説明

固形粉末化粧料

【課題】使用時に塗布具への取れが良好で、肌に塗布した際には均一に伸び広がり、滑沢性と肌への密着性に優れるなどの使用感が良く、肌への保湿効果と皮膚保護効果に優れ、かつ、耐衝撃性に優れ、着臭や吸湿による化粧料自体の安定性が損なわれることがない固形粉末化粧料を提供する。
【解決手段】
水溶性ケラチンの粉体を含有する固形粉末化粧料であって、数平均分子量が20,000〜60,000であり、構成アミノ酸であるシスチン及びシステインがシステイン酸に変換されており、さらに陰イオン性官能基を有するアミノ酸の割合が20.0〜40.0モル%である羊毛由来の水溶性ケラチンの粉体を含有することを特徴とする固形粉末化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性ケラチンの粉体を含有した固形粉末化粧料に関するものであり、より詳細には、使用時に塗布具への取れが良好で、肌に塗布した際には均一に伸び広がり、滑沢性と肌への密着性に優れるなどの使用感が良く、肌への保湿効果と皮膚保護効果に優れ、かつ、耐衝撃性に優れ、着臭や吸湿による化粧料自体の安定性が損なわれることがない固形粉末化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固形粉末化粧料は、一般的には皿状容器に充填成型し、これをコンパクト容器に装着して使用するファンデーション、白粉、頬紅、アイシャドウ、アイブロウなどに代表されるメイクアップ化粧料の一種で、携帯性や簡便性に優れるため、幅広く汎用されている剤型である。これらの固形粉末化粧料は、着色顔料、体質顔料、光輝性顔料などからなる粉体に油剤を加えて分散した基材を皿状容器に充填成型することにより得られるものである。
【0003】
固形粉末化粧料の多くは携帯性に優れ、日常的に持ち運ばれるため、成型物の耐衝撃性が必要とされる。また、固形粉末化粧料の多くは、成型物の表面をパフなどの塗布具により擦り取り肌に塗布して使用されるため、塗布具への取れ具合の良さや、塗布時の均一な伸び広がりや密着性といった使用感が品質を決定する重要な要素となる。
【0004】
一般的に固形粉末化粧料には、使用感を向上させる目的で、板状粉体や球状粉体といった粉体種が配合されているが、これらはその特異な形状に起因して圧縮成型性が悪く、高配合すると固形粉末化粧料の耐衝撃性に問題を生じさせる場合があり、特定の配合系や成型法でしかこの問題を解決できないために、処方や成型法に多くの制約があった。また、これらの問題を解決する目下の手段の一つとして不定形粉体であるタルクを高配合する方法が汎用されているが、塗布時の伸び広がりの悪さなど使用感を損なう欠点があった。
【0005】
さらに、固形粉末化粧料は日常的に長時間肌に塗布した状態で使用されるため、肌への負担が大きく、乾燥による肌のかさつきや肌荒れなどの問題を引き起こす原因になっていた。そこで、保湿成分を固形粉末化粧料に配合する試みがなされてきたが、前記のように固形粉末化粧料は粉体と油剤の2成分を主とする成分から構成されるため、保湿成分の添加が困難であった。
【0006】
特定の保湿成分を固形粉末化粧料に配合できることが報告されており、中でもコラーゲンの粉末を配合する方法は古くから知られているが、比較的原料臭の少ないウシ由来コラーゲンは近年のBSE(牛海綿状脳症)問題によってその使用が敬遠され、その代替となった魚由来コラーゲンは経時的な着臭や吸湿によって固形粉末化粧料の安定性を損なわせる点が問題となり、肌への保湿効果と固形粉末化粧料の安定性を両立することが困難であった。
【0007】
また、羊毛を微細粉砕することで得られる不溶性のウールパウダーを固形粉末化粧料へ配合する試みもなされてきたが、その繊維状の形状と不均一な粒子の大きさによって、使用感の悪さ、均一分散性や成型性の悪さなど種々の問題点を有していた(特許文献1)。
【0008】
さらに最近では、水溶性高分子やタンパク質加水分解物、アミノ酸、多糖などの保湿成分を固形粉末化粧料に汎用される粉体に表面処理することによって、粉体自体に保湿効果を付与する試みがなされている。しかし、この方法は特殊な粉体を使用する必要性が生じるため、処方のバリエーションが制限される点や、簡便性に欠ける点が問題となっていた(特許文献2〜6参照)。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−252709
