説明

固形組織由来インピーダンス推定方法、心拍出量の算出方法、肺動脈楔入圧の算出方法、心拍出量モニタ装置、心拍出量モニタシステム、肺動脈楔入圧モニタ装置および肺動脈楔入圧モニタシステム

【課題】心拍出量および肺動脈楔入圧を精度よく推定するための実用的な方法を提供する。
【解決手段】肺循環に高張食塩水を注入した後の所定時間内に得られた、冠静脈に挿入配置した静脈電極7と左側胸壁に植え込んだカン電極5との間のインピーダンス信号の1心周期内の最大値と最小値とからなる複数心周期のデータセットに基づいて、これらデータセット毎のインピーダンス信号の最大値と最小値の回帰直線を算出し、算出された回帰直線の延長線上において、前記インピーダンス信号の最大値と最小値とが等しくなるときのインピーダンス値により、固形組織由来インピーダンスを推定する固形組織由来インピーダンスの推定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形組織由来インピーダンス推定方法、心拍出量の算出方法、肺動脈楔入圧の算出方法、心拍出量モニタ装置、心拍出量モニタシステム、肺動脈楔入圧モニタ装置および肺動脈楔入圧モニタシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
除細動装置あるいは心臓再同期装置が植え込まれた心不全患者において、心機能の推移を連続してモニタできれば、(1)患者個々の病態に応じた治療の調整が可能になり、(2)病態悪化を早期に把握し、早期に治療を開始することで、患者予後の改善、入院期間の短縮などのQOL改善が可能になる。このように、植え込み装置に付加し得る心機能モニタが臨床では必要とされている。
【0003】
心機能を評価する際に、心拍出量と肺動脈楔入圧を計測して評価することが一般的に知られている。従来、心拍出量を計測あるいは推定する技術として、例えば、特許文献1〜特許文献4に示されるものが知られている。また、従来、肺動脈楔入圧あるいは肺うっ血度を推定する技術として、例えば、特許文献5〜特許文献7の示されるものが知られている。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4450527号明細書
【特許文献2】米国特許第5417717号明細書
【特許文献3】米国特許第5058583号明細書
【特許文献4】米国特許第6438408号明細書
【特許文献5】米国特許第6473640号明細書
【特許文献6】米国特許第6595927号明細書
【特許文献7】米国特許第6829503号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法は、体表の電極間のインピーダンスを計測するものであるため、体動や汗により電極の位置や電極インピーダンスが変化してしまい、心拍出量を正確に推定することができないという不都合がある。また、長期に電極を体表に貼ることは現実的ではなく、長期モニタには適さない。
また、特許文献2,3の方法は、右心室に配置した電極により右心室容積変化から心拍出量を推定する方法であるが、推定精度に問題があった。また、特許文献4の方法は、左心室内に挿入した電極により左心室容積変化から心拍出量を推定するものであるが、患者左心室に電極を常時留置するため、血栓症や感染症の問題があり実用化が困難であるという不都合がある。
【0006】
特許文献5、6の方法は、胸壁に植え込まれたカン電極と右心室・右心房リードの間の電極インピーダンスの時間平均値を計測し、肺うっ血の程度を推定する。このため、信号に右心室・右心房の容積変化が一部反映される。よって肺うっ血がなくても、つまり肺動脈楔入圧に異常がなくても、右心室の容積拡大があれば肺うっ血と誤って判断してしまう不都合があった。
特許文献7の方法は、胸壁に埋め込まれたカン電極により、肺に限定したインピーダンス時間平均値を計測することで肺うっ血の程度を推定する。ここでは肺インピーダンス時間平均値信号から肺循環血液量を推定し、肺うっ血の程度を推定する。しかしながら理論的に、肺動脈楔入圧あるいは肺うっ血の程度は肺循環血液量と心拍出量により決定される。例えば、同じ肺循環血液量であっても心拍出量の少ない場合には肺動脈楔入圧は高くなることが知られている。特許文献7の方法は心拍出量の増減を考慮に入れていないため、肺うっ血度の推定が不正確になるという不都合があった。
