説明

固定反応物質と液体反応物質との反応用フローセル及び反応装置並びに反応装置の運転方法

【課題】 抗原抗体反応を利用した免疫測定のように,検体中の測定対象物の量を測定するための従来の技術では測定に時間がかかったり,コンタミネーションの問題があったり,自動化が困難であったり,反応部位が小さく一度に検出できる反応数に限りがあるというような課題がある。
【解決手段】 そこで流路を構成するための連続溝2を一方側の面に形成すると共に,連続溝の両端側に気液出入部3,4を形成した第1の板体1と,この板体の一方側の面に当接させる第2の板体7とから構成し,これらの板体の一方側を光透過性とし,第2の板体において,第1の板体と当接する側の面で,連続溝に対応する複数の個所に固定反応物質を固定し,第1と第2の板体を当接させて支持することにより,複数の固定反応物質に対して共通する液体反応物質の流路を形成した反応用フローセルと,それを用いた反応装置を構成することにより,課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば抗原抗体反応等における固定反応物質と液体反応物質との反応用フローセル及び反応装置並びに反応装置の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,抗原抗体反応を利用した免疫測定のように,検体中の測定対象物の量を測定するための技術が開発されている。免疫測定法の一つとして,酵素活性を標識として抗原抗体反応を追跡し,その結果に基づいて抗原または抗体の量を定量するEIA法(酵素免疫測定法,Enzyme Immunoassay)と云われる測定方法がある。そして,このEIA法には,例えば,化学発光を利用したCLEIA法(化学発光・酵素免疫測定法,Chemiluminescent
Enzyme Immunoassay)と,蛍光物質を標識としたFIA法(蛍光免疫測定法,Fluorescence Immunoassay)がある。
【0003】
前者の方法は,被検物質に対する抗原を担体に固相したものに検体および酵素標識抗体を反応させ,これに化学発光基質を加える過程を有するもので,この基質は酵素により分解され酵素量に応じて発光し,その発光量を測定して定量する測定法である。
【0004】
また後者の方法は,抗原と反応した検体に蛍光物質によって標識された抗体を反応させ,励起光を照射して標識物質から発せられた蛍光の発光量から定量する測定法である。
【0005】
また,他の測定法として,非特許文献1には,抗原を固定化したスライドを検体,酵素標識抗体の順に反応させ,その後化学発光基質を流通させるための溝をもったチップを積載してフローセルとし,フローセル内で化学発光反応を生じさせ発光強度を測定するものが記載されている。
【0006】
更に他の測定法として,特許文献1には,2枚の平板をその縁部に平行に配置された対向する2つの角柱状スペーサーを介して互いに積層してなり,両平板間に毛管現象による注入および排出が可能な間隙を有する反応容器において抗原抗体反応および化学発光反応を行うものが記載されている。
【0007】
更に他の測定法として,特許文献2には,マイクロチャネルチップにおいて検体と標識抗体をあらかじめ反応させ,測定対象物と特異的に結合する物質が固定化された反応部位において反応を検出するものがある。
【0008】
【非特許文献1】「Microarrays for the Screeningof Allergen-Specific IgE in Human Serum」(Anal. Chem,. 2003 75(3),556-562)
【特許文献1】特開平6−148075号公報
【特許文献2】特開2003−114229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら以上に説明した従来技術では以下に示すような課題がある。
まず,従来のCLEIA法やFIA法では,抗原抗体反応を十分に実行させるために,比較的長時間を要するという課題がある。
【0010】
また非特許文献1に記載の従来技術では,あらかじめ検体,酵素標識抗体との反応を別工程で行わなければならず,作業効率が悪いという課題がある。一方,フローセルに検体および酵素標識抗体を流通することも考えられるが,ひし形をしているため液が広がりやすく,液−液間の混合(コンタミネーション)が懸念される。また,配管内の流通においては液−液間に空気を挟んで混合を防ぐ方法があるが,ひし形のフローセル内ではエアが変形しやすく,やはりコンタミネーションの不安が残る。更に,この従来技術ではポンプの数が多く装置が高価で大きくなるという課題がある。
【0011】
次に特許文献1に記載の従来技術では,液体の注入および排出において毛管現象を利用するため開放系となり,自動で行うことが困難であると共に,注入および排出の流速を制御できないという課題がある。