【特許文献2】特許第4131892号
【特許文献3】特許第3589987号
【特許文献4】特開2003−12447
【特許文献5】特開2007−284483
【特許文献6】特開2009−107961
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、使用感が良く、保湿性に優れ、肌のかさつきや肌荒れを防止し、かつ、耐衝撃性に優れ、着臭や吸湿による化粧料自体の安定性が損なわれることがない固形粉末化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、水溶性ケラチンの粉体を固形粉末化粧料に配合することによって、使用感が良く、保湿性に優れ、肌のかさつきや肌荒れを防止し、かつ、耐衝撃性に優れ、着臭や吸湿による化粧料自体の安定性が損なわれることがない固形粉末化粧料が得られることを見出し、それに基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は水溶性ケラチンの粉体を含有することを特徴とする固形粉末化粧料を基本発明とするものであって、これを請求項1に係る発明とする。
【0013】
水溶性ケラチンは天然に存在するケラチン含有物質から得られるが、産業上利用しやすいケラチン含有物質を選択することが好ましい。そこで、本発明では特に、水溶性ケラチンが羊毛由来であることを特徴とする請求項1に記載の固形粉末化粧料を、請求項2に係る発明とする。
【0014】
水溶性ケラチンの分子量は、配合する固形粉末化粧料の種類によっても異なるが、より使用感が良い固形粉末化粧料を得るためには、水溶性ケラチンの数平均分子量が20,000〜60,000であることが好ましい。そこで、本発明においては、前記水溶性ケラチンの数平均分子量が20,000〜60,000であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の固形粉末化粧料を、請求項3に係る発明とする。
【0015】
天然に存在するケラチン含有物質から得られるケラチンにはシスチンとシステインが含まれているが、これらがシステイン酸に変換している水溶性ケラチンは経時的な着臭や着色を生じにくい。そこで、本発明では、水溶性ケラチンの構成アミノ酸であるシスチン及びシステインがシステイン酸に変換されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の固形粉末化粧料を、請求項4に係る発明とする。
【0016】
水溶性ケラチンは、構成アミノ酸として陰イオン性官能基を有するアミノ酸を有しており、この陰イオン性官能基のマイナス電荷が、固形粉末化粧料に水溶性ケラチンの粉体を配合させやすくする。そこで、本発明においては、水溶性ケラチンを構成するアミノ酸組成において、陰イオン性官能基を有するアミノ酸の割合が20〜40モル%であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の固形粉末化粧料を、請求項5に係る発明とする。
【0017】
固形粉末化粧料に配合される水溶性ケラチンの粉体の平均粒子径は、固形粉末化粧料の種類によっても異なるが、1.0〜50.0μmの場合に一般的に使用感が良いため、水溶性ケラチンの粉体の平均粒子径が1.0〜50.0μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の固形粉末化粧料を、請求項6に係る発明とする。
【0018】
請求項7に係る発明は、前記水溶性ケラチンの粉体の含有量が0.1〜30.0質量%であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の固形粉末化粧料である。固形粉末化粧料中の水溶性ケラチンの粉体の含有量の好適な範囲は、化粧料の種類や使用形態等によって変動するが、通常では固形粉末化粧料の全質量に対して0.1〜30.0質量%が好ましい。
【0019】
