説明

土留め壁及び土留め壁の構築方法

【課題】掘削面に遮水が必要な土層がある場合に、その部分のみに遮水機能を持たせることのできる土留め壁を提供する。
【解決手段】土留め壁10は、掘削部を囲む掘削面16に構築されている。土留め壁10は、地表面42と掘削底面34の間に高さH1で形成され、掘削面16の一部には、遮水が必要な砂質土層12が存在している。土留め壁10にはH形鋼20が設けられている。H形鋼20は掘削穴18に建て込まれ、根固めされている。掘削穴18は、砂質土層13に至る深さH2まで直径D1で掘削され、掘削穴18が砂質土層12を貫通する部分では、掘削径が直径D2に拡径されている。掘削穴18の内部には、セメントミルクと掘削土を混合攪拌したソイルセメントコラム26が構築されている。直径D2に拡径された円柱状部分は、隣り合う外周部がラップされ、壁状にソイルセメントコラム遮水部22が構築されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留め壁及び土留め壁の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土留め壁に遮水機能が要求される場合には、原位置の地盤とセメントミルクを混合攪拌して構築された地盤改良体の土留め壁が採用され、遮水機能が要求されない場合には、親杭横矢板工法で構築された土留め壁が採用されている。即ち、土留め壁として遮水機能が要求されるか否かで、いずれかを選択せざるを得ないため、掘削面の一部に遮水機能が要求される土層が存在しても、掘削面の全面に、地盤改良体の土留め壁を採用する必要があった。これにより、施工コストの上昇を招いていた。
【0003】
そこで、遮水機能が要求される部分にのみ遮水部を設ける、親杭横矢板工法の土留め壁が提案されている(特許文献1)。
【0004】
図5に示すように、特許文献1に記載の親杭横矢板工法の土留め壁70は、所定の間隔で地盤72内に打設される親杭73と、親杭73の間に設置される横矢板74を有し、地盤72の遮水が不要な土層77の間に存在する遮水が必要な帯水層76、78の位置に、地下水の流れを遮断する遮水部75が形成されている。
【0005】
ここに、遮水部75は、土留め壁70の外側の地盤中に設けられ、帯水層76、78の上面のやや上部から、帯水層76、78の下面のやや下部までの範囲に渡り、ゲル状の遮水材を地盤に圧入して形成される。
しかし、特許文献1に記載の土留め壁は、地下水の回り込みによる遮水性能の低下、ゲル状の遮水材の圧入による施工工程の増加等の問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−68203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事実に鑑み、掘削面に遮水が必要な土層がある場合に、その部分のみに遮水機能を持たせることのできる土留め壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明に係る土留め壁は、遮水が必要な土層を含む掘削部の周囲に設けられた掘削穴に建て込まれる親杭と、前記土層の範囲に構築され、前記掘削穴を拡径しながらセメントミルクと掘削土を混合攪拌し、隣り合う前記掘削穴の外周部をラップさせたソイルセメントコラム遮水部と、を有することを特徴としている。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、拡径した掘削穴の外周部を、隣り合う掘削穴の外周部とラップさせたソイルセメントコラム遮水部が、遮水の必要な土層を遮水する。即ち、遮水が必要な土層のみに、遮水機能を有する遮水壁を構築することができる。
これにより、掘削面の一部に遮水機能が要求される土層があっても、その部分のみに遮水機能を持たせることのできる親杭横矢板工法の土留め壁を提供できる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の土留め壁において、前記掘削部の掘削面には、前記ソイルセメントコラム遮水部が構築された部分を除き、前記親杭の間に横矢板が架け渡されていることを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、遮水が必要な土層の範囲にのみ、遮水機能を有するソイルセメントコラム遮水部が構築され、遮水が不要な部分には、親杭の間に横矢板が架け渡されている。