また、特許文献5〜7のいずれも、肺動脈楔入圧の値まで推定することは不可能であった。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、心拍出量を精度よく推定するための実用的な固形組織由来インピーダンス推定方法、心拍出量の算出方法、肺動脈楔入圧の算出方法、心拍出量モニタ装置、心拍出量モニタシステム、肺動脈楔入圧モニタ装置および肺動脈楔入圧モニタシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、肺循環に高張食塩水を注入した後の所定時間内に得られた、冠静脈に挿入配置した静脈電極と左側胸壁に植え込んだカン電極との間のインピーダンス信号の1心周期内の最大値と最小値とからなる複数心周期のデータセットに基づいて、これらデータセット毎のインピーダンス信号の最大値と最小値の回帰直線を算出し、算出された回帰直線の延長線上において、前記インピーダンス信号の最大値と最小値が等しくなるときのインピーダンス値を求めることにより、固形組織由来インピーダンスを推定する固形組織由来インピーダンスの推定方法を提供する。
【0009】
このとき、取得される複数のデータセットからなるインピーダンス信号の最大値と最小値とをプロットしていくと、1本の直線に回帰することができる。このようにして得られた回帰直線の延長線上においてインピーダンス信号の最大値と最小値とが等しくなるとき、すなわち、拍動がなくなるときのインピーダンス信号を求めることにより、肺循環血液量に依存しない固形組織由来インピーダンスを精度よく推定することができる。
【0010】
また、本発明は、上記推定方法により推定された固形組織由来インピーダンスと、実測されたインピーダンス信号の1心周期内の最大値・最小値および平均値とに基づいて、次式により心拍出量および肺動脈楔入圧を算出する心拍出量および肺動脈楔入圧の算出方法を提供する。
CO=k・(1/(Zmin−Zs)−1/(Zmax−Zs))・HR・・・(A)
ここで、CO:心拍出量、k:補正係数、Zmin:最小インピーダンス信号、Zmax:最大インピーダンス信号、Zs:固形組織由来インピーダンス、HRは心拍数である。
PAWP=A×C/(Zmean−Zs)−CO×B・・・(B)
ここで、PAWP:肺動脈楔入圧、A、B、C:補正係数、Zmean:インピーダンス平均値信号である。
【0011】
本発明によれば、精度よく推定された固形組織由来インピーダンスを用いて、心拍出量および肺動脈楔入圧を精度よく算出することができる。心拍出量および肺動脈楔入圧を精度よく算出することにより、心機能の推移を連続してモニタすることができ、個々の患者の病態に応じた治療の調整や、病態悪化の早期把握による早期治療の開始を図り、患者予後の改善や入院期間の短縮等のQOL改善を行うことができる。
また、短時間内における心拍出量および肺動脈楔入圧の推移から不整脈発生を迅速に診断することが可能となり、同時に植え込まれた除細動装置のより適切な作動を可能とすることができる。
【0012】
また、本発明は、肺循環に高張食塩水を注入した後の所定時間内に得られた、冠静脈に挿入配置した静脈電極と左側胸壁に植え込んだカン電極との間のインピーダンス信号の1心周期内の最大値と最小値とからなる複数心周期のデータセットを入力され、これらデータセット毎のインピーダンス信号の最大値と最小値の回帰直線を算出する回帰直線算出部と、該回帰直線算出部により算出された回帰直線の延長線上において、前記インピーダンス信号の最大値と最小値とが等しくなるときのインピーダンス値により、固形組織由来インピーダンスを推定する固形組織由来インピーダンス推定部とを備える心拍出量モニタ装置および肺動脈楔入圧モニタ装置を提供する。
【0013】
本発明によれば、回帰直線算出部の作動により、複数心周期のインピーダンス信号の最大値と最小値の回帰直線が算出され、固形組織由来インピーダンス推定部の作動により、回帰直線の延長線上において、インピーダンス信号の最大値と最小値とが等しくなるときのインピーダンス信号が固形組織由来インピーダンスと推定され、精度よく推定された固形組織由来インピーダンスを用いて心拍出量および肺動脈楔入圧を精度よく連続的にモニタすることが可能となる。