請求項8に係る発明は、前記固形粉末化粧料がパウダーファンデーションであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の固形粉末化粧料である。パウダーファンデーションは最も一般的に使用される固形粉末化粧料であり、数ある固形粉末化粧料の中でも最も本発明の効果を具現化するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の固形粉末化粧料は、使用感が良く、保湿性に優れ、肌のかさつきや肌荒れを防止することができ、かつ、耐衝撃性に優れ、着臭や吸湿による化粧料自体の安定性が損なわれることがない効果を奏す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。本発明で用いる水溶性ケラチンの粉体は、天然のケラチン含有物質から水に可溶であるケラチンを選択的に抽出することで得られる水溶性ケラチンの水溶液を乾燥し、粉末化したものである。
【0022】
前記ケラチン含有物質としては、羊や山羊、人などの哺乳動物の体毛や、アヒルや鶏などの鳥類の羽毛、哺乳動物の角や爪などを用いることが出来るが、工業的に安価に入手しやすく、また、水溶性ケラチンの抽出のし易さから考えると、羊毛やカシミア、羽毛を用いるのが好ましく、羊毛を用いるのが最も好ましい。
【0023】
水溶性ケラチンの数平均分子量は、20,000〜60,000であることが好ましく、20,000〜40,000であることがより好ましい。
【0024】
水溶性ケラチンの数平均分子量が上記範囲より小さい場合には、水溶性ケラチンの粉体が吸湿し易く、固形粉末化粧料に配合した際に化粧料の安定性が悪くなり、一方、数平均分子量が上記範囲よりも大きい場合には水溶性ケラチンの粉体が化粧料中で均一に分散しにくく、本発明の効果を損なう恐れがある。
【0025】
水溶性ケラチンはアミノ酸をモノマーとした天然のポリマーであり、特に含硫黄アミノ酸を豊富に含むことが特徴である。ケラチン中の含硫黄アミノ酸としてはシステインやシステインが2量体となったシスチンがある。このシステインやシスチンは酸化反応によってシステイン酸に変換することができ、本発明で用いられる水溶性ケラチンは構成アミノ酸のシステインやシスチンがシステイン酸に変換されていることが好ましい。
【0026】
システインの特異的官能基であるチオール基やシスチンの特異的官能基であるジスルフィド基は反応性の高い官能基であるため、システインやシスチンを含むケラチンを固形粉末化粧料に配合すると、チオール基やジスルフィド基が化粧料中に配合されている他の物質と反応し、着臭や着色の原因となる可能性がある。そのため、本発明で用いる水溶性ケラチンとしては、システインやシスチンがシステイン酸に変換されていることが好ましい。
【0027】
水溶性ケラチンを構成するアミノ酸には、前記のシステインやシスチンを含め約20種類あり、その中でアミノ酸側鎖に陰イオン性官能基をもつアミノ酸としては、アミノ酸側鎖にカルボキシ基を有するグルタミン酸とアスパラギン酸が挙げられる。また、アミノ酸側鎖に陰イオン性官能基をもつアミノ酸にはスルホ基を有する前記システイン酸も該当する。
【0028】
本発明に使用する水溶性ケラチンは、これら陰イオン性官能基をもつアミノ酸の割合が、全構成アミノ酸の20〜40モル%であることが好ましく、25〜35モル%であることがより好ましい。
【0029】
ケラチン中のアミノ酸組成は、由来とするタンパク質源(ケラチン含有物質)によって異なるが、グルタミン酸とアスパラギン酸の合計は約20モル%前後である。また、ケラチン中のシステインやシスチンが全てシステイン酸に変換したとすると、システイン酸の存在比は約10モル%になる。つまり、陰イオン性官能基をもつグルタミン酸、アスパラギン酸及びシステイン酸の合計は最大でも約30〜35モル%であり、40モル%以上になることは天然のタンパク質源を用いる場合では極めて希であり、前記範囲以上の陰イオン性官能基をもつ水溶性ケラチンを工業的に安価に入手することは困難である。
【0030】
前記範囲の陰イオン性官能基を有する水溶性ケラチンの粉体は、陰イオン性官能基の静電反発によって、粉体同士が凝集しにくいため、均一に固形粉末化粧料中に分散し易い。また、正常な皮膚の表面はマイナス電荷を帯びており、陰イオン性官能基を有するケラチンが皮膚に塗布されることによって、荒れた肌をより正常な皮膚の表面状態に近づけることができると考えられる。これらの効果は、陰イオン性官能基を有するアミノ酸の割合が前記範囲以下では期待できないため、陰イオン性官能基をもつアミノ酸の割合は前記の範囲であることが好ましい。
