説明

固形成分を含有する廃溶剤の蒸留装置

【課題】固形成分を含有する廃溶剤から高い回収率で溶剤を回収するとともに、蒸発器での加熱運転を停止することなく装置に残留する固形成分を取り除くことができる蒸留装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る蒸留装置は、固形成分を含有する廃溶剤を加熱して気化させる蒸発缶10と、蒸発缶10から前記廃溶剤を流出させる廃溶剤抜き出しライン14と、廃溶剤抜き出しライン14から前記廃溶剤を受け、該廃溶剤を沈降分離する分離槽20と、分離槽20で沈降分離された廃溶剤の上澄液を蒸発缶10に戻す上澄液ラインとを備える。これにより、固形成分とともに廃棄する溶剤の量が減り、高い回収率で溶剤を回収することができる。また、本発明に係る蒸留装置は固形成分を排出する際に蒸発缶10での加熱運転を停止する必要がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形成分を含有する廃溶剤を精製して有機溶剤を回収する蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品等の洗浄工程では洗浄液として有機溶剤が広く使用されている。使用済みの有機溶剤(廃溶剤)は、従来より溶剤成分を回収し再利用することが行われており、その回収方法としては、廃溶剤を加熱して気化させ、気化した蒸気を凝縮させて回収する蒸留精製法が一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1には、不純物を含む溶剤を流下膜式リボイラ(蒸発器)で気化させ、気化した蒸気を精留部に送り、それを凝縮させて回収する蒸留装置が記載されている。
【特許文献1】特開2001-9201号公報([0008],図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の蒸留装置では、固形成分を含有する廃溶剤が蒸発器に間欠的又は連続的に供給されて加熱されると、廃溶剤中の揮発成分は気化して蒸留部に送られるが、固形成分は蒸発器に残留する。そのため、蒸発器の加熱運転を続けると、廃溶剤における固形成分の濃度が高くなり、固形成分の種類によっては廃溶剤の粘度が高くなって揮発成分の蒸発速度が低下することがある。また、固体成分の濃度が高いまま廃溶剤を加熱し続けると、加熱部の壁面に固体成分が固着して焦げ付くこともある。
【0005】
これを防ぐためには、蒸発器内で廃溶剤中の固体成分の濃度が高くなり過ぎる前に、蒸発器から固形成分を取り除く必要がある。その際に従来の蒸留装置では、固形成分とともに蒸発器内に残存する溶剤も取り除かれるため、多くの溶剤が再利用されずに廃棄される。また、固形成分を取り除く際に蒸発器の加熱運転を停止すると、熱エネルギーや時間のロスが生じ、非効率である。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、固形成分を含有する廃溶剤から高い回収率で溶剤を回収するとともに、蒸発器の加熱運転を停止することなく装置に残留する固形成分を取り除くことができる蒸留装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明に係る蒸留装置は、
固形成分を含有する廃溶剤から溶剤成分を回収する蒸留装置において、
前記廃溶剤を加熱して溶剤成分を気化させる蒸発器と、
前記蒸発器から前記廃溶剤を流出させる廃溶剤ラインと、
前記廃溶剤ラインから前記廃溶剤を受け、該廃溶剤を沈降分離する分離槽と、
前記分離槽で沈降分離された廃溶剤の上澄液を前記蒸発器に戻す上澄液ラインと、
を備えることを特徴とする。
【0008】
廃溶剤としては溶剤に固形成分が混入したものを対象とする。本発明に係る蒸留装置では、廃溶剤の溶剤成分は蒸発器内で蒸気となり廃溶剤から分離される。廃溶剤の固形成分は、まだ気化していない溶剤成分とともに蒸発器から分離槽に送られる。分離槽に送られた廃溶剤(固形成分及び溶剤成分)は分離槽にて沈降分離され、固形成分は沈殿し、溶剤成分は上澄液となる。沈殿した固形成分は分離槽から排出され、上澄液は上澄液ラインにより蒸発器に戻される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る蒸留装置では、分離槽で分離された上澄液(溶剤成分)は分離槽から蒸発器に戻され、固形成分は分離槽から排出される。これにより、固形成分とともに溶剤成分が無駄に廃棄されることがなくなり、廃溶剤から高い回収率で溶剤を回収することができる。
