説明

土留壁構造、土留壁構造の構築方法

【課題】工期の長期化を防止しつつ、切梁を設けることなく土留壁に生じる変形を抑えることが可能な土留壁構造を提供する。
【解決手段】土留壁構造100は、平面視において、五角形以上の多角形状に構築された鋼矢板10からなる土留壁51と、土留壁51の上部の内周面に沿って当接するように環状に形成された鋼製の支持部材50と、を備える。支持部材50は、土留壁51の各辺の上部の内周面に沿って当接するように配置された複数のH型鋼20と、隣接するH型鋼20に亘って取り付けられた補強鋼板40A、40Bと、隣接するH型鋼20の間に介装され、隣接するH型鋼20の間で圧縮応力を伝達可能なモルタル30と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切梁を設けることなく自立可能な土留壁構造及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シールド掘進機や推進工法の発進立坑や到達立坑などの立坑を構築する際には、周囲の地盤を支持するように立坑の周囲に土留壁を設けた状態で、地盤を掘削している。このような土留壁には周囲の地盤より土水圧が作用するが、土水圧に対して土留壁が自立することができないような場合には、土留壁の内周に沿って取り付けられた腹越しと、この腹起しの間に架設された切梁とからなる切梁支保工を設けることが行われている。
【0003】
しかしながら、切梁支保工を設けてしまうと、シールド掘進機などの大型機械を投入する際に切梁が障害となってしまったり、土留壁内の有効面積が非常に小さくなってしまったりすることがある。これに対して、例えば、特許文献1には、土留壁天端の外周を取り囲むようにして鉄筋コンクリート造の地中梁を土留壁と一体となるように構築することで、切梁支保工を不要とした土留壁構造が記載されている。
【特許文献1】特開平7―259080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1記載の土留壁構造では、地中梁を鉄筋コンクリート造としているため、施工の手間がかかるとともに、地中梁を構成するコンクリートが硬化するまでは、地中梁による支持力を期待することができず、立坑の掘削作業を行うことができないため、工期が長期化するという問題もある。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、工期の長期化を防止しつつ、切梁を設けることなく土留壁に生じる変形を抑えることが可能な土留壁構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の土留壁構造は、平面視において、五角形以上の多角形状に構築された土留壁と、前記土留壁の上部の内周面に沿って当接するように設けられ、環状に形成された鋼製の支持部材と、を備えることを特徴とする。
ここで、前記土留壁は、平面視において、五角形以上の正多角形に構築されていてもよい。
【0007】
また、前記支持部材は、前記土留壁の各辺の上部の内周面に沿って当接するように配置された複数の鋼材と、前記隣接する鋼材に亘って取り付けられた鋼板と、隣接する前記鋼材の間に介装され、前記隣接する鋼材の間で圧縮応力を伝達可能な応力伝達部材と、を備えてもよい。また、前記応力伝達部材は前記隣接する鋼材の間に充填されたセメント系材料であってもよい。
【0008】
また、前記鋼材は両フランジ間に前記土留壁の各辺の上部が位置するように配置されたH型鋼からなり、前記H型鋼の前記支持部材の内側のフランジが前記土留壁の上部の内壁面に隙間材を介して当接していてもよい。また、前記土留壁は、鋼矢板式又は親杭矢板式の土留壁であってもよい。
【0009】
また、本発明の土留壁構造の構築方法は、土留壁を、平面視において、五角形以上の多角形状に構築し、前記土留壁の上部に内周面に沿って当接するように鋼製の支持部材を環状に形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、支持部材を鋼材により構成することにより、工期が長期化することを防ぐことができる。また、土留壁を多角形にすることにより、正方形状又は長方形状に土留壁を構築する場合に比べて、所定の作業領域を確保する際に必要となる土留壁の一辺の長さを短くすることができる。このため、鋼材に生じる曲げ変形が小さくなり、鋼材は略直線状のまま、土留壁内面側に押し出されることとなる。この際、隣接する鋼材が鋼板及び応力伝達部材を介して競合うことにより、周囲の地盤より土留壁に作用する土水圧に抵抗して、土留壁の変形を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の土留壁構造の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、内側に所定の深さまで立坑2を掘削した状態の土留壁構造100を示し、(A)は平面図、(B)は(A)におけるI―I´断面図である。また、図2は、図1(B)におけるII部を示す拡大図である。本実施形態の土留壁構造100は、深さ4〜10m程度の、シールド掘削機や推進工法における発進立坑や到達立坑として利用される立坑2を掘削する際に周囲の地盤1を支持するための仮設構造物であり、図1に示すように、平面視で略正六角形状に配置された鋼矢板10からなる土留壁51と、土留壁51の天端に沿って設けられた支持部材50とで構成される。