【0031】
本発明において水溶性ケラチン水溶液の乾燥方法は特に限定されてないが、例えばスプレードライ法(噴霧乾燥法)や凍結乾燥法、気流乾燥法などが挙げられる。乾燥して粉末にする際、その粉末化の方法や粉末化後の処理方法によって粉末粒子径を変化させることができ、用途に応じて最適な粒子径の水溶性ケラチンの粉体を調製して、固形粉末化粧料に配合することができる。
【0032】
肌に塗布した際の使用感を重視するならば、平均粒子径が1.0〜50.0μmの水溶性ケラチンの粉体を用いるのが好ましく、この範囲の平均粒子径の水溶性ケラチンの粉体を配合した固形粉末化粧料は使用時に塗布具への取れが良好で、肌に塗布した際には均一に伸び広がり、滑沢性と肌への密着性に優れる。
【0033】
水溶性ケラチンの粉体として市販されているものとしては、例えば、SOLUBLEKERATIN SKSP(株式会社成和化成製)が挙げられる。
【0034】
本発明の固形粉末化粧料としては、例えば、ファンデーション、白粉、頬紅、アイシャドウ、アイブロウなどに代表されるメイクアップ化粧料が挙げられる。
【0035】
本発明の固形粉末化粧料での水溶性ケラチンの粉体含有量の好ましい範囲は、化粧料の種類によって異なり、特に限定されるものではないが、化粧料中0.1〜30.0質量%が好ましく、0.5〜15.0質量%がより好ましい。化粧料中での含有量が上記範囲より少ない場合は使用感や保湿性が悪く、肌のかさつきや肌荒れを防止するという本発明の効果が十分に発揮できず、また、上記範囲より多い場合は、固形粉末化粧料の耐衝撃性が低下し、着臭や吸湿による化粧料自体の安定性が損なわれる可能性がある。
【0036】
本発明の固形粉末化粧料には水溶性ケラチンの粉体以外の粉体を含有させることが好ましく、通常化粧料に汎用される粉体であれば、板状、球状、針状、繊維状などの形状及び微粒子、顔料級などの粒子径、多孔質、無孔質などの粒子構造などに特に制限されず、無機粉体類、有機粉体類、色素粉体類、複合粉体類などを用いることができる。具体例としては、酸化チタン、酸化亜鉛、黒酸化鉄、黄酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、群青、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、マイカ、合成マイカ、セリサイト、合成セリサイト、タルク、硫酸バリウム、窒化ホウ素、カオリン、ベントナイトなどの無機粉体類、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、シリコーンエラストマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸アルキル、ウレタン、ステアリン酸亜鉛、N−アシルリジン、結晶セルロースパウダー、シルクパウダー、ウールパウダーなどの有機粉体類、赤色201号、赤色202号、赤色205号、赤色226号、赤色228号、橙色203号、橙色204号、黄色401号、青色404号などの有機タール系顔料、赤色3号、赤色104号、橙色205号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号などの有機色素のレーキ顔料などの色素粉体類、微粒子酸化チタン被覆マイカチタン、微粒子酸化亜鉛被覆マイカチタン、硫酸バリウム被覆マイカチタン、酸化チタン含有二酸化ケイ素、酸化亜鉛含有二酸化ケイ素などの複合粉体類などが挙げられ、これらを単独或いは二種以上混合して使用できる。
【0037】
また、これらの粉体はシリコーン系化合物、金属石鹸、界面活性剤、油脂、炭化水素、フッ素化合物などを用いて公知の方法によって表面処理されているものでも良い。
【0038】
これらの粉体の配合目的としては、着色剤、隠蔽剤、紫外線遮蔽剤、賦形剤、肌への付着性向上や伸び広がりの向上といった感触調整剤などが挙げられる。
【0039】
本発明の固形粉末化粧料中の水溶性ケラチンの粉体以外の粉体の含有量は、特に制限はないが60.0〜98.0質量%が好ましい。
【0040】