【0012】
更に特許文献2に記載の従来技術では,検体と標識抗体をあらかじめ反応させるため標識抗体が多量に必要となり,また,反応部位が小さく一度に検出できる反応数に限りがあるという課題がある。
【0013】
本発明は以上の課題に鑑みて創案されたものであり,即ち,少量のサンプルを混合することなく用いて、短時間で効率よく抗原抗体反応等の,固定反応物質と液体反応物質との反応を進行させて、免疫測定のような検体中の測定対象物の量を測定することが可能で、かつ操作が簡便な抗原抗体反応等に用いるフローセル及び自動操作が可能な反応装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の課題を解決するために,まず本発明では,流路を構成するための連続溝を一方側の面に形成すると共に,上記連続溝の両端側に気液出入部を形成した第1の板体と,該第1の板体の上記一方側の面に当接させる第2の板体とから構成し,第1と第2の板体の少なくとも一方側を光透過性とすると共に,該第2の板体において,第1の板体と当接する側の面で,上記連続溝に対応する複数の個所に固定反応物質を固定し,第1と第2の板体を当接させて支持することにより,複数の固定反応物質に対して共通する液体反応物質の流路を形成することを特徴とする固定反応物質と液体反応物質との反応用フローセルを提案する。
【0015】
次に,本発明では、流路を構成するための連続溝を一方側の面に形成すると共に,上記連続溝の両端側に気液出入部を形成した第1の板体と,該第1の板体の上記一方側の面に当接させる第2の板体とから構成し,第1と第2の板体の少なくとも一方側を光透過性とすると共に,該第1の板体において,上記連続溝の複数の個所に固定反応物質を固定し,第1と第2の板体を当接させて支持することにより,複数の固定反応物質に対して共通する液体反応物質の流路を形成することを特徴とする固定反応物質と液体反応物質との反応用フローセルを提案する。
【0016】
そして本発明では、以上の固定反応物質と液体反応物質との反応用フローセルにおいて,連続溝は蛇行形状とすることを提案する。
【0017】
また本発明では、以上の固定反応物質と液体反応物質との反応用フローセルにおいて,第1の板体と第2の板体を,剛性を有する支持板体で挟持することにより当接状態で支持し,第1の又は第2の板体のうち,光透過性の板体に対応する支持板体は,固定反応物質の固定範囲に対応する個所に開口を形成するか又は少なくとも固定反応物質の固定範囲に対応する個所を光透過性とすることにより光透過可能に構成することを提案する。
【0018】
また本発明では、この固定反応物質と液体反応物質との反応用フローセルにおいて,開口を形成していない支持板体に,固定反応物質の固定範囲に対応して熱供給手段を設置す
ることを提案する。
【0019】
そして本発明では,以上の固定反応物質と液体反応物質との反応用フローセルにおいて,固定反応物質を抗原とすると共に,液体反応物質を,検体,洗浄液,酵素標識物質及び化学発光基質とすることを提案する。
【0020】
次に本発明では、以上の構成のフローセルを暗箱内に設置し,光透過性の板体側にディジタルカメラを配置し,第1の板体の一方側の気液出入部に気液供給管を接続すると共に,他方側の気液出入部に廃液管を接続し,気液供給管は,シリンジポンプと切換弁と各種液体反応物質容器とから成る気液供給装置に接続したことを特徴とする固定反応物質と液体反応物質との反応装置を提案する。
【0021】
そして本発明では、この反応装置において,気液供給装置は,シリンジポンプと,シリンジポンプの吸引側に配置したシステム液容器と,シリンジポンプの吐出側にサンプルループを有する共通配管を介して共通ポートに接続した切換弁と,切換弁の切換ポートの夫々に接続した配管を介して配置した複数の液体反応物質容器と,切換弁の切換ポートに接続した廃液配管と,切換弁の切換ポートに接続した吸気配管と,上記気液供給管を接続する切換弁の共通ポートとから構成することを提案する。
【0022】
そして本発明では、この反応装置において,液体反応物質容器は,洗浄液容器,検体容器,酵素標識抗体容器及び化学発光基質容器とすることを提案する。
【0023】
また本発明では、以上の反応装置において,シリンジポンプで吐出されるシステム液により,上記各液体容器内の液体を気液供給管を介してフローセルに供給する際には,供給する液体に先立ち,空気を吸気配管から切換弁を介してサンプルループに吸引することにより,次にサンプルループに吸引する液体とシステム液との間に空気を介在させることを特徴とする固定反応物質と液体反応物質との反応装置の運転方法を提案する。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るフローセルでは,固定反応物質と液体反応物質とを反応させる流路を,蛇行形状等の連続溝を形成した第1の板体と,第2の板体とを当接させた状態で支持することにより形成するので,外した状態で連続溝に対応する複数の個所に固定反応物質を固定することが容易であり,共通の流路を流れる液体反応物質と,この流路に沿って固定された複数の固定反応物質との反応を効率的に行うことができ,また反応により発生する光は,光透過性の第1又は第2の板体を介してディジタルカメラにより検出することができる。