【0012】
支持部材50は、一方のフランジ20Aが各鋼矢板10の上端付近の内壁面にピース材21及びキャンバー22を介して当接するように設置されたH型鋼20と、隣接するH型鋼20の隙間に介装されたモルタル30と、隣接するH型鋼20の両フランジ20A、20Bの夫々に亘って取り付けられた補強鋼板40A,40Bと、で構成される。隣接するH型鋼20は、補強鋼板40A、40Bにより連結されており、これにより、H型鋼20を鋼矢板10の上方に環状に保持することができる。また、モルタル30は、後述するように、土留壁51に周囲の地盤1より土水圧が作用し、H型鋼20に圧縮応力が発生した際に、隣り合うH型鋼20の間でこの圧縮応力を伝達することのできるような圧縮強度を有するものが用いられている。これにより、支持部材50に周囲の地盤1より作用する荷重に対して、H型鋼20及びモルタル30が一体となって抵抗することができる。
【0013】
鋼矢板10は、上記のように平面視で正六角形状に配置されており、下端は所定の深さまで根入れされている。図2に示すように、鋼矢板10と支持部材50を構成するH型鋼20とは、H型鋼20の立坑2内側のフランジ20Aの内側の面に当接するようにピース材21を設置し、ピース材21と鋼矢板10の間にキャンバー22を打ち込むことにより固定されている。これにより、周囲の地盤1より鋼矢板10に作用する土水圧は、ピース材21及びキャンバー22を介して、支持部材50を構成するH型鋼20に伝達される。
【0014】
かかる構成によれば、周囲の地盤1より土留壁51に作用する土水圧に対して、支持部材50を構成するH型鋼20及びモルタル30が一体となった環状の架構により抵抗して、土留壁51を支持することができる。
【0015】
上記のような土留壁構造100は、次のような手順で構築される。まず、鋼矢板10を多角形状に地中に打設し、H型鋼20を、そのウエブ20Cが鋼矢板10の上端面に当接するように設置する。次に、H型鋼20の両フランジ20A、20Bの外側に、夫々H型鋼20の間を跨ぐように補強鋼板40A、40Bを取り付けることによりH型鋼20を連結するとともに、隣り合うH型鋼20の間の隙間にモルタル30を充填する。なお、モルタル30を充填する際には、予め、隣接するH型鋼20の接合部の隙間に袋などを設置しておき、この袋内にモルタル30を打設することとすれば、モルタル30が周囲に流出することを防止できる。そして、H型鋼20のフランジ20Aに当接するようにピース材21を取り付け、ピース材21と鋼矢板10の間にキャンバー22を打ち込む。このような手順で土留壁構造100を構築することができる。
【0016】
ここで、支持部材50を構成するH型鋼20には、鋼矢板10より土水圧が伝達されることにより、長さ方向中央において最大となるような曲げ荷重が作用する。H型鋼20の中央における曲げ荷重はH型鋼20の長さが長くなるほど大きくなるため、支持部材50の一辺の長さが長い場合には、H型鋼20の中央に生ずる曲げ変形が大きくなってしまう。これに対して、本実施形態では、土留壁51及び支持部材50を五角形以上の正多角形状にすることにより、支持部材50の一辺の長さを短くし、H型鋼20の中央に作用する曲げ荷重を低減している。
【0017】
以下、所定のスペースを確保する際に、土留壁51及び支持部材50を五角形以上の正多角形状にすることにより、土留壁51及び支持部材50を矩形状にした場合に比べて、支持部材50の一辺の長さを短くできることを説明する。
例えば、図3に示すように、一辺A[m]の正方形状の作業スペースを確保するように立坑を構築する場合を考えると、土留壁及び支持部材を矩形状に構築する方法によりこのような作業スペースを確保するためには、一辺A[m]の正方形状の土留壁51及び支持部材50を構築しなければならない。
【0018】
これに対して、本実施形態のように、正六角形の土留壁51及び支持部材50により一辺A[m]の正方形状の作業スペースを確保する場合に必要となる支持部材50の一辺の長さはX=(3+√3)/6×A[m]となる。(3+√3)/6<1であるため、本実施形態によれば、正方形状に土留壁及び支持部材を構築する場合に比べて、支持部材50の一辺の長さを短くできることがわかる。上記の説明では、土留壁及び支持部材が正六角形である場合について説明したが、これと同様に、土留壁及び支持部材を正五角形や七角形以上の正多角形状にした場合であっても、正方形状にした場合に比べて、支持部材50の一辺の長さを短くできる。
【0019】
以上説明したように、本実施形態の土留壁構造100によれば、土留壁51を平面視において正多角形状にすることにより、正方形状又は長方形状に土留壁を構築する場合に比べて、所定の作業領域を確保する際に必要となる土留壁51の一辺の長さを短くすることができる。このため、H型鋼20に生じる曲げ変形が小さくなり、H型鋼20は略直線状のまま、土留壁51内面に押し出されることとなる。この際、隣接するH型鋼20が鋼板40A、40B及び応力伝達部材30を介して競合うことにより、周囲の地盤より土留壁51に作用する土水圧に抵抗して、土留壁51の変形を抑制できる。また、支持部材50をH型鋼20により構成することにより、工期が長期化することを防ぐことができる。また、立坑内に切梁支保工が存在しないので、立坑内を有効利用できる。