さらに、本発明の固形粉末化粧料には油剤を含有させることが好ましく、通常化粧料に汎用されるものであれば、動物油、植物油、合成油などの起源および常温にて固形状、半固形状、液体状などの形状などに特に制限されず、例えば、炭化水素類、天然ロウ類、エステル油類、油脂類、脂肪酸類、高級アルコール類、シリコーン油類、フッ素系油類などを用いることができる。具体例としては、パラフィン、イソパラフィン、スクワラン、ワセリン、セレシンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックスなどの炭化水素類、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、ミツロウ、ラノリン、ゲイロウなどの天然ロウ類、ホホバ油、リンゴ酸ジイソステアリル、ミリスチン酸イソプロピル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、トリ−2エチルへキサン酸グリセリル、トリ(カプリン酸/カプリル酸)グリセリル、(水添ロジン/ジイソステアリン酸)グリセリルなどのエステル油類、オリーブ油、マカデミアナッツ油、大豆油、ヒマシ油などの油脂類、オレイン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸などの脂肪酸類、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコールなどの高級アルコール類、高重合ジメチルポリシロキサン、低重合ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、環状ポリシロキサンなどのシリコーン油類、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロオクタンなどのフッ素系油類などが挙げられ、これらを単独或いは二種以上混合して使用できる。
【0041】
これらの油剤の配合目的としては、粉体同士の結合剤や、肌への付着性向上や伸び広がりの向上といった感触調整剤としての機能を発揮させることが挙げられる。
【0042】
本発明の固形粉末化粧料における油剤の配合量は、特に制限はないが5.0〜20.0質量%が好ましい。
【0043】
本発明の固形粉末化粧料には、上記成分に加え、目的に応じて本発明の効果を損なわない範囲において、トリメチルシロキシケイ酸などの油溶性皮膜形成剤、パラオキシ安息香酸誘導体、フェノキシエタノールなどの防腐剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、香料、塩類、酸化防止剤、pH調整剤、キレート剤、ビタミン類、抗炎症剤などの成分を配合することができる。
【0044】
本発明の固形粉末化粧料の製造方法は、特に限定されないが、例えば、水溶性ケラチンの粉体と水溶性ケラチンの粉体以外の粉体、油剤などを均一に分散混合し、これを皿状容器に充填成型する方法が挙げられる。なお、皿状容器に充填成型する方法としては、圧縮成型する方法及び溶剤を用いてスラリー充填する方法などの何れでも良い。
【0045】
本発明の固形粉末化粧料は、ファンデーション、白粉、頬紅、アイシャドウ、アイブロウなどのメイクアップ化粧料が好適であるが、ファンデーションである場合が、水溶性ケラチンの粉体に起因する効果、つまり、使用感が良く、保湿性に優れ、肌のかさつきや肌荒れを防止し、かつ、耐衝撃性に優れ、着臭や吸湿による化粧料自体の安定性が損なわれることがないという効果が十分に発揮されやすい。
【実施例】
【0046】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中などで表記されている%は特に指定が無い限り、いずれも質量%である。
【0047】
実施例1〜3、対照例1及び比較例1〜2:ケーキ状パウダーファンデーション
表1に示す組成のケーキ状パウダーファンデーションを下記の製造方法にて調製し、「耐衝撃性」、「湿度変化に伴う耐衝撃性の変化」、及び「経時的な着臭」の試験によって、製剤の安定性を評価した。また、「吸保湿性」、「滑沢性」、「官能試験」、及び「連用による皮膚の状態の改善に関する試験」によって、製剤の機能性と使用感を評価した。これらの結果を表1に併せて示す。
【0048】