【0025】
流路を流れる液体反応物質は,連続溝と板面とから構成される流路内に保持されて拡がらないため,この液体反応物質をシステム液を用いて移動させる際,液体反応物質とシステム液間に空気を介在させると,流路においても液体−空気−液体の界面が維持されるので,液体相互のコンタミネーションを確実に防止することができる。
【0026】
そして,第1の板体と第2の板体は,当接させた支持状態から外すことができるので,繰り返しの使用が可能となり,特に,固定反応物質を,連続溝を形成した第1の板体ではなく,第2の板体に固定するものでは,第1の板体を,異なった固定反応物質を固定した他の第2の板体にも共通して使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明に係るフローセルに液体反応物質を供給する気液供給装置は,シリンジポンプと,シリンジポンプの吸引側に配置したシステム液容器と,シリンジポンプの吐出側にサンプルループを有する共通配管を介して共通ポートに接続した切換弁と,切換弁の切換ポートの夫々に接続した配管を介して配置した複数の液体反応物質容器と,切換弁の切換ポートに接続した廃液配管と,切換弁の切換ポートに接続した吸気配管と,上記気液供給管を接続する切換弁の共通ポートとから構成することにより,ポンプを必要最小限の構成とすることができ,コストを低減すると共に省スペースとなる。
【実施例1】
【0028】
次に,本発明の実施例を添付図面を参照して説明する。
図1〜図5は本発明に係るフローセルFの第1の実施例を示すもので,符号1は第1の板体であり,この第1の板体1の一方側の面,即ち図において上面には,流路を形成するための連続溝2を形成すると共に,この連続溝2の両端側に気液出入部3,4を形成し,この気液出入部3,4に配管を接続している。一方側の配管は後記気液供給装置に連なる気液供給管5であり,また他方側の配管は廃液管6である。尚,図では連続溝2は,図において第1の板体1の長手方向に進む蛇行形状に形成しているが,幅方向に進む蛇行形状とすることもできる。また場合によっては,渦巻状に形成することもできる。
【0029】
符号7は第2の板体であり,この第2の板体7は光透過性であり,図中下面を第1の板体1の上面に当接する構成である。この第2の板体7は,第1の板体1と当接する側の面,即ち図中下面において,上記連続溝2に対応する複数の個所に固定反応物質8を,所定の担体により固定している。図においては,固定反応物質8は,蛇行する連続溝2に対応して,マトリクス状の縦横位置に固定している。
【0030】
以上の構成において,第1の板体1と第2の板体7を当接させた状態で支持することにより,複数個所に固定した固定反応物質8に対して共通する,液体反応物質9の流路10を形成することができる。尚,第1の板体1と第2の板体7を当接状態で支持する構成は,クランプ装置等の適宜の挟持機構を適用することができる。
【0031】
以上の構成において,後述する気液供給装置により気液供給管5を流れてきた液体反応物質9は,一方側の気液出入部3から連続溝2と第2の板体7の面とから構成される流路10に至り,この流路10を蛇行しながら流れるうちに,複数の固定反応物質8の位置に順次至り,それらの場所で反応を起こさせることができる。液体反応物質9は,一方側の気液出入部3から他方側の気液出入部4に1回のみ通過させて,この他方側の気液出入部4から廃液管6を経て排出することもできるが,流路10の一方側と他方側の間を複数回往復させることにより確実さを向上させることができる。
【0032】
流路を流れる液体反応物質9は,連続溝2と板面とから構成される流路10内に保持されて拡がらないため,後述するように,液体反応物質9をシステム液を用いて移動させる際,液体反応物質9とシステム液間に空気11を介在させると,流路10においても液体−空気−液体の界面12が維持されるので,液体相互のコンタミネーションを確実に防止することができる。
【0033】
このように本発明のフローセルFを用いれば,固定反応物質8と液体反応物質9とを反応させる流路10を,蛇行形状等の連続溝2を形成した第1の板体1と,第2の板体2とを当接させた状態で支持することにより形成するので,外した状態で連続溝2に対応する複数の個所に固定反応物質8を固定することが容易であり,共通の流路10を流れる液体反応物質9と,この流路10に沿って固定された複数の固定反応物質8との反応を効率的に行うことができ,また反応により発生する光は,光透過性の板体,この場合は第2の板体7を介して,図中上方からディジタルカメラにより撮影してコンピュータ等を利用して検出することができる。