【0014】
また、上記発明においては、固形組織由来インピーダンス推定部により推定された固形組織由来インピーダンスと、実測されたインピーダンス信号の1心周期内の最大値・最小値および平均値とに基づいて、次式により心拍出量および肺動脈楔入圧を算出する心拍出量算出部および肺動脈楔入圧算出部を備えることとしてもよい。
CO=k・(1/(Zmin−Zs)−1/(Zmax−Zs))・HR・・・(A)
ここで、CO:心拍出量、k:補正係数、Zmin:最小インピーダンス信号、Zmax:最大インピーダンス信号、Zs:固形組織由来インピーダンス、HR:心拍数である。
PAWP=A×C/(Zmean−Zs)−CO×B・・・(B)
ここで、PAWP:肺動脈楔入圧、A、B、C:補正係数、Zmean:インピーダンス平均値信号である。
【0015】
このようにすることで、精度よく推定された固形組織由来インピーダンスを用いて、心拍出量および肺動脈楔入圧を精度よく算出することができる。心拍出量および肺動脈楔入圧を精度よく算出することにより、心機能の推移を連続してモニタすることができ、個々の患者の病態に応じた治療の調整や、病態悪化の早期把握による早期治療の開始を図り、患者予後の改善や入院期間の短縮等のQOL改善を行うことができる。
また、短時間内における心拍出量および肺動脈楔入圧の推移から不整脈発生を迅速に診断することが可能となり、同時に植え込まれた除細動装置のより適切な作動を可能とすることができる。
【0016】
また、本発明は、冠静脈に挿入配置される静脈電極と左側胸壁に植え込まれるカン電極と、これらの電極間に定電流を注入し、両電極間のあるいは新たな別の静脈電極とカン上の電極との間のインピーダンス信号を検出するインピーダンス信号検出部と、該インピーダンス信号検出部により検出されたインピーダンス信号を受信する上記心拍出量および肺動脈楔入圧モニタ装置とを備える心拍出量および肺動脈楔入圧モニタシステムを提供する。
冠静脈に挿入配置された静脈電極と左側胸壁に植え込まれたカン電極とを除細動装置あるいは心臓再同期装置として使用する一方、その電極を用いて心拍出量および肺動脈楔入圧を連続して精度よくモニタすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、心拍出量および肺動脈楔入圧を精度よく推定するための実用的な推定方法および装置を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る心拍出量および肺動脈楔入圧モニタシステム1について、図1〜図7を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る心拍出量および肺動脈楔入圧モニタシステム1は、図1に示されるように、心不全患者に植え込まれる除細動装置2と、心不全患者の体外に配置され該除細動装置2により検出されるインピーダンス信号に基づいて、心拍出量および肺動脈楔入圧を推定する心拍出量および肺動脈楔入圧モニタ装置3とを備えている。
【0019】
前記除細動装置2は、冠静脈に挿入配置される静脈電極を備えた冠静脈カテーテル4と、左側胸壁に植え込まれるカン電極5とを備えている。冠静脈カテーテル4には2つの静脈電極6,7が設けられている。カン電極5と第1の静脈電極6との間には、図2に示されるように、ジェネレータ8が接続され、2〜20kHzの励起交流定電流を両電極5,6間に流すようになっている。
【0020】
また、カン電極5と第2の静脈電極7との間には、図2に示されるように、増幅回路(増幅器9および差動増幅器10)が接続され、該増幅回路9,10には帯域通過フィルタ11および検波器12が接続されている。
これにより、第2の静脈電極7とカン電極5との間に発生する電圧信号が増幅回路9,10により増幅され、帯域通過フィルタ11により前記励起交流定電流に相当する周波数帯域以外を除去された後に、検波器12により前記励起交流定電流に相当する周波数帯域の実効電圧値が得られるようになっている。
このようにして得られた電圧信号は、インピーダンス信号に線形相関する信号であり、既知の抵抗にて較正することによりインピーダンス信号が取得されるようになっている。
【0021】