【表1】

【0049】
<製造方法>
ヘンシェルミキサーを用いて均一に混合、粉砕した(A)粉体成分に、あらかじめ75℃にて均一に分散させた(B)油剤成分を加えて混合、粉砕し、得られた混合物を金皿に充填して圧縮成型した。
【0050】
<評価方法>
〔I〕製剤の安定性の評価

(1)耐衝撃性
金皿に圧縮成型した実施例1〜3、対照例1及び比較例1〜2のケーキ状パウダーファンデーションを30cmの高さから繰り返し5回ベニヤ板上に落下させ、落下後の状態を目視観察し、状態を下記評価基準に基づいて判定した。
◎:変化なし
○:ほぼ変化なし
△:ややひび割れがある
×:割れる

【0051】
(2)湿度変化に伴う耐衝撃性の変化
金皿に圧縮成型した実施例1〜3、対照例1及び比較例1〜2のケーキ状パウダーファンデーションを湿度65%の高湿度保存下に1週間保存し、続いて湿度20%の低湿度保存下に保存した後、30cmの高さから繰り返し5回ベニヤ板上に落下させ、落下後の状態を目視観察し、その状態を評価(1)の試験結果と比較することで、湿度変化に伴う耐衝撃性の変化とし、下記評価基準に基づいて判定した。
A:耐衝撃性に変化なし
B:耐衝撃性がやや下がる
C:耐衝撃性が下がる

【0052】
(3)経時的な着臭
実施例1〜3、対照例1及び比較例1〜2のケーキ状パウダーファンデーションを、50℃条件下で1ヶ月間保存し、被験者10名に臭いの有無を比較させ、下記評価基準に基づいて判定した。
◎:10名中8名以上が臭わないと判定した
○:10名中5−7名が臭わないと判定した
△:10名中2−4名が臭わないと判定した
×:10名中0−1名が臭わないと判定した

【0053】
〔II〕製剤の機能性と使用感の評価

(4)吸保湿性
実施例1〜3、対照例1及び比較例1〜2のケーキ状パウダーファンデーションを秤量瓶に秤量して十分に乾燥させた後、湿度79%の高湿度下に24時間保存した際の質量を測定し、続いて湿度20%の低湿度下に24時間保存した際の質量を測定し、両測定値から変化率を算出して、下記評価基準に基づいて判定した。なお、質量変化率が大きいほど吸保湿性が高く、ケーキ状パウダーファンデーションの保水力が優れていることを示す。
A:質量変化率が0.5%以上
B:質量変化率が0.1〜0.5%
C:質量変化率が0.1%以下

【0054】
(5)滑沢性(平均摩擦係数の測定)
実施例1〜3、対照例1及び比較例1〜2のケーキ状パウダーファンデーション約10mgを合成皮革〔サプラーレ(商品名)、出光テクノファイン株式会社製〕10cmの範囲上にそれぞれ均一に塗布し、摩擦感テスターKES−SE(カトーテック社製)を用いて合成皮革の表面の平均摩擦係数(MIU値)の測定を行った。対照例1のMIU値を100%として各実施例と比較例のMIU値の低下率を算出し、下記評価基準に基づいて判定した。なお、MIU値低下率が大きいほど、滑沢性が高いことを示す。
◎:MIU値低下率が10%以上
○:MIU値低下率が5%以上、10%未満
△:MIU値低下率が1%以上、5%未満
×:MIU値低下率が1%未満


【0055】
(6)官能試験
実施例1〜3、対照例1及び比較例1〜2のケーキ状パウダーファンデーションを被験者10名の顔面にそれぞれ塗布させ、(a)塗布具への取れやすさ、(b)塗り伸ばしの良さ、(c)化粧膜の均一性、(d)化粧膜のフィット感、(e)肌のかさつきのなさ、の5項目について評価させ、下記評価基準に基づいて判定することで、使用感の評価を行った。
◎:10名中8名以上が良いと判定した
○:10名中5−7名が良いと判定した
△:10名中2−4名が良いと判定した
×:10名中0−1名が良いと判定した

【0056】
(7)連用による皮膚の状態の改善に関する試験
被験者60名を10名ずつ6グループに分け、実施例1〜3、対照例1及び比較例1〜2のケーキ状パウダーファンデーション6種類を1種類ずつ各グループに1ヶ月間連用させ、皮膚の状態の改善効果について評価させ、下記評価基準に基づいて判定した。
A:10名中8名以上が、皮膚改善効果が認められると判定した
B:10名中3−7名が、皮膚改善効果が認められると判定した
C:10名中0−2名が、皮膚改善効果が認められると判定した