【0034】
そして,第1の板体1と第2の板体7は,このように当接させた支持状態から外すことができるので,繰り返しの使用が可能となり,特に,固定反応物質8を,この実施例に示すように,連続溝2を形成した第1の板体1ではなく,第2の板体7に固定するものでは,第1の板体1を,異なった固定反応物質8を固定した他の第2の板体7にも共通して使用することが可能となる。
【0035】
しかしながら,他の実施例として,固定反応物質8を,連続溝2を形成した第1の板体1に,この連続溝2に沿った複数の個所に固定反応物質8を固定することもできる。
【0036】
また,上述した実施例では,第2の板体7を光透過性として,第2の板体7側からディジタルカメラにより反応により発生する光を撮影して検出する構成としているが,次の実施例に示すように,第1の板体1を光透過性として,第1の板体1側から光を検出する構成とすることもできる。
【実施例2】
【0037】
即ち,図6は本発明に係るフローセルFの第2の実施例を示すもので,この実施例は,第1の実施例とは,光透過性とする板体を逆に構成して,ディジタルカメラによる撮影方向も逆方向としたものであり,その他の構成要素は同様であるので,対応する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
即ち,この第2の実施例では,蛇行する連続溝2を形成した第1の板体1を光透過性とすると共に,第2の板体7は光不透過性しており,一方,ディジタルカメラは第1の実施例と同様にフローセルFの上側に配置しているので,第1の板体1を上方,第2の板体7を下方に配置したものである。
【0038】
以上の第2の実施例のフローセルFの動作は,第1の実施例と同様で,自明であるので,重複する説明は省略する。
【実施例3】
【0039】
図7,図8は本発明に係るフローセルFの第3の実施例を示すものである。この実施例は,第1の実施例に示すフローセルFの当接状態における支持機構の具体例を示すものであり,第1の実施例の構成要素と対応する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
即ち,この第3の実施例では,連続溝2を形成した第1の板体1に対応して第1の支持板体13を設けると共に,光透過性の第2の板体7に対応して第2の支持板体14を設けている。
【0040】
これら第1の支持板体13と第2の支持板体14は,剛性を有する材質,例えばアルミニウム製ブロックにより構成しており,それらは図8に示すボルト・ナット等の締付部材15用の貫通穴16を設けている。そして第1の支持板体13には,上記第1の板体1の気液出入部3,4に対応する位置に貫通孔18を形成すると共に,気液供給管5と廃液管6の端部に設けた接続部材19を螺合等により接続するための接続部20を形成している。そして第2の支持板体14には,光透過性の第2の板体7に固定した固定反応物質8の固定範囲に対応して開口21を形成している。
【0041】
以上の構成においては,当接した第1の板体1と第2の板体7を第1の支持板体13と第2の支持板体14により挟み,上記貫通穴16を以てボルト・ナット15により締め付けることにより,第1の板体1と第2の板体7を当接状態で支持することができる。尚,第1の支持板体13と第2の支持板体14は,ボルト・ナット15に代えて,クランプ機構を用いる等の適宜の挟持機構を適用することができる。
【0042】
上記状態で,気液供給管5と廃液管6の端部に設けた接続部材19を螺合等により接続部20に接続することにより,フローセルFの流路10に気液供給管5から液体反応物質9を供給し,流路10に沿って固定した複数の固定反応物質8との反応を行わせた後,廃液管6を経て排出することができる。
【0043】
反応により発生する光は,光透過性の板体,この場合は第2の板体7と,第2の支持板体14の開口21を介して,図中上方からディジタルカメラにより撮影して検出することができる。
【実施例4】
【0044】
次に図9,図10は本発明に係るフローセルFの第4の実施例を示すものである。この実施例は,第2の実施例に示すフローセルFの当接状態における支持機構の具体例を示すものであり,第2の実施例の構成要素と対応する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