【0010】
また、本発明に係る蒸留装置は、蒸発器とは別に設けた分離槽にて固形成分を沈殿させて排出するため、蒸発器の加熱運転を停止することなく装置に残留する固形成分を取り除くことができる。従って、熱エネルギーや時間のロスが生じず、効率よく蒸留を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面に基づき、本発明の一実施例である蒸留装置を説明する。
【実施例】
【0012】
図1は本実施例に係る蒸留装置の概略構成図である。この蒸留装置は、固形成分を含有する廃溶剤を加熱して気化させる蒸発缶10と、蒸発缶10の下方に設けられ蒸発缶10で濃縮された廃溶剤を沈降分離する分離槽20と、蒸発缶10より流入する廃溶剤蒸気を沸点の違いを利用して分離する蒸留塔40とを主な構成要素とする。
【0013】
蒸発缶10の上部には、蒸発缶10に廃溶剤を供給する廃溶剤供給ライン11を接続する。蒸発缶10の内部には、水蒸気の熱により蒸発缶10内の廃溶剤を間接加熱する加熱部12を設ける。加熱部12はメンテナンス等において洗浄しやすくするために蒸発缶10から取り外し可能にしておくことが望ましい。加熱部12に水蒸気を送る第1水蒸気供給ライン13は、加熱部12だけでなく蒸発缶10にも接続し、蒸発缶10の缶内にも水蒸気を供給可能にする。なお、廃溶剤供給ライン11、第1水蒸気供給ライン13及び以下に述べる各ラインは、その中を流れる流体の流量調整を行うバルブや流量測定を行う流量計等を適宜備える。
【0014】
蒸発缶10の底部と分離槽20の上部とは廃溶剤抜き出しライン14で接続し、蒸発缶10内の廃溶剤を自然流下させて分離槽20に抜き出すようにする。廃溶剤抜き出しライン14中の蒸発缶10近傍には、廃溶剤の流量を調整する廃溶剤抜き出しバルブ15を設ける。廃溶剤抜き出しライン14中の廃溶剤抜き出しバルブ15よりも下流側(分離槽20側)には、圧縮空気を管内に送る圧縮空気供給ライン16を接続する。なお、廃溶剤抜き出しバルブ15をはじめ本実施例におけるバルブは電磁気もしくは空気圧によって開閉作動する自動弁とする。
【0015】
分離槽20は筒状の壁面の下端に、下に凸の円錐状の底部が連結したものとし、壁面の上端は天板で閉じる。分離槽20の下方には、廃溶剤の沈降分離により生じるスラリーを溜めるドラム缶21を配置する。分離槽20の底部先端とドラム缶21の上面とを接続するスラリー抜き出しライン24には、スラリーの排出時期を制御するスラリー抜き出しバルブ35を設ける。スラリー抜き出しライン24とスラリー抜き出しバルブ35は固形成分による閉塞を防止するために150A以上の大口径のものにすることが望ましい。分離槽20の上方には分離槽20内で廃溶剤から発生する蒸気を凝縮させる廃溶液コンデンサ22を配置し、廃溶液コンデンサ22の入口及び出口は凝縮ライン23により分離槽20の上部に接続する。
【0016】
分離槽20の壁面には、廃溶剤の上澄液の流出口である3本の上澄液流出口(第1上澄液流出口25、第2上澄液流出口26、第3上澄液流出口27)を異なる高さに設置する。各上澄液流出口は上澄液流出ライン28によって各上澄液流出口よりも低い位置に配置した一時貯留槽29に接続する。一時貯留槽29はポンプ31を備えた上澄液循環ライン30により蒸発缶10の上部と接続する。上澄液循環ライン30のポンプ31よりも下流側(蒸発缶10側)には廃液タンクに繋がる廃液ライン34を接続する。
【0017】
蒸発缶10における廃溶剤蒸気の出口には、蒸気に同伴するミストを捕集するワイヤーメッシュデミスタ33を設置する。なお、ワイヤーメッシュデミスタ33の代わりに干渉板や規則充填物等を用いてもよい。干渉板としては、折り曲げた板を並列させた、いわゆるコレクタを利用したもの、逆円錐状のもの、ラジエータ状のもの等を用いることができる。蒸発缶10における廃溶剤蒸気の出口は、蒸気ライン32により蒸留塔40の側面と接続する。