前記心拍出量および肺動脈楔入圧モニタ装置3は、図3に示されるように、前記除細動装置2により検出された第2の静脈電極7とカン電極5との間のインピーダンス信号を受信する受信部13と、受信されたインピーダンス信号の最大値・最小値および平均値を抽出する抽出部14と、抽出されたインピーダンス信号の最大値と最小値と回帰直線Sを算出する回帰直線算出部15と、該回帰直線算出部15により算出された回帰直線Sの延長線上において、インピーダンス信号の最大値と最小値とが等しくなるときの固形組織由来インピーダンスZsを推定する固形組織由来インピーダンス推定部16と、該固形組織由来インピーダンス推定部16により推定された固形組織由来インピーダンスZsを用いて心拍出量を算出する心拍出量算出部17と、前記固形組織由来インピーダンス推定部16により推定された固形組織由来インピーダンスZsと前記心拍出量算出部17により算出された心拍出量を用いて肺動脈楔入圧を算出する肺動脈楔入圧算出部18を備えている。
【0022】
本実施形態に係る心拍出量および肺動脈楔入圧モニタシステム1を用いた心拍出量の算出方法について、以下に説明する。
体内に植え込まれた除細動装置2のカン電極5と第1の静脈電極6との間に交流定電流を流すと、両電極5,6間において左肺に形成される有効伝導容積は一定となる。したがって、カン電極5と第2の静脈電極7との間で測定されるインピーダンス信号Zは、下式のとおり、有効伝導容積内に含まれる肺循環血液量に由来する血液由来インピーダンスZpと、胸壁、心膜などの非血液成分に由来する固形組織由来インピーダンスZsを足し合わせたものとなる。
Z=Zp+Zs
【0023】
すなわち、血液由来インピーダンスZpは血液量増減に伴って変化するが、固形組織由来インピーダンスZsは不変である。心臓拡張期には、肺循環血液量が減少するので、有効伝導容積内の血液量が減少し、血液由来インピーダンスZpが増大する。そして、有効伝導容積内の血液量が最小値となる時点で、血液由来インピーダンスZpが最大値となり、全体のインピーダンス信号Zも最大値(Zmax)となる。
【0024】
一方、心臓収縮期には、肺循環血液量が増大するので、有効伝導容積内の血液量が増加し、血液由来インピーダンスZpは減少する。そして、有効伝導容積内の血液量が最大値となる時点で、血液由来インピーダンスZpが最小値となり、全体のインピーダンス信号Zも最小値(Zmin)となる。
【0025】
このような最大インピーダンス信号Zmaxおよび最小インピーダンス信号Zminを用いて、心拍出量COは、下式(1)により求めることができる。
CO=k・(1/(Zmin−Zs)−1/(Zmax−Zs))・HR・・・(1)
ここで、HRは心拍数であり、例えば、最大あるいは最小インピーダンスが1分間に何回現れるかを検出することで得ることができる。また、kは補正係数であり、例えば、スワンガンツカテーテルや心臓エコー法等により、心拍出量を実測することで較正することができる。
【0026】
心拍出量を算出するには、まず、肺循環へ高張食塩水を注入する。これにより、図4に示されるように、高張食塩水の肺循環への流入と同時に、第2の静脈電極7とカン電極5との間で検出されるインピーダンス信号Zが段階的に低下する。そして、複数周期にわたりインピーダンス信号Zを検出することにより、複数組の最大インピーダンス信号Zmaxおよび最小インピーダンス信号Zminのデータセットを得る。
【0027】
得られたインピーダンス信号の時系列データあるいは、インピーダンス信号Zmax,Zminのデータセットは、心拍出量および肺動脈楔入圧モニタ装置3に入力され、抽出部14の作動により最大インピーダンス信号Zmaxおよび最小インピーダンス信号Zminが抽出される。
【0028】
回帰直線算出部15による回帰直線の算出は、例えば、図5に示されるように、最大インピーダンス信号Zmaxを横軸、最小インピーダンス信号Zminを縦軸として、得られた複数組のインピーダンス信号Zのデータセットをプロットすることにより行われる。図中、破線で示されるのは、最大インピーダンス信号Zmaxと最小インピーダンス信号Zminとが等しい直線である。
【0029】
そして、この回帰直線Sと、前記両インピーダンス信号Zmax,Zminとが等しくなる直線Sとの交点Pにおいては、血液抵抗率が0となり、血液由来インピーダンスZp=0となるため、Z=Zsとなる。
【0030】