即ち,この第4の実施例では,第3の実施例と同様に,連続溝2を形成した第1の板体1に対応して第1の支持板体13を設けると共に,第2の板体7に対応して第2の支持板体14を設けているが,第1の板体1を光透過性としているため,第1の支持板体13に,第2の板体7に固定した固定反応物質8の固定範囲に対応して開口21を形成し,ディジタルカメラによる撮影方向は下方としたものである。その他の構成要素は,第3の実施例と同様であり,動作も自明であるので,この実施例の構成要素と同一な構成要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【実施例5】
【0045】
次に図11は本発明に係るフローセルFの第5の実施例を示すものである。この実施例は,第4の実施例の構成において,第2の支持板体14に,ヒーター22を設置して,フローセルFにおける固定反応物質8と液体反応物質9との反応に際しての温度制御機能を持たせたものである。その他の構成要素は,第4の実施例と同様であり,動作も自明であるので,この実施例の構成要素と同一な構成要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0046】
尚,他の実施例として,上記ヒーター22に代えて,加熱・冷却可能な温度制御装置を設けることもできる。
【実施例6】
【0047】
次に,図12は本発明に係るフローセルFを使用した反応装置の全体構成を示す系統説明図であり,図13はその要部の拡大図である。
符号23は暗箱であり,この暗箱23内にフローセルFを設置すると共に,その上方にCCDやC−MOSセンサを用いたディジタルカメラ24を設置しており,その出力はコンピュータ25に入力している。
【0048】
またフローセルFの第1の板体1の一方側の気液出入部3に気液供給管5を接続すると共に,他方側の気液出入部4に廃液管6を接続して,廃液管6を適宜の排出場所に至らせると共に,気液供給管5は,概して,シリンジポンプ26と切換弁27と各種液体反応物質容器28(28a,28b,28c,28d,…)とから成る気液供給装置ALに接続している。
【0049】
気液供給装置ALを更に詳細に説明すると,気液供給装置ALは,シリンジポンプ26と,シリンジポンプ26の吸引側に配置したシステム液容器29と,シリンジポンプ26の吐出側にサンプルループ30を有する共通配管31を介して共通ポート○1に接続した切換弁27と,切換弁27の切換ポート○2〜○5の夫々に接続した配管32(32a,32b,32c,32d,…)を介して配置した複数の液体反応物質容器28(28a,28b,28c,28d,…)と,切換弁27の切換ポートの一つ○6に接続した排液及び吸気兼用配管32eと,上記気液供給管5を接続する切換弁27の切換ポート○7とから構成している。
【0050】
以上の構成の反応装置を抗原抗体反応の反応装置とした場合,上記液体反応物質容器28中,夫々28aは洗浄液容器,28bは検体容器,28cは酵素標識抗体容器及び28dは化学発光基質容器である。
【0051】
以上の構成において,抗原抗体反応装置としての反応装置の操作手順を,図14の流れ図を参照して説明する。
【0052】
まずステップS1では,シリンジポンプ26を正動作させてシステム液容器29内のシステム液をサンプルループ30に満たす。この際,切換弁27の切換ポートは○6を選択しておくことにより,サンプルループ30内の空気は配管32eを経て外気に放出される。
【0053】
次いでステップS2では,シリンジポンプ26を逆動作させてサンプルループ30内に空気を吸い込んだ後,切換弁27の切換ポートを○3に切り換へて,検体容器28b内の検体をサンプルループ30内に吸い込む。
【0054】
この時点では,サンプルループ30内には,検体とシステム液が空気を介在させて離れていてコンタミネーションの発生はない。
【0055】
次いでステップS3では,切換弁27の切換ポートを○7に切り換えてシリンジポンプ26を正動作させる。この動作により,サンプルループ30内の検体は空気を介してシステム液に押され,気液供給管5を流れてフローセルFに至り,フローセルFの流路10を流れて固定反応物質8と反応する。この状態において,シリンジポンプ26を正動作と逆動作を複数回交互に行うことにより,検体を流路10の一方側と他方側の間を複数回往復させることができ,確実さを向上させることができる。
【0056】
次いでステップS4では,切換弁27の切換ポートは○6を選択してシリンジポンプ26を逆動作させることによりサンプルループ30内に空気を吸い込んだ後,切換弁27の切換ポートを○2に切り換えて,洗浄液容器28a内の洗浄液をサンプルループ30内に吸い込む。
【0057】
次いで切換弁27の切換ポートを○7に切り換えてシリンジポンプ26を正動作させる。この動作により,サンプルループ30内の洗浄液は空気を介してシステム液に押され,気液供給管5を流れてフローセルFに至り,フローセルFの流路10を流れて,流路10内の余分な検体を洗浄する。この場合においても,シリンジポンプ26を正動作と逆動作を複数回交互に行うことにより,洗浄液を流路10の一方側と他方側の間を複数回往復させる。
【0058】