【0018】
蒸留塔40は、その中に廃溶液蒸気を通過させることにより、廃溶液に含まれ沸点が異なる各成分を分離して凝縮させるものである。そのために、蒸留塔40内には、通過する蒸気と接触させるための4つの充填物(下から順に第1充填物41、第2充填物42、第3充填物43、第4充填物44)を設置する。各充填物では、それ自体のみならず、充填物で既に凝縮された液体と蒸気が接触することにより、蒸気の凝縮が促進される。各充填物には、液体の負荷変動や精密蒸留に対応可能な、規則的な構造を有する規則充填物を用いることが望ましい。なお、蒸発缶10の廃溶剤蒸気の出口は、蒸気ライン32により第1充填物41と第2充填物42の間の蒸留塔40側面に接続する。
【0019】
各充填物の直上には、上方より供給される液体を下方の各充填物に分散供給する4台の液分散装置(下から順に第1液分散装置45、第2液分散装置46、第3液分散装置47、第4液分散装置48)を設置する。図2は蒸留塔40内に設置した第1液分散装置45の縦断面図である。第1液分散装置45は、上方より供給される液体を蒸留塔40の横断面の中心部に集めるコレクタ71を上部に有する。コレクタ71中央の下方にはコレクタ71により集められた液体を導入する内側筒部72を設置し、内側筒部72の外側には、内側筒部72との間に隙間を設けた外側筒部73を設置する。内側筒部72の下部は水平面内でフィッシュボーン形に枝分かれするパイプから成る下側分散管74と接続し、外側筒部73の下部も下側分散管74と同様の形状を有する上側分散管75と接続する。ここで、下側分散管74及び上側分散管75の平面図を図3に示す。下側分散管74は、図3(a)に示すようにフィッシュボーンの背骨にあたる中央パイプ77と、その両側に中央パイプ77と直交して水平に延伸する片側5本(両側10本)の分枝パイプ78とから成る。同様に上側分散管75は、図3(b)に示すようにフィッシュボーンの背骨にあたる中央パイプ79と、その両側に中央パイプ79と直交して水平に延伸する片側6本(両側12本)の分枝パイプ80とから成る。分枝パイプ78、80の底部には細孔76、81を適宜設ける。このとき、分枝パイプ80の細孔81は下方から見て下側分散管74と重ならない位置に配置する。なお、第1液分散装置45以外の液分散装置も同様の構成を有する。
【0020】
蒸留塔40の塔頂部には、塔頂部から留出する精製物を凝縮させて戻す還流ラインを設ける。この還流ラインは第1パイプ50、精製物コンデンサ49、第2パイプ51、第3パイプ52がこの順に連結したものとし、塔頂部からの精製物もこの順に流れる。第2パイプ51、第3パイプ52の各端部が連結する連結部66には精製物コンデンサ49で凝縮した精製物を外に抜き出すための抜き出しライン53を接続する。
【0021】
廃溶剤に含まれる微量の低沸点成分を除去して主成分である溶剤を回収するために、最上部の第4充填物44とその下方の第3充填物43の間、及び第3充填物43とその下方の第2充填物42の間における蒸留塔40の側面には第2サイドカット口55、及び第1サイドカット口54をそれぞれ設ける。各サイドカット口は回収ライン56に繋げる。回収ライン56には各サイドカット口より留出した溶剤を冷水で冷却する溶剤クーラー62を設ける。この回収ライン56は抜き出しライン53よりも内径が太いパイプを使用し、必要な処理量に対応可能にする。また、溶剤クーラー62よりも上流側(蒸留塔40側)の回収ライン56と還流ラインにおける連結部66とはバイパスライン58で接続する。
【0022】
蒸留塔40の底部は再加熱ライン63と接続し、再加熱ライン63には蒸留塔40の底部に溜まった液体を水蒸気の熱により間接加熱するリボイラ59を設ける。リボイラ59に水蒸気を送る第2水蒸気供給ライン60は、リボイラ59だけでなく蒸留塔40の底部にも接続し、蒸留塔40内にも水蒸気を供給可能にする。再加熱ライン63のうち蒸留塔40の底部からリボイラ59に向かう位置に、廃液タンクに繋がる排水ライン65を接続する。排水ライン65には排水ポンプ61を設ける。
【0023】