したがって、図6に示されるように、固形組織由来インピーダンス推定部16の作動により、肺循環へ高張食塩水を注入した後の所定時間内における複数組のデータセットの最大インピーダンス信号Zmaxと最小インピーダンス信号Zminとをプロットして得られた回帰直線Sを延長し、上記両インピーダンス信号が等しくなる直線Sとの交点を求めることにより、固形組織由来インピーダンス信号Zsを精度よく推定ことができる。
【0031】
固形組織由来インピーダンス信号Zsが一旦推定された後には、心拍出量算出部17の作動により、第2の静脈電極7とカン電極5との間において検出されるインピーダンス信号Zの最大インピーダンス信号Zmaxおよび最小インピーダンス信号Zminを検出することにより、上記式(1)により心拍出量を精度よく算出し連続的にモニタすることができる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態に係る心拍出量および肺動脈楔入圧モニタシステム1によれば、固形組織由来インピーダンスZsを精度よく推定でき、それによって心拍出量を精度よく算出し、連続的にモニタリングすることができるという利点がある。特に、体内に植え込まれる除細動装置2を備えることにより、体表電極使用に付随する電極の不安定性や測定の煩雑さの問題がない。また、除細動装置2の静脈電極6,7を冠静脈内に挿入配置するので、左心室内に留置するときに危惧される血栓症や感染症等の問題も回避することができる。
【0033】
本実施形態において、カン電極を単一の電極とし、定電流注入とインピーダンス測定を同時に行うこともできる。カン電極を定電流注入部とインピーダンス測定部に絶縁分離し、2つの電極にして測定することもできる。
【0034】
また、本実施形態に係る心拍出量・肺動脈楔入圧モニタシステム1を用いた肺動脈楔入圧の算出方法について、以下に説明する。
すなわち、定常状態の肺全体の循環血液量Vと肺動脈楔入圧PAWPとは、心拍出量COとともに以下の式(2)で関係づけられている。
PAWP=V×A−CO×B ・・・(2)
ここで、A,Bは異なる個体間でも普遍的な既知の定数である。
【0035】
上述したように、カン電極5と第2の静脈電極7との間に形成される有効伝導容積内の血液成分に由来する血液由来インピーダンスZpは算出でき、有効伝導容積内の肺循環血液量Vpと肺全体の血液量Vとが比例すると仮定して、
V=α×Vp ・・・(3)
となる。ここでαは比例定数である。
【0036】
有効伝導容積内の血液量Vpは、血液由来インピーダンスZpに反比例するので、式(3)を変形すると、
V=α×β/Zp=C/Zp ・・・(4)
となる。ここで、βは比例定数、C=α×βである。
【0037】
式(4)を式(2)に代入すると、
PAWP=A×C/Zp−CO×B ・・・(5)
と変形することができる。ここで、Zpは時間平均血液由来インピーダンスを用いる。よって式(5)は、
PAWP=A×C/(Zmean−Zs)−CO×B ・・・(B)
となる。ここで、Zmean:平均インピーダンス信号である。
固形組織由来インピーダンス信号Zsが一旦推定された後には、肺動脈楔入圧算出部18の作動により、第2の静脈電極7とカン電極5との間において検出されるインピーダンス信号Zの平均値Zmeanを検出することにより、上記式(B)により肺動脈楔入圧を精度よく算出し連続的にモニタすることができる。また、補正係数Cは、除細動装置2を患者に植え込む際に、例えば、スワンガンツカテーテルや心臓エコー法等により、心拍出量と肺動脈楔入圧を実測することで較正することができる。
【0038】
従来、インピーダンス信号Zに肺動脈楔入圧PAWPが反比例するものとして、インピーダンス信号Zにより肺動脈楔入圧PAWPを求めていた。心不全が進展し、心機能が悪化していくときに、肺全体の血液量Vの増加とともに心拍出量COは普通低下するため、このような推定法でも問題はなかった。
【0039】
しかし、この場合には、心拍出量COの増減により肺動脈楔入圧PAWPの推定が不正確になることがあり、実際には患者の心機能が低下し、肺動脈楔入圧PAWPが増加し、肺水腫が進行しているにもかかわらず、それを見落としてしまう等の不都合がある。また、心機能が改善しているにもかかわらず、悪化しているものと診断してしまい、不必要な治療を受けさせてしまう問題もある。