次いでステップS5では,切換弁27の切換ポートは○6を選択してシリンジポンプ26を逆動作させることによりサンプルループ30内に空気を吸い込んだ後,切換弁27の切換ポートを○4に切り換へて,酵素標識抗体容器28c内の酵素標識抗体をサンプルループ30内に吸い込む。
【0059】
次いでステップS6では,切換弁27の切換ポートを○7に切り換えてシリンジポンプ26を正動作させる。この動作により,サンプルループ30内の酵素標識抗体は空気を介してシステム液に押され,気液供給管5を流れてフローセルFに至り,フローセルFの流路10を流れて固定反応物質8と反応する。この場合にも,シリンジポンプ26を正動作と逆動作を複数回交互に行うことにより,酵素標識抗体を流路10の一方側と他方側の間を複数回往復させる。尚,前工程の洗浄液は,前工程において残留したシステム液に押されて廃液管6を経て排出される。
【0060】
次いでステップS7ではステップS4と同様に,切換弁27の切換ポートは○6を選択してシリンジポンプ26を逆動作させることによりサンプルループ30内に空気を吸い込んだ後,切換弁27の切換ポートを○2に切り換へて,洗浄液容器28a内の洗浄液をサンプルループ30内に吸い込む。次いで切換弁27の切換ポートを○7に切り換えてシリンジポンプ26を正動作させる。この動作により,サンプルループ30内の洗浄液は空気を介してシステム液に押され,気液供給管5を流れてフローセルFに至り,フローセルFの流路10を流れて,流路10内の酵素標識抗体を洗浄する。この場合においても,シリンジポンプ26を正動作と逆動作を複数回交互に行うことにより,洗浄液を流路10の一方側と他方側の間を複数回往復させる。
【0061】
次いでステップS8では,まず切換弁27の切換ポートは○6を選択してシリンジポンプ26を逆動作させることによりサンプルループ30内に空気を吸い込んだ後,切換弁27の切換ポートを○5に切り換へて,化学発光基質容器28d内の化学発光基質をサンプルループ30内に吸い込む。
【0062】
次いでステップS9では,切換弁27の切換ポートを○7に切り換えてシリンジポンプ26を正動作させる。この動作により,サンプルループ30内の化学発光基質は空気を介してシステム液に押され,気液供給管5を流れてフローセルFに至り,フローセルFの流路10を流れて固定反応物質8において化学発光反応させる。この場合には,複数の固定反応物質の夫々の発光を観察するため,化学発光基質がフローセルFの流路10を満たすまで送液後、送液を停止してフローセルFの流路10内に化学発光基質をとどまらせる。
【0063】
次いでステップS10では,以上のステップを経過して固定反応物質8の位置からの化学発光をディジタルカメラ24で撮影してディジタル信号としてコンピュータ25に取り込み,コンピュータ25において解析して,所定の出力を行う。
【0064】
尚,以上の実施例においては,システム液と各種液体反応物質とを,空気を介在させて離しているが,空気の代わりに,窒素ガス等の不活性ガスを介在させることもでき,この場合には,上記切換弁27の切換ポートに配管を介して不活性ガスボンベを接続して,上述と同様な操作を行えばよい。また、ガスの代わりにシステム液および各種液体反応物質と相互溶解しない不溶性液体を介在させることもでき、この場合には、上記切換弁27の切換ポートに配管を介して不溶性液体容器を配置して、上述と同様な操作を行えばよい。さらに、各種液体反応物質と相互溶解することのないシステム液を用いることで、他の物質を介在させることなく操作することも可能である。
【0065】
また以上の実施例においては,CLEIA法による抗原抗体反応の操作手順を示しているが,本発明のフローセル及び反応装置は,FIA法を適用することもできるもので,この場合には,暗箱23内に励起光源を設置すれば良い。
【0066】
また本発明のフローセル及び反応装置は,抗原抗体反応のみならず,生体由来の物質と特異的に結合可能で,かつ塩基配列や塩基の長さ,組成などが既知の,様々なタンパク質(細胞,ウィルス,)や核酸,cDNA,DNA,RNAなどを固定化し,生体から採取され,あるいはさらに化学的処理,化学修飾などの処理が施された生体由来の液体物質を反応させ,光電的に検出し,その生体由来の物質を解析する様々な反応に適用することができる。
【実施例7】
【0067】
次に,本発明のフローセル及び反応装置の具体例及び,これにより行った抗原抗体反応の具体例を示す。
まず,フローセルFを構成する第2の板体7には,光透過性のあるアクリル板を用いた。また第1の板体1には,PDMS(ポリジメチルシロキサン)製チップを用いて溝幅1mm・溝深0.2mmの蛇行した連続溝2を形成した。これら第1の板体1と第2の板体7を当接してフローセルを形成した際の,流路10内の容量は75μLである。
一方,抗原は、光固定化法により第2の板体7であるアクリル板に固定化した。