このような構成を有する本実施例に係る蒸留装置を用いて、固形成分を含む廃溶剤から溶剤を回収する例を説明する。なお、一般的に廃溶剤には水が混入するが、本実施例に係る蒸留装置では廃溶剤に水が混入していても構わない。まず、廃溶剤が廃溶剤供給ライン11から蒸発缶10に間欠的又は連続的に流入する。蒸発缶10に流入した廃溶剤は加熱部12により加熱され、溶剤成分の蒸発に伴って濃縮される。蒸発缶10内における廃溶剤の固形成分の濃度は5〜10%に保つことが望ましいが、固形成分が非粘着性のものである場合等では固形成分の濃度を20〜30%にしてもよい。なお、第1水蒸気供給ライン13から蒸発缶10内に水蒸気を直接供給すれば、蒸発缶10内の温度が素早く上昇するため、装置の立ち上がり時間を短縮することができる。また、メンテナンスの際に蒸発缶10内に水蒸気を直接供給すれば、蒸発缶10内を洗浄することもできる。
【0024】
蒸発缶10で気化した廃溶剤の蒸気は、ワイヤーメッシュデミスタ33を通過して蒸留塔40に連続的に送られる。ワイヤーメッシュデミスタ33では、蒸気に同伴するミストが捕集されるため、固体成分を含むミストはここで阻止される。
【0025】
蒸留塔40に入った蒸気は第1〜第4充填物41〜44の内部を通過する際に各充填物及び各充填物に既に付着している液体と接触することにより、その一部が凝縮する。このとき、蒸発缶10からの蒸気やリボイラ59で気化した蒸気によって蒸留塔40内は低位置ほど高温になるため、蒸留塔40に入った蒸気のうち高沸点成分は低位置の充填物で凝縮し、低沸点成分は低位置の充填物では凝縮せずに通過して蒸留塔40のより上部にまで到達しやすい。
【0026】
蒸留塔40の塔頂部に到達した蒸気は第1パイプ50を通って精製物コンデンサ49に入り、精製物コンデンサ49内を流れる冷却水によって凝縮する。凝縮物の一部は第2パイプ51、第3パイプ52を経て蒸留塔40の上部に還流され、その他は回収される。廃溶剤中に回収溶剤よりも低沸点の成分が含まれる場合、精製物コンデンサ49で凝縮した凝縮物にはその低沸点成分が多く含まれるため、バイパスライン58のバルブを閉じて抜き出しライン53より凝縮物を抜き出す。このとき、回収溶剤は第一サイドカット口54、もしくは第二サイドカット口55を経由して回収ライン56より回収する。一方、廃溶剤中に回収溶剤よりも低沸点の成分が含まれていない場合には、バイパスライン58のバルブを開け、精製物コンデンサ49で凝縮した凝縮物を回収ライン56を経由して回収する。
【0027】
最上部の第4充填物44では凝縮しやすいがその下方の第3充填物43では蒸気のまま通過しやすい精製物は、第2サイドカット口55から抜き出す。同様に、第3充填物43では凝縮しやすいがその下方の第2充填物42では蒸気のまま通過しやすいものは、第1サイドカット口54から抜き出す。その際、第1サイドカット口54及び第2サイドカット口55は一方のみを開いて精製物を抜き出す。このようにサイドカット口を複数設けることにより、サイドカット口の開閉を切り替えるだけで回収する精製物の種類を迅速に変更することができるため、廃溶剤の溶剤成分の割合が変動する場合などの操作性が向上する。なお、第1サイドカット口54及び第2サイドカット口55より抜き出された液は回収ライン56を流れ、溶剤クーラー62にて冷却されて回収される。
【0028】
蒸留塔40内の各充填物で凝縮した液体は重力により下方に流れる。流下する液体はその量の多少に関わらず、第1〜第4液分散装置45〜48によって、下方にある各充填物の上面全体に分散して供給される。その様子を図2、3を用いて説明する。第2充填物42の下面から流下する液体はコレクタ71により中央に集められ、内側筒部72に導入される。導入された液体は内側筒部72の下部から下側分散管74の中央パイプ77に流れ、そこから分枝パイプ78に枝分かれする。枝分かれした液体は分枝パイプ78の底部に設けた細孔76から下方に流出する。第2充填物42の下面から供給される液体の量が多くなり、内側筒部72の上端の開口部から液体が溢れ出すと、溢れた液体は内側筒部72と外側筒部73の間の隙間に流入する。隙間に流入した液体は、下側分散管74と同様、外側筒部73の下部から上側分散管75の中央パイプ79に流れ、そこから分枝パイプ80に枝分かれし、分枝パイプ80の底部に設けた細孔81から下方に流出する。このとき、細孔81は下方から見て分枝パイプ78と重ならない位置に設けられているため、細孔76、81から流出する液体は第1充填物41の上面の異なる位置に流れ落ちる。このようにフィッシュボーン形の分散管を2段以上にすることにより、液体の操作範囲が広がり、液の負荷変動に対処しやすくなる。なお、一般的にフィッシュボーン形の分散管はオープンチャネル形の分散管と比べ、液保有量が少ないため、品種切替を迅速に行うことができる。