これにより、遮水が不要な部分を親杭横矢板工法で施工でき、施工コストの低減が図れる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の土留め壁において、前記親杭はH形鋼とされ、前記ソイルセメントコラム遮水部の掘削面は、前記H形鋼のフランジ面と平行に切り取られていることを特徴としている。
請求項3に記載の発明によれば、ソイルセメントコラム遮水部は、掘削された地盤側に突き出ることはない。即ち、親杭横矢板工法の作業内容を大きく変更することなく、遮水が必要な部分のみを遮水する土留め壁が提供できる。
【0013】
請求項4に記載の発明に係る土留め壁の構築方法は、遮水が必要な土層を含む掘削部に、所定の深度まで、親杭を建て込む掘削穴を掘削する工程と、前記土層の範囲に、前記掘削穴を拡径しながらセメントミルクと掘削土を混合攪拌し、隣り合う前記掘削穴の外周部をラップさせ、前記掘削部を取り囲むソイルセメントコラム遮水部を構築する工程と、前記ソイルセメントコラム遮水部の構築後、前記掘削穴にH形鋼を建て込む工程と、前記地盤を掘削しながら、前記ソイルセメントコラム遮水部をH形鋼のフランジ面と平行に切り取る工程と、を有することを特徴としている。
【0014】
本、土留め壁の構築方法を用いることにより、掘削面に遮水機能が要求される土層があっても、その土層のみに遮水機能を持たせることのできる親杭横矢板工法の土留め壁を提供できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記構成としてあるので、掘削面に遮水が必要な土層がある場合に、その部分のみに遮水機能を持たせることのできる土留め壁を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る土留め壁の基本構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る土留め壁の平面図及び側面断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る土留め壁の施工手順を示す側面断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る土留め壁の展開例の平面図及び側面断面図である。
【図5】従来例の土留め壁の基本構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1、2を用いて実施の形態に係る土留め壁10について説明する。図1は斜視図であり、図2(A)は平面図、図2(B)は地盤の断面図、図2(C)は土留め壁の断面図である。
【0018】
土留め壁10は、地盤の掘削部を囲む掘削面16に構築されている。土留め壁10は、地表面42と掘削部の掘削底面34の間に、高さH1で形成されている。掘削面16の一部には、遮水が必要な砂質土層12が存在しており、土留め壁10に遮水性能が要求されている。
【0019】
砂質土層12の上部と下部には、粘性土層14、15が形成されている。この粘性土層14、15は、水を通過させない層であり、土留め壁10に遮水性能は要求されない。粘性土層15の下には、更に砂質土層13が存在するが、土留め壁10の深さH1は、粘性土層15まであり、砂質土層13は土留め壁10に直接影響を及ぼすものではない。
【0020】
土留め壁10はH形鋼20を有しており、H形鋼20が背面地盤からの土圧に抵抗している。H形鋼20は、後述するオーガヘッドで掘削された掘削穴18に建て込まれ、根固めされている。
掘削穴18は円柱状とされ、砂質土層13に至る深さH2まで直径D1で掘削されている。但し、掘削穴18が砂質土層12を貫通する部分では、掘削径が直径D2に拡径されている。
【0021】
掘削穴18の内部には、セメントミルクと掘削土を混合攪拌したソイルセメントコラム26が構築され、掘削穴18に建て込まれたH形鋼20は、ソイルセメントコラム26で根固めされている。
このとき、掘削穴18の直径D2に拡径された円柱状部分は、隣り合う外周部がラップされ、壁状に、ソイルセメントコラム遮水部22が構築されている。これにより、砂質土層12を土留め壁10で塞ぎ、遮水機能を確保することができる。