第1の板体1と第2の板体7は接着せず,図7に示すようなアルミニウムブロックの第1と第2の支持板体を用いて圧着することで接合した。そして第1の支持板体のアルミブロックにヒーターをつけ、温度一定(37℃)条件の下、抗原抗体反応を進行させた。抗原としてダニアレルゲンが固定化され、検体には血清、酵素標識抗体にはペルオキシターゼでラベル化された抗体を用いた。
気液供給装置によるフローセルへの送液は、流速3.3μL/secで行った。
抗原抗体反応は上述した図14の手順により行った。
以上により,固定化されたダニアレルゲンと血清の抗原抗体反応を、本発明装置を用いてCLEIA法により確認した。また、検体に含まれる抗体量を定量した。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は以上のとおりであるので,以下に示すような特徴を有し,産業上の利用可能性が大である。
1.本発明に係るフローセルでは,固定反応物質と液体反応物質とを反応させる流路を,蛇行形状等の連続溝を形成した第1の板体と,第2の板体とを当接させた状態で支持することにより形成するので,外した状態で連続溝に対応する複数の個所に固定反応物質を固定することが容易であり,共通の流路を流れる液体反応物質と,この流路に沿って固定された複数の固定反応物質との反応を,一度に多く効率的に行うことができ,また反応により発生する光は,光透過性の第1又は第2の板体を介してディジタルカメラにより検出することができる。
2.流路を流れる液体反応物質は,連続溝と板面とから構成される流路内に保持されて拡がらないため,この液体反応物質をシステム液を用いて移動させる際,液体反応物質とシステム液間に空気を介在させると,流路においても液体−空気−液体の界面が維持されるので,液体相互のコンタミネーションを確実に防止することができる。
3.第1の板体と第2の板体は,当接させた支持状態から外すことができるので,繰り返しの使用が可能となり,特に,固定反応物質を,連続溝を形成した第1の板体ではなく,第2の板体に固定するものでは,第1の板体を,異なった固定反応物質を固定した他の第2の板体にも共通して使用することが可能となる。 4.本発明に係るフローセルに液体反応物質を供給する気液供給装置は,シリンジポンプと,シリンジポンプの吸引側に配置したシステム液容器と,シリンジポンプの吐出側にサンプルループを有する共通配管を介して共通ポートに接続した切換弁と,切換弁の切換ポートの夫々に接続した配管を介して配置した複数の液体反応物質容器と,切換弁の切換ポートに接続した廃液配管と,切換弁の切換ポートに接続した吸気配管と,上記気液供給管を接続する切換弁の共通ポートとから構成することにより,ポンプを必要最小限の構成とすることができ,コストを低減すると共に省スペースとなる。
5.吸引、排出動作のできるシリンジポンプを使用することで、検体および標識物質等の液体反応物質を反応場であるフローセルの流路内で往復させることができ、反応効率があがる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係るフローセルの第1の実施例の構成要素を示す拡散図である。
【図2】第1と第2の板体の当接支持状態の側面図である。
【図3】第1の板体の要部斜視図である。
【図4】図2の要部横断面図である。
【図5】図2の要部縦断面図である。
【図6】本発明に係るフローセルの第2の実施例の構成要素を示す拡散図である。
【図7】本発明に係るフローセルの第3の実施例の構成要素を示す拡散図である。
【図8】本発明に係るフローセルの第3の実施例の支持状態の縦断面図である。
【図9】本発明に係るフローセルの第4の実施例の構成要素を示す拡散図である。
【図10】本発明に係るフローセルの第4の実施例の支持状態の縦断面図である。
【図11】本発明に係るフローセルの第5の実施例の構成要素を示す拡散図である。
【図12】本発明に係るフローセルを使用した反応装置の全体構成を示す系統説明図である。
【図13】図12の要部拡大図である。
【図14】本発明に係る反応装置により,抗原抗体反応をCLEIA法を用いて測定する際の操作手順を示す流れ図である。
【符号の説明】
【0070】
1 第1の板体
2 連続溝
3,4 気液出入部
5 気液供給管
6 廃液管
7 第2の板体
8 固定反応物質(抗原)
9 液体反応物質(検体等)
10 流路
11 空気
12 界面
13 第1の支持板体
14 第2の支持板体
15 ボルト・ナット
16 貫通穴
18 貫通孔
19 接続部材
20 接続部
21 開口
22 ヒーター
23 暗箱
24 ディジタルカメラ
25 コンピュータ
26 シリンジポンプ
27 切換弁(六方弁)
28 液体反応物質容器
28a 洗浄液容器
28b 検体容器
28c 酵素標識抗体容器
28d 化学発光基質容器
29 システム液容器
30 サンプルループ