【0029】
最も低い位置にある第1充填物41において凝縮する成分は水などの高沸点成分であり、これは蒸留塔40の底部に液体の状態で溜まる。溜まった液体はリボイラ59に送られ、そこで間接加熱されて蒸気となり、蒸留塔40の底部に戻って蒸留塔40内を上昇する。また、一部の高沸点成分は排水ライン65を通って廃液タンクへ排出される。
【0030】
なお、装置の立ち上げ直後に第2水蒸気供給ライン60から蒸留塔40の底部に水蒸気を供給すれば、蒸発缶10からの蒸気が蒸留塔40内に充満するのを待たずに蒸留塔40の内部の温度を上昇させることができる。これにより、蒸留開始までにかかる時間を短縮することができる。また、メンテナンスの際に蒸留塔40内に水蒸気を直接供給すれば、蒸留塔40内を洗浄することもできる。
【0031】
一方、蒸発缶10で濃縮された廃溶剤は、固形成分を排出するために、廃溶剤抜き出しライン14を通って分離槽20に送られる。このとき、廃溶剤抜き出しバルブ15の開閉方法は廃溶剤に含まれる固形成分の性質によって適宜変更する。例えば、固形成分が互いに結合しやすい場合や高い粘着性を有する場合などには、固形成分同士が近づくのを避けるために、廃溶剤抜き出しバルブ15をタイマー制御により間欠的に開放しながら廃溶剤を流下させる。また、固形成分が廃溶剤中に漂いやすい場合などでは廃溶剤抜き出しバルブ15をわずかに開けて廃溶剤をゆっくりと連続的に流下させる。なお、廃溶剤抜き出しライン14の管内壁に固形成分が固着して管が閉塞した場合には、廃溶剤抜き出しバルブ15を閉じた状態で圧縮空気供給ライン16から圧縮空気を間欠的に管内に送ることにより、固着した固形成分を分離槽20へ押し流す。
【0032】
分離槽20に流入する廃溶剤は、蒸発缶10で加熱されたものであるため、分離槽20に流入したときにその一部が蒸気になりやすい。この蒸気は廃溶液コンデンサ22において凝縮されて液体となるため、外部に漏れ出して大気を汚染するということがない。分離槽20に溜まった廃溶剤は沈降分離され、固形成分を含まない上澄液と、固形成分と溶剤成分が混じり合ったスラリーに分かれる。上澄液は第1〜第3上澄液流出口25〜27のうちのいずれかからオーバーフローし、上澄液流出ライン28を通って一時貯留槽29へ送られる。このとき、各上澄液流出口の設置高さには差を設けてあるため、分離槽20に流入する廃溶剤の量の変動に対応したり、分離槽20内の固形成分の濃度を調節したりすることができる。一時貯留槽29に溜まった上澄液は、ポンプ31により汲み上げられ、上澄液循環ライン30を通って蒸発缶10に戻る。このとき、上澄液を蒸発缶10に戻すのではなく廃液ライン34から廃液タンクへ排出することもできる。一方、分離槽20の底部に溜まったスラリーは、分離槽20における固形成分の割合が所定の値(例えば70%程度)まで高まったときに、分離槽20の下方に設けたドラム缶21に排出される。なお、一般的に廃溶剤に含まれる固形成分は溶剤成分よりも密度が高いため、廃溶剤中に漂いやすいものであっても分離槽20内で暫く静置することにより沈降する。
【0033】
本実施例に係る蒸留装置を用いて、固体成分を含有する廃溶剤からその廃溶剤の主成分であるアセトンを回収した例を説明する。使用した廃溶剤は、アセトン86.6wt%、水12.9wt%、レジスト等の高い粘着性を有する固形成分0.5wt%、メタノール200ppmを含んでいた。まず、蒸発缶10に廃溶剤を431kg/hで連続供給し、加熱部12により加熱しながら液体成分(アセトン、水、メタノール)を気化させた。このとき、廃溶剤抜き出しバルブ15は閉めておいた。暫く加熱を続け廃溶剤を濃縮し、廃溶剤に含まれる固形成分の濃度が約8wt%になった後、廃溶剤抜き出しバルブ15をタイマー制御で間欠的に開閉して、濃縮された廃溶剤を29kg/hの割合で分離槽20に抜き出した。抜き出した廃溶剤は、アセトン33.4wt%、水59.0wt%、固形成分7.6wt%、メタノール200ppmを含んでいた。