【0022】
なお、ソイルセメントコラム遮水部22の上部掘削穴28には、セメントミルクを吐出せずに、原地盤(粘性土層14)をそのまま埋め戻している。
ここに、ソイルセメントコラム遮水部22は、砂質土層13の底面より更に深さH3だけ深い位置から構築され、砂質土層13の上面より更に深さH4だけ浅い位置まで構築されている。ここに、深さH3は500mm程度が望ましい。これにより、上下端部からの水漏れを防ぐことができる。
【0023】
掘削面16は、ソイルセメントコラム遮水部22の掘削部側を切り取り、平板状に形成されている。即ち、ソイルセメントコラム遮水部22は、H形鋼20のフランジ面と平行な方向に、フランジ面が露出される位置まで切り取られている。この結果、ソイルセメントコラム遮水部22が掘削部側に突き出ることはない。
【0024】
また、掘削面16の上部、即ち、ソイルセメントコラム遮水部22の上には、横矢板24が設けられている。横矢板24は合板製とされ、H形鋼20の間に積み重ねて架け渡され、粘性土層14の土圧を受けている。
【0025】
以上説明したように、遮水が必要な砂質土層12を塞ぐ範囲に、外周部をラップさせソイルセメントコラム遮水部22を構築することで、遮水機能を備えた土留め壁10が提供できる。また、遮水が不要な粘性土層14、15に対しては、H形鋼20の間に横矢板24を架け渡すことで、土留め機能が確保される。
【0026】
これにより、従来の親杭横矢板工法の作業内容を大きく変更することなく、遮水が必要な砂質土層12のみを遮水する親杭横矢板工法の土留め壁10を提供できる。この結果、施工コストの低減が図れる。
【0027】
なお、遮水が必要な土層は、砂質土層12を代表例に説明したが、これに限定されることはなく、他の土層であっても遮水できる。一方、砂質土層12であっても、遮水が不要な場合は、当然、遮水機能を持たせる必要はない。
また、掘削面16が粘性土層14の範囲では、遮水は不要であり、横矢板24をH形鋼20の間に架け渡したが、崩落の危険性がない粘性土層14においては、横矢板24を省略してもよい。
【0028】
また、H形鋼20を全ての掘削穴18に建て込んだ状態で説明したが、必ずしも全ての掘削穴18に建て込む必要はなく、背面地盤からの土圧に応じて建て込む密度(本数)を決定すればよい。
【0029】
また、ソイルセメントコラム遮水部22の上部掘削穴28には、セメントミルクを吐出せずに、原地盤(粘性土層14)をそのまま埋め戻しているが、セメントミルクを吐出して、ソイルセメントコラムを構築してもよい。
【0030】
次に、土留め壁10の構築方法について、図3を用いて説明する。
先ず、図3(A)に示す掘削穴の掘削工程を実行する。即ち、掘削穴18の位置に、先端にオーガヘッド30を取り付けた掘削ロッド40をセットする。オーガヘッド30を回転させ、先端から掘削水を吐出させながら、深さH2まで、直径D1で掘削穴18を掘削する。掘削穴18は、遮水が必要な土層である砂質土層12を、鉛直方向に貫通して形成される。
【0031】
次に、図3(B)に示すソイルセメントコラム遮水部の構築工程を実行する。即ち、オーガヘッド30を、砂質土層12の位置(矢印H1の範囲)まで移動させ、オーガヘッド30で掘削穴18を拡径掘削する。
【0032】
オーガヘッド30は、逆回転させることで拡大掘削が可能な構成である。具体的には、図3(A)の掘削方向がオーガヘッド30の正回転であり、直径D1で掘削穴18を掘削する。続いてオーガヘッド30を逆回転させることにより、折り畳まれたオーガヘッド30の先端部31が広がり、掘削穴18を直径D2に拡径して掘削する。これにより、隣り合う拡径された掘削穴22の外周部が、互いにラップされる。
【0033】
次に、図3(C)に示すように、掘削穴18の内部にソイルセメントコラムを構築する。即ち、オーガヘッド30を再度正回転に戻して回転させながら、掘削穴18の下部に沈降した掘削土を再度掘削し、穴壁の安定性を確認する。その後、正回転のままオーガヘッド30の先端からセメントミルクを吐出させ、引き上げながらセメントミルクと掘削土を混合攪拌させる。拡径された掘削穴18の上面の位置までセメントミルクを注入した後、注入を終了して掘削ロッド40を掘削穴18から引き出す。
【0034】