31 共通配管
32a,32b,32c,32d,32e… 配管
F フローセル
○1 共通ポート
○2〜○7 切換ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を構成するための連続溝を一方側の面に形成すると共に,上記連続溝の両端側に気液出入部を形成した第1の板体と,該第1の板体の上記一方側の面に当接させる第2の板体とから構成し,第1と第2の板体の少なくとも一方側を光透過性とすると共に,該第2の板体において,第1の板体と当接する側の面で,上記連続溝に対応する複数の個所に固定反応物質を固定し,第1と第2の板体を当接させて支持することにより,複数の固定反応物質に対して共通する液体反応物質の流路を形成することを特徴とする固定反応物質と液体反応物質との反応用フローセル。
【請求項2】
流路を構成するための連続溝を一方側の面に形成すると共に,上記連続溝の両端側に気液出入部を形成した第1の板体と,該第1の板体の上記一方側の面に当接させる第2の板体とから構成し,第1と第2の板体の少なくとも一方側を光透過性とすると共に,該第1の板体において,上記連続溝の複数の個所に固定反応物質を固定し,第1と第2の板体を当接させて支持することにより,複数の固定反応物質に対して共通する液体反応物質の流路を形成することを特徴とする固定反応物質と液体反応物質との反応用フローセル。
【請求項3】
連続溝は蛇行形状としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の固定反応物質と液体反応物質との反応用フローセル。
【請求項4】
第1の板体と第2の板体を,剛性を有する支持板体で挟持することにより当接状態で支持し,第1の又は第2の板体のうち,光透過性の板体に対応する支持板体は,固定反応物質の固定範囲に対応する個所に開口を形成するか又は少なくとも固定反応物質の固定範囲に対応する個所を光透過性とすることにより光透過可能に構成したことを特徴とする請求項1〜3までのいずれか1項に記載の固定反応物質と液体反応物質との反応用フローセル。
【請求項5】
開口を形成していない支持板体に,固定反応物質の固定範囲に対応して熱供給手段を設置したことを特徴とする請求項4に記載の固定反応物質と液体反応物質との反応用フローセル。
【請求項6】
固定反応物質は抗原であり,また液体反応物質は,検体,洗浄液,酵素標識物質及び化学発光基質であることを特徴とする請求項1〜5に記載の固定反応物質と液体反応物質との反応用フローセル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のフローセルを暗箱内に設置し,光透過性の板体側にディジタルカメラを配置し,第1の板体の一方側の気液出入部に気液供給管を接続すると共に,他方側の気液出入部に廃液管を接続し,気液供給管は,シリンジポンプと切換弁と各種液体反応物質容器とから成る気液供給装置に接続したことを特徴とする固定反応物質と液体反応物質との反応装置。
【請求項8】
気液供給装置は,シリンジポンプと,シリンジポンプの吸引側に配置したシステム液容器と,シリンジポンプの吐出側にサンプルループを有する共通配管を介して共通ポートに接続した切換弁と,切換弁の切換ポートの夫々に接続した配管を介して配置した複数の液体反応物質容器と,切換弁の切換ポートに接続した廃液配管と,切換弁の切換ポートに接続した吸気配管と,上記気液供給管を接続する切換弁の共通ポートとから構成したことを特徴とする請求項7に記載の固定反応物質と液体反応物質との反応装置。
【請求項9】
液体反応物質容器は,洗浄液容器,検体容器,酵素標識抗体容器及び化学発光基質容器であることを特徴とする請求項8に記載の固定反応物質と液体反応物質との反応装置。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の反応装置において,シリンジポンプで吐出されるシステム液により,上記各液体反応物質容器内の液体を気液供給管を介して請求項1〜6項のいずれか1項に記載のフローセルに供給する際には,供給する液体に先立ち,空気を吸気配管から切換弁を介してサンプルループに吸引することにより,次にサンプルループに吸引する液体とシステム液との間に空気を介在させることを特徴とする固定反応物質と液体反応物質との反応装置の運転方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−308332(P2006−308332A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128632(P2005−128632)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000138200)株式会社モリテックス (120)
【Fターム(参考)】