【0034】
分離槽20では、抜き出した廃溶剤を沈降分離し、上澄液とスラリーに分離した。上澄液は第1上澄液流出口25から流出させ、一時貯留槽29に溜めた後、ポンプ31により蒸発缶10に戻した。スラリーは、分離槽20での沈降分離を暫く続けて固形成分の濃度が70wt%になったときに、ドラム缶21に抜き出した。
【0035】
蒸発缶10で気化した蒸気は蒸気ライン32を通して蒸留塔40に送り分離した。アセトンを多く含む回収溶剤は第2サイドカット口55から抜き出し、回収ライン56に配置した溶剤クーラー62で20℃まで冷却し回収した。この回収溶剤に占める各液体の含有量は、アセトン99.85wt%、水0.15wt%、メタノール30ppm以下であり、回収量は1時間あたり347kgであった。このように、蒸発缶10に供給した廃溶剤に含まれていたアセトンのうち92.8%という高い割合のアセトンを回収ライン56から回収することができた。
【0036】
蒸留塔40の塔頂部にまで到達した溶剤は抜き出しライン53から抜き出した。このように抜き出した溶剤に占める各成分の含有量は、アセトン99.6wt%、メタノール0.4%であり、回収量は1時間あたり17kgであった。また、蒸留塔40の底部からは排水ライン65により1時間あたり38kgの水を廃液タンクに排出した。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施例である蒸留装置の概略構成図
【図2】蒸留塔40内に設置した第1液分散装置45の縦断面図
【図3】下側分散管74の平面図(a)及び上側分散管75の平面図(b)
【符号の説明】
【0038】
10…蒸発缶
11…廃溶剤供給ライン
12…加熱部
13…第1水蒸気供給ライン
14…廃溶剤抜き出しライン
15…廃溶剤抜き出しバルブ
16…圧縮空気供給ライン
20…分離槽
21…ドラム缶
22…廃溶液コンデンサ
23…凝縮ライン
24…スラリー抜き出しライン
25…第1上澄液流出口
26…第2上澄液流出口
27…第3上澄液流出口
28…上澄液流出ライン
29…一時貯留槽
30…上澄液循環ライン
31…ポンプ
32…蒸気ライン
33…ワイヤーメッシュデミスタ
34…廃液ライン
35…スラリー抜き出しバルブ
40…蒸留塔
41…第1充填物
42…第2充填物
43…第3充填物
44…第4充填物
45…第1液分散装置
46…第2液分散装置
47…第3液分散装置
48…第4液分散装置
49…精製物コンデンサ
50…第1パイプ
51…第2パイプ
52…第3パイプ
53…抜き出しライン
54…第1サイドカット口
55…第2サイドカット口
56…回収ライン
58…バイパスライン
59…リボイラ
60…第2水蒸気供給ライン
61…排水ポンプ
62…溶剤クーラー
63…再加熱ライン
65…排水ライン
66…連結部
71…コレクタ
72…内側筒部
73…外側筒部
74…下側分散管
75…上側分散管
76…細孔
77、79…中央パイプ
78、80…分枝パイプ
81…細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形成分を含有する廃溶剤から溶剤成分を回収する蒸留装置において、
前記廃溶剤を加熱して溶剤成分を気化させる蒸発器と、
前記蒸発器から前記廃溶剤を流出させる廃溶剤ラインと、
前記廃溶剤ラインから前記廃溶剤を受け、該廃溶剤を沈降分離する分離槽と、
前記分離槽で沈降分離された廃溶剤の上澄液を前記蒸発器に戻す上澄液ラインと、
を備えることを特徴とする蒸留装置。
【請求項2】
前記分離槽が前記蒸発器の下方に設けられるとともに、前記廃溶剤ラインの一端が前記蒸発器の底部に接続することを特徴とする請求項1に記載の蒸留装置。
【請求項3】
前記廃溶剤ラインを流れる廃溶剤の流量調整手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸留装置。
【請求項4】
前記廃溶剤ラインの管内に圧縮空気を送る圧縮空気供給手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蒸留装置。