【0040】
本実施形態によれば、肺動脈楔入圧PAWPの算出に、血液由来インピーダンス信号Zpのみならず、心拍出量COの増減をも加味することができ、肺動脈楔入圧PAWPを精度よく推定して上記問題の発生を防止することができるという利点がある。
また、心拍出量および肺動脈楔入圧モニタ装置3を既存の除細動装置2と組み合わせることができる。
そして、患者の心機能の推移を正確な心拍出量と肺動脈楔入圧とを用いることにより、図7に示される分類(Forresterの分類)にしたがって、患者個々の病態に応じた治療の調整が可能となり、病態悪化を早期に把握し、早期に治療を開始することで患者予後の改善、入院期間短縮などQOL改善を図ることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係る心拍出量および肺動脈楔入圧モニタシステムを示す全体構成図である。
【図2】図1の心拍出量および肺動脈楔入圧モニタシステムの除細動装置内の回路構成を示すブロック図である。
【図3】図1の心拍出量および肺動脈楔入圧モニタシステムの心拍出量および肺動脈楔入圧モニタ装置を示すブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る固形組織由来インピーダンスの推定方法において、高張食塩水を肺循環に注入した後、所定時間内におけるインピーダンス信号の変化を示すグラフである。
【図5】図4のインピーダンス信号の最大値と最小値の相関関係を示すグラフである。
【図6】図5のインピーダンス信号の最大値と最小値の相関から固形組織由来インピーダンスを推定する方法を説明するグラフである。
【図7】心拍出量と肺動脈楔入圧とに基づくForresterの分類を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
CO 心拍出量
PAWP 肺動脈楔入圧
S 回帰直線
Z インピーダンス信号
Zmax 最大インピーダンス信号(最大値)
Zmin 最小インピーダンス信号(最小値)
Zs 固形組織由来インピーダンス
1 心拍出量モニタシステム
2 除細動装置(インピーダンス信号検出部)
3 心拍出量モニタ装置
5 カン電極
7 第2の静脈電極
15 回帰直線算出部
16 固形組織由来インピーダンス推定部
17 心拍出量算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺循環に高張食塩水を注入した後の所定時間内に得られた、冠静脈に挿入配置した静脈電極と左側胸壁に植え込んだカン電極との間のインピーダンス信号の1心周期内の最大値と最小値とからなる複数心周期のデータセットに基づいて、これらデータセット毎のインピーダンス信号の最大値と最小値の回帰直線を算出し、算出された回帰直線の延長線上において、前記インピーダンス信号の最大値と最小値とが等しくなるときのインピーダンス値により、固形組織由来インピーダンスを推定する固形組織由来インピーダンスの推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の推定方法により推定された固形組織由来インピーダンスと、実測されたインピーダンス信号の1心周期内の最大値および最小値とに基づいて、次式により心拍出量を算出する心拍出量の算出方法。
CO=k・(1/(Zmin−Zs)−1/(Zmax−Zs))・HR
ここで、CO:心拍出量、k:補正係数、Zmin:最小インピーダンス信号、Zmax:最大インピーダンス信号、Zs:固形組織由来インピーダンス、HR:心拍数である。
【請求項3】
肺循環に高張食塩水を注入した後の所定時間内に得られた、冠静脈に挿入配置した静脈電極と左側胸壁に植え込んだカン電極との間のインピーダンス信号の1心周期内の最大値と最小値とからなる複数心周期のデータセットを入力され、これらデータセット毎のインピーダンス信号の最大値と最小値の回帰直線を算出する回帰直線算出部と、
該回帰直線算出部により算出された回帰直線の延長線上において、インピーダンス信号の最大値と最小値とが等しくなるときのインピーダンス値により、固形組織由来インピーダンスを推定する固形組織由来インピーダンス推定部とを備える心拍出量モニタ装置。
【請求項4】
