブドウ糖を含み、炭酸水素ナトリウム、カルシウム塩、有機酸を含まない第5剤と、からなり、各剤を別個に圧縮成型し、第3剤と第4剤と第5剤とを水に溶解させて透析液として使用できるようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固型化透析用剤。
【請求項5】
単体重量が10〜1000gであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の固型化透析用剤。
【請求項6】
人工透析に用いる透析液の調製に使用される成分を含む粉粒体を圧縮成型して固型化する固型化透析用剤の製造方法において、
塩化ナトリウム結晶を圧縮成型して下側最外層を形成する工程と、
前記下側最外層上に残りの成分を含む粉粒体を供給して仮圧縮する工程と、
該仮圧縮した粉粒体上に上側最外層となる塩化ナトリウム結晶を供給して圧縮成型して打錠する工程と、
を有することを特徴とする固型化透析用剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−303151(P2008−303151A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149118(P2007−149118)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】