【0020】
なお、本実施形態では、土留壁51が鋼矢板10からなる場合について説明したが、これに限らず、親杭横矢板式の土留壁51に対しても適用できる。図4は、正多角形状に配置された親杭横矢板式の土留壁151に適用した場合の土留壁構造200を示す図である。同図に示すように、このような場合には、土留壁151を構成するH型鋼110が、支持部材150を構成するH型鋼120のフランジ120Aの間に位置するように支持部材150を構築し、土留壁151を構成するH型鋼110の立坑側のフランジ110Aと、支持部材150を構成するH型鋼120の立坑側のフランジ120A、120Bとの間にピース材121を配置し、キャンバー122を打ち込むことで、支持部材150と土留壁151とを固定することができる。
【0021】
また、本実施形態では、土留壁51を平面視において正六角形になるように構築するものとしたが、これに限らず、土留壁51及び支持部材50を、平面視において、五角形以上の正多角形状に構築すれば、同様の効果が得られる。さらに、正多角形とせずに、各辺の長さが異なる多角形状にしてもよい。
【0022】
また、本実施形態では、支持部材50をH型鋼20からなるものとしたが、これに限らず、例えば、溝型鋼などの鋼材を用いることも可能であり、要するに土留壁51を内側から支持できればよい。また、H型鋼20の間に、軸力を伝達できるようにモルタル30を介在させる構成としているが、これに限らず、コンクリートなどのセメント系材料や、突張り材を介在させる構成とすることもでき、要するに、隣接するH型鋼20の間で軸力を伝達することが可能な構成であればよい。
【0023】
また、本実施形態では、シールド掘削機や推進工法における発進立坑や到達立坑として利用される立坑2を掘削する際に周囲の地盤1を支持するための土留壁構造100を構築する場合を例として説明したが、これに限らず、建物の基礎などを構築する際に周囲の地盤を支持するための土留壁構造を構築する場合にも適用することができる。特に、フーチング基礎は建物の機能に影響を与えることなく正多角形状とすることができ、このような正多角形上のフーチング基礎を構築する場合に、本発明の土留壁構造は好適である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】内側に所定の深さまで立坑を掘削した状態の土留壁構造を示し、(A)は平面図、(B)は(A)におけるI−I´断面図である。
【図2】図1(B)におけるII部を示す拡大図である。
【図3】土留壁を正六角形にすることにより、支持部材の一辺の長さを短くすることができることを説明するための図である。
【図4】親杭横矢板式の土留壁に適用した場合の土留壁構造を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 地盤
2 立坑
10 鋼矢板
20、120 H型鋼
20A、20B、120A、120B フランジ
20C ウエブ
21、121 ピース材
22、122 キャンバー
30 モルタル
40A,40B 補強鋼板
50、150 支持部材
51 土留壁
100、200 土留壁構造
110 H型鋼
111 矢板
151 親杭横矢板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視において、五角形以上の多角形状に構築された土留壁と、
前記土留壁の上部の内周面に沿って当接するように設けられ、環状に形成された鋼製の支持部材と、を備えることを特徴とする土留壁構造。
【請求項2】
前記土留壁は、平面視において、五角形以上の正多角形状に構築されていることを特徴とする請求項1記載の土留壁構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載の土留壁構造であって、
前記支持部材は、前記土留壁の各辺の上部の内周面に沿って当接するように配置された複数の鋼材と、
前記隣接する鋼材に亘って取り付けられた鋼板と、
隣接する前記鋼材の間に介装され、前記隣接する鋼材の間で圧縮応力を伝達可能な応力伝達部材と、を備えることを特徴とする土留壁構造。
【請求項4】
前記応力伝達部材は前記隣接する鋼材の間に充填されたセメント系材料であることを特徴とする請求項3記載の土留壁構造。
【請求項5】
前記鋼材は両フランジ間に前記土留壁の各辺の上部が位置するように配置されたH型鋼からなり、
前記H型鋼の前記支持部材の内側のフランジが前記土留壁の上部の内壁面に隙間材を介して当接していることを特徴とする請求項3又は4に記載の土留壁構造。
【請求項6】
前記土留壁は、鋼矢板式又は親杭矢板式の土留壁であることを特徴とする請求項1から5何れかに記載の土留壁構造。
【請求項7】
土留壁を、平面視において、五角形以上の多角形状に構築し、
前記土留壁の上部に内周面に沿って当接するように鋼製の支持部材を環状に形成することを特徴とする土留壁構造の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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