固形組織由来インピーダンス推定部により推定された固形組織由来インピーダンスと、実測されたインピーダンス信号の1心周期内の最大値および最小値とに基づいて、次式により心拍出量を算出する心拍出量算出部を備える請求項3に記載の心拍出量モニタ装置。
CO=k・(1/(Zmin−Zs)−1/(Zmax−Zs))・HR
ここで、CO:心拍出量、k:補正係数、Zmin:最小インピーダンス信号、Zmax:最大インピーダンス信号、Zs:固形組織由来インピーダンス、HR:心拍数である。
【請求項5】
冠静脈に挿入配置される静脈電極と左側胸壁に植え込まれるカン電極と、これらの電極間に定電流を注入し、両電極間のあるいは新たな別の静脈電極とカン上の電極との間の電圧からインピーダンス信号を検出するインピーダンス信号検出部と、該インピーダンス信号検出部により検出されたインピーダンス信号を受信する請求項3または請求項4に記載の心拍出量モニタ装置とを備える心拍出量モニタシステム。
【請求項6】
前記カン電極が単一の電極からなり、定電流注入とインピーダンス測定を同時に行う請求項5に記載の心拍出量モニタシステム。
【請求項7】
前記カン電極が、定電流を注入する定電流注入用の電極と、インピーダンス信号を測定するインピーダンス測定用の電極に絶縁分離されている請求項5に記載の心拍出量モニタシステム。
【請求項8】
請求項1に記載の推定方法により推定された固形組織由来インピーダンスと、実測されたインピーダンス信号の1心周期内の平均値と、請求項2に記載の算出方法により算出された心拍出量とに基づいて、次式により肺動脈楔入圧を算出する肺動脈楔入圧の算出方法。
PAWP=A×C/(Zmean-Zs)−CO×B
ここで、PAWP:肺動脈楔入圧、A、B、C:補正係数、Zmean:インピーダンス平均値信号、Zs:固形組織由来インピーダンス、CO:心拍出量である。
【請求項9】
肺循環に高張食塩水を注入した後の所定時間内に得られた、冠静脈に挿入配置した静脈電極と左側胸壁に植え込んだカン電極との間のインピーダンス信号の1心周期内の最大値と最小値とからなる複数心周期のデータセットを入力され、これらデータセット毎のインピーダンス信号の最大値と最小値の回帰直線を算出する回帰直線算出部と、
該回帰直線算出部により算出された回帰直線の延長線上において、インピーダンス信号の最大値と最小値とが等しくなるときのインピーダンス値により、固形組織由来インピーダンスを推定する固形組織由来インピーダンス推定部とを備える肺動脈楔入圧モニタ装置。
【請求項10】
固形組織由来インピーダンス推定部により推定された固形組織由来インピーダンスと、実測されたインピーダンス信号の1心周期内の平均値と、心拍出量とに基づいて、次式により肺動脈楔入圧を算出する肺動脈楔入圧算出部を備える請求項9に記載の肺動脈楔入圧モニタ装置。
PAWP=A×C/(Zmean−Zs)−CO×B
ここで、PAWP:肺動脈楔入圧、A、B、C:補正係数、Zmean:インピーダンス平均値信号、Zs:固形組織由来インピーダンス、CO:心拍出量である。
【請求項11】
冠静脈に挿入配置される静脈電極と左側胸壁に植え込まれるカン電極と、これらの電極間に定電流を注入し、両電極間のあるいは新たな別の静脈電極とカン上の電極との間の電圧からインピーダンス信号を検出するインピーダンス信号検出部と、該インピーダンス信号検出部により検出されたインピーダンス信号を受信する請求項9または請求項10に記載の肺動脈楔入圧モニタ装置とを備える肺動脈楔入圧モニタシステム。
【請求項12】
前記カン電極が単一の電極からなり、定電流注入とインピーダンス測定を同時に行う請求項11に記載の肺動脈楔入圧モニタシステム。
【請求項13】
前記カン電極が、定電流を注入する定電流注入用の電極と、インピーダンス信号を測定するインピーダンス測定用の電極に絶縁分離されている請求項11に記載の肺動脈楔入圧モニタシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−168120(P2008−168120A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320202(P2007−320202)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】