【請求項5】
前記分離槽における上澄液の流出口が、前記分離槽の壁面の異なる高さ位置に複数設けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の蒸留装置。
【請求項6】
前記分離槽内の廃溶剤蒸気を凝縮させる凝縮手段を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の蒸留装置。
【請求項7】
前記蒸発器内の廃溶剤を水蒸気の熱により間接加熱する加熱部を有するとともに、該加熱部に水蒸気を供給する水蒸気供給ラインが該加熱部だけでなく前記蒸発器内にも適宜水蒸気を供給することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の蒸留装置。
【請求項8】
前記蒸発器における廃溶剤蒸気の出口に、廃溶剤に含まれる固形成分の通り抜けを阻止する固形成分除去手段を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の蒸留装置。
【請求項9】
前記蒸発器より流入する廃溶剤蒸気を沸点の違いを利用して分離する蒸留部を備えるとともに、該蒸留部がサイドカット方式により精製物を留出するサイドカット口を備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の蒸留装置。
【請求項10】
前記サイドカット口を複数備え、前記蒸留部における異なる温度領域から精製物を留出することを特徴とする請求項9に記載の蒸留装置。
【請求項11】
前記蒸留部の上部から留出する精製物を凝縮させて該蒸留部に戻す還流ラインと、
前記サイドカット口から留出する精製物を冷却して回収する回収ラインと、
前記還流ラインにて凝縮した精製物を前記回収ラインに送るバイパスラインと、
を備えることを特徴とする請求項9又は10に記載の蒸留装置。
【請求項12】
前記蒸発器より流入する廃溶剤蒸気を沸点の違いを利用して分離する蒸留部を備えるとともに、該蒸留部の内部に、上方より供給される液体を下方に分散供給する液分散手段を備えることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の蒸留装置。
【請求項13】
前記液分散手段が、
上方より供給される液体を集めて下方に流出するコレクタと、
前記コレクタの下方に設けられ、前記コレクタにて集められた液体を導入する内側筒部と、
前記内側筒部の外側に、前記内側筒部との間に隙間を空けて設けられた外側筒部と、
前記内側筒部の下部と接続し、水平面内で枝分かれする複数の下側分枝パイプを有し、前記内側筒部の内側を流れる液体を導入して前記下側分枝パイプの底部に設けた細孔から液体を流下する下側分散管と、
前記外側筒部の下部と接続し、水平面内で枝分かれする複数の上側分枝パイプを有し、前記外側筒部と前記内側筒部の間の隙間を流れる液体を導入して前記上側分枝パイプの底部に設けた細孔から液体を流下する上側分散管と、
を備えることを特徴とする請求項12に記載の蒸留装置。
【請求項14】
前記蒸発器より流入する廃溶剤蒸気を沸点の違いを利用して分離する蒸留部を備えるとともに、該蒸留部の底部に溜まった液体を水蒸気の熱により間接加熱する再加熱手段を備え、該再加熱手段に水蒸気を供給する水蒸気供給ラインが該再加熱手段だけでなく前記蒸留部の底部にも適宜水蒸気を供給することを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の蒸留装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−101334(P2009−101334A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278260(P2007−278260)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(507117083)堀川化成株式会社 (1)
【出願人】(000230582)日本化学機械製造株式会社 (16)
【Fターム(参考)】