次に、図3(D)に示すH形鋼20の建て込み工程を実行する。即ち、セメントミルクが固化する前に、掘削穴18にH形鋼20を建て込み保持する。これにより、H形鋼20がソイルセメントコラムで根固めされる。また、セメントミルクが固化することでソイルセメントコラム遮水部22が、連続した柱体として構築される。その後、掘削穴18の上部28に地盤14を埋め戻す。
【0035】
最後に、図3(E)に示す切り取り工程を実行する。即ち、地盤の掘削部を地表面42から掘削底面32まで掘削する。このとき、粘性土層14が崩落しないように、横矢板24をH形鋼20の間に架け渡しながら掘削する。また、ソイルセメントコラム遮水部22においては、掘削部側をH形鋼のフランジ面と平行に、フランジ面が露出する位置まで切り取る。
【0036】
以上説明した方法で土留め壁10を構築することにより、掘削面16に遮水機能が要求される砂質土層12が存在しても、その砂質土層12の範囲のみを遮水する土留め壁10を提供できる。
【0037】
なお、拡径された掘削穴22は、逆回転して拡径掘削が可能な機能を備えたオーガヘッド30を用いた例について説明した。しかし、掘削穴18を拡径できればよく、これに限定されるものではない。例えば、掘削水やセメントミルクを、横方向にジェット流として吐出させ、ジェット流の吐出圧力で掘削穴18を横方向に掘削し、拡径する方法を用いてもよい。
【0038】
次に、展開例について説明する。
図4に示すように、土留め壁50は、地盤の掘削部を囲む掘削面16に構築されている。土留め壁50は、地表面42と掘削部の掘削底面34の間に、高さH1で形成されている。掘削面16の一部には、遮水が必要な砂質土層12、36が存在しており、土留め壁10に遮水性能が要求されている。
【0039】
砂質土層36の上部には粘性土層14が、下部には粘性土層38が形成されている。また、粘性土層38の下には砂質土層12が形成され、砂質土層12の下には、粘性土層15が形成されている。即ち、掘削面16に砂質土層12、36の2層が存在している。
【0040】
これに対応して、土留め壁50のソイルセメントコラム遮水部52は、砂質土層12の底面より更に深さH3だけ深い位置から構築され、砂質土層36の上面より更に深さH3だけ浅い位置まで構築されている。ここに、深さH3は500mm程度が望ましい。
【0041】
このように、砂質土層12、36が上下方向に複数ある場合には、ソイルセメントコラム遮水部52を、複数の砂質土層12、36を跨いで連続して塞ぐ寸法に構築してもよい。これにより、施工コストを低減できる。
他の構成は、上述した実施の形態と同じであり説明は省略する。
【符号の説明】
【0042】
10 土留め壁
12 砂質土層(遮水が必要な土層)
16 掘削面
18 掘削穴
20 H形鋼(親杭)
22 ソイルセメントコラム遮水部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮水が必要な土層を含む掘削部の周囲に設けられた掘削穴に建て込まれる親杭と、
前記土層の範囲に構築され、前記掘削穴を拡径しながらセメントミルクと掘削土を混合攪拌し、隣り合う前記掘削穴の外周部をラップさせたソイルセメントコラム遮水部と、
を有する土留め壁。
【請求項2】
前記掘削部の掘削面には、前記ソイルセメントコラム遮水部が構築された部分を除き、前記親杭の間に横矢板が架け渡されている請求項1に記載の土留め壁。
【請求項3】
前記親杭はH形鋼とされ、前記ソイルセメントコラム遮水部の掘削面は、前記H形鋼のフランジ面と平行に切り取られている請求項1又は2に記載の土留め壁。
【請求項4】
遮水が必要な土層を含む掘削部に、所定の深度まで、親杭を建て込む掘削穴を掘削する工程と、
前記土層の範囲に、前記掘削穴を拡径しながらセメントミルクと掘削土を混合攪拌し、隣り合う前記掘削穴の外周部をラップさせ、前記掘削部を取り囲むソイルセメントコラム遮水部を構築する工程と、
前記ソイルセメントコラム遮水部の構築後、前記掘削穴にH形鋼を建て込む工程と、
前記地盤を掘削しながら、前記ソイルセメントコラム遮水部をH形鋼のフランジ面と平行に切り取る工程と、
を有する土留め壁の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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