【0057】
表1の結果から明らかなように、水溶性ケラチンの粉体を配合した実施例1〜3のケーキ状パウダーファンデーションは、「耐衝撃性」、「湿度変化に伴う耐衝撃性の変化」、「経時的な着臭」、「吸保湿性」、「滑沢性」、「官能試験」及び「連用による皮膚の状態の改善に関する試験」の全ての評価項目で優れていた。一方、水溶性ケラチンの粉体を配合していない対照例1は「吸保湿性」、「官能試験」及び「連用による皮膚の状態の改善試験」で評価が悪く、水溶性ケラチンの粉体の代わりに球状のシリカを配合した比較例1は、「耐衝撃性」、「吸保湿性」及び「連用による皮膚の状態の改善に関する試験」における評価が悪かった。また、水溶性ケラチンの代わりにコラーゲン粉末(ウシ由来)を配合した比較例2は、「耐衝撃性」、「湿度変化に伴う耐衝撃性の変化」、「経時的な着臭」、「滑沢性」及び「官能試験」における評価が悪かった。
【0058】
実施例4、対照例2及び比較例3:ケーキ状アイシャドウ
表2に示すケーキ状アイシャドウを実施例4、対照例2及び比較例3として調製し、実施例1〜3、対照例1及び比較例1〜2と同様の評価を行った。その評価結果を表2に併記する。
【0059】
【表2】

【0060】
実施例4の水溶性ケラチンの粉体を配合したケーキ状アイシャドウは、比較例3のケーキ状アイシャドウに比べ、「耐衝撃性」、「湿度変化による耐衝撃性変化」、「経時的な着臭」、「滑沢性」、「官能試験」及び「連用による皮膚の状態の改善に関する試験」の項目で優れていた。なお、「吸保湿性」では、実施例4は比較例3と同等の評価結果であったが、「官能評価」における“肌のかさつきのなさ”という指標において優れていたため、実施例4は比較例3よりも保湿効果があると考えられた。また、水溶性ケラチンの粉体やコラーゲン粉末を配合していない対照例2は、「吸保湿性」、「官能試験」及び「連用による皮膚の状態の改善試験」で評価が悪かった。
【0061】
実施例5、対照例3及び比較例4:ケーキ状頬紅
表3に示すケーキ状頬紅を実施例5、対照例3及び比較例4として調製し、実施例1〜3、対照例1及び比較例1〜2と同様の評価を行った。その評価結果を表3に併記する。
【0062】
【表3】

【0063】
実施例5の水溶性ケラチンの粉体を配合したケーキ状頬紅は、比較例4のケーキ状頬紅に比べ、「耐衝撃性」、「湿度変化による耐衝撃性変化」、「経時的な着臭」、「滑沢性」、「官能試験」及び「連用による皮膚の状態の改善に関する試験」の項目で優れていた。なお、「吸保湿性」では、実施例5は比較例4と同等の評価結果であったが、「官能評価」における“肌のかさつきのなさ”という指標において優れていたため、実施例5は比較例4よりも保湿効果があると考えられた。また、水溶性ケラチンの粉体やコラーゲン粉末を配合していない対照例3は、「吸保湿性」、「官能試験」及び「連用による皮膚の状態の改善試験」で評価が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ケラチンの粉体を含有することを特徴とする固形粉末化粧料。
【請求項2】
前記水溶性ケラチンが羊毛由来のケラチンであることを特徴とする請求項1に記載の固形粉末化粧料。
【請求項3】
前記水溶性ケラチンの数平均分子量が20,000〜60,000であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の固形粉末化粧料。
【請求項4】
前記水溶性ケラチンの構成アミノ酸であるシスチン及びシステインがシステイン酸に変換されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の固形粉末化粧料。
【請求項5】
前記水溶性ケラチンを構成するアミノ酸組成において、陰イオン性官能基を有するアミノ酸の割合が20〜40モル%であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の固形粉末化粧料。
【請求項6】
前記水溶性ケラチンの粉体の平均粒子径が1.0〜50.0μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の固形粉末化粧料。
【請求項7】
前記水溶性ケラチンの粉体の含有量が0.1〜30.0質量%であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の固形粉末化粧料。
【請求項8】
前記固形粉末化粧料がパウダーファンデーションであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の固形粉末化粧料。

【公開番号】特開2011−132152(P2011−132152A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291650(P2009−291650)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000147213)株式会社成和化成 (45)
【Fターム(参考)】